説明

生体吸収性組織再生誘導膜体

【課題】 患部に合わせて変形させることができ且つ変形後の形態を維持することができる生体吸収性組織再生誘導膜体を提供する。
【解決手段】 生体吸収性組織再生誘導膜体を、有孔性のシート状構造を成す従来の生体吸収性組織再生誘導膜に該生体吸収性組織再生誘導膜に装着されており患部に合わせて変形させた前記生体吸収性組織再生誘導膜体の形態を維持するための、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥せずに乾燥させて成形したまたは熱成形によりなされた孔構造のない補助材とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科,口腔外科,医科等の医療分野において歯周組織若しくは骨組織等の組織再生の目的で利用される生体吸収性組織再生誘導膜体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、歯科インプラント治療においてインプラント埋入部位の顎骨が充分な骨量を有している場合には、そのままインプラントフィクスチャーが植立されるが、顎骨の骨量が充分でない場合には、インプラントフィクスチャーの露出を伴う現象が多々生じてしまう。このような場合にはインプラントフィクスチャーの骨結合面積の確保,荷重負担による骨吸収の危険性軽減等の理由からインプラントフィクスチャーの露出部を生体吸収性組織再生誘導膜でカバーする処置が行われている。また、複数の歯が連続して欠如していたり無歯顎である患者に対しては、歯根となる複数のインプラントフィクスチャーを植立して、これに義歯やブリッジ等を取り付ける場合がある。この場合にインプラントフィクスチャーが植立される部位の顎骨の骨量が不足している場合には一般的な処置方法として顎骨の骨量が不足している部位に骨移植,骨充填剤の充填等の治療がインプラントフィクスチャーを植立する前に行われている。
【0003】
しかしながら、骨移植は自家骨では患者の負担が大きく採取量に限界があり、他家骨では感染,他タンパクの体内侵入等の問題がある。また、骨充填剤の充填では骨への置換が行われない等の欠点があった。
【0004】
従って、顎骨の骨量が不足している部位における歯科用インプラント治療は本来、患者自身の中で不足骨の補充が行われることが理想であるから、近年組織再生誘導膜による組織再生誘導法(GTR法)が確立され、歯科の臨床に用いられてきている。この組織再生誘導法(GTR法)は、骨量が不足している部位に骨組織獲得のための空間を生体吸収性組織再生誘導膜により骨膜下に与え、骨組織を誘導する方法である。
【0005】
また近年、歯根膜,セメント質,歯槽骨等の歯周組織が失われる歯周病の治療を行う場合にも、組織再生誘導法(GTR法)が適用されている。この場合の処置方法は、歯肉弁を開き、罹患した組織を戻した後に組織再生誘導膜を設置し、歯肉弁を閉じ縫合する処置方法であり、歯根膜,セメント質,歯槽骨等の歯周組織が失われた部位に対し、組織再生のための空間を与え、歯根膜由来の細胞を誘導しようとするものである。この方法には、最近では治療後の除去手術を不要とすべく、組織再生誘導膜に生体吸収性を有する材料が使用されるようになってきている(例えば、特許文献1〜4参照。)。
【0006】
このような生体吸収性組織再生誘導膜は種々の歯科,口腔外科,医科等の医療分野において歯周組織または骨組織等の組織再生の目的で利用されている。しかしながら、生体吸収性組織再生誘導膜は弾性を有することから、患部に合わせて変形させた場合であってもその直後に元の形状であるシート状に戻ってしまうため、例えば歯槽骨を覆うようなU宇に変形させ場合に、生体吸収性組織再生誘導膜を縫合やピンで固定するまでの間、変形させたU字型の形態を維持することが難しく、また複数のインプラントフィクスチャーを同時に植立するインプラント治療においてインプラントフィクスチャーが植立される部位の顎骨の骨量が不足している場合に顎骨の骨量が不足している各部位に連続した状態に骨組織再生等の目的で生体吸収性組織再生誘導膜を利用する場合も、生体吸収性組織再生誘導膜は弾性を有することから、患部に合わせて変形させた直後に元の形状であるシート状に戻ってしまうため、顎堤に沿って変形された生体吸収性組織再生誘導膜を縫合やピンで固定するまでの間、変形後の形態のままで維持することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−498号公報
【特許文献2】特開平7−188053号公報
【特許文献3】特開平7−265337号公報
