生体適合性−遺伝子送達剤としての新規カチオン性リポポリマー
1)脂質、および生体適合性親水性ポリマーが、PEIバックボーンに対して直接結合しているか、または2)脂質が、PEIバックボーンと生体適合性親水性ポリマーを介して結合している、ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマーからなる、生分解性カチオン性リポポリマー。本発明のカチオン性リポポリマーは、局所または全身性の投与の後、様々な器官および組織への、核酸またはアニオン性生物活性因子の送達に利用され得る。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2002年2月25日に出願された係属中のアメリカ合衆国特許出願番号10/083,861の一部継続出願であり、またこの一部継続出願は2000年9月4日に出願された係属中のアメリカ合衆国特許出願番号09/662,511の一部継続出願である。
【0002】
発明の背景
発明の属する分野
本発明は、カチオン性リポポリマー、およびそれを調製する方法に、一般的に関連する。それは、ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、生体適合性親水性ポリマーを含む、生分解性カチオン性リポポリマーに特に関連し、1)脂質および生体適合性親水性ポリマーは、PEIバックボーンに対して直接結合しているか、あるいは2)脂質はPEIバックボーンに対して生体適合性親水性ポリマーを介して結合している。本発明のカチオン性リポポリマーは、核酸またはアニオン性因子の細胞内への送達において有用である。
【0003】
関連する技術
遺伝子治療は、遺伝子欠陥を伴う疾病の治療に対してだけでなく、がん、心血管疾患、および慢性関節リウマチといった慢性疾患の治療および予防に対する戦略の開発においても、一般的に有望なアプローチとみなされている。しかしながら、他の多価アニオン性物質と同様に、核酸は、特定のいくつかの酵素によって迅速に分解され、また水溶液中で送達される場合、細胞内への不十分な取り込みを示す。1950年代中頃の、核酸を組織または培養細胞へ送達する方法を同定するための初期の努力以来、in vitroとin vivoの両方における、機能的DNA、RNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドの送達の改善に向けて、着実な進歩がなされてきた。
【0004】
これまでに使用された遺伝子担体には、ウイルスシステム(レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、または単純ヘルペスウイルス)、または非ウイルスシステム(リポソーム、ポリマー、ペプチド、リン酸カルシウム沈殿、およびエレクトロポレーション)が含まれる。ウイルスベクターは非ウイルスベクターと比較した場合、高いトランスフェクション効率を有することを示しているが、それらのin vivoでの使用は、細胞分裂への依存、宿主ゲノムへのランダムDNA挿入のリスク、大きいサイズの治療用遺伝子の送達における低い能力、複製のリスク、および起こり得る宿主の免疫応答、といった、いくつもの欠点のため、厳しく制限されている。
【0005】
ウイルスベクターと比較すると、非ウイルスベクターは作成が容易であり、また免疫応答を起こしにくい。加えて、複製反応が必要とされない。カチオン性脂質またはポリカチオン性ポリマーのどちらかである、安全かつ効率的な非ウイルス遺伝子転移ベクターの開発に焦点をあて注目が高まってきている。DNAと相互作用して多価イオン性複合体を形成する、ポリ-L-リジン、ポリ-L-オルニチン、およびポリエチレンイミン(PEI)といったポリカチオン性ポリマーは、遺伝子送達において使用するために導入されてきた。様々なカチオン性脂質もまた、DNAとの脂質複合体(lipoplexes)を形成し、そして様々な真核細胞へのトランスフェクションを誘導することが示される。多数の異なるカチオン性脂質は商業的に入手可能であり、またいくつかは既に臨床場面において使用されている。脂質トランスフェクションのメカニズムは未だ明らかではないが、おそらく複合体上の過剰な陽性電荷を介したDNA/脂質複合体と細胞表面との結合、および形成されたエンドソームから細胞質へのDNAの放出に関与している。細胞表面に結合した複合体はおそらく細胞内に取り込まれ、そしてDNAは細胞内コンパートメントからその細胞の細胞質へ放出される。
【0006】
しかしながら、in vitroにおけるトランスフェクション技術をin vivoでの応用のために直接発展させることは不可能である。in vivo における使用に関して、N-[l-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、あるいは、リポフェクチン、といったジエーテル脂質の最大の欠点は、それらが生体において天然の代謝産物ではなく、そしてそのために生分解性ではないことである。それらはまた、細胞にとって有毒でもある。さらに、カチオン性脂質トランスフェクションは、血清中に存在する因子により阻害されることが報告されており、そしてそのために、それらは、in vivoでの細胞への遺伝子物質の導入においては非効率的な手段である。さらに、これらのカチオン性脂質はin vivoの遺伝子導入においてより効率が低いことが証明されている。
【0007】
理想的なトランスフェクション試薬は、細胞または組織への機械的または物理的な操作の必要性なく、高いレベルのトランスフェクション活性を示すべきである。その試薬は、効果的な用量において、毒性がないか、または最小限のであるべきである。処理細胞への長期の有害な副作用を回避するため、それはまた生分解性であるべきである。in vivoにおいて遺伝子担体が核酸の送達に使われる場合、遺伝子担体そのものに毒性がなく、そしてそれらは毒性のない産物へ分解されることが必須である。そのままの遺伝子担体の毒性およびその分解産物の毒性を最小限にするため、遺伝子担体の設計は天然に存在する代謝産物に基づく必要がある。
【0008】
Epandらのアメリカ合衆国特許5,283,185(以下、’185特許)は、適当な担体溶媒中、共脂質(co-lipid)を用いた、カチオン脂質、3'[N-(N',N”-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-コレステロール)の混合脂質溶液の調製を含む、細胞への核酸の導入を促進する手法を開示する。'185特許に開示される方法は、リポソーム懸濁液の調製におけるハロゲン化溶媒の使用に関与する。製薬の応用において、ハロゲン化溶媒の残留物は、導入された後、調製物から実質上除去され得ない。アメリカ合衆国特許5,753,262(以下、'262特許)は、in vitroでの効果的なトランスフェクションを生み出すため、脂質3'[N-(N',N”-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-コレステロール)の酸性塩、およびジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)またはジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)といったヘルパー脂質の使用を開示する。
【0009】
ミクロン以下のサイズであるため、ナノ粒子は界面での細胞内取り込みを増強し、そしてつまり真の意味において“局所の薬理学的な薬剤効果”を達成するとの仮説が立てられている。ナノ粒子中に含まれる薬剤の細胞内取り込みは、遊離した薬剤と比較すると(エンドサイトーシスのため)増強されるであろうとの仮説もまた立てられている。ナノ粒子は、がん治療における、治療薬の腫瘍局所化のため、(抗ウイルスまたは抗菌剤の)細胞内での標的化のための薬剤輸送システムとして、(寄生虫感染の)細網内皮系への標的化のための薬剤輸送システムとして、(経口および皮下経路による)免疫学的アジュバントとして、持続性の薬効を伴う眼内輸送について、および長期全身性薬剤治療について、研究されている。
【0010】
前述の観点において、生分解性であり、ナノ粒子、リポソーム、またはミセル形成可能であり、かつ免疫系を回避できる遺伝子担体の提供は高く評価されるだろう。そしてそのようにして安全で効果的な遺伝子輸送の提供が望まれている。本発明における新規カチオン性リポポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマーを含み、脂質はPEIバックボーンと直接結合するか、または疎水性ポリマーを介して共有結合し、その結果PEIの第一または第二アミン基に共有結合する。
【0011】
本発明のリポポリマーは、核酸または他のアニオン性生物活性分子、またはその両方の送達のための、カチオン性ミセル、またはカチオン性リポソームの調製のために有用であり、細胞内に取り込まれた後、容易に代謝的に分解可能である。
【0012】
発明の概要
核酸の送達のため、in vivoおよびin vitroの細胞毒性が低減された、生分解性カチオン性リポポリマーの開発は有利であることが認識されている。本発明のリポポリマーは、DNAおよびRNAといったポリヌクレオチドの、細胞内への安定的トランスフェクション、および一過性トランスフェクションの両方を、効果的に実行し得る。
【0013】
本発明のより詳細な観点によると、本発明のカチオン性リポポリマーは、ポリエチエンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマーを含み、ここで1)脂質および生体適合性親水性ポリマーはPEIバックボーンと直接結合している、または2)脂質は生体適合性親水性ポリマーを介してPEIバックボーンと結合している。PEIは、分岐鎖構造または直鎖構造のどちらかであり、100〜500,000ダルトンの範囲内の平均分子量を有する。PEI、親水性ポリマー、および脂質間の共有結合は、好ましくは、エステル、アミド、ウレタン、およびジチオール結合からなる群より選択される、構成員である。親水性ポリマーは、好ましくは50〜20,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)である。結合脂質に対するPEIのモル比は、好ましくは1:0.1〜1:500の範囲内である。本発明のカチオン性リポポリマーは、さらに、標的化部分を含み得る。
【0014】
本発明のカチオン性リポポリマーは、DOPEまたはコレステロールといった中性脂質とのその共調合(coformulation)に依存して、リポソームまたは水溶性ミセルとして調製され得る。例えば、中性脂質存在下では、リポポリマーは水に不溶性のリポソームを形成し、そして中性脂質の非存在下では、リポポリマーは水溶性のミセルを形成するだろう。
【0015】
本発明のカチオン性リポポリマーは、核酸を有する分離したナノメートルサイズの粒子を自発的に形成することができ、リポフェクチンおよびポリエチレンイミンを用いて慣例的に達成することができるよりも、より効率的な、哺乳動物細胞株への遺伝子トランスフェクションを促進し得る。本発明のリポポリマーは、動物細胞への取り込みの後に、容易に代謝的に分解され得る。本発明の生体適合性カチオン性リポポリマーおよび生分解性カチオン性リポポリマーは、哺乳動物細胞のトランスフェクションのための一般的な試薬として利用するために、また遺伝子治療のin vivoへの応用のために、改良された遺伝子担体を提供する。
【0016】
本発明はさらに、in vivo およびin vitroのトランスフェクションの両方にとって、最も効果的であるように、適当な電荷比(リポポリマーの陽性電荷/核酸の陰性電荷)において、選択された核酸と複合体を形成する、新規カチオン性リポポリマーを含む、トランスフェクション製剤を提供する。カチオン性リポポリマーおよび核酸のN/P(ポリマーに対する窒素原子/DNA上のホスフェート原子)比は、好ましくは500/1〜0.1/1の範囲内である。特に全身性送達向けには、N/P比は、好ましくは1/1〜100/1であり;局所送達向けには、N/P比は、好ましくは0.5/1〜50/1である。
【0017】
本発明はまた、in vivoおよびin vitroの両方において、核酸を哺乳動物細胞中へトランスフェクションする方法を提供する。その方法は、上述の通り、カチオン性リポポリマーまたはリポソーム:核酸複合体と、細胞とを接触させることを含む。一つの態様において、その方法はカチオン性リポポリマー/DNA複合体を、温血動物の局所へ送達するために用いる。特に好ましい態様において、その方法は、カチオン性リポポリマー/DNA複合体を温血動物の固形癌への局所投与を含む。もう一つの態様において、その方法は、カチオン性リポポリマーまたはリポソーム:核酸複合体の温血動物への全身性投与に用いる。好ましい態様において、そのトランスフェクション方法は、カチオン性リポポリマーまたはリポソーム:核酸複合体の温血動物への静脈内投与に用いる。特に好ましい態様において、その方法は水溶性リポポリマー/pDNA、リポポリマー:DOPEリポソーム/pDNA、またはリポポリマー:コレステロールリポソーム/pDNA複合体の温血動物へ静脈注射を含む。
【0018】
詳細な説明
図面に示された模範的な態様がここでは参照され、そして同様に記述するため、具体的な用語が本明細書中で用いられるだろう。それにも関わらず、本発明の範囲の限定をそれによって意図しないことは、理解されるであろう。当該技術分野における通常の知識を有し、この開示を理解する者に思い浮かぶ、本明細書中に示される本発明の特徴の変更やさらなる修正、および本明細書中に示される本発明の原理のさらなる応用は、本発明の範囲内と見なされるべきである。
【0019】
生物活性因子の送達のための、本組成および方法の開示および記述の前に、本発明は、本明細書中に開示される特定の構造、過程段階、および物質は多少変更し得るため、前記構造、過程段階、および物質には限定されないと、理解されるべきである。本発明の範囲は、付属の請求項、およびそれと同等のものによってのみ、限定されるので、本明細書中で使用される用語は、特定の態様を記述するためにのみ用いられ、かつ限定を意図するものではないこともまた、理解されるべきである。
【0020】
本明細書および付属の請求項において用いられる場合、単数形の“a”、“an”および“the”は、文脈が明らかに違うものを命じなければ、複数の指示対象を含むことに注意されなければならない。つまり、例えば、“結合(a bond)”を含むポリマーに対する言及は、二つもしくはそれ以上の前記結合に対する言及を含む。本発明を説明しおよび請求する際において、以下の専門用語は下に定める定義に従って用いられる。
【0021】
“トランスフェクションする”または“トランスフェクション”は、細胞の外側の環境から、特に細胞質および/または細胞核に関する、細胞の内側の環境へ核酸を輸送することを意味する。どのような特定の理論にも拘束されず、核酸は、一つまたはそれ以上のカチオン性脂質/核酸複合体の形で、または一つまたはそれ以上のカチオン性脂質/核酸複合体に包まれまたは接着した後、もしくは、それとともに運ばれて、細胞に送達されうる。特定のトランスフェクションの実例が、核酸を細胞核に送達する。核酸とは、DNA、およびRNA、合成のそれらと同様のものをも含む。前記核酸は、ミスセンス、アンチセンス、ナンセンス、ならびに、タンパク質を生産するヌクレオチド、オンオフのヌクレオチド、およびタンパク質、ペプチド、および核酸の産生を制御する、速度調節ヌクレオチドを含む。限定するものではないが、特に、それらは、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、tRNA、rRNA、ハイブリッド配列、または合成または半合成配列、および天然または人工由来のものであり得る。さらに、核酸は、サイズにおいて、オリゴヌクレオチドから染色体までにわたる、多様性をもち得る。これらの核酸は、ヒト、動物、植物、細菌、ウイルス、および類似したものに由来するものであり得る。それらは、当業者に既知のどのような技術によっても、入手可能である。
【0022】
本明細書中で使用される場合、“生物活性因子”または“薬剤”という言葉、もしくは、他の同様な言葉は、化学的なあるいは生物学的な物質または化合物を意味し、当該技術分野において以前より知られている方法および/または本発明中に示す方法による投与に適しており、それらは、望ましい生物学的または薬理学的効果を誘導する。これらの効果は、限定するものではないが、(1)生物への予防的効果を有し、また感染の防御といった、望ましくない生物学的効果を防ぐこと、(2)例えば、疾患の結果として起こる痛み、または炎症を緩和させるといった、疾患により起こる症状を緩和すること、および/または、(3)生物から、疾患を、緩和、減少、または完全に除去すること、を含み得る。効果は、局所麻酔効果を提供するというように、局所的である可能性もあり、また全身性でもあり得る。
【0023】
本明細書中で使用される場合、“効果的な量”とは、本発明のカチオン性リポポリマーと生分解性の複合体を形成するため、および核酸、またはアニオン性因子を細胞内に送達させるために十分な、核酸、および/または、アニオン性因子の量を意味する。
【0024】
本明細書中で使用される場合、“リポソーム”は、水性のコンパートメントを囲む、一つあるいは多数の層から構成される、微視的な小胞を意味する。
【0025】
本明細書中で使用される場合、“投与すること”および、同様の言葉は、組成物が標的細胞に結合し、そしてエンドサイトーシスにより取り込まれるところへと、全身的に循環可能であるように処置される、個体への組成物の送達を意味する。つまり、好ましくは、組成物は、一般的に、皮下注射、筋肉内注射、静脈注射、もしくは、腹腔内注射により、全身的に投与される。そのような使用のための注射可能物質は、液体の溶液、懸濁液として、または注射前に液体の溶液または懸濁液として調製するのに適する固体の形状で、あるいは、エマルジョンとして、のいずれかにおいて従来からの形態で調製され得る。適当な賦形剤とは、例えば、水、塩類溶液、デキストロース、グリセロール、エタノールなどを含み、またもし望まれれば、湿潤剤、または乳化剤、緩衝液などといった、少量の補助物質を添加し得る。
【0026】
遺伝子治療の成功への根本は、全身性の投与において安全で効果的である、遺伝子送達媒体の開発である。初期臨床試験において使用された、N[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)および3-β(N,N”-ジメチルアミノエタンカルバモイルコレステロール)(DC-Chol)、といった、カチオン性脂質の多くは、in vitroでは効果的な遺伝子導入を示すが、動物における遺伝子導入ではより低い効果を示した。Felgner PL et al. Lipofection: A highly efficient, lipid-mediated DNA transfection procedure. Proc Natl Acad Sci USA 84: 7413-7417 (1987);およびGao, X. and Huang L. (1991) A novel cationic liposome reagent for efficient transfection of mammalian cells. Biochem. Biophys. Res. Commun. 179: 280-285を参照のこと。
【0027】
カチオン性脂質の一般的な構造は、3つの部分をもつ:(i)リポソーム(またはミセル構造)の形成を助け、また細胞膜と相互作用する、疎水性脂質アンカー;(ii)リンカー基;および、(iii)プラスミドと相互作用し、その濃縮を引き起こす、正電荷を帯びた頭部。頭部に一つの第3アンモニウム基、または第4アンモニウム基をもつ、あるいは、ジアルキル脂質またはコレステロールアンカーと結合するプロトンをもちうるポリアミンを含む、多数の化合物が、様々なタイプの細胞へのトランスフェクションのために使われてきた。ポリアミン頭部の脂質アンカーとの関係における配位は、トランスフェクション効率に大きな影響を及ぼすことが示されている。スペルミンまたはスペルミジン頭部とコレステロール脂質との、第二アミンを介したカルバメート結合を介した結合は、T型のカチオン脂質を産生し、肺組織への非常に効果的な遺伝子導入を示した。逆に、スペルミンまたはスペルミジンと、コレステロールまたはジアルキル脂質との結合により形成される、直鎖ポリアミン脂質は、遺伝子導入においてより低い効果であった。
【0028】
プロトンをもちうる3つのアミンを頭部に含むカチオン性脂質は、プロトンをもちうるアミンを一つしか含まないDCコレステロールより、活性があることが示されている。プロトンをもちうるアミンの数に加えて、カチオン性頭部を有する疎水性脂質アンカーに架橋するリンカー基の選択もまた、遺伝子導入活性に影響を与えることが示された。カルバメートリンカーの、尿素、アミド、またはアミンへの置換は、トランスフェクション活性の相当の低下という結果になる。PEIは、その分子量と、電荷比率に依存する、遺伝子導入において高い効果を示している。しかしながら、高分子量のPEIは、細胞および組織に対して、非常に毒性をもつ。
