説明

生物適合性重合促進剤

本発明は、改善された生物適合性を有するポリマーマトリックスを形成するための方法、及び材料を提供する。N-ビニル基及び生物適合性基を含む重合促進剤を提供する。重合促進剤は、生物材料、例えば細胞及び組織の表面上に生物適合性ポリマーコーティングを形成するために用いることができる、マクロマーの重合に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物装置に有用なポリマーマトリックスを形成するために用いられる化合物及び組成物に関する。より具体的には、本発明は、ポリマーマトリックスの形成を促進し、これらのマトリックスに生物適合特性を提供することができる化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
近年、幅広い適用のためにin situでポリマーマトリックスを形成するための、重合性オリゴマーの使用がかなり拡大している。これらの試薬は、一般的に、ポリマーマトリックスを形成するために付加重合反応に関与することができるポリマー材料である。ポリマーマトリックスを形成するためのこの種の反応性オリゴマーの使用は、モノマーを用いる重合を含む標準的マトリックス-形成技術を越える多くの利点を提供する。これらのオリゴマー試薬又はマクロマーは、必要ならば水性環境で迅速に重合して、生きている組織及び細胞の存在下にポリマーマトリックスを形成することができる。この種のマクロマーを利用するポリマーマトリックスの形成は、利点、例えば減少した細胞毒性、マトリックス形成時間、マトリックス形成速度の制御、マトリックス特性の制御等を提供する。これらの試薬は、多くの適用、特に組織又は細胞の存在下でポリマーマトリックスの形成に関する適用に、使用を見出した。これらの適用は、外科的接着の抑制、細胞カプセル化、制御された薬物送達、組織コーティング、組織粘着等を含む。
【0003】
外科的接着の抑制のために、重合性マクロマーの溶液を患者の損傷組織部位に適用した。組織損傷は一般的に、侵襲的外科的方法の結果として起こる。創傷治癒過程で、組織「粘着」は、損傷組織と隣り合った健康組織との間に形成することができる。次いで、マクロマー溶液は、損傷及び疾患組織表面に適用した後に、重合して、固体ポリマーマトリックスを形成する。このマトリックスは、治癒組織と周りの組織の間のバリアとして働き、その結果、粘着の形成を抑制する。生物再吸収材料がマトリックスを形成するために使用されるならば、このバリアは最終的には消滅する。
【0004】
細胞カプセル化法は、一般的に、カプセル化された細胞が個体に移植された後に、宿主の免疫拒絶プロセスから保護する合成材料で、細胞又は細胞群を囲むことを目的とする。
細胞の周囲の合成材料は、理想的には、宿主に治療的価値を提供するために、細胞の生存可能性を維持し、細胞を適切に機能させる。この機能を達成するために、細胞をカプセル化する合成材料は、生分解に抵抗性でなければならず、また細胞老廃物、栄養物及び細胞応答に関する分子の拡散を可能にするために十分に透過性でなければならない。好ましくは、この合成材料は、ある宿主分子、例えば外部細胞の崩壊に貢献することができる免疫グロブリン及び補体因子には透過性でない。
【0005】
細胞カプセル化技術の進歩は、カプセル化する合成材料の透過性、機械特性、免疫保護性及び生物適合性の改善に焦点が当てられてきた。高分子電解質複合化、熱可逆性ゼラチン、界面析出、界面重合によるマイクロカプセル化、及び平板及び中空糸型マクロカプセル化を含む、様々なマイクロ及びマクロカプセル化技術は、研究され、Uludag他により検討されてきた.(Adv. Drug Deliv. Rev.; 42: 29-64 (2000))。
【0006】
1つの有望な細胞カプセル化法である界面重合は、生物表面上への、合成又は天然重合性材料等のポリマー化材料の1つの層の形成を含む。界面重合試薬及び方法は、米国特許第5,410,016号明細書及び同5,529,914号明細書、出願人の米国特許番号6,007,833号明細書及び同6,410,044号明細書に記載されている。
【0007】
制御された薬物送達については、生物活性物質がマトリックス-形成調合物への取り込みによって所望の組織部位に送達される。組織表面は、1以上の生物活性物質と混合された重合性マクロマーの溶液で被覆され、次に重合によって固まる。この方法を用いて、生物活性物質は、長期間に渡って組織に送達することができる。
【0008】
組織コーティングについては、マクロマー溶液は、組織表面に適用され、in situで固まる。得られたポリマーマトリックスは組織治癒、再狭窄予防等に有用である。
【0009】
組織粘着については、マクロマー重合によって形成されるマトリックスは、体の組織表面に粘着させるために使用することができる。
【0010】
これらの適用の全てについて、ポリマーマトリックスはそれ自体、マクロマー試薬の前駆体であり、重合を開始し伝播(propagate)するために用いられる方法は、生物適合性でありかつ最小の細胞毒性を有しなければならない。これらの要件を充たすためには、迅速なマトリックス形成が必須である。迅速なマトリックス形成を達成するために、重合開始及び伝播効率は最大でなければならない。これらの効率を向上させる方法がいくつかある。1つの方法は、ポリマー形態で開始剤を提供することである。ポリマー開始剤は、重合反応の開始効率を向上させる。他の方法は、重合調合物中に重合促進剤を含むことである。
【0011】
重合促進剤は、マクロマー調製物に添加される場合に、マトリックス形成を促進する、低分子量のモノマーである。不幸なことに、これらの促進剤の含有は、ポリマーマトリックスの生物適合性に有害な影響を及ぼすかもしれない。
【0012】
本発明の重合開始剤は、組織の存在下で、ポリマーマトリックスの形成に関連するこれらの基本的問題を解決するものである。これらの調合物が組織-接触マトリックスに重合される時に、これらの新規促進剤のマクロマー溶液への添加により、生物適合性マトリックスの形成が可能になる。
【発明の開示】
【0013】
発明の概要
1つの局面では、本発明は、十号可能材料及び生物適合性官能基を有する重合促進剤を含む組成物を提供する。本明細書に記載の重合促進剤は重合性材料と反応して、生物適合性を有するポリマーマトリックスを形成することができる。従って、本発明はまた、重合性材料への重合開始剤の取り込みによって形成される生物適合性ポリマーマトリックスを提供する。特に、本明細書に記載の重合開始剤は、重合性ポリマー(マクロマー)を含む組成物からポリマーマトリックスの形成を促進することができる。
【0014】
重合性材料及び重合開始剤を含む組成物は、重合開始剤も含むことができる。特に、有用な重合開始剤は、光開始基、例えば長波紫外-又は可視光線-活性化分子を含む。組成物は、記載のようにマクロマーも含むが、好ましいマクロマーは水溶性マクロマーである。組成物は受容体又は還元剤も含むことができる。
【0015】
重合促進剤は、以下の任意の生物適合性官能基を含むことができる:ホスホネート(P03-)、スルホネート(S03-)、カルボキシレート(COO-)、ヒドロキシル(OH)、アルブミン結合部分、及びリン脂質部分。好ましい生物適合性官能基は、スルホネートである。
【0016】
別の局面では、重合促進剤は、N-ビニル基を含む。本発明によれば、特に、N-ビニル基を有する重合促進剤は、マクロマーを含む組成物から、ポリマーマトリックスの形成を促進することができる、ことを見出した。本明細書に記載の重合促進剤の1群は、N-ビニル基及びカルボニル炭素を有する。好ましい重合促進剤は、N-ビニルアミド基を含む。N-ビニル基は、ある例では、複素環式環構造の一部分でもよい。
【0017】
別の局面では、本発明は、生物適合性官能基及びN-ビニル基を有する重合促進剤を提供する。特に、N-ビニルアミド及びスルホン酸生物適合性官能基を有する重合促進剤は、本明細書に記載されている。
【0018】
別の局面では、本発明は、生物適合性ポリマーマトリックスを形成する方法を提供する。この方法は、
(a) 少なくとも以下の材料:
(i) 生物適合性官能基を含む重合促進剤;
(ii) 重合性化合物;及び
(iii) 重合開始剤
を表面と接触して置くステップ;並びに、
(b) 当該ポリマー開始剤を活性化して、当該表面上で生物適合性ポリマーマトリックスの形成を促進するステップを含む。この方法は、生物表面、例えば細胞又は細胞群の表面、例えば組織表面をコーティングするために特に有用である。重合促進剤によって提供される生物適合性官能基は、形成されたポリマーマトリックスを有する表面の生物適合性を改善することができる。
【0019】
更に具体的には、本発明の重合促進剤は、細胞をカプセル化する方法に用いることができる。当該方法は、
(a) 少なくとも以下の材料:
(i) 生物適合性官能基を含む重合促進剤;
(ii) 重合性化合物;及び
(iii) 重合開始剤
を1以上の細胞と接触して置くステップ;並びに、
(b) 当該ポリマー開始剤を活性化して、1以上の細胞上で生物適合性ポリマーマトリックスの形成を促進するステップ
を含む。細胞、例えば膵臓由来の内分泌細胞は、本発明の重合促進剤を用いて形成される重合性材料のマトリックスでカプセル化することができる。カプセル化細胞は、治療目的のため対象に導入することができる。
【0020】
別の局面では、本発明は、
(a) 生物適合性官能基を含む重合促進剤;及び
(b) マクロマー
を含む材料の重合によって形成される生物適合性ポリマーマトリックスでカプセル化される細胞材料を提供する。
