生体注入材、及び美容・医療用バルク材
【課題】 生体に注入しても安全で、また、生体に吸収され難く、長期間に亘って注入部位に残存する生体注入材、及び美容・医療用バルク材を提供する。
【解決手段】 キトサン類と、コラーゲンとを含む複合ゲルからなることを特徴とする生体注入材、及びキトサン類と、コラーゲンとを含む多孔質体からなることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【解決手段】 キトサン類と、コラーゲンとを含む複合ゲルからなることを特徴とする生体注入材、及びキトサン類と、コラーゲンとを含む多孔質体からなることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体材料に関し、特に生体内へ注入する生体注入材、及び生体内へ移植するための美容・医療用バルク材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体材料の需要は非常に多い。例えば、しわ伸ばしを目的とした皮下組織へ注入するための生体材料や、先天的な異常、後天的な異常、病気等による身体の欠損の補填、胸部や臀部を大きくするといった美容目的の補填等をするための生体材料が必要とされている。しかしながら、生体内に安全に注入、又は挿入することができる生体材料は極めて少ない。
【0003】
なお、生体内に注入する材料としては、現在、コラーゲンやヒアルロン酸が一般的に使用されている。
【0004】
コラーゲンは生体親和性がよく、細胞の足場材料として使用されることが多いが、動物由来のコラーゲンは、牛や豚由来であり、動物の種類により固有の性質を有するため拒絶反応やアレルギー反応が起こりやすいという問題や、人畜共通の感染症が問題となっている。また、生体内において吸収されるのが非常に早いという問題もある。
【0005】
一方、ヒアルロン酸は、合成物であり安全性も高いが、注入後数ヶ月から半年程度で吸収されてしまうという問題がある。そこで、分解される速度を遅くするために、非吸収物質であるハイドロゲルを混入させた「スーパーヒアルロン酸」、「ダーマライブ」、「アクアミド」などが開発されている。しかしながら、粒子状のハイドロゲルは、皮膚や真皮に浸透して体内の組織変形を起こした場合、修復することは不可能であり安全面が問題となっている。
【0006】
生体内に挿入する材料としては、シリコーンが一般的に使用されている。しかしながら、シリコーンが局所に漏れると、同様にシリコーン粒子が皮膚や真皮に浸透して体内の組織変形を起こした場合、修復することは不可能であり安全面が問題となっている。
【0007】
そこで、生体材料としては、例えば、ゲルに懸濁した生物学的に再吸収性を示すポリマーの微小球または微粒子を使用した皮内注入用インプラント(特許文献1参照)や、水生動物起源のコラーゲンを使用することにより得られる担体及び生体材料(特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、これらも生体に吸収される速度が早いという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特表2000−516839号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特表2003−534858号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、生体に注入しても安全で、また、生体に吸収され難く、長期間に亘って注入部位又は移植部位で形態を保持することができる生体注入材、及び美容・医療用バルク材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、キトサン類と、コラーゲンとを含む複合ゲルからなることを特徴とする生体注入材にある。
【0011】
かかる第1の態様では、生体適合性が非常に優れたコラーゲンと、生体内で比較的吸収され難く、長期間に亘って注入部位に留まり易い性質を有するキトサン類とを組み合わせることにより、両者の利点を併せ持つ生体注入材となる。生体内で自家組織がコラーゲンを足場として進入し、キトサンが長期間に亘って生体に吸収されずにフレームとして残ることにより、複合ゲル内に自家組織が再生した後も注入時の形態を保持することができる生体注入材となる。すなわち、コラーゲンとキトサン類の長所が相乗的に発揮されて、自己組織化することができ、注入時の形態を維持することができる他に例を見ない生体注入材となる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルが、前記キトサン類を含むキトサン溶液のゲルであるキトサンゲルと前記コラーゲンを含むコラーゲン溶液のゲルであるコラーゲンゲルとを混合させたもの、又は前記キトサン類及び前記コラーゲンを含む溶液をゲル化させたものからなることを特徴とする生体注入材にある。
【0013】
かかる第2の態様では、キトサンゲルとコラーゲンゲルとを混合して複合ゲルとすることができ、また、キトサン類及びコラーゲンとを含む溶液をゲル化させて複合ゲルとすることができ、いずれも、安全で長期間に亘って生体に吸収されずに注入時の形態を保持することができる生体注入材となる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の生体注入材において、前記コラーゲンが、海洋生物由来であることを特徴とする生体注入材にある。
【0015】
かかる第3の態様では、海洋生物由来のコラーゲンを用いることで、感染症等の問題がなく、より生体に注入しても安全な生体注入材となる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の生体注入材において、前記コラーゲンが魚類の皮、骨、又は鱗から抽出したものであることを特徴とする生体注入材料にある。
【0017】
かかる第4の態様では、コラーゲンを魚類から抽出することで、感染症等の問題がなく、より生体に注入しても安全な生体注入材となる。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルはpHが5.5〜7.0であることを特徴とする生体注入材にある。
【0019】
かかる第5の態様では、pHが5.5〜7.0となることで、体内と同程度のpHとなり、より生体適合性に優れた生体注入材となる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルは、前記キトサン類と前記コラーゲンとを重量比で90:10〜20:80含有していることを特徴とする生体注入材にある。
【0021】
かかる第6の態様では、複合ゲルがコラーゲンとキトサン類とを重量比で90:10〜20:80含有することで、生体適合性に優れ、且つ生体内での吸収される速度が遅く、長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルの粘度が1000〜20000mPa・sであることを特徴とする生体注入材にある。
【0023】
かかる第7の態様では、粘度を1000〜20000mPa・sとすることで、流動性と形態保持性とを両立させた長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0024】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記キトサン類がサクシニル化キトサンを含むことを特徴とする生体注入材にある。
【0025】
かかる第8の態様では、サクシニル化したキトサンを含むことで、粘度を高くすることができ、より長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0026】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載の生体注入材において、前記キトサン類が、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、及びN−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンを含むことを特徴とする生体注入材にある。
【0027】
かかる第9の態様は、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、及びN−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンを含むことで、より長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0028】
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載の生体注入材において、前記キトサン類が、前記6−O−(カルボキシメチル)キトサンが50〜75モル%、前記6−O−(カルボキシメチル)キチンが25〜50モル%、前記N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが0〜39モル%からなるものであることを特徴とする生体注入材にある。
【0029】
かかる第10の態様では、それぞれを上述した割合とすることで、より長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0030】
本発明の第11の態様は、第1〜10の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルは、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、アルギン酸塩、ローカストビーンガム、アラビアガム、及びアニオン系高分子からなる群から選択される少なくとも1つのゲル化剤によりゲル化されたものであることを特徴とする生体注入材にある。
【0031】
かかる第11の態様では、より容易に生体適合性に優れた生体注入材とすることができる。
【0032】
本発明の第12の態様は、第1〜11の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルに含まれるコラーゲンが架橋されたものであることを特徴とする生体注入材にある。
【0033】
かかる第12の態様では、コラーゲンが架橋されたものであることにより、生体内で吸収される速度が低下して、より長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0034】
本発明の第13の態様は、生体内へ移植するための美容・医療用バルク材であって、キトサン類と、コラーゲンとを含む多孔質体からなることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0035】
かかる第13の態様では、生体適合性が非常に優れたコラーゲンと、生体内で比較的吸収され難く、長期間に亘って注入部位に留まり易い性質を有するキトサン類とを組み合わせることにより、両者の利点を併せ持つ美容・医療用バルク材となる。また、コラーゲンを用いることにより、生体内の組織再生に必要な細胞の足場として好適なものとなり、自己組織化することができるだけでなく、キトサンが長期間に亘って生体に吸収されずにフレームとして残ることにより、バルク材内に自家組織が再生した後も移植時の形態を保持することができるバルク材となる。すなわち、コラーゲンとキトサン類との長所が相乗的に発揮されて、自己組織化することができ、生体内で吸収されずに移植時の形態を保持することができる美容・医療用バルク材となる。
【0036】
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載の美容・医療用バルク材であって、前記多孔質体が、前記キトサン類を含むキトサン溶液から形成した多孔質に、前記コラーゲンを含むコラーゲン溶液、又はそのゲルであるコラーゲンゲルを含浸させたものであることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0037】
かかる第14の態様では、キトサン類を含むキトサン溶液から形成した多孔質に、コラーゲンを含むコラーゲン溶液又はそのゲルであるコラーゲンゲルを含浸させて多孔質体とすることで、キトサン類がバルク材の骨格を形成し且つバルク骨格に保持されているコラーゲンが自家細胞の進入を容易にして生体適合性を向上させるので、生体へ適合しやすく且つ長期間に亘って吸収されずに移植時の形態を保持することができる美容・医療用バルク材となる。
【0038】
本発明の第15の態様は、第13の態様に記載の美容・医療用バルク材であって、前記多孔質体が前記キトサン類と前記コラーゲンとを含む溶液から形成した多孔質からなるものであることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0039】
かかる第15の態様では、キトサン類とコラーゲンとを含む溶液から形成した多孔質体とすることで、キトサン類がバルク材の骨格を形成し且つ生体適合性に優れたコラーゲンがバルク骨格に保持されている状態となり、生体へ適合しやすく且つ長期間に亘って吸収されずに移植時の形態を保持することができる美容・医療用バルク材となる。
【0040】
本発明の第16の態様は、第13〜15の何れかの態様に記載の美容・医療用バルク材において、前記多孔質体に含まれる前記コラーゲンが架橋されたものであることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0041】
かかる第16の態様では、コラーゲンが架橋されたものであることにより、より長期間に亘って吸収されずに移植時の形態を保持することができ、且つ力学的強度のある美容・医療用バルク材となる。
【0042】
本発明の第17の態様は、第13〜16の何れかの態様に記載の美容・医療用バルク材において、前記コラーゲンが、海洋生物由来であることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0043】
