説明

生体適合性が改善されたカルニチンを含有する腹膜透析液

分子内塩または医薬上許容される塩の両方の形態におけるL-カルニチンおよびその低級アルカノイル誘導体の腹膜に対する保護効果が開示される。約 0.02 〜0.5% w/vの濃度のカルニチンは、生体適合性が高い腹膜透析液の調製および、腹膜透析のための、特にグルコースを浸透圧性薬剤として含む溶液の連続使用の毒性効果から腹膜を保護するのに好適である。特に好ましい態様は、カルニチン、グルコースおよびキシリトールを含む腹膜透析液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹膜透析の分野、特に生体適合性が改善された腹膜透析液に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
中皮は、透析液と最初に接触する器官であり、腹膜透析の間にその生存能を徐々に失う傾向がある。これは腹膜透析の際に観察される形態変化から明らかである (Di Paolo、N; et al、Nephron、1996; 74:594-9; Di Paolo、N; et al、Perit. Dial. Int.、2000; 20 (Suppl 3):Sl-100)。解剖学的損傷の徴候には、腹膜の潤滑性および分泌特性の低下が含まれる (Di Paolo、N、et al.; Nephron、1986; 44、365-370; Shambye、H.T.、et al.; Perit. Dial. Intern.、1992; 12、284-286)。この問題を取り除くために、非毒性物質を含む浸透圧の高い新規な溶液を見いだすことが医学分野で要求されている。理想的な PDSの特徴は周知である: 低グルコース、pH 7、良好な浸透圧、可塑剤、粒子および微量元素を含まないこと、および、インビトロおよびインビボでの良好な生体適合性である。
【0003】
連続歩行腹膜透析 (CAPD)が出現して以来、従来のPDSに対する有効な代替物は上市されていない。炭酸水素塩、アミノ酸またはイコデキストリンを含むPDSは、全身的副作用により臨床的成功は制限されていた (Shambye、H.T.、et al; Perit. Dial. Intern.、1992; 12、284-286; Cooker、L.A.、et al; Kidney Int. Suppl、2002; (81) S34-45; Gotloib、L.; Free Radio. Biol. Med.、2003; Feb 15; 34(4):419-28; Holmes、CJ. and Faict、D.; Kidney Int. Suppl、2003; Dec; (88):S50-6)。
【0004】
腹膜透析液の生体適合性は、時間内に腹膜の解剖学的および機能的特徴を変化させない能力として定義されうる (Di Paolo、N、et al; Per. Dial. Intern.、1993; 1 (S2)、109-112; Di Paolo、N; et al.; Pent. Dial. Intern.、1995; 15 (supp. 7)、61-70)。腹膜透析液 (PDS)の生体適合性の研究において重要な工程は、インビトロ実験であり、それは中皮細胞培養物において簡便に試験される (Di Paolo、N、et al.; Per. Dial. Intern.、1993; 1 (S2)、109-112; Di Paolo、N、et al.; Nephron 1996; 74:594-9)。上記定義によると、インビトロでの生体適合性研究は、溶液との接触の際の中皮細胞の組織学的変化からその機能的変化までの広範な側面を包含しなければならない (Di Paolo、N、et al.; Perit. Dial. Int.、1994; supp. 3、12-15)。
【0005】
腹膜透析液は、腹部内臓の摩擦のない滑りを可能としつつ、腹膜の統合性とその機能を保持するものでなければならない(Di Paolo、N; et al.; Nephron、1986; 44、365- 370)。
【0006】
腹膜透析 (PD)では、様々な量のグルコースの非酵素的分解産物を含む高浸透圧グルコースに腹膜を曝す(Di Paolo、N、et al; Nephron、1991; 57:323-31; Perit. Dial. Int.、2000; 20 (Suppl 3):Sl-100)。これら溶液は腹膜にとっては毒性である。重大な微細構造変化がPD 患者の中皮において報告されている。グルコースのアミノ酸による置換は腹膜生体適合性の点では良好な結果を与えたが(Holmes、CJ. ; Perit. Dial. Intern.、1991; 13、88-94; Jorres、A.、et al.; Intern. J. of Artif. Organs 1992; 15、79-83)、 臨床適用は高い吸収による全身的薬理効果により制限されている(Garosi、G.、et al.; Perit. Dial. Intern.、1998; 18: 610-81)。
【0007】
腹膜透析液のよりよい生体適合性のために様々な提案がなされている。
【0008】
WO 97/06810において、Wu、Tam およびFrenchは、有効量のアセチル化または脱アセチル化アミノ糖および/またはその組合せを含む腹膜透析のための生体適合性溶液を開示している。これら糖類はモノマーまたはオリゴマーである。 FreseniusのUS 6,277,815は、一緒にされて分注される2つの別々の溶液を含む腹膜透析または注入のための溶液を開示しており、第一溶液は、カルシウムイオン、付加的な電解質の塩およびグルコースを浸透圧的に有効な濃度で含み、第二溶液は炭酸水素塩およびpKa<5の弱酸を含む。特に腹膜透析液に使用するための生体適合性溶液を提供するために、第一溶液は生理的に適合性の酸によって pHを3.2未満に酸性化される。第二溶液は10 mmol/1を超えない割合でのみ炭酸水素塩を含む。
