説明

生体関連物質の非特異吸着防止コート剤

【課題】臨床診断や生化学実験等において使用する部品・器具・容器等へのタンパクなどの非特異吸着を防止することができ、かつ、耐久性の高い生体関連物質の非特異吸着防止コート剤を提供する。
【解決手段】生体関連物質の非特異吸着防止コート材は、アクリルアミド及びアクリルアミドのN−置換モノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマー(A)及び、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド類から選ばれる少なくとも1種のモノマー(B)を有する水溶性共重合体(P)と、一分子当たり少なくとも2個のヒドラジノ基を有するヒドラジド化合物(H)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、臨床診断や生化学実験等において使用する部品・器具・容器等への各種タンパク等の生体関連物質の非特異吸着を防止し、かつ、耐久性の高い生体関連物質の非特異吸着防止コート剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾病の早期発見等の目的のため、検査の高感度化が求められており、診断薬の感度向上は大きな課題となっている。ポリスチレンプレートや磁性粒子などを用いた診断薬においても、感度向上のため、検出方式として酵素発色を用いる方式から、より高い感度が得られる蛍光や化学発光を用いる方式へと切り替わりつつあるが、実際には十分な感度が得られていない。その原因は、血清などの生体分子混在下で特定の物質を検出する診断では、共存する生体分子や2次抗体、発光基質などが器具・容器などへ非特異的に吸着し、その結果、ノイズが増加して高感度化の妨げとなるからである。そのため、免疫診断測定においては、これらの物質が器具・容器に非特異的に吸着することによる感度の低下を軽減するため、通常、アルブミン、カゼイン、ゼラチン等の生物由来物質を添加剤として用いることにより、非特異吸着を抑制して、ノイズを低減させている。しかしながら、これらの添加剤を使用しても、なお、非特異的な吸着が残り、さらに、生体由来の添加剤を用いる場合、BSEに代表される生物汚染の問題がある。また、これら添加剤による非特異吸着防止効果は、酸・アルカリ、界面活性剤水溶液などによる洗浄により、簡単に低下してしまい、耐久性に劣る。
【0003】
非特異吸着防止を目的とした化学合成の重合体によるコート剤の例としては、特開平5−103831号公報、特開2006−177914号公報、および特開2006−299045号公報にポリオキシエチレンを有するポリマーが、ならびに、特開2006−176720号公報、および特開2006−258585号公報にホスホリルコリン基を有する共重合体が提案されているが、これらの非特異吸着防止効果は不十分であった。
【特許文献1】特開平5−103831号公報
【特許文献2】特開2006−177914号広報
【特許文献3】特開2006−299045号公報
【特許文献4】特開2006−176720号広報
【特許文献5】特開2006−258585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、臨床検査や生化学実験等(例えば化学発光免疫診断測定)において使用する部品・器具・容器等へのタンパクなどの生体関連物質が非特異吸着を防止することができ、かつ、耐久性の高い生体関連物質の非特異吸着防止コート剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、この課題を解決するために、特定の架橋剤を使用して特定の組成の共重合体を合成することにより、生体関連物質に対する高い非特異吸着防止効果と耐久性とを両立するコート剤が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】
本発明の一態様にかかる生体関連物質の非特異吸着防止コート剤は、
下記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)および下記一般式(2)で表される繰り返し単位(B)を有する水溶性共重合体(P)と、
一分子当たり少なくとも2個のヒドラジノ基を有するヒドラジド化合物(H)と、
を含有する。
【0007】
【化6】

・・・・・(1)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xは下記式(1a)または(1b)で表される基を示す。)
【0008】
【化7】

・・・・・(1a)
(式中、RおよびRは独立して、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、或いは、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、およびアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも1つの基で置換された炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0009】
【化8】

・・・・・(1b)
(式中、RおよびRは独立して、単結合、置換または非置換のメチレン基、或いは、置換または非置換の炭素数2〜7の2価のアルキレン基(ここで、RおよびRの炭素数の合計は4〜10である。)を示し、Yは単結合、O、およびSの何れかを示す。)
【0010】
【化9】

