生体物質測定装置、生体物質測定方法および生体内循環腫瘍細胞測定方法
【課題】非侵襲で生体内の循環腫瘍細胞を正確かつ迅速に測定できる循環腫瘍細胞測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の循環腫瘍細胞測定装置1は、光を照射する光源3と、標識剤に光が照射された際に標識剤から生体外に放出される光が入射され、所定の波長域の光を透過するとともに、波長域を変更可能な波長可変フィルター4と、波長可変フィルター4を通して入射された光の強度を検出して測定対象の複数位置から放出される光の強度分布を取得するエリアセンサー5(光検出手段)と、エリアセンサー5が取得した光強度分布に基づいて標識剤の濃度と対象物との結合度を算出するDSP6(演算手段)と、を備えている。
【解決手段】本発明の循環腫瘍細胞測定装置1は、光を照射する光源3と、標識剤に光が照射された際に標識剤から生体外に放出される光が入射され、所定の波長域の光を透過するとともに、波長域を変更可能な波長可変フィルター4と、波長可変フィルター4を通して入射された光の強度を検出して測定対象の複数位置から放出される光の強度分布を取得するエリアセンサー5(光検出手段)と、エリアセンサー5が取得した光強度分布に基づいて標識剤の濃度と対象物との結合度を算出するDSP6(演算手段)と、を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばイメージ素子などで取得する生体物質測定装置、生体物質測定方法および生体内循環腫瘍細胞測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、中でも患者に抗がん剤治療を施した際、薬剤による副作用を最小限に抑え、かつ十分な治療効果を得るために、患者の体内における治療効果に関する情報を得ることが求められている。従来、最も一般的な手法として、患者の静脈から採血を行って腫瘍マーカーの血中濃度を測定し、そのデータを解析することで経過観察をする方法が採られている。ところが、例外も数多くあり、がんが存在しないにもかかわらず腫瘍マーカー値が上昇している場合や、がんが存在するにもかかわらず腫瘍マーカー値が上昇しない場合など正確にはがんの動きを反映していない。従って、抗がん剤治療などの効果を的確に把握できる方法が求められている。また、生体内の循環腫瘍細胞を知ることは、治療分野のみならず、がんの早期発見などの分野でも重要な役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002−503814号公報
【特許文献2】特表2009−525468号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ADAMS Andre A.他,「組み込み伝導度センサーのあるポリマーに基づくマイクロ流体工学を用いた全血からの非常に効率的な循環腫瘍細胞分離および標識無しでの計数」,(米国),J Am Chem Soc.2008 July 9;130(27):8633−8641.doi:10.1021/ja8015022
【非特許文献2】HE Wei.他,「多光子生体フローサイトメトリーによる稀な循環腫瘍細胞のin vivo定量」,(米国),PNAS July 10,2007 vol.104 no.28 11760−11765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1、2及び非特許文献1,2の技術は、いずれも上記の要求を満足できるものではなかった。
特許文献1の方法では、測定する際に、人体に穿刺器を穿刺し、サンプルとなる血液を採取する必要がある。すなわち、特許文献1の方法は非侵襲で循環腫瘍細胞を測定できるものではない。また、同様に特許文献2の方法も、サンプルとなる血液を採取する必要がある。また、特許文献3の装置でも、サンプルとなる血液を採取する必要があり、成人で5リットルといわれる血液量からのミリリットルオーダーでの採血による、サンプリング誤差や、体外に取り出しての処理による生体物質の変性などによる誤差によって低い精度となっていた。それらのサンプリングによる精度低下を解決する手段として、非特許文献2が提案されているが、二光子顕微鏡という大掛かりな装置により実用性に問題があった。
【0006】
なお、人体から採取した血液サンプル等について、体外でその測定などを行う場合はインビトロ(in vitro)計測と呼ばれ、生体内の血液等を体外に取り出さずにその測定を行う場合はインビボ(in vivo)計測と呼ばれる。
【0007】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、非侵襲で生体内の循環腫瘍細胞等の生体物質を正確かつ迅速に測定できる生体物質測定装置、生体物質測定方法および生体内循環腫瘍細胞測定方法を提供するため、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[適用例1]本適用例に係る生体物質測定装置は、被対象物と結合する蛍光標識剤によって被対象物を検出する装置であって、
測定対象に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光源と、
前記蛍光標識剤に前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から放出される光が入射され、入射光の全波長域のうちの所定の波長域の光を透過するとともに、前記波長域を変更可能な波長可変フィルターと、
前記波長可変フィルターを通して入射された光の強度を検出して前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する光検出手段と、
前記光検出手段が取得した前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が存在している濃度を算出する濃度算出手段と、
前記光検出手段が取得した前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出手段と、
を備えたことを特徴とする。
本適用例に記載の生体物質測定装置によれば、蛍光標識剤の濃度ならびに蛍光標識剤とその結合対象となる生体物質との結合度の算出ができ、循環腫瘍細胞等の生体物質の検出を高精度に行うことができる。
【0009】
[適用例2]また、上記適用例に記載の生体物質測定装置は、前記光検出手段の光を照射する光源の波長域、及び波長可変フィルターの波長域に、波長が600nm〜1200nmの光を使用することを特徴とする。
本適用例によれば、生体を効率よく透過するので、生体内に侵襲することなく生体外から精度よく測定することができる。
【0010】
[適用例3]また、上記適用例に記載の生体物質測定装置は、前記結合度算出手段が前記濃度算出手段による算出結果をマスクデータとして結合度を演算することを特徴とする。
本適用例によれば、結合している部分のみ抽出しノイズを除去でき、高精度に測定できる。
【0011】
[適用例4]また、上記適用例に記載の生体物質測定装置は、前記濃度算出手段による算出結果と前記結合度算出手段による結合度をベクトル演算することを特徴とする。
本適用例によれば、加法混色と同様なベクトル的な加算によりノイズを除去でき、高精度に測定できる。
【0012】
[適用例5]また、本適用例に係る生体物質測定方法は、被対象物と結合する蛍光標識剤によって被対象物を検出する生体物質測定方法であって、
測定対象に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光照射工程と、
前記蛍光標識剤に前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から放出される光のうち、前記測定対象の複数の位置から放出される特定の波長域の光の強度を検出し、前記波長域を変えて前記強度の検出を複数回繰り返すことにより、前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する強度分布取得工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤の濃度を算出する濃度算出工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出工程と、
を備えたことを特徴とする。
本適用例に記載の生体物質測定方法によれば、蛍光標識剤の濃度と結合度の算出ができ、蛍光標識剤とその結合対象となる生体物質との生体物質の検出を高精度に行うことができる。
【0013】
[適用例5]また、本適用例に係る生体内循環腫瘍細胞測定方法は、被対象物と結合する蛍光標識剤によって生体内の被対象物を検出する生体内循環腫瘍細胞測定方法であって、
前記蛍光標識剤を生体に投与する投与工程と、
測定対象である生体に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光照射工程と、
前記蛍光標識剤に生体外から前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から生体外に放出される光のうち、前記測定対象の複数の位置から放出される特定の波長域の光の強度を検出し、前記波長域を変えて前記強度の検出を複数回繰り返すことにより、前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する強度分布取得工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤の濃度を算出する濃度算出工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出工程と、
を備えたことを特徴とする。
本適用例に記載の生体内循環腫瘍細胞測定方法によれば、濃度と結合度の算出ができ、生体内での循環腫瘍細胞の検出を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の蛍光分布測定装置のブロック図である。
【図2】インビボでの蛍光分布測定装置の使用状態のイメージを示す斜視図である。
【図3】第1構成例の波長可変フィルター(液晶フィルター)を分解した状態で示す斜視図である。
【図4】液晶フィルターを構成する一つの液晶セルの断面図である。
【図5】各液晶セルへの印加電圧と透過ピーク波長との関係を示すグラフである。
【図6】液晶フィルターの分光特性を示す図である。
【図7】標識剤の蛍光強度と濃度を求める検出波長との関係を示すグラフである。