【0009】
JMS Co. Ltd.のJP 2002282354は、少なくとも1種のトレハロースまたはラフィノースを溶液に添加することによりグルコースの吸収が低下した腹膜透析のための生体適合性溶液を提供する。
【0010】
しかし、腹膜透析用の溶液の生体適合性の問題は、満足のいくほどは解決されていない。実際、グルコースに代わる浸透圧性薬剤も、望ましくない効果を示すこと、または高い製造コストといった問題を示し得、そのため社会的に弱い対象に腹膜透析が実施される状況におけるそれらの使用は困難である。
【0011】
低いL-カルニチン生合成が慢性腎疾患に付随し得、L-カルニチンサプリメントが、血液透析患者に有益な効果を有するようである (Hurot、J.M.、et al.; J. Am. Soc. Nephrol、2002; 11、13:708-14 )。
【0012】
WO 01/26649は、医用溶液のための浸透圧性薬剤としてのL-カルニチンおよびその低級アルカノイル誘導体(これらはカルニチンと総称される)の使用を開示している。特定の態様において、カルニチンは腹膜透析のための溶液においてグルコースの全体的または部分的置換物として使用されている。様々なカルニチンの組合せ、具体的には様々な濃度のL- カルニチンおよびグルコースまたはアミノ酸の組合せも開示されている。カルニチンは 0.5% w/v〜 10% w/vの範囲で提供され、0.5%であって以下のL-カルニチンとグルコースとの特定の組合せが開示されている: 1.0% w/v L-カルニチンおよび0.5% w/v グルコース; 0.5% w/v L-カルニチンおよび4.0% w/v グルコース; 4.0% w/v L- カルニチンおよび0.5% w/v グルコース。
【0013】
Gupta et al.のWO 99/07419は、腹膜透析または血液透析の際に患者が経験するビタミンの欠損を補充するために患者に栄養サプリメントを提供する目的の透析溶液を開示している。ビタミンが主成分であるためL-カルニチンは単なる任意の成分と考えられる。さらに、Guptaによって教示されるL- カルニチンの濃度範囲は、最高濃度でも(1 mM - 0.016% w/v)浸透圧効果を提供するためには不十分である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
腹膜透析のための高度に生体適合性の溶液の問題の解決はいまだに強く医学分野で要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このたび驚くべきことに、腹膜透析のための浸透圧性薬剤、特にグルコースとともに、約 0.02% w/v〜 約 0.5%w/vの濃度範囲のL-カルニチンまたはその低級アルカノイル誘導体またはその医薬上許容される塩を使用することが、得られる腹膜透析溶液の生体適合性に有益な効果を有することが見いだされた。
【0016】
もう一つの驚くべき知見は、カルニチンおよびグルコースを含む腹膜透析溶液へのキシリトールの添加が溶液の生体適合性を向上させるということである。
【0017】
発明の概要
本発明は、約 0.02% w/v〜 約 0.5% w/vの濃度のL-カルニチンが、腹膜が腹膜透析液に曝されたときに腹膜に対して保護効果を発揮するという知見に基づく。したがって、本発明の目的は、約 0.02% w/v〜 約 0.5% w/vのカルニチンおよび少なくとも1つの腹膜透析のための浸透圧性薬剤、特にグルコース、さらにグルコースおよびキシリトールを含む腹膜透析用溶液である。
【0018】
本発明のさらなる目的は、腹膜透析のためのパッケージの調製のためのかかる溶液の使用である。
【0019】
本発明のこれらおよびその他の目的は、実施例とともに以下の記載によってより詳細に開示される。
【0020】
発明の詳細な説明
腹膜透析におけるカルニチンの使用の説明および腹膜透析の技術分野の関係での本発明の理解のためにWO 01/26649およびそれに引用される文献を参照されたい。
【0021】
本発明において、カルニチンとは、L-カルニチンまたはその低級アルカノイル誘導体を意味し、L-カルニチンが好ましい。
【0022】
低級アルカノイル誘導体は、C2-C8 アシル誘導体であり、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ヘキサノイル、オクタノイルおよびそれらのすべての可能な異性体が挙げられる。
【0023】
通常、カルニチン、特にL-カルニチンは分子内塩の形態で用いられる。好ましい場合、医薬上許容される塩を用いることが出来る。該塩の定義と例は、上記 WO 01/26649に提供されている。
【0024】
医薬上許容される塩の例は、塩化物、臭化物、オロチン酸塩、酸アスパラギン酸塩、酸クエン酸塩、マグネシウムクエン酸塩、酸リン酸塩、フマル酸塩および酸フマル酸塩、マグネシウムフマル酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩および酸マレイン酸塩、ムケート(mucate)、酸シュウ酸塩、パモ酸塩、酸パモ酸塩、酸硫酸塩、グルコースリン酸塩、酒石酸塩、酸酒石酸塩、マグネシウム酒石酸塩、2-アミノエタンスルホン酸塩、マグネシウム 2-アミノエタンスルホン酸塩、コリン酒石酸塩およびトリクロロ酢酸塩である。
