説明

生体高分子/遺伝子複合体

本発明は、エアロゾール伝達方式で遺伝子を伝達するための生体高分子/遺伝子複合体に関する。本発明に係る生体高分子/遺伝子複合体は、一次アミノ酸の一部が糖に置換されたポリエチレンイミン(PEI)を含み、前記ポリエチレンイミンの含量が前記所定の遺伝子の含量の2乃至4倍である。本発明に係るエアロゾール伝達用肺癌治療剤は、30〜40モル%の一次アミノ酸が葡萄糖に置換されたポリエチレンイミン(PEI)及びPTENをコーディングする遺伝子を含む生体高分子/遺伝子複合体を含み、前記生体高分子/遺伝子複合体において前記ポリエチレンイミンの含量が前記遺伝子の含量の2乃至4倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子/遺伝子複合体に関し、より詳細には、遺伝子をエアロゾール方式で伝達するための生体高分子/遺伝子複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
人体腫瘍の約30%において、ras遺伝子の突然変異が発見されている。この遺伝子群には、K-ras、N-ras、及びH-rasなどの3つの遺伝子が存在するが、K-ras突然変異は、肺の悪性線種において最も頻繁に発見される。このような突然変異を有しているマウスには、最もありふれた非小細胞肺癌の組織病変が現れ、短い潜伏期と高い浸透率を示す。
【0003】
ホスファチジルイノシトール(3,4,5)-トリホスフェートの第3番のイノシトールリングのリン酸化を特異的に触媒する第10番の染色体上のホスファターゼ及びテンシン同族体結実(phosphatase and tensin homolog deleted on chromosome 10;以下、「PTEN」という)は、Akt信号伝達経路を抑制し、細胞成長と生存を調節することによって、抗癌遺伝子としての役割をすることが知られている。
【0004】
Aktは、Ras遺伝子の成長要素を活性化させたり、PTENを不活性化させることによって、癌細胞において活性化されるという事実が知られている。
【0005】
最近の報告では、非小細胞肺癌の約90%がPI3K/Akt経路の持続的な活性化と関連しており、このようなAktの活性化は、細胞の生存や、化学療法又はγ照射に対する抵抗性を増加させるという事実が発表された。
【0006】
しかも、K-ras突然変異は、Aktの活性化により肺の悪性線種の活動性を増加させることができる。
【0007】
上述のような事実から、肺癌治療のために、Akt信号伝達を調節する方法が求められている。
【0008】
一方、肺癌治療のために、吸入により遺伝子を伝達する方法が知られている。
【0009】
組換えアデノウイルスベクトル(adenoviral vector)は、気道上皮への高い親和性と、肺細胞への効率的な伝達性を有することから、効果的な遺伝子伝達体として使われている。
【0010】
しかし、組換えアデノウイルスのような組換えウイルスベクトルは、その毒性、反復投与による免疫反応、大量生産の困難性に起因して、実際的な適用には限界があった。
【0011】
非-ウイルスベクトル(non-viral vector)は、ウイルスベクトルに比べて使用しやすく、免疫反応をあまり引き起こさないという利点を有する。また、これらは、高い分子量のDNA分子をも伝達できる能力を含む。
【0012】
最近、いくつかの研究は、ポリリシン(polylysine)、ポリエチレンイミン(polyethylenimine(PEI))、プロタミン(protamine)、及びヒストン(histone)のようなカチオンを有するポリペプチド(polypeptide)とDNAの結合が、in vivoとin vitroの両方において有用な遺伝子伝達方法となることができると開示している。
このようなポリペプチドのうち、PEIは、エアロゾール(aerosol)方式に安定しているという長所を有するため、遺伝子伝達のための伝達体として注目されている。しかし、PEIの使用は、ポリカチオン(poly-cation)の特徴的な蓄積による強い毒性に留意しなければならない。
【0013】
