説明

生物学的操作システム及び工業的操作システム

【課題】簡易的な使用が可能でありながら正確な情報が得られるラボ・オン・ザ・ディスク(チップ)タイプの生物学的操作システム及び標準球としての真球分離検出する工業的操作システムを提案する。
【解決手段】細胞を含む体液系溶液、又は球体を含む媒体を調整し入力する体液系容液調整入力部、前記調整入力部に入力された調整液内の粒子と液体について、目的の粒子又は液体を分離抽出する分離抽出部、前記分離抽出部でえられた粒子又は液体を分析操作するための分析操作手段を備えた一つの担体であって、前記担体の手段は、流路によって接続され、当該流路は、前記体液系溶液を物理的駆動手段によって生じる流れによって移動操作する生物学的操作システム及び工業的操作システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫診断、健康・疾病診断、感染症検査、抗体作製等に用いられる生物学的操作システムに関し、ラボ・オン・ザ・デスク(チップ)の様なマイクロ流路を利用した体液系溶液を操作集約的に処理するデバイスを用いたシステム及び測定機械器具の標準体として使用される特定の大きさの真球を弁別分離する工業的操作システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
試薬の高感度化、抗原抗体反応の解明、体液成分の検査による、生活習慣病の診断が在宅でできるようなシステムが、医療分野の合理化等の影響から今般注目されるようになった。
各種疾病の診断、免疫診断等で用いられる体液の採取は、現在でも、注射針を用いた採取が定量性、確実性等から未だにこれに全体的に変わるものがなく、血液を利用した診断が相変わらず主流である。
注射針の利用は、生体に一時的にも苦痛を与えることから、苦痛を短期間で解消させるためにも、少量の体液で、正確で、確実な診断が行えるものも状況によっては希求される。
他方で、微細加工技術の進歩、コンピュータの進歩等は、粒子単位での移動操作、分級操作、を行うためのマイクロ流路、マイクロバルブ、等微小な素子の利用を可能とするものであり、粒子レベルの操作ユニットの実現は、POC等のモバイル診断の拡大の可能性を示唆し、ICチップを製造する電気機器メーカーのこの分野への進出が盛んになってきており、分野にとらわれない多様性が見受けられるようになってきた。
この多様性は、例えば検出して得られた細胞からDNAが得られることから、このDNAから有用なものを分離してこれを増幅し、治療、検査に用いる遺伝子操作の対象までも含まれているのである。
【0003】
即ち、ラボ・オン・ザ・デスク(ラボ・オン・ザ・チップ)といったより小型でありながら、性能は、研究・開発レベルの操作ができるチップ状のデバイスが、より多く提案されているのである。特開2000−180452、特開2001−50384、特開2009−63590等は、回転力を利用した流体の移動停止制御を行う構成を備え、その用途は、多岐にわたることが開示されている。
特許文献、非特許文献では、粒子単位での移動、分級を実現しようとする手段が開示され、特許文献5は、ロータの中心に血液を供給し、希釈、遠心分離による血球の除去、除去後の血漿の定量分配、試薬部への定量供給、発色反応等のプロセスを毛管流路の物理的現象、回転運動の調整により行うことが開示されている。
このような遠心力を利用した血液分析装置は、1970年代から実用的なものが提案されており、国内でも、特開2009−58354号公報に記載されているような、回転力と毛管現象を利用する診断ユニットの提案がされている。
遠心駆動を用いずとも、非特許文献1,2には、層流を利用し、T字状、十字状の主流路と分岐流路を利用した粒子分級、分離濃縮工程が記載されており、粒子の大きさを主流路と分岐流路の関係から得られるようなものも提案されるにいたっている。
特開2009−511001号は、細胞の磁気特性に基づいて、磁界で血球の分離をすることが開示され、特に有核赤血球の分離手法が記載されている。
【0004】
更に特開2009−511001号は、磁性粒子は更に抗体( 例: 抗C D 7 1 、抗C D 3 6 、抗C D4 5 、抗G P A 、抗抗原i 、抗C D 3 4 、抗胎児ヘモグロビン、抗E p C A M 、抗E − カドヘリン、若しくは抗M u c − 1 ) 又はその抗原結合性断片を含むことで、更に磁力への感度を上げている事が記載されている。
特開2004−77387には、マイクロ流路上に、標識キットで金コロイド標識した抗ヒトミオグロビンウサギ抗体を含む第1の抗体反応部と抗ウサギI g G マウス抗体を固定した第2の抗体反応部を形成し、血中のヒトミオグロブリンの検出を行う免疫チップが示されている。
特公平8−1434号には、血液試料にチアゾールオレンジ、蛍光ラベルした抗CD45モノクローナル抗体および蛍光ラベルした抗CD71モノクローナル抗体を添加して、染色又は蛍光標識を抗体を介して結合した細胞をフローサイトメトリーで検出することが記載されている。
これらの引用例は、血中の目的とする細胞、成分に対する染色、抗原抗体反応による検出するための構成を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−21465号
【特許文献2】特開2007−175684号
【特許文献3】特開平7−60193号
【特許文献4】特開2004−88843号
【特許文献5】特表平5−508709号
【特許文献6】特開2009−058354号
【特許文献7】特開2009−511001号
【特許文献8】特開2004−77387号
【特許文献9】特公平8−1434号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Yamada、M.Seki、BiomedMicrodevice(2007)9:637-645
【非特許文献2】M.Yamada、M.Seki、LabChip、2005,5,1233-1239
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロ流路、遠心分離部、試薬反応部等を備えたロータを回転させることで血球分離、定量操作、試薬発色反応等の一連の動作を行わせることは、単にロータを回転させるだけでは、困難であり、精度の高い回転、回転方向の変更、停止、等が必要であって、いわゆる、エンコーデイング制御された回転が必要となることから、装置的にも複雑かつ高価なものになる。さらには、高い回転による強い遠心力等、生体試料本来の環境から大きく異なる環境変化を与えることは、生体試料自身の性質に影響を及ぼすことも多く、適切な検査結果や分離結果が得られなくなる可能性も懸念される。
【0008】
粒子単位での操作は、微小領域での操作になるため、駆動するための構成要素も微小化されることから、通常の機器とは異なる毛管力等の力を受けるため、機器形成の為には、更に多くの条件を克服しなければならず、よりシンプルな構成による体液操作により診断用のデバイスの実現が求められるのである。
また、この数十年を経て、発展したマイクロ単位の流路、バルブ、定量操作、分級操作をよりシンプルで、取り扱いが容易な流体操作用のチップであって、実用的な用途に適用したデバイスは、未だ存在しない。実用化が困難である理由としては、まずチップの大量生産をマイクロメートルレベルで高精度に行うことが非常に難しいということが挙げられる。例えば数マイクロメートルのサイズを有する細胞をマイクロ構造だけで実現させようとすれば、1マイクロメートル単位での構造精度管理が必要となる。とくに大量生産を前提とする場合、金型による樹脂成型が代表的な方法となるが、金型から成型部品を円滑に離脱させるためには、垂直壁部分にも勾配をもたせる必要があり、これがマイクロメートルレベルの構造では物理特性を大きく変えるほどの影響を与えてしまう。また、微細構造内においては液体の表面張力も大きな影響を及ぼし、例えば気泡が混入すると容易には移動せず、やはり物理特性を変化させる要因となりうる。通常の操作を人間が真空条件下で行うことはできないため、気泡の混入は実用上大きな課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記に鑑み本発明は、
体液系溶液等の生物学的成分を調整入力する成分調整入力部、
前記成分調整入力部に調整入力された調整液内の目的の成分又は液体を分離抽出する分離抽出部、前記分離抽出部でえられた粒子又は液体を分析操作し関連する情報を出力するための分析操作手段を備えた一つの担体であって、前記担体の各手段は、流路によって接続され、当該流路は、前記体液系溶液を物理的駆動手段によって生じる流れによって移動操作する組み合わせ構成により、流体を好ましくは層流による一方向の流れにより、移動させて、当該流れと、流路形状により、要不要な粒子の弁別、必要な液体の確保を行うことで、後段の試薬、試験キットへ目的とする粒子、液体を提供する構成を実現する。なお、成分調整入力部では必ずしもチップの使用に必要な全ての調整が行われるわけではなく、例えば血液を希釈する、特定の成分にあらかじめ蛍光ビーズを修飾させるといった調整はあらかじめ使用者によってチップ外部で行われた上で、検体がチップに導入されることもありうる。
本発明は、上記構成に基づいて有核赤血球と白血球のように似た大きさを持つ細胞の分別を、一乃至複数の担体で行う事も可能とする。即ち主流路に接続された分岐流路の組み合わせにおいて、血液を層流駆動して、赤血球を分岐流路へ流し、主流路を白血球レベルの大きさの血球のみとし、その後、有核赤血球又は赤血球を染色したり、細胞膜抗原に対する標識を接続した抗体との結合による免疫学的手法を組み合わせた分離抽出手段で粒子の大きさに基づいて区別する構成といった、一つの流れの中で、2つの分離手法を形成して、同じ様な大きさの細胞を分離可能とするものである。当該分離は、例えば成人においては、その存在により白血病の診断が可能な有核赤血球等の希少細胞の検出に相当するものであり、流路上に検体を流す駆動部だけで、容易に免疫診断を可能とする。本発明でしめす希少細胞には、成熟網赤血球、未成熟網赤血球、成熟有核赤血球、未成熟網赤血球、成熟有核赤血球、未成熟有核赤血球、芽細胞、プラズマ細胞、巨核球、好中球、エオシン好球、好塩基球、単球、リンパ球、等も含まれる。
【0010】
また、本明細書でいう「層流」とは、本来の目的に適した方向の流れとは異なる方向への乱流や渦流が発生しない流れという意味であり、異なる流入口からの複数の流れの間に界面が形成されて互いに交わらない状態で進行していくという一般的な層流現象を必ずしも意味するものではない。本発明のシステムの目的は流体内に含まれる粒子の分離抽出であるが、これは主流路を進行する流体の一部を分岐流路側に分離させることで実現されている。すなわち、主流路と分岐流路との分岐点において主流路を直進する流れと分岐流路側に方向を変えて進行する流れとに分かれることになり、これらは異なる流れが同一の主流路を進行してきたものと便宜上みなせるので、「層流」と表現してもよいものである。主流路を直進する流れと分岐流路側に吸収される流れの流量の比は、それぞれの流路の抵抗値の比で厳密に定められるものであり、このことはすなわち分岐流路群の入口から一定の幅にある流体成分が分岐流路側に進行することを意味する。この一定の幅を有する分岐流路側への流れを「分岐流路側の層流」、主流路を直進する流れを「主流路側の層流」と表現するのが好都合である。本発明のシステムによる流体中の粒子分離の最大の特徴は、各流路抵抗値の比によって厳密に定められる分岐流路側の層流幅に、粒子(の重心の位置)が含まれるかどうかによって当該粒子が分岐流路側に分離されるかどうかが決定されるということである。分岐流路側の層流の一部が分岐流路に吸収された後は、主流路側の層流の一部が分岐流路側に補われ、次の分岐点において同様の分離現象が発生する。したがってこれらの層流は互いに交わらないわけではなく、常に補完される関係にある。このことは一般的な層流の定義とは異なる意味を含んでいる。
【0011】
本発明における体液系溶液等の生物学的成分は、汗、血液、精液、骨髄液、胸水、浸出液、リンパ液、尿、糞便、脳脊髄液、唾液、歯周周辺の浸出液等生体より得られるもの、農薬検査、食中毒検査用調整溶液、雨水、上下水道水等が示され、更に細胞懸濁液の様な細胞を含む、又は、核酸や、蛋白質、細胞内容物、細菌、微生物、ウィルスを含む溶液も含まれる。
当該溶液には、その粘性、流路の大きさ形状によって量を調整する為、生理食塩水等による希釈液を加えて調整するステップも含まれる。
本発明における分離抽出部は、例えば、物理的駆動、流体を、シリンジに充填した液体、空気を介した加圧型ポンプによる駆動や、圧電体の変位による液体が収容された容器の容積変化を行わせるポンプにより、流体に好ましくは一方向の流れを形成して粒子を運ぶと共に、主流路の側面に分岐流路を接続し、当該分岐流路に進入する層流の幅を各流路の抵抗値の比によって制御することにより、粒子の混入が生じない、例えば血液であれば液体成分の抽出を行ったり、外部磁力、電気力により細胞を補足、分別したりする構成、好ましくは、流体力学的に特定の細胞を分岐流路で分岐移動させて補足する構成等が例示される。
【0012】
メッシュなどの構造物のサイズと粒子のサイズの大小関係によって粒子をサイズ分離する一般的なフィルタと異なり、本発明の層流の幅によって粒子のサイズ分離を行う方式では、構造物のサイズは必ずしも分離したい粒子サイズの閾値以下である必要はない。例えば分岐流路の入口の幅が20μmであっても、分岐流路側の層流の幅が1μmであるように設計しておけば、2μmの粒子は20μm幅の分岐流路に入ることができない。このことは本発明の非常に大きな特長であり、数十μm程度の比較的製作しやすい物理構造を用いて、数μmの極めて微細な差異を有する粒子群を分離できるということである。これにより、第一の課題として前述した、数マイクロメートルレベルの精度管理は必要なくなり、チップの生産性を飛躍的に向上させることができる。あらためて本発明で用いられる流路構成の特徴は、1から3のようになる。
1.主流路の側方に接続された分岐流路が存在する構造を有し、主流路と分岐流路に進行する各流量を制御することにより分岐流路側に進行する流れの幅を決定すること、
2.前記主流路と分岐流路に進行する各流量を制御する手段が、主流路と分岐流路の流路抵抗値の比によるものであること、
3.前記分岐流路側に進行する流れの幅を分岐流路の幅よりも小さくすることにより、粒子のサイズによる分離の閾値を分岐流路の幅よりも小さく設定することができること、
前記分岐流路側に進行する流れの幅は、分岐流路の幅の半値以下であること、
【0013】
なお、主流路に接続される分岐流路の数は、1本よりは複数本存在する方が好ましい。分岐流路側の層流に含まれる同程度のサイズの粒子の数が多い場合、本来であれば分岐流路側の層流に入ることのできる粒子が、粒子間の干渉により入ることができず、分岐流路側に分離されない現象が発生するため、同サイズの分離閾値を有する分岐流路を複数用意することにより、確実に粒子を設計通りの分岐流路へ進行させることができるようになる。これは確率的に決定される内容であるが、例えば1ml中に存在する粒子数nに対し、この粒子を分離させる分岐流路をlognから20logn(logは10を底とする対数)の範囲で存在させればよい。
【0014】
本発明における分析操作手段は、流路面あるいは分岐先の液溜め等に抗体、核酸等を直接定着させて蛍光あるいは電流値といったシグナルを得る方法の他、例えば、イムノクロマト試験片、発色指示試薬を含む試験片、センサー、計数カウンター、分光光度計、カメラ、イメージセンサー、フォトダイオード、レーザー光等を単独あるいは適宜組み合わせるなどして利用することが例示される。抗原抗体反応や核酸のハイブリダイゼーションを利用して粒子を補足する場合、液溜め等に目的とする粒子を補足するように抗体、核酸等を定着させておくか、あるいは、液溜め等に目的以外の粒子を補足するように抗体、核酸等を定着させ、さらに下流の出口部分から目的とする粒子のみが回収されるようにしておくという2つの方式が存在する。また、いずれの粒子もチップ内部に補足せず、ビーズなどを付与した抗体、核酸等が分離後のサンプルの特定粒子にのみ付着するようにすることで、出口から回収される各粒子サイズを変更し、あらためてサイズ分離を行ってもよい。このように、粒子サイズで分離する原理を利用する場合、本来の粒子サイズそのものではなく、人工的に修飾物を粒子に結合させることで得られる複合的な粒子サイズに基づいて分離を行う、粒子の複合体(例えば細胞塊など)のサイズに基づいて分離を行う、鎖状に連なった粒子の複合体の長さに基づいて分離を行う、といったことも可能であり、これらの目的に合わせて適宜流路パターンを設計して適用すればよい。これらの情報は、例えば、発色情報、移動位置情報、蛍光情報、大きさ情報、その他の形状情報、シーケンス情報、結合の有無等の状態情報、ビーズに結合した状態で生じる免疫沈降情報、沈降の有無情報、電荷の有無、強弱、極性等の情報、磁性の有無、強弱、極性等の情報、濃度情報、温度情報、歪み情報、粘度情報等であり、コンピュータ処理され、インターネット等による広域通信網により、生活習慣の指導、生活習慣病等の早期発見、改善指導を受けるシステムにも供される。詳細を表1に示した。
表1について、説明する。
【0015】
サンプル:血液
分離対象:血漿
適用分野:臨床検査
例1:酵素電極法による、グルコース、乳酸、クレアチニン等の測定
例2:イオン選択性電極法による、Na+, K+, Cl-の測定
例3:水素イオン選択性電極法による、pHの測定
例4:クラーク型電極法による、血中酸素濃度の測定
例5:免疫抗体反応(ELISA、ラテックス免疫比濁法、金コロイド凝集法、オクタロニー法など)による各種血漿蛋白抗原(サイトカイン類、アルブミン、コラーゲン、CRPなど)または血中抗体(IgA, IgD, IgE, IgG, IgM、抗ウィルス抗体、抗細菌抗体)の測定
サンプル:血液
分離対象:リンパ球
適用分野:臨床検査
例1:T細胞、B細胞、NK細胞活性を測定
例2:細胞表面マーカー(CD抗原)及び、産生するサイトカイン類(Th1/Th2など)の解析
サンプル:血液
分離対象:赤血球
適用分野:臨床検査
例1:母体血液からの胎児由来の有核赤血球の分離回収
例2:赤血球の変形能の差異による分離
サンプル:血液
分離対象:循環腫瘍細胞
適用分野:臨床検査
例1:癌の転移の判定
【0016】
サンプル:骨髄・血液
分離対象:造血幹細胞
適用分野:臨床、実験
例1:移植、実験等に使用する造血幹細胞、間葉系幹細胞の分離・濃縮。他の血球よりも大きいのでHDFで分離が可能で、存在頻度が非常に低い(0.004%)ため濃縮が有用。
【0017】
サンプル:組織
分離対象:目的の細胞
適用分野:実験
例1:肝臓組織から実質細胞と非実質細胞を大きさの違いを利用して分離・濃縮(Yamada, 2007)
サンプル:組織
分離対象:幹細胞
適用分野:臨床、実験
例1:移植、実験等に使用する組織幹細胞を分離・濃縮。他の細胞と大きさが異なるのでHDFで分離が可能で、存在頻度が低いため濃縮が有用。
サンプル:組織
分離対象:iPS細胞(人工多能性幹細胞)
適用分野:再生医療等
例1:組織から採取した細胞からiPS化した細胞のみを分離回収する。
例2:iPS細胞群から特定細胞に分化した細胞のみを分離回収する。
サンプル:培養細胞
分離対象:同調細胞
適用分野:実験
例1:細胞周期(G0/G1, S, G2/M期)ごとに大きさの違いを利用して分離・濃縮
【0018】
サンプル:培養細胞
分離対象:アポトーシス細胞
適用分野:実験
例1:アポトーシス期にある細胞が小さくなることを利用して分離・濃縮または除去
サンプル:培養細胞
分離対象:細胞の死骸
適用分野:実験
例1:実験の妨げになる細胞死骸の除去
【0019】
サンプル:酵母
分離対象:同調細胞
適用分野:実験
例1:細胞周期(G0/G1, S, G2/M期)ごとに大きさの違いを利用して分離・濃縮
サンプル:細菌
分離対象:目的の細菌
適用分野:実験、検査
例1:分裂段階ごとに、大きさの違いを利用した分離・濃縮
【0020】
サンプル:飲用水、下水、環境水
分離対象:真菌、細菌、浮遊粒子状物質
適用分野:水質検査、衛生管理
例1:汚染度の測定・検査
サンプル:飲用水、下水、環境水
分離対象:病原性微生物
適用分野:水質検査、衛生管理
例1:クリプトスポリジウム・オーシスト(病原性原虫)の検出。濃縮
【0021】
【表1】


