説明

生体情報測定便器

【課題】測定開始水位を設定するための吸引配管の詰まりが発生し難く、簡便な構造で高精度の生体情報測定を実行可能な生体情報測定便器を提供する。
【解決手段】生体情報測定便器10を構成する洋式便器11は、使用者の尿を受けるボール16と、ボール16内へ洗浄水を供給するリム吐水ノズル24aおよびゼット吐水ノズル24bと、ボール16と下水配管35とを連通する排水ソケット9と、下水配管35を水封する溜水W1を貯留するトラップ25と、を備えている。また、ゼット吐水ノズル24bへの給水管路24Jの途中に設けられた分岐部26から分岐して生体情報測定手段12に向かって連絡管路27が配管されている。連絡管路27は、ゼット吐水ノズル24bから異物除去手段29および開閉弁28を経由して、溜水移動手段32および水位測定手段31に連通されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋式便器を利用して被験者の排尿量や尿量率などの各種生体情報を測定することのできる生体情報測定便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の生体情報測定便器としては、洋式便器のボールに排泄された尿を、測定部に設けられた所定容器に吸引し、その体積を測定して尿量などの各種生体情報に換算するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、洋式便器に排泄された尿を測定系に吸引せず、便器のボール内における経時的な水位変動を測定し、予め記録された水位と便器ボール溜水量との関係データから、尿量や尿量率などの各種生体情報を測定するものがある(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−82783号公報
【特許文献2】国際公開2004/113630号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら特許文献1記載の排尿量測定装置および特許文献2記載の大便器ユニットはいずれも、ボール内に排尿された尿によってボール内の溜水が増えて便器のトラップの溢流水位以上となると、尿交じりの溜水がトラップに連通された下水配管に流出してしまい、測定自体が不可能となるため、測定に際しては、測定を開始するときのボール内の溜水の水位(以下、この水位を「測定開始水位」と呼ぶ)を溢流水位より少なくとも測定範囲分は下げておく必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の排尿量測定装置は、前回使用後の溜水供給によって貯留されたボール内の溜水を排水管で排出して測定開始水位を形成する方式であるため、使用待機中の状態から直ちに溜水を排出する動作を行うと、清掃作業などの際に溜水中にトイレットペーパーなどの異物が投入されていても、そのまま溜水を排出することになる。このため、この異物が排出管路の途中に引っ掛かると、管路詰まりが発生して測定準備動作ができなくなり、測定不能となることがある。
【0007】
一方、特許文献2記載の大便器ユニットの場合、測定開始水位形成は、便器に備えられた通常のトラップを排出管路としてサイホン現象を利用して行うため、前述した程度の異物では配管詰まりなどの不具合は発生しない。ところが、サイホン現象だけで測定開始水位を正確な位置に形成するためにはサイホン現象を制御するための高度な制御を必要とする。また、サイホン現象で排出した後に給水して測定開始水位形成を行う場合は、別途給水系が必要となる。
【0008】
さらに、特許文献1記載の排尿量測定装置の場合、測定する場合も尿交じりの溜水を測定部に移動させて、排尿による溜水量の変化を計測する方式であるため、尿に含まれている電解質による腐食を回避するために、測定管路を構成する配管、容器、開閉弁、ポンプなどに耐食性をもたせる必要がある。また、測定時に大便が排泄されたときには、溜水中に混入した固形物により、配管系統が詰まるおそれもある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、管路詰りの原因となる固形物を測定系に吸引することがなく、かつ、簡便な構造で高精度の生体情報測定を行うことのできる生体情報測定便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の生体情報測定便器は、
使用者の尿を受けるボールと、前記ボールと下水配管とを連通させ前記ボールの内容物を下水配管に排出する排出管路と、前記排出管路を構成し下水配管との連通を水封する溜水を貯留するトラップと、前記ボール内に前記溜水の形成を行う溜水供給手段と、前記溜水を排出して前記溜水水位を前記トラップの溢流水位より低い所定水位に形成する水位形成手段と、前記所定水位からの被験者が行う排泄行為による前記溜水の増加量を計測することによって生体情報を測定する生体情報測定手段と、を備えた生体情報測定便器において、
