生物学的試料または化学的試料の温度調整装置とその使用方法
一般に、化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置と、同装置を使用する方法とを提供する。装置は、少なくとも1つの温度制御モジュールを備える。温度制御モジュールは、加熱器と、熱導体と、温度センサとを含む。温度制御モジュールの加熱器は、化学的試料または生物学的試料が載せられる取り外し可能な基板と、熱導体を介して熱を伝え合うことができるように適合している。温度制御モジュールの温度センサは、熱導体を介して基板の温度を検知して制御するように適合している。装置は、基板が温度制御モジュールの上方に位置して温度制御モジュールを完全に覆うように設計されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料または化学的試料、特に液滴内の試料の、温度を調整する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に多くの診断的、分析的および準備的手順は、温度変化をもたらすステップを含む。再現可能で正確な結果を実現するためには、試料のような反応混合物の温度制御を維持し、各反応混合物の内部の温度均一性を維持することが必要とされる。さらに、多くの診断的、分析的および準備的手順では酵素が利用されるが、酵素は、決まった温度で最適の性能を示す。正確な温度制御を得るためには、一般に、反応混合物と加熱要素または冷却要素との間に密な接触を提供することが必要とされる。それと同時に、異なる反応混合物間、例えば試料間の交差汚染を避ける必要がある。
【0003】
加熱の制御および温度均一性の維持が特に重要なプロセスの例は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による生体外での核酸増幅である。通常、PCRプロセスは熱サイクル・プロセスであり、その基本サイクルは3つのステップに分けることができる。すなわち、(a)約90℃〜約94℃でのDNA二本鎖の分離、(b)特定のプライマーを一本鎖DNAに再生するための約50℃〜70℃までの冷却(アニーリング)、および(c)耐熱性DNAポリメラーゼによるプライマー延長のための約70℃〜80℃への昇温(伸長)である。
【0004】
PCR反応の間の温度制御は通常、フィードバックループシステムによって行われ、一方、温度均一性は、銅などの高熱伝導性ではあるが嵩張る材料によって達成される。試料内部の温度制御および温度均一性維持に加えて、少なくとも5K/秒(−5K/秒)の試料加熱(冷却)速度を提供することもまた重要である。高加熱速度は、比例積分微分(PID)制御システムの実装によって達成されるが、かかる制御システムは、最大消費電力および熱容量による制限を受ける。高冷却速度は幾分達成が困難であり、嵩張るシステムでは、熱電素子(TEC、しばしばペルティエ素子と呼ばれる)や、水など他の手段による冷却力が必要となる。かかるデバイスは複雑で電力消費が大きい。
【0005】
システムが嵩張るときには、その熱時間定数は秒ではなく分である。その結果、PCR反応では、遷移時間が長くなり不要な副生成物が生じる。さらに、高い消費電力のせいで、持ち運び可能な電池式PCRシステムを作製できる可能性がなくなる。加えて、反応管は大型であり、必要とされるPCRカクテル量によりプロセス全体が費用集約的になる。さらに、PCR生成物の検出はオフラインで、すなわち別のデバイスを用いて、行われる必要があり、それによって追加費用が生じる。
【0006】
PCR反応を実行するために現在使用されているシステムでは、多数の試料を同時に処理することはできるものの、異なる試料の温度を個別に制御することはできない。従って、様々な温度サイクル条件に試料を曝露したい場合には、いくつかのシステムを並行して使用する必要がある。従って、PCR中に試料を個別かつ同時に取り扱うことのできる装置を提供することが望ましい。
【0007】
化学、製薬およびバイオテクノロジー分野におけるデバイスの小型化は、マイクロ流体デバイスおよびマイクロアレイの開発をもたらした。これに応じて、マイクロPCR法(μPCR)が開発されつつあり、かかる方法が、ラボ・オン・チップまたはマイクロ総分析システム(μTAS)の中心的部分になると予想される。2つの基本的なアプローチが
認められる。1つは、温度サイクルのある静止システムであり、もう1つは、温度の異なる3つのゾーンのある流動システムである。
【0008】
静止システムは、槽温度のサイクルによってPCR溶液の温度を変化させる。静止システムは、PCR試料を移動させるポンプシステムその他の手段を必要としない。貫流システムは通常、試料がそれらの間を移動することによって試料温度が変化する、3種類の定温ゾーンを有する。貫流システムは、静止システムよりも高速であるものの、温度の異なるゾーン間を移動するための機構を実装する必要がある。いずれの場合も、PCRシステムには加熱器が組み込まれているため、1回しか試験を行っていないのに、交差汚染を避けるためにデバイスを処分することは経済的ではない。
【0009】
静止マイクロPCR法の最近の例では、平面チップデバイスと、仮想的な反応槽(VRC)の形成とが用いられる。VRCは、水ベースの試料を油で包むカプセル化(非特許文献1)により作製される。固体カバーまたはマイクロチャネルは必要ないため、デバイスの組立ては、適切な基板上に薄膜の加熱器および熱センサの堆積およびパターニングを行うことのみから成る。しかしながら、依然として各デバイスは使い捨てシステム用には費用が掛かりすぎる。
【0010】
小型化により生じるさらなる難題は、試料間の交差汚染のリスクである。かかる交差汚染を避ける最も安全なやり方は、使い捨てシステムの使用である。最低でも、試料と接触するデバイス部分は使い捨てである必要がある。これまで、多くの異なるシステムが提案されてきた。これらのシステムは通常、上記要求事項の全部を満たしてはおらず、比較的高価である。プラスチックシート製の使い捨て部品を用いるアプローチが、特許文献1に開示されている。ホットエンボス加工によりウェル一式が形成され、当該一式全部が加熱器の上部に置かれる。このシステムでは、比較的複雑なマイクロ組立てプロセスが用いられ、使い捨てプレートをカスタマイズする必要がある。従って、製造が簡単であり、操作が容易あり、かつ、使い捨てできるほど十分に経済的なμPCRの必要は引き続き存在する。完成したμTASシステム内に任意に組み込めることが、極めて望ましい。
【特許文献1】米国特許第6,509,186号明細書
【非特許文献1】グーテンベルク、ズィー(Guttenberg, Z.)ら、Lab Chip、2005年、第5巻、p.308〜317
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、上述の欠点を回避して化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様では、本発明は、化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置を提供する。この装置は、少なくとも1つの温度制御モジュールを備える。この温度制御モジュールは、加熱器と、熱導体と、温度センサとを含む。温度制御モジュールの加熱器は、化学的試料または生物学的試料が載せられる取り外し可能な基板と、熱導体を介して熱を伝え合うように適合している。温度制御モジュールの温度センサは、熱導体を介して基板の温度を検知して制御するように適合している。この装置は、基板が温度制御モジュールの上方に位置して温度制御モジュールを完全に覆うように設計されている。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、化学的試料または生物学的試料の温度を調整する方法を提供する。この方法は、化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置を提供するステップを含む。この装置は、少なくとも1つの温度制御モジュールを備える。この温度制御モジュールは、加熱器と、熱導体と、温度センサとを含む。温度制御モジュールの加
熱器は、化学的試料または生物学的試料が載せられる取り外し可能な基板と、熱導体を介して熱を伝え合うように適合している。温度制御モジュールの温度センサは、熱導体を介して基板の温度を検知して制御するように適合している。この装置は、基板が温度制御モジュールの上方に位置して温度制御モジュールを完全に覆うように設計されている。この方法はさらに、化学的試料または生物学的試料を加熱するための温度値を提供するステップを含む。また、この方法は温度センサにより熱導体の温度を測定するステップも含む。この方法はさらに、測定した温度が提供された温度値未満であれば、熱導体に熱を加えることによって、基板および化学的試料または生物学的試料を加熱するステップを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、生物学的試料または化学的試料の温度を調整する方法を提供する。この方法は、あらゆる試料に適切であり、特に、例えば小滴(下記参照)のような液体形態の試料に適切である。
【0015】
試料は、いかなる起源であってもよい。試料は、次に限定されるものではないが、例えば、ヒトもしくはヒト以外の動物、植物、細菌、ウイルス、胞子、菌類もしくは原生動物に、または合成もしくは生体起源の有機もしくは無機材料に由来してもよい。したがって、次に限定されるものではないが、次のような試料、すなわち、土壌試料、空気試料、環境試料、細胞培養試料、骨髄試料、降水試料、降下物試料、下水試料、地下水試料、摩耗試料、考古学試料、食品試料、血液試料、血清試料、血漿試料、尿試料、糞試料、精液試料、リンパ液試料、脳脊髄液試料、鼻咽頭洗浄試料、唾液・痰試料(sputum sample)、口腔スワブ試料、咽喉スワブ試料、鼻腔スワブ試料、気管支肺胞洗浄試料、気管支分泌物試料、乳試料、羊水試料、生検試料、癌試料、腫瘍試料、組織試料、細胞試料、細胞培養試料、細胞溶解物試料、ウイルス培養試料、爪試料、髪試料、皮膚試料、法医学試料、感染試料、院内感染試料、生成物試料、薬剤調製試料、生体分子産生物試料、蛋白質調製試料、脂質調製試料、炭水化物調製試料、宇宙空間試料、地球外試料、またはこれらの組み合わせから成る群から選択される試料を、この方法で処理することもできる。望まれる場合、各試料は、程度を問わず前処理済みであってもよい。例示的実施例として、組織試料は、本発明のデバイスで使用する前に消化、均質化または遠心分離処理しておいてもよい。試料はさらに、溶液など、流体の形態に調製しておいてもよい。実施例は、次に限定されるものではないが、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、蛋白質、合成高分子、生化学組成、有機化学組成、無機化学組成、金属、脂質、炭化水素、コンビナトリアルケミストリー生成物、薬剤候補分子、薬剤分子、薬剤代謝産物またはこれらの組み合わせの、溶液またはスラリーを含む。さらなる実施例は、次に限定されるものではないが、金属懸濁液、合金懸濁液および金属イオン溶液またはこれらのいずれかの組み合わせ、ならびに細胞、ウイルス、微生物、病原体、放射性化合物またはこれらの組み合わせの、懸濁液を含む。試料がさらに、前述の実施例の組み合わせを含んでもよいことが、理解される。
【0016】
必須ではないが多くの場合、試料は、標的物質またはその前駆体を含むか、または含むと予想される。標的物質は例えば、試料に加えられたかまたは含まれる細胞または分子であることもでき、標的物質を熱に曝露することが望まれることもある。別の実施例として標的物質は、温度上昇時に起こる化学的プロセスにより、先駆化合物から得られることが知られているか、または理論上想定されている化合物であってもよい。この場合、試料は例えば、かかる先駆化合物の溶液を含んでもよい。
【0017】
よって、標的物質またはその前駆体は、いかなる性質であってもよい。実施例はヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、蛋白質、合成高分子、生化学組成、有機化学組成、無機化学組成、脂質、炭化水素、コンビナトリアルケミストリー生成物、薬剤候補分子、薬剤分子、薬剤代謝産物、細胞
、ウイルス、微生物、またはこれらの組み合わせを含むが、それらに限らない。標的物質が例えば、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、核酸、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドである実施形態では、標的物質は、アフィニティ・タグ付きであってもよい。アフィニティ・タグの実施例は、ビオチン、ジニトロフェノール、またはジゴキシゲニンを含むがそれらに限らない。標的物質が蛋白質、ポリペプチドまたはペプチドの場合、アフィニティ・タグのさらなる実施例は、オリゴヒスチジン、ポリヒスチジン、免疫グロブリンドメイン、マルトース結合蛋白質、グルタチオン−S−転移酵素(GST)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、FLAG’−ペプチド、T7エピトープ(Ala−Ser−Met−Thr−Gly−Gly−Gln−Gln−Met−Gly)、マルトース結合蛋白質(MBP)、単純ヘルペスウイルス糖蛋白DのGln−Pro−Glu−Leu−Ala−Pro−Glu−Asp−Pro−Glu−Asp配列のHSVエピトープ、Tyr−Pro−Tyr−Asp−Val−Pro−Asp−Tyr−Ala配列の血球凝集素(HA)エピトープ、およびGlu−Gln−Lys−Leu−Ile−Ser−Glu−Glu−Asp−Leu配列の転写調節因子c−mycの「myc」エピトープを含むが、それらに限らない。標的物質が核酸、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの場合、アフィニティ・タグはさらに、オリゴヌクレオチド・タグであってもよい。かかるオリゴヌクレオチド・タグは例えば、相補配列により、固定化オリゴヌクレオチドをハイブリダイズするために用いることもできる。各アフィニティ・タグは、標的物質の内部に位置づけられてもよく、標的物質の一部に取り付けられてもよい。例示的実施例として、各アフィニティ・タグは、前述の例示的蛋白質のいずれかのアミノ末端またはカルボキシ末端に動作可能に融合されてもよい。
【0018】
本発明の装置は、少なくとも1つの温度制御モジュールを備える。いくつかの実施形態において装置は、2つ以上の温度制御モジュールを備える。なお、さらなる実施形態において装置は、複数の温度制御モジュールを備える。装置が2つ以上の温度制御モジュールを備える場合、温度制御モジュールは通常、互いから熱的に絶縁される。かかる絶縁は、例えばプラスチック、木材、ガラス、石英、水、空気またはセラミックのような、不十分な熱導体である材料によって温度制御モジュールを絶縁することにより達成することもできる。いくつかの実施形態において、空気による熱絶縁は、追加の材料を装置内に導入しなくてもよいため、有利である。望まれる場合、装置はさらに、冷却モジュールのような温度制御手段を含んでもよい。これに加えてまたはこれに代えて、温度制御モジュールは冷却器、例えば、熱導体と熱を伝え合うことができるように適合した冷却器を、含んでもよい。試料を室温近辺またはそれ以上の温度値で取り扱うことが望まれる多くの実施形態では、高温度値から低温度値へ、例えば94℃から55℃への試料の冷却は、好適には、冷却器なしに達成することができる。本発明の装置は、熱導体および試料からの熱放射が可能であるように容易に設計することができ、それによって高冷却速度を提供する(例えば図8参照)。
【0019】
温度制御モジュール(すなわち、複数の温度制御モジュールのうちの少なくとも1つ、また、いくつかの実施形態では、それらの複数の温度制御モジュールの各々)は、当該温度制御モジュールが加熱器および温度センサを含むという点で、直接加熱システムに基づいている。温度制御モジュールはさらに、熱導体を含む。加熱器は、熱導体と熱を伝え合うことができるように適合しており、よって、熱導体を加熱することができる。例示的実施例として、加熱器は、熱導体に接触してもよい。それによって加熱器は、温度センサの制御下において、熱導体を希望温度まで加熱すること、熱導体を希望温度値に保つこと、またはその両方を行うことができる。下記でも説明する通り、加熱器が熱導体を加熱する際に達する温度値の低減は、通例、効果的に熱導体の温度低下をもたらし、「冷却」として定義することもできる。通常、温度センサは、例えば直接接触を介して熱導体と熱を伝え合うことができるように配置されている。熱導体は、熱を伝導可能ないかなる材料のものでもよい。熱導体は例えば、金属、半導体、ダイヤモンド、カーボンナノチューブまた
はフラーレン化合物を含んでもよい。適した金属の実施例は、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、金、チタン、鉄、鉛、ニッケル、イリジウムおよびカドミウムを含むが、それらに限らない。適した半導体の2つの例示的実施例は、シリコンおよびゲルマニウムである。銀およびシリコンは、熱導体の2つの代表的実施例であり、伝導率は各々、410Wm−1K−1および157Wm−1K−1である。
【0020】
加熱器、センサおよび熱導体は、いかなる形状であってもよく、互いに関しいずれの向きに配置されてもよい。いくつかの実施形態において加熱器および熱導体は、熱導体の同じ表面に配置されている(下記も参照)。これらの実施形態の一部では加熱器およびセンサは、互いにすぐ近くに配置されている。
【0021】
本発明の装置はさらに、取り外し可能な基板を収容することができる。よって、本発明の装置上に各基板が置かれた後は、装置は例えば、培養器として使用することもできる。下記に説明する通り、装置はまた、反応器として使用することもできる。基板は、当該基板を収容できるために本発明の装置が適したものであれば、いかなる希望材料のものでもよい。通常、かかる材料は、少なくともある程度までは熱を伝導することができる。実施例は、シリコン、ガラスおよびプラスチックを含むが、それらに限らない。さらに基板は、試料との不要な反応を被らない材料のものであるように、選択することが望まれる場合がある。同様に基板は、試料内で生じるかまたは試料を用いて生じることが望まれる反応を妨害、抑制または防止をしない材料のものであるように、選択することが望まれる場合がある。例示的実施例としてシリコン(ただし、シリコン酸化物またはシリコン酸窒化物は除く)は、PCR反応を抑制することが知られている。基板は、本発明の装置に収容可能である限り、いかなる形状および幾何学構造であってもよい。基板は例えば、凹状または凸状に丸めてもよい。1つの実施形態では、基板の少なくとも1つの表面は、ほぼ平坦である。望まれる場合、基板は、キャビティを含んでもよい。かかるキャビティは例えば、エッチングまたはレーザードリル加工により得ることもできる。いくつかの実施形態において基板はまた、装置のキャビティに収容されてもよい。