【0021】
別の局面では、
(a) 重合性材料;及び
(b) 生物適合性官能基を有する重合開始剤
を含む材料の重合によって形成されるポリマーマトリックスで被覆された医療用具を提供する。
【0022】
詳細な説明
本明細書に記載の全ての文献及び特許は、参考文献として本明細書に援用される。本明細書に開示された文献及び特許は、開示に関して単独で提供される。
【0023】
本明細書で用いられる用語は、本発明の範囲を限定するものではない。添付クレームを含むテキストでは、単数形「a(1つの)」、[an(1つの)」及び「その(the)」は、文脈が明白に他の意味を記載しなければ、複数形を含む。従って、例えば、「細胞」とは、1以上の細胞を言い、当業者に公知のその等価物を含む。本発明では、ある用語が頻繁に使用されるが、その意味は本明細書に記載されている。他のものを意味しなければ、本明細書に記載の用語は、当該分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。用語によっては、明細書中で、後に、より詳細に説明される。
【0024】
本明細書で用いる、重合反応のための「開始剤」とは、典型的にはフリーラジカル種を提供することによって重合反応を開始することができる化合物を言う。このフリーラジカル種は、開始化合物により直接的につくることができ、又は重合の開始を促進する化合物、例えば「開始促進剤」、例えば3級アミンから抽出することができる。重合開始剤は、重合反応の開始効率を向上させることができる。
【0025】
本明細書で用いる、重合反応のための「開始剤」とは、反応の開始に従う重合性材料の重合を助けることができる化合物を言う。一般的に、促進剤は、重合反応の完結を促進し、及び/又は重合性な材料が重合化生成物に組み込まれる割合を増加させることになる。本発明の促進剤は、重合化生成物に組み込まれ、改善生物適合性(複数)を有する生成物を提供する。好適な促進剤は、一般的に、マクロマー含有組成物に添加し、重合した時に、マトリックス形成を向上させる、低分子量のモノマー型化合物である。本発明の促進剤は、ポリマーマトリックスに組み込まれるので、例えば、ポリマーマトリックスの構造メンバーとして働く、「コモノマー」又は類似の用語に言及することがある。しかしながら、本発明に明確に記載されているように、促進剤は、生物適合性官能基を含み、マクロマー溶液の重合を促進してポリマーマトリックスを得ることができる。
【0026】
本明細書で用いる「重合性材料」は、1以上の重合性基を有する化合物を言う。重合性基は、フルーラジカル重合を伝播することができる重合性化合物の部分、例えば炭素-炭素二重結合を言う。好適な重合性材料は、重合性モノマー及び重合性ポリマーを含む。
【0027】
重合性ポリマーは、本明細書では、「マクロマー」と言う。マクロマーは1以上の重合性基を含む。ポリマーマトリックスは、マクロマー含有組成物の重合によって形成することができる。マクロマー含有組成物の使用は、例えば、粘度の高い組成物、及び低濃度の低分子量化合物、例えばモノマーを有する組成物を提供することができるので、生きた生物材料の存在下での重合反応にとって有利である。
【0028】
本明細書で用いる「生物表面」は、任意の種類の生物材料の表面、例えば細胞表面もしくは細胞群表面又は組織表面を言う。「組織」とは、類似の細胞群を含む生物集団を言い、典型的には、細胞に関連する細胞外材料を含む。「細胞」は、組織又は器官の一部として存在することができ、又は微生物として独立に機能することができる、個々の膜-結合生物単位を言う。
【0029】
本発明は、例えば組織及び細胞を含む生物材料のカプセル化又はコーティングに有用な重合反応の促進のための方法、及び試薬を提供する。特に、本発明は、カプセル化及びコーティング方法に有用な生物適合性官能基を有する重合促進剤を記載する。重合性材料の存在下、重合促進剤は、ポリマーマトリックスの形成を促進し、これに取り込まれることができる。取り込みの際、促進剤は、マトリックスに改善された生物適合性を与える。
本発明の促進剤は、マクロマーの重合を促進するために特に好適である。好ましい実施態様では、促進剤はN-ビニル基を含む。
【0030】
重合促進剤は、表面、例えば組織又は細胞の表面上でマクロマーの迅速な重合を促進する。この向上した重合率は、カプセル工程に費やされる時間を少なくする。細胞をex vivoで操作する時間を最小限に抑えることができる、それによって、カプセル化細胞の全体的生存能力を改善するかもしれないので、これは有益である。更に、増加した重合率は、細胞が、生物材料に逆効果を与える可能性がある重合化合物中に存在する任意の化合物と接触状態にある時間も最小限にする。重合後、重合開始剤がポリマーマトリックスに組み込まれる時に、重合されたマトリックスの生物適合性が改善される。
【0031】
生物適合性重合開始剤を含む組成物を用いて形成されるポリマーマトリックスの生物適合性の改善は、細胞カプセル化工程では特に有利である。カプセル化細胞を囲むポリマーマトリックスは、理想的には、利点、例えばカプセル化細胞の減少した免疫拒絶、移植カプセル化細胞を囲む繊維性増殖の減少、血液型不適合の減少、及び細胞をカプセル化するポリマーマトリックスの生分解性の減少を提供する。
【0032】
1つの実施態様では、本発明は、生物適合性官能基及び重合性材料を有する重合促進剤を含む組成物を提供する。重合反応を開始する条件下で、重合促進剤は、重合性材料の重合を促進することができ、ポリマーマトリックスと言われるポリマー化生成物と会合することになる。ポリマーマトリックスは、重合促進剤との会合のため、その生物適合性を必要とし又は改善する。
【0033】
一般的に、(改善された)生物適合性を有する表面は、異種表面と比べて宿主表面により酷似することになる。生物適合性ポリマーマトリックスで被覆した表面を有する組織等の基質は、本明細書で記載するように、宿主に導入された場合に、望ましくない影響を受けることが少ないだろう。本明細書で記載の重合促進剤を用いて被覆された基質は、例えば、表面に対する低減した免疫応答、表面上での繊維性肥大の減少、血液非適合性の減少、及びポリマーマトリックスの生分解性の減少に役立つことができる。
【0034】
改善された生物適合性は、生物適合性官能基、例えば負に荷電した基によって得られる。好適な負に荷電した基の例は、スルホネート、ホスホネート及びカルボキシレートを含む。ヒドロキシルも生物適合性を提供することができる。他の生物適合性基は、リン脂質、例えばホスホリルコリン及びアルブミン結合部分、例えば長鎖脂肪酸、例えばオレイン酸塩、ステアリン酸塩、リノール酸塩及びパルミチン酸塩によって提供される(Ashbrook他, J. Biol. Chem; 250: 2333-2338 (1975)。ある例では、生物適合性ポリマーマトリックスは、種々の官能基を有する重合促進剤を用いて調製することができる。この局面では、ポリマーマトリックスは、種々の促進剤の組み合わせによって提供される1以上の生物適合性を有することができる。
【0035】
促進剤は、所望の程度の生物適合性を有するポリマーマトリックスを提供するために充分な重合性組成物中の濃度で使用される。例えば、ポリマーマトリックスは、改善生物適合性を可能にするペンダント生物適合性基のある量を有する。促進剤は、反応の開始に従って、組成物中の重合性材料の重合を促進するために充分な濃度でも使用される。本明細書で記載するように、促進剤、重合性材料及び重合反応で使用することができる他の試薬の量は、他の記載がなければ、総組成物の重量パーセンテージ(wt%)である。理解できようが、試薬を測定するために用いられる方法に関連する微細な変更により、発明の範囲は、本明細書で提供される数値これらの数値に近い数値及びこれらの数値に関連する範囲を含む。
【0036】
0.05 wt%以上の量の促進剤は、マクロマーを含む組成物からポリマーマトリックスの形成を促進するために充分である。組成物中の促進剤の好ましい範囲は、約0.05 wt%〜約1.0 wt%である。そのため、好ましい実施態様では、組成物は、生物適合性官能基を有する重合性材料及び重合促進剤を含み、促進剤は、0.05 wt%以上の濃度で存在し、より好ましくは0.05 wt%〜1.0 wt%の範囲で、最も好ましくは0.1 wt%〜0.5 wt%の範囲で存在する。
【0037】
重合性材料は、ポリマーマトリックスを形成するために充分な濃度で重合性組成物中に存在する。一般的に、重合性材料は、約0.5 wt%以上の濃度で存在する。実施態様によっては、例えば、重合性材料は、約0.5wt%〜約50 wt%の範囲の濃度で存在するマイクロマーを含む。より好ましくは、マクロマー濃度は、約1 wt%〜約30 wt%の範囲である。
【0038】
生物適合性官能基を含む重合促進剤の、ポリマーマトリックスへの取り込み試験は、例えば、Attenuated Total Reflectance (ATR)を有するフーリエ変換赤外(FT-IR)分光計を用いて行うことができる。この分析を実行するための好適な分光計は、例えば、SensIR multi-bounceダイヤモンドATR部品を備えた560 Magna FT-IR分光計(Nicolet Instrument Corp., Madison,WI)である。
【0039】
好適な促進剤は、生物適合性官能基を含み、重合が開始した後にマクロマーの重合を促進することができる。本発明によって提供される重合促進剤は、特にマクロマーを含む組成物の重合を促進することができる、ことを見出した。
【0040】
