説明

生物機能材料

本発明は、消化タンパク質を使用する自己浄化システムの分野における組成物及び方法に関する。ある組成物は、基質、ステイン分子を分解することができる消化タンパク質、及び消化タンパク質と基質に結合するリンク部分を含む。ほかの組成物は、ステイン分子を分解するための消化タンパク質、及び消化タンパク質がコーティング基質中に分散されうるコーティング基質を含む。本発明の方法は、基質を表面に結合すること;及び消化タンパク質の活性基と前記基質の間にリンカー部分を形成すること、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、自浄性組成物、ならびに鳥の糞、虫の死骸、食べかす及びほかの染みの原因となる物質による表面のステイン沈着を防止及び減少させるための方法に関する。
【0002】
本願は、2006年11月22日に出願された米国特許出願第11/562,503号の利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
2.背景技術
自動車の内部及び外部表面、例えばコーティング、ペイント、及びシート布はともに、鳥の糞、昆虫の死骸、針葉樹の樹脂、微生物、ガム等に長期にわたり暴露されると汚染及び腐食を受ける。一定のステイン(stain)、例えば昆虫由来のステインは、通常の自動ブラシを使用しない洗浄で除去することは困難である。内部表面及びコーティングもまた、食品及び飲料の油、タンパク質、糖類、及びほかの成分によって容易に染色される恐れがあり、このようなステインの適時な除去には一定の努力が必要である。
【0004】
したがって、本発明は、具体的には、表面、例えばペイント及びコーティングにおける、リゾチーム、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等を含む消化タンパク質の混入に関する。消化タンパク質の触媒的な作用は、自己浄化を可能にし、ステインの汚染を減少及び除去することができる。これらの消化タンパク質の作用のメカニズムは、本質的に酵素的であり、いずれかの腐食成分又は酸化成分の使用が必要ではないため、環境に優しいものである。
【0005】
本発明における最初の段階における注目のステインは、虫の破損した死骸、動物(鳥等)の排泄物、食品及びほかの飲料、ならびに化粧品及びパーソナルケア製品から形成されるものである。詳細な成分はステイン源によって変化するが、表面に付着するステインの主要な成分は、タンパク質、多糖、脂質又は油である。
【0006】
3.関連技術の説明
コーティング又は表面を抗菌剤、抗真菌剤もしくは防汚剤を伴う表面を供するための基質中に酵素を混入することが知られている。しかしながら、出願人が知る限り、表面に接触するステイン分子を酵素的に分解する目的で表面に消化タンパク質を付着することは新規である。
【0007】
米国特許第6,818,212号は、消毒のため及び微生物の細胞を殺すための酵素的な抗菌成分を開示する。
【0008】
Wang et al. 2001 は、湿潤状態の共有結合における酵素の寿命の延長を開示する。しかしながら、該文献には表面自己浄化領域において、このように共有結合した酵素の利用については何ら言及していない。
【0009】
米国特許第3,705,398号は、活性抗菌、抗真菌、及び抗菌と抗真菌の組み合わせ特性を有するポリマー用品を開示する。該抗菌及び抗真菌活性剤はポリマー組成物内に分布し、そして表面に移動する。
【0010】
米国特許第5,914,367号は、界面活性剤とタンパク質のイオン対形成を介して有機相中に溶解したタンパク質の存在下でモノマーを重合する工程を含む、ポリマー−タンパク質合成物を調製するための方法を開示する。しかしながら、該文献には、このようなポリマー−タンパク質合成物の消化力を使用するステイン沈着の防止又は減少について何ら言及されていない。
【0011】
米国特許第6,150,146号には、制御速度において抗菌活性を有する化合物をマトリックスから放出する方法を開示する。該方法は、酵素と基質がマトリックス中で互いに反応するように予めマトリックス中に酵素と基質を入れ、これにより抗菌活性を有する化合物を産生する。該特許文献はまた、フィルム形成樹脂、酵素、基質及び基質と反応できるいずれかの酵素を含んでなるコーティング組成物を開示する。
【0012】
米国特許第2005/0058689号は、抗真菌成長及び抗菌物質を有するペイント及びコーティングを開示する。具体的な化学薬品及び製剤は、建築材料におけるかび、細菌、及び真菌の成長を阻害するための抗真菌組成物であり、コーティングされた表面中に混入することが開示されている。
