説明

生体情報計測装置、及び、生体情報計測方法

【課題】 適切な力でセンサーユニットを生体に密着させる動作を簡易な構造で実現し、動作不良の少ない携帯型生体情報計測器を提供する。
【解決手段】 生体の所定の部位にセンサー面を密着させることで生体情報を計測するセンサー部と、前記センサー部を制御する制御部と、前記センサー部及び前記制御部を一体的に保持する内胴と、前記内胴を前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に移動可能に支持する外胴と、前記外胴と前記内胴との間に設けられ、前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に弾性変形することにより前記センサー面を前記生体側に押しつける弾性部材と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報計測装置、及び、生体情報計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脈波などの生体情報を計測する携帯型生体情報計測装置として腕時計タイプの脈波計測器が知られている。このような脈波計測器は、手首に装着する計測機器本体と、電気ケーブルにより計測機器本体に接続される小型センサーユニットとを用いて脈波を計測することができる。脈波を計測する際には、伸縮するサポーターを用いて指にカフ圧を加えながら小型センサーユニットを指に密着させ、当該指から光学的に脈波を検出する(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−142162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の計測装置(脈波計測器)によれば、日常生活中や運動中においても継続して生体情報(脈波)を計測することができる。しかし、特許文献1に記載の計測装置では、指にセンサーユニットを装着することによる違和感や、手を使った作業を行なう場合にセンサーユニットを接続するケーブルやセンサーユニット自体が邪魔になる等の問題があった。
【0005】
これに対して、センサーユニットを腕時計型計測器本体の裏蓋側に設け、高感度のセンサーを用いて手首の皮膚密着面から脈波を検出するタイプの携帯型計測装置が開発されている。このような計測装置では、精度の良い検出を行なうために、センサー部を可動式にして手首方向に移動させることで、センサー面を手首の皮膚に密着させる。このような携帯型の計測装置では、センサー部の可動構造が複雑化することや、センサー部の移動に伴う当該センサー部の故障や移動時に動作不良が発生しやすくなるという問題がある。
【0006】
本発明では、適切な力でセンサーユニットを生体に密着させる動作を簡易な構造で実現し、動作不良の少ない携帯型生体情報計測器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、生体の所定の部位にセンサー面を密着させることで生体情報を計測するセンサー部と、前記センサー部を制御する制御部と、前記センサー部及び前記制御部を一体的に保持する内胴と、前記内胴を前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に移動可能に支持する外胴と、前記外胴と前記内胴との間に設けられ、前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に弾性変形することにより前記センサー面を前記生体側に押しつける弾性部材と、を備える生体情報計測装置である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態おける脈波計測器の装着時の状態を表す概略図である。
【図2】脈波計測器の構造を説明するための分解図である。
【図3】脈波計測器を裏側(センサー面の側)から見た状態を表す斜視図である。
【図4】外胴11と内胴15との接続について説明する図である。
【図5】比較例の場合の脈波計測器装着時において、生体(手首)にかかる圧力について説明する図である。
【図6】本実施例の場合の脈波計測器装着時において、生体(手首)にかかる圧力について説明する図である。
【図7】変形例における本体部10の組み立て方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
