説明

環状ウレタン化合物及びその製造方法

【課題】リン酸オセルタミビルの製造用中間体として有用な化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記の一般式(I)で表される化合物(式中、R1はイソシアネート基又は保護基を有していてもよいアミノ基を示し、R2は水素原子又はアミノ基の保護基を示すが、好ましくはR1がイソシアネート基であり、かつR2が水素原子であるか、R1が保護基を有するアミノ基であり、かつR2が水素原子であるか、あるいはR1が保護基を有するアミノ基であり、かつR2がアミノ基の保護基である)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新型インフルエンザに対して優れた予防・治療効果を有する抗ウイルス薬であるリン酸オセルタミビル(商標名「タミフル」)の製造用中間体として有用な環状ウレタン化合物及びその製造方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鳥インフルエンザウイルスの変異によりH5N1型などの新型インフルエンザが世界的に大流行して多数の死亡者が出ることが危惧されている。新型インフルエンザに対して抗ウイルス薬であるリン酸オセルタミビル(商標名「タミフル」)が著効を示すことが知られており、感染予防のためにこの薬剤を国家機関が大量に備蓄するようになっている。このため、リン酸オセルタミビルの需要が国際的に急速に高まっており、安価に大量供給する手段の開発が求められている。
【0003】
リン酸オセルタミビルの合成方法としてはシキミ酸を出発原料として用いる方法が知られている(J. Am. Chem. Soc., 119, 681, 1997)。しかしながら、シキミ酸はトウシキミの実(八角)から抽出・精製するか、又は大腸菌によるD−グルコースからの発酵を経て調製されるが、これらのプロセスは時間及びコストがかかるという問題を有している。また、トウシキミの実などの植物原料は安定的な供給が困難になる場合もある。従って、リン酸オセルタミビルを容易に入手可能な原料化合物から効率的に化学合成する手段の開発が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、リン酸オセルタミビルの製造用中間体として有用な化合物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、リン酸オセルタミビルの製造用中間体として有用なα,β-不飽和シクロヘキサノン誘導体及びその製造中間体を提供することに成功した(特願2006-46648号明細書)。本発明者らはさらに研究を続け、下記に示す環状ウレタン化合物並びにその製造中間体として有用なアシルアジド化合物及びイソシアネート化合物を提供することに成功した。また、該環状ウレタン化合物から極めて効率的に特願2006-46648号明細書に記載されたα,β-不飽和シクロヘキサノン誘導体を製造できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0006】
すなわち、本発明により、下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R1はイソシアネート基又は保護基を有していてもよいアミノ基を示し、R2は水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物が提供される。上記一般式(I)で表される化合物において、R1がイソシアネート基であり、かつR2が水素原子である化合物;R1が保護基を有するアミノ基であり、かつR2が水素原子である化合物;及びR1が保護基を有するアミノ基であり、かつR2がアミノ基の保護基である化合物が好ましく、R1がイソシアネート基であり、かつR2が水素原子である化合物;R1がアルコキシカルボニルアミノ基であり、かつR2が水素原子である化合物;及びR1がアルコキシカルボニルアミノ基であり、かつR2がアルコキシカルボニル基である化合物がより好ましい。上記一般式(I)で表される化合物は、下記の一般式(II)で表される化合物の製造用中間体として有用である。
【0007】
また、本発明により、下記の一般式(II):
【化2】

(式中、R11及びR12はそれぞれ独立に水素原子又は同一又は異なるアミノ基の保護基を示す)で表される化合物が提供される。上記一般式(II)で表される化合物において、R11がアミノ基の保護基であり、R12が水素原子である化合物;及びR11及びR12がそれぞれ独立に同一又は異なるアミノ基の保護基である化合物が好ましく、R11がアルコキシカルボニル基であり、かつR12がアルコキシカルボニル基又はアルカノイル基である化合物がより好ましい。例えば、R11がtert-ブトキシカルボニル基であり、かつR12がアセチル基である化合物を酸化することにより、リン酸オセルタミビルの製造用中間体として極めて有用なα,β-不飽和シクロヘキサノン誘導体(特願2006-46648号明細書に開示された一般式(I')で表される化合物において、例えばR1がアセチル基であり、かつR2がtert-ブトキシカルボニル基などの保護基である化合物)を製造することができる。
【0008】
さらに本発明により、下記の一般式(III):
【化3】

(式中の波線は、上記水酸基が隣接するアシル基とシス配置であるか、又はシス及びトランスを任意の割合で含むことを示し、R21は水素原子又は水酸基の保護基を示す)で表される化合物が提供される。一般式(III)で表される化合物は、上記一般式(I)で表される化合物の製造用中間体として有用であり、この化合物の光学活性体は上記一般式(I)及び一般式(II)で表される化合物の光学活性体の製造に極めて有用である。この一般式(III)で表される化合物においてR21が水素原子である化合物をクルチウス転位反応に付してアジドカルボニル基をイソシアネート基に変換すると、水酸基が置換した炭素原子に隣接する位置の炭素原子に導入されたイソシアネート基が分子内で環化し、一般式(I)においてR1がイソシアネート基であり、R2が水素原子である化合物を与える。
【0009】
別の観点からは、本発明により、一般式(III)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:下記一般式(IV)(式中、R31は水酸基の保護基を示す)で表される化合物と下記一般式(V)で表される化合物(式中、R32及びR33はそれぞれ独立に脱離基を示す)とをディールス・アルダー反応に付した後、アジド化する工程を含む方法が提供される。好ましい態様では、R31はトリアルキルシリル基であり、R32及びR33はハロゲン原子又はアルコキシ基である。好ましい方法では、不斉バリウム触媒を用いてディールス・アルダー反応を行なうことにより一般式(III)で表される化合物の光学活性体を製造することができる。
【化4】