【0022】
希望プロセスを伝達するかまたは不要な反応の発生を防ぐために、基板の材料、形状またはその両方を選択することが望まれる場合がある。いくつかの実施形態では例えば、基板表面との最大接触および急速加熱を提供するために、試料の拡散を補助する材料を選択することが望まれる場合がある。その他の実施形態では、試料に例えば低濡れ性を提供し、液体の蒸発を防ぐことが望まれる場合がある。基板は、いくつかの実施形態では、残りの基板の材料組成と異なる組成の表面を提供することができる。いくつかの実施形態において、基板の表面は改質することができる。例えば、試料が水性液体のような親水性のものであるかまたは親水性のものに含まれている場合、拡散および蒸発を最小限に抑えることが望まれるときには、基板は疎水性または疎油性であってもよい。各々の疎水性基板は、いくつかの実施形態では、シリコーン、プラスチック、表面改質ガラス、表面改質石英、表面改質金属、およびこれらの複合物から成る群から選択することができる。
【0023】
表面改質は通常、固体表面特性を改変するために実行される処理によって得られる。かかる処理は、機械的、熱的、電気的または化学的手段のような様々な手段を含むことができる。実施例として、プラスチック材料の表面は、希塩酸または希硝酸による処理を通じて親水性にすることができる。別の実施例として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)表面は、酸素または空気プラズマによる酸化により親水性にすることができる。ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリカーボネートのような疎水性高分子の表面もまた、キム(Kim)らにより説明された通り、反応ガスの存在下でのイオン放射によって親水性になる場合がある(2003 ECI Conference on Heat Exchanger Fouling and Cleaning: Fundamentals and Applicati
ons、2003年、第RP1巻、p.107〜114)。シリコンは、H2O/H2O2/NH4OH内での浸漬によって親水性になる場合がある。さらに、いかなる疎水性表面の表面特性も、親水性高分子での被覆、または界面活性剤での処理により親水性にすることができる。化学的表面処理の実施例は、次に限定されるものではないが、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−(2,3−エポキシプロポキシル)プロピルトリメトキシシラン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ポリ(メチルメタクリレート)もしくはポリメタクリレート共重合体、ウレタン、ポリウレタン、フルオロポリアクリレート、ポリ(メトキシポリエチレングルコールメタクリレート)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)、α−ホスホリルコリン−o−(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ウンデシルオリゴDMAAm−オリゴ−STブロックコオリゴマー(例えば、マツダ、ティー(Matsuda,T)ら、Biomaterials、2003年、第24巻、p.4517〜4527を参照)、ポリ(3,4−エポキシ−1−ブテン)、3,4−エポキシ−シクロヘキシルメチルメタクリレート、2,2−ビス[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン、3,4−エポキシ−シクロヘキシルメチルアクリレート、(3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル)−3,4−エポキシシクロヘキシル・カルボキシレート、ジ−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビスフェノールA(2,2−ビス−(p−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)プロパン)または2,3−エポキシ−1−プロパノールへの曝露を含む。
【0024】
基板上には、化学的試料または生物学的試料が載せられる。選択した基板材料が比較的不十分な熱導体(むしろ断熱性の材料を含む)の場合、基板は薄厚のものでもよい。2つの例示的実施例として、ガラススリップ、またはシリコーンゴムの薄パッドを使用することができる。図3Aおよび図3Bは、取り外し可能な薄厚基板の2つの例示的実施例を示す。取り外し可能な基板は、本発明の装置上に置かれた後は、熱導体と熱を伝え合うことができる。加熱器は、熱導体を介して基板と熱を伝え合うことができるように適合している。同様に温度センサは、熱導体を介して基板の温度を検知して制御するように適合している。従って、温度センサの制御下において加熱器は、基板を希望温度まで加熱すること、基板を希望温度値に保つこと、またはその両方を行うことができる。図3Aおよび図3Bに示したような実施形態では、ガラス製またはゴム製基板は、不十分な熱導体であるにもかかわらず、熱導体から試料に熱を移動させるように適合している。いくつかの実施形態では、低熱伝導率の基板の選択が有利な場合さえある。なぜならば、この基板が、例えば熱絶縁に加えて、一方の温度制御要素と他方とを熱的に絶縁するさらなる手段を提供することができるためである。
【0025】
本発明の装置は、取り外し可能な基板が温度制御モジュールの上方に位置するように設計されている。「上方」および「下方」という用語は、本願において使用する場合、次のような位置を指す。すなわち、基板が装置上に置かれ、置かれた後はもっぱら重力によってのみ固定されることができるようなやり方で、本発明の装置が保持される位置である。この位置において装置は通例、平坦な表面に置くことができる。いくつかの実施形態では、この位置において加熱器が熱導体の下方に配置される。いくつかの実施形態では、加熱器とセンサとの両方が、熱導体の下方に配置される。
【0026】
いくつかの実施形態において加熱器は、試料が載せられる取り外し可能な基板の平面に対して、ほぼ平行に配置された表面を含む。いくつかの実施形態において加熱器は、試料が載せられる基板の平面に対して、ほぼ平行に配置された表面を含む。いくつかの実施形
態では加熱器とセンサとの両方が、試料が載せられる基板の平面に対して、ほぼ平行に配置された表面を含む。これらの実施形態の一部では、加熱器およびセンサが各々、共通平面に配置された表面を含む。よって、この共通平面は、試料が載せられる基板の平面に対して、ほぼ平行である。これらの実施形態のいずれにおいても、加熱器、センサまたはその両方が、熱導体の下方に配置されてもよい。
【0027】
これらの実施形態のいずれにおいても、特に、加熱器およびセンサが各々、共通平面に配置された表面を含む場合には、加熱器またはセンサの中心は等しくてもよい。いくつかの実施形態では、加熱器とセンサの両方の中心が等しい。これらの一方もしくは両方または一部は、例えば中空円、中空長方形、中空三角形、中空正方形または空洞もしくは多面体形状であってもよい(実施例として、例えば図5を参照)。正方形要素を含む温度制御モジュールは、例えばグーテンベルクらによって開示されている(下記参照)。これらの実施形態の1つでは、加熱器とセンサとの両方の中心が等しく、加熱器がセンサを取り巻いている。他の実施形態では、加熱器とセンサとの両方の中心が等しく、センサが加熱器を取り巻いている。図3Bに断面図で示した実施形態では、加熱器とセンサとの両方の中心が等しく、中心の等しい熱導体の下に配置されている。示した実施形態では、加熱器、センサおよび熱導体は中央中空領域を含み、そのため、各々が各対として描かれていることに注意するべきである。
【0028】
いくつかの実施形態において熱導体またはその一部は、センサの形状、加熱器の形状、またはその両方に合致するように適合した形状である。センサおよび加熱器が例えば、中央が中空で中心の等しい正方形または円形の場合、熱導体は、それに対応して、中央が中空で中心の等しい正方形または円形の形状を有することができる。熱導体の一部が、センサの形状、加熱器の形状またはその両方に合致するように適合している場合、かかる一部は、その他の追加の希望形状部分を含んでもよい。例示的実施例として、熱導体の一部は棒状部分を含むことができる。例えば、センサの形状、加熱器の形状またはその両方に合致するように適合した熱導体の一部が円形の外形を有する場合、熱導体はドーナツ形であることもできる。図4は、リンカで接続された中心の等しい2つの同心部分が熱導体に含まれる例示的実施形態を示す。これらの同心部分の内側は、中心の等しいセンサおよび加熱器に直接接触しており、中心の等しい加熱器が中心の等しいセンサを取り巻いている。熱導体はさらに、棒状部分を含む。よって、これは二重ドーナツ形状である。熱伝導係数は、熱導体の材料、棒状部分の長さ、および同心部分の断面積によって与えられる。熱容量は、試料の容積と共に、二重ドーナツ容積(図4参照)によって与えられる。
【0029】
装置が2つ以上の温度制御モジュールを備える実施形態では、温度制御モジュールの各々が、共通平面に配置された表面を含むことができる。この共通平面は、試料が載せられる基板平面に対して、ほぼ平行であることが可能である。これらの実施形態の一部では、特に、加熱要素がまったく同じ寸法の場合、温度制御モジュールは全体としてもまた、共通平面に位置するように配置することもできる。これらの実施形態のいずれにおいても、例えば、2つ以上の温度制御モジュールが各々、共通平面に配置された表面を含む場合、温度制御モジュールは各平面、例えば、基板平面に対してほぼ平行な平面において、互いに対向していることができる。図5に示した通り、装置は例えば2対、3対、4対、5対またはそれ以上の温度制御モジュール対を含むことができる。各対の2つの温度制御モジュールは、基板の各平面(すなわち、試料が載せられる平面)に対してほぼ平行な平面において、互いに対向することができる。各配置の実施例は、例えば図2に示したものである(図5も参照)。図1は、それに対応する配置を示し、基板はガラス製カバースライドで、その上に試料が載せられている。図1に示した試料は、各容積が1μLの、水ベースの小滴であり、基板の他方側に位置する温度制御モジュールのちょうど上方に置かれている。示した実施形態における水滴は、5μLの鉱油で覆われている。例えば図5Eおよび図5Fに示した通り、温度制御要素は、例えば多ウェルプレート上のウェル配置に類似し
た列の形に配置することができる。かかる列をいくつか組み合わせて装置に、例えば32、48または96個の個別制御可能な温度制御要素を提供することができる。これに応じて、本発明の装置を使用して個別の生物学的、化学的反応またはその両方(下記も参照)を多ウェル形式で実行することができ、それによって、多重化アッセイの全ての試料に対して共通温度プロファイルを適用することしかできない現状の技術が、著しく進歩する可能性がある。
【0030】
本発明の装置はさらに、取り外し可能な基板が温度制御モジュールを完全に覆うように設計されている。装置が2つ以上の温度制御モジュールを備える実施形態では、取り外し可能な基板は、装置の全ての温度制御モジュールを完全に覆うことができる。
【0031】
本発明はさらに、化学的試料、生物学的試料またはその両方、例えば、液滴内に含まれる試料の、温度を調整する方法を提供する。この方法は、上記の通りの装置を提供するステップを含む。この方法はさらに、化学的試料または生物学的試料を加熱するための既定の温度値を提供するステップを含む。この温度値は例えば、加熱器と通信する外部デバイスに保存することができる。この方法はまた、温度センサにより熱導体の温度を測定するステップも含む。測定した温度値は例えば、外部デバイスに通信することができ、当該外部デバイスにおいて、測定した温度は既定の温度値と比較される。さらにこの方法は、測定した温度が提供された温度値未満であれば、加熱器により熱導体に熱を加えるステップを含む。それによって、基板および化学的試料または生物学的試料が加熱される。
【0032】
さらに、2つ以上の既定の温度値を選択することができ、各温度値の各々に時間を関連づけることができる。これに応じて、既定の加熱および非加熱間隔を希望の長さにした時間スケジュールを予め設定し、その後、本発明の方法を用いて実行することができる。例示的実施例として、上記の通りのPCRサイクルプロセス(下記実施例も参照)を、本発明の方法を用いて実行することができる(図8も参照)。また、ある間隔を選択して当該間隔の間、温度を徐々に上昇または下降させることができるということが、理解されるべきである。これは例えば、既定の温度値を経時的に徐々に上昇または下降させること(および、これに応じて行われる加熱)により、達成することもできる。
【0033】
上記の通り、いくつかの実施形態において本発明の装置は、2つ以上の温度制御モジュールを備える。これに応じて、各々の装置を本発明の方法で使用することができる。これらの実施形態の一部では、装置の温度制御モジュールは互いから熱的に絶縁される(上記参照)。かかる実施形態では、装置の各温度制御モジュールにおいて化学的試料または生物学的試料を加熱するために、個別の温度値を提供することができる。これに応じて本発明の方法は、かかる実施形態では、各温度制御モジュールに個別の温度値を提供するステップを含むこともできる。上記の通り、この温度値は通常、化学的試料または生物学的試料を加熱するために設定され、当該試料は、各温度制御モジュールの上方にあたる基板上に置くことができる。よって、複数の試料を、同時にまたは重複時間枠内で、同じ装置を用いて別々に加熱することを選択することができる。よって、希望数のこれらの試料に対して、例えば全部の試料に対して、各加熱間隔の設定、各非加熱間隔の設定またはその両方を提供することができる。
【0034】
互いから熱的に絶縁された少なくとも2つの温度制御モジュールを備える装置を使用する実施形態では、各温度制御モジュールの熱導体の温度を個別に測定することができる。この測定は一般に、各温度制御モジュールの温度センサによって実行される。かかる実施形態では、本発明の方法はまた、測定した温度が提供された温度値未満であれば、各温度制御モジュールの熱導体に個別に熱を加えるステップを含むこともできる。それによって各基板が、また、その結果として各基板上に置かれた化学的試料または生物学的試料が、個別に加熱される。
【0035】
これに応じて、各温度制御モジュール用に、その他の温度制御モジュールとは無関係に2つ以上の既定の温度値を選択することができ、各温度制御モジュールの各温度値の各々に個別の時間を関係づけることができる。これに応じて、本発明の方法を用いて各温度制御モジュールにおいて、既定の加熱および非加熱間隔を希望の長さにした時間スケジュールを実行することができる。例示的実施例として、同じ装置の複数の温度制御モジュールにおいて、別個のPCRサイクル・プロセスを実行することもできる。
【0036】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、装置を提供するステップは、基板を提供するステップを含む。装置に収容できる基板(上記参照)が温度制御モジュールの上方に配置され、そのため、基板は温度制御モジュールを完全に覆う。装置を提供するステップはまた、化学的試料または生物学的試料を提供して基板上に配置するステップを含むこともできる。試料は、いかなる手段で提供してもよい。例示的実施例として、試料は、液滴の場合、ピペットまたは自動分注機により基板上に分注することができる。
【0037】
上記の通り、試料は、液滴であるかまたは液滴内に含まれていてもよい。いくつかの実施形態において本発明の方法は、各液滴を提供するステップを含む。液滴は、基板上に置くことができるものである限り、いかなる希望容積のものでもよい。これに応じて加熱モジュールを、それに対応するサイズであるように選択することができる。液滴を加熱するように設計された温度制御モジュールは例えば、数ミリメートルのサイズまたはマイクロスケールもしくはナノスケールのサイズであることが可能である。よって望まれる場合、本発明の装置は、多数の温度制御モジュールを備える実施形態においてでさえ、持ち運び可能な装置となり得る。
【0038】
液滴は、例えば磁気誘引性物質のような、その他の物質を含んでもよい。例示的実施例として、いくつかの実施形態では、液滴内に磁気誘引性粒子が含まれる場合がある。かかる粒子により、標的物質を誘引できる場合がある。いくつかの実施形態において磁性粒子は、標的物質に対して特異的な親和性を有して標的物質を捕捉し、それによって結合手段として作用するように、機能化され得る。
【0039】
いくつかの実施形態において、液滴は内相と外相とを含み、外相は例えば、薄膜として内相を取り巻いている。かかる実施形態では通常、外相の液体は、内相の液体に対して混和性がない。各相には、いかなる液体を用いてもよい。液滴が不混和性の2相を含む場合、一方の相は通常、極性液体(例えば水、エタノール、アセトン、N,N−ジメチル−ホルムアミドまたはニトロメタンなど)によって形成されるのに対して、他方の相は、非極性液体(例えばベンゼン、ヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフランまたはジエチルエーテルなど)によって形成される。
【0040】
試料は、さらなる物質と混合させることができ、例えば、当該物質内に溶解もしくは懸濁するか、または当該物質と共に例えば同じ液体内に入れられることが可能である。例示的実施例として水性試料は、1つ以上の緩衝化合物を含んでもよい。非常に多くの緩衝化合物が、当該技術分野では使用されており、本願に説明する様々なプロセスを実行するために使用することができる。緩衝液の実施例は、次のものの塩溶液を含むが、それらに限らない。すなわち、燐酸塩、炭酸塩、コハク酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、バルビツール酸塩、蓚酸塩、乳酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、カコジル酸塩、ホウ酸塩、N−(2−アセトアミド)−2−アミノ−エタンスルホン酸(別名ACES)、N−(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(別名HEPES)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジン−プロパンスルホン酸(別名HEPPS)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(別名PIPES)、(2−[トリス(ヒドロキシメチル)−メチルアミノ]−1−エタンスルホン酸(別名TE