本発明によれば、N-ビニル基、例えば、エチレン結合的に不飽和基の炭素原子が窒素原子に結合している基を有する重合促進剤は、マクロマーの重合を促進して重合開始に従うポリマーマトリックスをつくることができる。好適なN-ビニル基は、下記式:CH2-CH-NH-及びCH2=CH-N-によって与えられる。そのため、実施態様によっては、本発明は、(a) (i) 生物適合性基及び(ii) N-ビニル基を有する重合促進剤、及び(b) 重合性材料を含む組成物を提供する。
【0041】
促進剤N-ビニル基の窒素原子は、単一又は縮合有機環系の一部でもよい。N-ビニル窒素原子は、直鎖又は分枝鎖を有する化合物の一部でもよい。直鎖又は分枝鎖は、任意の複素環式、脂環式、二環式、三環式、多環式芳香環又は任意の複素環式、脂環式又は芳香族縮合系に結合することもできる。単一又は縮合環構造の一部のいずれかの有機環は、C、N、O又はS原子の任意の組み合わせを有する少なくとも4、最高10原子を含むことができる。
【0042】
N-ビニル窒素原子が環構造の一部である好適な重合促進剤は、式I及び式II:
【0043】
【化1】

【0044】
[式中、
R1はCH2であり;
R2はN-ビニル窒素原子を有する1以上の環構造を形成する原子を含み、ここで、当該環構造は1以上のC、N、O、S又はそれらの組み合わせを有し、任意の当該環原子は別の原子又は化学基に結合することができる;
Zは生物適合性基、例えばP03-、S03-、COO-、OH、アルブミン結合部分及びリン脂質部分を含み;
Xは、少なくとも1以上であり;及び
式IIに関しては、Yは、環部分とZとを分けるスペーサー部分であり、そして炭素原子含有鎖、例えばアルキル又はアルコキシ鎖でよい。]
で表される。
【0045】
好適な環構造は、単一窒素原子を有する複素環式環を含み、ここで、当該単一窒素原子は、N-ビニル窒素原子、例えばピロリジン-及びピペリジン-型構造;ピロール-、イソピロール-、及びピリジン-型環構造、及びその水素化誘導体である。単一窒素原子を含む他の考慮される複素環式環は、オキサゾール-、チアゾール-、オキサジン-、オキサチアジン-型複素環式環構造、及びその水素化誘導体を含む。2つの窒素原子を有する考慮される複素環式環状は、例えば、ピペラジン-型環構造;イミダゾール-、ピラゾール-、ピラジン-、ピリミジン-、ピリダジン-型環構造、及びその水素化誘導体を含む。窒素原子含有環構造は、2以上の縮合環、例えば、インドール-、インダゾール-、インドキサジン-、キノリン-、シノリン-型環系、及びその水素化誘導体;及び、アザ-ビシクロアルカン-型環系、を有する縮合環構造の一部分でもよい。
【0046】
他の実施態様では、本発明の重合促進剤は、N-ビニル窒素原子が式III:
【0047】
【化2】

【0048】
[式中、
R1はCH2であり;
R2はH、炭素原子含有鎖、環系、又は1以上のC、N、O及びS、又はその任意の組み合わせを含むことができる鎖と環系との組み合わせであり、ここで、これらの原子の任意は、別の原子又は化学基に結合することができる;
Yは、共有結合又はN-ビニル窒素原子がZに結合するスペーサーであり;
Zは、生物適合性基、例えばP03-、S03-、COO-、OH、アルブミン結合部分及びリン脂質部分を含み;並びに
Xは、少なくとも1である。]
によって表される直鎖又は分枝鎖構造の一部である、N-ビニル化合物を含む。
【0049】
実施態様によっては、本発明は、(a)(i) 生物適合性官能基、(ii) N-ビニル基及び(iii) カルボニル炭素を有する重合促進剤を提供する。更に他の実施態様では、より具体的には、N-ビニル基の窒素原子は、カルボニル炭素の炭素原子と単結合を共有する。これは、本明細書で「N-ビニルアミド」基と称され、式IV:
【0050】
【化3】

【0051】
[式中、
R1はCH2であり;
R2は、N-ビニル窒素原子を三級又は四級アミドに結合する基であり、
例えばR2はH又はアルキル基であり;R3はH、炭素原子含有鎖、環系、又は鎖及び環系の組み合わせである。]
で表される。生物適合性官能基は、R3に結合することができるか又は場合によってはR2に結合することができる。
【0052】
他の実施態様では、本発明は、生物適合性官能基及びN-ビニルアミドを有する重合促進剤を提供する。当該N-ビニル窒素原子が環の一部であり、式V:
【0053】
【化4】

【0054】
[R1はCH2であり;
R2は共有結合、1〜4の炭素原子、窒素原子又はイオウ原子又はその組み合わせであり;
R3は共有結合、1〜4の炭素原子、窒素原子又はその組み合わせであり、但し、R2及びR3はいずれも共有結合でない;
場合により、R2はカルボニル炭素を含む;
Zは、生物適合性を与える官能基であり、P03-、S03-、COO-、OH、アルブミン結合部分、リン脂質部分等から選ばれ;
Yは、共有結合(Y0)又は環構造と基Zとの間のスペーサー(Y1)であり、ここでY1は炭素原子数1〜4のアルキル、炭素原子数1〜4のアルコキシ、酸素原子、窒素原子又はその組み合わせである。]
の化合物によって表される。好ましいスペーサーは、例えばポリエチレンオキシド又はポリプロピレンオキシドを含む。実施態様によっては、R2及びR3の原子は結合して、アザ-二環性環化合物を形成することができる。好ましい環構造は、少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ少なくとも1つのカルボニル炭素も含む構造、例えば、ラクタム型環、例えばピロリジン;イミド-型環、例えばコハク酸イミド;及びアザ-ビシクロアルカノン環、例えばアザ-ビシクロへプタン、である。
【0055】
重合促進剤のコア環構造に好適なN-ビニルラクタム環の例は、N-ビニルカプリルラクタム(1-ビニル-アゾナン-2-オン)、N-ビニルエナトラクタム(1-ビニル-アゾカン-2-オン)、N-ビニルカプロラクタム(1-ビニル-アゼピン-2-オン)、N-ビニルバレロラクタム(1-ビニル-ピペリジン-2-オン)、及びN-ビニルブチロラクタム(1-ビニル-ピロリジン-2-オン)を含む。重合促進剤のコア環構造に好適なN-ビニルアミドの例は、N-ビニルコハク酸イミド(1-ビニル-ピロリジン-2,5-ジオン)、N-ビニルグルタルアミド(1-ビニル-ピペリジン-2,6-ジオン)、N-ビニルマレイミド(1-ビニル-ピロール-2,5-ジオン)及びN-ビニルフタルイミド(2-ビニル-イソインドール-1,3-ジオン)を含む。重合促進剤分子のコア環構造に好適なアザ-ビシクロアルカノン環の例は、例えば、2-ビニル-2-アザ-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-3-オン及び6-ビニル-6-アザ-ビシクロ[3.2.1]オクタン-7-オンを含む。N-ビニルラクタム、N-ビニルアミド及びN-ビニルアザ-ビシクロアルカノン環の構造によれば、1以上の生物適合性官能基は、環構造(複数)上の任意の非カルボニル炭素に結合することができ、場合により、スペーサーにより環構造(複数)から離れている。
【0056】
他の実施態様では、本発明は、生物適合性官能基及びN-ビニルアミドを有する重合促進剤を提供する。当該N-ビニルアミドは、式VI:
【0057】
【化5】

【0058】
[式中、R1はCH2であり;
Z1及びZ2は生物適合性を与える官能基であり、独立に、P03-、S03-、COO-、OH、アルブミン結合部分、リン脂質等から選ばれ;
場合により、Z1及びZ2の1つはHであり;
Y1は炭素原子1〜4のアルキル;炭素原子1〜4のアルコキシ;1〜4の炭素原子;第二アミン;炭素原子4〜9の複素環式、縮合、二環性又は脂肪族環のスペーサーであり;並びに
Y2は共有結合、Y1又は酸素原子である。]
の化合物によって表される鎖又は分枝構造の一部である。好ましい炭素原子1〜4のアルコキシ基は、例えばポリエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを含む。
【0059】
生物適合性基及びカルボニル炭素に結合したN-ビニル窒素を有する他の有用な重合促進剤は、N-ビニル尿素基、例えば、ビニル尿素及び1-ビニルイミジゾリドンを各々有する直鎖又は環状化合物、N-ビニルウレタン基、例えばビニル-カルバミン酸メチルエステル及びN-ビニルオキサゾリジノンを有する直鎖及び環状化合物を含む。
【0060】
他の実施態様では、本発明は、(a) 式I、II、III、IV、V又はVIに従う重合促進剤、及び(b) 重合性材料を含む組成物を提供する。重合性材料は、好ましくはマクロマーである。
【0061】
他の実施態様では、本発明は、
(a) 重合開始剤を提供するステップ;
(b) 重合性化合物を提供するステップ;
(c) 式I、II、III、IV、V又はVIの重合促進剤を提供するステップ;及び
(d) 重合開始剤を活性化して、その結果、生物適合性ポリマーマトリックスの形成を促進するステップ
を含む、生物適合性ポリマーマトリックスを形成する方法を提供する。重合性材料は、好ましくはマクロマーである。
【0062】
好ましい実施態様では、重合促進剤は、本明細書で「スルホン化N-ビニル促進剤」と称されるスルホネートを含有する生物適合性基を含む。従って、より具体的には、本発明は、(a)(i) スルホネート、(ii) N-ビニル基及び(iii) カルボニル炭素を有する重合促進剤;及び(b) 重合性材料を含む組成物を提供する。
【0063】
