説明

生分解性ポリエステル樹脂組成物、その製造方法及びそれからなる発泡体、成形体

【課題】 従来の架橋生分解性樹脂が有していた機械的強度、耐熱性等を維持しつつ、生分解性、溶融張力が向上した樹脂組成物を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性ポリエステル樹脂組成物であって、温度20℃、濃度40mg/mlの条件のクロロホルム溶解試験におけるクロロホルム不溶解物が5質量%以下であり、この前記クロロホルム溶解試験におけるクロロホルム可溶分を用いてテトラヒドロフランを移動相とするGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)にて測定した場合のMw/Mnの値が2以上であり、かつMv/Mnの値が5以上であることを特徴とする生分解性ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主成分と異なる構造を持つ橋かけ架橋材を用いることなく、主成分である重合体そのものが架橋した生分解性ポリエステル樹脂からなり、機械的強度、耐熱性に優れ、操業性、品位、生分解に問題のない発泡体、押出成形体、射出成形体、ブロー成形体等の成形に有利なレオロジー特性を有する生分解性ポリエステル樹脂組成物、その製造方法、及びそれらから得られる発泡体、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からプラスチックは、ボトル、トレー、各種容器、各種成形品として極めて多くの分野で用いられている。これらはほとんどが生分解性を有さず、しかも多量に使用されているため、廃棄物処理、自然環境汚染の観点から、社会問題となっている。
【0003】
このような背景のもと、生分解性プラスチックが研究され、その中でも生分解性を有する脂肪族ポリエステルの研究は、実用化段階まで進捗している。しかしながら、生分解性を有する脂肪族ポリエステルは、汎用の樹脂に比べて、耐熱性、機械的強度、溶融粘度などが低く、また結晶化速度が遅いために、各種の射出成形の際にドローダウンを起こしたり、発泡成形の際に十分な発泡倍率が得られないという問題がある。こうした問題を解決しようとする技術はいくつか知られており、例えば、生分解性樹脂を過酸化物の存在下で反応性化合物と溶融混練して架橋構造を導入する方法が提案されている(特許文献1〜6)。こうした技術により、溶融張力の向上、歪み硬化性(伸長粘度測定時)の発現、結晶化速度の向上などが図れ、上記した脂肪族ポリエステルの諸問題点が改善されるとされている。
【0004】
なかでも、特許文献5では、イソシアネートや不飽和カルボン酸による樹脂の架橋により単位粘度あたりの溶融張力を2.5mgf/Pa・s以上とした樹脂を用いて発泡化することが示されており、具体的には10.5mgf/Pa・sの樹脂が挙げられているが、溶融張力としては不十分であり、高発泡倍率の発泡体を得ることはできなかった。また、特許文献6ではメルトテンションおよび歪み硬化性を指標として脂肪族ポリエステルに有機過酸化物を反応させることが開示されているが、少量の有機過酸化物をドライブレンドにより樹脂と混合しているため、架橋構造にムラができやすく、結果として外観不良や発泡不良を起しやすいものであった。また、特許文献7において、本出願人は、脂肪族ポリエステルを(メタ)アクリル酸エステルやグリシジルエーテルで架橋した樹脂組成物を開示し、溶融粘度・操業性に加え、結晶化速度の問題を解決してきた。
【0005】
【特許文献1】特開平11−60928号公報
【特許文献2】特許第2571329号公報
【特許文献3】特開2000−17037号公報
【特許文献4】特開平10−324766号公報
【特許文献5】特開平10−152572号公報
【特許文献6】特開2004−107615号公報
【特許文献7】特開2003−128901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記した技術は、大部分(特許文献1〜5、7)が、主成分の脂肪族ポリエステルとは構造の異なる橋掛け架橋剤と有機過酸化物とを併用して、脂肪族ポリエステルに橋掛け架橋構造を導入したものであり、橋かけ架橋剤によって脂肪族ポリエステルの生分解性が低下するという問題がある。また、橋かけ架橋剤を用いない場合(特許文献6)では、混合方法による制約を受け、添加量が少量となり、かつ、外観や物性にむらができやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決しようとするものであり、橋かけ架橋剤を用いることなく、有機過酸化物のみを生分解性ポリエステル中に均一に分散させることにより、主成分である脂肪族ポリエステルそのもの同士を架橋させ、従来の架橋生分解性樹脂が有していた機械的強度、耐熱性等を維持しつつ、生分解性、溶融張力が向上しており、各種成形における操業性が改良された樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、次に示される生分解性ポリエステル樹脂組成物及びそれから得られる発泡体、成形体によって前記問題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
(1)脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性ポリエステル樹脂組成物であって、温度20℃、濃度40mg/mlの条件のクロロホルム溶解試験におけるクロロホルム不溶解物が5質量%以下であり、この前記クロロホルム溶解試験におけるクロロホルム可溶分を用いてテトラヒドロフランを移動相とするGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)にて測定した場合のMw/Mnの値が2以上であり、かつMv/Mnの値が5以上であることを特徴とする生分解性ポリエステル樹脂組成物。
ただし、Mwは重量平均分子量、Mvは体積平均分子量、Mnは数平均分子量である。
(2)脂肪族ポリエステルがポリ乳酸系重合体であることを特徴とする(1)記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物。
(3)生分解性ポリエステル樹脂組成物の190℃における単位粘度あたりの溶融張力が11mgf/Pa・s以上であることを特徴とする(1)または(2)記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物を発泡して得られる生分解性樹脂発泡体。
