説明

環状オレフィン系共重合体およびその用途

【解決手段】本発明の環状オレフィン系共重合体は、ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系化合物から誘導される構造単位(a)と、ノルボルネン骨格を有し芳香環構造を有さない環状オレフィン系化合物から誘導される構造単位(b)とを有し、芳香環構造の偏在度が1以下であることを特徴としている。
【効果】本発明によれば、芳香環を有する環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位と、芳香環を有さない環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位とを有し、構造単位の偏在が少なく、容易に製造可能で、透明性、耐熱性、有機溶剤への溶解性、強度、加工性に優れ、各種光学部品用途に好適に使用できる、環状オレフィン系共重合体およびその製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香環を有する環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位と、芳香環を有さない環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位とを有し、構造単位の偏在が少ない環状オレフィン系共重合体、およびその製造方法ならびに用途に関する。
【0002】
詳しくは、本発明は、透明性、耐熱性、有機溶媒への溶解性、強度および加工性に優れ、延伸フィルムを製造した場合には特異な複屈折性および波長依存性を示す環状オレフィン系共重合体に関する。
【背景技術】
【0003】
環状オレフィン系樹脂は、一般に複屈折が比較的小さいため、偏光板保護フィルム、液晶基板材料、光ディスク、各種光学レンズ、光ファイバーなどへの利用が近年検討されている。また環状オレフィン系樹脂は、加工条件をコントロールすることにより適度な複屈折を発現するため、これを積極的に利用した光学補償フィルムが実際に使用されている。たとえば、特許文献1〜4には、環状オレフィン系樹脂のフィルムを用いた位相差板が記載されている。また、特許文献5〜7には、環状オレフィン系樹脂のフィルムを、偏光板の保護フィルムに使用することが記載されている。さらに、特許文献8には、環状オレフィン系樹脂のフィルムからなる液晶表示素子用基板が記載されている。
【0004】
一般的に位相差フィルムは、延伸配向により、透過光に位相差(複屈折)を与える機能が付与されているが、多くの樹脂フィルムでは透過光の波長が長波長になるにつれて透過光の位相差(複屈折)の絶対値は小さくなる傾向を有するため、可視光領域全域(400〜800nm)において、たとえば1/4λなどの特定の位相差を透過光に与えることは非常に困難であった。
【0005】
しかしながら現在では、反射型や半透過型の液晶ディスプレイや、光ディスク用ピックアップなどの用途においては、実際に、可視光領域全域(400〜800nm)などの広範な波長領域において、1/4λの位相差を与える逆波長分散性位相差フィルムが必要とされており、さらに、液晶プロジェクターなどの用途では、1/2λの位相差が求められている。この他にも、種々の要求に応じ、複屈折の値の正負、その絶対値の大小、位相差の波長依存性の大小等、更に多様な光学的特性を有する樹脂の開発が望まれている。
【0006】
しかしながら従来の環状オレフィン系樹脂からなる光学フィルムでは、前記の高度な要求に対応できず、そのような光学特性を達成するには複数のフィルムを積層したり、光学特性改良のために各種コーティング剤を塗布したり、さらには複数の延伸フィルムを配向方向を交えて貼合したりして所望の光学特性を得ることが行われている。しかしながら、このような方法で得られる光学フィルムでは、切り出し、フィルム貼合、接着など、製造工程が複雑であるため高コスト、低歩留まり、およびフィルム厚み低減が困難であるといった問題がある。
【0007】
このため、広範な波長領域において、所望の位相差を有する、単層の光学フィルムの実現が望まれており、このような光学フィルムを製造し得る樹脂の出現が強く求められている。
【0008】
このような状況において、本願出願人は、芳香環構造を有しスピロ結合を有する特定の環状オレフィン系化合物の開環(共)重合体を提案している(特許文献9参照)。特許文献9には、該特定の開環共重合体からなるフィルムが、複屈折および波長分散性のコント
ロール性に優れることが示されているが、該重合体はガラス転移温度が必要以上に高く、強度および加工性が低いという問題があった。
【0009】
そこで、特定のモノマーとの共重合を行うことによって、強度および加工性を向上させることが検討されているが、モノマーの反応性差によって、重合体中の芳香環構造を有する構造単位と芳香環構造が無い構造単位の分布に偏りが生じるために、これを用いて作製したフィルムの透明性が低下し、問題となることがあった。このため、芳香環構造の偏在の少ない樹脂、およびその製造方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−245202号公報
【特許文献2】特開平4−36120号公報
【特許文献3】特開平5−2108号公報
【特許文献4】特開平5−64865号公報
【特許文献5】特開平5−212828号公報
【特許文献6】特開平6−51117号公報
【特許文献7】特開平7−77608号公報
【特許文献8】特開平5−61026号公報
【特許文献9】特開2005−36201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、芳香環を有する環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位と、芳香環を有さない環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位とを有し、構造単位の偏在が少ない環状オレフィン系共重合体およびその製造方法を提供することを課題としており、透明性、耐熱性、有機溶媒への溶解性、強度および加工性に優れ、延伸フィルムを製造した場合には特異な複屈折性および波長依存性を示す環状オレフィン系共重合体およびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の環状オレフィン系共重合体の製造方法は、
ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系モノマー(A)と、
ノルボルネン骨格を有し芳香環構造を有さない環状オレフィン系モノマー(B)と
を共重合するに際し、
モノマー総量の5〜90重量%のモノマーと重合触媒とを用いて重合を開始し、
重合反応中に残余のモノマーを反応系に供給して重合することを特徴としている。
【0013】
このような本発明の環状オレフィン系共重合体の製造方法では、
環状オレフィン系モノマー(A)が、下記式(1−1)、(1−2)、(1−3)および(1−4)で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーであり、
環状オレフィン系モノマー(B)が、下記式(2−1)および(2−2)で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。
【0014】
【化1】

(式(1−1)〜(1−4)中、aは0または1を表し、bは0から4の整数を表し、cは0から6の整数を表し、複数存在するRは、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。)、
【0015】
【化2】

(式(2−1)および(2−2)中、dは0または1を表し、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。Yは、−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。)
本発明の環状オレフィン系共重合体の製造方法では、重合終了までに使用する、環状オレフィン系モノマー(A)と、環状オレフィン系モノマー(B)との合計量100モル%中、環状オレフィン系モノマー(A)の使用割合が5〜50モル%であることが好ましい。
【0016】
本発明の環状オレフィン系共重合体の製造方法では、環状オレフィン系モノマー(B)が、前記式(2−1)で表され、式(2−1)中のR1およびR2が水素原子であり、R3が水素原子またはメチル基であり、R4が水素原子またはアルコキシカルボニル基であることが好ましい。
【0017】
本発明の環状オレフィン系共重合体の製造方法では、環状オレフィン系モノマー(B)が、下記式で表される化合物よりなる群から選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。
【0018】
【化3】

