説明

生分解性材料及びその製造方法

【課題】澱粉及び食用天然素材のみを用いて澱粉及び寒天のみからなる生分解性材料の欠点である耐水性及び/又は強度を改善する。
【解決手段】澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含む混合物を複合化させてなる生分解性材料であって、該生分解性材料中の澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンの合計含有率が70重量%以上であり、かつ、高分子タンニンで表面処理されている生分解性材料;澱粉、寒天及びゼラチンを含む混合物を複合化させてなる生分解性材料であって、該生分解性材料中の澱粉、寒天及びゼラチンの合計含有率が70重量%以上である生分解性材料;並びにそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉を用いた生分解性材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油から得られるモノマーを原料とするプラスチックは様々な方面で利用されてきているが、現在その廃棄処理の問題が生じている。これを解決する手段として生分解性プラスチックの開発が行われているが、これらの生分解性プラスチックも厳密にいえば完全に二酸化炭素と水にまで分解するものは少なく、また製造過程では化学反応を伴っているものもあり、必ずしも生体系に対して全く安全であるという保証はない。
【0003】
澱粉は天然に豊富に存在し、また毒性もないため、これを原料とするプラスチックが開発できれば理想的な生分解性プラスチックとなるが、澱粉自体は強度が低く、材料として利用することは容易ではない。澱粉を主原料あるいは原料の一部として用いるプラスチックの開発研究も行われているが、強度又は耐水性を持たせるために合成ポリマー又は合成品を若干でも混合する必要があるのが現状である(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
特許文献3には、澱粉等の多糖類からなる成形体の表面に、プロラミンを化学的に結合させて、多糖類成形体に耐水性を付与する方法が開示されているが、化学的な結合を用いるため、構造自体が変化してしまう。
【0005】
非特許文献1には、澱粉及び寒天からなるゲルをα−アミラーゼ処理した後、凍結乾燥することにより、細胞構造を有するスポンジが得られることが記載されている。
【0006】
しかしながら、澱粉及び寒天のみでは、十分な耐水性及び強度が得られず、生分解性材料としての適用範囲が限られる。
【0007】
【特許文献1】特開2001−26668号公報
【特許文献2】特開2000−319630号公報
【特許文献3】特開平11−189666号公報
【非特許文献1】Food Hydrocolloids, 12, 105 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、澱粉及び食用天然素材のみを用いて澱粉及び寒天のみからなる生分解性材料の欠点である耐水性及び/又は強度を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含む混合物を複合化させてなる生分解性材料であって、該生分解性材料中の澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンの合計含有率が70重量%以上であり、かつ、高分子タンニンで表面処理されている生分解性材料。
(2)生分解性材料中の澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンの合計含有率が90重量%以上である前記(1)に記載の生分解性材料。
(3)前記混合物が澱粉100重量部に対して寒天80〜150重量部並びにコラーゲン及び/又はゼラチン1〜25重量部を含む前記(1)又は(2)に記載の生分解性材料。
(4)澱粉、寒天及びゼラチンを含む混合物を複合化させてなる生分解性材料であって、該生分解性材料中の澱粉、寒天及びゼラチンの合計含有率が70重量%以上である生分解性材料。
(5)前記混合物が澱粉100重量部に対して寒天80〜150重量部及びゼラチン1〜25重量部を含む前記(4)に記載の生分解性材料。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の生分解性材料からなる成形品。
(7)澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含む混合物を加熱プレス成形し、かつ成形の途中又は成形後に高分子タンニンで表面処理することを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性材料の製造方法。
