説明

環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物とその製造方法及び(メタ)アクリル系重合体

【課題】半導体製造に用いられるフォトレジスト用モノマーなどとして有用な、新規な環状構造を有するアクリルアミド系化合物およびその製造方法の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物とその重合体および、酸触媒の存在下で(メタ)アクリルアミドと、2,3-ジヒドロフラン及び/又は3,4−ジヒドロピランを反応する該(メタ)アクリルアミド系化合物の製造方法である。(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、n及びmはそれぞれ独立に1又は2である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置製造に用いられるフォトレジスト用モノマーなどに有用な、環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物とその製造方法及び(メタ)アクリル系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の微細化が進むに伴い、その製造におけるリソグラフィー工程において、さらなる微細化が要求されており、したがって、KrF、ArFあるいはF2エキシマレーザー光などの短波長の照射光に対応したフォトレジスト材料を用いて、微細パターンを形成させる方法が種々検討されている。そして、前記エキシマレーザー光などの短波長の照射光に対応できる新しいフォトレジスト材料の出現が望まれている。
フォトレジスト材料として、従来はフェノール樹脂をベースとするものが数多く開発されてきたが、これらの材料は芳香族環を含むために光の吸収が大きく、微細化に対応できるだけのパターン精度を得ることができない。
【0003】
このため光の吸収の少ない樹脂としてアクリル樹脂が用いられており、アクリル樹脂に環状構造を導入することにより耐熱性を向上させ、半導体フォトレジスト用モノマーとして利用することが提案されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。
アクリルモノマーに環状構造を導入する方法としてアクリル酸またはメタクリル酸とジヒドロピランを反応させてアセタールエステルを生成させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、テトラヒドロフラニルメタクリレートからの共重合体が酸発生剤による酸の作用で分解することが知られている(例えば、特許文献3参照)
しかし、従来から知られている環状構造を有するアクリル類は、例えば特許文献1のように、エステル構造を介したものだけであり、アクリル樹脂にアミド構造を介してテトラヒドロフランやテトラヒドロピランなどの環状構造を導入することは知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開2001−192356号公報
【特許文献2】米国特許第5072029号公報
【特許文献3】特開平5−265212号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・フォトポリマー・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of Photopolymer Science and Technology),5巻(3号),439〜446頁(1992年)、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような状況下で、半導体装置製造に用いられるフォトレジスト用モノマーなどとして有用な、新規な環状構造を有するアクリルアミド系化合物およびその製造方法、並びに耐熱性に優れた環状構造を有するアクリル系重合体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アクリルアミドはカルボニル炭素の電子密度が低く、窒素原子上の電子が吸引されているため、窒素−水素の反応性は低いと考えられていたが、ジヒドロフランやジヒドロピランはアクリルアミドと容易に反応し、優れた耐熱性や硬度を有する高分子材料が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、以下の環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物とその製造方法及び(メタ)アクリル系重合体を提供するものである。
1.一般式(1)で表されることを特徴とする環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物。
【0007】


【化1】

【0008】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、n及びmはそれぞれ独立に1又は2である。)
2.酸触媒の存在下で、(メタ)アクリルアミドと、2,3-ジヒドロフラン及び/又は3,4−ジヒドロピランを反応することを特徴とする上記1の環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物の製造方法。
3.上記1の環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物を重合してなる(メタ)アクリル系重合体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系重合体は、従来のエステル構造を介した環状構造を有するアクリル類重合体と比較してガラス転移温度(Tg)が高く、優れた耐熱性を有する。
また、本発明の(メタ)アクリルアミド系重合体は、無色透明であり、優れた表面硬度(測定限界の鉛筆硬度2H以上)を有する。
従って、本発明の環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物は、半導体装置の製造に用いられるフォトレジスト用モノマー、耐熱材料、表面コーティング材料などとして、電子機器、精密機械、光学分野などに極めて有用である。
さらに、本発明の環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物の製造方法は、温和な条件で反応して容易に合成することができ、重合体も容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物(以下、単に(メタ)アクリルアミド系化合物と称することがある。)は、一般式(I)で表される化合物である。
式中のRは水素原子又はメチル基を表す。n又はmはそれぞれ独立に1又は2であり、n又mが1の場合はテトラヒドロフリル基、n又はmが2の場合はテトラヒドロピラニル基を有する(メタ)アクリルアミドとなる。n又はmが0又は2を越えるものは原料の入手が困難であり、かつ反応が起り難いことから実用的でない。
【0011】
【化2】