生体の所定の部位にセンサー面を密着させることで生体情報を計測するセンサー部と、前記センサー部を制御する制御部と、前記センサー部及び前記制御部を一体的に保持する内胴と、前記内胴を前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に移動可能に支持する外胴と、前記外胴と前記内胴との間に設けられ、前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に弾性変形することにより前記センサー面を前記生体側に押しつける弾性部材と、を備える生体情報計測装置。
このような生体情報計測装置によれば、適切な力でセンサーユニットを生体に密着させる動作を簡易な構造で実現し、動作不良も少なくして生体情報の計測をすることができる。
【0011】
かかる生体情報計測装置であって、前記外胴は前記センサー面に対して垂直な方向に沿って形成される案内壁を有し、前記内胴の外周部が前記案内壁にガイドされることによって、前記内胴が前記センサー面に対して垂直な方向に移動することが望ましい。
このような生体情報計測装置によれば、案内壁によって内胴の移動方向がセンサー面に対して垂直な方向に制限される。したがって、手首の動きが激しい場合などでも、手首に対して垂直にセンサー面を密着させることができる。
【0012】
かかる生体情報計測装置であって、前記内胴は、前記外胴と該外胴に取り付けられる止め板とによって、前記センサー面に対して垂直な方向に移動する量を制限されることが望ましい。
このような生体情報計測装置によれば、外胴から内胴が抜け落ちることを防止することができる。
【0013】
かかる生体情報計測装置であって、前記外胴には、前記内胴の移動量を示すインジケーターが表示されることが望ましい。
このような生体情報計測装置によれば、生体に装着した際の内胴の移動量が当該インジケーターの表示量によって表されるため、適正な装着状態の目安について、視覚によって簡単に確認することができる。
【0014】
かかる生体情報計測装置であって、前記外胴に接続されるバンドを備え、前記生体情報は手首の脈波であり、前記バンドを前記手首に巻きつけて前記外胴及び前記外胴に支持される前記内胴を前記手首に装着することによって、前記手首の脈波を計測することが望ましい。
このような生体情報計測装置によれば、手首のような動作の大きい部位に装着した場合であっても、バンドによる締め付け力を調節しつつ、適正な圧力でセンサー面を手首に押し付けることによって、正確な脈波を計測することができる。
【0015】
また、生体の所定の部位にセンサー面を密着させることで生体情報を計測するセンサー部及び前記センサー部を制御する制御部を、内胴が一体的に保持することと、外胴が、前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に前記内胴を移動可能に支持することと、前記外胴と前記内胴との間に設けられた弾性部材が、前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に弾性変形することにより前記センサー面を前記生体側に押しつけることと、を有する生体情報計測方法が明らかとなる。
【0016】
===実施形態===
発明を実施するための生体情報計測装置の形態として、腕時計型の脈波計測器1を例に挙げて説明する。
【0017】
<脈波計測器の構成について>
図1は、本実施形態おける脈波計測器の装着時の状態を表す概略図である。図2は、脈波計測器の構造を説明するための分解図である。図3は、脈波計測器を裏側(センサー面31が設けられる側)から見た状態を表す斜視図である。
【0018】
図1〜図3に示すように、本実施形態の脈波計測器1は、本体部10と、モジュール30と、装着部40と、コイルばね55とを備えている。脈波計測器1は腕時計型に形成され、手首(生体)に装着することにより、手首の血管から生体情報として脈波を計測する。ここで、「脈波」とは、生体のある部分の血管に血液が流れることによって生じる血管の変化(容積変化)を波形として表したものである。
【0019】
