説明

生体高分子固定化促進用基材、生体高分子の固定化方法および生体高分子の結晶化方法

【課題】タンパク質などの生体高分子を、基材上の任意の位置に一〜数分子単位で位置制御しながら、固有の立体構造を保持し機能活性を維持しつつ緩和に固定化する方法を提供する。
【解決手段】基材表面にナノ加工、例えば、直径500nm以下の複数のくぼみ、または幅500nm以下の溝を設ける工程、および前記くぼみ又は溝に生体高分子を主に物理的に吸着して固定化する工程を含む、生体高分子の固定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質などの生体高分子の固定化促進用基材、該基材を用いた生体高分子の固定化方法および生体高分子の結晶化方法に関する。より具体的には、本発明は、ナノテクノロジー(ナノ微細加工技術や自己集積ナノ構造、ナノインプリント技術など)を利用し、様々な基材の表面上に任意のナノ構造(点や線またはそれらの周期構造)を作成することで、ナノ構造と生体高分子の表面の相互作用を利用して、生体高分子をそのナノ構造と基材材料に応じて任意のパターンで配置・積層させる技術、およびそれを利用して生体高分子を効率よく結晶化させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固体材料表面上にパターンを形成し、そこにタンパク質などの生体高分子を吸着させるという試みはすでになされている。
例えばS.J.Lukasらは、シリコン(Si)基板上の二酸化珪素(SiO2)薄膜にマイクロメーターサイズのパターンを形成し、パターン内の酸化膜を除去した上に、タンパク質であるアルブミンの吸着を行っている(非特許文献1)。しかし、この方法では、パターンのサイズがマイクロメーター以上であり、そのためにタンパク質吸着を一分子単位で制御しているわけではなく、マクロスコピックな吸着となっている。
また、T.Taniiらは、Si基板上にナノメートルサイズのパターンを形成し、そのパターン内を塩基修飾し、そこにタンパク質などの生体高分子を配位させる事により、生体高分子のパターン化を行っている(非特許文献2)。しかし、この方法は、単にパターンによる生体高分子の固定化を目指したものであり、生体高分子一つ一つの位置を制御した固定化・パターン化とは言えない。また、アミノ基への配位により、生体高分子の機能活性が失われる可能性がある。
【0003】
一方で、ナノ構造材料を用いて生体高分子の自己集積化を促進させようという試みも、いくつか行われてきている。例えば、「ゼオライトを用いたタンパク質結晶化方法(特許文献1)」では、人工ゼオライト表面上のナノサイズ小穴がタンパク質分子の集積化に影響を与えることが示唆されている。しかしながら、この方法では人工ゼオライト小穴の直径、ピッチなどの配列パターンを任意に変更することは不可能であり、生体高分子を任意に基板上に配向させることは不可能であるという問題点がある。
【特許文献1】特開2007−55931号公報
【非特許文献1】S.J. Lukas et.al., Biomedi. Sci. Instr., 41(2005), 181.