【0013】
本発明の目的は、ステイン沈着を防止及び減少するための消化タンパク質を含有する自浄性組成物及び方法を提供することである。
【発明の概要】
【0014】
発明の概要
第1の観点において、本発明は、基質、ステイン分子を分解することが可能な消化タンパク質、及びリンカー分子を含んでなる組成物を供する。
【0015】
本発明の組成物は、「自動的な」酵素分解反応によって接触しているステイン及び汚れの沈着を防止するためのメカニズムとして有用となりうる。該組成物の消化タンパク質は、タンパク質分子を加水分解するプロテアーゼ、脂質及び脂肪を加水分解するリパーゼ、セルロースを分解するセルラーゼ、及び炭水化物を加水分解するアミラーゼ等を含んでよい。消化タンパク質は、ステイン粒子に全体的に面する機能的な結合ポケットを有することは必要とされず、また必須でもない。たとえ表面上に消化タンパク質がランダムに配置されたとしても、消化タンパク質の層は十分な被覆及び消化活性を果たす。
【0016】
本発明の好ましい態様において、1又は複数の活性基を含んでなるポリマーの層で表面を前処理することができる。消化タンパク質の懸濁液は、タンパク質とポリマー層の間で共有結合を形成するように活性基によりポリマー層上をスピンコーティングしてもよい。活性基は、アルコール、チオール、アルデヒド、カルボン酸、無水物(anhydride)、エポキシ及びエステル等を含んでよい。あるいは、消化タンパク質は、ペイント又はコーティングと懸濁する前にナノ粒子に付着させてもよい。
【0017】
本発明はさらに、ステイン分子を分解するための消化タンパク質、及び消化タンパク質がコーティング基質中に封入されるコーティング基質を含んでなる組成物に関する。該組成物において、消化タンパク質は、リゾチーム、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、グリコシダーゼ、アミラーゼ等から選択することができる。
【0018】
本発明のほかの観点において、ステイン汚染を減少及び/又は除去するための方法が開示される。該方法は、基質を表面に結合させ、そして消化タンパク質の活性基と基質の間にリンカー分子を形成することを含んでなる。該方法において、前記基質は、表面官能基、例えばアルコール、チオール、アルデヒド、カルボン酸、無水物、エポキシ、エステル又はこれらのいずれかの組み合わせを含んでよい。
【0019】
本発明は付随の図面をさらに参照することにより説明される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ポリマーナノ粒子の表面に対する付着を示す図である。
【図2】吸着及び共有架橋結合を介して調製されたプロテアーゼコーティングの蛍光イメージを表す。
【図3】タンパク質アッセイ較正曲線を示す。
【図4】チロシン(加水分解の生成物)についての較正曲線を示す。
【図5】卵白ステイン分解を示す代表的なGPCクロマトグラフを示す。
【図6】卵白ステイン分解の経時変化を示す。
【図7】80℃におけるプロテアーゼコーティングの熱安定性を示す。
【0021】
発明の詳細な説明
第1の観点において、本発明は、基質、ステイン分子を分解することが可能な消化タンパク質、及びリンカー分子を含んでなる組成物を供する。本発明は、具体的には、表面、例えばペイント及びコーティング上における、リゾチーム、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等を含む1又は複数の消化酵素の混入に関する。消化タンパク質の触媒活性は、ステイン汚染を減少及び除去するための自己浄化(self-cleaning)を可能にする。多様なステインは、虫の破損した死骸、動物(鳥等)の排泄物、食品及びほかの飲料、ならびに化粧品及びパーソナルケア製品から形成されるものを含む。詳細な成分はステイン源によって変化するが、表面に付着するステインの主要な成分は、タンパク質、多糖、脂質又は油である。
【0022】
異なるステイン源に対する消化タンパク質の活性は溶液環境中で評価される。試験は、伝統的に適用されてきた洗浄機械の代わりに自動車環境内においてタンパク質の性能を評価する目的で、異なるpH及び温度を含む異なる条件で行われる。試験は、タンパク質関連活性;澱粉関連活性試験;油性ステインによる試験を含む。タンパク質活性単位は、アッセイ条件下37℃において、1単位の消化タンパク質が1分当たり1.0μmolのチロシンに相当する吸光度変化を生じるようにカゼインを加水分解するものとして定義される。活性アッセイの結果は、共有結合的に架橋されたプロテアーゼが、物理的に吸着されたプロテアーゼよりも9倍の活性を供することを示す。
