説明

生体高分子含有インク組成物

【課題】 インク組成物の秘匿情報の抽出感度を向上させ、環境水による秘匿情報の流出耐性を備えるようにする。
【解決手段】 生体高分子含有インク組成物を、金属錯体に生体高分子を固定した金属修飾生体高分子を含有するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文字、画像、各種コードを記載または印刷といったパターン形成をする際に使用され得る生体高分子材料含有インク組成物に関する。より詳細には、例えば、有価証券、カードなどの印刷に用いられ、朱肉、各種着色具による個人認証や真贋鑑定に好適な生体高分子材料含有インク組成物、およびそれを用いた簡易な生体高分子材料抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、生体高分子材料を含んだインクで小切手、紙幣、各種証明書、カード類を印刷等して偽造に対処する、真贋鑑定方法が考えられている。例えば、秘匿情報を有する親水性の生体高分子材料として核酸を有機溶媒(インキビヒクル)へ攪拌機などを使用し、物理的外力により分散させインキ組成物を製造する技術がある(特許文献1参照)。このインキがパターン形成された印刷物は、その真贋が問われた際、適宜、水抽出法等により生体高分子を抽出し、生体高分子が有する秘匿情報を認証することで偽造防止及びブランド保護の効果を発現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−222966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術においては、生体高分子の有機溶媒への分散不均一状態による認証精度の劣化の問題および環境水によって生体高分子材料が流出してしまう秘匿情報の耐水性の問題があった。
【0005】
本発明は上記の問題のない生体高分子含有インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記目的を達成するため、以下のような特徴を備える。
【0007】
本発明の生体高分子含有インク組成物は、金属錯体に生体高分子を固定した金属修飾生体高分子を含有することを特徴とする。
【0008】
本発明の媒体上の文字、画像、各種コード等のパターンから生体高分子を抽出する方法は、前記のインク組成物を用いて作成されたパターンとイオン性液体とを接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の媒体上の文字、画像、各種コード等のパターンの真贋を鑑定する方法は、
・前記のインク組成物を用いて作成されたパターンとイオン性液体とを接触させる工程;
・該パターンとイオン性液体とを接触させることによって得られる生体高分子含有イオン性液体を調製する工程;および
・調製した生体高分子含有イオン性液体中の生体高分子を分析する工程、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の生体高分子含有インク組成物は、金属錯体に生体高分子を固定した金属修飾生体高分子を含有するものである。したがって、生体高分子が有機溶媒中に均一に分散され、その結果、秘匿情報の抽出感度が向上する。また、親水性の生体高分子が金属錯体に固定されると疎水性の金属修飾生体高分子となるため、環境水による秘匿情報の流出耐性を備えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の生体高分子含有インク組成物は、金属錯体に生体高分子を固定した金属修飾生体高分子を含有する。
【0012】
本発明の生体高分子含有インク組成物を製造するには、まず、親水性の生体高分子と金属錯体溶液とを混合・濃縮する。すると金属錯体と生体高分子とが配位結合することにより、疎水性の金属修飾生体高分子が形成される。
【0013】
本発明に使用できる生体高分子としては、例えば糖質、タンパク質、核酸がある。
【0014】
本発明に使用できる金属錯体の中心金属としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル、銅、金、白金、クロム、パラジウムなどがある。
【0015】
この疎水性の金属修飾生体高分子を有機溶媒(インキビヒクル)へ攪拌・分散させることにより生体高分子含有インク組成物を得ることができる。このとき親水性の生体高分子をそのまま有機溶媒(インキビヒクル)へ攪拌・分散させる場合とは異なり、疎水性の金属修飾生体高分子は生体高分子含有インク組成物中で均一に分散される。
【0016】
本発明に使用できる有機溶媒としては、例えばアセトン、セロソルブアセテート系溶媒、セロソルブ系溶媒、アルコール系溶媒などの有機溶媒がある。