【非特許文献2】T. Tanii et.al., JJAP 44(2005), 5851.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般にタンパク質や核酸(DNA、RNA)などの生体高分子は、数ナノ〜数十ナノメートルの大きさであり、それらを任意に0次元、1次元、2次元あるいは3次元的に位置を制御しつつ固定化することは難しい。特に、タンパク質はその立体構造が崩れると変性して活性を失うため、特定の強固な結合(共有結合やイオン結合)で固定化すると失活することがある。また、単に平滑な基材面へ吸着しても構造が壊れて失活することが多い。
しかし、生体中では、タンパク質などの生体高分子は溶液中で安定に存在し、加えて、生体分子同士はよく鍵と鍵穴にたとえられるように、表面形状を認識して、お互いの表面での多数の弱い相互作用により、特異的に結合する。このように特定のタンパク質や核酸が集合することは珍しくなく、このことで生物活性を生んでいることが多い。
そこで、本発明では、タンパク質などの生体高分子を、化学吸着等の破壊的な吸着(生
体高分子の機能活性を失う可能性のある吸着)ではなく、その活性を維持しつつ物理的にソフトに吸着させ、かつ、生体高分子を一〜数分子単位で制御しながら固定化する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、基材表面にナノメートルサイズのパターン(ナノパターン)を形成し、そこにタンパク質やタンパク質複合体を物理的に吸着させることで、タンパク質やタンパク質複合体を活性を維持した状態で、一〜数分子単位で制御しながら固定化できることを見出した。また、固定化をタンパク質やタンパク質複合体が結晶化する条件で行うことにより、基材上にタンパク質やタンパク質複合体の結晶が効率よく作製されることを見出して本発明を完成させた。
【0006】
本発明の基本概念は、「任意の形状及び繰返し周期を持つナノ構造(固定対象となるタンパク質などの生体高分子の1分子と同程度の大きさおよび形状を有するナノ構造)を作成し、生体高分子がナノ構造中に立体構造を保持しつつ、すなわち機能活性を維持しつつ緩和に包埋された状態で固定化させる」ということである。生体高分子は、結合相手である基材の表面電化分布や形状により結合する。
すなわち、本発明は、生体高分子の固定化促進用基材であって、基材表面にナノパターンを有することを特徴とする生体高分子の固定化促進用基材を提供する。
前記ナノパターンは、直径500nm以下の複数のくぼみ、または幅500nm以下の溝であることが好ましい。また、前記基材は、シリコン、酸化アルミニウム、金属、プラスチック、またはガラスを素材とすることが好ましい。また、前記生体高分子が、タンパク質又はタンパク質複合体であることが好ましい。
本発明はまた、前記基材を用いて、前記ナノパターンに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を含む、生体高分子の固定化方法を提供する。
本発明はまた、基材表面にナノパターンを設ける工程、および前記ナノパターンに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を含む、生体高分子の固定化方法を提供する。
本発明はまた、前記ナノパターンに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を生体高分子が結晶化する条件下で行い、生体高分子を結晶化させて基材に固定化させる、前記固定化方法を提供する。
本発明はまた、前記基材を用いて、前記ナノパターンに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を含む、生体高分子の結晶化促進方法を提供する。
本発明はまた、基材表面に直径500nm以下の、直径の大きさが異なる複数種のくぼみを設ける工程、および前記くぼみに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を含む、生体高分子の結晶化条件のスクリーニング方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
従来の「生体高分子パターン化」では、そのパターンの大きさが生体高分子の大きさに比して桁違いに大きく、タンパク質などの生体高分子を分子単位で位置制御することはできなかった。本発明の方法では、生体高分子の大きさに準じた大きさを基準としたナノ構造を利用し、生体高分子を一〜数分子レベルで任意のパターンに位置制御することができる。