【0029】
本発明のカチオン性リポポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマーを含み、脂質および親水性ポリマーはPEIバックボーンと共有結合している。場合により、脂質はPEIと親水性ポリマースペーサーを介して共有結合し得る。好ましくは、親水性ポリマーは、50〜20,000ダルトンの間の分子量をもつポリエチレングリコール(PEG)である。好ましくは、脂質はコレステロール、コレステロール誘導体、C12〜C18の脂肪酸、またはC12〜C18の脂肪酸誘導体である。本発明のリポポリマーは、一つまたはそれ以上の脂質および親水性ポリマーが、PEIバックボーンと結合する点において、特徴づけられる。
【0030】
図1は、本発明のリポポリマーの合成スキームを示す。合成過程の詳細は以下の通りである:1グラムの分岐鎖ポリエチレンイミン(PEI)1800 Da(0.56 mM)を、5 mlのクロロホルム中に溶解し、そして100 ml丸底フラスコに入れ、室温で20分間、攪拌した。380ミリグラムのコレステリルクロロホルメート(0.85 mM)および500 mgのポリ(エチレングリコール)(PEG)(分子量550 Da)(0.91mM)を、5 mlクロロホルムに溶解し、PEI溶液の入った丸底フラスコの上に置いた添加漏斗に移した。クロロホルム中、コレステリルクロロホルメートおよびPEGの混合物は、PEI溶液に5〜10分以上かけて、室温でゆっくりと添加され、そして次に、さらに4時間室温で攪拌した。ロータリーエバポレーターにより、反応混合液から溶媒を取り除いた後、残った粘着物を、20 mlのエチルアセテートに攪拌しながら溶解した。産物は、20 mlのn-ヘキサンをゆっくりと添加することにより溶媒から沈殿し、そして次に、液体を産物からデカントした。産物を20 mlのエチルアセテート/n-ヘキサン(1/1;v/v)混合液で2回洗浄した。液体をデカントした後、物質を窒素ガスで10〜15分パージすることにより乾燥させた。遊離塩基の形態では、空気と接触した際に容易に酸化されるので、アミン基の塩の形態で得るため、物質を10 mlの0.05 N HClに溶解した。水性溶液を0.2μmフィルター紙で濾過し、そして凍結乾燥をして、最終産物を得た。
【0031】
最終産物の同定(コレステロール、PEG、およびPEIの存在)は、1H-NMR(Varian Inc.,500 MHz, Palo, Alto, CA)によって確認された。NMRの結果は以下の通りである。:1H-NMR(500 MHz, クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H(a));δ〜0.85 ppm(コレステロール由来(CH3)2の6H);δ〜0.95 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜l.l0 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ0.70〜2.50 ppm(コレステロール由来のCH2-CH2およびCHCH2由来の4H);δ〜5.30 ppm(コレステロール由来=CH-由来の1H);δ2.50〜3.60 ppm(PEI由来のN-CH2-CH2-N由来176H(b));および、δ〜3.7 ppm(PEG由来のOCH2CH2-O由来23H(c))。それぞれの物質の代表的なピーク((a)、(b)、および(c)と記した)は、水素の数を分けることにより計算され、その後、化合比を計算した(図2A)。本実施例のモル比は、3.0モルのPEGと1.28モルのコレステロールが、PEI分子1モルに対して結合したことを示した。
【0032】
PPC合成の第二のアプローチは、PEG 250 Da、PEI 1800および、コレステリルクロロホルメートを使用して、図2Bに示す通り、1.0モルのPEI分子に対してPEG 0.85モル、およびコレステリルクロロホルメート0.9モルを伴う、PPCを得ることに関する。これは、広範囲の分子量のPEGが、PPC合成に使用され得ることを示す。
【0033】
別の結合アプローチでは、PPC合成のために直鎖ポリエチレンイミン(LPEI)が使用された。分岐鎖PEIは3つの異種のアミン(約25%が第一アミン、50%が第二アミン、25%が第三アミン)を有するが、直鎖状PEIは第二アミンのみからなる。そのため、コレステロール誘導体、およびPEGは直鎖状PEIの第二アミンに結合する。合成方法および分析方法の詳細は以下の通りである。500 mgのLPEI(分子量2500 Da)(0.02 mM)を、30 mlのクロロホルムに65℃で30分間、溶解した。5 mlクロロホルム中の40 mgのコレステリルクロロホルメート(0.09 mM)および200 mgのPEG(分子量1000 Da)(0.02 mM)を、PEI溶液に3〜10分かけて、ゆっくりと加えた。この溶液を65℃でさらに4時間攪拌した。溶媒をロータリーエバポレーターにより減圧下で取り除き、次に残った物質を15 mlのエチルエーテルで洗浄した。純粋な窒素により乾燥させた後、物質を10 mlの2.0 N HClと2 mlのトリフルオロ酢酸の混合液に溶解した。溶液は脱イオン水を用い、MWCO15000透析チューブを用いて、12時間毎に新鮮な水と交換しながら、48時間透析をした。溶液は凍結乾燥して、水を除去した。
【0034】
産物の組成を確認するため、最終産物を1H-NMR(Varian Inc.,500 MHz, Palo, Alto, CA)で分析した。試料は、NMR測定のため、重水に溶解した。NMRピークを、三つの化合物、コレステロール、PEG、およびPEIの存在の同定を実行することにより、分析した。NMRの結果は以下の通りである:1H-NMR(500 MHz、クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H);(PEI由来N-CH2-CH2-N由来の2340H);およびδ〜3.7 ppm(PEG由来OCH2CH2-O由来の91H)。各物質の代表的なピークは、水素の数で割り算により計算し、そして結合比を検討した。本実施例のモル比は、1モルのPEI分子に対して、12.0モルのPEGおよび5.0モルのコレステロールが結合していることを示した(図3)。
【0035】
新規リポポリマーの一例は、ポリ[N-ポリ(エチレングリコール)-エチレンイミン]-コ-ポリ(エチレンイミン)-コ-ポリ(N-コレステロール)である(以下“PPC”という)。PPCに含まれたPEIの遊離アミンは、適当なDNA濃縮のための、十分な陽性電荷を提供する。極性頭部と疎水性脂質との結合は、生分解可能ではあるが、生物学的環境において存続するのに十分な強度である。コレステロール脂質とポリエチレンイミンとの間のエステル結合は、リポポリマーの生分解性を提供し、また比較的低分子量のPEIが、リポポリマーの毒性を大きく減少させる。コレステロール由来の脂質は本発明において好まれるが、C12〜C18飽和または不飽和脂肪酸といった、他の脂質親和性部分もまた使用されうる。
【0036】
本発明の生分解性カチオン性リポポリマーは、核酸といった、ポリアニオン性化合物に、静電的に引きつけられる。本発明のカチオン性リポポリマーは、DNAを、例えばコンパクトな構造に濃縮する。投与において、これらカチオン性リポポリマーの前記複合体および核酸は、受容体を介するエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。さらに、リポポリマーの脂質親和性部分が、カチオン性両親媒性物質を細胞膜に挿入させ、そして細胞表面へ結合するカチオン性アミノ基へのアンカーとして働く。本発明のリポポリマーは、高い電荷を帯びた陽性基および親水基の両方をもち、それは、遺伝子および他の生物活性因子の送達において、細胞および組織への取り込みを大きく増強させる。
【0037】
生理学的条件における濃縮された核酸の不安定性は、その臨床使用に対する大きな障壁の一つである。in vivoにおける、濃縮された核酸の使用における他の主な限界は、血清タンパク質と相互作用をする濃縮された核酸の傾向であり、静脈内投与の後、不安定化、そして細網内皮細胞により迅速に除去される結果となる。カチオン性リポポリマーの適合性および可溶性は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)のような親水性生体適合性ポリマーと結合することにより、改善され得る。PEGは、結合した分子の免疫原性を阻害することが既知である、FDA承認ポリマーである。PEG添加は濃縮DNA粒子をPEGの“殻”で覆い、核酸を凝集に逆らって安定化させ、免疫システムによるカチオン性リポポリマーの認識を減少させ、そしてin vivo投与後のヌクレアーゼによるその分解を減速させる。
【0038】
PEIのアミン基はまた、スペーサー分子を介して標的化部分と結合し得る。リポポリマーと結合した標的化部分は、リポポリマー-核酸/薬剤複合体を特定の標的細胞との結合、さらに、前記細胞(腫瘍細胞、肝臓細胞、造血細胞など)への取り込みへと導く。標的化部分はまた、核酸/薬剤の送達がある望まれた細胞コンパートメント(ミトコンドリア、核など)へと導かれることを可能にする、細胞内標的エレメントであり得る。好ましい態様において、標的化部分はアミノ基と結合した糖部分であり得る。前記糖部分は、好ましくは、ガラクトース、グルコース、フコース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マンノース、セロビオース、トリオース、デキストロース、トレハロース、マルトース、ガラクトサミン、グルコサミン、ガラクツロン酸、グルクロン酸、およびグルコン酸、といった、単糖類またはオリゴ糖類である。好ましくは、標的化部分は、トランスフェリン、アシアロ糖タンパク質、抗体、抗体断片、低密度リポタンパク質、インターロイキン、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、幹細胞因子、エリスロポエチン、上皮成長因子(EGF)、インシュリン、アシアロオロソムコイド、マンノース-6-ホスフェート、マンノース、ルイスXおよびシアリルルイスX、N-アセチルラクトサミン、葉酸、ガラクトース、ラクトース、およびトロンボモジュリン、ポリミキシンBおよびヘマグルチニンHA2といった融合誘導因子(fusogenic agents)、ライソソーム指向性因子(lysosomotrophic agents)、および核局在化シグナル(NLS)からなる群から選択された分子である。
【0039】
カチオン性リポポリマーと、糖の酸誘導体の結合は、最も好ましい。本発明の好ましい態様において、ラクトビオン酸(4-O-αZD-ガラクトピラノシル-D-グルコン酸)は、リポポリマーと結合する。ラクトースのガラクトシル単位は、肝細胞上のガラクトース受容体との高い親和性および結合性のため、これらの細胞への便利な標的分子を提供する。
【0040】
本発明の利点は、粒子サイズおよび電荷密度を容易に制御できる、遺伝子担体を提供することである。in vivoにおいて、粒子サイズは、しばしばトランスフェクション効率、細胞毒性、および組織標的化を支配するため、粒子サイズの制御は遺伝子送達システムの最適化において重要である。一般的に、組織への効果的な浸透を可能にするため、遺伝子送達粒子のサイズは、細胞表面のクラスリン被覆ピットのサイズを超えるべきではない。本発明において、粒子サイズといった、リポポリマー/DNA複合体の物理化学的特性は、中性脂質とリポポリマーの調合によりおよび/またはPEG含有量を変化させることにより、変化し得る。
【0041】
本発明の好ましい態様において、カチオン性リポポリマーの組成および、組成成分の混合比に応じて、粒子サイズは約40〜400 nmの範囲であるだろう。異なるサイズの、粒子、ナノ粒子、およびマイクロ粒子は、注射の際、粒子サイズに応じて、生体の異なる器官に集積することが知られている。例えば、直径150 nm未満の粒子は、肝臓内皮の類洞開窓(sinusoidal fenestration)を通り抜けることが可能であり、脾臓、骨髄、および可能であれば腫瘍組織に局在し得る。直径約0.1〜2.0μmの粒子の静脈注射、動脈内注射、または腹腔内注射では、細網内皮系のマクロファージにより、血流からの粒子の急速な除去が導かれる。本発明の新規カチオン性リポポリマーは、本明細書中に記述の方法において、器官を標的としうる、制御された粒子サイズの分散剤を製造するために使用され得る。
【0042】
ここで請求項に記載される組成物は、選択された核酸を肝細胞へ、細胞表面の低密度リポタンパク質(LDL)受容体を介したエンドサイトーシスによる送達に際して効果的であると信じられている。他の細胞への核酸の導入は、その選択された受容体をもつ細胞を、選択された標的化部分と適合させることにより、実行され得る。例えば、本発明の糖鎖が結合したカチオン性脂質は、マクロファージへのトランスフェクションにはマンノースから、T細胞へのトランスフェクションにはN-アセチルラクトサミンから、また結腸がん細胞へのトランスフェクションにはガラクトースから、調製され得る。
【0043】
本発明の一つの例は、ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマーであり、脂質、および親水性ポリマーは、PEIバックボーンと直接共有結合するか、あるいは、ある脂質は、親水性ポリマースペーサーを介して、PEIと結合し得る。PEIは分岐鎖構造であっても、または直鎖構造であってもよい。好ましくは、PEIの平均分子量は100〜500,000ダルトンの範囲内である。PEIは好ましくは脂質および親水性ポリマーと、エステル、アミド、ウレタン、またはジチオール結合を介して、結合している。生体適合性親水性ポリマーは、好ましくは、50〜20,000ダルトンの間の分子量を有する、ポリエチレングリコール(PEG)である。本発明のカチオン性リポポリマーは、さらに、標的化部分を含みうる。結合する脂質に対するPEIのモル比は、このましくは1:0.1〜1:500の範囲内である。一方、結合するPEGに対するPEIのモル比は、好ましくは1:0.1〜1:50の範囲内である。
【0044】
本発明の水溶性カチオン性リポポリマーは、水に分散可能、かつカチオン性ミセルを形成し、またそのため、高温、または極端なpHを使用することなく、薬剤の持続放出製剤を製造し、そして製剤化の過程で、薬剤を有機溶剤にさらすことなくポリペプチドおよびオリゴヌクレオチドといった水溶性薬剤を製造するために用いられる。前記生分解性カチオン性リポポリマーは、持続的連続的放出、注射可能な薬剤の製剤の製造のためにもまた、有用である。それらは、非常に効果的に分散する薬剤として働くことが可能であり、また脂質親和性薬剤の持続放出を与える注射による投与をされ得る。
【0045】
さらに、本発明のリポポリマーは、単一で、またはカチオン性リポソーム製剤の形で、ヘルパー脂質との混合物として、ヒトまたは動物の体の特定の器官への遺伝子送達のために、使用可能である。中性へルパー脂質の使用は、N/P比(ポリマー上のアミン原子/DNA上のホスフェート原子)が低い場合、特に好都合である。好ましくは、前記ヘルパー脂質は、コレステロール、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、オレオイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジフィタノイルホスファチジルエタノールアミン(ジフィタノイルPE)、ジステロイル-、-パルミトイル-、および-ミリストイルホスファチジルエタノールアミン、およびその1-〜3-倍N-メチル化誘導体からなる群より選択された分子である。好ましくは、ヘルパー脂質に対するリポポリマーのモル比は、0.1/1〜500/1の範囲内であり、好ましくは0.5/1〜4/1、より好ましくは、1/1〜2/1の範囲内である。本組成物のトランスフェクション効率を最適化するには、賦形剤として水を、またヘルパー脂質としてジフィタノイルPEを使用することが好ましい。さらに、N/P比は、好ましくは、500/1〜0.1/1、特に全身性の送達には100/1〜1/1、そして局所への送達には50/1〜0.5/1の範囲内である。この比は、当業者により、使用されるポリマー(図4)、アジュバントの存在、核酸、標的細胞、および使用される投与の様式に従って、変化され得る。
【0046】
リポソームは、他の手順によるトランスフェクションに通常抵抗を示す、多くの細胞種へのトランスフェクションに対して成功して用いられてきた。リポソームは、遺伝子、薬剤、放射性療法剤、酵素、ウイルス、転写因子、およびアロステリックエフェクターの、様々な培養細胞株および動物への、効果的な導入に使用されてきた。さらに、複数の研究では、リポソームの使用は、自己免疫応答、毒性、または全身性送達後の生殖腺への局在と、関連しないことを示している。Nabel et al. Gene transfer in vivo with DNA-liposome complexes, Human Gene Ther. , 3: 649-656, 1992bを参照のこと。
【0047】
カチオン性リポソームおよびミセルは、核酸以外の物質の細胞内送達に有用であることが既知であるため、本発明のカチオン性リポポリマーにより形成されるカチオン性リポソームおよびミセルは、タンパク質、様々な薬理学的薬剤または生物活性因子といった、核酸以外の物質の細胞送達に対して使用され得る。本発明はそのため、治療が細胞内への物質輸送に関与する限り、様々な病状の治療の方法を提供する。特に、以下の病状の治療は、本発明の範囲内に含まれる:がん、感染性疾患、炎症疾患、および遺伝性遺伝子疾患。
【0048】
送達される生物活性因子の、細胞への結合、および取り込みの改善を示す、本発明のカチオン性リポポリマーは、上述した通り、既知のカチオン性脂質と関連する問題を、克服することに関する。例えば、本発明の生分解性カチオン性リポポリマーは、容易に加水分解され、そして分解産物は腎臓からの排出に供される、低分子で毒性のない分子であり、そして遺伝子発現に必要とされる期間中は不活性である。分解は、単純な加水分解反応、および/または、酵素反応による。酵素的分解には、ライソゾームといった特定のオルガネラが重要となり得る。分解に必要とされる時間は、分子量、およびカチオン性脂質になされた修飾に依存して、数日から数ヶ月へと多様であり得る。
【0049】
さらに、ナノ粒子、またはマイクロ粒子複合体は、本発明のカチオン性脂質、および核酸または負電荷を帯びた他の生物活性因子を単純に混合することにより、形成され得る。本発明のカチオン性リポポリマーの脂質親和性基(コレステロール誘導体)は、細胞の膜内へカチオン性両親媒性物質を挿入させる。それは細胞表面へ結合するためのカチオン性アミン基のためのアンカーとして働き、カチオン性担体/核酸複合体の、トランスフェクションされる細胞による取り込みを促進する。そのため、本発明のカチオン性遺伝子担体は、in vivoおよびin vitroの両方において、改善されたトランスフェクション効率を提供する。
【0050】
好ましくは、コレステロール部分は、親水性ポリマースペーサーを介して結合するか、または直接PEI上に結合する、脂質親和性部分として使用され、そのイオン化された第一アミノ基のため、水性環境においては親水性頭部として働く。親水性表面基として、中性電荷を帯びたPEGは、疎水性脂質と水性環境における親水性頭部を形成した、安定したミセル複合体を維持することができ、赤血球および血漿蛋白に対してPPC/pDNA複合体を保護する効果を提供する。さらに、親水性中性ポリマーは、血流中におけるDNAの安定性の増強に不可欠である。一方、脂質部分は、特異的な受容体を介する細胞取り込み機構による、DNA複合体の細胞取り込みを促進するのに使用され得る。細胞への取り込みは、疎水性脂質基と細胞膜との間の好都合な相互作用により増強される。
【0051】
さらに、PEGといった、中性電荷を帯びた親水性ポリマーは、効率的なトランスフェクションにおいて、細胞毒性の減少、水溶液中での溶解性の改善、リポポリマーとDNAとの間の複合体の安定化の増強、および複合体と血中蛋白との相互作用の阻害といった、多くの利点を提供する。さらに、PEGは、複合体が局所に注射された場合、複合体と細胞膜との相互作用を防ぎ得る。そのため、局所領域に投与された後、容易に捕捉されることなく、複合体は細胞間を十分に分布できる。
【0052】
