説明

生海苔類の貯蔵方法及びそれを行う生海苔類の貯蔵装置

【課題】採取した生きた海苔を、その採取した時と同等又はそれよりも品質の優れた状態にしてつまり活性化状態で次の加工工程に供給することを可能にした「生きた海苔類の貯蔵方法及びそれを行う貯蔵装置」を提供する
【解決手段】海水又は真水を収容した容器内に生きた海苔、海草等を装入しこれを攪拌して貯蔵するに際して、前記容器の底部から酸素を吹き込み、容器内貯蔵水中の初期酸素濃度を15mg/L以上にした後に海草等を装入し攪拌洗浄する生海苔類の貯蔵方法。貯蔵水を収容し生きた海苔、海草等を装入する容器と、前記容器内の海苔、海草等を回転攪拌する攪拌機と、酸素供給管に接続して前記容器の底部に配置した散気ノズルに酸素供給管を接続して容器内に酸素を吹き込む酸素吹き込み装置とからなり、前記散気ノズルの周りにカバーノズルを配置した生海苔類の貯蔵装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生きた海苔類の貯蔵方法及びそれを行う貯蔵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海で養殖し又は直接それを採取した生きたままの海苔類は、製品に加工する前に、一般に、海水中に収容して貯蔵する。またその後の加工処理前に「すき水」と称する真水に移して貯蔵して塩分などを除去するなどの前処理をする。
これらの貯蔵は、例えば逆円錐形の底部を有し直径3m、高さ5mの容器に15トンの海水や真水等の貯蔵水を収容してこれに4〜5トン程度の海苔を装入し攪拌機のインペラーを容器内で回転させて海苔を攪拌するが、貯蔵水が徐々に汚れるためこの攪拌作業は、1. 貯蔵水の排出作業を連続的に行いながら行うか、2. バッチ的に貯蔵水の排出を数回繰り返して行うか、3. 複数の容器を用意して海苔を順次入れ替えて行うものである。
ここで問題は、生きた海苔は常に酸素呼吸と炭酸同化作用をするが、この貯蔵過程で貯蔵水中の酸素濃度が急速に低下すると共に汚れで劣化し、酸素呼吸と炭酸同化作用を著しく弊害するため、海苔の品質が著しく劣化し場合によっては、部分的白化症状、ヌメリが多量に溶出沈降するなどを伴うと共に、前記した1. 貯蔵水の連続的排出作業、2. 貯蔵水の繰り返し排出作業、3. 複数の容器への海苔の順次入れ替え作業は、著しく煩雑で時間と費用のかかる厄介なものとなる。
【特許文献1】特開2003−228322号公報
【特許文献2】特開2004−209263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、採取した生きた海苔を、その採取した時と同等又はそれよりも品質の優れた状態にしてつまり活性化状態で次の加工工程に供給することを可能にした「生きた海苔類の貯蔵処理方法及びそれを行う貯蔵装置」を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決する本発明の技術的手段は、次の(1)、(2)に記載の通りである。
(1)、海水又は真水を収容した容器内に生きた海苔、海草等を装入して貯蔵するに際して、前記容器の底部から酸素を継続吹き込み、海草等を装入しない状態での安定する溶存酸素濃度が15mg/L以上となる酸素吹き込み量を保持して貯蔵することを特徴とする生海苔類の貯蔵方法。
(2)海水又は真水と共に生きた海苔、海草等を容器内に収容しこれらを攪拌機で攪拌する貯蔵装置において、酸素濃縮装置に酸素供給管を介して接続する散気ノズルを前記容器の底部に配置し、前記散気ノズルの周りに噴出孔を有するカバーノズルを配置してなる酸素吹き込み装置を設けたことを特徴とする生海苔類の貯蔵装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、上記方法と装置により、海で採取した生きた海苔を、その採取した時と同等又はそれよりもより活性化状態つまり海苔として充分な酸素呼吸と炭酸同化作用を充分に維持し、海苔細胞の色素を溶出することなく良好な状態で貯蔵し、次の加工工程に供給することを可能にし、品質の優れた海苔加工品を製造可能にする等の優れた効果を呈するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
1.生海苔類の貯蔵方法について
(1)、前記容器の底部から酸素を吹き込む技術的意義。
