生体加熱器具
【課題】 強磁性金属を用いないことで生体適合性により優れ、交流磁場により加熱される生体加熱器具を提供する。
【課題手段】
生体内の患部に穿刺して、患部以外に誘導加熱による影響を与えない程度の周波数の交流磁場で該患部を加熱する生体加熱器具1は、基台部2に複数本の針部3が立設されてなり、基台部2の針部3が立設された面2aが針部3とともに、患部と接する加熱部4となっており、基台部2と針部3とが、生体適合性を有し、かつ、交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されてなる。
【課題手段】
生体内の患部に穿刺して、患部以外に誘導加熱による影響を与えない程度の周波数の交流磁場で該患部を加熱する生体加熱器具1は、基台部2に複数本の針部3が立設されてなり、基台部2の針部3が立設された面2aが針部3とともに、患部と接する加熱部4となっており、基台部2と針部3とが、生体適合性を有し、かつ、交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料を交流磁場で発熱させて癌等の患部を加熱する生体加熱器具に関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人の発明者は、特開2007−244748号公報において、交流磁場で発熱する鉄等の強磁性金属でなる発熱部を、生体適合性を有する針管の空芯部の全部又は一部に充填してなる生体加熱針を提案している。この生体加熱針は、交流磁場で発熱する発熱部となる強磁性金属を針管内の空芯部に設け、針管の穴部を針管とは別の生体適合材料により閉塞したので、強磁性金属が生体と直接接することが無くなり、体液等によってイオン化すると言った問題点を解決することができる。また、針管の交流磁場に対する遮蔽効果によって、強磁性金属の発熱を抑え、全体の発熱温度を、生体の焼灼に適した温度とすることができる。
【0003】
ところで、一般に、強磁性金属は、生体適合性を有さない。このため、生体加熱針は、鉄等の強磁性金属を用いないようにすることが望まれる。
【0004】
また、このような生体加熱針は、1本の加熱できる範囲が限られるために、広範囲の加熱を実現するためには、患部に複数本穿刺する必要がある。また、この生体加熱針は、患部に複数本穿刺した場合、隣接する生体加熱針同士の距離により、患部の発熱温度が異なるため、加熱しようとする患部が均一に加熱されるように、穿刺する必要がある。しかしながら、従来の生体加熱針は、最適な位置へ生体加熱針を穿刺することは熟練を要する。
【0005】
また、このような生体加熱針は、患部へ穿刺して使用されることから、基本的には使い捨てであり、コスト低減の要望も強い。
【特許文献1】特開2007−244748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体適合性により優れた、交流磁場により加熱される生体加熱器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る生体内の患部に穿刺して、該患部以外に誘導加熱による影響を与えない程度の周波数の交流磁場で該患部を加熱する生体加熱器具は、基台部に複数本の針部が立設されてなり、上記基台部の上記針部が立設された面が該針部とともに、上記患部と接する加熱部となっており、上記基台部と上記針部とが、生体適合性を有し、かつ、上記交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されてなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基台部と針部とが生体適合性を有するとともに交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料で一体に形成されていることから、より生体適合性に優れる生体加熱器具を提供することができ、さらに、針部のみならず基台部も発熱させることができることから、より効率的に患部を加熱することができる。また、構成の簡素化を図ることができ、製造コスト低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を適用した生体加熱器具について図面を参照して説明する。図1乃至図2に示すように、本発明を適用した生体加熱器具1は、生体内の患部に穿刺して、患部以外に誘導加熱による影響を与えない程度の周波数の交流磁場で患部を加熱するものである。この生体加熱器具1は、基台部2に複数本の針部3が立設されてなり、基台部2の針部3が立設された一の面2aが針部3とともに、患部と接する加熱部4となっている。また、生体加熱器具1は、基台部2と針部3とが、生体適合性を有し、かつ、例えばSUS420、特にSUS420J2などの交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されている。
【0010】
生体加熱器具1の基台部2は、略直方体形状に形成されている。この基台部2は、一の面2aが平坦に形成され、針部3の取付面となり、患部への接触面である加熱部4となっている。基台部2は、長手方向の両端部近傍に、一の面2aから一の面2aと対向する底面2bに至る貫通孔5、5が形成されている。これらの貫通孔5、5には、針部3が圧入され、この一の面2aに形成された貫通孔5、5は、一の面2aの長辺に平行な方向で、それぞれの中心軸が所定のピッチx(図2(B)参照)だけ離間された位置に形成されている。
【0011】
また、基台部2は、一の面2aに隣り合う相対する面、すなわち正面2c及び背面2dに、一の面2a側の長辺に沿って、係合溝6、7が形成されている。基台部2に設けられた係合溝6、7は、コッヘル鉗子等により、当該生体加熱器具1を挟持する際のコッヘル鉗子等が係合する溝となる。
【0012】