S)、2−シクロヘキシルアミノ−エタンスルホン酸(別名CHES)およびN−(2−アセトアミド)−イミノ二酢酸(別名ADA)。これらの塩には、いかなる対イオンを使用してもよく、例示的実施例としてアンモニウム、ナトリウムおよびカリウムが役立つ場合がある。緩衝液のさらなる実施例は、次のものを含むがそれらに限らない。すなわち、いくつか例を挙げると、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、グリシン、グリシルグリシン、ヒスチジン、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(別名TRIS)、ビス−(2−ヒドロキシエチル)−イミノ−トリス(ヒドロキシメチル)メタン(別名BIS−TRIS)およびN−[トリス(ヒドロキシメチル)−メチル]−グリシン(別名TRICINE)。緩衝液は、かかる緩衝化合物の水溶液であってもよく、適切な極性有機溶媒の溶液であってもよい。
【0041】
試料内、例えば液滴の相内に含まれる物質のさらなる実施例は、化学的または生物学的プロセスを実行するための試薬、触媒および反応剤を含むが、それらに限らない。例示的実施例として、細胞または蛋白質を損なわれていない状態で維持するために、塩、基質または界面活性剤を加えることができる。さらなる例示的実施例として、例えば、有機体を痕跡量その他の有毒塩から保護するため、または化学反応の収率を上げるために、キレート化合物が必要とされる場合がある。なお、さらなる例示的実施例として、蛋白質を損なわれていない状態で維持するために、蛋白質分解酵素抑制剤を加えることが必要になる場合がある。考え得る試料添加剤のさらなる実施例は、磁気誘引性粒子を含むものである(上記参照)。上記から、かかる追加物質が液滴内に含まれてもよいことが理解される。液滴が2つ以上の相を含む場合、かかる物質は例えば、試料と同じ相内または異なる相内に含まれてもよい。
【0042】
生物学的試料の加熱は、いくつかの実施形態では、当該試料に対するプロセスを開始するか、再開するか、または当該プロセスの加速を引き起こす場合がある。従って、各試料を加熱する方法は、いくつかの実施形態では、生物学的プロセスまたは化学的プロセスの実行を含む。各プロセスの例示的実施例は、化学反応である。化学反応の実施例は、化学的合成、化学的分解、酵素的合成、酵素的分解、化学的修飾、酵素的修飾、結合分子との相互作用、およびこれらの組み合わせを含むが、それらに限らない。酵素的合成の実施例は、蛋白質合成、核酸合成、ペプチド合成、医薬化合物合成、およびこれらの組み合わせを含むが、それらに限らない。プロセスの補助または監視を行うために、追加のデバイスを使用することができる。多種多様な光学的検知システム、例えば光ダイオード(PD)、光電管(PMT)、光子計数モジュール(PCM)、分光計および電荷結合素子(CCD)の実装によって、例えば、かかる生化学的反応をリアルタイムで並行して監視できるようになる。
【0043】
例示的実施例として、試料は核酸分子を含んでもよく、化学的試料または生物学的試料を加熱するステップは、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」、上記も参照)を含んでもよい。リアルタイム検知によって増幅プロットが提供され、サイクル数として表された反応時間に対する蛍光シグナルが示される(図12参照)。ベースラインを上回る蛍光の増加は、蓄積された増幅生成物の検出を示す。よって、固定の蛍光閾値がベースラインよりも上に設定された場合、蛍光シグナルは、ある時点でこの閾値を通過する。時間はサイクル数という形で表されるので、いわゆるサイクル閾値(CT)数(または値)が得られる。この数字が小さければ小さいほど、増幅プロットに描かれる各蛍光曲線は、出発鋳型の濃度の上昇に対応して、ますます左にずれる。高めのCT数は、出発鋳型の低めの濃度に対応する。
【0044】
「核酸分子」という用語は、本願で使用する場合、一本鎖、二本鎖またはこれらの組み合わせのような、考え得る全ての構成の核酸を指す。核酸は例えば、DNA分子(例えばcDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えばmRNA)、ヌクレオチド類似体を
用いるか、または核酸化学を用いて生成したDNAまたはRNA類似体、およびPNA(蛋白質核酸)を含む。DNAまたはRNAは、ゲノム起源または合成起源であってもよく、一本鎖または二本鎖であってもよい。本発明の方法では通常、RNAまたはDNA分子が使用されるが、必ずしもそうである必要はない。かかる核酸は、例えばmRNA、cRNA、合成RNA、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、DNAとRNAとの共重合体、オリゴヌクレオチドなどであることが可能である。各核酸はさらに、非天然ヌクレオチド類似体を含むこと、アフィニティ・タグもしくは標識に連結すること、またはその両方が可能である(上記参照)。
【0045】
多くのヌクレオチド類似体が知られており、本発明の方法で使用する核酸およびオリゴヌクレオチド内に使用することができる。ヌクレオチド類似体は、例えば塩基、糖または燐酸部分に修飾を含むヌクレオチドである。例示的実施例として、siRNAの2’−OH残基を2’F、2’O−Meまたは2’H残基と置換すると、各RNAの生体内での安定性が改善することが知られている。塩基部分の修飾は、A、C、GおよびT/Uの天然および合成修飾と、ウラシル−5−イル、ヒポキサンチン−9−イルおよび2−アミノアデニン−9−イルのような異なるプリンまたはピリミジン塩基とに加えて、非プリンまたは非ピリミジンのヌクレオチド塩基もまた含む。その他のヌクレオチド類似体は、ユニバーサル塩基として役立つ。ユニバーサル塩基は、3−ニトロピロールおよび5−ニトロインドールを含む。ユニバーサル塩基は、他のいずれの塩基とも塩基対を形成することができる。塩基修飾は、例えば、二重安定性の向上のような独自の特性を実現するために、例えば糖修飾(例えば2’−O−メトキシエチルなど)と、しばしば結合することができる。
【0046】
本発明の装置および方法は、いくつかの実施形態では、標的物質の熱安定性、または標的物質とその他の物質との結合錯体の熱安定性を、決定するために用いることができる。
本発明の方法は、例えば等電点電気泳動、クロマトグラフィー法、通電クロマトグラフィー、界面動電クロマトグラフィーおよび電気泳動法などの、分析的および準備的方法と組み合わせることができる。電気泳動法の実施例は、例えばフリーフロー電気泳動(FFE)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、キャピラリーゾーンまたはキャピラリーゲル電気泳動である。かかる方法との組み合わせは、共通基質を含んでもよい。実施例として蛋白質の分離は、例えば等電点電気泳動により、小表面で、例えばマイクロチップで行うことができる。その後、各表面を、本発明の装置および方法を用いて加熱し、例えば化学的反応、生物学的反応またはその両方を実行することもできる。
【0047】
本発明が容易に理解され実際に実施されるように、具体的実施形態を、次のような非制限的実施例を通じて以下で説明する。
(実施例)
有限要素分析
4つの加熱器から成り、各加熱器が梁で基板に接続された単純ドーナツ構造や、加熱器およびセンサが内側ドーナツに位置する二重ドーナツ形状(図4)を、有限要素分析(FEA)ソフトウェア、ANSYSバージョン9.0によってモデル化した。シリコンに関して450μm、ガラスに関して170μmの実定数で、要素SHELL−57を用いた。モデルの代表的境界条件をチップ周囲で25℃に設定し、ドーナツ温度を94℃、72℃および55℃に設定するために、4つすべてのドーナツ形状内に十分な振幅の熱流束を放散させた。
【0048】
単純ドーナツ構造に関して、最大熱勾配は梁軸に沿っていることが判明した。また、ドーナツ形状に沿った熱勾配も存在し、関心領域内において1℃という比較的高い温度不均一性を引き起こした。
【0049】
二重ドーナツ形状の2つのドーナツは、熱伝導率が内側ドーナツの少なくとも半分であり、2本の梁によって接続されている。それによって、内側ドーナツ内に温度均一性がもたらされる。二重ドーナツ構造のシミュレーション結果は、図6に示され、達成された温度均一性を明らかにしている。熱は、カンチレバーを介してほぼ完全に放散され、出願人らの、ゾーン間のクロストークは最小限であるという予想が裏づけられた。この設計によって、4つすべての領域の温度を互いに無関係に制御できるようになり、よって、4つの異なるPCRプロトコルを同時に実行することができた。装置を得るために使用したチップは、標準的LCC−68ソケットと全く同じボンディングパッド構成で設計されており、そのため、デバイスの熱パラメータを決定するために従来型の試験用ソケット内に締め込むことができた。厚さが約3mmの標準的LCCチップに比べ、出願人らのデバイスの厚さは0.45mmしかなかったため、減った厚さを補って良好な電気的接続を得るために、チップ上部にプラスチック枠を加えた。
【0050】
組立て
デバイス組立て用の基本的な基板は、従来型の4インチ(約10.16センチメートル)シリコンウエハであった。プラズマ化学気相成長(PECVD)法により、シリコン酸化物の1μm層を堆積させた。SiO2膜は、シリコンとその後の金属膜との間の電気絶縁体として役立つ。総シート抵抗が0.11Ω/□の電子ビーム蒸発により、薄いクロム接着層を有する250nm金層を堆積させた。加熱器、センサ、電気リードアウトおよび接触パッドを形成するために、2μm厚のAZ7220ポジ型フォトレジストを用いて、リソグラフィによりAu/Cr層のパターニングを行った。
【0051】
両金属を従来のエッチング溶液で、すなわち、金はKI/I2ベースの溶液で、クロムは(NH4)2Ce(NO3)6ベースの溶液でエッチングした。金属サンドイッチのエッチング後、フォトレジストをアセトンで剥がし、10μm厚のAZ4620フォトレジストを用いて第二のリソグラフィステップを行った。この厚いフォトレジストは、シリコンウエハの全厚を貫通する深彫り反応性イオンエッチング(DRIE)によるシリコンエッチングのマスクとして役立つよう選ばれた。DRIEによるシリコンのエッチングを防止する以外に、フォトレジストはまた、金線も保護した。露出シリコンを感光させるために、シリコン酸化物をまず、7:1緩衝酸化物エッチング液(BOE)でエッチングし、続いてDRIE(ボッシュ法、米国特許第5,498,312号明細書を参照)を行った。チップけがき線のパターニングも行ったため、DRIEプロセスによって個別チップが生成し、比較的脆弱なMEMS構造のダイシングの必要はなくなった。最終プロセスのステップは、個別チップのピラニア溶液(H2SO4/H2O2)による洗浄、脱イオン(DI)水によるすすぎ、および窒素ガスフローによる乾燥であった。
【0052】
装置のキャラクタリゼーション
プローブステーション(probe station)[カスケードマイクロテックインコーポレイテッド社(Cascade Microtech Inc.)]においてデバイスを異なる温度で探査することにより、組み立てたデバイスの電気パラメータを割り出した。アジレント4156C半導体パラメータ分析器(Agilent 4156C Semiconductor Parameter Analyzer)により、抵抗の値を測定した。
【0053】
温度差ΔTに対する抵抗器の抵抗値Rは、次のような簡単な式で説明することができる。
R=R0(1+αΔT) (1)
式中、R0は、公称温度での抵抗器の数値であり、αは、材料の抵抗温度係数(TCR)である。測定データから両パラメータを導き出した(テーブルI参照)。R0および数値を計算した後は、チップをPCBに半田づけして、チップの熱パラメータを測定できるよ
うにした。
【0054】
システムの熱挙動は、次のような微分熱平衡式で説明される。
HdΔT/dt+GΔT=ΔP (2)
式中、Hは熱容量であり、Gは、システムの熱伝導係数であり、ΔTは温度変化であり、tは時間であり、ΔPは、システム内の消費電力変化である。
【0055】
以前、赤外線検知用ボロメータの熱パラメータを導き出すパルス法が公開された(ノイジル、ピィー(Neuzil,P.)、メイ、ティー(Mei,T.)、Applied
Physics Letters、2002年、第80巻、p.1838〜1840)。ボロメータはPCRデバイスに類似した挙動を示すため、まったく同じ試験法を用いた。評価を受けるセンサは、3台の外部抵抗器と共に、平衡ホイートストンブリッジを形成した。持続時間が1m秒で電圧振幅が5Vのパルスを、毎秒1パルス繰り返して当該ブリッジに電力を供給した。
【0056】
パルスに、振幅が0V〜1Vの直流電圧シグナルを重ね合わせた。デバイスの熱容量Hは、時間に対する温度の微分から計算される。印加した直流電圧による周囲を上回る温度上昇は、熱伝導係数Gの関数である。得られたHおよびGの値を、システム時間定数τ(H/Gに等しい)の直接測定により検証した。測定し計算した全ての電気および熱パラメータを、テーブルIに示す。
テーブルI:PCR槽の電気および熱パラメータ。すべての数値は、23℃の周囲温度で測定された。
【0057】
【表1】
温度分布
チップを電気的および機械的に接続するために、フリップチップボンディングに類似した技法を用いて、チップをプリント回路基板(PCB)に半田づけした。半田によって、PCRデバイスとPCBとの間に電気的および機械的接続が形成された(図2参照)。
【0058】
下記の通りに、装置を温度制御電子部品(図7参照)に接続した。個々の加熱器の温度を約65℃、85℃および94℃に設定し、8〜12μmの波長の赤外線(IR)画像を捕捉した。カメラの温度分解能は、0.1Kのノイズ等価温度差(Noise Equivalent Temperature Difference)であった(図6参照)。図6に示した通り、加熱器全体にわたる温度変動は1℃未満であり、よってデバイスは、PCR操作を行うために好適である。
【0059】
制御システム
周囲温度を上回る温度は、加熱電力を調節することにより制御される。出願人らは、パルス幅変調(PWM)原理を用いた。この原理は、システム時間定数よりも著しく短い電
力パルスの、負荷サイクルを調整することにより、平均消費電力を制御するものである。
【0060】
PWMはデジタル式であり、パーソナル・コンピュータ(PC)から制御するラボビュー(LabVIEW)データ取得(DAQ)カードの実装が容易である。チップの温度センサの数値を、閉フィードバックモードに使用した。急速加熱を達成するために、比例積分微分(PID)法を実施した。ラボビューカード6014−Eから供給される最大電流は8.5mAに過ぎず、PCRチップを希望温度に加熱するためには不十分である。その後、高速MOSFET/IGBTドライバ、集積回路IR2121[インターナショナルレクティファイアインコーポレイテッド社(International Rectifiers Inc.)]により、カードとPCRチップとのインタフェースを行った。その出力は、1Aという高い電流を供給することができ、10kHzまでのパルス周波数で、PCRチップに電力を供給することができる。
【0061】
温度センサは、2つの固定式および1つの調節式の抵抗器とともに、ホイートストンブリッジを形成した。その出力を、固定利得が10のINA143US[バーブラウンインコーポレイテッド社(Burr−Brown Inc.)]差動増幅器に接続した。その出力を、IR2121を制御したものと同じカードで、ラボビューソフトウェアにリンクさせた。PCB基板に置かれた1つのチャネルの、全回路図を図7に示す。完全なPCBは、4つのPCRへの4つの並行接続の個別チャネルから成る。
【0062】
装置を、0.5℃よりも良好な温度精度に較正した。Fluorinert(商標)77を充填した恒温槽において、デバイス較正を行った。PCRデバイスの隣にPCBに半田づけされた、50℃〜100℃の範囲で0.1℃の精度に較正された温度センサTSic(商標)(IST−AG社)[スイス連邦ワットウィル(Wattwill)所在]を用いて、デバイスの温度を測定した。
【0063】
4つすべてのチャネルからの出力値を、ラボビューのセットアップ・ファイルに保存し、フィードバック測定に用いた。PCRチップ上に顕微鏡ガラスカバースリップを載せた。仮想的な反応槽(VRC)を、1μLおよび5μLの試料および油容積で、加熱器上に分注した(図1参照)。上記手順により、加熱器の温度は正確に検証されたが、PCR試料それ自体の温度は、それとは異なる可能性が高かった。溶解曲線分析(ラトレッジ、アール ジー(Rutledge,R.G.)、Nucleic Acids Research(Methods on−line)、2004年、第32巻、p.e178)により、試料温度が下記の通りであることを割り出した。試料温度は、94℃の加熱器温度よりも2度低いことが判明し、これに応じてセットアップ・ファイルを訂正した。
【0064】
熱サイクル
制御装置のPID値を最適化して急速加熱応答を達成するために自己較正手順を行う一方で、熱時間定数および周囲温度により冷却速度を割り出した。テーブルIに記した熱パラメータから、デバイス冷却時間は1〜2秒であることが予想される。なぜならば、94℃から55℃への温度変化が、94℃と25℃の周囲室温と温度差の約56%にあたるためである。それは、必要とされる最低速度の−5Ks−1を大きく上回る−20Ks−1〜−40Ks−1の急速な冷却速度を、システムに与えると思われた。達成されたPCR熱プロファイルは、図8に示され、変性(94℃)が15秒間、アニーリング(55℃)が15秒間、伸長(72℃)が30秒間である。
【0065】
蛍光検出
これまでに使用されたシステム(ダスグプタ、ピィー ケイ(Dasgupta,P.K.)ら、Anal.Chim.Acta、2003年、第500巻、p.337〜364、およびキャディ、エヌ シィー(Cady,N.C)ら、Sensors and
Actuators B: Chemical、2005年、第107巻、p.332〜341)に対応するFITC励起/検出キューブ付き水銀ランプを用いて、利得を約5×104に設定した光電管(PMT)(浜松ホトニクス株式会社、H5784−20)により、蛍光応答を検出した。光学台に取り付けたツァイス・アクシオテック・ヴァリオ(Zeiss Axiotech Vario)顕微鏡下に、PCRチップを置いた。PMTに入る周辺光の量を抑えて光学的検出限界を上げるために、測定装備全体を黒い布で覆った。オシロスコープにより、PMTシグナル振幅値を測定して保存した。
【0066】
装置試験
(a)表面調製
非特許文献1において説明された通り、VRCシステムのガラス表面は、疎水性であるだけでなく疎油性である必要もある。
【0067】
