説明

生体吸収性チューブ及びその製造方法

【課題】従来の生体吸収性チューブと比較して簡便に安価に製造でき、その厚さや内径、外形の異なるチューブを多種揃えることが容易な生体吸収性チューブ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材を筒状に巻いた状態で重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位を融着又は溶着してチューブ状に成形するか、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材を筒状に巻いた後に、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を非凍結乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材をその周囲に筒状に巻いた状態で外周側の生体吸収性高分子材の重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位を融着又は溶着して2層構造のチューブ状に成形して生体吸収性チューブを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経組織再生用の生体吸収性チューブ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
神経組織損傷の主な治療法として、人工チューブを用いて神経組織が再生するための空間を確保しておく治療法が試みられてきている。その結果、手術による接合が不可能なほど切断されてしまった神経組織でも再接合が可能であることが明らかとなってきた。
【0003】
この人工チューブとしては、シリコーンやニトロセルロース等の合成高分子材製の人工チューブが試みられてきた。しかしこれらの素材から成る人工チューブは、神経細胞の成長に必要な物質の透過性が低いので神経組織再生の妨げとなったり、更に神経組織が再生された後も異物として体内に残存してしまう等の問題があった。そのため残った人工チューブを除去する再手術の際に、せっかく再生した神経組織を傷付けてしまう虞もあった。
【0004】
そこで、ラミニン及びフィブロネクチをコーティングしたコラーゲンファイバーの束からなる神経再生補助材(例えば、特許文献1参照。)や、ポリ乳酸,ポリグリコール酸等の合成高分子や、コラーゲン,キチン,キトサン,ヒアルロン酸等の天然高分子等の生体内吸収性材料よりなる繊維を束ねた神経再建用基材(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。これらの生体吸収性高分子材から成る人工チューブは、その構成素材が繊維束であるので、繊維間に存在する空隙に起因した物質透過性に富み、最後は生体に吸収されるために再手術による除去の必要もなく、柔軟性を有するため周辺組織を破壊しない等利点が多い。しかし、その構成素材が繊維束であるので、管状の人工チューブに製造する製造方法が複雑であるという問題がある。更に、コラーゲンは生物由来の材料であり、医療用具としての使用については未知の病原に対する安全性に問題が残る。
【0005】
また、生体吸収性高分子材から成る筒状体の管腔内に、合成生体吸収性高分子材から成るファイバー束を含ませることにより適度な強度と柔軟性を有する神経再生用チューブが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この神経再生用チューブは合成生体吸収性高分子材から構成されるファイバーを金属製のロッドに装着し、これを合成生体吸収性高分子材の溶液に浸漬した後に凍結乾燥し、更に金属製ロッドを取り外してから反転することにより製造される、内層が合成生体吸収性高分子スポンジで外層が合成生体吸収性高分子ファイバーから成る神経再生用チューブである。しかしながら、この神経再生用子チューブは、凍結乾燥後に金属製ロッドを取り外してから反転するという複雑な工程を必要とするため生産性において劣るという問題がある。
【0006】
また、比較的強度の高い合成生体吸収性高分子材から成る神経再生チューブも開示されている(例えば、特許文献4参照。)。これは合成生体吸収性高分子材から構成されるスポンジ、及び、該スポンジより分解吸収期間の長い合成生体吸収性高分子材から構成される筒状の強化材を含み少なくとも内面がスポンジである神経再生チューブである。この神経再生チューブの製造方法は、以下の工程(A)〜工程(C)を含む方法である。
工程(A):筒状芯体の外側に合成生体吸収性繊維から構成される筒状強化材を固定する工程(B):得られた強化材固定芯体を合成生体吸収性高分子溶液に浸漬後凍結乾燥して、筒状強化材よりも分解吸収期間の短いスポンジ層を形成する
工程(C):凍結乾燥物を筒状芯体から外し、必要に応じて反転する。
【0007】
この神経再生チューブの製造方法においては、特に内面にスポンジ状の生体吸収性材料を持つチューブを得ようとすると、前記製造方法のように作製したチューブを反転させる必要がある等、その製造方法が複雑で生産性において劣るという問題がある。また同特許文献には他の製造方法として、「筒状芯体の所定の位置(例えば神経再生チューブの長さに対応する位置)に、筒状強化材を固定するための着脱可能な突出部(例えば放射状の突起、ドーナツ状の鍔等)を設けることにより筒状芯体から離れた位置に固定してもよい。この場合、強化材と筒状芯体の隙間に合成生体吸収性高分子溶液が侵入するように、強化材或いは前記突起部において開口を有する。このように、筒状強化材を筒状芯体から離れた位置に固定することで、強化材とスポンジが一体となった(強化材がスポンジで囲まれた)神経再生チューブが得られる。」との方法も開示されている。しかし、この方法も特殊な芯材を用いる必要があるので生産効率が非常に悪い問題があった。