基台部2に立設される針部3は、針状部材からなり、基端3e側が底面2bから突出しないように、すなわち底面2bが平坦となるように、基台部2の貫通孔5、5に圧入され一体化されている。針部3は、一の面2aから所定の高さh(図2(A)参照)だけ突出するように、貫通孔5に圧入されている。針部3は、先端3aにおいて、中心軸に対して傾斜した第1の傾斜部3bが形成され、さらに、この第1の傾斜部3bに先端3aから中程にかけて外側に傾斜した第2の傾斜部3c、3dが形成され、先端3aを先鋭にしている。この針部3は、第1の傾斜部3bが同じ向きとなるように圧入され、これにより、穿刺抵抗を減らすようにしている。なお、基台部2に立設される複数本の針部3の第1の傾斜部3bの向きは、規則的であれば特に限定されるものではなく、例えば第1の傾斜部3bの向きは、互いに外側を向いていたり、互いに内側を向いていても良い。
【0013】
ここで、以上のような生体加熱器具1が用いられる加熱装置11について説明すると、図3に示すように、この加熱装置11は、患者等の生体10aの外部に配設され交流磁場を発生させる誘導コイル12を有している。この誘導コイル12は、電源装置に接続され、交流電流が供給されることによって、10kHz〜1MHz程度の周波数の交流磁場を発生させる。
【0014】
本発明が適用された生体加熱器具1は、コッヘル鉗子等を係合溝6、7に係合させ、基台部2を挟持し、針部3を癌等の患部10bに穿刺して用いられる。この加熱装置11は、誘導コイル12で交流磁場を発生させ、患部10bに穿刺されている生体加熱器具1を発熱させることによって患部10bを加熱する。具体的に、生体加熱器具1は、交流磁場によって磁性金属でなる基台部2及び針部3が発熱し、これら基台部2の加熱部4及び針部3が患部10bと接触し、患部10bを加熱する。
【0015】
ここで、発生させる交流磁場は、10kHz〜1MHz程度の周波数であることから、患部10b以外への誘導加熱による影響を小さくすることができる。例えば、患部10bが癌の場合には、この生体加熱器具1のみを癌の治療に必要な温度である43℃〜100℃程度に加熱することができる。
【0016】
なお、加熱装置11は、上述のように、交流磁場を発生させるものであればよく、その形状は限定されるものではなく、例えば、誘導コイル12を長尺の棒状とすることにより、生体内の患部に穿刺された生体加熱器具1と近接させ、十分な発熱を得られるようにしてもよい。子宮頸癌の場合には、誘導コイル12を内蔵した棒状のアプリケータを膣より挿入して、子宮頸部に穿刺された生体加熱器具1に近接させることによって、生体加熱器具1を加熱し、子宮頸癌を加熱することができる。その他、生体加熱器具1は、舌癌などの表皮部の病変部に用いることもできる。
【0017】
このような生体加熱器具1は、基台部2に針部3が2本立設されており、針部3のみならず、基台部2も交流磁場により発熱をし、基台部2の針部3と基台部2の一の面2aとからなる加熱部4においては患部と接することから、針部3が穿刺された患部の表層位置の加熱を効果的に行うことができる。
【0018】
また、生体加熱器具1は、基台部2に係合溝6、7が形成されていることから、コッヘル鉗子等により容易に挟持することができ、取り扱いが容易である。また、生体加熱器具1は、一の面2aが患部に当接するまで穿刺することで、針部3が穿刺する深さを規定することができ、穿刺作業を容易に行うことができる。生体加熱器具1の針部3の高さやピッチは、使用する病変に合わせた寸法となっている。したがって、この点からも、針部3間のピッチを調整する必要がなくなり、穿刺作業を容易に行うことができる。
【0019】
また、生体加熱器具1は、全て同一の金属材料から形成されており、従来の生体加熱針より生体適合性の面で優れ、さらに、従来の生体加熱針のように、内部に強磁性金属を充填することを必要とせず、構成の簡素化を図ることができ、製造コストを抑えることができる。
【0020】
なお、生体加熱器具1は、上述のように、基台部2に針部3が2本形成されることに限らず、3本以上形成されるものであってもよい。
【0021】
また、生体加熱器具1は、針部3が基台部2の貫通孔5、5に圧入することに限らず、基台部2と針部3とを削り出しまたは溶接により形成するようにしてもよい。
【0022】
次に、生体加熱器具1に、温度制御用に熱電対が取り付けられる生体加熱器具20について説明をする。なお、生体加熱器具1と同様の構成については、同様の符号を付し、その説明は省略する。
【0023】
熱電対が取り付けられる生体加熱器具20は、図4及び図5に示すように、基台部2の長手方向の一方の側面2eに、熱電対21を基台部2の略中央に取り付ける取付孔22が形成されている。熱電対21は、可撓性を有するとともに、フッ素樹脂(テフロン(登録商標))などの生体適合性を有する樹脂材料からなるチューブ体23に挿入される。さらに、このチューブ体23は、一端部が溶封されており、熱電対21の感温部を内側に封入している。熱電対21が挿入されたチューブ体23は、例えば、取付孔22と略同一の外径を有し、生体適合性を有し、交流磁場によって発熱する金属材料からなる、例えばパイプ状の取付部材24に挿入される。この取付部材24は、取付孔22に嵌合され、チューブ体23の溶封された部分と取付部材24の取付孔22への挿入端と係合することによって、チューブ体23が取付孔22から抜け落ちないようにする。チューブ体23の内部に挿入される熱電対21は、信号線21aを介して、図示しない制御部と接続され、生体加熱器具20の温度が計測される。
【0024】
なお、チューブ体23は、フッ素樹脂から形成されることに限らず、可撓性を有するとともに、生体適合性を有する材料であればいかなるものであってもよい。また、チューブ23に設けられる取付部材24は、基台部2及び針部3と同様の金属材料またはそれと同等の生体適合性を有し、交流磁場によって発熱する磁性を有する金属材料であってもよい。
【0025】
熱電対21は、温度を計測することができる周知のもので、例えば、K型熱電対素線を用いる。なお、信号線21aは、例えば、テフロン(登録商標)が被覆されている。
【0026】
このような構成の生体加熱器具20は、生体加熱器具1と同様に、生体の患部に穿刺し、交流磁場が供給されることにより、基台部2及び針部3が癌等の治療に必要な43℃〜100℃に発熱をする。また、生体加熱器具20は、内部に熱電対21が設けられているので、生体加熱器具20の発熱温度を計測することができ、この熱電対21からの計測温度に応じて、交流磁場の強さを制御し、生体加熱器具20の温度制御を行う。
【0027】