【図8】標識剤の蛍光強度と濃度と結合度を求める検出波長との関係を示すグラフである。
【図9】イメージデータを操作する画像レイヤーを示す説明図である。
【図10】標識剤の蛍光強度分布から結合度分布を算出する手順を示すフローチャートである。
【図11】標識剤の蛍光強度分布から結合度分布を算出する別の手順を示すフローチャートである。
【図12】インビトロでの検出を説明する図である。
【図13】インビトロでの検出を説明する図である。
【図14】小型の実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
本実施形態の生体物質測定装置は、循環腫瘍細胞測定装置(以下、単に「CTC測定装置」という)であって、生体物質として循環腫瘍細胞と結合する標識剤が投与された生体内のCTC(循環腫瘍細胞:Circulating Tumor Cell)を測定する装置の一例である。測定対象は、人間でも良いし、薬理実験等に良く用いられるラット、マウス等の動物でも良いが、本実施形態では人間(患者)を想定して説明する。
図1は、本実施形態の循環腫瘍細胞測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
[装置構成]
図1に示すように、本実施形態のCTC測定装置1は、光源3と、波長可変フィルター4と、エリアセンサー5(光検出手段)と、信号処理プロセッサー(Digital Signal Processor,DSP)6(濃度算出手段)と、画像メモリー7と、バンドパスフィルター8と、を備えている。光源3は、測定対象である生体100に対して光(励起光)を照射するものである。波長可変フィルター4は、生体100内の標識剤に光が照射された際に標識剤から放出される光を受け、入射光の全波長域のうちの特定波長域の光を透過させるものである。エリアセンサー5は、波長可変フィルター4を通して入射された放射光の強度を検出するものである。DSP6は、エリアセンサー5が取得した測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて標識剤の濃度と結合度を算出するものである。画像メモリー7は、DSP6が得た画像データを記憶し、画像処理後のデータ等を記憶するものである。
【0017】
CTCの測定に先立って、標識剤を薬剤投与装置2により人体に投与する(投与工程)。標識剤は、リガンドや抗体などの対象物と特異的に結合する機能と蛍光機能を有している。つまり標識剤は、蛍光剤と結合剤により構成されている。もちろん蛍光剤と結合剤が同一であってもよい。対象物(CTC)を捕捉して、そこで蛍光を発することにより対象物(CTC)を検出する。光を用いて生体100内の情報を得るためには、生体100の構成成分に吸収される波長以外の波長の光を用いる必要がある。波長が約600nm以下の光はヘモグロビンで吸収され、波長が約1500nm以上の光は水で吸収されるため、これらの波長域の光は利用できず、波長が約600〜1500nmの光は生体組織を比較的良く透過する。この観点から、約600〜1500nmの波長域の光を受けてこの波長域の光を放出する特性を有する標識剤を本測定に用いることができる。さらに、受光素子としてSiフォトダイオードなどのシリコン受光素子を用いる場合、受光素子の感度の波長範囲の上限が1200nm程度であるため、約600nm〜1200nmの波長域の光を受けてこの波長域の光を放出する標識剤を用い、本測定を行うことが望ましい。
【0018】
具体的には、蛍光剤として、インドシアニングリーン、蛍光造影剤SF64(商品名、富士フィルム社製)等を用いることができる。インドシアニングリーンは、波長750〜780nmの光の照射によって励起され、波長800〜1200nm程度の近赤外光を放射する物質である。インドシアニングリーンに代わる物質として、パテントブルー、インジゴカルミン等が挙げられる。蛍光造影剤SF64は、近赤外域で強い蛍光を生じる特性を有している。特異的に結合する抗体やリガンドは対象となるがん細胞等により適宜選ぶことになる。
【0019】
標識剤の投与方法としては、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、(末梢点滴)静脈内注射、中心静脈内注射、直腸投与、経皮投与、経肺投与、経鼻投与、口腔内投与等、侵襲、非侵襲のいずれの方法を用いても良い。より具体的には、例えば点滴法を用いた静脈内注射であれば、薬剤の投与量や投与速度を調整可能な薬剤投与用マイクロポンプ等を用いることができる。
【0020】
光源3には、レーザー等の単一波長光源でもよいが、ここでは広い範囲から波長を選ぶような例えばキセノンランプが用いる例で説明する。キセノンランプの光源3から、可視域(青色域)から赤外域までの連続した分光スペクトルを持つ光が射出され、測定対象である人体に照射される(光照射工程)。このとき、バンドパスフィルター8を通過しているため、光源3からの光のうちの一部の波長の光が人体を透過して標識剤に照射されると、標識剤から蛍光が放出される。例えば蛍光剤にインドシアニングリーンを用いた場合には、光源3から射出された光のうち、波長750〜780nmの光によって蛍光剤が励起され、蛍光剤の濃度に応じて波長800〜1200nm程度の近赤外光が放射される。インドシアニングリーンの場合は近赤外光によって自身が励起され、近赤外光を放射する特性を有している。
【0021】
波長可変フィルター4は、グレーティング、エタロン等の一部の波長を通すデバイスであればよいが、ここでは液晶セルを用いた例で説明する。詳細な構成は後述するが、液晶層に電圧を印加する一対の電極と、を備えた複数組の液晶セルから構成されている。本発明の場合、後述のエリアセンサー5において、ある1点の波長における光量を検出するのではなく、複数の波長における光量を検出し、放射光のスペクトルを取得する必要があるため、エリアセンサー5の入射側で透過波長域を可変できる波長可変フィルターが必要である。波長可変フィルター4はこのような波長可変フィルターとして機能する。波長可変フィルター4のいくつかの構成例については後述する。
【0022】
エリアセンサー5には、CCD、CMOSセンサー等からなる2次元のイメージングセンサーが用いられる。一般にCCD、CMOSセンサー等のイメージングセンサーは、波長800〜1200nm程度の近赤外光を含む感度領域を有している。エリアセンサー5には波長可変フィルター4を通して光が入射されるため、ある時刻においては所定の波長帯域の光のみを受光するが、波長可変フィルター4の透過波長域の可変に応じて異なる波長帯域の光を受光し、各選択された波長毎の光の強度分布(スペクトル)を取得することができる。エリアセンサー5は、受光した近赤外光の強度を電気信号として後述のDSP6に伝達する。なお、本例では2次元のイメージングセンサーを用いたが、1次元のイメージングセンサー、いわゆるリニアセンサーを用いても良い。その場合には、例えば測定領域上でリニアセンサーを走査し、2次元の測定領域における光の強度を検出すれば良い。
【0023】
さらに、図1には図示していないが、エリアセンサー5の感度領域内で本濃度分布測定に不要な光、例えば波長が700nm以下の光を遮断する光学フィルターをエリアセンサー5の入射側に配置しても良い。この種の光学フィルターとしては、紫外・可視光カットフィルターR−72(商品名:Edmund社製)等を用いることができる。
DSP6では、エリアセンサー5からの電気信号を受け、測定対象上の各点における光の強度分布に基づいて標識剤の濃度および結合度を算出する。このように、測定対象上の各点における標識剤の濃度と結合度を算出することによって全体として生体100内の薬剤濃度分布を知ることができる。得られた薬剤濃度分布の測定データは、図2に示すように、DSP6から液晶モニター等の任意の出力装置9に送られ、対象物濃度の大小を色やその濃淡で表現するなどして、医師や看護師等の使用者が視覚的に確認することができる。
【0024】
[波長可変フィルター]
ここで、波長可変フィルター4の第1構成例について図3〜図6を用いて説明する。
図3は、本構成例の波長可変フィルター4を分解した状態で示す斜視図である。図4は、波長可変フィルター4を構成する一つの液晶セルの断面図である。図5は、各液晶セルへの印加電圧と透過ピーク波長との関係を示すグラフである。図6は、波長可変フィルター4の分光特性を示す図である。
なお、以下に示す液晶セルへの印加電圧、透過波長等の具体的な数値は、本発明者らが行ったシミュレーション結果に基づいている。
【0025】
本構成例の波長可変フィルター4は、図3、図4に示すように、シール剤11を介して貼り合わされた一対のガラス基板12,13と、一対のガラス基板12,13の外面に配置された一対の偏光板14,15と、一対のガラス基板12,13の間に挟持された液晶層16と、一対のガラス基板12,13の内面に配置され、液晶層16に電圧を印加する一対の電極17,18と、各電極17,18上の配向膜19,20と、を備えた液晶セル21a,21b,21cが3組積層されたものである。ただし、隣接する組の液晶セルの間に位置する偏光板については、これら2つの液晶セルで1枚の偏光板を共用している。なお、以下の説明では便宜上、図3において、図面の上側から下側に向けて「第1液晶セル21a」、「第2液晶セル21b」、「第3液晶セル21c」、と呼ぶことにする。
【0026】
第1〜第3液晶セル21a,21b,21cは、一対のガラス基板12,13が互いに平行でかつ逆向きの配向方向をとっており、いわゆるアンチパラレル配向を呈している。これにより、各液晶セル21a,21b,21cの液晶層16を構成する液晶分子はホモジニアス配向の状態となる。また、一対のガラス基板12,13を挟んで配置された一対の偏光板14,15は、その透過軸同士が互いに平行であり、透過軸の方向が一方の基板の配向方向に対して45°±5°の角度をなすように配置されている。偏光板14,15としては、ヨウ素系偏光フィルムは近赤外域における偏光性を有していないために好ましくなく、位相差層と等方層を交互に積層した積層型反射偏光子、もしくはワイヤーグリッド型反射偏光子を用いるのが好適である。また、各液晶セル21a,21b,21cの一対の電極17,18間にはこれら電極に電圧を印加するための駆動回路22が接続されている。
【0027】