有用なスルホン酸N-ビニル促進剤は、アミド(C=C-N-(C=O)-)に結合したN-ビニル部分及び1以上のスルホネート(S03-)を有する化合物を含む。スルホン化N-ビニルアミド促進剤は、N-ビニルアミドスルホン酸塩と化学的には称される。スルホン化N-ビニルアミド促進剤上のスルホネートは、任意の好適な誘導体の形態、例えばスルホネート又はスルホン酸塩で提供することができる。加えて、場合により、スルホネートは、任意の好適なスペーサー、例えばアルキル又はアルコキシスペーサーによりN-ビニル部分から離れている。
【0064】
この基に含まれる化合物は、スルホン酸N-ビニルアミド、例えばスルホン酸N-ビニル
カルボキサミド及びスルホン酸N-ビニルラクタムを含む。スルホン化N-ビオニルラクタムの実施例は、1つの窒素原子及び例えば4〜10炭素原子を含むヘテロ環構造を有する化合物を含む。1以上のスルホネートは、ラクタム環構造の任意の非-カルボニル炭素に結合することができる。スルホネートは、リンカー、例えばアルキル又はアルコキシ連結部分によって結合することができる。例として、スルホン酸N-ビニルカプリルラクタム(1-ビニル-アゾナン-2-オン)、スルホン酸N-ビニルエナトラクタム(1-ビニル-アゾナン-2-オン)、スルホン酸N-ビニルカプロラクタム(1-ビニル-アゼパン-2-オン)、スルホン酸N-ビニルバレロラクタム(1-ビニル-ピペリジン-2-オン)、及びスルホン酸N-ビニルブチロラクタム(1-ビニル-ピロリジン-2-オン)等を含む。
【0065】
スルホン酸N-ビニルカルボキサミドの例は、1つのスルホネートを有する直鎖分子又は1つより多いスルホネートを有する分枝分子を含む。直鎖N-ビニルカルボキサミドの例は、ビニルカルバモイル-メタンスルホン酸、2-ビニルカルバモイル-エタンスルホン酸、3-ビニルカルバモイル-プロパン-1-スルホン酸、4-ビニルカルバモイル-ブタン-1-スルホン酸、5-ビニルカルバモイル-ペンタン-1-スルホン酸、6-ビニルカルバモイル-ヘキサン-1-スルホン酸、7-ビニルカルバモイル-ヘプタン-1-スルホン酸等を含む。
【0066】
好適なスルホン酸N-ビニル促進剤の別の群は、N-ビニル窒素原子が2つのカルボニル基に結合する化合物を含む。この群の化合物は、スルホン酸 N-ビニルアミド、特にスルホン酸環状N-ビニルイミドを含む。スルホン酸環状N-ビニルイミドの例は、スルホン酸 N-ビニルコハク酸イミド(スルホン酸 1-ビニル-ピロリジン-2,5-ジオン)、スルホン酸 N-ビニルグルタルイミド(スルホン酸 1-ビニル-ピペリジン-2,6-ジオン)、及びスルホン酸 N-ビニルフタルイミド(スルホン酸 2-ビニル-イソインドール-1,3-ジオン)等を含む。
【0067】
実施態様によっては、スルホン酸N-ビニル促進剤は、開始剤の活性化後の重合性材料のマトリックスの形成を促進するために好適な濃度で使用される。好ましくは、スルホン酸N-ビニル促進剤は、0.05〜1.00 wt%の範囲で、より好ましくは0.1〜0. 5 wt%の範囲で重合性組成物中に存在する。
【0068】
本明細書で議論するように、N-ビニル基を有する促進剤が、マクロマーを含む組成物の重合を促進することができる、ことを見出した。重合促進剤の促進活性は、マクロマー、開始剤、及び生物適合性官能基を有するN-ビニル促進剤を含む重合性組成物を用いて、マトリックス形成率を評価することによって決定することができる。N-ビニル促進剤の活性は、N-ビニル促進剤を含む及び含まないマクロマー-含有組成物の重合率を比べることにより、決定することができる。
【0069】
マトリックス-形成能を評価する好適なマクロマーは、重合性ヒアルロン酸及び類似の重合性ポリマーを含む。重合促進剤を含む組成物は、基質に適用することができ、マクロマー材料の重合を開始するように処理することができる。この処理後に、処理された組成物は、重合化マクロマーのゲル化マトリックスの形成について分析され得る。評価は、ゲル硬度及びゲルのエラストマー特性の物性評価を含んでもよい。典型的には、促進活性を示さない化合物はゲルを形成させず、組成物は液体状態のままである。
【0070】
重合促進剤を有する重合性組成物は、所望の用途の重合生成物を形成するために使用することができる。有用な適用は、治療目的のための生物表面上に重合性材料のマトリックスを形成することを含む。重合性材料は、1以上の重合性基を有するモノマー及びポリマーを含む、任意の種類の化合物でもよい。重合性基は、フリーラジカル重合、例えば炭素-炭素二重結合を伝播することができる重合化合物の部分である。好ましい重合性基は、ビニル又はアクリル酸基を有する重合性化合物に見出される。より具体的には、重合性部分は、アクリル酸基、メタクリル酸基、エタクリル酸基、2-フェニルアクリル酸基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、イタコン酸基及びスチレン基を含む。細胞材料のカプセル化のための好ましい材料は、生物適合性重合性ポリマー(マクロマー)である。このようなマクロマーは、直鎖もしくは分枝ポリマー又はコポリマー、又はグラフトコポリマーでよい。本発明の促進剤と併用するために好適な合成ポリマーマクロマー、ポリサッカライドマクロマー及びタンパク質マクロマーは、米国特許第5,573,934号明細書(Hubbell他)に記載されている。
【0071】
好ましいマクロマーは、重合性ポリ(ビニルピロリジン) (PVP)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド) (PEO)ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリアクリルアミド(PAA)、ポリ(ビニルアルコール) (PVA)、そのコポリマー等を含むがこれらに限定されない。これらの種類のマクロマーは、典型的には水溶性であり、生分解性ポリマーに比べてin vivoでより安定である。特に、PEG及びPAAは好ましいマクロマーである。
【0072】
場合によっては、重合性材料として天然又は合成マクロマーを使用することが望ましい。好適なマクロマーは、天然ポリマー、例えばポリサッカライド、例えばヒアルロン酸(HA)、デンプン、デキストラン、ヘパリン及びキトサンを含むがこれらに限定されない;及びタンパク質(及び他のポリアミノ酸)、例えばゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、アルブミン及びその活性ペプチドを含むがこれらに限定されない、を含む。これらの天然又は合成マクロマーを重合性にするためには、標準的熱化学的反応を用いて重合性基をポリマーに組み込む。例えば、重合性基は、リジン残基を含有するアミンと塩化アクリロリルとの反応を介してコラーゲンに付加することができる。
【0073】
これらの反応は、重合性部分を含むコラーゲンをもたらす。同様に、マクロマーを合成する場合には、反応性基を含有するモノマーは、合成スキームに組み込まれる。例えば、ヒドロキシエチルメタクリル酸(HEMA)又はアミノプロピルメタクリルアミド(APMA)は、N-ビニルピロリドン又はアクリルアミドと共重合して、ペンダントヒドロキシ又はアミン基を有する水溶性ポリマーを得ることができる。これらのペンダント基は次に、塩化アクリロイル又はグリシジルアクリル酸と反応して、ペンダント重合性基を有する水溶解性ポリマーを形成することができる。好適な合成ポリマーは、前掲の米国特許第5,410,016号明細書に記載の分解性部分を含有する親水性モノマーを含む。
【0074】
重合性組成物は、フリーラジカル重合を直接又は間接的に開始することができる開始系も含む。間接的方法は典型的には、活性化開始剤からのエネルギーの、受容体又は還元剤フリーラジカルを形成することができ、重合性材料のフリーラジカル重合を起こすことができる化学種への輸送を含む。
【0075】
開始系は、それ自体、例えば、異種の官能基性を有する化合物へ結合せずに使用することができる、又は化合物、例えばポリマー、例えば開始剤ポリマーに結合することができる。開始剤ポリマーは、1以上の開始剤の部分又は開始剤の基を含む。開始系は、活性化の際には、重合性材料のフリーラジカル重合を直接的又は間接的に促進する。場合によっては、例えば、親和性相互作用等により、生物材料の表面に局在化し得る開始剤が使用される。これらの事象は、生物表面上にポリマーマトリックスの層を形成させる。
【0076】
開始系は、光活性化光開始基、熱活性化開始基、化学的活性化開始基、又はその組み合わせを含むことができる。好適な熱活性化開始基は、4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)及び2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩又は他の熱活性化開始剤を含む。化学的に活性化された開始反応は、一般的には、レドックス開始反応、レドックス触媒作用又はレドックス活性化反応と言われる。一般的に、有機及び無機酸化剤と、有機及び無機還元剤との組み合わせは、重合のラジカルを発生させるために使用される。レドックス開始反応の記載は、Principles of Polymerization, 第2版, Odian G., John Wiley and Sons, 201-204頁, (1981)に見出される。生物系にダメージを与えないレドックス開始剤が好ましく使用される。生物系にダメージを与えない光開始基及び熱活性化開始基は、好ましく使用される。
【0077】
