説明

生物付着防止法および生物付着防止用ブロック

【課題】 海水または淡水に触れる表面に生物が付着するのを、化学物質等の人工的な作用によらずに防止する。
【解決手段】 海水(淡水)に触れる部材の表面に海水系(淡水系)の生物が付着するのを防止する方法において、その部材を構成する材料として、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料を使用し、この材料の海水(淡水)に面する側の表面に、この材料の内部から淡水(海水)を流出させることを特徴とする生物付着防止法である。植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料は、植物繊維の配合により硬化体マトリックス内に水が自然に浸透・流下する細孔を有するようにした材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に触れる部材表面に生物が付着するのを防止する方法およびそのためのセメントまたはコンクリートブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
水生の生物が各種構造物の表面に付着すると、害になったり不都合が生じることがある。例えば発電所の取水口近傍にムラサキイガイやフジツボ等の生物が多量に付着すると取水操作に不都合が生じる。その除去には多大の経費と残渣処理を必要とする。
【0003】
構造物表面に生物が付着するのを防止するには、その表面を生物が付着し難い形態に工夫したり、生物が忌避する物質を塗布または混入したりする化学的な手段による方法、或いは電流・電磁気・光・振動・その他の物理的な手段による方法など各種提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の生物付着を防止する方法は、いずれも一長一短があり、それなりの効果があるが、基本的には人工的に水と接する表面に細工を施して生物が付着し難い表面に改変することを原則としている。つまり、自然の摂理の上に則ったものではなく、人工的な物質や器具を用いて、生物が拒絶する物質・環境等を構造物表面において実現しようとするものであった。このために、生物付着防止のために過大の費用が嵩み、しかも、その効果が常時持続するという保証は得られなかった。本発明は、このような問題の解決を図ることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、水生の生物が生育している水とは塩分濃度や温度が異なる環境を構造物表面に自然に形成できれば、人工的な化学物質や器具を使用しなくても生物の習性を利用して付着防止できるのではないかと着目し、そのための手段として、植物繊維入りブロックを用いる方法を見い出した。
【0006】
すなわち本発明によれば、海水に触れる部材の表面に海水系の生物が付着するのを防止する方法において、該部材を構成する材料として、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料を使用し、この材料の海水に面する側の表面に、この材料の内部から淡水を流出させることを特徴とする生物付着防止法を提供する。そのさい、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料としては、植物繊維の配合により硬化体マトリックス内に水が自然に浸透・流下する細孔を有する材料を使用し、この材料において、海水に面する側の表面と淡水に面する側の裏面をもたせ、該裏面の淡水に対して表面の海水よりも高い静圧を付与する。
【0007】
淡水系の生物の付着を防止するには、前記の生物付着防止法において、海水と淡水の関係を逆にすればよい。すなわち、本発明によれば、淡水に触れる部材の表面に淡水系の生物が付着するのを防止する方法において、該部材を構成する材料として、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料を使用し、この材料の淡水に面する側の表面に、この材料の内部から海水等の含塩水を流出させることを特徴とする生物付着防止法を提供する。さらに本発明によれば、水に触れる部材の表面に生物が付着するのを防止する方法において、該部材を構成する材料として、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料を使用し、この材料の水に面する側の表面に、この材料の内部から前記の水の温度とは異なる温度の水を流出させることを特徴とする生物付着防止法を提供する。
【0008】