かかる第17の態様では、海洋生物由来のコラーゲンを用いることで、感染症等の問題がなく、より生体内へ移植しても安全な美容・医療用バルク材となる。
【0044】
本発明の第18の態様は、第17の態様に記載の美容・医療用バルク材において、前記コラーゲンが魚類の皮、骨、又は鱗から抽出したものであることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0045】
かかる第18の態様では、より生体内へ移植しても安全な美容・医療用バルク材となる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、コラーゲンとキトサン類とを含むことで、生体内に注入しても安全で組織を再生させるための細胞の足場材料として好適なものとなり、自己組織化することができるだけでなく、生体内で吸収され難く、長期間に亘って注入部位で注入時の形態を保持することができる生体注入材、あるいは移植時の形態を保持することができる美容・医療用バルク材となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0048】
本発明にかかる生体注入材は、キトサン類とコラーゲンとを含む複合ゲルからなる。ここでいう複合ゲルとは、多量の水分を含有し且つある程度の粘度を有するゲルにキトサン類とコラーゲンとが含有されているものをいう。すなわち、キトサン類とコラーゲンとを含有するゲルであれば、その製造方法は特に限定されない。例えば、キトサン類とコラーゲンとを含む水溶液に、適宜ゲル化剤を加えることにより得られるものであり、また、キトサン類の水溶液をゲル化させたゲルと、コラーゲンの水溶液をゲル化させたゲルとを混合して得られるものである。本発明にかかる生体注入材は、ゲル状態であり、流動性があるため注入性に優れる。また、注入時に注入部位から拡散することがないため、生体内に注入した際に、形態を保持することができるものとなる。また、いずれの部位に注入しても適応した形態となることができるものとなる。
【0049】
また、本発明にかかる生体注入材は、キトサン類及びコラーゲンが主成分となる複合ゲルからなるものである。ここでいう主成分とは、機能を発揮する主な成分の1つであることを指し、必ずしも最多成分であることを指すものではない。なお、本発明における複合ゲルは、コラーゲンよりもキトサン類を多く含むことが好ましい。
【0050】
本発明にかかる生体注入材は、生体適合性が非常に優れるコラーゲンと、生体内で吸収され難く、長期間に亘って注入部位に留まり易い性質を有するキトサン類とを組み合わせることにより、両者の利点を併せ持つものである。ここで、コラーゲンは、ヒトの生体の真皮、靭帯、骨、血液のタンパク質の一種であり、細胞外マトリックスの主成分であるため、生体内における生体適合性が非常に高いが、生体内で吸収される速度が速いという欠点がある。一方、キトサン類は、生体適合性はコラーゲンより劣るが、生体内で吸収される速度が非常に遅い。このようなキトサン類とコラーゲンとを並存させることで、互いの性質が補われ、生体内注入時にはコラーゲンの特性により生体適合性が良好であり、また、コラーゲンが吸収された後にはキトサン類がしばらく吸収されずに残ることで、長期間に亘って生体内で注入時の形態を保持することができるものとなる。具体的には、生体内へ注入した初期の段階では、コラーゲンにより生体適合性が良好となるだけではなく、コラーゲンを足場として自家組織が生体注入材内部へと侵入して自己組織化が進行する。しばらくしてコラーゲンが吸収された後はキトサンがフレームとして残り、且つ生体注入材内部(キトサン内部)には侵入して自己組織化した細胞で満たされることで長期間に亘って生体内で注入時の形態が保持される。なお、本発明にかかる生体注入材は、具体的には線維芽細胞や血管内皮の足場として作用する。この線維芽細胞が自家コラーゲンや細胞外マトリックスを産出し、血管内皮細胞の進入により材料内部で血管が新生されるため、本発明にかかる生体注入材は自己組織化される。
【0051】
本発明における複合ゲルは、上述したようにキトサン類を含むキトサン溶液をゲル化剤によりゲル化したキトサンゲルと、コラーゲンを含むコラーゲン溶液をゲル化剤によりゲル化したコラーゲンゲルとを混合したものが好ましく、また、キトサン類及びコラーゲンを含む溶液をゲル化させたものが好ましい。すなわち、複合ゲルは、キトサン類及びコラーゲンの両方をゲル化させたものが好ましい。また、複合ゲルは、キトサン類及びコラーゲン以外に、安定剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0052】
なお、ここでいうキトサン溶液、及びコラーゲン溶液は、例えば、水、酢酸等の水系溶媒に、キトサン類、又はコラーゲンを溶解させることにより得られるものである。なお、キトサン溶液は、キトサン類以外に、安定剤等の他の成分を含んでいてもよく、コラーゲン溶液も、コラーゲン以外に、安定剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0053】
また、本発明における複合ゲルを製造するためのゲル化剤は特に限定されず、従来から公知のゲル化剤を用いることができる。例えば、上述したキトサン溶液をゲル化させるゲル化剤としては、ゼラチン、寒天、カラギ−ナン、キサンタンガム、アルギン酸塩、ローカストビーンガム、アラビアガム、アニオン系高分子などを挙げることができる。なお、コラーゲン溶液は、ゲル化剤を用いずにpHを調整することによりゲル化させることができる。
【0054】
本発明における複合ゲルは、キトサン類とコラーゲンとが重量比で90:10〜20:80含有しているのが好ましく、さらに好ましくは90:10〜50:50、特に好ましくは90:10〜80:20である。この範囲にすることにより、生体注入材は、生体適合性に優れ、且つ適度な粘度を保持したものとなり、生体内で形態を保つことができる。また、生体内での吸収される速度が遅くなり、長期間に亘って吸収されないものとなる。この範囲よりもコラーゲンの割合が多くなると、生体注入材の粘性が低くなりやすく、生体内において吸収される速度が早くなってしまう虞があるため好ましくない。
【0055】
本発明における複合ゲルの粘度は、1000〜20000mPa・sであることが好ましい。粘度がこの範囲となることで、適度な流動性があり、生体内に注入しやすく、且つ生体内で拡散しすぎることのないものとなる。また、上述した粘度とすることで、例えば、しわ伸ばしに用いられる25〜27ゲ−ジの注射針で注入することができるものとなる。なお、粘度がこの範囲よりも高くなると注射針の通過や、生体への注入が困難となったり、流動性がなくなったりするため好ましくない。また、粘度がこの範囲よりも低くなると、生体内において吸収される速度が早くなってしまうため好ましくない。
【0056】
本発明における複合ゲルはpHが5.5〜7.0であることが好ましく、さらに好ましくはpH6.0〜6.5である。この範囲のpHとすることで、生体内と同程度のpHとなり、炎症反応が起こりにくく細胞障害性も低くなるため、生体適合性の高い生体注入材となるからである。
【0057】
本発明におけるコラーゲンは、海洋生物由来であることが好ましい。海洋生物由来のコラーゲン、いわゆるマリンコラーゲンは、牛や豚由来のコラーゲンのように人畜共通感染症にかかる虞がなく、生体適合性に優れている。なお、マリンコラーゲンは、例えば、魚類の皮、骨、又は鱗や、甲殻類の殻等から抽出されるものである。ここで、特に好ましいものとしては、サケ、テラピア等が挙げられる。マリンコラーゲンは、酢酸、クエン酸等の有機酸、又は塩酸等の無機酸からなる群から選択される少なくともいずれか一つの酸を用いて抽出することが好ましい。なお、勿論、市販のコラーゲンを用いてもよい。
【0058】
複合ゲルに含まれるコラーゲンは、架橋されていることが好ましい。コラーゲンの架橋は、例えば、ゲル化させてコラーゲンゲルとした後に行っても、キトサンゲルとコラーゲンゲルとを混合した後に行ってもよい。コラーゲンを架橋することにより、生体内での吸収される速度が低下して、より長期間使用吸収されない生体注入材となるからである。なお、架橋方法は、特に限定されないが、例えば熱架橋、紫外線照射による架橋、架橋剤架橋、酵素架橋が挙げられる。
【0059】
さらに、コラーゲンは熱変性温度が35℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは40℃以上である。熱変性温度がヒトの体温以上であるため、生体内へ注入した際に、熱による変性でゼラチン化して生体内に吸収される速度が早くなってしまうという虞がないからである。熱変性温度が35℃以上のコラーゲンは、例えば、上述したコラーゲンを架橋して熱変性温度を上昇させることにより得られる。
【0060】
本発明におけるキトサン類とは、キチン(β−ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)を脱アセチル化した生成物又はこの誘導体をいい、キトサン(β−ポリ−D−グルコサミン)及びその誘導体の他、未反応のキチン及びその誘導体を含有するものをいう。本発明で用いることができるキトサン類は、キチンの脱アセチル化度合、すなわち、キトサンの割合が50%以上であることが好ましい。
【0061】
本発明で用いるキトサン類の主成分は特に限定されず、例えば、キトサン、N−アリルキトサン、N−アルキルキトサン、o−アリルキトサン、o−アルキルキトサン、硫酸化キトサン、ニトロ化キトサン、カルボキシメチル化キトサン等が挙げられるが、キトサン、カルボキシメチル化キトサンが好ましい。官能基を有するキトサンを用いることで、生体内の特異的な部位へ時間的な制御をしながら望むべき濃度で生体注入材を送達するようにすることもできる。
【0062】
また、本発明に用いるキトサン類は、サクシニル化キトサンを含むのが好ましい。サクシニル化キトサンを含むことで、安定的にキトサンゲルを生成することができるからである。
【0063】
また、本発明におけるキトサン類は、例えば、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンを含むのが好ましい。特に、6−O−(カルボキシメチル)キトサンが50〜75モル%、6−O−(カルボキシメチル)キチンが25〜50モル%、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが0〜39モル%からなるものが好ましい。上述した割合とすることで、キトサン類を含むキトサン溶液をゲル化剤によりゲル化した際に適度な粘度を保持するものとなるからである。
【0064】
ここで、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンからなるキトサン類を含むキトサン溶液の製造方法について説明する。
【0065】
6−O−(カルボキシメチル)キチンを1〜10wt%、好ましくは3〜5wt%に、苛性ソーダ、苛性カリ等のアルカリ性物質を含むアルカリ溶液中で20〜100℃、好ましくは40〜80℃の温度で1〜24時間、好ましくは3〜8時間反応させて、6−O−(カルボキシメチル)キチンの一部を脱アセチル化させることで、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチンからなる溶液を得る。
【0066】
この溶液に鉱酸又は有機酸を加えて中和した後、無水コハク酸等のサクシニル化剤を加えてキトサンと反応させる。
【0067】
そして、得られた溶液を透析膜処理、又はメタノールやアセトン等の貧溶媒で沈殿物を析出させて、付着する塩類を分離することにより、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンからなるキトサン類を含むキトサン溶液が得られる。
【0068】
ここで、本発明における複合ゲルの製造方法の一例を説明する。なお、キトサン類を含むキトサン溶液のゲルであるキトサンゲルと、コラーゲンを含むコラーゲン溶液のゲルであるコラーゲンゲルとを混合する方法を説明する。
【0069】
例えば、上述した方法により得られるキトサン溶液、又は市販のキトサン溶液に、水及びゲル化剤を加えて攪拌させることによりキトサンゲルを得る。
【0070】
一方、魚類の皮、骨、又は鱗に、酢酸、クエン酸等の有機酸、又は塩酸等の無機酸からなる群から選択される少なくとも1つの酸を用いることにより、コラーゲンを抽出し、このコラーゲンを塩析等で精製することでコラーゲン溶液を調製する。そして、コラーゲン溶液に、水、及びゲル化剤を加える、又はpH調整を行うことによりゲル化させてコラーゲンゲルを得る。
【0071】
このキトサンゲルと、コラーゲンゲルとを混合することにより、複合ゲルを得る。
【0072】
また、本発明における複合ゲルの製造方法の他の例を説明する。なお、キトサン類及びコラーゲン含む溶液をゲル化させる方法を説明する。
【0073】
例えば、上述した方法により得られるキトサン溶液、又は市販のキトサン溶液と、上述した方法により得られるコラーゲン溶液を混合攪拌する。そして、水及びゲル化剤を加えることにより複合ゲルを得る。
【0074】
本発明にかかる生体注入材は、生体内へ注入することができるものであり、例えば、しわ伸ばしや、豊胸、豊頬に用いて好適なものである。
【0075】
本発明にかかる生体注入材は、キトサン類とコラーゲンとを含む複合ゲルからなり、コラーゲンが吸収された後も、キトサン類がしばらく吸収されずに注入部位に残存することにより、注入時の形態を長く保つことができる。
【0076】
また、生体内から採取した自家線維芽細胞を本発明における複合ゲルで培養して、本発明にかかる生体注入材としてもよい。このような生体注入材は、生体へ注入することにより、生体において自己組織化が促進されやすく、例えば、瘢痕化や、血行に乏しいなどの悪条件の移植床でも皮下組織を再生することができる。すなわち、生体内の自家線維芽細胞を含む生体注入材は、組織形成を半永久的に保持することができるものとなる。