(5)(4)の発泡体を成形して得られる発泡成形体。
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物を押出成形して得られる生分解性樹脂成形体。
(7)(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物を射出成形して得られる生分解性樹脂成形体。
(8)(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物をブロー成形して得られる生分解性樹脂成形体。
(9)脂肪族ポリエステルを主成分とする樹脂と、可塑剤で希釈した有機過酸化物とを溶融混練にて反応させることを特徴とする生分解性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
(10)脂肪族ポリエステル100質量部に対し、急速加熱試験での分解温度が90℃以上200℃以下である有機過酸化物0.1〜5質量部を用いることを特徴とする(9)記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、主成分である脂肪族ポリエステルそのもの同士を架橋させ、従来の架橋生分解性樹脂が有していた機械的強度、耐熱性等を維持しつつ、生分解性、溶融張力が向上した樹脂組成物が得られ、各種成形における操業性が改良される。特に、自然分解やコンポスト分解などのクリーンで有効な分解を行うことができる。
【0010】
また、本発明の製造方法によれば、橋かけ架橋剤を用いることなく、主成分である生分解性ポリエステル樹脂そのものが架橋した、均一性に優れた樹脂組成物を操業上の問題なく作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物を構成する脂肪族ポリエステルとしては、(1)グリコール酸、乳酸、ヒドロキシブチルカルボン酸などのヒドロキシアルキルカルボン酸、(2)グリコリド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン、(3)エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどの脂肪族ジオール、(4)ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレン/プロピレングリコール、ジヒドロキシエチルブタンなどのようなポリアルキレンエーテルのオリゴマ−、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどのポリアルキレングリコール、(5)ポリプロピレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート、ポリヘキサンカーボネート、ポリオクタンカーボネート、ポリデカンカーボネート等のポリアルキレンカーボネートグリコール及びそれらのオリゴマ−、(6)コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸など、脂肪族ポリエステル重合原料に由来する成分を主成分として70質量%以上有するものであって、脂肪族ポリエステルのブロック及び/またはランダム共重合体、および脂肪族ポリエステルに他の成分、例えば芳香族ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオルガノシロキサン等を30質量%以下(ブロックまたはランダム)共重合したもの及び/またはそれらの混合したものをすべて含む。
【0013】
これらの脂肪族ポリエステルの中でも、前記(1)に示したヒドロキシアルキルカルボン酸由来の脂肪族ポリエステルは、融点が高く、耐熱性の観点から好ましい。特に、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリD、L−乳酸またはこれらの混合物(これらを乳酸系重合体と総称する)が好ましい。これらの中で、ポリL−乳酸は、融点が高く、本発明に用いられるポリマーとしては最適である。また、乳酸系重合体の中で、光学活性のあるL−乳酸、D−乳酸の単位が90モル%以上であると融点がより高く、耐熱性の観点からより好適に用いることができる。また、この乳酸系重合体の性能を損なわない程度にヒドロキシカルボン酸類、ラクトン類等のコモノマーとの共重合体を用いてもよい。共重合可能なヒドロキシカルボン酸類、ラクトン類としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ絡酸、4−ヒドロキシ絡酸、4−ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、グリコリド、プロピオラクトン、ブチロラクトン、カプロラクトン等が挙げられる。
【0014】
乳酸系重合体は、従来公知の方法で乳酸を重合して製造することができる。重合法の例としては、例えば、乳酸を直接脱水縮合して行う方法や、乳酸の環状二量体であるラクチドを開環重合して得る方法等が挙げられる。また、これらの重合反応を溶媒中で行ってもよく、必要な場合には触媒や開始剤を用いて反応を効率よく行ってもよい。これらの方法は、必要な分子量や溶融粘度を考慮して適宜選択すればよい。
【0015】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物は、前記脂肪族ポリエステル類を50質量%以上含有したものであり、同種、異種の成分を混合して用いても一向に差し支えがない。
【0016】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物の融点は、耐熱性の観点から100℃以上であることが好ましく、140℃以上がより好ましい。100℃未満であると耐熱性が悪くなって、実用範囲が極めて狭くなりよくない。融点の上限は、特に規制しない。溶融粘度については、架橋前の粘度が低いほど架橋時の分岐度が向上するので好ましく、通常、温度190℃、2.16Kg荷重下におけるメルトフローレート値(以下MFR値と記す)で架橋前が3〜150g/10分、本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物のMFR値は、0.1〜10g/10分のものが好ましい。