また、本発明の方法では、生体高分子の固定化に際し、従来のように化学吸着等の強固な結合を避け、基材上に作成された極微細形状中に生体高分をファンデルワールス力等を利用して緩和に捕捉する事により、生体高分子の機能活性を維持したまま基材上に配列固定させることが可能である。
【0008】
更に、タンパク質などの生体高分子が基材上に規則的に積層すると結晶の成長を促すことになるが、従来手法とは異なり、ナノ構造(自己組織化構造の場合にはその周期ピッチ)を任意に設計することが可能であり、更にその下地物質(基材)を必要に応じて選択で
きることから、生体高分子の規則集合体の吸着条件をより自由に制御し、高品質な単結晶を得る確率がより高くなる。
本発明の方法によりタンパク質またはタンパク質の複合体の単結晶を作成した場合、基材上のナノパターンのピッチや単一セル形状を自由に設計し、結晶の構造(空間群、分解能など)に対してより近似的な構造に制御することが可能になる。それによってX線結晶構造解析に最適な単結晶作成を行うことができる。また、従来の結晶化方法では得ることができなかった、難結晶性タンパク質の結晶化も可能となり、タンパク質の立体構造解析に基づいた創薬、生命科学研究に貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の生体高分子結晶化促進用基材はその基材表面にナノパターンを有するものである。ここでナノパターンとは、複数の点や線で形成されるパターンであって、点の大きさや線の太さ、またはそれらの間隔が生体高分子に比して同程度の1nm〜500nmである二次元模様であり、またその模様が基板材料の凹凸(くぼみ又は溝)によって形成されているもの、または平坦ではあるが材質の違いによる二次元模様を形成しているもの、または平坦であり材質も同じであるが表面の化学的修飾により表面性質の違いによる二次元模様を形成しているものを指す。このなかでくぼみ又は溝が好ましい。
【0010】
本発明の生体高分子の固定化方法においては、本来的に表面にナノパターンを有する基材を用いてもよいが、人工的に基材表面にナノパターンを形成させ、それを用いることが好ましい。基材表面に直径500nm以下の複数のくぼみ、または幅500nm以下の溝を設ける工程を行うことによって作成された基材を用いることが好ましい。ここで、くぼみの直径、および溝の幅は、3〜500nmであることが好ましく、5〜200nmであることがより好ましく、10〜100nmであることが特に好ましい。
基材の素材は、シリコン、二酸化珪素(ガラス)、各種プラスチック、金属(金、白金、パラジウム、ニッケル等の、生体高分子溶液により侵食されにくい金属が望ましい)、酸化アルミニウム(アルミナ)などの金属酸化物等が挙げられる。基材の形状は特に制限されないが、平板(基板)が好ましい。また、基材は、タンパク質またはタンパク質複合体などの生体高分子の固定化をさらに向上させるために、コーティング処理されたものであっても良い。ここで、コーティング処理は金属によるコーティング処理が挙げられる。
【0011】
基材表面に直径500nm以下の複数のくぼみ、または幅500nm以下の溝を設けるためには、電子線リソグラフィー、イオンビームリソグラフィー等によりナノ微細加工を行う。
電子線リソグラフィーには、Electron Beam Elionix ELS7500などの装置を使用することができる。また、イオンビームリソグラフィーには、Focused Ion Beam SEIKO SPI2050などの装置を使用することができる。
また、一旦パターンが形成された後は、それをマスターとしたナノインプリント技術により複製された構造を利用することもできる。
【0012】
また、基材表面に電気化学処理によってくぼみや溝を設けても良い。例えば、酸化アルミニウムを基材の素材とするときは、陽極酸化ポーラスアルミナ皮膜を形成することで直径500nm以下の複数のくぼみを設けることができる。
陽極酸化ポーラスアルミナ(アルマイトとも呼ばれる)を形成させる方法は公知であり、Masuda et. al., Appl. Phys. Letter, vol. 71, No. 19, 1997などに記載されている。具体的には、希硫酸やシュウ酸、リン酸などを用いてアルミニウムを陽極として電気分解することにより、アルミニウムの表面を電気化学的に酸化させ酸化アルミニウムAl2O3の多孔質酸化皮膜を生成させる。
くぼみの大きさやパターンは電流の大きさ等を変えることにより適宜調節することができる。
【0013】