脈波計測器1について説明するために、本明細書中では図1のようにX,Y,Z軸を設定する。すなわち、腕時計型の脈波計測器を手首に装着する際に、手首の測定部位に対して垂直な方向(後述するセンサー部に設けられるセンサー面31と垂直な方向)をZ軸とする。なお、図1のZ軸の矢印方向で示されるように、本体部10が手首と接触している側をZ軸の正方向とする(以下、Z軸方向とも呼ぶ)。そして、Z軸と垂直な平面上で腕(手首)と平行な方向にX軸を設定し、X軸と直交する方向にY軸を設定する。脈波計測器1はY軸方向に伸びる1対のバンド(装着部40)を手首に巻きつけることによって、Z軸方向にセンサー面31(後述)を向けるようにして手首に装着(固定)される。
【0020】
本体部10は、外胴11と、止め板12と、止めネジ13と、内胴15と、裏蓋16と、裏蓋パッキン17とを備える。なお、本体部10の全体形状は図1〜図3に示されるような略円柱形状でなくてもよく、直方体形状等としてもよい。
【0021】
外胴11は、Z軸方向に内胴15をスライド移動可能に支持する支持部であるとともに、本体部10の最外郭を構成するケーシングに相当する。図2に示されるように、外胴11は内胴15の上面側(図2でZ軸方向の反対側)の外周形状に合わせた開口部を有し、内胴15の上面部が該開口部に嵌るようになっている。開口部下部の内側の側面にはセンサー面31(後述)に垂直な方向(Z軸方向)に沿って案内壁が形成されている。この案内壁によって内胴15の外周部がガイドされることにより、内胴15はZ軸方向にスライド移動する。なお、外胴11の案内壁と内胴15の外周部との間には所定の隙間を有し、外胴11と内胴15とを組み合わせた時に「すきまばめ」の状態となる。
【0022】
本体部10を組み立てる際には、外胴11の案内壁に沿って下面側(図のZ軸方向であり、手首と接触する側)から内胴15が挿入された後、さらに外胴11の下面側から止めネジ13を用いて止め板12が取り付けられる(図2及び図3参照)。内胴15は、外胴11と止め板12とによって上下に挟みこまれることでZ軸方向の移動量が制限される。つまり、当該止め板12は内胴15が外胴11からZ軸方向に抜け落ちるのを防止するためのストッパーとしての機能を有する。
【0023】
外胴11の側部には、内胴15の外周部に設けられた操作ボタン(突起)との干渉を防ぐために、該操作ボタン形状に合わせた切欠部を有する。また、外胴11のY軸方向側部には、装着部40(バンド41)が接続される。
【0024】
内胴15は、後述するモジュール30を内部に収容して保持しながら、外胴11の案内壁に沿って該モジュール30と一体的に移動可能な可動部である。内胴15の内部には空洞部が設けられ、該空洞部にモジュール30を収容した後、下面側(図2のZ軸方向であり、手首と接触する側)から裏蓋16が固定される。また、内胴15に裏蓋16を固定する際には、内胴15と裏蓋16との間に裏蓋パッキン17が挟み込まれる。裏蓋パッキン17は内胴15と裏蓋16との隙間から汗等の水分が流入することを抑制するシール部材であり、内胴15の内部に収容されているモジュール30の密閉性を高めることで、モジュール30を外部環境から保護している。裏蓋16はセンサー収納穴としての開口部を有している(図2参照)。センサー収納穴はモジュール30に設けられるセンサー部を固定・保持し、センサー部から照射される光を通過させるための穴である。センサー部の詳細については後述する。
【0025】
内胴15の上面側(Z軸反対方向であり、手首と接触しない方の側)は樹脂等の透明な素材で形成され、後述する表示パネルに表示される情報を上面側から視認できるようしつつ、該表示パネルを保護している。なお、上面はガラスで形成されていてもよい。
【0026】
また、内胴15の周囲には、後述するコイルばね55を保持するコイルばね保持穴が設けられる。図2では、X軸方向及びY軸方向にそれぞれ2箇所、合計4箇所のコイルばね保持穴が設けられる。コイルばね保持穴は設置されるコイルばね55の数に応じて設けられる。また、内胴15の側部には、データ表示の切り替えや、脈波計測を行なう際の設定等に用いるための各種操作ボタンが設けられる。
【0027】