第1〜第3液晶セル21a,21b,21cの全てにわたって、各液晶セルの液晶層16の波長590nmの光に対する光学異方性Δnの値は0.201に設定されている。一方、液晶層16の層厚(一対のガラス基板12,13のセルギャップ)は第1〜第3液晶セル21a,21b,21cのそれぞれで異なり、第1液晶セル21aの液晶層厚が6.5μm、第2液晶セル21bの液晶層厚が12.9μm、第3液晶セル21cの液晶層厚が25.8μm、である。本構成例の波長可変フィルター4では、830〜1098nmの波長域で15段階の分光スペクトルを選択している。したがって、DSP6は、波長可変フィルター4の各液晶セル21a,21b,21cに対して15段階の印加電圧のうちのいずれかを供給するように駆動回路22を制御する。DSP6は、第1〜第3液晶セル21a,21b,21cに対して略同一の電圧を印加するが、予めメモリーに記憶されている補正データを参照して微小な電圧の補正を行う。
【0028】
測定対象から放射される光の強度を画像データとして取り込む際には、まず第1〜第3液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧を1.3Vとする。すると、波長可変フィルター4は910nmにピークを有する透過特性を示し、910nmの波長の光を透過させ、この光がエリアセンサー5のアレイ状の画素面に入射する。ここで、エリアセンサー5は入射光の強度を画素毎に順次検出していき、1画面分の画像全体を30msecで読み出し、電気信号に変換した後、DSP6に向けて出力する。そして、DSP6は、波長910nmでの1画面分の画像データを画像メモリー7に蓄える。以上で第1サイクルの選択画像データ取り込み処理が終了する。
【0029】
次いで、第1〜第3液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧を1.21Vとする。すると、波長可変フィルター4は980nmにピークを有する透過特性を示し、980nmの波長の光がエリアセンサー5に入射する。エリアセンサー5は、1画面分の画像を30msecで読み出し、電気信号に変換した後、DSP6に向けて出力する。そして、DSP6は、波長980nmでの1画面分の画像データを画像メモリー7に蓄える。以上で第2サイクルの選択画像データ取り込み処理が終了する。
【0030】
次いで、第1〜第3液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧を1.10Vとする。すると、波長可変フィルター4は1057nmにピークを有する透過特性を示し、1057nmの波長の光がエリアセンサー5に入射する。エリアセンサー5は、1画面分の画像を30msecで読み出し、電気信号に変換した後、DSP6に向けて出力する。そして、DSP6は、波長1057nmでの1画面分の画像データを画像メモリー7に蓄える。以上で第3サイクルの選択画像データ取り込み処理が終了する。
【0031】
この実施形態では、910nmと1980nmと1057nmとの3波長の取り込みであったが、以下、表1に示すように、第1〜第3液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧を1.10V、1.15V、1.18V、1.21V、1.23V、1.26V、1.28V、1.30V、1.32V、1.34V、1.35V、1.37V、1.39V(最後のサイクルでは第1液晶セル21aのみ1.42Vに補正する)と変化させる。すると、この電圧変化に応じて透過ピーク波長は1057nm、1018nm、999nm、980nm、962nm、944nm、927nm、910nm、893nm、877nm、861nm、845nm、830nmと変化する。これらの第1波長〜第3波長の選び方は、標識剤の蛍光波長の波長−強度特性と結合部の吸収波長により適宜選ばれる。ここでは、第1波長と第2波長で1波長励起2波長蛍光検出(レシオ法とも呼ばれる)を行い、第3波長によりCTCとの結合状態を示す波長吸収を検出する。後述するCTC検出方法において詳しく説明する(強度分布取得工程)。
【0032】
【表1】
【0033】
表1のデータをグラフに表したものが図5である。すなわち、図5は各液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧と透過ピーク波長との関係を示すグラフであって、縦軸が印加電圧(V)、横軸が透過ピーク波長(nm)を示している。また、これら透過ピーク波長の値に基づき、波長可変フィルター4の分光特性として示したものが図6である。つまり、本構成例によれば、図6に示す分光特性を有する波長800〜1100nmの透過波長範囲の波長可変フィルターを実現できる。なお、図6のスペクトルのうち、700nm以下の波長成分は本濃度分布測定にとって不要なノイズ成分となるので、上述の光学フィルターを用いて除去することが望ましい。
【0034】
[CTC検出方法]
次に、DSP6によるCTC検出方法について詳しく説明する。
2波長の光で蛍光強度の比(ratio)の演算による解析法(1波長励起2波長蛍光検出)が知られており、必須ではないが、本実施形態でもこのレシオ法と組み合わせることが望ましい。レシオ法との組み合わせの実施形態では、第1の波長と第2の波長による画像データの比を演算する。図7に蛍光強度と検出波長λ1、λ2の関係を示す。(レシオ法と呼ばれるこの技術の詳細は、「RB.Silver,Methods Cell Biol,2003,72,369.」に示されているので省略する。)この演算により測定条件の差がキャンセルできる。つまり励起光パワー、蛍光色素濃度などがキャンセルされる。第1波長と第2波長は、結合による吸収波長シフトを検出する第3の波長と重ならない必要がある。
【0035】
DSP6は、画像メモリー7に蓄えた第1波長と第2波長で検出した同じ位置の画像データを読み出し、割り算を行った後に演算結果を、画像メモリー7に保存する。さらには、あらかじめ第1の波長と第2の波長での蛍光の強度比を元に、その所定の強度比であるものを最大濃度となるように演算することでもよい。この演算は画像データを構成する各画素の光強度分布を、あらかじめ測定しておいた光強度−標識剤濃度の相関関係と照合し、標識剤の濃度を求めるものである。この演算結果は、標識剤の濃度を検出している情報である。(この演算結果を濃度レイヤーとして以下呼ぶこととする。)この濃度レイヤーは、位置情報(X,Y)とそこでの標識剤の濃度の配列データである。データのワード長(濃度の分解能)は、8bitでも10bit、あるいは64bitでもよい。光強度−波長の相関関係は予備実験により求めておき、参照用データテーブルを作成しておく。例えば、第一の波長の光強度を1とすると、第二の波長の光強度は0.9、第3の波長の未結合状態の光強度は0.8で、第3の波長の結合状態の光強度は0.5といった相関の参照用データテーブル(表2)を作成しておく。
【0036】
【表2】
【0037】
このような処理のアルゴリズムは、色々考えられるが最も簡単な演算としては次のような演算を説明のための一例として挙げる。図9に、強度のピクセルデータ及び強度のピクセルデータを元に演算されたデータによる画像レイヤー(D0(i,j)〜D5(i,j))を示し説明する。つまり配列で表現されたデータは、それぞれの画像レイヤーに相当する。
【0038】
第1波長により測定されるイメージセンサーの検出強度を示すピクセルデータをD1(i,j)とする。この配列は、第1波長に割り当てられた配列データであることを示す。この配列は、画像メモリー7に保持されていて、第1波長により検出された画像データを意味する。iは水平方向(X軸)の位置を示し、jは垂直方向(Y軸)の位置を示すものとする。次に第2波長により測定されるイメージセンサーのピクセルデータをD2(i,j)とする。あらかじめ分かっている第1波長と第2波長の蛍光強度の比(ratio)をrとし、参照用データテーブルの一部に記憶されている。このrから濃度データD0(i,j)は次式(1)で求める。実施形態では、表2からrは0.9である。もっとも合致するものは0となり、一致しない部分のピクセルデータほど値はマイナス値となる。
【0039】
【数1】
【0040】
次に、第3の波長データを読み出し、第1の波長または第2の波長のデータから第3の波長の比を演算する。演算能力が高ければ第1の波長と第2の波長のデータ双方と演算して、精度を高めても良い。この演算は画像データを構成する各画素の光強度分布を、データテーブル内の光強度−結合状態の相関関係と照合し、標識剤の結合状態を求めるものである。一般的に、がん細胞などに取り込まれると通常の標識剤の蛍光は弱まるため、第3の波長でこの弱まり具合が参照用データテーブルに記憶されている。図8の点線の凹カーブと実線のカーブがλ3の2点鎖線と交わる部分の比になる。(あるいは、がん細胞と結合して、標識剤の蛍光が強まる場合は、その強まり具合が参照用データテーブルに記憶されることになる。λ3で凸カーブの破線となるが、図示せず。)この演算結果は、標識剤の結合状態を検出している情報である。この演算結果を結合度レイヤーD5(i,j)として以下呼ぶこととする。
【0041】
濃度の処理のアルゴリズムと同様に、ここでも色々考えられるが最も簡単な演算としては次のような演算になる。
第3波長により測定されるイメージセンサーのピクセルデータをD3(i,j)とする。D3(i,j)は、第3波長に割り当てられた配列データであることを示す。
濃度データD0(i,j)の濃度の閾値Dthを決めて、配列データD4(i,j)に閾値Dthを上回れば1、下回れば0のマッピングデータを作る。一般的なプログラム言語の条件文で示すと次式(2)のような処理となる。
【0042】
【数2】
こうしてD4(i,j)という、そこに標識剤が存在するか、しないかの2値化マッピングデータができあがる。この2値化マッピングデータをマスク条件にして、各ピクセルでの結合状態をこの後演算する。
【0043】
結合状態の演算方法は、次式(3)のようになる。結合状態を見分ける蛍光強度比率(r_bind)を予め測定しておく。蛍光強度比率(r_bind)とは、標識剤が結合状態の蛍光強度Iλ3_onと標識剤が非結合状態の蛍光強度Iλ3_offの平均Iλ3_midを第1波長の蛍光強度Iλ1で割った値で定義しておく。
【0044】
【数3】
本実施形態でこの比率(r_bind)を参照用データテーブルの強度比から計算すると次式(4)といった値になる。
【0045】
【数4】
この比率(r_bind)を使って次式(5)の演算を行う。
【0046】
【数5】
対象は、2値化マッピングデータD4(i,j)で標識剤の存在する座標(i,j)だけでもよい。ここまでの手順を図10にフローチャートとして示す。
【0047】
こうして得られた濃度レイヤーD0(i,j)と結合度レイヤーD5(i,j)は、それぞれ標識剤の存在と結合状態を示しているので、CTCと結合している標識剤は、二つのレイヤーを重ねることで高い精度で抽出できる。二つのレイヤーの重ね方は、論理和、論理積、ベクトル和など適宜選択する。ここでは、2値化マッピングデータによる論理積の重ね方で結合度レイヤーも求める方法で説明した。別の重ね方として視覚的なイメージの重ね方は、加法混色でありベクトル和であるといえる。次にディスプレイ上での加法混色での重ね方を詳しく説明する。
