説明

生体組織処理装置

【課題】生体処理装置において、処理容器に収容されている生体組織を含む処理液の熱的な均一性を確保しつつ、少ない駆動力によって生体組織を含む処理液の攪拌を行う。
【解決手段】筐体4の内部に複数の保持部材14を互いに平行な各回転中心軸上に回転自在に配設する。各保持部材14に生体組織と処理液とを収容する各多連処理容器12を同一方向に着脱自在に保持させる。回転駆動モータ26によって各保持部材14を正逆方向に回転させて、各保持部材14が保持している各多連処理容器12を正逆方向に回転させる。また筐体4の下部に多連処理容器12の内部の温度を制御するペルチェユニット10を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織処理装置に関し、特に処理液によって生体組織を処理する生体組織処理装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織、例えば組織片、細胞あるいは染色体において、ある物質の局在を知りたい場合に、例えばin−situハイブリダイゼーション法のような方法で生体組織処理が行われる。このような生体組織処理においては多種類の処理液で生体組織(生体サンプル)を順次処理することが必要である。このため、処理容器に入れた生体サンプルが処理液に浸かった状態のまま、処理液を別の処理液と置換して処理して行くことが可能な反応処理容器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、この処理容器を使用して生体組織処理の多数の処理液の交換を自動的に行う装置についても提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
また、生体組織処理においては、いろいろな処理段階で処理容器に分注した処理液の混合、あるいは処理液の置換効率向上のために処理容器を振とうさせることが行われる。また、処理容器内の生体組織を含む処理液を例えば50から60℃程度の温度に保ちつつ、反応促進のために振とうさせたりすることが必要となることが多い。そこで、特許文献2に示された従来技術では、温度保持のための加熱源を備えた可動式の保持器の中に処理容器をセットし、加熱源と共に保持器全体を上下あるいは水平方向に振とうさせることによって処理容器を加温しつつ振とうさせている。
【0004】
なお、ガスクロマトグラフィーに用いられる容器を上下方向に回転揺動させることによって、容器内の攪拌を行う方法も提案されているが(例えば、特許文献3参照)、加熱源がなく、加熱と共に攪拌することはできないものである。
【0005】
【特許文献1】特開2003−169662号公報
【特許文献2】特開2006−25767号公報
【特許文献3】特開2000−42303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような加熱源とともに保持器全体を振とうする方法は、必要駆動動力が大きく装置全体が大型になってしまうという問題があった。また、上記の保持器は下部に備えた加温器の熱によって内部に保持している処理容器の加温を行うようにしているため、上下あるいは水平方向等の単純な振とうでは処理容器内の処理液の上下の温度差を効率的に解消することが難しく、熱的な均一性を確保しつつ攪拌を行うことが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、処理容器に収容されている生体組織を含む処理液の熱的な均一性を確保しつつ、少ない駆動力によって生体組織を含む処理液の攪拌を行うことができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生体組織処理装置は、生体組織とそれを処理する処理液とを収容する少なくとも1つの処理容器からなる回転対象物を着脱自在に保持する保持機構と、前記処理容器に対して空間的に隔てて配置され、空間的な熱伝達により前記処理容器の内部温度を制御する熱源と、前記保持機構を回転させる機構であって、前記熱源による熱伝達に際して正立状態及び倒立状態を経由する回転運動を前記処理容器に行わせる攪拌機構と、を有することを特徴とする。また、前記回転対象物は、少なくとも1つの処理容器列によって構成され、各処理容器列は、前記回転運動の回転中心軸方向に整列し、かつ同じ向きを有する複数の処理容器により構成されたこと、としても好適であるし、前記回転対象物は互いに離間して整列した複数の処理容器列によって構成され、前記保持機構は前記複数の処理容器列を保持する複数の保持部材を含み、前記攪拌機構は前記複数の保持部材を回転駆動する共通の駆動部を有すること、としても好適であるし、前記回転中心軸は前記各処理容器列を構成するそれぞれの処理容器における生体組織処理部の中央部を貫通する軸であること、としても好適である。
【0009】