本発明の環状オレフィン系共重合体は、上記いずれかの本発明の環状オレフィン系共重合体の製造方法により得られたことを特徴としている。
【0019】
本発明の環状オレフィン系共重合体は、
ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系化合物から誘導される構造単位(a)と、ノルボルネン骨格を有し芳香環構造を有さない環状オレフィン系化合物から誘導される構造単位(b)とを有し、
次式で示される芳香環構造の偏在度が1以下であることを特徴としている。
【0020】
芳香環構造の偏在度=|{(R100000)/(U100000)−(R1000)/(U1000)}|
(式中、R100000およびR1000は、それぞれ、屈折率についての微分分子量分布図(1)から読み取られた分子量100000の強度および分子量1000の強度を示し、U100000およびU1000は、それぞれ、254nmの紫外線吸収強度についての微分分子量分布図(2)から読み取られた分子量100000の強度および分子量1000の強度を示す。)
本発明の光学部品は、上記本発明の環状オレフィン系共重合体のいずれかを成形して得られることを特徴としている。
【0021】
本発明の光学フィルムは、上記本発明の環状オレフィン系共重合体のいずれかを、溶液流延法または溶融押出法により製膜して得られることを特徴としている。本発明の延伸フィルムは、上記本発明の光学フィルムを延伸して得られることを特徴としている。また本発明の偏光板は、上記本発明の延伸フィルムを含むことを特徴としている。さらに本発明の液晶表示装置は、上記本発明の偏光板を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、芳香環を有する環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位と、芳香環を有さない環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位とを有し、構造単位の偏在が少ない環状オレフィン系共重合体およびその製造方法を提供することができる。
【0023】
本発明に係る環状オレフィン系共重合体は、特定の重合方法を用いて環状オレフィン類を共重合することにより容易に製造可能で、得られる重合体は透明性、耐熱性、有機溶剤への溶解性、強度、加工性に優れ、延伸フィルムを製造した場合には特異な複屈折性および波長依存性を示す。また、本発明に係る環状オレフィン系重合体は、その組成比を適切に調整することで、屈折率の異方性や波長分散性を自在にコントロールすることができるばかりでなく、環状オレフィン系重合体またはその成形品の製造において、生産性や品質に係る重要な因子となるガラス転移温度を容易にコントロールすることができる。
【0024】
本発明に係る環状オレフィン系共重合体は、光学材料として非常に有用であり、光ディスク、光磁気ディスク、光学レンズ(Fθレンズ、ピックアップレンズ、レーザープリンター用レンズ、カメラレンズ等)、眼鏡レンズ、光学フィルム/シート(ディスプレイ用フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、拡散フィルム、反射防止フィルム、液晶基板、EL基板、電子ペーパー用基板、タッチパネル基板、PDP前面板等)、透明導電性フィルム用基板、光ファイバー、導光板、光カード、光ミラー、IC、LSI、LED封止材等、非常に高精度の光学設計が必要とされている光学材料への応用が可能である。
【0025】
特に本発明に係る環状オレフィン系共重合体は、光学フィルムの用途に好適に用いることができ、キャスト法または押出し法により製膜したフィルム、それを延伸した延伸フィルムの製造に適している。延伸フィルムは、位相差フィルムとして好適であり、偏光板や液晶表示装置などの用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、実施例1で得た共重合体水素添加物の1H−NMRスペクトルを示す。
【図2】図2は、実施例2で得た共重合体水素添加物の1H−NMRスペクトルを示す。
【図3】図3は、実施例3で得た共重合体水素添加物の1H−NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について具体的に説明する。
本明細書において、複屈折との用語は通常の意味で用いられる。また、複屈折の値(これを、Δnとする)とは、重合体から成形されたフィルムを一軸または二軸延伸し、重合体分子鎖を一方向に配向させた延伸フィルムにおいて、延伸方向(二軸延伸においては延伸倍率の大きい方向)をx軸、これに対して面内垂直方向をy軸とし、x軸方向の屈折率をnx、Y軸方向の屈折率をnyとして、下記式:
Δn=nx−ny
で定義される正ないし負の値であり、その絶対値は入射光の波長によって異なる。
【0028】
そして、正(または、負)の複屈折性とは、前記Δnが正(または、負)である場合の上記延伸フィルムの性質を意味する。
次に、位相差(Retardation、これをReとする)とは、下記式:
Re=Δn×d (式中、dは、透過光の光路長(nm)であり、通常、上記延伸フィルムの厚さである。)
で定義される正〜負の値であり、その絶対値は入射光の波長によって異なる。また、「位相差が1/4λ」とは入射光波長(λ)の1/4に相当する位相差を発現することを意味する。
【0029】
そして、位相差の波長依存性とは、前記Reの値と入射光の波長との相関性を意味し、「位相差の波長依存性が大きい」とは、短波長の入射光に対するReの絶対値と、長波長の入射光に対するReの絶対値との差異が大きいことを意味する。また、「通常の波長分散性」とは入射光波長が長波長になるに従い位相差が小さくなる特性を意味し、「逆波長分散性」とは入射光波長が長波長になるに従い位相差が大きくなる特性を意味する。
【0030】
本発明の環状オレフィン系共重合体は、ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系化合物から誘導される構造単位(a)と、ノルボルネン骨格を有し芳香環構造を有さない環状オレフィン系化合物から誘導される構造単位(b)とを有する。このような本発明の環状オレフィン系共重合体は、構造単位(a)および(b)のみからなるものであってもよく、その他の構造単位を有していてもよい。
【0031】
すなわち本発明の環状オレフィン系共重合体は、ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系モノマー(A)と、ノルボルネン骨格を有し芳香環構造を有さない環状オレフィン系モノマー(B)と、必要に応じてその他の共重合性モノマーとを共重合して製造することができる。
【0032】
環状オレフィン系モノマー(A)
環状オレフィン系モノマー(A)は、ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する化合物である。環状オレフィン系モノマー(A)は、分子内に芳香環構造を1つのみ有していてもよく、また2個以上有していてもよい。本発明では、分子内に芳香環構造を1つまたは2つ有する環状オレフィン系モノマーが好適に用いられる。
【0033】
環状オレフィン系モノマー(A)としては、たとえば、次式(1−1)〜(1−4)で表される化合物よりなる群から選ばれる一種以上が用いられる。
【0034】
【化4】

