説明

環状シリコーン樹脂を含んだ感光性アルカリ可溶性樹脂

【課題】耐候性、耐光性、耐熱性等に優れ、微細パターンの形成が可能な感光性樹脂組成物を得ることができる、環状シリコーン樹脂を含んだアルカリ可溶性樹脂を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されて、1分子内にカルボキシル基、及び重合性不飽和基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂である。


〔R1は炭素数1〜10の炭化水素基であり、R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Xは重合性二重結合とカルボキシル基を含むイソシアヌル環骨格を有する置換基。nは3〜6の数を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は電子線を照射することにより硬化し、尚且つ、アルカリ現像処理によるパターン形成が可能な感光性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂は、電気特性、接着性、耐熱性、低吸水性等に優れており、電子材料分野等の多くの分野で使用されている。特に、分子内にエポキシ基を有するエポキシシリコーン樹脂は、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂に比べて耐候性、耐光性に優れていることから、発光ダイオード(LED)封止材として有用である。詳しくは、LED素子から放出される光や熱による樹脂の劣化や経時変色を低減できる。しかし、これらの樹脂はアルカリ現像処理によるパターン形成能が無く、用途に制約がある。
【0003】
また、LED封止材等の電子材料分野において有用な樹脂組成物として、例えば特許文献1には、芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られる水素化エポキシ樹脂と多価カルボン酸を反応して得られるエポキシ当量が230〜1000g/eq.のエポキシ樹脂と環状オレフィンをエポキシ化して得られる脂環式エポキシ樹脂、及びこれを用いた封止用エポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、エポキシ基とビニル基を有するイソシアヌル酸化合物とシリコーン化合物を付加させ、側鎖にエポキシ基を有するイソシアヌル酸が導入されたシリコーン化合物が開示されている。特許文献3には、ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物を用いたカラーフィルター保護膜用樹脂組成物が開示されている。しかし、ここで例示されている化合物は、いずれもアルカリ現像処理によるパターン形成能を有していない。
【0004】
一方、特許文献4には、重合性二重結合とカルボキシル基を有する、カラーフィルター向けアルカリ可溶性芳香族樹脂化合物が開示されている。しかし、ここで例示されている化合物は芳香族基を有しているため、LED等から放出される光や熱による樹脂の劣化、経時変色が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-277473号公報
【特許文献2】特開2004-099751号公報
【特許文献3】特開2004-69930号公報
【特許文献4】特許第3509269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、上述したような、従来の樹脂組成物における課題を解決するために鋭意検討した結果、多官能エポキシ環状シリコーン化合物と重合性二重結合を含有するカルボン酸とを反応させて得られる多価アルコール化合物に、ジカルボン酸又はその酸一無水物を反応させることにより、感光性樹脂組成物の形成に好適なアルカリ可溶性環状シリコーン樹脂が得られることを見出した。そして、このアルカリ可溶性環状シリコーン樹脂を用いることで、環状シリコーン樹脂の有する耐候性、耐光性、耐熱性を維持したまま、アルカリ現像性を付与した感光性樹脂組成物を得ることに成功した。
【0007】
従って、本発明の目的は、耐候性、耐光性、耐熱性等に優れ、微細パターンの形成が可能な感光性樹脂組成物を得ることができる、環状シリコーン樹脂を含んだアルカリ可溶性樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されて、1分子内にカルボキシル基、及び重合性不飽和基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂である。
【化1】

〔但し、R1は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Xは一般式(2)で示される置換基であり、X1及びX2はそれぞれ重合性二重結合を含み、少なくとも一方はカルボキシル基を含む。nは3〜6の数を表す。〕
【化2】

【0009】
本発明の好ましい実施の態様を以下に示す。すなわち、一般式(1)におけるXは、好ましくは下記一般式(3)で表される置換基である、上記感光性アルカリ可溶性樹脂である。
【化3】

〔但し、R3は水素原子又はメチル基を示す。R4は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子、又はエステル結合を含んでいても良い。R5は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Lは下記一般式(4)で表される置換基、又は水素原子を示す。〕
【化4】