なお、生体加熱器具20は、上述のように、基台部2の一方の側面2eに設けられた取付孔22から取り付けられることに限らず、例えば、他方の側面に取付孔22を形成するようにしてもよく、また、底面2bの略中央に取付孔22を設け、熱電対21を設けるようにしてもよい。
【0028】
このような構成を有する生体加熱器具1、20は、例えば、図6(A)、(B)に示すように、子宮頸部に発生した子宮頸癌の治療に用いることができる。すなわち、患部である子宮51の外子宮口52の周囲の子宮頸部53には、生体加熱器具1と生体加熱器具20の2種類を混ぜて穿刺される。次いで、この子宮頸部53に穿刺された生体加熱器具1、20に対して、加熱装置11の棒状に形成された誘導コイル12を、膣54から挿入し患部である子宮頸癌近傍に配置する。そして、加熱装置11の誘導コイル12に高周波磁場を発生させ、この高周波磁場を生体加熱器具1、20に局所的に印加し、発熱させる。
【0029】
生体加熱器具1、20の針部3の高さやピッチは、子宮頸癌に合わせた寸法となっており、生体加熱器具1、20は、隣り合う生体加熱器具1、20との間も、子宮頸癌に最適な間隔に穿刺される。
【0030】
なお、生体加熱器具1、20は、図6(B)に示すように、加熱をしようと所望する子宮頸部53の子宮頸癌に、所定の間隔を設け複数本穿刺する。穿刺する生体加熱器具1、20の本数は、患部の形状、大きさ等により適宜決定される。また、生体加熱器具1だけでなく、生体加熱器具20も併用することで、患部全体の温度を計測することができ、患部全体の温度制御を行うことができる。
【0031】
具体的に、生体加熱器具1、20は、施術者により、係合溝6、7を利用してコッヘル鉗子等により基台部2において挟持される。そして、生体加熱器具1、20を、生体内の患部に基台部2の加熱部4と患部とが接するまで針部3を穿刺する。このように、生体内の患部に穿刺された生体加熱器具1、20は、加熱装置11の誘導コイル12に電流が供給されることにより、交流磁場が発生し、発生した交流磁場が印加されることにより、針部3及び基台部2全体が加熱され、患部を加熱することができる。
【0032】
なお、生体加熱器具1、20は、子宮頸癌に用いる場合、患部への穿刺抵抗を考慮して、針部3が2本であることが好ましい。子宮頸癌に用いる場合、患部が比較的硬いため、針部の本数を多くすると、穿刺する作業が困難となるためである。
【0033】
次に、生体加熱器具1、20の基台部2からの伝熱の影響を検証した加熱実験について説明をする。
【0034】
実施例として示す生体加熱器具60は、図7(A)に示すように、基台部62に2本の針部63、63が立設されてなり、基台部62と針部63とが、生体適合性を有し、かつ、交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されている。また、生体加熱器具60は、針部63、63のピッチx=7mm、高さh=6.8mmとし、針部63、63の傾斜部63a、63aの向きが互いに異なる方向に形成されている。
【0035】
また、比較例として示す生体加熱器具70は、図7(B)に示すように、基台部72に2本の針部73、73が立設されてなり、基台部72と針部73とが、生体適合性を有し、かつ、交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されている。また、生体加熱器具70は、生体加熱器具60と同様に、針部73、73の傾斜部73a、73aの向きが互いに異なる方向に形成されている。さらに、生体加熱器具70は、一の面72a上にアクリル板71が設けられ、基台部72からの伝熱の影響をなくした。このとき、生体加熱器具70の針部73、73のピッチx=7mm、高さh=8.8mm、アクリル板71の高さを2mmとした。
【0036】
これらの実施例及び比較例の生体加熱器具を2本用意し、図8に示すように、常温の鶏肉74に、距離d=7mm離間させて穿刺し、交流磁場を印加し、温度上昇と鶏肉74の焼け具合を調べた。なお、鶏肉74の温度上昇は、生体加熱器具の中間地点である図8中の計測点75において、深さ3mmに設置した光ファイバ温度計センサにより計測を行った。図9は、実施例としての生体加熱器具60の熱電対からの温度と、計測点75における鶏肉74の温度を示すグラフであり、図10は、比較例としての生体加熱器具70の熱電対からの温度と、計測点75における鶏肉74の温度を示すグラフである。
【0037】
図9に示すように、アクリル板71が設けられない生体加熱器具60では、交流磁場を印加し始めてから約2分で鶏肉74の計測点75における温度が50℃を超え、それ以後はほぼ一定に保たれた。鶏肉74の焼けた深さは、約7mmであった。なお、図9の熱電対からの計測温度に示すように、生体加熱器具60では、加熱装置11を制御することにより、生体加熱器具60の発熱が65℃に保たれている。
【0038】
生体加熱器具60と比較して、図10に示すように、アクリル板71が設けられる生体加熱器具70では、交流磁場を印加し始めてから約7分で鶏肉74の計測点75における温度が50℃を超えた。また、鶏肉74の焼けた深さは、約3mmであった。
【0039】
以上の計測結果から、アクリル板71を設けた場合では、十分な温度上昇が得られず、すなわち、生体加熱器具における基台部2が患部の加熱治療に必要な温度を得るために有益であることが分かる。
【0040】
次に、生体加熱器具1、20の2本の針部3のピッチx、高さh及び2本の生体加熱器具の距離dをそれぞれ変更し発熱特性を検証した加熱実験について説明をする。この加熱実験に用いられる生体加熱器具は、図4に示す生体加熱器具20を用い、ピッチxを5、7、9mm、高さhを5.8、6.8、8.8mmとした。なお、針部3の傾斜部3bは、いずれの生体加熱器具においても同一とし、その先端3aからの距離は3.8mmとする。また、針部3の径は、いずれも1.4mmとした。さらに、生体加熱器具としては、発熱能力をほぼ一定とするために、基台部2の体積を一定なものとした。すなわち、生体加熱器具としては、ピッチxに応じて、基台部2の高さが異なり、体積を一定に保ったものを用いた。
【0041】