ここで、前記式(1−1)〜(1−4)中のR、ならびに前記式(2−1)および(2−1)における、RならびにR1〜R4で表される原子もしくは基について説明する。
【0035】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が挙げられる。
炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチリデン基、プロピリデン基等のアルキリデン基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の芳香族基等が挙げられる。これらの基中の炭素原子に結合した水素原子は、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、フェニルスルホニル基、シアノ基等で置換されていてもよい。
【0036】
上記の置換または非置換の炭化水素基は直接環構造に結合していてもよいし、或いは連結基を介して結合していてもよい。前記連結基としては、例えば、炭素原子数1〜10の2価炭化水素基(例えば、−(CH2m−(式中、mは1〜10の整数)で表されるアルキレン基);酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む連結基(例えば、カルボニル基(−CO−)、カルボニルオキシ基(−COO−)、スルホニル基(−SO2−)、スルホニルオキシ基(−SO2−O−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−)、シロキサン結合(−Si(R)2O−)(式中、Rはメチル基、エチル基等のアルキル基である);或いはこれらの2種以上が組み合わさって連なったものが挙げられる。
【0037】
極性基としては、例えば、水酸基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アミド基、イミノ基(=NH)、トリオルガノシロキシ基、トリオルガノシリル基、アミノ基、アシル基、アルコキシシリル基、スルフィノ基(−SO2H)、カルボキシル基等が挙げられる。
【0038】
更に具体的には、上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ;アルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等が挙げられ;アリールカルボニルオキシ基としては、例えば、ベンゾイルオキシ基等が挙げられ;アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられ;アリーロキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等が挙げられ;トリオルガノシロキシ基としては、例えば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等が挙げられ;トリオルガノシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等が挙げられ;アミノ基としては、例えば、第1級アミノ基等が挙げられ;アルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
【0039】
これらのうち、前記式(1−1)〜(1−4)で表される化合物では、Rが水素原子、ハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基であるのが好ましい。
前記式(1−1)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0040】
【化5】

【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

前記式(1−2)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0047】
【化12】

前記式(1−3)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0048】
【化13】

前記式(1−4)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0049】
【化14】

本発明では、これらの環状オレフィン系モノマー(A)のうち、好ましくは、前記式(1−1)〜(1−4)で表される化合物よりなる群から選ばれる一種以上が用いられ、より好ましくは、前記式(1−1)、(1−3)および(1−4)で表される化合物よりなる群から選ばれる一種以上が用いられ、さらに好ましくは、前記式(1−1)で表される化合物よりなる群から選ばれる一種以上が用いられる。
【0050】
本発明では、環状オレフィン系モノマー(A)は、一種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよいが、一種単独で用いるのがより好ましい。
環状オレフィン系モノマー(B)
環状オレフィン系モノマー(B)は、ノルボルネン骨格を有し芳香環構造を有さない化合物である。
【0051】
環状オレフィン系モノマー(B)としては、ノルボルネン骨格を有し芳香環構造を有さない化合物をいずれも用いることができ、たとえば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(ノルボルネン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプト−4−エンなどの化合物や、これらに芳香環構造を有さない置換基がついた化合物などが挙げられる。ここで該置換基は、環構造を形成していてもよい。
【0052】
これらのうち、本発明で用いる環状オレフィン系モノマー(B)としては、前記式(2−1)および(2−2)で表される化合物よりなる群から選ばれる一種以上のモノマーを用いるのが好ましく、前記式(2−1)および(2−2)中、R1およびR2がいずれも水素原子であるモノマーがより好ましく、式(2−1)で表され、R1およびR2が水素原子であるモノマーがさらに好ましい。中でも、式(2−1)で表され、R3が水素原子、ハロゲン原子、メチル基またはトリフルオロメチル基であり、R4が水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、パーフルオロアルキル基、シアノ基またはアルコキシカルボニル基であるモノマーが好ましく、特に好ましくは、式(2−1)で表され、R3が水素原子またはメチル基であり、R4が水素原子またはアルコキシカルボニル基であるモノマーである。
【0053】
このような環状オレフィン系モノマー(B)としては、具体的には、たとえば下記式で表される化合物が挙げられる。
【0054】
【化15】

【0055】
【化16】

【0056】
【化17】

【0057】
【化18】

【0058】
【化19】

【0059】
【化20】

【0060】
【化21】

【0061】
【化22】

これらの環状オレフィン系モノマー(B)のうちでは、特に、下記式で表される化合物よりなる群から選ばれる一種以上の化合物であることが好ましい。
【0062】
【化23】

本発明では、環状オレフィン系モノマー(B)は、一種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよいが、アルコキシカルボニル基を有する化合物とそれ以外の化合物とを組み合わせて用いることがより好ましい。特に好ましい組み合わせは、下記式で表される化合物の組み合わせである。
【0063】
【化24】