【0077】
また、本発明にかかる生体注入材は、線維芽細胞以外の細胞や、接着因子、サイトカイン等の担体としても利用することができる。
【0078】
本発明にかかる美容・医療用バルク材は、キトサン類と、コラーゲンとを含む多孔質体からなる。ここでいう多孔質体は、多孔質を有する、すなわち、多数の孔を持つ固体を有する。本発明にかかるバルク材は、組織欠損の形状に応じて自由に採型でき、生体内においても一定の形状を保つだけでなく、多孔質体からなることにより孔から生体内の細胞が中心部へと侵入しやすいものとなる。
【0079】
また、本発明にかかるバルク材は、キトサン類及びコラーゲンが主成分となるものである。なお、主成分とは、機能を発揮する主な成分の1つであることを指し、必ずしも最多成分であることを指すものではない。なお、本発明にかかるバルク材は、コラーゲンよりもキトサン類を多く含むことが好ましい。
【0080】
本発明にかかる美容・医療用バルク材は、生体適合性が非常に優れるコラーゲンと、コラーゲンと比較して生体に吸収され難く、長期間に亘って生体に吸収されない性質を有するキトサン類とを用い、主にキトサン類でバルク材骨格を形成し且つコラーゲンによりバルク材骨格の生体適合性を向上させるようにしたものである。
【0081】
ここで、コラーゲンは、ヒトの生体の真皮、靭帯、骨、血液のタンパク質の一種であり、細胞外マトリックスの主成分であるため、生体内における生体適合性が非常に高いが、生体内で吸収される速度が速いという欠点がある。一方、キトサン類は、生体適合性はコラーゲンより劣るが、生体内で吸収される速度が非常に遅い。本発明では、このようなキトサン類とコラーゲンとを並存させることで、互いの性質が補われ、生体内移植時にはコラーゲンの特性により生体適合性が良好であり、コラーゲンが吸収された後はキトサン類がしばらく吸収されずに残ることで、長期間に亘って生体内で移植時の形態を保持することができるものとなる。具体的には、生体内へ移植した初期の段階では、コラーゲンにより生体適合性が良好となるだけではなく、コラーゲンを足場として自家組織がバルク材内部へと侵入して自己組織化が進行する。しばらくしてコラーゲンが吸収された後もキトサンはフレームとして残り、且つバルク材内部(キトサン骨格内部)に侵入して自己組織化した細胞で満たされることで長期間に亘って生体内で移植時の形態が保持される。
【0082】
なお、本発明における美容・医療用バルク材に含有されるキトサン類及びコラーゲンは上述したとおりである。
【0083】
また、本発明にかかる美容・医療用バルク材は、生体内の組織を再生させるための細胞の足場材料として好適なものである。具体的には、生体内での線維芽細胞や血管内皮細胞の足場として用いることができる。この線維芽細胞が自家コラーゲンや細胞外マトリックスを産出し、血管内皮細胞が血管を新生するため、本発明にかかる美容・医療用バルク材は自己組織化される。具体的には、コラーゲンが、線維芽細胞や血管内皮細胞を接着させ、これらの細胞増殖を促進し、バルク材の内部へ侵入した線維芽細胞は自家コラーゲンや細胞外マトリックスを分泌し、血管内皮細胞は血管を新生する。このため、本発明にかかるバルク材は自己組織化が進行する。キトサン類は、コラーゲンが吸収された後もしばらく吸収されることなく、移植時の形状を保持し、再生された組織の骨格として働く。このように、本発明にかかるバルク材は、長期間に亘って吸収されずに、組織欠損部に合わせて成形した形態を保持することができる。
【0084】
本発明にかかる美容・医療用バルク材として用いることができる多孔質体は、例えば、キトサン類を含むキトサン溶液を凍結乾燥させて形成した多孔質に、コラーゲンを含むコラーゲン溶液又はそのゲルであるコラーゲンゲルを含浸させる、又はキトサン類とコラーゲンを含む溶液を凍結乾燥させることにより得ることができる。なお、多孔質化させて多孔質体を得る手段は、凍結乾燥に限定されるものではない。
【0085】
また、本発明に係る美容・医療用バルク材となる多孔質体は、キトサン類とコラーゲンの他、例えば、バルク材としての性質を向上させるための添加剤等を含有させてもよい。さらに、本発明に係る美容・医療用バルク材として用いることができる多孔質体は、上述したものに限定されず、例えば、キトサン溶液を凍結乾燥等させた多孔質に、コラーゲン及びキトサン類を含む溶液又はそのゲルを含有させてもよいし、コラーゲンとキトサン類とを含む溶液を凍結乾燥等させた多孔質にさらにコラーゲン溶液やそのゲルを含浸させてもよい。
【0086】
キトサン類とコラーゲンを含む溶液を凍結乾燥させて形成する多孔質体は、キトサン溶液を凍結乾燥させた後にコラーゲン溶液を含浸させて凍結乾燥させても、コラーゲン溶液を凍結乾燥させた後にキトサン溶液を含浸させて凍結乾燥させても、コラーゲン溶液とキトサン溶液を混合してから凍結乾燥させてもよい。
【0087】
また、多孔質体は、コラーゲンを含むコラーゲン溶液又はコラーゲン多孔質にキトサン類を含むキトサン繊維を加えてホモジナイズした後、凍結乾燥させて得ることもできる。
【0088】
本発明における多孔質は、自家細胞が進入しやすいように多孔率が高く、孔の径が比較的大きい多孔質であることが好ましい。多孔質は、気孔径が50μmから400μm程度、気孔率が50vol%から80vol%程度であることが好ましく、気孔間連通孔の径が30μmから50μm程度であることが好ましい。バルク材に細胞が侵入しやすくなることで、生体内の軟部組織等が内部で形成されやすくなる、すなわち、自己組織化が進行しやすくなるからである。
【0089】
なお、本発明における多孔質体に含まれるコラーゲンは、熱架橋、紫外線照射による架橋、架橋剤架橋、酵素架橋などにより架橋されていることが好ましい。コラーゲンは架橋することにより、生体内での吸収される速度が低下するためである。また、コラーゲンを架橋することにより、多孔質体の力学的強度が向上するためである。
【0090】
また、本発明における多孔質体は、上述したものに限定されず、例えば、キトサン類を含む多孔質と、コラーゲンを含む多孔質とを複数層積層(ラミネート)したものでもよい。このとき、キトサン類を含む多孔質を、コラーゲンを含む多孔質で挟み込むように成形することが好ましい。また、複数層積層(ラミネート)することで多孔質体の厚みや形を自由にコントロールすることができ、任意の形状に自己組織化できるものとなる。
【0091】
なお、本発明の美容・医療用バルク材は、生体の所望の部位に埋め込んで使用されるものであり、上述した各種方法で製造された多孔質体を所望の形状に成形して使用される。
【0092】
本発明にかかるバルク材の製造方法の一例を説明する。ここでは、キトサン類とコラーゲンとを含む溶液を凍結乾燥させて形成した多孔質体からなるバルク材について説明する。ただし、バルク材の製造方法はこれに限定されない。
【0093】
まず、甲殻類の殻等を塩酸処理して得られたキトサン類を、酢酸、乳酸等の有機酸、又は塩酸等の無機酸に溶解させることによりキトサン溶液を得る。なお、勿論、市販されているキトサン溶液を用いてもよい。
【0094】
次に、キトサン溶液を凍結乾燥させた後、NaOH等のアルカリ溶液を加えて攪拌し、水洗する。これにより、キトサン類は酸が中和されて不溶化する。
【0095】
その後、これを再び凍結乾燥させることでキトサン類からなる多孔質を得る。
【0096】
次に、キトサン類からなる多孔質にコラーゲン溶液を含浸させる。なお、コラーゲンは、例えば、魚類の皮、骨、鱗等から酢酸、塩酸、又はクエン酸等により抽出し、このコラーゲンを塩析等で精製することで、コラーゲン溶液とする。なお、勿論、市販されているコラーゲン溶液を用いてもよい。
【0097】
最後に、コラーゲン溶液を含浸させた多孔質を凍結乾燥し、加熱してコラーゲンを熱架橋することにより、バルク材を得る。
【0098】
本発明にかかるバルク材は、製造工程において凍結乾燥法などにより、厚みのあるスポンジ状のバルク材とすることができる。すなわち、前述の基準を満たす高多孔率、高気孔径で連通性の良いバルク材とすることができる。このため、本発明にかかるバルク材は、中心部まで細胞が侵入しやすいものとなる。
【0099】
従来の創傷被覆材は、ほとんどが浅い皮膚欠損部の上皮化を目的とする人工皮膚であったが、本発明にかかるバルク材は、例えば、豊胸、豊頬に用いることができるだけでなく、先天的・後天的な組織欠損部への移植、すなわち軟部組織の大欠損を補填できるものである。また、各種の細胞や栄養因子、接着因子、サイトカインの担体として用いれば、軟部組織に限らず、硬組織の再建にも有効である。
【0100】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0101】
<生体注入材1>
(実施例1)
6−O−(カルボキシメチル)キチン28gを6wt%のNaOH溶液1400gに溶解し、70℃で6時間攪拌し、キチンを脱アセチル化させた。この溶液を室温まで冷却後、pHを6.5に調整し、無水コハク酸1.0gを加え、50℃で2時間攪拌して、溶液に含まれるキトサンの一部をサクシニル化した。その後、付着した塩類を透析膜で脱塩精製することで、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが3モル%、6−O−(カルボキシメチル)キトサンが62モル%、6−O−(カルボキシメチル)キチンが35モル%からなるキトサン溶液が得られた。
【0102】
1wt%のキトサン溶液16gに、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液9gと、水65gとを加え、攪拌してキトサンゲルを得た。
【0103】
サケの皮、骨、鱗からコラーゲンを抽出し、塩析で精製した後、凍結乾燥し、希塩酸に溶解させて透析することでpHを変化させて0.5wt%コラーゲンゲル10gを得た。
【0104】
このキトサンゲルにコラーゲンゲルを加えて攪拌し、実施例1の生体注入材を得た。
【0105】
(実施例2)
1wt%のキトサン溶液16gに、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液9gと安定剤として1,3−ブチレングリコールを3gと水62gとを加え、攪拌してキトサンゲルとした以外は、実施例1と同様にして実施例2の生体注入材を得た。
【0106】
(実施例3)
1wt%のキトサン溶液24gに、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液14gと水52gとを加え、攪拌してキトサンゲルとした以外は、実施例1と同様にして実施例3の生体注入材を得た。
【0107】
(実施例4)
1wt%のキトサン溶液24gに、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液14gと安定剤として1,3−ブチレングリコールを5gと水47gとを加え、攪拌してキトサンゲルとした以外は、実施例1と同様にして実施例4の生体注入材を得た。
【0108】
実施例1〜4の生体材料の組成及び特性を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、実施例1〜4の生体注入材は、pHが6.1〜6.3で、粘度が1300mPa・s〜15500mPa・sであった。
【0111】
なお、実施例4の生体注入材をプレートに滴下した際の写真を図1に示す。図1(a)は水平状態のプレートに滴下した際の写真、図1(b)は傾斜させたプレートに滴下した際の写真である。
【0112】
図1に示すように、実施例4の生体注入材は、プレートを傾斜させても流れ落ちることのない程度の粘度を有するものであった。このように、本発明の生体注入材は、生体内に注入した際に、注入部位から拡散することがないものであると考えられる。
【0113】
<生体注入材2>
(1)キトサンゲル
実施例1と同様の方法によりN−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが3モル%、6−O−(カルボキシメチル)キトサンが62モル%、6−O−(カルボキシメチル)キチンが35モル%からなるキトサン溶液を得た。このキトサン溶液に、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液と安定剤として1,3−ブチレングリコールをと水とを加え、攪拌してキトサンゲルを得た。
【0114】
(2)コラーゲンゲル
テラピアの鱗からコラーゲンを抽出し、水に溶解させた後、熱架橋することにより、変性温度35〜37℃のコラーゲン溶液を得た。このコラーゲン溶液を塩析で精製した後、凍結乾燥し、希塩酸に溶解させて透析することでpHを変化させてコラーゲンゲルを得た。
【0115】
(実施例5)
キトサン類とコラーゲンとの重量比率が60:40になるように、キトサンゲルとコラーゲンゲルを混合して、実施例5の生体注入材を得た。
【0116】
(実施例6)
キトサン類とコラーゲンとの重量比率が70:30になるように、キトサンゲルとコラーゲンゲルを混合して、実施例6の生体注入材を得た。
【0117】
(実施例7)
キトサン類とコラーゲンとの重量比率が80:20になるように、キトサンゲルとコラーゲンゲルを混合して、実施例7の生体注入材を得た。
【0118】
(実施例8)
キトサン類とコラーゲンとの重量比率が90:10になるように、キトサンゲルとコラーゲンゲルを混合して、実施例8の生体注入材を得た。
【0119】
(比較例1)
キトサンゲルを比較例1の生体注入材とした。
【0120】
(比較例2)
コラーゲンゲルを比較例2の生体注入材とした。
【0121】
実施例5〜8及び比較例1〜2の生体材料の組成及び特性を表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
(試験例1)
実施例5〜8、比較例1〜2の生体注入材1mlを、24匹のウイスター・ラットの背部皮下に3箇所ずつ注入した。なお、3箇所にはそれぞれ異なる生体注入材を注入した。
【0124】
