説明

環状脂肪族ジハライド及びその製造方法

【課題】 ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂を得る際に用いられるモノマーの原材料、医農薬原料の中間体として有用性が期待される新規な環状脂肪族ジハライド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表されるジハライド化合物である環状脂肪族ジハライド、及び1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと1,3−ブタジエンとの反応する環状脂肪族ジハライドの製造方法。
【化1】


(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な環状脂肪族ジハライド及びその製造方法に関するものであり、詳細には、ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂とする際のモノマーの原材料、医農薬原料の中間体としての有用性が期待される新規な環状脂肪族ジハライドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、脂肪族ジアミンを原料としたポリアミド樹脂は高耐熱性に優れ、低吸水性を有した鉛フリーハンダ対応の材料として注目されている。また、環状構造の脂肪族炭化水素を骨格に持つ環状脂肪族ジアミンから得られる環状脂肪族ジイソシアネートを原材料としたポリウレタン樹脂は、剛直性を有し、無黄変性、耐候性に優れることが期待され、この環状脂肪族ジイソシアネートから製造されるポリウレタン樹脂は塗料や接着剤用途の材料として注目されている。
【0003】
そして、このような環状脂肪族ジアミンとしては、例えば1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンが知られており、該1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンの製造方法としては、フタロニトリルのニトリル基を水素化することによりo−キシリレンジアミンを製造し、このo−キシリレンジアミンをさらに核水素化することで製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−279368号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に提案の方法においては、高価なフタロニトリルを用いる必要があること、芳香環の核水素化は高圧の厳しい反応条件が必要であり、煩雑な工程、装置が必要になるなどの課題があった。
【0006】
そこで、アミノ基又はヒドロキシル基等に代表される官能基に容易に転換が可能な官能基を有する環状脂肪族炭化水素が、中間体として求められていた。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は容易に入手ができ、ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂用のモノマーの原材料、医農薬原料の中間体として有用性が期待される新規な環状脂肪族ジハライド及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、新規な環状脂肪族ジハライド及びその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるジハライド化合物であることを特徴とする環状脂肪族ジハライド、及びその製造方法に関するものである。
【0010】
【化1】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の環状脂肪族ジハライドは、上記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とするものであり、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。そして、特にXを他の官能基に置換し、二官能性シクロヘキセン化合物を得ることが容易であることから、Xは共に塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であることが好ましく、特に共に塩素原子であることが好ましい。
【0012】
該環状脂肪族ジハライドの具体的例示としては、例えば1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン、1,2−ビス(ブロモメチル)−4−シクロヘキセン、1,2−ビス(ヨードメチル)−4−シクロヘキセン、1−(ブロモメチル)−2−(クロロメチル)−4−シクロヘキセン、1−(ブロモメチル)−2−(ヨードメチル)−4−シクロヘキセン、1−(クロロメチル)−2−(ヨードメチル)−4−シクロヘキセン等が挙げられ、その中でも特にハロゲンを他の官能基に置換し、二官能性シクロヘキセン化合物を得ることが容易であることから1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン、1,2−ビス(ブロモメチル)−4−シクロヘキセン、1,2−ビス(ヨードメチル)−4−シクロヘキセンが好ましく、更に1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセンであることが好ましい。
【0013】
本発明の環状脂肪族ジハライドの製造方法としては、該環状脂肪族ジハライドを製造することが可能であれば如何なる製造方法を用いても良く、例えば下記一般式(2)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと1,3−ブタジエンとの反応により該環状脂肪族ジハライドを製造する方法を挙げることができる。
【0014】