また、加熱実験としては、図8に示すように、2本の生体加熱器具を距離d離間させて鶏肉74に穿刺した。実験装置100は、図11に示すように、保温槽101に鶏肉74を入れ、この鶏肉74に生体加熱器具を図8に示すように穿刺して、交流磁場を10分間印加し、そのときの図8中の切断線Aにおける鶏肉74の焼け具合を観測した。なお、保温槽101は、37℃の水が循環され、鶏肉74を一定温度に保温する。37℃の水の循環時には、鶏肉74の表面から深さ3mmにおける温度は、約30℃であった。
【0042】
サンプル1としての生体加熱器具は、針部3、3のピッチx=7mm、高さh=5.8mmとし、d=7mmとした。このように配置された生体加熱器具に10分間交流磁場を印加した。このとき、印加する交流磁場は、生体加熱器具の平均温度が65℃となるように、その磁場強度が制御されている。
【0043】
サンプル2としての生体加熱器具は、高さh=6.8mmとし、その他は、サンプル1と同様とした。
【0044】
サンプル3としての生体加熱器具は、高さh=8.8mmとし、その他は、サンプル1と同様とした。
【0045】
サンプル4としての生体加熱器具は、針部3、3のピッチx=9mm、高さh=8.8mmとし、d=5mmとし、その他は、サンプル1と同様とした。
【0046】
サンプル5としての生体加熱器具は、針部3、3のピッチx=5mm、高さh=8.8mmとし、d=9mmとし、その他は、サンプル1と同様とした。
【0047】
これらのサンプル1〜5について、実験装置100を用いて、加熱実験を行い、鶏肉74の切断線Aにおける焼け方及び深さを観測した。
【0048】
なお、鶏肉74の焼け方としては、図12(A)に示すように、鶏肉74の白変部、すなわち、焼灼された部位の最深部の状態が均等な深さであることが好ましい。距離dが、大きすぎたり、小さすぎたりする場合には、均一な深さに焼灼されず、図12(B)、(C)に示すように、均一とはならない。
【0049】
上述のサンプル1〜5においては、いずれも、図12(A)に示すように、均一に焼灼が行われた。また、サンプル1においては、焼灼深さが5〜6mmとなっており、サンプル2においては、焼灼深さが7〜9mmとなっており、サンプル3においては、焼灼深さが10mmとなっていた。また、サンプル4、5においては、その焼灼深さが7mmとなっていた。
【0050】
このことから、生体加熱器具1、20は、ピッチx、高さh及び2本の生体加熱器具の距離dを、適宜選択することにより、癌等の焼灼に必要な温度に加熱することができるとともに、焼灼範囲を均一な深さとすることができ、広範囲を焼灼する際の焼灼むらを防止することができる。
【0051】
また、上述の例においては、針部3の高さhを8.8mmとし、ピッチxが5〜9mmである場合には、距離dを9〜5mmとすることにより、制御に適した均一で、適度な深さへの焼灼を実現できる。
【0052】
なお、子宮頸部への治療においては、表層から基底膜までの深さが3mm程度であり、十分な深さに熱を加えるために6mm程度の焼灼深さがあることが好ましいといわれ、上述のサンプルでは、焼灼深さが5〜6mmとなっていたサンプル1が適していることが分かる。
【0053】
また、上述の加熱実験においては、針部3の太さを1.4mmに固定したが、この針部3の太さを変更することで、患部と針部3との接触面積を増減することができ、このことにより焼灼深さを増減することができる。
【0054】
以上のように生体加熱器具1、20は、例えば、舌癌や子宮頸癌に穿刺され用いられるものであり、患部の大きさ、形状等に応じて針部3の高さ、太さ、基台部2の形状を適宜決定し、焼灼を行うことができる。
【0055】
なお、以上の例では、舌癌及び子宮頚癌に用いる生体加熱器具を説明したが、本発明の生体加熱器具が用いられる患部は、これらの腫瘍に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明を適用した生体加熱器具の斜視図である。
【図2】本発明を適用した生体加熱器具であり、(A)は正面図であり、(B)は平面図であり、(C)は底面図であり、(D)は左側面図であり、(E)は右側面図であり、(F)は背面図である。
【図3】本発明を適用した生体加熱器具を患部に穿刺し発熱させる加熱装置の概略図である。
【図4】本発明を適用した熱電対が取付けられる生体加熱器具の斜視図である。
【図5】本発明を適用した熱電対が取付けられる生体加熱器具の正面図の一部破断図である。
【図6】本発明を適用した生体加熱器具の子宮頸癌へ用いるときを説明するための図であり、(A)は断面図であり、(B)は平面図である。
【図7】基台部の影響を検証するために用いた生体加熱器具の正面図である。
【図8】加熱実験を行う際の2本の生体加熱器具の配置を示した平面図である。
【図9】実施例として示す生体加熱器具の加熱実験における温度変化を示したグラフである。
【図10】比較例として示す生体加熱器具の加熱実験における温度変化を示したグラフである。
【図11】ピッチx、高さh、距離dの関係を検証するために用いた実験装置の概略図である。
【図12】生体加熱器具の加熱実験における鶏肉の焼け方を示した断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1、20 生体加熱器具、2 基台部、3 針部、4 加熱部、5 貫通孔、6、7 係合溝、10a 生体、10b 患部、11 加熱装置、12 誘導コイル、21 熱電対、21a 信号線、22 取付孔、23 チューブ体、24 取付部材、51 子宮、52 外子宮口、53 子宮頸部、54 膣、71 アクリル板、74 鶏肉、75 計測点、100 実験装置、101 保温槽
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料を交流磁場で発熱させて癌等の患部を加熱する生体加熱器具に関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人の発明者は、特開2007−244748号公報において、交流磁場で発熱する鉄等の強磁性金属でなる発熱部を、生体適合性を有する針管の空芯部の全部又は一部に充填してなる生体加熱針を提案している。この生体加熱針は、交流磁場で発熱する発熱部となる強磁性金属を針管内の空芯部に設け、針管の穴部を針管とは別の生体適合材料により閉塞したので、強磁性金属が生体と直接接することが無くなり、体液等によってイオン化すると言った問題点を解決することができる。また、針管の交流磁場に対する遮蔽効果によって、強磁性金属の発熱を抑え、全体の発熱温度を、生体の焼灼に適した温度とすることができる。