なお、数ナノメートル単位で微細構造を形成させることが技術的に可能となった現在では、流路形成時に検出対象を検出するための微細構造を同時に形成することにより、とくに流路形成後に検出のための分子等を定着あるいは付与する行程を不要とすることも可能である。例えば検出したいタンパク質あるいは核酸、細胞等と特異的に結合する構造を、抗体あるいは核酸を後から流路に定着させるのではなく、流路構造の一部として直接形成するといった方法が例示される。
その他、分析を行う対象として
抗原抗体反応による免疫計測、細菌、白血球の測定による感染症等の各種疾病、コ
レステロール、血糖等の成分値の測定、その他、表1参照 が例示される。
【0022】
本発明は、例えば、主流路に対し、その一方、又は両方に主流路に対して垂直または斜方に、延びた分岐流路とで形成される液体成分分離抽出部を有する検体分離部と当該液体成分分離抽出された分岐流路部に測定対象となる標識付きの遊離抗体を配置した遊離抗体配置部と、その後方に、固定された抗体を配置する固定部を形成して、当該固定部で標識の濃度、数を測定する測定部を形成する一体化した担体の組み合わせが示される。
又、更に、主流路と分岐流路の組み合わせにより、粒径サイズの異なる粒子の弁別が可能であるが、本発明は、更に分岐流路のサイズでは分離できない同じサイズであるが異なる性質を備えた例えば有核赤血球と白血球を分別することを、赤血球用抗体を用いた分離部を設けた1乃至複数の担体を示す。
即ち、主流路に対し垂直または斜方に分岐し、成熟(無核)赤血球を分岐除去するサイズを有する主流路及び分岐流路より構成される分離部、その後方の主流路又は分岐流路に赤血球と特異的に結合する抗体であって、金、プラチナ、磁石成分、蛍光成分等よりなるコロイド粒子等で形成される標識と結合した遊離抗体を貯留する貯留部、及びその後段に前記抗体を固定した膜が配置された固定部を形成することで、成熟赤血球を分離した後のおおよそ同サイズの粒子から、有核赤血球を補足し取り出す又は、検出することができる。
検出手法は、表面プラズモン共鳴質量分析装置、その他、標識に応じた分析装置を用いても良い。
【0023】
有核赤血球の場合、成人の末梢血から検出される検出数、その存在によっては、貧血や白血病などの各種疾病に関係するため、上述した組み合わせは、免疫診断の一例となるものである。
有核赤血球の細胞膜表面抗原と結合する抗体は、赤血球の細胞膜抗原に対する抗体と同じであれば良く、例えば、GlycophorinA(BD Bioscience Pharmingen社製)、Band3,Anion Exchanger1(Santa Cruz社製)、common Leukocyte Antigen(BD Bioscience Pharmingen社製)、グリコシルーホスファチジルイノシトール(GPI)結合型単鎖膜糖蛋白、Epsilon-globlin(Europa Bioproducts,UK社製)、Transferrin Receptor(BD Bioscience Pharmingen社製)、Integrin-Associated protein(BD Bioscience Pharmingen社製)、Thrombospondin receptor、Complement receptor1( BD Bioscience Pharmingen社製 )が示される。尚、有核赤血球を検出する為の組み合わせは、これに限らず、例えば、上記抗体を固定した固定部のみとし、通過後、金、プラチナ、磁性を備えたコロイド粒子を標識として結合した遊離抗体を改めて上記固定部に供給し更に、その後、生理食塩水等で形成される洗浄を目的とした溶液を流すような構成であってもよい。当該構成は、大量の不要な無核の赤血球を、主流路に検体を流すだけで、分離除去でき、更に、粒子サイズでは検出不可能な希少細胞を抗原抗体反応を用いて分離検出することで、各種診断を可能とする。
【0024】
本発明における物理的な駆動手段は、例えば、物理的駆動、流体を、シリンジに充填した液体、空気を介した加圧型ポンプによる駆動や、圧電体の変位による液体が収容された容器の容積変化を行わせるポンプが例示され、好ましくは、担体と1カ所で接続して駆動源として利用する。
【0025】
マイクロ流路への送液手段として最も一般的なシリンジポンプを用いる場合、課題として前述したように、シリンジとチップをチューブ等で接続する際に、気泡が混入しやすいという問題点がある。チップの材質がポリジメチルシロキサン(PDMS)のように空気を含みやすいものであれば、事前にチップを真空化処理しておくことで、チップ内に検体とともに導入された空気がチップに吸収されるため、この課題を解消することができる。 ただし、アクリル樹脂のように堅い材料ではこのような効果は期待できないため、別の手段が必要となる。例えば図17のように、混入した空気を除去するための流路を設ける方法が一例である。すなわち、主流路1701から分岐する分岐流路群1702の上流側に、空気除去流路1703を設ける。主流路1701内の流体は、図中、左から右へ流れる。 空気除去流路1703は脱気口1704へと通じている。空気除去流路1703の抵抗値を分岐流路群1702の抵抗値よりも十分小さくなるように設計すれば、チップに導入されたほとんどの液体は空気除去流路1703側へ流れることになり、混入した空気も脱気口1704から除去される。空気の除去が完了した段階で脱気口1704を栓などで閉じれば、空気除去流路1703側の抵抗値は無限大、すなわち流路がない状態と同等となり、主流路1701および分岐流路群1702の方へ流れが進行し、設計通りの分離処理が行われるようになる。このようにして、気泡の混入の課題を解決することができる。
【0026】
本発明における体液系溶液調整入力部、分離抽出部、分析操作手段の全部又は一部は少なくとも一つの担体上に凹部として形成され、上からシートまたは必要箇所に液溜め構造を形成させた部材を蓋として接合したものが示されるが、これに限らず、スルーホールにより上下に連通して積層したものであってもよい。担体の材質は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル、シリコーン等が例示される。
【0027】
更に本発明は、マイクロ流路における層流を利用して、粒子の移動を制御する体液を入力部、前記体液を、一方向へ層流状態で移動させるための駆動手段、前記駆動手段の駆動により、移動した流体内の、粒子を分岐させない程度の大きさを備えた流路A、前記流体内の粒子の大きさにより目的とする大きさの粒子を分岐させる流路B、前記各流路で得られた体液流体から、目的とする情報を得るための分析操作部を備えた生物学的操作システムにより、層流駆動が可能な一方向への駆動源と、その他、流路パターン及び目的とする反応を得る操作領域との組み合わせ構成により、取り扱いが、簡便でありながら、様々な診断目的が満足できるデバイスも実現できる。
【0028】
層流を積極的に利用することの第一の利点としては、検出対象物を一つの層流内に閉じ込めることが可能であるため、検出対象物の流れよりも流路の物理的な幅を大きくすることができることである。例えば本発明の一実施例としては、試料の層流幅が4マイクロメートル未満であって、流路幅は50マイクロメートルとしている場合もある。これにより、細胞等流路に吸着しやすい粒子を多く含有する試料であっても、流路が詰まって使用できなくなるといった問題を防ぐことができる。また、流路幅を大きくすることができるということは、それだけ流路を形成する技術的な難易度が低くなり、低コストで安定した流路デバイスを製造することが容易になる。
【0029】
第二の利点としては、試料を層流の幅に閉じ込めることにより、試料を濃縮することが可能になるということである。実際には後述するように、層流に閉じ込めた試料からさらに特定のサイズ範囲の粒子を分級する手段を備えることにより、単に分級を行うのみならず、そのサイズ範囲の粒子を濃縮して収集することが確実に実行されるようになる。生体試料であれば、白血球、幹細胞、癌マーカー物質等、もともと存在頻度の低い検出対象を濃縮して収集することにより、それらを検出するための蛍光シグナル等を強化することができ、高感度で確実な検出系を実現させることが可能になる。
本発明における体液系溶液は、汗、血液、精液、骨髄液、胸水、浸出液、唾液、歯周周辺の浸出液等生体より得られるもの、その他細胞懸濁液、農薬混入食品溶液、食中毒細菌検査用溶液、水道水、排水、雨水、測定機械器具用標準球等も測定対象物として含まれるものとする。
【0030】
本発明における駆動手段は、少なくとも流路の断面の大きさに合わせた大きさを流体が層流状態で流れるような駆動力をあたえるものであればよく、例えば、手押し型のシリンジ、シリンジポンプ駆動のシリンジ、浸透圧用マイクロポンプ等、で流路内の流体を移動させるための駆動力が形成されればよく、空気、窒素等の気体を介したポンプ駆動が例示される。
本発明における層流は、一つの流れの他、複数の流れを重ねたような流れを利用しても良い。この場合、異なる種類の体液を同時に運び、途中障害物を形成して分岐させ、分岐した層流に対し更に十字型の分岐流路により分離検査するなどして、多数の種類の粒子について操作するものであっても良い。
本発明における流路は、主流路に対し、目的とする粒子の分級、粒子を分級させない為の流路を分岐して形成するものであって、例えば、十字路又はT字路状の直交した流路形態をそなえたものが好ましい。
【0031】
即ち、非特許文献2(M.Yamada、M.Seki、LabChip、2005,5,1233-1239)で示す文献のFig.2で示す十字状の流路と、層流及び粒子の関係におけるハーゲンポワズイユの式等をもちいて得られる壁面からの距離(仮想的な幅)w1と粒子の大きさとの関係に基づいた分岐流路への取り込みを利用する。
ここで示す仮想的な幅w1は、層流状態における壁面からの距離であり、液体の粘度、分岐流路の深さ、幅及び長さから決定される分岐流路抵抗値と、分岐流路間の主流路の深さ、幅及び長さから決定される主流路抵抗値と、の関係から、求められるものであり、目的に応じて分岐流路、主流路の大きさが選択的に決定される。
本発明は、主流路の条件と主流路の側面に形成した流路の諸条件から、全く粒子をとりこまない流路、目的とする粒子を取り込む流路、それ以外の粒子を取り込む流路の3つを形成するものであり、
本発明が、赤血球、白血球等の血液細胞を粒子として用いる場合の、主流路の口径は、20μm〜50μmが好ましく、分岐流路であって、粒子を取り込まない流路は、10μm〜20μm、赤血球を取り込む流路の口径は、15μm〜40μm等が好ましい。
【0032】
本発明における情報を取得する領域としては、得られる液体、血球等の検体に応じて適宜選択されるものであるが、
本発明は、情報取得領域が検査主体の領域とする他、例えば、バイオリアクターの構成を備え、特定の細胞に対し、体外免疫を行う領域を設定するものであってもよい。
本発明は、体液の他、目的とする細胞を含む懸濁液等を用いる場合もある。
更に、本発明における粒子の対象は、血球、血小板に限らず、微生物、蛋白質、核酸 等にも粒子の対象は、血球、血小板に限らず、微生物、蛋白質、核酸、ウィルス、真菌、原虫、細菌等にも及び、結果、本発明の適用範囲は、体液分析、免疫分析、感染症の診断、細胞の培養、体外免疫用の細胞分離他、表1が例示される。
又、本発明は、工業的手法における真球の分離も可能である、即ち、顕微鏡分野で用いられる標準球となる所定の大きさを持つより真球に近い球体の分別も可能であり、比較対象となる標準球体の分級にも利用可能である。
即ち、球体を含む媒体を調整入力する成分調整入力部、
前記成分調整入力部に調整入力された調整液内の目的の球体を分離抽出する分離抽出部、前記分離抽出部でえられた球体を分析操作し真球特定情報を出力するための分析操作手段を備えた担体を備えるものであっても良い。
前記媒体は、球体に対し不活性な液体が好ましく、当該球体のなかから電子顕微鏡等の測定機器に使用される標準球としての真球が分離され取得できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、担体上に体液系溶液調整入力部、分離抽出部、分析操作手段の全部又は一部を凹部として形成し、蓋をするなどして構成され、層流、方向変更流等の流れによって、処理することで、簡易でありながら正確な操作を実現する。
・ 又、層流を利用する際、主流路と分岐流路を十字又はT字に形成し、主流路に粒子を含む流体に層流を形成し、且つ主流路と分岐流路の流路の口径、長さ、及び流体の粘性の要件等から、液体程度の流体を分岐する流路、と目的とする粒子を分岐する流路、及び得られた検体から情報を得るための処理部等の組み合わせにより、駆動系が簡便な診断チップが得られる。分岐流路側の層流の幅を粒子の選別原理に利用することにより、主流路あるいは分岐流路の幅よりもはるかに小さい分離閾値を実現することができ、これによって比較的製造しやすい数十μm程度の流路を利用して、数μm以下の粒子のサイズ分離を行うことが可能になる。
・ 図2,図4で示す水力学的濾過(HDF)を利用するチップの場合は、ある大きさの粒子の“分離”と“濃縮”が可能であり、分離粒子に対しレーザーや電場などを必要とせずダメージが少ない点で特徴がある。