その他の共重合性モノマー
本発明に係る環状オレフィン系共重合体は、上述した環状オレフィン系モノマー(A)および(B)のみを共重合して得られる共重合体であることが好ましいが、環状オレフィン系モノマー(A)および(B)とともに、必要に応じてその他の共重合性モノマーを共重合して得られる共重合体であってもよい。その他の共重合性モノマーを用いることにより、環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度などを制御することができる。
【0064】
本発明の環状オレフィン系共重合体は、上述した環状オレフィン系モノマー(A)と、環状オレフィン系モノマー(B)と、必要に応じてその他の共重合性モノマーとを、開環共重合あるいは付加共重合し、必要に応じて水素添加して製造することができる。
【0065】
共重合
本発明に係る環状オレフィン系共重合体の製造にあたっては、上述した環状オレフィン系モノマー(A)と、環状オレフィン系モノマー(B)との使用割合は、所望の共重合体の特性に応じて適宜設計することができ、特に限定されるものではないが、好ましくは、反応終了までの総量基準で、モノマー(A)とモノマー(B)との合計量を100mol%として、モノマー(A)が5〜50mol%の範囲であるのが好ましく、10〜50mol%の範囲であるのがより好ましい。モノマー(A)をこのような共重合比で用いることにより、得られる本発明の環状オレフィン系共重合体が有する屈折率の異方性や波長分散性などの光学的特性、およびガラス転移温度などの物理的特性を容易にコントロールすることができる。
【0066】
また、本発明ではモノマー(A)および(B)とともに、上述したその他の共重合性モノマーを共重合することができるが、その他の共重合性モノマーの使用量は、反応終了までの総量基準で、全モノマー中30モル%以下であるのが好ましく、20モル%以下であるのがより好ましい。
・重合方法
本発明では、反応終了までのモノマー総量のうちの、一部のモノマー(初期重合モノマー)と重合触媒を用いて重合を開始し、その重合反応中に残余のモノマーを供給して重合反応を行う。本発明において、初期重合モノマーとして用いるモノマーの量は、モノマー総量の少なくとも5重量%を用いることが好ましく、より好ましくは10〜95重量%であり、さらに好ましくは20〜90重量%である。初期重合モノマー量が5重量%未満の場合は、重合体中の構造の偏在が生じるために、本発明の効果を得ることができない。初期重合を開始する時のモノマー溶液の温度は、30〜200℃が好ましく、より好ましくは50℃〜180℃である。30℃未満の場合は重合体の収率が低下することがあり、200℃を超える場合は分子量コントロールが困難になることがある。
【0067】
本発明における重合反応は発熱反応であり、重合触媒を添加した時点で重合溶液の温度が上昇し始める。残余のモノマーの添加は、初期重合反応溶液の温度上昇が小さくなった時点で添加するのが望ましい。具体的には、0.1〜10℃/分の時点でモノマー残余の添加を実施することが好ましく、より好ましくは0.1〜7℃/分であり、さらに好ましくは0.1〜5℃である。
【0068】
残余のモノマーの添加は、1回のみで行ってもよく、複数回に分割して逐次行ってもよく、初期重合反応溶液の温度上昇が小さくなった時点で1回のみ行うことが特に好ましい。残余のモノマーの添加は、急激なモノマー濃度の変化を生じない方法で行うのが好ましく、滴下などの方法が好ましく採用される。
【0069】
本発明では、重合反応中に添加される残余のモノマーには、共重合モノマー成分のうち、重合性の高いものが多く含まれることが好ましい。本発明では、好ましくは、残余のモノマーは、環状オレフィン系モノマー(B)の含有割合の多いモノマーであることが好ましく、残余のモノマーが環状オレフィン系モノマー(B)のみであることも好ましい。
・重合触媒
本発明の環状オレフィン系共重合体を製造するのに好適に用いることのできる重合触媒としては、ノルボルネンなどの環状オレフィンを重合する場合に用いられる開環重合触媒および付加重合触媒をいずれも用いることができる。
【0070】
たとえば、開環共重合を行う触媒としては、
(I)Olefin Metathesis and Metathesis Polymerization(K.J.IVIN, J.C.MOL, Academic Press 1997)に記載されている触媒が好ましく用いられる。このような触媒としては、例えば、(a)W、Mo、Re、VおよびTiの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)アルカリ金属元素(例えば、Li、Na、K)、アルカリ土類金属元素(例えば、Mg、Ca)、第12族元素(例えば、Zn、Cd、Hg)、第13族元素(例えば、B、Al)、第14族元素(例えば、Si、Sn、Pd)等の化合物であって、少なくとも1つの当該元素−炭素結合または当該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組み合わせからなるメタセシス触媒が挙げられる。該触媒の活性を高めるために、後述の(c)添加剤が添加されたものであってもよい。
【0071】
上記(a)成分の具体例としては、例えば、WCl6、MoCl5、ReOCl3、VOCl3、TiCl4等の特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0072】
上記(b)成分の具体例としては、例えば、n−C49Li、(C253Al、(C252AlCl、(C251.5AlCl1.5、(C25)AlCl2、メチルアルモキサン、LiH等の特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0073】
上記(c)成分の添加剤としては、例えば、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類等を好適に用いることができ、更に、特開平1−240517号公報に記載の化合物を使用することができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0074】
上記(a)成分等を組み合わせてなるメタセシス触媒の使用量は、上記(a)成分と、全モノマー(上述したモノマー(1m)、(2m)および他の共重合可能なモノマーの総計、以下同じ)との、「(a)成分:全モノマー」のモル比が、通常、1:500〜1:500,000となる範囲、好ましくは1:1,000〜1:100,000となる範囲である。更に、上記(a)成分と(b)成分との割合は、「(a):(b)」の金属原子(モル)比が、通常、1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30の範囲である。このメタセシス触媒に上記(c)添加剤を添加する場合、(a)成分と(c)成分との割合は、「(c):(a)」のモル比が、通常0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1の範囲である。
【0075】
また、その他の触媒として、
(II)周期表第4族〜第8族の遷移金属−カルベン錯体やメタラシクロブタン錯体等からなるメタセシス触媒を用いることができる。
【0076】
上記触媒(II)の具体例としては、例えば、W(=N−2,6−C63iPr2)(=CHtBu)(OtBu)2、Mo(=N−2,6−C63iPr2)(=CHtBu)(OtBu)2、Ru(=CHCH=CPh2)(PPh32Cl2、Ru(=CHPh2)[P(C61132Cl2等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0077】
上記触媒(II)の使用量は、「触媒(II):全モノマー」のモル比が、通常1:500〜1:50,000となる範囲、好ましくは1:100〜1:10,000となる範囲である。
【0078】
なお、上記触媒(I)と(II)とを組み合わせて用いても差し支えない。