【0010】
また、本発明により、上記一般式(I)で表される化合物の製造方法であって、上記一般式(III)で表される化合物をクルチウス転位反応に付する工程を含む方法;上記一般式(II)で表される化合物の製造方法であって、上記一般式(I)で表される化合物を塩基で処理する工程を含む方法;及び下記一般式(VI):
【化5】

(式中、R41及びR42はそれぞれ独立に水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物の製造方法であって、上記一般式(II)で表される化合物を酸化する工程を含む方法が提供される。
【0011】
さらに、本発明により、上記一般式(VI)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:
(a)上記一般式(IV)(式中、R31は水酸基の保護基を示す)で表される化合物と上記一般式(V)で表される化合物(式中、R32及びR33はそれぞれ独立に脱離基を示す)とをディールス・アルダー反応に付した後、アジド化して一般式(III)で表される化合物を製造する工程;
(b)上記一般式(III)においてR21が水素原子である化合物を環化して上記一般式(I)で表される化合物を製造する工程;
(c)上記一般式(I)においてR1が保護基を有するアミノ基を示し、R2が水素原子である化合物を塩基で処理して上記一般式(II)で表される化合物を製造する工程;及び
(d)上記一般式(II)においてR11及びR12がそれぞれ独立に同一又は異なるアミノ基の保護基である化合物を酸化する工程
を含む方法が提供される。
好ましい方法の一つとして、上記一般式(VI)で表される化合物の光学活性体の製造方法が提供され、その方法の一つとして、上記の工程(d)において酸化反応により得られた上記一般式(VI)で表される化合物を光学分割する工程を含む方法が提供され、特に好ましい方法として、上記工程(a)において不斉バリウム触媒を用いてディールス・アルダー反応を行なうことにより一般式(III)で表される化合物の光学活性体を製造する工程を含む方法が提供される。
【0012】
また、本発明により、上記一般式(VI)で表される化合物の製造方法であって、上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれるいずれか1つの工程、又は上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれる連続する2又は3の工程を含む方法が提供される。
上記一般式(VI)で表される化合物は、特願2006-46648号明細書に記載された方法に従ってリン酸オセルタミビルに変換することができる。従って、本発明により、リン酸オセルタミビルの製造方法であって、上記工程(a)ないし(d)の全ての工程、あるいは上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれるいずれか1つの工程、又は上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれる連続する2又は3の工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により提供される上記一般式(I)などの化合物はリン酸オセルタミビルの製造用中間体として有用であり、本発明の化合物を用いることによりリン酸オセルタミビルを安価に、しかも効率的に高収率で製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書に記載された化学式における立体配置は特に言及しない場合には相対配置を示し、スキーム中などにおいて「光学活性体」と表示する場合には絶対配置を示す。
一般式(I)において、R1はイソシアネート基又は保護基を有していてもよいアミノ基を示し、R2は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。アミノ基の保護基については、例えば、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができ、適宜の保護基を選択して導入及び除去することが可能である。他の化合物におけるアミノ基の保護基についても同様である。R1及びR2におけるアミノ基の保護基として、例えば、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルカノイル基、又はアリールカルボニル基などを挙げることができる(上記のアリールオキシカルボニル基又はアリールカルボニル基においてアリール環は置換又は無置換であってもよく、置換基を有する場合にはハロゲン原子やアルコキシ基などが挙げられる)。これらのうち、アルコキシカルボニル基が好ましい。アルコキシカルボニル基としては、直鎖又は分枝鎖状のC1-6アルコキシ基で構成されるアルコキシカルボニル基が好ましく、より好ましいのはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、又はtert-ブトキシカルボニル基であり、特に好ましいのはtert-ブトキシカルボニル基である。もっとも、R1及びR2におけるアミノ基の保護基は上記に具体的に説明した保護基に限定されることはない。
【0015】
上記一般式(I)で表される化合物において、好ましい化合物として、R1がイソシアネート基であり、R2が水素原子である化合物;R1が保護基を有するアミノ基であり、R2が水素原子である化合物;及びR1が保護基を有するアミノ基であり、R2がアミノ基の保護基である化合物を挙げることができる。より好ましい化合物として、R1がイソシアネート基であり、R2が水素原子である化合物;R1がアルコキシカルボニルアミノ基であり、R2が水素原子である化合物;及びR1がアルコキシカルボニルアミノ基であり、R2がアルコキシカルボニル基である化合物を挙げることができる。特に好ましい化合物として、R1がイソシアネート基であり、R2が水素原子である化合物;R1がtert-ブトキシカルボニルアミノ基であり、R2が水素原子である化合物;及びR1がtert-ブトキシカルボニルアミノ基であり、R2がtert-ブトキシカルボニル基である化合物を挙げることができる。もっとも、上記一般式(I)で表される化合物は上記に具体的に例示した化合物に限定されることはない。
【0016】
上記一般式(I)で表される化合物において、R1がイソシアネート基であり、R2が水素原子である化合物から、R1が保護基を有するアミノ基であり、R2が水素原子である化合物を製造するには、通常の方法に従って、イソシアネート基をアミノ基に変換した後にアミノ基の保護基を導入するか、あるいはアミノ基の保護基としてアルコキシカルボニル基を用いる場合には、イソシアネート基に適宜のアルコール化合物(例えば、メタノール、エタノール、tert-ブタノールなど)を反応させることにより、容易にR1が保護基を有するアミノ基である化合物を製造することができる。さらに、R1が保護基を有するアミノ基であり、R2が水素原子である化合物における環状の2級アミンを当業者に周知の方法で保護することにより、R1が保護基を有するアミノ基であり、R2がアミノ基の保護基である化合物を容易に製造することができる。保護基の導入については、上掲Greenらの成書を参照することができる。
【0017】
一般式(II)で表される化合物において、R11及びR12はそれぞれ独立に水素原子又は同一又は異なるアミノ基の保護基を示す。アミノ基の保護基については、上記に説明したものと同様であり、当業者が適宜選択して導入及び除去することが可能である。上記一般式(II)で表される化合物において、好ましい化合物として、R11がアミノ基の保護基であり、R12が水素原子である化合物;及びR11及びR12がそれぞれ独立に同一又は異なるアミノ基の保護基である化合物を挙げることができ、より好ましい化合物として、R11がアルコキシカルボニル基であり、R12がアルコキシカルボニル基又はアルカノイル基である化合物を挙げることができる。特に好ましい化合物として、R11がtert-ブトキシカルボニル基であり、R12がtert-ブトキシカルボニル基又はアセチル基である化合物を挙げることができる。
【0018】