多くの研究者は、噴霧(nebulization)によって肺と肺リンパ節に直接的な、多様な治療剤の伝達に対する可能性を研究してき、PEIを遺伝子治療伝達剤としての使用を試みているが、PEIは、蓄積されて潜在的毒性を誘発することが報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、遺伝子伝達体としてのポリペプチドを使用するために、細胞面に対する付着、エンドサイトシス(endocytosis)、エンドソマルリソソマルネットワーキング(endosomal lysosomal network)からの分離、細胞核内への移動、ベクトル-アンパッキング(vector-unpacking)などが必ず要求される。
【0015】
したがって、このような要件を満足する効率的で且つ安定性を有するエアロゾール遺伝子伝達体の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、生体高分子/遺伝子複合体を提供する。
【0017】
また、本発明は、生体高分子/遺伝子複合体を用いて所望の遺伝子を伝達する方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、効果的なエアロゾール伝達を達成することができ、且つ毒性を減少させた生体高分子/遺伝子複合体を提供する。
【0019】
また、本発明は、生体高分子/遺伝子複合体を用いて癌抑制遺伝子をエアロゾール伝達方式で伝達する方法を提供する。
【0020】
上記技術的課題を解決するために、本発明の一態様に係る生体高分子/遺伝子複合体は、一次アミノ酸の一部が糖に置換されたポリエチレンイミン(PEI)を含み、前記所定の遺伝子の含量の2乃至4倍のポリエチレンイミンの含量を含む。
【0021】
本発明の他の態様に係るエアロゾール伝達用肺癌治療剤は、30〜40モル%の一次アミノ酸が葡萄糖に置換されたポリエチレンイミン(PEI)及びPTENをコーディングする遺伝子を含む生体高分子/遺伝子複合体を含み、前記所定の遺伝子の含量の2乃至4倍のポリエチレンイミンの含量を含む。
【0022】
本発明のさらに他の態様に係る所定の遺伝子をエアロゾール伝達方式で伝達するための生体高分子/遺伝子複合体の製造方法は、生体高分子に一次アミノ酸の一部以上が糖に置換されたポリエチレンイミン(PEI)を含むようにし、前記ポリエチレンイミンの含量を前記所定の遺伝子の含量の2乃至4倍となるようにし、前記生体高分子と前記遺伝子とを結合させることを含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高分子に糖を適切に結合させることによって、細胞への伝達効率性と安定性を増加させた、遺伝子のエアロゾール伝達方法を提供することができる。
【0024】
本発明の生体高分子/遺伝子複合体のエアロゾール伝達によるPTENの伝達がPDK1を抑圧して、Aktキナーゼ活性を抑制することができ、結局窮極的に、腫瘍活性を抑制することができるという効果を達成することができる。
本発明の生体高分子/遺伝子複合体のエアロゾール伝達によるPTENの伝達が、mTORを含むAkt経路だけでなく、mTORに依存したeIF4E-BP1にも影響を与えることによって、肺癌増殖を效果的に抑制することができるという効果を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
目標遺伝子の伝達方法の1つであるエアロゾール伝達方法は、遺伝子を広範囲な表面に適用することができ、他の経路の投与方法で発生し得る潜在的危険性を避けることができるという点から、目標遺伝子の伝達のための効率的で且つ非浸透的な方法であると知られている。
【0026】
本発明は、特定の遺伝子を效果的にエアロゾール伝達方法に適用するための生体高分子/遺伝子複合体を提供する。特に、本発明の実施例に係る生体高分子/遺伝子複合体は、肺癌治療に有効であることが確認された。
【0027】
本発明の実施例に係る生体高分子/遺伝子複合体において、生体高分子として、糖質化生体高分子及び遺伝子としてPTENをコーディングする遺伝子を含むことができる。
【0028】
したがって、本発明の実施例に係る生体高分子/遺伝子複合体の一具現例として、糖質化ポリエチレンイミン(以下、「GPEI」という)にPTENをコーディングする遺伝子が結合されたGPEI/PTEN複合体が挙げられる。
【0029】
一般的に、PEIの細胞毒性は、主として、構成1次アミノ酸から誘発されると思われるが、これらは、全体アミノ酸の約30%を占める。
【0030】
GPEIは、PEIの毒性を克服するために、PEIを構成する1次アミノ酸の特定部位を葡萄糖部分(moiety)に置換し、PEIの親水性を増加させて、PEIの潜在的毒性を減少させたPEI誘導体である。