【0012】
本発明の(メタ)アクリルアミド系化合物は、酸触媒の存在下で、(メタ)アクリルアミドと、2,3-ジヒドロフラン及び/又は3,4−ジヒドロピランを反応することにより製造され、下記式で表される。
【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

(Rは前記と同じである。)
【0016】
すなわち、本発明の(メタ)アクリルアミド系化合物は、アクリルアミド又はメタクリルアミド(a)と、3,4−ジヒドロピランを反応させることにより、上記(2)式により、N,N−ビス(2−テトラヒドロピラニル)(メタ)アクリルアミド(1−a)が得られ、2,3-ジヒドロフラン(c)を反応させることにより、上記(3)式により、N,N−ビス(2−テトラヒドロフリル)(メタ)アクリルアミド(1−b)が得られる。
さらに、上記(4)式により、3,4−ジヒドロピラン(b)を反応させて、N−2−テトラヒドロピラニル)(メタ)アクリルアミド(d)を得たのち、2,3-ジヒドロフラン(c)を反応させることにより、N−2−テトラヒドロフリル−N−2−テトラヒドロピラニル)(メタ)アクリルアミド(1−c)が得られる。
上記(2)式及び(3)式で示される反応においては、アクリルアミド又はメタクリルアミドに対する2,3-ジヒドロフラン又は3,4−ジヒドロピランのモル比は2.0〜3.0とすることが好ましい。また、上記(4)式で示される反応においては、アクリルアミド又はメタクリルアミドに対する3,4−ジヒドロピランのモル比は1.0〜1.1とすることが好ましく、2,3-ジヒドロフランのモル比は1.0〜1.1とすることが好ましい。
【0017】
本発明の(メタ)アクリルアミド系化合物を製造する際に用いられる酸触媒としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、ヘテロポリ酸(例えば、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸等)などの無機酸;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、スルホン酸系強酸性イオン交換樹脂などのスルホン酸類などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上混合して使用できる。これらの中で硫酸およびp−トルエンスルホン酸が好適に使用される。
この酸触媒の使用量は、触媒の種類にもよるが、(メタ)アクリルアミド100質量部に対して、通常0.005〜0.05質量部、好ましくは0.008〜0.03質量部である。
【0018】
(メタ)アクリルアミド系化合物を製造する際に用いられる溶媒としては、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトニトリルなどの非プロトン性の溶媒が好適に使用される。
反応温度は、通常20〜40℃であり、25〜30℃が好ましい。この温度範囲であれば、反応速度が低下することもなく、反応時間が長くなり過ぎることもない。また、重合物の副生が増加することもない。
反応圧力は、通常、絶対圧力で0.01〜10MPaの範囲が採用される。この範囲であれば、特別な耐圧の装置は必要ではなく、経済的である。好ましくは、常圧〜1MPaの範囲である。
反応時間は、通常1〜24時間であり、好ましくは3〜8時間である。
【0019】
目的化合物の精製分離については、例えば、反応液に塩基性活性アルミナなどを添加し、攪拌後、フィルターで濾別し、濾液から溶剤および揮発分を留去することにより、目的化合物を得ることができる。
得られた(メタ)アクリルアミド系化合物は、重合開始剤を添加し、加熱することにより重合できる。また重合開始剤を添加して紫外線を照射することにより重合することもできる。この場合、原料として、本発明の(メタ)アクリルアミド系化合物のみを用いても良く、他の共重合可能な単量体と併用しても良い。
重合開始剤としては熱重合による場合はアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、紫外線照射による場合はベンゾインイソブチルエーテルが使用される。
重合温度は 通常30〜150℃、好ましくは50〜100℃であり、通常1〜30時間、好ましくは3〜20時間加熱することにより(メタ)アクリルアミド系化合物の単独重合体又は共重合体が得られ、重量平均分子量は1万以上とすることが好ましい。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各実施例で得られた(メタ)アクリルアミド系化合物の同定および重合体の物性測定は次のように行った。
【0021】
(1)(メタ)アクリルアミド系化合物の同定(1H−NMR分析)
装置:JEOL社製、AL400
溶媒:CDCl3
(2)重合体のガラス転移温度(Tg)
DSC装置(セイコーインスツルメント製、DSC6200)を使用して測定した。
(3)重合体の表面硬度(鉛筆硬度)
コーテック社製引っかき硬度試験器を使用し、JIS K5600−5−4に従って測定した。
(4)樹脂(重合体)の屈折率
アタゴ社製アッベ屈折計を使用し、接触液としてブロモナフタレンを使って23℃で測定した。
(5)樹脂(重合体)の曲げ強度
インストロン社製万能材料試験機 5582型を使用し JIS K7171に準拠し測定した。試験片形状 30×25×1(mm)、試験速度 1mm/min、支点間距離 16mm、試験温度 23℃とした。
【0022】
実施例1
温度計、撹拌装置、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、アクリルアミド:14.2g(0.2モル)、2,3−ジヒドロフラン:35.0g(0.5モル)、アセトン:50ml、p-メトキシフェノール:50mgおよびp-トルエンスルホン酸:100mgを加え、室温で撹拌を行った。反応溶液は最高温度27℃まで上昇した。撹拌は引き続き10時間行った。
この反応液に、活性アルミナ(塩基性)3gを添加し2時間、室温で撹拌した。固体を0.2μmのフィルターで濾別し、室温・真空下で溶剤および揮発分を留去し無色透明の液体を得た。収量は38.9gで、収率が92%であった。
得られた生成物の1H−NMRによる同定結果を図1に示す。このチャートより得られた生成物は下記の化合物Aであることが確認される。
【0023】
【化6】