一般式(II)で表される化合物において、R11及びR12で表されるアミノ基の保護基は同一又は異なっていてもよいが、R11及びR12で表されるアミノ基の保護基が異なる保護基であることが好ましい。R11及びR12で表されるアミノ基の保護基が異なる場合には、一般式(II)で表される化合物を酸化して得られる上記一般式(VI)で表される化合物を用いてリン酸オセルタミビルを製造する場合に、いずれか一方の保護基を選択的に除去することが容易になり、リン酸オセルタミビルの製造工程を短縮できるという有利な点がある。特に、R12で表されるアミノ基の保護基がアセチル基である場合には、保護基の除去を行わずにそのままリン酸オセルタミビルに誘導することができるので極めて有利である。一般式(II)で表される化合物の水酸基を酸化してオキソ基に変換することにより、上記一般式(VI)で表される化合物(特願2006-46648号明細書に開示された一般式(I')で表される化合物においてR1がアセチル基であり、R2がtert-ブトキシカルボニル基などの保護基である化合物)を製造することができる。酸化反応は水酸基をオキソ基に変換することができる反応であれば特に限定されないが、例えば、Dess-Martinペルヨージナン(DMP)試薬を用いる方法(J. Org. Chem., 48, 4155, 1983)、 二酸化マンガンを用いる方法、又はジメチルスルホキシド-無水酢酸を用いる方法などを挙げることができる。もっとも、これらの方法に限定されることはない。
【0019】
一般式(II)で表される化合物は、一般式(I)で表される化合物を例えば塩基で処理することにより製造することができる。塩基の種類は特に限定されず、無機塩基又は有機塩基のいずれを用いてもよい。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウムなどの無期塩基が好ましく、水酸化リチウム又は炭酸セシウムがより好ましい。溶媒としては、例えば、メタノール又はエタノールなどのアルコール類やアルコールと水との混合物などを用いることができるが、これらに限定されることはない。反応は氷冷下ないし溶媒の還流温度までの温度、好ましくは室温ないし50度程度の加温下に行うことができ、数時間から数日程度で完了する。
【0020】
上記反応の原料としては、一般式(I)で表される化合物においてR1が保護基を有していてもよいアミノ基であり、R2が水素原子又はアミノ基の保護基である化合物を用いることができ、好ましくはR1が保護基を有するアミノ基(保護基としては、例えばアルコキシカルボニル基などが好ましい)であり、R2が水素原子又はアミノ基の保護基(保護基としては、例えばアルコキシカルボニル基などが好ましい)である化合物を用いることができる。一般式(I)においてR1がイソシアネート基である化合物は、適宜の官能基変換によりR1を保護基を有していてもよいアミノ基に変換した後に上記の塩基処理に付することができる。一般式(I)においてR1が保護基を有するアミノ基であり、R2が水素原子である化合物を塩基で処理することにより、R11がアミノ基の保護基(R1に対応する保護基)であり、R12が水素原子である化合物を製造することができ、このR12をR11と同一又は異なる保護基に変換することにより、R11及びR12が同一又は異なるアミノ基の保護基である一般式(II)の化合物を製造することができる。保護基の導入については、上掲Greenらの成書を参照することができる。
【0021】
一般式(III)で表される化合物において、R21は水素原子又は水酸基の保護基を示す。水酸基の保護基としては、例えば、トリメチルシリル基やtert-ブチルジメチルシリル基などのトリアルキルシリル基が好ましいが、これらに限定されることはなく、上掲Greenらの成書を参照することにより適宜の水酸基の保護基を選択して導入することが可能であることは言うまでもない。この保護基は、通常は一般式(III)で表される化合物を製造する段階で導入される保護基であり、一般式(IV)で表される化合物における水酸基の保護基(R31)に対応する保護基である。
【0022】
一般式(III)で表される化合物においてR21が水素原子である化合物は一般式(I)で表される化合物の製造用中間体として用いることができる。すなわち、上記一般式(III)で表される化合物においてR21が水素原子である化合物をクルチウス転位反応に付してアジドカルボニル基をイソシアネート基に変換することができるが、1個のイソシアネート基(一般式(I)においてR1に相当するイソシアネート基)はそのまま残り、他のイソシアネート基(水酸基が置換した炭素原子に隣接する位置の炭素原子に導入されたイソシアネート基)は分子内で該水酸基と反応して環化し、一般式(I)においてR1はイソシアネート基であり、R2が水素原子である化合物を与える。この反応を行うためにはR21として導入された水酸基の保護基を除去しておく必要がある。なお、R21が水酸基の保護基である化合物をクルチウス転位反応に付しても2個のイソシアネート基を有する非環化体を得ることは一般的には困難である。クルチウス反応の条件は特に限定されず、通常行われる条件に従って行えばよいが、例えば不活性溶媒中で加熱することにより容易に反応が進行する。不活性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒を用いることができるが、これらに限定されることはない。反応温度は例えば50℃から溶媒の還流温度であり、反応時間は数分から数時間程度である。また、一般式(III)で表される化合物においてR21が水素原子である化合物をtert-ブタノールやエタノールなどのアルコール溶媒中でクルチウス転位反応に付することにより、一般式(I)においてR1が保護基を有するアミノ基(ただし保護基がアルコキシカルボニル基である)であり、R2が水素原子である化合物を直接製造することもできる。
【0023】
一般式(III)で表される化合物は、該水酸基が隣接するアシル基とシス配置であるか、又はシス及びトランスを任意の割合で含む。後者の場合、シス配置の化合物が優先的に環化して一般式(I)で表される化合物を与えるので、一般式(III)で表される化合物を一般式(I)で表される化合物の製造用中間体として用いる場合に、一般式(III)で表される化合物の水酸基の立体化学に起因する異性体を分離する必要は一般的には生じない。もっとも、一般式(III)で表される化合物を分離して該水酸基が隣接するアシル基とシス配置である純粋な形態の化合物を単離してクルチウス転位反応を行ってもよい。
【0024】
一般式(III)で表される化合物は、上記一般式(IV)で表される共役ジエン化合物と上記一般式(V)で表される化合物(ジエノフィル)とを用いてディールス・アルダー反応によりシクロヘキセン化合物を製造した後、R32及びR33で表される脱離基をアジド基に変換することにより製造することができる。脱離基としては、ハロゲン原子(例えば塩素原子や臭素原子など)やアルコキシ基(例えばメトキシ基やエトキシ基など)を用いることができるが、これらに限定されることはなく、反応に応じて適宜の脱離基を選択できることは言うまでもない。上記ディースル・アルダー反応の反応条件は特に限定されず、通常の反応条件により容易に反応が進行する。例えば、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフランなどの不活性溶媒中で氷冷下ないし50℃程度の加温下、好ましくは室温下に速やかに反応が進行する。反応時間は数分ないし数時間程度である。R31で表される水酸基の保護基としては、例えば、トリメチルシリル基やtert-ブチルジメチルシリル基などのトリアルキルシリル基が好ましいが、これらに限定されることはない。上掲Greenらの成書を参照することにより、一般式(IV)で表される共役ジエン化合物の電子供与性を損なわないように適宜の水酸基の保護基を選択して導入することが可能である。
【0025】
上記のディースル・アルダー反応を不斉触媒の存在下で行なって上記シクロヘキセン化合物を製造した後、R32及びR33で表される脱離基をアジド基に変換することにより、一般式(III)で表される化合物の光学活性体を製造することができる。この光学活性体を用いて以降の反応を行なうことにより、極めて簡便かつ高収率に一般式(VI)で表される化合物の光学活性体を製造することができる。不斉触媒としては、下記の一般式(VII)で表される化合物(式中、Phはフェニル基や置換フェニル基などのアリール基を示し、Xは水素原子又はフッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子を示す)のバリウム錯体や、特開2002-255985号公報及び特開2003-212887号公報に記載された化合物のバリウム錯体などを用いることができる。この不斉触媒は、例えばテトラヒドロフランなどの適宜の不活性溶媒中で下記の一般式(VII)で表される化合物とバリウム化合物(例えばBa(OCH(CH3)2)2など)とを反応させることにより容易に調製することができる。この不斉触媒を例えば0.5〜50 mol%程度の濃度、好ましくは20 mol%程度の濃度で用いて-30℃〜加温下、好ましくは-20℃〜室温程度の温度で数分から数十時間反応させることにより、光学活性のシクロヘキセン化合物を製造することができる。この反応に用いる上記一般式(V)で表される化合物(ジエノフィル)におけるR32及びR33としてはアルコキシ基が好ましく、特に好ましいのはメトキシ基である。
【0026】
【化6】