【0025】
L-カルニチンおよびその低級アルカノイル誘導体は広く市販されており、しかしその調製方法は文献に詳しく説明されている。例えば本出願人の特許文献を参照されたい。
【0026】
本発明による腹膜透析のための溶液の製造に要求されるのは、当業者により一般に知られている慣行にすぎない。有用な文献の例は WO 2004/052269および関連文献である。
【0027】
有用な情報は上記特許においてみることができる。
【0028】
以下の記載は、カルニチンファミリーの好ましいメンバー、即ち L-カルニチンに言及して行うが、本発明はその他の上記の成分のすべてを用いて行うことが出来る意図である。
【0029】
本発明の好ましい態様において、L-カルニチンは、約 0.2% w/v〜 約 0.5% w/vの濃度範囲にて溶液中で用いられる。第一の好ましい範囲は、約 0.02% w/v〜 約 0.45% w/vである。
【0030】
本発明は腹膜透析のための溶液に関する。これは当業者にとって、溶液が医学用途に好適であり、少なくとも1つの浸透圧性薬剤を含むことを意味する。浸透圧性薬剤は、患者の血液から腹膜を横切って溶液への拡散によって腎機能を置換するための浸透圧を作り出すのに十分な濃度で含まれる溶質である。
【0031】
腹膜透析のための浸透圧性薬剤は当該技術分野において周知であり、好ましくは以下からなる群から選択される物質である: グルコース; ガラクトース; キシリトール、ポリグルコース; フルクトース; ソルビトール; グリセロール; アミノ酸、トリピルビン酸グリセロール (トリピルビン(tripyruvin))、単一のペプチド、ペプチド混合物、ポリペプチド、糖-ピルビン酸エステル、ポリオール-ピルビン酸エステル、ピルビン酸チオエステル、またはジヒドロキシアセトン-ピルビン酸エステルの形態のピルビン酸化合物。具体的には言及しないがその他の浸透圧性薬剤も本発明に含まれる。
【0032】
腹膜透析に用いられる浸透圧性薬剤は市販されており、かかる薬剤の説明は、技術文献、例えば上記 WO 01/26649、US 5.126.373にみることができる。
【0033】
常用されるグルコースに関する本発明の一つの態様において、それは、特定濃度のL-カルニチンと組み合わせて浸透圧効果を確実にするのに十分な濃度にて存在する。当該技術分野において知られている通常の濃度が用いられ、例えば約 1.5% w/v〜 約 4.5% w/vである。
【0034】
本発明の別の好ましい態様において、L-カルニチンは、グルコースおよびキシリトールを含む溶液中で用いられ、後者は約 0.5% w/v〜 約 2.5% w/vの濃度範囲である。第一の好ましい範囲は約 0.5% w/v〜 約 1.5% w/vであり、もっとも好ましくは約 1% w/vである。
【0035】
グルコースおよびキシリトールは特定濃度のL-カルニチンと組み合わせて浸透圧効果を確実にするのに十分な濃度にて存在する。
【0036】
濃度範囲の定義において用いられる「約」という用語は本発明の分野の当業者にとって明白である。腹膜透析のための溶液を調製する場合、浸透圧性薬剤の濃度は、許容範囲の上限か下限で用いられる場合、その上限または下限の値と厳密に一致する必要はなく、浸透圧効果が悪影響を受けない限り「約」の値であってよい。「約」という語の意味はカルニチンの濃度範囲に適用する場合も同じ意味であり、即ち、保護効果が妨げられない限り濃度範囲の上限か下限からわずかに変異した値も許容される。溶液の形成に用いられる以下に記載するその他の物質の濃度値についても同じことがいえる。
【0037】
本発明の各態様において、L-カルニチンの低級アルカノイル誘導体が用いられる場合、溶液の浸透圧特性に影響を与えることなく同等の保護効果が得られるようにその濃度を決定する。
【0038】
カルニチンの塩が用いられる場合も同じことがいえる。
【0039】
浸透圧効果の測定はいずれの常套方法によって行ってもよく、例えば上記 WO 01/26649に開示された方法が挙げられる。
【0040】
本発明の教示を実施するために、カルニチンは浸透圧性薬剤として作用するのに十分な量にて実際に存在する必要はない。
【0041】
本発明は、カルニチン、特にL-カルニチンが、特にグルコースが浸透圧性薬剤の場合に、腹膜透析のための溶液で処理された場合の中皮に対する保護剤であるという発見に基づく。
【0042】
それゆえ、本発明の利点は、低濃度のカルニチンを腹膜透析に通常用いられる濃度のグルコースと組み合わせて用いることによって達成することが出来る。
【0043】
しかし、周知の問題により、または、血液透析を受ける患者が既に中皮に対する損傷を受けている場合にグルコース含有量を低下させるのが望ましい場合、キシリトールをグルコースの部分的置換物として利用できる。この場合、本発明は、カルニチン、グルコースおよびキシリトールを含む三元溶液の態様で表される。本発明による溶液は、腹膜透析のための溶液の製造に通常用いられるその他の成分を含んでいてもよい。この分野の一般常識を参考にされたい。
【0044】
別の可能な態様はWO 99/07419に開示の溶液中に約 0.02% w/v 〜0.5% w/w の濃度範囲のL-カルニチンを使用することであり、ここでビタミンは、葉酸、ビタミン B6、チアミン、ビタミン B,2、またはそれらの医薬上許容される塩からなる群から選択される。
【0045】
本発明の別の便宜な態様において、腹膜透析のための溶液はさらに以下を含む:
【表1】