(但し、M1は2価又は3価のカルボン酸残基を示し、qは1または2である)
【発明の効果】
【0010】
本発明の一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂は、従来、電子材料分野などで使用されていた樹脂に比べて耐候性、耐光性、及び耐熱性が高く、かつアルカリ現像性を有する。すなわち、本発明の感光性アルカリ可溶性樹脂を含む組成物を用いることにより、耐候性、耐光性、及び耐熱性に優れた硬化物を得ることができ、尚且つ微細パターンを形成することができる。そのため、本発明の感光性アルカリ可溶性樹脂を含む組成物は、カラーフィルター関連材料をはじめ、半導体デバイス等の保護層、封止材、接着剤として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の感光性樹脂について詳細に説明する。
本発明の一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂は、後述するように、多官能エポキシ化合物の有するエポキシ基に、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸のカルボキシル基が結合して形成された多価アルコール化合物に由来する光硬化性を有するほか、その多価アルコール化合物に、酸一無水物を反応させたことに由来する酸性基を含有するため、アルカリ可溶性を有する。
【0012】
一般式(1)の感光性アルカリ可溶性樹脂は、多官能エポキシ環状シリコーン化合物(以下、単に「エポキシ環状シリコーン化合物」という場合がある)が有するエポキシ基に、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸のカルボキシル基を反応させ、得られた重合性二重結合を有する多価アルコール化合物(以下、「エポキシアクリレート環状シリコーン化合物」という場合がある)に、ジカルボン酸類又はその酸一無水物を反応させて得られた、カルボキシル基を含有するエポキシアクリレート環状シリコーン樹脂である。一般式(1)の感光性アルカリ可溶性樹脂は、重合性二重結合とカルボキシル基とを併せ持つため、アルカリ現像型感光性樹脂組成物としたときに優れた光硬化性、良現像性、及びパターニング特性を与える。
【0013】
一般式(1)で表わされる感光性アルカリ可溶性樹脂の製造方法について詳細に説明する。まず、一般式(5)で表されるエポキシ環状シリコーン化合物と、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸とを反応させて、エポキシアクリレート環状シリコーン化合物を合成する。
【化5】

(但し、R1は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Yはイソシアヌル環骨格に、エポキシ基を含んだ基が結合した置換基を示す。nは3〜6の数を表す。)
【0014】
ここで、一般式(5)のR1は炭素数1〜10の炭化水素基であり、このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基等の直鎖状炭化水素基、シクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基、フェニル基等の芳香族炭化水素基が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、それぞれ同一でも異なっていても良い。なかでも好ましくはメチル基である。また、R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。このような炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基、デシレン基、ドデシレン基、又は下記一般式(6)で表される2価の置換基等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、それぞれ同一でも異なっていても良い。なかでも好ましくはプロピレン基である。
【化6】

(但し、R6は炭素数1〜17の炭化水素基又は単結合である。)
【0015】
また、一般式(5)におけるYは、イソシアヌル環骨格に、エポキシ基を含んだ基が結合した置換基を示し、好ましくは、−R7−(R8−E)2で表すことができる。ここで、R7はイソシアヌル環骨格からなる基であり、R8は、直結合又は鎖状の炭化水素基であることが好ましいが、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Eはエポキシ基である。この好ましいYについて、具体例として下記一般式(7)で表される置換基が例示できる。
【化7】

【0016】
このようなエポキシ環状シリコーン化合物と、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸との反応は、公知の方法を使用することができ、例えば、環状シリコーン化合物におけるエポキシ基1モルに対し、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸のカルボキシル基1モルを反応させて行う。この反応で得られる反応物は、重合性二重結合と水酸基とを有するエポキシアクリレート環状シリコーン化合物である。この場合、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸を挙げることができ、また、下記一般式(8)に示すようなアクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレートとジカルボン酸又はその酸一無水物との反応で得られる重合性二重結合を有するジカルボン酸のモノエステル類も挙げられる。
【化8】