【0031】
本発明の実施例に係るGPEIは、本発明の効果を達成できるものなら、糖質化程度に特別な制限がないが、好ましくは、糖置換率が30〜40モル%であり、最も好ましくは、糖置換率が約36モル%である。
【0032】
また、本発明の実施例において、生体高分子及び遺伝子の結合比率は、本発明の効果を達成できるものなら、特別な制限がないが、GPEI/遺伝子複合体は、好ましくは、GPEIと遺伝子が2〜4:1の割合で結合されたものを含む。
【0033】
肺癌治療のための本発明の一具現例は、GPEIに肺癌を抑制する遺伝子を結合して、GPEI/肺癌抑制遺伝子の複合体を製造し、エアロゾール伝達方式で伝達することを含むことができる。この際、肺癌抑制遺伝子としてPTENを使用することができる。
【0034】
また、本発明の実施例に係るGPEIは、共に結合される遺伝子の伝達活性を強化させることができる。
【0035】
このようなGPEIの強化は、一層効果的なポリプレックスアンパッキング(polyplex unpackaging)、変更されたトラフィッキング(trafficking)と、肺細胞大食細胞の攻撃から避難に起因するものと思われる。しかも、代替された葡萄糖分子は、肺腫瘍細胞にGPEI/PTEN複合体が選択的に吸収されるように促進する役割をするものと思われる。PETは、葡萄糖の類似体である18F-FDG(fluorine 18 fluorodeoxyglucose)分布のイメージで構成されていて、この物質は、正常組織よりは大部分の腫瘍において多量で蓄積される。
【0036】
一方、Aktは、セリン/トレオニンキナーゼ(serine/threonine kinase)で、細胞生存と増殖を起こす信号経路に重要な媒介体として作用する。Aktは、完全な活性のために、Thr308とSer473のリン酸化を要求する。図3から分かるように、本発明の一実施例に係るGEI/PTENのエアロゾール伝達結果から分かるように、Thr308リン酸化は、Aktの発現水準を大いに抑制するが、Ser473リン酸化は、Aktの発現水準に影響を与えないものと思われる。
【0037】
Aktのアップストリームキナーゼ(upstream kinase)であるPDK1は、Thr308をリン酸化すると知られている。しかし、Ser473リン酸化を担当するキナーゼの正体は、未だ正確に知られていない。いくつかの実験結果から、ホスファチジルイノシトール3,4,5-トリホスフェート結合(phosphatidylinositol 3,4,5-triphosphate binding)がPDK1の膜位置(membranelocalization)とキナーゼ活性に重要であることを推測することができる。
【0038】
一方、Aktダウンストリームターゲットの蛋白質水準、すなわち、4EBP1及びp70S6KがPTEN伝達により影響される。このような結果から分かるように、Thr308リン酸化の抑制がAktダウンストリームターゲットを調節できることを示唆する。最近の報告によれば、PDK1は、細胞質-核間の循環蛋白質であり、核内の移動は、PI3K経路により調節される。PDK1の核内の位置化は、PTEN-欠乏細胞において増加するが、このような事実は、PTEN遺伝子伝達がAkt信号経路の機能に絶対的に影響を及ぼすことができることを裏付ける。
【0039】
PDK1は、Aktのリン酸化により抗-細胞自殺(antiapoptosis)に寄与することが知られている。Akt活性の抑制が、広範囲なほ乳動物細胞において細胞自殺(apoptosis)を誘導することが報告されている。
【0040】
また、Aktは、抗-細胞自殺信号と増殖の活性化だけでなく、細胞浸潤と血管生成の促進により腫瘍の進行に貢献することが知られている。
【0041】
このような事実から、本発明の実施例に係る生体高分子/遺伝子複合体のエアロゾール伝達によるPTENの伝達が、PDK1を抑圧して、Aktキナーゼ活性を抑制し、結局窮極的に、腫瘍活性を抑制できる効果を達成できることを期待することができる。
【0042】
一方、PI3KのようなPTENのダウンストリーム作用基(downstream effectors)は、細胞自殺、浸湿、移動と成長を含む多様な細胞過程を引き起こす多くのダウンストリーム経路を調節することが知られている。
【0043】