【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は本発明の一実施例を示した図である。(実施例1)
【図2】図2は本発明の他の実施例を示した図である。(実施例2)
【図3】図3は、図2のX−X’断面図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例3)
【図5】図5は、本発明で使用されるマイクロ流路パターンの一例を示した図である。(実施例4)
【図6】図6は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図7】図7は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図8】図8は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図9】図9は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図10】図10は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図11】図11は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図12】図12は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図13】図13は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図14】図14は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図15】図15は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例6)
【図16】図16は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例7)
【図17】図17は、本発明で使用されるマイクロ流路パターンの一例を示した図である。
【図18】図18は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例4)
【図19】図19は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例4)
【図20】図20は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図21】図21は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例5)
【図22】図22は、本発明の他の実施例を示した図である。(実施例6)
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、得ようとする情報により主流路と分岐流路のサイズは変化するが、少なくとも層流が形成される程度の大きさの流路と、得ようとする粒子のサイズに対応する流路及び粒子を取り込まず液体成分程度の液体を得ようとする流路を得る、くし歯型の流路構成と、分離した液体と発色反応させる情報取得部、白血球、造血幹細胞等の免疫細胞に、体外免疫を施し、所望の免疫物質を得るような構成の一部を形成しても良い。
白血球を分級した場合は、この白血球を計数することで、白血病、感染症等、各種疾病の診断をおこなう為の情報取得領域(詳細は図示せず)を担体上に備える場合もある。
本発明における層流は、中央が速度が速く、壁面に近くなるにつれて、速度が遅くなるものであり、途中側面に形成された分岐流路の口径の幅、深さ及び長さと、後段の主流路の口径の幅、深さ及び長さとの関係から、壁面からの粒子取り込み幅が決定され、この取り込み幅内におおよそ重心が入る粒子が分岐流路へ取り込まれる。
この取り込み幅を小さくすることで、粒子をとりこまず、液体のみを取り込むことが可能であり、その原理は非特許文献2(M.Yamada、M.Seki、LabChip、2005,5,1233-1239)の記載(Fig.2等)の通りである。

【実施例1】
【0036】
本発明の一実施例を図1を参照して詳細に説明する。
1は、体液系溶液入力部であり、血液、唾液、細胞懸濁液等を外部から供給する供給部1aを備え、場合によっては、希釈液供給部1bを備え、体液系溶液入力部1内部で、混合するための混合攪拌手段を備える場合もある。
また予め体液系溶液入力部1へ希釈調整されたものが入力されても良い。
尚、体液系溶液入力部1は、真球を得る為の媒体の場合は、媒体入力部に置き換えて説明することができる。
2は、分離抽出部であり、層流上の粒子をその大きさごとに分別したり、帯電性、磁性により分離したり、標識物質の添加結合した粒子以外を通過又は通過阻止したりするものである。

3は、分析操作手段であり、分離抽出部2で、抽出された粒子に対し目的とする粒子の数、性状、又は得られた目的とする液体に試薬を混ぜて発色反応させるなどの操作をし、得られた信号、色情報等を外部処理装置、処理担体等へ出力する(1c)。
球体の分級の場合は、球形、歪み、変形を判断するカメラ、レーザ光による非接触形状計測器が設定され、白血球等の分級、計測の場合も利用可能である。
又、層流で一方向の流れにたいし、更にY字型の2つの流路に分岐させ、この分岐部に、粒子の流れを変更させるレーザ光、超音波等を利用した進路変更手段を設け、進路変更手段の手前でこの標識を検知し、標識の状態に応じて進路変更手段が標識のついた粒子の分岐方向を決定するようなレーザ光、超音波の照射を行って、方向を変更させて得られる変更流も例示される。
【0037】
4は、駆動手段であり、好ましくは層流を出力するものであって、例えば、手動又は自動で動かすシリンジポンプ、圧電体による電歪動作による流体駆動が例示される。
層流は、動かす液体の性状、流路の形状、大きさにもよるが、シリンジポンプによる駆動であっても十分に流路内に層流が形成される。
5は、担体であって、PDMS、シリコーン、アクリル等によって形成され、表面に、凹部で形成される流路、処理部を持つものである。
【0038】
本実施例における構成は、一つの担体5に各構成を凹状に形成し、さらに蓋を積層して形成される。
この状態で、供給部1aから、検体又は球体含有媒体を供給する。供給後、駆動手段4をこの部分に結合し、流路上に層流を形成させるように駆動させる。
層流は、複数の異なる性質の流れを、混ざることなく1層或いは複数層形成できるため、各構成での処理を、層流ごとに分離し再度結合するなどして行うことで、一度に複数の異なった診断が可能となる場合もある。

試薬類も層流化すれば、反応槽が、担体内部にあり、直接供給できない場合、供給口を一カ所にしたい場合でも、遊離抗体を、遠隔操作的に供給できる構成も可能となる。

供給部1aから供給された体液系溶液は、分離抽出部2に供給され目的とする粒子、又は溶液を分離し抽出する。
抽出された溶液又は粒子は、分析操作手段3で、試薬、抗体試薬と反応させたりしてその発色状況、蛍光物質を付加させた場合は、蛍光情報、抗原抗体反応、粒子の計数をするなどして目的とする情報を得るか、外部装置へ提供する。
【0039】
尚、当該分析操作手段3では、例えば大きさ検出された免疫候補細胞に、更に刺激物質を添加して体外免疫を行い、抗体産生細胞に分化誘導するものであってもよい。
その後、これを取り出して、DNAを抽出し、所用の部位を検出増幅して、一本鎖抗体遺伝子を形成増幅したり、ヒト型の遺伝子を形成したりして、抗体の製造を行っても良い。
本実施例で示すように、粒子の大きさで区別する手段と、その後、免疫学的手法により、特定の粒子を計測する手段との組み合わせにおいては、特に、粒径が同じ様な粒子を区別し、抽出する構成を有効に示すことができる。
例えば、有核赤血球と白血球との区別の際は、分級による区別では、困難な場合があるが、その場合、上述のような磁性、蛍光性を備えた標識物質と結合した例えば赤血球の細胞膜の抗原に対する抗体を用意して、白血球レベルの大きさの細胞のみを主流路に残し、更にこの標識抗体と結合する領域を分析操作手段3として後段に設けて、有核赤血球のみを標識し、これを目視的又は、磁力、電界力、固定された上記の細胞膜抗原に対する抗体、等で有核赤血球のみを補足する手法が付加され、同じ様な大きさの血球の識別も可能である。
標本作製等を利用する場合は、ギムザ染色、パッペンハイム染色等の赤血球染色を行うことで、有核赤血球の目視的識別も可能であり、診断用チップの一例ともなる。

【実施例2】
【0040】
本発明における図1で示した実施例の分離抽出部2付近を具体的に示した図を図2,図3で示し詳細に説明する。
図3は、図2のX−X’の断面図である。
図2の200は、基板であり、マイクロ流路となる溝が形成され、両面又は片面に蓋部(図2で示す302)が装着されて形成される。
材質は、流路の幅によって選択されるが、主にPDMS、シリコーン、アクリル、ポリカーボネート等の樹脂材やガラスが用いられるが、PDMSがテーパーを必要としない矩形の流路が形成される点と蓋接合の簡便さの点で、好ましい。
製造方法は、例えばフォトリソグラフィーやエッチング処理の技術を利用して形成された型用基盤を用いて、射出成型やホットエンボスの手法により成型加工を行う方法が示される。
【0041】
11は、検体入力部であり、汗、血液、精液、骨髄液、胸水、浸出液、唾液等が供給され孔状の部分である。当該検体入力部には、検体入力後、駆動手段の出力部が接続される場合がある。
12は主流路であり、幅20μm〜100μm、深さ10μm〜50μm、長さ3000μm 〜10000μm が示されるが、体液の種類によって、異なるものであり、主流路12と垂直に交差する分岐流路13a、13b、14a、14b、15a,15bも、同様の溝で形成されるが、幅、深さ、及び長さは、分級しようとしない場合、赤血球、白血球等、粒子を分級して取り込むための粒子の大きさに依存して決定される。

13a及び13bは、液体採取用流路群であり、検体中の粒子を取り込まず、液状のもの、例えば血漿のみを検出する複数の流路である、これら複数の流路は、個々の流路の口径が小さいため、一つの処理量が少ないことから、複数の流路を並列に配置したものである。
又、液体採取用流路の幅及び深さは、10μm〜30μm、10μm〜50μmであり、長さは、10000μm〜30000μm各分岐流路の接続間隔は、20μm〜50μmが示される。
【0042】
13a1及び13a2は、液体貯留部であり、流路から流れてきた液体を一時的に貯留する。
13a2及び13b2は、液体出力部であり、免疫試験片、成分発色試験片、輸送用容器
が挿入された場合、ここに液体を供給する部分である。
当該部分は、微小な場合が多く、外側から吸引する装置、毛管吸引装置を別途必要とする場合がある。
14a及び14bは、赤血球分離用流路群であり、液体採取用流路とは、幅、深さ及び長さが相違するが、同様に主流路12と接続する。赤血球分離用流路の幅は、15μm〜50μmで、深さは、10μm〜50μmが示され又、各分岐流路の接続間隔は、20μm〜50μmが示される。
【0043】
14a1及び14b1は、赤血球を一時的に貯留する赤血球貯留部であり、14a2及び14b2は、通気口であるほか、赤血球を外部へ取り出す取り出し孔でもある。
赤血球の数は非常に多いことから、流路の本数も多く形成されている。
15a及び15bは、白血球採取用流路群であり、白血球を分離採取するための、幅、深さ、及び長さを備えた白血球採取用流路群15a及び15bが形成されている。
白血球採取用流路の幅及び深さは、20μm〜50μmであり、長さは、10000μm〜20000μmで、各分岐流路の接続間隔は、20μm〜50μmが示される。 白血球採取用流路路群は、図中白血球採取用流路群15aと下の白血球採取用流路群15bで、流路の本数、幅、深さが相違しており、白血球の種類によって異なる大きさのものを分別できる構成となっ
ている。
【0044】
白血球は、体外免疫による抗体遺伝子の採取のための操作を伴う場合もある。
尚、白血球の種類(好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球、B細胞、T細胞、NK細胞、等)に応じて、大きさが異なる場合(例えば白血球以外の粒子も含めて表2参照)、図1の15aと15bで示すように白血球採取用流路群の採取流路の幅、深さ及び数を変えた配置であっても良い。
【表2】