【0017】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物は、20℃において濃度40mg/mLでクロロホルムに溶解したときの不溶解物が5質量%以下である。5質量%以下とすることにより、発泡体やブロー成形体において、表面の美観が得られ、品位の優れた発泡体や成形体が得られる。不溶解物が5質量%を超えると、樹脂組成物中のゲルが網目構造の集中によって増加し、成形体の美観を損なうため好ましくない。
【0018】
なお、本発明における不溶解物の測定方法を述べる。300mlのフラスコに、樹脂試料約10gを精秤し、20℃のクロロホルムを250ml入れる(樹脂/溶媒=40mg/mlとなるよう溶媒量を適宜調整する。)。
20℃、大気圧下で12時間適度に攪拌した後、得られた処理溶液を1480メッシュの金網を有する吸引濾過装置を用いて濾過処理を行う。得られた金網上の濾過処理物を真空乾燥機70℃中、0.01MPa以下の条件下で8時間乾燥する。得られた乾燥物質量Wを測定し、この質量Wの溶解前の試料質量Wに対する質量比率(W/W×100)%、を未溶解物の質量%と定義する。
【0019】
また、本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物は、前記クロロホルム溶解試験において得られた可溶分をTHFにて10倍に希釈し、THFを移動相とするGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)にて、標準ポリスチレンを基準として測定した場合のMw/Mnの値が2以上であり、かつMv/Mnの値が5以上である。ただし、Mwは重量平均分子量、Mvは体積平均分子量、Mnは数平均分子量である。
【0020】
上記した分子量の関係は、脂肪族ポリエステルが、それぞれ自身で互いに繋がりあって立体網状構造をとり、流動性を束縛された状態を示すものであり、Mw/Mnの値が2以上であり、かつMv/Mnの値が5以上であると、十分な網目構造が形成されており、発泡、ブローなどの成形が良好に行われる。Mw/Mnの値は好ましくは3以上、より好ましくは5以上、Mv/Mnの値は、好ましくは10以上、より好ましくは20以上である。Mw/Mnの値が2未満であったり、Mv/Mnの値が5未満の場合には、網目構造の形成が不十分であり、発泡やブロー成形時に破泡や延伸不十分などにより所望の成形体を得ることが困難になる。
【0021】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物の単位粘度あたりの溶融張力は11mgf/Pa・s以上であることが必要で、望ましくは15mgf/Pa・s以上である。11mgf/Pa・s以上よりも低い値であると、発泡体作製時に気泡が破裂するなど良好な発泡体を作製することができない。上限は特に限定されない。値が高い場合は、発泡体の作製温度を上げるなどの工夫ができるからである。ただし、1000mgf/Pa・s以上のものを作製することは困難である。
【0022】
単位粘度あたりの溶融張力は次のように評価される。すなわち、溶融張力測定装置(ダイスのL/D=4、流入角90度、押出速度10mm/min)を用いて190℃の温度で引取り、引き取り速度を2m/minにて速度を増し、破断したときの張力を測定し、これを別途測定した溶融粘度で割った値を用いる。溶融粘度は、フローテスターなどの溶融粘度測定装置(ダイスのL/D=10、せん断速度100/s)を用いて190℃にて測定した値を用いる。
【0023】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に従い、付属書A表1のDの条件(190℃,2.16kg)にて測定した値が0.1〜10g/10分であることが好ましい。MFR値が0.1g/10分未満では樹脂の流動性が低下するため、操業性が劣る問題が生ずることがある。10g/10分を超えると発泡体や成形体の機械的物性が低下したり操業性が低下する場合がある。MFR値は、より好ましくは0.2〜10g/10分、さらに好ましくは0.5〜8g/10分、最も好ましくは0.6〜7g/10分である。
【0024】
本発明における生分解性樹脂組成物は、DSC測定において、いったん200℃で溶融した後、130℃にて等温結晶化させた時の結晶化速度指数が50分以下であることが好ましい。結晶化速度指数は、樹脂を200℃の溶融状態から130℃にて結晶化させたときに最終的に到達する結晶化度の2分の1に到達するまでの時間(分)(図1参照)で示され、指数が小さいほど結晶化速度が速いことを意味する。結晶化速度が50分よりも高いと、結晶化するのに時間がかかり過ぎ、所望の成形体形状が得られなかったり、射出成形などでのサイクル時間が長くなって、生産性が悪くなる。また結晶化速度が速すぎると成形性が悪くなるため、結晶化速度指数の下限は0.1分程度であることが好ましい。結晶化速度指数は、過酸化物量が増加するほど小さくなり、結晶化を速くすることができる。さらに、結晶核剤を添加すると相乗効果により、さらに結晶化を速めることができる。なお、融点が130℃以下の樹脂組成物の場合は、80℃にて結晶化させ、上記結晶化速度を測定する。
【0025】
結晶核剤としては、無機系では、珪藻土、焼成パーライト、カオリンゼオライト、ベントナイト、層状珪酸塩、クレイ、シリカ微粉末、ホウ砂、ホウ酸亜鉛、水酸化アルミニウム、タルク、ガラス、石灰石、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、炭酸第二鉄、有機変性層状珪酸塩等が挙げられ、また有機系では、木炭、セルロース、でんぷん、クエン酸、セルロース誘導体等が挙げられ、これらは併用しても差し支えない。結晶核剤の添加量は生分解性ポリエステル100質量部あたり0.1〜10質量部が好ましい。0.1質量部未満では核剤としての効果が認められなく、また10質量部を超えると添加効果が薄れるため好ましくない。なお、後述のように、これらの結晶核剤は、発泡核剤としても用いることができる。
【0026】