マウスの肺において、PTEN関連蛋白質の増加は、多くの機能的な結果を引き起こす。具体的に、癌細胞においてPTENの過発現は、PI3Kの抑制による細胞周期の停止と細胞死滅を引き起こす。
【0044】
また、PI3Kの抑制が膀胱癌の浸透能を高い水準に減少させるという事実が知られている。
【0045】
PTENの他の潜在的なダウンストリームターゲットは、翻訳調節に関連した群である4E-BP’sである。この蛋白質は、これらが結合するeIF4Eに対する親和度を減少させるmTORのリン酸化により成長と細胞ストレスに関連した信号伝達経路の作用基(effectors)として活性を有する。
【0046】
最近、mTORは、細胞調節因子であるS6K1と4E-BP1/eIF4Eによる細胞周期増加を調節し、これは、増加したPTENがK-ras無標識(null)マウス肺癌モデルにおいて細胞増加を変化させることと関連した他の機作を提示できることが知られている。
【0047】
このような事実から、本発明の実施例に係る生体高分子/遺伝子複合体のエアロゾール伝達によるPTENの伝達が、mTORを含むAkt経路だけでなく、mTORに依存したeIF4E-BP1にも影響を与えることによって、肺癌増殖を效果的に抑制できる効果を達成できることを期待することができる。
【0048】
以下では、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、詳細に説明する。しかし、本発明は、いろいろな形態で具現されることができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0049】
本発明の実施例において使われる抗-eIF4Eは、BD Biosciences社(San Jose,CA)から購入し、抗-PDK1は、Upstate Biotechnology社(Waltham,MA)から購入した。抗-PTEN、抗-ホスホ-mTOR、及び抗-4E-BP1は、Cell Signaling Technology社(Beverly,MA)から購入した。ウェスタンブロット分析と免疫組織化学に使われた他の抗体は、Santa Cruz Biotechnology社(Santa Cruz,CA)から購入した。
【0050】
下記の実施例において、ウェスタンブロット分析の定量化は、Multi Gauge ver2.02 program(FUJI FILM)を使用して行った。ウェスタンブロットの結果に基づいて算出したアクチン(actin)で標準化したリン酸化-Akt/全体Akt比率は、Student’s t-testを使用して比較した。
【0051】
実施例1:GPEI及びGPEI/DNA複合体製造
GPEIは、シアノボロハイドリド(cyanoborohydride)を使用してPEI(M.W.25K)とセロバイアス(cellobiose)との反応で製造した。
【0052】
GPEI内において最適のグルコース置換値を求めるために、多様な濃度の糖置換率(モル%)に対するA549細胞においてMTT細胞毒性分析を用いて細胞生存率を調べた。これにより、最適のグルコース置換値に置換されたGPEIを収得した。
【0053】
図1は、多様な濃度の糖置換率(モル%)に対するMTT生体内の(in vivo)細胞毒性試験結果を示す。
【0054】
図1から、PEIのほぼ全てのアミノ酸群が還元性アミン化反応によって2次アミノ酸群に変形されたGPEIが、低い細胞毒性を示すことが分かり、それらのうち36モル%GPEIが最も低い毒性を示すので、本実施例のエアロゾール遺伝子伝達には、36モル%GPEIを使用した。
【0055】
蒸溜水に1mgのDNAを溶解させ、弱く攪拌しながら、GPEI伝達体を少しずつ点滴して、DNAとGPEI伝達体を1:2.67の結合割合で混合し、最終体積が50mLとなるように蒸溜水を補充した。
【0056】
その後、混合物を室温で30分間反応させて、GPEI/DNA複合体を製造した。DNAとして、本発明の実施例1で使われるpcDNA3.1-GFPは、Invitrogen社(Carlsbad,CA)から購入し、pcDNA3.0-PTENは、Dr.Whang(UNC at Chapel Hill)から寄贈された。
【0057】
その後、GPEI/DNA複合体のエアロゾール伝達効率を確認するために、GPEI/GFPプラスミドDNAに露出された肺組織において免疫組織化学染色を実施した。
【0058】
図2は、本発明の生体高分子/遺伝子複合体がマウス特異的な大食細胞及び単核細胞に対する免疫組織化学染色分析結果を示す。
