説明

生物学的材料の安定化方法

【課題】生物学的材料を安定化させる新規なガラス質物質、及びその使用の提供。
【解決手段】生物学的材料と、生物学的材料の安定化に有用なガラス質の材料を含む本体を含んでなる組成物であって、前記本体が少なくとも1つのガス空洞を含むことを特徴とする組成物。並びに、ガラス質の生成物の製造方法であって、i)ガラスを形成できる第1の液体材料と、ガスを発生させることができる第2の材料を混合する工程と、ii)当該第2の材料からガスを発生させるのと同時に第1の材料にガラスを形成させる工程を含んでなり、それによりガスを含むガラスを含んでなるガラス質の構築物を形成させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学的材料を安定化させるガラス質物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の材料(特に特定の砂糖)がガラス(非結晶状固体)を形成でき、そこに担持されている懸濁液状又は固溶体状の生物学的材料を安定化させることが知られている。かかる生物学的材料の例はワクチン及びインシュリンである。これらの生物学的材料は通常、例えば患者への注射用途の便宜上、液体の状態で提供することが必要である。この目的ため、不活性かつ非毒性の液体中に懸濁させる粒子としてのガラス質材料の調製が提案されている。
【特許文献1】米国特許第6872357号公報
【非特許文献1】“Recoveries of bacteria after drying in Glutamate and other substances”by D.I.Annear,published in the Aust.J.exp.Biol.Med.Sci(1964),42.pp.717−722
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の提案に関連する主な課題として、適切な液体の選択という課題が挙げられる。薬物の注射の際に使用する従来の液体担体は通常、安定化の点から、使用する砂糖ガラスよりも密度の低い油分であるが、その場合ガラスが液体の底へ沈殿する。またこの沈殿物は時間経過と共に非常に緻密な構造に変化しうる。投与する前に容器を再度撹拌して懸濁液の状態に戻すことも可能ではあるが、その場合非常に激しくかつ長時間撹拌を行わなければ効果的でない。ゆえに撹拌が不十分となる容認できない危険性が存在し、それにより薬物の効果を損なわせる結果ともなりうる。
【0004】
近年、液体担体としてパーフルオロカーボンを使用することが提案されている。パーフルオロカーボンは高密度の物質であり、高密度材料(例えばリン酸カルシウム)をガラスへ添加することにより粒子の密度を液体のそれと合わせることができる。しかしながら、この技術が高い機能性を有し、小スケール若しくは緊急時の調製用途に適していることが示されているにもかかわらず、パーフルオロカーボンが地球の大気の上層部に望ましくない影響を及ぼすため、その多量の使用には注意を要する。これらの物質は強力な紫外線曝露に対しても極めて安定であるため、それらは数千年もの間成層圏に残留し、地球温暖化の危険を生じさせる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、生物学的材料と、生物学的材料の安定化に有用なガラス質の材料を含む本体を含んでなる組成物の提供に関し、前記本体は少なくとも1つのガス空洞を含むことを特徴とする。
【0006】
好ましくはかかる「本体」は多数存在し、その各々は粉末の粒子の1つ1つである。製造プロセスを適当に制御することにより、これらの粒子の密度を、液体担体として使われる低密度の液体(特に油)の密度にまで低下させることが可能となる。このようにして、安全であることを十分証明された従来公知の液体を使用して、安定な懸濁液を得ることが可能となると考えられる。
【0007】
各粒子は、膨らんだボールのように単一の空洞を有する形状を有してもよく、又は多くの空洞を含むフォーム又はハニカム構造を形成してもよい。あるいは、これらの2つの両極端な構造の中間であってもよく、例えば2、3個の空洞が単一の粒子中に含まれてもよい。
【0008】