また、付加共重合を行う触媒としては、チタン化合物、ジルコニウム化合物およびバナジウム化合物から選ばれた少なくとも一種と、助触媒としての有機アルミニウム化合物とが用いられる。
【0079】
ここで、チタン化合物としては、四塩化チタン、三塩化チタンなどを、またジルコニウム化合物としてはビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドなどを挙げることができる。
【0080】
さらに、バナジウム化合物としては、一般式
VO(OR)ab、またはV(OR)cd
〔ただし、Rは炭化水素基、Xはハロゲン原子であって、0≦a≦3、0≦b≦3、2≦(a+b)≦3、0≦c≦4、0≦d≦4、3≦(c+d)≦4である。〕
で表されるバナジウム化合物、あるいはこれらの電子供与付加物が用いられる。
【0081】
上記電子供与体としては、アルコール、フェノール類、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、有機酸または無機酸のエステル、エーテル、酸アミド、酸無水物、アルコキシシランなどの含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアナートなどの含窒素電子供与体などが挙げられる。
【0082】
さらに、助触媒としての有機アルミニウム化合物としては、少なくとも1つのアルミニウム−炭素結合あるいはアルミニウム−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも一種が用いられる。
【0083】
上記において、例えばバナジウム化合物を用いる場合におけるバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物の比率は、バナジウム原子に対するアルミニウム原子の比(Al/V)が2以上であり、好ましくは2〜50、特に好ましくは3〜20の範囲である。
・分子量調節剤
本発明に係る環状オレフィン系共重合体の分子量の調節は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類等を調整することによっても行うことができるが、分子量調節剤を共重合の反応系に共存させることにより調節することが好ましい。分子量調節剤としては、例えば、エチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィン類およびスチレンが好ましく、これらのうち、1−ブテンおよび1−ヘキセンが特に好ましい。これらの分子量調節剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。この分子量調節剤の使用量は、全モノマー1モル当り、通常、0.005〜0.6モル、好ましくは0.02〜0.5モルである。
・重合反応溶媒
共重合反応において用いられる溶媒(即ち、単量体、重合触媒、分子量調節剤等を溶解する溶媒)としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等のアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナン等のシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等の芳香族炭化水素;クロロブタン、ブロムヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレン等のハロゲン化アルカン、ハロゲン化アリール等の化合物;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチル等の飽和カルボン酸エステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類が挙げられ、これらの中では芳香族炭化水素が好ましい。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。この重合反応用溶媒の使用量は、「溶媒:全モノマー」の重量比が、通常、1:1〜10:1となる量であり、好ましくは1:1〜5:1となる量であるのが望ましい。
【0084】
水素添加
上記共重合により得られる環状オレフィン系共重合体は、開環重合により製造を行った場合は、オレフィン性不飽和基の構造を有するものである。この重合体は、そのまま使用することができるが、耐熱安定性をより向上させるために、上記オレフィン性不飽和基を水素添加して、水素添加された重合体(水素添加物)として得ることが好ましい。ただし、本発明でいう水素添加物とは、共重合により生じる前記オレフィン性不飽和基が水素添加されたものであって、モノマー構造に由来するベンゼン環などの芳香環骨格中の環内共役二重結合は、実質的に水素添加されていないものであることが好ましい。
【0085】
本発明の環状オレフィン系共重合体の水素添加率は、水素添加前に存在するオレフィン性不飽和結合のモル数を100とした場合に、80モル以上、好ましくは85モル以上、更に好ましくは90モル以上である。この水素添加率が高いほど、環状オレフィン系共重合体の高温条件下における着色や劣化の発生が抑制されるので好ましい。
【0086】
水素添加反応は、上記芳香環骨格中の環内共役二重結合が実質的に水素添加されない条件で行われるのが望ましい。例えば、重合体の溶液に水素添加反応触媒を添加し、これに、通常、常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを加えて、通常、0〜200℃、好ましくは50〜200℃で反応させることによって行うことができる。
【0087】
水素添加反応触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用することができ、不均一系触媒および均一系触媒が公知である。不均一系触媒としては、例えば、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウム等の貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニア等の担体に担持させた固体触媒が挙げられる。均一系触媒としては、例えば、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等が挙げられる。これら触媒の形態は粉末状でも粒状でもよい。また、この水素添加反応触は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0088】
これらの水素添加反応触媒は、上記芳香環骨格中の環内共役二重結合が実質的に水素添加されないようにするために、その添加量を調整する必要があり、「共重合体:水素添加反応触媒」の重量比が、通常、1:1×10-6〜1:2となる割合で使用される。
【0089】
環状オレフィン系共重合体の特性
本発明の環状オレフィン系共重合体は、日本工業規格K7121に従って測定した補外ガラス転移開始温度が、好ましくは110〜180℃、より好ましくは112〜178℃、さらに好ましくは114〜176℃であって、充分な耐熱性を有するとともに、押出し成形等の溶融成形も可能な優れた成形性を有する。
【0090】
また、本発明の環状オレフィン系共重合体は、ウッベローデ型粘度計を用いて、クロロホルム中、試料濃度0.5g/dL、温度30℃で測定した対数粘度が、好ましくは0.4〜0.8dL/g、より好ましくは0.41〜0.78dL/g、さらに好ましくは0.42〜0.76dL/gである。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、テトラヒドロフラン溶媒、ポリスチレン換算値)による平均分子量の測定では、前記重合体の数平均分子量(Mn)は、通常、1000〜50万、好ましくは2000〜30万、更に好ましくは5000〜30万であり、重量平均分子量(Mw)は、通常、5000〜200万、好ましくは1万〜100万、更に好ましくは3万〜50万である。
【0091】
上記対数粘度(ηinh)が0.4未満であるか、数平均分子量(Mn)が1000未満