本発明の水溶性リポポリマーは、ミセルを形成し、そして(PEIといった)親水性基と、(コレステロールまたは脂肪酸鎖といった)疎水性基の間の微妙なバランスの維持を助け、一方では、血流中においてDNA/リポポリマー複合体を安定化し、その結果、トランスフェクション効率を改善する。さらに、水溶性リポポリマーは、肝細胞または固形腫瘍への核酸の送達に適した、小さいサイズ(40〜150 nm)のDNA粒子を形成する(図5)。さらに、PPC/pDNA複合体の表面電荷は、図5に示すN/P比によると20〜40 mVの範囲内であった。陽性電荷を帯びた粒子は、陰性電荷を帯びた細胞表面と容易に相互作用し得る。しかしながら、複合体上の正味の陽性電荷に関わらず、PEG鎖の含有は、ポリマー/DNA複合体と、細胞膜との相互作用を減少させ、それにより、PEIに対するPEGのモル比の増加に従い、in vitroにおけるより低いトランスフェクション活性を生じる。しかしながら、PEGの存在は、生物学的環境においてDNAの安定性を改善し、PPCのトランスフェクション効率においては、全体的に亢進をもたらす。図6に示す通り、培養293 T細胞のルシフェラーゼ活性は、PEG/PEI比の増加に従い、大幅に減少した。しかしながら、皮下腫瘍において、ルシフェラーゼ活性は、PEG/PEI比の増加に従い、増加した(図7)。PPCのin vivoにおけるトランスフェクション活性の増加は、生物学的環境におけるPPC/Luc複合体の安定性の増加、および体内分布によるであろう。
【0053】
PPC/pmIL-12複合体のトランスフェクション後の分泌されたmIL-12のレベルは、結合比1.0、2.0、2.5、3.5、および4.2の中で、各PPCに複合体化された3.5のPEGにおいて、最も高いレベルを示した(図8)。図7のルシフェラーゼ活性とmIL-12の結果を比較すると、pDNAの発現レベルはpDNAのタイプとは関連はなく、遺伝子担体としてのPPCに対するPEG比と関連があったと評価されるだろう。
【0054】
PPC/pDNA複合体を含む組成物の効果的な量は、所定の数およびタイプのトランスフェクション細胞に使用される、核酸のタイプおよび濃度に依存する。4T1皮下腫瘍をもつBALB/cマウスにPPC/pmIL-12複合体の腫瘍内注射後に分泌されたmIL-12レベルは、1.0モルのPEIおよび1.0モルのコレステロールと結合した3.5モルのPEGを用いたPPCから複合体を作成した場合、高いレベルを示した(図8)。PEG、PEI、およびコレステロール組成成分からなる水溶性リポポリマーは、全身性投与および局所投与の後に、細胞および組織に対する毒性が最小限であることが示された。PPCおよびPPC/pDNA複合体は、培養CT-26結腸がん細胞、293 Tヒト胚腎臓細胞、およびマウスJurkat T細胞株に対して、より高い電荷比においても、毒性がなく、一方、PEI 2500およびLipofectAMINEに基づく製剤の両方においては、これらの細胞に対してかなりの毒性を示した。
【0055】
PPCリポソームは200〜400 nmのDNA粒子を形成し、全身性投与後の肺への核酸送達に適している。図9に示す通り、PPCリポソーム/ルシフェラーゼプラスミド複合体は、全身性投与後、PPCの非リポソーム製剤より肺へのトランスフェクションを5〜10倍上昇させた。PPCリポソームのトランスフェクション効率は、マウス肺転移モデルで腫瘍結節の増殖を阻害するための、治療レベルのIL-12を産生するのに十分であった(図10)。コレステロールまたはDOPEに対する、カチオン性リポポリマーのモル比は、リポ-粒子の相転移、およびリポポリマー:中性脂質/pDNA複合体の表面化学に影響する。これは、核酸の取り込み、細胞内での分解、および輸送に影響し、そしてつまり、遺伝子発現の効率に影響する。リポポリマーと中性脂質との間の最適な比は、標的化部位に依存し、1:1〜1:2の範囲である事が見いだされた。
【0056】
以下の実施例は、当業者が、本発明の実施法をより明確に理解することを可能とするだろう。本発明が、その好ましい具体的な態様と組み合わせて記述されており、以下は本発明を説明することを意図するもので、発明の範囲を限定しないことは、理解されるべきである。本発明の他の観点は、発明の属する分野の当業者には明らかであろう。
【0057】
以下は、実験に用いられた全ての化学物質および試薬の出所の一般的な開示である。
【0058】
600、1200、および1800 Daの分岐鎖ポリエチレンイミン(PEI)、1000 Da、および直鎖状PEI 25000 Daは、Polysciences, Inc(Warrington, PN)より購入した。直鎖状PEI 400、分岐鎖PEI 800、および25000 Da、およびコレステリルクロロホルメートは、Aldricn, Inc.(Milwaukee, WI)より購入した;メチル-PEG-NHS 3400 Da、メチル-PEG-NHS 1,000 Da、およびNH2-PEG-COOH 3400 Daは、Nectar, Inc. (Huntsville, AL)より購入した。メチル-PEG-NHS 330、メチル-PEG-NHS 650、およびアミノdPEG4TM酸は、Quanta Biodesign, Inc.(Powell, OH)より購入した。2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)は、Avanti Polar Lipids(Alabaster, AL)より購入した。無水クロロホルム、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチルアセテート、およびアセトンは、Sigma(St. Louis, MO)より購入した。
【実施例】
【0059】
実施例1 PEG 550、分岐鎖PEI 1800、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの合成
この実施例は、PEG 550、分岐鎖PEI 1800、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの調製を示す。
【0060】
1グラムの分岐鎖ポリエチレンイミン(PEI)1800 Da(0.56 mM)を、5 mlのクロロホルム中に溶解し、そして100 ml丸底フラスコに入れ、室温で20分間、攪拌した。380ミリグラムのコレステリルクロロホルメート(0.84 mM)および500 mgのポリ(エチレングリコール)(PEG)(分子量550 Da)(0.91 mM)を、5 mlクロロホルムに溶解し、次にPEI溶液の入った丸底フラスコの上に置いた添加漏斗に移した。クロロホルム中コレステリルクロロホルメートおよびPEGの混合物を、PEI溶液に、5〜10分かけて、室温でゆっくりと添加した。溶液は、さらに4時間室温で攪拌した。ロータリーエバポレーターにより溶媒を取り除いた後、残った粘着物質を、20 mlのエチルアセテートに攪拌しながら溶解した。産物は、20 mlのn-ヘキサンをゆっくりと添加することにより溶媒から沈殿し、そして液体を産物からデカントした。産物を20 mlのエチルアセテート/n-ヘキサン(1/1;v/v)混合液で2回洗浄した。液体をデカントした後、物質を窒素ガスで10〜15分パージすることにより乾燥させた。物質は、10 mlの0.05 N HClに溶解して、アミン基の塩の形態で調製した。水性溶液を0.2μmフィルター紙で濾過した。最終産物は、凍結乾燥により得た。
【0061】
確認のため、産物を、1H-NMR(Varian Inc.,500 MHz, Palo, Alto, CA)により分析した。試料はNMR測定のため、クロロホルム-dに溶解した。NMRピークは、コレステロール、PEG、およびPEIの、三つの組成成分の存在の評価を行うことにより、分析した。NMRの結果は以下の通りである:1H-NMR(500 MHz, クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜0.85 ppm(コレステロール由来(CH3)2の6H);δ〜0.95 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜l.l0 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ0.70〜2.50 ppm(コレステロール由来のCH2-CH2およびCHCH2由来の4H);δ〜5.30 ppm(コレステロール由来=CH-由来の1H);δ2.50〜3.60 ppm(PEI由来のN-CH2-CH2-N由来176H);および、δ〜3.7 ppm(PEG由来のOCH2CH2-O由来23H)。それぞれの物質の代表的なピークは、水素の数で割ることにより計算し、その後、結合比を検討した。本実施例のモル比は、3.0モルのPEGと1.28モルのコレステロールが、PEI分子1モルに対して結合したことを示した。
【0062】
実施例2 PEG 330、分岐鎖PEI 1800、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの合成
この実施例は、PEG 330、分岐鎖PEI 1800、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの調製を示す。
【0063】
180ミリグラムの分岐鎖PEI 1800(0.1 mM)を、室温で30分間、4 mlのクロロホルメートに溶解した。70ミリグラムのコレステリルクロロホルメート(0.14 mM)および48 mgのPEG 330(0.14 mM)を、1 mlクロロホルメートに溶解し、次にPEI溶液に、3〜10分かけて、シリンジを用いて、ゆっくりと添加した。混合物を、室温で4時間攪拌した。沈殿させるため、エチルアセテート10 mlを添加した後、溶液を-20℃で一晩インキュベートし、その次に液体をフラスコからデカントした。残った物質を、5 mlのエチルアセテート/n-ヘキサン(1/1;v/v)混合液で2回洗浄した。残った物質を、窒素ガスで10〜15分パージすることにより乾燥させ、10 mlの0.05 N HClに20分間溶解して、その後、溶液を0.2μmシリンジフィルターで濾過した。水溶液は、冷凍乾燥により凍結乾燥し、ポリマーから水を除去した。
【0064】
確認のため、産物を、1H-NMR(Varian Inc.,500 MHz, Palo, Alto, CA)により分析した。試料はNMR測定のため、クロロホルム-dに溶解した。NMRピークは、コレステロール、PEG、およびPEIの、三つの組成成分の存在の評価を行うことにより、分析した。NMRの結果は以下の通りである:1H-NMR(500 MHz, クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜0.85 ppm(コレステロール由来(CH3)2の6H);δ〜0.95 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜l.l0 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ0.70〜2.50 ppm(コレステロール由来のCH2-CH2およびCHCH2由来の4H);δ〜5.30 ppm(コレステロール由来=CH-由来の1H);δ2.50〜3.60 ppm(PEI由来のN-CH2-CH2-N由来176H);および、δ〜3.7 ppm(PEG由来のOCH2CH2-O由来12H)。それぞれの物質の代表的なピークは、水素の数で割ることにより計算し、その後、結合比を検討した。本実施例のモル比は、0.85モルのPEGと0.9モルのコレステロールが、PEI分子1モルに対して結合したことを示した。
【0065】
実施例3 PEG 1000、直鎖PEI 25000、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの合成
この実施例は、PEG 1000、直鎖PEI 25000、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの調製を示す。
【0066】
500ミリグラムの直鎖PEI 25000 Da(0.02 mM)を、30 mlに、65℃で30分間、溶解した。三頸フラスコに濃縮添加漏斗を装着した。5 mlクロロホルム中200 mg mPEG-NHS 1000(0.2 mM)と40 mgコレステリルクロロホルメート(0.08 mM)の混合物を、PEI溶液に、3〜10分かけて、ゆっくりと添加した。溶液を、さらに4時間、65℃で常時攪拌し、その後、ロータリーエバポレーターで、容量を約5 mlに減少させた。遊離コレステロールを除去するため、溶液を50 mlのエチルエーテルで沈殿させ、液体をフラスコからデカントし、残った物質を、20 mlのエチルエーテルで2回洗浄した。純粋な窒素で乾燥後、物質を10 mlの2.0 N HClと2 mlのトリフルオロ酢酸の混合物に溶解した。溶液を、MWCO 15000透析チューブを用いて、12時間毎に新鮮な水に交換しながら、48時間、脱イオン水に対して透析した。溶液を凍結乾燥し水分を除去した。
【0067】
試料はNMR測定のため、重水に溶解した。NMRピークは、コレステロール、PEG、およびPEIの、三つの組成成分の存在の評価を行うことにより、分析した。NMRの結果は以下の通りである:1H-NMR(500 MHz, クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H);(PEI由来のN-CH2-CH2-N由来2340H);および、δ〜3.7 ppm(PEG由来のOCH2CH2-O由来91H)。それぞれの物質の代表的なピークは、水素の数で割ることにより計算し、その後、結合比を考慮した。本実施例のモル比は、12.0モルのPEGと5.0モルのコレステロールが、PEI分子1モルに対して結合したことを示した。
【0068】
実施例4 PEI 1800および、コレステリルクロロホルメートからなる、水不溶性リポポリマーの合成
本実施例は、水不溶性リポポリマーの調製を示す。
【0069】
1グラムのPEI(分子量1200ダルトン)を、15 ml無水メチレンクロリドおよび100μlトリエチルアミン(TEA)の混合液に溶解した。氷上で30分間攪拌した後、1.2 gのコレステリルクロロホルメート溶液をゆっくりとPEI溶液に加え、そしてその混合液を一晩、氷上で攪拌した。結果の産物は、エチルエーテルを加えて沈殿させ、続いて、遠心し、次にさらにエチルエーテルおよびアセトンを用い、洗浄した。水不溶性リポポリマーを、最終濃度0.08 g/mlとなるようにクロロホルムに溶解した。合成および精製に続いて、水不溶性リポポリマーを、MALDI-TOFF MSおよび1H-NMRを用いて評価した。
【0070】
水不溶性リポポリマー1200のNMR測定は、以下の結果を示した。:1H-NMR(200 M Hz, CDCl3)、δ0.6(コレステロール由来CH3の3H);δ2.5(PEIバックボーン由来-NHCH2CH2-由来230H);δ3.1(PEI側鎖由来=NCH2CH2-NH2の72H);δ5.3(コレステロール由来=C=CH-C-の1H)。δ0.8〜δ1.9に現れる他のピークは、コレステロールであった。PEIに結合したコレステロールの量は、約40%であると決定された。水不溶性リポポリマーのMALDI-TOFマススペクトロメトリー解析は、その分子量が約1600であることを示した。800〜2700にピークが現れ、そしてピークの大半は約1600であり、このことは、1200 DaのPEIおよび414のコレステロール(クロリドの除去)が合成に使われたためであると予想される。これは、いくつかは結合していないか、もしくは、モル比2/1(コレステロール/PEI)かのどちらかであるが、合成されたPEACE 1200の大半が、コレステロールとPEIのモル比が1/1であることを示唆する。
【0071】
実施例5 PEI 1800およびコレステリルクロロホルメートからなる水溶性リポポリマーの、第一アミン基を用いる合成
本実施例は、PEI 1800およびコレステリルクロロホルメートからなる、水溶性リポポリマーの調製を示す。
【0072】
3グラムのPEI(分子量1800ダルトン)を、10 mlの無水エチレンクロリドおよび100μlのトリエチルアミンの混合液中、氷上で30分攪拌した。1グラムのコレステリルクロロホルメートを5 mlの無水氷冷メチレンクロリドに溶解し、その後、PEI溶液に30分以上かけてゆっくりと添加した。混合物を12時間氷上で攪拌し、結果産物をロータリーエバポレーターで乾燥した。粉末を50 mlの0.1 N HClに溶解した。水溶液を、100 mlのメチレンクロリドを用いて3回抽出し、その後、ガラスマイクロファイバーフィルターで濾過した。産物は、溶媒を蒸発させることにより濃縮し、過剰量のアセトンで沈殿させ、そして減圧条件下、乾燥させた。産物をMALDI-TOFマススペクトロフォトメトリーおよび、1H-NMRを用いて分析した。産物はその後、使用されるまで-20℃で保存した。
【0073】
水溶性リポポリマー1800のNMR結果は以下の通りである:1H NMR(500 Mhz, D2O+1,4-ジオキサン-d6)、δ0.8(コレステロール由来CH3の2.9H);δ2.7(PEIバックボーン由来-NHCH2CH2-の59.6H);δ3.2(PEI側鎖由来=N-CH2CH2-NH2の80.8H);δ5.4(コレステロール由来=C=CH-C-の0.4H)。δ0.8〜δ1.9に現れる他のピークは、コレステロールであった。PEIに結合したコレステロールの量は、約47%であると決定された。PEACEのMALDI-TOFFマススペクトロメトリー解析では、その分子量は約2200であることが示された。期待された位置は2400であり、PEI 1800+コレステリルクロロホルメート449から1クロリド35が除かれている。これは、合成されたPEACE 1800は、いくつかは結合していないか、または2/1(コレステロール/PEI)のモル比で結合しているが、大多数はコレステロールとPEIのモル比が1/1であることを示唆する。
【0074】
実施例6 PEI 1800およびコレステリルクロロホルメートからなるリポポリマーの、第二アミン基を用いる合成
本実施例は、PEI 1800およびコレステリルクロロホルメートからなるリポポリマーの、PEIとコレステロールの結合のために第二アミン基を用いる調製を示す。
【0075】
50 mg PEI 1800を2 mlの無水メチレンクロリドに氷上で溶解した。次に、200μlのベンジルクロロホルメートを反応混合物にゆっくりと添加し、そして溶液を氷上で4時間攪拌した。攪拌に続いて、10 mlのメチレンクロリドを加え、そして溶液を15 mlの飽和NH4Clを用いて抽出した。硫酸マグネシウムを用いてメチレンクロリド相から水を除去した。減圧条件下、溶液の容量を減少させ、(-GBZ-保護PEIと呼ばれる)産物を、エチルエーテルを用いて沈殿させた。50 ミリグラムの第一アミンCBZ保護PEIを、メチレンクロリドに溶解し、10 mgのコレステロールクロロホルメートを加え、溶液を氷上で12時間攪拌した。産物(CBZ保護リポポリマー)をエチルエーテルで沈殿させ、アセトンで洗浄し、そして次に、水素ドナーとしてのH2のもと、触媒としてパラジウム活性炭素を含むDMFに溶解した。混合液を室温で15時間攪拌し、Celite(商標)で濾過し、そして溶液の容量をロータリーエバポレーターにより減少させた。エチルエーテルを用いた沈殿により最終産物を得た。
【0076】
実施例7 PEGスペーサーを介してPEIに結合したコレステロールの合成
本実施例は、NH2-PEG-COOH(分子量3400)をコレステロールとPEIとの間のスペーサーとして用いた、本発明のPEG化リポポリマーの合成を示す。
【0077】
500 mgのNH2-PEG-COOH 3400(0.15 mM)を5 ml無水クロロホルムに、室温で30分間溶解した。1 ml無水クロロホルム中676 mgのコレステロールクロロホルメート(1.5 mM)溶液を、PEG溶液にゆっくりと添加し、次にさらに4時間室温で攪拌した。混合物は、500 mlエチルエーテル中、氷上一時間沈殿させ、その後、非結合コレステロールを除くため、エチルエーテルで3回洗浄した。窒素パージにより乾燥した後、PEG上のカルボキシル基を酸性化するため、粉末を5 mlの0.05 N HClに溶解した。物質を凍結乾燥機により乾燥させた。100 mgのPEI 1800(0.056 mM)、50 mgのDCC、および50 mgのNHSを、5 mlのクロロホルム中に室温で溶解し、混合液を20分間攪拌し、次に1 mlのクロロホルム中380 mgのchol-PEG-COOH溶液をゆっくりとPEI溶液に添加した。室温で6時間攪拌した後、有機溶媒をロータリーエバポレーターにより除去した。残った物質を、10 mlの脱イオン水に溶解し、そしてFPLCにより、精製した。
【0078】
実施例8 グリコシル化PPCの合成
本実施例は、PPCと結合した、糖を基本とする標的化部分の合成を示す。
【0079】