前記水位形成手段は、前記ボールの前記所定水位以下の位置に開口された流入口を一端として他端が前記ボール外へ連通する溜水排水管路と、前記溜水排水管路を経由して前記溜水をボール外へ移動させる溜水移動手段と、を有し、
前記ボール内の洗浄および内容物の排出後に前記溜水供給手段による溜水供給動作を行い、前記溜水供給動作の終了後、前記溜水移動手段を作動させることによって、前記所定水位の形成動作を行うことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすれば、ボール内の洗浄と内容物の排出を終わった後に行われる溜水供給動作によってトラップ内に供給される清浄な溜水を、直ちに溜水排水管路で排出して測定開始水位を設定することが可能となり、管路詰りの原因となる固形物を測定系に吸引することがないので、測定開始水位を設定するための溜水排水管路の固形物による詰まりが発生し難くなる。また、流入口から排出した溜水を、溜水排水管路を経由してボール外へ移動させるだけで、溢流水位より低い所定水位に、正確に測定開始水位を設定することができるため、簡便な構造で高精度の生体情報測定を行うことができる。
【0012】
ここで、前記所定水位の形成動作を測定動作終了後に行うようにすることができる。このような構成とすれば、前回の使用者が排尿を終えて測定動作が終わった後の溜水水位は、測定開始するのに必要な所定水位となっているため、次回使用者は生体情報測定便器を利用して直ちに生体情報測定を開始することができる。なお、所定時間は使用条件に応じて適切に設定することができるため、便器洗浄の溜水供給後に連続して前記溜水排出を行ったり、溜水供給後、若干の時間をおいて前記溜水排出を行ったりすることができる。
【0013】
また、前記溜水を前記ボール内に滞留させた状態で前記生体情報測定手段が前記計測を行うようにすることができる。このような構成とすれば、生体情報測定時に、ボール内にある排泄物混じりの溜水を測定管路内で移動させることなく、ボール内に滞留させたまま測定可能となるため、尿中電解質などの溜水以外の成分の移動による測定管路内の腐食や管路詰まりなどの不具合を生じない。
【0014】
ここで、前記溜水移動手段により前記ボール内から移動した溜水を貯留する溜水貯留手段を設け、前記溜水排水管路の前記他端は前記ボール内に開口する流出口を有し、測定終了後、前記溜水貯留手段に貯留された溜水を前記流出口から前記便器ボール内流出させるようにすることができる。このような構成とすれば、水の無駄な排出を抑制することができ、節水効果を得ることができる。
【0015】
一方、前記溜水排水管路の前記他端は、前記ボールから前記下水配管に連通する排出管路に開口する流出口を有し、前記流入口からボール外に流出した溜水を前記下水配管へ排出するようにすることもできる。このような構成とすれば、溜水が貯留されることなく直ちに下水配管に排出され、排泄物中の微生物等で汚染される可能性の高い溜水が溜水排水管路で滞留することがなくなるため、装置に感染的な汚染状態が発生しにくくなり、メンテナンス作業なども衛生的に行うことができる。
【0016】
ここで、前記溜水排水管路および前記流出口を前記所定水位より低い位置に配置すれば、流出口から排出された溜水を重力の作用により自然排出することができるため、測定開始水位形成のための溜水移動手段は管路を開閉する開閉弁を設置するだけでよいこととなる。従って、ポンプなどの特別な構成を必要とせず、装置構成が単純となるため、装置コストも低下する。
【0017】
また、前記溜水排水管路に溜水中の異物を除去する異物除去手段を設ければ、流入口から吸引した溜水中の異物によって測定経路が詰まるのを防止することができる。
【0018】
さらに、前記所定水位形成動作中に便器へ接近する人間を検知したとき前記所定水位形成動作を停止するようにすることもできる。このような構成とすれば、ボール内の溜水を流入口から溜水排水管路へ排出している最中に、使用者の測定に係るものだけでなく、溜水へのゴミ投入などのイタズラ的な処遇を受けたり、ボール内へ固形物が排泄されたりすることがあっても、固形物などによって溜水排水管路への流入口や測定経路が詰まるのを防止することができる。
【0019】
また、前記ボール内の溜水の濁度が閾値を超えたとき前記溜水移動手段の動作を停止するようにすることもできる。このような構成とすれば、ボール内の溜水を流入口から溜水排水管路へ排出している最中に、ボール内へ投げ込まれた異物や溜水の濁りなどに起因する固形物によって溜水排水管路への流入口や溜水排水管路が詰まるのを防止することができる。
【0020】
