説明

生体吸収性血管内治療用材料

【課題】生体吸収性高分子からスプリングコイルを作製し、脳動脈瘤内部に留置することが可能な血管内治療用材料を提供する。
【解決手段】生体吸収性材料からなる材料を、カテーテル内部を通すことができる程度の直径を有するスプリングコイル状に成型したものである。前記材料をカテーテルの内部を通して脳動脈瘤内部を充填することにより、開頭手術をすることなく血管内治療法により脳動脈瘤を治療することが可能とになる血管内治療用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体吸収性高分子からなり、血管瘤内部に充填されて血管内治療に用いられる血管内治療用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
血管、特に脳内部に存在する径が1〜6mm程度の小中動脈の一部が瘤状あるいは紡錘状に膨れた部分を脳動脈瘤という。脳動脈瘤が大きくなると周囲の神経組織を圧迫し、動眼神経麻痺を起こしたりして脳神経麻痺症状をきたすことがある。
【0003】
脳動脈瘤を放置すると脳動脈瘤破裂を起こすことがあり、クモ膜下出血や大きな脳内出血をきたすこととなる。脳動脈瘤が破裂すると重篤な状態に陥ることが多く、脳動脈瘤破裂と同時に死亡するか、昏睡状態となることがある。死亡率は約50%と高率であり、治療を施したとしても再出血を起こす可能性も高く、治療を受けても重篤な後遺症が残る。
【0004】
したがって、検査などで脳動脈瘤が発見されて瘤が破裂する危険性が高いと判断された場合には、何らかの治療を行わなければならない。現在のところ、薬物を用いた内科的治療で動脈瘤の破裂を防止する事は不可能であり、物理的に脳動脈瘤内部への血流を遮断する必要がある。
【0005】
血流を遮断する方法としては、開頭して患部を観察しながら瘤部分を金属でクリップし、瘤の部分を閉鎖して破裂を防ぐクリッピング術がある。クリッピング術は目視下で患部を観察しながら治療することから確実に血流を遮断する方法ではあるが、全身麻酔下に開頭する必要があること、脳の深部に脳動脈瘤が発生した場合には視野が限られ手術操作が難しいという欠点がある。
【0006】
そこで、足の付け根の大腿動脈からカテーテルを挿入し、大動脈を通って頭部の脳動脈まで誘導し、このカテーテルを通して細い金属製コイルを脳動脈瘤の内部に詰めて、脳動脈瘤内に血液が流れ込むことを遮断するという、コイル塞栓術と呼ばれる血管内治療方法が開発され、特許文献1にあるような金属製コイルが実用化されている。コイル塞栓術は、局所麻酔下に治療を行うことも可能であり、脳に直接触れることもなく、さらには脳の深部であっても治療が可能であるという点でクリッピング術よりも優れている。塞栓効果を高めるために、金属コイルにポリマーを用いて生理活性物質を複合化させるという材料も開発されている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、金属製コイルによる脳動脈瘤の充填率があまり高くなく、金属性コイルの周囲に脳動脈瘤を満たすほどの十分な組織が再生されない。そのため、脳動脈瘤内部に隙間が存在することとなり、その隙間に血液が流れ込むこみ、治療効果が思ったほど得られずに脳動脈瘤が再発することもある。特に、巨大動脈瘤では動脈瘤の再発や再破裂が認められることがある。また、金属製コイルは永久に残存することから、瘤からコイルがずれたり飛び出したりする危険性もある。さらに、素材が金属であることから、術後の画像診断においてハレーションを引き起こしやすいという問題もあった。このような問題点を解決すべく、コイルをポリマーで作製する試みもなされている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特WO2004/062509号公報
【特許文献2】特表2005−526523号公報
【特許文献3】特表2005−503845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記現状に鑑み、柔軟で血管組織を損傷することなく脳動脈瘤内部を密に充填することが可能であり、材料が徐々に分解されて、ゆるやかな生体反応を惹起しつつ生体組織に置換されて確実に動脈瘤内への血流を遮断し、さらには術後の画像診断に影響を与えることがない生体吸収性血管内治療コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
血管内治療に用いられる材料に求められる性質としては、生体内の血管を通して目的部位に材料を移動させることが可能な程度にコンパクトにすることができ、さらには材料を目的部位に移動させる途中で血管内部を傷つけることがないよう、柔軟な素材であることが必要である。また、脳動脈瘤内部を密に充填するためには、充填材料が柔軟であり、かつ、弾性を有していることが必要となる。