PEG 500、PEI 1800、およびコレステロール(0.05 mM)からなる、200 mgのPPCを、DMFに溶解した8 mgのα-D-グルコピラノシル-フェニルイソチオシアネートを用いて、グリコシル化した。ガラクトシル化、マンノシル化、およびラクトシル化PPCを合成するため、α-D-ガラクトピラノシルフェニルイソチオシアネート、α-D-マンノピラノシルフェニルイソチオシアネート、およびα-D-ラクトピラノシルフェニルイソチオシアネートをそれぞれ用いた。溶液を1 M Na2CO3の添加により、pH 9に調整し、次に12時間室温でインキュベートした。グルコシル化PPCを5 mM NaClに対して、12時間毎に新鮮な脱イオン水に交換しながら、二日間透析した。結果の物質を、0.45μmのフィルター紙で濾過し、その後凍結乾燥した。
【0080】
実施例9 PPCが結合した葉酸の合成
本実施例は、PEI 1800、PEG 550、コレステリルクロロホルメート、および葉酸からなる、リポポリマーが結合した標的化部分の調製を示す。
【0081】
200 mgのPPCを、50 mgの1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)および50 mgのN-ヒドロキシサクシンアミド(NHS)を含む、5 mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した、10 mgの葉酸と結合させた。12時間攪拌した後、産物(葉酸-PPC)を100 mlエチルエーテル中で沈殿させ、次に室温で一時間おいた後、液体を慎重にデカントした。残った物質を10 mlの1 N HClに溶解した。溶液を、二日間、12時間毎に新鮮な脱イオン水に交換しながら、脱イオン水に対して透析した。溶液を、0.45μmフィルター紙で濾過し、その後、凍結乾燥した。
【0082】
実施例10 RGD結合PPCの合成
本実施例は、PEI 1800、PEG 550、コレステリルクロロホルメート、および標的化部分としてRGDペプチド、からなる、RGDペプチド結合リポポリマーの調製を示す。
【0083】
環状NH2-Cys-Arg-Gly-Asp-Met-Phe-Gly-Cys-CO-NH2を、一つのN末をもつRGDペプチドとして使用した。RGDペプチドを、F-moc化学を用いる固相ペプチド合成法を使用して、合成した。環状化は、pH 8.0、1 mM NH4OAc中、0.01 M K3[Fe(CN)6]を用い、一晩室温で行い、次にHPLCで精製を行った。1モルのRGDペプチドのN末アミン基は、2モルのDMSO中N-スクシンイミジル3(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)と反応し、そしてエチルエーテルにより沈殿させた(RGD-PDP)。200 mgのPPCを7 mgのDMSO中SPDPと、室温で2時間反応させた。結果の物質(PPC-PDP)を、0.1 M(-)1,4ジチオ-L-スレイトール(DTT)で処理し、続いてbio-spinカラムで分離した。RGD-PDPをDMFに溶解し、次にPPC-PDP溶液に加えた。12時間攪拌後、結果の物質(RGD-PPC)をFPLCにより精製した。結果の溶液を、脱イオン水に対して、2日間透析し、続いて、ロータリーエバポレーターを用いて容量を減少させた。最終産物を、凍結乾燥により得た。
【0084】
実施例11 プラスミドの増幅および精製
本実施例は、実施例1から10で調製されるリポポリマーと複合体を形成する、pDNAの調製を示す。
【0085】
プラスミドpCMV-ルシフェラーゼ(pCMV-Luc)は、レポーター遺伝子として、またpmIL-12(マウスインターロイキン-12またはmIL-12遺伝子をもつプラスミド)は治療用遺伝子として、使用した。mIL-12のp35およびp40サブユニットは、二つの独立した転写ユニットから発現し、内部リボソーム導入部位(IRES)により分けられ、そして一つのプラスミドpCAGGに挿入された。このベクターは、ハイブリッドサイトメガロウイルス誘導エンハンサー(CMV-IE)および、トリβ-アクチンプロモーターの制御下、mIL-12をコードしている。すべてのプラスミドは、E. coli DH5α株細胞で増幅し、次にQIAGEN EndoFree Plasmid Maxi Kit(Charsworth, CA)により、単離および精製した。プラスミドの純度、および完全性を、1%アガロースゲル電気泳動により確認し、続いて臭化エチジウムで染色した。pDNA濃度を、260 nmにおける、紫外線(UV)吸収により測定した。
【0086】
実施例12 リポソームの調製
本実施例では、リポソームが実施例1〜10由来である、リポポリマー/pDNA複合体の精製を示す。
【0087】
PPCを丸底フラスコ内で無水メチルアルコールに溶解し、そして中性脂質(例えば、コレステロール、DOPE)をモル比1/1、1/2、および2/1で加えた。混合物を約1時間、透明な溶液になるまで、室温で攪拌した。透明溶液を、丸底フラスコの表面に薄い半透明の脂質フィルムができるまで、30℃、60分間、ロータリーエバポレーターで回転させた。フラスコを、小さな穴を開けたパラフィルムで覆い、減圧条件下、一晩乾燥させた。フィルムを5 mlの滅菌水で水和させ、最終濃度5 mMのPPCを得た。水和したフィルムは、水中に分散させるため10〜20分間、室温で激しくボルテックスし、次に分散した物質を、超音波槽の中で、室温、30分間、超音波をかけて、さらに分散させた。分散した溶液を、大きいサイズの粒子を除去するため、450 nmフィルターで濾過し、続いて200 nmフィルターで濾過した。
【0088】
実施例13 水溶性PPC/pDNAおよび水不溶性PPC:DOPE/pDNA複合体の調製
本実施例は、水溶性PPC/pDNAおよび水不溶性PPC:DOPE/pDNA複合体の形成を示す。
【0089】
実施例11で調製された、水溶性PPCおよび水不溶性PPC:DOPEリポソーム、およびpDNAを、別々に5%ラクトースにて、各250μlの容量に希釈し、次にpDNA溶液を、緩やかにボルテックスしながら、リポソームに加えた。複合体形成は、室温にて30分間進行させた。効果的な遺伝子導入のための電荷比の作用を調べるため、水溶性PPC/pDNAおよびPPC:DOPEリポソーム/pDNA複合体を、N/P比5/1〜50/1(N/P)の範囲で調製した。複合体形成に続き、PPC:DOPE/pDNA複合体のオスモル濃度、およびpHを測定した。
【0090】
いくつかのN/P比で調合された、水溶性PPC/pDNAおよびPPC:DOPE/pDNA複合体を、複合体の粒子サイズ、およびζ電位を測定するため、キュベット中で5倍に希釈した。試料の電位泳動の泳動度は、37℃、pH 7.0、および677 nm波長で、15°の一定の角度で、ZetaPALS(Brookhaven Instruments Corp., Holtsville, NY)を用いて測定した。ゼータ電位は、Smoluchowskiの公式に基づいて電気泳動度より計算した。電気泳動度の決定に続いて、試料の平均粒子サイズ測定を行った。
【0091】
水溶性PPC/pDNA複合体の平均粒子サイズは、PPCの組成物の粒子サイズと同じ範囲の90〜120 nmであることが示された。全般的に、これらの複合体は、狭い粒子サイズ分布を有した。
【0092】
これらの複合体のゼータ電位は、20〜40 mVの範囲であり、そしてN/P比の増加に伴い、増加した(図5)。さらに、PPC/pDNA複合体の粒子サイズは、その直径において80〜120 nmの範囲内で均質であることが分かった。粒子サイズの分布は、N/P比の変化によっては、大きくは影響を受けなかった(図5)。
【0093】
実施例14 PPC/pDNA複合体確認のためのゲル遅滞アッセイ
本実施例は、ゲル遅滞アッセイによるPPCとpDNAとの間の複合体形成の確認を示す。
【0094】
簡潔には、オスモル濃度を290〜300 mOsmに調節するため、5%ラクトース(w/v)の存在下、N/P比10/1〜40/1での複合体形成能力を評価するため、様々な量のPPCをpDNAと複合体形成させた。複合体を1%アガロースゲルで電気泳動した。図4に示す通り、陽性電荷を帯びたPPCは、DNA糖鎖骨格上の陰性電荷を帯びたホスフェートイオンと強い複合体を形成する。N/P範囲が10/1〜40/1において、スクリーン上に検出された、検出される遊離DNAはなかった。
【0095】
実施例15 in vitroにおけるトランスフェクション
本実施例は、PPC/pDNA複合体による培養細胞への遺伝子トランスフェクションを示す。
【0096】
PPC/pCMV-Luc複合体を、293 Tヒト胚腎臓形質転換細胞株への、そのトランスフェクション効率の評価のため、5%(w/v)ラクトース中、異なるN/P比において製剤した。
【0097】
ルシフェラーゼ遺伝子の場合、293 T細胞は6ウェル組織培養プレートに4×105細胞/ウェル、10%FBSを含むRPMI1640培地中に播種した。PEI分子あたりPEG 0.2〜2.5モルの範囲のPPCを含む、異なるPEG比で調製した、水溶性PPC/pDNA複合体を用いて細胞をトランスフェクションした後、24時間以内に、細胞は80%のコンフルエントに達した。負荷するDNAの全量は、常に2.5μg/ウェルに維持し、トランスフェクションは、血清のない状態で実行した。細胞を複合体存在下、5時間、CO2インキュベーター内でインキュベートし、続いて、10% FBSを含むRPMI1640、2 mlで交換し、さらに36時間インキュベートした。冷PBSで洗浄後、細胞を1×溶解バッファー(Promega, Madison, WI)を用いて溶解した。全タンパク質アッセイは、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce Chemical Co, Rockford, IL))用いて行った。ルシフェラーゼ活性を96ウェルプレートルミノメーター(Dynex Technologies Inc, Chantilly, VA)を使用し、相対発光ユニット(RLU)によって、測定した。ルシフェラーゼの最終値は、RLU/mg全タンパク質により、報告した。そのままのDNA、および未処理培養物は、それぞれ、陽性、および陰性対照として用いられた。図6および7に示された通り、PPCのトランスフェクション効率は、PPC分子あたりのPEG量の増加により、減少した。しかしながら、in vivoにおいては、PEGの含有はトランスフェクション活性を増加させた(実施例16)。
【0098】
実施例16 PPC/DNA複合体の局所投与による、in vivoにおける遺伝子導入
本実施例は、PPC/pDNA複合体による、腫瘍の局所への投与後の、遺伝子発現を示す。
【0099】
その物理学的特性(例えば、粒子サイズ、および表面電荷)に依存して、PPC/pDNA複合体は、局所および全身性の遺伝子送達に用いられ得る。全身性投与による、末梢組織(例えば、肺、肝臓、脾臓、および末梢腫瘍)への遺伝子標的化のためには、トランスフェクション複合体は、血液循環において安定であり、かつ免疫システムによる認識から逃れなければならない。
【0100】
本実施例は、本発明の応用、固形腫瘍への局所遺伝子送達への遺伝子担体としてのPPCを示す。4T1乳がん細胞(1×106細胞)を、固形腫瘍を創るために、Balb/cマウスの側腹部に移植した。移植の7〜10日後、0.6:1〜18:1の範囲内の様々なPEIに対するPEGのモル比の、PEI-CholまたはPPCと複合体を形成した、30μl(6μg)のルシフェラーゼプラスミド(0.2 mg/ml)を、腫瘍に与えた。プラスミド/ポリマー複合体は、N/P比16.75で調製した。DNA注射の24時間後、腫瘍を回収し、ホモジナイズし、そして上清を、遺伝子導入の測定としてルシフェラーゼ活性について分析した。腫瘍遺伝子導入研究による結果は、図7に示す。PEGの添加は、PEI-Cholポリマーの活性を増加した。最大の遺伝子導入活性は、PEG:PEIモル比、約2:1において、達せられた。様々なPEG:PEIモル比でのPPCポリマーは、治療用遺伝子IL-12を用いてもまた、試験した。図8に示す通り、4T1腫瘍へのPPC IL-12遺伝子導入は、PEG:PEI比2〜3.5において達成された。
【0101】
実施例17 PPCリポソーム/DNA複合体の全身性投与による、in vivoにおける遺伝子導入
本実施例は、全身性遺伝子送達のための、PPCリポソームの応用を示す。
【0102】
コレステロールを伴うPPCリポソームは、実施例12に記述の通り調製し、そしてマウスへの尾静脈投与を目的として、ルシフェラーゼプラスミドと複合体を形成した。遺伝子注射の24時間後、肺を回収し、生理的バッファー中でホモジナイズした。肺組織上清の一部をルシフェラーゼの発現について解析した。対照およびPPCリポソーム/DNAを注射した動物における、ルシフェラーゼ活性は、図9に示した。中性脂質によるPPC活性の増強は、おそらくエンドソーム膜の不安定化が増加したことによる。別の実験において、静脈内注射に続く肺転移の阻害への、それらの活性を調べるため、PPCリポソームをIL-12と複合体を形成させた。腎がん細胞をBalb/cマウスに静脈内注射し、肺への転移を形成した。60μgのmIL-12プラスミドを含む、300μlのPPCリポソーム/pmIL-12複合体を、腫瘍移植後6日目と13日目に、尾静脈に注射した。動物を24日目に屠殺し、そして肺の腫瘍結節を数えた。図10は、IL-12プラスミド/PPCリポソーム複合体静脈内投与後の肺転移の大幅な阻害を示す。
【0103】
このように、教示された様々な態様の中で、それらの膜透過輸送の促進によるか、またはそれらの生物学的表面への接着の増強による、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、および薬、といった、生物活性剤の送達のため、新規カチオン性リポポリマーを含む組成物、およびそれらの使用の方法が開示された。ある明白な性質の様々な変更および修正が、本発明の精神から離れることはなくなされ得ること、またそのような全ての変更がおよび修正が、添付の請求項により定義されるように、本発明の範囲の中にあると見なされることは、当業者には、容易に明らかであろう。
【0104】
以上に言及した配合(arrangement)は、本発明の原則の応用の示唆のみであることは理解される。多数の修正および他の配合(arrangement)は、本発明の精神および範囲から離れることなく、考案され得る。本発明は、発明の最も実際的かつ好ましい態様であると現時点でみなされるものと関連して、特定および詳細に渡って、図面で示し、また全体に上に記述したが、当業者には、多数の修正が、請求の範囲で述べる通りの、本発明の原則および概念から離れることなく、なされ得ることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、脂質(コレステロール)および親水性ポリマー(PEG)がPEIバックボーンと共有結合している、PEG-PEI-コレステロール(PPC)のリポポリマーの調製のための合成スキームを示す。
【図2A】図2は、分岐鎖PEI 1800、コレステリルクロロホルメート、およびPEG 500(図2A)またはPEG 330(図2B)からなる、PEG-PEIコレステロールリポポリマーの1H NMRによる化学構造の決定を示す。
【図2B】図2は、分岐鎖PEI 1800、コレステリルクロロホルメート、およびPEG 500(図2A)またはPEG 330(図2B)からなる、PEG-PEIコレステロールリポポリマーの1H NMRによる化学構造の決定を示す。
【図3】図3は、直鎖状PEI 25000、PEG 1000、およびコレステロールクロロホルメートからなる、PEG-PEI-コレステロールリポポリマーの1HNMRによる化学構造の決定を示す。
【図4】図4は、多様なN/P比による、PEG-PEI-コレステロール(1:1:1比)/pDNA複合体の、ゲル遅延度アッセイを示すA:そのままのpDNA、B:WSLP2(N/P=20/1)、C:WSLP0331(N/P=20/1)、D:WSLP0405(N/P=20/1)、E:PPC(N/P=10/1)、F:PPC(N/P=15/1)、G:PPC(N/P=17/1)、H:PPC(20/1)、I:PPC(N/P=30/1)、J:PPC(40/1)、およびK:PPC(0.2モルのPEG、1モルのPEI、および1モルのコレステロールからなる)(N/P=20/1)。
【図5】図5は、多様なN/P比におけるPPC/pDNA複合体の物理化学的特性(ゼータ電位による表面電荷(左軸)、および粒子サイズ(右軸))を示す。
【図6】図6は、異なるPEIに対するPEG比(1〜2.5)でのPPC/pDNA複合体を用いたトランスフェクション後の、培養ヒト胚腎形質転換細胞(293 T細胞)へのルシフェラーゼ遺伝子の導入を示す。
【図7】図7は、多様なPEIに対するPEG比での、PPC/pCMV-Luc複合体を用いたトランスフェクション後の、皮下4T1腫瘍へのルシフェラーゼ遺伝子の導入を示す。
【図8】図8は、BALB/cマウスにおける、PPC/pDNA複合体の腫瘍内注射後の、皮下4T1腫瘍へのmIL-12遺伝子の導入を示す。
【図9】図9は、静脈内投与後の、PPCリポソーム/pDNA複合体による、マウス肺へのルシフェラーゼ遺伝子の導入を示す。
【図10】図10は、静脈内投与後の、PPCリポソーム/mIL-12 pDNA複合体による、マウス肺腫瘍の阻害を示す。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2002年2月25日に出願された係属中のアメリカ合衆国特許出願番号10/083,861の一部継続出願であり、またこの一部継続出願は2000年9月4日に出願された係属中のアメリカ合衆国特許出願番号09/662,511の一部継続出願である。
【0002】
発明の背景
発明の属する分野
本発明は、カチオン性リポポリマー、およびそれを調製する方法に、一般的に関連する。それは、ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、生体適合性親水性ポリマーを含む、生分解性カチオン性リポポリマーに特に関連し、1)脂質および生体適合性親水性ポリマーは、PEIバックボーンに対して直接結合しているか、あるいは2)脂質はPEIバックボーンに対して生体適合性親水性ポリマーを介して結合している。本発明のカチオン性リポポリマーは、核酸またはアニオン性因子の細胞内への送達において有用である。
【0003】
関連する技術
遺伝子治療は、遺伝子欠陥を伴う疾病の治療に対してだけでなく、がん、心血管疾患、および慢性関節リウマチといった慢性疾患の治療および予防に対する戦略の開発においても、一般的に有望なアプローチとみなされている。しかしながら、他の多価アニオン性物質と同様に、核酸は、特定のいくつかの酵素によって迅速に分解され、また水溶液中で送達される場合、細胞内への不十分な取り込みを示す。1950年代中頃の、核酸を組織または培養細胞へ送達する方法を同定するための初期の努力以来、in vitroとin vivoの両方における、機能的DNA、RNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドの送達の改善に向けて、着実な進歩がなされてきた。
【0004】
これまでに使用された遺伝子担体には、ウイルスシステム(レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、または単純ヘルペスウイルス)、または非ウイルスシステム(リポソーム、ポリマー、ペプチド、リン酸カルシウム沈殿、およびエレクトロポレーション)が含まれる。ウイルスベクターは非ウイルスベクターと比較した場合、高いトランスフェクション効率を有することを示しているが、それらのin vivoでの使用は、細胞分裂への依存、宿主ゲノムへのランダムDNA挿入のリスク、大きいサイズの治療用遺伝子の送達における低い能力、複製のリスク、および起こり得る宿主の免疫応答、といった、いくつもの欠点のため、厳しく制限されている。
【0005】
ウイルスベクターと比較すると、非ウイルスベクターは作成が容易であり、また免疫応答を起こしにくい。加えて、複製反応が必要とされない。カチオン性脂質またはポリカチオン性ポリマーのどちらかである、安全かつ効率的な非ウイルス遺伝子転移ベクターの開発に焦点をあて注目が高まってきている。DNAと相互作用して多価イオン性複合体を形成する、ポリ-L-リジン、ポリ-L-オルニチン、およびポリエチレンイミン(PEI)といったポリカチオン性ポリマーは、遺伝子送達において使用するために導入されてきた。様々なカチオン性脂質もまた、DNAとの脂質複合体(lipoplexes)を形成し、そして様々な真核細胞へのトランスフェクションを誘導することが示される。多数の異なるカチオン性脂質は商業的に入手可能であり、またいくつかは既に臨床場面において使用されている。脂質トランスフェクションのメカニズムは未だ明らかではないが、おそらく複合体上の過剰な陽性電荷を介したDNA/脂質複合体と細胞表面との結合、および形成されたエンドソームから細胞質へのDNAの放出に関与している。細胞表面に結合した複合体はおそらく細胞内に取り込まれ、そしてDNAは細胞内コンパートメントからその細胞の細胞質へ放出される。