【0027】
R32及びR33の脱離基をアジド基に変換するためのアジド化試薬は特に限定されないが、例えば、トリメチルシリルアジドやアジ化ナトリウムなどを用いることができる。アジド基を導入するための反応条件は特に限定されないが、ベンゼンやトルエンなどの不活性溶媒中で好ましくは塩基の存在下にアジド化試薬を反応させればよい。塩基としては、例えばトリエチルアミンやジメチルアミノピリジンなどの有機塩基を用いることができるが、これらに限定されることはない。反応は氷冷下から50℃程度の加温下、好ましくは室温で進行し、反応時間は数分から数時間程度である。R31で表される水酸基の保護基の除去は保護基の種類に応じて上掲Greenらの成書を参照することにより容易に行うことができる。
【0028】
本発明により提供される一般式(I)、(II)、及び(III)で表される化合物を用いることにより、リン酸オセルタミビルを効率的に製造することができる。上記に説明したように、一般式(IV)で表される化合物及び一般式(V)で表される化合物から一般式(III)で表される化合物を製造することができ、一般式(III)で表される化合物においてR21が水素原子である化合物を用いて一般式(I)で表される化合物を製造することができる。一般式(I)で表される化合物を開環することにより一般式(II)で表される化合物を製造することができ、一般式(II)で表される化合物を酸化することにより、上記一般式(VI)(特願2006-46648号明細書に開示された一般式(I')で表される化合物においてR1がアセチル基であり、R2がtert-ブトキシカルボニル基である化合物、又は一般式(I')においてR1及びR2がtert-ブトキシカルボニル基である化合物など)を製造することができる。以下に典型例としてのスキームを示すが、スキーム中に示した反応条件や試薬は例示のために記載したものであり、その条件や試薬に限定されることはない。
【0029】
【化7】