この場合、前記ボール内の溜水の濁度が閾値を超え前記溜水移動手段の動作が停止した後、前記溜水供給手段が便器洗浄を実行するようにすることが望ましい。このような構成とすれば、ボール内の汚水を排出した後、清浄な溜水を貯留し直すことができるため、測定開始水位設定のために排出する溜水によって溜水排水管路への流入口や溜水排水管路が詰まるのを防止することができるだけでなく、測定管路系などへの汚れ蓄積による生体情報測定精度の低下を回避することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、管路詰りの原因となる排泄物を測定系に吸引することなく、かつ、簡便な構造で高精度の生体情報測定を実行可能な生体情報測定便器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明の第一実施形態について説明する。図1は本発明の第一実施形態である生体情報測定便器を示す斜視図、図2は図1に示す生体情報測定便器のシステムブロック図、図3は図1に示す生体情報測定便器の一部省略断面図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の生体情報測定便器10は、使用者の排泄物を受けて下水配管35へ排出する洋式便器11と、生体情報測定手段の一つである排尿情報測定手段12および制御手段13などが内蔵されたキャビネット14と、洋式便器11の側方壁面に配置された操作・表示部20と、を備えている。洋式便器11は、使用者が着座する便座15と、ボール16および便座15を開閉可能に覆う便蓋17と、採尿器18aおよび採尿アーム18bを有する採尿ユニット18と、を備えている。操作・表示部20は、洋式便器11に設けられた衛生洗浄装置23を操作するためのリモコン19と、排尿情報測定手段12を機能させるためのリモコン21と、生体情報測定結果を印刷するプリンタ22と、を備えている。
【0024】
図2に示すように、排尿情報測定手段12には、水位測定手段31、溜水移動手段32が設けられている。制御手段13には、検量線記憶手段38、生体情報演算手段39および情報記憶手段40が設けられている。なお、成分分析等を行うため排泄された尿の一部を採取する採尿ユニット18および局部を洗浄する衛生洗浄装置23は、本発明の生体情報測定便器を構成する必須要件ではない。
【0025】
図3に示すように、洋式便器11は、使用者の尿を受けるボール16と、ボール16内へ洗浄水を供給するリム吐水ノズル24aおよびゼット吐水ノズル24bと、ボール16と下水配管35とを連通する排水ソケット9と、下水配管35を水封する溜水W1を貯留するトラップ25と、を備えている。止水栓3の下流に配置された水路切替手段4において、リム吐水ノズル24aへの給水管路24Lと、ゼット吐水ノズル24bへの給水管路24Jと、に分岐されている。
【0026】
また、ゼット吐水ノズル24bへの給水管路24Jの途中に設けられた分岐部26から分岐して排尿情報測定手段12に向かって連絡管路27が配管されている。連絡管路27は、ゼット吐水ノズル24bから異物除去手段29を経由して、溜水移動手段32および水位測定手段31に連通されている。溜水移動手段32と水位測定手段31との間には、連絡管路27を開閉する開閉弁28が配置されている。本実施形態では、異物除去手段29はストレーナ、水位測定手段31は圧力センサであり、溜水移動手段32は容積式ポンプであるが、これらに限定するものではない。
【0027】
溜水移動手段32は、便器洗浄時に行われる溜水供給手段としてのリム吐水ノズル24aによるボール16への溜水供給後、溜水排水管路への流入口としてのゼット吐水ノズル24bから、溜水排水管路としての連絡管路27を経由して、溜水W1を一定量だけ吸引することにより、その水位を、溢流水位Hより低い測定開始水位W1Lに設定する機能を有している。溜水移動手段32による測定開始水位W1Lへの設定の後、開閉弁28を開放し、溜水W1と水位測定手段31の間の連絡管路27を測定管路として連通させる。
【0028】
水位測定手段31は、ボール16内の溜水W1と連通する連絡管路27を介して溜水W1の水圧を測定する機能を有している。使用者がボール16へ排尿すると溜水W1の水位が測定開始水位W1Lより上昇するので、そのときの水圧変化を水位測定手段31で計測する。そして、水位測定手段31による測定値と、予め入力された検量線記憶手段38の記録データと、に基づいて、生体情報演算手段39が排尿量や尿量率などの各種生体情報を算出して、情報記憶手段40に記録するとともに、その測定結果が操作・表示部20に表示される。
【0029】
ここで、図3,図4および図5に基づいて、生体情報測定便器10の動作について説明する。図4は図1に示す生体情報測定便器の通常動作のタイミングチャート、図5は図1に示す生体情報測定便器において準備中に入室された場合のタイミングチャートである。