【0023】
基質上に消化タンパク質を組み込むためにいくつかの方法が存在する。その1つは、共有結合の利用に関する。具体的には、消化タンパク質の遊離アミン基は基質の活性基に対して共有結合できる。このような活性基は、アルコール、チオール、アルデヒド、カルボン酸、無水物、エポキシ、エステル、又はこれらのいずれかの組み合わせを含む。第1に、共有結合はタンパク質を基質に対して恒久的に束縛し、これにより消化タンパク質種の漏出を全くではないにしろ、ほとんど伴わない最終組成物の切り離せない部分とする。第2に、共有結合は延長された酵素の寿命を供する。一般的に、タンパク質は、時間とともにそのポリペプチド鎖の変性によって活性を失う。化学的な結合、例えば共有結合は、そのような変性を有意に制限し、これによりタンパク質の寿命を改善する。タンパク質の寿命は、一般的には、経時的に遊離しているか又は物理的に吸着されているタンパク質の活性減少量を、共有結合的な固定化タンパク質と比較することにより測定される。その結果として、遊離形態又は物理的に基質に吸着しているタンパク質は、共有結合形態のタンパク質よりも極めて速く活性を喪失する。
【0024】
あるいは、消化タンパク質は、均質なタンパク質プラットフォームを作るために基質ネットワークの至るところに均一に分散することができる。そのような場合、消化タンパク質をまず重合可能な基で修飾することができる。修飾されたタンパク質は、界面活性剤の存在下において有機溶媒中に溶解することができ、これにより後のモノマー、例えば有機溶液中のチルメタクリレート(MMA)又はスチレンによる重合を保証する。生じた組成物は、ネットワークの至るところに均一に分散された消化タンパク質分子を含む。
【0025】
また、消化タンパク質は、上述の架橋方法と比較して、基質の表面に付着できる。〜100%の表面被覆率に相当する消化タンパク質の付着は、100〜1000nmの範囲の直径を有するポリスチレン粒子により達成される。
【0026】
組成物の消化タンパク質は、タンパク質分子を加水分解するプロテアーゼ、脂質及び脂肪を加水分解するリパーゼ、セルロースを分解するセルラーゼ、及び炭水化物を加水分解するアミラーゼを含んでよい。消化タンパク質は、ステイン粒子に全体的に面する機能的な結合ポケットを有することは必要とされず、また必須でもない。たとえ消化タンパク質が表面上にランダムに配置されたとしても、消化タンパク質の層は十分な被覆及び消化活性を果たす。
【0027】
本発明の好ましい態様において、表面は、スクシンイミドエステルの1又は複数の表面活性基を含んでなるポリマーの層で前処理される。消化タンパク質の懸濁液は、タンパク質と共有結合を形成するために活性基を有するポリマーの層上にスピンコーティングされる。あるいは、消化タンパク質は、ペイント又はコーティングによる懸濁の前にナノ粒子に付着させてもよい。
【0028】
本発明はさらに、ステイン分子を分解するための消化タンパク質、及び消化タンパク質がコーティング基質中に封入されるコーティング基質を含んでなる組成物に関する。該組成物において、消化タンパク質は、リゾチーム、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、グリコシダーゼ、アミラーゼ等から選択することができる。
【0029】
本発明のほかの観点において、ステイン汚染を減少及び/又は除去するための方法が開示される。該方法は、基質を表面に結合させ、そして消化タンパク質の活性基と基質の間にリンカー分子を形成することを含んでなる。該方法において、該基質は、表面活性基、例えばアルコール、チオール、アルデヒド、カルボン酸、無水物、エポキシ、エステル又はこれらのいずれかの組み合わせを含んでよい。
【実施例】
【0030】
例1
酵素はプラスチックの表面に付着させることができる。〜100%の表面被覆率に相当する酵素付着は、100〜1000nmの範囲の直径を有するポリスチレン粒子により達成することができる。消化タンパク質でコーティングすることによりこれらの粒子を、物質の表面を機能的にするためにペイント又はコーティングと一緒に使用してもよい。同様の化学的な結合アプローチは、予め形成されたプラスチック部品上に酵素をコーティングするために適用することができ、これにより部品の表面上にタンパク質コーティングが形成される。図1に示されるとおり、100nm〜1000nmの直径を有する粒子は、エマルション重合により合成することができる。一般的には、エマルション重合は、水、モノマー、及び界面活性剤を含むエマルション中で行われる重合の一種である。エマルション重合の最も一般的なものは、モノマー(油)の液滴が水の連続相中で(界面活性剤により)乳化される水中油エマルションである。