このような生物付着防止法を実施する部材として、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料からなる生物付着防止用ブロックであって、該ブロックの内部に水が貯溜する空洞を形成し、この空洞内の水が該ブロックの外表面に流出する細孔を、前記の植物繊維の分散によって該ブロック内に形成したことを特徴とする生物付着防止用ブロックであるのが好ましい。
【0009】
本発明によると、海水系の生物或いは淡水系の生物が、海水または淡水に触れる表面に付着する現象を、セメント系硬化体の材料を用いて防止することができる。モルタルまたはコンクリート系のセメント系硬化体材料はその成形性・強度・耐久性・経済性等の点で他の材料にはない優れた特徴があり、この種の材料用いて水生の生物の付着が簡単に防止できたことは、生物付着で苦慮していた各種の水際構造物や水中構造物の分野などで多大の貢献ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、海水系の付着生物に対しては淡水を用い、淡水系の付着生物に対しては海水等の含塩水を用いて、付着しやすい構造物表面近傍に異なった塩分の水膜層を自然に作り出すことによって、付着を防止することを要旨とするものであり、それを実現する部材として水が浸透するモルタルまたはコンクリート材料、特に植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料であって植物繊維の配合により硬化体マトリックス内に水が自然に浸透・流下する細孔を有する材料を使用する点に特徴がある。
【0011】
植物繊維を適量配合したモルタルまたはコンクリートは、硬化体マトリックス中に微細な細孔が分布される結果、水が浸透する性質を有するようになる。この状況を図1に従って説明すると、図1は、植物繊維を適量配合したコンクリートブロック2(植物繊維入りブロックという)に対して水が浸透・流下する状態を普通のコンクリートブロック1と対比して図解的に示したものである。
【0012】
これらブロック1および2の上に、ブロック上面とほぼ同一の底面積をもつ水槽3を設置する。水槽3の底部はブロックの上面であり、水槽3内の水はブロックの上面いっぱいに接している。水槽壁の下部から水が外に漏れないようにシールを施してある。試験に供した普通コンクリートのブロック1と植物繊維入りブロック2は、表1に示す配合および材令・性質を有するものであり、その大きさは両者とも高さ200mm×幅500mm×幅500mmである。
【0013】
【表1】

【0014】
図1のものにおいて、水槽3内に200mmの高さまで水を張り、8時間経過した時点で観察すると、普通コンクリートのブロック1aには殆ど水は浸透せず、水槽3内の水の高さも194mmを維持しているのに対し、植物繊維入りブロック2aでは、側面に水が滲み出して来ており、水槽内の水の高さも145mmまで減少した。24時間経過後でも、普通コンクリートのブロック1bでは殆どブロック内に水は浸透せず、水槽内の水の高さはほぼ初期の値と等しい191mmであったのに対し、植物繊維入りブロック2bでは、その底部から水が流出しており、水槽内の水の高さは50mmまで低下した。
【0015】
この結果から、普通コンクリートブロック1では水が自然に流下するような性質を持たないのに対し、植物繊維入りブロック2では、上方から下方に向けて水が自然に浸透・流下する性質(浸水性)を有することがわかる。後者の性質は硬化体マトリックス中に植物繊維を適量配合することによって発現し得る。
【0016】
本発明は、このような植物繊維入りモルタルまたはコンクリートの性質を、生物付着防止に利用しようとするものである。
【0017】
その代表的な利用の仕方を図2に図解的に示した。図2に示す如く、植物繊維入りモルタルまたはコンクリートによって箱型ブロック4を作る。この箱型ブロック4は、広面側の壁5aと5b、狭面側の壁6aと6b(6aに対向する側に位置するが図面上では切り欠かれて見えない)および底板7とからなり、これらによって囲われる内部空洞8内に淡水9を溜める。このブロック4の外側の面、例えば広面側の壁5aの外面が海水10に接し、空洞8内の淡水9の水面レベルを海水10のそれより高い状態に維持されると、壁5aを通じて、淡水9が海水10の側にゆっくりと自然に流出し、壁5aの外面は、薄い淡水層11で覆われることになる。つまり、壁5aの外面は海水側に面しているものの、実際には薄い淡水層11で覆われるので、海水系の生物が海中より壁5aに近づいても淡水層11で拒絶反応を示して付着するのを忌避する。
【0018】