【0030】
待機状態にある生体情報測定便器10においては、ボール11内の溜水W1の水位は、既に、図3に示すように、溢流水位Hよりも低い測定開始水位W1Lに設定されている。これは、前回の使用者の洗浄操作による便器洗浄時に行われる溜水供給手段による溜水供給後、溜水移動手段32が作動して、ゼット吐水ノズル24bを経由してボール16中の溜水W1から一定量だけ吸引することにより、その水位を、溢流水位Hより低い測定開始水位W1Lまで下げていることによる。
【0031】
生体情報測定便器10が配置されたトイレに使用者が入室し、リモコン21に対して準備操作を行うと、準備中の表示がされ、排尿情報測定手段12が起動される。測定準備が完了すると、リモコン21に準備完了報知が表示されるので、使用者は脱衣して便座15上に着座し、ボール16に向かって排尿する。この場合、男性は起立姿勢で排尿しても良い。使用者の尿が溜水W1へ流入すると、その水位は測定開始水位W1Lより上昇し、溜水W1の水圧が変化するので、その変化量が、ゼット吐水ノズル24bおよび連絡管路27を介してボール16内の溜水W1と連通する水位測定手段31によって計測される。そして、水位測定手段31による測定値と、予め入力された検量線記憶手段38の記録データと、に基づいて、生体情報演算手段39が排尿量や尿量率などの各種生体情報を算出するとともに情報記憶手段40に記憶させる。
【0032】
排尿が終了し、使用者がリモコン21に対して所定の終了操作を行うと、尿量や尿量率などの生体情報測定値がリモコン21の表示部に表示される。この後、リモコン21に所定の出力操作を行うと、尿量などの生体情報測定値が印字された紙片がプリンタ22から出力される。なお、情報記憶手段40は、この実施形態に限定されず、IDカードや半導体メモリなどのほか、生体情報測定便器10が設置された病院などの院内LANを介して接続されているサーバーなどを用いることができる。
【0033】
排尿終了後、使用者が便器洗浄操作を行うと、リム吐水ノズル24aからの給水、ゼット吐水ノズル24bからの給水が行われてボール16面の洗浄と、ボール16内およびトラップ25内の尿混じりの溜水W1の下水配管35への排出と、が行われる。その後、再び溜水供給手段としてのリム吐水ノズル24aからボール16内へ一定時間、給水が行われ、これによってボール16内に、溢流水位Hまでの溜水W1が貯留される。
【0034】
便器洗浄時の溜水供給が終わり、溜水W1の水位が溢流水位Hに達した後、所定時間経過すると、溜水移動手段32としての容積式ポンプが一定時間作動し、ゼット吐水ノズル24bから連絡管路27を経由してボール16中の溜水W1から一定量だけ吸引されて容積式ポンプを構成する密閉式タンク32aに貯留されるので、その水位は、溢流水位Hより低い測定開始水位W1Lに設定され、通常の待機状態となる。このような一連の動作は自動的に行われるため、使用者は便器洗浄操作を行った後、トイレから自由に離室することができる。この時、連絡管路27は溜水排水管路として、またゼット吐水ノズル24bは溜水排水管路への溜水の流入口としてそれぞれ機能することになる。
【0035】
以上のように、生体情報測定便器10においては、便器洗浄時に行われる溜水供給後にトラップ25内に貯留される清浄な溜水W1を吸引して測定開始水位W1Lを設定するので、測定開始水位W1Lを設定するための連絡管路27の詰まりが発生し難い。また、溜水W1の溜水排水管路への流入口となるゼット吐水ノズル24bから吸引した溜水W1を、溜水移動手段32によって連絡管路27を経由してボール16外へ移動させるだけで、溢流水位Hより低い位置に測定開始水位W1Lを設定することができるため、排尿情報測定手段12が簡便な構成となる。さらに、本実施形態では、溜水移動手段32として採用している容積式ポンプは正確な量の水を吸引できるため、測定開始水位W1Lの位置再現性が高く、その結果として、高精度の生体情報測定を行うことができる。なお、それ程高精度が要求されない場合は、容積式ポンプに代えて通常の吸引ポンプを使用することも可能である。その場合は、吸引した溜水を貯留するためには密閉式タンク32aに代わる貯留タンクを別途設ける必要がある。
【0036】
また、生体情報測定便器10では、便器洗浄が終わった後、直ちに溜水移動手段32による吸引が行われるため、次回使用者は、待機状態にある生体情報測定便器10を利用して速やかに生体情報測定を開始することができる。この場合、便器洗浄が終わった後、溜水移動手段32による吸引が開始されるまでの時間は、使用条件に応じて適切に設定することができるため、便器洗浄に連続して前記吸引を行ったり、便器洗浄後、若干の時間をおいて前記吸引を行ったりすることができる。
【0037】