【0031】
上述の粒子は、重合可能な界面活性剤(2−スルホエチルメタクリレート)、安定剤(ポリビニルピロリドン、PVP)、及び開始剤(2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド])を含有する水溶液(水とエタノールの混合物、〜20ml)を混合することにより合成することができ、スチレン、N−アクリルオキシスクシンイミド(NAS、官能性ビニルモノマー)、及びジビニルベンゼン(〜1%v/v)の有機溶液(〜1ml)と共に混合される。粒径は、相比(1/30〜1/15,油相/水相)、並びにエタノール(0.125〜0.50ml/ml)、2−スルホエチルメタクリレート及びPVP(0〜5.5mg/ml)の濃度を調節することにより制御することができる。反応は、70℃で10時間攪拌し、続いて生じた粒子を、ポリエーテルスルホン膜(カットオフMW:30OkDa)を有する攪拌した限外ろ過セル中においてエタノールとDI水で洗浄することにより行うことができる。
【0032】
例2
ステインは異なる接触源から生じうる。虫の死骸、動物の排泄物、食品、ミルク及びほかの飲料、ならびに化粧品及びパーソナルケア製品は全てステインの原因となる。詳細な成分はステイン源によって変化するが、表面に付着するステインの主要な成分は、タンパク質、単糖、多糖、脂質又は油である。消化タンパク質、例えばリパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ及びセルラーゼ(これらはそれぞれ異なる成分を攻撃する)は、このようなステインに対抗するために、極めて有効、安全かつ経済的な薬剤である。表1下に示されるとおり、これらのタンパク質を、出願人のスクリーニングテストにおいて調査し試験したところ、出願人は、活性測定における容易さにより、その後の実験の大半を追行するためにプロテアーゼを最終的に選択した。
【0033】
【表1】

【0034】
例3
N−アクリルオキシスクシンイミド(392mg)、1.2mlのスチレン及び29.2mgの4,4’−アゾビス−(シアノバレリアン酸)を16mlのクロロホルムとともに20mlのガラス反応バイアル中で混合した。バイアルを窒素でパージし、密封し、そして攪拌しながら70℃で12時間インキュベートし、続いてパージしている窒素により溶媒を除去した。ポリマー生成物を50mg/mlの濃度においてクロロホルム中に再度溶解させた。1mlの生じた溶液を6000rpmにおいてポリスチレンプレート(11cm直径)上にスピンコーティングした。Subtilisin Carlsberg由来のプロテアーゼを10mg/mlの濃度において0.05Mリン酸緩衝液中に溶解させた。酵素を以下の3ステップ多層スピンコーティングを介して活性ポリマーでコーティングしたプレート上に適用した:1)1mlのプロテアーゼ溶液、2)0.5%(V/V)のグルタルアルデヒドを含有する1mlのプロテアーゼ溶液、3)1mlのプロテアーゼ溶液。スピンコーティングしたプレートを4℃で12時間保ち、その後0.05Mのトリス緩衝液(pH8)、2M NaCl溶液及びDI水で全面的に洗浄した。最後に、該プレートを空気乾燥させ、そして小片(1×2cm)にカットした。この方法は共有結合架橋と称した。比較として、同様の手順を活性ポリマーコーティングを伴わないポリスチレンプレート上に適用し、これを物理的吸着と称した。
【0035】
例4
酵素コーティングの視覚化
まず、蛍光染料(オレゴングリーン, Invitrogen Corp.)を2mg/mlの濃度においてジメチルスルホキシドに溶解させた。物理的に吸着した酵素及び共有結合的に固定化した酵素を伴う試料プレートを、染料溶液中で静かに振とうさせながら室温で2時間インキュベートし、続いてDI水でリンスした。その後該プレート窒素中で乾燥させ、蛍光顕微鏡で観察した。そのイメージを図2に示す。ここで緑色は酵素で覆われた領域を示す。物理的吸着と比較して、共有結合架橋法を使用した場合、極めて多量の酵素が表面上に固定化した。
【0036】
例5
酵素積載の測定
プラスチックプレートに付着した酵素の量を、改良したブラッドフォード法により測定した。典型的には、まず、ブラッドフォード試薬をDI水で希釈(1:5、体積)することにより希釈標準溶液を調製した。標準として遊離プロテアーゼを使用して較正曲線が得られた。1mlのキュベット中、0.5mlのプロテアーゼ溶液を0.5mlの希釈標準溶液と混合し、その後5分間反応させた。該溶液の吸光度を分光光度計において465nmで測定した。一連の異なるプロテアーゼ濃度を試験した後、図3に示される較正曲線が得られた。