この忌避現象は、海水に触れる部材として、前記のような植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料を使用し、この材料の海水に面する側の表面に、この材料の内部から淡水を流出させる限り続くと見てよい。淡水の流出を続けるには、空洞8内の淡水9に対して外面の海水10より高い静圧を維持すればよく、実際には、水面が海面より高く維持されるように、淡水9を空洞8内に導入し続ければよい。
【0019】
図2では、箱型ブロック4の全体を、植物繊維入りの浸水性モルタルまたはコンクリート(植物繊維入りセメント系硬化体と言う)で構成した例を示したが、海水10と接する壁部(例えば5a)だけを該植物繊維入りセメント系硬化体とし、他の部分は非浸水性の材料で構成して、壁部を通じて流出する淡水9は、海水10と接する壁部5aだけからとし、他の部分からは流出しないようにすることもできる。その場合、壁5aの部分を本発明に従う植物繊維入りセメント系硬化体とし、他の部分を普通コンクリートまたはモルタルとすることもできる。
【0020】
図3は、構造物12が海水10と接する面に、植物繊維入りセメント系硬化体からなる箱型ブロック4を取付け、このブロック4の内部に形成した空洞8内に淡水源13から淡水9を導入し、空洞8内の淡水9の水面レベルを海水10のそれより高く維持している状態を示したものである。この状態では、図2で説明したように、ブロック4が海水10に触れる側の面14に、その内部から淡水9が流出するので、その面14に淡水層11が生成する。このため、海水系の生物が海中より面14に近づいても淡水層11で拒絶反応を示して付着するのを忌避する。
【0021】
図3の例において、淡水源13は河川の流水でもよいし、貯溜された雨水であってもよく、場合によっては、工業用水や水道水であってもよい。また、植物繊維入りセメント系硬化体で作られるブロック4は、中空パネル形状のものとし、そのパネルの内部空間を、淡水9を導入する空洞とするものが実際的である。このような中空パネルを多数貼り合わせることによって構造物12の海水10と接する面を仕上げ、各々の中空パネルの空洞に淡水9を導く通路を形成することにより、海水10と接する面が大きな面積であっても、これに対応することができる。
【0022】
図4は、前記のような箱型ブロックに蓋をして内部に閉塞空洞を形成し、この閉塞空洞に淡水源13から淡水9を圧入する構成を示したものである。淡水9の圧入は、図示のようにポンプ15を用いてもよいが、水頭ヘッドを高くした淡水槽を設置し、この淡水槽から閉塞空洞内に淡水を落水させる構成でもよい。箱型ブロック内にこのような閉塞空洞を設ける場合には、閉塞空洞内の淡水9に対して海水よりも高い静圧を付与することができるので、空洞内の淡水9の水面レベルを海水のそれより高く維持することは必ずしも必要とはしなくなる。このため、このようなブロックを用いると、海面下の構造物に対しても、生物付着防止を図ることができる。なお、海水に面する壁面16を植物繊維入りセメント系硬化体で構成し、その他の壁面17については非透水性の材料(普通コンクリートや金属その他の材料など)でこの箱型ブロックを構成することもできる。
【0023】
これらの例においては、海水と接する面に植物繊維入りセメント系硬化体の内部から淡水を流出させる態様を示したが、海水と淡水を逆として、淡水に接する面に植物繊維入りセメント系硬化体の内部から海水を流出させる態様とすると、淡水側の外面には海水の塩濃度をもつ水膜が形成されるので、淡水系の生物がその面に付着するのを忌避し、その外面に淡水系の生物が付着するのを防止することができる。この態様において、海水は天然でもよいし、人工であってもよい。場合によっては、海水中の無機塩類の主要成分、例えば塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、塩化カリウム(KCl)等から選択される少なくとも一つの成分を含む水溶液であってもよい。海水の塩濃度(塩分)は通常は約3.4%であるが、その濃度は淡水系の生物の付着状況に応じて変更することができる。また、前述した水溶液の濃度も、海水中に含まれる各成分を基準に調節するが、その濃度は同様に変更可能である。このように、海水またはその無機塩類の主要成分を含む水溶液、即ち含塩水を用いて、淡水系の生物の付着防止を図る。
【0024】
いずれにしても、これらは水の塩濃度の差を利用して生物付着を防止するものであるが、塩濃度に代えて温度の差を利用して生物付着を防止することも可能である。すなわち、海水(含塩水)・淡水を問わず、植物繊維入りセメント系硬化体の内部から温度が異なる含塩水・淡水(つまり温水または冷水)を流出させることによって、その植物繊維入りセメント系硬化体の外表面を生物の生息環境とは異なる温度状態に維持することができ、これによってもその表面に生物が付着するのを防止することができる。