【0003】
ところで、一般に、強磁性金属は、生体適合性を有さない。このため、生体加熱針は、鉄等の強磁性金属を用いないようにすることが望まれる。
【0004】
また、このような生体加熱針は、1本の加熱できる範囲が限られるために、広範囲の加熱を実現するためには、患部に複数本穿刺する必要がある。また、この生体加熱針は、患部に複数本穿刺した場合、隣接する生体加熱針同士の距離により、患部の発熱温度が異なるため、加熱しようとする患部が均一に加熱されるように、穿刺する必要がある。しかしながら、従来の生体加熱針は、最適な位置へ生体加熱針を穿刺することは熟練を要する。
【0005】
また、このような生体加熱針は、患部へ穿刺して使用されることから、基本的には使い捨てであり、コスト低減の要望も強い。
【特許文献1】特開2007−244748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体適合性により優れた、交流磁場により加熱される生体加熱器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る生体内の患部に穿刺して、該患部以外に誘導加熱による影響を与えない程度の周波数の交流磁場で該患部を加熱する生体加熱器具は、基台部に複数本の針部が立設されてなり、上記基台部の上記針部が立設された面が該針部とともに、上記患部と接する加熱部となっており、上記基台部と上記針部とが、生体適合性を有し、かつ、上記交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されてなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基台部と針部とが生体適合性を有するとともに交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料で一体に形成されていることから、より生体適合性に優れる生体加熱器具を提供することができ、さらに、針部のみならず基台部も発熱させることができることから、より効率的に患部を加熱することができる。また、構成の簡素化を図ることができ、製造コスト低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を適用した生体加熱器具について図面を参照して説明する。図1乃至図2に示すように、本発明を適用した生体加熱器具1は、生体内の患部に穿刺して、患部以外に誘導加熱による影響を与えない程度の周波数の交流磁場で患部を加熱するものである。この生体加熱器具1は、基台部2に複数本の針部3が立設されてなり、基台部2の針部3が立設された一の面2aが針部3とともに、患部と接する加熱部4となっている。また、生体加熱器具1は、基台部2と針部3とが、生体適合性を有し、かつ、例えばSUS420、特にSUS420J2などの交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されている。
【0010】
生体加熱器具1の基台部2は、略直方体形状に形成されている。この基台部2は、一の面2aが平坦に形成され、針部3の取付面となり、患部への接触面である加熱部4となっている。基台部2は、長手方向の両端部近傍に、一の面2aから一の面2aと対向する底面2bに至る貫通孔5、5が形成されている。これらの貫通孔5、5には、針部3が圧入され、この一の面2aに形成された貫通孔5、5は、一の面2aの長辺に平行な方向で、それぞれの中心軸が所定のピッチx(図2(B)参照)だけ離間された位置に形成されている。
【0011】
また、基台部2は、一の面2aに隣り合う相対する面、すなわち正面2c及び背面2dに、一の面2a側の長辺に沿って、係合溝6、7が形成されている。基台部2に設けられた係合溝6、7は、コッヘル鉗子等により、当該生体加熱器具1を挟持する際のコッヘル鉗子等が係合する溝となる。
【0012】
基台部2に立設される針部3は、針状部材からなり、基端3e側が底面2bから突出しないように、すなわち底面2bが平坦となるように、基台部2の貫通孔5、5に圧入され一体化されている。針部3は、一の面2aから所定の高さh(図2(A)参照)だけ突出するように、貫通孔5に圧入されている。針部3は、先端3aにおいて、中心軸に対して傾斜した第1の傾斜部3bが形成され、さらに、この第1の傾斜部3bに先端3aから中程にかけて外側に傾斜した第2の傾斜部3c、3dが形成され、先端3aを先鋭にしている。この針部3は、第1の傾斜部3bが同じ向きとなるように圧入され、これにより、穿刺抵抗を減らすようにしている。なお、基台部2に立設される複数本の針部3の第1の傾斜部3bの向きは、規則的であれば特に限定されるものではなく、例えば第1の傾斜部3bの向きは、互いに外側を向いていたり、互いに内側を向いていても良い。
【0013】
ここで、以上のような生体加熱器具1が用いられる加熱装置11について説明すると、図3に示すように、この加熱装置11は、患者等の生体10aの外部に配設され交流磁場を発生させる誘導コイル12を有している。この誘導コイル12は、電源装置に接続され、交流電流が供給されることによって、10kHz〜1MHz程度の周波数の交流磁場を発生させる。
【0014】
本発明が適用された生体加熱器具1は、コッヘル鉗子等を係合溝6、7に係合させ、基台部2を挟持し、針部3を癌等の患部10bに穿刺して用いられる。この加熱装置11は、誘導コイル12で交流磁場を発生させ、患部10bに穿刺されている生体加熱器具1を発熱させることによって患部10bを加熱する。具体的に、生体加熱器具1は、交流磁場によって磁性金属でなる基台部2及び針部3が発熱し、これら基台部2の加熱部4及び針部3が患部10bと接触し、患部10bを加熱する。
【0015】
ここで、発生させる交流磁場は、10kHz〜1MHz程度の周波数であることから、患部10b以外への誘導加熱による影響を小さくすることができる。例えば、患部10bが癌の場合には、この生体加熱器具1のみを癌の治療に必要な温度である43℃〜100℃程度に加熱することができる。
【0016】