(但し、R3は水素原子又はメチル基を示し、R9は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。M2は2価のカルボン酸残基を示す。)
【0017】
次に、上記で得られた重合性二重結合と水酸基とを有するエポキシアクリレート環状シリコーン化合物と、ジカルボン酸又はその酸一無水物との反応によって、一般式(1)で表される本発明の感光性アルカリ可溶性樹脂を得る方法を説明する。
【0018】
すなわち、前述のエポキシアクリレート環状シリコーン化合物の水酸基に対して、酸成分を反応させることで、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂を得る。この際、使用する溶媒、触媒等の反応条件に関しては特に制限されないが、例えば水酸基を持たず、反応温度より高い沸点を有する溶媒を反応溶媒として用いるのが良く、このような溶媒としては、例えば、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系溶媒や、ジグライム、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の高沸点のエーテル系若しくはエステル系の溶媒や、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶媒等であるのが良い。また、使用する触媒としては、例えばテトラエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等のアンモニウム塩、トリフェニルホスフィン、トリス(2、6-ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類等の公知のものを使用することができる。これらについては特開平9-325494号公報に詳細に記載されている。
【0019】
また、酸成分としては、エポキシアクリレート化合物分子中の水酸基と反応し得る酸一無水物を使用するのが良く、飽和直鎖炭化水素ジカルボン酸の酸無水物、飽和環状炭化水素ジカルボン酸の酸無水物、不飽和ジカルボン酸の酸無水物等を使用することができる。このうち、飽和直鎖炭化水素ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、コハク酸、アセチルコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、シトラリンゴ酸、マロン酸、グルタル酸、クエン酸、酒石酸、オキソグルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、スベリン酸、ジグリコール酸等の無水物を挙げることができ、更には炭化水素基が置換された直鎖炭化水素ジカルボン酸無水物でもよい。また、飽和環状炭化水素ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、シクロブタンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、ヘキサヒドロトリメリット酸等の酸無水物を挙げることができ、更には飽和炭化水素が置換された脂環式ジカルボン酸の酸無水物でもよい。また、不飽和ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、クロレンド酸、トリメリット酸の酸無水物挙げることができる。これらのなかで、好ましくはコハク酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロトリメリット酸、フタル酸、又はトリメリット酸の無水物であるのが良く、より好ましくはコハク酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、又はトリメリット酸の無水物であるのが良い。
【0020】
エポキシアクリレート環状シリコーン化合物と酸成分とを反応させて、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂を合成する際の反応温度としては、20〜140℃の範囲が好ましく、より好ましくは40〜130℃である。一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂を合成する際の酸一無水物のモル比は、エポキシアクリレート環状シリコーン化合物中の水酸基に対して10〜100モル%であるのがよい。酸一無水物のモル比は、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂の酸価を調整する目的で決定するものであり、上述の範囲で任意に変更できる。
【実施例】
【0021】
以下に、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂の実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例によりその範囲を限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例における樹脂の評価は、断りのない限り以下の通りに行った。