【0030】
より具体的には、上記一般式(VI)で表される化合物は、下記の工程:
(a)上記一般式(IV)(式中、R31は水酸基の保護基を示す)で表される化合物と上記一般(V)で表される化合物(式中、R32及びR33はそれぞれ独立に脱離基を示す)とをディールス・アルダー反応に付した後、アジド化して一般式(III)で表される化合物を製造する工程;
(b)上記一般式(III)においてR21が水素原子である化合物を環化して上記一般式(I)で表される化合物を製造する工程;
(c)上記一般式(I)においてR1が保護基を有するアミノ基を示し、R2が水素原子である化合物を塩基で処理して上記一般式(II)で表される化合物を製造する工程;及び
(d)上記一般式(II)においてR11及びR12がそれぞれ独立に同一又は異なるアミノ基の保護基である化合物を酸化する工程
を含む方法により製造することができる。
上記の化合物Iの光学活性体を製造するためには、上記の工程(d)において酸化反応により得られた化合物Iを光学分割する方法、又は上記工程(a)において不斉バリウム触媒を用いてディールス・アルダー反応を行なうことにより光学活性のシクロヘキセン化合物を製造して、それを化合物Aに変換し、以降の工程を光学活性体を用いて行なう方法が挙げられるが、後者の方法が製造コストの観点で有利である。
【0031】
上記各工程において必要に応じて保護基の導入及び除去などの官能基変換を行うことができることは言うまでもない。また、各工程で得られる生成物は当業界で通常利用されている分離・精製手段により単離することができ、単離及び精製した状態で次工程の反応原料として用いることができるが、生成物の分離又は精製を行うことなく次工程の反応に付することもできる。
さらに、本発明により、上記一般式(VI)で表される化合物の製造方法であって、上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれるいずれか1つの工程、又は上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれる連続する2又は3の工程を含む方法が提供される。
上記一般式(VI)で表される化合物は、特願2006-46648号明細書に記載された方法に従ってリン酸オセルタミビルに変換することができる。従って、本発明により、リン酸オセルタミビルの製造方法であって、上記工程(a)ないし(d)の全ての工程、あるいは上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれるいずれか1つの工程、又は上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれる連続する2又は3の工程を含む方法が提供される。
【0032】
例えば、上記一般式(VI)においてR41及びR42がtert-ブトキシカルボニル基である化合物(上記スキームにおける化合物F)は特願2006-46648号明細書の実施例7に記載された化合物と同一であり、同明細書の実施例9ないし14に従ってリン酸オセルタミビルに誘導することができる。また、一般式(II)で表される化合物においてR11がtert-ブトキシカルボニル基であり、R12がアセチル基である化合物(上記スキームにおける化合物H)から誘導される上記一般式(VI)においてR41がtert-ブトキシカルボニル基であり、R42がアセチル基である化合物は、特願2006-46648号明細書の実施例9の方法に従ってシアノ基を導入し、実施例10の方法に従ってオキソ基をヒドロキシ基に還元した後、実施例11及び12の方法に従って3-ペンタノールを導入し、tert-ブトキシカルボニル基を除去することによりリン酸オセルタミビルに誘導することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。以下の実施例中、「物質A」などの表示は上記のスキーム中の化合物を示す。
例1
(a)物質Aの製造
ジエン(0.123 mL, 0.703 mmol, 1当量)とジエノフィル(75.2 μL, 0.696 mmol, 0.99当量)をトルエン(7 mL)に溶解し、室温で2時間攪拌した。この溶液にトリメチルシリルアジド(TMSN3, 0.196 mL, 1.48 mmol, 2.1当量)とジメチルアミノピリジン(DMAP, 8.6 mg, 0.0703 mmol, 0.1当量)を加え、さらに室温で2時間攪拌した。その後、反応液に1 N塩酸(0.7 mL, 0.7 mmol, 1当量)を加え、生成物を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて飽和重曹水と飽和食塩水で順次洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去して薄赤褐色のオイルを得た(1H NMRから収率54%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 5.83-5.92 (m, 2H), 4.49-4.46 (m, 1H), 2.99-2.93 (m, 1H), 2.87 (dd, J = 11.9 Hz, 4.0 Hz, 1H), 2.51-2.46 (m, 1H), 2.16 (d, J = 6.7 Hz, 1H), 2.09-2.03 (m, 1H)
13C NMR (CDCl3, 125 MHz) δ 182.0, 179.2, 128.7, 127.0, 63.8, 49.6, 37.9, 28.7
ESI-MS m/z 259 [M+Na]+
【0034】
(b)物質Bの製造
物質A(412 mg, 1.75 mmol)をベンゼン(PhH, 17.5 mL)に溶解し、80℃で1時間攪拌した。室温に冷却した後、溶媒を減圧留去して物質Bを白色固体として得た(収率96%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 6.07-5.93 (m, 2H), 5.49 (br s, 1H), 5.03-5.01 (m, 1H), 3.67-3.61 (m, 2H), 2.60-2.56 (m, 1H), 2.22-2.15 (m, 1H)
IR (neat, cm-1) 3245, 2923, 2269, 1754
【0035】
(c)物質Cの製造
物質B(300 mg, 1.67 mmol)を粗生成物のまま蒸留したtert-ブタノール(t-BuOH, 5.6 mL)に溶解し、8時間過熱還流した。反応液を室温に冷却した後、溶媒を減圧留去して物質Cを得た(収率99%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 6.04-5.89 (m, 2H), 5.61-5.59 (m, 1H), 4.99 (m, 1H), 4.61 (m, 1H), 3.79 (m, 1H), 3.64 (m, 1H), 2.45-2.42 (m, 1H), 1.99 (m, 1H), 1.43 (s, 9H)
13C NMR (CD3OD, 125 MHz) δ 161.4, 158.1, 132.7, 123.7, 80.4, 75.3, 56.4, 51.1, 29.8, 28.7
ESI-MS m/z 277 [M+Na]+
【0036】
(d)物質Dの製造
物質C(5 mg, 0.02 mmol, 1当量)を塩化メチレン(0.2 mL)に溶解し、トリエチルアミン(NEt3, 6.5 μL, 0.047 mmol, 2.4当量)、Boc2O(5.2 mg, 0.024 mmol, 1.2当量)、ジメチルアミノピリジン(0.2 mg, 0.002 mmol, 0.1当量)を加え室温で20分間攪拌した。反応液を塩化メチレンで希釈し、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去して物質Dを得た(収率91%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 6.12-6.08 (m, 1H), 5.85-5.83 (m, 1H), 5.43 (br d, J = 5.6 Hz, 1H), 4.91-4.89 (m, 1H), 4.27 (dd, J = 10.3 Hz, 7.5 Hz, 1H), 3.82-3.76 (m, 1H), 2.76-2.72 (m, 1H), 1.96-1.91 (m, 1H), 1.55 (s, 9H), 1.41 (s, 9H)
13C NMR (CDCl3, 125 MHz) δ 155.4,150.8, 150.6, 133.0, 121.1,84.9, 79.5, 71.4, 56.6, 49.4, 30.2, 28.3, 27.8
IR (neat, cm-1) 3437, 1807, 1711, 1657
ESI-MS m/z 377 [M+Na]+
【0037】
(e)物質Eの製造
物質D(1.8 mg, 0.005 mmol, 1当量)にメタノール(MeOH, 0.3 mL)に溶解した炭酸セシウム(1 mg, 0.003 mmol, 0.6当量)を加え、2時間室温で攪拌した。溶媒を留去して物質Eを得た(1H NMRにより定量的)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 5.82 (m, 2H), 5.44-5.42 (m, 1H), 5.16-5.14 (m, 1H), 4.18 (m, 1H), 3.84-3.77(m, 1H), 3.63 (dd, J = 10.0 Hz, 4.5 Hz, 1H), 2.60-2.57 (m, 1H), 1.97-1.92 (m, 2H), 1.43 (s, 9H), 1.41 (s, 9H)
IR (neat, cm-1) 3418, 2924, 1693, 1519
ESI-MS m/z 351 [M+Na]+
【0038】
(f)物質Fの製造
物質E(0.005 mmol)を塩化メチレン(0.05 mL)に溶解し、Dess-Martinパーイオジナン(3.2 mg, 0.0076 mmol)を室温で加えた。反応液を塩化メチレンで希釈した後、飽和重曹水と飽和食塩水で洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥して濃縮した。残渣をシリカゲルカラムで精製(酢酸エチル/ヘキサン=1/2)して物質Fを得た(収率36%)。物質Fについては光学活性カラムクロマトグラフィーを用いて各エナンチオマーの分離・精製が可能である。(Chiralpak AD-H, 2-propanol/hexane 1/20, flow 1.0 mL/min, detection at 254 nm.): tR 15.2 min and 17.0 min.
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 6.95-6.92 (m, 1H), 6.11 (dd, J = 10.3 Hz, 3.4 Hz, 1H), 5.89 (br d, J = 9.6 Hz, 1H), 5.48 (br d, J = 7.1 Hz, 1H), 4.29 (dd, J = 12.6 Hz, 7.1 Hz, 1H), 3.91-3.87 (m, 1H), 2.94-2.90 (m, 1H), 2.41-2.38 (m, 1H), 1.44 (s, 9H), 1.40 (s, 9H)
【0039】
(g)物質Gの製造
物質C(100 mg, 0.393 mmol, 1当量)を水:メタノール=2:1(3.9 mL)に溶解し、水酸化リチウム1水和物(82.5 mg, 1.97 mmol, 5当量)を室温で加えた。50℃で19時間攪拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて中和した後、生成物をテトラヒドロフラン(THF)で抽出した。THF層を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去して物質Gを粗生成物として得た。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 5.84-5.81 (m, 1H), 5.77-5.73 (m, 1H), 4.62 (br s, 1H), 4.11 (m, 1H), 3.72 (m, 1H), 2.84-2.82 (m, 1H), 2.58-2.54 (m, 1H), 1.94-1.88 (m, 1H), 1.43 (s, 9H)
ESI-MS m/z 229 [M+H]+
【0040】
(h)物質Hの製造
物質G(0.393 mmol, 1当量)を塩化メチレン(3.9 mL)に溶解し、トリエチルアミン(0.11 mL, 0.786 mmol, 2当量)と無水酢酸(Ac2O, 37 μL, 0.393 mmol, 1当量)を加
えた。室温で10分間攪拌した後、塩化メチレンで希釈し、有機層を飽和塩化アンモニウム水と飽和食塩水で順次洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮して物質Hを得た(収率85%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 6.59 (br d, J = 8.0 Hz, 1H), 5.84-5.83 (m, 2H), 4.93 (br d, J = 8.6 Hz, 1H), 4.15 (m, 1H), 3.98-3.88 (m, 2H), 2.58-2.53 (m, 1H), 2.00 (s, 3H), 2.00-1.95 (m, 1H), 1.40 (s, 9H)
ESI-MS m/z 293 [M+Na]+
mp 134 to 136 ℃
【0041】
(i)物質Iの製造
物質H(13.1 mg, 0.0485 mmol, 1当量)を酢酸イソプロピル(0.485 mL)に溶解し、ジメチルスルホキシド(DMSO, 41.3 μL, 0.582 mmol, 12当量)を加えて80℃に加熱した。無水酢酸(27.5 μL, 0.291 mmol, 6当量)を加えて4.5時間加熱した。反応液を酢酸エチルで希釈した後、飽和重曹水と飽和食塩水で順次洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去して物質Iを得た(収率63%)。物質Iについては光学活性カラムクロマトグラフィーを用いて各エナンチオマーの分離・精製が可能である。(Chiralpak AD-H, 2-propanol/hexane 1/9, flow 0.6 mL/min, detection at 254 nm.): tR 15.4 min and 18.4 min.
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 6.96 (ddd, J = 10.3 Hz, 6.6 Hz, 2.0 Hz, 1H), 6.32 (br d, J = 6.9 Hz, 1H), 6.13 (dd, J = 10.3 Hz, 3.5 Hz, 1H), 5.69 (br d, J = 8.1 Hz, 1H), 4.58 (dd, J = 13.2 Hz, 6.9 Hz, 1H), 3.95-3.87 (m, 1H), 2.98-2.92 (m, 1H), 2.45-2.40 (m, 1H), 2.08 (s, 3H), 1.41 (s, 9H)
ESI-MS m/z 291 [M+Na]+
【0042】
例2
【化8】