容器の底から酸素を吹き込むと全ての酸素を海水中に効率よく均一に溶存させることができるものである。
(2)、海草等を装入しない状態での安定溶存酸素濃度(以下、単に安定溶存酸素濃度と言う)が15mg/L以上となる酸素吹き込み量を保持する技術的意義。
容器内の貯蔵水中の溶存酸素濃度を15mg/L以上で安定する酸素供給量を継続維持しながら攪拌することにより、装入した海苔の酸素呼吸と炭酸同化作用の活発化を高位に安定させて海苔の品質劣化を確実に防止し寧ろ品質を向上させる優れた作用効果を呈するものである。さらに貯蔵水の早期劣化を防止し太陽光線の透過減少を抑制して海苔の酸素呼吸と炭酸同化作用の活発化をより促進するものである。反面、容器内の貯蔵水中の安定初期酸素濃度を15mg/L未満にすると、攪拌中に容器内の貯蔵水が早期に赤水となる所謂酸欠状態となることがあり、これによって海苔はその細胞の色素を溶出して劣化し、場合によっては死滅する恐れがあるので貯蔵水を頻繁に交換しなければならず、煩雑な作業となる。
(3)、貯蔵水を収容した容器内に生きた海苔、海草等を装入しこれを攪拌して貯蔵するに際して、好ましくは収容貯蔵水の温度を10.0〜13.0℃にする技術的意義。
生きた海苔が酸素呼吸と炭酸同化作用により生息する上での最適な温度環境であり、これを保持することが好ましい必要な条件となる。
【0007】
2.生海苔類の貯蔵装置について
(1)、本発明において、貯蔵水を収容し生きた海苔、海草等を装入する容器は、SUS製、コンクリート製等で円筒・角筒状、球状、円錐・角錐状、円錐台・角錐台状等とし、貯蔵水供給手段はバッチ的入れ替え式、連続供給・排水式等その他適宜な公知の貯蔵水供給手段を採用する。
(2)、本発明において、前記容器内の海苔、海草等を回転攪拌する攪拌機は、例えば、容器外に回転駆動装置を設置し、これに容器内海苔の攪拌用のインペラーを接続した簡単なもの、或いは、貯蔵水のジェット噴流攪拌装置等でよい。
(3)、本発明において、前記容器の底部に配置した散気ノズルから容器内に酸素を吹き込む酸素吹き込み装置は、例えば前記特許文献2の装置を本発明者等が改善して吸湿・放湿筒を加入した「ロータリーバルブ式酸素濃縮機」(商品名:DOアップ君)で、その基本構成を空気圧送ポンプにセラミック製ロータリーバルブ(前記特許文献1:特許第3597155号)を介して、並列2機の吸湿・放湿筒−吸窒・放窒筒を連通管で接続し、ロータリーバルブの低速回転により空気連通ルートを「ロータリーバルブ−1機目の吸湿・放湿筒−吸窒・放窒筒−2機目の吸窒・放窒筒−吸湿・放湿筒−ロータリーバルブ」の第1ルートと「ロータリーバルブ−2機目の吸湿・放湿筒−吸窒・放窒筒−1機目の吸窒・放窒筒−吸湿・放湿筒−ロータリーバルブ」の第2ルートを交互に切り替え均圧を繰り返す方式の装置がある。またこの方式の変形として前記吸湿・放湿筒に代わって空気圧送ポンプとロータリーバルブ間に冷却機とサイクロンからなる除湿装置を設置する方式にしてもよい。
このような酸素濃縮機により空気を連続的に取り入れ水分や窒素等の不活性ガスを吸着除去して85%以上の高濃度の酸素を分離収集しこれを酸素供給管から容器底部に配置の散気ノズルから容器内に連続して酸素を吹き込むものである。
(4)、海苔収容容器の底部は、貯蔵水と共に攪拌している海苔自体又は海苔からの屑やヌメリが旋回沈降してくる。このため本発明において、前記散気ノズルの形状は、周囲に多数の酸素噴射孔を設けた円筒・角筒状、球状、円錐・角錐状、円錐台・角錐台状等とし、酸素供給管に接続させ、散気ノズルの周りにはカバーノズルを設けて、散気ノズルとカバーノズル間にガスを充満させてカバーノズルの噴出孔から均一で微細な酸素ガスを安定的に噴射すると共に上方から旋回沈降してくる海苔屑やヌメリが散気ノズル側に侵入することをカバーノズルにより防止して散気ノズルへの屑海苔やヌメリによるノズル閉塞を確実に防止し、常に所定量の微細な酸素泡を貯蔵水中に放出して貯蔵水中の溶存酸素(DO)を所定値以上に安定保持するものである。
【実施例1】
【0008】
1.貯蔵装置の説明
図1には本発明の生海苔類の貯蔵装置の一実施例の全体を示す説明図であり、図2の(1)と(2)は、図1に示す酸素濃縮装置の2例を示す詳細説明図である。図3は図1に示す要部の散気ノズルの詳細拡大説明図であり(1)はカバーノズルを一部切り欠いて中の散気ノズルが見える状態にした平面説明図で(2)は(1)の矢視A-Aからの横断面説明図である。
