説明

生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子およびその製造方法、ならびに当該ナノ粒子からなる外用剤

【課題】 生理活性タンパク質またはペプチドについて、皮膚ならびに粘膜経由の投与方法により、生体内への吸収性に優れ、高いバイオアベイラビリティーを発揮し、その効果が注射投与に匹敵するものである、生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子を提供すること。
【解決手段】 生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とし、当該水不溶体、疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性剤を用いて一次ナノ粒子を作製し、当該一次ナノ粒子を2価または3価の金属塩、および2価または3価の塩基性塩と順次接触させることにより得られる生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子であり、また当該ナノ粒子を有効成分として含有する外用剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子に関し、さらに詳細には、生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子およびその製造方法、ならびに当該ナノ粒子からなる外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテテクノロジー、ヒトゲノム解析の進歩により、生理活性タンパク質の医薬品としての重要性がますます高くなってきている。生理活性タンパク質は消化管に存在するペプチダーゼによる不活性化を受けるため、経口投与することができず、通常注射により体内投与が行われている。しかしながら、このような方法は、患者にとって注射部位での疼痛を与え、好ましいものではない。また、通常の間隔で投与を行う場合には、患者に著しい苦痛を与えることとなる。したがって安全、かつ頻回に投与するためには簡便であり、自己投与可能な非注射投与方法の開発が望まれている。
【0003】
近年、注射によらず皮膚、粘膜などから生理活性タンパク質を活性体のまま高濃度で生体内吸収させる技術の開発が、治療学的研究、特にDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)研究における重要なテーマの一つとなっている。しかしながら、ヒトへの吸収性、生物学的利用能(バイオアベイラビリティー)においては、未だ満足する結果は得られておらず、生理活性タンパク質について、皮膚、粘膜経由の投与法、特に経皮吸収投与方法はほとんど成功していないのが現状である。
【0004】
事実、生理活性タンパク質の一つとして、比較的低分子で、しかも化学的に安定なインスリンを用いて皮膚、粘膜経由の投与法について種々の研究が行われているが、その吸収率は、皮膚、消化器粘膜、気道粘膜の順で高くなっているものの、それでも粘膜経由の投与での吸収率は、確実なデータでは、数パーセントにすぎず、皮膚経由の投与ではほとんど吸収されないとされている(非特許文献1)。
【0005】
また、生理活性タンパク質をカルシウム含有水難溶性無機物粒子に封入した製剤(特許文献1)、生理活性タンパク質あるいはペプチドと亜鉛イオンとの沈殿物による水不溶性徐放性組成物(特許文献2)などが提案されている。しかしながら、これらの製剤は、薬物の吸収性、あるいは局所刺激等の点で十分なものとは言い難く、未だ実用化に至ったものはない。また、本発明が目的とする生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子を用いて皮膚、粘膜経由により生体内吸収させようとする技術については、これまで一切知られているものではない。
【0006】
【特許文献1】国際公開 WO 02/096396号公報
【特許文献2】特開2003−081865号公報
【非特許文献1】DRUG DELIVERY SYSTEM 今日のDDS 薬物送達システム(医薬ジャーナル社)325〜331頁、1999年
【非特許文献2】臨床薬理(Jpn. J. Clin. Pharmacol. Ther.)26(1), p.127-128(1995)
【非特許文献3】Yakugaku Zasshi, 121(12), p.929-948 (2001)
【非特許文献4】J. Controlled Release, 79, p.81-91 (2002)
【0007】
上述したように、生理活性タンパク質は、経口投与ではその薬効を発揮することができず、主に注射投与によるものである。したがって、患者への注射による苦痛感を解除し、自己投与が可能な投与方法の簡便化のためには、注射投与に代わる非経口投与手段として皮膚、粘膜経由の投与方法が効果的ではあるが、未だ吸収性、バイオアベイラビリティーにおいて満足するものはなく、高い生体内吸収性および生物学的利用率を有する薬剤の出現が、医療の現場で強く望まれているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明は、これまで経口投与ではその薬効を発揮することができず、主に注射投与がなされてきた生理活性タンパク質またはペプチドについて、皮膚ならびに粘膜経由の投与方法により、生体内への吸収性に優れ、高いバイオアベイラビリティーを発揮し得る技術を提供することを課題とする。
【0009】
かかる課題を解決するべく、本発明者らは鋭意検討した結果、ナノテクノロジーを応用し、赤血球よりも遥かに小さい、いわゆるナノ粒子を利用し、そこに生理活性タンパク質またはペプチドを含有させることに成功し、かくして得られたナノ粒子を、皮膚ならびに粘膜経由による投与を行った場合、ナノ粒子に含有された生理活性タンパク質またはペプチドの生体内への高い吸収性が得られ、バイオアベイラビリティーに優れたものであることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって本発明は、皮膚または粘膜投与により優れた吸収性、バイオアベイラビリティーを有する、生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子を提供する。
より具体的には、本発明は、
(1)生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とし、当該水不溶体、疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性剤を用いて一次ナノ粒子を作製し、当該一次ナノ粒子を2価または3価の金属塩、および2価または3価の塩基性塩と順次接触させることにより得られる生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子、