術後3日、1週、2週に各群2匹ずつ採取した。各群2匹2箇所の試料を半割し、一方はHE染色標本(LM)を作成し、もう一方は固定液中に保存した。必要に応じてTEM(透過型電顕)で観察した。
【0125】
術後3日、2週のラットの皮下組織のHE標本による観察結果を図2〜5に、実施例6の生体注入材を注入したラットの術後1週の皮下組織のHE標本観察結果を図6に示す。また、術後2週のラットの皮下組織の写真を図7に示す。
【0126】
(結果のまとめ)
図7に示すように、実施例5〜8及び比較例1〜2の生体注入材を注入したラットの皮下組織は、いずれも肉眼的炎症所見は軽度だった。
【0127】
図2から明らかなように、コラーゲンゲルからなる比較例2の生体注入材は、術後3日にほぼ吸収されてしまった。これに対し、実施例5〜8及び比較例1の生体注入材は、生体に完全には吸収されずに注入時の形態を保持していた。
【0128】
図3に示すように、実施例5〜8の生体注入材の小円形細胞浸潤は注入直後より増強したが、キトサンの比率が高い実施例7及び8の生体注入材内部への細胞浸潤は軽度だった。コラーゲンの比率が高い実施例5及び6の生体注入材内部への細胞浸潤は比較的強かった。コラーゲンを貪食するために多数の貪食細胞が動員されるためである。
【0129】
これに対し、キトサンゲルのみからなる比較例1の生体注入材はゲル内部まで小円形細胞が浸潤していた。これはキトサンにより炎症反応が惹起されるからである。
【0130】
実施例6の生体注入材を注入したラットの術後1週の皮下組織では(図6)、周囲よりゲル内部に向かって小円形細胞が浸潤し、これは旺盛な血管新生(図中V)を伴っていた。皮膜形成はほとんど認められなかった。
【0131】
図4及び図5に示すように、術後2週で比較例1の生体注入材は確認できなかった。これに対し、実施例5〜8の生体注入材は、注入時の形態を保持していた。
【0132】
以上より、キトサン類とコラーゲンを複合したゲルからなる生体注入材は、単体のゲルを生体に注入するよりも安全で、生体に吸収され難く、長期間に亘って注入部位に残存することがわかった。また、キトサン類とコラーゲンとを重量比で80:20〜90:10含有している生体注入材は、特に生体適合性に優れるものであることがわかった。
【0133】
<バルク材>
(実施例9)
1.5wt%のキトサン酢酸液100g(北海道曹達株式会社製)を−10℃で48時間かけて凍結乾燥し、白色で板状の多孔質2.15gを得た。これを4.2wt%の苛性ソーダ(和光純薬工業株式会社製)に室温で1時間浸漬させ、その後、蒸留水で洗浄した。これを−10℃で48時間かけて凍結乾燥させてキトサン類からなる多孔質を得た。
【0134】
次いで、キトサン類からなる多孔質を0.5wt%の鮭由来コラーゲン液100g(井原水産株式会社製)に室温で1時間浸漬し、コラーゲン液を浸透吸収させた。さらにこれを−10℃で48時間かけて凍結乾燥した後、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱し、熱架橋を行うことで、実施例9のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示し、写真を図9に示す。
【0135】
(実施例10)
0.5wt%の鮭由来コラーゲン液100g(井原水産株式会社製)を−10℃で48時間かけて凍結乾燥し、白色で板状のコラーゲンからなる多孔質を得た。得られたコラーゲンからなる多孔質を、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱して熱架橋を行なった。このコラーゲンからなる多孔質を5.0wt%のキトサン酢酸液100g(北海道曹達株式会社製)に室温で2時間浸漬し、コラーゲンからなる多孔質にキトサン酢酸液を浸透吸収させた。これを−10℃で48時間かけて凍結乾燥した後、4wt%の苛性ソーダ(和光純薬工業株式会社製)に室温で1時間浸漬させ、蒸留水で洗浄した。洗浄した複合体を−10℃で48時間かけて凍結乾燥させることで、実施例10のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示し、写真を図10に示す。
【0136】
(実施例11)
0.5wt%の鮭由来コラーゲン液128g(井原水産株式会社製)と1.5wt%キトサン酢酸液100g(井原水産株式会社製)を室温で攪拌し、キトサン−コラーゲン混合液を調製した。この液を−10℃で48時間かけて凍結乾燥し、キトサン−コラーゲン多孔質を得た。得られたキトサン−コラーゲン多孔質を、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱し、熱架橋を行ない、4.2wt%の苛性ソーダ(和光純薬工業株式会社製)に室温で1時間浸漬させ、その後、蒸留水で洗浄した。洗浄した多孔質を−10℃で48時間かけて凍結乾燥させることで、実施例11のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示し、写真を図11に示す。
【0137】
(実施例12)
ノースキトサンMC−2W(北海道曹達株式会社製)を酢酸に溶解させ、0.5wt%のキトサン酢酸溶液を調整した。このキトサン酢酸溶液と0.5%wt%のコラーゲン液の割合が7:3となるように混合し、この混合溶液を5×3.5cmのトレイに100ml入れた。これを凍結乾燥して多孔質を得た。4MNaClに架橋剤である水溶性カルボジイミドを溶解させて、多孔質を4℃で48時間架橋反応させた。その後、多孔質を蒸留水で洗浄した。洗浄した多孔質を凍結乾燥させることで、実施例12のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示す。
【0138】
(実施例13)
キトサン溶液とコラーゲン溶液の割合が5:5となるように混合した以外は実施例12と同様にして実施例13のバルク材を得た。
【0139】
(実施例14)
キトサン溶液とコラーゲン溶液の割合が3:7となるように混合した以外は実施例12と同様にして実施例14のバルク材を得た。
【0140】
(実施例15)
脱アセチル化度93%のキトサントリフルオロ酢酸液を注射器に入れて22G針につなぎ、インフュージョンポンプの送液速度を2ml/時間とし、アルミニウムからなる電極板(5.5cm×5.5cm)と針との間に高圧直流電圧電源により27kvの電圧をかけて、電極板へトリフルオロ酢酸液を噴出することで、電極板にキトサン繊維を得た。電極板からはがしたキトサン繊維を28重量%のアンモニア水に室温で1時間浸漬させた後、蒸留水を室温で2時間連続的に供給して洗浄することで、キトサン繊維を得た。
【0141】
キトサン繊維に、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱して熱架橋を行ったコラーゲン多孔質を加え、ホモジナイズしてスラリー液を得た。これを凍結乾燥機にて−10℃で48時間かけて凍結乾燥し、実施例15のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示す。
【0142】
(実施例16)
実施例15で得られたキトサン繊維に0.5wt%の鮭由来コラーゲン液を加え、ホモジナイズしてスラリー液を得る。これを凍結乾燥機にて−10℃で48時間かけて凍結乾燥した後、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱し、熱架橋を行い、実施例16のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示し、写真を図12に示す。
【0143】
(試験例2)
実施例9〜11のバルク材の厚さ、及び密度を測定した。結果を表3に示す。
【0144】
【表3】
【0145】
表3及び図9〜11に示すように実施例9〜11のバルク材はいずれもスポンジ状で、低密度のものとなった。これより、キトサン類とコラーゲンを含有する多孔質体からなる本発明のバルク材は、生体内の細胞が侵入しやすい低密度のものとすることができ、また、厚みのあるものとすることができるものであることがわかった。コラーゲンの割合を変更する等、条件を適宜調整することにより、生体内での吸収速度を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】実施例4の生体注入材をプレートに滴下した際の写真である。
【図2】術後3日のラットの皮下組織の拡大写真である。
【図3】図2の拡大写真をさらに拡大した写真である。
【図4】術後2週のラットの皮下組織の拡大写真である。
【図5】図4の拡大写真をさらに拡大した写真である。
【図6】実施例6の生体注入材を注入後1週のラットの皮下組織の拡大写真である。
【図7】術後2週のラットの皮下組織の写真である。
【図8】本発明にかかるバルク材の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】実施例9のバルク材の写真である。
【図10】実施例10のバルク材の写真である。
【図11】実施例11のバルク材の写真である。
【図12】実施例16のバルク材の写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体材料に関し、特に生体内へ注入する生体注入材、及び生体内へ移植するための美容・医療用バルク材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体材料の需要は非常に多い。例えば、しわ伸ばしを目的とした皮下組織へ注入するための生体材料や、先天的な異常、後天的な異常、病気等による身体の欠損の補填、胸部や臀部を大きくするといった美容目的の補填等をするための生体材料が必要とされている。しかしながら、生体内に安全に注入、又は挿入することができる生体材料は極めて少ない。
【0003】
なお、生体内に注入する材料としては、現在、コラーゲンやヒアルロン酸が一般的に使用されている。
【0004】
コラーゲンは生体親和性がよく、細胞の足場材料として使用されることが多いが、動物由来のコラーゲンは、牛や豚由来であり、動物の種類により固有の性質を有するため拒絶反応やアレルギー反応が起こりやすいという問題や、人畜共通の感染症が問題となっている。また、生体内において吸収されるのが非常に早いという問題もある。
【0005】
一方、ヒアルロン酸は、合成物であり安全性も高いが、注入後数ヶ月から半年程度で吸収されてしまうという問題がある。そこで、分解される速度を遅くするために、非吸収物質であるハイドロゲルを混入させた「スーパーヒアルロン酸」、「ダーマライブ」、「アクアミド」などが開発されている。しかしながら、粒子状のハイドロゲルは、皮膚や真皮に浸透して体内の組織変形を起こした場合、修復することは不可能であり安全面が問題となっている。
【0006】
生体内に挿入する材料としては、シリコーンが一般的に使用されている。しかしながら、シリコーンが局所に漏れると、同様にシリコーン粒子が皮膚や真皮に浸透して体内の組織変形を起こした場合、修復することは不可能であり安全面が問題となっている。
【0007】
そこで、生体材料としては、例えば、ゲルに懸濁した生物学的に再吸収性を示すポリマーの微小球または微粒子を使用した皮内注入用インプラント(特許文献1参照)や、水生動物起源のコラーゲンを使用することにより得られる担体及び生体材料(特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、これらも生体に吸収される速度が早いという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特表2000−516839号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特表2003−534858号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、生体に注入しても安全で、また、生体に吸収され難く、長期間に亘って注入部位又は移植部位で形態を保持することができる生体注入材、及び美容・医療用バルク材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、キトサン類と、コラーゲンとを含む複合ゲルからなることを特徴とする生体注入材にある。
【0011】
かかる第1の態様では、生体適合性が非常に優れたコラーゲンと、生体内で比較的吸収され難く、長期間に亘って注入部位に留まり易い性質を有するキトサン類とを組み合わせることにより、両者の利点を併せ持つ生体注入材となる。生体内で自家組織がコラーゲンを足場として進入し、キトサンが長期間に亘って生体に吸収されずにフレームとして残ることにより、複合ゲル内に自家組織が再生した後も注入時の形態を保持することができる生体注入材となる。すなわち、コラーゲンとキトサン類の長所が相乗的に発揮されて、自己組織化することができ、注入時の形態を維持することができる他に例を見ない生体注入材となる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルが、前記キトサン類を含むキトサン溶液のゲルであるキトサンゲルと前記コラーゲンを含むコラーゲン溶液のゲルであるコラーゲンゲルとを混合させたもの、又は前記キトサン類及び前記コラーゲンを含む溶液をゲル化させたものからなることを特徴とする生体注入材にある。
【0013】
かかる第2の態様では、キトサンゲルとコラーゲンゲルとを混合して複合ゲルとすることができ、また、キトサン類及びコラーゲンとを含む溶液をゲル化させて複合ゲルとすることができ、いずれも、安全で長期間に亘って生体に吸収されずに注入時の形態を保持することができる生体注入材となる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の生体注入材において、前記コラーゲンが、海洋生物由来であることを特徴とする生体注入材にある。
【0015】