異なるフッ素化シラン溶液および準備方法を、いくつか試験した。その後で選択した被覆は、ガラスを3:1のH2SO4/H2O2混合液内で洗浄した後、DI水で洗うことから成るものであった。その後、1mLのゲレストインコーポレイテッド社(Gelest Inc.)製シラン[(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリメトキシシラン]入りビーカと共に、ガラスを室温の真空オーブン[イールドエンジニアリングインコーポレイテッド社(Yield Engineering Inc.)製YES−15E]に入れた。その後、約133.322パスカル(1トル)未満の残圧に達するようにオーブンを真空にし、排気を続けながら、オーブン温度を150℃に上げた。シランを蒸発させ、ガラス表面と反応させた。2〜5時間後、排気を止め、オーブンに窒素を通気し、オーブンからガラススライドを取り出した。表面処理の結果を、接触角システム[データフィジックスゲーエムベーハー社(Dataphysics GmbH)製モデルOCA]を用いた接触角法により検証した。水滴の接触角は110度であったのに対して、鉱油[シグマインコーポレイテッド社(Sigma Inc.)]滴の接触角は70度であった。
【0068】
(b)試料調製
試験媒体として、ヒトのグリセリンアルデヒド三燐酸脱水素酵素(GAPDH)の遺伝子記号の、208対の塩基対断片の940個の鋳型複製[マキシムバイオテックインコーポレイテッド社(Maxim Biotech Inc.)]を使用した。前進プライマーとして5’−CTCATTTCCTGGTATGACAACGA−3’(配列番号1)を、後進プライマーとして5’−GTCTACATGGCAACTGTGAGGAG−3’[配列番号2、リサーチバイオラボインコーポレイテッド社(Research Biolabs Inc.)]を用いた。PCR混合液を、製造者[キアゲンインコーポレイテッド社(Qiagen Inc.)]によって推奨された通りの50μL原液に調製したが、例外が2つあった。すなわち、SYBR Green[インビトロジェンインコーポレイテッド社(Invitrogen Inc.)]を1:10000の最終濃度に希釈し、ウシ血清アルブミン[カールロスインコーポレイテッド社(Carl Roth Inc.)]を1%の最終濃度で加えた。
【0069】
(c)リアルタイムPCR結果
上記の通りに調製したPCR原液を2つに分け、1μLは、PCRチップ用に使用し、残りは、参照の通りの従来型熱サイクラー[エムジェイリサーチインコーポレイテッド社(MJ Research Inc.)]内で使用した。両実験について、PCR混合液を5μLの鉱油[シグマインコーポレイテッド社(Sigma Inc.)]で覆った。熱サイクル条件は次の通りであった。すなわち、94℃での5分間(初期変性)に続き、94℃で1分間の50サイクル(変性)、58℃での1分間(アニーリング)および72℃での1分間(延長)の後、72℃で10分間の最終ステップ。PCRサイクルの1熱ス
テップ当たり1分間は、通常よりも長い。しかしながら、それによって、各ステップの間にシステムが熱平衡に達して酵素反応が完了することが、保証される。これは、この時点では、PCRシステムを高速化するための各ステップの最適化よりも、重要である。
【0070】
溶解曲線分析(ラトレッジ、アール ジー、上述)用に、試料を1分間、65℃まで冷却し、その後、0.01Ks−1の加熱速度で温度を95℃まで継続的に上げた。操作中は、両蛍光シグナル(図9、図10参照)だけでなく温度センサ値もまた、同時に記録した。次のステップは、72℃の延長局面の終わりの蛍光シグナルの、平均値計算であった。PCRサイクルから蛍光出力シグナルを抽出するために、フォートランを用いて短いプログラムを作成した。プログラム入力パラメータは、図9に第一の矢印で示した第一のデータブロックの中心、データ間隔の長さ、および間隔数であった。その後、プログラムによって、当該間隔からのシグナルが平均化され、全50サイクルのサイクル数に関連づけられた。72℃でのPCR出力シグナルから差し引くことになるベースラインシグナルを得るために、同じ手順を、94℃での蛍光シグナル(図9に第二の矢印で示したもの)について繰り返した。次のようなシグノイド関数により、差し引き後のデータセットの近似値を求めた。
【0071】
【数1】
式中、A1、A2は規格化定数であり、パラメータx0は変曲点の位置を表し、kは、当該変曲点での最大勾配を決定する。
【0072】
異なる濃度の鋳型(template)複製の数を10個から100万個まで変えて、PCRプロトコルを行った。計算したx0パラメータを、PCR標準曲線を示す鋳型数に対してプロットした(図11、図12参照)。
【0073】
上記の通り、PCRデバイスの熱サイクル後、PCRの純度を決定するために、溶解曲線分析(フィックスマン、エム(Fixman,M.)、フレーレ、ジェイ ジェイ(Freire,J.J.)、Biopolymers、1977年、第16巻、p.2693〜2704、ウィルケニング、エス(Wilkening,S.)、バーダー、エイ、ジェイ(Bader,A.,J.)、Biomolecular techniques、2004年、第15巻、p.107〜111、およびライアン、イー(Lyon,E.)ら、Clinical Chemistry、2001年、第47巻、p.844〜850)を行った(図13参照)。次のような修正シグモイド関数により、蛍光シグナルの近似値を求めた。
【0074】
【数2】
式中、A0、A1、A2およびA3やx0およびkは、式(3)のものとまったく同じ関数である。
【0075】
フィッティングエラーは、測定データとフィッティング曲線との小差だけを示し、限られた量の副生成物がただ1つのPCR生成物に存在するだけであることを示している。生成物の純粋さが、キャピラリー電気泳動の結果によって立証された(図14参照)。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の装置の一実施形態の写真。温度制御モジュールは、プリント回路基板(PCB)に半田づけされている。その上方に、正方形のガラススライドが基板として配置されている。試料は液滴の形態で基板上に置かれている。
【図2】図1に示した本発明の装置のさらなる写真。温度制御モジュール(8)は、プリント回路基板(PCB)に半田づけされている。取り外し可能な基板は装置上に載せられる。各基板(図1も参照)は温度制御モジュールを完全に覆う。
【図3A】本発明の装置の温度制御モジュールの一実施形態の模式的断面図。温度制御モジュールは取り外し可能な基板(1)で覆われ、この基板上に試料(2)が載せられている。基板(1)は熱導体(3)に接触しており、この熱導体は複数の加熱器(4)と、センサ(5)とに接触している。
【図3B】温度制御モジュールのさらなる実施形態の模式的断面図。試料は液滴であり、内相(6)と外相(7)とを含む。基板(1)は中心の等しい熱導体(3)に接触しており、この熱導体は中心の等しい加熱器(4)と中心の等しいセンサ(5)とに接触している。
【図4】下から見た本発明の装置の温度制御モジュールの別の実施形態の模式図。加熱器(4)およびセンサ(5)の各々の中心は等しく、加熱器(4)はセンサ(5)を取り巻いている。熱導体(3)はリンカ(10)で接続された2つの同心部分と、長さを有する棒状部分(9)とを含む。
【図5A】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの全部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5B】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの一部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5C】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの全部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5D】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの一部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5E】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの一部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5F】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの対が180°とは異なる角度で互いに対向している一実施形態を示す。
【図6A】ANSYSソフトウェアで行った有限要素分析(FEA)の結果を示す図。4つの温度制御モジュールの上方の温度均一性が示されており、到達温度は55℃(右)、72℃(上)、72℃(左)および94℃(下)である。
【図6B】図6Aに示した本発明の装置の実施形態の赤外線画像。PCBに半田づけされた4つの加熱要素を含む。
【図6C】図6Bの線a…a’に沿った温度プロファイルを示す図。温度制御モジュールの上方の温度変動は±0.5℃以内である。
【図7】本発明の装置の単チャネル温度制御モジュールの接続図。加熱器(4)およびセンサ(5)は温度制御モジュールの一部であり、その他のデバイスは、外部のプリント回路基板に置かれる。
【図8】本発明の装置および方法を用いるPCR中の温度/時間プロファイルを示す図。94℃から54℃への温度低下には2秒しかかからず、PIDシステムによって制御されるため加熱は著しく速い。
【図9】例示的なPCRサイクル中に本発明の装置から検出される蛍光シグナル対時間を示す図。72℃の温度での蛍光シグナル(第一の矢印)から94℃の温度での蛍光シグナル(第二の矢印)を差し引くことにより、図10に示すようにリアルタイム・データ点のプロットを行うことができる。
【図10】50回のPCRサイクル中に本発明の装置から検出される蛍光シグナル対時間を示す図。リアルタイム・データ点は、72℃の温度での蛍光シグナル(図9の第一の矢印)から94℃の温度での蛍光シグナル(図9の第二の矢印)を差し引くことにより得られた。この例でのサイクル閾値は約25であった。
【図11】本発明の装置および方法を用いたマイクロPCR勾配(■、太線)と、エムジェイ・リサーチ・インコーポレイテッド社製の市販のシステムを用いて得られた結果(●、細線)との比較を示す図。
【図12】1万の複製に関する規格化蛍光シグナル(■)対サイクル数のプロットを示す、シグモイド関数(線)によりフィッティングの行われた図。
【図13】溶解曲線分析による蛍光シグナルと、シグモイド関数
【0077】
【数3】
によるその近似とを示す図(実施例を参照)。測定データ(下の曲線、太線)とシグモイド関数(下の曲線、細線)とは区別できず、得られたPCR生成物の純粋さを実証している。上の曲線には、その微分値にマイナスを掛けた値が示されている。
【図14】キャピラリー電気泳動の溶出プロファイルを示す図。この結果によって、PCR生成物の純粋さが確認される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料または化学的試料、特に液滴内の試料の、温度を調整する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に多くの診断的、分析的および準備的手順は、温度変化をもたらすステップを含む。再現可能で正確な結果を実現するためには、試料のような反応混合物の温度制御を維持し、各反応混合物の内部の温度均一性を維持することが必要とされる。さらに、多くの診断的、分析的および準備的手順では酵素が利用されるが、酵素は、決まった温度で最適の性能を示す。正確な温度制御を得るためには、一般に、反応混合物と加熱要素または冷却要素との間に密な接触を提供することが必要とされる。それと同時に、異なる反応混合物間、例えば試料間の交差汚染を避ける必要がある。
【0003】
加熱の制御および温度均一性の維持が特に重要なプロセスの例は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による生体外での核酸増幅である。通常、PCRプロセスは熱サイクル・プロセスであり、その基本サイクルは3つのステップに分けることができる。すなわち、(a)約90℃〜約94℃でのDNA二本鎖の分離、(b)特定のプライマーを一本鎖DNAに再生するための約50℃〜70℃までの冷却(アニーリング)、および(c)耐熱性DNAポリメラーゼによるプライマー延長のための約70℃〜80℃への昇温(伸長)である。
【0004】
PCR反応の間の温度制御は通常、フィードバックループシステムによって行われ、一方、温度均一性は、銅などの高熱伝導性ではあるが嵩張る材料によって達成される。試料内部の温度制御および温度均一性維持に加えて、少なくとも5K/秒(−5K/秒)の試料加熱(冷却)速度を提供することもまた重要である。高加熱速度は、比例積分微分(PID)制御システムの実装によって達成されるが、かかる制御システムは、最大消費電力および熱容量による制限を受ける。高冷却速度は幾分達成が困難であり、嵩張るシステムでは、熱電素子(TEC、しばしばペルティエ素子と呼ばれる)や、水など他の手段による冷却力が必要となる。かかるデバイスは複雑で電力消費が大きい。
【0005】
システムが嵩張るときには、その熱時間定数は秒ではなく分である。その結果、PCR反応では、遷移時間が長くなり不要な副生成物が生じる。さらに、高い消費電力のせいで、持ち運び可能な電池式PCRシステムを作製できる可能性がなくなる。加えて、反応管は大型であり、必要とされるPCRカクテル量によりプロセス全体が費用集約的になる。さらに、PCR生成物の検出はオフラインで、すなわち別のデバイスを用いて、行われる必要があり、それによって追加費用が生じる。
【0006】
PCR反応を実行するために現在使用されているシステムでは、多数の試料を同時に処理することはできるものの、異なる試料の温度を個別に制御することはできない。従って、様々な温度サイクル条件に試料を曝露したい場合には、いくつかのシステムを並行して使用する必要がある。従って、PCR中に試料を個別かつ同時に取り扱うことのできる装置を提供することが望ましい。
【0007】
化学、製薬およびバイオテクノロジー分野におけるデバイスの小型化は、マイクロ流体デバイスおよびマイクロアレイの開発をもたらした。これに応じて、マイクロPCR法(μPCR)が開発されつつあり、かかる方法が、ラボ・オン・チップまたはマイクロ総分析システム(μTAS)の中心的部分になると予想される。2つの基本的なアプローチが
認められる。1つは、温度サイクルのある静止システムであり、もう1つは、温度の異なる3つのゾーンのある流動システムである。
【0008】
静止システムは、槽温度のサイクルによってPCR溶液の温度を変化させる。静止システムは、PCR試料を移動させるポンプシステムその他の手段を必要としない。貫流システムは通常、試料がそれらの間を移動することによって試料温度が変化する、3種類の定温ゾーンを有する。貫流システムは、静止システムよりも高速であるものの、温度の異なるゾーン間を移動するための機構を実装する必要がある。いずれの場合も、PCRシステムには加熱器が組み込まれているため、1回しか試験を行っていないのに、交差汚染を避けるためにデバイスを処分することは経済的ではない。
【0009】
静止マイクロPCR法の最近の例では、平面チップデバイスと、仮想的な反応槽(VRC)の形成とが用いられる。VRCは、水ベースの試料を油で包むカプセル化(非特許文献1)により作製される。固体カバーまたはマイクロチャネルは必要ないため、デバイスの組立ては、適切な基板上に薄膜の加熱器および熱センサの堆積およびパターニングを行うことのみから成る。しかしながら、依然として各デバイスは使い捨てシステム用には費用が掛かりすぎる。
【0010】
小型化により生じるさらなる難題は、試料間の交差汚染のリスクである。かかる交差汚染を避ける最も安全なやり方は、使い捨てシステムの使用である。最低でも、試料と接触するデバイス部分は使い捨てである必要がある。これまで、多くの異なるシステムが提案されてきた。これらのシステムは通常、上記要求事項の全部を満たしてはおらず、比較的高価である。プラスチックシート製の使い捨て部品を用いるアプローチが、特許文献1に開示されている。ホットエンボス加工によりウェル一式が形成され、当該一式全部が加熱器の上部に置かれる。このシステムでは、比較的複雑なマイクロ組立てプロセスが用いられ、使い捨てプレートをカスタマイズする必要がある。従って、製造が簡単であり、操作が容易あり、かつ、使い捨てできるほど十分に経済的なμPCRの必要は引き続き存在する。完成したμTASシステム内に任意に組み込めることが、極めて望ましい。
【特許文献1】米国特許第6,509,186号明細書
【非特許文献1】グーテンベルク、ズィー(Guttenberg, Z.)ら、Lab Chip、2005年、第5巻、p.308〜317
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、上述の欠点を回避して化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様では、本発明は、化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置を提供する。この装置は、少なくとも1つの温度制御モジュールを備える。この温度制御モジュールは、加熱器と、熱導体と、温度センサとを含む。温度制御モジュールの加熱器は、化学的試料または生物学的試料が載せられる取り外し可能な基板と、熱導体を介して熱を伝え合うように適合している。温度制御モジュールの温度センサは、熱導体を介して基板の温度を検知して制御するように適合している。この装置は、基板が温度制御モジュールの上方に位置して温度制御モジュールを完全に覆うように設計されている。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、化学的試料または生物学的試料の温度を調整する方法を提供する。この方法は、化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置を提供するステップを含む。この装置は、少なくとも1つの温度制御モジュールを備える。この温度制御モジュールは、加熱器と、熱導体と、温度センサとを含む。温度制御モジュールの加
熱器は、化学的試料または生物学的試料が載せられる取り外し可能な基板と、熱導体を介して熱を伝え合うように適合している。温度制御モジュールの温度センサは、熱導体を介して基板の温度を検知して制御するように適合している。この装置は、基板が温度制御モジュールの上方に位置して温度制御モジュールを完全に覆うように設計されている。この方法はさらに、化学的試料または生物学的試料を加熱するための温度値を提供するステップを含む。また、この方法は温度センサにより熱導体の温度を測定するステップも含む。この方法はさらに、測定した温度が提供された温度値未満であれば、熱導体に熱を加えることによって、基板および化学的試料または生物学的試料を加熱するステップを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、生物学的試料または化学的試料の温度を調整する方法を提供する。この方法は、あらゆる試料に適切であり、特に、例えば小滴(下記参照)のような液体形態の試料に適切である。