基材表面に直径500nm以下の複数のくぼみを形成する際は、くぼみは任意の位置に形成することができるが、基材表面に前後左右、なるべく一定の間隔(ピッチ)でくぼみを形成することが好ましい。この場合、くぼみ同士の間隔は50〜500nmであることが好ましい。くぼみ同士の間隔を一定にすることにより、タンパク質またはタンパク質複合体を規則正しく配向させることが出来、タンパク質またはタンパク質複合体を固定化した後、相互作用解析などに使用する際に有効である。なお、くぼみは完全な円形である必要はなく、楕円形等であってもよく、その際は、長径と短径のいずれか又は両方が500nm以下であればよい。
【0014】
基材表面に幅500nm以下の溝を形成する際は、溝は基材の表面に任意のパターンで作成することができる。溝は直線状、曲線状でもよい。溝は複数形成されても良い。
【0015】
次に、上記の様にして形成されたくぼみ又は溝等のナノパターンに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を行う。物理吸着とは、ファンデルワールス力など、タンパク質と基材との物理的相互作用による吸着を意味し、共有結合やイオン結合による結合は含まない。なお、本発明の固定化方法において、生体高分子は、基材表面のナノパターンに加えて、ナノパターン以外の場所にも固定化されてよい。すなわち、ナノパターンを有する基材表面に固定化されればよい。
【0016】
生体高分子としてはタンパク質や核酸などが挙げられるが、タンパク質またはタンパク質の複合体が好ましい。タンパク質またはタンパク質の複合体の種類は特に制限されず、任意のタンパク質またはタンパク質の複合体を固定化に使用することができる。例えば、酵素、受容体、転写因子などのタンパク質やそれらの部分ペプチドが例示されるが、機能未知のタンパク質や人工タンパク質であってもよい。タンパク質の複合体としては、タンパク質同士の複合体のみならず、タンパク質とDNAやRNAなど核酸の複合体も使用することができる。
【0017】
以下、タンパク質またはタンパク質の複合体の固定化を説明するが、他の生体高分子も同様に固定化することができる。
固定化の手法はタンパク質と基材との相互作用を利用した物理的吸着による方法であれば良いが、簡易的には、上記のようにしてナノ構造が形成された基材を、タンパク質またはタンパク質の複合体が含まれる溶液の中に浸すことにより固定化を行うことができる。タンパク質の濃度、溶媒、固定化時間はタンパク質の種類や固定化密度に応じて適宜調節できる。基材をタンパク質またはタンパク質の複合体が含まれる溶液の中に浸して一定時間おいた後、基材を取り出し、洗浄することで、基材表面のくぼみや溝のナノ構造にタンパク質またはタンパク質の複合体が固定化される。
【0018】
上記の固定化操作をタンパク質またはタンパク質の複合体が結晶化される条件で行うと、基材表面にタンパク質またはタンパク質の複合体を結晶化させることができる。例えば、タンパク質またはタンパク質の複合体を、結晶化用のバッファーに溶解し、シッティングドロップ蒸気拡散法やハンギングドロップ蒸気拡散法などにより結晶化させることができる。タンパク質またはタンパク質の複合体の結晶化の条件は、タンパク質またはタンパク質の複合体の種類に応じて適宜設定することができる(蛋白質核酸酵素 Vol.43 No.14「PNEモノグラフ タンパク質のX線解析」)。
【0019】
本発明の方法を使用することにより、タンパク質またはタンパク質の複合体を配向を制御しつつ固定化することが出来るので、タンパク質またはタンパク質の複合体の結晶が成長しやすく、X線結晶構造解析などに適した大きい結晶を効率よく作製することができる。
【0020】
また、表面に直径500nm以下の、直径の大きさが異なる複数種のくぼみを設けた基材を用意し、該基材にタンパク質またはタンパク質の複合体などの生体高分子を該生体高分子が結晶化する条件で固定化する工程を行うことにより、生体高分子の種類に応じて、結晶化に適した条件(くぼみの大きさ)を探索する、生体高分子の結晶化条件のスクリーニング方法を行うこともできる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0022】
<極微細加工基板の製造と生体高分子の固定化実験>
以下に、リボソーム(タンパク質とRNAの複合体)を極微細加工基板に固定化した例を示す。
極微細加工基板は、電子ビームリソグラフィーにより作成した。基板はSi(100) P+-type(boron dope) 350micron-thick, no oxide film, <0.00099ohm-cm (Virginia Semiconductor Inc.,) を5.5mm角にカットして使用した。極微細加工の手順は以下のとおりである。