さらに、連絡管路27の途中に異物除去手段29を配置したことにより、溜水排水管路への流入口(ゼット吐水ノズル24b)から吸引した溜水W1中にある異物は、この異物除去手段29で除去されるため、連絡管路27の詰まりを防止することができる。
また、図3に示すように、便器洗浄後の溜水W1の一部を排出するための溜水移動手段32として容積式ポンプを使用し、その密閉式タンク32a内に溜水W1を吸引するので、溜水吸引量が安定しており、測定開始水位W1Lの位置再現性が高く、結果として、高精度の生体情報測定を行うことができる。
【0038】
また、密閉式タンク32a内に吸引され貯留されていた溜水は、測定が終わった後に、連絡管路27を逆流させてゼット吐水ノズル24bからボール16内に排出される。従ってこの時、密閉式タンク32aは溜水貯留手段として、また吐水ノズル24bは溜水排水管路からの溜水の流出口としてそれぞれ機能する。また、密閉式タンク32aに貯留された水をボール16に戻す場合、便器洗浄時に容積式ポンプによって勢い良く戻して、リム吐水と合わせてトラップ25に対して給水することでサイホン現象の発生を促したり、サイホン切れの直前に吐水してサイホン現象の継続を促したりすることができる。
【0039】
次に、図5に基づいて、生体情報測定便器10の準備動作中に入室された場合の動作について説明する。図5に示すように、前回の使用者がトイレから離室した後、便器洗浄が終わり、溜水移動手段32による溜水W1の吸引が行われているとき(準備中)に、次回の使用者がトイレに入室した場合、図示しない人体検知手段が入室を検知すると、直ちに溜水移動手段32(容積式ポンプ)が停止する。そして、リム吐水ノズル24aおよびゼット吐水ノズル24bから給水され、通常の便器洗浄が行われた後、リム吐水ノズル24aからの給水および溜水移動手段32による溜水W1の吸引が行われ、測定開始水位W1Lに設定される。これらの過程において使用者が準備操作を行うと、測定開始水位W1Lの設定が完了した後、準備完了報知が行われるので、その後、前述と同様の過程を経て生体情報測定を行うことができる。
【0040】
このように、生体情報測定便器10においては、溜水移動手段32による溜水W1の吸引が行われているとき(準備中)に、次回の使用者がトイレに入室した場合、誤ってトイレットペーパーなどを溜水W1中へ投入するような事例も想定される。このような事例であっても、固形物を吸引することが無いように、直ちに溜水移動手段32(容積式ポンプ)が停止する。そして、再びボール16内の洗浄と内容物の排出動作を行った後、溜水を供給する溜水供給動作を行い、供給された溜水を吸引する。このため、ボール16内の溜水W1を吸引している最中に、ボール16内へ排泄された固形物により、溜水排水管路への流入口となるゼット吐水ノズル24bや連絡管路27が詰まるのを防止することができる。
【0041】
次に、図6,図7に基づいて、便器洗浄方式が前述した洋式便器11と異なる方式の洋式便器を用いて生体情報測定便器を構成した場合に好適な本発明の第二の実施形態の動作について説明する。洋式便器11以外の構成は全て第一実施形態と同じであるため説明は省略し、ここではその動作のみを説明する。図6は第二実施形態である生体情報測定便器の通常動作のタイミングチャート、図7は第二実施形態の生体情報測定便器において準備中に入室された場合のタイミングチャートである。
【0042】
本実施形態において想定しているのは、便器洗浄動作時に旋回流を用いて洗浄および汚物を排出する方式の洋式便器を使用して生体情報測定便器を構成した場合の事例である。本方式はボール外周の略接線方向に洗浄水を吐水してボール内面の洗浄力を高めたものであるが、その吐水時間が長すぎると排泄物は全て溜水中央に集合気味となる。一方、本発明の生体情報測定便器においては、測定時の溜水水位が溢流水位より低位置に設定されているため、計測終了後に行う便器洗浄動作時における汚物排出工程でのサイホン現象を安定的に発生させるためには、その前に溜水水位を高める工程を実施しなければならない。その工程を便器洗浄工程の前工程として組込み、リム給水時間を長めにすると、前述したように、溜水中央に固まり気味となった排泄物はサイホン現象による排出後にも便器ボール内にその飛沫を若干残してしまうことがある。そこで、本洗浄方式は、排泄物が溜水中央に集合気味となる現象に配慮したものである。
【0043】
本実施形態の場合、図6に示すように、使用者が入室して、排尿し、リモコン21に対して所定の終了操作を行うまでは、前述した生体情報測定便器10と同様である。ところが、生体情報測定便器10では排尿に伴う溜水水位の変化を測定するために、一般的に溢流水位Hであるはずの溜水水位が、測定開始水位W1Lに低下している。一般の洋式便器11に比べ、溜水の貯留量が少ないので、図6に示すように、使用者がリモコン21に対して所定の終了操作を行うと、尿量や尿量率などの生体情報測定値がリモコン21の表示部に表示されるのと並行して、リム吐水ノズルからボールへ給水が行われ、ボール内の溜水が溢流水位に復水する。この後、使用者が便器洗浄操作を行うと、生体情報測定便器10の場合と同様の便器洗浄および測定開始水位の設定が行われる。