【0008】
前述したように、従来の神経組織再生用の合成生体吸収性高分子材から成るチューブは、その製造方法が煩雑であり製造コストが高いため、その厚さや内径、外形の異なるチューブを多種揃えることが難しく、多種多様な神経部位に対応した製品を迅速に医療現場に供給することができないという問題もあった。
【0009】
【特許文献1】特開平5−237139号公報
【特許文献2】特開2000−325463号公報
【特許文献3】特開2005−143979号公報
【特許文献4】特開2003−19196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、従来の神経組織再生用の生体吸収性チューブと比較して簡便に安価に製造でき、従ってその厚さや内径、外径の異なるチューブを多種揃えることが容易な神経組織再生用の生体吸収性チューブ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、合成生体吸収性繊維の束を使用するのではなく、先ず、生体吸収性高分子が溶解された溶液を薄く広げた状態で乾燥させて溶媒を除去することでシート状の生体吸収性高分子材を作製し、この生体吸収性高分子材シートを筒状に巻いた状態で重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位を融着又は溶着すると、シートの厚さ,シートの材質の組み合わせ、巻く径、巻く回数等を変更するだけで多種多様な神経組織再生用の生体吸収性チューブを簡単に製造することができることを究明して本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を乾燥させて成形されたシート状の生体吸収性高分子材を筒状に巻いた状態で重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位が融着又は溶着されていることを特徴とする生体吸収性チューブと、 生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材を筒状に巻いた状態で重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位を融着又は溶着してチューブ状に成形することを特徴とする生体吸収性チューブの製造方法と、
生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥させて成形されたシート状の生体吸収性高分子材が筒状に巻かれ、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を非凍結乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材がその周囲に筒状に巻かれ重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位が融着又は溶着されている2層構造であることを特徴とする生体吸収性チューブと、
生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材を筒状に巻いた後に、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を非凍結乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材をその周囲に筒状に巻いた状態で外周側の生体吸収性高分子材の重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位を融着又は溶着して2層構造のチューブ状に成形することを特徴とする生体吸収性チューブの製造方法とである。
【0013】
前者の本発明に係る生体吸収性チューブと生体吸収性チューブの製造方法とにおいては、シート状の生体吸収性高分子材の厚さが0.01〜2mmであることが好ましく、このとき、溶媒の乾燥方法が凍結乾燥であるとスポンジ状のシートを作製でき、溶媒の乾燥方法が非凍結乾燥であると耐破折性に優れた生体吸収性チューブを得ることができる。
また、後者の本発明に係る生体吸収性チューブと生体吸収性チューブの製造方法とにおいては、内層に生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥させて成形されたスポンジ状のシート状の生体吸収性高分子材が筒状に巻かれ、その外層に生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を非凍結乾燥させて成形した耐破折性に優れたシート状の生体吸収性高分子材がその周囲に筒状に巻かれ重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位が融着又は溶着されている2層構造であるので、再生される神経組織が面する側はスポンジ状であるため再生される神経組織を圧迫することがないと共に体液や血液を保持できるので神経組織の再生に好適で且つ外面が耐破折性に優れているため再生されてきた神経組織がその再生過程で折損したり中空部が閉塞されてしまったりするような現象を生じさせない生体吸収性チューブを得ることができるのである。
【0014】