【0048】
【表3】
【0049】
この表3では、結合度レイヤーに濃度レイヤーのマスク条件による手順は含まれず、それぞれが独立して並列である条件として構成する。図11に示すフローチャートで求まる。すなわち先の実施形態でのこれらのレイヤーは、例えば表示ディスプレイ上で、濃度レイヤーを緑色(Green)、結合度レイヤーを赤色(Red)で表現してやれば、二つの高レベルな場所は黄色(Yellow)で表現され、そこがCTCであることが容易に判読できる。これは、人間が認知し易い処理の例であるが、コンピューターで処理を行う場合は、二つのレイヤーのピクセルのベクトル和の演算を行い、ある閾値を超えたデータを抽出していくことで、CTCの存在がコンピューターでも自動認識できる。
【0050】
図12にその説明図を示す。Greenの濃度レイヤーは、標識剤すべてが見えるため検出すべき細胞がノイズの中に埋もれてしまっている。Redの結合度レイヤーは、結合度を検出するため所定の強度変化(λ3/λ1)を生じている部分が抽出されている。この結合度レイヤーの情報だけでは、強度変化が偶然その値になる標識剤のない部分も混在している。そしてYellowのレイヤーは、標識剤が存在し、かつ、所定の強度変化を生じている部分が抽出されることになり、所望の細胞などの対象物を精度よく検出できる。Greenの濃度レイヤーやRedの結合度レイヤーのノイズとなる部分は、重ね合わせによって排除できる。
【0051】
図12は細胞計数用の顕微鏡下でのプレパラートのイメージで説明したが、インビボでの検出は、図13のような微小循環とよばれている毛細血管等で検出することとなる。円柱状の血管内を対象となる細胞が流れている。また結合していない標識剤も血液の中に流れている。つまりλ1とλ2による濃度データで、Greenの濃度レイヤーを演算して、標識剤の存在部分を検出する。(ここまでも述べたようにレシオ法を意味する)次にRedの結合度レイヤーは、結合度を検出するため所定の強度変化(λ3/λ1)を生じている部分が抽出されている。強度変化が偶然その値になる標識剤のない部分も混在している。ここでは、結合度レイヤーでたまたま標識剤と同じ強度変化をするノイズ成分を十字マークで示している。インビボでも、これまで説明した手法と同様に、濃度レイヤーと結合度レイヤーの重ね合わせにより、結合した標識剤の部分のみを抽出でき、CTCのようなまれな細胞も高精度な検出を可能とする。
【0052】
こうして画像処理を行えば、CTCの数を精度よく計数することもでき、患者の体内における治療効果に関する情報を得ることができる。
本実施形態のCTC測定装置1においては、特定波長の光の強度値だけでCTCを算出するのではなく、例えば910、980、1057nmといった所定の波長帯域の光の強度分布から、標識の結合しているCTCを算出しているので、CTCの算出を精度良く行うことができる。このようにして、本実施形態のCTC測定装置1によれば、採血等を行うことなく非侵襲の方法で、生体100からの放出光を検出することでCTCを正確かつ迅速に測定できる。
【0053】
この例ではλ1〜λ3の3波長を使う例を示したが、さらに高精度にするために4波長、5波長、といった多波長を使ってもよい。また、特定の部分(血管の位置など)の標識剤濃度が予め推定できる場合は、レシオ法による2波長は必要でないので、1波長(λ1=λ2)で標識濃度を算出して、λ3の結合度の検出と2波長で済む実施形態の変形例も可能である。
【0054】
個々の患者の血中薬剤濃度を測定することで、望ましい有効治療濃度に収まるように用法、用量を設計する薬物治療モニタリング(Therapeutic Drag Monitoring:TDM)という医療技術が知られている。本実施形態のCTC測定装置1は、CTCをリアルタイムで測定できるので、抗がん剤の投与治療時においても有用であると考えられる。通常のTDMは、薬剤の血中濃度を把握することで、薬物濃度を管理するので、オープンループの処理である。つまり抗がん剤の濃度だけをコントロールするので、効く、効かないは個人差があった。効いていないのに、患者に苦痛だけを与えるような抗がん剤治療もされていた。しかし、本発明により、薬が効いているかどうかをCTCの挙動を把握するクローズドループのTDMに進化させることができる。つまり、がん組織を攻撃してCTCの放出量をモニターするので、効果を常時モニターすることも可能とする。また、特許文献1、2などに挙げた従来の採血による方法では静脈内の1点の濃度データでしか取れなかったものが、時間軸の1次元と場所の2次元の濃度分布データとして取れることになり、得られる情報の幅が点から3次元に広がることで測定精度が大幅に向上し、応用範囲が格段に広がる。
【0055】
さらに、遺伝子診断のデータベース(人種、性別、個人差などの)が揃っていないものも、効果のフィードバックがすぐできるので、かなりの抗がん剤について、試しに使ってみることもできる。このようにして、副作用を最小にして、種々の薬剤の効果を大きく引き出すことができる。したがって、薬理効果は大きい反面、副作用が大きい、有効濃度域が狭い等の理由で使い難かった抗がん剤も選択肢の一つになり、QOLを保ったまま効果的な治療を行うことができる。
【0056】
効果として、がん治療の再発防止(予後)を中心に考えているが、もちろん検査・予防の目的で行うことも可能である。このようにして、本実施形態によれば、医療の質を向上させるとともに医療コストを低減させることができ、社会に大きく貢献できる。
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では標識剤を生体100に投与する例を説明したが、サプリメントの機能をもつ標識剤(ビタミン類)を生体100に投与することができれば、あえて検査のための標識剤を用いる必要がなくなる。この場合、日々意識せず飲んでいることで、年一回の健康診断、人間ドックでがん検診ができることになる。
【0057】
また、上記実施形態の図2は、抗がん剤を点滴治療する、比較的大型のCTC測定装置を配置するイメージで描いているが、身体の末端のみを測定する小型の装置であっても良いし、例えば図14に示すように腕時計のような形態で光源や波長フィルター、CCD等を搭載した装置を肌に直接装着するものであっても良い。CTCの計数値を表示したり、メモリーに蓄えたデータをワイヤレスでホストコンピューターに転送したりするなどの機能を持つこともよい。
【符号の説明】
【0058】
1…循環腫瘍細胞測定装置、3…光源、4…波長可変フィルター、5…エリアセンサー(光検出手段)、6…信号処理プロセッサー(演算手段)、7…画像メモリー、21a,21b,21c…液晶セル、D0(i,j)…濃度データ、D1(i,j)…λ1による検出データ、D2(i,j)…λ2による検出データ、D3(i,j)…λ3による検出データ、D4(i,j)…2値化マッピングデータ(マスクデータ)、D5(i,j)…結合度データ、100…生体。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばイメージ素子などで取得する生体物質測定装置、生体物質測定方法および生体内循環腫瘍細胞測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、中でも患者に抗がん剤治療を施した際、薬剤による副作用を最小限に抑え、かつ十分な治療効果を得るために、患者の体内における治療効果に関する情報を得ることが求められている。従来、最も一般的な手法として、患者の静脈から採血を行って腫瘍マーカーの血中濃度を測定し、そのデータを解析することで経過観察をする方法が採られている。ところが、例外も数多くあり、がんが存在しないにもかかわらず腫瘍マーカー値が上昇している場合や、がんが存在するにもかかわらず腫瘍マーカー値が上昇しない場合など正確にはがんの動きを反映していない。従って、抗がん剤治療などの効果を的確に把握できる方法が求められている。また、生体内の循環腫瘍細胞を知ることは、治療分野のみならず、がんの早期発見などの分野でも重要な役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002−503814号公報
【特許文献2】特表2009−525468号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ADAMS Andre A.他,「組み込み伝導度センサーのあるポリマーに基づくマイクロ流体工学を用いた全血からの非常に効率的な循環腫瘍細胞分離および標識無しでの計数」,(米国),J Am Chem Soc.2008 July 9;130(27):8633−8641.doi:10.1021/ja8015022
【非特許文献2】HE Wei.他,「多光子生体フローサイトメトリーによる稀な循環腫瘍細胞のin vivo定量」,(米国),PNAS July 10,2007 vol.104 no.28 11760−11765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1、2及び非特許文献1,2の技術は、いずれも上記の要求を満足できるものではなかった。
特許文献1の方法では、測定する際に、人体に穿刺器を穿刺し、サンプルとなる血液を採取する必要がある。すなわち、特許文献1の方法は非侵襲で循環腫瘍細胞を測定できるものではない。また、同様に特許文献2の方法も、サンプルとなる血液を採取する必要がある。また、特許文献3の装置でも、サンプルとなる血液を採取する必要があり、成人で5リットルといわれる血液量からのミリリットルオーダーでの採血による、サンプリング誤差や、体外に取り出しての処理による生体物質の変性などによる誤差によって低い精度となっていた。それらのサンプリングによる精度低下を解決する手段として、非特許文献2が提案されているが、二光子顕微鏡という大掛かりな装置により実用性に問題があった。
【0006】
なお、人体から採取した血液サンプル等について、体外でその測定などを行う場合はインビトロ(in vitro)計測と呼ばれ、生体内の血液等を体外に取り出さずにその測定を行う場合はインビボ(in vivo)計測と呼ばれる。