【0025】
いずれにしても、本発明においては、生物付着を防止するためには、海水または淡水に触れる部材を構成する材料として、その内部から水が流出する浸水性モルタルまたはコンクリート材料を使用することが一つの特徴であり、特に植物繊維を適切且つ適量にセメント系硬化体内に分散配合することにより、水の圧力差によって、その材料の内部から外表面に流出するような細孔を形成する点に特徴がある。以下にそのような浸水性の植物繊維入りセメント系硬化体について説明する。
【0026】
図1で示したようなセメント系硬化体ブロック中を水が自然に浸透・流下する性質は、硬化体マトリックス中に植物繊維を適量配合することによって得ることができる。すなわち、本発明に従うブロックは、セメント等の結合材および骨材のほかに、植物繊維を配合した点に特徴がある。使用する植物繊維としては、長さが2〜20mm、径が0.1〜1.0mm程度の短繊維が好適であり、配合量としては、植物繊維の種類によってその適正な範囲は異なるが、10〜80Kg/m3好ましくは20〜60Kg/m3の範囲とするのがよく、植物繊維の配合量が多いほどブロック中に水が浸透・流下する性能は高まる。
【0027】
その理由は必ずしも明らかではないが、植物繊維それ自身が水を吸水する性質を有することのほかに、硬化体マトリックス中に植物繊維が分散されることにより、水が浸透するような微細な細孔が硬化体マトリックス全体に分布するようになると考えられる。しかし、あまり植物繊維の配合量が多いと、骨材表面が植物繊維で覆われるところが増え、骨材・結合材間の接合強度を劣化させることにもなるので、80Kg/m3以下、好ましくは60Kg/m3以下とするのがよい。練り混ぜに際しては、例えばセメントペーストに植物繊維を先練りし、植物繊維入りセメントペーストを骨材と練り混ぜる方法が好ましい。一般に植物繊維は、コンクリートに混入されると腐食しがたくなる性質があり、例えば麻はエジプトのピラミッドからも腐食していないものが発見されている実績がある。
【0028】
植物繊維としては、麻、綿、籾、藁の少なくとも1種を原料とすることができる。植物繊維の使用にあたっては、よくほぐした状態で使用するのがよい。植物繊維の性質上、その繊維一本一本の径や長さ、さらには表面状態や形状(針状か板状かなど)はランダムであるが、要するところ、その植物繊維の性質に応じてコンクリート中によく分散できるような寸法形状とすればよい。麻を用いる場合には、ほぼ長さが2〜12mmで、径が0.2〜0.7mm程度のものを練り混ぜ中の材料に少しずつ投入して分散させればよい。そのさい、水を混入する前の空練りを60秒以上行うことが好ましい。
【0029】
練り混ぜにさいしては、コンクリート用分散剤を使用して植物繊維の分散を促進させることも好ましい。使用できる分散剤には各種のものがあるが、例えば高性能減水剤や高性能AE減水剤などが挙げられる。
【0030】
使用する結合材として、セメント系では普通セメントが使用できるが、低pHセメントを使用すると、低pHの植物繊維入り生モルタルが得られ、低pHの本発明に従う生物付着防止用ブロックを作ることができ、環境に対して優しくなる。低pHセメントとしては、MgOおよびP25を主成分とする低pHセメントを使用できる。このような低pHセメントとしては、例えば特開2001−200252号公報に記載された軽焼マグネシアを主成分とする土壌硬化剤組成物が挙げられる。またこれに相当する低pHセメントは商品名マグホワイトとして市場で入手できる。さらに、セメントの一部を、必要に応じて高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒュームなどで置換することもできる。
【0031】
骨材成分としては通常の細骨材および粗骨材を使用できる。場合によっては、粗骨材を使用せずいわゆるモルタル配合のブロックとすることも可能である。軽量骨材、すなわち軽量細骨材および/または軽量粗骨材を使用して、植物繊維配合の軽量ブロックとすることもできる。
【0032】
本発明の生物付着防止用ブロック基材を作る場合、代表的な植物繊維入り生モルタルの材料配合例を挙げると、普通セメントを使用した場合には、例えば、
普通ポルトランドセメント:600Kg/m3±200Kg/m3
粗骨材(最大寸法20mm) :650Kg/m3± 50Kg/m3
細骨材 :700Kg/m3±100Kg/m3