【0022】
[固形分濃度]
実施例(及び比較例)中で得られた樹脂溶液(反応生成物やアルカリ可溶性樹脂の場合を含む)1gをガラスフィルター〔重量:W0(g)〕に含浸させて秤量し〔W1(g)〕、160℃にて2hr加熱した後の重量〔W2(g)〕から次式より求めた。
固形分濃度(重量%)=100×(W2―W0)/(W1―W0)
【0023】
[エポキシ当量]
樹脂溶液をジオキサンに溶解させた後に、臭化テトラエチルアンモニウムの酢酸溶液を加え、電位差滴定装置(平沼製作所(株)製 商品名COM-1600)を用いて1/10N−過塩素酸溶液で滴定して求めた。
【0024】
[酸価]
樹脂溶液をジオキサンに溶解させ、電位差滴定装置(平沼製作所(株)製 商品名COM-1600)を用いて1/10N−KOH水溶液で滴定して求めた。
【0025】
[分子量]
テトラヒドロフランを展開溶媒として、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)にて標準ポリスチレン換算値として重量平均分子量(Mw)を求めた値である。
【0026】
また、実施例及び比較例で使用する略号は次のとおりである。
FHPA:ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂とアクリル酸との当量反応物(新日鐵化学社製、ASF-400溶液:固形分濃度50wt%、固形分換算の酸価1.28mgKOH/g)
BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
THPA:1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物
TPP:トリフェニルホスフィン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0027】
[実施例1]
窒素導入管及び還流管付き1000ml四つ口フラスコ中に1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン48g、ジオキサン480g、及びカーボン粉末に担持された白金触媒(白金濃度5%)0.04gを仕込み、内温を90℃まで昇温した後、N−アリル−N',N"−ジグリシジルイソシアヌレート224gを3時間かけて投入した。投入終了後、ジオキサンが還流を始める温度まで昇温し、10時間還流した。0.1Nの水酸化カリウム/メタノール溶液に反応液を滴下し、水素ガスの発生がなくなったことを確認し、残存する白金触媒をセライトにてろ過した。エバポレーターにて、ろ液の溶媒を留去することで一般式(5)のエポキシシリコーン樹脂(CES1)240gを得た。得られたエポキシ環状シリコーン樹脂は、一般式(5)におけるR1がメチル基であり、nが4であって環状シロキサン骨格とイソシアヌル環骨格を有し、かつイソシアヌル環骨格にエポキシ基を有する。また、得られたエポキシ環状シリコーン樹脂のエポキシ当量は174g/eq、粘度は0.5Pa・s(150℃)であった。
【0028】
次いで、還流管付き1000ml四つ口フラスコ中にて、上記エポキシ環状シリコーン樹脂150gに対して、アクリル酸61.97g(0.86mol)、PGMEAを259.57g、及びTPPを0.57g仕込み、100〜105℃で加熱下に20hr撹拌して反応させた。更に、フラスコ内にTHPAを98.37g(0.65mol)仕込み、120〜125℃で加熱下に6hr撹拌し、感光性アルカリ可溶性樹脂(i)-1を得た。得られた感光性アルカリ可溶性樹脂の固形分は54.9wt%、酸価(固形分換算)は121.2mgKOH/g、GPC分析によるMwは2230であった。また、得られた感光性アルカリ可溶性樹脂のIR測定から、1731cm-1(エステル結合)、1410cm-1(ビニル基)、及び1188cm-1(カルボキシル基)にピークが観測された。これより、重合性二重結合とカルボキシル基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂であることを確認した。
【0029】
[比較例1]
窒素導入管及び還流管付き1000ml四つ口フラスコ中に、両末端がSi-H基であるポリジメチルシロキサン(SI-H当量363g/eq)184g、ジオキサン250g、及びカーボン粉末に担持された白金触媒(白金濃度5%)0.27gを仕込み、内温を90℃まで昇温した後、N−アリル−N',N"−ジグリシジルイソシアヌレート150gを3時間かけて投入した。投入終了後、内温を110℃まで昇温し、ジオキサンを還流させながら加熱撹拌を行った。0.1Nの水酸化カリウム/メタノール溶液に反応液を滴下し、水素ガスの発生がなくなったことを確認し、残存する白金触媒をセライトにてろ過した。エバポレーターにて、ろ液の溶媒を留去することで、下記一般式(9)のエポキシシリコーン樹脂(ES1)320gを得た。得られたエポキシシリコーン樹脂は、一般式(9)におけるR1がメチル基であり、aが8であって直鎖シロキサン骨格とイソシアヌル環骨格を有し、かつ末端にエポキシ基を有する。また、得られたエポキシシリコーン樹脂のエポキシ当量は317g/eq、粘度は4.5Pa・s(25℃)であった。
【化9】