光開始反応は、ノリッシュI型反応、分子内又は分子間水素引き抜き反応、及び光還元性又は光酸化性色素を用いる光増感反応を含む、様々な機構で起こる。後者の2種の反応は、エネルギー転送受容体又は還元剤、例えば三級アミンにより使用される。このような三級アミンは、マクロマーのポリマー骨格に組み込むことができる。開始系は、分子内もしくは分子間水素引き抜き反応、又は活性化された時に光還元性又は光酸化性色素を用いる光増感反応を許容する1以上の開始基を含む。これらの種類の開始剤による使用のために有用なエネルギー転送受容体又は還元剤は、三級アミン、例えばトリエタノールアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン; 二級アミン、例えばジベンジルアミン、N-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミン; 及び、一級アミン、例えばエタノールアミン、リシン及びオルニチンを含むがこれらに限定されない。
【0078】
350 nm以上の吸収を有する光開始基が用いられる。より好ましくは、500 nm以上の吸収を有する光開始基が用いられる。好適な光開始基は、光-活性化開始基、例えば長波紫外(LWUV)光-活性分子及び可視光活性分子を含む。好適な長波紫外(LWUV)光-活性分子は、((9-オキソ-2-チオキサンタニル)-オキシ)酢酸、2-ヒドロキシチオキサンタン及びビニルオキシメチルベンゾインメチルエーテルを含むがこれらに限定されない。好適な可視光活性光開始剤は、アクリジンオレンジ、カンファーキノン、エチルエオシン、エオシンY、エリスロシン、フルオレセイン、メチレングリーン、メチレンブルー、フロキシン、リボフラビン、ローズベンガル、チオニン及びキサンチン色素を含むがこれらに限定されない。
【0079】
本発明によれば、重合開始剤及び重合性材料を含む組成物の重合生成物は、生物適合性官能基を有する重合化材料のマトリックスを提供する。1つの実施態様では、本発明は、スルホネートを有する重合化材料のマトリックスを提供する。このマトリックスは、スルホネートを有する重合促進剤の、重合化材料への取り込みによって形成される。
【0080】
この重合化材料のマトリックスは、様々な被覆表面に所望の性質を与えることができる。特に、体の一部に導入される被覆材料は、体内での改善された生物適合性を有する。このような被覆材料は、被覆された、例えばカプセル化された細胞又は細胞材料、及び被覆された移植可能な医療用具を含む。改善生物適合性は、被覆材料の体内への導入に関連する望ましくない効果、例えば、免疫拒絶、繊維性肥大、血液不適合性及びマトリックスの生分解性、が比較的ない被覆材料の能力を言う。
【0081】
特に、スルホン酸N-ビニル促進剤は、細胞カプセル化試薬として使用することができ、生物適合性ポリマーコーティングしたカプセル化細胞を提供することができる。ポリマーコーティングは、宿主免疫応答を引き起こす抗原決定基を提示することなく、負に荷電した生きた細胞表面を模倣することによって生物適合性を改善する。このような減少は、免疫細胞、例えば、マクロファージ又はリンパ球の結合又は誘引における減少、又は免疫分子、例えば抗体、のカプセル化材料表面への結合における減少では明らかである。
【0082】
加えて、生物適合性官能基、例えば、スルホネートを有するポリマー材料のマトリックスでカプセル化された細胞は、改善された血液適合性も証明する。改善された血液適合性は、血液成分凝固に関連する効果、例えば、凝固時間、フィブリン会合、トロンビン活性化及び血小板結合及び拡散の減少、が比較的ない被覆材料の能力を言う。そのため、本発明の組成物によって提供されるコーティングは、血液成分が体内の被覆材料の全体性及び機能に逆に影響する可能性を減少させる。例えば、本発明の組成物を用いて形成されるコーティングは、被覆材料、例えばカプセル化された細胞材料、の表面の血小板及び血栓滞留の量を減少させる。
【0083】
従って、生物適合性基を有する促進剤、例えばスルホン酸N-ビニル促進剤を含むポリマー組成物から形成されるカプセルは、宿主成分による機能の破壊又は抑制の可能性を減少させることによって、カプセル化された及び移植された細胞の機能を改善する。
【0084】
先に指摘したように、本発明の生物適合性重合促進剤を含む組成物は、マクロマーを用いて典型的には使用され、場合によっては、生物表面にコーティングを提供する方法では、還元剤/受容体を用いて使用される。この試薬、細胞カプセル化法には特に好適である。
【0085】
カプセル化される細胞又は組織は、生物、例えばヒト・ドナーから得られ、又は細胞が形質転換され又は改変される細胞培養物から得られる。カプセル化することができ、及び疾患の治療に使用することができる特定の種類の細胞及び組織を以下で述べる。特に細胞又は組織は、カプセル化工程の前に治療に供される。例えば、組織は、酵素又は他の好適な試薬、例えばトリプシン、ヒアルロニダーゼ又はコラーゲナーゼで処理し、カプセル化工程のために好適なサイズの各細胞又は細胞群を得ることができる。あるいは、組織は、好適な細胞性出発原料を調製するために、機械的方法に供される。カプセル化の前に、細胞は薬物、プロドラッグ、ホルモン等でも処理することができ、又は所望の発現パターンを示し又はある形態的特徴を有する細胞を提供するために培養することができる。細胞又は組織の調製及び調製された細胞又は組織の治療ための詳細な教示を提供する技術的文献は、入手可能であり、例えばBasic Cell Culture Protocols, Pollard, J. W. and Walker, J. M., Ed. (1997) に見出される。
【0086】
あるいは、発明の生物適合性重合促進剤組成物を用いるカプセル化に好適な、かつ当該組成物を用いる用途として考慮される細胞又は組織は、商業的に入手することができる。例えば、生きたヒト肝臓調製物、例えばミクロソーム及び肝細胞、及び生きたヒト膵臓調製物、例えば膵臓ランゲルハンス島は、商業源例えばCellzDirect, Inc. (Tucson, AZ)から入手することができる。
【0087】
技術文献で入手可能な情報により、表面をコーティングするための方法、特に、細胞及び組織をカプセル化するための本明細書に記載の新規かつ進歩性のある方法において、生物適合性重合促進剤組成物を利用することができる。例えば、Cruise他のCell Transplantation 8: 293 (1999)の教示は、本発明の生物適合性促進剤組成物を用いる細胞カプセル化法に基礎を提供することができる。
【0088】
カプセル化工程に好適な細胞又は組織は、上記のようにして調製するか又は商業源から得られ、これらは、好適な溶液、例えば生物適合性緩衝液、例えばRoswell Park Memorial Institute (RPMI)培地、中に懸濁することができる。この溶液に、他の試薬、例えば動物血清;タンパク質、例えばアルブミン;酸化剤:還元剤;ビタミン類;鉱物類;成長因子;又は、細胞又は組織の生存可能性及び機能に影響を与えることができる他の成分を添加することができる。
【0089】
重合促進剤は、細胞又は組織を当該溶液に接触する前後に、重合性材料を含む溶液に添加することができる。開始剤は、細胞又は組織の周囲のマトリックスの形成に十分である量で細胞に接触することができる。重合促進剤の有用な濃度は、重合組成物の0.05〜1.00 wt%である。場合により、洗浄ステップを行うことができる。この洗浄ステップは、例えば、細胞に接触する過剰の開始剤又は他の材料を除くために、使用することができる。重合促進剤を細胞又は組織に接触させた後、重合性材料、例えばマクロマーを細胞に接触させることができる。
【0090】
別の実施態様では、重合促進剤は、重合性材料と共に細胞又は組織に接触される。更に他の実施態様では、重合性材料は、重合促進剤を細胞に接触させる前に、細胞に接触される。
【0091】
重合性材料、例えばマクロマーは、所望の厚さのマトリックスの形成を可能にする量で細胞又は組織に接触させることができる。細胞カプセル化に有用なマクロマー溶液の濃度は、5〜50 wt%の範囲、より好ましくは10〜30 wt%の範囲でよい。ある実施態様では、重合性材料は、重合反応を開始する前の時間、細胞と接触させることができる。
【0092】
他の試薬は、カプセル化の間、細胞又は組織と接触させることができる。先に述べたように、このような試薬は、フリーラジカルを形成し、重合性材料のフリーラジカル重合を起こすことができる、受容体又は還元剤、例えば三級アミン、例えばトリエタノールアミンを含む。好適な受容体又は還元剤は当該分野では公知であり、商業的に入手可能である。
【0093】
これらの受容体又は還元剤は、開始基が受容体又は還元剤にエネルギーを移送して、重合性材料のフリーラジカル重合を促進する、間接的重合法で典型的には用いられる。粘度-増加剤等の試薬も本発明の方法に使用することができる。粘度-増加剤は、重合工程を改善することができる。好適な粘度-増加剤は、当該分野で公知であり、商業的に入手することができる。当業者は、カプセル化法を行うためのこれらの任意の追加の試薬の好適なリョを決定することができる。
【0094】