モジュール30は、脈波を計測するためのセンサー部、該センサー部の制御を行なうセンサー制御部(不図示)、表示パネル等を1つにまとめたユニットである。センサー部やセンサー制御部等の各種機器を一体的な構成とすることにより、内胴15が外胴11に対してスライド移動する際にも、モジュール30全体を一体的に移動させることができる。仮に、センサー部とセンサー制御部が別個のユニットであり、センサー制御部が固定され、センサー部だけを可動させようとする場合、センサー部とセンサー制御部とを接続するコネクターや配線基板を可動させる必要が生じる。この場合、当該接続部においてコネクターの断線等の問題が生じるおそれがある。しかし、本実施形態のように各種機器をユニットとして一体化することにより、センサー部を可動させる場合においても上述のような問題は生じにくくなるため、安定した脈波計測を実現することができる。
【0028】
センサー部は、生体情報(本実施形態においては手首の血管の脈波)を計測するための検出部である。センサー部は、金属で形成される枠の内部にセンサー光源、フォトダイオード、及びセンサー回路基板(全て不図示)等が設けられ、手首と接する側の端部(Z軸方向の端部)に透明な樹脂やガラスからなる平板状のセンサー面31が設けられる(図3参照)。本実施形態では、センサー部は円筒形のパイプ型形状であり、センサー面31は円形の平板である。センサー面31は樹脂で形成された裏蓋16の円筒形枠に溶着、または、防水性のあるシーリング材を用いて取り付けられ、汗等がセンサー部に流入しないようになっている。
【0029】
なお、裏蓋16は金属素材としてもよい。裏蓋16を金属製とする場合は、脈波計測時においてユーザーの手首に接触する可能性が高いため、皮膚への刺激が少ないチタンなどの金属素材を用いることが望ましい。
【0030】
センサー部は裏蓋16に設けられたセンサー収容穴に嵌め込むようにしてモジュール30に固定され、センサー面31がZ軸方向に対して垂直となるように取り付けられる。また、センサー部が裏蓋16に固定され、当該裏蓋16が内胴15に取り付けられることにより、センサー部が内胴15に保持される構造であってもよい。この場合でも、内胴15に保持されたモジュール30とセンサー部とが一体的に移動するため、上述のような問題は生じにくく、安定した脈波計測を行なうことが可能である。
【0031】
本実施形態ではセンサー光源としてLEDが用いられる。脈波を計測する際には、まずセンサー部の内部に設けられたLEDから手首の皮膚表面に対して光が照射される。照射された光はセンサー面31を透過して手首に届き、手首内部を流れる血流にて反射し、再びセンサー面31を透過して受光部であるフォトダイオードで検出される。検出される反射光は計測部位(手首)に流れる血液の量によって変化するので、当該変化量を電気信号に変換することで、手首における脈波を計測することができる。照射される光の波長領域、及び受光部の波長領域を適切に調整することにより、高精度な脈波検出が可能となる。なお、センサー光源としてLED以外の他の光源を用いることも可能である。
【0032】
このように本実施形態の脈波計測器では、反射光を検出することによって脈波の計測を行なうことから、光源から光を照射する際、及び血液による反射光を検出する際に外光の影響を極力小さくすることが重要である。脈波の計測中にセンサー面31から外光が入射すると正確な検出をすることができなくなるからである。したがって、生体情報を計測する際には、センサー面31を被計測部位(本実施形態においては手首)に密着させる必要がある。
【0033】
また、脈波の計測中にセンサーの位置がズレると正確な計測ができなくなるおそれがある。したがって、センサー面31は適切な圧力で被計測部位(手首)に押し付けられて、位置が移動しない状態であることが望ましい。
【0034】
センサー制御部は、センサー部を駆動して脈拍を検出する回路や、表示パネルを駆動する回路などを有する(全て不図示)。
【0035】
表示パネルは、計測した脈波のデータや現在の時刻等の各種情報を表示するデータ表示部である。表示パネルに表示されるデータは、脈波計測器1を手首に装着した際に内胴15の上面側の透明なガラス(樹脂)面を透して視認される面であり(図2参照)、当該表示情報をユーザーが視覚的に確認できるようになっている。なお、脈拍計測器1で計測したデータを、無線等を用いて外部の情報処理装置(コンピュータ等)に送信できるようにしておくことも可能であり、そのような場合には必ずしも表示パネルが設けられなくてもよい。
【0036】
装着部40は、脈波計測器1を生体に装着する際に用いられ、本体部10に支持されているモジュール30(センサー部)を生体の被計測部位(本実施形態では手首)の位置に取り付ける。装着部40は、図1〜図3に示されるような1対のバンド41からなり、手首に巻きつけて締めることで、本体部10を手首に装着させ、脈波計測中にセンサー部の位置がずれないようにする。バンド41の端部には、該バンド41を本体部10の外胴11に接続するための接続突起42を有する。