であるか、或いは、重量平均分子量(Mw)が5000未満であると、本発明の環状オレフィン系共重合体から得られる成形物の強度が著しく低下する場合がある。一方、対数粘度(ηinh) が0.81以上であるか、数平均分子量(Mn)が50万以上であるか、或いは、重量平均分子量(Mw)が200万以上であると、前記重合体の溶融粘度または溶液粘度が高くなりすぎて、所望の成形品を得ることが困難になる場合がある。
【0092】
本発明の環状オレフィン系共重合体は、環状オレフィン系モノマー(A)から誘導される構造単位(a)と、環状オレフィン系モノマー(B)から誘導される構造単位(b)の偏在が少ない共重合体である。
【0093】
具体的には、下記式で表される芳香環構造の偏在度が好ましくは1以下、より好ましくは0.9以下である。この偏在度が1を超える場合には、該共重合体から得られる光学フィルムなどの成形体の透明性が低下する場合がある。
【0094】
芳香環構造の偏在度=|{(R100000)/(U100000)−(R1000)/(U1000)}|
(式中、R100000およびR1000は、それぞれ、屈折率についての微分分子量分布図(1)から読み取られた分子量100000の強度および分子量1000の強度を示し、U100000およびU1000は、それぞれ、254nmの紫外線吸収強度についての微分分子量分布図(2)から読み取られた分子量100000の強度および分子量1000の強度を示す。)
ここで、紫外線吸収強度を測定する波長である254nmには、芳香環構造の紫外線吸収ピークが存在する。なお、得られた共重合体中の分子量ごとの分画は、GPC法により行うことができる。
【0095】
芳香環構造を含む環状オレフィン系モノマー(A)と、環状オレフィン系モノマー(B)とで重合反応性が異なることから、当初からモノマー全量を共重合反応に供した場合には、反応初期に反応性の高いモノマー(B)が多く反応し、反応後期に反応性の高いモノマーが消費されることにより高濃度となったモノマー(A)が多く反応することに起因して、モノマー(A)由来の構造単位(a)の含有量が低分子量物に多く、高分子量物に少なくなる傾向があるが、本発明に係る環状オレフィン系共重合体では、この差が小さく、構造単位(a)の偏在が少ない。
【0096】
<成形>
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、押出し成形および射出成形などの溶融成形、溶液流延法(キャスト法)による成形のいずれによっても好適に所望の形状に成形することができる。
【0097】
本発明の環状オレフィン系共重合体の物理的物性値は共重合組成比や分子量調節剤の使用量によりコントロールすることができるが、本発明の環状オレフィン共重合体の特性を失わない範囲で各種添加剤を添加しても良い。また、本発明の環状オレフィン系重合体には、これ以外の目的でも、公知の各種添加剤を添加することができる。
【0098】
添加剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリトール・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドキシフェニル)プロピオネート]、4,4'−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、オクタデシル・3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3',3",5,5',5"−ヘキサ−t−ブチル−a,a',a"−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール等のフェノール系、ヒドロキノン系酸化防止剤;トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤の1種または2種以上を添加することにより、共重合体の耐酸化劣化性を向上することができる。また、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]]等の紫外線吸収剤を添加することによって耐光性を向上することもできる。更に、加工性を向上させる目的で滑剤等の添加剤を添加することもできる。これらの添加剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0099】
本発明の環状オレフィン系重合体は、所望の形状に成形することができるが、光学特性に優れるため、各種光学材料の用途に有用である。なかでも、フィルムまたはシート(本発明ではこれらを総称してフィルムという)への成形が好ましく、各種光学フィルムの用途に好適に使用することができる。
・光学フィルム
本発明の環状オレフィン系重合体は、環状オレフィン系モノマー(A)および(B)の構造/種類の選択、共重合組成比の設定などにより、得られるフィルムなどの成形品の複屈折の絶対値や、位相差の波長依存性を調整することができる。たとえば上記式(1−1)〜(1−4)で表される環状オレフィンモノマー(A)の置換基Rや、上記式(2−1)あるいは(2−2)で表される環状オレフィン系モノマー(B)の置換基R1〜R4の構造・種類、共重合組成比などを設定することにより、これらの特性を制御することができる。
【0100】
また、本発明の環状オレフィン系重合体と公知の環状オレフィン系樹脂等とを適宜配合することによっても、得られる樹脂組成物から成形された重合体フィルム等の複屈折の値の正負、複屈折の絶対値や位相差の波長依存性を調整することができる。
【0101】
本発明の環状オレフィン系重合体を選択して用いると、複屈折の値の正負、その絶対値の大小、位相差の波長依存性の大小等を容易にコントロールできるため、本発明の共重合体から得られたフィルムは光学補償フィルムとして好適に利用できる。このため、本発明の環状オレフィン系共重合体またはそれを含む組成物を、キャスト法または押し出し法により製膜して、光学フィルムとすることが好ましい。さらに、上記光学フィルムは延伸加工によりその性能を十分に発現することから、自由幅一軸延伸、幅拘束一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸または光学フィルムに収縮性フィルムを延伸時または延伸後に貼付してフィルム厚み方向の屈折率を調整するいわゆるZ軸配向(Z軸延伸)を行って延伸フィルムとすることが好ましい。
【0102】
本発明の光学フィルムは、押出し成形またはキャスト成形により製膜したフィルムでは優れた透明性を示すため、各種保護フィルムなどとして好適に用いることができる。また、製膜して得たフィルムをさらに延伸した延伸フィルムでは、独自の波長依存性を示すため、位相差板や液晶表示装置を構成するフィルムとして好適に用いることができる。
【0103】
本発明の環状オレフィン系共重合体あるいはそれを含む樹脂組成物から製膜して得られた光学フィルムを、延伸して得られたフィルム、特に自由幅一軸延伸して得られたフィルムは、共重合体の種類および樹脂組成を選択することによって、可視光領域において、透過する波長が大きくなるほど位相差Reが大きくなる、逆波長分散性を有するフィルムとすることができる。このようなフィルムは位相差フィルムとして好適に用いることができ、1/4λ板などとして利用可能である。このような延伸フィルムは、偏光板や液晶表示装置を構成するフィルムとして好適である。
【0104】
特に、本発明の環状オレフィン系共重合体からなる光学フィルムを1〜150Kgf/cm2の応力で熱延伸して得られる自由幅一軸延伸フィルムは、好ましくは下記光学特性(1)〜(6)を同時に満足することができる。
(1)ヘイズ≦2%
(2)0≦Re550≦300nm
(3)0.5≦Re450/Re550≦1.0
(4)1.0≦Re650/Re550≦1.3
(5)10000≦d≦250000
(6)0.1≦Nz≦2.0