マトリックスの形成を促進するために必要な試薬を被覆される表面に接触させた後、エネルギー源、例えば開始基を活性化するために十分な熱又は電磁エネルギーが、重合性材料の重合を開始するために適用される。350 nm〜900 nmの範囲の長波紫外(LWUV)及び可視波長が好ましく、ランプ及びレーザー光源によって供給することができる。これらの波長の光を提供することができるランプ及びレーザー光源は、商業的に入手可能であり、例えばEFOS Inc. (Mississauga, Ontario, Canada)から得られる。特に好適な波長は約520 nmである。反応時間及び温度は、所望のコーティングを提供するために維持される。例えば、開始系、促進剤及びマクロマーと接触する細胞又は組織は、秒から分の範囲の時間、光で処理することができる。次いで、カプセル化細胞又は組織は、必要ならば更なる処理に供される。例えば、カプセル化材料を対象に導入する前に、例えば遠心によってカプセル化材料を濃縮することが望ましい。
【0095】
指摘したように、細胞をカプセル化する詳細な方法を提供する多数の技術文献が入手できる。従って、入手できる情報を用いて、材料の表面コーティング、より具体的には、生物適合性重合促進剤組成物及び本明細書又は他の文献に記載の試薬を使用して、細胞材料及び組織のカプセル化を行うことができる。
【0096】
本発明はまた、重合性組成物を動物に提供することに関連する毒性の可能性を減少させる方法を提供することができる。例えば、生物適合性官能基を有する重合促進剤の使用は、重合性組成物、特にin situで生きた材料及び生物に対する毒性の危険性がない又はほとんどない重合性組成物の使用を可能にする。これは、少なくとも部分的には、重合性材料の重合を完了させる、例えば、重合速度を促進することによって、有毒な可能性のある出発材料、例えばマクロマーの消費をもたらす、本発明の重合促進剤の能力による。加えて、1以上のスルホネート、ホスホネート、カルボキシレート、ヒドロキシル、リン脂質又はアルブミン結合官能基は、促進剤の親水性を増加させ、水溶性媒体中の生物適合性促進剤組成物の溶解性を改善することができる。
【0097】
本発明によれば、重合促進剤を含む重合性組成物は、生物表面上に重合化材料のマトリックスの形成を促進するために使用することができる。生物適合性促進剤組成物を用いる重合は、重合促進剤及び重合性材料を併せて又は別個に含む組成物を、侵襲的又は非侵襲的方法のいずれかで、対象に適用することによって、in vivoで行うことができる。他の特に有用な適用は、細胞又は組織のex vivoカプセル化を含む。この適用では、細胞又は組織は、好適なソースから得ることができ、本明細書に記載の重合促進剤を含む組成物を用いて重合材料のマトリックスでカプセル化することができ、次いで、カプセル化細胞又は組織が必要な対象に導入することができる。
【0098】
ある場合には、移植されたカプセル化細胞を受けた後、対象は、細胞をカプセル化するマトリックスを浸透することができ、対象に治療的価値を有する細胞応答を引き起こすことができる薬剤を投与される。このような種類のex vivoカプセル化及び移植方法は、有益である。宿主免疫拒絶から移植細胞を保護し、同時にカプセル化細胞に、宿主に治療的価値を提供させるマトリックスコーティングを提供することができるからである。
【0099】
本発明の1つの局面では、重合促進剤を含む組成物は、下垂体由来の細胞;副腎由来の細胞;甲状腺/副甲状腺由来の細胞;膵臓ランゲルハンス島由来の細胞、例えばβ-細胞、α-細胞、δ-細胞及び膵臓ポリペプチド(PP)細胞;肝臓由来の細胞;及び、生殖腺、例えば精巣及び卵巣由来の細胞を含む、内分泌系の腺及び器官から細胞又は組織をカプセル化するために使用される。内分泌細胞は、ドナー個体から採取することができ、本明細書に記載の生物適合性重合促進剤組成物を用いて重合性材料でカプセル化することができる。
【0100】
カプセル化内分泌細胞は、以下の任意の症状及び要求を有する個体に移植することができる:下垂体障害、及び成長モルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、オキシトシン、又は抗利尿ホルモン(ADH)の要求;副腎障害、及び鉱質コルチコイド(例えば、アルドステロン)、糖質コルチコイド(例えば、コルチソール)、男性ホルモン性ステロイド又はカテコールアミン、例えばエピネフリン又はノルエピネフリンの要求;甲状腺又は副甲状腺障害、及びチロキシ、カルシトニン又は副甲状腺ホルモン(PTH); 膵臓障害、例えば糖尿病及びインシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン又は膵臓ポリペプチドの要求;肝臓障害、及び胆汁又は血漿タンパク質、例えば凝固因子の要求;生殖腺障害、及び男性ホルモン、例えばテストステロン又は女性ホルモン、例えばエストロゲンの要求。
【0101】
カプセル化され得る他の種類の細胞は、心血管、呼吸器、腎臓、神経、筋肉及び骨格系由来の未熟及び成熟細胞を含む。ある局面では、形質転換され又は遺伝子的に改変された細胞は、宿主にカプセル化し及び宿主に移植することができる。例えば、形質転換され又は改変されて治療上有効な化合物、例えばペプチドホルモン又は酵素を産生する細胞は、カプセル化し、個体に導入することができる。
【0102】
本発明は、具体的には、界面重合化合物、組成物及び糖尿病治療の方法も提供する。特に、本発明は、インシュリン産生細胞及び腺の周囲の生物適合性ポリマー層の形成を提供するために有用である重合促進剤を含む組成物を提供する。
【0103】
上記のように、ある例では、薬剤は、カプセル化細胞の移植後に、対象に投与することができる。薬剤は、必要ならば、カプセル化細胞からの治療上有用な細胞応答を引き起こすことができる。インシュリン産生を刺激することができ、移植されたカプセル化インシュリン産生細胞を共投与することができる他の薬物は、メトホルミン、アカルボース及びトログリタゾンを含む。カプセル化細胞を有する対象に投与することができる他の有用な薬物は、抗血性、抗炎症性、抗菌性、抗増殖性及び抗癌性化合物、並びに成長因子、形態発生タンパク質等を含む。
【0104】
別の局面では、促進剤及び重合性材料を含む組成物は、人工的バリア、例えば、外科手術後の組織接着を予防するためのバリアを提供するためにin vivoでの適用にも使用することができる。この適用に関し、重合促進剤及び重合性材料が組織表面に適用される。次いで、組成物は照射されて重合を開始し、バリアマトリックスが形成される。ポリマーマトリックスは、他の組織が被覆組織に接着しないようにする。ある方法では、ポリマーマトリックスは、血管表面上に形成されて、血液因子又は細胞、血小板が血管壁と相互作用しない又は接着しないようにすることができる。分解性及び非分解性マクロマー系はいずれも、この目的に使用することができる。
【0105】
本発明の重合促進剤を含む組成物は、他の医学的に有用な目的に利用することもできる。例えば、重合促進剤を含む組成物は、組織及び他の表面への接着を形成するために使用される成分でもよい。一時的接着が望ましい場合には、重合性材料は、分解性材料、例えば生分解性マクロマーを含むことができる。重合促進剤を含む組成物は、表面上のバリア形成のために使用することができる。このような適用の例は、外科手術後の組織接着の予防用バリアである。この適用については、重合促進剤及び重合性材料を含む組成物は、損傷組織表面に適用することができる。次いで、組成物は、表面で活性化されて、重合性材料を重合することができる。この重合によって形成されるポリマーマトリックスは、他の組織の、損傷組織への接着を抑制することができる。分解性及び/又は非分解性マクロマーはいずれも、このバリア形成法で使用することができる。
【0106】
重合促進剤は、医療用具、好ましくは移植工程又はin vivoでの使用に有用な器具の表面へのコーティングを提供するために使用することもできる。1つの実施態様では、重合促進剤及び重合性材料を含む組成物は、移植可能な医療用具表面に適用される。組成物は表面上で活性化されて、重合性材料を重合して生物適合性ポリマーマトリックスを形成することができる。基礎をなす器具の構造及び組成は任意の好意な医療的に許容されるデザインでよく、それ自体のコーティングと適合性がある任意の好適な材料からつくられる。場合により、医療用具表面上の生物適合性ポリマーマトリックスのコーティングは、1以上の生物活性剤を含むことができる。
【0107】
好適な移植可能な医療用具は、多数の生物材料から構成することができる。好ましい生物材料は、合成ポリマー、例えば付加又は縮重合のいずれかから得られるオリゴマー、ホモポリマー及びコポリマー、から形成される材料を含む。好適な付加重合ポリマーの例は、アクリル、例えばアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸グリセリル、メタクリル酸グリセリル、メタクリルアミド及びアクリルアミドから重合されたもの;ビニル、例えばエチレン、プロピレン、スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル及びビニルピロリジンを含むがこれらに限定されない。縮重合ポリマーの例は、ナイロン、例えばポリカプロラクタム、ポリラウリルラクタム、アジピン酸ポリヘキサメチレン及びポリヘキサメチレンドデカンジアミド、及びポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジメチルシロキサン及びポリエーテルエーテルケトンを含む。
【0108】