【0059】
図2のa及びbにおいて、肺に伝達された本発明の生体高分子/遺伝子複合体は、GPEI/pcDNA3.1-GFPであり、図2のc及びdにおいて、伝達された本発明の生体高分子/遺伝子複合体は、GPEI/pcDNA3.1である。図2のa及びcにおいて、標識は、肺細胞の大食細胞と単核細胞により食われたGFPの一部を示し、図2のbにおいて、標識は、肺細胞内に伝達された大部分のGFPを示す。
【0060】
図2のように、免疫組織化学染色で観察した結果、一部の少量は、大食細胞や単核区により食われたが、大部分のGPEI/GFP DNA複合体は、肺細胞内に十分に伝達された。
【0061】
このような図2から、本発明の実施例に係る生体高分子/遺伝子複合体のエアロゾール伝達方法が效率的に作用したことが分かる。
【0062】
実施例2:エアロゾール伝達方式を用いたGPEI/DNA複合体の生体内の伝達
15週齢の雄性K-ras無標識マウスをHuman Cancer Consortium-NCI社(Frederick,MD)から購入し、温度は、23±2℃に、相対湿度は、50±20%に、光照量12時間に設定して飼育した。マウスをnose-only exposure chamber(Dusturbo、Seoul,Korea)(以下、「NOEC」という)に入れて、前記実施例1の複合体をエアロゾール方式でマウスに約30分間投与した。エアロゾールは、ネブライザ(nebulizer)(#20304964、Dusturbo)を使用して発生させた。本実施例では、実施例1の方法によって1mgのpcDNA3.0-PTENプラスミドDNAを含む複合体を使用した。エアロゾールにマウスを露出してから2日後、マウスの肺試料を採取した。
【0063】
実施例3:ウェスタンブロット分析
GPEI/PTEN複合体に露出されたK-ras無標識マウスにおいてAkt-関連信号伝達経路の構成要素であるPDK1、Akt1、PTEN、mTOR、4E-BP1、及びp70S6Kのような蛋白質発現の変化を調べるために、ウェスタンブロットで分析した。
【0064】
実施例2から得られた肺試料を溶解バッファ(Promega社、Madison,WI)を用いて均質化し、採取された蛋白質は、Bradford kit(Bio-Rad社,Hercules,CA)を用いて定量した。同量の蛋白質をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロースメンブレイン(Amersham Pharmacia社,Cambridge,UK)へ移動させた。その後、メンブレインを1時間ブロッキング(blocking)させた後、室温で2時間特定の抗体と反応させた。洗浄後、メンブレインをHRPが標識されている二次抗体と反応させて、Westzol enhanced chemiluminescence detection kit(Intron社,Sungnam,Korea)を用いて反応させた。発光されたバンドは、LAS-3000(FUJI FILM社、Tokyo,Japan)を用いて確認した。
【0065】
図3は、本発明の生体高分子/遺伝子複合体を介してPTENを伝達した後、Akt蛋白質をウェスタンブロット分析した結果を示す。
【0066】
図3の(a)は、PTENが伝達された肺細胞においてウェスタンブロットでPTEN、PDK1、Akt1、Thr308リン酸化Akt、Ser473リン酸化Akt、及びSer2448リン酸化−mTORの蛋白質発現水準分析結果を示す。図3の(a)から、PTEN蛋白質の発現水準が、PTENを伝達したマウスにおいて増加することが分かる。図3の(a)で、Cは、コントロールを、Vは、ベクトルコントロールを、PTENは、PTENが伝達された肺を示す。
【0067】
図3の(a)に示すように、肺細胞においてPTENの発現は、PTENが伝達されないK-rasとベクトルコントロールに比べて非常に高く増加した。これに対し、図3の(a)に示すように、PTEN遺伝子伝達は、PDK1、Akt1、Thr308 phospho-Akt、及びSer2448 phospho-mTOR蛋白質の発現を減少させたが、Ser473 phospho-Aktは、何らの変化も認められなかった。
【0068】
Aktリン酸化の変化を調べるために、Aktとphospho-Akt蛋白質の比率を計算した。
【0069】
