説明

生体信号処理装置、生体信号処理方法及び生体信号処理プログラム

【課題】特定波形成分の判別精度を向上し得る生体信号処理装置、生体信号処理方法及び生体信号処理プログラムを提案する。
【解決手段】観測される生体信号のスペクトルが取得され、該スペクトルの要素が、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットされて3次元脳波形が生成される。そして3次元脳波形における時間周波数領域の断面をみるべき強度軸の位置と、該位置における断面の状態とを判別基準として、指定される波形成分が検出され、観測される生体信号の一部又は全部が、検出される波形成分を示すマークを付した状態で表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体信号処理装置、生体信号処理方法及び生体信号処理プログラムに関し、例えば脳波を測定又は解析する技術分野において好適なものである。
【背景技術】
【0002】
脳から伝わる波動(脳波)は、頭部の所定位置に設けられる電極間の電位変化として観測され、一般に、その観測波形に含まれるα波等の特徴的な波形成分は目視により判別される。
【0003】
しかし、脳波には、脳波以外の波動成分に起因する電位変化(以下、これをアーチファクトとも呼ぶ)が重畳してしまうものである。したがって、アーチファクトが混在する脳波から特徴的な波形成分を見落とすことなく判別するには熟練が必要となる。
【0004】
ところで、特異的な波形を呈するアーチファクトに着目し、そのアーチファクトを特別な計算により検出するといった検出技術と、周波数解析結果(ピリオドグラム成分量)を用いた計算によりα波の相対値を抽出するといった抽出技術が開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−350797公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上述の検出技術では、特異的な波形を呈する特定のアーチファクト以外のアーチファクトは捉えることができない。
【0007】
一方、上述の抽出技術では、脳波以外の筋電図も同時に取得するといった記載からも分かるように、脳波以外の生体信号も同時に見なければ、α波の相対値が真にα波に依存したものであるのかアーチファクトに起因するものであるかの判別は困難となる。また上述の抽出技術では、α波とそれ以外の脳波成分とを同時に判別するといったことはできない。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、特定波形成分の判別精度を向上し得る生体信号処理装置、生体信号処理方法及び生体信号処理プログラムを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するために本発明は、生体信号処理装置であって、観測される生体信号のスペクトルを取得する取得手段と、取得手段で取得されるスペクトルの要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットし、3次元波形を生成する生成手段と、生成手段で生成される3次元波形における時間周波数領域の断面をみるべき強度軸の位置と、該位置における断面の状態とを判別基準として、指定される波形成分を検出する検出手段とを有する。
【0010】
また本発明は、生体信号処理方法であって、観測される生体信号のスペクトルを取得する取得ステップと、取得ステップで取得されるスペクトルの要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットし、3次元波形を生成する生成ステップと、生成ステップで生成される3次元波形における時間周波数領域の断面をみるべき強度軸の位置と、該位置における断面の状態とを判別基準として、指定される波形成分を検出する検出ステップとを有する。
【0011】
また本発明は、生体信号処理プログラムであって、コンピュータに対して、観測される生体信号のスペクトルを取得すること、取得されるスペクトルの要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットし、3次元波形を生成すること、生成される3次元波形における時間周波数領域の断面をみるべき強度軸の位置と、該位置における断面の状態とを判別基準として、指定される波形成分を検出することを実行させる。
【発明の効果】
【0012】