・・・・・(2)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Zは少なくとも1個のアルド基またはケト基を有する有機基を示す。)
なお、本発明において、生体関連物質とは脂質、タンパク質、糖類、または核酸類をいう。
【0011】
上記非特異吸着防止コート剤において、上記水溶性共重合体(P)が、下記一般式(3)で表される繰り返し単位(C)をさらに有することができる。
【0012】
【化10】

・・・・・(3)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【発明の効果】
【0013】
上記生体関連物質の非特異吸着防止コート剤によれば、上記繰り返し単位(A)および上記繰り返し単位(B)を有する水溶性共重合体(P)と、上記ヒドラジド化合物(H)とを含有することにより、高い非特異吸着防止効果と耐久性を有するコート層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態にかかる生体関連物質の非特異吸着防止コート剤は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)および下記一般式(2)で表される繰り返し単位(B)を有する水溶性共重合体(P)と、一分子当たり少なくとも2個のヒドラジノ基を有するヒドラジド化合物(H)と、を含有する。
【0015】
【化11】

・・・・・(1)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xは下記式(1a)または(1b)で表される基を示す。)
【0016】
【化12】

・・・・・(1a)
(式中、RおよびRは独立して、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、或いは、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、およびアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも1つの基で置換された炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0017】
【化13】

・・・・・(1b)
(式中、RおよびRは独立して、単結合、置換または非置換のメチレン基、或いは、置換または非置換の炭素数2〜7の2価のアルキレン基(ここで、RおよびRの炭素数の合計は4〜10である。)を示し、Yは単結合、O、およびSの何れかを示す。)
【0018】
【化14】

・・・・・(2)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Zは少なくとも1個のアルド基またはケト基を有する有機基を示す。)
【0019】
1.水溶性共重合体(P)
1.1.水溶性共重合体(P)の物性・構成
本実施形態に係る生体関連物質の非特異吸着防止コート剤に含有される水溶性共重合体(P)の重量平均分子量は、通常1,000〜1,000,000であり、好ましくは2,000〜100,000であり、より好ましくは3,000〜50,000である。また、水溶性共重合体(P)の分子量分布は、典型的には、重量平均分子量/数平均分子量が1.5〜3である。水溶性共重合体(P)の重量平均分子量が1,000未満であると、非特異吸着防止効果が不十分である場合があり、一方、水溶性共重合体(P)の重量平均分子量が1,000,000より大きいと、溶液の粘度が増加してコーティングが困難になる場合がある。
【0020】
水溶性共重合体(P)は水溶性である。本発明において、「水溶性である」とは、25℃で1%のポリマー固形分となるように水に共重合体を添加・混合したときに、目視で透明または半透明に溶解することをいう。
【0021】
1.1.1.繰り返し単位(A)
水溶性共重合体(P)において、上記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)は、高い非特異吸着防止効果の発現と水溶性共重合体(P)の水への溶解性に寄与する。
【0022】
上記一般式(1a)において、Rは好ましくは水素原子、メチル基およびエチル基から選ばれる少なくとも1種であり、Rは好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、メトキシエチル基およびヒドロキシエチル基から選ばれる少なくとも1種である。非特異吸着防止効果に優れ、水への適度な溶解性をもたらすことができる点で、最も好ましい組み合わせは、RおよびRがともにメチル基である。
【0023】
上記一般式(1b)において、RおよびRは好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基であり、Yは好ましくは単結合または酸素原子である。非特異吸着防止効果に優れ、水への適度な溶解性をもたらすことができる点で、最も好ましい組み合わせは、RおよびRがともにエチレン基であり、Yが酸素原子である。
【0024】
1.1.2.繰り返し単位(B)
水溶性共重合体(P)において、上記一般式(2)で表される繰り返し単位(B)は、コート層の耐久性に寄与する。
【0025】
上記一般式(2)において、Rは好ましくは水素原子である。Zは好ましくは、ホルミル基、ホルミルフェニル基、下記一般式(4)で示されるアルド基を含有するエステル基、下記一般式(5)で示されるアルド基を含有するアミド基などのアルド基を有する有機基;
【0026】
【化15】