【0024】
実施例2
実施例1で得られた化合物A:15.0gに重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.12g溶解させた後、真空ポンプで脱気して、2枚の1mmの間隔で挟んだガラス板の間に入れ、60℃で12時間、80℃で5時間加熱して無色透明のプレートを得た。
得られたプレートのガラス転移温度は198℃であった。また、表面の鉛筆硬度は2H以上であり、屈折率は1.520であった。
【0025】
実施例3
温度計、撹拌装置、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、メタクリルアミド59.6g(0.7モル)、2,3−ジヒドロフラン122.6g(1.75モル)、アセトニトリル250ml、p-メトキシフェノール75mgおよびp−トルエンスルホン酸300mgを加え室温で撹拌を行った。反応溶液は最大で35℃となった。撹拌は引き続き5時間行った。
この反応液に、活性アルミナ(塩基性)10gを添加し2時間、室温で撹拌した。固体を0.2μmのフィルターで濾別し、室温・真空下で溶剤および揮発分を留去し無色透明の液体を得た。収量は138.8gで、収率が88%であった。
得られた生成物の1H−NMRによる同定結果を図2に示す。このチャートにより得られた生成物は下記の構造Bであることが確認される。
【0026】
【化7】

【0027】
実施例4
実施例3で得られた化合物B:50.0gに重合開始剤のベンゾインイソブチルエーテルを0.50g溶解させた後、真空ポンプで脱気して、2枚の1mmの間隔で挟んだガラス板の間に入れ、1kw水銀灯に計6分間露光し注型板を作製した。
得られたプレートの物性は以下の通りであった。
ガラス転移温度 205℃
鉛筆硬度 2H以上
屈折率 1.528
曲げ強さ 55.0MPa
曲げ弾性率 2790MPa
【0028】
実施例5
実施例3で得られた化合物B:7.5g、メチルメタクリレート:7.5gおよびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.12gを混ぜた後、実施例2と同様の方法でプレートを作成した。得られた無色透明のプレートのガラス転移温度は158℃であった。
【0029】
参考例1
実施例1と同じ装置にメタクリル酸86.09g(1.0モル)、2,3−ジヒドロフラン80.0g(1.14モル)、p−トルエンスルホン酸500mgを入れ40℃で3時間反応を行った。反応後、炭酸ナトリウム1.0gを添加して室温で撹拌した後、真空蒸留により2-テトラヒドロフラニルオキシメタクリレートを得た。収量は52.5g(収率36%)であった。この化合物を1質量%のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を添加して60〜80℃で重合して得たプレートのガラス転移温度は180.0℃であった。このガラス転移温度は実施例2,4で合成した樹脂よりも20℃程度低い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で得られた化合物Aの1H−NMR分析によるチャートである。
【図2】実施例3で得られた化合物Bの1H−NMR分析によるチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されることを特徴とする環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、n及びmはそれぞれ独立に1又は2である。)
【請求項2】
酸触媒の存在下で、(メタ)アクリルアミドと、2,3-ジヒドロフラン及び/又は3,4−ジヒドロピランを反応することを特徴とする請求項1に記載の環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の環状構造を有する(メタ)アクリルアミド系化合物を重合してなる(メタ)アクリル系重合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−23979(P2009−23979A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191292(P2007−191292)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】