【特許文献4】特開2002−85547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、患部に合わせて変形させることができ且つ変形後の形態を維持することができる生体吸収性組織再生誘導膜体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、生体吸収性組織再生誘導膜体を、有孔性のシート状構造を成す従来の生体吸収性組織再生誘導膜に該生体吸収性組織再生誘導膜に装着されており患部に合わせて変形させた前記生体吸収性組織再生誘導膜体の形態を維持するための、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥せずに乾燥させて成形するかまたは熱成形により成形された孔構造のない補助材とから構成させれば、補助材には孔が形成されておらず付形性に優れているために変形後の形態を有孔性の生体吸収性組織再生誘導膜より維持する能力があることを見出して本発明を完成したのである。
【0010】
即ち本発明は、組織を再生するための空間を与えて、そこに組織を誘導するための生体吸収性組織再生誘導膜体であって、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥させて成形された有孔性のシート状構造を成す生体吸収性組織再生誘導膜と、該生体吸収性組織再生誘導膜に装着されており患部に合わせて変形させた前記生体吸収性組織再生誘導膜体の形態を維持するための、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥せずに乾燥させて成形した補助材とから成ることを特徴とする生体吸収性組織再生誘導膜体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体は、患部に合わせて変形させることができ且つ変形後の形態を維持させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面中、1は本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体であり、生体吸収性組織再生誘導膜2と補助材3とから構成される。この生体吸収性組織再生誘導膜体1は治療のために組織を再生したい部位に組織を再生するための空間を与えることによって、組織を誘導するため役目をなす。
【0013】
生体吸収性組織再生誘導膜2を成す生体吸収性高分子は、ポリグリコール酸,ポリ乳酸,ポリ−ε−カプロラクトン,ポリ−P−ジオキサノン等の脂肪族ポリエステル及びそれらの共重合体例えば、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体,乳酸−グリコール酸共重合体,グリコール酸−トリメチレンカーボネート共重合体,グリコール酸−トリメチレンカーボネート−P−ジオキサノン共重合体,グリコール酸−トリメチレンカーボネート−ε−カプロラクトン共重合体等,前記脂肪族ポリエステルとポリエステルエーテルとの共重合体等から選ばれる1種または2種以上の高分子であることが好ましい。また、これらのホモポリマーやコポリマーは分子量が40,000〜500,000であることが好ましい。分子量が40,000未満では生体吸収性組織再生誘導膜2の硬さが低下する傾向があり、500,000を超えると生体吸収性組織再生誘導膜2が硬くなり過ぎる傾向が生じる。
【0014】
生体吸収性組織再生誘導膜2は、前記生体吸収性高分子を、塩化エチレン,クロロホルム,ジオキサン,トルエン,ベンゼン,ジメチルホルムアルデヒド,アセトン,テトラヒドロフラン等の有機溶媒に溶解させた後、凍結乾燥法により生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を乾燥あるいは凍結乾燥させることによって作製される。
【0015】
また生体吸収性組織再生誘導膜2は、孔のサイズが1〜50μmφで、有孔率が5〜95%を成し、厚さが0.01mm〜2mmである有孔性シート状構造を成すことが好ましい。これは、孔のサイズが1μmφ未満では生体吸収性組織再生誘導膜2の柔軟性が乏しくなり50μmφを超えると生体吸収性組織再生誘導膜2の表面が粗造化してスペースの確保が不充分となるからであり、また有孔率が5%未満では有孔性にした効果が認められず生体吸収性組織再生誘導膜2の柔軟性が劣り95%を超えると生体吸収性組織再生誘導膜2が柔軟になり過ぎスペース確保の操作が行いにくくなる。更に厚さが0.05mm未満では生体吸収性組織再生誘導膜2が薄く破れ易く操作性が低下し1mmを超えると生体吸収性組織再生誘導膜2が固くなり過ぎる。