・・・・・(4)
(式中、R〜R10は独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基である。)
【0027】
【化16】

・・・・・(5)
(式中、R11〜R14は独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基である。)
アセチル基、アセチルフェニル基、下記一般式(6)で示されるケト基を含有するエステル基、下記一般式(7)で示されるケト基を含有するアミド基などのケト基を有する有機基である。
【0028】
【化17】

・・・・・(6)
(式中、R15〜R18は独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基である。)
【0029】
【化18】

・・・・・(7)
(式中、R19〜R22は独立して、水素原子、メチル基、またはエチル基である。)
Zとして、より好ましい有機基は、ホルミル基、アセチル基、および下記式(8)で示される有機基であり、最も好ましい有機基は、下記式(8)で示される有機基である。
【0030】
【化19】

・・・・・(8)
なお、本発明において、アルド基とは炭素原子に結合したアルデヒドを意味し、ケト基とは2個の炭素原子と結合したカルボニル基を意味し、カルボキシル基やアミド基は含まない。
【0031】
1.1.3.繰り返し単位(C)
水溶性共重合体(P)は、下記一般式(3)で表される繰り返し単位(C)をさらに有していてもよい。水溶性共重合体(P)において、上記一般式(3)で表される繰り返し単位(C)は、高い非特異吸着防止効果の発現とコート層の基材への吸着に寄与する。
【0032】
【化20】