生海苔類の貯蔵装置は、貯蔵容器100と、攪拌機200と、酸素吹き込み装置300とからなる。
貯蔵容器100は、コンクリート製で高さ2800mm、底部102を一辺3000mmで底部を逆四角錐形にした貯蔵水収容タンク(貯蔵水収容量25ton)であり図示のように上端開放型で海苔、海草等の装入口101とし、底部102を逆四角錐形にし、他を角筒形にしたもので貯蔵水量は15ton、海苔収容量は5tonである。
攪拌機200は、前記貯蔵容器100内の海苔、海草等を回転攪拌するもので前記装入口101の中央部に固定し減速機を内蔵した回転駆動モータ装置201と、これに竪型の回転シャフト202を接続し、回転シャフト202に攪拌用の大インペラー203と小インペラー204を水平旋回可能に固定接続したものである。
大インペラー203は羽長さ90mm, 羽幅20mmの3枚羽根で、小インペラー204は羽長さ50mm, 羽幅20mmの3枚羽根とし、回転駆動モータ装置201による回転数は10〜30rpm(低速で10回転、高速で30回転)内で可変調節可能としたものである。
酸素吹き込み装置300は、貯蔵容器100外に固定設置し濃度85%以上の酸素を製造する酸素濃縮装置301に、酸素供給管302を介して貯蔵容器100底部102の好ましくは中央部に固定配置した散気ノズル303に連通したものである。酸素供給管302は、貯蔵容器100の装入口101から内壁103にソケット取付配管される。散気ノズル303はセラミックス製の多孔質(ポーラス)の円柱形ノズルでその上方と側方と前後方をカバーノズル305で覆う。カバーノズル305は、SUS製で保持版308に固定支持し、長さ300mm半径60mmの半円弧筒型で周面の前面に多数の酸素噴出孔306を配設してある。酸素噴出孔306は直径3mmでピッチ7mmで配設した。保持版308は、貯蔵容器100底部102の上面に保持脚309で固定し直径20mmでピッチ68mmで8個の内外通水路304を有する。
そして、前記散気ノズル303からは直径1〜2mmの均一で微細な泡が放出され、これがカバーノズル305を介して海中に噴出され、上記インペラーで攪拌され直ちに海水中に溶解して、海苔装入前で攪拌前の貯蔵水中の初期溶存酸素量DOを15〜40mg/Lに維持する。
酸素吹き込み装置の酸素濃縮装置301は、具体例を図2の(1)と(2)に示す。図2の(1)に示す具体例1は、空気圧送ポンプ310にセラミック製ロータリーバルブ311(前記特許文献1:特許第3597155号)を介して、2機並列配置の吸湿・放湿筒312a、313a吸窒・放窒筒312b、313bを連通管314b、314dで接続し、ロータリーバルブ311の低速回転により空気連通ルートを「ロータリーバルブ311−連通管314a−1機目の吸湿・放湿筒312a−連通管314b−吸窒・放窒筒312b−オリフィス317a−連通管314c−オリフィス317b−2機目の吸窒・放窒筒313b−連通管314d−吸湿・放湿筒313a−連通管314e−ロータリーバルブ311」の第1ルートと「ロータリーバルブ311−連通管314e−2機目の吸湿・放湿筒313a−連通管314d−吸窒・放窒筒313b−オリフィス317b−連通管314c−オリフィス317a−1機目の吸窒・放窒筒312b−連通管314b−吸湿・放湿筒312a−連通管314a−ロータリーバルブ311」の第2ルートを交互に切り替え均圧を繰り返して、所定圧を超える酸素ガスは連通管314cから分岐した逆止弁315を介して酸素タンク316に高濃度酸素を供給貯蔵しながら酸素供給管302に酸素ガスを供給する方式の装置である。
酸素吹き込み装置の酸素濃縮装置301の具体例2は、図2の(2)に示す。
図2の(2)に示す具体例2は、具体例1と異なる点は、具体例1の吸湿・放湿筒312a、313aを削除し、吸窒・放窒筒312bを、314a、314bでロータリーバルブ311に直接連通し、吸窒・放窒筒313bを連通管314d、314eでロータリーバルブ311に直接連通し、更にロータリーバルブ311と空気圧送ポンプ310間の連通管310aに冷却機320と水分の分離用サイクロン321を連通設置し、その他は具体例1と同一構成としたものである。つまりこの例は、ロータリーバルブ311に供給される空気中の水分を予め除去する方式の装置である。
2.生海苔類の貯蔵方法の説明
前記貯蔵装置例を用いて、貯蔵方法を行った例を紹介する。