【0016】
補助材3は、患部に合わせて変形させた生体吸収性組織再生誘導膜体1の形態を維持することができ、生体吸収性組織再生誘導膜2と同じ種類の生体吸収性高分子が使用可能である。即ち、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(D体、L体、DL体)、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−P−ジオキサノン等の脂肪族ポリエステル及びそれらの共重合体例えば、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体、乳酸−グリコール酸共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−P−ジオキサノン共重合体、グリコール酸−トリメチレンカーボネート−ε−カプロラクトン共重合体等,前記脂肪族ポリエステルとポリエステルエーテルとの共重合体等から選ばれる少なくとも1種または2種以上の合成高分子であることが好ましい。補助材3を構成する生体吸収性高分子は生体吸収性組織再生誘導膜2を構成する高分子と同じ物質であっても良い。
【0017】
補助材3は厚さが0.001mm〜0.5mmであって、生体吸収性組織再生誘導膜2の厚さの1/50〜10倍であることが好ましい。特に、補助材3の厚さが生体吸収性組織再生誘導膜2の厚さの1/50〜5倍であると、変形後の生体吸収性組織再生誘導膜体1の形態維持の点から最も好ましい。
【0018】
また補助材3の形成方法は、例えば図1に示す十字平面型や、図2に示す格子状型や、図3〜図5に示す骨組み型等に形作られた鋳型に流し込み冷却して成形したものや、シートから切り出して成形したものや、細い棒状等を組み合わせたものを使用できる。
【0019】
本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体1は、例えば、生体吸収性組織再生誘導膜2と補助材3を重ね合わせ、両材料のうちで最も低い生体吸収性高分子原料の融点近傍で溶着させたり、図6に示すように有機溶媒に生体吸収性高分子を溶解した生体吸収性組織再生誘導膜材料を型内に流し込んで生体吸収性組織再生誘導膜2に製膜する際に補助材3を溶着させたり、図7に示すように生体吸収性組織再生誘導膜2の片面に凹状の溝を形成した後にその凹状の溝に補助材3を生体吸収性接着剤4で接着させたり、図8に示すように有機溶媒に溶解された生体吸収性組織再生誘導膜材料を型内に流し込んで製膜した生体吸収性組織再生誘導膜2の上に補助材3を載せた後に有機溶媒に溶解された生体吸収性組織再生誘導膜材料を型内に流し込んで製膜することによって補助材3を生体吸収性組織再生誘導膜2に溶着させることによって作製する。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0021】
(実施例1)
生体吸収性組織再生誘導膜2の高分子原料として分子量約250、000のポリ−L−乳酸をジオキサンに溶解させた後に、縦2mm,横10mmであって且つ図3に示すような骨組み型の補助材3を挿入接着するため、幅1mm、深さ0.2mmの溝を形成することができる鋳型に流し込み、凍結乾燥することによって、厚さが0.4mmの生体吸収性組織再生誘導膜2を作製した。
同様に、分子量約400、000の乳酸−ε−カプロラクトン共重合体をジオキサンに溶解させた後に、縦2mm,横10mm,厚さ0.2mmの鋳型に流し込み凍結乾燥させずに室温で乾燥させてシートを作製し、先の生体吸収性組織再生誘導膜2に形成された溝と同一の形状に切り出すことによって補助材3を作製した。
その後、補助材3と生体吸収性組織再生誘導膜2とをジオキサンにより接着することによって生体吸収性組織再生誘導膜体1を作製した。
【0022】
この生体吸収組織再生誘導膜体1を無歯顎の石膏模型に植立されたインプラントフィクスチャー模型の口腔内側に巻き付けることにより設置したところ、生体吸収組織再生誘導
膜体1は、2分間は変形後の形態をほぼ維持することが確認できた。
【0023】
(実施例2)
生体吸収性組織再生誘導膜2の高分子原料として分子量約250、000のポリ−L−乳酸をジオキサンに溶解させた後に、縦20mm、横50mmであって且つ図4に示すような骨組み型の補助材3を圧接するため、幅2mm、深さ0.2mmの溝を形成することができる鋳型に流し込み、凍結乾燥することによって、厚さが0.4mm生体吸収性組織再生誘導膜2を作製した。