【0037】
バンド41を締める際に締め付ける力が強すぎると、手首の血流が阻害されて正確な脈波データを取得することができなくなる。一方、正確な脈波計測を行なうためには、血流(血管)に対して所定の圧力(カフ圧)を加えながら計測を行なう必要がある。したがって、バンド41による締め付けは適切な力で行なわれる必要がある。
【0038】
<外胴11と内胴15との接続について>
次に、本体部10における外胴11と内胴15との接続の詳細について説明する。図4は外胴11と内胴15との接続について説明する図である。図は本体部10をYZ断面の様子を表している。
【0039】
本体部10の外胴11と内胴15との間には、脈波計測器1を用いて脈波を計測する際に、内胴15をZ軸方向(手首方向)に押し付けるように弾性力を作用させる弾性部材が設けられる。本実施形態においては、弾性部材としてコイルばね55が用いられる。コイルばね55の一端は内胴15の上面側の周囲4箇所に設けられたコイルばね保持穴(図2参照)に挿入され、他端は外胴11の開口部裏側に設けられた段状の部分にかかるように設けられる。内胴15に負荷がかかっていない状態(脈波計測器1を手首に装着していない状態)においては、図4に示されるようにコイルばね55が内胴15をZ軸方向に押すような状態で保持している。なお、内胴15の外周部側面には段つき部が設けられ、当該段つき部が止め板12に引っかかることにより、内胴15のZ軸方向の移動が制限される。これにより、内胴15が外胴11から抜け落ちることが防止される。
【0040】
本実施形態の脈波計測器1では、内胴15の外周部が外胴11の案内壁に案内されながらZ軸に沿ってスライド移動する。コイルばね55は内胴15がZ軸に沿ってスライド移動するのに応じてZ軸方向に弾性変形する。すなわち、内胴15がZ軸の反対方向(手首側と反対の方向)へ押し込まれると、コイルばね55が圧縮され、元の形状に戻ろうとする反発力によって内胴15をZ軸方向(手首側)へ押し戻そうとする。これによって、センサー面31を手首側に押し付ける力が発生する。
【0041】
設置されるコイルばね55の数量やコイルばね55の弾性係数は、脈波計測器を手首に装着した状態において適切な力でセンサー面を手首に押し付けることが可能となるように決定される。
【0042】
なお、コイルばね55は、内胴15に対してZ軸方向に反発力を加えられるように設置される。つまり、センサー面31に対して垂直な成分(Z軸方向成分)を含む方向に弾性変形すればよいのであって、図4においてコイルばね55をZ軸方向に対して斜めに設置してもよい。また、弾性部材としてはコイルばね55以外の部材を用いることも可能である。例えば、Z軸方向成分を含む方向に弾性変形するエラストマー等を用いてもよい。
【0043】
===脈波計測を行う際の留意点===
脈波計測器1を用いて実際に脈波を計測する際には、図1に示されるように腕時計のように手首(生体)に装着した状態で計測を行なう。この計測時における留意点について説明する。
【0044】
<比較例>
まず、比較例として、本体部10において、外胴11に対して内胴15が可動しない場合の例について説明する。すなわち、本体部10に対してモジュール30(センサー部)がZ軸方向にスライド可動しない脈波計測器について説明する。
【0045】
図5は、比較例の場合の脈波計測器装着時において、生体(手首)にかかる圧力について説明する図である。図は脈波計測器を手首に装着した時のYZ平面上の一断面を表している。比較例では、本体部10が内胴と外胴とに分かれておらず、図5のように一体として構成され、本体部10および裏蓋16で挟み込むようにして内部にセンサー部を含むモジュール30が固定されている。
【0046】