【0017】
この生体高分子含有インク組成物には、必要に応じ、染料または顔料などの着色料、染料または顔料定着材用の樹脂、その他の添加物を混合したインク組成物としてもよい。
【0018】
このようにして調製される本発明の生体高分子含有インク組成物を適宜媒体上に文字、画像、各種コード等のパターン形成をすることにより、識別可能な文書、印刷物等を作成することが可能である。ここで、「パターン形成」とは、インクを使用して印刷するような態様のみならず、媒体にインクを塗りつける、あるいはインクで媒体に文字等を手書きするような態様もすべて含む。このときの媒体は、紙、プラスチック樹脂、布地などが挙げられるが限定はされず、通常の印刷物に使用し得る媒体はすべて使用できる。疎水性の金属修飾生体高分子は生体高分子含有インク組成物中で均一に分散されているので、印刷物等の表面にパターン形成された生体高分子含有インク表面に疎水性の金属修飾生体高分子が存在するようにできる。その結果、秘匿情報の抽出感度が向上する。また、金属修飾生体高分子は疎水性となるため、環境水によっても秘匿情報が流されることがなく流出耐性を備えることができる。
【0019】
本発明においては、このようにして得られた媒体上の生体高分子含有インクをイオン性液体と接触させることによって簡単に生体高分子を抽出または分析することができる。イオン性液体としては、例えば塩化ナトリウム水溶液などが使用できる。
【0020】
イオン性液体との接触は、生体高分子含有インクのパターン上に直接イオン性液体を垂らし、1秒以上1時間以下のような短い時間、より簡便に行う場合には10秒から1分程度放置することで行い得る。
【0021】
放置後イオン性液体を回収し、生体高分子が核酸である場合には核酸をPCR法などで増幅させて短時間で分析することが可能である。また、回収液を直接プローブにハイブリなども可能である。
【0022】
あるいは、パターン形成した箇所を紙などの媒体ごと切り取り、直接PCR用の溶液などに加え、PCRを行うことも可能である。
【0023】
本発明の生体高分子含有インク組成物を用いて形成されたパターンは、パターンの真贋を、生体高分子の識別力を利用して鑑定することができる。この方法は、本発明の生体高分子含有インク組成物を用いて作成されたパターンとイオン性液体とを接触させること、得られる生体高分子含有イオン性液体を回収すること、イオン性液体中の生体高分子を分析することが含まれる。
【0024】
分析は、限定はされないが、生体高分子が核酸である場合、PCR法によって核酸を増幅させた後、アガロースゲル電気泳動にて核酸断片の大きさを確認する方法や、塩基配列を決定して所定の核酸であることを確認する方法によって行うことができる。あるいはより簡便に、標識プローブなどを用いたハイブリダイゼーション法を用いて検出するのも好ましい。具体的には、対象の核酸の一部塩基配列と相補的な配列を有する合成核酸プローブを予め用意し、一定条件下でハイブリダイゼーションを行わせ、2本鎖の形成の有無を、例えば、金コロイド溶液による変色の有無で識別することもでき、またサイバーグリーン、サイバーセーフのような蛍光試薬で識別することができる。
【0025】
PCR法自体は周知であり、そのためのキット及び装置も市販されているので、用いるフォワード側プライマー、リバース側プライマーを合成すれば、容易に実施できる。さらに識別プローブも周知であり、対象核酸の配列に応じて適宜合成すれば、容易に実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体に生体高分子を固定した金属修飾生体高分子を含有する生体高分子含有インク組成物。
【請求項2】
媒体上の文字、画像、各種コード等のパターンから生体高分子を抽出する方法であって、請求項1に記載のインク組成物を用いて作成されたパターンとイオン性液体とを接触させる工程を含む方法。
【請求項3】
媒体上の文字、画像、各種コード等のパターンの真贋を鑑定する方法であって、
・ 請求項1に記載のインク組成物を用いて作成されたパターンとイオン性液体とを接触させる工程;
・ 該パターンとイオン性液体とを接触させることによって得られる生体高分子含有イオン性液体を調製する工程;および
・ 調製した生体高分子含有イオン性液体中の生体高分子を分析する工程、
を含む、方法。

【公開番号】特開2011−140601(P2011−140601A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3261(P2010−3261)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】