15a1、15b1は、白血球貯留部であり、一時的に集められ濃縮貯留される部分である。15a2及び15b2は、通気口であり、場合によっては、白血球取り出し部にもなる。
16は、白血球操作部であり、得られた白血球を濃縮し、その容積から計数したり、形状、色等で白血球の種類を更に細分化したりする領域を示したものである。
又、予め標識を付けた特定の抗体と抗原の結合した遊離抗原を供給し、この遊離抗原と抽出した白血球との結合の有無による免疫学的手法により、白血球の種類や、各種の免疫疾患の診断も可能である。
17は、残余粒子検出部であり、造血幹細胞等の特殊な細胞などを検出するための部位である。
18は、免疫試験片Aであり、図3で示す試験片挿入部A304に免疫試験片を挿入する。
【0045】
免疫試験片とは、いわゆる試験紙に抗体が付着し、抗原と結合することで、色が変わったりする、試験紙のことであり、市販されているイムノクロマト試験片等が例示される。
19は、免疫試験片Bであり、 必要に応じ、免疫試験片A18とは異なる免疫計測のための試験片の導入部である。図3で示すように試験片挿入部B305に挿入された状態で使用される。
イムノクロマトは、イムノクロマトグラフィーのことであり、富士レビオ社等で市販されており、毛管現象を利用して、検体を移動させ、途中標識を結合した遊離抗体を含むテスト領域を通過させ、その後固定化された抗体領域で、標識付き抗体を結合させた抗原が固定抗体部で、結合して、標識による目視可能なラインを形成する。
目的とする抗原が無い場合は、ラインはできず、目的とする抗原がある場合は、標識色のラインができる。これは、目視できる程度のものから、光学的センサを利用するものまであり、精度を求める場合は、光学的センサの利用も可能である。
またELISAキット等の利用の場合は、得られた血漿を輸送する容器を代用する場合もある。
更に、従来の不織布のような多孔質シートの毛管力を利用した液体の移動を利用することなく直接流路の途中に、標識のついた遊離抗体を含めた領域を予め設定しておき、その後、貯留部に固定された抗体領域を設定しても良く、
更に、粒子を取り込む流路についても同様の遊離抗体領域と、固定抗体領域を設定しても良い場合もある。さらには、主流路においても同様の抗体を配列しても良い場合がある。
【0046】
尚、免疫試験片A18と免疫試験片B19とを底面に又は担体の縁部の周囲に形成した流路で連結し、片方の分離では不足する液体を補う構成であっても良い場合もある。301は、駆動手段であり、検体が供給される前後で検体入力部11に装着され、主流路12へ、検体を含む液体の層流を形成するものである。303は、支持部であり、基板200を支持固定するものであって、前段の体液系溶液入力部1、分析操作手段3も同じ支持部303上に支持固定される。基板の大きさは、おおよそ200mm2 〜2000mm2 が示される。以上の数値の決定は、適宜選択の範囲である。
【0047】
次に図2で示す分離抽出部の動作について説明する。
検体入力部1から、血液又は希釈血液からなる検体を供給し、図3で示す外部の駆動手段301を接続する。外部の駆動手段301は、生理食塩水をシリンジポンプにより押し出すなどして検体入力部11から主流路12方向へ血液を押し出す。
主流路中の血液又は希釈血液は、層流状態で図中左から右へ流れるが、途中液体採取用流路群13a、13bで液体が分岐して、液体採取用流路群13aの液体は液体貯留部13a1で一時的に貯留され、液体出力部13a2を介して、装着された免疫試験片B19へ移動し、液体採取用流路群13bの液体は液体貯留部13b1で一時的に貯留され、液体出力部13b2を介して、試験片挿入部A304に挿入された免疫試験片A18及び試験片挿入部B305に挿入された免疫試験片B19へ移動しそれぞれの免疫試験片に到達し、含浸供給される。それぞれの免疫試験片は、多孔質材で形成され、内部を含浸しながら、抗体ラインを通過していく、その場合、特定の抗体ラインで、液体中の抗原が合った場合、そこで結合することで、その部分で濃淡が生じ、どのような抗原が含まれているかわかる仕組みである。
【0048】
他方、試験片は、この液体を含浸し、予め含浸配置されたグルコース検査用、その他血中成分と反応する試薬と反応し発色するドライケミストリー、ウェットケミストリーで用いるものであっても良い。
液体採取用流路群13a、13bを通過した主流路12中の血液は、赤血球分離用流路群14a、14bの流路群に入り込み移動して分級分離がされる。
赤血球分離用流路群14a、14bを通過した赤血球は、貯留部14a1、14b1で一時的に貯留される。
赤血球分離用流路群14a、14bの領域を通過した血液は、層流により白血球採取用流路群15a、15bの領域で白血球が分離し、それぞれ白血球貯留部15a1、15b1で一時的に貯留する。一時的に貯留された白血球は、白血球操作部16に移動する。
白血球貯留部15a1がそのまま白血球操作部16であってもよい。
【0049】
白血球操作部16は、上下で、検出する白血球が異なるため、本数と流路一つの大きさが相違する。
尚、白血球操作部16の途中には、計数カウンタ用センサが接続されている場合もある。
最終的に残った粒子等は、残余粒子検出部17に集められる。この部分は、更に巨大な細胞が存在している場合もあるため、これを採取して2次検査も可能である。
本実施例は、例えばPDMSよりなるチップ状の基板200に凹部として形成されていおり、最終的に入力部、取り出し部等を除いてガラスシートを蓋部302として接合している。

【実施例3】
【0050】
更に本発明の図2で示した分離抽出部の他の実施例について図4を参照して説明する。
尚、図2から図4で示す構成は、場合によっては、本発明の実施例にもなり得るものである。
41は、検体入力部であり、おおよそ図2と同様の構成を有している。42は、バッファ導入部であり、異なる層流を形成して、主流路43中の血液をより、分岐流路に近い状態で流すためのものである。
44は、液体抽出用分岐流路であり、粒子が入り込まない深さと幅を持つ流路が複数並列に形成され、液体抽出部45で集められる。
液体抽出部45は、図2と同様、下方向に装着される試験片45Pへ液体成分を供給するための供給口が形成されている。
46は、赤血球分離用分岐流路であり、主に赤血球をこの赤血球分離用分岐流路46へ、取り込む為の深さと幅を備えている。
47は、分岐流路で抽出された赤血球を一時的に蓄積する部分である。47aは、通気口である。
【0051】
48は、白血球分離用分岐流路であり、白血球を分岐流路で補足するための幅と深さを持つ流路が複数形成されている。白血球もその種類により大きさが変わる場合は、口径を変えた流路が接続されても良い。
49は、白血球計数部であり、流れてくる白血球の数を光学的、磁気的、電磁気的に計数するセンサを配置して形成される。
50は、白血球分離部であり、この部分に分離濃縮された白血球の容積から計数しても良い。50aは、通気口である。
又、光学的手段による白血球の形状、大きさ、色、歪みを測定することで、血液疾患の診断が可能となる。
51は、特異細胞検出部であり、流路で検出されなかった粒子が貯留する部位であって、
例えば造血幹細胞等が貯留する場合もある。
これらの構成も図2で示した実施例と同様に、一つの基板400上に形成されている。
【0052】
図4で示す実施例は、図2の双方向流路を片方のみを使用したものであり、その為、バッファ導入部42からバッファを導入して2つの層流とし、主流路43中の血液を分岐流路側にするためのものである。このバッファの導入により、液体、血球の補足効率が向上する。バッファ緩衝液の供給量は、検体量と比べて、1:1〜1:5の範囲で適宜選択される。
【0053】
主流路43中には、分岐流路側に血液又は希釈血液が層流状態で流れており、液体抽出用分岐流路44、赤血球分離用分岐流路46及び白血球分離用分岐流路48でそれぞれ、流体力学的作用により、それぞれの液体、粒子が補足されていくものである。
図4で示す実施例は、バッファを必要とせずとも、上述の機能は果たせる他、血漿成分を中心に検出する場合は、不必要に成る場合もある。
又、血液、又は希釈血液中の粒子以外の液体、主に血漿といわれるものを抽出する部位は、必ずしも、最初に来る必要はなく、赤血球抽出用分岐流路群の後段、白血球抽出用分岐流路の後段、であっても良い場合がある。
【0054】
その他の構成