【0015】
試料は、いかなる起源であってもよい。試料は、次に限定されるものではないが、例えば、ヒトもしくはヒト以外の動物、植物、細菌、ウイルス、胞子、菌類もしくは原生動物に、または合成もしくは生体起源の有機もしくは無機材料に由来してもよい。したがって、次に限定されるものではないが、次のような試料、すなわち、土壌試料、空気試料、環境試料、細胞培養試料、骨髄試料、降水試料、降下物試料、下水試料、地下水試料、摩耗試料、考古学試料、食品試料、血液試料、血清試料、血漿試料、尿試料、糞試料、精液試料、リンパ液試料、脳脊髄液試料、鼻咽頭洗浄試料、唾液・痰試料(sputum sample)、口腔スワブ試料、咽喉スワブ試料、鼻腔スワブ試料、気管支肺胞洗浄試料、気管支分泌物試料、乳試料、羊水試料、生検試料、癌試料、腫瘍試料、組織試料、細胞試料、細胞培養試料、細胞溶解物試料、ウイルス培養試料、爪試料、髪試料、皮膚試料、法医学試料、感染試料、院内感染試料、生成物試料、薬剤調製試料、生体分子産生物試料、蛋白質調製試料、脂質調製試料、炭水化物調製試料、宇宙空間試料、地球外試料、またはこれらの組み合わせから成る群から選択される試料を、この方法で処理することもできる。望まれる場合、各試料は、程度を問わず前処理済みであってもよい。例示的実施例として、組織試料は、本発明のデバイスで使用する前に消化、均質化または遠心分離処理しておいてもよい。試料はさらに、溶液など、流体の形態に調製しておいてもよい。実施例は、次に限定されるものではないが、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、蛋白質、合成高分子、生化学組成、有機化学組成、無機化学組成、金属、脂質、炭化水素、コンビナトリアルケミストリー生成物、薬剤候補分子、薬剤分子、薬剤代謝産物またはこれらの組み合わせの、溶液またはスラリーを含む。さらなる実施例は、次に限定されるものではないが、金属懸濁液、合金懸濁液および金属イオン溶液またはこれらのいずれかの組み合わせ、ならびに細胞、ウイルス、微生物、病原体、放射性化合物またはこれらの組み合わせの、懸濁液を含む。試料がさらに、前述の実施例の組み合わせを含んでもよいことが、理解される。
【0016】
必須ではないが多くの場合、試料は、標的物質またはその前駆体を含むか、または含むと予想される。標的物質は例えば、試料に加えられたかまたは含まれる細胞または分子であることもでき、標的物質を熱に曝露することが望まれることもある。別の実施例として標的物質は、温度上昇時に起こる化学的プロセスにより、先駆化合物から得られることが知られているか、または理論上想定されている化合物であってもよい。この場合、試料は例えば、かかる先駆化合物の溶液を含んでもよい。
【0017】
よって、標的物質またはその前駆体は、いかなる性質であってもよい。実施例はヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、蛋白質、合成高分子、生化学組成、有機化学組成、無機化学組成、脂質、炭化水素、コンビナトリアルケミストリー生成物、薬剤候補分子、薬剤分子、薬剤代謝産物、細胞
、ウイルス、微生物、またはこれらの組み合わせを含むが、それらに限らない。標的物質が例えば、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、核酸、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドである実施形態では、標的物質は、アフィニティ・タグ付きであってもよい。アフィニティ・タグの実施例は、ビオチン、ジニトロフェノール、またはジゴキシゲニンを含むがそれらに限らない。標的物質が蛋白質、ポリペプチドまたはペプチドの場合、アフィニティ・タグのさらなる実施例は、オリゴヒスチジン、ポリヒスチジン、免疫グロブリンドメイン、マルトース結合蛋白質、グルタチオン−S−転移酵素(GST)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、FLAG’−ペプチド、T7エピトープ(Ala−Ser−Met−Thr−Gly−Gly−Gln−Gln−Met−Gly)、マルトース結合蛋白質(MBP)、単純ヘルペスウイルス糖蛋白DのGln−Pro−Glu−Leu−Ala−Pro−Glu−Asp−Pro−Glu−Asp配列のHSVエピトープ、Tyr−Pro−Tyr−Asp−Val−Pro−Asp−Tyr−Ala配列の血球凝集素(HA)エピトープ、およびGlu−Gln−Lys−Leu−Ile−Ser−Glu−Glu−Asp−Leu配列の転写調節因子c−mycの「myc」エピトープを含むが、それらに限らない。標的物質が核酸、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの場合、アフィニティ・タグはさらに、オリゴヌクレオチド・タグであってもよい。かかるオリゴヌクレオチド・タグは例えば、相補配列により、固定化オリゴヌクレオチドをハイブリダイズするために用いることもできる。各アフィニティ・タグは、標的物質の内部に位置づけられてもよく、標的物質の一部に取り付けられてもよい。例示的実施例として、各アフィニティ・タグは、前述の例示的蛋白質のいずれかのアミノ末端またはカルボキシ末端に動作可能に融合されてもよい。
【0018】
本発明の装置は、少なくとも1つの温度制御モジュールを備える。いくつかの実施形態において装置は、2つ以上の温度制御モジュールを備える。なお、さらなる実施形態において装置は、複数の温度制御モジュールを備える。装置が2つ以上の温度制御モジュールを備える場合、温度制御モジュールは通常、互いから熱的に絶縁される。かかる絶縁は、例えばプラスチック、木材、ガラス、石英、水、空気またはセラミックのような、不十分な熱導体である材料によって温度制御モジュールを絶縁することにより達成することもできる。いくつかの実施形態において、空気による熱絶縁は、追加の材料を装置内に導入しなくてもよいため、有利である。望まれる場合、装置はさらに、冷却モジュールのような温度制御手段を含んでもよい。これに加えてまたはこれに代えて、温度制御モジュールは冷却器、例えば、熱導体と熱を伝え合うことができるように適合した冷却器を、含んでもよい。試料を室温近辺またはそれ以上の温度値で取り扱うことが望まれる多くの実施形態では、高温度値から低温度値へ、例えば94℃から55℃への試料の冷却は、好適には、冷却器なしに達成することができる。本発明の装置は、熱導体および試料からの熱放射が可能であるように容易に設計することができ、それによって高冷却速度を提供する(例えば図8参照)。
【0019】
温度制御モジュール(すなわち、複数の温度制御モジュールのうちの少なくとも1つ、また、いくつかの実施形態では、それらの複数の温度制御モジュールの各々)は、当該温度制御モジュールが加熱器および温度センサを含むという点で、直接加熱システムに基づいている。温度制御モジュールはさらに、熱導体を含む。加熱器は、熱導体と熱を伝え合うことができるように適合しており、よって、熱導体を加熱することができる。例示的実施例として、加熱器は、熱導体に接触してもよい。それによって加熱器は、温度センサの制御下において、熱導体を希望温度まで加熱すること、熱導体を希望温度値に保つこと、またはその両方を行うことができる。下記でも説明する通り、加熱器が熱導体を加熱する際に達する温度値の低減は、通例、効果的に熱導体の温度低下をもたらし、「冷却」として定義することもできる。通常、温度センサは、例えば直接接触を介して熱導体と熱を伝え合うことができるように配置されている。熱導体は、熱を伝導可能ないかなる材料のものでもよい。熱導体は例えば、金属、半導体、ダイヤモンド、カーボンナノチューブまた
はフラーレン化合物を含んでもよい。適した金属の実施例は、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、金、チタン、鉄、鉛、ニッケル、イリジウムおよびカドミウムを含むが、それらに限らない。適した半導体の2つの例示的実施例は、シリコンおよびゲルマニウムである。銀およびシリコンは、熱導体の2つの代表的実施例であり、伝導率は各々、410Wm−1K−1および157Wm−1K−1である。
【0020】
加熱器、センサおよび熱導体は、いかなる形状であってもよく、互いに関しいずれの向きに配置されてもよい。いくつかの実施形態において加熱器および熱導体は、熱導体の同じ表面に配置されている(下記も参照)。これらの実施形態の一部では加熱器およびセンサは、互いにすぐ近くに配置されている。
【0021】
本発明の装置はさらに、取り外し可能な基板を収容することができる。よって、本発明の装置上に各基板が置かれた後は、装置は例えば、培養器として使用することもできる。下記に説明する通り、装置はまた、反応器として使用することもできる。基板は、当該基板を収容できるために本発明の装置が適したものであれば、いかなる希望材料のものでもよい。通常、かかる材料は、少なくともある程度までは熱を伝導することができる。実施例は、シリコン、ガラスおよびプラスチックを含むが、それらに限らない。さらに基板は、試料との不要な反応を被らない材料のものであるように、選択することが望まれる場合がある。同様に基板は、試料内で生じるかまたは試料を用いて生じることが望まれる反応を妨害、抑制または防止をしない材料のものであるように、選択することが望まれる場合がある。例示的実施例としてシリコン(ただし、シリコン酸化物またはシリコン酸窒化物は除く)は、PCR反応を抑制することが知られている。基板は、本発明の装置に収容可能である限り、いかなる形状および幾何学構造であってもよい。基板は例えば、凹状または凸状に丸めてもよい。1つの実施形態では、基板の少なくとも1つの表面は、ほぼ平坦である。望まれる場合、基板は、キャビティを含んでもよい。かかるキャビティは例えば、エッチングまたはレーザードリル加工により得ることもできる。いくつかの実施形態において基板はまた、装置のキャビティに収容されてもよい。
【0022】
希望プロセスを伝達するかまたは不要な反応の発生を防ぐために、基板の材料、形状またはその両方を選択することが望まれる場合がある。いくつかの実施形態では例えば、基板表面との最大接触および急速加熱を提供するために、試料の拡散を補助する材料を選択することが望まれる場合がある。その他の実施形態では、試料に例えば低濡れ性を提供し、液体の蒸発を防ぐことが望まれる場合がある。基板は、いくつかの実施形態では、残りの基板の材料組成と異なる組成の表面を提供することができる。いくつかの実施形態において、基板の表面は改質することができる。例えば、試料が水性液体のような親水性のものであるかまたは親水性のものに含まれている場合、拡散および蒸発を最小限に抑えることが望まれるときには、基板は疎水性または疎油性であってもよい。各々の疎水性基板は、いくつかの実施形態では、シリコーン、プラスチック、表面改質ガラス、表面改質石英、表面改質金属、およびこれらの複合物から成る群から選択することができる。
【0023】
表面改質は通常、固体表面特性を改変するために実行される処理によって得られる。かかる処理は、機械的、熱的、電気的または化学的手段のような様々な手段を含むことができる。実施例として、プラスチック材料の表面は、希塩酸または希硝酸による処理を通じて親水性にすることができる。別の実施例として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)表面は、酸素または空気プラズマによる酸化により親水性にすることができる。ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリカーボネートのような疎水性高分子の表面もまた、キム(Kim)らにより説明された通り、反応ガスの存在下でのイオン放射によって親水性になる場合がある(2003 ECI Conference on Heat Exchanger Fouling and Cleaning: Fundamentals and Applicati
ons、2003年、第RP1巻、p.107〜114)。シリコンは、H2O/H2O2/NH4OH内での浸漬によって親水性になる場合がある。さらに、いかなる疎水性表面の表面特性も、親水性高分子での被覆、または界面活性剤での処理により親水性にすることができる。化学的表面処理の実施例は、次に限定されるものではないが、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−(2,3−エポキシプロポキシル)プロピルトリメトキシシラン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ポリ(メチルメタクリレート)もしくはポリメタクリレート共重合体、ウレタン、ポリウレタン、フルオロポリアクリレート、ポリ(メトキシポリエチレングルコールメタクリレート)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)、α−ホスホリルコリン−o−(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ウンデシルオリゴDMAAm−オリゴ−STブロックコオリゴマー(例えば、マツダ、ティー(Matsuda,T)ら、Biomaterials、2003年、第24巻、p.4517〜4527を参照)、ポリ(3,4−エポキシ−1−ブテン)、3,4−エポキシ−シクロヘキシルメチルメタクリレート、2,2−ビス[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン、3,4−エポキシ−シクロヘキシルメチルアクリレート、(3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル)−3,4−エポキシシクロヘキシル・カルボキシレート、ジ−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビスフェノールA(2,2−ビス−(p−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)プロパン)または2,3−エポキシ−1−プロパノールへの曝露を含む。
【0024】
基板上には、化学的試料または生物学的試料が載せられる。選択した基板材料が比較的不十分な熱導体(むしろ断熱性の材料を含む)の場合、基板は薄厚のものでもよい。2つの例示的実施例として、ガラススリップ、またはシリコーンゴムの薄パッドを使用することができる。図3Aおよび図3Bは、取り外し可能な薄厚基板の2つの例示的実施例を示す。取り外し可能な基板は、本発明の装置上に置かれた後は、熱導体と熱を伝え合うことができる。加熱器は、熱導体を介して基板と熱を伝え合うことができるように適合している。同様に温度センサは、熱導体を介して基板の温度を検知して制御するように適合している。従って、温度センサの制御下において加熱器は、基板を希望温度まで加熱すること、基板を希望温度値に保つこと、またはその両方を行うことができる。図3Aおよび図3Bに示したような実施形態では、ガラス製またはゴム製基板は、不十分な熱導体であるにもかかわらず、熱導体から試料に熱を移動させるように適合している。いくつかの実施形態では、低熱伝導率の基板の選択が有利な場合さえある。なぜならば、この基板が、例えば熱絶縁に加えて、一方の温度制御要素と他方とを熱的に絶縁するさらなる手段を提供することができるためである。
【0025】
本発明の装置は、取り外し可能な基板が温度制御モジュールの上方に位置するように設計されている。「上方」および「下方」という用語は、本願において使用する場合、次のような位置を指す。すなわち、基板が装置上に置かれ、置かれた後はもっぱら重力によってのみ固定されることができるようなやり方で、本発明の装置が保持される位置である。この位置において装置は通例、平坦な表面に置くことができる。いくつかの実施形態では、この位置において加熱器が熱導体の下方に配置される。いくつかの実施形態では、加熱器とセンサとの両方が、熱導体の下方に配置される。
【0026】
いくつかの実施形態において加熱器は、試料が載せられる取り外し可能な基板の平面に対して、ほぼ平行に配置された表面を含む。いくつかの実施形態において加熱器は、試料が載せられる基板の平面に対して、ほぼ平行に配置された表面を含む。いくつかの実施形
態では加熱器とセンサとの両方が、試料が載せられる基板の平面に対して、ほぼ平行に配置された表面を含む。これらの実施形態の一部では、加熱器およびセンサが各々、共通平面に配置された表面を含む。よって、この共通平面は、試料が載せられる基板の平面に対して、ほぼ平行である。これらの実施形態のいずれにおいても、加熱器、センサまたはその両方が、熱導体の下方に配置されてもよい。
【0027】
これらの実施形態のいずれにおいても、特に、加熱器およびセンサが各々、共通平面に配置された表面を含む場合には、加熱器またはセンサの中心は等しくてもよい。いくつかの実施形態では、加熱器とセンサの両方の中心が等しい。これらの一方もしくは両方または一部は、例えば中空円、中空長方形、中空三角形、中空正方形または空洞もしくは多面体形状であってもよい(実施例として、例えば図5を参照)。正方形要素を含む温度制御モジュールは、例えばグーテンベルクらによって開示されている(下記参照)。これらの実施形態の1つでは、加熱器とセンサとの両方の中心が等しく、加熱器がセンサを取り巻いている。他の実施形態では、加熱器とセンサとの両方の中心が等しく、センサが加熱器を取り巻いている。図3Bに断面図で示した実施形態では、加熱器とセンサとの両方の中心が等しく、中心の等しい熱導体の下に配置されている。示した実施形態では、加熱器、センサおよび熱導体は中央中空領域を含み、そのため、各々が各対として描かれていることに注意するべきである。
【0028】
いくつかの実施形態において熱導体またはその一部は、センサの形状、加熱器の形状、またはその両方に合致するように適合した形状である。センサおよび加熱器が例えば、中央が中空で中心の等しい正方形または円形の場合、熱導体は、それに対応して、中央が中空で中心の等しい正方形または円形の形状を有することができる。熱導体の一部が、センサの形状、加熱器の形状またはその両方に合致するように適合している場合、かかる一部は、その他の追加の希望形状部分を含んでもよい。例示的実施例として、熱導体の一部は棒状部分を含むことができる。例えば、センサの形状、加熱器の形状またはその両方に合致するように適合した熱導体の一部が円形の外形を有する場合、熱導体はドーナツ形であることもできる。図4は、リンカで接続された中心の等しい2つの同心部分が熱導体に含まれる例示的実施形態を示す。これらの同心部分の内側は、中心の等しいセンサおよび加熱器に直接接触しており、中心の等しい加熱器が中心の等しいセンサを取り巻いている。熱導体はさらに、棒状部分を含む。よって、これは二重ドーナツ形状である。熱伝導係数は、熱導体の材料、棒状部分の長さ、および同心部分の断面積によって与えられる。熱容量は、試料の容積と共に、二重ドーナツ容積(図4参照)によって与えられる。