図3の(b)は、全体Aktに対して、リン酸化したPTENでのAktの発現度を示す。図3の(b)に示すように、Akt、図3の(c)でリン酸化したThr308蛋白質の発現水準は、PTENを伝達した肺において有意的に減少することが分かる。しかし、図3の(d)に示すように、リン酸化したSer473の蛋白質発現水準は変わらないことが分かる。
【0070】
図3の(b)及び(c)に示すように、全体AktとThr308 phospho-Akt発現水準は、PTENが伝達された肺においてvector control groupに比べて有意的に減少した。しかし、図3の(d)に示すように、Ser473 phospho-Aktの場合には、ベクトルコントロールとPTENが伝達された群との間において有意的な変化が観察されなかった。
【0071】
結局、PDK1、AktとThr308リン酸化Aktの発現減少が、PTENが伝達された肺において観察されるところ、これからPTENがAktを直接的に調節することが分かる。
【0072】
図4は、Akt信号伝達経路に関与する成分の調節結果を示す。
【0073】
図4から、本発明の実施例に係る生体高分子/遺伝子複合体によりPTENがエアロゾール伝達方式で伝達されたマウスの肺において、4E-BP1、p70S6K、及びcyclin D1の発現水準が減少することが分かる。図4において、Cは、コントロールを、Vは、ベクトルコントロールを、PTENは、PTENが伝達された肺を意味する。
【0074】
図4に示すように、エアロゾールPTEN遺伝子伝達は、コントロールに比べてp70S6Kとcyclin D1蛋白質の発現水準を非常に減少させ、4EBP1は、controlに比べて若干減少させた。
【0075】
以上より、本発明の実施例に係るエアロゾール伝達システムがPTEN蛋白質発現水準の増加を引き起こし、このような増加がAkt信号伝達に関連した蛋白質の活性減少と関連があるという事実を提示する。
【0076】
実施例4:免疫沈殿及びキナーゼ分析
AktまたはmTORのリン酸化減少は、通常、キナーゼ(kinase)活性の減少に関連している。このような事実が、増加されたPTENに対する反応に起因する場合なのか否かを確認するために、マウスの肺組織においてmTORとAktを免疫沈殿させて、各々の基質であるPHAS IとGSKを用いてkinase活性を調べた。
【0077】
実施例2で得られた肺試料に対してSeize primary mammalian immunoprecipitation kit(PIERCE,Rockford,IL)を用いてmTORの免疫沈殿を実施した。mTORキナーゼ分析は、300μMのATPと1μgのPHAS I(Calbiochem,San Diego,CA)を用いて30分間30℃で実施した。5倍サンプルバッファを追加して沸かすことによって、反応を停止させた。試料は、15%SDS/PAGEで分析した。
【0078】
Aktのキナーゼ活性は、製造社の指示に応じてAktキナーゼ分析キット(Cell Signaling Technology)で分析した。
【0079】
図5は、p-GSK、Akt、p-4EBP1及びmTORのキナーゼ活性分析の結果を示す。
【0080】
図5から、PTENが伝達されたマウスの肺において蛋白質のキナーゼ活性がコントロールに比べて減少することが分かる。図5において、Cは、コントロールを、Vは、ベクトルコントロールを、PTENは、PTENが伝達された肺を意味する。
【0081】
その結果、図5に示すように、Aktの活性は、PTENが伝達されたマウスの肺において極めて減少したが、mTORの活性は、若干減少したことが分かる。
【0082】
実施例5:免疫組織化学分析
肺でのAktとphospho-Akt(Thr and Ser)の発現水準を確認するために、免疫組織化学分析を実施した。
【0083】
実施例2で得られた肺試料を直ちに氷に冷却させた4%ホスフェートバッファホルムアルデヒドで貫流固定させた後、室温で固定させた。その後、肺試料を室温で30%スクロースに入れて一夜脱水させた後、Tissue-Tek OCT(Sakura社,Torrance、CA)で埋め込み(embedding)した。Microtome(Leica社,Nussloch,Germany)を用いて5マイクロメーターで肺試料組織を切断した後、正電荷でチャージされたスライド(Fisher社,Pittsburgh,PA)に載置した。肺試料の凍結切片から内在性過酸化酵素の活性を除去するために、0.3%過酸化水素(AppliChem社,Darmstadt,Germany)で30分間反応させた。