本発明は、ラボ・オン・ザ・ディスク(チップ)の範疇から、体液に限らず、例えば脾臓細胞、骨髄細胞、造血幹細胞、末梢血リンパ球等の免疫細胞を多く含む臓器、血液、皮膚等の生体組織より摘出した細胞を含む溶液等の細胞懸濁液を含む。
又、体液系としたのは、更に植物においても細胞単位での使用において有効に利用される場合があるからである。
即ち、本発明は分析だけでなく、抗体産生細胞のような白血球の仲間であるB細胞、リンパ球等に体外免疫処理を施す免疫作製工程を前段即ち図1で示す体液系溶液入力部1の前後に形成したり、分析操作手段4の前後に形成してもよいのである。
この点について詳細に説明する。
例えば図2で示す分離抽出部の検体入力部11に臓器細胞懸濁液を入力して、分岐流路群で赤血球を分離してB細胞等の白血球を白血球採取用流路群15a、15b、残余粒子検出部17、で得るものであっても良く、ここで、残った血漿成分のような液体の採取を行っても良い。
【0055】
当該B細胞、リンパ球に白血球操作部16で、サイトカイン、刺激物質、抗原を添加して体外免疫を行う領域を形成してもよい。
添加後は、恒温槽内で、数日から数週間程度培養するため、別途インキュベータ又はそれに相当するものが必要となる場合もある。
添加物は、貯留部を形成して、自動的な添加も可能である。刺激物質としては例えば、IL−2、IL-4、IL-5、IL-10、MDP、anti-CD38、ムラミルジペプチド、anti-CD40が示され、
抗原としては例えば、腫瘍抗原、細菌細胞膜成分、コメアレルゲン、カゼイン、ホボアルブミン、h(ヒト)S100ファミリー、he(鶏)EL、h(ヒト)Ras、ダニ抽出物、h(ヒト)rap74,h(ヒト)TOPO2B、スギ花粉、b(ウシ)SA、b(ウシ)Casein等のマウス由来以外の蛋白質、mSA、mMapk1等の蛋白質 が例示される。
これらの添加物を供給した後、これらの免疫細胞は、その性質に応じ、記憶B細胞又は抗体産生細胞へ分化誘導及び、抗体のアフィニテイマーチュレーション・クラススイッチが生じ、実用性の高い、免疫グロブリンが得られる細胞となる。
尚、末梢血ヒトリンパ球のような末梢血から得られる白血球類を用いても良い場合もある。
【0056】
更に大腸菌等の宿主細胞により、好ましくはコロニー化させて抗体を得るステップを組み合わせることで、抗体を短時間で作製可能とすることができる。これらの遺伝子操作は、チップ上では、困難な面が多いが、宿主細胞で抗体を産生する場合は、小型のバイオリアクター機能・インキュベータ機能を組み合わせてラボ・オン・ザ・ディスク(チップ)の形成も可能である。
この細胞を選択的に取り出して、細胞から得られる抗体遺伝子(VH遺伝子、VL遺伝子等)をPCR(polymerase chain reaction)法により増幅し、1本鎖抗体(scfv)等を形成したりする。
これらの抗体作製手法は、特開2006−180708号、特開2004−121237号、化学と生物、(2007,11月)、vol.45no.11、p751−753、BMB2008講演要旨集、2008年11月20日発行、1P-1344、に掲載されており、その他の記載も同様に本発明において利用できる。
【実施例4】
【0057】
さらに本発明の図2で示した分離抽出部の他の実施例について図5を参照して説明する。
本実施例は検体中の粒子を採取するのではなく排除し、一定以上の大きさの粒子を含まない液体成分のみを回収することを目的とするものであって、例えば血液から血漿成分のみを回収する場合が該当する。血漿成分のみを回収する一般的な方法としては遠心分離法やメッシュ構造などを利用した濾過フィルタを利用する方法などが挙げられるが、遠心分離法では装置が大きい上に血漿成分の検出システムと一体化することが困難であるし、濾過フィルタでは血球などの粒子が目詰まりを起こすため処理量が限られる。本発明のようにチップ上で血漿成分のみを回収できれば、回収部あるいはその延長上に血漿成分に対して試薬や蛍光発光などを利用する検出部を一体化させることは容易であるため、全体的に小型化が実現できるだけでなく、検査者が検体に全く触れることなく処理を完了することが可能であるため安全性が高いというメリットが得られる。また、既に述べたように層流を利用することで分離したい粒子のサイズよりも大きな幅を有する流路構造を利用できるため、原理的には目詰まりを起こすことがなく、処理量の制限がないというメリットも有する。
【0058】
図5は、PDMS、アクリル等で形成された平板からなる担体50Tに検体導入部501
、主流路502、分岐流路群503、通気口504、血漿回収部505をそれぞれ、円筒状、直方体状の凹部を形成して構成されており、担体50Tが例えばPDMSで形成されている場合は、平面のガラス板上に凹部が形成されている面を接触させて、管状の流路等が形成される。
具体的にはまず、検体は検体導入部501から導入される。実施例3のように、粒子を分離回収する目的では、粒子が分岐流路側の層流に入りやすくなるようにバッファ流で粒子を押しつける構造が必要となるが、本実施例のように粒子を回収することが目的でない場合には、バッファ流は存在しなくてもよく、バッファ導入部は省略可能である。導入された血液などの検体は、主流路502を進行して通気口504へと行き着くが、その途中で分岐流路群503には血球などの粒子を含まない液体成分のみが回収されていく。分岐流路群の流路幅は、排除したい粒子のサイズよりも大きくてもよく、主流路の抵抗値に対して排除したい粒子が分岐流路側に進入する層流に入れない程度の層流幅が形成されるための抵抗値を、分岐流路が有するように設計されていればよい。このようにして分離された粒子を含まない液体成分は、血漿回収部505から回収されることとなる。
【0059】
なお、血液検体から血漿成分を回収する場合、血漿成分には赤血球以上の大きさを有する粒子成分が混入しないようにするため、分岐流路側には直径1μm以上の粒子が入れないように設計を行う。また、図5の例は図2と異なり主流路502に対して一方向のみに分岐流路群503を設けている。これは分岐側に流したい(すなわち回収したい)液量によって適宜構造を使い分ければよいことを意味しており、分岐側の流量を増やしたければ分岐流路の数を多くするか、図2のように主流路に対して複数の方向に分岐流路を設ければよい。以下の実施例においても、この点は共通である。
【0060】
また、血漿のように液体成分のみを回収したい場合であっても、検体として自然界から得られたような不純物の多いものを扱う場合、主流路よりも大きなサイズを有する不純物が存在する場合もありうる。主流路がこのような不純物によって詰まってしまうと、それによって抵抗値のバランスが変化し、本来ならば分岐流路には入れない粒子が回収されてしまう現象が発生する。このような問題の発生を防ぐため、検体導入部501から主流路502の間に、主流路よりも大きな空隙をもつフィルタ構造を形成しておき、不純物をあらかじめ除去できるようにしておくことが好ましい。あるいは、層流を利用した分離により、ある程度サイズの揃った回収サンプルに対して、チップの下流域において物理的な空隙のサイズを利用したフィルタ構造を形成し、二段階目の分離を行ってもよい。初期段階では多数の粒子が存在することにより物理的な空隙を利用したフィルタでは目詰まりを起こす恐れがある場合でも、層流を利用した分離後であれば大きなサイズの粒子は存在せず、粒子数自体も減少しているため、目詰まりの恐れが消失している場合も少なくないからである。
【0061】
図5の例と異なり、検体中の細胞などの粒子を積極的に分岐流路から回収したい場合には、図18(a)のような流路構成が有用である。図2あるいは図5の例と異なり、この場合は検体導入部1801の他に、バッファ導入部1802が分岐流路群1804よりも上流側の主流路1803に接続されている。検体導入部1801からは分離回収したい粒子を含む検体を導入するのに対し、バッファ導入部1802からは粒子を含まないバッファ液を導入する。このような構成の場合、図18(b)に示すように、各導入部からの液体はこれらの接続点において接触し、界面1808を形成する。検体中に含まれる粒子はバッファ流れによって分岐流路群1804側に押しつけられるため、分離効率が高められる。なぜなら、分岐流路側の層流幅に入れないサイズの粒子は分岐流路に進入できないことはバッファ流の存在に関係なく成立する事象であるが、分岐流路側の層流幅に入れるサイズの粒子が実際に当該層流に入るかどうかは、粒子が分岐流路側の壁面近傍に存在するかどうかによって決定されるからである。すなわち、バッファ流によって粒子を分岐流路側の壁面近傍に予め押しつけておくことにより、分離効率を高めることができるのである。以下の実施例においても、基本的に粒子を分岐流路から分離回収したい場合においては、検体導入部の他にバッファ導入部が存在するものとして考えてよい。なお、本発明のシステムでは分岐流路側の層流幅を流路抵抗値によって制御しているため、同一のチップで分離サイズ範囲の異なる複数の分岐流路群を設けることは容易であり、第一段階の分離サイズ範囲の粒子は第一分離回収部1806から、第二段階の分離サイズ範囲の粒子は第二分離回収部1807から、というようにそれぞれに対応した出口から回収される。また、いずれの分離サイズ範囲にも収まらない大きな粒子は、主流路1803を直進して非分岐回収部1805から回収される。
【0062】
このように、あるサイズを有する粒子が分岐流路側の層流に入って分離されるかどうかは、単に層流の幅のみならず、粒子の位置の影響も大きく受けることから、分離の目的に応じた層流幅の設計が必要となる。例えば平均半径(短径)aの粒子群と平均半径(短径)bの粒子群を含む検体において、a<bの関係が成立しているとする。もし平均半径(短径)aの粒子群を分岐流路から分離回収したいとすると、論理的には分岐流路側の層流幅がaとなるように流路パターンを設計すれば、分岐流路にはaの粒子のみが進入できることから、この粒子のみを回収することができる。しかしながら、このような分離閾値では、半径が平均値aよりも若干大きい粒子や、存在位置が分岐流路側の壁面から若干離れている粒子は、例え同種の粒子であっても分岐流路側の層流に入ることができないため、分離回収効率が著しく低下する。分離回収効率を高めるためには、分岐流路側の層流幅にある程度の余裕をもたせることが必要である。例えば、平均半径がa<bなる関係を有する二つの粒子群を含む検体の分離において、分岐流路側の層流幅がa+(b-a)×k(kは調整値)となるように形成された分岐流路によって、平均半径aの粒子群のみを分岐流路側に分離させるようにする。そして当該調整値kは、0.2から0.8の間の値となるように設定すると、高い効率で目的の分離を実現させることができるのである。なお一般的にはその他の粒子群も含まれることが通常であるが、分岐流路から分離回収させたい粒子群の平均半径aに、最も近い粒子群の平均半径をbとすれば、局所的に上記の関係は成立するので、多段階に分離を行う流路パターンにおいても、同様に設計を行えばよい。図18(a)は二段階の分離を行う例であるが、検体に含まれる粒子群の平均半径がa、b、c(a<b<c。ただしcはbよりも大きい複数種の粒子群であってもよく、aはbよりも小さい複数種の粒子群であってもよい)とすると、第一段階分離回収部1806と、第二段階分離回収部1807、非分岐回収部1805のそれぞれにa、b、cの粒子群が進行するように設計すればよい。すなわち、第一段階分離回収部1806へ通じる分岐流路群での層流幅mはa<m<bとなるように設計し、第二段階分離回収部1807へ通じる分岐流路群での層流幅nはb<n<cとなるように設計すればよい。
【0063】
ここで、各検体および分離の目的に応じて分岐流路群の分離サイズ範囲を設定する一例を示しておく。臨床用途として最も一般的な血液が検体の場合、最上流に位置する第一段階分岐流路群の分離サイズ範囲を(3−α)μm以下(ただしαは0≦α≦2を満たすいずれかの値)に設定することにより、血球を含まない血漿成分のみを分岐流路群を通じて回収することができる。これはすなわち、当該分岐流路群の位置において、主流路に形成される分岐流路側の層流の幅が(3−α)/2となるように設計されていることになる。また、同様に血液が検体の場合、分岐流路群の分離サイズ範囲を(7−α)μm以下(ただしαは0≦α≦2を満たすいずれかの値)に設定することにより、血球成分のうち赤血球のみを分岐流路群を通じて回収することができる。また、このような赤血球用の分岐流路群よりも主流路下流側に、分離サイズ範囲が(10+α)μm以下(ただしαは0≦α≦4を満たすいずれかの値)に設定された分岐流路群を配置することにより、血球成分のうち赤血球を含まない白血球を主成分とする粒子群を当該分岐流路群を通じて回収することができる。また、第一段階の分岐流路群の分離サイズ範囲が(10+α)μm以下(ただしαは0≦α≦4を満たすいずれかの値)に設定され、当該分岐流路群よりも主流路下流側に配置された第二段階の分岐流路群の分離サイズ範囲が(20+α)μm以下(ただしαは0≦α≦5を満たすいずれかの値)に設定されることにより、白血球よりも平均的に大きい幹細胞、循環腫瘍細胞、iPS化した細胞、各種の細胞塊等の粒子を当該分岐流路群を通じて回収することができる。また、サイズ分離範囲がnずつ異なるm種類の分岐流路群を配置した流路パターンを有することにより、分解能n、ステップ数mの粒度分布が求められる分析用チップを実現させることができる。
【0064】
以上、図2および図4、図5、図18に示したような流路の構成が本発明の代表的な例となるが、このような物理的構成のみの場合、層流の幅を制御することによる粒子のサイズ分離が基本的な機能となる。しかしながら実際には、検体中に含まれる粒子は多種存在しており、しかも種類は同じであっても粒子サイズにはある程度の分布を有していることが通常である。したがって、粒子を大きさのみの次元で分離しようとしても、十分な分離が得られない場合も多い。現実的には図2の14b1や図4の47のような、サイズに基づいた分離が行われた後の粒子群が通過あるいは貯蔵される部位において、サイズとは異なる物理的あるいは化学的、生物学的性質に基づき、粒子群をさらに分離する機能が求められることになる。
【0065】
とくに、検体中の存在頻度が非常に低い粒子を回収したい場合には、このような機能は非常に有効なものとなる。例えば、検体中に含まれる粒子群のうち、わずか0.01%以下程度しか存在しないような粒子を回収したい場合、元の検体に対して抗体を利用して回収しようとしても、目的以外の粒子が多すぎて抗原抗体反応が適切に行われない可能性が高くなる。フローサイトメトリーのように個々の粒子を検出できるような方法を用いても、やはり目的物以外の粒子があまりにも多いため、個々の粒子を検出しているのではあまりにも時間効率が悪い。存在頻度が低い粒子を目的とする場合、その粒子が1個も回収されないという事態を防ぐため、検体量自体を増やさなければならず、余計にその効率の悪さが目立つことになる。メッシュ構造を利用したフィルタを用いても、やはり目詰まりを起こすため検体量を増やすのは容易ではなく、目的の粒子がその他の粒子に埋もれてしまうため検出できないということも起こりうる。
【0066】
このような目的において、本発明のシステムは非常に有効に機能する。まずサイズ分離を行うことによって、目的の粒子と異なるサイズを有する粒子のほとんどを排除することができる。これにより、元の検体中に含まれる全粒子のうち0.1%以下程度しか存在しないような粒子であっても、分離された液体中の全粒子に対しては1%程度以上に存在する程度まで濃縮を行うことができる。この程度まで存在頻度を高めることができれば、抗体を利用する検出のような一般的な手法を用いやすくなる。例えば図4の47のようなサイズ分離後のサンプル貯蔵部(あるいは通過部)に、目的とする粒子を補足する抗体を配置しておき、粒子をこの部分に貯蔵していくことが可能になる。あるいは、この部分に目的以外の粒子を補足する抗体を配置しておき、目的とする粒子のみが出口(通気口47a)に進むことができる構成にしてもよい。また、貯蔵部と出口の間に細い流路を設け、この流路でフローサイトメトリーのように個々の粒子を検出するようにしてもよい。ここでは目的の粒子の存在頻度が高くなっているため、個々の粒子を検出する方法でも効率はよいからである。検出に必要な蛍光標識や磁気ビーズによる標識は、貯蔵部で行われるようにしておけばよい。
【0067】
サイズ分離と抗体による分離または回収の例を、図19を用いてより詳細に説明する。分離回収部1901と、分離回収部1901へと通じる分岐流路群1902との間にトラップ領域1903を配置した場合は、分岐流路群1902へ進入するサイズ範囲の粒子のうち、不要な粒子をトラップ領域1903で補足し、回収したい粒子のみが分離回収部1901へ通過できるようにすればよい。この構成では、粒子の回収が容易になる反面、不要な粒子があまりにも多いとトラップ領域が途中で詰まる可能性があるため、注意が必要である。分岐流路群1902は抵抗値を調整する目的で細く設計することが多いため、トラップ領域は分岐流路内ではなく、これらの下流域で分離回収部よりは上流側の位置がよい。なお、想定する粒子が細胞であれば、トラップ領域1903には不要な細胞のみを補足する抗体を設置しておけばよい。一方、分離回収部1904にトラップ領域1905を配置した場合は、トラップ領域で不要な粒子を補足するか、またはトラップ領域で必要な粒子を補足するかのいずれの構成も可能である。前者の場合、分離回収部1905から回収物を吸引すれば、必要な粒子を中心に回収できるが、補足しきれなかった不要な粒子も混入する可能性がある。後者の場合、回収物を吸引した後に、必要な粒子が分離回収部1905に残存することになるため、これを別途回収する必要がある。なお、分離回収部1905において、必要な粒子に結合する物質は必ずしも固定されていなくてもよい。例えば磁気粒子や蛍光粒子と繋がった抗体を必要な細胞に結合させるような場合は、磁場を利用して必要な細胞を集めたり、蛍光発光を利用して選択的に回収してもよい。このような標識を必要な粒子に行う場合には、トラップ領域の下流で特定の蛍光を有する粒子のみをレーザー光等で別の流路に振り分けたり、磁場を加えて標識された粒子のみが特定の流路に進行するような構造と組み合わせてもよい。
【0068】
存在頻度の低い粒子の回収の応用例としては、母体抹消血に含まれる胎児の有核赤血球の回収が挙げられる。母体の赤血球はほぼ全てが無核の赤血球であるが、妊娠すると胎児側で作られた有核赤血球が胎盤を通じてわずかに母体中に混入してくる現象が発生する。これを回収して診断に利用することができれば、母体から羊水を採取しなくとも末梢血で診断ができるようになるため、非常に簡便で安全性の高い診断方法が実現できる。しかしながら、母体の末梢血に含まれる胎児の有核赤血球は1mlあたり1〜2個程度と非常に少なく、無核の赤血球が1mlあたり10の9乗程度存在することを考慮すると、元の検体のままで有核赤血球を回収することは非常に困難である。しかしながら有核赤血球は核を有する分だけ無核赤血球よりもサイズが大きくなっているため、これを利用してまずサイズ分離を行い、無核赤血球を含まないサンプルを得ればよい。具体的には、無核赤血球が7μm前後の直径を有するのに対して、有核赤血球は10μm程度の直径を有するため、本発明のシステムで使用する流路では、まずこれらのサイズ分離が行われる機能を有する。赤血球は球形というよりも円盤形に近いため、実際には分岐流路側の層流幅が2〜3μm程度であってもその中に入ることができるため、このような層流幅を生じるように設計を行う。すなわち、主流路幅をWとすると、そのうち分岐流路側の壁面から2〜3μmの幅にある流体成分が分岐流路側に進入し、残りのW−(2〜3μm)の幅にある流体成分が主流路をそのまま直進するように、主流路側の抵抗値と分岐流路側の抵抗値の比を設計する。有核赤血球は核を有する分だけ厚みも大きく、この分岐側の層流幅には入ることができない。このような分岐流路側の層流幅を有する領域に、分岐流路を20〜100本設け、確実に無核赤血球が分岐流路側に振り分けられるようにする。分岐流路の数をこのように多く用意するのは、無核赤血球は非常に数が多く、分岐点において互いに干渉して分岐流路側に進入できないものが発生する可能性が高いためである。
【0069】
このようにして無核赤血球を分離した後、さらに主流路の下流側では、分岐流路側の層流幅が3〜5μmの範囲のいずれかの値になるように設計する。これは無核赤血球を排除した後に6〜10μmの範囲のいずれかのサイズ以下の粒子が分岐流路側に進入するように設計していることになる。有核赤血球はこの範囲の分岐流路に振り分けられることになるが、白血球のサイズ分布とも重なっているため、このようなサイズ分離によって得られるサンプルは多数の白血球にわずかな有核赤血球が混在するものとなる。第二段階の分岐流路側の層流幅が小さいほど白血球の数は減ることになるが、有核赤血球も分岐側に入れず直進してしまう確率が高まるため、層流幅の設定には慎重を要する。いずれにせよ、第二段階の分離によって得られるサンプルには、母体由来の白血球の核酸が含まれていることから、そのままでは胎児の染色体診断あるいは遺伝子診断を行うことができない。したがって第二段階の分離によって貯蔵部に進入してきたサンプルに対して、抗体を利用して有核赤血球のみを回収するか、白血球を補足して有核赤血球のみを通過させるか、あるいは誘電泳動法により有核赤血球を特定の出口に導くといった機能を別途有している必要がある。しかしながら一段階目で既に無核赤血球は除去されているため、二段階目の分離に利用される抗体は必ずしも有核赤血球に対して特異的である必要はなく、赤血球と白血球とで反応が異なるものを利用すればよい。これならば一般的に販売されているGlycophorin A、Band 3, Anion Exchanger 1、common leukocyte antigen、epsilon-globlin、transferrin receptor、integrin-associated protein、thrombospondin receptor、complement receptor 1といったタンパク抗原に対する抗体を利用することができる。
誘電泳動法によっても、赤血球と白血球では帯電状態が異なるため、無核赤血球を排除した後のサンプルであれば、有核赤血球を回収する目的に利用することができる。
【0070】
また、存在頻度が低いうちに検出できることの意義が大きい粒子を目的とする場合にも同様の効果が期待できる。例えば癌マーカーに利用できるような細胞であって、循環腫瘍細胞(CTC)の検出を行う場合が挙げられる。CTCは赤血球や白血球に対して10〜20μmという大きなサイズ分布を有することに加え、血液検体7.5ml中に2個程度の存在頻度であっても癌転移の指標となることから、サイズ分離後に抗体等を利用して検出する方法が極めて有効な例の一つとなる。本発明のシステムでCTCの検出を行う場合、一段階目のサイズ分離は8〜10μmの範囲のいずれかの値で行われるように設定する。すなわち、一段階目の分岐側層流幅は4〜5μmになるように分岐流路と主流路の抵抗値比を設計する。やはり不要な赤血球は非常に数が多いため、この範囲での分岐流路数は30〜100本程度設けておく必要がある。二段階目のサイズ分離は16〜22μmの範囲のいずれかの値で行われるように設定する。すなわち、二段階目の分岐流路側層流幅は8〜11μmになるように分岐流路と主流路の抵抗値比を設計する。これにより、二段階目の分岐流路から得られるサンプルには数多くの白血球と数個のCTCが混在したものとなる。これに対し、やはり抗体等を利用してCTCのみを補足あるいは通過させるような機能が、図4の貯蔵部47に相当する部分に設けられる。
【0071】
有核赤血球やCTCのように、回収される細胞数が非常に少ない場合には、回収後にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用してシグナルを増強させる必要があることも多い。したがってこれらの目的に利用されるマイクロ流路チップでは、細胞を回収する部位において細胞を破壊し、得られる核酸をチップ上でPCR法により増幅させることが可能な構造になっていることが好ましい。あるいはPCR法を利用せずとも、チップ上で細胞培養を行うことで、シグナルが増強されるような構造になっていてもよい。細胞培養をチップ上で行う機能を有する場合、幹細胞、iPS細胞、その他未分化状態の細胞を培養すると、その分化後に細胞表面の電位状態等の性質が変化することも少なくない。したがって、細胞培養を行う部位の後段に、さらに誘電泳動、電気泳動、抗原抗体反応等を利用して細胞の分離を行う手段を有していてもよい。
【0072】
本発明は以上の例のように、検体中の存在頻度が非常に低い粒子を検出する目的に高い効果を発揮する流路チップを用いる。具体的にまとめると、1から16で示すようになる。
1.主流路に対し最も上流の主流路側方に配置された第一段階の分岐流路群によって、目的とする粒子よりもサイズが小さい粒子が排除される機能を有する
2.前記第一段階の分岐流路群よりも主流路に対し下流側に配置された第二段階以降の分岐流路群によって、目的とする粒子を含むサイズ範囲の粒子が分離される機能を有する。
3.前記分岐流路群のサイズ分離機能は、当該分岐流路側に進行する液体の流れの幅を制御する。
4.前記第一段階の分岐流路群の分離サイズ範囲は(3−α)μm以下(ただしαは0≦α≦2を満たすいずれかの値)に設定されることにより、検体が血液の場合に、血球を含まない血漿成分のみを当該分岐流路群を通じて回収することができる。
5.前記第一段階の分岐流路群の分離サイズ範囲は(7−α)μm以下(ただしαは0≦α≦2を満たすいずれかの値)に設定されることにより、検体が血液の場合に、当該検体中の赤血球が当該分岐流路群を通じて排除される。
6.第n段階の分岐流路群によって赤血球が排除され、さらに主流路に対し当該第n段階の分岐流路群の下流側に配置される第(n+1)段階の分岐流路群の分離サイズ範囲が(10+α)μm以下(ただしαは0≦α≦4を満たすいずれかの値)に設定されることにより、赤血球を含まない白血球を主成分とする粒子群が当該第(n+1)分岐流路群を通じて排除される。
7.第n段階の分岐流路群の分離サイズ範囲が(10+α)μm以下(ただしαは0≦α≦4を満たすいずれかの値)に設定され、当該分岐流路群よりも主流路下流側に配置された第(n+1)段階の分岐流路群の分離サイズ範囲が(20+α)μm以下(ただしαは0≦α≦5を満たすいずれかの値)に設定されることにより、白血球よりも平均的に大きい幹細胞、循環腫瘍細胞、iPS化した細胞、各種の細胞塊等の粒子を当該分岐流路群を通じて回収することができる。
【0073】
8.複数の種類の粒子群を含有する液体試料に対し、粒子サイズの差異に応じて当該粒子群を分離する手段と、当該手段を経て得られる同一サイズ範囲に限定された粒子群を含有する分画成分のうち、サイズ以外の性質を利用して目的とする粒子を補足する、または目的とする粒子以外を補足する機能を有する。
9.前記粒子サイズの差異に応じて当該粒子群を分離する手段とは、主流路を進行する液体試料のうち一部を主流路に接続された分岐流路に進行させることにより実現させている前記生物学的操作システム及び工業的操作システム。
10.前記粒子を補足する手段が、抗原抗体反応の利用による。
11.前記粒子を補足する手段が、誘電泳動または電気泳動による。
12.前記目的とする粒子の存在割合が、検体中に含まれる全粒子の0.1%以下である。
13.前記目的とする粒子とは、血液中の有核赤血球である。
14.前記目的とする粒子とは、血液中の循環腫瘍細胞である。
15.サイズ分離によりチップ上の特定部位に回収された細胞に対し、細胞内の核酸を抽出する手段と、ポリメラーゼ連鎖反応を利用して核酸を増幅させる機能を有する。
16.サイズ分離によりチップ上の特定部位に回収された細胞を、当該チップ上で培養することができる機能を有する。