3次元波形における時間周波数領域の断面をみるべき強度軸の位置は、指定される波形成分の種類に依存するものとなるが、アーチファクトが重畳されていたとしても、変るものではない。一方、3次元波形における時間周波数領域の断面の状態は、アーチファクトに応じて変形してしまうものである。しかし、その断面における軸上の位置、大きさ、形状などの要素すべてが変わる確率はきわめて小さく、指定される波形成分に依存した位置、大きさ又は形状などの少なくとも1以上の要素が残ることが確認されている。
【0013】
したがって、3次元波形における時間周波数領域の断面をみるべき強度軸の位置と、該位置における断面の状態とが判別基準とされることで、観測対象の生体信号以外の生体信号を同時に取得しなくても、指定される波形成分が、アーチファクトの種類にかかわらず判別可能となる。
【0014】
また、判別対象として2種類の波形成分が指定された場合、3次元波形のうち、それら2種類の波形成分にそれぞれ依存する各強度位置の断面の状態をみれば、それら断面における位置、大きさ又は形状などの少なくとも1以上の要素において判別すべき波形成分の特徴が現れる。したがって、判別対象とされる2種類の波形成分が同じ観測期間内に混在するとしても、それら波形成分が同時に判別可能となる。
【0015】
このように、特定波形成分の判別精度を向上し得る生体信号処理装置、生体信号処理方法及び生体信号処理プログラムが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】生体信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】解析部の構成を示すブロック図である。
【図3】生体信号処理の機能的な構成を示すブロック図である。
【図4】実験結果(1)を示すグラフである。
【図5】特徴脳波成分の抽出基準を示すグラフである。
【図6】実験結果(2)を示すグラフである。
【図7】脳波処理手順を示すフローチャートである。
【図8】判別対象として指定される特徴脳波成分が2種類となる場合の表示例を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下に示す順序とする。
<1.一実施の形態>
[1−1.生体信号処理装置の構成]
[1−2.解析部の構成]
[1−3.脳波処理の機能的構成]
[1−4.脳波処理手順]
[1−5.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0018】
<1.一実施の形態>
[1−1.生体信号処理装置の構成]
図1において生体信号処理装置1を示す。この生体信号処理装置1は、増幅部10及び解析部20によって構成される。
【0019】
増幅部10は、脳から伝わる波動を、頭部の所定位置に設けられるプローブ電極と、該頭部以外の位置に設けられるリファレンス電極との間における電位の変化(以下、これを脳波信号とも呼ぶ)として観測し、該脳波信号を増幅する。
【0020】
解析部20は、増幅部10での増幅結果として得られる脳波信号に対して各種処理を施し、その処理結果を表示するとともに保持するようになされている。
【0021】
[1−2.解析部の構成]
解析部20は、図2に示すように、制御を司るCPU(Central Processing Unit)21に対して各種ハードウェアを接続することにより構成される。
【0022】
具体的には例えばROM(Read Only Memory)22、CPU21のワークメモリとなるRAM(Random Access Memory)23、ユーザの操作に応じた命令を入力する操作入力部24、インターフェイス25、表示部26及び記憶部27がバス28を介して接続される。
【0023】
ROM22には、各種の処理を実行するためのプログラムが格納される。インターフェイス25には増幅部10が接続される。
【0024】
表示部26は、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)ディスプレイ又はプラズマディスプレイ等とされる。また記憶部27は、HD(Hard Disk)に代表される磁気ディスクもしくは半導体メモリ又は光ディスク等とされる。USB(Universal Serial Bus)メモリやCF(Compact Flash)メモリ等のように可搬型メモリが適用されてもよい。
【0025】
CPU21は、ROM22に格納される複数のプログラムのうち、操作入力部24又はモジュールなどから与えられる命令に対応するプログラムをRAM23に展開し、該展開したプログラムにしたがって、表示部26及び記憶部27を適宜制御する。
【0026】
[1−3.脳波処理の機能的構成]
この実施の形態では、増幅部10から、インターフェイス25を介して脳波信号が与えられた場合、CPU21は、生体信号の処理に関するプログラム(以下、これを生体信号処理プログラムとも呼ぶ)をRAM23に展開する。