【0011】
また、従来の材料は金属であることから生体内に永久に残存することとなり、治療後の画像診断においてハレーションを起こすなど、患部の観察に際して影響があった。したがって本発明に係る材料は、治療後は徐々に生体内で分解吸収されるとともに生体組織に置換され、画像診断に影響を与えない材料として生体吸収性高分子からなるものである。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明の血管内治療用スプリングコイルは生体吸収性高分子からなる。前記生体吸収性高分子はスプリングコイル状に成型されて血管内治療用スプリングコイルとなる。前記生体吸収性高分子は、生体内において徐々に分解、吸収される材料であれば特に限定されるものではないが、天然高分子であればコラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサンなどがあげられ、合成高分子であれば乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン、ジオキサノン、トリメチレンカーボネートのホモポリマー、あるいはこれらの中から選ばれる少なくとも2種以上の素材からなる共重合体などがあげられる。
【0013】
前記の生体吸収性高分子からなる材料を脳動脈瘤内部に留置すると、その周囲には生体反応により肉芽が形成され、脳動脈瘤内は徐々に生体組織によって充填されることとなる。また、材料はやがて分解して生体内から消失するので、慢性的な肉芽反応が軽減されるといった利点がある。
【0014】
なお、前記の生体吸収性高分子からなる材料の分解中に材料が破損し、材料の破片が血管内に流入することによって、血管内で塞栓物質とならないような分解速度を持つ材料であることが好ましい。また、治療初期には脳動静脈瘤内に出来るだけ材料充填することが可能であり、かつ血管壁を破らないようにするためには、フレキシブルな素材が好ましい。さらに、カテーテルから押し出し可能な強度も必要なことより、これらの性質を有する材料素材としては、脂肪酸ポリエステルの共重合体が好ましい。特に、分解速度と柔軟性を考慮するとε−カプロラクトンを成分とする共重合体が好ましい。このような要件を満たす材料としてはε−カプロラクトンとグリコール酸との共重合体、あるいはε−カプロラクトンと乳酸との共重合体を例示することができ、本発明の目的を達成するためにはとりわけ分解速度が緩やかなε−カプロラクトンと乳酸との共重合体を用いることが好ましい。
【0015】
本発明に係る材料は、動静脈瘤内で瘤の形状に合わせて変形する必要があり、かつ、脆弱になった血管壁を誤って傷つけないようにするために、形状はスプリングコイル形状が好ましい。スプリングコイル状であれば、どの位置でも折り曲げられるとともに、構造上は伸縮性を有するために理想的である。また、高分子素材であれば材料を熱セットすれば、コイルを解除した状態でカテーテルに挿入しても、材料がカテーテルから脳動静脈瘤内に押し出した時点でスプリングコイル形状が形成されるために、カテーテルより径が大きいスプリングコイルを使用することも可能である。
【0016】
また、スプリングコイルの素材として用いる高分子材料としては、医療用具として広く使用されている生体吸収性縫合糸を用いることが最も好ましい。用いる縫合糸の原材料や形状(モノフィラメント、マルチフィラメント)、太さを変えること、および、形成されるスプリングコイルのピッチや径を変えることで、対象となる動脈瘤の大きさ、強度に合わせた種々のスプリングコイルを作製することが可能である。形態安定性や成型性を考慮すると、モノフィラメント糸を用いることが好ましい。
【0017】
より充填率の高い治療効果を得るためには、スプリングコイルの素材にbFGF等の細胞成長因子を添加することができる。素材の中に細胞成長因子を練り込むことにより、スプリングコイルは成長因子の担体として用いることが可能であり、スプリングコイルの分解に従って細胞成長因子を徐々に放出することも可能である。細胞成長因子の作用によって、動脈瘤内部の組織再生が早くなり、治療期間を短縮することが期待できる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば生体の異物反応を利用して脳動脈瘤内部を生体組織で充填させ、血管内治療法により治療することを目的とした血管内治療用スプリングコイルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】スプリングコイルの側面図