前述のように、手首の脈波を正確に計測するためには、センサー部のセンサー面31が適切な力で手首に押し付けられ、計測中にセンサーの位置がズレないように本体部10(センサー部)がしっかりと装着されていることが必要である。そのため、比較例のような脈波計測器では、バンド41をなるべくきつく締めることによって本体部10(センサー部)を被計測部位(手首)に装着していた。しかし、手首に巻きつけられたバンド41による締め付け圧力が大きい場合、図5の白抜き矢印で示されるような力によって手首内部の脈波計測対象となる細動脈(血管)が四方から圧迫され、血流が阻害されるおそれがある。一方、バンド41による締め付けが緩すぎると、本体部10がしっかりと手首に装着されないためセンサー部の位置がずれてしまったり、センサー面から外光が入射してしまったりするおそれがある。そのため、比較例のような構成の脈波計測器の場合、正確な脈波データを計測することが難しかった。
【0047】
<実施例>
上述の比較例に対して、内胴15が可動可能な本実施例の場合について説明する。
図6は、本実施例の場合の脈波計測器装着時において、生体(手首)にかかる圧力について説明する図である。図はYZ平面上の一断面を表し、左側半分の図は脈波計測器を装着する前の状態を、右側半分の図は脈波計測器を装着した後の状態を示している。
【0048】
本実施例では、外胴11に対して内胴15がZ軸方向にスライド移動可能な構造となっている。上述のように、脈波計測器を手首に装着する際には、装着部40(バンド41)を締め付ける必要があるが、本実施例の場合には、装着時において内胴15(センサー部)がZ軸反対方向(手首と逆の方向)にスライド移動することによって、手首を締め付ける圧力が緩和される。このとき、外胴11と内胴15との間に設けられたコイルばね55が圧縮され、その反発力によって内胴15にZ軸方向(手首方向)の力が作用する。これにより、内胴15内に保持されたモジュール30にもZ軸方向の力が働き、センサー面31が手首側に押し付けられる。具体的に言うと、左側の図で未装着時においては、内胴15が移動していないため、コイルばね55は圧縮されない。一方、右側の図で脈波計測器を手首に装着すると、内胴15が外胴11内に押し込まれるようにスライド移動してコイルばね55を圧縮し、その反発力によって手首に対して適正な圧力が加えられる。
【0049】
つまり、本実施例ではバンド41を締め付けると、内胴15がZ軸反対方向にスライド移動することによって、手首の締め付けが緩和される。同時に、圧縮されたコイルばね55の反発力によって、センサー面31が手首側に適切な力で押し付けられ、密着する。これにより、図5の白抜き矢印で示されるようなZ軸方向(手首方向)の圧力が手首に働き、細動脈を不必要に圧迫して血流を阻害することなく、センサー面31をしっかりと手首に密着させることができる。
【0050】
また、手首のような動きの激しい部位に装着するタイプの脈波計測器(例えば腕時計型脈波計測器)では、手首の動きに追従してセンサー面31を手首に押し付けることが要求される。すなわち、手首が回転したりする場合にも、常にセンサー面31と垂直な方向に該センサー面が押し付けられていることが必要である。
【0051】
この点、本実施例では、図4で説明したように、外胴11の内側側面に設けられる案内壁にガイドされることによって内胴15がセンサー面31と垂直な方向(Z軸方向)に移動する。つまり、案内壁によって移動方向を制限されることによって、内胴15(センサー面31)を常にZ軸方向に移動させることができる。これにより、手首の動き方によらず、脈波計測時においてセンサー面31を手首に密着させることができる。また、案内壁によって内胴15の周囲全体がガイドされることから、スライド可動構造として単純であり、かつ、強固で安定した構成であると言える。
【0052】
そして、センサー部を含むモジュール30全体が内胴15及び外胴11によって外部環境から保護されているため、脈波計測器の使用環境に対する耐性が高い。例えば、生体情報を計測する際には、生体から排出される汗など水分や汚れからセンサー部や制御部を保護しなければならない。これに対して、本実施形態のモジュール構造ではセンサー面31以外のほとんどの部分が内胴15の内部に収容されているため、汚れ等の影響を受けにくい。また、モジュール30が内胴15と外胴11とによって2重に保護されているため、外部からの衝撃に対する耐性も大きくなる。
【0053】
したがって、本実施形態の脈波計測器1は生体(特に、手首のような動きの激しい部位)に装着するのに適しているといえる。
【0054】
<本実施例の効果>