なお、本発明においては、生分解性ポリエステル樹脂組成物中に、必要に応じて、熱安定剤、艶消し剤、顔料、可塑剤、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、帯電防止剤、香料、染料、末端封鎖剤、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、充填材その他類似のものを、本発明の効果を損なわない範囲内で添加することができる。熱安定剤や酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物或いはこれらの混合物を使用することができる。無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、ワラステナイト、炭酸亜鉛、珪藻土、焼成パーライト、カオリンゼオライト、ベントナイト、クレイ、シリカ微粉末、ホウ砂、ホウ酸亜鉛、水酸化アルミニウム、ガラス、石灰石、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシュウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ハイドロタルサイト、酸化アルミニウム、炭酸第二鉄、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。また有機系では、木炭、セルロース、でんぷん、木粉、おから、籾殻、フスマ、セルロース誘導体等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。
【0027】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物は、主成分と異なる構造を持つ橋かけ架橋材を用いることなく、主成分である脂肪族ポリエステルそのものが互いに架橋した構造をなしており、このような構造は、脂肪族ポリエステルと有機過酸化物とを溶融混練して反応させることにより製造することができる。
【0028】
本発明で用いられる有機過酸化物は、試料1gを電熱板により4℃/分の速度で加熱したとき(急速加熱試験)に分解を開始する温度(分解温度)が90℃以上200℃以下であることが必要である。好ましくは90℃以上160℃以下である。分解温度が200℃を超えると、脂肪族ポリエステルとの溶融混練時にラジカルを発生せず、脂肪族ポリエステルが架橋反応を起こすことができない。また、分解温度が90℃未満の場合は、有機過酸化物が脂肪族ポリエステル中にじゅうぶんに分散する前にラジカルを発生するため、局所的な反応が起こり、均一な架橋反応物が得られなかったり、時には局所的に爆破的な反応が起こって危険でもある。なお、この分解温度は、有機過酸化物の純度によっても変化する場合があるが、純度を問わず、分解温度が本発明で規定する範囲にある限り使用することができる。
【0029】
有機過酸化物の例としては、ジブチルパーオキサイド、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)メチルシクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ブチルクミルパーオキサイド、ジメチルビス(エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、ブチルパーオキシラウレート、ブチルパーオキシアセテートなどのほか、不純物を含んだベンゾイルパーオキサイド(分解温度72〜104℃)も使用することができる。
【0030】
有機過酸化物の配合量は、脂肪族ポリエステル100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましく、0.2〜4質量部がより好ましい。0.1質量部未満では脂肪族ポリエステル自身による橋かけ構造が十分に形成されず、本発明の目的とする機械的強度、耐熱性、寸法安定性の改良効果が得られにくい。一方5質量部を超える場合には過剰に橋かけ構造が導入されて溶融粘度が高くなりすぎ、押出しが出来ないなどのトラブルが起きたり、一部は未利用となって、コスト面で不利である。
【0031】
有機過酸化物は可塑剤によって希釈されて脂肪族ポリエステルと混合、混練されることが好ましい。可塑剤としては、一般的なものが用いられ、特に限定されないが、本発明の脂肪族ポリエステルとの相溶性に優れた可塑剤が好ましく、また生分解性のものが好ましい。例えば、脂肪族多価カルボン酸エステル誘導体、脂肪族多価アルコールエステル誘導体、脂肪族オキシエステル誘導体、脂肪族ポリエーテル誘導体、脂肪族ポリエーテル多価カルボン酸エステル誘導体などから選ばれた1種以上の可塑剤などが挙げられる。具体的な化合物としては、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、トリエチレングリコールアジペート、トリエチレングリコールジアセテート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルトリブチルクエン酸、ポリエチレングリコール、ジブチルジグリコールサクシネートなどが挙げられる。可塑剤の使用量としては樹脂量100質量部に対し20質量部以下が好ましく、0.1〜10質量部が更に好ましい。
【0032】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物は、一般的な混練機を用いて作製できる。この際、可塑剤で希釈した有機過酸化物は、液体注入ポンプを用いて混練機に注入することができる。また、その他の添加剤は、固体状であればドライブレンドや粉体フィーダーを用いて供給する方法が望ましく、液体状の場合には、有機過酸化物とともに可塑剤に混ぜて添加してもよいし、別の供給口から添加してもかまわない。混練機としては、一軸、二軸、多軸混練機のほか、ニーダーなども用いることができる。設定温度は使用する脂肪族ポリエステル樹脂の(ポリエステルの融点+5℃)〜(ポリエステルの融点+100℃)が好ましい。
【0033】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物は発泡体とすることができる。発泡方法としては、例えば、押出機を用いて、樹脂に予め樹脂の溶融温度で分解する熱分解型発泡剤をブレンドして押出すことが一般的である。このとき、スリット状ダイやサークルダイから押出せばシート形状やパイプ形状の発泡体として得られ、多数の丸孔から押出せば、ストランド形状の発泡体として得ることができる。これらの発泡体は後述の二次加工によるさらなる成形に付すことができる。
【0034】