【実施例5】
【0074】
なお、これまでは本発明のシステムの利用対象を中心に説明を行ってきたが、実用上はシステムで利用するマイクロ流路チップの構造自体や、マイクロ流路へ検体を導入するための構造、分離後のサンプルを検出する方式等についてもさまざまな工夫が必要である。ここでは図を参照しながら、マイクロ流路チップの構造およびチップへ検体を導入する方法について詳述を行う。
一般的にマイクロ流路構造はまだ研究段階であるものが多いため、図3に示したような平板状のデバイスに接着などでチューブを付け、これにシリンジポンプのような流速を制御しつつ送液できる装置を接続して実験を行うことが多い。しかしながらチューブの接続時には気泡が混入しやすく、マイクロメートルレベルの構造に気泡が進入した場合、表面抵抗が大きく長時間流路内に留まってしまい、そのために設計通りの性能が得られなくなることが頻繁に発生する。研究レベルでは操作に慣れることによってほとんど気泡が混入しないようにチューブを接続することができるようになるが、誰が使用しても同じ結果が失敗なく得られるようにしなければ実用性がえられない。そのための工夫が例えば図6のようなチップ構造である。PDMSやアクリル等の流路担体601には凹状のマイクロ流路パターン602が形成され、さらにガラス、アクリル、ポリカーボネイト、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、およびPDMSとの結合のため必要に応じてこれらの材料表面にシリカ膜を塗布した処理を施したもので形成されるプレート603を接合することで流路部が形成されていることは図3と同様である。
【0075】
図6の構造ではさらに、流路の出入口の周囲に例えば、アクリル等のプラスチック材で形成される筒状の液溜め604が形成されている。これは流路担体601に接合されるのでも、一体成型により形成されるのでもよい。 既に述べたように、本発明のシステムで利用するマイクロ流路では入口あるいは出口が複数存在する場合もあるが、考え方は図6と同様であるためとくに区別はしない。使用者にこのチップを供給する際には、目的に適したバッファで流路内を満たし、さらにバッファの液面605が出入口の液溜め604の下部に位置する状態とした上で液溜め604にシールを貼り付けておく。使用者はまずこのシールをはがし、適量の検体を入口部分に重層する。これならば通常のピペット操作で簡単に検体をセットすることができ、しかも流路内に通じるバッファと検体の界面に気泡も混入しないため、分離に失敗する可能性をなくすことができる。なお、あらかじめ流路を満たしておくバッファとしては、想定する検体を希釈する目的で使用する生理食塩水等の他、検体に含まれる粒子の沈殿を防ぐために目的の粒子の比重に近い密度を有する液体等が考えられる。
【0076】
図20は図6に示した断面構造を有するチップを立体的に描いた例である。流路担体2001の表面に流路パターン2002が形成され、さらにこの面にプレート2003を接合させることで閉じられた流路が形成されている。流路の導入口としては、検体用液溜め2004の他、前述したように、粒子を分岐流路側に押しつけるためのバッファ用液溜め2005が必要に応じて設けられる。分岐流路群の下流の出口には回収用液溜め2006が設けられ、各分離サイズごとに別々に回収される。いずれの分離サイズよりも大きな粒子は分岐流路には進入しないため、主流路の先にある非分岐回収用液溜め2007から回収されることになる。なお、出入口の数が多い場合には、図21のように流路担体2101をブロック状とし、ここに流路パターンへの導入口2102および回収口2103が設けられる構造にしてもよい。
【0077】
図6のような構成で検体をセットした後、どのように流路への送液を実現させるかが次なる課題となる。最も自然な方法は、液溜め604にチューブを接続し、コンプレッサーやポンプなどで加圧することである。図7にその構成例を示す。本発明のシステムで使用するマイクロ流路チップは、これまでと同様に流路担体701にプレート702を接合させて形成されている。チップの入口には筒状の液溜め703が形成されており、この下部まで満たされたバッファ液面上に検体704を重層させてセットする。この状態からまず液溜め703にチューブ705を接続し、さらにそのチューブ705のもう一端を加圧タンク706から突き出されるように備え付けられたチップ側配管707に接続する。チップ側配管707には、バルブ708が設置され、必要に応じてチップへの加圧を開始または停止させることができる。また、圧力調整弁(レギュレータ)709も設置されており、チップ側に加えられる圧力を調整できる。一方、圧力源側配管710には、ガスボンベ、加圧ポンプ、コンプレッサーなど加圧器711が接続され、これによって加圧タンク706内部が加圧される。加圧器711としてガスボンベを使用すれば電力を必要とすることなく本発明のシステムが利用できるようになる。
【0078】
加圧タンク706がそれほど大きな容量を必要としない場合には、加圧器711として注射器あるいは自転車用空気入れのように手動でピストンを押すことにより加圧し、その状態で固定できるような簡素な構成でも利用することができる。加圧器711としてコンプレッサーなどを使用すれば、厳密な圧力制御も可能になる。加圧タンク706には圧力ゲージ712も設置されており、通常はこれで圧力を確認しながら圧力調整弁709を調整して、チップに加えられる圧力、すなわちチップへの送液速度をコントロールすることになるが、この圧力ゲージ712が電気的出力可能なものであれば、出力をフィードバックして圧力を自動調整することも可能である。
特に流路担体701上の主流路に層流を形成する際の加圧の仕方としては、例えば主流路断面が100μm×50μmのとき、1時間当たりの流量が0.2ml/h〜3.0ml/h程度となるような流速に調整する。
【0079】
図8はガスによる加圧を利用した送液システムの別の形態を示したものである。マイクロ流路チップは、これまでと同様に流路担体801にプレート802を接合させて形成されている。ここではチップの入口部分の液溜めに検体803をセットした後、チップを加圧タンク804内に収容する構造となっている。加圧タンク804には圧力源側配管805を通じて加圧器により加圧されることは図7の例と同様である。さらに加圧タンク804には通気口806が設けられており、チップ出口807と通気口806をチューブ等で接続することにより、チップの出口側は大気圧に晒されることとなる。チップの入口側にはとくに何も接続せずとも加圧タンク804内で加圧されるため、チップ内部には圧力差が発生し、送液を実行することができる。加圧タンク804にはチップを出し入れするために上部を開放あるいは密着固定できる機構が備えられているものとする。なお、複数のチップを同時に使用する場合には、加圧タンク804に最大同時使用数分のチップ出口に対応した複数の通気口806を設け、加圧タンク804内に各チップを収容すればよい。あるいは加圧タンク804を複数用意し、加圧器にそれぞれ接続するか、複数の加圧タンクに同じ圧力を分配するための加圧タンクを別途用意し、この分配用加圧タンクに加圧器を接続してもよい。
【0080】
図9はガスによる加圧を利用した送液システムのさらに別の形態を示したものである。これまでの例と同様にマイクロ流路チップ901を加圧タンク902に設置し、入口側の液溜め903に検体をセットした上で加圧タンクを閉じて使用するが、マイクロ流路チップ901の出口904は入口とは反対の面(背面)に形成されている。加圧タンク902には排液口905が開けられており、チップ出口904と位置を合わせることにより、ここから分離後のサンプルを回収することができる。ただし、加圧タンク内のガスが排液口905を通じて漏洩してしまうと加圧ができないため、チップ背面と加圧タンクの間に弾性のあるパッキン材906を挟んでチップを固定する。パッキン材906は最初からチップ背面に貼り付けられていれば操作は簡便になる。
【0081】
生物由来の検体を扱う場合、できるだけ検体への接触は避けたい要望が強いので、パッキン材906は図9のように加圧タンクの排液口905の内面までカバーできる形状であることが好ましい。このような構造であれば、チップの入口と出口のいずれもチューブなどを接続する必要はなく、さらにチップを扱いやすくなる。加圧タンク902は底面側にサンプル回収容器907を設置できるような構造である必要がある。図9の例では模式的に出口を1つとして描いているが、複数の出口が存在する場合には排液口905も複数開けられ、サンプル回収容器907にも内側に仕切りを設けるか、さらに小型のサンプル回収チューブを複数設置できるようにしておくとよい。サンプル回収容器907はチップサイズの制約を受けないため、長時間の分離により大量の回収物を得たい場合にはとくに好適である。
なお、チップの背面からサンプルを回収できれば上記のような利点が得られるため、図10のようにチップ背面側にサンプル回収容器1001を直接固定できる構造にしておけば、チップの入口に加圧用のチューブを接続する場合でも、チップ全体を加圧タンク内に設置する場合でも、いずれも対応できるようになる。
【0082】
また図11のように、チップのプレート1101側にチップ入口の液溜め1102を設け、流路担体1103側に出口1104を設ける構成も有用である。図11のように加圧タンクにチップを配置すれば、マイクロ流路担体1103は加圧の影響を受けない。とくにマイクロ流路担体1103がPDMSのように弾力のある材料で形成されている場合、加圧によって流路が変形を受ける可能性が懸念されるが、この問題点を解消することができる。なお、タンク内のガスの漏洩を防ぐためのパッキン材1105は必要である。
【0083】
本発明のシステムで処理したい検体量が、例えばチップ容量の10倍を超えるなど比較的多い場合には、図12のような構成も有用である。すなわち検体1201は検体容器1202に注入され、加圧タンク1203内部にセットされる。検体容器1202とマイクロ流路チップの入口1205とはホースあるいはチューブなどの接続管1204を介して接続される。加圧タンク1203に接続中継口1206が設けられていれば、ここに検体側からとチップ側からの接続管を別々に接続することができるため、チップを加圧タンク外に配置しやすくなる。この状態で加圧タンク1203に加圧を行えば、簡単に送液を実現させることができる。検体容器1202はマイクロ流路チップとは完全に独立しているため、チップの大きさによる容量の制限を受けないことから、検体量が多い場合には図12の構成が有用となるのである。
【0084】
また、本発明のシステムで処理したい検体の粒子サイズが1μm以下など比較的小さく、マイクロ流路チップの流路抵抗を大きくせざるを得ない場合には、図13のような構成が有用である。すなわち、マイクロ流路チップ1301の入口の液溜め1302のみが加圧タンク1303内部にセットされるようにすることで、送液のために必要な加圧の面積を液溜め1302の断面積に限定する。これにより加圧タンク1303の容積を小さくすることができるため、流路抵抗に応じて大きな加圧が必要な場合でも、加圧タンク全体としてはそれほど大きな圧力にする必要はなくなり、安全に利用しやすくなるのである。チップへの加圧も全くないため、大きな加圧による流路の変形といった影響も受けずに済む。
【0085】
このような構成では、加圧タンク1303からのガス漏洩を防ぐためのパッキン1304は、接触部である液溜め1302の周辺に挿入されることになる。図13に示すような形状では液溜め1302を円形の穴に通すことは不可能であるため、2つの半円状の切り欠きを有する構造物により、液溜め1302を挟み込むようにして固定する構造が必要である。なお図14のように、マイクロ流路チップ1401の入口の液溜め1402のみに加圧する方法としては、液溜め1402の内面に密着する弾性体1403を利用して、注射器のように押すことで加圧してもよいが、このような機械的接触が存在するとチップ自体にも大きな力が加えられるため変形の恐れがある上、液溜め1402の容量のみでは圧力を安定させることが困難であるため、あまり適切な方法とはいえない。
【0086】
実施例5において説明を行った本発明で用いられるマイクロ流路チップ及び流体駆動部等をまとめると、1〜10で示すような記述となる。
1.不活性ガスによる流路への直接的又は空間を介した間接的な加圧を利用してチップに送液する駆動手段で形成されるマイクロ流路用流体駆動装置。
2.前記チップの入口に筒状の液溜め構造を有し、当該液溜め構造内部に検体を注入した上で、当該液溜め構造に加圧されることで容易な流路への検体の供給を可能とする駆動手段が提案される。
3.前記チップの入口が複数存在し、各入口に同一の加圧源から筒状の液溜めを介して直接的に又は、密閉空間を介して間接的に加圧する構成を有するチップ及び駆動手段の組み合わせ構成が提案される。
4.前記チップの入口の液溜め構造に加圧源からのチューブを接続することにより送液が実行される駆動手段との組み合わせ構成、
5.前記チップを加圧容器内に収容して間接的に加圧する駆動手段との組み合わせ構成、
【0087】
6.前記チップの出口を加圧容器に設けられた通気孔に接続して、外部への液体の排出を行う構成、
7.前記チップの入口が上面、出口が背面に形成されていることチップ構成
8.前記背面に形成されたチップの出口と、加圧容器底面に形成された排液口の位置を一致させ、当該排液口からサンプルを回収することを可能とするチップ構成、
9.システムで利用されるチップにあらかじめバッファ液が満たされた状態で提供することで、流路内に残存する空気の消失を待機する手間を省くことや、検体とチップ内部に通じる液体との界面への空気の混入を防止することを可能とする構成、
10.チップにあらかじめ分離回収を目的とする粒子の比重と同程度の密度を有する液体が満たされた状態とすることで、チップ内での粒子の沈殿を防止することを可能とする構成、
【0088】
このように、シリンジポンプのような流量制御型の送液装置と比較して、ガスによる加圧を利用した送液システムの利点を挙げるとすれば、次のようになる。
第一の利点は、電力がない場所でもシステムを利用できるため、システムの用途を拡張できることである。例えば河川の水を採取してその場で検査したり、災害現場での感染状況をその場で調査するといったことが可能である。
第二の利点は、脈動のない送液が可能になることである。シリンジポンプのようにステッピングモーターを利用して送液速度を制御するものでは、回転速度を低下させたときに脈動が発生してしまう。これにより、局所的に層流の乱れが発生したり、複数の入口からの瞬間的な送液量のバランスが崩れることがある。これは本発明のシステムに対しては物理的な原理が成立しなくなってしまうため、致命的である。ガスによる加圧であれば脈動は原理的に発生することがなく、複数の入口に対しても同一の加圧タンクに接続されていれば必ず同じ送液力が加えられるため、上記のような問題は発生せず、安定した送液が可能となる。複数の入口だけでなく、複数のチップを同時に利用することも容易であるため、大量の検体を短時間で処理したい場合には非常に有効である。
【0089】
第三の利点は、検体のセットが容易であり、無駄もないことである。既に述べたように、チューブを用いて検体をチップに送る場合、チューブの接続時に気泡が混入しやすく、しかもチューブ内に残った検体は無駄になってしまう。とくに貴重で少量しか検体が用意できない場合には、後者は致命的な問題点となる。
以上のようなガスによる加圧を利用した送液システムは、送液を必要とするチップ等のデバイス全般に使用できるものであるから、本発明のシステムで使用する層流を利用したマイクロ流路チップに用途が限定されるものではない。なお、本発明のシステムで使用される加圧時の圧力は、例えば1.1〜2.5気圧の範囲である。ガスとしては検体に影響を与えにくい窒素等の不活性ガスが主に利用されるが、検体に含まれる細胞を生存させておくことが前提の場合、酸素、二酸化炭素、空気なども適宜利用される。また、チップ入口側への加圧による以上の効果は、チップ出口側の減圧によっても同様に実現可能なものである。例えば、チップ(少なくとも出口部分)を加圧タンクに入れる代わりに減圧タンクに入れる、出口側にチューブを接続して吸引するといった方法も、本質的には同等であるということができる。