よく乾燥しアルゴンで置換した試験管中に一般式(VII)(式中、Phはフェニル基、Xは水素原子、フッ素原子、又は塩素原子を示す)で表される不斉配位子 (0.02 mmol) を加え、つづいてTHF (0.323 ml) を加えた。そこに0.2 Mになるように希釈したのち1時間静置したBa(OCH(CH3)2)2のTHF溶液100 μlを室温でゆっくりと加えた。50 ℃にて1時間撹拌したのち溶媒を留去し、室温にて3時間真空乾燥した。残渣をCH2Cl2 (300 μl)に溶かし、-20℃に冷却した。ジエン (52.9 μl, 0.3 mmol) およびジエノフィル (0.5 M CH2Cl2溶液 200 μl, 0.1 mmol) を加えて、原料が消失するまで撹拌した。室温まで昇温したのち、酢酸 (約 75 μl) およびTBAF (テトラブチルアンモニウムフルオリド、0.1 M THF溶液, 800 μl, 0.8 mmol) を加え5分間撹拌した。飽和重曹水を注意深く加え、水相を酢酸エチルで抽出したのち、有機相を飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥してろ過し、溶媒を留去して残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して目的物をジアステレオマーの混合物として得た。
【0043】
αアルコールに対して
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 5.88 (m, 2H), 4.49 (m, 1H), 3.72 (s, 3H), 3.69 (s, 3H), 2.99 (ddd, J = 5.5, 11.3, 11.8 Hz, 1H), 2.92 (dd, J = 4.0, 11.8 Hz, 1H), 2.48 - 2. 43 (m, 1H), 2.16 - 2.10 (m, 1H)
βアルコールに対して
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 5.77 - 5.73 (m, 1H), 5.70 - 5.67 (m, 1H), 4.42 (m, 1H), 3.73 (s, 3H), 3.67 (s, 3H), 2.96 - 2.92 (m, 1H), 2.76 (dd, J = 8.9, 11.3 Hz, 1H), 2.41 - 2.36 (m, 1H), 2.26 - 2.20 (m, 1H)
ジアステレオマー混合物に対して
13C NMR (CDCl3, 125 MHz) δ 175.5, 174.1, 174.0, 172.8, 129.4, 128.9, 127.1, 126.3, 68.5, 63.9, 52.2, 52.1, 52.0, 52.0, 49.8, 47.6, 40.7, 36.2, 28.7, 27.7
IR (neat, cm-1) 3460, 2953, 1736
ESI-MS m/z 237 [M + Na]+
GC (CHIRASIL-DEX CB, column temperature 150 ℃, injection temperature 200 ℃, detection temperature 250℃): tR 12.2 min (endo / exo miture), 13.3 min (endo, major), 13.8 min (endo, minor)
X=F、-20℃、47時間、収率48%、endo/exo=13.3:1、86% ee
X=H、-20℃、1.5時間、収率34%、endo/exo=4.6:1、88% ee
X=Cl(93% ee)、-20℃、47時間、収率44%、endo/exo=11.5:1、90% ee
【0044】
【化9】