かかる第3の態様では、海洋生物由来のコラーゲンを用いることで、感染症等の問題がなく、より生体に注入しても安全な生体注入材となる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の生体注入材において、前記コラーゲンが魚類の皮、骨、又は鱗から抽出したものであることを特徴とする生体注入材料にある。
【0017】
かかる第4の態様では、コラーゲンを魚類から抽出することで、感染症等の問題がなく、より生体に注入しても安全な生体注入材となる。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルはpHが5.5〜7.0であることを特徴とする生体注入材にある。
【0019】
かかる第5の態様では、pHが5.5〜7.0となることで、体内と同程度のpHとなり、より生体適合性に優れた生体注入材となる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルは、前記キトサン類と前記コラーゲンとを重量比で90:10〜20:80含有していることを特徴とする生体注入材にある。
【0021】
かかる第6の態様では、複合ゲルがコラーゲンとキトサン類とを重量比で90:10〜20:80含有することで、生体適合性に優れ、且つ生体内での吸収される速度が遅く、長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルの粘度が1000〜20000mPa・sであることを特徴とする生体注入材にある。
【0023】
かかる第7の態様では、粘度を1000〜20000mPa・sとすることで、流動性と形態保持性とを両立させた長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0024】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記キトサン類がサクシニル化キトサンを含むことを特徴とする生体注入材にある。
【0025】
かかる第8の態様では、サクシニル化したキトサンを含むことで、粘度を高くすることができ、より長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0026】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載の生体注入材において、前記キトサン類が、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、及びN−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンを含むことを特徴とする生体注入材にある。
【0027】
かかる第9の態様は、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、及びN−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンを含むことで、より長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0028】
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載の生体注入材において、前記キトサン類が、前記6−O−(カルボキシメチル)キトサンが50〜75モル%、前記6−O−(カルボキシメチル)キチンが25〜50モル%、前記N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが0〜39モル%からなるものであることを特徴とする生体注入材にある。
【0029】
かかる第10の態様では、それぞれを上述した割合とすることで、より長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0030】
本発明の第11の態様は、第1〜10の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルは、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、アルギン酸塩、ローカストビーンガム、アラビアガム、及びアニオン系高分子からなる群から選択される少なくとも1つのゲル化剤によりゲル化されたものであることを特徴とする生体注入材にある。
【0031】
かかる第11の態様では、より容易に生体適合性に優れた生体注入材とすることができる。
【0032】
本発明の第12の態様は、第1〜11の何れかの態様に記載の生体注入材において、前記複合ゲルに含まれるコラーゲンが架橋されたものであることを特徴とする生体注入材にある。
【0033】
かかる第12の態様では、コラーゲンが架橋されたものであることにより、生体内で吸収される速度が低下して、より長期間に亘って吸収されずに形態を保持することができる生体注入材となる。
【0034】
本発明の第13の態様は、生体内へ移植するための美容・医療用バルク材であって、キトサン類と、コラーゲンとを含む多孔質体からなることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0035】
かかる第13の態様では、生体適合性が非常に優れたコラーゲンと、生体内で比較的吸収され難く、長期間に亘って注入部位に留まり易い性質を有するキトサン類とを組み合わせることにより、両者の利点を併せ持つ美容・医療用バルク材となる。また、コラーゲンを用いることにより、生体内の組織再生に必要な細胞の足場として好適なものとなり、自己組織化することができるだけでなく、キトサンが長期間に亘って生体に吸収されずにフレームとして残ることにより、バルク材内に自家組織が再生した後も移植時の形態を保持することができるバルク材となる。すなわち、コラーゲンとキトサン類との長所が相乗的に発揮されて、自己組織化することができ、生体内で吸収されずに移植時の形態を保持することができる美容・医療用バルク材となる。
【0036】
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載の美容・医療用バルク材であって、前記多孔質体が、前記キトサン類を含むキトサン溶液から形成した多孔質に、前記コラーゲンを含むコラーゲン溶液、又はそのゲルであるコラーゲンゲルを含浸させたものであることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0037】
かかる第14の態様では、キトサン類を含むキトサン溶液から形成した多孔質に、コラーゲンを含むコラーゲン溶液又はそのゲルであるコラーゲンゲルを含浸させて多孔質体とすることで、キトサン類がバルク材の骨格を形成し且つバルク骨格に保持されているコラーゲンが自家細胞の進入を容易にして生体適合性を向上させるので、生体へ適合しやすく且つ長期間に亘って吸収されずに移植時の形態を保持することができる美容・医療用バルク材となる。
【0038】
本発明の第15の態様は、第13の態様に記載の美容・医療用バルク材であって、前記多孔質体が前記キトサン類と前記コラーゲンとを含む溶液から形成した多孔質からなるものであることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0039】
かかる第15の態様では、キトサン類とコラーゲンとを含む溶液から形成した多孔質体とすることで、キトサン類がバルク材の骨格を形成し且つ生体適合性に優れたコラーゲンがバルク骨格に保持されている状態となり、生体へ適合しやすく且つ長期間に亘って吸収されずに移植時の形態を保持することができる美容・医療用バルク材となる。
【0040】
本発明の第16の態様は、第13〜15の何れかの態様に記載の美容・医療用バルク材において、前記多孔質体に含まれる前記コラーゲンが架橋されたものであることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0041】
かかる第16の態様では、コラーゲンが架橋されたものであることにより、より長期間に亘って吸収されずに移植時の形態を保持することができ、且つ力学的強度のある美容・医療用バルク材となる。
【0042】
本発明の第17の態様は、第13〜16の何れかの態様に記載の美容・医療用バルク材において、前記コラーゲンが、海洋生物由来であることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0043】
かかる第17の態様では、海洋生物由来のコラーゲンを用いることで、感染症等の問題がなく、より生体内へ移植しても安全な美容・医療用バルク材となる。
【0044】
本発明の第18の態様は、第17の態様に記載の美容・医療用バルク材において、前記コラーゲンが魚類の皮、骨、又は鱗から抽出したものであることを特徴とする美容・医療用バルク材にある。
【0045】
かかる第18の態様では、より生体内へ移植しても安全な美容・医療用バルク材となる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、コラーゲンとキトサン類とを含むことで、生体内に注入しても安全で組織を再生させるための細胞の足場材料として好適なものとなり、自己組織化することができるだけでなく、生体内で吸収され難く、長期間に亘って注入部位で注入時の形態を保持することができる生体注入材、あるいは移植時の形態を保持することができる美容・医療用バルク材となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0048】
本発明にかかる生体注入材は、キトサン類とコラーゲンとを含む複合ゲルからなる。ここでいう複合ゲルとは、多量の水分を含有し且つある程度の粘度を有するゲルにキトサン類とコラーゲンとが含有されているものをいう。すなわち、キトサン類とコラーゲンとを含有するゲルであれば、その製造方法は特に限定されない。例えば、キトサン類とコラーゲンとを含む水溶液に、適宜ゲル化剤を加えることにより得られるものであり、また、キトサン類の水溶液をゲル化させたゲルと、コラーゲンの水溶液をゲル化させたゲルとを混合して得られるものである。本発明にかかる生体注入材は、ゲル状態であり、流動性があるため注入性に優れる。また、注入時に注入部位から拡散することがないため、生体内に注入した際に、形態を保持することができるものとなる。また、いずれの部位に注入しても適応した形態となることができるものとなる。
【0049】
また、本発明にかかる生体注入材は、キトサン類及びコラーゲンが主成分となる複合ゲルからなるものである。ここでいう主成分とは、機能を発揮する主な成分の1つであることを指し、必ずしも最多成分であることを指すものではない。なお、本発明における複合ゲルは、コラーゲンよりもキトサン類を多く含むことが好ましい。
【0050】
本発明にかかる生体注入材は、生体適合性が非常に優れるコラーゲンと、生体内で吸収され難く、長期間に亘って注入部位に留まり易い性質を有するキトサン類とを組み合わせることにより、両者の利点を併せ持つものである。ここで、コラーゲンは、ヒトの生体の真皮、靭帯、骨、血液のタンパク質の一種であり、細胞外マトリックスの主成分であるため、生体内における生体適合性が非常に高いが、生体内で吸収される速度が速いという欠点がある。一方、キトサン類は、生体適合性はコラーゲンより劣るが、生体内で吸収される速度が非常に遅い。このようなキトサン類とコラーゲンとを並存させることで、互いの性質が補われ、生体内注入時にはコラーゲンの特性により生体適合性が良好であり、また、コラーゲンが吸収された後にはキトサン類がしばらく吸収されずに残ることで、長期間に亘って生体内で注入時の形態を保持することができるものとなる。具体的には、生体内へ注入した初期の段階では、コラーゲンにより生体適合性が良好となるだけではなく、コラーゲンを足場として自家組織が生体注入材内部へと侵入して自己組織化が進行する。しばらくしてコラーゲンが吸収された後はキトサンがフレームとして残り、且つ生体注入材内部(キトサン内部)には侵入して自己組織化した細胞で満たされることで長期間に亘って生体内で注入時の形態が保持される。なお、本発明にかかる生体注入材は、具体的には線維芽細胞や血管内皮の足場として作用する。この線維芽細胞が自家コラーゲンや細胞外マトリックスを産出し、血管内皮細胞の進入により材料内部で血管が新生されるため、本発明にかかる生体注入材は自己組織化される。
【0051】
本発明における複合ゲルは、上述したようにキトサン類を含むキトサン溶液をゲル化剤によりゲル化したキトサンゲルと、コラーゲンを含むコラーゲン溶液をゲル化剤によりゲル化したコラーゲンゲルとを混合したものが好ましく、また、キトサン類及びコラーゲンを含む溶液をゲル化させたものが好ましい。すなわち、複合ゲルは、キトサン類及びコラーゲンの両方をゲル化させたものが好ましい。また、複合ゲルは、キトサン類及びコラーゲン以外に、安定剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0052】
なお、ここでいうキトサン溶液、及びコラーゲン溶液は、例えば、水、酢酸等の水系溶媒に、キトサン類、又はコラーゲンを溶解させることにより得られるものである。なお、キトサン溶液は、キトサン類以外に、安定剤等の他の成分を含んでいてもよく、コラーゲン溶液も、コラーゲン以外に、安定剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0053】
また、本発明における複合ゲルを製造するためのゲル化剤は特に限定されず、従来から公知のゲル化剤を用いることができる。例えば、上述したキトサン溶液をゲル化させるゲル化剤としては、ゼラチン、寒天、カラギ−ナン、キサンタンガム、アルギン酸塩、ローカストビーンガム、アラビアガム、アニオン系高分子などを挙げることができる。なお、コラーゲン溶液は、ゲル化剤を用いずにpHを調整することによりゲル化させることができる。
【0054】