【実施例6】
【0090】
本発明を臨床検査あるいは工業生産物の分級といった用途に応用する場合、システム全体を自動化する方が便利である。自動化したシステムの例を図15に示す。
本発明の自動化システム1501は、マイクロ流路チップ1502を設置するためのステージ1503、送液装置1504を有する。送液装置として一般的なシリンジポンプのようなモーターによって駆動される定量送液装置を組み込む場合には、マイクロ流路チップ1502とはチューブ1505によって接続し、チューブ1505を通じて検体がチップに導入される。既に述べたように、このような送液装置にはチューブ内に残存してしまうデッドボリュームが大きいことや、脈流が発生しやすいといった課題があるため、ガスによる加圧系によって送液する方法でもよい。この場合は、実施例5で説明したような加圧タンクがシステム内に組み込まれることになる。なお、加圧源となるガスボンベあるいはポンプなどは、自動化システム1501の筺体内部に組み込まれている必要はなく、外部から接続してもよい。ガスによる加圧系を利用する場合には、チューブ1505による接続も煩雑であるため、マイクロ流路チップ1502の入口の液溜めに検体をセットした後、マイクロ流路チップ1502を自動化システム1501の加圧タンクに設置すれば利用できる方式が好ましい。構造としては図8から図14に示したような加圧系がシステムに組み込まれていることになる。
【0091】
自動化システムとして重要なことは、マイクロ流路チップ1502の状態をモニターできることである。モニタリング装置1506としては、カメラ、イメージセンサ、フォトダイオードアレイなどが好ましい。本発明で使用するマイクロ流路のパターンは非常に流路の数が多く、定点観測するよりは全体を画像として捕えてモニターする方が適しているからである。これにより、例えば流路内に気泡が存在することを検出して通知を行う、送液をバッファのみとして気泡が消失する状態になるまで検体の送液を待機するといった自動制御が可能になる。検体の送液を開始した後も、大きな不純物によって流路の一部が詰まったことを検出して通知および送液を停止することも可能である。また、複数の流路を通過する粒子を画像解析によりカウントすることで、一流路を利用する粒子カウンターよりもはるかに高速で粒子をカウントすることも可能である。粒子の形状を画像解析によって計測し、粒子の形状に応じて流路の分岐先を切り替えるような制御を行えば、蛍光標識が不要なセルソーターシステム、あるいはより微細な特徴を利用したセルソーターシステムが実現することになる。なお、光ファイバを複数利用し、流路パターンの複数の箇所を同時にモニターできるような構成であれば、必ずしも画像を得られるモニタリング装置である必要はない場合もありうる。また、本発明で使用するマイクロ流路のパターンは、分離回収されるサイズ範囲を段階的(連続的)に変化させることができるため、検体中の粒子のサイズ分布を測定することも可能である。このような製品は粒度分布計として流通しているが、段階的に分離サイズ範囲を変化させたマイクロ流路チップの各出口に向かう粒子数をカウントする機能を設ければ、これと同等の処理を行うことができる。
【0092】
図15のようなシステム内部で処理を行う場合、検出光源1507も必要である。画像をモニターする場合には白色光源が望ましいが、検体に含まれる粒子あるいはその標識が蛍光を発する場合には、蛍光に適した励起波長を有するレーザーあるいは発光ダイオード等の光源であってもよい。また、必要に応じてモニタリング装置1506以外に、センサ1508を設置する場合もありうる。センサ1508としては、フォトダイオード、光電子増倍管、磁気センサ、静電容量センサ、超音波センサなどが挙げられる。
【0093】
モニタリング装置あるいはセンサによる検出で、とくに意義が大きいのは希薄粒子のカウントである。既に述べたように、本発明のシステムで利用されるマイクロ流路チップは、非常に存在頻度が低い、すなわち希薄な粒子の回収を目的とする場合に非常に有用である。とくに、検体量ではなく希薄な粒子を一定数回収したいという目的の場合、そのために必要な検体量が処理の開始時点では不定であり、したがって処理に要する時間も不明である。例えば、特定の細胞で遺伝子診断を行うことを目的する場合や、特定の細胞を確実に培養することを目的とする場合に、その細胞を一定数回収する必要があるという状況がこれに該当する。目的の粒子が捕捉あるいは貯蔵される部位をモニタリングしていれば、必要な数に到達した時点で通知を行い、次の処理へと移行することができる。また、一定量の検体内に含まれる特定の粒子数が規定値を超えていれば何らかの判断ができるというような場合にも、検体の処理量が一定量に達する前に規定値を超えたことがモニタリングにより確認できれば、より素早い判断が可能になる。
【0094】
例えば、血中の循環腫瘍細胞数が規定値を超えていれば腫瘍の転移が認められるといった診断に応用できる。このようなモニタリングは必ずしもチップによる分離直後の状態だけでなく、チップ内部で遺伝子増幅(PCR)法や細胞培養、酵素反応のように時間の経過とともにシグナルが増幅されていく検出方法が実行できる構成になっている場合は、その部位をモニタリングしていれば同様の効果が得られる。層流を用いた分離を利用するチップでは、特定のサイズ範囲の分画を濃縮して回収することもできるため、濃縮とこれらの検出方法を組み合わせることで、より迅速にシグナルが得られる効果も期待できる。なお、循環腫瘍細胞に対して複数種の抗体により補足する手段を有することにより、抗体を固定した位置あるいは抗体に結合させた蛍光粒子の蛍光色等により細胞の種類を特定し、循環腫瘍細胞をカウントするだけでなく、腫瘍が発生した部位も判定できる手段を備えていてもよい。
【0095】
より詳細には、本発明は、血中の腫瘍細胞を血中粒子分級手段と、抗原抗体反応、試薬反応を行う腫瘍細胞検出手段の組み合わせ構成を示すことができる。
血中粒子分級手段は、複数の分岐流路群と主流路の組み合わせにおいて、腫瘍細胞の大きさの範囲の粒子グループを抽出するものであって、例えば図19(a)でしめすトラップ領域1903に腫瘍細胞表面抗原と結合する抗体を固定した膜を配置し、トラップ領域1903を通過しようとする腫瘍細胞を補足し、その後、上述した標識を結合した遊離抗体をトラップ領域1903へ供給した後、洗浄後のトラップ領域1903の標識の有無を測定する手法や、
予め腫瘍細胞に特異的に結合する標識のついた抗体を血液に供給しておいて、これを入力部1900aから供給してもよい。
その際、分岐流路群1902への分級操作を積極的に行う為に形成されたバッファ導入部1900bからバッファを導入して、分級操作をおこなってもよい。
【0096】
又、不特定の腫瘍細胞を検出するため、想定される腫瘍細胞膜に特異的に結合する複数種類の抗体を用意し、これを、トラップ領域1903に抗体の種類ごとに固定して、不特定な腫瘍細胞の存在を検出したり、予め複数種類のそれぞれ異なる標識と結合した抗体を検体に供給しておき、その後、トラップ領域1903のそれぞれに抗体毎に異なる領域を設定医師、癌の診断を行うものであってもよい。
尚、トラップ領域1903は分岐流路群1902側に配置したがこれに限ることなく主流路に設けてもよい。
この場合の分岐流路群1902は、不要な血球、血漿を分岐除去するものであるから、トラップ領域1903は、その後に設けられることが好ましい。
本実施例では、トラップ領域1903で目的とする腫瘍細胞、又は不特定の腫瘍細胞を補足する構成を示したが、単に遊離抗体に標識を結合させたものを供給し、粒径によって分級された腫瘍細胞を含む範囲の粒子グループとして、出力部1900c(分離回収部1901)、分離回収部1901、1904で回収して観察するか、その場で、標識の有無を観察するものであっても良い。その場合、腫瘍毎に異なる標識(蛍光波長、色素等)を抗体に結合させれば、観察装置によって、種類の異なる腫瘍細胞の検出も可能である。
【0097】
図19(b)は、トラップ領域1903の具体的一例を示した。
1903aは、磁性部材であり、永久磁石又は電磁石で構成され、流路の外側に配置されている。磁性部材1903aは、これに限らず、例えば電極対で直流電界を形成したり、交番電界を形成するためのものであってもよく、負に帯電した赤血球等には適当な態様となる場合がある。
1903bは、補足細胞貯留部であり、有核細胞、腫瘍細胞、その他の希少細胞を一時的に貯留する部位であり、主流路方向へ移動しないように低くなる段差等が設けられている。
1903cは、補足細胞であり、有核赤血球、腫瘍細胞等の補足を目的とする細胞である。1903dは、標識であり、Dynabeads(インビトロジェン社製)やMACSbeads(ミルテニーバイオテク社製)が例示される。ここでは、S極の磁性粒子を示す。標識1903dは、補足細胞の抗原部位と特異的に結合する抗体と結合している。
図19(b)で示す構成の動作説明をする。 トラップ領域1903又は、その前の領域で、補足細胞1903cにS極の磁性粒子を抗体を介して結合させる。
標識1903dと結合した補足細胞1903cは、磁性部材1903aの磁界の影響で、移動方向が変化し、補足細胞貯留部1903bに貯留する。
尚、磁性部材1903aの磁界が強い場合や、流れが緩やかな場合は、補足細胞貯留部1903bまで移動させず磁性部材1903aの部位に補足されても良い場合もある。
【0098】
本発明は、腫瘍細胞の検出に有効な判断であると共に、腫瘍に関連して血中に生じる腫瘍マーカーの検出においても有効に機能する。腫瘍マーカーの場合は、例えば、図1で示す様に、血漿を採取する部位である液体採取用流路群13a、13bと、腫瘍マーカーに対する発色試薬、又は腫瘍マーカー抗原に対して特異的に結合する抗体を装着した免疫試験片A18、免疫試験片B19との組み合わせによって検出可能である。
又、分岐流路で、粒子を全部分離除去した後の主流路の部分に腫瘍マーカー用の試薬、又は上記抗体を固定的に配置したものであってもよい。
抗体の場合は、別途蛍光、磁気等の標識を付けた遊離抗体を用意し、固定された抗体に結合した腫瘍マーカーに更に標識付きの遊離抗体を結合させて、当該標識を測定するものであってもよい場合もある。
【0099】
上記のように一定数以上の粒子がカウントされれば何らかの判定が可能となる検体に対しては、粒子のカウント数が一定数未満であったというだけでは分離動作が正常に行われたことの保証がないため、判定の正確さに疑問が残る。したがって、検体にあらかじめカウントしたい粒子と同サイズに分離されるマーカー粒子を混合し、分離後の分画成分に対して目的の粒子だけでなく、マーカー粒子を併せてカウントする機能を有することが好ましい。
また、チップに何らかの作用を行う能動型デバイス1509も必要に応じて利用される。例としては、電磁石などの磁場発生器を作用させて粒子あるいは粒子に結合させた磁気ビーズを流路内で移動させる、電極からチップに電場を与えて誘電泳動による粒子の移動を行う、ヒーターあるいはレーザーによる熱をチップに与えてチップ内の流路を変形させる、ヒーターによってチップ全体を一定温度に保ち検体の変質を防ぐ、といった作用が挙げられる。なお、検体の保温あるいは冷却に関しては、加圧に利用するガスの温度や加圧タンクの温度をヒーターなどで制御できるようになっていてもよい。このようにしてマイクロ流路チップ1502により処理された検体は、チップの各出口から回収される。検体容器1510をシステム内にセットしておき、出口からの回収物を蓄えられるようになっていることが望ましい。出口が複数存在する場合には、それに対応して検体容器1510の内部も仕切りによって複数の領域に分けられており、それぞれ混合しないようになっている。あるいは検体容器1510には、一般的に使用されるサンプルチューブをセットできるように各出口に対応した位置に穴が設けられているような形状でもよい。
【0100】
なお、検体中に含まれる細胞の情報を得る測定器としては、上でも述べたようにフローサイトメーターが一般的に普及している。これは本発明のシステムにおいても、構造上の工夫をすれば実現できるものである。例えば図22のように、検体導入部2201を挟むようにバッファ導入部2202を配置すれば、検体の流れ2203はこれまでの例のように片側に押しつけられるのではなく、主流路2204の中央部に集まるようになる。一般的なフローサイトメーターでは、このように中央に細胞の流れを絞り、レーザー光等で細胞の検出を行うため、これと同様の検出ができるようになる。検体およびバッファを送液する駆動力としては、既に述べたように各導入口に同じ圧力が加えられるような構造を利用すれば、安定的な送液が可能となる。検出後にこれまでと同様のサイズ分離を行いたいとすれば、検体の流れ2203を分岐流路側に押しつける必要があるが、これは検出部よりも下流側の主流路片側にバッファ導入部を追加するか、あるいは片側のバッファ流を吸収するバッファ分岐流路群2205を設けておけば実現できる。なお、サイズ分離を先に実施し、その分岐流路群の下流において図22のようなバッファ導入部を設け、検体流を流路中央に配置させるようにしてもよい。この場合、既に特定サイズ範囲に分離された粒子のみに対して検出を行うことから、当該範囲についてのみ情報を得たい場合には、検出効率を飛躍的に向上させることができる。
【0101】
以上の他、自動化システムで適宜利用されうる機能としては、上記の他に、所定の検体設置領域からマイクロ流路チップの入口に自動的に検体を分注する機能、マイクロ流路チップの使用後にマイクロ流路内を洗浄するためのバッファ液等を送液する機能、マイクロ流路チップの出口から回収されるサンプルから特定の粒子(細胞)をピックアップする機能、検体が収容されている液溜め部分あるいはマイクロ流路チップ全体を振とうまたは撹拌する機能、初期の層流状態が不安定な間にチップから回収されるサンプルの廃棄、等を挙げることができる。
【0102】
以上、本実施例で説明した本発明におけるチップ及び駆動手段、及びチップ上の流体、粒子をモニターするモニター手段をまとめると、以下のようになる。
1.システム内部に設置されたチップに対し、送液を行うための加圧源となるガスボンベまたはポンプを接続する構造
2.システム内部に設置されたチップに対し、チップ内の複数の流路状態をモニターするカメラ等のモニター手段
3.前記モニター手段でモニターされるチップ内の複数の流路状態が、気泡の有無、流路の詰まりの発生、通過する粒子数、通過する粒子の形状のうちのいずれか一つ以上を含む