この熱分解型発泡剤の例としては、アゾジカルボンアミドやバリウムアゾジカルボキシレートに代表されるアゾ化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンに代表されるニトロソ化合物、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)やヒドラジカルボンアミドに代表されるヒドラジン化合物、あるいは炭酸水素ナトリウムなどの無機系の発泡剤などを挙げることができる。また、押出機の途中から揮発型発泡剤を注入して発泡することも可能である。この場合の発泡剤は、無機不活性ガス系の発泡剤、例えば炭酸ガスや窒素、空気、水等の無機化合物や、揮発性発泡剤、例えばプロパン、ブタン、ヘプタン、へキサン、メタンなどの各種炭化水素やエーテル化合物、エタノールやメタノール等の各種アルコール類に代表される有機溶媒、フロン化合物などを挙げることが出来る。また、予め樹脂組成物の微粒子を作製し、有機溶媒や水など上記に示した発泡剤を含浸させた後、温度や圧力の変化で発泡させて発泡微粒子を作製することも適用できる。
【0035】
また発泡体を製造する際には、発泡時の気泡調整として発泡核剤や発泡助剤を適宜樹脂原料にブレンドして用いることも重要である。発泡核剤や発泡助剤のブレンド方法は、特に限定されるものでなく、粉体または、あらかじめ添加剤濃度を高めて樹脂に混練しておいたマスターバッチなどで供給される。例えばナウターミキサー、タンブラーミキサー等を用いてドライブレンド供給する方法や、粉体供給フィーダーによる押出機に直接供給する方法が挙げられる。また、マスターバッチを用いる際には、これをジェットカラー等による計量ミキシング装置を使用して他の原料と混合してから押出機に供給することもよい。発泡核剤としては前記した結晶核剤を用いることができる。発泡核剤の添加量は脂肪族ポリエステル100質量部あたり0.1〜5質量部が好ましい。0.1質量部未満では気泡の数が少なく発泡体として満足できるものが得られにくい。逆に5質量部を超えると破泡し易くなって発泡倍率が高くならないことがある。また発泡助剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等が挙げられる。発泡助剤の添加量は0.01〜2質量部が好ましい。0.01質量部未満では、発泡助剤としての効果が認められず、2質量部を超えると発泡核及び発泡の成長を阻害することになり好ましくない。
【0036】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物から作製された発泡体は、さらに二次加工による成形を行って発泡成形体とすることができる。例えばシート状に作製された発泡シートをサーモフォーミング装置を用いて深絞り成形したり、棒状のストランド発泡体を所望の形状に型成形することなどである。この発泡体を成形する際には、その金型温度もしくは雰囲気温度を(ポリエステルのTg)以上(ポリエステルの融点−20℃)以下に設定すると、生分解ポリエステル樹脂組成物の結晶化が進み、耐熱性が飛躍的に向上する。二次加工をしない場合に、発泡体を作製した直後に同様の処理を施すことによって耐熱性を付与することも可能である。また、この耐熱付与処理は発泡体のみならず、以下に示す各種成形品にも行うことができ、耐熱成形品を得ることができる。
【0037】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物は、前記のような発泡体としない場合でも、シートやパイプのような押出成形体とすることができる。発泡させる場合、発泡させない場合を問わず、押出成形法としては、Tダイ法、丸ダイ法を適用することが出来る。押出成形温度は、生分解性ポリエステル樹脂組成物の融点(Tm)又は流動開始温度以上であることが必要であり、好ましくは(Tm+10)℃〜(Tm+60)℃、更に好ましくは(Tm+15)℃〜(Tm+40)℃の範囲である。成形温度が低すぎると成形が不安定になったり、過負荷に陥りやすくなる。逆に成形温度が高くなりすぎると生分解性ポリエステル樹脂が分解し、得られる押出成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生するため好ましくない。前記温度で樹脂をいったん溶融した後、揮発性発泡剤を使用する場合は、途中からこれを注入し、その後、温度を下げていくことが重要である。押出機出口でのダイ付近の温度は(Tm−20)℃〜(Tm+20)℃にすることが好ましい。この温度より高いと破泡し、低いとダイで樹脂が詰まりやすい。押出成形により得られたシートや、パイプ等は、それらの耐熱性を高める目的で、ガラス転移温度(Tg)以上、(Tm−20℃)以下で熱処理をすることもできる。
【0038】
押出成形法により製造されるシートやパイプの具体的用途としては、深絞り成形用原反シート、コンテナー、鉄製コンテナーのあて材、通函、函の仕切り板、緩衝材、バインダー、カットファイル、クリアファイル、カットボックス、クリンルーム用制菌性文具、クレジットカード等のカード類、パーテーション用芯材、表示板、緩衝壁材、キャンプ時の敷板、玄関マット、トイレマット、流しマット、お風呂マット、家庭植栽マット、病院用院内マット、スダレ材、野犬、猫類の放し飼い動物の侵入防止フェンス等、漁業網用浮き、釣り用浮き、オイルフェンス用浮き、クーラーボックス等、ストロー、農業・園芸用パイプ等が挙げられる。また、生分解性シートは、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の方法で、食品用容器、農業・園芸用容器、ブリスターバック容器、及びプレススル−パック容器等を製造することができる。成形の際の予熱シート温度は、(Tg+40℃)〜(Tm−5℃)にした直後に金型温度(20℃)〜(Tm−20℃)で成形することが好ましい。予熱シートの温度が高すぎるとシートがドローダウンして成形できなくなり、また温度が低すぎると成形シートの伸びが不足し割れが生じたり、深絞り成形ができなくなったりする問題が生じることがある。一方、金型温度が低すぎると、得られる容器の耐熱性が不十分となる場合があり、また、金型温度が高すぎると、金型にシートが付着し成形物の離型が悪くなることや偏肉が生じたり、耐衝撃性が低下することがある。
【0039】
食品用容器、農業・園芸用容器、ブリスターバック容器、及びプレススル−パック容器の形態は特に限定されないが、食品、物品、及び薬品等を収容するためには深さ2mm以上に深絞り成形されていることが好ましい。容器の厚さは、特に限定されないが、強力の観点から50μm以上であることが好ましく、150〜1000μmであることがより好ましい。食品容器の具体例としては、生鮮食品のトレー、インスタント食品容器、ファーストフード容器、弁当箱等が挙げられる。農業・園芸用容器の具体例としては、育苗ポット等が挙げられる。また、ブリスターバック容器の具体例としては、食品以外にも事務用品、玩具、乾電池等の多様な商品群の包装容器が挙げられる。