また、本発明に係る生体組織処理装置であって、前記処理容器は、多数の微小空隙を有する上フィルタ及び下フィルタとを含み、当該処理容器内の前記上フィルタと前記下フィルタとの間に、前記生体組織を含む前記処理液を保持する生体組織処理部を有すること、としても好適であるし、前記熱源が配置された筐体を含み、前記筐体の内部空間において前記回転対象物が回転運動をすること、としても好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、処理容器に収容されている生体組織を含む処理液の熱的な均一性を確保しつつ、少ない駆動力によって生体組織を含む処理液の攪拌を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図1〜図4を参照しながら説明する。図1は、例えばin−situハイブリダイゼーション法のような方法で生体組織処理を行う際に用いられる生体組織処理装置の一部断面正面図であり、図2は生体処理装置の平面の断面図であり、図3は生体組織処理装置の蓋を閉めた状態の側面図であり、図4は生体組織処理装置の蓋を開けた状態の側面図である。また、上記の生体組織処理装置は、in−situハイブリダイゼーション法に限らず、多種類の処理液で生体組織(生体サンプル)を順次処理する各種の生体組織処理方法においても用いることができるものである。
【0012】
図1、2において、生体組織処理装置2は四角い箱型の筐体4と、筐体4の上部に開閉自在に取り付けられている蓋6と支柱8とを備えている。筐体4は金属などの強度部材で構成された筐体本体4aとその全面を取り囲むように配設された断熱部4bを備えている。この断熱部4bは、例えばグラスウールなどの断熱効果の大きい材料とその外側を保護用の金属板でカバーしたものである。ただし、このような構成に限らず、断熱効果を有する材料で筐体本体4aの全面をカバーして外部に熱が逃げないようにしてあればよい。
【0013】
蓋6は筐体本体4aの上面の開口全体を覆うように構成されている。蓋6と筐体本体4aとの間には、断熱材でできたパッキンである断熱シール7が備えられ、蓋6と筐体本体4aの接合面から空気が漏れないようになっている。これによって蓋6と筐体4との間から熱が放散して筐体4の内部温度が変化することを防止している。また、蓋6は筐体4の両側面に備えた蓋開閉駆動モータ40によって駆動される蓋開閉リンク28〜32によって、電動開閉することができるようになっている。
【0014】
筐体4の内部には、複数の保持部材14が各回転中心軸15上に回転自在に配設されている。各保持部材14は、生体組織と処理液とを収容する複数の処理容器13が一列に連なった処理容器列である多連処理容器12を、その整列方向が回転中心軸15に沿った方向となるように保持している。また、各保持部材14は各多連処理容器12の向きが上下方向に同一となるように保持している。各保持部材14は、互いに平行な各回転中心軸15の上で同一方向に回転するので、各保持部材14が保持する回転対象物である多連処理容器12もその向きがそろった状態で同一の方向に回転する。そして、停止状態においては、各保持部材14が保持している各多連処理容器12は、全て正立状態で、各保持部材14の回転に伴って各多連処理容器12もその向きがそろったまま同一方向に回転し、各多連処理容器12は同時に倒立状態となる。また、各保持部材14は、各保持部材14が保持する回転対象物である多連処理容器12が正立状態から倒立状態まで回転しても互いに干渉しないような間隔をあけて配設されている。各多連処理容器12は、どの回転状態においても筐体4の各壁面から隔てた状態となるように保持部材14によって保持されている。筐体4の内部には、保持部材が回転自在に配設されていればよく、複数が配設されていることに限られない。また、各保持部材14が保持する回転対象物は、生体組織と処理液とを収容する処理容器13であれば多連処理容器12に限られず、単一の処理容器13を1つ又は、複数保持するようにしてもよい。あるいは、多連処理容器12をその整列方向が回転中心軸15に沿った方向に並べて複数保持するようにしてもよい。また、各保持部材14の回転方向は、停止状態において各処理容器13が正立状態となるようになっていれば、同一方向に回転することに限られない。
【0015】
各保持部材14は両端に筐体4に支持されているシャフト16が取り付けられ、各シャフト16の一端には回転駆動用のプーリ18が取り付けられている。各プーリ18は筐体4の外側のベルト22、回転駆動プーリ24及び回転駆動モータ26よって回転駆動される。また、筐体4の外面の各プーリ18の間にはベルトのたるみを取るベルト押さえ20が配設されている。これによって、共通の回転駆動モータ26、ベルト22によって各プーリ18に接続された各保持部材14及び各保持部材14が保持している各多連処理容器12を正立状態および倒立状態を経由するよう正逆方向に回転させることができる構成となっている。保持部材14を回転させる回転駆動機構は上記のようなモータとベルト、プーリの組み合わせに限定されず、チェーンなどを使用してもよいし、共通の駆動機構によって複数の保持部材14を正逆方向に回転させられる機構であれば、多連のギヤによって回転駆動させてもよいし、共通のラックギヤと各保持部材に取り付けたピニオンギヤとを組み合わせるような構成としてもよい。