4.前記チップ内の複数の流路状態をモニターする手段が、流路の画像情報を、動画又は静止画として取得する手段を有する。
5.あらかじめ指定された粒子が回収された数をモニターし、当該粒子数があらかじめ設定された値に到達したことを画面表示、音声表示等で通知する通知手段を有する。
6.あらかじめ指定された粒子が回収された数をモニターし、当該粒子数があらかじめ設定された値に到達した時点で、当該粒子に対して指定された処理を自動的に実行する自動処理手段を有する。

【実施例7】
【0103】
本発明のシステムにおける流体中の粒子のふるまいを制御する方法の最大の特徴は、本明細書あるいは特開2007−175684号等の文献でも既に述べられているように、主流路と分岐流路との流路抵抗比を適切に設計することにより、これらの方向への各流量が正確に制御されることにある。これによって分岐流路側の層流の幅が決定され、流体中の粒子が分岐流路方向へ進行できるかどうかは、分岐流路側の層流の中にその粒子(の重心)が入れるサイズであるかどうかで決定される。この原理をあらためて図16を用いて説明すれば、主流路1601を進行する流体が、主流路1601と分岐流路1602との分岐点1603に到達すると、分岐点1603以降の主流路1601’の流路抵抗値と分岐流路1602の流路抵抗値との比に基づいて、それぞれの方向に進行する流量が決定される。流量分布は流体力学原理に従って壁面部で0、流路中心部で最大となる2次関数となるため、流量が決定されれば自動的に分岐流路側の層流の幅Wも決定されるということである。
【0104】
なお、主流路を直進する流量と分離流路側に進行する流量は、それぞれの流路の末端の圧力が等しければ単純に流路抵抗値の比で決定される。通常はいずれの流路の末端も開放端となっており、末端での圧力はいずれも大気圧になっているため、この前提条件は成立している。しかしながら、いずれかの末端(出口)に加圧または減圧を行う場合は、分岐点1603と各末端との圧力勾配を流路抵抗値で除算した値が各流量となるため、単純に流路抵抗値の比だけでは各流路の流量すなわち層流の幅は決定されないことになる。この原理を積極的に利用すれば、例えば分岐流路側の出口に加圧を行うことにより、分岐流路側の流量をより減少させて層流の幅を小さくすることができる。これは、主流路側の出口に減圧を行うことにより、主流路側の流量を増加させても同様の現象が発生する。分岐流路側に例えば1μm以下のような非常に小さい粒子のみを分離させたい場合、分岐流路側の流量を減少させて層流幅Wを0.5μm程度に抑制する必要があるが、これを流路抵抗値の増加のみで実現させようとすると、分岐流路の流路幅を狭くするか長くせざるをえず、流路が詰まりやすくなったりチップ全体が大型化してしまうという問題が生じる。
【0105】
したがって、流路の出口側の圧力を制御して層流の幅を制御する方法は、非常に効果が大きいのである。出口側の圧力を適切に変化させれば、同じ流路パターンで複数の層流幅を実現させることができ、目的に応じた使い分けも可能となる。出口側の減圧を、出口に真空容器を取り付けることにより行えば、この真空容器で分離後の検体を回収することもできる。流路抵抗値を変化させる方法としては、流路パターンの一部をレーザー光などで局所的に加熱して変形させる、流路パターンに部品を着脱する、流路パターンに電界や磁場を印加して変形させる、分岐流路を湾曲させたり柱構造を設ける、といった方法も適宜利用しうる。

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、流れにより例えば血液の分離、供給を行う機能を備えた診断機能を伴うチップであり、その他、抗体作製、環境水分析、食中毒関連の微生物検査、感染症診断等、多種多様にわたることから、POC等のモバイル型の診断チップ、感染症検査チップ、免疫チップ、歯周病等の疾病診断チップ、環境検査チップ、標準球分別装置等への適用が可能となる。
【符号の説明】
【0107】
1 体液系溶液入力部
2 分離抽出部
3 分析操作手段
4 駆動手段
5 担体
1a 供給部
1b 希釈液供給部
1c 出力先
501 検体導入部
502 主流路
503 分岐流路群
504 通気口
505 血漿回収部
601 流路担体
602 流路パターン
603 プレート
604 液溜め
605 液面
701 流路担体
702 プレート
703 液溜め
704 検体
705 チューブ
706 加圧タンク
707 チップ側配管
708 バルブ
709 圧力調整弁
710 圧力源側配管
711 加圧器
712 圧力ゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液系溶液等の生物学的成分を調整入力する成分調整入力部、
前記成分調整入力部に調整入力された調整液内の目的の成分又は液体を分離抽出する分離抽出部、前記分離抽出部でえられた粒子又は液体を分析操作し関連する情報を出力するための分析操作手段を備えた担体であって、前記担体の各部、各手段は、流路によって接続され、当該流路は、前記生物学的成分を駆動手段によって生じる流れによって移動操作する生物学的操作システム。
【請求項2】
前記駆動手段によって生じる流れは、層流、更に分岐した流路を粒子の特性によって選択された方向へ流れの方向を変更した流れのいずれか一方又は他方である請求項1に記載の生物学的操作システム。
【請求項3】
前記分離抽出部は、移動した流体内の、粒子を分岐させない程度の大きさを備えた流路A、前記流体内の粒子の大きさにより目的とする大きさの粒子を分岐させる流路Bを備えた請求項1に記載の生物学的操作システム。
【請求項4】
前記分析操作手段が免疫診断情報、アレルギー情報を提供する請求項1に記載の生物学的操作システム。
【請求項5】
前記分析操作手段が、免疫作製工程である請求項1に記載の生物学的操作システム。
【請求項6】
前記分析操作手段が、健康・疾病関連情報、環境水、上下水等の関連情報を出力する請求項1に記載の生物学的操作システム。
【請求項7】
前記分析操作手段が、腫瘍マーカー情報・ウィルス感染症等の診断情報を出力する請求項1に記載の生物学的操作システム。
【請求項8】
前記分析操作手段が、糖尿病・動脈硬化関連症等の生活習慣病診断情報を出力する請求項1に記載の生物学的操作システム。
【請求項9】
前記分析操作手段で出力する情報が、直接診断できる直接情報、2次、3次等、複数回の検査に用いられる為の間接情報である請求項1に記載の生物学的操作システム。
【請求項10】
前記情報が、発色情報、移動位置情報、蛍光情報、大きさ情報、その他の形状情報、シーケンス情報、結合の有無等の状態情報、ビーズに結合した状態で生じる免疫沈降情報、沈降の有無情報、電荷の有無、強弱、極性等の情報、磁性の有無、強弱、極性等の情報、濃度情報、温度情報、粘度情報、歪み情報である請求項1、4、5,6,7、8、9に記載の生物学的操作システム。
【請求項11】
球体を含む媒体を調整入力する調整入力部、前記調整入力部に調整入力された調整媒体内の目的の球体を分離抽出する分離抽出部、前記分離抽出部で得られた球体を分析操作し真球特定情報を出力するための分析操作手段を備えた担体であって、前記担体の各部、各手段は、流路によって接続され、当該流路は、前記媒体を駆動手段によって生じる流れによって移動操作する工業的操作システム。
【請求項12】
前記駆動手段によって生じる流れは、層流、更に分岐した流路を球体粒子の特性によって選択された方向へ移動させる方向を変更した流れのいずれか一方又は他方である請求項11に記載の工業的操作システム。
【請求項13】
主流路の側方に接続された分岐流路が存在する構造を有し、主流路と分岐流路に進行する各流量を制御することにより分岐流路側に進行する流れの幅を決定することを特徴とする生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項14】
前記主流路と分岐流路に進行する各流量を制御する手段が、主流路と分岐流路の流路抵抗値の比によるものであることを特徴とする請求項13に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項15】
前記分岐流路側に進行する流れの幅を分岐流路の幅よりも小さくすることにより、粒子のサイズによる分離の閾値を分岐流路の幅よりも小さく設定することができることを特徴とする請求項13、14に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項16】
前記分岐流路側に進行する流れの幅は、分岐流路の幅の半値以下であることを特徴とする請求項15に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項17】
前記分岐流路の本数は、分離回収を目的とする粒子の検体1mlあたりの存在数nに対し、lognから20logn(logは10を底とする対数)の範囲となっていることを特徴とする請求項13〜16に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項18】
主流路に対し最も上流の主流路側方に配置された第一段階の分岐流路群によって、目的とする粒子よりもサイズが小さい粒子が排除される機能を有する生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項19】
前記第一段階の分岐流路群よりも主流路に対し下流側に配置された第二段階以降の分岐流路群によって、目的とする粒子を含むサイズ範囲の粒子が分離される機能を有する請求項18に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項20】
前記分岐流路群のサイズ分離機能は、当該分岐流路側に進行する液体の流れの幅を制御することによって実現されている請求項18、19に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項21】
前記第一段階の分岐流路群の分離サイズ範囲は(3−α)μm以下(ただしαは0≦α≦2を満たすいずれかの値)に設定されることにより、検体が血液の場合に、血球を含まない血漿成分のみが当該第一段階の分岐流路群を通じて回収される請求項18〜20に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項22】
第n段階の分岐流路群の分離サイズ範囲は(7−α)μm以下(ただしαは0≦α≦2を満たすいずれかの値)に設定されることにより、検体が血液の場合に、当該検体中の赤血球が当該第n段階の分岐流路群を通じて排除される請求項18〜21に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項23】
前記第n段階の分岐流路群によって赤血球が排除され、さらに主流路に対し前記第n段階の分岐流路群の下流側に配置される第(n+1)段階の分岐流路群の分離サイズ範囲が(10+α)μm以下(ただしαは0≦α≦4を満たすいずれかの値)に設定されることにより、赤血球を含まない白血球を主成分とする粒子群が当該第(n+1)分岐流路群を通じて排除される請求項22に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項24】
第n段階の分岐流路群の分離サイズ範囲が(10+α)μm以下(ただしαは0≦α≦4を満たすいずれかの値)に設定され、当該分岐流路群よりも主流路下流側に配置された第(n+1)段階の分岐流路群の分離サイズ範囲が(20+α)μm以下(ただしαは0≦α≦5を満たすいずれかの値)に設定されることにより、検体が血液の場合に、白血球よりも平均的に大きい幹細胞、循環腫瘍細胞、iPS化した細胞、各種の細胞塊等の粒子を当該分岐流路群を通じて回収することができる請求項18〜23に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項25】
複数の種類の粒子群を含有する液体試料に対し、粒子サイズの差異に応じて当該粒子群を分離する手段と、当該手段を経て得られる同一サイズ範囲に限定された粒子群を含有する分画成分のうち、サイズ以外の性質を利用して目的とする粒子を補足する、または目的とする粒子以外を補足する機能を有する生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項26】
前記粒子サイズの差異に応じて当該粒子群を分離する手段とは、主流路を進行する液体試料のうち一部を主流路に接続された分岐流路に進行させることにより実現させている前記生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項27】
前記粒子を補足する手段が、抗原抗体反応の利用によるものである請求項25、26に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項28】
サイズ分離によりチップ上の特定部位に回収された細胞に対し、細胞内の核酸を抽出する手段と、ポリメラーゼ連鎖反応を利用して核酸を増幅させる機能を有する生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項29】
サイズ分離によりチップ上の特定部位に回収された細胞を、当該チップ上で培養することができる機能を有する生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項30】
ガスによる加圧を利用してチップに送液することを特徴とする生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項31】
前記チップの入口に筒状の液溜め構造を有し、当該液溜め構造内部に検体を注入した上で、当該液溜め構造に加圧されることを特徴とする請求項30に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項32】
前記チップの入口が複数存在し、各入口に同一の加圧源から加圧されることを特徴とする請求項30、31に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項33】
前記チップの入口の液溜め構造に加圧源からのチューブを接続することにより送液が実行される請求項30〜32に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項34】
前記チップを加圧容器内に収容して加圧することを特徴とする請求項30〜32に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項35】
前記チップの出口を加圧容器に設けられた通気孔に接続することを特徴とする請求項34に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項36】
前記チップの入口が上面、出口が背面に形成されていることを特徴とする請求項34に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項37】
前記背面に形成されたチップの出口と、加圧容器底面に形成された排液口の位置を一致させ、当該排液口からサンプルを回収することを特徴とする請求項36に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項38】
システムで利用されるチップにあらかじめ生理食塩水が満たされた状態で提供されることを特徴とする生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項39】
システムで利用されるチップにあらかじめ分離回収を目的とする粒子の比重と同程度の密度を有する液体が満たされた状態で提供されることを特徴とする生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項40】
システム内部に設置されたチップに対し、送液を行うための加圧源となるガスボンベまたはポンプを接続する構造を有する生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項41】
システム内部に設置されたチップに対し、チップ内の複数の流路状態をモニターする機能を有する生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項42】
前記モニターされるチップ内の複数の流路状態とは、気泡の有無、流路の詰まりの発生、通過する粒子数、通過する粒子の形状のうちのいずれか一つを含むものである請求項41に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項43】
前記チップ内の複数の流路状態をモニターする手段が、流路の画像情報を取得するものである請求項41、42に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項44】
あらかじめ指定された粒子が回収された数をモニターし、当該粒子数があらかじめ設定された値に到達したことを通知する手段を有する生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項45】
あらかじめ指定された粒子が回収された数をモニターし、当該粒子数があらかじめ設定された値に到達した時点で、当該粒子に対して指定された処理を自動的に実行することを特徴とする生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項46】
前記分析操作手段は、特定の腫瘍細胞に特異的に結合する抗原乃至抗体が遊離的乃至固定的に配置されることで特定の腫瘍細胞を検出する請求項1に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。
【請求項47】
前記分析操作手段は、腫瘍細胞に特異的に結合する抗原乃至抗体が遊離的乃至固定的に複数種類配置されることで、腫瘍細胞を不特定に診断可能とする請求項1に記載の生物学的操作システム及び工業的操作システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−13208(P2011−13208A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96498(P2010−96498)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000126757)株式会社アドバンス (60)
【Fターム(参考)】