そして、このような本発明に係る生体吸収性チューブと生体吸収性チューブの製造方法とにおいて、生体吸収性高分子としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(D体、L体、DL体)、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−P−ジオキサノン、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体、乳酸−グリコール酸共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−P−ジオキサノン共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−ε−カプロラクトン共重合体から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の合成高分子が好ましく使用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る生体吸収性チューブは、生体吸収性高分子が溶解された溶液を薄く広げた状態で乾燥させて溶媒を除去することで作製した生体吸収性高分子材シートを筒状に巻いた状態で重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位を融着又は溶着したものであるので、シートの厚さ,シートの材質の組み合わせ、巻く径、巻く回数等を変更するだけで簡単に製造することができる多種多様な生体吸収性チューブであり、また本発明に係る生体吸収性チューブの作製方法は、従来の合成生体吸収性繊維等の強化材を用いた生体吸収性チューブの製造方法と比較して簡単に多種多様な生体吸収性チューブを製造することができる生体吸収性チューブの製造方法であるから、種々の神経組織損傷部位の治療に適した生体吸収性チューブを容易に供給できて医療分野に貢献する価値の非常に大きなものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る生体吸収性チューブを作製するには、先ず生体吸収性高分子が溶解された溶液を薄く広げた状態で乾燥させて溶媒を除去することでシート状の生体吸収性高分子材を作製する。
この生体吸収性高分子としては、従来から用いられている生体吸収性の高分子材料が使用でき、特に脂肪族ポリエステルとして、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(D体、L体、DL体)、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−P−ジオキサノン等やそれらの共重合体を好ましく使用することができ、共重合体としては具体的には乳酸−ε−カプロラクトン共重合体、乳酸−グリコール酸共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−P−ジオキサノン共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−ε−カプロラクトン共重合体を挙げることができる。また、前記脂肪族ポリエステルとポリエステルエーテルとの共重合体を使用することも可能であり、これらの生体吸収性高分子は1種又は2種以上を使用することができる。
【0017】
中でも、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(D体、L体、DL体)、ポリ−ε−カプロラクトン、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体、乳酸−グリコール酸共重合体から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の組み合わせた共重合体であれば、非凍結乾燥させて本発明に係る生体吸収性チューブを製造した場合に優れた耐破折性を得ることができるのでより好ましい。
【0018】
これらの生体吸収性高分子材料を溶媒に溶解した溶液を所望の厚みとなるように均一に広げてから乾燥させシート状の生体吸収性高分子材を作製する。その厚さは0.01〜2mmであることが好ましく、0.01mm未満では均一な厚みのシートを得難く、2mmを超えると神経組織再生用のチューブとして一般的には適さない。なお、溶媒は使用する高分子材料に合わせて適宜選択すればよく、例えば、クロロホルム,ジクロロメタン,四塩化炭素,アセトン,ジオキサン,テトラハイドロフランを例示できる。
【0019】
溶媒の乾燥方法は従来から行われている凍結乾燥を行うことができ、凍結乾燥を行うとスポンジ状構造を持つ生体吸収性高分子材シートが作製できる。また、常温乾燥やそれと真空乾燥との組み合わせによる乾燥等の非凍結乾燥を行って生体吸収性高分子材シートを作製してもよく、この作製方法を行うと製造される生体吸収性チューブの耐破折強度を高めることが可能である。
【0020】
作製されたシート状の生体吸収性高分子材は筒状(チューブ状)となるように巻かれた状態で重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位が融着又は溶着されて筒状(チューブ状)を維持するチューブ状に成形される。重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位が融着又は溶着させる方法は、例えば重なり合っているシート部の高分子を融点以上に熱して融着させる方法や、重なり合っているシート部に溶媒を塗布して高分子を溶融させて溶着させる方法等がある。生体吸収性高分子材シートを巻く際には棒等の芯材を用いてもよいし、シートの厚さ等の条件によっては芯材を用いなくてもよい。また、巻く回数も生体吸収性高分子材料シートの物性や必要とされる完成後の生体吸収性チューブの用途や体内での使用部位により自由に選択することができる。
【0021】