本実施例の脈波計測器によると、手首に装着する際にバンドを不必要に強く締め付ける必要が無いため、脈波計測時に手首の血流が阻害されにくくなる。すなわち、バンドの締め付けを強くしなくても、外胴11に対して内胴15がセンサー面と垂直な方向に移動することにより、弾性部材(コイルばね55)の反発力によって適切な力でセンサー面を手首に密着させる。このような簡易な構造の携帯型脈波計測器によって、高精度な脈波計測を行うことが可能になる。
【0055】
そして、脈波を計測するセンサー部、それを制御するセンサー制御部、それらを接続するコネクター等がユニット化されてモジュール30として一体に構成されている。内胴15が移動する際にはセンサー部及びセンサー制御部等が一緒に移動するので、脈波計測時における動作不良等を生じにくくすることができる。例えば、センサー制御部が固定されていてセンサー部のみが移動するような場合には、センサー部の動作によって接続コネクター等も可動するため、予期せぬ干渉や経年劣化を生じるおそれがある。しかし、本実施形態では内胴15が移動しても内部のモジュール自体は変動しないため、内胴の動作に起因する不具合や故障が生じにくくなり、脈波計測器の動作不良も生じにくくなる。
【0056】
また、本実施形態では、外胴11に設けられる案内壁にガイドされながら内胴15がセンサー面31と垂直な方向に移動する。案内壁によって移動方向が制限されるので、手首の動きに影響されず、手首に対して垂直にセンサー面31を密着させることができる。
【0057】
<変形例>
本実施形態の一例として、以下のような変形例とすることもできる。
図7に、変形例における本体部10の組み立て方法について説明する図を示す。上述の実施例では、本体部10を組み立てる際に、外胴11の下面側(Z軸方向側)から内胴15を挿入した後、外胴11の下面側から止め板12を固定していた。一方、変形例では、外胴11の下側に止め板12に代えて段付部を有する。そして、外胴11の上部には飾り縁14が設けられる。
【0058】
本体部10を組み立てる際には、飾り縁14を取り付ける前に外胴11の上側から案内壁に沿って内胴15を挿入する。内胴15の挿入後にコイルばね55を設置して、外胴11の上側から飾り縁14を取り付け、固定ネジ18を用いて飾り縁を外胴11に固定する。コイルばね55は内胴15と飾り縁14との間で伸縮することによって反発力を発生させ、内胴15を手首側(Z軸方向)に押し付ける。このとき、飾り縁14と外胴11の案内壁下部に設けられた段付部とによって、内胴15はZ軸方向の移動量を制限される。つまり、飾り縁14は、外胴11の上面側(Z軸反対方向側)から内胴15が筒抜けすることを防止する止め板(ストッパー)としての機能を有している。
【0059】
本変形例では、本体部10を上面側から組み立てることができるので、組み立てやメンテナンスが容易になる。また、手首に接触する側に止めネジが設けられないので、汗によって当該ネジ部に錆が発生する等の問題を抑制することができる。
【0060】
また、他の変形例として、外胴11の開口部の周囲に、内胴15の移動量を示すインジケーターを表示してもよい。
【0061】
例えば、図2の開口部内側に沿って着色し、インジケーターを設ける。この場合、脈波計測器の装着時において内胴15が移動していない状態では、外胴11の着色部(インジケーター)が視認される。一方、内胴15が上側(Z軸の反対方向)に押し込まれるように移動すると、外胴11の内部に表示されていた着色部(インジケーター)が内胴15によって隠れる。脈波計測器の適正な装着状態におけるインジケーターの表示量(インジケーターが隠れる量)をあらかじめ決めておけば、内胴15の移動量を確認することで、適正な装着状態の目安とすることができる。
【0062】
また、内胴15の移動量に応じて色分けをしてもよい。例えば、内胴15の移動量が適正となるときは青色の表示が視認できるように着色し、移動量が足りないときは赤色の表示が視認できるように着色する。すなわち、コイルばね55の弾性力に応じて、センサー部を手首に密着させるための圧力が適正となる範囲をインジケーターにより明示する。脈波計測器を装着したユーザーは、インジケーターの表示を確認して、インジケーターが青色で表示される範囲に入るようにバンド41の締めつけ力を調整する。また、インジケーターとして、色で表示するのでなく、直接目盛りを表示してもよい。
【0063】
視覚を通じて確認することにより、センサー面の押し付け力が強すぎたり弱すぎたりすることなく、適切な力で手首に密着させて計測を行なうことができる。
【0064】
===その他の実施形態===