【0037】
固定化した酵素の積載を測定するために、酵素コーティングプレート片(1cm×2cm)を20mlのガラスバイアル中に置き、その後0.5mlのDI水と0.5mlの希釈標準溶液を添加した。該バイアルを室温において5分間静かに攪拌し、染料を固定化酵素に結合させた。その後上清の吸光度を465nmで記録した。同様にして、酵素コーティングを伴わないブランクプラスチックプレートもまた対照として測定した。ブランクプレートで得られた読取は、酵素積載プレートから得られた読取から差し引いた。較正曲線で得られた読取差を比較することにより、プレート上の積載を得、その後これをg/cm2の単位に標準化した。共有結合架橋及び物理的吸着による酵素積載は、それぞれ8.5及び1.0g/cm2であった。
【0038】
例6
酵素コーティングのタンパク質分解活性の検証
溶液中の酵素:基質として0.65%(w/v)カゼインを使用してプロテアーゼのタンパク質分解活性を測定した。プロテアーゼ溶液(0.1ml)を0.5mlのカゼイン溶液とともに37℃で10分間インキュベートした。0.5mlのトリクロロ酢酸(110mM)を添加することにより反応を停止させた。該混合物を遠心分離し、沈殿物を除去した。生じた上清(0.4ml)を1mlの炭酸ナトリウム(0.5M)及び0.2mlのDI水で希釈したフォリン・シオカルト(Folin and Ciocalteu)フェノール試薬(フォリン・シオカルトフェノール試薬をDI水で1:4に希釈)と混合し、続いて37℃で30分間インキュベートした。最後に、該混合物を再度遠心分離し、そして上清の吸光度を分光光度計において660nmで測定した。100μlの緩衝液を添加し、そして同様の試験を行うことにより酵素溶液を伴わないブランク実験を行った。ブランクの吸光度は試料(酵素溶液)から差し引いた。
【0039】
活性単位は、アッセイ条件下37℃において、1単位の消化タンパク質が1分当たり1.0μmolのチロシンに相当する吸光度変化を生じるようにカゼインを加水分解するものとして定義される。チロシンアミノ酸を較正のために使用した。多様な濃度のチロシンをフォリン・シオカルト試薬と反応させた。生じた較正曲線を図4に示す。
【0040】
酵素コーティング:固定化プロテアーゼの活性を、対照として溶液中の酵素及びブランクポリマーコーティング片の代わりに酵素コーティングポリマー片(1×2cm)を使用することにより同様の方法で測定した。タンパク質の活性は、単位面積当たりの表面活性として規定した。
【0041】
活性アッセイの結果は、共有結合架橋プロテアーゼを伴うプレートが5.6×10-3単位/cm2であったのに対し、物理的吸着酵素は、わずか0.6×10-3単位/cm2の活性を示しただけであった。
【0042】
例7
酵素コーティングにおけるステイン分解
モデルステインとして卵白を使用して、酵素コーティング上におけるステイン分解を測定した。プロテアーゼコーティングを伴うプレート(11cmの直径)において、2mlの卵白溶液(DI水中10mg/ml)を2000rpmでスピンコーティングした。その後プレートを小片(1×2cm)にカットし、そして様々な時間において、室温(25℃)に保ち、卵白を分解させた。一定の時間後、1つの小片をDI水で注意深く洗浄し、そして洗浄溶液中の卵白を、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を使用して分析し、分子量の変化を測定した。該GPCクロマトグラフ中には、典型的な2つのピークが見られた:1方は短い保持時間を有し、そして他方は長い保持時間を有し、これらはそれぞれ卵白と分解生成物に対応する。卵白ピークの面積に基づき、図6に示される卵白分解の経時変化を得た。また、プロテアーゼコーティングを伴わないプレートを用いて対照実験を行ったが、明確な生成物ピークは同定されなかった。
【0043】
例8
酵素コーティングの熱安定性
酵素コーティングの熱安定性を、空気加熱オーブン内にて80℃で実験した。一定の時間間隔で試料プレートをオーブンから取り出し、そして例2に記載される手順に従い活性を測定した。時間による活性の減少を図9に示す。共有結合架橋酵素は、物理的吸着酵素と比較して、熱不活性化に対して優れた安定性を示す。
【0044】