【0007】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、非侵襲で生体内の循環腫瘍細胞等の生体物質を正確かつ迅速に測定できる生体物質測定装置、生体物質測定方法および生体内循環腫瘍細胞測定方法を提供するため、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[適用例1]本適用例に係る生体物質測定装置は、被対象物と結合する蛍光標識剤によって被対象物を検出する装置であって、
測定対象に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光源と、
前記蛍光標識剤に前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から放出される光が入射され、入射光の全波長域のうちの所定の波長域の光を透過するとともに、前記波長域を変更可能な波長可変フィルターと、
前記波長可変フィルターを通して入射された光の強度を検出して前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する光検出手段と、
前記光検出手段が取得した前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が存在している濃度を算出する濃度算出手段と、
前記光検出手段が取得した前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出手段と、
を備えたことを特徴とする。
本適用例に記載の生体物質測定装置によれば、蛍光標識剤の濃度ならびに蛍光標識剤とその結合対象となる生体物質との結合度の算出ができ、循環腫瘍細胞等の生体物質の検出を高精度に行うことができる。
【0009】
[適用例2]また、上記適用例に記載の生体物質測定装置は、前記光検出手段の光を照射する光源の波長域、及び波長可変フィルターの波長域に、波長が600nm〜1200nmの光を使用することを特徴とする。
本適用例によれば、生体を効率よく透過するので、生体内に侵襲することなく生体外から精度よく測定することができる。
【0010】
[適用例3]また、上記適用例に記載の生体物質測定装置は、前記結合度算出手段が前記濃度算出手段による算出結果をマスクデータとして結合度を演算することを特徴とする。
本適用例によれば、結合している部分のみ抽出しノイズを除去でき、高精度に測定できる。
【0011】
[適用例4]また、上記適用例に記載の生体物質測定装置は、前記濃度算出手段による算出結果と前記結合度算出手段による結合度をベクトル演算することを特徴とする。
本適用例によれば、加法混色と同様なベクトル的な加算によりノイズを除去でき、高精度に測定できる。
【0012】
[適用例5]また、本適用例に係る生体物質測定方法は、被対象物と結合する蛍光標識剤によって被対象物を検出する生体物質測定方法であって、
測定対象に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光照射工程と、
前記蛍光標識剤に前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から放出される光のうち、前記測定対象の複数の位置から放出される特定の波長域の光の強度を検出し、前記波長域を変えて前記強度の検出を複数回繰り返すことにより、前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する強度分布取得工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤の濃度を算出する濃度算出工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出工程と、
を備えたことを特徴とする。
本適用例に記載の生体物質測定方法によれば、蛍光標識剤の濃度と結合度の算出ができ、蛍光標識剤とその結合対象となる生体物質との生体物質の検出を高精度に行うことができる。
【0013】
[適用例5]また、本適用例に係る生体内循環腫瘍細胞測定方法は、被対象物と結合する蛍光標識剤によって生体内の被対象物を検出する生体内循環腫瘍細胞測定方法であって、
前記蛍光標識剤を生体に投与する投与工程と、
測定対象である生体に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光照射工程と、
前記蛍光標識剤に生体外から前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から生体外に放出される光のうち、前記測定対象の複数の位置から放出される特定の波長域の光の強度を検出し、前記波長域を変えて前記強度の検出を複数回繰り返すことにより、前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する強度分布取得工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤の濃度を算出する濃度算出工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出工程と、
を備えたことを特徴とする。
本適用例に記載の生体内循環腫瘍細胞測定方法によれば、濃度と結合度の算出ができ、生体内での循環腫瘍細胞の検出を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の蛍光分布測定装置のブロック図である。
【図2】インビボでの蛍光分布測定装置の使用状態のイメージを示す斜視図である。
【図3】第1構成例の波長可変フィルター(液晶フィルター)を分解した状態で示す斜視図である。
【図4】液晶フィルターを構成する一つの液晶セルの断面図である。
【図5】各液晶セルへの印加電圧と透過ピーク波長との関係を示すグラフである。
【図6】液晶フィルターの分光特性を示す図である。
【図7】標識剤の蛍光強度と濃度を求める検出波長との関係を示すグラフである。
【図8】標識剤の蛍光強度と濃度と結合度を求める検出波長との関係を示すグラフである。
【図9】イメージデータを操作する画像レイヤーを示す説明図である。
【図10】標識剤の蛍光強度分布から結合度分布を算出する手順を示すフローチャートである。
【図11】標識剤の蛍光強度分布から結合度分布を算出する別の手順を示すフローチャートである。
【図12】インビトロでの検出を説明する図である。
【図13】インビトロでの検出を説明する図である。
【図14】小型の実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
本実施形態の生体物質測定装置は、循環腫瘍細胞測定装置(以下、単に「CTC測定装置」という)であって、生体物質として循環腫瘍細胞と結合する標識剤が投与された生体内のCTC(循環腫瘍細胞:Circulating Tumor Cell)を測定する装置の一例である。測定対象は、人間でも良いし、薬理実験等に良く用いられるラット、マウス等の動物でも良いが、本実施形態では人間(患者)を想定して説明する。
図1は、本実施形態の循環腫瘍細胞測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
[装置構成]
図1に示すように、本実施形態のCTC測定装置1は、光源3と、波長可変フィルター4と、エリアセンサー5(光検出手段)と、信号処理プロセッサー(Digital Signal Processor,DSP)6(濃度算出手段)と、画像メモリー7と、バンドパスフィルター8と、を備えている。光源3は、測定対象である生体100に対して光(励起光)を照射するものである。波長可変フィルター4は、生体100内の標識剤に光が照射された際に標識剤から放出される光を受け、入射光の全波長域のうちの特定波長域の光を透過させるものである。エリアセンサー5は、波長可変フィルター4を通して入射された放射光の強度を検出するものである。DSP6は、エリアセンサー5が取得した測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて標識剤の濃度と結合度を算出するものである。画像メモリー7は、DSP6が得た画像データを記憶し、画像処理後のデータ等を記憶するものである。
【0017】
CTCの測定に先立って、標識剤を薬剤投与装置2により人体に投与する(投与工程)。標識剤は、リガンドや抗体などの対象物と特異的に結合する機能と蛍光機能を有している。つまり標識剤は、蛍光剤と結合剤により構成されている。もちろん蛍光剤と結合剤が同一であってもよい。対象物(CTC)を捕捉して、そこで蛍光を発することにより対象物(CTC)を検出する。光を用いて生体100内の情報を得るためには、生体100の構成成分に吸収される波長以外の波長の光を用いる必要がある。波長が約600nm以下の光はヘモグロビンで吸収され、波長が約1500nm以上の光は水で吸収されるため、これらの波長域の光は利用できず、波長が約600〜1500nmの光は生体組織を比較的良く透過する。この観点から、約600〜1500nmの波長域の光を受けてこの波長域の光を放出する特性を有する標識剤を本測定に用いることができる。さらに、受光素子としてSiフォトダイオードなどのシリコン受光素子を用いる場合、受光素子の感度の波長範囲の上限が1200nm程度であるため、約600nm〜1200nmの波長域の光を受けてこの波長域の光を放出する標識剤を用い、本測定を行うことが望ましい。
【0018】
具体的には、蛍光剤として、インドシアニングリーン、蛍光造影剤SF64(商品名、富士フィルム社製)等を用いることができる。インドシアニングリーンは、波長750〜780nmの光の照射によって励起され、波長800〜1200nm程度の近赤外光を放射する物質である。インドシアニングリーンに代わる物質として、パテントブルー、インジゴカルミン等が挙げられる。蛍光造影剤SF64は、近赤外域で強い蛍光を生じる特性を有している。特異的に結合する抗体やリガンドは対象となるがん細胞等により適宜選ぶことになる。
【0019】
標識剤の投与方法としては、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、(末梢点滴)静脈内注射、中心静脈内注射、直腸投与、経皮投与、経肺投与、経鼻投与、口腔内投与等、侵襲、非侵襲のいずれの方法を用いても良い。より具体的には、例えば点滴法を用いた静脈内注射であれば、薬剤の投与量や投与速度を調整可能な薬剤投与用マイクロポンプ等を用いることができる。
【0020】