【0044】
また、本実施形態において、準備中に入室された場合、図7に示すように、直ちに溜水移動手段32(容積式ポンプ)が停止するところまでは、前述した生体情報測定便器10と同様であるが、停止直後、ボール内の溜水が溢流水位に復水するまで、リム吐水ノズルからボールへ給水が行われた後、便器洗浄が行われる。また、図6の場合と同様、使用者がリモコン21に対して所定の終了操作を行うと、尿量や尿量率などの生体情報測定値がリモコン21の表示部に表示されるのと並行して、リム吐水ノズルからボールへ給水が行われ、ボール内の溜水が溢流水位に復水する。
【0045】
このように、本発明の生体情報測定便器は、旋回流洗浄方式の洋式便器を用いて構成することも可能であり、通常の洋式便器11を用いて構成した場合と同様の機能、効果を得ることができる。
【0046】
次に、図8〜図10を参照して、本発明の第三、第四実施形態について説明する。図8は本発明の第三実施形態である生体情報測定便器の一部省略断面図、図9は本発明の第四実施形態である生体情報測定便器のシステムブロック図、図10は本発明の第四実施形態である生体情報測定便器の一部省略断面図、図11は本発明の第五実施形態である生体情報測定便器の一部省略断面図である。なお、図8〜図11において、図1〜図3に示す生体情報測定便器10の構成部分と同じ構造、機能を有する部分は図1〜図3と同じ符号を付して説明を省略する。
【0047】
図8に示す生体情報測定便器50においては、上端部が大気中へ開放された測定管52が、開閉弁51を介して、溜水移動手段32(容積式ポンプ)を構成する密閉式タンク32aに連通されている。開閉弁51を開くと、ボール16内の溜水W1の水位と測定管52内の水位とが同一となる。即ち、便器洗浄後の溜水W1を、溜水移動手段32(容積式ポンプ)を構成する密閉式タンク32a内に吸引して待機し、生体情報測定時は測定管52への管路も開放して、溜水水位変化を水位測定手段31(圧力センサ)で測定することにより、排尿後のボール16内の溜水W1の水位変化を測定して、尿量や尿量率などの生体情報を測定する。
【0048】
溜水W1と水位測定手段31との間を連通する測定経路となる連絡管路27を前述した実施形態のように密閉管路で構成した場合は、排尿に伴う溜水W1の水位の波立ちは、そのまま溜水水位変化として水位測定手段31に伝達される。しかし、本実施形態のように、測定経路となる連絡管路27に開放管である測定管52を連接させた構成とすれば、溜水W1の水位の波立ちによる水位変動力は、開放された測定管52によって逃がされることになるため、測定される水位変動の脈動が抑制されることになる。特に排尿終了後の溜水W1の水位の波立ちは、短時間で制振されるという技術的効果がある。
【0049】
次に、図9,図10に基づいて、本発明の第四実施形態について説明する。本実施形態の生体情報測定便器60の構成は図9に示す通りであり、ボール16に流入口(ゼット吐水ノズル24b)を持つ溜水排水管路の他端が排水トラップ63を介して洋式便器11の排出管路(排水ソケット9)に連通され、ボール16から排出される溜水が直ちに下水配管に排出される。このようにした溜水排水管路の構成が、前述した第一、第二実施形態と異なるだけで、その他の構成は同じとなっている。
【0050】
図9,図10に示す生体情報測定便器60においては、開閉弁28の上流側で連絡管路27から分岐し、排水ソケット9の開口部64と連通した排水経路61を設け、この排水経路61の途中に、溜水移動手段32として機能するポンプPおよび排水トラップ63を設けている。開閉弁62を開くと連絡管路27と連通する溜水移動手段32(ポンプP)で便器洗浄後の溜水W1を吸引し、排水経路61を経由して、溜水排水管路からの溜水を流出させる流出口として排水ソケット9に設けられた開口部64から排出管路内(排水ソケット9内)へ排出することによって、測定開始水位W1Lを設定する。
【0051】
測定開始水位W1Lの設定後、開閉弁62を閉じると排水経路61が閉塞されるので、排尿による連絡管路27内の水圧変化を水位測定手段(圧力センサ)31で測定することにより、排尿後のボール16内の溜水W1の水位変化を測定し、尿量や尿量率などの生体情報を測定する。このように吸引した溜水を直接、排出管路に排出する構成とすれば、排泄物中の微生物等によって汚染される可能性の高い溜水が測定経路に留まる部分が無いため、測定系に感染的な汚染状態が発生しにくいという技術的効果がある。
【0052】