更に、凍結乾燥を行って作製したスポンジ状構造を持つ生体吸収性高分子材シートをチューブ状に巻いた外側に、非凍結乾燥を行って作製したスポンジ状構造を持たない生体吸収性高分子材シートを巻くことにより、2層構造を持つ生体吸収性チューブを簡単に製造することができる。この方法であれば所望の素材の組み合わせや形状、大きさを容易に調整して製造することが可能である。この2層構造を持つ生体吸収性チューブは、内層がスポンジ状であるので再生される神経組織を圧迫することがないと共に体液や血液を保持できるので神経組織の再生に好適であり、その外層が耐破折性に優れているため再生されてきた神経組織がその再生過程で折損したり中空部が閉塞されてしまったりするような現象を生じさせない優れた生体吸収性チューブである。
【実施例】
【0022】
<生体吸収性高分子材シートの作製>
表1に記したように、溶媒に生体吸収性高分子を溶解した溶液を作製し、100mm×100mm×20mmのガラス型に乾燥後に目的となる厚みとなる量を入れた後、乾燥させ溶媒を除去して生体吸収性高分子材シートを作製した。
【0023】
【表1】

【0024】
<実施例1>
シート1を50mm×6.5mmに切断し、40℃のホットプレート上で、長辺側からフッ素皮膜が施された直径2mmの芯材に約1回転(重なり部が約0.5mm)巻いて更に80℃のホットプレート上で重なり部の最終部を融着させた。次いで芯材を抜き取って内径約2mm、外径約2.5mmの生体吸収性チューブを製造した。
【0025】
<実施例2>
シート2を50mm×14mmに切断し、60℃のホットプレート上で、長辺側からフッ素皮膜が施された直径2mmの芯材に約2回転巻いて更に180℃の乾燥機内に3分間静置させ重なり部を融着させた。次いで芯材を抜き取って内径約2mm、外径約3mmの生体吸収性チューブを製造した。
【0026】
<実施例3>
シート1を50mm×3.5mmに切断し、40℃のホットプレート上で、長辺側からフッ素皮膜が施された直径1mmの芯材に約1回転(重なり部が約0.5mm)巻いて更に80℃のホットプレート上で重なり部の最終部を融着させた。その外側に50mm×15mmに切断したシート4を長辺側から3回巻いて80℃の乾燥機内に3分間静置させ重なり部を融着させた。次いで芯材を抜き取って内径約1mm、外径約1.7mmの2層構造の生体吸収性チューブを製造した。
【0027】
<実施例4>
シート1を50mm×14mmに切断し、40℃のホットプレート上で、長辺側からフッ素皮膜が施された直径2mmの芯材に約2回転巻いて更に80℃のホットプレート上で重なり部の最終部を融着させた。その外側に50mm×39mmに切断したシート4を長辺側から4回巻いて更に80℃の乾燥機内に3分間静置させ重なり部を融着させた。次いで芯材を抜き取って内径約2mm、外径約3.3mmの2層構造の生体吸収性チューブを製造した。
【0028】
<実施例5>
シート2を50mm×6.5mmに切断し、60℃のホットプレート上で、長辺側からフッ素皮膜が施された直径2mmの芯材に約1回転(重なり部が約0.5mm)巻き、最終的な重なり部の端から約0.5mmの部位に1,4−ジオキサンを塗布して重なり部を溶着させた。その外側に50mm×33mmに切断したシート3を長辺側から4回巻き、最終的な重なり部の端から約1mmの部位に1,4−ジオキサンを塗布して重なり部を溶着させた。次いで80℃の乾燥機内に3分間静置させた後、芯材を抜き取って内径約2mm、外径約2.8mmの2層構造の生体吸収性チューブを製造した。
【0029】
<実施例6>
シート3を50mm×57mmに切断し、短辺側からフッ素皮膜が施された直径2mmの芯材に約8回転巻いた。最終的な重なり部の端から約1mmの部位にジクロロメタンを塗布して重なり部を溶着させた。次いで芯材を抜き取って内径約2mm、外径約2.6mmの生体吸収性チューブを製造した。
【0030】
<実施例7>
シート3を50mm×106mmに切断し、短辺側からフッ素皮膜が施された直径3mmの芯材に約10回転巻いて更に140℃の乾燥機内に3分間静置させ重なり部を融着させた。次いで芯材を抜き取って内径約3mm、外径約3.8mmの生体吸収性チューブを製造した。
【0031】
<実施例8>
シート4を50mm×121mmに切断し、短辺側からフッ素皮膜が施された直径2mmの芯材に約5回転巻いて更に80℃の乾燥機内に3分間静置させ重なり部を融着させた。次いで芯材を抜き取って内径約2mm、外径約3.2mmの生体吸収性チューブを製造した。
【0032】
<実施例9>
シート4を50mm×106mmに切断し、短辺側からフッ素皮膜が施された直径3mmの芯材に約10回転巻いて更に80℃の乾燥機内に3分間静置させ重なり部を融着させた。次いで芯材を抜き取って内径約3mm、外径約3.8mmの生体吸収性チューブを製造した。
【0033】
<実施例10>
シート4を50mm×65mmに切断し、短辺側からフッ素皮膜が施された直径4mmの芯材に約5回転巻いて更に80℃のホットプレート上で重なり部の最終部約1mmを融着させた。次いで芯材を抜き取って内径約4mm、外径約4.4mmの生体吸収性チューブを製造した。
【0034】
<湾曲率の測定(耐破折試験)>
各生体吸収性チューブを長さ3cmに切断し、37℃の雰囲気下で直径0.95cmのパイプに各生体吸収性チューブの中央付近が接した状態で各生体吸収性チューブ両端から徐々に力を加え各生体吸収性チューブ全体をU字状に湾曲させた。各生体吸収性チューブがその中空状を維持した状態で湾曲できた時のサンプル両端の距離(Wcm)を測定し、これを式「(1−W/3)×100」に当てはめたときの湾曲率(%)を求めた。結果を表2に纏めて示す。尚、表2の状態で「折れ曲がった」とは、生体吸収性チューブがその中空状を維持できなかったことを示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から明らかなように本発明に係る生体吸収性チューブの製造方法によれば、シートの厚さ,シートの材質の組み合わせ、巻く径、巻く回数等を変更するだけで多種多様な生体吸収性チューブを簡単に製造することが可能である。
【0037】