本発明における複合ゲルは、キトサン類とコラーゲンとが重量比で90:10〜20:80含有しているのが好ましく、さらに好ましくは90:10〜50:50、特に好ましくは90:10〜80:20である。この範囲にすることにより、生体注入材は、生体適合性に優れ、且つ適度な粘度を保持したものとなり、生体内で形態を保つことができる。また、生体内での吸収される速度が遅くなり、長期間に亘って吸収されないものとなる。この範囲よりもコラーゲンの割合が多くなると、生体注入材の粘性が低くなりやすく、生体内において吸収される速度が早くなってしまう虞があるため好ましくない。
【0055】
本発明における複合ゲルの粘度は、1000〜20000mPa・sであることが好ましい。粘度がこの範囲となることで、適度な流動性があり、生体内に注入しやすく、且つ生体内で拡散しすぎることのないものとなる。また、上述した粘度とすることで、例えば、しわ伸ばしに用いられる25〜27ゲ−ジの注射針で注入することができるものとなる。なお、粘度がこの範囲よりも高くなると注射針の通過や、生体への注入が困難となったり、流動性がなくなったりするため好ましくない。また、粘度がこの範囲よりも低くなると、生体内において吸収される速度が早くなってしまうため好ましくない。
【0056】
本発明における複合ゲルはpHが5.5〜7.0であることが好ましく、さらに好ましくはpH6.0〜6.5である。この範囲のpHとすることで、生体内と同程度のpHとなり、炎症反応が起こりにくく細胞障害性も低くなるため、生体適合性の高い生体注入材となるからである。
【0057】
本発明におけるコラーゲンは、海洋生物由来であることが好ましい。海洋生物由来のコラーゲン、いわゆるマリンコラーゲンは、牛や豚由来のコラーゲンのように人畜共通感染症にかかる虞がなく、生体適合性に優れている。なお、マリンコラーゲンは、例えば、魚類の皮、骨、又は鱗や、甲殻類の殻等から抽出されるものである。ここで、特に好ましいものとしては、サケ、テラピア等が挙げられる。マリンコラーゲンは、酢酸、クエン酸等の有機酸、又は塩酸等の無機酸からなる群から選択される少なくともいずれか一つの酸を用いて抽出することが好ましい。なお、勿論、市販のコラーゲンを用いてもよい。
【0058】
複合ゲルに含まれるコラーゲンは、架橋されていることが好ましい。コラーゲンの架橋は、例えば、ゲル化させてコラーゲンゲルとした後に行っても、キトサンゲルとコラーゲンゲルとを混合した後に行ってもよい。コラーゲンを架橋することにより、生体内での吸収される速度が低下して、より長期間使用吸収されない生体注入材となるからである。なお、架橋方法は、特に限定されないが、例えば熱架橋、紫外線照射による架橋、架橋剤架橋、酵素架橋が挙げられる。
【0059】
さらに、コラーゲンは熱変性温度が35℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは40℃以上である。熱変性温度がヒトの体温以上であるため、生体内へ注入した際に、熱による変性でゼラチン化して生体内に吸収される速度が早くなってしまうという虞がないからである。熱変性温度が35℃以上のコラーゲンは、例えば、上述したコラーゲンを架橋して熱変性温度を上昇させることにより得られる。
【0060】
本発明におけるキトサン類とは、キチン(β−ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)を脱アセチル化した生成物又はこの誘導体をいい、キトサン(β−ポリ−D−グルコサミン)及びその誘導体の他、未反応のキチン及びその誘導体を含有するものをいう。本発明で用いることができるキトサン類は、キチンの脱アセチル化度合、すなわち、キトサンの割合が50%以上であることが好ましい。
【0061】
本発明で用いるキトサン類の主成分は特に限定されず、例えば、キトサン、N−アリルキトサン、N−アルキルキトサン、o−アリルキトサン、o−アルキルキトサン、硫酸化キトサン、ニトロ化キトサン、カルボキシメチル化キトサン等が挙げられるが、キトサン、カルボキシメチル化キトサンが好ましい。官能基を有するキトサンを用いることで、生体内の特異的な部位へ時間的な制御をしながら望むべき濃度で生体注入材を送達するようにすることもできる。
【0062】
また、本発明に用いるキトサン類は、サクシニル化キトサンを含むのが好ましい。サクシニル化キトサンを含むことで、安定的にキトサンゲルを生成することができるからである。
【0063】
また、本発明におけるキトサン類は、例えば、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンを含むのが好ましい。特に、6−O−(カルボキシメチル)キトサンが50〜75モル%、6−O−(カルボキシメチル)キチンが25〜50モル%、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが0〜39モル%からなるものが好ましい。上述した割合とすることで、キトサン類を含むキトサン溶液をゲル化剤によりゲル化した際に適度な粘度を保持するものとなるからである。
【0064】
ここで、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンからなるキトサン類を含むキトサン溶液の製造方法について説明する。
【0065】
6−O−(カルボキシメチル)キチンを1〜10wt%、好ましくは3〜5wt%に、苛性ソーダ、苛性カリ等のアルカリ性物質を含むアルカリ溶液中で20〜100℃、好ましくは40〜80℃の温度で1〜24時間、好ましくは3〜8時間反応させて、6−O−(カルボキシメチル)キチンの一部を脱アセチル化させることで、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチンからなる溶液を得る。
【0066】
この溶液に鉱酸又は有機酸を加えて中和した後、無水コハク酸等のサクシニル化剤を加えてキトサンと反応させる。
【0067】
そして、得られた溶液を透析膜処理、又はメタノールやアセトン等の貧溶媒で沈殿物を析出させて、付着する塩類を分離することにより、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンからなるキトサン類を含むキトサン溶液が得られる。
【0068】
ここで、本発明における複合ゲルの製造方法の一例を説明する。なお、キトサン類を含むキトサン溶液のゲルであるキトサンゲルと、コラーゲンを含むコラーゲン溶液のゲルであるコラーゲンゲルとを混合する方法を説明する。
【0069】
例えば、上述した方法により得られるキトサン溶液、又は市販のキトサン溶液に、水及びゲル化剤を加えて攪拌させることによりキトサンゲルを得る。
【0070】
一方、魚類の皮、骨、又は鱗に、酢酸、クエン酸等の有機酸、又は塩酸等の無機酸からなる群から選択される少なくとも1つの酸を用いることにより、コラーゲンを抽出し、このコラーゲンを塩析等で精製することでコラーゲン溶液を調製する。そして、コラーゲン溶液に、水、及びゲル化剤を加える、又はpH調整を行うことによりゲル化させてコラーゲンゲルを得る。
【0071】
このキトサンゲルと、コラーゲンゲルとを混合することにより、複合ゲルを得る。
【0072】
また、本発明における複合ゲルの製造方法の他の例を説明する。なお、キトサン類及びコラーゲン含む溶液をゲル化させる方法を説明する。
【0073】
例えば、上述した方法により得られるキトサン溶液、又は市販のキトサン溶液と、上述した方法により得られるコラーゲン溶液を混合攪拌する。そして、水及びゲル化剤を加えることにより複合ゲルを得る。
【0074】
本発明にかかる生体注入材は、生体内へ注入することができるものであり、例えば、しわ伸ばしや、豊胸、豊頬に用いて好適なものである。
【0075】
本発明にかかる生体注入材は、キトサン類とコラーゲンとを含む複合ゲルからなり、コラーゲンが吸収された後も、キトサン類がしばらく吸収されずに注入部位に残存することにより、注入時の形態を長く保つことができる。
【0076】
また、生体内から採取した自家線維芽細胞を本発明における複合ゲルで培養して、本発明にかかる生体注入材としてもよい。このような生体注入材は、生体へ注入することにより、生体において自己組織化が促進されやすく、例えば、瘢痕化や、血行に乏しいなどの悪条件の移植床でも皮下組織を再生することができる。すなわち、生体内の自家線維芽細胞を含む生体注入材は、組織形成を半永久的に保持することができるものとなる。
【0077】
また、本発明にかかる生体注入材は、線維芽細胞以外の細胞や、接着因子、サイトカイン等の担体としても利用することができる。
【0078】
本発明にかかる美容・医療用バルク材は、キトサン類と、コラーゲンとを含む多孔質体からなる。ここでいう多孔質体は、多孔質を有する、すなわち、多数の孔を持つ固体を有する。本発明にかかるバルク材は、組織欠損の形状に応じて自由に採型でき、生体内においても一定の形状を保つだけでなく、多孔質体からなることにより孔から生体内の細胞が中心部へと侵入しやすいものとなる。
【0079】
また、本発明にかかるバルク材は、キトサン類及びコラーゲンが主成分となるものである。なお、主成分とは、機能を発揮する主な成分の1つであることを指し、必ずしも最多成分であることを指すものではない。なお、本発明にかかるバルク材は、コラーゲンよりもキトサン類を多く含むことが好ましい。
【0080】
本発明にかかる美容・医療用バルク材は、生体適合性が非常に優れるコラーゲンと、コラーゲンと比較して生体に吸収され難く、長期間に亘って生体に吸収されない性質を有するキトサン類とを用い、主にキトサン類でバルク材骨格を形成し且つコラーゲンによりバルク材骨格の生体適合性を向上させるようにしたものである。
【0081】
ここで、コラーゲンは、ヒトの生体の真皮、靭帯、骨、血液のタンパク質の一種であり、細胞外マトリックスの主成分であるため、生体内における生体適合性が非常に高いが、生体内で吸収される速度が速いという欠点がある。一方、キトサン類は、生体適合性はコラーゲンより劣るが、生体内で吸収される速度が非常に遅い。本発明では、このようなキトサン類とコラーゲンとを並存させることで、互いの性質が補われ、生体内移植時にはコラーゲンの特性により生体適合性が良好であり、コラーゲンが吸収された後はキトサン類がしばらく吸収されずに残ることで、長期間に亘って生体内で移植時の形態を保持することができるものとなる。具体的には、生体内へ移植した初期の段階では、コラーゲンにより生体適合性が良好となるだけではなく、コラーゲンを足場として自家組織がバルク材内部へと侵入して自己組織化が進行する。しばらくしてコラーゲンが吸収された後もキトサンはフレームとして残り、且つバルク材内部(キトサン骨格内部)に侵入して自己組織化した細胞で満たされることで長期間に亘って生体内で移植時の形態が保持される。
【0082】
なお、本発明における美容・医療用バルク材に含有されるキトサン類及びコラーゲンは上述したとおりである。
【0083】
また、本発明にかかる美容・医療用バルク材は、生体内の組織を再生させるための細胞の足場材料として好適なものである。具体的には、生体内での線維芽細胞や血管内皮細胞の足場として用いることができる。この線維芽細胞が自家コラーゲンや細胞外マトリックスを産出し、血管内皮細胞が血管を新生するため、本発明にかかる美容・医療用バルク材は自己組織化される。具体的には、コラーゲンが、線維芽細胞や血管内皮細胞を接着させ、これらの細胞増殖を促進し、バルク材の内部へ侵入した線維芽細胞は自家コラーゲンや細胞外マトリックスを分泌し、血管内皮細胞は血管を新生する。このため、本発明にかかるバルク材は自己組織化が進行する。キトサン類は、コラーゲンが吸収された後もしばらく吸収されることなく、移植時の形状を保持し、再生された組織の骨格として働く。このように、本発明にかかるバルク材は、長期間に亘って吸収されずに、組織欠損部に合わせて成形した形態を保持することができる。
【0084】
本発明にかかる美容・医療用バルク材として用いることができる多孔質体は、例えば、キトサン類を含むキトサン溶液を凍結乾燥させて形成した多孔質に、コラーゲンを含むコラーゲン溶液又はそのゲルであるコラーゲンゲルを含浸させる、又はキトサン類とコラーゲンを含む溶液を凍結乾燥させることにより得ることができる。なお、多孔質化させて多孔質体を得る手段は、凍結乾燥に限定されるものではない。
【0085】
また、本発明に係る美容・医療用バルク材となる多孔質体は、キトサン類とコラーゲンの他、例えば、バルク材としての性質を向上させるための添加剤等を含有させてもよい。さらに、本発明に係る美容・医療用バルク材として用いることができる多孔質体は、上述したものに限定されず、例えば、キトサン溶液を凍結乾燥等させた多孔質に、コラーゲン及びキトサン類を含む溶液又はそのゲルを含有させてもよいし、コラーゲンとキトサン類とを含む溶液を凍結乾燥等させた多孔質にさらにコラーゲン溶液やそのゲルを含浸させてもよい。
【0086】
キトサン類とコラーゲンを含む溶液を凍結乾燥させて形成する多孔質体は、キトサン溶液を凍結乾燥させた後にコラーゲン溶液を含浸させて凍結乾燥させても、コラーゲン溶液を凍結乾燥させた後にキトサン溶液を含浸させて凍結乾燥させても、コラーゲン溶液とキトサン溶液を混合してから凍結乾燥させてもよい。
【0087】
また、多孔質体は、コラーゲンを含むコラーゲン溶液又はコラーゲン多孔質にキトサン類を含むキトサン繊維を加えてホモジナイズした後、凍結乾燥させて得ることもできる。
【0088】
本発明における多孔質は、自家細胞が進入しやすいように多孔率が高く、孔の径が比較的大きい多孔質であることが好ましい。多孔質は、気孔径が50μmから400μm程度、気孔率が50vol%から80vol%程度であることが好ましく、気孔間連通孔の径が30μmから50μm程度であることが好ましい。バルク材に細胞が侵入しやすくなることで、生体内の軟部組織等が内部で形成されやすくなる、すなわち、自己組織化が進行しやすくなるからである。
【0089】
なお、本発明における多孔質体に含まれるコラーゲンは、熱架橋、紫外線照射による架橋、架橋剤架橋、酵素架橋などにより架橋されていることが好ましい。コラーゲンは架橋することにより、生体内での吸収される速度が低下するためである。また、コラーゲンを架橋することにより、多孔質体の力学的強度が向上するためである。