水 :240Kg/m3± 40Kg/m3
植物短繊維(綿の場合) : 35Kg/m3± 10Kg/m3
混和剤として、
高性能減水剤(例えば(株)エヌエムビー製の商品名8000ES):6Kg/m3±2Kg/m3を例示できる。これによって気乾比重=1.9±0.2、湿潤比重=2.1±0.2の硬化体とすることができる。この硬化体は、圧縮強度300kgf/cm2 ±50kg/m3、曲げ強度45kgf/cm2 ±10kg/m3の強度を有することができる。
【0033】
また、 低pHセメントを使用する場合には、例えば
低pHセメント(商品名マグホワイト):500Kg/m3±50Kg/m3
黒土 :500Kg/m3±50Kg/m3
砂 :400Kg/m3±40Kg/m3
水 :420Kg/m3±40Kg/m3
植物短繊維(綿の場合) :20Kg/m3±5Kg/m3
混和剤として、
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100A):5Kg/m3±1Kg/m3
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100B):3Kg/m3±1Kg/m3
を例示できる。これによって気乾比重=1.5±0.2、湿潤比重=2.1±0.2の硬化体とすることができる。この硬化体は、圧縮強度300kgf/cm2 ±50kg/m3、曲げ強度45kgf/cm2 ±10kg/m3で、単位吸水率が30%±10%程度の浸水性を示す硬化体となる。
【0034】
このようにして得られる浸水性を示す硬化体は、その浸水性能を透水係数、単位吸水量および単位脱水量を用いて表すと、次のような特異な値を示す。
透水係数:0.0001〜0.0005cm/sec(普通セメントを用いた場合には通常0.0001〜0.0003cm/sec、低pHセメントを用いた場合には通常0.0004〜0.0005cm/secの程度となる)。
下記(1) の測定法に従う単位吸水量:100〜500L/m3(普通セメントを用いた場合には通常100〜300L/m3、低pHセメントを用いた場合には通常100〜500L/m3の程度となる)。
下記(2) の測定法に従う単位脱水量単位脱水量:50〜150L/m3(普通セメントを用いた場合には通常30〜60L/m3、低pHセメントを用いた場合には通常50〜150L/m3の程度となる)。
(1) 単位吸水量の測定法:直径10cmで高さ20cmの円柱供試体を110℃で湿度0%の乾燥器内にて絶乾状態としてその重量Wd(Kg)を測定し、絶乾状態の供試体全体に給水を24時間続けた時点での重量Ww(Kg)を測定し、(Ww−Wd)/Vを求める。
(2) 単位脱水量の測定法:直径10cmで高さ20cmの円柱供試体の全体を水中に重量変化が生じないまで浸漬して定重量Wc(Kg)を測定し、この定重量物を30℃の乾燥器内で24時間保持した時点での重量We(Kg)を測定し、(Wc−We)/Vを求める。Lはリットルを表わしているが、L/m3はKg/m3で表示することもできる。
【0035】
ちなみに、普通セメントモルタルの硬化体の透水係数は3×10-5cm/秒〜6×10-5cm/秒程度、単位吸水量は50〜100L/m3程度、単位脱水量は30〜60L/m3程度である。なお、従来のポーラスコンクリートの本来の機能は、上方からの水が下方への簡単に抜けるという透水性にあり、このために透水係数は3.0〜5.0cm/秒と高い。しかし、コンクリート自体での保水・含水機能は持たない。このため単位吸水量および単位脱水量は極めて低く、例えばポーラスコンクリートのセメントマトリックス自身の単位吸水量は普通コンクリートのそれと同等の75L/m3程度、単位脱水量は45L/m3程度である。本発明の植物繊維入りブロックも透水性を有するものではあるが、その透水係数はポーラスコンクリートとは対比できないほど低く、単位吸水量および単位脱水量が従来のポーラスコンクリートとは比べて高い値を示し、多く吸水して常時含水することができる。このため、圧力差を加えると水はそのマトリックス中をゆっくりと均等に浸透してゆくことができ、これによって、生物付着防止に有効な水膜をその外表面に形成することができる。
【0036】
このようにして本発明によれば、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料からなる生物付着防止用ブロックであって、該ブロックの内部に水が貯溜する空洞を形成し、この空洞内の水が該ブロックの外表面に流出する細孔を、前記の植物繊維の分散によって該ブロック内に形成したことを特徴とする生物付着防止用ブロックを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に従う植物繊維入りセメント系硬化体ブロックの水の浸透・流下の挙動を普通コンクリートブロックと対比して示した図である。