【0040】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物は、ブロー成形体とすることができる。この際のブロー成形法としては、原料樹脂から直接成形を行うダイレクトブロー成形法、いったん射出成形して予備成形体(有底パリソン)を成形後にブロー成形を行う射出ブロー成形法、延伸ブロー成形が挙げられる。また予備成形体を成形後に連続してブロー成形を行うホットパリソン法、いったん予備成形体を冷却し取り出してから再度加熱してブロー成形を行うコールドパリソン法のいずれの方法も適用できる。ブロー成形温度は、(Tg+20℃)〜(Tm−20℃)であることが好ましい。ブロー成形温度が(Tg+20℃)未満では、成形が困難になったり得られる容器の耐熱性が不十分となる場合があり、逆にブロー成形温度が(Tm−20℃)を超えると偏肉が生じたり粘度低下によりブローダウンする等の問題が生じるため好ましくない。
【0041】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂組成物は、射出成形体とすることができる。その方法としては、一般的な射出成形、ガス射出成形、プレス成形等が採用できる。射出成形時のシリンダー温度は、原料である生分解性ポリエステル樹脂組成物の(Tm)又は流動開始温度以上であることが必要であり、好ましくは(Tm+10)℃〜(Tm+60)℃、さらに好ましくは(Tm+15)℃〜(Tm+40)℃の範囲である。成形温度が低すぎると成形にショートが発生して成形が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に成形温度が高くなりすぎると生分解性ポリエステル樹脂が分解し、得られる押出成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生するため好ましくない。一方、金型温度は(Tm−20℃)以下にすることが好ましい。生分解性樹脂の耐熱性を高める目的で、金型内で結晶化を促進する場合には、(Tg+20℃)〜(Tm−20℃)で所定時間保った後、Tg以下に冷却することが好ましく、逆に後結晶化する場合には、Tg以下に冷却した後、再度Tg〜(Tm−20℃)で熱処理をすることが好ましい。
【0042】
上記射出成形法により製造する射出成形の形態は特に限定されず、具体例としては皿、椀、鉢、箸、スプーン、フォーク、ナイフ等の食器、流動体用容器、容器用キャップ、定規、筆記具、クリアケース、CDケース等の事務用品、台所用三角コーナー、ゴミ箱、洗面器、歯ブラシ、櫛、ハンガー等の日用品、植木鉢、育苗ポット等の農業・園芸用資材、プラモデル等の各種玩具類、エアーコンパネル、冷蔵庫トレイ、各種筐体等の電化製品用樹脂部品、バンパー、インパネ、ドアトリム等の自動車用樹脂部品等が挙げられる。なお、流動体用容器の形態は、特に限定されないが、流動体を収容するためには、深さ20mm以上に成形されていることが好ましい。容器の厚さは、特に限定されないが、強力の観点から0.1mm以上であることが好ましく、0.1〜5mmであることがより好ましい。流動体用容器の具体例としては、乳製品や清涼飲料水及び酒類等の飲料用コップ及び飲料用ボトル、醤油、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、食用油等の調味料の一時保存容器、シャンプー・リンス等の容器、化粧用容器、農薬用容器等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、実施例における各種特性の測定及び評価は、次の方法により実施した。
【0044】
(1)分子量:示差屈折率検出器を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置(島津製作所製)を使用し、テトラヒドロフラン(THF)を溶出液として40℃で測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0045】
(2)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm):
パ−キンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、JIS K7121の手順に準じて、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線において、転移状態を示す部分の転移前後のベースラインの差の1/2変化した温度をガラス転移温度とし、また融解ピークの両側の最大傾斜の点で引いた接線の交点の温度を融点とした。
【0046】
(3)メルトフローレート(MFR)(g/10分):
JIS K7210に従い、付属書A表1のDの条件(190℃,2.16kg)にて測定した。
【0047】
(4)溶融張力(mgf/Pa・s):
東洋精機製の溶融張力測定装置(メルトテンションテスターII型)を用い、ダイスのL/D=8/2.095≒4、流入角90度、押出し速度10mm/minにて190℃の温度で引取り、引き取り速度を2m/minにて速度を増し、破断したときの張力を、溶融粘度測定装置(島津製作所フローテスターCFT−500、ダイスのL/D=10、せん断速度100/s)を用いて190℃にて測定した溶融粘度で除して求めた。
【0048】
(5)結晶化速度指数(図1参照)
DSC装置(パ−キンエルマ社製Pyrisl DSC)を用い、20℃から200℃まで(+500℃/min)で昇温後、200℃で5分間保持し、200℃から130℃まで(−500℃/min)で降温後、130℃で保持し結晶化させた。最終的に到達する結晶化度を1としたとき、結晶化度が0.5に達した時間を結晶化速度指数(分)として求めた。なお、樹脂の融点が130℃よりも低い場合は、80℃に保持して結晶化させた。
【0049】
(6)見掛け密度(g/cm3):
得られた発泡体を水中に浸漬して増加する体積を測定し、その値で発泡体の質量を除して、見掛け密度を算出した。
【0050】
(7)発泡倍率:
発泡体を構成する樹脂の真密度を前記発泡体の見掛け密度で除して算出した。
【0051】
(8)発泡体外観:
◎:極めて均一な平面状にあり、表面に美観があり、平均セル径が0.3mm以下。
○:均一な平面状にあり、表面の肌荒れがなく平均セル径が0.3mmより大きく0.7mm以下。