次に、図11に基づいて、本発明の第五実施形態について説明する。図11に示すように、生体情報測定便器70においては、連絡管路27から分岐し、排水ソケット9内と連通する排水経路71を設け、排水経路71の途中に溜水移動手段32としてのポンプPおよび排水トラップ73を設けて溜水排水管路を構成している点は、前述した第四実施形態の生体情報測定便器60と同じである。ただし、開閉弁28の上流側で連絡管路27から分岐し、上端部が大気中に開放された校正管75を設け、校正管75の途中に開閉弁77を設けている点が異なっている。
【0053】
本実施形態の生体情報測定便器70の場合、便器洗浄実施時には、開閉弁28、開閉弁72、開閉弁77および開閉弁76は閉止している。そして、便器洗浄後、溜水W1が清浄になった後、まず開閉弁76と開閉弁77を開け、校正管75に溜水W1を供給して満水化させ溢流させる。
【0054】
次に、開閉弁77を閉じ、開閉弁76と開閉弁72を開いた後、連絡管路27と連通するポンプPで便器洗浄後の溜水W1を吸引し、排水経路71を経由して開口部74から排水ソケット9内へ排出することによって、測定開始水位W1Lを設定した後、ポンプPを停止させるとともに開閉弁72を閉止する。
【0055】
測定に際しては、事前に水位測定手段(圧力センサ)31の出力を校正する。具体的には、開閉弁76と開閉弁72を閉止した状態で、開閉弁77と開閉弁28を開放して、校正管75の水位に伴う圧力を水位測定手段(圧力センサ)31に印加する。このとき、校正管75の高さは物理的に一定であるから、水位測定手段(圧力センサ)31は絶対値校正される。
【0056】
次に、開閉弁76を開け、連絡管路27内の水圧変化を水位測定手段(圧力センサ)31で測定することにより、排尿開始から排尿終了までのボール16内の溜水W1の水位変化を測定し、尿量や尿量率などの生体情報を測定する。校正管75の溢流水位は、トラップ25の溢流水位Hより低く、測定開始水位W1Lより高い位置に設定されており、排尿に伴う溜水W1の水位変化によって、校正管75から溢流することはない。このような構成とすることにより、大気開放された校正管76による溜水脈動の制振効果と、水位測定手段(圧力センサ)31の絶対校正による溜水水位測定精度の向上とを両立することができるという技術的効果が得られる。
【0057】
なお、以上述べた各実施形態では、溜水供給手段としての機能をリム吐水ノズル24aに持たせて、溜水供給動作を通常の便器洗浄時の一連の便器洗浄動作に組み込んでいるが、本発明の要点の一つは、ボール内の洗浄と内容物の排出の動作を行った後に供給される清浄な溜水をボール外に排水して測定開始水位を形成する点にある。従って、便器洗浄動作をボール内の洗浄と内容物の排出の動作のみ行うものとして構成し、便器洗浄動作終了後に溜水供給動作を独立して行う構成としても良い。また、溜水供給手段としての機能をリム吐水ノズル24aではなく、別に設けた吐水口に持たせた構成としても良い。
【0058】
さらにまた、以上述べた各実施形態においては、生体情報の測定が終了した後に、測定開始水位となる所定水位を形成して待機状態となる構成としているが、前述した理由により、この所定水位を形成する動作も、測定後に行うのではなく、待機状態時は溢流水位としておき、測定開始前にこの所定水位を形成する動作を行う構成としても良い。このような構成とすれば、本発明の生体情報測定便器を生体情報測定に使用する場合、測定準備動作に多少時間を必要とするが、通常の便器として使用する場合は溢流水位に保たれボール内の溜水面が広く且つ溜水深さも深い状態あるため、便器ボール面への便付着の可能性がより少なくなるという効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の生体情報測定便器は、尿量や尿量率などの生体情報測定を必要とする病院のトイレや一般家庭のトイレなどにおいて広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第一実施形態である生体情報測定便器を示す斜視図である。
【図2】図1に示す生体情報測定便器のシステムブロック図である。
【図3】図1に示す生体情報測定便器の一部省略断面図である。
【図4】図1に示す生体情報測定便器の通常動作のタイミングチャートである。
【図5】図1に示す生体情報測定便器において準備中に入室された場合のタイミングチャートである。
【図6】本発明の第二実施形態である生体情報測定便器の通常動作のタイミングチャートである。
【図7】本発明の第二実施形態である生体情報測定便器において準備中に入室された場合のタイミングチャートである。
【図8】本発明の第三実施形態である生体情報測定便器の一部省略断面図である。
【図9】本発明の第四実施形態である生体情報測定便器のシステムブロック図である。
【図10】本発明の第四実施形態である生体情報測定便器の一部省略断面図である。