【0090】
また、本発明における多孔質体は、上述したものに限定されず、例えば、キトサン類を含む多孔質と、コラーゲンを含む多孔質とを複数層積層(ラミネート)したものでもよい。このとき、キトサン類を含む多孔質を、コラーゲンを含む多孔質で挟み込むように成形することが好ましい。また、複数層積層(ラミネート)することで多孔質体の厚みや形を自由にコントロールすることができ、任意の形状に自己組織化できるものとなる。
【0091】
なお、本発明の美容・医療用バルク材は、生体の所望の部位に埋め込んで使用されるものであり、上述した各種方法で製造された多孔質体を所望の形状に成形して使用される。
【0092】
本発明にかかるバルク材の製造方法の一例を説明する。ここでは、キトサン類とコラーゲンとを含む溶液を凍結乾燥させて形成した多孔質体からなるバルク材について説明する。ただし、バルク材の製造方法はこれに限定されない。
【0093】
まず、甲殻類の殻等を塩酸処理して得られたキトサン類を、酢酸、乳酸等の有機酸、又は塩酸等の無機酸に溶解させることによりキトサン溶液を得る。なお、勿論、市販されているキトサン溶液を用いてもよい。
【0094】
次に、キトサン溶液を凍結乾燥させた後、NaOH等のアルカリ溶液を加えて攪拌し、水洗する。これにより、キトサン類は酸が中和されて不溶化する。
【0095】
その後、これを再び凍結乾燥させることでキトサン類からなる多孔質を得る。
【0096】
次に、キトサン類からなる多孔質にコラーゲン溶液を含浸させる。なお、コラーゲンは、例えば、魚類の皮、骨、鱗等から酢酸、塩酸、又はクエン酸等により抽出し、このコラーゲンを塩析等で精製することで、コラーゲン溶液とする。なお、勿論、市販されているコラーゲン溶液を用いてもよい。
【0097】
最後に、コラーゲン溶液を含浸させた多孔質を凍結乾燥し、加熱してコラーゲンを熱架橋することにより、バルク材を得る。
【0098】
本発明にかかるバルク材は、製造工程において凍結乾燥法などにより、厚みのあるスポンジ状のバルク材とすることができる。すなわち、前述の基準を満たす高多孔率、高気孔径で連通性の良いバルク材とすることができる。このため、本発明にかかるバルク材は、中心部まで細胞が侵入しやすいものとなる。
【0099】
従来の創傷被覆材は、ほとんどが浅い皮膚欠損部の上皮化を目的とする人工皮膚であったが、本発明にかかるバルク材は、例えば、豊胸、豊頬に用いることができるだけでなく、先天的・後天的な組織欠損部への移植、すなわち軟部組織の大欠損を補填できるものである。また、各種の細胞や栄養因子、接着因子、サイトカインの担体として用いれば、軟部組織に限らず、硬組織の再建にも有効である。
【0100】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0101】
<生体注入材1>
(実施例1)
6−O−(カルボキシメチル)キチン28gを6wt%のNaOH溶液1400gに溶解し、70℃で6時間攪拌し、キチンを脱アセチル化させた。この溶液を室温まで冷却後、pHを6.5に調整し、無水コハク酸1.0gを加え、50℃で2時間攪拌して、溶液に含まれるキトサンの一部をサクシニル化した。その後、付着した塩類を透析膜で脱塩精製することで、N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが3モル%、6−O−(カルボキシメチル)キトサンが62モル%、6−O−(カルボキシメチル)キチンが35モル%からなるキトサン溶液が得られた。
【0102】
1wt%のキトサン溶液16gに、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液9gと、水65gとを加え、攪拌してキトサンゲルを得た。
【0103】
サケの皮、骨、鱗からコラーゲンを抽出し、塩析で精製した後、凍結乾燥し、希塩酸に溶解させて透析することでpHを変化させて0.5wt%コラーゲンゲル10gを得た。
【0104】
このキトサンゲルにコラーゲンゲルを加えて攪拌し、実施例1の生体注入材を得た。
【0105】
(実施例2)
1wt%のキトサン溶液16gに、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液9gと安定剤として1,3−ブチレングリコールを3gと水62gとを加え、攪拌してキトサンゲルとした以外は、実施例1と同様にして実施例2の生体注入材を得た。
【0106】
(実施例3)
1wt%のキトサン溶液24gに、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液14gと水52gとを加え、攪拌してキトサンゲルとした以外は、実施例1と同様にして実施例3の生体注入材を得た。
【0107】
(実施例4)
1wt%のキトサン溶液24gに、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液14gと安定剤として1,3−ブチレングリコールを5gと水47gとを加え、攪拌してキトサンゲルとした以外は、実施例1と同様にして実施例4の生体注入材を得た。
【0108】
実施例1〜4の生体材料の組成及び特性を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、実施例1〜4の生体注入材は、pHが6.1〜6.3で、粘度が1300mPa・s〜15500mPa・sであった。
【0111】
なお、実施例4の生体注入材をプレートに滴下した際の写真を図1に示す。図1(a)は水平状態のプレートに滴下した際の写真、図1(b)は傾斜させたプレートに滴下した際の写真である。
【0112】
図1に示すように、実施例4の生体注入材は、プレートを傾斜させても流れ落ちることのない程度の粘度を有するものであった。このように、本発明の生体注入材は、生体内に注入した際に、注入部位から拡散することがないものであると考えられる。
【0113】
<生体注入材2>
(1)キトサンゲル
実施例1と同様の方法によりN−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが3モル%、6−O−(カルボキシメチル)キトサンが62モル%、6−O−(カルボキシメチル)キチンが35モル%からなるキトサン溶液を得た。このキトサン溶液に、ゲル化剤である0.5wt%カルボキシビニルポリマー液と安定剤として1,3−ブチレングリコールをと水とを加え、攪拌してキトサンゲルを得た。
【0114】
(2)コラーゲンゲル
テラピアの鱗からコラーゲンを抽出し、水に溶解させた後、熱架橋することにより、変性温度35〜37℃のコラーゲン溶液を得た。このコラーゲン溶液を塩析で精製した後、凍結乾燥し、希塩酸に溶解させて透析することでpHを変化させてコラーゲンゲルを得た。
【0115】
(実施例5)
キトサン類とコラーゲンとの重量比率が60:40になるように、キトサンゲルとコラーゲンゲルを混合して、実施例5の生体注入材を得た。
【0116】
(実施例6)
キトサン類とコラーゲンとの重量比率が70:30になるように、キトサンゲルとコラーゲンゲルを混合して、実施例6の生体注入材を得た。
【0117】
(実施例7)
キトサン類とコラーゲンとの重量比率が80:20になるように、キトサンゲルとコラーゲンゲルを混合して、実施例7の生体注入材を得た。
【0118】
(実施例8)
キトサン類とコラーゲンとの重量比率が90:10になるように、キトサンゲルとコラーゲンゲルを混合して、実施例8の生体注入材を得た。
【0119】
(比較例1)
キトサンゲルを比較例1の生体注入材とした。
【0120】
(比較例2)
コラーゲンゲルを比較例2の生体注入材とした。
【0121】
実施例5〜8及び比較例1〜2の生体材料の組成及び特性を表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
(試験例1)
実施例5〜8、比較例1〜2の生体注入材1mlを、24匹のウイスター・ラットの背部皮下に3箇所ずつ注入した。なお、3箇所にはそれぞれ異なる生体注入材を注入した。
【0124】
術後3日、1週、2週に各群2匹ずつ採取した。各群2匹2箇所の試料を半割し、一方はHE染色標本(LM)を作成し、もう一方は固定液中に保存した。必要に応じてTEM(透過型電顕)で観察した。
【0125】
術後3日、2週のラットの皮下組織のHE標本による観察結果を図2〜5に、実施例6の生体注入材を注入したラットの術後1週の皮下組織のHE標本観察結果を図6に示す。また、術後2週のラットの皮下組織の写真を図7に示す。
【0126】
(結果のまとめ)
図7に示すように、実施例5〜8及び比較例1〜2の生体注入材を注入したラットの皮下組織は、いずれも肉眼的炎症所見は軽度だった。
【0127】
図2から明らかなように、コラーゲンゲルからなる比較例2の生体注入材は、術後3日にほぼ吸収されてしまった。これに対し、実施例5〜8及び比較例1の生体注入材は、生体に完全には吸収されずに注入時の形態を保持していた。
【0128】
図3に示すように、実施例5〜8の生体注入材の小円形細胞浸潤は注入直後より増強したが、キトサンの比率が高い実施例7及び8の生体注入材内部への細胞浸潤は軽度だった。コラーゲンの比率が高い実施例5及び6の生体注入材内部への細胞浸潤は比較的強かった。コラーゲンを貪食するために多数の貪食細胞が動員されるためである。
【0129】
これに対し、キトサンゲルのみからなる比較例1の生体注入材はゲル内部まで小円形細胞が浸潤していた。これはキトサンにより炎症反応が惹起されるからである。
【0130】
実施例6の生体注入材を注入したラットの術後1週の皮下組織では(図6)、周囲よりゲル内部に向かって小円形細胞が浸潤し、これは旺盛な血管新生(図中V)を伴っていた。皮膜形成はほとんど認められなかった。
【0131】
図4及び図5に示すように、術後2週で比較例1の生体注入材は確認できなかった。これに対し、実施例5〜8の生体注入材は、注入時の形態を保持していた。
【0132】
以上より、キトサン類とコラーゲンを複合したゲルからなる生体注入材は、単体のゲルを生体に注入するよりも安全で、生体に吸収され難く、長期間に亘って注入部位に残存することがわかった。また、キトサン類とコラーゲンとを重量比で80:20〜90:10含有している生体注入材は、特に生体適合性に優れるものであることがわかった。
【0133】
<バルク材>
(実施例9)
1.5wt%のキトサン酢酸液100g(北海道曹達株式会社製)を−10℃で48時間かけて凍結乾燥し、白色で板状の多孔質2.15gを得た。これを4.2wt%の苛性ソーダ(和光純薬工業株式会社製)に室温で1時間浸漬させ、その後、蒸留水で洗浄した。これを−10℃で48時間かけて凍結乾燥させてキトサン類からなる多孔質を得た。
【0134】
次いで、キトサン類からなる多孔質を0.5wt%の鮭由来コラーゲン液100g(井原水産株式会社製)に室温で1時間浸漬し、コラーゲン液を浸透吸収させた。さらにこれを−10℃で48時間かけて凍結乾燥した後、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱し、熱架橋を行うことで、実施例9のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示し、写真を図9に示す。
【0135】
(実施例10)
0.5wt%の鮭由来コラーゲン液100g(井原水産株式会社製)を−10℃で48時間かけて凍結乾燥し、白色で板状のコラーゲンからなる多孔質を得た。得られたコラーゲンからなる多孔質を、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱して熱架橋を行なった。このコラーゲンからなる多孔質を5.0wt%のキトサン酢酸液100g(北海道曹達株式会社製)に室温で2時間浸漬し、コラーゲンからなる多孔質にキトサン酢酸液を浸透吸収させた。これを−10℃で48時間かけて凍結乾燥した後、4wt%の苛性ソーダ(和光純薬工業株式会社製)に室温で1時間浸漬させ、蒸留水で洗浄した。洗浄した複合体を−10℃で48時間かけて凍結乾燥させることで、実施例10のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示し、写真を図10に示す。
【0136】
(実施例11)
0.5wt%の鮭由来コラーゲン液128g(井原水産株式会社製)と1.5wt%キトサン酢酸液100g(井原水産株式会社製)を室温で攪拌し、キトサン−コラーゲン混合液を調製した。この液を−10℃で48時間かけて凍結乾燥し、キトサン−コラーゲン多孔質を得た。得られたキトサン−コラーゲン多孔質を、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱し、熱架橋を行ない、4.2wt%の苛性ソーダ(和光純薬工業株式会社製)に室温で1時間浸漬させ、その後、蒸留水で洗浄した。洗浄した多孔質を−10℃で48時間かけて凍結乾燥させることで、実施例11のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示し、写真を図11に示す。
【0137】
(実施例12)
ノースキトサンMC−2W(北海道曹達株式会社製)を酢酸に溶解させ、0.5wt%のキトサン酢酸溶液を調整した。このキトサン酢酸溶液と0.5%wt%のコラーゲン液の割合が7:3となるように混合し、この混合溶液を5×3.5cmのトレイに100ml入れた。これを凍結乾燥して多孔質を得た。4MNaClに架橋剤である水溶性カルボジイミドを溶解させて、多孔質を4℃で48時間架橋反応させた。その後、多孔質を蒸留水で洗浄した。洗浄した多孔質を凍結乾燥させることで、実施例12のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示す。
【0138】
(実施例13)
キトサン溶液とコラーゲン溶液の割合が5:5となるように混合した以外は実施例12と同様にして実施例13のバルク材を得た。