(2)一次ナノ粒子が、水不溶体、疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性剤を有機溶媒または含水有機溶媒に溶解し、これを多量の水に攪拌、振とうしながら加えることにより作製されるものである(1)に記載のナノ粒子、
(3)粒子の直径が5〜150nmである(1)または(2)に記載のナノ粒子、
(4)粒子の直径が10〜80nmである(1)または(2)に記載のナノ粒子、
(5)生理活性タンパク質またはペプチドが、インスリン、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、成長ホルモン、G−CSF、GM−CSF、エリスロポエチン、トロンボポエチン、ウロキナーゼ、t−PA、IL−11、エタネルセプト、インフリキシマブ、SOD、FGF、FGF、HGF、NGF、BDNF、レプチン、NT−3、抗原、抗体および酵素から選択されるものである(1)〜(4)に記載のナノ粒子、
(6)生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とする手段が、2価または3価の金属イオンとの接触、酸性または塩基性多糖体との接触、pHの調整またはイオン強度の変化のいずれかの手段である(1)に記載のナノ粒子、
(7)生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とするために接触させる2価または3価の金属イオンが、亜鉛イオン、カルシウムイオン、鉄イオンおよび銅イオンから選択されるものである(6)に記載のナノ粒子、
(8)疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物が、ミリスチン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸およびそれらの塩から選択されるものである(1)ないし(4)に記載のナノ粒子、
(9)一次ナノ粒子に接触させる2価または3価の金属塩がカルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩または銅塩であり、2価または3価の塩基性塩が炭酸塩、リン酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩または尿酸塩である(1)ないし(4)に記載のナノ粒子、
(10)上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のナノ粒子からなることを特徴とする皮膚または粘膜用外用剤、
(11)外用剤が、軟膏剤、ゲル剤、点鼻剤、点眼剤、噴霧剤、吸引剤、懸濁剤、パップ剤および貼付剤から選択されるものである(10)に記載の外用剤、
(12)生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とし、当該水不溶体、疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性剤を有機溶媒または含水有機溶媒に溶解し、この溶液を多量の水に攪拌、振とうしながら加えることにより一次ナノ粒子を作製し、当該一次ナノ粒子含有溶液に2価または3価の金属塩、および2価または3価の塩基性塩を順次加えることを特徴とする生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子の製造方法、
(13)生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とする手段が2価または3価の金属イオンとの接触であり、一次ナノ粒子に接触させる2価または3価の金属塩がカルシウム塩であり、2価または3価の塩基性塩が炭酸塩である(12)に記載のナノ粒子の製造方法、
(14)金属イオンが亜鉛イオンである(13)に記載のナノ粒子の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提供するナノ粒子は、そこに含有される生理活性タンパク質またはペプチドを皮膚または粘膜経由により生体内吸収させるものであり、注射投与に代わり得る生体内吸収性を示すものである。したがって、これまで達成されていなかった生理活性タンパク質またはペプチドの経皮または経粘膜による生体内吸収を可能にする画期的な効果を有し、高吸収性の生理活性タンパク質およびペプチドを含有する外用剤が創製される優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、上記するように、生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とし、当該水不溶体、疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性剤を用いて一次ナノ粒子とし、次いで、当該一次ナノ粒子を2価または3価の金属塩、および2価または3価の塩基性塩を順次接触させることにより得られる生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子、その製造方法、および当該ナノ粒子からなる外用剤である。
【0013】
本発明のナノ粒子は、その直径は5〜150nm程度であり、好ましくは10〜80nm程度である。かかる粒子径は、含有させる生理活性タンパク質またはペプチドの水不溶体と中長鎖有機化合物との配合量比率、使用する溶媒の量、攪拌の強度によって調整することができ、直径5〜500nm程度の粒子を作製することができる。なお、中長鎖有機化合物の配合量を多くすると、粒子径が小さなものとなることが判明した。粒子径の測定は、光散乱法あるいは電子顕微鏡下で測定することができる。
【0014】
本発明が提供するナノ粒子に含有される生理活性タンパク質またはペプチドとしては、特に限定されないが、2価または3価の金属塩により沈澱物を形成するものが好ましい。そのような生理活性タンパク質またはペプチドとしては、インスリン、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、成長ホルモン、G−CSF、GM−CSF、エリスロポエチン、トロンボポエチン、ウロキナーゼ、t−PA、IL−11、エタネルセプト、インフリキシマブ、SOD、FGF、EFG、HGF、NGF、BDNF、レプチン、NT−3、抗原、抗体および各種酵素をあげることができる。その中でも、インスリン、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、ヒト成長ホルモン、エリスロポエチンが特に好ましいものである。
【0015】