【0030】
次いで、還流管付き1000ml四つ口フラスコ中にて、上記エポキシシリコーン樹脂150gに対して、アクリル酸34.10g(0.47mol)、PGMEAを198.87g、及びTPPを0.62g仕込み、100〜105℃で加熱下に20hr撹拌して反応させた。更に、フラスコ内にTHPAを53.49g(0.35mol)仕込み、120〜125℃で加熱下に6hr撹拌し、感光性アルカリ可溶性樹脂(i)-2を得た。得られた感光性アルカリ可溶性樹脂の固形分は54.6wt%、酸価(固形分換算)は85.3mgKOH/g、GPC分析によるMwは2540であった。また、得られた感光性アルカリ可溶性樹脂のIR測定から、1732cm-1(エステル結合)、1409cm-1(ビニル基)、及び1186cm-1(カルボキシル基)にピークが観測された。これより、重合性二重結合とカルボキシル基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂であることを確認した。
【0031】
[比較例2]
窒素導入管及び還流管付き1000ml四つ口フラスコ中に、両末端がSi-H基であるポリジメチルシロキサン(SI-H当量215g/eq)152g、ジオキサン152g、及びカーボン粉末に担持された白金触媒(白金濃度5%)0.36gを仕込み、内温を90℃まで昇温した後、N−アリル−N',N"−ジグリシジルイソシアヌレート200gを3時間かけて投入した。投入終了後、内温を110℃まで昇温し、ジオキサンを還流させながら加熱撹拌を行った。0.1Nの水酸化カリウム/メタノール溶液に反応液を滴下し、水素ガスの発生がなくなったことを確認し、残存する白金触媒をセライトにてろ過した。エバポレーターにて、ろ液の溶媒を留去することで、下記一般式(9)のエポキシシリコーン樹脂(ES2)324gを得た。得られたエポキシシリコーン樹脂は、一般式(9)におけるR1がメチル基であり、aが4であって直鎖シロキサン骨格とイソシアヌル環骨格を有し、かつ末端にエポキシ基を有する。また、得られたエポキシシリコーン樹脂のエポキシ当量は237g/eq、粘度は0.34Pa・s(75℃)であった。
【0032】
次いで、還流管付き1000ml四つ口フラスコ中にて、上記エポキシシリコーン樹脂150gに対して、アクリル酸45.61g(0.63mol)、PGMEAを224.29g、及びTPPを0.83g仕込み、100〜105℃で加熱下に20hr撹拌して反応させた。更に、フラスコ内にTHPAを72.22g(0.47mol)仕込み、120〜125℃で加熱下に6hr撹拌し、感光性アルカリ可溶性樹脂(i)-3を得た。得られた感光性アルカリ可溶性樹脂の固形分は54.7wt%、酸価(固形分換算)は101.1mgKOH/g、GPC分析によるMwは1800であった。また、得られた感光性アルカリ可溶性樹脂のIR測定から、1730cm-1(エステル結合)、1410cm-1(ビニル基)、及び1188cm-1(カルボキシル基)にピークが観測された。これより、重合性二重結合とカルボキシル基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂であることを確認した。
【0033】
[比較例3]
還留冷却器付き1000ml四つ口フラスコ中にFHPAの50%PGMEA溶液を412.52g(0.34mol)、BPDAを50.02g(0.17mol)、THPAを25.87g(0.17mol)、PGMEAを52.0g、及びTPPを0.90g仕込み、120〜125℃で加熱下に6hr撹拌し、感光性アルカリ可溶性樹脂(i)-4を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は55.6wt%、酸価(固形分換算)は103.0mgKOH/g、GPC分析によるMwは2600であった。また、得られた感光性アルカリ可溶性樹脂のIR測定から、1731cm-1(エステル結合)、1407cm-1(ビニル基)、及び1181cm-1(カルボキシル基)にピークが観測された。これより、重合性二重結合とカルボキシル基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂であることを確認した。
【0034】
次に、感光性樹脂組成物及びその硬化物の製造に係る参考例及び比較参考例を具体的に説明する。ここで、以降の参考例及び比較参考例の感光性樹脂組成物及びその硬化物の製造で用いた原料及び略号は以下の通りである。
【0035】
(i)-1成分:上記実施例1で得られた感光性アルカリ可溶性樹脂
(i)-2成分:上記比較例1で得られた感光性アルカリ可溶性樹脂
(i)-3成分:上記比較例2で得られた感光性アルカリ可溶性樹脂
(i)-4成分:上記比較例3で得られた感光性アルカリ可溶性樹脂
(ii)成分:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
(iii)-1成分:光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ製、イルガキュア907)
(iii)-2成分:4,4'ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(光増感剤)
(iv)-1成分:テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂
(iv)-2成分:実施例1で得られたエポキシ環状シリコーン樹脂(CES1)
(iv)-3成分:比較例2で得られたエポキシシリコーン樹脂(ES2)
溶剤-1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
溶剤-2:ジプロピレングリコールジメチルエーテル
添加剤-1:シランカップリング剤(東レダウコーニング製SH-6040)
添加剤-2:界面活性剤(住友3M社製FC-430)
【0036】
上記の成分を表1に示す割合で配合して、参考例1及び比較参考例1〜4の感光性樹脂組成物を調製した。尚、表1中の数値はすべて重量部を表す。
【0037】
【表1】