・・・・・(3)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
上記一般式(3)において、Rは好ましくは水素原子である。
【0033】
1.1.4.繰り返し単位(D)
水溶性共重合体(P)において、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記一般式(1)〜(3)で表される繰り返し単位(A)〜(C)以外の繰り返し単位(D)を含んでいても良い。
【0034】
1.2.水溶性共重合体(P)の製造
次に、水溶性共重合体(P)を製造するために使用するモノマー組成について説明する。
【0035】
1.2.1.モノマー(a)
繰り返し単位(A)は、少なくとも1種のモノマー(a)に由来する構造を有する。モノマー(a)は、アクリルアミドおよびアクリルアミドのN−置換モノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマーであることが好ましい。モノマー(a)として、より好ましくは、アクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンから選ばれる少なくとも1種であり、さらに好ましくは、N,N−ジメチルアクリルアミドである。モノマー(a)の使用量は、水溶性共重合体(P)を製造するためのモノマー総量100重量部に対して、好ましくは20〜99重量部、より好ましくは25〜98重量部、さらに好ましくは30〜95重量部である。ここで、モノマー(a)の重量部が水溶性共重合体(P)を製造するためのモノマー総量100重量部あたり20重量部未満であると、造膜が不良である場合や非特異吸着防止効果に劣る場合があり、一方、99重量部を超えると、耐久性が不良となる場合がある。
【0036】
1.2.2.モノマー(b)
繰り返し単位(B)は、少なくとも1種のモノマー(b)に由来する構造を有する。モノマー(b)は好ましくは、アクロレイン、ホルミルスチレン、ビニルメチルケトン、ビニルフェニルケトン、上記式(4)〜(7)で表される(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド類から選ばれる少なくとも1種であり、共重合性の点で、より好ましくは、アクロレイン、ビニルメチルケトン、およびダイアセトンアクリルアミドから選ばれる少なくとも1種であり、さらにモノマーの安全性の点で、最も好ましくは、ダイアセトンアクリルアミドである。モノマー(b)の使用量は、水溶性共重合体(P)を製造するためのモノマー総量100重量部に対して、好ましくは1〜80重量部、より好ましくは2〜75重量部、さらに好ましくは5〜70重量部である。ここで、モノマー(b)の重量部が水溶性共重合体(P)を製造するためのモノマー総量100重量部あたり1重量部未満であると、耐久性が不良となる場合があり、一方、80重量部を超えると、造膜が不良である場合や非特異吸着防止効果に劣る場合がある。
【0037】
1.2.3.モノマー(c)
繰り返し単位(C)は、少なくとも1種のモノマー(c)に由来する構造を有する。モノマー(c)は好ましくは、2−メトキシエチルアクリレートおよび2−メトキシエチルメタクリレートから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは2−メトキシエチルアクリレートである。モノマー(c)の使用量は、水溶性共重合体(P)を製造するためのモノマー総量100重量部に対して、好ましくは2〜50重量部、より好ましくは20〜48重量部、さらに好ましくは30〜45重量部である。ここで、モノマー(c)の重量部が上記の範囲内であると、高い耐久性と、良好な造膜性が期待できる。
【0038】
本実施の形態に係る水溶性共重合体は、繰り返し単位(A)〜(C)の他に、繰り返し単位(D)を含んでも良い。モノマー(d)は、繰り返し単位(D)を形成するための成分である。その他のモノマー(d)として、アニオン性モノマー、特に、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などを、モノマー(a)〜(c)と共重合して共重合体を製造することにより、血液バックなどのコート剤として使用した場合に、高い低非特異吸着効果が得られる場合がある。その他のモノマー(d)として、造膜性、耐水性、保湿性などのコントロールのため、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、スチレン、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルエステル、モノマー(a)以外のN−置換アクリルアミドなど公知のモノマーを使用しても良い。
【0039】
使用するモノマーは、工業用原料として入手することができるものを精製して、あるいは、未精製のまま、共重合に使用することができる。
【0040】
モノマーの重合は、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合など公知の重合法で行うことができ、製造が容易であることから、好ましくはラジカル重合である。
【0041】
また、モノマーの重合は、公知の溶媒、開始剤、連鎖移動剤などと共に攪拌・加熱することにより実施される。重合時間は通常30分〜24時間であり、重合温度は通常0〜120℃程度である。
【0042】
重合後の水溶性共重合体(P)は、再沈、抽出、透析等により精製することが好ましい。
【0043】
2.ヒドラジド化合物(H)