【0027】
この場合CPU21は、図3に示すように、周波数解析部31、ハイパスフィルタ部32、三次元プロット部33、特徴波検出部34及び表示制御部35として機能する。
【0028】
周波数解析部31は、脳波信号に対してフーリエ変換処理あるいはウェーブレット変換処理を施し、脳波における単位時間ごとの周波数成分の大きさ(以下、これをスペクトルとも呼ぶ)を取得する。具体的には、パワースペクトル(単位時間それぞれにおいて各周波数成分が持っているエネルギー比)と、振幅スペクトル(パワースペクトルの平方根を取ったもの)との一方又は双方が取得される。
【0029】
観測結果として図4(A)に示す脳波信号が得られた場合、この周波数解析部31での解析結果(スペクトルの各要素)は、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットすると図4(B)に示すものとなる。なお、図4(B)における強度軸は、紙面と直交する方向であり、単位は[μV]である。また図4(B)では濃いほど強度(電位(振幅))が高いことを意味している。
【0030】
ハイパスフィルタ部32は、周波数解析部31で取得される単位時間ごとのスペクトルに対してハイパスフィルタ処理を施し、予め設定される周波数よりも高い周波数の脳波成分を抽出する。
【0031】
具体的には、単位時間をtとし、周波数をfとし、周波数解析部31で取得されるスペクトル(単位時間x(t)ごとの脳波を各周波数成分に分解したときの行列で示される各要素)をS(f,t)とすると、次式
【0032】
【数1】

【0033】
のように、周波数成分ごとに当該周波数成分の平方根を乗算することで脳波の高周波成分が重み付けされる。この結果、脳波の減衰によって他の成分に埋もれてしまう成分が表だしされることとなる。
【0034】
三次元プロット部33は、ハイパスフィルタ部32での抽出結果として得られるスペクトル((1)式の「S´」とされる行列で示される各要素)を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットし、3次元の脳波形(以下、これを3次元脳波形とも呼ぶ)を生成する。
【0035】
図4(B)に示すスペクトルに対してハイパスフィルタ処理が施され、該ハイパスフィルタ処理結果が三次元プロット部33によって時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットされた場合、図4(C)に示すものとなる。なお、図4(C)における強度軸及び単位は図4(B)と同様である。
【0036】
特徴波検出部34は、特徴的な脳波成分(以下、これを特徴脳波成分とも呼ぶ)のうち判別対象として指定される種類の特徴脳波成分を、三次元プロット部33でのプロット結果として生成される3次元脳波形から検出する。
【0037】
特徴脳波成分の抽出基準は、図5に示すように、3次元脳波形における時間周波数領域の断面(以下、これを島とも呼ぶ)LDをみるべき強度軸の位置(以下、特定強度値とも呼ぶ)Spと、該特定強度値Spにおける島LDの状態とされる。
【0038】
特定強度値Spは特徴脳波成分の種類ごとに対応付けられ、記憶部27に記憶される。島LDの状態は、この実施の形態では、周波数幅とその位置fwp、重心G及び面積ARとされ、これらの許容範囲が特徴脳波成分の種類ごとに対応付けられ記憶部27に記憶される。
【0039】
特定強度値Spは、特徴脳波成分の種類に依存した値となる。島LDの周波数幅とその位置fwpは、特徴脳波成分以外の成分が重畳される程度が小さいほど、特定の周波数幅とその位置からのずれ量が小さくなる傾向にある。
【0040】
また島LDの重心Gは、特徴脳波成分以外の成分が重畳される程度が小さいほど、中心からのずれ量が小さくなる傾向にある。島LDの面積ARは、特徴脳波成分以外の成分が重畳される程度が大きいほど大きくなり、脳波信号の減衰の程度が大きいほど小さくなる傾向にある。
【0041】
ちなみに特徴脳波成分の種類には、主に、デルタ波(0.5Hz〜4Hz)、シータ波(4Hz〜8Hz)、アルファ波(8Hz〜13Hz)、ベータ波(14Hz〜30Hz)、紡錘波(12〜14Hz)がある。またこの他にも、徐波や棘波などがある。
【0042】
ここで、特徴波検出部34の具体的な抽出手法を説明する。特徴波検出部34は、第1段階では、判別対象として例えば操作入力部24から指定される特徴脳波成分の種類に対応付けられる特定強度値Spと、周波数幅とその位置fwp、重心G及び面積ARの許容範囲とを記憶部27から読み出す。
【0043】
特徴波検出部34は、第2段階では、3次元脳波形のうち、記憶部27から読み出した特定強度値Spにおける1又は2以上の島LDを認識し、該島LDの周波数幅とその位置fwp、重心G及び面積ARを検出する。