【0006】
しかしながら、in vitroにおけるトランスフェクション技術をin vivoでの応用のために直接発展させることは不可能である。in vivo における使用に関して、N-[l-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、あるいは、リポフェクチン、といったジエーテル脂質の最大の欠点は、それらが生体において天然の代謝産物ではなく、そしてそのために生分解性ではないことである。それらはまた、細胞にとって有毒でもある。さらに、カチオン性脂質トランスフェクションは、血清中に存在する因子により阻害されることが報告されており、そしてそのために、それらは、in vivoでの細胞への遺伝子物質の導入においては非効率的な手段である。さらに、これらのカチオン性脂質はin vivoの遺伝子導入においてより効率が低いことが証明されている。
【0007】
理想的なトランスフェクション試薬は、細胞または組織への機械的または物理的な操作の必要性なく、高いレベルのトランスフェクション活性を示すべきである。その試薬は、効果的な用量において、毒性がないか、または最小限のであるべきである。処理細胞への長期の有害な副作用を回避するため、それはまた生分解性であるべきである。in vivoにおいて遺伝子担体が核酸の送達に使われる場合、遺伝子担体そのものに毒性がなく、そしてそれらは毒性のない産物へ分解されることが必須である。そのままの遺伝子担体の毒性およびその分解産物の毒性を最小限にするため、遺伝子担体の設計は天然に存在する代謝産物に基づく必要がある。
【0008】
Epandらのアメリカ合衆国特許5,283,185(以下、’185特許)は、適当な担体溶媒中、共脂質(co-lipid)を用いた、カチオン脂質、3'[N-(N',N”-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-コレステロール)の混合脂質溶液の調製を含む、細胞への核酸の導入を促進する手法を開示する。'185特許に開示される方法は、リポソーム懸濁液の調製におけるハロゲン化溶媒の使用に関与する。製薬の応用において、ハロゲン化溶媒の残留物は、導入された後、調製物から実質上除去され得ない。アメリカ合衆国特許5,753,262(以下、'262特許)は、in vitroでの効果的なトランスフェクションを生み出すため、脂質3'[N-(N',N”-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-コレステロール)の酸性塩、およびジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)またはジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)といったヘルパー脂質の使用を開示する。
【0009】
ミクロン以下のサイズであるため、ナノ粒子は界面での細胞内取り込みを増強し、そしてつまり真の意味において“局所の薬理学的な薬剤効果”を達成するとの仮説が立てられている。ナノ粒子中に含まれる薬剤の細胞内取り込みは、遊離した薬剤と比較すると(エンドサイトーシスのため)増強されるであろうとの仮説もまた立てられている。ナノ粒子は、がん治療における、治療薬の腫瘍局所化のため、(抗ウイルスまたは抗菌剤の)細胞内での標的化のための薬剤輸送システムとして、(寄生虫感染の)細網内皮系への標的化のための薬剤輸送システムとして、(経口および皮下経路による)免疫学的アジュバントとして、持続性の薬効を伴う眼内輸送について、および長期全身性薬剤治療について、研究されている。
【0010】
前述の観点において、生分解性であり、ナノ粒子、リポソーム、またはミセル形成可能であり、かつ免疫系を回避できる遺伝子担体の提供は高く評価されるだろう。そしてそのようにして安全で効果的な遺伝子輸送の提供が望まれている。本発明における新規カチオン性リポポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマーを含み、脂質はPEIバックボーンと直接結合するか、または疎水性ポリマーを介して共有結合し、その結果PEIの第一または第二アミン基に共有結合する。
【0011】
本発明のリポポリマーは、核酸または他のアニオン性生物活性分子、またはその両方の送達のための、カチオン性ミセル、またはカチオン性リポソームの調製のために有用であり、細胞内に取り込まれた後、容易に代謝的に分解可能である。
【0012】
発明の概要
核酸の送達のため、in vivoおよびin vitroの細胞毒性が低減された、生分解性カチオン性リポポリマーの開発は有利であることが認識されている。本発明のリポポリマーは、DNAおよびRNAといったポリヌクレオチドの、細胞内への安定的トランスフェクション、および一過性トランスフェクションの両方を、効果的に実行し得る。
【0013】
本発明のより詳細な観点によると、本発明のカチオン性リポポリマーは、ポリエチエンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマーを含み、ここで1)脂質および生体適合性親水性ポリマーはPEIバックボーンと直接結合している、または2)脂質は生体適合性親水性ポリマーを介してPEIバックボーンと結合している。PEIは、分岐鎖構造または直鎖構造のどちらかであり、100〜500,000ダルトンの範囲内の平均分子量を有する。PEI、親水性ポリマー、および脂質間の共有結合は、好ましくは、エステル、アミド、ウレタン、およびジチオール結合からなる群より選択される、構成員である。親水性ポリマーは、好ましくは50〜20,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)である。結合脂質に対するPEIのモル比は、好ましくは1:0.1〜1:500の範囲内である。本発明のカチオン性リポポリマーは、さらに、標的化部分を含み得る。
【0014】
本発明のカチオン性リポポリマーは、DOPEまたはコレステロールといった中性脂質とのその共調合(coformulation)に依存して、リポソームまたは水溶性ミセルとして調製され得る。例えば、中性脂質存在下では、リポポリマーは水に不溶性のリポソームを形成し、そして中性脂質の非存在下では、リポポリマーは水溶性のミセルを形成するだろう。
【0015】
本発明のカチオン性リポポリマーは、核酸を有する分離したナノメートルサイズの粒子を自発的に形成することができ、リポフェクチンおよびポリエチレンイミンを用いて慣例的に達成することができるよりも、より効率的な、哺乳動物細胞株への遺伝子トランスフェクションを促進し得る。本発明のリポポリマーは、動物細胞への取り込みの後に、容易に代謝的に分解され得る。本発明の生体適合性カチオン性リポポリマーおよび生分解性カチオン性リポポリマーは、哺乳動物細胞のトランスフェクションのための一般的な試薬として利用するために、また遺伝子治療のin vivoへの応用のために、改良された遺伝子担体を提供する。
【0016】
本発明はさらに、in vivo およびin vitroのトランスフェクションの両方にとって、最も効果的であるように、適当な電荷比(リポポリマーの陽性電荷/核酸の陰性電荷)において、選択された核酸と複合体を形成する、新規カチオン性リポポリマーを含む、トランスフェクション製剤を提供する。カチオン性リポポリマーおよび核酸のN/P(ポリマーに対する窒素原子/DNA上のホスフェート原子)比は、好ましくは500/1〜0.1/1の範囲内である。特に全身性送達向けには、N/P比は、好ましくは1/1〜100/1であり;局所送達向けには、N/P比は、好ましくは0.5/1〜50/1である。
【0017】
本発明はまた、in vivoおよびin vitroの両方において、核酸を哺乳動物細胞中へトランスフェクションする方法を提供する。その方法は、上述の通り、カチオン性リポポリマーまたはリポソーム:核酸複合体と、細胞とを接触させることを含む。一つの態様において、その方法はカチオン性リポポリマー/DNA複合体を、温血動物の局所へ送達するために用いる。特に好ましい態様において、その方法は、カチオン性リポポリマー/DNA複合体を温血動物の固形癌への局所投与を含む。もう一つの態様において、その方法は、カチオン性リポポリマーまたはリポソーム:核酸複合体の温血動物への全身性投与に用いる。好ましい態様において、そのトランスフェクション方法は、カチオン性リポポリマーまたはリポソーム:核酸複合体の温血動物への静脈内投与に用いる。特に好ましい態様において、その方法は水溶性リポポリマー/pDNA、リポポリマー:DOPEリポソーム/pDNA、またはリポポリマー:コレステロールリポソーム/pDNA複合体の温血動物へ静脈注射を含む。
【0018】
詳細な説明
図面に示された模範的な態様がここでは参照され、そして同様に記述するため、具体的な用語が本明細書中で用いられるだろう。それにも関わらず、本発明の範囲の限定をそれによって意図しないことは、理解されるであろう。当該技術分野における通常の知識を有し、この開示を理解する者に思い浮かぶ、本明細書中に示される本発明の特徴の変更やさらなる修正、および本明細書中に示される本発明の原理のさらなる応用は、本発明の範囲内と見なされるべきである。
【0019】
生物活性因子の送達のための、本組成および方法の開示および記述の前に、本発明は、本明細書中に開示される特定の構造、過程段階、および物質は多少変更し得るため、前記構造、過程段階、および物質には限定されないと、理解されるべきである。本発明の範囲は、付属の請求項、およびそれと同等のものによってのみ、限定されるので、本明細書中で使用される用語は、特定の態様を記述するためにのみ用いられ、かつ限定を意図するものではないこともまた、理解されるべきである。
【0020】
本明細書および付属の請求項において用いられる場合、単数形の“a”、“an”および“the”は、文脈が明らかに違うものを命じなければ、複数の指示対象を含むことに注意されなければならない。つまり、例えば、“結合(a bond)”を含むポリマーに対する言及は、二つもしくはそれ以上の前記結合に対する言及を含む。本発明を説明しおよび請求する際において、以下の専門用語は下に定める定義に従って用いられる。
【0021】
“トランスフェクションする”または“トランスフェクション”は、細胞の外側の環境から、特に細胞質および/または細胞核に関する、細胞の内側の環境へ核酸を輸送することを意味する。どのような特定の理論にも拘束されず、核酸は、一つまたはそれ以上のカチオン性脂質/核酸複合体の形で、または一つまたはそれ以上のカチオン性脂質/核酸複合体に包まれまたは接着した後、もしくは、それとともに運ばれて、細胞に送達されうる。特定のトランスフェクションの実例が、核酸を細胞核に送達する。核酸とは、DNA、およびRNA、合成のそれらと同様のものをも含む。前記核酸は、ミスセンス、アンチセンス、ナンセンス、ならびに、タンパク質を生産するヌクレオチド、オンオフのヌクレオチド、およびタンパク質、ペプチド、および核酸の産生を制御する、速度調節ヌクレオチドを含む。限定するものではないが、特に、それらは、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、tRNA、rRNA、ハイブリッド配列、または合成または半合成配列、および天然または人工由来のものであり得る。さらに、核酸は、サイズにおいて、オリゴヌクレオチドから染色体までにわたる、多様性をもち得る。これらの核酸は、ヒト、動物、植物、細菌、ウイルス、および類似したものに由来するものであり得る。それらは、当業者に既知のどのような技術によっても、入手可能である。
【0022】
本明細書中で使用される場合、“生物活性因子”または“薬剤”という言葉、もしくは、他の同様な言葉は、化学的なあるいは生物学的な物質または化合物を意味し、当該技術分野において以前より知られている方法および/または本発明中に示す方法による投与に適しており、それらは、望ましい生物学的または薬理学的効果を誘導する。これらの効果は、限定するものではないが、(1)生物への予防的効果を有し、また感染の防御といった、望ましくない生物学的効果を防ぐこと、(2)例えば、疾患の結果として起こる痛み、または炎症を緩和させるといった、疾患により起こる症状を緩和すること、および/または、(3)生物から、疾患を、緩和、減少、または完全に除去すること、を含み得る。効果は、局所麻酔効果を提供するというように、局所的である可能性もあり、また全身性でもあり得る。
【0023】
本明細書中で使用される場合、“効果的な量”とは、本発明のカチオン性リポポリマーと生分解性の複合体を形成するため、および核酸、またはアニオン性因子を細胞内に送達させるために十分な、核酸、および/または、アニオン性因子の量を意味する。
【0024】
本明細書中で使用される場合、“リポソーム”は、水性のコンパートメントを囲む、一つあるいは多数の層から構成される、微視的な小胞を意味する。
【0025】
本明細書中で使用される場合、“投与すること”および、同様の言葉は、組成物が標的細胞に結合し、そしてエンドサイトーシスにより取り込まれるところへと、全身的に循環可能であるように処置される、個体への組成物の送達を意味する。つまり、好ましくは、組成物は、一般的に、皮下注射、筋肉内注射、静脈注射、もしくは、腹腔内注射により、全身的に投与される。そのような使用のための注射可能物質は、液体の溶液、懸濁液として、または注射前に液体の溶液または懸濁液として調製するのに適する固体の形状で、あるいは、エマルジョンとして、のいずれかにおいて従来からの形態で調製され得る。適当な賦形剤とは、例えば、水、塩類溶液、デキストロース、グリセロール、エタノールなどを含み、またもし望まれれば、湿潤剤、または乳化剤、緩衝液などといった、少量の補助物質を添加し得る。
【0026】
遺伝子治療の成功への根本は、全身性の投与において安全で効果的である、遺伝子送達媒体の開発である。初期臨床試験において使用された、N[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)および3-β(N,N”-ジメチルアミノエタンカルバモイルコレステロール)(DC-Chol)、といった、カチオン性脂質の多くは、in vitroでは効果的な遺伝子導入を示すが、動物における遺伝子導入ではより低い効果を示した。Felgner PL et al. Lipofection: A highly efficient, lipid-mediated DNA transfection procedure. Proc Natl Acad Sci USA 84: 7413-7417 (1987);およびGao, X. and Huang L. (1991) A novel cationic liposome reagent for efficient transfection of mammalian cells. Biochem. Biophys. Res. Commun. 179: 280-285を参照のこと。
【0027】
カチオン性脂質の一般的な構造は、3つの部分をもつ:(i)リポソーム(またはミセル構造)の形成を助け、また細胞膜と相互作用する、疎水性脂質アンカー;(ii)リンカー基;および、(iii)プラスミドと相互作用し、その濃縮を引き起こす、正電荷を帯びた頭部。頭部に一つの第3アンモニウム基、または第4アンモニウム基をもつ、あるいは、ジアルキル脂質またはコレステロールアンカーと結合するプロトンをもちうるポリアミンを含む、多数の化合物が、様々なタイプの細胞へのトランスフェクションのために使われてきた。ポリアミン頭部の脂質アンカーとの関係における配位は、トランスフェクション効率に大きな影響を及ぼすことが示されている。スペルミンまたはスペルミジン頭部とコレステロール脂質との、第二アミンを介したカルバメート結合を介した結合は、T型のカチオン脂質を産生し、肺組織への非常に効果的な遺伝子導入を示した。逆に、スペルミンまたはスペルミジンと、コレステロールまたはジアルキル脂質との結合により形成される、直鎖ポリアミン脂質は、遺伝子導入においてより低い効果であった。
【0028】
プロトンをもちうる3つのアミンを頭部に含むカチオン性脂質は、プロトンをもちうるアミンを一つしか含まないDCコレステロールより、活性があることが示されている。プロトンをもちうるアミンの数に加えて、カチオン性頭部を有する疎水性脂質アンカーに架橋するリンカー基の選択もまた、遺伝子導入活性に影響を与えることが示された。カルバメートリンカーの、尿素、アミド、またはアミンへの置換は、トランスフェクション活性の相当の低下という結果になる。PEIは、その分子量と、電荷比率に依存する、遺伝子導入において高い効果を示している。しかしながら、高分子量のPEIは、細胞および組織に対して、非常に毒性をもつ。
【0029】
本発明のカチオン性リポポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマーを含み、脂質および親水性ポリマーはPEIバックボーンと共有結合している。場合により、脂質はPEIと親水性ポリマースペーサーを介して共有結合し得る。好ましくは、親水性ポリマーは、50〜20,000ダルトンの間の分子量をもつポリエチレングリコール(PEG)である。好ましくは、脂質はコレステロール、コレステロール誘導体、C12〜C18の脂肪酸、またはC12〜C18の脂肪酸誘導体である。本発明のリポポリマーは、一つまたはそれ以上の脂質および親水性ポリマーが、PEIバックボーンと結合する点において、特徴づけられる。
【0030】
図1は、本発明のリポポリマーの合成スキームを示す。合成過程の詳細は以下の通りである:1グラムの分岐鎖ポリエチレンイミン(PEI)1800 Da(0.56 mM)を、5 mlのクロロホルム中に溶解し、そして100 ml丸底フラスコに入れ、室温で20分間、攪拌した。380ミリグラムのコレステリルクロロホルメート(0.85 mM)および500 mgのポリ(エチレングリコール)(PEG)(分子量550 Da)(0.91mM)を、5 mlクロロホルムに溶解し、PEI溶液の入った丸底フラスコの上に置いた添加漏斗に移した。クロロホルム中、コレステリルクロロホルメートおよびPEGの混合物は、PEI溶液に5〜10分以上かけて、室温でゆっくりと添加され、そして次に、さらに4時間室温で攪拌した。ロータリーエバポレーターにより、反応混合液から溶媒を取り除いた後、残った粘着物を、20 mlのエチルアセテートに攪拌しながら溶解した。産物は、20 mlのn-ヘキサンをゆっくりと添加することにより溶媒から沈殿し、そして次に、液体を産物からデカントした。産物を20 mlのエチルアセテート/n-ヘキサン(1/1;v/v)混合液で2回洗浄した。液体をデカントした後、物質を窒素ガスで10〜15分パージすることにより乾燥させた。遊離塩基の形態では、空気と接触した際に容易に酸化されるので、アミン基の塩の形態で得るため、物質を10 mlの0.05 N HClに溶解した。水性溶液を0.2μmフィルター紙で濾過し、そして凍結乾燥をして、最終産物を得た。
【0031】
最終産物の同定(コレステロール、PEG、およびPEIの存在)は、1H-NMR(Varian Inc.,500 MHz, Palo, Alto, CA)によって確認された。NMRの結果は以下の通りである。:1H-NMR(500 MHz, クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H(a));δ〜0.85 ppm(コレステロール由来(CH3)2の6H);δ〜0.95 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜l.l0 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ0.70〜2.50 ppm(コレステロール由来のCH2-CH2およびCHCH2由来の4H);δ〜5.30 ppm(コレステロール由来=CH-由来の1H);δ2.50〜3.60 ppm(PEI由来のN-CH2-CH2-N由来176H(b));および、δ〜3.7 ppm(PEG由来のOCH2CH2-O由来23H(c))。それぞれの物質の代表的なピーク((a)、(b)、および(c)と記した)は、水素の数を分けることにより計算され、その後、化合比を計算した(図2A)。本実施例のモル比は、3.0モルのPEGと1.28モルのコレステロールが、PEI分子1モルに対して結合したことを示した。
【0032】