ある天然材料、例えばヒト組織、例えば骨、軟骨、皮膚及び歯;及び他の有機材料、例えば木、セルロース、圧縮カーボン及びゴムも、好適な生物材料である。他の好適な生物材料は金属及びセラミックを含む。金属はチタン、ステンレス鋼、コバルトクロム合金を含むがこれらに限定されない。第二種の金属は、希金属、例えば金、銀、銅及びプラチナを含む。金属アロイ、例えばニチノールも生物材料として好適である。セラミックは、シリコンニトリド、シリコンカーバイド、ジルコニア及びアルミナ、並びにガラス、シリカ及びサファイアを含むがこれらに限定されない。セラミック及び金属の組み合わせは、別の種類の生物材料でもよい。別の種類の生物材料は、本来、繊維性又は多孔性である。このような生物材料表面は、生物材料の表面特性を変えるために、例えば、パリレン(Parylene)コーティング組成物で予備処理することができる。
【0109】
生物材料は、多数の移植可能用具を構成するために使用することができる。好適な移植可能用具の一般的種類は、血管用具、例えばグラフト、ステント、カテーテル、バルブ、人工心臓及び心臓補助用具;整形外科用具、例えば結合インプラント、割れ目修復用具、及び人工腱;歯科用具、例えば歯科プラント及び割れ目修復用具;薬物送達用具;眼科用具及び緑内障ドレインシャント;泌尿用具、例えば陰茎、括約筋、尿道口、膀胱、及び腎臓用具;及びその他のカテーテル、合成人工器官、例えば偽乳房及び人工器官を含むがこれらに限定されない。他の好適な生物医療用具は、透析チューブ及び膜、血液酸素付加装置チューブ及び膜、血系バッグ、縫合糸、膜、細胞培養装置、クロマトグラフィー支持体、バイオセンサー等を含む。本発明は、以下の非限定的実施例を参照して証明されることになる。
【実施例】
【0110】
実施例 1
N-[3-(7-メチル-9-オキソチオキサンテン-3-カルボキサミド)プロピル]メタクリルアミド(MTA-APMA; 化合物1)
米国特許第5,858,653号明細書の実施例 2に記載のようにして調製したN-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA) 4.53 g (25.4 mmol)を、乾燥チューブを付けた250 ml丸底フラスコの100 ml無水クロロホルム中に懸濁した。米国特許第4,506,083号明細書の実施例 Dに記載のようにして、7-メチル-9-オキソチオキサンテン-3-カルボン酸(MTA)調製した。MTA-クロリド(MTA-Cl)は、米国特許第6,007,833号明細書の実施例 1にようにして調製した。氷浴でスラリーを冷却後、MTA-Cl 7.69 g (26.6 mmol)を攪拌しながら固体として加えた。次いで、7.42 ml (53.2 mmol)のトリエチルアミン(TEA)の20 mlクロロホルム溶液を1.5時間以上かけて加え、室温までゆっくりと昇温した。乾燥チューブ下で、混合物を室温で16時間攪拌した。この後、反応を0.1 N HClで洗浄し、阻害剤として少量のフェノチアジンを添加した後、溶媒を減圧下で留去した。得られた生成物をテトラヒドロン(THF)/トルエン(3/1)で再結晶し、風乾後に8.87 g (88.7%収率)の生成物を得た。化合物1の構造をNMR分析によって確認した。
【0111】
実施例 2
MTA-PAAm (化合物2)の合成
MTA-APMAは、室温で、メルカプトエタノール(連鎖剤)、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED; 共触媒)及び2,2'-アゾビス(2-メチル-プロピオニトリル) (AIBN; フリーラジカル開始剤)の存在下、DMSO中でアクリルアミドと共重合した。溶液を20分間窒素で噴霧し、かたく密栓し、55℃で20時間インキュベートした。連続フロー透析を用いて、溶液を脱イオン(DI)水で3日間透析した。得られたMTA-PAAm(化合物2)を凍結乾燥し、乾燥保存し、室温で遮光した。
【0112】
実施例 3
重合性ヒアルロン酸(HA; 化合物3)の合成
2グラムのヒアルロン酸(HA; Lifecore Biomedical, Chaska, Minn.)を100 mlのホルムアミドに溶解した。この溶液に、1.0 g (9.9 mmol)のTEA及び4.0 g (31 mmol)のアクリル酸グリシジルを加えた。反応混合物を37℃で72時間攪拌した。12-14k MWCO (Millipore Co. Billerica, MA)透析チューブを用いて、脱イオン水で完全に透析した後、生成物である化合物3(2.89グラム)を凍結乾燥により単離した。
【0113】
実施例 4
N-ビニルコハク酸イミド-2-スルホン酸ナトリウム(NVSS; 化合物4)の調製
N-ビニルマレイミド(10.0 g, 81 mmole; Macromol. Rapid Commun. 15, 867-872 (1994)の方法で調製した); 亜硫酸水素ナトリウム(8.5 g, 82 mmole); 及びDI水(158 ml)をフラスコに入れ、70℃で6時間攪拌した。水溶液を凍結乾燥し、18.5 gの化合物4を得た。
NMRによる分析は、所望の生成物と一致した。
1H NMR (400, D20), δ(ppm): ビニルプロトン-7a 6.57 (d (j = 16.28, 9.61)のd, 1H), ビニルプロトン-8a 5.88 (d (j = 16.28), 1H), ビニルプロトン-8b 5.20 (d (j = 9.61), 1H), メチレン-4a 4.30 (d (j = 9.19, 3.35)のd, 1H), メチレン-5b 3.22 (d (j = 19.12, 9.19)のd, 1H)及びメチレン-5a 3.03 (d (j = 19.13, 3.35)のd, 1H)。
【0114】
【化6】

【0115】
実施例 5
3-({3- [ホルミル(ビニル)アミノ]プロパノイル}オキシ)プロパン-1-スルホン酸カリウム(NVF-SPA; 化合物5)の調製
ビニホルミアミド(40 ml, 571 mmole)の3-(プロピオニルオキシ)-プロパン-1-スルホン酸カリウム(10 g, 43 mmole)へのマイケル付加は、ブチルリチウム(32 mg, 0.5 mmole)によって触媒した。反応を65℃で8時間攪拌した。溶液をジエチルエーテル(300 ml)に加え、生成物を沈殿させた。生成物である、化合物5を濾過によって単離した。液体クロマトグラフィー-質量分光計(LCMS)による分析は、予想分子量と一致した。
【0116】
【化7】

【0117】
実施例 6
2-ビニル-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-3-オン(化合物6)の調製
テトラクロロパラジウム酸ナトリウム(15 mg, 0.05 mmole)を含む、2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-3-オン(0.5g, 4.6 mmole)の酢酸ビニル(3 ml, 33 mmole)溶液を、5日間リフラックスさせた。生成物である、化合物6を揮発性物質の濃縮により単離した。ガス液体クロマトグラフィー-質量分光計(GLC-MS)による分析は、予想分子量と一致した。
【0118】
【化8】

【0119】
実施例 7
5,6-ジヒドロキシ-2-ビニル-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-3-オン(化合物7)の調製
中間体、5,6-ジヒドロキシ-2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン-3-オンを2-アザビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-3-オン(1.00 g, 9.16 mmole)及び四酸化オスミウム(2.33 g, 9.16 mmole)のピリジン(35 ml)溶液を室温で2時間攪拌することにより得た。オスミウムエステルは、反応溶液を亜硫酸水素ナトリウム(4.2 g)の水(70 ml)及びピリジン(50 ml)溶液と混合することにより開裂した。生成物を塩化メチレンの3〜150 mlで抽出した。乾燥塩化メチレンの濃縮により、粗ジヒドロキシ二環性アミド(中間体)を得た。中間体をテトラクロロパラジウム酸ナトリウム(30 mg, 0.10 mmole)及び酢酸ビニル(6 ml, 66 mmole)で混合した。次いで、混合物を5日間リフラックスした。粗生成物(化合物7)を触媒を除くために濾過及び過剰の酢酸ビニルの濃縮により単離した。
【0120】
【化9】

【0121】
実施例 8
NVSS (化合物4)を用いるマトリックス形成の評価
NVSSを用いるマトリックス形成能を評価するために、3 wt%重合性ヒアルロン酸(pHA)及び0.3 wt% MTA-PAAmの溶液を調製した。この溶液に0.2 wt% NVSSを加えた;NVSSを含まない対照溶液も評価した(NON)。50 μlのNVSS及びNONを含む混合物をガラススライドに別々に置き、400〜500 nmフィルタを備えたEFOS 100 SS照射装置(Mississauga, Ontario, Canada)で各々50秒間、照射した。照射後、ポリマー調合物をゲル形成について評価した。NVSSを含む混合物は、エラストマー特性を有する非常に硬いゲルを形成することが分かった。NONを含む混合物はゲルを形成せず、液体状態のままであった。
【0122】
実施例 9
NVSS(化合物4)のHAマトリックスへの取り込み
1群のHAマトリックスは、実施例6に記載のようにして作製した。別の群のHAマトリックスは、N-ビニル-ピロリドン(NVP)をNVSSで置換することにより作製した。作製したマトリックスは、Attenuated Total Reflectance (ATR)を用いるフーリエ変換-赤外(FT-IR)分光計によって評価した。SensIR multi-bounceダイヤモンドATR部品を備えたNicolet 560 Magna FT-IR分光計を分析に使用した。