【0044】
なお、図4(C)に示す3次元波形が得られた場合、紡錘波に対応付けられる特定強度値Spにおける時間周波数領域の断面(島LD)は図6(A)に示すものとなる。
【0045】
特徴波検出部34は、第3段階では、第2段階において検出される1又は2以上の島LDのうち、該島LDの周波数幅とその位置fwp、重心G、面積ARのすべてが記憶部27から読み出した許容範囲内にある島LDを、判別すべき特徴脳波成分として検出する。
【0046】
なお、図6(A)に示す島が得られた場合、紡錘波に対応付けられる許容範囲内にあるとして検出される島は図6(B)に示すものとなる。
【0047】
表示制御部35は、インターフェイス25を介して与えられる脳波信号のうち、表示対象として指定される全部又は一部の脳波信号を、特徴波検出部34で検出される島LDに対応する波形部分が現れていることを示すマークを付した状態で表示部26に表示させる。
【0048】
具体的には、例えば図6(C)に示すように、指定される特徴脳波成分に相当するとして特徴波検出部34で検出される島LDに対応する波形が現れていることを示すラインが、脳波信号が呈する色とは異なる色で表示される。この図6(C)は、図4(A)に示される観測結果と、図6(B)に示される島に相当する波形部分とを示すものである。
【0049】
[1−4.脳波処理手順]
次に、解析部20における脳波処理手順を図6に示されるフローチャートを用いて説明する。
【0050】
解析部20のCPU21は、脳波信号(図4(A))が与えられると脳波処理手順を開始し、第1ステップSP1に進んで、脳波信号のスペクトルを取得し(図4(B))、第2ステップSP2に進む。
【0051】
CPU21は、第2ステップSP2では、第1ステップSP1で取得したスペクトルに対してハイパスフィルタ処理を施し、第3ステップSP3に進む。
【0052】
CPU21は、第3ステップSP3では、第2ステップSP2でのハイパスフィルタ処理結果として得られるスペクトルの各要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットすることによって3次元脳波形を生成し(図4(C))、第4ステップSP4に進む。
【0053】
CPU21は、第4ステップSP4では、第3ステップSP3で生成した3次元脳波形のうち、判別対象として指定される特徴脳波成分の種類に対応付けられる特定強度値Spにおける島LDを認識し(図6(A))、第5ステップSP5に進む。
【0054】
CPU21は、第5ステップSP5では、第4ステップSP4で認識した島LDのうち、判別対象として指定される特徴脳波成分の種類に対応付けられる周波数幅とその位置fwp、重心G、面積ARのすべてが許容範囲内にある島があるか否かを判定する(図6(B))。
【0055】
ここで、許容範囲内にある島がある場合、CPU21は、続くステップSP6に進んで、観測される脳波信号の全部又は一部を、第5ステップSP5で検出した島に相当する部分にマークを付した状態で表示部26に表示させ(図6(C))、この脳波処理手順を終了する。
【0056】
これに対して、許容範囲内にある島がない場合、CPU21は、ステップSP6を経ることなくこの脳波処理手順を終了する。
【0057】
[1−5.効果等]
以上の構成において、この生体信号処理装置1は、観測される脳波信号のスペクトルの要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットして3次元脳波形を生成する(図4(C))。
【0058】
また生体信号処理装置1は、3次元脳波形における時間周波数領域の断面(島LD)をみるべき強度軸の位置(特定強度値Sp)と、該位置における断面の状態とを判別基準として、指定される特徴脳波成分を検出する(図5)。
【0059】
そして生体信号処理装置1は、観測対象の脳波信号における一部又は全部を、3次元脳波形から検出した島LDに相当する波形部分が現れていることを示すマークを付して表示部27に表示させる(図6(C))。
【0060】
特徴脳波形が、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットされる3次元脳波形における特定強度値Spの断面の状態を判別基準として検出されるため、時間周波数領域又は時間強度領域の平面から検出する場合に比べて、波形成分を細かい観点で捉えることができる。
【0061】
具体的には、断面(島LD)をみるべき特定強度値Spは、指定される特徴脳波成分の種類に依存するものとなるが、アーチファクトが重畳されていたとしても、変るものではない。
【0062】
