説明

生物脱硫装置及び方法

【課題】装置構成が単純で、かつ操作性の良好な生物脱硫装置及び方法を実現する。
【解決手段】3価の鉄イオンを含有する酸性水溶液の循環液に硫化水素を含有する被処理ガスを接触させて硫化水素を循環液に吸収させて吸収液とする吸収塔1と、鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌によって吸収液を再生処理して処理液とする生物反応部8と、該処理液を回収して吸収塔1に循環液として供給する循環液供給手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物脱硫装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように脱硫装置として、乾式脱硫装置、湿式脱硫装置及び生物脱硫装置が知られている。例えば下記特許文献1及び非特許文献1、2には、上記生物脱硫装置の関連技術として、鉄化合物を含む循環液に硫化水素を吸収させて吸収液とし、この吸収液を微生物によって再生する技術が開示されている。特許文献1の生物脱硫技術は、鉄酸化物を含むスラリーを循環液とし、硫化水素と反応した鉄酸化物を硫黄酸化菌(微生物)によって硫化水素吸収前の状態に再生するものである。また、非特許文献1、2の生物脱硫技術は、硫酸鉄の酸性水溶液を循環液とし、吸収液中に生じた硫黄を分離し、硫化水素と反応した硫酸鉄を鉄酸化菌(微生物)で酸化して再生するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3880468号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C.Pagella et.al “H2S gas Treatment by iron bioprocess” Chemical Engineering Science 55(2000)p2185-2194
【非特許文献2】M.M.Mesa et.al “Biological ion oxidation by Acidithiobacillus ferrooxidans in a packed bed bioreactor” Chem. Biochem. Eng,(2002)p69-73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1の技術では、循環液がスラリーであるために、スラリーを濃縮する分離膜や遠心分離装置が必要である。また上記非特許文献1及び2の技術では、吸収液中の固体硫黄を分離する分離装置が必要である。すなわち、従来の生物脱硫装置は、スラリーや固体硫黄を扱わなければならなのので、装置構成が複雑化し、また操作性が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、装置構成が単純で操作性の良好な生物脱硫装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、生物脱硫装置に係る第1の解決手段として、3価の鉄イオンを含有する酸性水溶液の循環液に硫化水素を含有する被処理ガスを接触させて前記硫化水素を前記循環液に吸収させて吸収液とする吸収手段と、鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌によって前記吸収液を再生処理して処理液とする生物反応手段と、該処理液を回収して前記吸収手段に前記循環液として供給する循環液供給手段とを具備する、という手段を採用する。
【0008】
生物脱硫装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記生物反応手段は吸収液を曝気する機能を備える、という手段を採用する。
【0009】
また、本発明では、生物脱硫方法に係る第1の解決手段として、3価の鉄イオンを含有する酸性水溶液の循環液に硫化水素を含有する被処理ガスを接触させて前記硫化水素を前記循環液に吸収させて吸収液とする吸収工程と、前記吸収液を鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌によって再生処理して処理液とする生物反応工程と、前記処理液を回収して前記循環液として前記吸収工程に供給する循環液供給工程とを有する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、3価の鉄イオンを含有する酸性水溶液を循環液として用いることで硫化水素を吸収液に吸収し、当該吸収液中に生成した硫黄を硫黄酸化菌によって硫酸とすると共に鉄酸化菌によって3価の鉄イオンを再生するので、吸収液中に固体硫黄が析出したり、スラリー化することがないので、吸収液中の硫黄を分離する分離装置やスラリーを濃縮するための分離膜や遠心分離装置等が不要となり、装置構成を単純化できると共に操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る生物脱硫装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る生物脱硫装置は、図1に示すように、吸収塔1(吸収手段)、吸収液流路2、再生塔3(生物反応手段)、循環ポンプ4、循環液流路5、給気管6、浄化ガス管7、生物反応部8、エア供給管9、及びエア排気管10を備えている。