光源3には、レーザー等の単一波長光源でもよいが、ここでは広い範囲から波長を選ぶような例えばキセノンランプが用いる例で説明する。キセノンランプの光源3から、可視域(青色域)から赤外域までの連続した分光スペクトルを持つ光が射出され、測定対象である人体に照射される(光照射工程)。このとき、バンドパスフィルター8を通過しているため、光源3からの光のうちの一部の波長の光が人体を透過して標識剤に照射されると、標識剤から蛍光が放出される。例えば蛍光剤にインドシアニングリーンを用いた場合には、光源3から射出された光のうち、波長750〜780nmの光によって蛍光剤が励起され、蛍光剤の濃度に応じて波長800〜1200nm程度の近赤外光が放射される。インドシアニングリーンの場合は近赤外光によって自身が励起され、近赤外光を放射する特性を有している。
【0021】
波長可変フィルター4は、グレーティング、エタロン等の一部の波長を通すデバイスであればよいが、ここでは液晶セルを用いた例で説明する。詳細な構成は後述するが、液晶層に電圧を印加する一対の電極と、を備えた複数組の液晶セルから構成されている。本発明の場合、後述のエリアセンサー5において、ある1点の波長における光量を検出するのではなく、複数の波長における光量を検出し、放射光のスペクトルを取得する必要があるため、エリアセンサー5の入射側で透過波長域を可変できる波長可変フィルターが必要である。波長可変フィルター4はこのような波長可変フィルターとして機能する。波長可変フィルター4のいくつかの構成例については後述する。
【0022】
エリアセンサー5には、CCD、CMOSセンサー等からなる2次元のイメージングセンサーが用いられる。一般にCCD、CMOSセンサー等のイメージングセンサーは、波長800〜1200nm程度の近赤外光を含む感度領域を有している。エリアセンサー5には波長可変フィルター4を通して光が入射されるため、ある時刻においては所定の波長帯域の光のみを受光するが、波長可変フィルター4の透過波長域の可変に応じて異なる波長帯域の光を受光し、各選択された波長毎の光の強度分布(スペクトル)を取得することができる。エリアセンサー5は、受光した近赤外光の強度を電気信号として後述のDSP6に伝達する。なお、本例では2次元のイメージングセンサーを用いたが、1次元のイメージングセンサー、いわゆるリニアセンサーを用いても良い。その場合には、例えば測定領域上でリニアセンサーを走査し、2次元の測定領域における光の強度を検出すれば良い。
【0023】
さらに、図1には図示していないが、エリアセンサー5の感度領域内で本濃度分布測定に不要な光、例えば波長が700nm以下の光を遮断する光学フィルターをエリアセンサー5の入射側に配置しても良い。この種の光学フィルターとしては、紫外・可視光カットフィルターR−72(商品名:Edmund社製)等を用いることができる。
DSP6では、エリアセンサー5からの電気信号を受け、測定対象上の各点における光の強度分布に基づいて標識剤の濃度および結合度を算出する。このように、測定対象上の各点における標識剤の濃度と結合度を算出することによって全体として生体100内の薬剤濃度分布を知ることができる。得られた薬剤濃度分布の測定データは、図2に示すように、DSP6から液晶モニター等の任意の出力装置9に送られ、対象物濃度の大小を色やその濃淡で表現するなどして、医師や看護師等の使用者が視覚的に確認することができる。
【0024】
[波長可変フィルター]
ここで、波長可変フィルター4の第1構成例について図3〜図6を用いて説明する。
図3は、本構成例の波長可変フィルター4を分解した状態で示す斜視図である。図4は、波長可変フィルター4を構成する一つの液晶セルの断面図である。図5は、各液晶セルへの印加電圧と透過ピーク波長との関係を示すグラフである。図6は、波長可変フィルター4の分光特性を示す図である。
なお、以下に示す液晶セルへの印加電圧、透過波長等の具体的な数値は、本発明者らが行ったシミュレーション結果に基づいている。
【0025】
本構成例の波長可変フィルター4は、図3、図4に示すように、シール剤11を介して貼り合わされた一対のガラス基板12,13と、一対のガラス基板12,13の外面に配置された一対の偏光板14,15と、一対のガラス基板12,13の間に挟持された液晶層16と、一対のガラス基板12,13の内面に配置され、液晶層16に電圧を印加する一対の電極17,18と、各電極17,18上の配向膜19,20と、を備えた液晶セル21a,21b,21cが3組積層されたものである。ただし、隣接する組の液晶セルの間に位置する偏光板については、これら2つの液晶セルで1枚の偏光板を共用している。なお、以下の説明では便宜上、図3において、図面の上側から下側に向けて「第1液晶セル21a」、「第2液晶セル21b」、「第3液晶セル21c」、と呼ぶことにする。
【0026】
第1〜第3液晶セル21a,21b,21cは、一対のガラス基板12,13が互いに平行でかつ逆向きの配向方向をとっており、いわゆるアンチパラレル配向を呈している。これにより、各液晶セル21a,21b,21cの液晶層16を構成する液晶分子はホモジニアス配向の状態となる。また、一対のガラス基板12,13を挟んで配置された一対の偏光板14,15は、その透過軸同士が互いに平行であり、透過軸の方向が一方の基板の配向方向に対して45°±5°の角度をなすように配置されている。偏光板14,15としては、ヨウ素系偏光フィルムは近赤外域における偏光性を有していないために好ましくなく、位相差層と等方層を交互に積層した積層型反射偏光子、もしくはワイヤーグリッド型反射偏光子を用いるのが好適である。また、各液晶セル21a,21b,21cの一対の電極17,18間にはこれら電極に電圧を印加するための駆動回路22が接続されている。
【0027】
第1〜第3液晶セル21a,21b,21cの全てにわたって、各液晶セルの液晶層16の波長590nmの光に対する光学異方性Δnの値は0.201に設定されている。一方、液晶層16の層厚(一対のガラス基板12,13のセルギャップ)は第1〜第3液晶セル21a,21b,21cのそれぞれで異なり、第1液晶セル21aの液晶層厚が6.5μm、第2液晶セル21bの液晶層厚が12.9μm、第3液晶セル21cの液晶層厚が25.8μm、である。本構成例の波長可変フィルター4では、830〜1098nmの波長域で15段階の分光スペクトルを選択している。したがって、DSP6は、波長可変フィルター4の各液晶セル21a,21b,21cに対して15段階の印加電圧のうちのいずれかを供給するように駆動回路22を制御する。DSP6は、第1〜第3液晶セル21a,21b,21cに対して略同一の電圧を印加するが、予めメモリーに記憶されている補正データを参照して微小な電圧の補正を行う。
【0028】
測定対象から放射される光の強度を画像データとして取り込む際には、まず第1〜第3液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧を1.3Vとする。すると、波長可変フィルター4は910nmにピークを有する透過特性を示し、910nmの波長の光を透過させ、この光がエリアセンサー5のアレイ状の画素面に入射する。ここで、エリアセンサー5は入射光の強度を画素毎に順次検出していき、1画面分の画像全体を30msecで読み出し、電気信号に変換した後、DSP6に向けて出力する。そして、DSP6は、波長910nmでの1画面分の画像データを画像メモリー7に蓄える。以上で第1サイクルの選択画像データ取り込み処理が終了する。
【0029】
次いで、第1〜第3液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧を1.21Vとする。すると、波長可変フィルター4は980nmにピークを有する透過特性を示し、980nmの波長の光がエリアセンサー5に入射する。エリアセンサー5は、1画面分の画像を30msecで読み出し、電気信号に変換した後、DSP6に向けて出力する。そして、DSP6は、波長980nmでの1画面分の画像データを画像メモリー7に蓄える。以上で第2サイクルの選択画像データ取り込み処理が終了する。
【0030】
次いで、第1〜第3液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧を1.10Vとする。すると、波長可変フィルター4は1057nmにピークを有する透過特性を示し、1057nmの波長の光がエリアセンサー5に入射する。エリアセンサー5は、1画面分の画像を30msecで読み出し、電気信号に変換した後、DSP6に向けて出力する。そして、DSP6は、波長1057nmでの1画面分の画像データを画像メモリー7に蓄える。以上で第3サイクルの選択画像データ取り込み処理が終了する。
【0031】
この実施形態では、910nmと1980nmと1057nmとの3波長の取り込みであったが、以下、表1に示すように、第1〜第3液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧を1.10V、1.15V、1.18V、1.21V、1.23V、1.26V、1.28V、1.30V、1.32V、1.34V、1.35V、1.37V、1.39V(最後のサイクルでは第1液晶セル21aのみ1.42Vに補正する)と変化させる。すると、この電圧変化に応じて透過ピーク波長は1057nm、1018nm、999nm、980nm、962nm、944nm、927nm、910nm、893nm、877nm、861nm、845nm、830nmと変化する。これらの第1波長〜第3波長の選び方は、標識剤の蛍光波長の波長−強度特性と結合部の吸収波長により適宜選ばれる。ここでは、第1波長と第2波長で1波長励起2波長蛍光検出(レシオ法とも呼ばれる)を行い、第3波長によりCTCとの結合状態を示す波長吸収を検出する。後述するCTC検出方法において詳しく説明する(強度分布取得工程)。
【0032】
【表1】
【0033】
表1のデータをグラフに表したものが図5である。すなわち、図5は各液晶セル21a,21b,21cへの印加電圧と透過ピーク波長との関係を示すグラフであって、縦軸が印加電圧(V)、横軸が透過ピーク波長(nm)を示している。また、これら透過ピーク波長の値に基づき、波長可変フィルター4の分光特性として示したものが図6である。つまり、本構成例によれば、図6に示す分光特性を有する波長800〜1100nmの透過波長範囲の波長可変フィルターを実現できる。なお、図6のスペクトルのうち、700nm以下の波長成分は本濃度分布測定にとって不要なノイズ成分となるので、上述の光学フィルターを用いて除去することが望ましい。
【0034】
[CTC検出方法]
次に、DSP6によるCTC検出方法について詳しく説明する。