PPC合成の第二のアプローチは、PEG 250 Da、PEI 1800および、コレステリルクロロホルメートを使用して、図2Bに示す通り、1.0モルのPEI分子に対してPEG 0.85モル、およびコレステリルクロロホルメート0.9モルを伴う、PPCを得ることに関する。これは、広範囲の分子量のPEGが、PPC合成に使用され得ることを示す。
【0033】
別の結合アプローチでは、PPC合成のために直鎖ポリエチレンイミン(LPEI)が使用された。分岐鎖PEIは3つの異種のアミン(約25%が第一アミン、50%が第二アミン、25%が第三アミン)を有するが、直鎖状PEIは第二アミンのみからなる。そのため、コレステロール誘導体、およびPEGは直鎖状PEIの第二アミンに結合する。合成方法および分析方法の詳細は以下の通りである。500 mgのLPEI(分子量2500 Da)(0.02 mM)を、30 mlのクロロホルムに65℃で30分間、溶解した。5 mlクロロホルム中の40 mgのコレステリルクロロホルメート(0.09 mM)および200 mgのPEG(分子量1000 Da)(0.02 mM)を、PEI溶液に3〜10分かけて、ゆっくりと加えた。この溶液を65℃でさらに4時間攪拌した。溶媒をロータリーエバポレーターにより減圧下で取り除き、次に残った物質を15 mlのエチルエーテルで洗浄した。純粋な窒素により乾燥させた後、物質を10 mlの2.0 N HClと2 mlのトリフルオロ酢酸の混合液に溶解した。溶液は脱イオン水を用い、MWCO15000透析チューブを用いて、12時間毎に新鮮な水と交換しながら、48時間透析をした。溶液は凍結乾燥して、水を除去した。
【0034】
産物の組成を確認するため、最終産物を1H-NMR(Varian Inc.,500 MHz, Palo, Alto, CA)で分析した。試料は、NMR測定のため、重水に溶解した。NMRピークを、三つの化合物、コレステロール、PEG、およびPEIの存在の同定を実行することにより、分析した。NMRの結果は以下の通りである:1H-NMR(500 MHz、クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H);(PEI由来N-CH2-CH2-N由来の2340H);およびδ〜3.7 ppm(PEG由来OCH2CH2-O由来の91H)。各物質の代表的なピークは、水素の数で割り算により計算し、そして結合比を検討した。本実施例のモル比は、1モルのPEI分子に対して、12.0モルのPEGおよび5.0モルのコレステロールが結合していることを示した(図3)。
【0035】
新規リポポリマーの一例は、ポリ[N-ポリ(エチレングリコール)-エチレンイミン]-コ-ポリ(エチレンイミン)-コ-ポリ(N-コレステロール)である(以下“PPC”という)。PPCに含まれたPEIの遊離アミンは、適当なDNA濃縮のための、十分な陽性電荷を提供する。極性頭部と疎水性脂質との結合は、生分解可能ではあるが、生物学的環境において存続するのに十分な強度である。コレステロール脂質とポリエチレンイミンとの間のエステル結合は、リポポリマーの生分解性を提供し、また比較的低分子量のPEIが、リポポリマーの毒性を大きく減少させる。コレステロール由来の脂質は本発明において好まれるが、C12〜C18飽和または不飽和脂肪酸といった、他の脂質親和性部分もまた使用されうる。
【0036】
本発明の生分解性カチオン性リポポリマーは、核酸といった、ポリアニオン性化合物に、静電的に引きつけられる。本発明のカチオン性リポポリマーは、DNAを、例えばコンパクトな構造に濃縮する。投与において、これらカチオン性リポポリマーの前記複合体および核酸は、受容体を介するエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。さらに、リポポリマーの脂質親和性部分が、カチオン性両親媒性物質を細胞膜に挿入させ、そして細胞表面へ結合するカチオン性アミノ基へのアンカーとして働く。本発明のリポポリマーは、高い電荷を帯びた陽性基および親水基の両方をもち、それは、遺伝子および他の生物活性因子の送達において、細胞および組織への取り込みを大きく増強させる。
【0037】
生理学的条件における濃縮された核酸の不安定性は、その臨床使用に対する大きな障壁の一つである。in vivoにおける、濃縮された核酸の使用における他の主な限界は、血清タンパク質と相互作用をする濃縮された核酸の傾向であり、静脈内投与の後、不安定化、そして細網内皮細胞により迅速に除去される結果となる。カチオン性リポポリマーの適合性および可溶性は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)のような親水性生体適合性ポリマーと結合することにより、改善され得る。PEGは、結合した分子の免疫原性を阻害することが既知である、FDA承認ポリマーである。PEG添加は濃縮DNA粒子をPEGの“殻”で覆い、核酸を凝集に逆らって安定化させ、免疫システムによるカチオン性リポポリマーの認識を減少させ、そしてin vivo投与後のヌクレアーゼによるその分解を減速させる。
【0038】
PEIのアミン基はまた、スペーサー分子を介して標的化部分と結合し得る。リポポリマーと結合した標的化部分は、リポポリマー-核酸/薬剤複合体を特定の標的細胞との結合、さらに、前記細胞(腫瘍細胞、肝臓細胞、造血細胞など)への取り込みへと導く。標的化部分はまた、核酸/薬剤の送達がある望まれた細胞コンパートメント(ミトコンドリア、核など)へと導かれることを可能にする、細胞内標的エレメントであり得る。好ましい態様において、標的化部分はアミノ基と結合した糖部分であり得る。前記糖部分は、好ましくは、ガラクトース、グルコース、フコース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マンノース、セロビオース、トリオース、デキストロース、トレハロース、マルトース、ガラクトサミン、グルコサミン、ガラクツロン酸、グルクロン酸、およびグルコン酸、といった、単糖類またはオリゴ糖類である。好ましくは、標的化部分は、トランスフェリン、アシアロ糖タンパク質、抗体、抗体断片、低密度リポタンパク質、インターロイキン、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、幹細胞因子、エリスロポエチン、上皮成長因子(EGF)、インシュリン、アシアロオロソムコイド、マンノース-6-ホスフェート、マンノース、ルイスXおよびシアリルルイスX、N-アセチルラクトサミン、葉酸、ガラクトース、ラクトース、およびトロンボモジュリン、ポリミキシンBおよびヘマグルチニンHA2といった融合誘導因子(fusogenic agents)、ライソソーム指向性因子(lysosomotrophic agents)、および核局在化シグナル(NLS)からなる群から選択された分子である。
【0039】
カチオン性リポポリマーと、糖の酸誘導体の結合は、最も好ましい。本発明の好ましい態様において、ラクトビオン酸(4-O-αZD-ガラクトピラノシル-D-グルコン酸)は、リポポリマーと結合する。ラクトースのガラクトシル単位は、肝細胞上のガラクトース受容体との高い親和性および結合性のため、これらの細胞への便利な標的分子を提供する。
【0040】
本発明の利点は、粒子サイズおよび電荷密度を容易に制御できる、遺伝子担体を提供することである。in vivoにおいて、粒子サイズは、しばしばトランスフェクション効率、細胞毒性、および組織標的化を支配するため、粒子サイズの制御は遺伝子送達システムの最適化において重要である。一般的に、組織への効果的な浸透を可能にするため、遺伝子送達粒子のサイズは、細胞表面のクラスリン被覆ピットのサイズを超えるべきではない。本発明において、粒子サイズといった、リポポリマー/DNA複合体の物理化学的特性は、中性脂質とリポポリマーの調合によりおよび/またはPEG含有量を変化させることにより、変化し得る。
【0041】
本発明の好ましい態様において、カチオン性リポポリマーの組成および、組成成分の混合比に応じて、粒子サイズは約40〜400 nmの範囲であるだろう。異なるサイズの、粒子、ナノ粒子、およびマイクロ粒子は、注射の際、粒子サイズに応じて、生体の異なる器官に集積することが知られている。例えば、直径150 nm未満の粒子は、肝臓内皮の類洞開窓(sinusoidal fenestration)を通り抜けることが可能であり、脾臓、骨髄、および可能であれば腫瘍組織に局在し得る。直径約0.1〜2.0μmの粒子の静脈注射、動脈内注射、または腹腔内注射では、細網内皮系のマクロファージにより、血流からの粒子の急速な除去が導かれる。本発明の新規カチオン性リポポリマーは、本明細書中に記述の方法において、器官を標的としうる、制御された粒子サイズの分散剤を製造するために使用され得る。
【0042】
ここで請求項に記載される組成物は、選択された核酸を肝細胞へ、細胞表面の低密度リポタンパク質(LDL)受容体を介したエンドサイトーシスによる送達に際して効果的であると信じられている。他の細胞への核酸の導入は、その選択された受容体をもつ細胞を、選択された標的化部分と適合させることにより、実行され得る。例えば、本発明の糖鎖が結合したカチオン性脂質は、マクロファージへのトランスフェクションにはマンノースから、T細胞へのトランスフェクションにはN-アセチルラクトサミンから、また結腸がん細胞へのトランスフェクションにはガラクトースから、調製され得る。
【0043】
本発明の一つの例は、ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマーであり、脂質、および親水性ポリマーは、PEIバックボーンと直接共有結合するか、あるいは、ある脂質は、親水性ポリマースペーサーを介して、PEIと結合し得る。PEIは分岐鎖構造であっても、または直鎖構造であってもよい。好ましくは、PEIの平均分子量は100〜500,000ダルトンの範囲内である。PEIは好ましくは脂質および親水性ポリマーと、エステル、アミド、ウレタン、またはジチオール結合を介して、結合している。生体適合性親水性ポリマーは、好ましくは、50〜20,000ダルトンの間の分子量を有する、ポリエチレングリコール(PEG)である。本発明のカチオン性リポポリマーは、さらに、標的化部分を含みうる。結合する脂質に対するPEIのモル比は、このましくは1:0.1〜1:500の範囲内である。一方、結合するPEGに対するPEIのモル比は、好ましくは1:0.1〜1:50の範囲内である。
【0044】
本発明の水溶性カチオン性リポポリマーは、水に分散可能、かつカチオン性ミセルを形成し、またそのため、高温、または極端なpHを使用することなく、薬剤の持続放出製剤を製造し、そして製剤化の過程で、薬剤を有機溶剤にさらすことなくポリペプチドおよびオリゴヌクレオチドといった水溶性薬剤を製造するために用いられる。前記生分解性カチオン性リポポリマーは、持続的連続的放出、注射可能な薬剤の製剤の製造のためにもまた、有用である。それらは、非常に効果的に分散する薬剤として働くことが可能であり、また脂質親和性薬剤の持続放出を与える注射による投与をされ得る。
【0045】
さらに、本発明のリポポリマーは、単一で、またはカチオン性リポソーム製剤の形で、ヘルパー脂質との混合物として、ヒトまたは動物の体の特定の器官への遺伝子送達のために、使用可能である。中性へルパー脂質の使用は、N/P比(ポリマー上のアミン原子/DNA上のホスフェート原子)が低い場合、特に好都合である。好ましくは、前記ヘルパー脂質は、コレステロール、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、オレオイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジフィタノイルホスファチジルエタノールアミン(ジフィタノイルPE)、ジステロイル-、-パルミトイル-、および-ミリストイルホスファチジルエタノールアミン、およびその1-〜3-倍N-メチル化誘導体からなる群より選択された分子である。好ましくは、ヘルパー脂質に対するリポポリマーのモル比は、0.1/1〜500/1の範囲内であり、好ましくは0.5/1〜4/1、より好ましくは、1/1〜2/1の範囲内である。本組成物のトランスフェクション効率を最適化するには、賦形剤として水を、またヘルパー脂質としてジフィタノイルPEを使用することが好ましい。さらに、N/P比は、好ましくは、500/1〜0.1/1、特に全身性の送達には100/1〜1/1、そして局所への送達には50/1〜0.5/1の範囲内である。この比は、当業者により、使用されるポリマー(図4)、アジュバントの存在、核酸、標的細胞、および使用される投与の様式に従って、変化され得る。
【0046】
リポソームは、他の手順によるトランスフェクションに通常抵抗を示す、多くの細胞種へのトランスフェクションに対して成功して用いられてきた。リポソームは、遺伝子、薬剤、放射性療法剤、酵素、ウイルス、転写因子、およびアロステリックエフェクターの、様々な培養細胞株および動物への、効果的な導入に使用されてきた。さらに、複数の研究では、リポソームの使用は、自己免疫応答、毒性、または全身性送達後の生殖腺への局在と、関連しないことを示している。Nabel et al. Gene transfer in vivo with DNA-liposome complexes, Human Gene Ther. , 3: 649-656, 1992bを参照のこと。
【0047】
カチオン性リポソームおよびミセルは、核酸以外の物質の細胞内送達に有用であることが既知であるため、本発明のカチオン性リポポリマーにより形成されるカチオン性リポソームおよびミセルは、タンパク質、様々な薬理学的薬剤または生物活性因子といった、核酸以外の物質の細胞送達に対して使用され得る。本発明はそのため、治療が細胞内への物質輸送に関与する限り、様々な病状の治療の方法を提供する。特に、以下の病状の治療は、本発明の範囲内に含まれる:がん、感染性疾患、炎症疾患、および遺伝性遺伝子疾患。
【0048】
送達される生物活性因子の、細胞への結合、および取り込みの改善を示す、本発明のカチオン性リポポリマーは、上述した通り、既知のカチオン性脂質と関連する問題を、克服することに関する。例えば、本発明の生分解性カチオン性リポポリマーは、容易に加水分解され、そして分解産物は腎臓からの排出に供される、低分子で毒性のない分子であり、そして遺伝子発現に必要とされる期間中は不活性である。分解は、単純な加水分解反応、および/または、酵素反応による。酵素的分解には、ライソゾームといった特定のオルガネラが重要となり得る。分解に必要とされる時間は、分子量、およびカチオン性脂質になされた修飾に依存して、数日から数ヶ月へと多様であり得る。
【0049】
さらに、ナノ粒子、またはマイクロ粒子複合体は、本発明のカチオン性脂質、および核酸または負電荷を帯びた他の生物活性因子を単純に混合することにより、形成され得る。本発明のカチオン性リポポリマーの脂質親和性基(コレステロール誘導体)は、細胞の膜内へカチオン性両親媒性物質を挿入させる。それは細胞表面へ結合するためのカチオン性アミン基のためのアンカーとして働き、カチオン性担体/核酸複合体の、トランスフェクションされる細胞による取り込みを促進する。そのため、本発明のカチオン性遺伝子担体は、in vivoおよびin vitroの両方において、改善されたトランスフェクション効率を提供する。
【0050】
好ましくは、コレステロール部分は、親水性ポリマースペーサーを介して結合するか、または直接PEI上に結合する、脂質親和性部分として使用され、そのイオン化された第一アミノ基のため、水性環境においては親水性頭部として働く。親水性表面基として、中性電荷を帯びたPEGは、疎水性脂質と水性環境における親水性頭部を形成した、安定したミセル複合体を維持することができ、赤血球および血漿蛋白に対してPPC/pDNA複合体を保護する効果を提供する。さらに、親水性中性ポリマーは、血流中におけるDNAの安定性の増強に不可欠である。一方、脂質部分は、特異的な受容体を介する細胞取り込み機構による、DNA複合体の細胞取り込みを促進するのに使用され得る。細胞への取り込みは、疎水性脂質基と細胞膜との間の好都合な相互作用により増強される。
【0051】
さらに、PEGといった、中性電荷を帯びた親水性ポリマーは、効率的なトランスフェクションにおいて、細胞毒性の減少、水溶液中での溶解性の改善、リポポリマーとDNAとの間の複合体の安定化の増強、および複合体と血中蛋白との相互作用の阻害といった、多くの利点を提供する。さらに、PEGは、複合体が局所に注射された場合、複合体と細胞膜との相互作用を防ぎ得る。そのため、局所領域に投与された後、容易に捕捉されることなく、複合体は細胞間を十分に分布できる。
【0052】
本発明の水溶性リポポリマーは、ミセルを形成し、そして(PEIといった)親水性基と、(コレステロールまたは脂肪酸鎖といった)疎水性基の間の微妙なバランスの維持を助け、一方では、血流中においてDNA/リポポリマー複合体を安定化し、その結果、トランスフェクション効率を改善する。さらに、水溶性リポポリマーは、肝細胞または固形腫瘍への核酸の送達に適した、小さいサイズ(40〜150 nm)のDNA粒子を形成する(図5)。さらに、PPC/pDNA複合体の表面電荷は、図5に示すN/P比によると20〜40 mVの範囲内であった。陽性電荷を帯びた粒子は、陰性電荷を帯びた細胞表面と容易に相互作用し得る。しかしながら、複合体上の正味の陽性電荷に関わらず、PEG鎖の含有は、ポリマー/DNA複合体と、細胞膜との相互作用を減少させ、それにより、PEIに対するPEGのモル比の増加に従い、in vitroにおけるより低いトランスフェクション活性を生じる。しかしながら、PEGの存在は、生物学的環境においてDNAの安定性を改善し、PPCのトランスフェクション効率においては、全体的に亢進をもたらす。図6に示す通り、培養293 T細胞のルシフェラーゼ活性は、PEG/PEI比の増加に従い、大幅に減少した。しかしながら、皮下腫瘍において、ルシフェラーゼ活性は、PEG/PEI比の増加に従い、増加した(図7)。PPCのin vivoにおけるトランスフェクション活性の増加は、生物学的環境におけるPPC/Luc複合体の安定性の増加、および体内分布によるであろう。
【0053】
PPC/pmIL-12複合体のトランスフェクション後の分泌されたmIL-12のレベルは、結合比1.0、2.0、2.5、3.5、および4.2の中で、各PPCに複合体化された3.5のPEGにおいて、最も高いレベルを示した(図8)。図7のルシフェラーゼ活性とmIL-12の結果を比較すると、pDNAの発現レベルはpDNAのタイプとは関連はなく、遺伝子担体としてのPPCに対するPEG比と関連があったと評価されるだろう。
【0054】
PPC/pDNA複合体を含む組成物の効果的な量は、所定の数およびタイプのトランスフェクション細胞に使用される、核酸のタイプおよび濃度に依存する。4T1皮下腫瘍をもつBALB/cマウスにPPC/pmIL-12複合体の腫瘍内注射後に分泌されたmIL-12レベルは、1.0モルのPEIおよび1.0モルのコレステロールと結合した3.5モルのPEGを用いたPPCから複合体を作成した場合、高いレベルを示した(図8)。PEG、PEI、およびコレステロール組成成分からなる水溶性リポポリマーは、全身性投与および局所投与の後に、細胞および組織に対する毒性が最小限であることが示された。PPCおよびPPC/pDNA複合体は、培養CT-26結腸がん細胞、293 Tヒト胚腎臓細胞、およびマウスJurkat T細胞株に対して、より高い電荷比においても、毒性がなく、一方、PEI 2500およびLipofectAMINEに基づく製剤の両方においては、これらの細胞に対してかなりの毒性を示した。
【0055】
PPCリポソームは200〜400 nmのDNA粒子を形成し、全身性投与後の肺への核酸送達に適している。図9に示す通り、PPCリポソーム/ルシフェラーゼプラスミド複合体は、全身性投与後、PPCの非リポソーム製剤より肺へのトランスフェクションを5〜10倍上昇させた。PPCリポソームのトランスフェクション効率は、マウス肺転移モデルで腫瘍結節の増殖を阻害するための、治療レベルのIL-12を産生するのに十分であった(図10)。コレステロールまたはDOPEに対する、カチオン性リポポリマーのモル比は、リポ-粒子の相転移、およびリポポリマー:中性脂質/pDNA複合体の表面化学に影響する。これは、核酸の取り込み、細胞内での分解、および輸送に影響し、そしてつまり、遺伝子発現の効率に影響する。リポポリマーと中性脂質との間の最適な比は、標的化部位に依存し、1:1〜1:2の範囲である事が見いだされた。
【0056】
以下の実施例は、当業者が、本発明の実施法をより明確に理解することを可能とするだろう。本発明が、その好ましい具体的な態様と組み合わせて記述されており、以下は本発明を説明することを意図するもので、発明の範囲を限定しないことは、理解されるべきである。本発明の他の観点は、発明の属する分野の当業者には明らかであろう。