当該ガラス質の粒子は、生物学的材料とガラス形成原料の混合溶液を用いて形成させることができる。この混合物を更に乾燥した雰囲気中において加熱し、非結晶状の固体(すなわちガラス)として凝固させる条件下で溶媒(通常は水)を蒸発させる。このプロセスの間、混合物の温度が液体と固体との間の転移状態にある場合、ガラス固化が生じている際に当該温度でガスを発生させる添加材を適宜選択して用いることにより、ガスがガラス中に封入され、本発明のガスの空洞を形成させることが可能となる。
【0009】
本発明の第2の態様は、以下の工程を含んでなる、ガラス質の生成物の製造方法の提供に関する。すなわち、
i)ガラスを形成できる第1の液体材料と、ガスを発生させることができる第2の材料を混合する工程と、
ii)当該第2の材料からガスを発生させるのと同時に第1の材料にガラスを形成させる工程を含んでなり、それによりガスを含むガラスを含んでなるガラス質の生成物を形成させる方法である。
【0010】
非常に幅広い種類のガラス質材料が使用可能である。好適な材料としては、砂糖(例えばラフィノース及びトレハロース)、パラチニット(グルコピラノシルソルビトールとグルコピラノシルマンニトールの混合物)、グルコピラノシルソルビトール、グルコピラノシルマンニトール、ラクチトール及び単糖アルコールが挙げられる。
【0011】
砂糖ガラスを用いて生物学的材料を安定させることにより生じる課題は、所望の安定化効果を提供するためにガラスからほぼ全部の水を除去する必要があるということである。これを実現するためには、ガラス質の状態を提供して、活性の生物学的材料に損害を与えることを回避するのに必要となる条件とは適合性を有さない条件(例えば高温)の設定が必要となる。本発明者による鋭意研究の結果、この課題は、ガラス形成材料の成分として、砂糖の代わりにグルタミン酸又はその塩(グルタミン酸一ナトリウム(以下「MSG」と記載)など)を用いることにより解決されることを見出した。
【0012】
例えば特許文献1及び非特許文献1に記載のように、MSGは従来、他のガラス形成物質と混合することによりガラスの安定化特性が知られている。しかしながら本発明者らは、MSGが3%以上〜最高約5%の残留水分を有し、それでも依然として実質的に軟化することなく、また最高約70℃においてもその安定化特性を保持しうることを見出した。更に、MSGがガラス質の状態に転移する間に顕著な転移状態となり、粘稠性のシロップ様の半固体の状態を示すことを見出した。これは特に、ガスが発生した際にそれをトラップするのに有効である。
【0013】
MSG及び類似の化合物が、比較的高い濃度で水を有する場合でさえも安定剤として使用できるという知見は、独立した進歩性の根拠となると考えられ、ゆえに、本発明の他の態様は、生物学的材料がガラス質物質によって安定化される組成物の提供に関し、詳細には、グルタミン酸又はその塩を含んでなり、ガラス質物質が3重量%以上の水、好ましくは4%以上5%以下の水を含有することを特徴とする前記組成物の提供に関する。
【0014】
グルタミン酸又はMSGなどの塩を用いる場合、活性物質(特にマイクロ微粒子のアジュバントを含む場合)が結晶化することが分かっている。この問題点は、結晶化阻害剤(例えばアスパラギン酸又はその塩)を添加することにより克服できる。この結晶化阻害剤は好ましくは、それ自体がアスパラギン酸一ナトリウム(MSA)などのガラス形成材料であり、好ましくは2つの成分を同程度のモル比(4:6〜6:4)で添加して結晶化を抑制するのが最適である。
【0015】
ガラス形成原料の溶液を熱で乾燥させる工程中、特にその乾燥を液滴の状態の材料に対して行う場合、液滴の表面からの急速な蒸発、及びそれに付随する蒸発冷却を生じさせないように液滴の温度の上昇を制御する。溶液が粘稠性を増したとき、液滴の表面に対する水分子の可動性は粘性の上昇により低下し、また液滴の温度は、蒸発冷却の減少により低下する。すなわち、シロップ様の液滴を乾燥させる際の温度は、それがガラスとして凝固し始める時に急速に上昇する。
【0016】
ガラス形成原料(及び生物学的材料)と、適当な条件下で分解してガスを発生させる化学物質とを混合することによってガスがガラスに好適に導入されるが、いかなる化学変化も起こさずにガス状に変化する材料を使用してもよい。いずれの場合も、ガラス形成原料が液体と固体との間の、粘性を有する転移状態となる程度まで温度を上昇させたときにガスが発生する態様で、添加材を選択するのが好ましい。特に重炭酸アンモニウムは、粘性が増加する温度と同程度の温度(約60℃)でアンモニアガス、二酸化炭素及び水蒸気に分解するため、適切な添加材であることを確認している。
【0017】