△:一部不均一な平面状になるが、表面の肌荒れがない。平均セル径は0.7mmより大きく1mm以下。
×:不均一な平面状になり、破泡による表面の肌荒れがある。平均セル径が1mmより大きい。
平均セル径は、光学顕微鏡(倍率:20〜50倍)にて50個のセルの直径を測定し、その平均値とした。
【0052】
(9)射出成形性の評価:
射出成形装置(東芝機械製IS−100E)を用い、離型カップ型(直径38mm、高さ300mm)に射出成形を行い(成形温度200℃、金型温度110℃)、サイクル時間180秒で成形を開始して徐々にサイクル時間を短くしていき、良好にカップが離型できる最小サイクル時間(秒)を調べるた。また、成形体の外観を次の基準にて評価した。
【0053】
◎:表面が極めて均一な状態にあり、ゲルが殆ど見られない。
○:表面が均一な状態にあり、ゲルが殆ど見られない。
△:表面に一部不均一な箇所があり、ゲルがやや見られる。
×:表面に不均一な箇所があり、ゲルが見られる。
【0054】
(10)ブロー成形性の評価:
ブロー成形性装置(日精エーヱスビー社製ASB−50HT)を用い、成形温200℃で直径30mm、高さ100mm、厚み3.5mmのプリフォームを作製後、これを表面温度80℃に加温し、ボトル形状の金型(直径90mm、高さ250mm)にブロー成形を行った。得られた厚み0.35mmの成形体の外観を評価した。
【0055】
◎:表面が極めて均一な状態にあり、良好で目的通り。金型の大きさに対する変形量は2%未満。
○:表面が均一な状態にあり、良好でほぼ目的通り。金型の大きさに対する変形量は2〜5%。
×:表面に不均一な箇所があり、目的通り成形ができなかった。金型の大きさに対する変形量は5%を超える。
【0056】
(11)生分解性評価:
試料片(縦10cm×横5cm×厚み2cm)を採取し、家庭用生ゴミよりなる発酵コンポストにて、JIS K 6953に準じてコンポスト処理を行った。試料片を、温度58℃で45日処理した後の生分解性を二酸化炭素発生量から計算した。
【0057】
実施例及び比較例に用いた原料は次の通りである。
(A)脂肪族ポリエステル樹脂
A1:ポリL−乳酸(カーギル・ダウ社製、重量平均分子量10万、D体1%、結晶化速度指数95)
A2:ポリL−乳酸(カーギル・ダウ社製、重量平均分子量10万、D体4%、結晶化速度指数>100)
A3:ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸のコポリエステル樹脂(BASF社製 エコフレックス)。
A4:ポリブチレンサクシネート系ポリエステル樹脂(昭和高分子社製ビオノーレ#3030)。
A5:ポリブチレンサクシネート系ポリエステル樹脂(昭和高分子社製ビオノーレ#1030)
【0058】
(B) 有機過酸化物:
C1:ジ−t−ブチルパーオキサイド(分解温度112℃、日本油脂製)
C2:2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(分解温度125℃、日本油脂製、可塑剤であるアセチルトリブチルクエン酸に10質量%溶液となるよう溶解して用いた。)
C3:ベンゾイルパーオキサイド(純度75%品、分解温度100℃、日本油脂製、可塑剤であるアセチルトリブチルクエン酸に10%溶液となるよう溶解して用いた。)
C4:イソブチリルパーオキサイド(純度25%品、分解温度43℃、日本油脂製)
C5:クメンハイドロパーオキサド(純度5%品、分解温度201℃、日本油脂製品をシリコンオイルで希釈)
【0059】
(実施例1)
脂肪族ポリエステル樹脂A1を100質量部用い、これに平均粒径2.5μmのタルクを1質量部をドライブレンドしたのち、温度200℃の二軸混練機(東芝機械製TEM−37BS)に供給した。混練機途中から、有機過酸化物としてジ−t−ブチルパーオキサイド及び希釈剤成分としてアセチルトリブチルクエン酸を質量比2/5とした液を、液体定量ポンプにて液注し、その後、ベント吸引してから0.4mm径×3孔のダイスよりストランド状に押出した。これを冷却バスで冷却した後、ペレタイザーでカットして生分解性ポリエステル樹脂のペレットを採取した。吐出量は20Kg/hr、スクリューの回転数は150rpmの条件で製造した。得られた樹脂組成物を乾燥した後、発泡試験を行った。
【0060】
発泡試験に際しては、発泡剤として液化炭酸ガスを用い、連続押出発泡シート化装置(二軸混練機PCM−45(池貝鉄工社製)、サークルダイのリップ巾0.7mm、ダイ孔径65mm)を用い、押出温度200℃、冷却ゾーン温度150℃、ダイ温160℃、吐出量20Kg/hr、炭酸ガス濃度は変更しながら最大発泡倍率になる条件でシート化を行った。
【0061】
(実施例2〜14、比較例1〜5)
生分解性ポリエステル樹脂、有機過酸化物をそれぞれ表1に示す種類と量に変えた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。発泡試験に際しては、実施例10、比較例5における冷却ゾーン温度とダイ温度は、実施例1よりも20℃低い温度を適用し、実施例11〜14における冷却ゾーン温度とダイ温度は、実施例1よりも30〜40℃低い温度を適用して行った。得られた組成物の物性と、発泡試験の結果を表1に示した。
【0062】
また、実施例2、6、7、11及び比較例1で得られた生分解性ポリエステル樹脂組成物を用いて、射出カップ型(直径38mm、高さ300mm)の射出成形体を、また、ボトル形状の金型(直径90mm、高さ250mm、厚み0.35mm)のブロー成形体を得た。
【0063】
(比較例6)
実施例1において、混練機途中から注入する液をジ−t−ブチルパーオキサイド/エチレングリコールジメタクリレート/アセチルトリブチルクエン酸=2/1/5とした液を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0064】
実施例1〜14および比較例1〜6の結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
(実施例15)
実施例1で製造した生分解性ポリエステル樹脂組成物を原料として、タンデム型押出発泡装置(EXT−1=50mmφ、EXT−2=50mmφ単軸スクリュータイプ、ダイス1.5mmφ×28H)を用い、溶融温度200℃、EXT−2の温度150℃、ダイス温度135℃、吐出量7.5Kg/hrの条件下で発泡剤としてブタンガスを10%注入混練して網目状発泡体を得た。発泡倍率は32倍であり、網目状糸条物の表面は均一で極めて美観のある外観を有したものを得た。