【図2】カテーテルにスプリングコイルを充填した状態
【図3】評価に用いた動脈瘤モデル
【図4】評価に用いた動脈瘤モデルへのスプリングコイルの挿入方法
【符号の説明】
【0020】
1 スプリングコイル
11 カテーテル
21 血管モデルチューブ
31 血管瘤モデルポリエチレン袋
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。ただし、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0022】
(実施例1)
(1)ポリマーの重合
L−ラクチド288gとε−カプロラクトン76g、触媒300ppmをガラスアンプルに入れ、140℃、48時間重合後、GPC測定法による重量平均分子量51万のL−ラクチド/ε−カプロラクトン共重合体(モル比75/25)、(以下P(L−LA/CL)(モル比75/25)と記す。)を得た。
【0023】
(2)紡糸
得られたP(L−LA/CL)(モル比75/25)を押出機により、1穴のホールより押し出した後、温空気下で延伸操作を行い、直径0.092mm(USP規格6−0号相当)のモノフィラメント糸を得た。
【0024】
(3)コイルの形成
得られたUSP6−0号相当のモノフィラメント糸を、直径1.5mmのフッ素樹脂チューブに巻き付け固定する。真空乾燥器で130℃、2時間熱セットした後、フッ素樹脂チューブを抜き取り外径1.7mm、内径1.5mmのスプリングコイルを得た。
【0025】
(実施例2)
(1)紡糸
実施例1に記載の方法で得られたP(L−LA/CL)(モル比75/25)を押出機により、1穴のホールより押し出した後、温空気下で延伸操作を行い、直径0.042mm(USP規格8−0号相当)の糸を得た。
【0026】
(2)コイルの形成
得られたUSP規格8−0号相当の糸を直径0.9mmのフッ素樹脂チューブに巻き付け固定する。真空乾燥器で130℃、2時間熱セットした後、フッ素樹脂チューブを抜き取り外径1.0mm、内径0.9mmのスプリングコイルを得た。
【0027】
(実施例3)
(1)紡糸
実施例1に記載の方法で得られたP(L−LA/CL)(モル比80/20)を押出機により、16穴のホールより押し出した後、温空気下で延伸操作を行い、直径0.23mm(USP規格3−0号相当)の16フィラメントの糸を得た。
【0028】
(3)コイルの形成
得られたUSP規格3−0号相当の糸を直径1.5mmのフッ素樹脂チューブに巻き付け固定する。真空乾燥器で140℃、2時間熱セットした後、フッ素樹脂チューブを抜き取り外径2mm、内径1.5mmのスプリングコイルを得た。
【0029】
(評価)
図1に実施例1〜3で作製されたスプリングコイルの側面図を示す。図2に示すように、実施例1〜3の方法で作製したコイルを内径1.5mmのカテーテルに挿入した。図3に示すように、直径5mm、長さ1mのチューブの先に直径15mmのポリエチレンの袋をつけ、動脈瘤モデルとした。図4に示すように動静脈瘤イメージのチューブ先から、カテーテルを挿入し、先端のポリエチレン袋部分に留置した。
各実施例に示した吸収性高分子から作製したスプリングコイル状材料は、袋に沿って変形可能で、かつ、柔軟であるために袋内に充填することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、血管内治療法により脳動脈瘤を治療することが可能な、生体吸収性の血管内治療用スプリングコイルを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリングコイル形状を有する生体吸収性高分子からなり、カテーテル内部を通ることが可能であって、血管瘤内部に充填されることによって血管瘤を治療するために用いられる生体吸収性血管内治療用材料。
【請求項2】
生体吸収性高分子が脂肪族ポリエステルである請求項1に記載の生体吸収性血管内治療用材料。
【請求項3】
脂肪族ポリエステルがε−カプロラクトンの共重合体である請求項2に記載の生体吸収性血管内治療用材料。
【請求項4】
脂肪族ポリエステルが乳酸とε−カプロラクトンの共重合体、またはグリコール酸とε−カプロラクトンの共重合体である請求項3に記載の生体吸収性血管内治療用材料。
【請求項5】
細胞成長因子が複合化され、生体吸収性高分子の分解にともなって前記細胞成長因子が徐放されることを特徴とする請求項1から4に記載の生体吸収性血管内治療材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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