(上記式中、Re450、Re550、Re650は、それぞれ波長450nm、550nm、650nmにおけるフィルム面内の位相差Reを示し、Re=(nx−ny)×dで表され、Nz=(nx−nz)/(nx−ny)で表される。ここで、nxおよびnyは延伸方向をx軸、これに対してフィルム面内垂直方向をy軸としたときのx軸方向およびy軸方向の屈折率をそれぞれ表し、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
本発明に係る延伸フィルムが、上記(1)〜(6)の光学特性を同時に満たす場合には、各種仕様のモニター、テレビ、またはモバイル機器等の光学補償材料として特に好適に使用できる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、「部」及び「%」は、特に断りのない限り「重量部」および「重量%」を意味する。また、室温とは25℃である。
【0106】
本発明における各種物性値の測定方法を以下に示す。
・ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、商品名:DSC6200)を用いて、日本工業規格K7121に従って補外ガラス転移開始温度を求めた。以下、単にガラス転移温度(Tg)という。
・重量平均分子量、分子量分布、および重合体中の芳香環構造の偏在
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、商品名:HLC-8020)を用い、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、屈折率を観測することによって、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)を測定し、屈折率についての微分分子量分布図(分布 図1)を作成した。さらに、254nmの紫外線吸収強度を観測することによって、紫外線吸収強度についての微分分子量分布図(分布 図2)を作成した。
【0107】
分布 図1から分子量1000の強度(R1000)、分子量100000の強度(R100000)を読み取り、分布 図2から分子量1000の強度(U1000)、分子量100000の強度(U100000)を読み取り、これらを用いて、下記式によって芳香環構造の偏在度を評価した。
【0108】
芳香環構造の偏在度=|{(R100000)/(U100000)−(R1000)/(U1000)}|
・重合体分子構造
超伝導核磁気共鳴吸収装置(NMR、Bruker社製、商品名:AVANCE500)を用い、重水素化クロロホルム中で1H−NMRを測定し、共重合組成比および水素添加率を算出した。
・透明性、位相差、複屈折評価
開環重合体の塩化メチレン溶液(濃度:25%)を平滑なガラス板上にキャストし、乾燥後、厚さ100μm、残留溶媒0.5〜0.8%の無色透明なフィルムを得た。このフィルムのガラス転移温度(Tg)よりも5〜10℃高い温度で、1.2〜2.0倍に一軸延伸した。この延伸フィルムの透明性を、ヘイズメーター(スガ試験機社製、商品名:HGM−2DP型)を使用して測定した。さらに、位相差および複屈折の値を、レターデーション測定器(王子計測機器製、商品名:KOBRA21DH)を用いて測定した。
・対数粘度
ウッベローデ型粘度計を用いて、クロロホルム中、試料濃度0.5g/dL、温度30℃で測定した。
・引き裂き強度
株式会社東洋精機製作所製エレメンドルフ引き裂き試験装置3200型を用いて測定した。
【0109】
[実施例1]
単量体として式(A)で表されるスピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5][3]デセン](以下モノマーAという)22g(0.0774mol)、式(B)で表される8−メトキシカルボニル−8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(以下モノマーBという)59g(0.2540mol)、式(C)で表されるビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(以下モノマーCという)4g(0.0425mol)、分子量調節剤として1−へキセン 3.3g(0.0395mol)、およびトルエン360gを窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウムのトルエン溶液(トリエチルアルミニウム濃度0.61mol/L)0.43mL、メタノール変性WCl6のトルエン溶液(メタノール変性WCl6濃度0.025mol/L)1.74mLを加え、重合を開始した。この重合溶液の温度を測定し、温度上昇が1℃/分になったところで、8−メトキシカルボニル−8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン15g(0.0646mol)を5分間かけて滴下した。滴下終了時から1時間反応させることにより重合体を得た。ここで得られた重合体溶液をオートクレーブに入れ、さらにトルエンを100g加えた。水素添加反応触媒としてRuHCl(CO)[P(C6533を0.040g添加し、水素ガスを10MPaのゲージ圧となるように添加し、160〜165℃に加熱して3時間の反応を行った。反応終了後多量のメタノールに沈殿させることにより水素添加体を回収し、100℃の真空乾燥機で12時間乾燥した。
【0110】
得られた共重合体水素添加物の重量平均分子量(Mw)=109,641、分子量分布(Mw/Mn)=6.72であり、芳香環構造の偏在度は0.74であった。
また、対数粘度(ηinh)=0.72、補外ガラス転移開始温度(Tg)=165℃、収量79g(収率79%)であった。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.9%であり、芳香環残存率は100%であった。NMRにより求めた単量体A、単量体B、および単量体C由来の構造単位含有率(共重合組成比)はそれぞれ18、76、および6重量%であった。得られた重合水添体の1H−NMRスペクトルを図1に示す。
【0111】
得られた重合水添体18gを塩化メチレン162gに溶解し、減圧濾過(ろ剤:ADVANTEC製GA200)した溶液を平滑な硝子製浴槽(内寸:幅260x奥行380x深さ5mm)にキャストした。このフィルムを浴槽から剥離後、100℃の真空乾燥機で12時間乾燥して厚さ140μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は400ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は52gfであった。
【0112】
このフィルムを幅10x長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。174℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は64Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は104μmであり、ヘイズは0.4であった。位相差を測定したところR450=210、R550=235、R650=244nmであった。ここでR450、R550、およびR650はそれぞれ波長450、550、および650nmにおける位相差を表す。
【0113】
さらに、キャストにより得られたフィルムを用いて一軸延伸を行い、位相差(Re)を137-140nmに発現させた延伸フィルムを得た。これを、ASV方式低反射ブラックTFT液晶を採用しているシャープ株式会社製液晶テレビ(LC−13B1−S)の液晶パネルの観察者側の前面に貼付している偏光板および位相差フィルムを剥離し、この剥離した箇所に元々貼付されていた偏光板の透過軸と同一にして、剥離した偏光板および実施例で得た延伸フィルムが液晶セル側になるように貼付した。
【0114】
この延伸フィルムを有する液晶テレビの方位角45度で極角60度方向での黒表示における着色が少なくコントラストが良好で視認性に優れ、良好なパネル評価結果を得ることが確認できた。
【0115】
結果をまとめて表1に示した。
【0116】
【化25】