MSGの使用は、それにより生じる副産物(水)が安定化特性に悪影響を与えないため、特に好適である。しかしながら、別の材料(例えばラフィノース及びトレハロースなどの糖)をガラス形成材料として使用することも可能である。リン酸カルシウムの使用は、その物理的強度という点から特に興味深い。上記の方法で中実のハニカム様の構成要素を、特に連続的な外面を形成させる形で鋳造することにより、構造部分が形成された態様で調製できるものと推測される。それにより動物の骨と類似する特徴(高い強度及び軽量)を有すると考えられる。かかる材料は骨の修復又は交換に使用できると考えられる。
【0018】
上記の説明は、ガラス形成物質が半固体(すなわち十分に粘稠)となるタイミングでガスを放出させ、ガスのトラッピングを確実に行なわせることができる固有の特性を有する添加材を選択する必要があるという仮定に基づくものである。しかしながら、必要な時点で外的な作用を加えてガスの放出を誘導するという他の可能性も存在する。その例としては、材料を放射線又は他の刺激に曝露することが挙げられ、それにより反応を生じさせ、ガスの発生に必要な物理変化又は化学変化を生じさせる。
【0019】
本発明の実施態様を、以下の図面を参照しながら例示する。図1は、本発明に係る方法で調製したMSG製のガラス質粒子を、走査型電子顕微鏡で解析した画像である。図2は、皮下注射による注入に適する安定な懸濁液の調製において非毒性の生物学的適合性を有する非水性液体中に懸濁させた、図1の粒子を示す、簡略化した概略図である。図3は、粒子の密度が、異なる噴霧乾燥機のインレット温度及びフロー速度において、様々な重炭酸アンモニウム濃度によっていかに変化するかを示す試験結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
第一段階では、ガラス形成材料、及びガス発生剤(以下「発泡剤」と記載)を含んでなる水溶液を調製する。この例では、ガラス形成材料はMSGであり、発泡剤は重炭酸アンモニウムである。MSGは17.4mg/mlの濃度で、重炭酸アンモニウムは200mg/mlの濃度である。その後で生物学的材料を溶液に添加する。これにより上記の濃度が著しく変化することはない。
【0021】
ガスが150℃の入口ガス温度で乾燥チャンバ内に導入され、約95℃で放出されるように、Buchi B290小型噴霧乾燥器を設定する。乾燥ガスのフロー速度は、乾燥チャンバ内に導入される際に600L/時間の名目値となるように調整する。
【0022】
0.7mmのノズルを用い、純粋な噴霧として水溶液を乾燥チャンバ内に導入する。1〜1.5秒の間にこれらは乾燥し、更に粉末を形成する。乾燥チャンバの排気装置に装着したサイクロンを用いて粉末を乾燥ガスから分離し、更にサイクロンの底部に装着したボトルに重力によって落下させる。この工程中、粒子の温度は室温(約21℃)から最大理論的温度の95〜120℃(放出口温度)まで上昇する。実際には、乾燥ガラス粒子の温度は放出口温度で長時間維持されないため、それらは2、3秒以内にサイクロンの熱い排気ガスから分離され、一緒により冷却された収集ボトル中に回収される。
【0023】
乾燥チャンバ内を粒子が通過するとき、その温度は最初に比較的緩やかに上昇するが、それは粒子により吸収される熱が溶媒(水)の蒸発に用いられるためである。更に粒子から溶媒を蒸発させてガラスを形成させ、それらを、液体でもガラス状でもない転移状態とする。上記の処理条件において、粒子がこの転移状態に入るときの温度は60℃である。継続的な加熱により残留水が大部分排除され、それにより組成物が溶媒蒸発の間に硬化し、即座にガラスが形成される。
【0024】
重炭酸アンモニウムは熱に曝露されると分解するが、その分解は36℃から開始し、60℃では完全に分解する。分解生成物は、21.5%のアンモニア、55.7%の二酸化炭素及び22.8%の水蒸気(Merch Indexからのデータ)である。すなわち、約60℃〜70℃の間の温度(粒子が液体とガラスの中間の転移状態となる温度)において、重炭酸アンモニウムは急速にアンモニア、二酸化炭素及び水蒸気に分解する。この時点ではMSGは柔軟で、濃いシロップ状の半固体となる。それらがガラス質の状態に転移するその時に、ガス泡がMSG液滴内にトラップされる。
【0025】