2波長の光で蛍光強度の比(ratio)の演算による解析法(1波長励起2波長蛍光検出)が知られており、必須ではないが、本実施形態でもこのレシオ法と組み合わせることが望ましい。レシオ法との組み合わせの実施形態では、第1の波長と第2の波長による画像データの比を演算する。図7に蛍光強度と検出波長λ1、λ2の関係を示す。(レシオ法と呼ばれるこの技術の詳細は、「RB.Silver,Methods Cell Biol,2003,72,369.」に示されているので省略する。)この演算により測定条件の差がキャンセルできる。つまり励起光パワー、蛍光色素濃度などがキャンセルされる。第1波長と第2波長は、結合による吸収波長シフトを検出する第3の波長と重ならない必要がある。
【0035】
DSP6は、画像メモリー7に蓄えた第1波長と第2波長で検出した同じ位置の画像データを読み出し、割り算を行った後に演算結果を、画像メモリー7に保存する。さらには、あらかじめ第1の波長と第2の波長での蛍光の強度比を元に、その所定の強度比であるものを最大濃度となるように演算することでもよい。この演算は画像データを構成する各画素の光強度分布を、あらかじめ測定しておいた光強度−標識剤濃度の相関関係と照合し、標識剤の濃度を求めるものである。この演算結果は、標識剤の濃度を検出している情報である。(この演算結果を濃度レイヤーとして以下呼ぶこととする。)この濃度レイヤーは、位置情報(X,Y)とそこでの標識剤の濃度の配列データである。データのワード長(濃度の分解能)は、8bitでも10bit、あるいは64bitでもよい。光強度−波長の相関関係は予備実験により求めておき、参照用データテーブルを作成しておく。例えば、第一の波長の光強度を1とすると、第二の波長の光強度は0.9、第3の波長の未結合状態の光強度は0.8で、第3の波長の結合状態の光強度は0.5といった相関の参照用データテーブル(表2)を作成しておく。
【0036】
【表2】
【0037】
このような処理のアルゴリズムは、色々考えられるが最も簡単な演算としては次のような演算を説明のための一例として挙げる。図9に、強度のピクセルデータ及び強度のピクセルデータを元に演算されたデータによる画像レイヤー(D0(i,j)〜D5(i,j))を示し説明する。つまり配列で表現されたデータは、それぞれの画像レイヤーに相当する。
【0038】
第1波長により測定されるイメージセンサーの検出強度を示すピクセルデータをD1(i,j)とする。この配列は、第1波長に割り当てられた配列データであることを示す。この配列は、画像メモリー7に保持されていて、第1波長により検出された画像データを意味する。iは水平方向(X軸)の位置を示し、jは垂直方向(Y軸)の位置を示すものとする。次に第2波長により測定されるイメージセンサーのピクセルデータをD2(i,j)とする。あらかじめ分かっている第1波長と第2波長の蛍光強度の比(ratio)をrとし、参照用データテーブルの一部に記憶されている。このrから濃度データD0(i,j)は次式(1)で求める。実施形態では、表2からrは0.9である。もっとも合致するものは0となり、一致しない部分のピクセルデータほど値はマイナス値となる。
【0039】
【数1】
【0040】
次に、第3の波長データを読み出し、第1の波長または第2の波長のデータから第3の波長の比を演算する。演算能力が高ければ第1の波長と第2の波長のデータ双方と演算して、精度を高めても良い。この演算は画像データを構成する各画素の光強度分布を、データテーブル内の光強度−結合状態の相関関係と照合し、標識剤の結合状態を求めるものである。一般的に、がん細胞などに取り込まれると通常の標識剤の蛍光は弱まるため、第3の波長でこの弱まり具合が参照用データテーブルに記憶されている。図8の点線の凹カーブと実線のカーブがλ3の2点鎖線と交わる部分の比になる。(あるいは、がん細胞と結合して、標識剤の蛍光が強まる場合は、その強まり具合が参照用データテーブルに記憶されることになる。λ3で凸カーブの破線となるが、図示せず。)この演算結果は、標識剤の結合状態を検出している情報である。この演算結果を結合度レイヤーD5(i,j)として以下呼ぶこととする。
【0041】
濃度の処理のアルゴリズムと同様に、ここでも色々考えられるが最も簡単な演算としては次のような演算になる。
第3波長により測定されるイメージセンサーのピクセルデータをD3(i,j)とする。D3(i,j)は、第3波長に割り当てられた配列データであることを示す。
濃度データD0(i,j)の濃度の閾値Dthを決めて、配列データD4(i,j)に閾値Dthを上回れば1、下回れば0のマッピングデータを作る。一般的なプログラム言語の条件文で示すと次式(2)のような処理となる。
【0042】
【数2】
こうしてD4(i,j)という、そこに標識剤が存在するか、しないかの2値化マッピングデータができあがる。この2値化マッピングデータをマスク条件にして、各ピクセルでの結合状態をこの後演算する。
【0043】
結合状態の演算方法は、次式(3)のようになる。結合状態を見分ける蛍光強度比率(r_bind)を予め測定しておく。蛍光強度比率(r_bind)とは、標識剤が結合状態の蛍光強度Iλ3_onと標識剤が非結合状態の蛍光強度Iλ3_offの平均Iλ3_midを第1波長の蛍光強度Iλ1で割った値で定義しておく。
【0044】
【数3】
本実施形態でこの比率(r_bind)を参照用データテーブルの強度比から計算すると次式(4)といった値になる。
【0045】
【数4】
この比率(r_bind)を使って次式(5)の演算を行う。
【0046】
【数5】
対象は、2値化マッピングデータD4(i,j)で標識剤の存在する座標(i,j)だけでもよい。ここまでの手順を図10にフローチャートとして示す。
【0047】
こうして得られた濃度レイヤーD0(i,j)と結合度レイヤーD5(i,j)は、それぞれ標識剤の存在と結合状態を示しているので、CTCと結合している標識剤は、二つのレイヤーを重ねることで高い精度で抽出できる。二つのレイヤーの重ね方は、論理和、論理積、ベクトル和など適宜選択する。ここでは、2値化マッピングデータによる論理積の重ね方で結合度レイヤーも求める方法で説明した。別の重ね方として視覚的なイメージの重ね方は、加法混色でありベクトル和であるといえる。次にディスプレイ上での加法混色での重ね方を詳しく説明する。
【0048】
【表3】
【0049】
この表3では、結合度レイヤーに濃度レイヤーのマスク条件による手順は含まれず、それぞれが独立して並列である条件として構成する。図11に示すフローチャートで求まる。すなわち先の実施形態でのこれらのレイヤーは、例えば表示ディスプレイ上で、濃度レイヤーを緑色(Green)、結合度レイヤーを赤色(Red)で表現してやれば、二つの高レベルな場所は黄色(Yellow)で表現され、そこがCTCであることが容易に判読できる。これは、人間が認知し易い処理の例であるが、コンピューターで処理を行う場合は、二つのレイヤーのピクセルのベクトル和の演算を行い、ある閾値を超えたデータを抽出していくことで、CTCの存在がコンピューターでも自動認識できる。
【0050】
図12にその説明図を示す。Greenの濃度レイヤーは、標識剤すべてが見えるため検出すべき細胞がノイズの中に埋もれてしまっている。Redの結合度レイヤーは、結合度を検出するため所定の強度変化(λ3/λ1)を生じている部分が抽出されている。この結合度レイヤーの情報だけでは、強度変化が偶然その値になる標識剤のない部分も混在している。そしてYellowのレイヤーは、標識剤が存在し、かつ、所定の強度変化を生じている部分が抽出されることになり、所望の細胞などの対象物を精度よく検出できる。Greenの濃度レイヤーやRedの結合度レイヤーのノイズとなる部分は、重ね合わせによって排除できる。
【0051】
図12は細胞計数用の顕微鏡下でのプレパラートのイメージで説明したが、インビボでの検出は、図13のような微小循環とよばれている毛細血管等で検出することとなる。円柱状の血管内を対象となる細胞が流れている。また結合していない標識剤も血液の中に流れている。つまりλ1とλ2による濃度データで、Greenの濃度レイヤーを演算して、標識剤の存在部分を検出する。(ここまでも述べたようにレシオ法を意味する)次にRedの結合度レイヤーは、結合度を検出するため所定の強度変化(λ3/λ1)を生じている部分が抽出されている。強度変化が偶然その値になる標識剤のない部分も混在している。ここでは、結合度レイヤーでたまたま標識剤と同じ強度変化をするノイズ成分を十字マークで示している。インビボでも、これまで説明した手法と同様に、濃度レイヤーと結合度レイヤーの重ね合わせにより、結合した標識剤の部分のみを抽出でき、CTCのようなまれな細胞も高精度な検出を可能とする。
【0052】
こうして画像処理を行えば、CTCの数を精度よく計数することもでき、患者の体内における治療効果に関する情報を得ることができる。
本実施形態のCTC測定装置1においては、特定波長の光の強度値だけでCTCを算出するのではなく、例えば910、980、1057nmといった所定の波長帯域の光の強度分布から、標識の結合しているCTCを算出しているので、CTCの算出を精度良く行うことができる。このようにして、本実施形態のCTC測定装置1によれば、採血等を行うことなく非侵襲の方法で、生体100からの放出光を検出することでCTCを正確かつ迅速に測定できる。
【0053】
この例ではλ1〜λ3の3波長を使う例を示したが、さらに高精度にするために4波長、5波長、といった多波長を使ってもよい。また、特定の部分(血管の位置など)の標識剤濃度が予め推定できる場合は、レシオ法による2波長は必要でないので、1波長(λ1=λ2)で標識濃度を算出して、λ3の結合度の検出と2波長で済む実施形態の変形例も可能である。
【0054】
個々の患者の血中薬剤濃度を測定することで、望ましい有効治療濃度に収まるように用法、用量を設計する薬物治療モニタリング(Therapeutic Drag Monitoring:TDM)という医療技術が知られている。本実施形態のCTC測定装置1は、CTCをリアルタイムで測定できるので、抗がん剤の投与治療時においても有用であると考えられる。通常のTDMは、薬剤の血中濃度を把握することで、薬物濃度を管理するので、オープンループの処理である。つまり抗がん剤の濃度だけをコントロールするので、効く、効かないは個人差があった。効いていないのに、患者に苦痛だけを与えるような抗がん剤治療もされていた。しかし、本発明により、薬が効いているかどうかをCTCの挙動を把握するクローズドループのTDMに進化させることができる。つまり、がん組織を攻撃してCTCの放出量をモニターするので、効果を常時モニターすることも可能とする。また、特許文献1、2などに挙げた従来の採血による方法では静脈内の1点の濃度データでしか取れなかったものが、時間軸の1次元と場所の2次元の濃度分布データとして取れることになり、得られる情報の幅が点から3次元に広がることで測定精度が大幅に向上し、応用範囲が格段に広がる。