【0016】
この筐体4の下面には筐体4の内部に保持された多連処理容器12の内部温度を制御する熱源であるペルチェユニット10が配設されている。各多連処理容器12は、どの回転状態においても筐体4の各壁面から隔てた状態となるように保持部材14によって保持されているので、ペルチェユニット10は常に各多連処理容器12から隔てられた状態となっている。そして、ペルチェユニット10からの熱は、対流や放射などの空間的な熱伝達によって各多連処理容器12の内部に伝達され、その温度を制御する。ペルチェユニット10の下面にはペルチェユニット10外面温度を大気温度に保持するためのヒートシンク10aとファン11が配設されている。熱源は筐体内部の多連処理容器12から隔てて配置されて空間的な熱伝達によって多連処理容器12の内部の温度を調整、保持できるものであれば、ペルチェユニット10に限定されず、電気抵抗加熱器などの加熱装置であってもよいし、加熱、冷却の双方が行えるように加熱、冷却用のパイプを通したものであってもよい。また、取り付け位置も筐体4の下部に限られず、側面などに配設したものであってもよい。
【0017】
図3に示すように、蓋開閉リンク28は蓋に固定され、蓋開閉リンク30と蓋開閉リンク32の回転によって開閉される。開閉リンク32は蓋開閉駆動モータ40と蓋開閉駆動プーリ36によって駆動されるベルト34によって回転駆動されるように構成されている。そして。図4に示すように蓋6は開状態において、筐体4の内部に保持されている多連処理容器12の出し入れに邪魔にならないような位置まで開くようになっている。
【0018】
図5に示すように多連処理容器12は下ユニット46に上ユニット48をはめ込んだものである。下ユニット46は、複数の処理容器本体50を一列に接続して一体としたもので、その接続部分表面のくぼみ部分にストッパ60が突出するように配設されている。上ユニット48は複数のエクステンションカラム58を一列に接続して一体とし、その上面の一体部分に複数の分注口62を有するものである。処理容器本体50は、内部に上フィルタ52と下フィルタ56とを備えた円筒形状で、下部に落下口64を有している。上フィルタ52には位置調整用のフィルタバー54が取り付けられている。そして各処理容器本体50と各エクステンションカラム58がはめ込まれて1つの処理容器13が構成される。
【0019】
図6は図5に示した多連処理容器12の各処理容器13の概略構成を示している。図6に示すように、処理容器13は、上フィルタ52と下フィルタ56によって挟まれた生体組織処理部66に生体組織と処理液とを保持する。上フィルタ52と下フィルタ56は空気と液体それぞれは通すが、一端内部の微小空隙に液体が保持されると空気を通さなくなるため、液体と気体の境界面が上フィルタ52、下フィルタ56を通り抜けられなくなる。これによって上フィルタ52、下フィルタ56は蓋として作用し、その間の生体組織処理部66に生体組織と処理液とを保持できる。そして、上部の分注口62から次の処理液を分注すると、上フィルタ52が水没することによって蓋として機能しなくなり、すでに処理が終了した処理液が下フィルタ56を通過して落下口64から排出される。分注した処理液と同容量の処理液が落下口64から落下すると、上フィルタ52の表面に空気と液体の界面が接し、再び蓋としての効果を発揮して生体組織処理部66の中に交換した処理液と生体組織を保持する。従って、上フィルタ52と下フィルタ56が蓋として機能している状態においては、処理容器13の上下を逆転させても内部の処理液、生体組織をその内部に保持することができる。回転対象物となる処理容器13は上記のようなフィルタ構造によって、内部の生体組織と処理液とを保持するような構造に限られず、回転によっても内部に生体組織と処理液とを保持できる構造であれば、回転の際に個々に蓋を取り付けるような構造の生体組織処理部66を持つ処理容器13であってもよい。また、特許文献1に記載されているような容器を使用しても良い。
【0020】