上記の工程で調製した最終的な噴霧乾燥物の典型的な含水量は、カール・フィッシャー電量分析方法で測定した場合に約4重量%である。得られる粒子は、0.94の平均密度を有する(1.46の密度を有するMSGのみの場合と比較)。粉末の密度は、光学温度計を使用して、ヘリウム置換により測定することができる。
【0026】
最後に、乾燥粉(ガラス質のMSGの効果により安定化された生物学的材料を含む)を、約60%のカプリル酸(C8、オクタノイル)酸及び40%のカプリン酸(C10、デカノイル)酸から構成される中鎖トリグリセリド系の非水性混合物中に懸濁する。この混合物は、「Crodamol GTCC」の商品名として市販されており、それは噴霧乾燥した球体にほぼ等しい密度を有する、無水の、非毒性の、生物学的適合性を有する液体である。Crodamol GTCCの密度は各々の球体のそれに十分に近く、それにより、一旦液体中に懸濁されたとき、全ての球体が常温で懸濁液状態が維持されるという効果が得られる。懸濁液は物理的及び生物学的に安定であり、それにより注射器内に事前にそれを充填して使用してもよく、また冷凍保存せずに輸送することもできる。MSGによる化学的な安定化効果のため、有効成分は劣化せず、粒子中に存在するガス空洞による密度に与える効果のため、ガス空洞は懸濁液に無期限に保持される。当該懸濁液をヒト又は動物体内に注入したとき、ガラス粒子は水に可溶性であるため体液中で溶解し、それにより活性成分が放出されることは自明である。
【0027】
図1は、上記の方法に従って製造される噴霧乾燥後の粒子の、走査型電子顕微鏡による画像を示す。球体の内部構造を検査するために、それらを担体としての液体と混合し、更に、顕微鏡検査において通常使用する標準的な「凍結割断面」法に従って凍結・破壊した。冷凍した担体の割断面は画像のバックグラウンドとなる。観察の結果、当該粒子はほぼ球形で、約2μm〜約15μmの範囲の十分小さい直径を有するため、懸濁粒子は皮下注射器の針を通過できる。上記の粒子のサイズは、重炭酸アンモニウムを用いなかったことを除いて同様の方法を使用して調製した場合に、約3〜5μmの平均粒径であることとは対照的である点に留意すべきである。
【0028】
図1では最大の球体の1つが割れている状態が示されているが、完全に中空であり、また約1μmの壁厚を有することが理解される。図2で図示するように、同様の構造又はより複雑な構造を有するより小型の球体を調製することも可能である。
【0029】
図2ではCrodamol GTCC液が1として示され、そこに懸濁しているガラス粒子1Aから1Cは液体と等しい平均密度を有する。粒子1Aは破断されてその内部があらわにされ、図1で示したような構造を示す。粒子1B(同様に破断した状態を示す)は多数のガス空洞を含み、スポンジ又はハニカム構造を形成している。一方、粒子1Cは両極端な1Aと1Bの中間の構造(2、3個の空洞を有する)を有する。これらの異なる構造体は密度がわずかに異なるものの、それらの差異は全て、常温における熱力学的な粒子運動によっても懸濁液の状態として永続的に維持される範囲内である。
【0030】
本発明の代替法では、純粋なMSGを使用する代わりに、10mLの蒸留水中に0.935gのMSGと0.865gのMSA(合計1.8g)を添加して、MSGとMSAを等モル濃度(0.5M)で含む混合液を調製する。好適な材料としては、L−グルタミン酸一ナトリウム・一水和物及びL−アスパラギン酸一ナトリウム・一水和物(味の素社製)が挙げられる。
【0031】
得られる溶液を、160mgの水酸化アルミニウムアジュバント中にB型肝炎抗原を2mg含むワクチン材料中に添加し、全安定化剤(すなわちこの場合MSA及びMSG):アジュバントの比率を10.7:1(1.8g:0.16g)とする。図3に示す範囲の量の重炭酸アンモニウムを添加する。
【0032】
更にBuchi B290小型噴霧乾燥器を上記の様に用い、低密度の粉末を形成させる。
【0033】
記載したいずれの方法でも、ガラスが水溶性ガラス形成材料から形成されるため、必要量の滅菌水を用いて、必要に応じて得られた粉末を再度水和できる。
【0034】
上記の方法は単に、本発明で適用できる方法の一例であることはいうまでもない。粒子の密度は、重炭酸アンモニウムの量を適宜調節して添加することによって適切に制御することができ、それにより、それらの密度を、それらを懸濁させるいかなる代わりの液体の密度とも適合させることができる。試験した結果、重炭酸アンモニウムを最高1.0M(79mg/ml)の添加することが可能であり、その濃度においては、約20μmの平均直径及び0.64の密度を有する乾燥球体が得られた。また別の試験の結果(結果を図3に示す)、重炭酸アンモニウム濃度を変化させること、噴霧乾燥機に導入される液体のフロー速度を変化させること、及び噴霧乾燥機への導入ガスの温度を変化させることにより、得られる微小球体の密度の厳密な制御が可能になることが示された。