1. アセトンおよびイソプロピルアルコールによる超音波洗浄
2. レジスト「OEBR-1000」(東京応化工業)塗布。スピンコーター、500rpm:5sec., 5000rpm:40sec.。
3. ベーキング。大気中にて170℃、20分間。
4. 電子ビームリソグラフィー装置ELS-7500(Elionix)にて露光。70nmのドットマトリクス(140nmピッチ)、または100nmのラインアンドスペース(200nmピッチ)を形成した。
5. 現像。OEBR-1000専用現像液。
6. アルゴンイオンスパッタ装置にて金薄膜堆積。約5nm厚。
【0023】
リボソームの固定化は以下のように行った。まず、-80℃保存された大腸菌由来リボソーム試料(15mg/ml)を室温で溶解し、緩衝液(10mM HEPES, pH7.0, 10mM NaCl, 10mM MgCl2 3%(v/v) glycerol)で1万倍に希釈した。このタンパク質溶液中に極微細加工したSi(100)基板を5分間浸漬した。
液中でのリボソーム固定化観察は、走査型プローブ顕微鏡SEIKO社製SPA-400、プローブはVeeco社製DNP-Sにて行った。図2がその結果である。
【0024】
<極微細加工基板の製造と生体高分子の配列・積層実験>
以下に、リゾチウムの結晶化に本方法を適用した例を示す(図3)。
本実施例に於いて、ナノ構造を持つ基板として自己組織化ナノ構造を用いた。具体的には陽極酸化ポーラスアルミナを用いた。陽極酸化ポーラスアルミナの製作は、陽極・陰極共に、高純度99.999%のアルミの板(50mm x 10mm x t1mm、株式会社ニラコ)を使用して陽極酸化処理を行った。その手順は以下のとおりである(参考文献:Masuda et. al., Appl. Phys. Letter, vol. 71, No. 19, 1997)。
【0025】
1.0.3Mシュウ酸50ccをビーカーに取り、室温にてアルミ電極を深さ10mmまで浸す。陽極・陰極間の距離は30mmで、スターラーによって攪拌しながら8mAの定電流モードにて陽極酸化処理を行う。時間は80分間。それによって自己組織化ハニカム構造を作る。
2.純水にて超音波洗浄、5分間。
3.8.5%リン酸50cc、ウォーターバススターラーにより60℃に暖め、また攪拌しながら陽極アルミ板を浸し、ポーラスアルミ化した表面を除去。時間は10分間。ハニカム構造のディンプルを表面に残す。
4.純水にて超音波洗浄、5分間。
5.0.3Mシュウ酸、室温にて陽極酸化。8mAの定電流モード。10分間。
6.純水にて超音波洗浄、5分間。
7.8.5%リン酸60℃、攪拌しながら30秒間。これにより、ポーラスの穴径およびピッチを調整(穴径約20nm、ピッチ約30nm)。
8.純水にて超音波洗浄、5分間。
9.必要なサイズにカット。
【0026】
結晶化は、hen-egg white lysozyme (HEWL, Sigma社製) (75mg/ml)溶液を5μLと、同量の結晶化溶液( 0.1M CH3COONa pH4.3, 2.0M NaCl, 30% (v/v) glycerol )を混合し結晶化ドロップを結晶化ブリッジ(Hampton Research社製)上に形成し、500μLの母液を用いてシッティングドロップ蒸気拡散法(実験化学講座11 物質の構造III回折 丸善株式会社(2006))で行った。また、ドロップ中にアルミナ基板(極微細孔無し)あるいは極微細孔を持つポーラスアルミナ基板を加える方法も試みた。結晶化プレートを20℃で数日インキュベーションし、観察を試みた。図3に示すように通常結晶化ドロップ(中には、6〜7個のリゾチウム結晶が確認される。一方、同一条件の結晶化ドロップ中にアルミナ基板(極微細孔無し)を液中に挿入した場合(中央写真)では、アルミナ基板とリゾチウム結晶間に相互作用は見られず、結晶数も6〜7個である。一方、基板表面に極微細孔を持つポーラスアルミナ基板を液中に挿入した場合(右写真)では、基板から結晶が成長しており、基板表面に結晶が強固に固着している。また、結晶数も2〜3個に減少しており、各結晶はより大きく成長している。これらは、基板によってリゾチウム分子の配向・積層を制御することが可能であることを示している。
【0027】
<X線回折による分子配向・積層性の評価>