図7及び図8a〜図8cは1つの保持部材14に1つの多連処理容器12が保持されている状態を示している。これらの図に示すように、筐体本体4aに取り付けられた軸受け78によって、保持部材14の両端に取り付けられたシャフト16が回転中心軸15の軸上で回転自在となるように支持されている。また、保持部材14は多連処理容器12の側面に設けられた突起状のストッパ60を保持部材14の突起14aに当接させ、多連処理容器12の両側面を保持部材14に取り付けられた板バネ74によって押さえることによって多連処理容器12を着脱自在に保持している。そして、図7に示すように、多連処理容器12が上記のように保持部材14によって保持された状態においては、保持部材14の回転中心軸15は多連処理容器12の生体組織処理部66の中央部を貫通する位置となっている。このため、回転半径が小さくでき、筐体4の中に多くの多連処理容器12を保持することができる。また、回転中心軸15は仮想軸線であるが、実際に回転シャフトなどが貫通するような構造としていてもよい。上記の保持部材14は回転中心軸15の周りに回転対象物を着脱自在に保持することができる構造であれば、嵌め込み式や、ボルトなどの固定着脱自在の固定部材によって回転させるものを固定する方法など、上記のような板バネ74によって押さえる機構以外の方法であってもよい。
【0021】
図9、図10示すように、保持部材14は樹脂製の平板で、中央部に多連処理容器12の各処理容器本体50が回転中心軸15の方向に並ぶように嵌まり込む切り欠きが設けられている。切り欠きは、多連処理容器12の両端の円筒形の処理容器本体50の外周形状に合わせた切り欠き形状となっている両端切り欠き部14bと、多連処理容器12の複数の処理容器本体50が嵌まり込むように長円形状の切り欠きとなっている中央切り欠き部14cとを有している。この中央切り欠き部14cと両端切り欠き部14bの間は多連処理容器12の外周形状に合わせて突起14aが保持部材14の回転中心軸15のほうに突出するように形成されている。また、保持部材14の両端にはシャフト16が一端に固定され、他端は樹脂製の平板部分を挟み込んでネジ72で固定しているシャフト固定部70か取り付けられている。保持部材14の下面には、多連処理容器12を押し付け保持する板バネ74がネジ76で取り付けられている。上記の各切り欠き部14b,14cは保持部材14が保持する回転対象物の保持部の形状に合わせた形であってもよい。従って、回転対象物が単体の処理容器13であった場合には単一の丸穴であってもよいし、単一の独立の丸穴を複数個並べたような形状としてもよい。また、保持部材14は樹脂製に限らず、回転対象物を保持できれば軽量の金属製など他の材料を使用としても好適である。
【0022】
以下、本実施形態の生体組織処理装置2による生体組織を含む処理液を攪拌する動作について説明する。まず、図11に示すように生体組織処理装置2の蓋6を開けて、多連処理容器12をストッパ60が突起14aにあたるまで保持部材14の切り欠き部14b,14cに差し込み、板バネ74によって多連処理容器12を保持させる。保持状態では、回転中心軸15は生体組織処理部66の略中心位置に来るように保持され、全ての処理容器13の分注口62は上に向いた状態にそろえられている。一度に多数の処理容器13に分注処理を行うためである。そして、生体組織処理のための処理液の分注を行う。分注が終了すると上フィルタ52と下フィルタ56は蓋としての機能を発揮し、処理容器13の上下を逆転させても処理液94と生体サンプル90とは生体組織処理部66に保持されるようになっている。この後、生体反応のための保持に入る。保持は数時間に渡って温度を例えば50〜60℃に保ち、攪拌することにより行う。この間、新しい処理液の分注は行わないので、上部の蓋6を閉めて内部温度の変化が少ないような状態としておく。そして、筐体4の下部のペルチェユニット10に通電し、筐体4の内部の温度を上昇させていく。この時ペルチェユニットの筐体4の内部側は室温よりも高くなり、ヒートシンク10aの側は室温よりも低くなるので、ファン11によってヒートシンク10aの温度を室温になるようにする。これによって、ペルチェユニット10の筐体4の内部側の温度が高くなり筐体4の内部を加熱できるようになる。ペルチェユニット10によって筐体4の内部の空気は暖められ、内部には空気の対流が発生し、これによって筐体4の内部に保持されている多連処理容器12の中の生体組織を含む処理液の温度も上昇してくる。また、これと同時にペルチェユニット10からの放射熱によっても多連処理容器12の内部の生体組織を含む処理液が加温される。ペルチェユニット10による筐体4の内部への入熱量は筐体4の外面からの放熱量と同等となるようにして、筐体4の中の温度を一定になるように制御する。
【0023】
図12(a)に示すように多連処理容器12の個々の処理容器13の処理容器本体50の中に配設された上フィルタ52と下フィルタ56との間の生体組織処理部66には生体処理のための処理液94と生体サンプル90と攪拌子92が入っている。生体サンプル90は処理液94よりも比重が重い。また、攪拌子92は空気泡の攪拌子であってもよいし、ビーズ球などの固形の攪拌子であってもよいが処理液94よりも比重の軽いものである。生体反応のための保持開始前には、前処理の処理液の分注は終了していることから、上フィルタ52と下フィルタ56は蓋としての機能を発揮し、処理容器13の上下を逆転させても処理液94と生体サンプル90とは生体組織処理部66に保持されるようになっている。また、処理容器13は保持部材14にストッパ60が当たる位置で保持されて、回転中心軸15は生体組織処理部66の略中心位置に来るように保持されている。