分子量約400、000の乳酸−ε−カプロラクトン共重合体を180℃にて熱プレスすることで厚さ0.2mmのシートを作製し、先の生体吸収性組織再生誘導膜2に形成された溝と同一の形状に切り出すことによって補助材3を作製した。
その後、補助材3と生体吸収性組織再生誘導膜2とを重ね合わせ、180℃にて溶着させることによって生体吸収性組織再生誘導膜体1を作製した。
【0024】
この生体吸収組織再生誘導膜体1を無歯顎の石膏模型の顎堤に沿うように変形させて設置したところ、生体吸収組織再生誘導膜体1は、2分間は変形後の形態をほぼ維持することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】生体吸収性組織再生誘導膜に十宇平面型の補助材を装着させた本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体を示す平面図。
【図2】生体吸収性組織再生誘導膜に格子状型の補助材を装着させた本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体を示す平面図。
【図3】生体吸収性組織再生誘導膜に骨組み型の補助材を装着させた本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体を示す平面図。
【図4】生体吸収性組織再生誘導膜に図3とは異なる骨組み型の補助材を装着させた本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体を示す平面図。
【図5】生体吸収性組織再生誘導膜に図3及び図4とは異なる骨組み型の補助材を装着させた本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体を示す平面図。
【図6】補助材が生体吸収性組織再生誘導膜の片面に溶着により装着されている本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体を示す断面図。
【図7】補助材が生体吸収性組織再生誘導膜の片面に凹設されている凹部内に生体吸収性接着剤4により接着されることにより装着されている本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体を示す断面図。
【図8】補助材が上下両面の生体吸収性組織再生誘導膜間に配備されている本発明に係る生体吸収性組織再生誘導膜体を示す断面図。
【符号の説明】
【0026】
1 生体吸収性組織再生誘導膜体
2 生体吸収性組織再生誘導膜
3 補助材
4 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織を再生するための空間を与えて、そこに組織を誘導するための生体吸収性組織再生誘導膜体であって、
生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥させて成形された有孔性のシート状構造を成す生体吸収性組織再生誘導膜と、該生体吸収性組織再生誘導膜に装着されており患部に合わせて変形させた前記生体吸収性組織再生誘導膜体の形態を維持するための、生体吸収性高分子が溶解された溶液の溶媒を凍結乾燥せずに乾燥させて成形した補助材とから成ることを特徴とする生体吸収性組織再生誘導膜体。
【請求項2】
生体吸収性高分子が、L−乳酸,DL−乳酸,グリコール酸,ε−カプロラクトンのホモポリマー及び/または、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体,乳酸−グリコール酸共重合体,グリコール酸−トリメチレンカーボネート共重合体,グリコール酸−トリメチレンカーボネート−P−ジオキサノン共重合体,グリコール酸−トリメチレンカーボネート−ε−カプロラクトン共重合体等,前記脂肪族ポリエステルとポリエステルエーテルとの共重合体等から選ばれる少なくとも1種または2種以上の高分子である請求項1に記載の生体吸収性組織再生誘導膜体。
【請求項3】
厚さが0.01〜2mmのシート状の生体吸収性組織再生誘導膜を用いる請求項1または2に記載の生体吸収性組織再生誘導膜体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−41647(P2011−41647A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191010(P2009−191010)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】