一方、特定強度値Spにおける断面(島LD)の状態は、アーチファクトに応じて変形してしまうものである。しかし、断面における軸上の位置、大きさ、形状などの要素すべてが変わる確率はきわめて小さく、指定される特徴脳波成分に依存した位置、大きさ又は形状などの少なくとも1以上の要素が残ることが図示した実験等により確認されている。
【0063】
したがって、3次元脳波形における特定強度値Spの断面の状態が判別基準とされることで、脳波以外の生体信号を同時に取得しなくても、指定される特徴脳波成分が、アーチファクトの種類にかかわらず判別可能である。このことは、観測波形を視覚から判別する観点では、熟練が不用でも判別可能となることから有利となる。
【0064】
また、例えば、判別対象として2種類の特徴脳波成分が指定された場合、特徴波検出部34では、それら2つの特徴脳波成分にそれぞれ対応する各特定強度値Spにおける断面(島LD)の状態が探索される。
【0065】
この場合、2つの特徴脳波成分が同じ観測期間内に混在するとしても、それら特徴脳波成分に対応する各特定強度値Spの断面(島LD)における位置、大きさ又は形状などの少なくとも1以上の要素において特徴脳波成分の特徴が現れる。このため、2つの特徴脳波成分それぞれが、対応する特定強度値Spの断面(島LD)に基づいて、同時に、判別可能となる。
【0066】
なお、判別対象として2種類の特徴脳波成分が指定された場合、表示制御部35では、観測される脳波信号が、特徴波検出部34で検出される2種類の特定強度値Spそれぞれの島LDに対応する部分にマークを付した状態で表示される。
【0067】
具体的には、図8に示すように、特徴波検出部34で検出される2種類の特定強度値Spそれぞれの島LDに対応する波形が現れていることを示すラインが、互いに異なる色、かつ、脳波信号が呈する色とは異なる色で表示される。ちなみに図8(A)は、判別対象としてα波と、紡錘波が指定された場合であり、図8(B)は、判別対象としてα波と、徐波が指定された場合である。
【0068】
この図8からも分かるように、2つの特徴脳波成分が同じ観測期間内に混在するとしても、それら特徴脳波成分それぞれが同時に判別可能であるということは、観測波形を視覚から判別する観点では、熟練が不用でも判別可能となることから非常に有利となる。
【0069】
また、周波数解析結果に対して特別な計算処理を施すことなく、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にスペクトルの要素をプロットし、所定の判別要素を許容範囲と比較するといった簡易な処理であるということも、処理負荷等の観点では非常に有利となる。
【0070】
またこの実施の形態の場合、スペクトルの要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットする前段階において、該スペクトルに対するハイパスフィルタ処理によって高周波成分が重み付けされる(図4(B))。
【0071】
したがって、指定される特徴脳波成分が、脳波の減衰や他の成分に埋もれてしまう場合があったとしても表だしされ、この結果、ハイパスフィルタ処理を省略する場合に比べて、様々なアーチファクトが重畳していたとしてもより一段と精度よく判別可能となる。
【0072】
以上の構成によれば、時間周波数領域又は時間強度領域の平面から検出する場合に比べて、波形成分を細かい観点で捉えることができるようにしたことにより、特定波形成分の判別精度を向上し得る生体信号処理装置1が実現される。
【0073】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では観測対象として脳波信号が適用された。しかしながら観測対象はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、筋電位信号や眼電位信号等のように、生体から伝わる各種の波動を観測対象として観測した結果得られる生体信号が適用可能である。
【0074】
上述の実施の形態では、単位時間ごとの周波数成分の大きさ(パワースペクトルと振幅スペクトルの一方又は双方)が取得された。しかしながら取得対象は、位相スペクトルを加えるようにしてもよい。
【0075】
上述の実施の形態では、島LDの状態として、周波数幅とその位置fwp、重心G及び面積ARが適用された。しかしながら、島LDの状態として捉えるべき要素はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、島LDの形状が適用される。この形状は、特徴脳波成分以外の成分が重畳される程度が小さいほど、円(楕円も含まれる)に近くなる傾向にある。
【0076】