【0024】
図1に示すように回転駆動モータ26を回転させると、共通の回転駆動モータ26によって共通のベルト22が回転し、各プーリ18が各回転中心軸15の周りで同じ方向に向かって回転する。これによって、各保持部材14も同じ方向に回転を始め、各保持部材14に保持された各多連処理容器12、処理容器13も回転を始める。
【0025】
図12(a)の正立状態から図12(b)〜(d)に示すように、処理容器13の回転角度を徐々に増して180度回転すると(e)に示すように上下が逆転した倒立状態となる。この時、生体組織処理部66の内部の生体サンプル90は処理液94よりも比重が重いため回転中心軸15の位置よりも下側に位置している。また、攪拌子は処理液94よりも比重が軽いため回転中心軸15の上側に位置している。一方、処理容器13は上下が逆転していることから、生体サンプル90と攪拌子92はそれぞれ処理液94の中を生体組織処理部66の一端から他の一端に移動したこととなる。このことによって、処理液94の攪拌が行われ、生体反応の促進を行うことができる。そして上下逆転するまで回転させたら、回転駆動モータ26を停止し、今度は逆方向に回転させる。このことによって処理液94の中で生体サンプル90と攪拌子92とが生体組織処理部66の一端から他の一端に向かって逆方向に移動し、処理液94の攪拌が行われる。このように正回転、逆回転を繰り返すことによってより効率的に処理液94と生体サンプル90との攪拌を行うことができるという効果を奏する。上記の攪拌動作では処理容器13を正立状態から倒立状態まで180度正逆方向に回転させることとして説明したが、正立状態及び倒立状態を経由して180度以上正逆回転させれば180度の正逆回転に限定されない。従って、例えば360度正逆方向に回転させることも好適である。また、上記の攪拌動作は生体組織処理部66に撹拌子92が入っている場合について説明したが、撹拌子92がなく、生体組織処理部66の中に処理液94と生体サンプル90が入っている場合であっても同様に撹拌することができる。また、上記の攪拌動作は保持部材14によって保持した処理容器13あるいは多連処理容器12を回転させるだけで、ペルチェユニット10などの加熱器機構が搭載されている筐体4を振とうさせることが必要ないことから攪拌に必要な駆動力が少なくてすむという効果を奏する。また、加熱源などの配線を固定してしまうことができることから機器の信頼性を向上させることができるという効果を奏する。
【0026】
ペルチェユニット10は筐体4の下部にあることから、ペルチェユニット10の加熱による筐体4内部の空気の対流と熱放射によって処理容器13は下側から加熱される。ここで処理容器13を回転させることによって、処理容器13の周囲から満遍なく生体組織処理部66を加温することができ、内部の生体サンプル90を含む処理液94の温度を所定の生体反応温度に保持させることができる。さらに、蓋6を閉めた筐体4の内部空間で処理容器13を回転させることによって、筐体4の内部の空気も攪拌することができ、処理容器13の外面の空気温度の均一性を高めることができる。これによって、より一層生体反応中の生体サンプル90を含む処理液94の温度を一定の温度に保つことができ、適切な生体反応を行えるという効果を奏する。
【0027】
所定時間の生体反応処理が終了したら、攪拌動作を停止し、蓋6を開けて、次の処理を行う。次の処理において、新たな処理液94を分注口62から分注する場合、複数保持されている多連処理容器12の各分注口62は全て上向きに停止していることから、多数の分注口62に一度の操作によって分注することができ、効率的に生体組織の処理を行うことができるという効果がある。またこの新たな処理液の分注の後に、本実施形態の生体組織処理装置2によって攪拌を行えば、分注した処理液94と生体サンプル90の反応や処理液94の置換を促進したり、処理液94の置換効率を向上させたりすることができ、より効率的に生体組織の処理を行うことができるという効果を奏する。
【0028】
以上の様に、本実施形態においては、処理液94の中で生体サンプル90と攪拌子92とが生体組織処理部66の一端から他の一端に向かって移動して処理液94の攪拌が行われ、効率的に処理液94と生体サンプル90との攪拌を行うことができ、処理容器13あるいは多連処理容器12のみを回転させることで攪拌できることから攪拌の駆動力が少なくて済むという効果を奏する。更に、攪拌によって処理液94の上下方向の温度差が出ないようにすることができ、このことによって、生体反応中の生体サンプル90を含む処理液94の熱的な均一性を確保して適切な生体反応を行えるという効果を奏する。更に、多連処理容器12や多数の処理容器13を同時にならべて分注、攪拌できることから、効率的に生体組織の処理を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る実施形態の生体組織処理装置の一部断面正面図である。