【0009】
貯蔵水として所定温度の海水を用いこれを貯蔵容器100内に収容し、この貯蔵容器100内に生きた海苔、海草等を装入しこれを大小インペラー203、204で攪拌すると共に、前記貯蔵容器100の底部102に設置の散気ノズル303からカバーノズル305を介して酸素を、貯蔵容器100内の海水中に吹き込み、容器内海水中の酸素濃度を所定範囲に維持して生海苔類を攪拌する具体的条件とその結果の具体例と比較例を表1〜表5に記載した。
この結果、本発明例:具体例1〜3は、海苔を装入すると直ちに海水中の溶存酸素が激減し、海苔を装出すると海水中の溶存酸素が急増することから海苔貯蔵中は、海苔が酸素呼吸と炭酸同化作用を活発に行っていることがうかがえる。そして一回の貯蔵時間で良好な貯蔵養生効果を呈し、海苔の細胞からの溶出色素も皆無であり、光沢、色合いは処理前よりも良好で活性化されており、ボリュームも増加している。更に散気ノズル303の詰まりも皆無であった。また海苔の装入量に対する酸素の単位時間当たりの供給量は、平均して2.0〜2.5L/min/tonであり、少量の酸素量で極めて効率よい貯蔵養生効果が得られた。
これに比し比較例1は、海苔の細胞からの色素溶出が発生し、光沢、色合いは処理前よりも低下しており酸素呼吸と炭酸同化作用が著しく低下していることがうかがえる。このため本発明の方法及び装置の優位性を確認することができた。
【0010】
【表1】

【0011】
【表2】

【0012】
【表3】

【0013】
【表4】

【0014】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、上記方法と装置により、海で採取した生きた海苔を、その採取した時と同等又はそれよりもより活性化状態で、つまり海苔として充分な酸素呼吸と炭酸同化作用を充分に維持し、海苔の細胞からの色素溶出も無い良好な状態で次の加工工程に供給することを可能にし、品質の優れた海苔加工品を製造可能にするなどの優れた効果を呈するものである。これによって本発明は、水産業における有効活用の可能性は極めて高く、この種産業に多大な貢献を呈するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の生海苔類の貯蔵装置の一実施例の全体を示す説明図である。
【図2】(1)は、酸素濃縮装置として、ロータリーバルブ式酸素濃縮装置を用いた具体例1のブロック線図である。(2)は、ロータリーバルブ式酸素濃縮装置の具体例2のブロック線図である。
【図3】図1に示す要部の散気ノズルの詳細拡大説明図であり、(1)は平面図、(2)はその矢視A−Aからの横断面図である。
【符号の説明】
【0017】
100 貯蔵容器
200 攪拌機
300 酸素吹き込み装置
101 装入口
102 底部
103 内壁
201 回転駆動モータ装置
202 竪型の回転シャフト
203 大インペラー
204 小インペラー
301 酸素濃縮装置
302 酸素供給管
303 散気ノズル
305 カバーノズル
306 酸素噴出孔
310 空気圧送ポンプ
311 セラミック製ロータリーバルブ
312a、313a 吸湿・放湿筒
312b、313b 吸窒・放窒筒
314a、314b、314c、314d、314e 連通管
317a、317b オリフィス
315 逆止弁
316 酸素タンク
320 冷却機
321 水分の分離用サイクロン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水又は真水を収容した容器内に生きた海苔、海草等を装入して貯蔵するに際して、前記容器の底部から酸素を継続吹き込み、海草等を装入しない状態での安定する溶存酸素濃度が15mg/L以上となる酸素吹き込み量を保持して貯蔵することを特徴とする生海苔類の貯蔵方法。
【請求項2】
海水又は真水と共に生きた海苔、海草等を容器内に収容しこれらを攪拌機で攪拌する貯蔵装置において、酸素濃縮装置に酸素供給管を介して接続する散気ノズルを前記容器の底部に配置し、前記散気ノズルの周りに噴出孔を有するカバーノズルを配置してなる酸素吹き込み装置を設けたことを特徴とする生海苔類の貯蔵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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