2 Mの水酸化ナトリウム水溶液をジエステル体 (454 mg, 2.12 mmol) のメタノール溶液 (14 ml) に加え、55℃にて13時間加熱撹拌した。室温まで冷却したのち、Amberlyst 15-DRYで酸性にしてろ過し、溶媒を留去してジカルボン酸を粗生成物として得た。
αアルコールに対して
1H NMR (CD3OD, 500 MHz) δ 5.88 (m, 2H), 4.42 (m, 1H), 2.94 (ddd, J = 5.5, 12.1, 12.2 Hz, 1H), 2.79 (dd, J = 4.0, 12.2 Hz, 1H), 2.52 - 2. 46 (m, 1H), 2.09 - 2.03 (m, 1H)
βアルコールに対して
1H NMR (CD3OD, 500 MHz) δ 5.77 - 5.73 (m, 1H), 5.67 - 5.65 (m, 1H), 4.32 (m, 1H), 2.85 (ddd, J = 5.5, 11.6, 11.6 Hz, 1H), 2.58 (dd, J = 9.5, 11.6 Hz, 1H), 2.45 - 2.40 (m, 1H), 2.22 - 2.16 (m, 1H)
ジアステレオマー混合物に対して
IR (KBr, cm-1) 3441, 3049, 1726
ESI-MS m/z 185 [M - H]-
【0045】
【化10】