【0046】
便宜には、本発明による溶液は、腹膜透析を必要とする患者の治療に有用な物質をさらに含んでいてもよい。かかる物質は、患者および患者の症状、例えば、特定のその他の病状の存在などの要求に応じて当業者により決定される。かかる物質の例としては以下が挙げられる: 血管拡張薬、利尿薬、ホルモン、ビタミン、抗酸化剤および抗線維化剤(例えば、N-置換 2-(1H) ピリドン類および/または N-置換3-(1H) ピリドン類)。
【0047】
本発明の別の目的は、腹膜透析用パッケージの製造における本明細書に開示する腹膜透析のための溶液の使用である。腹膜透析用パッケージは1サイクル以上の腹膜透析を実施するための製品のセットである。パッケージは、例えば本発明の腹膜透析液を含む1以上の袋を含んでいてもよく、剤形は異なっていてもよく、例えば日中および/または夜間サイクル用が挙げられる。付加的な成分/装置も存在していてもよく、例えば腹膜透析サイクルを実施するための使い捨て連結器が挙げられる。パッケージの例は市販されているものである。
【0048】
以下の実施例により本発明をさらに説明する。
【0049】
実施例 1
この実施例の目的は、本発明による腹膜透析液(PDS) と標準的炭酸水素塩グルコース 腹膜透析液とのインビトロおよびインビボ特徴を比較することである。
【0050】
以下の組成を有するPDSを調製した。
【0051】
カルニチンを含有するか含有しないグルコースPDS
【表2】