(8)澱粉、寒天及びゼラチンを含む混合物を加熱プレス成形することを特徴とする、前記(4)又は(5)に記載の生分解性材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、澱粉及び食用天然素材のみを用いて澱粉及び寒天のみからなる生分解性材料の欠点である耐水性及び/又は強度を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の生分解性材料は、澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含む混合物を複合化させてなるものである。
【0012】
本発明に用いる澱粉としては、コーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、米澱粉、サゴ澱粉等の生澱粉、又はこれらの混合物が挙げられるが、澱粉を含むものであれば制限はない。
【0013】
本発明に用いる寒天としては、例えば80〜100℃の水に可溶であるものが好ましいが、少なくとも沸騰水に溶解が可能であればよい。
【0014】
澱粉と寒天とを複合化させることにより、強度が高くかつ柔軟性を有する生分解性材料を得ることができる。更に、本発明の生分解性材料の原料にゼラチンを含有させることにより、強度が増加し、コラーゲン及び/又はゼラチン、特にコラーゲンを含有させることにより、高分子タンニンとの親和性が増加する。
【0015】
澱粉と寒天とコラーゲン及び/又はゼラチンとの割合は、澱粉100重量部に対して、寒天80〜150重量部並びにコラーゲン及び/又はゼラチン1〜25重量部であることが好ましく、寒天90〜120重量部並びにコラーゲン及び/又はゼラチン5〜20重量部であることが更に好ましい。
【0016】
本発明の生分解性材料の原料には、澱粉、寒天、コラーゲン及びゼラチン以外に、アルギン酸、カラゲナン、フコイダン等の海洋性多糖類;コラーゲン及びゼラチン以外の蛋白質を含有させてもよいが、生分解性材料中の澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンの合計含有率が70重量%以上であることが必要であり、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることが更に好ましい。
【0017】
本発明の生分解性材料は、高分子タンニンで表面処理することにより、耐水性が向上する。
【0018】
タンニンは、植物の幹、皮、葉、実等から抽出される天然物であり、環境に優しい物質である。タンニンには、ピロガロール系の加水分解型タンニンとカテコール系の縮合型タンニンがある。
【0019】
本発明に用いる高分子タンニンとは、植物の幹、皮、葉、実等から熱水やアルコールで抽出されるポリフェノール重縮合体であり、渋みを呈し、多くの蛋白質と強く結合して沈殿を生じるものをいい、通常分子量は約2千〜約100万であり、好ましくは分子量1万以上のものを用いる。本発明においては、加水分解型及びカテコール系の縮合型のいずれの高分子タンニンを用いてもよいが、カテコール系の縮合型タンニンが好ましい。高分子タンニンとしては、例えばカキタンニン、ケブラチョタンニン、ミモザタンニン、ブドウ種子タンニン、リンゴ未成熟タンニンが挙げられる。
【0020】
本発明の生分解性材料は、好ましくは、澱粉と寒天とコラーゲン及び/又はゼラチン並びに水、必要に応じてその他の成分を含む混合物を加熱下(好ましくは80〜95℃)撹拌し、得られた混合物を加熱プレス成形することにより製造することができる。
【0021】
澱粉と寒天とコラーゲン及び/又はゼラチン並びに水の割合は、澱粉1g当たり、寒天0.8〜1.5g、コラーゲン及び/又はゼラチン0.01〜0.25g並びに水5〜20mLであることが好ましく、寒天0.9〜1.2g、コラーゲン及び/又はゼラチン0.05〜0.20g並びに水8〜15mLであることが更に好ましい。加熱プレス成形の条件は、好ましくは110〜150℃、15〜30MPa、0.5〜1.5時間である。成形の途中で、高分子タンニン水溶液を材料表面に塗布し、更に熱プレス機で完全に成形することにより、耐水性を向上させることができる。また、高分子タンニンによる表面処理は、成形後に高分子タンニン水溶液を材料表面に塗布した後、乾燥することにより行ってもよい。高分子タンニン水溶液の濃度は、好ましくは10〜60w/v%、更に好ましくは30〜50w/v%である。
本発明の生分解性材料は、例えばフィルム状等の各種成形品とすることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
(比較例1)澱粉及び寒天のブレンド化物の調製
甘藷澱粉5g及び寒天5gを水50mL中、加熱条件下(90℃)で、撹拌機を用いて撹拌しながら均一に混合し、室温まで冷却することによって、水を含んだ混合物を得た。得られた混合物を縦65mm、横160mm、厚さ0.5mmの金型に入れ、熱プレス機により120℃から140℃に徐々に昇温しながら、20MPa、1時間の条件で成形し、試験片を作製した。