【図2】本発明に従う植物繊維入りセメント系硬化体を用いた生物付着防止法の原理を説明するための略断面図である。
【図3】本発明に従う植物繊維入りセメント系硬化体を用いた生物付着防止法の1実施例を示す略断面図である。
【図4】本発明に従う植物繊維入りセメント系硬化体による生物付着防止法の他の例を示す略断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1、1a〜1b 普通コンクリートブロック
2、2a〜2b、2A〜2F 本発明に従う植物繊維入りセメント系硬化体ブロック
3 水槽
4 植物繊維入りセメント系硬化体ブロック
5a 植物繊維入りセメント系硬化体からなる海水と接する壁
8 植物繊維入りセメント系硬化体ブロック内の空洞
9 淡水
10 海水
11 薄い淡水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水に触れる部材の表面に海水系の生物が付着するのを防止する方法において、該部材を構成する材料として、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料を使用し、この材料の海水に面する側の表面に、この材料の内部から淡水を流出させることを特徴とする生物付着防止法。
【請求項2】
植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料は、植物繊維の配合により硬化体マトリックス内に水が自然に浸透・流下する細孔を有する材料である請求項1に記載の生物付着防止法。
【請求項3】
該材料は、海水に面する側の表面と淡水に面する側の裏面を有し、該裏面の淡水に対して表面の海水より高い静圧を付与する請求項1に記載の生物付着防止法。
【請求項4】
淡水に触れる部材の表面に淡水系の生物が付着するのを防止する方法において、該部材を構成する材料として、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料を使用し、この材料の淡水に面する側の表面に、この材料の内部から含塩水を流出させることを特徴とする生物付着防止法。
【請求項5】
水に触れる部材の表面に生物が付着するのを防止する方法において、該部材を構成する材料として、植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料を使用し、この材料の水に面する側の表面に、この材料の内部から前記の水の温度とは異なる温度の水を流出させることを特徴とする生物付着防止法。
【請求項6】
植物繊維を配合した浸水性モルタルまたはコンクリート材料からなる生物付着防止用ブロックであって、該ブロックの内部に水が貯溜する空洞を形成し、この空洞内の水が該ブロックの外表面に流出する細孔を、前記の植物繊維の分散によって該ブロック内に形成したことを特徴とする生物付着防止用ブロック。
【請求項7】
該ブロックは、
透水係数:0.0001〜0.0005cm/sec、
下記(1) の測定法に従う単位吸水量:100〜500L/m3
下記(2) の測定法に従う単位脱水量:30〜150L/m3
を示すものである請求項6に記載の生物付着防止用ブロック。
(1) 単位吸水量の測定法:直径10cmで高さ20cmの円柱供試体を110℃で湿度0%の乾燥器内にて絶乾状態としてその重量Wd(Kg)を測定し、絶乾状態の供試体全体に給水を24時間続けた時点での重量Ww(Kg)を測定し、(Ww−Wd)/Vを求める。Vは供試体の体積、Lはリットルを表わす。
(2) 単位脱水量の測定法:直径10cmで高さ20cmの円柱供試体の全体を水中に重量変化が生じないまで浸漬して定重量Wc(Kg)を測定し、この定重量物を30℃の乾燥器内で24時間保持した時点での重量We(Kg)を測定し、(Wc−We)/Vを求める。Vは供試体の体積、Lはリットルを表わす。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−45292(P2008−45292A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219421(P2006−219421)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000230010)ジオスター株式会社 (77)
【Fターム(参考)】