【0029】
装置が2つ以上の温度制御モジュールを備える実施形態では、温度制御モジュールの各々が、共通平面に配置された表面を含むことができる。この共通平面は、試料が載せられる基板平面に対して、ほぼ平行であることが可能である。これらの実施形態の一部では、特に、加熱要素がまったく同じ寸法の場合、温度制御モジュールは全体としてもまた、共通平面に位置するように配置することもできる。これらの実施形態のいずれにおいても、例えば、2つ以上の温度制御モジュールが各々、共通平面に配置された表面を含む場合、温度制御モジュールは各平面、例えば、基板平面に対してほぼ平行な平面において、互いに対向していることができる。図5に示した通り、装置は例えば2対、3対、4対、5対またはそれ以上の温度制御モジュール対を含むことができる。各対の2つの温度制御モジュールは、基板の各平面(すなわち、試料が載せられる平面)に対してほぼ平行な平面において、互いに対向することができる。各配置の実施例は、例えば図2に示したものである(図5も参照)。図1は、それに対応する配置を示し、基板はガラス製カバースライドで、その上に試料が載せられている。図1に示した試料は、各容積が1μLの、水ベースの小滴であり、基板の他方側に位置する温度制御モジュールのちょうど上方に置かれている。示した実施形態における水滴は、5μLの鉱油で覆われている。例えば図5Eおよび図5Fに示した通り、温度制御要素は、例えば多ウェルプレート上のウェル配置に類似し
た列の形に配置することができる。かかる列をいくつか組み合わせて装置に、例えば32、48または96個の個別制御可能な温度制御要素を提供することができる。これに応じて、本発明の装置を使用して個別の生物学的、化学的反応またはその両方(下記も参照)を多ウェル形式で実行することができ、それによって、多重化アッセイの全ての試料に対して共通温度プロファイルを適用することしかできない現状の技術が、著しく進歩する可能性がある。
【0030】
本発明の装置はさらに、取り外し可能な基板が温度制御モジュールを完全に覆うように設計されている。装置が2つ以上の温度制御モジュールを備える実施形態では、取り外し可能な基板は、装置の全ての温度制御モジュールを完全に覆うことができる。
【0031】
本発明はさらに、化学的試料、生物学的試料またはその両方、例えば、液滴内に含まれる試料の、温度を調整する方法を提供する。この方法は、上記の通りの装置を提供するステップを含む。この方法はさらに、化学的試料または生物学的試料を加熱するための既定の温度値を提供するステップを含む。この温度値は例えば、加熱器と通信する外部デバイスに保存することができる。この方法はまた、温度センサにより熱導体の温度を測定するステップも含む。測定した温度値は例えば、外部デバイスに通信することができ、当該外部デバイスにおいて、測定した温度は既定の温度値と比較される。さらにこの方法は、測定した温度が提供された温度値未満であれば、加熱器により熱導体に熱を加えるステップを含む。それによって、基板および化学的試料または生物学的試料が加熱される。
【0032】
さらに、2つ以上の既定の温度値を選択することができ、各温度値の各々に時間を関連づけることができる。これに応じて、既定の加熱および非加熱間隔を希望の長さにした時間スケジュールを予め設定し、その後、本発明の方法を用いて実行することができる。例示的実施例として、上記の通りのPCRサイクルプロセス(下記実施例も参照)を、本発明の方法を用いて実行することができる(図8も参照)。また、ある間隔を選択して当該間隔の間、温度を徐々に上昇または下降させることができるということが、理解されるべきである。これは例えば、既定の温度値を経時的に徐々に上昇または下降させること(および、これに応じて行われる加熱)により、達成することもできる。
【0033】
上記の通り、いくつかの実施形態において本発明の装置は、2つ以上の温度制御モジュールを備える。これに応じて、各々の装置を本発明の方法で使用することができる。これらの実施形態の一部では、装置の温度制御モジュールは互いから熱的に絶縁される(上記参照)。かかる実施形態では、装置の各温度制御モジュールにおいて化学的試料または生物学的試料を加熱するために、個別の温度値を提供することができる。これに応じて本発明の方法は、かかる実施形態では、各温度制御モジュールに個別の温度値を提供するステップを含むこともできる。上記の通り、この温度値は通常、化学的試料または生物学的試料を加熱するために設定され、当該試料は、各温度制御モジュールの上方にあたる基板上に置くことができる。よって、複数の試料を、同時にまたは重複時間枠内で、同じ装置を用いて別々に加熱することを選択することができる。よって、希望数のこれらの試料に対して、例えば全部の試料に対して、各加熱間隔の設定、各非加熱間隔の設定またはその両方を提供することができる。
【0034】
互いから熱的に絶縁された少なくとも2つの温度制御モジュールを備える装置を使用する実施形態では、各温度制御モジュールの熱導体の温度を個別に測定することができる。この測定は一般に、各温度制御モジュールの温度センサによって実行される。かかる実施形態では、本発明の方法はまた、測定した温度が提供された温度値未満であれば、各温度制御モジュールの熱導体に個別に熱を加えるステップを含むこともできる。それによって各基板が、また、その結果として各基板上に置かれた化学的試料または生物学的試料が、個別に加熱される。
【0035】
これに応じて、各温度制御モジュール用に、その他の温度制御モジュールとは無関係に2つ以上の既定の温度値を選択することができ、各温度制御モジュールの各温度値の各々に個別の時間を関係づけることができる。これに応じて、本発明の方法を用いて各温度制御モジュールにおいて、既定の加熱および非加熱間隔を希望の長さにした時間スケジュールを実行することができる。例示的実施例として、同じ装置の複数の温度制御モジュールにおいて、別個のPCRサイクル・プロセスを実行することもできる。
【0036】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、装置を提供するステップは、基板を提供するステップを含む。装置に収容できる基板(上記参照)が温度制御モジュールの上方に配置され、そのため、基板は温度制御モジュールを完全に覆う。装置を提供するステップはまた、化学的試料または生物学的試料を提供して基板上に配置するステップを含むこともできる。試料は、いかなる手段で提供してもよい。例示的実施例として、試料は、液滴の場合、ピペットまたは自動分注機により基板上に分注することができる。
【0037】
上記の通り、試料は、液滴であるかまたは液滴内に含まれていてもよい。いくつかの実施形態において本発明の方法は、各液滴を提供するステップを含む。液滴は、基板上に置くことができるものである限り、いかなる希望容積のものでもよい。これに応じて加熱モジュールを、それに対応するサイズであるように選択することができる。液滴を加熱するように設計された温度制御モジュールは例えば、数ミリメートルのサイズまたはマイクロスケールもしくはナノスケールのサイズであることが可能である。よって望まれる場合、本発明の装置は、多数の温度制御モジュールを備える実施形態においてでさえ、持ち運び可能な装置となり得る。
【0038】
液滴は、例えば磁気誘引性物質のような、その他の物質を含んでもよい。例示的実施例として、いくつかの実施形態では、液滴内に磁気誘引性粒子が含まれる場合がある。かかる粒子により、標的物質を誘引できる場合がある。いくつかの実施形態において磁性粒子は、標的物質に対して特異的な親和性を有して標的物質を捕捉し、それによって結合手段として作用するように、機能化され得る。
【0039】
いくつかの実施形態において、液滴は内相と外相とを含み、外相は例えば、薄膜として内相を取り巻いている。かかる実施形態では通常、外相の液体は、内相の液体に対して混和性がない。各相には、いかなる液体を用いてもよい。液滴が不混和性の2相を含む場合、一方の相は通常、極性液体(例えば水、エタノール、アセトン、N,N−ジメチル−ホルムアミドまたはニトロメタンなど)によって形成されるのに対して、他方の相は、非極性液体(例えばベンゼン、ヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフランまたはジエチルエーテルなど)によって形成される。
【0040】
試料は、さらなる物質と混合させることができ、例えば、当該物質内に溶解もしくは懸濁するか、または当該物質と共に例えば同じ液体内に入れられることが可能である。例示的実施例として水性試料は、1つ以上の緩衝化合物を含んでもよい。非常に多くの緩衝化合物が、当該技術分野では使用されており、本願に説明する様々なプロセスを実行するために使用することができる。緩衝液の実施例は、次のものの塩溶液を含むが、それらに限らない。すなわち、燐酸塩、炭酸塩、コハク酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、バルビツール酸塩、蓚酸塩、乳酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、カコジル酸塩、ホウ酸塩、N−(2−アセトアミド)−2−アミノ−エタンスルホン酸(別名ACES)、N−(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(別名HEPES)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジン−プロパンスルホン酸(別名HEPPS)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(別名PIPES)、(2−[トリス(ヒドロキシメチル)−メチルアミノ]−1−エタンスルホン酸(別名TE
S)、2−シクロヘキシルアミノ−エタンスルホン酸(別名CHES)およびN−(2−アセトアミド)−イミノ二酢酸(別名ADA)。これらの塩には、いかなる対イオンを使用してもよく、例示的実施例としてアンモニウム、ナトリウムおよびカリウムが役立つ場合がある。緩衝液のさらなる実施例は、次のものを含むがそれらに限らない。すなわち、いくつか例を挙げると、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、グリシン、グリシルグリシン、ヒスチジン、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(別名TRIS)、ビス−(2−ヒドロキシエチル)−イミノ−トリス(ヒドロキシメチル)メタン(別名BIS−TRIS)およびN−[トリス(ヒドロキシメチル)−メチル]−グリシン(別名TRICINE)。緩衝液は、かかる緩衝化合物の水溶液であってもよく、適切な極性有機溶媒の溶液であってもよい。
【0041】
試料内、例えば液滴の相内に含まれる物質のさらなる実施例は、化学的または生物学的プロセスを実行するための試薬、触媒および反応剤を含むが、それらに限らない。例示的実施例として、細胞または蛋白質を損なわれていない状態で維持するために、塩、基質または界面活性剤を加えることができる。さらなる例示的実施例として、例えば、有機体を痕跡量その他の有毒塩から保護するため、または化学反応の収率を上げるために、キレート化合物が必要とされる場合がある。なお、さらなる例示的実施例として、蛋白質を損なわれていない状態で維持するために、蛋白質分解酵素抑制剤を加えることが必要になる場合がある。考え得る試料添加剤のさらなる実施例は、磁気誘引性粒子を含むものである(上記参照)。上記から、かかる追加物質が液滴内に含まれてもよいことが理解される。液滴が2つ以上の相を含む場合、かかる物質は例えば、試料と同じ相内または異なる相内に含まれてもよい。
【0042】
生物学的試料の加熱は、いくつかの実施形態では、当該試料に対するプロセスを開始するか、再開するか、または当該プロセスの加速を引き起こす場合がある。従って、各試料を加熱する方法は、いくつかの実施形態では、生物学的プロセスまたは化学的プロセスの実行を含む。各プロセスの例示的実施例は、化学反応である。化学反応の実施例は、化学的合成、化学的分解、酵素的合成、酵素的分解、化学的修飾、酵素的修飾、結合分子との相互作用、およびこれらの組み合わせを含むが、それらに限らない。酵素的合成の実施例は、蛋白質合成、核酸合成、ペプチド合成、医薬化合物合成、およびこれらの組み合わせを含むが、それらに限らない。プロセスの補助または監視を行うために、追加のデバイスを使用することができる。多種多様な光学的検知システム、例えば光ダイオード(PD)、光電管(PMT)、光子計数モジュール(PCM)、分光計および電荷結合素子(CCD)の実装によって、例えば、かかる生化学的反応をリアルタイムで並行して監視できるようになる。
【0043】
例示的実施例として、試料は核酸分子を含んでもよく、化学的試料または生物学的試料を加熱するステップは、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」、上記も参照)を含んでもよい。リアルタイム検知によって増幅プロットが提供され、サイクル数として表された反応時間に対する蛍光シグナルが示される(図12参照)。ベースラインを上回る蛍光の増加は、蓄積された増幅生成物の検出を示す。よって、固定の蛍光閾値がベースラインよりも上に設定された場合、蛍光シグナルは、ある時点でこの閾値を通過する。時間はサイクル数という形で表されるので、いわゆるサイクル閾値(CT)数(または値)が得られる。この数字が小さければ小さいほど、増幅プロットに描かれる各蛍光曲線は、出発鋳型の濃度の上昇に対応して、ますます左にずれる。高めのCT数は、出発鋳型の低めの濃度に対応する。
【0044】
「核酸分子」という用語は、本願で使用する場合、一本鎖、二本鎖またはこれらの組み合わせのような、考え得る全ての構成の核酸を指す。核酸は例えば、DNA分子(例えばcDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えばmRNA)、ヌクレオチド類似体を
用いるか、または核酸化学を用いて生成したDNAまたはRNA類似体、およびPNA(蛋白質核酸)を含む。DNAまたはRNAは、ゲノム起源または合成起源であってもよく、一本鎖または二本鎖であってもよい。本発明の方法では通常、RNAまたはDNA分子が使用されるが、必ずしもそうである必要はない。かかる核酸は、例えばmRNA、cRNA、合成RNA、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、DNAとRNAとの共重合体、オリゴヌクレオチドなどであることが可能である。各核酸はさらに、非天然ヌクレオチド類似体を含むこと、アフィニティ・タグもしくは標識に連結すること、またはその両方が可能である(上記参照)。
【0045】
多くのヌクレオチド類似体が知られており、本発明の方法で使用する核酸およびオリゴヌクレオチド内に使用することができる。ヌクレオチド類似体は、例えば塩基、糖または燐酸部分に修飾を含むヌクレオチドである。例示的実施例として、siRNAの2’−OH残基を2’F、2’O−Meまたは2’H残基と置換すると、各RNAの生体内での安定性が改善することが知られている。塩基部分の修飾は、A、C、GおよびT/Uの天然および合成修飾と、ウラシル−5−イル、ヒポキサンチン−9−イルおよび2−アミノアデニン−9−イルのような異なるプリンまたはピリミジン塩基とに加えて、非プリンまたは非ピリミジンのヌクレオチド塩基もまた含む。その他のヌクレオチド類似体は、ユニバーサル塩基として役立つ。ユニバーサル塩基は、3−ニトロピロールおよび5−ニトロインドールを含む。ユニバーサル塩基は、他のいずれの塩基とも塩基対を形成することができる。塩基修飾は、例えば、二重安定性の向上のような独自の特性を実現するために、例えば糖修飾(例えば2’−O−メトキシエチルなど)と、しばしば結合することができる。
【0046】
本発明の装置および方法は、いくつかの実施形態では、標的物質の熱安定性、または標的物質とその他の物質との結合錯体の熱安定性を、決定するために用いることができる。
本発明の方法は、例えば等電点電気泳動、クロマトグラフィー法、通電クロマトグラフィー、界面動電クロマトグラフィーおよび電気泳動法などの、分析的および準備的方法と組み合わせることができる。電気泳動法の実施例は、例えばフリーフロー電気泳動(FFE)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、キャピラリーゾーンまたはキャピラリーゲル電気泳動である。かかる方法との組み合わせは、共通基質を含んでもよい。実施例として蛋白質の分離は、例えば等電点電気泳動により、小表面で、例えばマイクロチップで行うことができる。その後、各表面を、本発明の装置および方法を用いて加熱し、例えば化学的反応、生物学的反応またはその両方を実行することもできる。
【0047】
本発明が容易に理解され実際に実施されるように、具体的実施形態を、次のような非制限的実施例を通じて以下で説明する。
(実施例)
有限要素分析
4つの加熱器から成り、各加熱器が梁で基板に接続された単純ドーナツ構造や、加熱器およびセンサが内側ドーナツに位置する二重ドーナツ形状(図4)を、有限要素分析(FEA)ソフトウェア、ANSYSバージョン9.0によってモデル化した。シリコンに関して450μm、ガラスに関して170μmの実定数で、要素SHELL−57を用いた。モデルの代表的境界条件をチップ周囲で25℃に設定し、ドーナツ温度を94℃、72℃および55℃に設定するために、4つすべてのドーナツ形状内に十分な振幅の熱流束を放散させた。
【0048】
単純ドーナツ構造に関して、最大熱勾配は梁軸に沿っていることが判明した。また、ドーナツ形状に沿った熱勾配も存在し、関心領域内において1℃という比較的高い温度不均一性を引き起こした。
【0049】
二重ドーナツ形状の2つのドーナツは、熱伝導率が内側ドーナツの少なくとも半分であり、2本の梁によって接続されている。それによって、内側ドーナツ内に温度均一性がもたらされる。二重ドーナツ構造のシミュレーション結果は、図6に示され、達成された温度均一性を明らかにしている。熱は、カンチレバーを介してほぼ完全に放散され、出願人らの、ゾーン間のクロストークは最小限であるという予想が裏づけられた。この設計によって、4つすべての領域の温度を互いに無関係に制御できるようになり、よって、4つの異なるPCRプロトコルを同時に実行することができた。装置を得るために使用したチップは、標準的LCC−68ソケットと全く同じボンディングパッド構成で設計されており、そのため、デバイスの熱パラメータを決定するために従来型の試験用ソケット内に締め込むことができた。厚さが約3mmの標準的LCCチップに比べ、出願人らのデバイスの厚さは0.45mmしかなかったため、減った厚さを補って良好な電気的接続を得るために、チップ上部にプラスチック枠を加えた。