なお、加熱装置11は、上述のように、交流磁場を発生させるものであればよく、その形状は限定されるものではなく、例えば、誘導コイル12を長尺の棒状とすることにより、生体内の患部に穿刺された生体加熱器具1と近接させ、十分な発熱を得られるようにしてもよい。子宮頸癌の場合には、誘導コイル12を内蔵した棒状のアプリケータを膣より挿入して、子宮頸部に穿刺された生体加熱器具1に近接させることによって、生体加熱器具1を加熱し、子宮頸癌を加熱することができる。その他、生体加熱器具1は、舌癌などの表皮部の病変部に用いることもできる。
【0017】
このような生体加熱器具1は、基台部2に針部3が2本立設されており、針部3のみならず、基台部2も交流磁場により発熱をし、基台部2の針部3と基台部2の一の面2aとからなる加熱部4においては患部と接することから、針部3が穿刺された患部の表層位置の加熱を効果的に行うことができる。
【0018】
また、生体加熱器具1は、基台部2に係合溝6、7が形成されていることから、コッヘル鉗子等により容易に挟持することができ、取り扱いが容易である。また、生体加熱器具1は、一の面2aが患部に当接するまで穿刺することで、針部3が穿刺する深さを規定することができ、穿刺作業を容易に行うことができる。生体加熱器具1の針部3の高さやピッチは、使用する病変に合わせた寸法となっている。したがって、この点からも、針部3間のピッチを調整する必要がなくなり、穿刺作業を容易に行うことができる。
【0019】
また、生体加熱器具1は、全て同一の金属材料から形成されており、従来の生体加熱針より生体適合性の面で優れ、さらに、従来の生体加熱針のように、内部に強磁性金属を充填することを必要とせず、構成の簡素化を図ることができ、製造コストを抑えることができる。
【0020】
なお、生体加熱器具1は、上述のように、基台部2に針部3が2本形成されることに限らず、3本以上形成されるものであってもよい。
【0021】
また、生体加熱器具1は、針部3が基台部2の貫通孔5、5に圧入することに限らず、基台部2と針部3とを削り出しまたは溶接により形成するようにしてもよい。
【0022】
次に、生体加熱器具1に、温度制御用に熱電対が取り付けられる生体加熱器具20について説明をする。なお、生体加熱器具1と同様の構成については、同様の符号を付し、その説明は省略する。
【0023】
熱電対が取り付けられる生体加熱器具20は、図4及び図5に示すように、基台部2の長手方向の一方の側面2eに、熱電対21を基台部2の略中央に取り付ける取付孔22が形成されている。熱電対21は、可撓性を有するとともに、フッ素樹脂(テフロン(登録商標))などの生体適合性を有する樹脂材料からなるチューブ体23に挿入される。さらに、このチューブ体23は、一端部が溶封されており、熱電対21の感温部を内側に封入している。熱電対21が挿入されたチューブ体23は、例えば、取付孔22と略同一の外径を有し、生体適合性を有し、交流磁場によって発熱する金属材料からなる、例えばパイプ状の取付部材24に挿入される。この取付部材24は、取付孔22に嵌合され、チューブ体23の溶封された部分と取付部材24の取付孔22への挿入端と係合することによって、チューブ体23が取付孔22から抜け落ちないようにする。チューブ体23の内部に挿入される熱電対21は、信号線21aを介して、図示しない制御部と接続され、生体加熱器具20の温度が計測される。
【0024】
なお、チューブ体23は、フッ素樹脂から形成されることに限らず、可撓性を有するとともに、生体適合性を有する材料であればいかなるものであってもよい。また、チューブ23に設けられる取付部材24は、基台部2及び針部3と同様の金属材料またはそれと同等の生体適合性を有し、交流磁場によって発熱する磁性を有する金属材料であってもよい。
【0025】
熱電対21は、温度を計測することができる周知のもので、例えば、K型熱電対素線を用いる。なお、信号線21aは、例えば、テフロン(登録商標)が被覆されている。
【0026】
このような構成の生体加熱器具20は、生体加熱器具1と同様に、生体の患部に穿刺し、交流磁場が供給されることにより、基台部2及び針部3が癌等の治療に必要な43℃〜100℃に発熱をする。また、生体加熱器具20は、内部に熱電対21が設けられているので、生体加熱器具20の発熱温度を計測することができ、この熱電対21からの計測温度に応じて、交流磁場の強さを制御し、生体加熱器具20の温度制御を行う。
【0027】
なお、生体加熱器具20は、上述のように、基台部2の一方の側面2eに設けられた取付孔22から取り付けられることに限らず、例えば、他方の側面に取付孔22を形成するようにしてもよく、また、底面2bの略中央に取付孔22を設け、熱電対21を設けるようにしてもよい。
【0028】
このような構成を有する生体加熱器具1、20は、例えば、図6(A)、(B)に示すように、子宮頸部に発生した子宮頸癌の治療に用いることができる。すなわち、患部である子宮51の外子宮口52の周囲の子宮頸部53には、生体加熱器具1と生体加熱器具20の2種類を混ぜて穿刺される。次いで、この子宮頸部53に穿刺された生体加熱器具1、20に対して、加熱装置11の棒状に形成された誘導コイル12を、膣54から挿入し患部である子宮頸癌近傍に配置する。そして、加熱装置11の誘導コイル12に高周波磁場を発生させ、この高周波磁場を生体加熱器具1、20に局所的に印加し、発熱させる。
【0029】
生体加熱器具1、20の針部3の高さやピッチは、子宮頸癌に合わせた寸法となっており、生体加熱器具1、20は、隣り合う生体加熱器具1、20との間も、子宮頸癌に最適な間隔に穿刺される。
【0030】
なお、生体加熱器具1、20は、図6(B)に示すように、加熱をしようと所望する子宮頸部53の子宮頸癌に、所定の間隔を設け複数本穿刺する。穿刺する生体加熱器具1、20の本数は、患部の形状、大きさ等により適宜決定される。また、生体加熱器具1だけでなく、生体加熱器具20も併用することで、患部全体の温度を計測することができ、患部全体の温度制御を行うことができる。
【0031】
具体的に、生体加熱器具1、20は、施術者により、係合溝6、7を利用してコッヘル鉗子等により基台部2において挟持される。そして、生体加熱器具1、20を、生体内の患部に基台部2の加熱部4と患部とが接するまで針部3を穿刺する。このように、生体内の患部に穿刺された生体加熱器具1、20は、加熱装置11の誘導コイル12に電流が供給されることにより、交流磁場が発生し、発生した交流磁場が印加されることにより、針部3及び基台部2全体が加熱され、患部を加熱することができる。