【0057】
以下は、実験に用いられた全ての化学物質および試薬の出所の一般的な開示である。
【0058】
600、1200、および1800 Daの分岐鎖ポリエチレンイミン(PEI)、1000 Da、および直鎖状PEI 25000 Daは、Polysciences, Inc(Warrington, PN)より購入した。直鎖状PEI 400、分岐鎖PEI 800、および25000 Da、およびコレステリルクロロホルメートは、Aldricn, Inc.(Milwaukee, WI)より購入した;メチル-PEG-NHS 3400 Da、メチル-PEG-NHS 1,000 Da、およびNH2-PEG-COOH 3400 Daは、Nectar, Inc. (Huntsville, AL)より購入した。メチル-PEG-NHS 330、メチル-PEG-NHS 650、およびアミノdPEG4TM酸は、Quanta Biodesign, Inc.(Powell, OH)より購入した。2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)は、Avanti Polar Lipids(Alabaster, AL)より購入した。無水クロロホルム、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチルアセテート、およびアセトンは、Sigma(St. Louis, MO)より購入した。
【実施例】
【0059】
実施例1 PEG 550、分岐鎖PEI 1800、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの合成
この実施例は、PEG 550、分岐鎖PEI 1800、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの調製を示す。
【0060】
1グラムの分岐鎖ポリエチレンイミン(PEI)1800 Da(0.56 mM)を、5 mlのクロロホルム中に溶解し、そして100 ml丸底フラスコに入れ、室温で20分間、攪拌した。380ミリグラムのコレステリルクロロホルメート(0.84 mM)および500 mgのポリ(エチレングリコール)(PEG)(分子量550 Da)(0.91 mM)を、5 mlクロロホルムに溶解し、次にPEI溶液の入った丸底フラスコの上に置いた添加漏斗に移した。クロロホルム中コレステリルクロロホルメートおよびPEGの混合物を、PEI溶液に、5〜10分かけて、室温でゆっくりと添加した。溶液は、さらに4時間室温で攪拌した。ロータリーエバポレーターにより溶媒を取り除いた後、残った粘着物質を、20 mlのエチルアセテートに攪拌しながら溶解した。産物は、20 mlのn-ヘキサンをゆっくりと添加することにより溶媒から沈殿し、そして液体を産物からデカントした。産物を20 mlのエチルアセテート/n-ヘキサン(1/1;v/v)混合液で2回洗浄した。液体をデカントした後、物質を窒素ガスで10〜15分パージすることにより乾燥させた。物質は、10 mlの0.05 N HClに溶解して、アミン基の塩の形態で調製した。水性溶液を0.2μmフィルター紙で濾過した。最終産物は、凍結乾燥により得た。
【0061】
確認のため、産物を、1H-NMR(Varian Inc.,500 MHz, Palo, Alto, CA)により分析した。試料はNMR測定のため、クロロホルム-dに溶解した。NMRピークは、コレステロール、PEG、およびPEIの、三つの組成成分の存在の評価を行うことにより、分析した。NMRの結果は以下の通りである:1H-NMR(500 MHz, クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜0.85 ppm(コレステロール由来(CH3)2の6H);δ〜0.95 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜l.l0 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ0.70〜2.50 ppm(コレステロール由来のCH2-CH2およびCHCH2由来の4H);δ〜5.30 ppm(コレステロール由来=CH-由来の1H);δ2.50〜3.60 ppm(PEI由来のN-CH2-CH2-N由来176H);および、δ〜3.7 ppm(PEG由来のOCH2CH2-O由来23H)。それぞれの物質の代表的なピークは、水素の数で割ることにより計算し、その後、結合比を検討した。本実施例のモル比は、3.0モルのPEGと1.28モルのコレステロールが、PEI分子1モルに対して結合したことを示した。
【0062】
実施例2 PEG 330、分岐鎖PEI 1800、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの合成
この実施例は、PEG 330、分岐鎖PEI 1800、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの調製を示す。
【0063】
180ミリグラムの分岐鎖PEI 1800(0.1 mM)を、室温で30分間、4 mlのクロロホルメートに溶解した。70ミリグラムのコレステリルクロロホルメート(0.14 mM)および48 mgのPEG 330(0.14 mM)を、1 mlクロロホルメートに溶解し、次にPEI溶液に、3〜10分かけて、シリンジを用いて、ゆっくりと添加した。混合物を、室温で4時間攪拌した。沈殿させるため、エチルアセテート10 mlを添加した後、溶液を-20℃で一晩インキュベートし、その次に液体をフラスコからデカントした。残った物質を、5 mlのエチルアセテート/n-ヘキサン(1/1;v/v)混合液で2回洗浄した。残った物質を、窒素ガスで10〜15分パージすることにより乾燥させ、10 mlの0.05 N HClに20分間溶解して、その後、溶液を0.2μmシリンジフィルターで濾過した。水溶液は、冷凍乾燥により凍結乾燥し、ポリマーから水を除去した。
【0064】
確認のため、産物を、1H-NMR(Varian Inc.,500 MHz, Palo, Alto, CA)により分析した。試料はNMR測定のため、クロロホルム-dに溶解した。NMRピークは、コレステロール、PEG、およびPEIの、三つの組成成分の存在の評価を行うことにより、分析した。NMRの結果は以下の通りである:1H-NMR(500 MHz, クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜0.85 ppm(コレステロール由来(CH3)2の6H);δ〜0.95 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ〜l.l0 ppm(コレステロール由来CH3の3H);δ0.70〜2.50 ppm(コレステロール由来のCH2-CH2およびCHCH2由来の4H);δ〜5.30 ppm(コレステロール由来=CH-由来の1H);δ2.50〜3.60 ppm(PEI由来のN-CH2-CH2-N由来176H);および、δ〜3.7 ppm(PEG由来のOCH2CH2-O由来12H)。それぞれの物質の代表的なピークは、水素の数で割ることにより計算し、その後、結合比を検討した。本実施例のモル比は、0.85モルのPEGと0.9モルのコレステロールが、PEI分子1モルに対して結合したことを示した。
【0065】
実施例3 PEG 1000、直鎖PEI 25000、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの合成
この実施例は、PEG 1000、直鎖PEI 25000、およびコレステリルクロロホルメートからなる、PPCの調製を示す。
【0066】
500ミリグラムの直鎖PEI 25000 Da(0.02 mM)を、30 mlに、65℃で30分間、溶解した。三頸フラスコに濃縮添加漏斗を装着した。5 mlクロロホルム中200 mg mPEG-NHS 1000(0.2 mM)と40 mgコレステリルクロロホルメート(0.08 mM)の混合物を、PEI溶液に、3〜10分かけて、ゆっくりと添加した。溶液を、さらに4時間、65℃で常時攪拌し、その後、ロータリーエバポレーターで、容量を約5 mlに減少させた。遊離コレステロールを除去するため、溶液を50 mlのエチルエーテルで沈殿させ、液体をフラスコからデカントし、残った物質を、20 mlのエチルエーテルで2回洗浄した。純粋な窒素で乾燥後、物質を10 mlの2.0 N HClと2 mlのトリフルオロ酢酸の混合物に溶解した。溶液を、MWCO 15000透析チューブを用いて、12時間毎に新鮮な水に交換しながら、48時間、脱イオン水に対して透析した。溶液を凍結乾燥し水分を除去した。
【0067】
試料はNMR測定のため、重水に溶解した。NMRピークは、コレステロール、PEG、およびPEIの、三つの組成成分の存在の評価を行うことにより、分析した。NMRの結果は以下の通りである:1H-NMR(500 MHz, クロロホルム-dl)δ〜0.65 ppm(コレステロール由来CH3の3H);(PEI由来のN-CH2-CH2-N由来2340H);および、δ〜3.7 ppm(PEG由来のOCH2CH2-O由来91H)。それぞれの物質の代表的なピークは、水素の数で割ることにより計算し、その後、結合比を考慮した。本実施例のモル比は、12.0モルのPEGと5.0モルのコレステロールが、PEI分子1モルに対して結合したことを示した。
【0068】
実施例4 PEI 1800および、コレステリルクロロホルメートからなる、水不溶性リポポリマーの合成
本実施例は、水不溶性リポポリマーの調製を示す。
【0069】
1グラムのPEI(分子量1200ダルトン)を、15 ml無水メチレンクロリドおよび100μlトリエチルアミン(TEA)の混合液に溶解した。氷上で30分間攪拌した後、1.2 gのコレステリルクロロホルメート溶液をゆっくりとPEI溶液に加え、そしてその混合液を一晩、氷上で攪拌した。結果の産物は、エチルエーテルを加えて沈殿させ、続いて、遠心し、次にさらにエチルエーテルおよびアセトンを用い、洗浄した。水不溶性リポポリマーを、最終濃度0.08 g/mlとなるようにクロロホルムに溶解した。合成および精製に続いて、水不溶性リポポリマーを、MALDI-TOFF MSおよび1H-NMRを用いて評価した。
【0070】
水不溶性リポポリマー1200のNMR測定は、以下の結果を示した。:1H-NMR(200 M Hz, CDCl3)、δ0.6(コレステロール由来CH3の3H);δ2.5(PEIバックボーン由来-NHCH2CH2-由来230H);δ3.1(PEI側鎖由来=NCH2CH2-NH2の72H);δ5.3(コレステロール由来=C=CH-C-の1H)。δ0.8〜δ1.9に現れる他のピークは、コレステロールであった。PEIに結合したコレステロールの量は、約40%であると決定された。水不溶性リポポリマーのMALDI-TOFマススペクトロメトリー解析は、その分子量が約1600であることを示した。800〜2700にピークが現れ、そしてピークの大半は約1600であり、このことは、1200 DaのPEIおよび414のコレステロール(クロリドの除去)が合成に使われたためであると予想される。これは、いくつかは結合していないか、もしくは、モル比2/1(コレステロール/PEI)かのどちらかであるが、合成されたPEACE 1200の大半が、コレステロールとPEIのモル比が1/1であることを示唆する。
【0071】
実施例5 PEI 1800およびコレステリルクロロホルメートからなる水溶性リポポリマーの、第一アミン基を用いる合成
本実施例は、PEI 1800およびコレステリルクロロホルメートからなる、水溶性リポポリマーの調製を示す。
【0072】
3グラムのPEI(分子量1800ダルトン)を、10 mlの無水エチレンクロリドおよび100μlのトリエチルアミンの混合液中、氷上で30分攪拌した。1グラムのコレステリルクロロホルメートを5 mlの無水氷冷メチレンクロリドに溶解し、その後、PEI溶液に30分以上かけてゆっくりと添加した。混合物を12時間氷上で攪拌し、結果産物をロータリーエバポレーターで乾燥した。粉末を50 mlの0.1 N HClに溶解した。水溶液を、100 mlのメチレンクロリドを用いて3回抽出し、その後、ガラスマイクロファイバーフィルターで濾過した。産物は、溶媒を蒸発させることにより濃縮し、過剰量のアセトンで沈殿させ、そして減圧条件下、乾燥させた。産物をMALDI-TOFマススペクトロフォトメトリーおよび、1H-NMRを用いて分析した。産物はその後、使用されるまで-20℃で保存した。
【0073】
水溶性リポポリマー1800のNMR結果は以下の通りである:1H NMR(500 Mhz, D2O+1,4-ジオキサン-d6)、δ0.8(コレステロール由来CH3の2.9H);δ2.7(PEIバックボーン由来-NHCH2CH2-の59.6H);δ3.2(PEI側鎖由来=N-CH2CH2-NH2の80.8H);δ5.4(コレステロール由来=C=CH-C-の0.4H)。δ0.8〜δ1.9に現れる他のピークは、コレステロールであった。PEIに結合したコレステロールの量は、約47%であると決定された。PEACEのMALDI-TOFFマススペクトロメトリー解析では、その分子量は約2200であることが示された。期待された位置は2400であり、PEI 1800+コレステリルクロロホルメート449から1クロリド35が除かれている。これは、合成されたPEACE 1800は、いくつかは結合していないか、または2/1(コレステロール/PEI)のモル比で結合しているが、大多数はコレステロールとPEIのモル比が1/1であることを示唆する。
【0074】
実施例6 PEI 1800およびコレステリルクロロホルメートからなるリポポリマーの、第二アミン基を用いる合成
本実施例は、PEI 1800およびコレステリルクロロホルメートからなるリポポリマーの、PEIとコレステロールの結合のために第二アミン基を用いる調製を示す。
【0075】
50 mg PEI 1800を2 mlの無水メチレンクロリドに氷上で溶解した。次に、200μlのベンジルクロロホルメートを反応混合物にゆっくりと添加し、そして溶液を氷上で4時間攪拌した。攪拌に続いて、10 mlのメチレンクロリドを加え、そして溶液を15 mlの飽和NH4Clを用いて抽出した。硫酸マグネシウムを用いてメチレンクロリド相から水を除去した。減圧条件下、溶液の容量を減少させ、(-GBZ-保護PEIと呼ばれる)産物を、エチルエーテルを用いて沈殿させた。50 ミリグラムの第一アミンCBZ保護PEIを、メチレンクロリドに溶解し、10 mgのコレステロールクロロホルメートを加え、溶液を氷上で12時間攪拌した。産物(CBZ保護リポポリマー)をエチルエーテルで沈殿させ、アセトンで洗浄し、そして次に、水素ドナーとしてのH2のもと、触媒としてパラジウム活性炭素を含むDMFに溶解した。混合液を室温で15時間攪拌し、Celite(商標)で濾過し、そして溶液の容量をロータリーエバポレーターにより減少させた。エチルエーテルを用いた沈殿により最終産物を得た。
【0076】
実施例7 PEGスペーサーを介してPEIに結合したコレステロールの合成
本実施例は、NH2-PEG-COOH(分子量3400)をコレステロールとPEIとの間のスペーサーとして用いた、本発明のPEG化リポポリマーの合成を示す。
【0077】
500 mgのNH2-PEG-COOH 3400(0.15 mM)を5 ml無水クロロホルムに、室温で30分間溶解した。1 ml無水クロロホルム中676 mgのコレステロールクロロホルメート(1.5 mM)溶液を、PEG溶液にゆっくりと添加し、次にさらに4時間室温で攪拌した。混合物は、500 mlエチルエーテル中、氷上一時間沈殿させ、その後、非結合コレステロールを除くため、エチルエーテルで3回洗浄した。窒素パージにより乾燥した後、PEG上のカルボキシル基を酸性化するため、粉末を5 mlの0.05 N HClに溶解した。物質を凍結乾燥機により乾燥させた。100 mgのPEI 1800(0.056 mM)、50 mgのDCC、および50 mgのNHSを、5 mlのクロロホルム中に室温で溶解し、混合液を20分間攪拌し、次に1 mlのクロロホルム中380 mgのchol-PEG-COOH溶液をゆっくりとPEI溶液に添加した。室温で6時間攪拌した後、有機溶媒をロータリーエバポレーターにより除去した。残った物質を、10 mlの脱イオン水に溶解し、そしてFPLCにより、精製した。
【0078】
実施例8 グリコシル化PPCの合成
本実施例は、PPCと結合した、糖を基本とする標的化部分の合成を示す。
【0079】
PEG 500、PEI 1800、およびコレステロール(0.05 mM)からなる、200 mgのPPCを、DMFに溶解した8 mgのα-D-グルコピラノシル-フェニルイソチオシアネートを用いて、グリコシル化した。ガラクトシル化、マンノシル化、およびラクトシル化PPCを合成するため、α-D-ガラクトピラノシルフェニルイソチオシアネート、α-D-マンノピラノシルフェニルイソチオシアネート、およびα-D-ラクトピラノシルフェニルイソチオシアネートをそれぞれ用いた。溶液を1 M Na2CO3の添加により、pH 9に調整し、次に12時間室温でインキュベートした。グルコシル化PPCを5 mM NaClに対して、12時間毎に新鮮な脱イオン水に交換しながら、二日間透析した。結果の物質を、0.45μmのフィルター紙で濾過し、その後凍結乾燥した。
【0080】
実施例9 PPCが結合した葉酸の合成
本実施例は、PEI 1800、PEG 550、コレステリルクロロホルメート、および葉酸からなる、リポポリマーが結合した標的化部分の調製を示す。
【0081】
200 mgのPPCを、50 mgの1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)および50 mgのN-ヒドロキシサクシンアミド(NHS)を含む、5 mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した、10 mgの葉酸と結合させた。12時間攪拌した後、産物(葉酸-PPC)を100 mlエチルエーテル中で沈殿させ、次に室温で一時間おいた後、液体を慎重にデカントした。残った物質を10 mlの1 N HClに溶解した。溶液を、二日間、12時間毎に新鮮な脱イオン水に交換しながら、脱イオン水に対して透析した。溶液を、0.45μmフィルター紙で濾過し、その後、凍結乾燥した。
【0082】
実施例10 RGD結合PPCの合成
本実施例は、PEI 1800、PEG 550、コレステリルクロロホルメート、および標的化部分としてRGDペプチド、からなる、RGDペプチド結合リポポリマーの調製を示す。
【0083】
環状NH2-Cys-Arg-Gly-Asp-Met-Phe-Gly-Cys-CO-NH2を、一つのN末をもつRGDペプチドとして使用した。RGDペプチドを、F-moc化学を用いる固相ペプチド合成法を使用して、合成した。環状化は、pH 8.0、1 mM NH4OAc中、0.01 M K3[Fe(CN)6]を用い、一晩室温で行い、次にHPLCで精製を行った。1モルのRGDペプチドのN末アミン基は、2モルのDMSO中N-スクシンイミジル3(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)と反応し、そしてエチルエーテルにより沈殿させた(RGD-PDP)。200 mgのPPCを7 mgのDMSO中SPDPと、室温で2時間反応させた。結果の物質(PPC-PDP)を、0.1 M(-)1,4ジチオ-L-スレイトール(DTT)で処理し、続いてbio-spinカラムで分離した。RGD-PDPをDMFに溶解し、次にPPC-PDP溶液に加えた。12時間攪拌後、結果の物質(RGD-PPC)をFPLCにより精製した。結果の溶液を、脱イオン水に対して、2日間透析し、続いて、ロータリーエバポレーターを用いて容量を減少させた。最終産物を、凍結乾燥により得た。
【0084】
実施例11 プラスミドの増幅および精製
本実施例は、実施例1から10で調製されるリポポリマーと複合体を形成する、pDNAの調製を示す。
【0085】
プラスミドpCMV-ルシフェラーゼ(pCMV-Luc)は、レポーター遺伝子として、またpmIL-12(マウスインターロイキン-12またはmIL-12遺伝子をもつプラスミド)は治療用遺伝子として、使用した。mIL-12のp35およびp40サブユニットは、二つの独立した転写ユニットから発現し、内部リボソーム導入部位(IRES)により分けられ、そして一つのプラスミドpCAGGに挿入された。このベクターは、ハイブリッドサイトメガロウイルス誘導エンハンサー(CMV-IE)および、トリβ-アクチンプロモーターの制御下、mIL-12をコードしている。すべてのプラスミドは、E. coli DH5α株細胞で増幅し、次にQIAGEN EndoFree Plasmid Maxi Kit(Charsworth, CA)により、単離および精製した。プラスミドの純度、および完全性を、1%アガロースゲル電気泳動により確認し、続いて臭化エチジウムで染色した。pDNA濃度を、260 nmにおける、紫外線(UV)吸収により測定した。