【0052】
キシリトール・グルコースPDS
【表3】

【0053】
キシリトール・グルコース・カルニチンPDS
【表4】

【0054】
インビトロ研究
本発明者らは、グルコースのみ、グルコースおよびカルニチン、キシリトールおよびグルコース、またはキシリトール、グルコースおよびカルニチンのいずれかを含む様々なPDS の存在下で培養したウサギ腹膜中皮細胞の増殖、形態および機能を研究した(様々なPDSの実際の組成は以下を参照されたい)。グルコースは2種類の濃度(1.36および3.86 %、w/v)で存在した。カルニチンも2種類の濃度(0.05および0.2 %、w/v)で存在した。キシリトール濃度はしかし、1% (w/v)に固定した。
【0055】
溶液の生体適合性を様々な試験で評価した:
1)中皮細胞培養の増殖;
2)PLPおよびPCの中皮細胞による分泌;
3)PgE2の中皮細胞による分泌;
4) 中皮細胞による LDH 放出。
【0056】
中皮細胞培養
ウサギ中皮細胞培養物を調製し、以前に報告されているようにして細胞ペレットにて特徴決定した(Di Paolo 上記引用文献参照)。ウサギ中皮細胞の集密培養物をTC 225 cm2 フラスコ中に調製した。培地を除き、20 mlのPBS A バッファー中の0.1% トリプシン EDTA を各フラスコに添加し、層を数秒間浸した。トリプシン混合物を除いた後、細胞を37℃で5分間インキュベートして細胞を完全に解離させた。次いで20 mlの10% FCSを含む培地 199を各フラスコに添加した。細胞をDi Paoloに記載のように特徴決定した。
【0057】
中皮細胞培養物の増殖
4つの試験PDS溶液を10% FCSを含む培地 199で20、40、60および80%に希釈した。溶液を含まない培地を対照として用いた。4つの溶液の各希釈液3.6 mlおよび純粋な培地を102のウェルに入れた(6/希釈および6対照)。0.4 mlの中皮細胞懸濁液 (30,000/ml)を各ウェルに播種した。インキュベーションは、37℃、5% CO2 および95%空気で行った。細胞増殖を毎日顕微鏡下で確認し、中皮細胞の数を7日間のインキュベーション後に算出した(Di Paolo 上記引用文献参照)。
【0058】
以下の表1-3は上記実験の結果を示す。
【0059】
表 1:グルコースのみを含むPDS (G-2)およびグルコースとカルニチンを含むPDS (GC-2)に曝した培養中の中皮細胞の増殖(xlO3)。PDSは10% FCSを含む培地 199で20、40、60および80%に希釈した。データは平均±SDとして表す。
【表5】