【図2】本発明に係る実施形態の生体組織処理装置の平面の断面図である。
【図3】本発明に係る実施形態の生体組織処理装置の蓋を閉めた状態の側面図である。
【図4】本発明に係る実施形態の生体組織処理装置の蓋を開けた状態の側面図である。
【図5】多連処理容器の構成を示す斜視図である。
【図6】処理容器の概略断面図である。
【図7】本発明に係る実施形態の生体組織処理装置の側断面図である。
【図8】本発明に係る実施形態の生体組織処理装置の部分平面断面図である。
【図9】多連処理容器を保持する保持部材の平面図である。
【図10】多連処理容器を保持する保持部材の側断面図である。
【図11】処理容器を生体組織処理装置にセットする状態を示す説明図である。
【図12】攪拌動作による処理容器の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
2 生体組織処理装置、4 筐体、4a 筐体本体、4b 断熱部、6 蓋、7 断熱シール、8 支柱、10 ペルチェユニット、10a ヒートシンク、11 ファン、12 多連処理容器、13 処理容器、14 保持部材、14a 突起、14b,14c 切り欠き部、15 回転中心軸、16 シャフト、18 プーリ、20 ベルト押さえ、22 ベルト、24 回転駆動プーリ、26 回転駆動モータ、28〜32 蓋開閉リンク、34 ベルト、36 蓋開閉駆動プーリ、38 蓋開閉駆動軸、40 蓋開閉駆動モータ、46 下ユニット、48 上ユニット、50 処理容器本体、52 上フィルタ、54 フィルタバー、56 下フィルタ、58 エクステンションカラム、60 ストッパ、62 分注口、64 落下口、66 生体組織処理部、70 シャフト固定部、72,76 ネジ、74 板バネ、78 軸受け、90 生体サンプル、92 攪拌子、94 処理液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織とそれを処理する処理液とを収容する少なくとも1つの処理容器からなる回転対象物を着脱自在に保持する保持機構と、
前記処理容器に対して空間的に隔てて配置され、空間的な熱伝達により前記処理容器の内部温度を制御する熱源と、
前記保持機構を回転させる機構であって、前記熱源による熱伝達に際して正立状態及び倒立状態を経由する回転運動を前記処理容器に行わせる攪拌機構と、
を有することを特徴とする生体組織処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体組織処理装置であって、
前記回転対象物は、少なくとも1つの処理容器列によって構成され、各処理容器列は、前記回転運動の回転中心軸方向に整列し、かつ同じ向きを有する複数の処理容器により構成されたこと、
を特徴とする生体組織処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の生体組織処理装置であって、
前記回転対象物は互いに離間して整列した複数の処理容器列によって構成され、
前記保持機構は前記複数の処理容器列を保持する複数の保持部材を含み、
前記攪拌機構は前記複数の保持部材を回転駆動する共通の駆動部を有すること、
を特徴とする生体組織処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載の生体組織処理装置であって、
前記回転中心軸は前記各処理容器列を構成するそれぞれの処理容器における生体組織処理部の中央部を貫通する軸であること、
を特徴とする生体組織処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の生体組織処理装置であって、
前記処理容器は、多数の微小空隙を有する上フィルタ及び下フィルタとを含み、
当該処理容器内の前記上フィルタと前記下フィルタとの間に、前記生体組織を含む前記処理液を保持する生体組織処理部を有すること、
を特徴とする生体組織処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の生体組織処理装置であって、
前記熱源が配置された筐体を含み、
前記筐体の内部空間において前記回転対象物が回転運動をすること、
を特徴とする生体組織処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−312628(P2007−312628A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143587(P2006−143587)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】