【0038】
[アルカリ現像性]
表1に示した感光性樹脂組成物を、スピンコーターを用いて125mm×125mmのガラス基板上にポストベーク後の膜厚が3.8〜4.2μmとなるように塗布し、80℃で3分間プレベークして塗布板を作成した。その後、500W/cm2の高圧水銀ランプで波長365nmの照度32mJ/cm2の紫外線を照射し、感光部分の光硬化反応を行った。次に、この露光済み塗布板を23℃の0.8wt%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液中、又は23℃の0.35wt%ジエタノールアミン水溶液中、ディップ現像にて現像を行い、さらに水洗を行い、塗膜の未露光部を除去した。その後、熱風乾燥機を用いて180℃、90分間加熱乾燥処理を行って、参考例1、及び比較参考例1〜4に係るパターンを得た。
【0039】
上記で得られた参考例1、及び比較参考例1〜4の感光性樹脂組成物からなるパターンについて、現像性及び現像マージン等を評価した結果を表2に示す。これらの評価方法は以下の通りに行った。
【0040】
膜厚:
触針式段差形状測定装置(ケーエルエー・テンコール(株)製 商品名P-10)を用いて測定した。
【0041】
現像時間:
アルカリ現像時、塗膜の未露光部が全て溶解するのに要した時間を記録し、現像時間が300秒を超えてもパターンが見えない場合は×とした。
【0042】
テーパー形状:
現像後のパターンを、走査型電子顕微鏡((株)KEYENCE製 商品名VE-7800)を用いて観察し、パターンの断面形状が滑らかな順テーパーを維持している場合は○、逆テーパーや剥がれが生じた場合は×とし、パターンの断面形状が順テーパーで、かつ垂直に近い場合は◎とした。
【0043】
ライン形状:
現像後の10μm線について測長顕微鏡((株)ニコン製 商品名XD-20)でパターン部の直線性やフリンジなどの有無を評価した。そこで、直線性がよく、フリンジなどが発生していないものに関しては○<良好>とし、フリンジなどが発生し、直線性の悪いものを×<不良>と評価した。各項目とも非常に良好な場合に限り◎と評価した。
【0044】
塗膜表面のタック性:
80℃で3分間プレベークして作成した塗膜表面のタック性を評価した。タック性が全く無いものに関しては○、わずかにタック性がある場合は△、顕著にタック性がある場合は×とした。
【0045】
塗膜収縮率:
現像後の塗膜の膜厚〔厚さ:T0(μm)〕及び180℃、90分間加熱乾燥処理後の膜厚〔厚さ:T1(μm)〕を測定して次式より求めた。塗膜収縮率が10%以上の場合は×、5〜10%の場合は○、5%以下の場合は◎とした。
塗膜収縮率(%)=100×(1―T1/T0
【0046】
【表2】