ヒドラジド化合物(H)は、一分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有するものである。このようなヒドラジド化合物(H)としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等の合計炭素数が2〜10、特に4〜6のジカルボン酸ジヒドラジド類;クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド等の3官能以上のヒドラジド類;エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,2−ジヒドラジン、ブチレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジン、ブチレン−2,3−ジヒドラジン等の合計炭素数が2〜4の脂肪族ジヒドラジン類等の水溶性ジヒドラジンや、これらの多官能性ヒドラジン誘導体の少なくとも一部のヒドラジノ基を、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジアセトンアルコール等のカルボニル化合物と反応させることによりブロックした化合物、例えば、アジピン酸ジヒドラジドモノアセトンヒドラゾン、アジピン酸ジヒドラジドジアセトンヒドラゾン等を挙げることができる。これらのヒドラジド化合物(H)のうち、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、およびアジピン酸ジヒドラジドジアセトンヒドラゾンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ヒドラジド化合物(H)は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0044】
ヒドラジド化合物(H)の使用量は、水溶性共重合体(P)中のアルド基およびケト基の合計量とヒドラジド化合物(H)のヒドラジノ基とのモル当量比が、1:0.1〜5、好ましくは1:0.5〜1.5、さらに好ましくは1:0.7〜1.2の範囲となる量である。この場合、ヒドラジノ基がアルド基およびケト基の合計1当量に対して、0.1当量未満であると、コート層の耐久性が低下する場合があり、一方、5当量を超えると、非特異吸着防止効果が低下する場合がある。
【0045】
ヒドラジド化合物(H)は、本実施形態にかかる生体関連物質の非特異吸着防止コート剤を調製する適宜の工程で配合することができるが、水溶性共重合体(P)の製造時における重合安定性を維持するためには、ヒドラジド化合物(H)の全量を、水溶性共重合体(P)の製造後に配合することが好ましい。
【0046】
ヒドラジド化合物(H)は、本実施形態にかかる生体関連物質の非特異吸着防止コート剤の施用後の乾燥過程で、そのヒドラジノ基が水溶性共重合体(P)のケト基および/またはアルド基と反応して、親水性の網目構造を形成し、コート層を架橋させる作用を有する。この架橋反応は、通常触媒を用いなくても常温で進行するが、必要に応じて、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸コバルト等の水溶性金属塩等の触媒を添加したり、あるいは、加熱乾燥したりすることにより、促進させることができる。
【0047】
3.非特異吸着防止コート剤
本実施形態に係る生体関連物質の非特異吸着防止コート剤は、水溶性共重合体(P)およびヒドラジド化合物(H)以外に溶媒を含むのが好ましい。溶媒は好ましくは水である。非特異吸着防止コート剤の固形分濃度は、好ましくは0.01%〜30%、さらに好ましくは0.1%〜10%である。
【0048】
本実施形態に係る生体関連物質の非特異吸着防止コート剤は、高い非特異吸着防止効果と耐久性を有する。本実施形態に係る生体関連物質の非特異吸着防止コート剤は、具体的には以下のように作用することができる。
【0049】
すなわち、本実施形態に係る生体関連物質の非特異吸着防止コート剤においては、繰り返し単位(B)の疎水性結合によって、容器・器具などの壁面に水溶性共重合体(P)が吸着し、繰り返し単位(A)(水溶性共重合体(P)が繰り返し単位(C)を含む場合、さらに繰り返し単位(C))によって壁面を親水性することにより、タンパク質などの非特異吸着を防止することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る生体関連物質の非特異吸着防止コート剤においては、ヒドラジド化合物(H)中のヒドラジノ基が水溶性共重合体(P)の繰り返し単位(B)中のケト基および/またはアルド基と反応して、親水性の網目構造を形成し、コート層を架橋させ、コート層の耐久性を発現させることができる。
【0051】
本実施形態に係る生体関連物質の非特異吸着防止コート剤は例えば、臨床診断や生化学実験等(例えば化学発光免疫診断測定)で使用される部品・容器・器具等の表面にコーティングして使用される。コーティングは公知の方法を実施することができ、例えば、スピンコート、バーコート、ブレードコート、カーテンコート、スプレーコート、ディップコートなどが可能である。複雑な形状の器具へ欠損なくコーティングが可能な点で、ディップコートが好ましい。コーティング後は、常温または加熱乾燥することが好ましい。好ましい加熱温度・時間は、基剤などにもよるが、40〜120℃、3分〜24時間程度である。
【0052】
本実施形態に係る生体関連物質の非特異吸着防止コート剤は例えば、光学セル、検体移送チューブ、検体チューブなどの臨床診断部品;MEMSに代表されるシリコン基材、マイクロフルイディクスに代表されるガラス基材・プラスチック基材などのバイオチップ;金蒸着基材などのバイオセンサーなどにコーティングして、各種タンパク、脂質、核酸等の非特異吸着を好適に防止することができ、繰り返しの使用にも耐久性を示すコート層を形成することができる。
【0053】
4.実施例および比較例
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0054】
なお、本実施例では、重量平均分子量(Mw)は、東ソー社製 TSKgel α−Mカラムを用い、流量1ミリリットル/分、溶出溶媒は0.1mM塩化ナトリウム水溶液/エタノール混合溶媒、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリエチレングリコールを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された。吸光度は、日本バイオ・ラッドラボラトリーズ社製モデル680マイクロプレートリーダーにより測定された。
【0055】
4.1.実施例1