【0060】
表 2:グルコースおよびキシリトールのみを含むPDS (XG-I)またはそれにさらにカルニチンを含むPDS(XGC-I) に曝した培養中の中皮細胞の増殖(xlO3)。PDSは10% FCSを含む培地 199で20、40、60および80%に希釈した。データは平均±SDとして表す。
【表6】

【0061】
表 3:グルコースおよびキシリトールのみを含むPDS (XG- 2)またはそれにさらにカルニチンを含むPDS (XGC-2) に曝した培養中の中皮細胞の増殖(xlO3)。PDSは10% FCSを含む 培地 199で20、40、60および80%に希釈した。データは平均±SDとして表す。
【表7】

【0062】
ウサギ中皮細胞の増殖はカルニチンを含むPDSにおいてその他のものよりも良好であった(表1-3)。グルコースのみを含む溶液中にカルニチンが存在した場合、細胞増殖の統計的に有意な上昇が60%のPDSを含む培地においてさえみられた(表 1)。グルコースおよびキシリトールを含むPDS (XG-IおよびXG-2)においても、カルニチンの存在(XGC-IおよびXGC-2)は細胞増殖の統計的に有意な上昇を導いた。しかし、XG-2およびXGC-2の間の中皮増殖に対する有意な効果は20 および40%のPDSを含む培地においてのみ観察され(表 3)、一方、XGC および XGC-Iの間の有意差は、すべてのPDSの培地中希釈度にて観察された(20、40、60および80%、表 2も参照)。したがってグルコースの有害効果は明らかに用量依存的であったが (XG-I対XG-2)、カルニチンの添加はグルコース濃度にかかわらず中皮細胞増殖に対するグルコースの毒性効果を弱めることが出来る。
【0063】
中皮培養細胞によって分泌される物質
中皮細胞について記載した培養手順を標準培地のみを用いて102のウェルにおいて繰り返した。6 日間のインキュベーションの後、培養上清を除き、4つのPDSを100% 濃度で添加した (各溶液について6つおよび対照として培地のみを6つ)。さらに6-時間のインキュベーションの後、上清を回収して、細胞機能効率の指標として全リン脂質(PLP)、ホスファチジルコリン (PC) (Kit、NEN、Dupont)およびPgE2 (RIA kit、New England Nuclear)、ならびに細胞毒性の指標としてLDHのアッセイに供した。
【0064】
リン脂質をFolch et al. (Folch J.、Lees M. and Stanley H.S.; 1957、J. Biol. Chem.、226: 497-509)の方法により、上清から抽出した。データの比較を行うために、本発明者らは6時間のインキュベーションを用い、これはPDSがヒトの腹部に残る標準的時間である。
【0065】
以下の表4-6に上記実験の結果を示す。
【0066】
表 4:グルコースのみを含むPDS (G- 2)およびグルコースとカルニチンを含むPDS (GC-2)に曝した中皮培養細胞によって分泌される物質。データは平均±SDとして表す。
【表8】

【0067】
表 5:グルコースおよびキシリトールのみを含むPDS (XG-I)またはそれにさらにカルニチンを含むPDS (XGC-I)に曝した中皮培養細胞によって分泌される物質。 データは平均±SDとして表す。
【表9】

【0068】
表6:グルコースおよびキシリトールのみを含むPDS (XG-2)またはそれにさらにカルニチンを含むPDS (XGC-2)に曝した中皮培養細胞によって分泌される物質。データは平均±SDとして表す。
【表10】