【0024】
(実施例1)澱粉、寒天及びゼラチンのブレンド化物の調製
原料として、甘藷澱粉5g、寒天5g、ゼラチン0.25g及び水50mLの混合物を用いる以外は比較例1と同様に処理し、試験片を作製した。
【0025】
(参考例1)澱粉、寒天及びコラーゲンのブレンド化物の調製
原料として、甘藷澱粉5g、寒天5g、コラーゲン0.25g又は1.0g及び水50mLの混合物を用いる以外は比較例1と同様に処理し、試験片を作製した。
【0026】
(比較例2)
原料として、甘藷澱粉5g及び水25mLの混合物を用いる以外は比較例1と同様に処理し、試験片を作製した。
【0027】
(比較例3)
原料として、寒天5g及び水25mLの混合物を用いる以外は比較例1と同様に処理し、試験片を作製した。
【0028】
(実施例2、3及び比較例4)
比較例1、実施例1及び参考例1において、プレス機で若干圧力をかけ平らにした後、高分子タンニン(カキタンニン)の50w/v%水溶液を材料表面に塗布し、更に熱プレス機で完全に成形した。
【0029】
(試験例1)引張試験
実施例1〜3、参考例1及び比較例1〜4と同様にして、図1に示す形状の試験片を作成した。これを小型卓上引張試験機にて、Load:10.00N、Stroke:10.00mm、Time:120.00sec、Rate:0.5secの条件で引張試験を行って、応力−ひずみ曲線により強度、柔軟性を評価した。結果を図2及び3に示す。図2及び3から、本発明の生分解性材料は強度及び柔軟性のバランスがとれていることがわかる。
【0030】
(試験例2)含水試験
実施例1〜3、参考例1及び比較例1〜4と同様にして作成した縦65mm、横160mm、厚さ0.5mmの成形品をカットして、縦15mm、横10mm、厚さ0.5mmの試験片を作成した。10mlのサンプル管に水を加え、試験片を10分間浸漬し、水から取り出し表面の水分をふき取った。重量を測定し、浸漬前後の重量を比較し、以下に示す含水率を求めた。
含水率=(浸漬後の重量−浸漬前の重量)/浸漬前の重量
結果を図4に示す。
【0031】
図4から、材料表面を高分子タンニンでコーティングすることにより、耐水性が向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】引張試験に供した試験片の形状を示す図である。
【図2】各試験片の応力−ひずみ曲線を示す図である。
【図3】各試験片の応力−ひずみ曲線を示す図である。
【図4】含水試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含む混合物を複合化させてなる生分解性材料であって、該生分解性材料中の澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンの合計含有率が70重量%以上であり、かつ、高分子タンニンで表面処理されている生分解性材料。
【請求項2】
生分解性材料中の澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンの合計含有率が90重量%以上である請求項1記載の生分解性材料。
【請求項3】
前記混合物が澱粉100重量部に対して寒天80〜150重量部並びにコラーゲン及び/又はゼラチン1〜25重量部を含む請求項1又は2記載の生分解性材料。
【請求項4】
澱粉、寒天及びゼラチンを含む混合物を複合化させてなる生分解性材料であって、該生分解性材料中の澱粉、寒天及びゼラチンの合計含有率が70重量%以上である生分解性材料。
【請求項5】
前記混合物が澱粉100重量部に対して寒天80〜150重量部及びゼラチン1〜25重量部を含む請求項4記載の生分解性材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生分解性材料からなる成形品。
【請求項7】
澱粉、寒天並びにコラーゲン及び/又はゼラチンを含む混合物を加熱プレス成形し、かつ成形の途中又は成形後に高分子タンニンで表面処理することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生分解性材料の製造方法。
【請求項8】
澱粉、寒天及びゼラチンを含む混合物を加熱プレス成形することを特徴とする、請求項4又は5記載の生分解性材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−308637(P2007−308637A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140483(P2006−140483)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】