一実施形態として脈波計測器を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0065】
<生体情報計測装置について>
前述した実施形態では、生体情報計測装置として脈波を計測する装置について説明されていたが、計測する生体情報は脈波には限られない。例えば、血圧の計測等、センサーを計測部位に密着させることで生体情報を計測するタイプの計測装置に対して本発明を適用することができる。
【0066】
<脈波計測器について>
前述した実施形態において説明される脈波計測器は、手首に装着して脈波を計測する腕時計型の計測器であったが、腕時計型の計測器には限られない。例えば、手首ではなく上腕部に装着するタイプの計測器や、ベルトを用いて胴に装着するタイプの計測器等、腕時計型以外の脈波計測器にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 脈波計測器
10 本体部、11 外胴、12 止め板、13 止めネジ、14 飾り縁、
15 内胴、16 裏蓋、17 裏蓋パッキン、18 固定ネジ、
30 モジュール、31 センサー面、
40 装着部、41 バンド、42 接続突起
55 コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の所定の部位にセンサー面を密着させることで生体情報を計測するセンサー部と、
前記センサー部を制御する制御部と、
前記センサー部及び前記制御部を一体的に保持する内胴と、
前記内胴を前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に移動可能に支持する外胴と、
前記外胴と前記内胴との間に設けられ、前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に弾性変形することにより前記センサー面を前記生体側に押しつける弾性部材と、
を備える生体情報計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体情報計測装置であって、
前記外胴は前記センサー面に対して垂直な方向に沿って形成される案内壁を有し、
前記内胴の外周部が前記案内壁にガイドされることによって、前記内胴が前記センサー面に対して垂直な方向に移動することを特徴とする生体情報計測装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の生体情報計測装置であって、
前記内胴は、前記外胴と該外胴に取り付けられる止め板とによって、前記センサー面に対して垂直な方向に移動する量を制限されることを特徴とする生体情報計測装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の生体情報計測装置であって、
前記外胴には、前記内胴の移動量を示すインジケーターが表示されることを特徴とする生体情報計測装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の生体情報計測装置であって、
前記外胴に接続されるバンドを備え、
前記生体情報は手首の脈波であり、
前記バンドを前記手首に巻きつけて前記外胴及び前記外胴に支持される前記内胴を前記手首に装着することによって、
前記手首の脈波を計測することを特徴とする生体情報計測装置。
【請求項6】
生体の所定の部位にセンサー面を密着させることで生体情報を計測するセンサー部及び前記センサー部を制御する制御部を、内胴が一体的に保持することと、
外胴が、前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に前記内胴を移動可能に支持することと、
前記外胴と前記内胴との間に設けられた弾性部材が、前記センサー面に対して垂直な成分を含む方向に弾性変形することにより前記センサー面を前記生体側に押しつけることと、
を有する生体情報計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−31597(P2013−31597A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169838(P2011−169838)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】