【0047】
[透過率]
また、表1に示した感光性樹脂組成物を、スピンコーターを用いて125mm×125mmのガラス基板上にポストベーク後の膜厚が3.8〜4.2μmとなるように塗布し、80℃で3分間プレベークして塗布板を作成した。その後、500W/cm2の高圧水銀ランプで波長365nmの照度32mJ/cm2の紫外線を照射して、光硬化反応を行った。その後、熱風乾燥機を用いて230℃、30分間加熱乾燥処理を行って、参考例1、及び比較参考例1〜4に係る硬化膜を得た。そして、得られた塗布板を透過率計(日本電色工業製 商品名SPECTRO PHOTOMETER SD5000)を用いて透過率を測定し、波長380nmでの透過率が90%以上の場合に○、90%未満の場合に×と評価した。
【0048】
[機械的物性]
更には、表1に示した感光性樹脂組成物を、スピンコーターを用いて125mm×125mmの離型剤を塗布したアルミニウム基板上にポストベーク後の膜厚が28〜32μmとなるように塗布し、110℃で10分間プレベークして塗布板を作成した。その後、500W/cm2の高圧水銀ランプで波長365nmの照度32mJ/cm2の紫外線を照射し、感光部分の光硬化反応を行った。次に、この露光済み塗布板を25℃の0.8wt%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液中、ディップ現像にて現像を行い、さらに水洗を行い、塗膜の未露光部を除去した。その後、熱風乾燥機を用いて180℃、90分間加熱乾燥処理を行った。更に、加熱乾燥処理後の塗布板を80℃の熱水に浸漬し、塗膜をアルミニウム基板から剥離して参考例1、及び比較参考例1〜4に係る硬化フィルムを得た。そして、上記の硬化フィルムのガラス転移点を、熱機械的分析装置(SII(株)製 EXSTAR 6000)を用いて測定し、ガラス転移点が160℃以上の場合に◎、145℃〜160℃の場合に○、130℃〜145℃の場合に△、130℃未満の場合に×とした。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
上記表2及び表3の結果から明らかなように、参考例1に係る硬化物は比較参考例1〜4と同等の現像性及び密着性を維持し、更に、高い透過率、パターンの直線性を有する硬化物を形成できる。その上、塗膜収縮率の低減、塗膜表面のタック性の改善ができる。すなわち、アルカリ現像性を維持したまま、耐候性、耐光性、耐熱性を有する硬化膜を提供できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の感光性アルカリ可溶性樹脂を含む組成物は、耐候性、耐光性、耐熱性を有する環状シリコーン樹脂において、光硬化性及びアルカリ現像性を付与した樹脂を用いたことで、耐候性、耐光性、耐熱性を有するパターンを形成することができる。そのため、本発明の感光性アルカリ可溶性樹脂を含む組成物は、カラー液晶表示装置、カラーファクシミリ、イメージセンサー等の各種の表示素子や、カラーフィルター保護膜材料及びブラックマトリックス形成用材料、あるいは、有機半導体等の有機デバイス等の保護層、封止材、接着剤として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されて、1分子内にカルボキシル基、及び重合性不飽和基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂。
【化1】

〔但し、R1は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Xは一般式(2)で示される置換基であり、X1及びX2はそれぞれ重合性二重結合を含み、少なくとも一方はカルボキシル基を含む。nは3〜6の数を表す。〕
【化2】

【請求項2】
一般式(1)におけるXが、下記一般式(3)で表される1価の置換基である請求項1記載の感光性アルカリ可溶性樹脂。
【化3】

〔但し、R3は水素原子又はメチル基を示す。R4は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子、又はエステル結合を含んでいても良い。R5は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Lは下記一般式(4)で表される置換基、又は水素原子を示す。〕
【化4】

(但し、M1は2価又は3価のカルボン酸残基を示し、qは1又は2である。)

【公開番号】特開2011−207972(P2011−207972A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75756(P2010−75756)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】