【0139】
(実施例14)
キトサン溶液とコラーゲン溶液の割合が3:7となるように混合した以外は実施例12と同様にして実施例14のバルク材を得た。
【0140】
(実施例15)
脱アセチル化度93%のキトサントリフルオロ酢酸液を注射器に入れて22G針につなぎ、インフュージョンポンプの送液速度を2ml/時間とし、アルミニウムからなる電極板(5.5cm×5.5cm)と針との間に高圧直流電圧電源により27kvの電圧をかけて、電極板へトリフルオロ酢酸液を噴出することで、電極板にキトサン繊維を得た。電極板からはがしたキトサン繊維を28重量%のアンモニア水に室温で1時間浸漬させた後、蒸留水を室温で2時間連続的に供給して洗浄することで、キトサン繊維を得た。
【0141】
キトサン繊維に、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱して熱架橋を行ったコラーゲン多孔質を加え、ホモジナイズしてスラリー液を得た。これを凍結乾燥機にて−10℃で48時間かけて凍結乾燥し、実施例15のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示す。
【0142】
(実施例16)
実施例15で得られたキトサン繊維に0.5wt%の鮭由来コラーゲン液を加え、ホモジナイズしてスラリー液を得る。これを凍結乾燥機にて−10℃で48時間かけて凍結乾燥した後、真空乾燥機にて140℃で16時間加熱し、熱架橋を行い、実施例16のバルク材を得た。バルク材の製造方法のフローチャートを図8に示し、写真を図12に示す。
【0143】
(試験例2)
実施例9〜11のバルク材の厚さ、及び密度を測定した。結果を表3に示す。
【0144】
【表3】
【0145】
表3及び図9〜11に示すように実施例9〜11のバルク材はいずれもスポンジ状で、低密度のものとなった。これより、キトサン類とコラーゲンを含有する多孔質体からなる本発明のバルク材は、生体内の細胞が侵入しやすい低密度のものとすることができ、また、厚みのあるものとすることができるものであることがわかった。コラーゲンの割合を変更する等、条件を適宜調整することにより、生体内での吸収速度を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】実施例4の生体注入材をプレートに滴下した際の写真である。
【図2】術後3日のラットの皮下組織の拡大写真である。
【図3】図2の拡大写真をさらに拡大した写真である。
【図4】術後2週のラットの皮下組織の拡大写真である。
【図5】図4の拡大写真をさらに拡大した写真である。
【図6】実施例6の生体注入材を注入後1週のラットの皮下組織の拡大写真である。
【図7】術後2週のラットの皮下組織の写真である。
【図8】本発明にかかるバルク材の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】実施例9のバルク材の写真である。
【図10】実施例10のバルク材の写真である。
【図11】実施例11のバルク材の写真である。
【図12】実施例16のバルク材の写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサン類と、コラーゲンとを含む複合ゲルからなることを特徴とする生体注入材。
【請求項2】
請求項1に記載の生体注入材において、前記複合ゲルが、前記キトサン類を含むキトサン溶液のゲルであるキトサンゲルと前記コラーゲンを含むコラーゲン溶液のゲルであるコラーゲンゲルとを混合させたもの、又は前記キトサン類及び前記コラーゲンを含む溶液をゲル化させたものからなることを特徴とする生体注入材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生体注入材において、前記コラーゲンが、海洋生物由来であることを特徴とする生体注入材。
【請求項4】
請求項3に記載の生体注入材において、前記コラーゲンが、魚類の皮、骨、又は鱗から抽出したものであることを特徴とする生体注入材料。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルはpHが5.5〜7.0であることを特徴とする生体注入材。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルは、前記キトサン類と前記コラーゲンとを重量比で90:10〜20:80含有していることを特徴とする生体注入材。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルの粘度が1000〜20000mPa・sであることを特徴とする生体注入材。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の生体注入材において、前記キトサン類がサクシニル化キトサンを含むことを特徴とする生体注入材。
【請求項9】
請求項8に記載の生体注入材において、前記キトサン類が、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、及びN−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンを含むことを特徴とする生体注入材。
【請求項10】
請求項9に記載の生体注入材において、前記キトサン類が、前記6−O−(カルボキシメチル)キトサンが50〜75モル%、前記6−O−(カルボキシメチル)キチンが25〜50モル%、前記N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが0〜39モル%からなるものであることを特徴とする生体注入材。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルは、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、アルギン酸塩、ローカストビーンガム、アラビアガム、及びアニオン系高分子からなる群から選択される少なくとも1つのゲル化剤によりゲル化されたものであることを特徴とする生体注入材。
【請求項12】
請求項1〜11の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルに含まれる前記コラーゲンが架橋されたものであることを特徴とする生体注入材。
【請求項13】
生体内へ移植するための美容・医療用バルク材であって、キトサン類と、コラーゲンとを含む多孔質体からなることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項14】
請求項13に記載の美容・医療用バルク材において、前記多孔質体が、前記キトサン類を含むキトサン溶液から形成した多孔質に、前記コラーゲンを含むコラーゲン溶液、又はそのゲルであるコラーゲンゲルを含浸させたものであることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項15】
請求項13に記載の美容・医療用バルク材において、前記多孔質体が前記キトサン類と前記コラーゲンとを含む溶液から形成した多孔質からなるものであることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項16】
請求項13〜15の何れかに記載の美容・医療用バルク材において、前記多孔質体に含まれる前記コラーゲンが架橋されたものであることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項17】
請求項13〜16の何れかに記載の美容・医療用バルク材において、前記コラーゲンが、海洋生物由来であることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項18】
請求項17に記載の美容・医療用バルク材において、前記コラーゲンが魚類の皮、骨、又は鱗から抽出したものであることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項1】
キトサン類と、コラーゲンとを含む複合ゲルからなることを特徴とする生体注入材。
【請求項2】
請求項1に記載の生体注入材において、前記複合ゲルが、前記キトサン類を含むキトサン溶液のゲルであるキトサンゲルと前記コラーゲンを含むコラーゲン溶液のゲルであるコラーゲンゲルとを混合させたもの、又は前記キトサン類及び前記コラーゲンを含む溶液をゲル化させたものからなることを特徴とする生体注入材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生体注入材において、前記コラーゲンが、海洋生物由来であることを特徴とする生体注入材。
【請求項4】
請求項3に記載の生体注入材において、前記コラーゲンが、魚類の皮、骨、又は鱗から抽出したものであることを特徴とする生体注入材料。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルはpHが5.5〜7.0であることを特徴とする生体注入材。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルは、前記キトサン類と前記コラーゲンとを重量比で90:10〜20:80含有していることを特徴とする生体注入材。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルの粘度が1000〜20000mPa・sであることを特徴とする生体注入材。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の生体注入材において、前記キトサン類がサクシニル化キトサンを含むことを特徴とする生体注入材。
【請求項9】
請求項8に記載の生体注入材において、前記キトサン類が、6−O−(カルボキシメチル)キトサン、6−O−(カルボキシメチル)キチン、及びN−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンを含むことを特徴とする生体注入材。
【請求項10】
請求項9に記載の生体注入材において、前記キトサン類が、前記6−O−(カルボキシメチル)キトサンが50〜75モル%、前記6−O−(カルボキシメチル)キチンが25〜50モル%、前記N−(3−カルボキシプロパノイル)−6−O−(カルボキシメチル)キトサンが0〜39モル%からなるものであることを特徴とする生体注入材。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルは、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、アルギン酸塩、ローカストビーンガム、アラビアガム、及びアニオン系高分子からなる群から選択される少なくとも1つのゲル化剤によりゲル化されたものであることを特徴とする生体注入材。
【請求項12】
請求項1〜11の何れかに記載の生体注入材において、前記複合ゲルに含まれる前記コラーゲンが架橋されたものであることを特徴とする生体注入材。
【請求項13】
生体内へ移植するための美容・医療用バルク材であって、キトサン類と、コラーゲンとを含む多孔質体からなることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項14】
請求項13に記載の美容・医療用バルク材において、前記多孔質体が、前記キトサン類を含むキトサン溶液から形成した多孔質に、前記コラーゲンを含むコラーゲン溶液、又はそのゲルであるコラーゲンゲルを含浸させたものであることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項15】
請求項13に記載の美容・医療用バルク材において、前記多孔質体が前記キトサン類と前記コラーゲンとを含む溶液から形成した多孔質からなるものであることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項16】
請求項13〜15の何れかに記載の美容・医療用バルク材において、前記多孔質体に含まれる前記コラーゲンが架橋されたものであることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項17】
請求項13〜16の何れかに記載の美容・医療用バルク材において、前記コラーゲンが、海洋生物由来であることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【請求項18】
請求項17に記載の美容・医療用バルク材において、前記コラーゲンが魚類の皮、骨、又は鱗から抽出したものであることを特徴とする美容・医療用バルク材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−110207(P2008−110207A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263692(P2007−263692)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(390021393)北海道曹達株式会社 (7)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(594038025)井原水産株式会社 (10)
【出願人】(591063394)財団法人 東京都医学研究機構 (69)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(390021393)北海道曹達株式会社 (7)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(594038025)井原水産株式会社 (10)
【出願人】(591063394)財団法人 東京都医学研究機構 (69)
【Fターム(参考)】
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