【図11】本発明の第五実施形態である生体情報測定便器の一部省略断面図である。
【符号の説明】
【0061】
3 止水栓
4 水路切替手段
9 排水ソケット
10,50,60,70 生体情報測定便器
11 洋式便器
12 排尿情報測定手段
13 制御手段
14 キャビネット
15 便座
16 ボール
17 便蓋
18 採尿ユニット
18a 採尿器
18b 採尿アーム
19,21 リモコン
20 操作・表示部
22 プリンタ
23 衛生洗浄装置
24a リム吐水ノズル
24b ゼット吐水ノズル
24J,24L 給水管路
25 トラップ
26 分岐部
27 連絡管路
28,51,62,72,76,77 開閉弁
29 異物除去手段(ストレーナ)
31 水位測定手段(圧力センサ)
32 溜水移動手段(容積式ポンプ)
32a 密閉式タンク
35 下水配管
38 検量線記憶手段
39 生体情報演算手段
40 情報記憶手段
52 測定管
61,71 排水経路
63,73 排水トラップ
64,74 開口部
75 校正管
H 溢流水位
P ポンプ(溜水移動手段)
W1 溜水
W1L 測定開始水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の尿を受けるボールと、前記ボールと下水配管とを連通させ前記ボールの内容物を下水配管に排出する排出管路と、前記排出管路を構成し下水配管との連通を水封する溜水を貯留するトラップと、前記ボール内に前記溜水の形成を行う溜水供給手段と、前記溜水を排出して前記溜水水位を前記トラップの溢流水位より低い所定水位に形成する水位形成手段と、前記所定水位からの被験者が行う排泄行為による前記溜水の増加量を計測することによって生体情報を測定する生体情報測定手段と、を備えた生体情報測定便器において、
前記水位形成手段は、前記ボールの前記所定水位以下の位置に開口された流入口を一端として他端が前記ボール外へ連通する溜水排水管路と、前記溜水排水管路を経由して前記溜水をボール外へ移動させる溜水移動手段と、を有し、
前記ボール内の洗浄および内容物の排出後に前記溜水供給手段による溜水供給動作を行い、前記溜水供給動作の終了後、前記溜水移動手段を作動させることによって、前記所定水位の形成動作を行うことを特徴とする生体情報測定便器。
【請求項2】
前記所定水位の形成動作が測定動作終了後に行われることを特徴とする請求項1記載の生体情報測定便器。
【請求項3】
前記溜水を前記ボール内に滞留させた状態で前記生体情報測定手段が前記計測を行うことを特徴とする請求項1または2記載の生体情報測定便器。
【請求項4】
前記溜水移動手段により前記ボール内から移動した溜水を貯留する溜水貯留手段を設け、前記溜水排水管路の前記他端は前記ボール内に開口する流出口を有し、測定終了後、前記溜水貯留手段に貯留された溜水を前記流出口から前記便器ボール内流出させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体情報測定便器。
【請求項5】
前記溜水排水管路の前記他端は、前記ボールから前記下水配管に連通する排出管路に開口する流出口を有し、前記流入口からボール外に流出した溜水を前記下水配管へ排出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体情報測定便器。
【請求項6】
前記溜水排水管路および前記流出口を前記所定水位より低い位置に配置したことを特徴とする請求項5に記載の生体情報測定便器。
【請求項7】
前記溜水排水管路に溜水中の異物を除去する異物除去手段を設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体情報測定便器。
【請求項8】
前記所定水位形成動作中に便器へ接近する人間を検知したとき前記所定水位形成動作を停止することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体情報測定便器。
【請求項9】
前記ボール内の溜水の濁度が閾値を超えたとき前記溜水移動手段の動作を停止することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体情報測定便器。
【請求項10】
前記ボール内の溜水の濁度が閾値を超え前記溜水移動手段の動作が停止した後、前記溜水供給手段が便器洗浄を実行することを特徴とする請求項9記載の生体情報測定便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−285887(P2007−285887A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113651(P2006−113651)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】