本方法により製造されたリゾチウム結晶の性質を調べるために、放射光(SPring-8 BL26B2 ビームライン)を用いてX線回折測定を行った。得られた回折像は、図4(b)に示すようにモザイク性の小さな回折点が高分解能まで得られたことから、結晶中でリゾチウム分子は整然と配列・積層していることが示された。この結果は、本方法の有効性を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の方法により、タンパク質やタンパク質複合体を天然の立体構造を保ったまま任意の配置で基材上に固定化することが可能となる。更に、固体材料やその表面コーティング材料を適切に選ぶことにより、固定化されたタンパク質の変性や機能の低下を抑える事も可能となる。
本発明により、新規のバイオセンサーの開発や、タンパク質の構造解析のための2次元、3次元の結晶化の促進が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ナノ微細加工による生体高分子の配列・積層技術の概念図。基板上に作成されたナノ構造の種類により、様々な性質の生体高分子結晶が作成される。
【図2】シリコン基板上の金コートレジストのナノ構造に固定化されるリボソームの図(写真)。(a) 70nmのドットマトリクス(140nmピッチ)上のリボソーム。(b)拡大画像。25nm径の粒子それぞれがリボソーム。(c) 100nmのラインアンドスペース(200nmピッチ)上のリボソーム。(d)拡大画像。25nm径の粒子それぞれがリボソーム。ライン上に二列に見えるのは、リボソームが、パターンの「角」を好むからと考えられる。
【図3】Porous-Al2O3/Al基板上に形成された極微細孔がタンパク質結晶化に及ぼす効果を示す図(写真)。
【図4】本方法で製造されたリゾチウム結晶のX線回折実験を示す図(写真)。(a) 結晶化ループにマウントされたリゾチウム結晶. (b) X線回折像. モザイク性の良好な回折点は1.6 A以上まで得られている。これは、結晶内でリゾチウム分子が高度に配向・積層していることを示す。得られた結晶は空間群P43212, 格子定数a=b=7.86nm, c=3.69nm. (c) 結晶内でのリゾチウム分子の配列・積層の様子(一部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体高分子の固定化促進用基材であって、基材表面にナノパターンを有することを特徴とする生体高分子の固定化促進用基材。
【請求項2】
前記ナノパターンが、直径500nm以下の複数のくぼみ、または幅500nm以下の溝である請求項1に記載の固定化促進用基材。
【請求項3】
シリコン、酸化アルミニウム、金属、プラスチック、またはガラスを素材とする、請求項1又は2に記載の固定化促進用基材。
【請求項4】
前記生体高分子が、タンパク質又はタンパク質複合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の固定化促進用基材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の基材を用いて、前記ナノパターンに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を含む、生体高分子の固定化方法。
【請求項6】
基材表面にナノパターンを設ける工程、および前記ナノパターンに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を含む、生体高分子の固定化方法。
【請求項7】
前記ナノパターンに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を生体高分子が結晶化する条件下で行い、生体高分子を結晶化させて基材に固定化させる、請求項5または6に記載の固定化方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の基材を用いて、前記ナノパターンに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を含む、生体高分子の結晶化促進方法。
【請求項9】
基材表面に直径500nm以下の、直径の大きさが異なる複数種のくぼみを設ける工程、および前記くぼみに生体高分子を物理吸着により固定化する工程を含む、生体高分子の結晶化条件のスクリーニング方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−234963(P2009−234963A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81499(P2008−81499)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】