【0069】
中皮細胞によって分泌されるPLPおよびPCの最高レベルは、溶液 XG-IおよびXGC-Iを含む培地でみられ (表 4-6)、対照と区別できないものであった (データ示さず)。また、中皮細胞によって分泌されるPLPおよびPCの最低レベルは、溶液G-2を含む培地でみられた(表 4)。後者のPDS含有培地(GC-2)におけるカルニチンの存在は、しかし、中皮細胞のPLPとPCの両方の分泌の統計的に有意な回復を導いた(表 4)。PCおよびPLPを分泌する能力は、XG-2を含む培地でもG-2を含有する培地よりは程度は低かったが抑制された。XG2含有培地 (XGC-2)におけるカルニチンの存在は、PCおよびPLPの両方の有意な回復を導いた(表 6)。PDS中のグルコース量が多いほど (G-2>XG-2>XG>1)、中皮細胞がPCおよびPLPを分泌する能力が低くなることは明らかである。
【0070】
カルニチンのレベルの上昇は長鎖アシル-CoAを捕捉するものとして作用し得、その結果、PCおよびPLPの合成を妨げるということに注目されたい(PLP 合成には数個のアシル化工程が必要であり、そこで基質は長鎖アシル-CoAのものである)。したがって、カルニチンのPCおよびPLPの分泌に対する改善作用がいまだに理解されておらず、上記結果は非常に驚くべきものであると考えられる。
【0071】
中皮細胞によるPgE2の分泌
中皮細胞によるエイコサノイドの産生は腹膜の透析効率の価値ある指標である。この点に関して、本発明者らは、様々な PDSに曝した中皮細胞の上清におけるPgE2を測定した。試験した様々なPDSのなかで、最高のPgE2 レベルはXG-IおよびXGC-Iに曝された中皮細胞の上清においてみられ(表 4-6)、カルニチンを含有するPDS (XGC-I)はカルニチンを含有しないPDS (XG-I)と比べてPgE2の有意に高いレベルを示さなかった。さらに、PgE2 レベルの有意差は対照と後者2つのPDSとの間に観察されなかった (データ示さず)。最低のPgE2 レベルはG-2に曝した中皮細胞の上清においてみられた。しかし、このPDSにおけるカルニチンの存在(GC-2)は、回収されるPgE2の顕著な上昇を導いた。PCおよびPLP分泌について先に観察されたように、PgE2を分泌する能力も、G-2を含む培地と比べて程度は低いが、XG-2を含む培地において抑制されていた。カルニチンのXG2含有培地への添加(XGC-2)は、PgE2 レベルの統計的に有意な上昇を導いた (表 6)。
【0072】
中皮細胞によるLDHの放出
中皮細胞によるLDHの上清への放出は細胞損傷の有用なマーカーである。測定可能な量の LDHが試験したすべてのPDSに曝された中皮細胞の上清に存在していたが、しかし、カルニチンを含まないPDSはカルニチンを含むものよりも統計的に有意に高いレベルのLDHを放出した(G-2対GC-2、XG-I対XGC-I、およびGC-2 対XGC-2)。さらに、カルニチン含有 PDSの一つであるXGC-Iに曝された中皮細胞によるLDH 放出は対照細胞と同等であった(データ示さず)。本発明者らのデータはまた、PDS中のグルコース量が多いほど(G-2>XG-2>XG>1)、中皮細胞により放出されるLDH量は多いことを示す。
【0073】
グルコースのみを含有し、カルニチンを含むか含まないPDSと、グルコースおよびキシリトールを含有し、カルニチンを含むか含まないPDSの中皮培養細胞に対する効果を比較することによって、本発明者は以下の知見に到達した: 中皮細胞はカルニチンを含むPDSにおいてそれを含まないPDSにおけるよりもより良好に成育した。カルニチンを含むグルコース-キシリトール PDS において、中皮増殖はグルコースとカルニチンとを含むものよりも高かった。実際、グルコースの量が低いほど増殖は良好であった。しかし、カルニチンの存在は中皮増殖の向上を常に示した。
【0074】
中皮細胞のリン脂質分泌は、カルニチンがPDS中に存在している場合の方が高かった。これは細胞機能の重要な指標である。というのはリン脂質は腹膜生理機能に必須であるからである。もっとも活性な中皮表面活性物質であるホスファチジルコリンの分泌は、カルニチンを含む培地で培養された細胞(特にXGC-2)と対照とで区別できなかった。有意に低い分泌が高いグルコースレベルを含む培地で観察された。
【0075】
細胞毒性の一般的指標として、中皮細胞によるLDH 分泌は、グルコースのみを含むPDSおよびグルコースとキシリトールとを含むPDSを含む培地における方が、カルニチンを含む対応するPDSを含む培地におけるよりも高かった。
【0076】
プロスタグランジン E2 分泌は、カルニチンを含む培地において有意に高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約 0.02% w/v〜 約 0.5% w/vのL-カルニチンおよび少なくとも1つの浸透圧性薬剤を含む腹膜透析のための溶液。
【請求項2】
カルニチンが約 0.02% w/v 〜0.45% w/vの範囲で含まれる請求項 1の溶液。
【請求項3】
L-カルニチンがその低級アルカノイル誘導体により置換されているかまたは部分的に置換されている請求項1または2の溶液。
【請求項4】
L-カルニチンまたはその低級アルカノイル誘導体の医薬上許容される塩が用いられる請求項1-3のいずれかの溶液。
【請求項5】
該塩が、塩化物、臭化物、オロチン酸塩、酸アスパラギン酸塩、酸クエン酸塩、マグネシウムクエン酸塩、酸リン酸塩、フマル酸塩および酸フマル酸塩、マグネシウムフマル酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩および酸マレイン酸塩、ムケート、酸シュウ酸塩、パモ酸塩、酸パモ酸塩、酸硫酸塩、グルコースリン酸塩、酒石酸塩、酸酒石酸塩、マグネシウム酒石酸塩、2 -アミノエタンスルホン酸塩、マグネシウム2-アミノエタンスルホン酸塩、コリン酒石酸塩およびトリクロロ酢酸塩からなる群から選択される、請求項 6の溶液。
【請求項6】
該浸透圧性薬剤が以下からなる群から選択される請求項1-5のいずれかの溶液:グルコース; ガラクトース; キシリトール、ポリグルコース; フルクトース; ソルビトール; グリセロール; アミノ酸、トリピルビン酸グリセロール (トリピルビン)、単一のペプチド、ペプチド混合物、ポリペプチド、糖-ピルビン酸エステル、ポリオール-ピルビン酸エステル、ピルビン酸チオエステルまたはジヒドロキシアセトン-ピルビン酸エステルの形態のピルビン酸化合物。
【請求項7】
該浸透圧性薬剤がグルコースである請求項 6の溶液。
【請求項8】
グルコースが約 1.5% w/v〜 約 4.5% w/vの濃度にて含まれる請求項 7の溶液。
【請求項9】
以下の w/v% 組成を有する腹膜透析のための溶液。
【表1】