【化2】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
ここで、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。そして、得られる環状脂肪族ジハライドが、容易に二官能性シクロヘキセン化合物を提供できることから、Xは共に塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であることが好ましく、特に共に塩素原子であることが好ましい。
【0015】
上記一般式(2)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンの具体的例示としては、例えば1,4−ジクロロ−2−ブテン、1,4−ジブロモ−2−ブテン、1,4−ジヨード−2−ブテン、1−クロロ−4−ブロモ−2−ブテン、1−クロロ−4−ヨード−2−ブテン、1−ブロモ−4−ヨード−2−ブテン等があげられ、その中でも、得られる環状脂肪族ジハライドが、容易に二官能性シクロヘキセン化合物を提供できることから、1,4−ジクロロ−2−ブテン、1,4−ジブロモ−2−ブテン、1,4−ジヨード−2−ブテンであることが好ましく、さらに1,4−ジクロロ−2−ブテンであることが好ましい。
【0016】
該1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと1,3−ブタジエンとの反応については、特に制限はなく、中でも効率的に反応が進行する製造方法となることからDiels−Alder反応であることが好ましい。また、該環状脂肪族ジハライドを製造する際には、原料である該1,4−ジハロゲノ−2−ブテン、該1,3−ブタジエン及び必要に応じて溶媒を一度に反応装置に仕込む回分式;原料又は溶媒を少なくとも一つ反応装置に仕込み、残りを後から反応装置に仕込む半回分式;原料である1,4−ジハロゲノ−2−ブテン、1,3−ブタジエン及び必要に応じて溶媒等を連続的に供給すると共に未反応原料及び反応液を連続的に抜出す連続式;のいずれの方法により実施してもよい。そして、特に環状脂肪族ジハライドの生産性に優れた製造方法となることから、該1,4−ジハロゲノ−2−ブテンに対し、該1,3−ブタンジエンを連続的に供給する製造方法であることが好ましい。また、反応状態は特に制限されず、液相又は気相状態、さらに気液混合状態で行うことができ、その中でも特に反応効率に優れることから液相状態であることが好ましい。
【0017】
該1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと該1,3−ブタジエンとの反応により該環状脂肪族ジハライドを製造する場合の該1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと該1,3−ブタジエンの仕込み比率は、特に制限はなく、その中でも効率的に反応が進行することから1,3−ブタジエン1モルに対して1,4−ジハロゲノ−2−ブテン1000〜0.01モルであることが好ましく、特に100〜0.1モルであることが好ましく、さらに50〜0.5モルであることが好ましい。
【0018】
また、該1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと該1,3−ブタジエンとの反応は、溶媒中又は無溶媒下で行うことが可能であり、溶媒を用いる際の溶媒としては、特に限定するものではなく、例えば水;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカヒドロナフタレン等の脂環族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、等があげられる。また、原料である1,4−ジハロゲノ−2−ブテン又は1,3−ブタジエンを過剰に加え溶媒として用いることも可能である。これらの溶媒は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。
【0019】
該1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと該1,3−ブタジエンとの反応における温度は特に制限はなく、例えば50〜300℃であることが好ましく、特に100〜250℃であることが好ましい。また、反応圧力としては特に制限はなく、通常、絶対圧で0.01〜10MPaであることが好ましく、特に0.1〜5MPaであることが好ましい。反応時間については、反応温度、原料の基質濃度等により適宜選択することが可能であり、通常、1分〜100時間であることが好ましい。該環状脂肪族ジハライドを製造する際の雰囲気に特に制限はなく、その中でも、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスによって置換した雰囲気下で行うことが好ましい。
【0020】
このような製造方法により製造された環状脂肪族ジハライドの回収方法としては、特に制限はなく、公知の分離法、例えば蒸留等の方法を用いことができる。また、原料である1,4−ジハロゲノ−2−ブテン、1,3−ブタジエンは公知の分離法、例えば蒸留等の方法により回収し、原料として再利用することが可能である。
【0021】
本発明の環状脂肪族ジハライドは、アミノ基やヒドロキシル基等に容易に置換可能なハロゲンをシクロヘキセン環に結合したメチル基に持つことから、ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂を得る際のモノマーの原材料、医農薬原料の中間体として期待されるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂のモノマーの原材料、医農薬原料の中間体として有用性が期待される新規な環状脂肪族ジハライド及びその効率的な製造方法を提供するものであり、工業的にもその有用性が期待されるものである。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