また、島LDの状態に加えて、島LDと、該島LDが含まれる3次元波形のピークPldとの間における3次元波形部分3dwPの状態が判別基準とされてもよい。具体的には例えば図5に示すように、島LDの面内でとり得る最も長い線分SGと、時間軸との傾きICTなどがある。この傾きICTは、特徴脳波成分以外の成分が重畳される程度が小さいほど大きくなる傾向にある。
【0077】
島LDの状態のほかに、その島LDを含む3次元波形部分3dwPの状態が判別基準として加われば、より一段と波形成分を細かい観点で捉えることができるため、特定波形成分の判別精度がさらに向上することになる。
【0078】
なお、上述した実施の形態や他の実施の形態で示した以外であっても、生体信号処理装置1の処理内容は、本発明の目的を逸脱しない範囲において変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、医用産業やゲーム産業などにおいて利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0080】
1……生体信号処理装置、10……増幅部、20……解析部、21……CPU、22……ROM、23……RAM、24……操作入力部、25……インターフェイス、26……表示部、27……記憶部、31……周波数解析部、32……ハイパスフィルタ部、33……三次元プロット部、34……特徴波検出部、35……表示制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測される生体信号のスペクトルを取得する取得手段と、
上記取得手段で取得されるスペクトルの要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットし、3次元波形を生成する生成手段と、
上記生成手段で生成される3次元波形における時間周波数領域の断面をみるべき強度軸の位置と、該位置における断面の状態とを判別基準として、指定される波形成分を検出する検出手段と
を有する生体信号処理装置。
【請求項2】
上記取得手段で取得されるスペクトルの高周波成分を重み付けする重み付け手段をさらに有し、
上記生成手段は、
上記重み付け手段で高周波成分が重み付けされるスペクトルの要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットする
請求項1に記載の生体信号処理装置。
【請求項3】
上記生体信号における一部又は全部を、上記検出手段で検出される波形成分が現れていることを示すマークを付して表示させる表示制御手段
をさらに有する請求項2に記載の生体信号処理装置。
【請求項4】
上記生体信号は、脳波信号である
請求項3に記載の生体信号処理装置。
【請求項5】
上記断面の状態は、断面における周波数軸上の幅、断面の重心又は断面の面積の1つを少なくとも含む
請求項2、請求項3又は請求項4に記載の生体信号処理装置。
【請求項6】
上記検出手段は、
上記断面と、上記断面が含まれる3次元波形のピークとの間における3次元波形の状態も判別基準とする
請求項2、請求項3又は請求項4に記載の生体信号処理装置。
【請求項7】
観測される生体信号のスペクトルを取得する取得ステップと、
上記取得ステップで取得されるスペクトルの要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットし、3次元波形を生成する生成ステップと、
上記生成ステップで生成される3次元波形における時間周波数領域の断面をみるべき強度軸の位置と、該位置における断面の状態とを判別基準として、指定される波形成分を検出する検出ステップと
を有する生体信号処理方法。
【請求項8】
コンピュータに対して、
観測される生体信号のスペクトルを取得すること、
取得されるスペクトルの要素を、時間軸、周波数軸及び強度軸でなる空間内にプロットし、3次元波形を生成すること、
生成される3次元波形における時間周波数領域の断面をみるべき強度軸の位置と、該位置における断面の状態とを判別基準として、指定される波形成分を検出すること
を実行させる生体信号処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−255035(P2011−255035A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133109(P2010−133109)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.COMPACTFLASH
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】