【0123】
HAマトリックス中のNVSS(N-ビニル-スルホコハク酸イミド)の存在は、1236 cm-1、1202 cm-1及び1043 cm-1のNVSSピーク(±5 cm-1)の存在を示した。更に、これらのピークは、ゲルを60分間水で洗浄した後に、HAゲルになお存在した。これは、NVSSのHAゲルへの取り込みを示唆した。これらのピークとNVSSとの関連は、NVSSを有するHAゲルとNVPを有するHAゲルとの比較により確認した。予想したように、NVPを有するHAゲルスペクトルは、ゲル中にこれらの官能基が存在しないことが明らかとなった。NVPを有するHAゲルのスペクトルでは、1236 cm-1 (NVSSの、C-N-C &C-O伸縮)及び1202 cm-1 (NVSSの、S03伸縮)ピークはなく、1043 cm-1 (NVSSのSO3 & C-0伸縮)ピーク強度は減少した。
【0124】
実施例 10
カプセル化ランゲルハンス島の生存能力の試験
10 %牛胎児血清(FCS) (Hyclone, Logan, UT)を含むRPMI 1640(Hyclone, Logan, UT)中で48時間、カプセル化ランゲルハンス島を培養し、次いで0.4 %(w/v)トリパンブルー(ICN Pharmaceuticals, Inc., USA)を用いて、培養したランゲルハンス島を染色することにより、カプセル化ランゲルハンス島の生存能力を評価した(Warburton and James, "Hemocytometer cell counts and viability studies", Cell and tissue culture: Laboratory procedures, (eds) A. Doyle, J. B.Griffiths and D. G. Newell, John Wiley pp 11-15 (1995))。非染色した生存ランゲルハンス島と比べて、ブルー染色ランゲルハンス島を死ランゲルハンス島として計数した。
【0125】
実施例 11
カプセル化ランゲルハンス島機能の試験
カプセル化膵臓ランゲルハンス島細胞の機能は、ランゲルハンス島-カプセルの糖尿病マウスへの移植により試験した。ストレプトゾトシン(STZ; 例えば200 mg/kg体重; Sigma Chemicals Co., Dorseth, UK)により、雄性BALB/cマウスを糖尿病にせしめた。終夜、断食させた後、マウスを麻酔し、カプセル化ランゲルハンス島調製物及び対照調製物を別個の動物の腹部に導入した。
【0126】
移植ランゲルハンス島を含む全てのマウスの空腹時血漿グルコースレベルを、適合性グルコース検出ストリップ(Haemo-Glukotest 20-800 R, Boehrringer Mannheim)を有するグルコース計(Reflolux/S, Boehrringer Mannheim, Germany)を用いて、移植後に記録した。
【0127】
実施例 12
カプセル化ランゲルハンス島生物適合性試験
移植されたカプセル化ランゲルハンス島の組織変化を、カプセル化ランゲルハンス島の全体、繊維性肥大の程度及び免疫又は他の血液細胞を含む種々の細胞種の相互作用を決定するために、分光計及び他の手段を用いて評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 生物適合性官能基を含む重合促進剤;及び
(b) 重合性材料
を含む組成物。
【請求項2】
重合開始剤を更に含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記重合開始剤が光開始基を含む、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記光開始基が、長波紫外-又は可視光-活性化分子である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記重合性材料がマクロマーを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記マクロマーが、水溶性マクロマーからなる群より選ばれる、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記マクロマーが、0.5〜50 wt%の範囲の濃度で存在する、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
前記マクロマーが、1〜30 wt%の範囲の濃度で存在する、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
受容体又は還元剤を更に含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記生物適合性官能基が、ホスホネート(P03-)、スルホネート(S03-)、カルボキシレート(COO-)、ヒドロキシル(OH)、アルブミン結合部分、及びリン脂質部分から選ばれる、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記生物適合性官能基がスルホネート基を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記重合促進剤が、N-ビニル窒素を有するN-ビニル基を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記重合促進剤がカルボニル炭素を含む、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
前記重合促進剤がN-ビニルアミド基を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
前記N-ビニル窒素が複素環式環中の原子である、請求項12記載の組成物。
【請求項16】
前記重合促進剤が、前記重合性材料と反応して、生物適合性を有するポリマーマトリックスを形成することができる、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
前記重合促進剤が、前記ポリマーマトリックスの生物適合性を改善するために十分な量で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
前記重合促進剤が、前記重合マトリックスの形成を促進するために十分な量で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
前記重合促進剤が、0.05 wt%以上の濃度で存在する、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
前記重合促進剤が、0.05〜1.0 wt%の範囲の濃度で存在する、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
(a) (i) 生物適合性官能基及び(ii) N-ビニル基、を含む重合促進剤;並びに
(b) マクロマー
を含む組成物であって、当該重合促進剤が、前記重合性材料と反応して、生物適合性ポリマーマトリックスを形成することができる、前記組成物。
【請求項22】
(a) 少なくとも以下の材料:
(i) 生物適合性官能基を含む重合促進剤;
(ii) 重合性化合物;及び
(iii) 重合開始剤
を表面と接触して置くステップ;並びに、
(b) 当該ポリマー開始剤を活性化して、当該表面上で生物適合性ポリマーマトリックスの形成を促進するステップ、を含む方法。
【請求項23】
前記ステップ(a)において、前記重合開始剤が生物表面に接触して置かれる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記生物表面が組織又は細胞の表面を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
(a) 少なくとも以下の材料:
(i) 生物適合性官能基を含む重合促進剤;
(ii) 重合性化合物;及び
(iii) 重合開始剤
を1以上の細胞と接触して置くステップ;並びに、
(b) 当該ポリマー開始剤を活性化して、1以上の細胞上で生物適合性ポリマーマトリックスの形成を促進するステップ
を含む、細胞のカプセル化の方法。
【請求項26】
生物適合性ポリマーマトリックスでカプセル化した細胞材料であって、当該生物適合性ポリマーマトリックスが、以下:
(a) 生物適合性官能基を含む重合促進剤;及び
(b) マクロマー
を含む材料の重合によって形成される、前記細胞材料。
【請求項27】
(a) ポリマー材料、及び
(b) 生物適合性官能基を含む重合促進剤
を含む、材料の重合によって形成されるポリマーマトリックスで被覆した医療用具。

【公表番号】特表2007−512419(P2007−512419A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541289(P2006−541289)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/038053
【国際公開番号】WO2005/054304
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(506112683)サーモディクス,インコーポレイティド (50)
【Fターム(参考)】