【0032】
なお、生体加熱器具1、20は、子宮頸癌に用いる場合、患部への穿刺抵抗を考慮して、針部3が2本であることが好ましい。子宮頸癌に用いる場合、患部が比較的硬いため、針部の本数を多くすると、穿刺する作業が困難となるためである。
【0033】
次に、生体加熱器具1、20の基台部2からの伝熱の影響を検証した加熱実験について説明をする。
【0034】
実施例として示す生体加熱器具60は、図7(A)に示すように、基台部62に2本の針部63、63が立設されてなり、基台部62と針部63とが、生体適合性を有し、かつ、交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されている。また、生体加熱器具60は、針部63、63のピッチx=7mm、高さh=6.8mmとし、針部63、63の傾斜部63a、63aの向きが互いに異なる方向に形成されている。
【0035】
また、比較例として示す生体加熱器具70は、図7(B)に示すように、基台部72に2本の針部73、73が立設されてなり、基台部72と針部73とが、生体適合性を有し、かつ、交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されている。また、生体加熱器具70は、生体加熱器具60と同様に、針部73、73の傾斜部73a、73aの向きが互いに異なる方向に形成されている。さらに、生体加熱器具70は、一の面72a上にアクリル板71が設けられ、基台部72からの伝熱の影響をなくした。このとき、生体加熱器具70の針部73、73のピッチx=7mm、高さh=8.8mm、アクリル板71の高さを2mmとした。
【0036】
これらの実施例及び比較例の生体加熱器具を2本用意し、図8に示すように、常温の鶏肉74に、距離d=7mm離間させて穿刺し、交流磁場を印加し、温度上昇と鶏肉74の焼け具合を調べた。なお、鶏肉74の温度上昇は、生体加熱器具の中間地点である図8中の計測点75において、深さ3mmに設置した光ファイバ温度計センサにより計測を行った。図9は、実施例としての生体加熱器具60の熱電対からの温度と、計測点75における鶏肉74の温度を示すグラフであり、図10は、比較例としての生体加熱器具70の熱電対からの温度と、計測点75における鶏肉74の温度を示すグラフである。
【0037】
図9に示すように、アクリル板71が設けられない生体加熱器具60では、交流磁場を印加し始めてから約2分で鶏肉74の計測点75における温度が50℃を超え、それ以後はほぼ一定に保たれた。鶏肉74の焼けた深さは、約7mmであった。なお、図9の熱電対からの計測温度に示すように、生体加熱器具60では、加熱装置11を制御することにより、生体加熱器具60の発熱が65℃に保たれている。
【0038】
生体加熱器具60と比較して、図10に示すように、アクリル板71が設けられる生体加熱器具70では、交流磁場を印加し始めてから約7分で鶏肉74の計測点75における温度が50℃を超えた。また、鶏肉74の焼けた深さは、約3mmであった。
【0039】
以上の計測結果から、アクリル板71を設けた場合では、十分な温度上昇が得られず、すなわち、生体加熱器具における基台部2が患部の加熱治療に必要な温度を得るために有益であることが分かる。
【0040】
次に、生体加熱器具1、20の2本の針部3のピッチx、高さh及び2本の生体加熱器具の距離dをそれぞれ変更し発熱特性を検証した加熱実験について説明をする。この加熱実験に用いられる生体加熱器具は、図4に示す生体加熱器具20を用い、ピッチxを5、7、9mm、高さhを5.8、6.8、8.8mmとした。なお、針部3の傾斜部3bは、いずれの生体加熱器具においても同一とし、その先端3aからの距離は3.8mmとする。また、針部3の径は、いずれも1.4mmとした。さらに、生体加熱器具としては、発熱能力をほぼ一定とするために、基台部2の体積を一定なものとした。すなわち、生体加熱器具としては、ピッチxに応じて、基台部2の高さが異なり、体積を一定に保ったものを用いた。
【0041】
また、加熱実験としては、図8に示すように、2本の生体加熱器具を距離d離間させて鶏肉74に穿刺した。実験装置100は、図11に示すように、保温槽101に鶏肉74を入れ、この鶏肉74に生体加熱器具を図8に示すように穿刺して、交流磁場を10分間印加し、そのときの図8中の切断線Aにおける鶏肉74の焼け具合を観測した。なお、保温槽101は、37℃の水が循環され、鶏肉74を一定温度に保温する。37℃の水の循環時には、鶏肉74の表面から深さ3mmにおける温度は、約30℃であった。
【0042】
サンプル1としての生体加熱器具は、針部3、3のピッチx=7mm、高さh=5.8mmとし、d=7mmとした。このように配置された生体加熱器具に10分間交流磁場を印加した。このとき、印加する交流磁場は、生体加熱器具の平均温度が65℃となるように、その磁場強度が制御されている。
【0043】
サンプル2としての生体加熱器具は、高さh=6.8mmとし、その他は、サンプル1と同様とした。
【0044】
サンプル3としての生体加熱器具は、高さh=8.8mmとし、その他は、サンプル1と同様とした。
【0045】
サンプル4としての生体加熱器具は、針部3、3のピッチx=9mm、高さh=8.8mmとし、d=5mmとし、その他は、サンプル1と同様とした。
【0046】
サンプル5としての生体加熱器具は、針部3、3のピッチx=5mm、高さh=8.8mmとし、d=9mmとし、その他は、サンプル1と同様とした。
【0047】
これらのサンプル1〜5について、実験装置100を用いて、加熱実験を行い、鶏肉74の切断線Aにおける焼け方及び深さを観測した。
【0048】
なお、鶏肉74の焼け方としては、図12(A)に示すように、鶏肉74の白変部、すなわち、焼灼された部位の最深部の状態が均等な深さであることが好ましい。距離dが、大きすぎたり、小さすぎたりする場合には、均一な深さに焼灼されず、図12(B)、(C)に示すように、均一とはならない。
【0049】