4.1.1.水溶性共重合体(P−1)の合成
モノマー(a)としてジメチルアクリルアミド40g、モノマー(b)としてダイアセトンアクリルアミド20g、モノマー(c)としてメトキシエチルアクリレート40g、連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸0.1gを水900gに混合して攪拌機付きセパラブルフラスコに入れた。これに窒素を吹き込みながら70℃まで昇温し、開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド4gを添加した後、2時間重合を続け、さらに80℃に昇温して3時間エージングした後、室温まで冷却した。得られた共重合体溶液をダイアライザーにより精製し、さらに水で希釈することにより、本実施例の5%水溶性共重合体(P−1)水溶液1800gを得た。水溶性共重合体(P−1)のGPCによる重量平均分子量は27,000であった。
【0056】
4.1.2.コーティング
上記5%水溶性共重合体(P−1)水溶液をさらに水で1%に希釈した後、ヒドラジド化合物(H)としてアジピン酸ジヒドラジド9gを添加・溶解し、コート剤とした。このコート剤中にポリスチレン製96穴プレート(以下、「96穴プレート」という。)をディップし、引き上げた後、交換水で洗浄し、エアーガンで残余の水を吹き飛ばした。これを40℃で3時間乾燥し、コート済みの96穴プレートとした。
【0057】
4.1.3.非特異吸着防止効果の測定
コート済みの96穴プレートを水で3回洗浄し、これに、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識マウスIgG抗体(ミリポア社製「AP124P」)水溶液を満たし、室温で30分間インキュベートした後、PBSバッファーで3回洗浄し、TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)/過酸化水素水/硫酸で発色させて450nmの吸光度を測定した。
【0058】
4.1.4.耐久性の測定
コート済みの96穴プレートを2%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で5回洗浄し、上記非特異吸着防止効果を測定した。
【0059】
4.2.実施例2〜4
モノマーおよびヒドラジド化合物(H)を表1に示す組成とした以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0060】
4.3.比較例1
実施例1において、ヒドラジド化合物(H)を使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0061】
4.4.比較例2、3
表1に示すモノマー組成とした以外は実施例1と同様の操作を行った。但し、比較例3のモノマー組成で重合したところ、重合中にポリマー固体が析出し、攪拌が困難になったことから、重合を中止し、未評価のままとした。
【0062】
4.5.比較例4
実施例1において、コート剤の代わりにウシ血清アルブミン(BSA)を用いて、「4.1.3.非特異吸着防止効果の測定」以下と同様の方法にて、BSAを用いた場合の吸光度を測定した。
【0063】
4.6.測定結果
以上の実施例および比較例における非特異吸着防止効果の測定結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1によれば、本実施の形態にかかる生体関連物質の非特異吸着防止コート剤を用いることにより、ヒドラジド化合物(H)を使用しない場合、モノマー(c)を使用しないで合成された共重合体を含む場合、ウシ血清アルブミンを用いた場合に比べて、96穴プレートに対するマウスIgG抗体の非特異吸着量を著しく低減でき、かつ、形成されたコート層が耐久性に優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位(A)および下記一般式(2)で表される繰り返し単位(B)を有する水溶性共重合体(P)と、
一分子当たり少なくとも2個のヒドラジノ基を有するヒドラジド化合物(H)と、
を含有する、生体関連物質の非特異吸着防止コート剤。
【化1】

・・・・・(1)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xは下記式(1a)または(1b)で表される基を示す。)
【化2】

・・・・・(1a)
(式中、RおよびRは独立して、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、或いは、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、およびアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも1つの基で置換された炭素数1〜8のアルキル基である。)
【化3】

・・・・・(1b)
(式中、RおよびRは独立して、単結合、置換または非置換のメチレン基、或いは、置換または非置換の炭素数2〜7の2価のアルキレン基(ここで、RおよびRの炭素数の合計は4〜10である。)を示し、Yは単結合、O、およびSの何れかを示す。)
【化4】

・・・・・(2)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Zは少なくとも1個のアルド基またはケト基を有する有機基を示す。)
【請求項2】
上記水溶性共重合体(P)が、下記一般式(3)で表される繰り返し単位(C)をさらに有する、請求項1に記載の生体関連物質の非特異吸着防止コート剤。
【化5】

・・・・・(3)
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示す。)

【公開番号】特開2009−216572(P2009−216572A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61118(P2008−61118)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】