本発明は、上述の説明的な実施例に制限されない。実施例は本発明の範囲を制限することは意図されない。本明細書に記載される方法、機器、組成物等は代表的なものであり、本発明の範囲を制限することは意図していない。これらの変更及びほかの使用は当業者に自明である。本発明の範囲は特許請求の範囲によって規定されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステイン分子を分解することが可能な消化タンパク質、基質、及び前記基質と前記消化タンパク質の活性基に結合するリンカー分子を含んでなる組成物。
【請求項2】
前記消化タンパク質が、リゾチーム、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、グリコシダーゼ、又はアミラーゼを含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ステイン分子が、タンパク質、油、脂質、炭水化物、及びセルロースから成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記基質が、アルコール、チオール、アルデヒド、カルボン酸、無水物、エポキシ、及びエステルから選択される1又は複数の群を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記活性基が、アルコール、アミン、チオール、及びカルボン酸から成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記リンカー部分が共有結合である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記消化タンパク質により分解される前記ステイン分子の最終生成物が、水すすぎにより除去できる、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ステイン分子を分解することが可能な消化タンパク質、前記消化タンパク質がコーティング基質中に封入されていることを特徴とするコーティング基質、を含んでなる組成物。
【請求項9】
前記消化タンパク質が、リゾチーム、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、グリコシダーゼ、又はアミラーゼを含んでなる、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ステイン分子が、タンパク質、油、脂質、炭水化物、及びセルロースから成る群から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記コーティング基質が、ペイント、ポリマー及びほかのコーティングを含んでなる、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
自己浄化のための方法であって、基質を表面に結合すること;及び消化タンパク質の活性基と前記基質の間にリンカー部分を形成すること、を含んでなる方法。
【請求項13】
前記基質が、アルコール、チオール、アルデヒド、カルボン酸、無水物、エポキシ、及びエステルから選択される1又は複数の群を含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記表面が、金属、ガラス、ペイント、プラスチック、及び布から成る群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記活性基が、アルコール、アミン、チオール、及びカルボン酸から成る群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記消化タンパク質によるステイン分子の分解が乾燥環境において生じる、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記分解の最終生成物が水又は雨により除去できる、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−510380(P2010−510380A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538445(P2009−538445)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/084050
【国際公開番号】WO2008/063902
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(509144579)ユニバーシティ オブ アクロン (3)
【Fターム(参考)】