【0084】
エアロゾール方式の遺伝子伝達の効率を測定するための免疫蛍光染色のために、スライドを室温で1時間ブロッキングし、非特異的な結合部位を遮断した。
【0085】
4℃でrat抗-マウス大食細胞/単核区抗体(MOMA,SeroTec,Raleigh,NC)を組織セクションに一夜反応させた。翌日、組織セクションを洗浄し、暗室で抗-rat IgGテトラメチロダミン(tetramethylrhodamine)イソチオシアネート複合抗体(Jackson ImmunoResearch,West Grove,PA)と1時間室温で反応させた。
【0086】
洗浄後、fluoromount(BDH,Dorset,UK)を用いてカバースリップ(coverslips)をマウントし、蛍光顕微鏡(Carl Zeiss,Thornwood,NY)下で観察した。Aktとp-Aktの免疫組織化学染色のために、スライドを室温で1時間間ブロッキングして非特異的な結合部位を遮断した。4℃で1次抗体を組織セクションと1夜反応させた。
【0087】
翌日、組織セクションを洗浄し、二次HRP-複合抗体と1時間室温で反応させた。洗浄後、DAB溶液[0.05%3,3’-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(Biosesang,Sungnam,Korea)と0.03%過酸化水素]で5〜10分間反応させた。核を標識するために、組織セクションをDAKOHematoxylin,Mayer’s(DAKO,Carpinteria,CA)で反対染色した後、キシレンで洗浄した。Permount(Fisher)を用いてカバースリップをマウントし、光学顕微鏡(Carl Zeiss,Thornwood,NY)下で観察した。
【0088】
図6は、Aktのリン酸化に対する免疫組織化学分析の結果を示す。
【0089】
図6において、反応による標識は、褐色に現れ、AktとThr308phospho-Aktは、PTENが伝達されたマウスの肺(B及びD)に比べて、ベクトルコントロールマウスが肺(A及びC)において高く発現された。しかし、Ser473がリン酸化したAktの場合には、2つの群の差異が現れなかった(E及びF)。
【0090】
実施例6:細胞自殺の分析
Akt経路の阻害に起因する潜在的な影響の1つは、細胞自殺(apoptosis)の誘導である。本発明の実施例1に係るエアロゾール伝達複合体を介して伝達されたPTENが細胞自殺を誘導するか否かを確認するために、ベクトルコントロールとPTEN遺伝子を伝達した肺細胞を固定し、TUNEL assayを実施した。
【0091】
実施例2で得られた肺試料組織をスライド上に位置させ、固定液(4%PBS中、パラホルムアルデヒド、pH7.4)で固定した後、PBSで洗浄した。その後、肺試料組織を氷上で2分間0.1%トリトンX-100(0.1%PBS中、ソジウムシトレート)で透過化(permeabilization)させた。その後、スライドをPBSで洗浄し、絶たれたDNA末端を製造社の指示に応じてin situ cell death detection kit(Roche,Basel,Switzerland)を用いてterminal deoxy-U nick end labeling(TUNEL)方法で標識した。最後に、組織セクションをメチルグリーン(Trevigen,Gaithersburg、MD)で対照染色した。
【0092】
図7は、TUNEL分析結果を示す。
【0093】
図7に示すように、細胞自殺信号(暗褐色)がベクトルコントロール(A)に比べて、エアロゾール伝達方式によりPTENが伝達された肺(B)において明確に観察された。
【0094】
以上より、エアロゾール伝達複合体を介して伝達されたGPEI/PTENによるin vivo上での細胞自殺が誘導される機能は、このような遺伝子伝達方式が細胞機能を変化させることができるという事実を提示した。
【0095】
以上のように、上記実施の形態を参照して詳細に説明され図示されたが、本発明は、これに限定されるものでなく、このような本発明の基本的な技術的思想を逸脱しない範囲内で、当業界の通常の知識を有する者にとっては、他の多くの変更が可能であろう。また、本発明は、添付の特許請求の範囲により解釈されるべきであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】多様な濃度の糖置換率(モル%)に対するMTT生体内の細胞毒性試験結果を示す。