以下に実施例に用いた測定方法を示す。
【0025】
<ガスクロマトグラフ分析>
反応液に内標としてテトラデカンを加え、カラム(ジーエルサイエンス製、(商品名)TC−1)を備えたガスクロマトグラフ(島津製作所製、(商品名)GC−1700)に反応液0.4μlを注入し、分析を行った。
【0026】
<GC−MS測定>
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC部;ヒューレット・パッカード製、(商品名)HP6890、MS部;日本電子製、(商品名)JMS−700)を用い、測定を行った。
【0027】
実施例1
1,4−ジクロロ−2−ブテン150g(1.2mol)を500ミリリットルのオートクレーブに仕込んだ。内部を窒素置換した後、攪拌しながら180℃まで昇温し、1,3−ブタジエン39.6g(0.733mol)をポンプで8時間30分かけて連続的に供給した。供給終了後さらに6時間加熱攪拌し、Diels−Alder反応を行った。反応終了後、25℃まで温度を下げ、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液は褐色溶液であった。得られた褐色の溶液を0.4kPaの減圧下で蒸留し、65〜75℃の範囲の留出分を集めることにより、純度90重量%の1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセンを14g(1,3−ブタジエン基準の収率:10%)の無色溶液として得た。GC−MSを測定した結果、m/e178に分子イオンピークが確認され、塩素数2個であることも確認された。
【0028】
実施例2
1,4−ジクロロ−2−ブテン150g(1.2mol)を1,4−ジブロモ−2−ブテン214g(1mol)とした以外は、実施例1と同様の方法により1,2−ビス(ブロモメチル)−4−シクロヘキセンの製造を行った。
【0029】
その結果、純度92重量%の1,2−ビス(ブロモメチル)−4−シクロヘキセン22g(1,3−ブタジエン基準の収率:10%)の無色溶液として得た。GC−MSを測定した結果、m/e268に分子イオンピークが確認された。
【0030】
実施例3
1,4−ジクロロ−2−ブテン150g(1.2mol)を1,4−ジヨード−2−ブテン308g(1mol)とした以外は、実施例1と同様の方法により1,2−ビス(ヨードメチル)−4−シクロヘキセンの製造を行った。
【0031】
その結果、純度90重量%の1,2−ビス(ヨードメチル)−4−シクロヘキセン28g(1,3−ブタジエン基準の収率:9.5%)の無色溶液として得た。GC−MSを測定した結果、m/e362に分子イオンピークが確認された。
【0032】
実施例4
1,3−ブタジエン243g(4.5mol)と1,4−ジクロロ−2−ブテン800g(6.4mol)を2リットルのオートクレーブに仕込んだ。内部を窒素置換した後、攪拌しながら170℃まで昇温し、そのまま7時間加熱攪拌し、Diels−Alder反応を行った。反応終了後、25℃まで温度を下げ、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液は褐色溶液であった。得られた褐色の溶液を0.4kPaの減圧下で蒸留し、65〜75℃の範囲の留出分を集めることにより、純度90重量%の1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセンを32g(1,3−ブタジエン基準の収率:3.6%)の無色溶液として得た。GC−MSを測定した結果、m/e178に分子イオンピークが確認され、塩素数2個であることも確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジハライド化合物であることを特徴とする環状脂肪族ジハライド。
【化1】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、Xが共に塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であるジハライド化合物であることを特徴とする請求項1に記載の環状脂肪族ジハライド。
【請求項3】
下記一般式(2)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと1,3−ブタジエンとを反応することにより、上記一般式(1)で表されるジハライド化合物を製造することを特徴とする環状脂肪族ジハライドの製造方法。
【化2】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
【請求項4】
反応が、Diels−Alder反応であることを特徴とする請求項3に記載の環状脂肪族ジハライドの製造方法。
【請求項5】
上記一般式(2)において、Xが共に塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であることを特徴とする請求項3又は4に記載の環状脂肪族ジハライドの製造方法。
【請求項6】
上記一般式(2)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンの存在下に、1,3−ブタジエンを供給し、反応を行うことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の環状脂肪族ジハライドの製造方法。

【公開番号】特開2011−111400(P2011−111400A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267359(P2009−267359)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】