【請求項10】
グルコースおよびキシリトールを浸透圧性薬剤として含む請求項6-8のいずれかの溶液。
【請求項11】
キシリトールが約 0.5% w/v〜 2.5% w/vの濃度にて含まれる請求項 10の溶液。
【請求項12】
以下のw/v%組成を有する請求項 11の溶液。
【表2】

【請求項13】
以下のw/v%組成を有する腹膜透析のための溶液。
【表3】

【請求項14】
さらに以下を含む請求項1-6のいずれかの溶液:
約 120 〜約 150 (mEq/L) ナトリウム;
約 0 〜約 110 (mEq/L) 塩化物;
約 0 〜約 45 (mEq/L) 乳酸塩;
約 0 〜約 45 (mEq/L) 炭酸水素塩;
約 0 〜約 4.0 (mEq/L) カルシウム;
約 0 〜約 4.0 (mEq/L) マグネシウム。
【請求項15】
腹膜透析を必要とする患者の治療に有用な物質をさらに含む請求項1-14のいずれかの溶液。
【請求項16】
該物質が、血管拡張薬、利尿薬、ホルモン、ビタミン、抗酸化剤および抗線維化剤からなる群から選択される、請求項 14の溶液。
【請求項17】
該ビタミンが、葉酸、ビタミン B6、チアミン、ビタミン B,2、またはそれらの医薬上許容される塩からなる群から選択される、請求項 16の溶液。
【請求項18】
請求項1-17のいずれかの溶液を含む腹膜透析のためのパッケージ。

【公表番号】特表2008−532601(P2008−532601A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500161(P2008−500161)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060162
【国際公開番号】WO2006/094900
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(591043248)シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ (92)
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】