【0013】
本生物脱硫装置の適用対象となる被処理ガスは、硫化水素を含有してなるものであれば特に限定されるものではなく、例えば有機性廃棄物等のバイオマスを分解して得られるバイオガスや石炭をガス化して得られる石炭ガス化ガス等である。本生物脱硫装置は、微生物を利用することにより、このような被処理ガスから硫化水素を除去(脱硫)するものである。
【0014】
吸収塔1は、底部に被処理ガスを導入する給気管6の一端が接続されており、また頂部には循環液流路5の一端が接続されている。この吸収塔1は、給気管6を介して外部から供給された被処理ガスに所定の循環液を接触させて、被処理ガス中の硫化水素を循環液に吸収させて吸収液とする。このような吸収塔1は、例えば充填塔、液滴塔、気泡塔等である。循環液流路5によって吸収塔1の頂部に供給された循環液は、下方に向けて散布状に滴下されるので、給気管6を介して吸収塔1の底部に供給された被処理ガスと良好に気液接触する。
【0015】
上記循環液は、3価の鉄イオン(Fe3+)を含有し、pHが例えば1〜2、酸化還元電位(標準水素電極の電位を「0」としたときの酸化還元電位(E値))が例えば600mV以上の酸性水溶液である。このような循環液は、被処理ガスと接触することにより、上記3価の鉄イオン(Fe3+)が被処理ガスに含まれる硫化水素と反応することにより当該硫化水素を吸収する。循環液に関する上記pHと酸化還元電位とは、循環液中の鉄イオンが3価のイオンとして存在できる条件であり、鉄イオンに関して公知のものである。循環液中の鉄イオンを2価のイオンではなく、3価のイオンに維持することにより、硫化水素と鉄が反応して硫化水素を除去することができ、またpHと酸化還元電位を上述の範囲内に維持することにより、吸収液のスラリー化を抑制することができる。このような循環液は、例えば硫酸鉄(III):Fe(SOの水溶液である。
【0016】
また、吸収塔1の底部には、吸収液流路2の一端が接続されている。吸収液流路2は、吸収液を吸収塔1から排出して再生塔3に供給するためのものである。また、吸収塔1の頂部には浄化ガス管7の一端が接続されている。この浄化ガス管7は、被処理ガスから硫化水素が除去された処理済ガス(浄化ガス)を外部に排気するためのものである。
【0017】
再生塔3は、頂部に吸収液流路2の他端が接続されると共に、微生物を担持する生物反応部8を内部に備えている。また、再生塔3の側部には循環液流路5の他端が接続され、再生塔3の上側部にはエア排気管10の一端が接続され、再生塔3の底部にはエア供給管9の一端が接続されている。また、循環液流路5の途中部位には、処理液を再生塔3から払い出して吸収塔1に供給する循環ポンプ4が備えられている。
【0018】
このような再生塔3は、吸収液流路2から導入された吸収液を生物反応部8の微生物による好気的分解反応によって再生し、処理液として循環液流路5に排出する。また、この再生塔3では、エア供給管9から底部に供給されたエアによって生物反応部8内の吸収液が曝気されるので、微生物の好気的酸化分解反応を活性化させると共に、吸収液を攪拌させる。このようなエアは、上側部のエア排気管10から外部に排気される。
【0019】
生物反応部8の担体は特に限定されるものではなく、スポンジ、活性炭、吸収塔で使用した充填材あるいはこれらを組み合わせたものを例示できるが、高密度に細菌を保持でき、液体と酸素とを十分に通過させ、かつ形状を自由に変化させ易いものが適当である。より具体的には、徐膜したスポンジのように、網目内に閉塞物がなく、網目が細かく、比表面積が大きく、網目内に細菌を絡ませて多量に保持できる担体が好適である。
【0020】
また、生物反応部8に担持される微生物は、吸収液中の硫黄を好気的に分解可能な硫黄酸化菌と、2価の鉄イオン(Fe2+)を3価の鉄イオン(Fe3+)に酸化可能な鉄酸化菌とであり、硫黄酸化菌と鉄酸化菌とはそれぞれ一種類であっても複数種類であってもよい。これらの酸化菌は特に限定されるものではないが、硫黄酸化菌としてはAcidithiobacillus thiooxidans等、鉄酸化菌としてはAcidithiobacillus ferroxidans等を例示できる。
【0021】
また、上記エアとしては、生物反応部8における好気的分解に必要な酸素を含むものであれば特に限定されるものではなく、酸素ガス、空気、あるいはこれらを組み合わせたものでも良い。
【0022】
なお、このような本生物脱硫装置の各構成要素のうち、吸収液流路2、再生塔3、循環ポンプ4及び循環液流路5は、硫化水素を吸収した吸収液を微生物による好気的酸化分解反応によって再生させ、循環液として吸収塔1に循環供給する循環液供給手段を構成するものである。循環液供給手段は、吸収塔1において硫化水素を吸収した吸収液を吸収液流路2を介して再生塔3に回収して再生処理し、循環ポンプ4及び循環液流路5を介して吸収塔1に循環液として再供給する。