【0035】
上記で、重炭酸アンモニウムを使用することにより粒子中に空洞を形成させることができると述べたが、他の多くの材料を用いても同様の効果が得られることが認識される。但し、その唯一の不可欠な要件として、ガラス形成材料が粘稠性の半固体又は半流動体の形態となるのと同じタイミングでガスが放出され、ガスの泡又は空洞がその中にトラップされることが挙げられる。発泡剤からのガスの放出を誘導できる1つの簡便な方法として加熱が挙げられるが、他の方法を用いてもよく、例えば電子線照射又は超音波の使用により、温度に関わりなく同じ効果を得ることも可能である。また、記載した例では化学反応を利用してガスを発生させていたが、代替法として、適切な添加材を用いて、固体又は液体からガスへの単なる状態変化により同じ効果を得ることも可能である。
【0036】
具体的な糖及びアミノ酸をガラス形成材料として言及したが、ガラス質の媒体を形成することにより生物学的安定化という所望の効果が得られる、多くの代替的な公知の材料も存在する。
【0037】
上記の具体的な実施例において、溶媒の蒸発によりガラスが形成されている間にガスが放出される態様を示したが、転移温度がガス発生剤(発泡剤)の発泡温度と適合するガラス材料を用いて同様の効果を得ることも可能である。かかるバリエーションでは、発泡剤と混合されたガラスを加熱して軟化させ、その温度においてガスが放出され所望の空洞が形成される。更に冷却して当該工程が完了する。
【0038】
上記の技術は、粒子の密度を、それらがその後懸濁される液体の密度に適合するように調整するための、有用な方法を提供するものである。更に、本発明に従って調製される粒子を、ガス状の媒体中に容易に懸濁されるほどの低密度とすることも可能であり、それにより本発明を吸入用の薬物用途に応用することも可能となる。当該粒子は大きい表面積(空洞内部の領域を含む)を有するため、水性の液体中で急速に溶解する能力を有することも特筆すべき点であり、従って、生物学的材料を固体状の安定な組成物中に安定に保存し、使用直前にそれらを迅速に溶解することが望ましい場合において、有用性を発揮しうると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る方法で調製したMSG製のガラス質粒子を、走査型電子顕微鏡で解析した画像である。
【図2】皮下注射による注入に適する安定な懸濁液の調製において非毒性の生物学的適合性を有する非水性液体中に懸濁させた、図1の粒子を示す、簡略化した概略図である。
【図3】粒子の密度が、異なる噴霧乾燥機のインレット温度及びフロー速度において、様々な重炭酸アンモニウム濃度によっていかに変化するかを示す試験結果を示す。
【符号の説明】
【0040】
1 Crodamol GTCC液
1A 粒子(破断されてその内部があらわにされ、図1で示すような構造を示す)
1B 粒子(1Aと同様に破断した状態を示すが、多数のガス空洞を含み、スポンジ又はハニカム構造を形成する)
1C 粒子(両極端な1Aと1Bの中間の構造(2、3個の空洞を有する)を有する)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子の形態で生物学的材料を安定化させる組成物であって、生物学的材料と、ガラス形成成分又はガラス形成成分の混合物と、ガス発生剤を含んでなり、粒子内に存在する少なくとも1つのガス空洞が前記ガス発生剤から生じる、前記組成物。
【請求項2】
前記粒子が液体中に懸濁されている、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記液体の密度が前記粒子の固体部分より低く、前記空洞により前記粒子の密度が液体の密度に近くなっている、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
常温で、前記粒子の密度と前記液体の密度が一致し、それにより前記粒子が永久的に懸濁した状態に維持されている、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