【0117】
【化26】

[実施例2]
モノマーAを22g(0.0774mol)、モノマーBを44g(0.1894mol)、モノマーCを4g(0.0425mol)を用いて重合を開始し、モノマーBを30g(0.1291mol)追加すること以外は実施例1と同様にして、重合反応、水素添加反応、水素添加体回収および乾燥を行った。
【0118】
得られた共重合体水素添加物は、重量平均分子量(Mw)=83,552、分子量分布(Mw/Mn)=5.30であり、芳香環構造の偏在度は0.77であった。
このようにして、対数粘度(ηinh)=0.61、補外ガラス転移開始温度(Tg)=166℃の重合水添体を収率88%で得た。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.8%であった。得られた重合水添体の1H−NMRスペクトルを図2に示す。
【0119】
次いで、得られた重合水添体を実施例1と同様に製膜して140μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は510ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は55gfであった。
【0120】
このフィルムを幅10x長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。174℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は63Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は108μmであり、ヘイズは0.9であった。位相差を測定したところR450=153、R550=167、R650=175nmであった。
【0121】
さらに、実施例1と同様にして位相差(Re)を137−140nmに発現させた延伸フィルムを作製し、実施例1と同様にしてパネル評価を行ったところ、良好な結果を得た。
これら結果をまとめて表1に示した。
【0122】
[実施例3]
モノマーAを22g(0.0774mol)、モノマーBを65g(0.2798mol)、モノマーCを4g(0.0425mol)用いて重合を開始し、モノマーBを9g(0.0387mol)追加すること以外は実施例1と同様にして、重合反応、水素添加反応、水素添加体回収および乾燥を行い、共重合体水素添加物を得た。重量平均分子量(Mw)=126,384、分子量分布(Mw/Mn)=7.38、芳香環構造の偏在度は0.80であった。
【0123】
このようにして、対数粘度(ηinh)=0.80、補外ガラス転移開始温度(Tg)=166℃の重合水添体を収率91%で得た。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.8%であった。得られた重合水添体の1H−NMRスペクトルを図3に示す。
【0124】
得られた重合水添体を実施例1と同様に製膜して136μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は490ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は59gfであった。
【0125】
このフィルムを幅10x長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。173℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は59Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は104μmであり、ヘイズは0.5であった。位相差を測定したところR450=153、R550=169、R650=176nmであった。
【0126】
さらに、実施例1と同様にして位相差(Re)を137−140nmに発現させた延伸フィルムを作製し、実施例1と同様にしてパネル評価を行ったところ、良好な結果を得た。
これら結果をまとめて表1に示した。
【0127】
[実施例4]
モノマーAを25g(0.0879mol)、モノマーBを7g(0.0301mol)、モノマーCを0.4g(0.0042mol)、1−へキセン1.8g(0.0218mol)を用いて重合を開始し、モノマーBを64g(0.2755mol)、モノマーCを3.6g(0.0382mol)の混合物を追加すること以外は実施例1と同様にして、重合反応、水素添加反応、水素添加物の回収および乾燥を行い、重量平均分子量(Mw)=50,742、分子量分布(Mw/Mn)=3.09、対数粘度(ηinh)=0.45、芳香環構造の偏在度は0.61であった。補外ガラス転移開始温度(Tg)=172℃の重合水添体を収率92%で得た。NMR測定により求めたこの水素添加物の水素添加率は99.9%であった。
【0128】
得られた重合水添体を実施例1と同様に製膜して140μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は510ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は55gfであった。
【0129】
このフィルムを幅10x×長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。182℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は51Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は110μmであり、ヘイズは0.9であった。位相差を測定したところR450=34、R550=66、R650=80nmであった。
【0130】
さらに、実施例1と同様にして位相差(Re)を137−140nmに発現させた延伸フィルムを作製し、実施例1と同様にしてパネル評価を行ったところ、良好な結果を得た。
これらの結果をまとめて表1に示した。
【0131】
[比較例1]
モノマーAを30g(0.1055mol)、モノマーBを62g(0.2669mol)、モノマーCを8g(0.0850mol)、分子量調節剤として1−へキセン51g(0.0605mol)、およびトルエン250gを窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウムのトルエン溶液(トリエチルアルミニウム濃度0.61mol/L)0.57mL、メタノール変性WCl6のトルエン溶液(メタノール変性WCl6濃度0.025mol/L)1.73mLを加え、80℃で1時間反応させることにより重合体を得た。ここで得られた重合体を用いること以外は実施例1と同様にして、水素添加反応、水素添加物の回収および乾燥を行った。得られた共重合体水素添加物は、重量平均分子量(Mw)=70,237、分子量分布(Mw/Mn)=5.35であり、芳香環構造の偏在度は1.14であった。対数粘度(ηinh)=0.50、補外ガラス転移開始温度(Tg)=158.0℃、収量80g(収率80%)であった。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.8%であった。
【0132】
得られた重合水添体を実施例1と同様に製膜して138μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は500ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は50gfであった。
【0133】
このフィルムを幅10x長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。176℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は60Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は101μmであり、ヘイズは2を超えた。位相差を測定したところR450=126、R550=156、R650=168nmであった。
【0134】
結果をまとめて表2に示した。
[比較例2]
モノマーCを使用しないこと以外は比較例1と同様にして開環重合反応、水素添加反応、水素添加体回収および乾燥を行い、重量平均分子量(Mw)=100,003、分子量分布(Mw/Mn)=5.29、対数粘度(ηinh)=0.66、補外ガラス転移開始温度(Tg)=188.0℃の重合水添体を収率84%で得た。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.9%であった。
【0135】
得られた重合水添体を実施例1と同様に製膜して140μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は550ppmであった。このフィルムの引き裂き強度測定を試みたところ、測定範囲以下の強度であり有効値を得ることは出来なかった。
【0136】
このフィルムを幅10x長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。193℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は70Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は100μmであり、ヘイズは1.0であった。位相差を測定したところR450=105、R550=138、R650=151nmであった。
【0137】
結果をまとめて表1に示した。
[比較例3]
モノマーAおよびモノマーCを使用せず、モノマーB100gおよび分子量調節剤として1−へキセン4.6gを使用したこと以外は比較例1と同様にして重合反応、水素添加反応、水素添加体回収および乾燥を行い、重量平均分子量(Mw)=135,000、分子量分布(Mw/Mn)=3.06、対数粘度(ηinh)=0.78、補外ガラス転移開始温度(Tg)=167.0℃の重合水添体を収率90%で得た。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.8%であった。
【0138】
得られた重合水添体を実施例1と同様に製膜して140μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は530ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は21gfであった。
【0139】
このフィルムを幅10x長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。177℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は40Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚は100μmであり、ヘイズは0.4であった。位相差を測定したところR450=105、R550=138、R650=151nmであった。
結果をまとめて表1に示した。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

表1に示されるように、特定の重合方法を用いて作製されたモノマーAを含有する共重合体水素添加物から得られた実施例の延伸フィルムは、優れた透明性を持ち、短波長ほど位相差が小さくなる「逆波長分散性」を示し、さらにモノマーCを含有することで補外ガラス転移開始温度が低くなることに起因して、比較例2と同等の応力で同等の光学特性を発現する延伸温度(加工温度)を低くできることがわかる。このように、本発明の環状オレフィン系共重合体が、加工性および強度に優れ、且つそれから得られる延伸フィルムが「逆波長分散性」を有することが示されている。このような逆波長分散性、強度、および加工性は用いる単量体の種類およびその組成比を変えることにより調節することができる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明に係る環状オレフィン系共重合体は、光学材料として非常に有用であり、光ディスク、光磁気ディスク、光学レンズ(Fθレンズ、ピックアップレンズ、レーザープリンター用レンズ、カメラレンズ等)、眼鏡レンズ、光学フィルム/シート(ディスプレイ用フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、拡散フィルム、反射防止フィルム、液晶基板、EL基板、電子ペーパー用基板、タッチパネル基板、PDP前面板等)、透明導電性フィルム用基板、光ファイバー、導光板、光カード、光ミラー、IC、LSI、LED封止材等、非常に高精度の光学設計が必要とされている光学材料への応用が可能である。
【0143】
特に本発明に係る環状オレフィン系共重合体は、光学フィルムの用途に好適に用いることができ、キャスト法または押出し法により製膜したフィルム、それを延伸した延伸フィルムの製造に適している。延伸フィルムは、位相差フィルムとして好適であり、偏光板や液晶表示装置などの用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系化合物から誘導される構造単位(a)と、ノルボルネン骨格を有し芳香環構造を有さない環状オレフィン系化合物から誘導される構造単位(b)とを有し、
次式で示される芳香環構造の偏在度が1以下であることを特徴とする環状オレフィン系共重合体。
芳香環構造の偏在度=|{(R100000)/(U100000)−(R1000)/(U1000)}|
(式中、R100000およびR1000は、それぞれ、屈折率についての微分分子量分布図(1)から読み取られた分子量100000の強度および分子量1000の強度を示し、U100000およびU1000は、それぞれ、254nmの紫外線吸収強度についての微分分子量分布図(2)から読み取られた分子量100000の強度および分子量1000の強度を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の環状オレフィン系共重合体を成形して得られることを特徴とする光学部品。
【請求項3】
請求項1に記載の環状オレフィン系共重合体を、溶液流延法または溶融押出法により製膜して得られることを特徴とする光学フィルム。
【請求項4】
請求項3に記載の光学フィルムを延伸して得られることを特徴とする延伸フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の延伸フィルムを含むことを特徴とする偏光板。
【請求項6】
請求項5に記載の偏光板を含むことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−177127(P2012−177127A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104817(P2012−104817)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【分割の表示】特願2006−229592(P2006−229592)の分割
【原出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】