【0086】
実施例12 リポソームの調製
本実施例では、リポソームが実施例1〜10由来である、リポポリマー/pDNA複合体の精製を示す。
【0087】
PPCを丸底フラスコ内で無水メチルアルコールに溶解し、そして中性脂質(例えば、コレステロール、DOPE)をモル比1/1、1/2、および2/1で加えた。混合物を約1時間、透明な溶液になるまで、室温で攪拌した。透明溶液を、丸底フラスコの表面に薄い半透明の脂質フィルムができるまで、30℃、60分間、ロータリーエバポレーターで回転させた。フラスコを、小さな穴を開けたパラフィルムで覆い、減圧条件下、一晩乾燥させた。フィルムを5 mlの滅菌水で水和させ、最終濃度5 mMのPPCを得た。水和したフィルムは、水中に分散させるため10〜20分間、室温で激しくボルテックスし、次に分散した物質を、超音波槽の中で、室温、30分間、超音波をかけて、さらに分散させた。分散した溶液を、大きいサイズの粒子を除去するため、450 nmフィルターで濾過し、続いて200 nmフィルターで濾過した。
【0088】
実施例13 水溶性PPC/pDNAおよび水不溶性PPC:DOPE/pDNA複合体の調製
本実施例は、水溶性PPC/pDNAおよび水不溶性PPC:DOPE/pDNA複合体の形成を示す。
【0089】
実施例11で調製された、水溶性PPCおよび水不溶性PPC:DOPEリポソーム、およびpDNAを、別々に5%ラクトースにて、各250μlの容量に希釈し、次にpDNA溶液を、緩やかにボルテックスしながら、リポソームに加えた。複合体形成は、室温にて30分間進行させた。効果的な遺伝子導入のための電荷比の作用を調べるため、水溶性PPC/pDNAおよびPPC:DOPEリポソーム/pDNA複合体を、N/P比5/1〜50/1(N/P)の範囲で調製した。複合体形成に続き、PPC:DOPE/pDNA複合体のオスモル濃度、およびpHを測定した。
【0090】
いくつかのN/P比で調合された、水溶性PPC/pDNAおよびPPC:DOPE/pDNA複合体を、複合体の粒子サイズ、およびζ電位を測定するため、キュベット中で5倍に希釈した。試料の電位泳動の泳動度は、37℃、pH 7.0、および677 nm波長で、15°の一定の角度で、ZetaPALS(Brookhaven Instruments Corp., Holtsville, NY)を用いて測定した。ゼータ電位は、Smoluchowskiの公式に基づいて電気泳動度より計算した。電気泳動度の決定に続いて、試料の平均粒子サイズ測定を行った。
【0091】
水溶性PPC/pDNA複合体の平均粒子サイズは、PPCの組成物の粒子サイズと同じ範囲の90〜120 nmであることが示された。全般的に、これらの複合体は、狭い粒子サイズ分布を有した。
【0092】
これらの複合体のゼータ電位は、20〜40 mVの範囲であり、そしてN/P比の増加に伴い、増加した(図5)。さらに、PPC/pDNA複合体の粒子サイズは、その直径において80〜120 nmの範囲内で均質であることが分かった。粒子サイズの分布は、N/P比の変化によっては、大きくは影響を受けなかった(図5)。
【0093】
実施例14 PPC/pDNA複合体確認のためのゲル遅滞アッセイ
本実施例は、ゲル遅滞アッセイによるPPCとpDNAとの間の複合体形成の確認を示す。
【0094】
簡潔には、オスモル濃度を290〜300 mOsmに調節するため、5%ラクトース(w/v)の存在下、N/P比10/1〜40/1での複合体形成能力を評価するため、様々な量のPPCをpDNAと複合体形成させた。複合体を1%アガロースゲルで電気泳動した。図4に示す通り、陽性電荷を帯びたPPCは、DNA糖鎖骨格上の陰性電荷を帯びたホスフェートイオンと強い複合体を形成する。N/P範囲が10/1〜40/1において、スクリーン上に検出された、検出される遊離DNAはなかった。
【0095】
実施例15 in vitroにおけるトランスフェクション
本実施例は、PPC/pDNA複合体による培養細胞への遺伝子トランスフェクションを示す。
【0096】
PPC/pCMV-Luc複合体を、293 Tヒト胚腎臓形質転換細胞株への、そのトランスフェクション効率の評価のため、5%(w/v)ラクトース中、異なるN/P比において製剤した。
【0097】
ルシフェラーゼ遺伝子の場合、293 T細胞は6ウェル組織培養プレートに4×105細胞/ウェル、10%FBSを含むRPMI1640培地中に播種した。PEI分子あたりPEG 0.2〜2.5モルの範囲のPPCを含む、異なるPEG比で調製した、水溶性PPC/pDNA複合体を用いて細胞をトランスフェクションした後、24時間以内に、細胞は80%のコンフルエントに達した。負荷するDNAの全量は、常に2.5μg/ウェルに維持し、トランスフェクションは、血清のない状態で実行した。細胞を複合体存在下、5時間、CO2インキュベーター内でインキュベートし、続いて、10% FBSを含むRPMI1640、2 mlで交換し、さらに36時間インキュベートした。冷PBSで洗浄後、細胞を1×溶解バッファー(Promega, Madison, WI)を用いて溶解した。全タンパク質アッセイは、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce Chemical Co, Rockford, IL))用いて行った。ルシフェラーゼ活性を96ウェルプレートルミノメーター(Dynex Technologies Inc, Chantilly, VA)を使用し、相対発光ユニット(RLU)によって、測定した。ルシフェラーゼの最終値は、RLU/mg全タンパク質により、報告した。そのままのDNA、および未処理培養物は、それぞれ、陽性、および陰性対照として用いられた。図6および7に示された通り、PPCのトランスフェクション効率は、PPC分子あたりのPEG量の増加により、減少した。しかしながら、in vivoにおいては、PEGの含有はトランスフェクション活性を増加させた(実施例16)。
【0098】
実施例16 PPC/DNA複合体の局所投与による、in vivoにおける遺伝子導入
本実施例は、PPC/pDNA複合体による、腫瘍の局所への投与後の、遺伝子発現を示す。
【0099】
その物理学的特性(例えば、粒子サイズ、および表面電荷)に依存して、PPC/pDNA複合体は、局所および全身性の遺伝子送達に用いられ得る。全身性投与による、末梢組織(例えば、肺、肝臓、脾臓、および末梢腫瘍)への遺伝子標的化のためには、トランスフェクション複合体は、血液循環において安定であり、かつ免疫システムによる認識から逃れなければならない。
【0100】
本実施例は、本発明の応用、固形腫瘍への局所遺伝子送達への遺伝子担体としてのPPCを示す。4T1乳がん細胞(1×106細胞)を、固形腫瘍を創るために、Balb/cマウスの側腹部に移植した。移植の7〜10日後、0.6:1〜18:1の範囲内の様々なPEIに対するPEGのモル比の、PEI-CholまたはPPCと複合体を形成した、30μl(6μg)のルシフェラーゼプラスミド(0.2 mg/ml)を、腫瘍に与えた。プラスミド/ポリマー複合体は、N/P比16.75で調製した。DNA注射の24時間後、腫瘍を回収し、ホモジナイズし、そして上清を、遺伝子導入の測定としてルシフェラーゼ活性について分析した。腫瘍遺伝子導入研究による結果は、図7に示す。PEGの添加は、PEI-Cholポリマーの活性を増加した。最大の遺伝子導入活性は、PEG:PEIモル比、約2:1において、達せられた。様々なPEG:PEIモル比でのPPCポリマーは、治療用遺伝子IL-12を用いてもまた、試験した。図8に示す通り、4T1腫瘍へのPPC IL-12遺伝子導入は、PEG:PEI比2〜3.5において達成された。
【0101】
実施例17 PPCリポソーム/DNA複合体の全身性投与による、in vivoにおける遺伝子導入
本実施例は、全身性遺伝子送達のための、PPCリポソームの応用を示す。
【0102】
コレステロールを伴うPPCリポソームは、実施例12に記述の通り調製し、そしてマウスへの尾静脈投与を目的として、ルシフェラーゼプラスミドと複合体を形成した。遺伝子注射の24時間後、肺を回収し、生理的バッファー中でホモジナイズした。肺組織上清の一部をルシフェラーゼの発現について解析した。対照およびPPCリポソーム/DNAを注射した動物における、ルシフェラーゼ活性は、図9に示した。中性脂質によるPPC活性の増強は、おそらくエンドソーム膜の不安定化が増加したことによる。別の実験において、静脈内注射に続く肺転移の阻害への、それらの活性を調べるため、PPCリポソームをIL-12と複合体を形成させた。腎がん細胞をBalb/cマウスに静脈内注射し、肺への転移を形成した。60μgのmIL-12プラスミドを含む、300μlのPPCリポソーム/pmIL-12複合体を、腫瘍移植後6日目と13日目に、尾静脈に注射した。動物を24日目に屠殺し、そして肺の腫瘍結節を数えた。図10は、IL-12プラスミド/PPCリポソーム複合体静脈内投与後の肺転移の大幅な阻害を示す。
【0103】
このように、教示された様々な態様の中で、それらの膜透過輸送の促進によるか、またはそれらの生物学的表面への接着の増強による、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、および薬、といった、生物活性剤の送達のため、新規カチオン性リポポリマーを含む組成物、およびそれらの使用の方法が開示された。ある明白な性質の様々な変更および修正が、本発明の精神から離れることはなくなされ得ること、またそのような全ての変更がおよび修正が、添付の請求項により定義されるように、本発明の範囲の中にあると見なされることは、当業者には、容易に明らかであろう。
【0104】
以上に言及した配合(arrangement)は、本発明の原則の応用の示唆のみであることは理解される。多数の修正および他の配合(arrangement)は、本発明の精神および範囲から離れることなく、考案され得る。本発明は、発明の最も実際的かつ好ましい態様であると現時点でみなされるものと関連して、特定および詳細に渡って、図面で示し、また全体に上に記述したが、当業者には、多数の修正が、請求の範囲で述べる通りの、本発明の原則および概念から離れることなく、なされ得ることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、脂質(コレステロール)および親水性ポリマー(PEG)がPEIバックボーンと共有結合している、PEG-PEI-コレステロール(PPC)のリポポリマーの調製のための合成スキームを示す。
【図2A】図2は、分岐鎖PEI 1800、コレステリルクロロホルメート、およびPEG 500(図2A)またはPEG 330(図2B)からなる、PEG-PEIコレステロールリポポリマーの1H NMRによる化学構造の決定を示す。
【図2B】図2は、分岐鎖PEI 1800、コレステリルクロロホルメート、およびPEG 500(図2A)またはPEG 330(図2B)からなる、PEG-PEIコレステロールリポポリマーの1H NMRによる化学構造の決定を示す。
【図3】図3は、直鎖状PEI 25000、PEG 1000、およびコレステロールクロロホルメートからなる、PEG-PEI-コレステロールリポポリマーの1HNMRによる化学構造の決定を示す。
【図4】図4は、多様なN/P比による、PEG-PEI-コレステロール(1:1:1比)/pDNA複合体の、ゲル遅延度アッセイを示すA:そのままのpDNA、B:WSLP2(N/P=20/1)、C:WSLP0331(N/P=20/1)、D:WSLP0405(N/P=20/1)、E:PPC(N/P=10/1)、F:PPC(N/P=15/1)、G:PPC(N/P=17/1)、H:PPC(20/1)、I:PPC(N/P=30/1)、J:PPC(40/1)、およびK:PPC(0.2モルのPEG、1モルのPEI、および1モルのコレステロールからなる)(N/P=20/1)。
【図5】図5は、多様なN/P比におけるPPC/pDNA複合体の物理化学的特性(ゼータ電位による表面電荷(左軸)、および粒子サイズ(右軸))を示す。
【図6】図6は、異なるPEIに対するPEG比(1〜2.5)でのPPC/pDNA複合体を用いたトランスフェクション後の、培養ヒト胚腎形質転換細胞(293 T細胞)へのルシフェラーゼ遺伝子の導入を示す。
【図7】図7は、多様なPEIに対するPEG比での、PPC/pCMV-Luc複合体を用いたトランスフェクション後の、皮下4T1腫瘍へのルシフェラーゼ遺伝子の導入を示す。
【図8】図8は、BALB/cマウスにおける、PPC/pDNA複合体の腫瘍内注射後の、皮下4T1腫瘍へのmIL-12遺伝子の導入を示す。
【図9】図9は、静脈内投与後の、PPCリポソーム/pDNA複合体による、マウス肺へのルシフェラーゼ遺伝子の導入を示す。
【図10】図10は、静脈内投与後の、PPCリポソーム/mIL-12 pDNA複合体による、マウス肺腫瘍の阻害を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマースペーサーを含む生体適合性カチオン性リポポリマーであって、脂質が生体適合性親水性ポリマースペーサーを介して共有結合によりPEIバックボーンと結合している、前記カチオン性リポポリマー。
【請求項2】
ポリエチレンイミンが、100〜500,000ダルトンの分子量を有する直鎖構造または分岐鎖構造を有する、請求項1に記載のカチオン性リポポリマー。
【請求項3】
脂質が、コレステロール、コレステロール誘導体、C12〜Cl8脂肪酸、または脂肪酸誘導体である、請求項1に記載のカチオン性リポポリマー。
【請求項4】
PEIバックボーンに対して直接的にまたは親水性スペーサーを介して共有結合している標的化部分をさらに含み、前記標的化部分が、トランスフェリン、アシアロ糖タンパク質、抗体、抗体断片、低密度リポタンパク質、インターロイキン類、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、幹細胞因子、エリスロポエチン、上皮成長因子(EGF)、インスリン、アシアロオロソムコイド、マンノース-6-リン酸、マンノース、ルイスXおよびシアリルルイスX、N-アセチルラクトサミン、葉酸、ガラクトース、ラクトース、およびトロンボモジュリン、融合誘導因子(fusogenic agents)、ライソソーム指向性因子(lysosomotrophicagents)、および核局在化シグナル(NLS)からなる群から選択される、請求項1に記載のカチオン性リポポリマー。
【請求項5】
共有結合が、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、またはジチオール結合、であり、そしてカチオン性リポポリマーと標的化部分のモル比が1:0.1〜1:100の範囲である、請求項4に記載のカチオン性リポポリマー。
【請求項6】
N/P(ポリマー上の窒素原子/DNA上のホスフェート原子)比が0.1/1〜500/1の範囲にある、核酸と請求項1〜5のいずれか1項に記載のカチオン性リポポリマーとのあいだで形成される複合体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体適合性カチオン性リポポリマー、およびヘルパー脂質を、1:0.1〜1:500の範囲のモル比で含む、リポソーム。
【請求項8】
ヘルパー脂質が、コレステロール、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、オレオイルパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジフィタノイルホスファチジルエタノールアミン(ジフィタノイルPE)、ジステロイル-、-パルミトイル-、-ミリストイルホスファチジルエタノールアミンおよび1-〜3-倍N-メチル化誘導体からなる群から選択される構成分子である、請求項7に記載のリポソーム。
【請求項9】
N/P(ポリマー上の窒素原子/DNA上のホスフェート原子)比が0.1/1〜500/1の範囲にある、核酸と請求項8に記載のカチオン性リポポリマーとのあいだで形成される複合体。
【請求項1】
ポリエチレンイミン(PEI)、脂質、および生体適合性親水性ポリマースペーサーを含む生体適合性カチオン性リポポリマーであって、脂質が生体適合性親水性ポリマースペーサーを介して共有結合によりPEIバックボーンと結合している、前記カチオン性リポポリマー。
【請求項2】
ポリエチレンイミンが、100〜500,000ダルトンの分子量を有する直鎖構造または分岐鎖構造を有する、請求項1に記載のカチオン性リポポリマー。
【請求項3】
脂質が、コレステロール、コレステロール誘導体、C12〜Cl8脂肪酸、または脂肪酸誘導体である、請求項1に記載のカチオン性リポポリマー。
【請求項4】
PEIバックボーンに対して直接的にまたは親水性スペーサーを介して共有結合している標的化部分をさらに含み、前記標的化部分が、トランスフェリン、アシアロ糖タンパク質、抗体、抗体断片、低密度リポタンパク質、インターロイキン類、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、幹細胞因子、エリスロポエチン、上皮成長因子(EGF)、インスリン、アシアロオロソムコイド、マンノース-6-リン酸、マンノース、ルイスXおよびシアリルルイスX、N-アセチルラクトサミン、葉酸、ガラクトース、ラクトース、およびトロンボモジュリン、融合誘導因子(fusogenic agents)、ライソソーム指向性因子(lysosomotrophicagents)、および核局在化シグナル(NLS)からなる群から選択される、請求項1に記載のカチオン性リポポリマー。
【請求項5】
共有結合が、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、またはジチオール結合、であり、そしてカチオン性リポポリマーと標的化部分のモル比が1:0.1〜1:100の範囲である、請求項4に記載のカチオン性リポポリマー。
【請求項6】
N/P(ポリマー上の窒素原子/DNA上のホスフェート原子)比が0.1/1〜500/1の範囲にある、核酸と請求項1〜5のいずれか1項に記載のカチオン性リポポリマーとのあいだで形成される複合体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体適合性カチオン性リポポリマー、およびヘルパー脂質を、1:0.1〜1:500の範囲のモル比で含む、リポソーム。
【請求項8】
ヘルパー脂質が、コレステロール、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、オレオイルパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジフィタノイルホスファチジルエタノールアミン(ジフィタノイルPE)、ジステロイル-、-パルミトイル-、-ミリストイルホスファチジルエタノールアミンおよび1-〜3-倍N-メチル化誘導体からなる群から選択される構成分子である、請求項7に記載のリポソーム。
【請求項9】
N/P(ポリマー上の窒素原子/DNA上のホスフェート原子)比が0.1/1〜500/1の範囲にある、核酸と請求項8に記載のカチオン性リポポリマーとのあいだで形成される複合体。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2007−521247(P2007−521247A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512407(P2005−512407)
【出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/039317
【国際公開番号】WO2005/060934
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(500534669)エクスプレッション・ジェネティックス・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/039317
【国際公開番号】WO2005/060934
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(500534669)エクスプレッション・ジェネティックス・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】
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