【0050】
組立て
デバイス組立て用の基本的な基板は、従来型の4インチ(約10.16センチメートル)シリコンウエハであった。プラズマ化学気相成長(PECVD)法により、シリコン酸化物の1μm層を堆積させた。SiO2膜は、シリコンとその後の金属膜との間の電気絶縁体として役立つ。総シート抵抗が0.11Ω/□の電子ビーム蒸発により、薄いクロム接着層を有する250nm金層を堆積させた。加熱器、センサ、電気リードアウトおよび接触パッドを形成するために、2μm厚のAZ7220ポジ型フォトレジストを用いて、リソグラフィによりAu/Cr層のパターニングを行った。
【0051】
両金属を従来のエッチング溶液で、すなわち、金はKI/I2ベースの溶液で、クロムは(NH4)2Ce(NO3)6ベースの溶液でエッチングした。金属サンドイッチのエッチング後、フォトレジストをアセトンで剥がし、10μm厚のAZ4620フォトレジストを用いて第二のリソグラフィステップを行った。この厚いフォトレジストは、シリコンウエハの全厚を貫通する深彫り反応性イオンエッチング(DRIE)によるシリコンエッチングのマスクとして役立つよう選ばれた。DRIEによるシリコンのエッチングを防止する以外に、フォトレジストはまた、金線も保護した。露出シリコンを感光させるために、シリコン酸化物をまず、7:1緩衝酸化物エッチング液(BOE)でエッチングし、続いてDRIE(ボッシュ法、米国特許第5,498,312号明細書を参照)を行った。チップけがき線のパターニングも行ったため、DRIEプロセスによって個別チップが生成し、比較的脆弱なMEMS構造のダイシングの必要はなくなった。最終プロセスのステップは、個別チップのピラニア溶液(H2SO4/H2O2)による洗浄、脱イオン(DI)水によるすすぎ、および窒素ガスフローによる乾燥であった。
【0052】
装置のキャラクタリゼーション
プローブステーション(probe station)[カスケードマイクロテックインコーポレイテッド社(Cascade Microtech Inc.)]においてデバイスを異なる温度で探査することにより、組み立てたデバイスの電気パラメータを割り出した。アジレント4156C半導体パラメータ分析器(Agilent 4156C Semiconductor Parameter Analyzer)により、抵抗の値を測定した。
【0053】
温度差ΔTに対する抵抗器の抵抗値Rは、次のような簡単な式で説明することができる。
R=R0(1+αΔT) (1)
式中、R0は、公称温度での抵抗器の数値であり、αは、材料の抵抗温度係数(TCR)である。測定データから両パラメータを導き出した(テーブルI参照)。R0および数値を計算した後は、チップをPCBに半田づけして、チップの熱パラメータを測定できるよ
うにした。
【0054】
システムの熱挙動は、次のような微分熱平衡式で説明される。
HdΔT/dt+GΔT=ΔP (2)
式中、Hは熱容量であり、Gは、システムの熱伝導係数であり、ΔTは温度変化であり、tは時間であり、ΔPは、システム内の消費電力変化である。
【0055】
以前、赤外線検知用ボロメータの熱パラメータを導き出すパルス法が公開された(ノイジル、ピィー(Neuzil,P.)、メイ、ティー(Mei,T.)、Applied
Physics Letters、2002年、第80巻、p.1838〜1840)。ボロメータはPCRデバイスに類似した挙動を示すため、まったく同じ試験法を用いた。評価を受けるセンサは、3台の外部抵抗器と共に、平衡ホイートストンブリッジを形成した。持続時間が1m秒で電圧振幅が5Vのパルスを、毎秒1パルス繰り返して当該ブリッジに電力を供給した。
【0056】
パルスに、振幅が0V〜1Vの直流電圧シグナルを重ね合わせた。デバイスの熱容量Hは、時間に対する温度の微分から計算される。印加した直流電圧による周囲を上回る温度上昇は、熱伝導係数Gの関数である。得られたHおよびGの値を、システム時間定数τ(H/Gに等しい)の直接測定により検証した。測定し計算した全ての電気および熱パラメータを、テーブルIに示す。
テーブルI:PCR槽の電気および熱パラメータ。すべての数値は、23℃の周囲温度で測定された。
【0057】
【表1】
温度分布
チップを電気的および機械的に接続するために、フリップチップボンディングに類似した技法を用いて、チップをプリント回路基板(PCB)に半田づけした。半田によって、PCRデバイスとPCBとの間に電気的および機械的接続が形成された(図2参照)。
【0058】
下記の通りに、装置を温度制御電子部品(図7参照)に接続した。個々の加熱器の温度を約65℃、85℃および94℃に設定し、8〜12μmの波長の赤外線(IR)画像を捕捉した。カメラの温度分解能は、0.1Kのノイズ等価温度差(Noise Equivalent Temperature Difference)であった(図6参照)。図6に示した通り、加熱器全体にわたる温度変動は1℃未満であり、よってデバイスは、PCR操作を行うために好適である。
【0059】
制御システム
周囲温度を上回る温度は、加熱電力を調節することにより制御される。出願人らは、パルス幅変調(PWM)原理を用いた。この原理は、システム時間定数よりも著しく短い電
力パルスの、負荷サイクルを調整することにより、平均消費電力を制御するものである。
【0060】
PWMはデジタル式であり、パーソナル・コンピュータ(PC)から制御するラボビュー(LabVIEW)データ取得(DAQ)カードの実装が容易である。チップの温度センサの数値を、閉フィードバックモードに使用した。急速加熱を達成するために、比例積分微分(PID)法を実施した。ラボビューカード6014−Eから供給される最大電流は8.5mAに過ぎず、PCRチップを希望温度に加熱するためには不十分である。その後、高速MOSFET/IGBTドライバ、集積回路IR2121[インターナショナルレクティファイアインコーポレイテッド社(International Rectifiers Inc.)]により、カードとPCRチップとのインタフェースを行った。その出力は、1Aという高い電流を供給することができ、10kHzまでのパルス周波数で、PCRチップに電力を供給することができる。
【0061】
温度センサは、2つの固定式および1つの調節式の抵抗器とともに、ホイートストンブリッジを形成した。その出力を、固定利得が10のINA143US[バーブラウンインコーポレイテッド社(Burr−Brown Inc.)]差動増幅器に接続した。その出力を、IR2121を制御したものと同じカードで、ラボビューソフトウェアにリンクさせた。PCB基板に置かれた1つのチャネルの、全回路図を図7に示す。完全なPCBは、4つのPCRへの4つの並行接続の個別チャネルから成る。
【0062】
装置を、0.5℃よりも良好な温度精度に較正した。Fluorinert(商標)77を充填した恒温槽において、デバイス較正を行った。PCRデバイスの隣にPCBに半田づけされた、50℃〜100℃の範囲で0.1℃の精度に較正された温度センサTSic(商標)(IST−AG社)[スイス連邦ワットウィル(Wattwill)所在]を用いて、デバイスの温度を測定した。
【0063】
4つすべてのチャネルからの出力値を、ラボビューのセットアップ・ファイルに保存し、フィードバック測定に用いた。PCRチップ上に顕微鏡ガラスカバースリップを載せた。仮想的な反応槽(VRC)を、1μLおよび5μLの試料および油容積で、加熱器上に分注した(図1参照)。上記手順により、加熱器の温度は正確に検証されたが、PCR試料それ自体の温度は、それとは異なる可能性が高かった。溶解曲線分析(ラトレッジ、アール ジー(Rutledge,R.G.)、Nucleic Acids Research(Methods on−line)、2004年、第32巻、p.e178)により、試料温度が下記の通りであることを割り出した。試料温度は、94℃の加熱器温度よりも2度低いことが判明し、これに応じてセットアップ・ファイルを訂正した。
【0064】
熱サイクル
制御装置のPID値を最適化して急速加熱応答を達成するために自己較正手順を行う一方で、熱時間定数および周囲温度により冷却速度を割り出した。テーブルIに記した熱パラメータから、デバイス冷却時間は1〜2秒であることが予想される。なぜならば、94℃から55℃への温度変化が、94℃と25℃の周囲室温と温度差の約56%にあたるためである。それは、必要とされる最低速度の−5Ks−1を大きく上回る−20Ks−1〜−40Ks−1の急速な冷却速度を、システムに与えると思われた。達成されたPCR熱プロファイルは、図8に示され、変性(94℃)が15秒間、アニーリング(55℃)が15秒間、伸長(72℃)が30秒間である。
【0065】
蛍光検出
これまでに使用されたシステム(ダスグプタ、ピィー ケイ(Dasgupta,P.K.)ら、Anal.Chim.Acta、2003年、第500巻、p.337〜364、およびキャディ、エヌ シィー(Cady,N.C)ら、Sensors and
Actuators B: Chemical、2005年、第107巻、p.332〜341)に対応するFITC励起/検出キューブ付き水銀ランプを用いて、利得を約5×104に設定した光電管(PMT)(浜松ホトニクス株式会社、H5784−20)により、蛍光応答を検出した。光学台に取り付けたツァイス・アクシオテック・ヴァリオ(Zeiss Axiotech Vario)顕微鏡下に、PCRチップを置いた。PMTに入る周辺光の量を抑えて光学的検出限界を上げるために、測定装備全体を黒い布で覆った。オシロスコープにより、PMTシグナル振幅値を測定して保存した。
【0066】
装置試験
(a)表面調製
非特許文献1において説明された通り、VRCシステムのガラス表面は、疎水性であるだけでなく疎油性である必要もある。
【0067】
異なるフッ素化シラン溶液および準備方法を、いくつか試験した。その後で選択した被覆は、ガラスを3:1のH2SO4/H2O2混合液内で洗浄した後、DI水で洗うことから成るものであった。その後、1mLのゲレストインコーポレイテッド社(Gelest Inc.)製シラン[(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリメトキシシラン]入りビーカと共に、ガラスを室温の真空オーブン[イールドエンジニアリングインコーポレイテッド社(Yield Engineering Inc.)製YES−15E]に入れた。その後、約133.322パスカル(1トル)未満の残圧に達するようにオーブンを真空にし、排気を続けながら、オーブン温度を150℃に上げた。シランを蒸発させ、ガラス表面と反応させた。2〜5時間後、排気を止め、オーブンに窒素を通気し、オーブンからガラススライドを取り出した。表面処理の結果を、接触角システム[データフィジックスゲーエムベーハー社(Dataphysics GmbH)製モデルOCA]を用いた接触角法により検証した。水滴の接触角は110度であったのに対して、鉱油[シグマインコーポレイテッド社(Sigma Inc.)]滴の接触角は70度であった。
【0068】
(b)試料調製
試験媒体として、ヒトのグリセリンアルデヒド三燐酸脱水素酵素(GAPDH)の遺伝子記号の、208対の塩基対断片の940個の鋳型複製[マキシムバイオテックインコーポレイテッド社(Maxim Biotech Inc.)]を使用した。前進プライマーとして5’−CTCATTTCCTGGTATGACAACGA−3’(配列番号1)を、後進プライマーとして5’−GTCTACATGGCAACTGTGAGGAG−3’[配列番号2、リサーチバイオラボインコーポレイテッド社(Research Biolabs Inc.)]を用いた。PCR混合液を、製造者[キアゲンインコーポレイテッド社(Qiagen Inc.)]によって推奨された通りの50μL原液に調製したが、例外が2つあった。すなわち、SYBR Green[インビトロジェンインコーポレイテッド社(Invitrogen Inc.)]を1:10000の最終濃度に希釈し、ウシ血清アルブミン[カールロスインコーポレイテッド社(Carl Roth Inc.)]を1%の最終濃度で加えた。
【0069】
(c)リアルタイムPCR結果
上記の通りに調製したPCR原液を2つに分け、1μLは、PCRチップ用に使用し、残りは、参照の通りの従来型熱サイクラー[エムジェイリサーチインコーポレイテッド社(MJ Research Inc.)]内で使用した。両実験について、PCR混合液を5μLの鉱油[シグマインコーポレイテッド社(Sigma Inc.)]で覆った。熱サイクル条件は次の通りであった。すなわち、94℃での5分間(初期変性)に続き、94℃で1分間の50サイクル(変性)、58℃での1分間(アニーリング)および72℃での1分間(延長)の後、72℃で10分間の最終ステップ。PCRサイクルの1熱ス
テップ当たり1分間は、通常よりも長い。しかしながら、それによって、各ステップの間にシステムが熱平衡に達して酵素反応が完了することが、保証される。これは、この時点では、PCRシステムを高速化するための各ステップの最適化よりも、重要である。
【0070】
溶解曲線分析(ラトレッジ、アール ジー、上述)用に、試料を1分間、65℃まで冷却し、その後、0.01Ks−1の加熱速度で温度を95℃まで継続的に上げた。操作中は、両蛍光シグナル(図9、図10参照)だけでなく温度センサ値もまた、同時に記録した。次のステップは、72℃の延長局面の終わりの蛍光シグナルの、平均値計算であった。PCRサイクルから蛍光出力シグナルを抽出するために、フォートランを用いて短いプログラムを作成した。プログラム入力パラメータは、図9に第一の矢印で示した第一のデータブロックの中心、データ間隔の長さ、および間隔数であった。その後、プログラムによって、当該間隔からのシグナルが平均化され、全50サイクルのサイクル数に関連づけられた。72℃でのPCR出力シグナルから差し引くことになるベースラインシグナルを得るために、同じ手順を、94℃での蛍光シグナル(図9に第二の矢印で示したもの)について繰り返した。次のようなシグノイド関数により、差し引き後のデータセットの近似値を求めた。
【0071】
【数1】
式中、A1、A2は規格化定数であり、パラメータx0は変曲点の位置を表し、kは、当該変曲点での最大勾配を決定する。
【0072】
異なる濃度の鋳型(template)複製の数を10個から100万個まで変えて、PCRプロトコルを行った。計算したx0パラメータを、PCR標準曲線を示す鋳型数に対してプロットした(図11、図12参照)。
【0073】
上記の通り、PCRデバイスの熱サイクル後、PCRの純度を決定するために、溶解曲線分析(フィックスマン、エム(Fixman,M.)、フレーレ、ジェイ ジェイ(Freire,J.J.)、Biopolymers、1977年、第16巻、p.2693〜2704、ウィルケニング、エス(Wilkening,S.)、バーダー、エイ、ジェイ(Bader,A.,J.)、Biomolecular techniques、2004年、第15巻、p.107〜111、およびライアン、イー(Lyon,E.)ら、Clinical Chemistry、2001年、第47巻、p.844〜850)を行った(図13参照)。次のような修正シグモイド関数により、蛍光シグナルの近似値を求めた。
【0074】
【数2】
式中、A0、A1、A2およびA3やx0およびkは、式(3)のものとまったく同じ関数である。
【0075】
フィッティングエラーは、測定データとフィッティング曲線との小差だけを示し、限られた量の副生成物がただ1つのPCR生成物に存在するだけであることを示している。生成物の純粋さが、キャピラリー電気泳動の結果によって立証された(図14参照)。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の装置の一実施形態の写真。温度制御モジュールは、プリント回路基板(PCB)に半田づけされている。その上方に、正方形のガラススライドが基板として配置されている。試料は液滴の形態で基板上に置かれている。
【図2】図1に示した本発明の装置のさらなる写真。温度制御モジュール(8)は、プリント回路基板(PCB)に半田づけされている。取り外し可能な基板は装置上に載せられる。各基板(図1も参照)は温度制御モジュールを完全に覆う。
【図3A】本発明の装置の温度制御モジュールの一実施形態の模式的断面図。温度制御モジュールは取り外し可能な基板(1)で覆われ、この基板上に試料(2)が載せられている。基板(1)は熱導体(3)に接触しており、この熱導体は複数の加熱器(4)と、センサ(5)とに接触している。
【図3B】温度制御モジュールのさらなる実施形態の模式的断面図。試料は液滴であり、内相(6)と外相(7)とを含む。基板(1)は中心の等しい熱導体(3)に接触しており、この熱導体は中心の等しい加熱器(4)と中心の等しいセンサ(5)とに接触している。
【図4】下から見た本発明の装置の温度制御モジュールの別の実施形態の模式図。加熱器(4)およびセンサ(5)の各々の中心は等しく、加熱器(4)はセンサ(5)を取り巻いている。熱導体(3)はリンカ(10)で接続された2つの同心部分と、長さを有する棒状部分(9)とを含む。
【図5A】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの全部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5B】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの一部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5C】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの全部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5D】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの一部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5E】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの一部の対は、反転像として互いに対向してもよい。
【図5F】温度制御モジュールの配置図。温度制御モジュールの対は、試料が載せられる基板の平面に対してほぼ平行な平面において互いに対向している。温度制御モジュールの対が180°とは異なる角度で互いに対向している一実施形態を示す。
【図6A】ANSYSソフトウェアで行った有限要素分析(FEA)の結果を示す図。4つの温度制御モジュールの上方の温度均一性が示されており、到達温度は55℃(右)、72℃(上)、72℃(左)および94℃(下)である。
【図6B】図6Aに示した本発明の装置の実施形態の赤外線画像。PCBに半田づけされた4つの加熱要素を含む。