また、凍結乾燥により溶媒を除去して作製されたスポンジ状構造を持つ生体吸収性高分子材シートを用いて製造された生体吸収性チューブは、小さな直径に湾曲すると折れ曲がってしまったものの、非凍結乾燥により溶媒を除去して作製された生体吸収性高分子材シートを用いて製造された生体吸収性チューブならば折れ曲がらないことも確認できた。
【0038】
そして、凍結乾燥により溶媒を除去して作製されたスポンジ状構造を持つ生体吸収性高分子材シートの外側に、非凍結乾燥により溶媒を除去して作製された生体吸収性高分子材シートを巻いて製造された2層構造を持つ生体吸収性チューブは、内側のスポンジ状構造を持つ生体吸収性高分子材に亀裂が生じたものの折れ曲がらなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を乾燥させて成形されたシート状の生体吸収性高分子材を筒状に巻いた状態で重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位が融着又は溶着されていることを特徴とする生体吸収性チューブ。
【請求項2】
シート状の生体吸収性高分子材の厚さが0.01〜2mmである請求項1に記載の生体吸収性チューブ。
【請求項3】
シート状の生体吸収性高分子材が溶媒を非凍結乾燥で乾燥したシート状の生体吸収性高分子材である請求項1又は2に記載の生体吸収性チューブ。
【請求項4】
シート状の生体吸収性高分子材が溶媒を凍結乾燥で乾燥したシート状の生体吸収性高分子材である請求項1又は2に記載の生体吸収性チューブ。
【請求項5】
生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥させて成形されたシート状の生体吸収性高分子材が筒状に巻かれ、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を非凍結乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材がその周囲に筒状に巻かれ重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位が融着又は溶着されている2層構造であることを特徴とする生体吸収性チューブ。
【請求項6】
37℃の雰囲気下で長さ3cmの生体吸収性チューブを直径0.95cmのパイプに巻いても折れ曲がらない耐破折性を有している請求項3又は5に記載のを特徴とする生体吸収性チューブ。
【請求項7】
生体吸収性高分子が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(D体、L体、DL体)、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−P−ジオキサノン、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体、乳酸−グリコール酸共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−P−ジオキサノン共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−ε−カプロラクトン共重合体から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の合成高分子である請求項1から6までのいずれか1項に記載の生体吸収性チューブ。
【請求項8】
生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材を筒状に巻いた状態で重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位を融着又は溶着してチューブ状に成形することを特徴とする生体吸収性チューブの製造方法。
【請求項9】
厚さが0.01〜2mmのシート状の生体吸収性高分子材を用いる請求項8に記載の生体吸収性チューブの製造方法。
【請求項10】
溶媒の乾燥方法が凍結乾燥である請求項8又は9に記載の生体吸収性チューブの製造方法。
【請求項11】
溶媒の乾燥方法が非凍結乾燥である請求項8又は9に記載の生体吸収性チューブの製造方法。
【請求項12】
生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材を筒状に巻いた後に、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を非凍結乾燥させて成形したシート状の生体吸収性高分子材をその周囲に筒状に巻いた状態で外周側の生体吸収性高分子材の重なり合っているシート部の少なくとも外周側端縁近傍部位を融着又は溶着して2層構造のチューブ状に成形することを特徴とする生体吸収性チューブの製造方法。
【請求項13】
生体吸収性高分子が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(D体、L体、DL体)、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−P−ジオキサノン、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体、乳酸−グリコール酸共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−P−ジオキサノン共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−ε−カプロラクトン共重合体から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の合成高分子である請求項8から12のいずれか1項に記載の生体吸収性チューブの製造方法。