複数の空洞が存在し、それにより前記ガラス形成成分又はガラス形成成分の混合物が泡状構造又はハニカム構造をとっている、請求項1から4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記ガラス形成成分又はガラス形成成分の混合物が、固体の殻及び内部中空により構成される中空粒子の形状である、請求項1から5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記ガラス形成成分又はガラス形成成分の混合物が、グルタミン酸又はその塩を含んでなる、請求項1から6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記ガラス形成成分又はガラス形成成分の混合物が、砂糖を含んでなる、請求項1から6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
前記ガラス形成成分又はガラス形成成分の混合物が、グルタミン酸又はその塩と、結晶化阻害剤とを含んでなる、請求項1から6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
前記結晶化阻害剤がそれ自身でガラス形成成分である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記結晶化阻害剤が、アスパラギン酸又はその塩を含んでなる、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記ガラス形成成分又はガラス形成成分の混合物がリン酸カルシウムを含んでなる、請求項1から11のいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
1つ以上の前記空洞が重炭酸アンモニウムの分解によるガス状生成物を含んでなる、請求項1から12のいずれか1項記載の組成物。
【請求項14】
ガラス質の生成物を製造する方法であって、
I)ガラスを形成できる液体の第1材料と、加熱されたときにガスを発生させる第2材料とを混合する工程と、
II)前記第2材料がガスを発生させるのと同時に、前記第1材料をガラス状に形成させる工程を含んでなり、それにより少なくとも1つのガス空洞を含むガラスを含んでなるガラス質の構造が形成される方法。
【請求項15】
前記ガラスがグルタミン酸一ナトリウムを含んでなる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記ガラスがリン酸カルシウムを含んでなる、請求項14又は15記載の方法。
【請求項17】
前記第2材料が、前記第1材料が液体とガラス質の固体との間の転移状態にあるときに分解する、請求項14、15又は16記載の方法。
【請求項18】
前記第2材料が、重炭酸アンモニウムを含んでなる、請求項14、15、16又は17記載の方法。
【請求項19】
前記ガラス質の構造が形成される工程により、ガスを含んでなる粒子が形成される、請求項14から18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記ガラス質の構造が構造体として形成される、請求項14から19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記粒子が噴霧乾燥機において形成される、請求項14から20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記粒子が更に非毒性の液体中に懸濁されている、請求項14から21のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−506102(P2009−506102A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528585(P2008−528585)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際出願番号】PCT/GB2006/050266
【国際公開番号】WO2007/026180
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(508060298)ケンブリッジ バイオスタビリティ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】