【図6C】図6Bの線a…a’に沿った温度プロファイルを示す図。温度制御モジュールの上方の温度変動は±0.5℃以内である。
【図7】本発明の装置の単チャネル温度制御モジュールの接続図。加熱器(4)およびセンサ(5)は温度制御モジュールの一部であり、その他のデバイスは、外部のプリント回路基板に置かれる。
【図8】本発明の装置および方法を用いるPCR中の温度/時間プロファイルを示す図。94℃から54℃への温度低下には2秒しかかからず、PIDシステムによって制御されるため加熱は著しく速い。
【図9】例示的なPCRサイクル中に本発明の装置から検出される蛍光シグナル対時間を示す図。72℃の温度での蛍光シグナル(第一の矢印)から94℃の温度での蛍光シグナル(第二の矢印)を差し引くことにより、図10に示すようにリアルタイム・データ点のプロットを行うことができる。
【図10】50回のPCRサイクル中に本発明の装置から検出される蛍光シグナル対時間を示す図。リアルタイム・データ点は、72℃の温度での蛍光シグナル(図9の第一の矢印)から94℃の温度での蛍光シグナル(図9の第二の矢印)を差し引くことにより得られた。この例でのサイクル閾値は約25であった。
【図11】本発明の装置および方法を用いたマイクロPCR勾配(■、太線)と、エムジェイ・リサーチ・インコーポレイテッド社製の市販のシステムを用いて得られた結果(●、細線)との比較を示す図。
【図12】1万の複製に関する規格化蛍光シグナル(■)対サイクル数のプロットを示す、シグモイド関数(線)によりフィッティングの行われた図。
【図13】溶解曲線分析による蛍光シグナルと、シグモイド関数
【0077】
【数3】
によるその近似とを示す図(実施例を参照)。測定データ(下の曲線、太線)とシグモイド関数(下の曲線、細線)とは区別できず、得られたPCR生成物の純粋さを実証している。上の曲線には、その微分値にマイナスを掛けた値が示されている。
【図14】キャピラリー電気泳動の溶出プロファイルを示す図。この結果によって、PCR生成物の純粋さが確認される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの温度制御モジュールを備える、化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置であって、
前記温度制御モジュールは加熱器と、熱導体と、温度センサとを含み、
前記加熱器は、前記化学的試料または生物学的試料が載せられる取り外し可能な基板と前記熱導体を介して熱を伝え合うように適合しており、
前記温度センサは、前記熱導体を介して前記基板の温度を検知して制御するように適合しており、
前記基板が前記温度制御モジュールの上方に位置して前記温度制御モジュールを完全に覆うように設計されている装置。
【請求項2】
前記加熱器は、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行に配置された表面を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記センサは、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行に配置された表面を含む、請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記加熱器および前記センサは各々、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行な共通平面に配置された表面を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記加熱器および前記センサの各々の中心は等しい、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記加熱器は前記センサを取り巻いている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記熱導体は、金属、半導体、ダイヤモンド、カーボンナノチューブおよびフラーレン化合物から成る群から選択された材料を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
互いから熱的に絶縁されている2つ以上の温度制御モジュールを備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記2つ以上の温度制御モジュールは各々、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行な共通平面に配置された表面を含む、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記2つの温度制御モジュールは、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行な前記平面において互いに対向している、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
2対の温度制御モジュールを備え、各対の2つの温度制御モジュールは、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行な前記平面において互いに対向している、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
複数の温度制御モジュールを備える、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
各温度制御モジュールは、他のすべての温度制御モジュールから熱的に絶縁されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
化学的試料または生物学的試料の温度を調整する方法であって、
少なくとも1つの温度制御モジュールを備える、化学的試料または生物学的試料の温度
を調整する装置を提供するステップと、同温度制御モジュールは加熱器と、熱導体と、温度センサとを含むことと、
前記加熱器は、前記化学的試料または生物学的試料が載せられる取り外し可能な基板と前記熱導体を介して熱を伝え合うように適合していることと、
前記温度センサは、前記熱導体を介して前記基板の温度を検知して制御するように適合していることと、
前記装置は、前記基板が前記温度制御モジュールの上方に位置して前記温度制御モジュールを完全に覆うように設計されていることと、
前記化学的試料または生物学的試料を加熱するための温度値を提供するステップと、
前記温度センサにより、前記熱導体の温度を測定するステップと、
測定した温度が提供された温度値未満であれば、前記熱導体に熱を加えることによって、前記基板および前記化学的試料または生物学的試料を加熱するステップと、を含む方法。
【請求項15】
前記化学的試料または生物学的試料が液滴内に含まれる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
化学的試料または生物学的試料の温度を調整する前記装置は、互いから熱的に絶縁されている2つ以上の温度制御モジュールを備える、請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
各温度制御モジュールにおいて前記化学的試料または生物学的試料を加熱するために個別の温度値が提供され、
各温度制御モジュールの前記熱導体の温度は、各温度制御モジュールの前記温度センサにより個別に測定され、
測定した温度が提供された温度値未満であれば、各温度制御モジュールの前記熱導体に熱が加えられることによって、各基板および前記化学的試料または生物学的試料を個別に加熱する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置を提供するステップは、
基板を提供するステップと、
前記基板が前記温度制御モジュールを完全に覆うように、前記基板を前記温度制御モジュールの上方に配置するステップと、
化学的試料または生物学的試料を提供するステップと、
前記化学的試料または生物学的試料を前記基板上に配置するステップと、を含む請求項14乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記試料が、土壌試料、空気試料、環境試料、細胞培養試料、骨髄試料、降水試料、降下物試料、宇宙空間試料、地球外試料、下水試料、地下水試料、摩耗試料、考古学試料、食品試料、血液試料、血清試料、血漿試料、尿試料、糞試料、精液試料、リンパ液試料、脳脊髄液試料、鼻咽頭洗浄試料、唾液・痰試料、口腔スワブ試料、咽喉スワブ試料、鼻腔スワブ試料、気管支肺胞洗浄試料、気管支分泌物試料、乳試料、羊水試料、生検試料、爪試料、髪試料、皮膚試料、癌試料、腫瘍試料、組織試料、細胞試料、細胞溶解物試料、ウイルス培養試料、法医学試料、感染試料、院内感染試料、生成物試料、薬剤調製試料、生体分子産生物試料、蛋白質調製試料、脂質調製試料、炭水化物調製試料、ヌクレオチド溶液、ポリヌクレオチド溶液、核酸溶液、ペプチド溶液、ポリペプチド溶液、アミノ酸溶液、蛋白質溶液、合成高分子溶液、生化学組成溶液、有機化学組成溶液、無機化学組成溶液、脂質溶液、炭化水素溶液、コンビナトリアルケミストリー生成物溶液、薬剤候補分子溶液、薬剤分子溶液、薬剤代謝産物溶液、細胞懸濁液、ウイルス懸濁液、微生物懸濁液、金属懸濁液、合金懸濁液、金属イオン懸濁液、およびこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項14乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記化学的試料または生物学的試料を加熱するステップは、化学的プロセスまたは生物学的プロセスを実行するステップを含む、請求項14乃至19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記試料は核酸分子を含み、前記化学的プロセスまたは生物学プロセスはポリメラーゼ連鎖反応である、請求項20に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも1つの温度制御モジュールを備える、化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置であって、
前記温度制御モジュールは加熱器と、熱導体と、温度センサとを含み、
前記加熱器は、前記化学的試料または生物学的試料が載せられる取り外し可能な基板と前記熱導体を介して熱を伝え合うように適合しており、
前記温度センサは、前記熱導体を介して前記基板の温度を検知して制御するように適合しており、
前記基板が前記温度制御モジュールの上方に位置して前記温度制御モジュールを完全に覆うように設計されている装置。
【請求項2】
前記加熱器は、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行に配置された表面を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記センサは、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行に配置された表面を含む、請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記加熱器および前記センサは各々、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行な共通平面に配置された表面を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記加熱器および前記センサの各々の中心は等しい、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記加熱器は前記センサを取り巻いている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記熱導体は、金属、半導体、ダイヤモンド、カーボンナノチューブおよびフラーレン化合物から成る群から選択された材料を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
互いから熱的に絶縁されている2つ以上の温度制御モジュールを備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記2つ以上の温度制御モジュールは各々、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行な共通平面に配置された表面を含む、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記2つの温度制御モジュールは、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行な前記平面において互いに対向している、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
2対の温度制御モジュールを備え、各対の2つの温度制御モジュールは、前記試料が載せられる前記基板の平面に対してほぼ平行な前記平面において互いに対向している、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
複数の温度制御モジュールを備える、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
各温度制御モジュールは、他のすべての温度制御モジュールから熱的に絶縁されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
化学的試料または生物学的試料の温度を調整する方法であって、
少なくとも1つの温度制御モジュールを備える、化学的試料または生物学的試料の温度
を調整する装置を提供するステップと、同温度制御モジュールは加熱器と、熱導体と、温度センサとを含むことと、
前記加熱器は、前記化学的試料または生物学的試料が載せられる取り外し可能な基板と前記熱導体を介して熱を伝え合うように適合していることと、
前記温度センサは、前記熱導体を介して前記基板の温度を検知して制御するように適合していることと、
前記装置は、前記基板が前記温度制御モジュールの上方に位置して前記温度制御モジュールを完全に覆うように設計されていることと、
前記化学的試料または生物学的試料を加熱するための温度値を提供するステップと、
前記温度センサにより、前記熱導体の温度を測定するステップと、
測定した温度が提供された温度値未満であれば、前記熱導体に熱を加えることによって、前記基板および前記化学的試料または生物学的試料を加熱するステップと、を含む方法。
【請求項15】
前記化学的試料または生物学的試料が液滴内に含まれる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
化学的試料または生物学的試料の温度を調整する前記装置は、互いから熱的に絶縁されている2つ以上の温度制御モジュールを備える、請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
各温度制御モジュールにおいて前記化学的試料または生物学的試料を加熱するために個別の温度値が提供され、
各温度制御モジュールの前記熱導体の温度は、各温度制御モジュールの前記温度センサにより個別に測定され、
測定した温度が提供された温度値未満であれば、各温度制御モジュールの前記熱導体に熱が加えられることによって、各基板および前記化学的試料または生物学的試料を個別に加熱する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
化学的試料または生物学的試料の温度を調整する装置を提供するステップは、
基板を提供するステップと、
前記基板が前記温度制御モジュールを完全に覆うように、前記基板を前記温度制御モジュールの上方に配置するステップと、
化学的試料または生物学的試料を提供するステップと、
前記化学的試料または生物学的試料を前記基板上に配置するステップと、を含む請求項14乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記試料が、土壌試料、空気試料、環境試料、細胞培養試料、骨髄試料、降水試料、降下物試料、宇宙空間試料、地球外試料、下水試料、地下水試料、摩耗試料、考古学試料、食品試料、血液試料、血清試料、血漿試料、尿試料、糞試料、精液試料、リンパ液試料、脳脊髄液試料、鼻咽頭洗浄試料、唾液・痰試料、口腔スワブ試料、咽喉スワブ試料、鼻腔スワブ試料、気管支肺胞洗浄試料、気管支分泌物試料、乳試料、羊水試料、生検試料、爪試料、髪試料、皮膚試料、癌試料、腫瘍試料、組織試料、細胞試料、細胞溶解物試料、ウイルス培養試料、法医学試料、感染試料、院内感染試料、生成物試料、薬剤調製試料、生体分子産生物試料、蛋白質調製試料、脂質調製試料、炭水化物調製試料、ヌクレオチド溶液、ポリヌクレオチド溶液、核酸溶液、ペプチド溶液、ポリペプチド溶液、アミノ酸溶液、蛋白質溶液、合成高分子溶液、生化学組成溶液、有機化学組成溶液、無機化学組成溶液、脂質溶液、炭化水素溶液、コンビナトリアルケミストリー生成物溶液、薬剤候補分子溶液、薬剤分子溶液、薬剤代謝産物溶液、細胞懸濁液、ウイルス懸濁液、微生物懸濁液、金属懸濁液、合金懸濁液、金属イオン懸濁液、およびこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項14乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記化学的試料または生物学的試料を加熱するステップは、化学的プロセスまたは生物学的プロセスを実行するステップを含む、請求項14乃至19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記試料は核酸分子を含み、前記化学的プロセスまたは生物学プロセスはポリメラーゼ連鎖反応である、請求項20に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2009−526549(P2009−526549A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555199(P2008−555199)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/SG2007/000047
【国際公開番号】WO2007/094744
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/SG2007/000047
【国際公開番号】WO2007/094744
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
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