【図2】生体高分子/遺伝子複合体に対するマウス特異的大食細胞及び単核細胞に対する免疫組織化学染色分析結果を示す。
【図3】生体高分子/遺伝子複合体を介してPTENを細胞組織に伝達した後、細胞組織のAkt蛋白質をウェスタンブロット分析した結果である。
【図4】Akt信号伝達経路に関与する成分の調節結果を示す。
【図5】p-GSK、Akt、p-4EBP1及びmTORのキナーゼ活性分析の結果を示す。
【図6】Aktのリン酸化に対する免疫組織化学分析結果を示す。
【図7】TUNEL分析結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の遺伝子をエアロゾール伝達方式で伝達するための生体高分子/遺伝子複合体において、
前記生体高分子が、
一次アミノ酸の一部以上が糖に置換されたポリエチレンイミン(PEI)を含み、
前記ポリエチレンイミンの含量が前記所定の遺伝子の含量の2乃至4倍であることを特徴とする生体高分子/遺伝子複合体。
【請求項2】
前記ポリエチレンイミン(PEI)に含まれる一次アミノ酸の30〜40モル%が糖に置換されたことを特徴とする請求項1に記載の生体高分子/遺伝子複合体。
【請求項3】
前記一次アミノ酸が葡萄糖または葡萄糖類似体に置換されることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体高分子/遺伝子複合体。
【請求項4】
前記一次アミノ酸が18F-FDGに置換されることを特徴とする請求項3に記載の生体高分子/遺伝子複合体。
【請求項5】
前記遺伝子がPTENをコーディングする遺伝子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の生体高分子/遺伝子複合体。
【請求項6】
30〜40モル%の一次アミノ酸が葡萄糖に置換されたポリエチレンイミン(PEI)、及び
PTENをコーディングする遺伝子を含む生体高分子/遺伝子複合体を含み、
前記生体高分子/遺伝子複合体において前記ポリエチレンイミンの含量が前記遺伝子の含量の2乃至4倍であることを特徴とする遺伝子エアロゾール伝達用肺癌治療剤。
【請求項7】
所定の遺伝子をエアロゾール伝達方式で伝達するための生体高分子/遺伝子複合体の製造方法において、
前記生体高分子に、一次アミノ酸の一部以上が糖に置換されたポリエチレンイミン(PEI)を含むようにし、
前記ポリエチレンイミンの含量を前記所定の遺伝子の含量の2乃至4倍となるようにし、
前記生体高分子と前記遺伝子とを結合させることを含むことを特徴とする生体高分子/遺伝子複合体の製造方法。
【請求項8】
前記ポリエチレンイミン(PEI)に含まれる一次アミノ酸の30〜40モル%が糖に置換されるようにすることを特徴とする請求項7に記載の生体高分子/遺伝子複合体の製造方法。
【請求項9】
前記一次アミノ酸が葡萄糖または葡萄糖の類似体に置換されるようにすることを特徴とする請求項7に記載の生体高分子/遺伝子複合体の製造方法。
【請求項10】
前記一次アミノ酸が葡萄糖または葡萄糖の類似体に置換されるようにすることを特徴とする請求項7又は8に記載の生体高分子/遺伝子複合体の製造方法。
【請求項11】
前記一次アミノ酸が18F-FDGに置換されるようにすることを特徴とする請求項10に記載の生体高分子/遺伝子複合体の製造方法。
【請求項12】
前記遺伝子がPTENをコーディングする遺伝子を含むようにすることを特徴とする請求項7又は8に記載の生体高分子/遺伝子複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−516299(P2007−516299A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549150(P2006−549150)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【国際出願番号】PCT/KR2005/000839
【国際公開番号】WO2006/068346
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(503183673)ソウル ナショナル ユニヴァーシティー インダストリー ファンデーション (6)
【Fターム(参考)】