【0067】
(実施例16)
実施例3で製造した生分解性ポリエステル樹脂組成物を原料として、発泡剤としては、アゾジカルボンアミド系熱分解型発泡剤(永和化成製ビニホールAC#3)がブレンド物全体の1.5質量%になるようにドライブレンドして発泡試験を行った。すなわち、単軸型スクリュー55mm径のTダイ試験機(スルーザー型スタティツクミキサー3.5段併設、スリット長500mm、スリット巾1.2mm)をもちい、溶融温度210℃、Tダイ温度160℃、スクリュー回転数16rpm、引き取り速度3m/分で製膜した。製膜時の発泡状態は独立気泡でかつ、均一な発泡倍率5.3倍のシートであった。大きなゲルは全くなく、極めて美観を有するシートであった。
【0068】
(実施例17)
実施例2で得られた生分解性樹脂組成物を単軸型溶融押出装置(30mmφEXT)を200℃で溶融した後、1mm径の糸条を引き取った後、1mm長にカットし粒子を作製した。この粒子を一旦乾燥した後、発泡剤として二酸化炭素を用い、バッチ発泡試験(防爆型耐圧容器を用い、150℃の温度で、10MPaで含浸後、常圧に戻す)を行った。得られた発泡粒子は極めて均一であり、発泡倍率は41倍で、独立気泡から構成されているものであった。
【0069】
表1から明らかなように、実施例1〜10においては、押出発泡体は独立気泡で細かな気泡径を有し、美観を有するものであった。また、これらは110℃の金型で成形すると耐熱温度が100℃以上になることを確認できた。
【0070】
また、実施例11〜14においては生分解性ポリエステル樹脂を変更しても、独立気泡で細かな気泡径を有し、美観を有するもので、これらは80℃の金型で成形すると80℃の耐熱性を示した。実施例11〜14に関しては柔軟な発泡体が得られた。
【0071】
実施例の樹脂組成物は結晶化速度が速く、射出成形法、ブロー成形法のいずれにおいても良好な成形体を得ることが出来た。また、実施例1,10,12のサンプルについてJIS K 6953の方法に準拠して生分解性試験を行ったところ、いずれも有機過酸化物と反応させる前の樹脂組成物の生分解速度、分解率と同等の結果が得られた。
【0072】
実施例15〜17においては、発泡剤をブタン、熱分解型発泡剤を用いても、さらにバッチ発泡法においても良好な発泡体が得られることがわかった。
【0073】
比較例1、3においては、有機過酸化物量が少ないため、溶融粘度が低いものであった。これらの樹脂を発泡体に加工しようとしたが、満足な発泡体を得ることができなかった。
【0074】
比較例2においては有機過酸化物が多すぎたため、架橋度合いが進みすぎ、有機過酸化物の注入直後に樹脂が詰まってしまい、所望の組成物を得ることができなかった。
【0075】
比較例4では、分解温度の低い有機過酸化物を用いたため、有機過酸化物の注入直後に樹脂のゲル化により樹脂が詰まってしまい、所望の組成物を得ることができなかった。
【0076】
比較例5では、分解温度の高い有機過酸化物を用いたため、本混練では溶融粘度が向上せず、溶融粘度が低いものとなった。この樹脂を発泡体に加工しようとしたが、満足な発泡体を得ることができなかった。
【0077】
比較例6は、発泡体としては良好なものが得られたが、JIS K 6953の方法に準拠して生分解性試験を行ったところ、有機過酸化物のみを反応させた実施例1に比べて30%生分解速度が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】最終的に到達する結晶化度(θ)の2分の1に到達するまでの時間(分)で定義される結晶化速度指数を求める際の結晶化度(θ)と時間の模式図をしめす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性ポリエステル樹脂組成物であって、温度20℃、濃度40mg/mlの条件のクロロホルム溶解試験におけるクロロホルム不溶解物が5質量%以下であり、この前記クロロホルム溶解試験におけるクロロホルム可溶分を用いてテトラヒドロフランを移動相とするGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)にて測定した場合のMw/Mnの値が2以上であり、かつMv/Mnの値が5以上であることを特徴とする生分解性ポリエステル樹脂組成物。
ただし、Mwは重量平均分子量、Mvは体積平均分子量、Mnは数平均分子量である。
【請求項2】
脂肪族ポリエステルが乳酸系重合体であることを特徴とする請求項1記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
生分解性ポリエステル樹脂組成物の190℃における単位粘度あたりの溶融張力が11mgf/Pa・s以上であることを特徴とする請求項1または2記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物を発泡して得られる生分解性樹脂発泡体。
【請求項5】
請求項4記載の発泡体を成形して得られる発泡成形体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物を押出成形して得られる生分解性樹脂成形体。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物を射出成形して得られる生分解性樹脂成形体。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物をブロー成形して得られる生分解性樹脂成形体。
【請求項9】
脂肪族ポリエステルを主成分とする樹脂と、可塑剤で希釈した有機過酸化物とを溶融混練にて反応させることを特徴とする生分解性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
脂肪族ポリエステル100質量部に対し、急速加熱試験での分解温度が90℃以上200℃以下である有機過酸化物0.1〜5質量部を用いることを特徴とする請求項9記載の生分解性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−241227(P2006−241227A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55965(P2005−55965)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】