【0023】
次に、このように構成された生物脱硫装置を用いた生物脱硫方法について説明する。
被処理ガスは給気管6から吸収塔1に導入されて、当該吸収塔1内において循環液と気液接触する。この気液接触によって、被処理ガス中の硫化水素は循環液中に吸収されて吸収液となる。吸収塔1内における循環液との気液接触で硫化水素が除去された被処理ガスは、浄化ガスとして浄化ガス管7から外部に排出されて、燃料ガスや合成ガス等として使用に供される。
【0024】
ここで、循環液が硫化水素を吸収すると、循環液中の3価の鉄イオンは2価の鉄イオンとなり、硫化水素を硫黄とする。この際に循環液のpHが1〜2、酸化還元電位が600mV以上とされていると、吸収液はスラリー化することがなく、装置内における吸収液の取り扱い性が良くなる。また、スラリーを濃縮する必要もない。
【0025】
このような吸収液は、吸収液流路2を介して吸収塔1から再生塔3に導入され、生物反応部8の微生物による好気的酸化分解反応によって、処理液として再生される。すなわち、吸収液中の2価の鉄イオンが鉄酸化菌によって酸化処理されて3価の鉄イオンに再生される。また、吸収液中の硫黄は、硫黄酸化菌によって硫酸にされるので、吸収液から硫黄(固形物)を分離する必要がない。
【0026】
なお、処理液は、硫黄酸化菌が生成した硫酸によって酸性を呈するが、本プロセスは酸性下で進行するものなので、何等問題はなく、むしろ処理液をそのまま循環液として再使用できて好都合である。循環液のさらに厳密なpH調整が必要な場合には、pH調整用の薬剤を添加してもよい。循環液のpHを上げる場合に好適なアルカリとしては水酸化ナトリウムが例示でき、また、循環液のpHを下げる場合に好適な酸としては硫酸が例示できる。処理液は循環液流路5から吸収塔1に供給されて、循環液として再使用される。
【0027】
循環液の温度は、生物反応部8における微生物の活性を保持する目的で、25〜35℃の範囲に維持することが好ましい。この温度範囲以外では、当該微生物の活性が低下するためである。循環液を加熱する方法としては、特に制限はないが、例えば循環液流路5全体に電熱器等の加熱装置を張りめぐらせる方法等が挙げられる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態に係る生物脱硫装置及び生物脱硫方法では、3価の鉄イオンを含む酸性水溶液を循環液とすることによって、吸収液のスラリー化を抑制することができる。また、吸収液中の硫黄を硫黄酸化菌で硫酸とし、鉄酸化菌で3価の鉄イオンを再生するので、再生部3から排出される処理液をそのまま循環液として使用可能となる。よって、本実施形態によれば、従来必要とされたスラリー濃縮装置や硫黄(固形物)の分離装置等が不要となり、装置構成と工程とが複雑化せず、また操作性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0029】
1…吸収塔(吸収手段)、2…吸収液流路、3…再生塔(生物反応手段)、4…循環ポンプ、5…循環液流路、6…給気管、7…浄化ガス管、8…生物反応部、9…エア供給管、10…エア排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価の鉄イオンを含有する酸性水溶液の循環液に硫化水素を含有する被処理ガスを接触させて前記硫化水素を前記循環液に吸収させて吸収液とする吸収手段と、
鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌によって前記吸収液を再生処理して処理液とする生物反応手段と、
該処理液を回収して前記吸収手段に前記循環液として供給する循環液供給手段と
を具備することを特徴とする生物脱硫装置。
【請求項2】
前記生物反応手段は吸収液を曝気する機能を備えることを特徴とする請求項1記載の生物脱硫装置。
【請求項3】
3価の鉄イオンを含有する酸性水溶液の循環液に硫化水素を含有する被処理ガスを接触させて前記硫化水素を前記循環液に吸収させて吸収液とする吸収工程と、
前記吸収液を鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌によって再生処理して処理液とする生物反応工程と、
前記処理液を回収して前記循環液として前記吸収工程に供給する循環液供給工程と
を有することを特徴とする生物脱硫方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−251267(P2011−251267A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127924(P2010−127924)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】