上述のサンプル1〜5においては、いずれも、図12(A)に示すように、均一に焼灼が行われた。また、サンプル1においては、焼灼深さが5〜6mmとなっており、サンプル2においては、焼灼深さが7〜9mmとなっており、サンプル3においては、焼灼深さが10mmとなっていた。また、サンプル4、5においては、その焼灼深さが7mmとなっていた。
【0050】
このことから、生体加熱器具1、20は、ピッチx、高さh及び2本の生体加熱器具の距離dを、適宜選択することにより、癌等の焼灼に必要な温度に加熱することができるとともに、焼灼範囲を均一な深さとすることができ、広範囲を焼灼する際の焼灼むらを防止することができる。
【0051】
また、上述の例においては、針部3の高さhを8.8mmとし、ピッチxが5〜9mmである場合には、距離dを9〜5mmとすることにより、制御に適した均一で、適度な深さへの焼灼を実現できる。
【0052】
なお、子宮頸部への治療においては、表層から基底膜までの深さが3mm程度であり、十分な深さに熱を加えるために6mm程度の焼灼深さがあることが好ましいといわれ、上述のサンプルでは、焼灼深さが5〜6mmとなっていたサンプル1が適していることが分かる。
【0053】
また、上述の加熱実験においては、針部3の太さを1.4mmに固定したが、この針部3の太さを変更することで、患部と針部3との接触面積を増減することができ、このことにより焼灼深さを増減することができる。
【0054】
以上のように生体加熱器具1、20は、例えば、舌癌や子宮頸癌に穿刺され用いられるものであり、患部の大きさ、形状等に応じて針部3の高さ、太さ、基台部2の形状を適宜決定し、焼灼を行うことができる。
【0055】
なお、以上の例では、舌癌及び子宮頚癌に用いる生体加熱器具を説明したが、本発明の生体加熱器具が用いられる患部は、これらの腫瘍に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明を適用した生体加熱器具の斜視図である。
【図2】本発明を適用した生体加熱器具であり、(A)は正面図であり、(B)は平面図であり、(C)は底面図であり、(D)は左側面図であり、(E)は右側面図であり、(F)は背面図である。
【図3】本発明を適用した生体加熱器具を患部に穿刺し発熱させる加熱装置の概略図である。
【図4】本発明を適用した熱電対が取付けられる生体加熱器具の斜視図である。
【図5】本発明を適用した熱電対が取付けられる生体加熱器具の正面図の一部破断図である。
【図6】本発明を適用した生体加熱器具の子宮頸癌へ用いるときを説明するための図であり、(A)は断面図であり、(B)は平面図である。
【図7】基台部の影響を検証するために用いた生体加熱器具の正面図である。
【図8】加熱実験を行う際の2本の生体加熱器具の配置を示した平面図である。
【図9】実施例として示す生体加熱器具の加熱実験における温度変化を示したグラフである。
【図10】比較例として示す生体加熱器具の加熱実験における温度変化を示したグラフである。
【図11】ピッチx、高さh、距離dの関係を検証するために用いた実験装置の概略図である。
【図12】生体加熱器具の加熱実験における鶏肉の焼け方を示した断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1、20 生体加熱器具、2 基台部、3 針部、4 加熱部、5 貫通孔、6、7 係合溝、10a 生体、10b 患部、11 加熱装置、12 誘導コイル、21 熱電対、21a 信号線、22 取付孔、23 チューブ体、24 取付部材、51 子宮、52 外子宮口、53 子宮頸部、54 膣、71 アクリル板、74 鶏肉、75 計測点、100 実験装置、101 保温槽
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の患部に穿刺して、該患部以外に誘導加熱による影響を与えない程度の周波数の交流磁場で該患部を加熱する生体加熱器具において、
基台部に複数本の針部が立設されてなり、
上記基台部の上記針部が立設された面が該針部とともに、上記患部と接する加熱部となっており、
上記基台部と上記針部とが、生体適合性を有し、かつ、上記交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されてなる生体加熱器具。
【請求項2】
上記基台部には、鉗子用の溝が設けられている請求項1記載の生体加熱器具。
【請求項3】
上記基台部には、熱電対の取付部が設けられている請求項2記載の生体加熱器具。
【請求項1】
生体内の患部に穿刺して、該患部以外に誘導加熱による影響を与えない程度の周波数の交流磁場で該患部を加熱する生体加熱器具において、
基台部に複数本の針部が立設されてなり、
上記基台部の上記針部が立設された面が該針部とともに、上記患部と接する加熱部となっており、
上記基台部と上記針部とが、生体適合性を有し、かつ、上記交流磁場で発熱する磁性を有する金属材料により一体に形成されてなる生体加熱器具。
【請求項2】
上記基台部には、鉗子用の溝が設けられている請求項1記載の生体加熱器具。
【請求項3】
上記基台部には、熱電対の取付部が設けられている請求項2記載の生体加熱器具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−233234(P2009−233234A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85420(P2008−85420)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【特許番号】特許第4169364号(P4169364)
【特許公報発行日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(504185935)株式会社アドメテック (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【特許番号】特許第4169364号(P4169364)
【特許公報発行日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(504185935)株式会社アドメテック (9)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]