ジカルボン酸 (5.1 mg, 0.027 mmol)の1,4-ジオキサン溶液 (0.27 ml) にトリエチルアミン (7.6 μl, 0.055 mmol) と DPPA (11.8 μl, 0.055 mmol) を加え、室温で7時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えたのち、水相を酢酸エチルで抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥してろ過し、溶媒を留去して残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製してジアシルアジド (2.3 mg, 0.0097 mmol)を36%の化学収率で得た。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 6.92 - 5.86 (m, 2H), 4.48 (m, 1H), 2.96 (ddd, J = 5.3, 11.6, 12.0 Hz, 1H), 2.87 (dd, J = 4.0, 12.0 Hz, 1H), 2.49 (ddd, J = 5.2, 5.3, 17.7 Hz, 1H), 2.10 - 2.03 (m, 1H)
13C NMR (CDCl3, 125 MHz) δ 181.9, 179.3, 128.7, 127.0, 63.8, 49.6, 37.9, 28.7
IR (neat, cm-1) 3412, 2260, 2146, 1710
FAB-HRMS Calcd for C8H9N6O3 [M+H]+: 237.0731, Found: 237.0726

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R1はイソシアネート基又は保護基を有していてもよいアミノ基を示し、R2は水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物。
【請求項2】
R1がイソシアネート基であり、かつR2が水素原子であるか、R1が保護基を有するアミノ基であり、かつR2が水素原子であるか、あるいはR1が保護基を有するアミノ基であり、かつR2がアミノ基の保護基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
下記の一般式(II):
【化2】

(式中、R11及びR12はそれぞれ独立に水素原子又は同一又は異なるアミノ基の保護基を示す)で表される化合物。
【請求項4】
R11がアミノ基の保護基であり、かつR12が水素原子である化合物;又はR11及びR12がそれぞれ独立に同一又は異なるアミノ基の保護基である請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
下記の一般式(III):
【化3】

(式中の波線は、上記水酸基が隣接するアシル基とシス配置であるか、又はシス及びトランスを任意の割合で含むことを示し、R21は水素原子又は水酸基の保護基を示す)で表される化合物。
【請求項6】
請求項5に記載の一般式(III)で表される化合物の製造方法であって、下記一般式(IV)(式中、R31は水酸基の保護基を示す)で表される化合物と下記一般式(V)で表される化合物(式中、R32及びR33はそれぞれ独立に脱離基を示す)とをディールス・アルダー反応に付した後、アジド化する工程を含む方法。
【化4】

【請求項7】
請求項1に記載の一般式(I)で表される化合物の製造方法であって、請求項5に記載の一般式(III)で表される化合物をクルチウス転位反応に付する工程を含む方法。
【請求項8】
請求項3に記載の一般式(II)で表される化合物の製造方法であって、請求項1に記載の一般式(I)で表される化合物を塩基で処理する工程を含む方法。
【請求項9】
下記一般式(VI):
【化5】

(式中、R41及びR42はそれぞれ独立に水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物の製造方法であって、請求項3に記載の一般式(II)で表される化合物を酸化する工程を含む方法。
【請求項10】
請求項9に記載の一般式(VI)で表される化合物の製造方法であって、下記の工程:
(a)請求項6に記載の一般式(IV)(式中、R31は水酸基の保護基を示す)で表される化合物と請求項6に記載の一般式(V)で表される化合物(式中、R32及びR33はそれぞれ独立に脱離基を示す)とをディールス・アルダー反応に付した後、アジド化して請求項5に記載の一般式(III)で表される化合物を製造する工程;
(b)請求項5に記載の一般式(III)においてR21が水素原子である化合物を環化して請求項1に記載の一般式(I)で表される化合物を製造する工程;
(c)請求項1に記載の一般式(I)においてR1が保護基を有するアミノ基を示し、R2が水素原子である化合物を塩基で処理して請求項3に記載の一般式(II)で表される化合物を製造する工程;及び
(d)請求項3に記載の一般式(II)においてR11及びR12がそれぞれ独立に同一又は異なるアミノ基の保護基である化合物を酸化する工程
を含む方法。
【請求項11】
工程(a)において不斉バリウム触媒を用いてディールス・アルダー反応を行なうことにより一般式(III)で表される化合物の光学活性体を製造する工程を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項9に記載の一般式(VI)で表される化合物の製造方法であって、請求項10又は11に記載の工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれるいずれか1つの工程、又は上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれる連続する2又は3の工程を含む方法。
【請求項13】
リン酸オセルタミビルの製造方法であって、請求項10又は11に記載の工程(a)ないし(d)の全ての工程、あるいは上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれるいずれか1つの工程、又は上記工程(a)ないし(d)からなる群から選ばれる連続する2又は3の工程を含む方法。

【公開番号】特開2008−81489(P2008−81489A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52206(P2007−52206)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】