【0055】
さらに、遺伝子診断のデータベース(人種、性別、個人差などの)が揃っていないものも、効果のフィードバックがすぐできるので、かなりの抗がん剤について、試しに使ってみることもできる。このようにして、副作用を最小にして、種々の薬剤の効果を大きく引き出すことができる。したがって、薬理効果は大きい反面、副作用が大きい、有効濃度域が狭い等の理由で使い難かった抗がん剤も選択肢の一つになり、QOLを保ったまま効果的な治療を行うことができる。
【0056】
効果として、がん治療の再発防止(予後)を中心に考えているが、もちろん検査・予防の目的で行うことも可能である。このようにして、本実施形態によれば、医療の質を向上させるとともに医療コストを低減させることができ、社会に大きく貢献できる。
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では標識剤を生体100に投与する例を説明したが、サプリメントの機能をもつ標識剤(ビタミン類)を生体100に投与することができれば、あえて検査のための標識剤を用いる必要がなくなる。この場合、日々意識せず飲んでいることで、年一回の健康診断、人間ドックでがん検診ができることになる。
【0057】
また、上記実施形態の図2は、抗がん剤を点滴治療する、比較的大型のCTC測定装置を配置するイメージで描いているが、身体の末端のみを測定する小型の装置であっても良いし、例えば図14に示すように腕時計のような形態で光源や波長フィルター、CCD等を搭載した装置を肌に直接装着するものであっても良い。CTCの計数値を表示したり、メモリーに蓄えたデータをワイヤレスでホストコンピューターに転送したりするなどの機能を持つこともよい。
【符号の説明】
【0058】
1…循環腫瘍細胞測定装置、3…光源、4…波長可変フィルター、5…エリアセンサー(光検出手段)、6…信号処理プロセッサー(演算手段)、7…画像メモリー、21a,21b,21c…液晶セル、D0(i,j)…濃度データ、D1(i,j)…λ1による検出データ、D2(i,j)…λ2による検出データ、D3(i,j)…λ3による検出データ、D4(i,j)…2値化マッピングデータ(マスクデータ)、D5(i,j)…結合度データ、100…生体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被対象物と結合する蛍光標識剤によって前記被対象物を検出する生体物質測定装置であって、
測定対象に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光源と、
前記蛍光標識剤に前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から放出される光が入射され、入射光の全波長域のうちの所定の波長域の光を透過するとともに、前記波長域を変更可能な波長可変フィルターと、
前記波長可変フィルターを通して入射された光の強度を検出して前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する光検出手段と、
前記光検出手段が取得した前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が存在している濃度を算出する濃度算出手段と、
前記光検出手段が取得した前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出手段と、
を備えたことを特徴とする生体物質測定装置。
【請求項2】
前記光検出手段の光を照射する光源の波長域、及び波長可変フィルターの波長域に、波長が600nm〜1200nmの光を使用することを特徴とする請求項1に記載の生体物質測定装置。
【請求項3】
前記結合度算出手段は、前記濃度算出手段による算出結果をマスクデータとして結合度を演算することを特徴とする請求項1または2に記載の生体物質測定装置。
【請求項4】
前記濃度算出手段による算出結果と前記結合度算出手段による結合度をベクトル演算することを特徴とする請求項1または2に記載の生体物質測定装置。
【請求項5】
被対象物と結合する蛍光標識剤によって前記被対象物を検出する生体物質測定方法であって、
測定対象に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光照射工程と、
前記蛍光標識剤に前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から放出される光のうち、前記測定対象の複数の位置から放出される特定の波長域の光の強度を検出し、前記波長域を変えて前記強度の検出を複数回繰り返すことにより、前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する強度分布取得工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤の濃度を算出する濃度算出工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出工程と、
を備えたことを特徴とする生体物質測定方法。
【請求項6】
被対象物と結合する蛍光標識剤によって生体内の前記被対象物を検出する生体内循環腫瘍細胞測定方法であって、
前記蛍光標識剤を生体に投与する投与工程と、
測定対象である生体に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光照射工程と、
前記標識剤に生体外から前記光が照射された際に前記標識剤から生体外に放出される光のうち、前記測定対象の複数の位置から放出される特定の波長域の光の強度を検出し、前記波長域を変えて前記強度の検出を複数回繰り返すことにより、前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する強度分布取得工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤の濃度を算出する濃度算出工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出工程と、
を備えたことを特徴とする生体内循環腫瘍細胞測定方法。
【請求項1】
被対象物と結合する蛍光標識剤によって前記被対象物を検出する生体物質測定装置であって、
測定対象に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光源と、
前記蛍光標識剤に前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から放出される光が入射され、入射光の全波長域のうちの所定の波長域の光を透過するとともに、前記波長域を変更可能な波長可変フィルターと、
前記波長可変フィルターを通して入射された光の強度を検出して前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する光検出手段と、
前記光検出手段が取得した前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が存在している濃度を算出する濃度算出手段と、
前記光検出手段が取得した前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出手段と、
を備えたことを特徴とする生体物質測定装置。
【請求項2】
前記光検出手段の光を照射する光源の波長域、及び波長可変フィルターの波長域に、波長が600nm〜1200nmの光を使用することを特徴とする請求項1に記載の生体物質測定装置。
【請求項3】
前記結合度算出手段は、前記濃度算出手段による算出結果をマスクデータとして結合度を演算することを特徴とする請求項1または2に記載の生体物質測定装置。
【請求項4】
前記濃度算出手段による算出結果と前記結合度算出手段による結合度をベクトル演算することを特徴とする請求項1または2に記載の生体物質測定装置。
【請求項5】
被対象物と結合する蛍光標識剤によって前記被対象物を検出する生体物質測定方法であって、
測定対象に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光照射工程と、
前記蛍光標識剤に前記光が照射された際に前記蛍光標識剤から放出される光のうち、前記測定対象の複数の位置から放出される特定の波長域の光の強度を検出し、前記波長域を変えて前記強度の検出を複数回繰り返すことにより、前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する強度分布取得工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤の濃度を算出する濃度算出工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出工程と、
を備えたことを特徴とする生体物質測定方法。
【請求項6】
被対象物と結合する蛍光標識剤によって生体内の前記被対象物を検出する生体内循環腫瘍細胞測定方法であって、
前記蛍光標識剤を生体に投与する投与工程と、
測定対象である生体に対して前記蛍光標識剤を励起する光を照射する光照射工程と、
前記標識剤に生体外から前記光が照射された際に前記標識剤から生体外に放出される光のうち、前記測定対象の複数の位置から放出される特定の波長域の光の強度を検出し、前記波長域を変えて前記強度の検出を複数回繰り返すことにより、前記測定対象の複数の位置から放出される光の強度分布を取得する強度分布取得工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤の濃度を算出する濃度算出工程と、
前記測定対象の複数の位置における光の強度分布に基づいて、前記蛍光標識剤が結合している結合度を算出する結合度算出工程と、
を備えたことを特徴とする生体内循環腫瘍細胞測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図6】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図6】
【図12】
【公開番号】特開2011−188900(P2011−188900A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55463(P2010−55463)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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