本発明のナノ粒子を製造する場合において、最初に生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とする。この水不溶体とする手段として最も好ましいものは、生理活性タンパク質またはペプチドと沈澱物を形成する2価または3価の金属イオンを使用することである。そのような2価または3価の金属イオンとしては、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの亜鉛塩による亜鉛イオン;塩化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシウム塩によるカルシウムイオン;塩化鉄、硫化鉄などの鉄塩による鉄イオン;塩化銅、硫酸銅などの銅塩による銅イオン等をあげることができ、なかでも亜鉛イオンを好ましく使用することができる。
【0016】
この場合の生理活性タンパク質またはペプチドと2価または3価の金属イオンとの配合比は特に限定されず、両物質が結合することにより水不溶体が生じるに十分な比率であればよい。例えば、亜鉛イオンの場合には、生理活性タンパク質またはペプチドと亜鉛塩とを、重量比で10:1〜1:2程度とするのがよい。その他の水不溶化方法として、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、キトサンなどの酸性または塩基性多糖体と接触させること、あるいは生理活性タンパク質またはペプチドを溶解した溶液のpH調節、イオン強度の変化などにより行うことも可能である。なお、生理活性タンパク質またはペプチド自体が水不溶性である場合には、そのまま使用することができる。
【0017】
本発明のナノ粒子を製造するためには、疎水基と、カルボキシル基、リン酸基、硫酸基などの陰イオン残基を併せもつ化合物を配合する必要がある。そのような疎水基と陰イオン残基を併せもつ有機化合物であればどのようなものでも使用することができるが、なかでもカルボキシル基を有する中長鎖有機化合物が特に好ましい。そのような中長鎖有機化合物としては、ミリスチン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸が好ましい。中長鎖有機化合物は粉末である場合にはそのまま加えることが可能であるが、有機溶媒または含水有機溶媒中に溶解して使用するのが好ましい。そのような有機溶媒としては、アセトン;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコールが使用でき、なかでもアセトン、エタノールが好ましい。なお、生理活性タンパク質またはペプチドと中長鎖有機化合物との配合重量比は、1:0.5〜1:0.03程度とするのが好ましい。
【0018】
本発明のナノ粒子を製造するに際しては、生成したナノ粒子同士の凝集を避けるために、適量の界面活性剤を添加するのが好ましく、その配合量はナノ粒子同士が凝集しない程度で適宜選択することができ、中長鎖有機化合物に対しモル比で0.3〜0.03程度使用するのがよい。そのような界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(Tween 80)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどの非イオン性界面活性剤を使用することができ、なかでもポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(Tween 80)が好ましい。
【0019】
本発明の最も重要な特徴は、生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とし、当該水不溶体、中長鎖有機化合物および界面活性剤を用いることにより、一次ナノ粒子を作製した後、当該一次ナノ粒子を2価または3価の金属塩、および2価または3価の塩基性塩と順次接触させることにより、金属塩と塩基性塩が順次結合して、結果的に一次ナノ粒子の周囲を水不溶性の金属塩が覆う状態を有する結合体とすることである。
【0020】
かくして得られた結合体自体が、本発明が目的とするナノ粒子そのものであり、驚くべきことに、このナノ粒子を経皮、経粘膜投与した場合に、当該ナノ粒子がキャリヤとして作用し、そこに含有された生理活性タンパク質またはペプチドを良好に生体内吸収させるものであり、その生体内吸収性は、注射投与に代わり得るものとなる。
【0021】
使用される2価または3価の金属塩としては、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム塩;酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの亜鉛塩;塩化鉄、硫化鉄などの鉄塩;または塩化銅、硫化銅などの銅塩であり、なかでもカルシウム塩、特に塩化カルシウムが好ましい。金属塩の配合量は一概に限定し得ないが、有効成分となる生理活性タンパク質またはペプチドに対し、重量比で3〜0.01程度であるのが好ましい。
【0022】
また、2価または3価の塩基性塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウムなどのリン酸塩;シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸カルシウムなどのシュウ酸塩;乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウムなどの乳酸塩;尿酸ナトリウム、尿酸カリウム、尿酸カルシウムなどの尿酸塩などであり、なかでも炭酸塩、特に炭ナトリウムが好ましい。塩基性塩の配合量は一概に限定し得ないが、上記の金属塩に対し、モル比で1.0〜0.05程度であるのが好ましい。
【0023】
以下に、本発明が提供するナノ粒子の製造方法について、説明する。
先ず、生理活性タンパク質またはペプチドを酸性、塩基性または中性の水に溶解し、その溶液に2価または3価の金属イオンを加え、生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とする。この懸濁液に、中長鎖有機化合物と界面活性剤を有機溶媒あるいは含水有機溶媒に溶解した液を加え、完全に溶解させ、この溶液を多量の水に、攪拌、振とうしながら加える。この溶液を1〜30分間程度攪拌することにより、一次ナノ粒子が作製される。かくして作製された一次ナノ粒子を含有する溶液に、2価または3価の金属塩を加え、1〜30分間攪拌し、次いで2価または3価の塩基塩を加え、1〜30分攪拌することにより本発明のナノ粒子を製造することができる。
【0024】
かくして製造された本発明の生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子の溶液を凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥等することにより溶媒を除去し、製剤用組成物として、適宜製剤基剤、添加剤等を使用することにより、所望の外用剤を調製することができる。
【0025】
本発明は、また、そのような生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子を有効成分として含有する皮膚、粘膜用の外用剤を提供するものでもある。そのような外用剤としては、全身および局所投与・治療を目的として局所へ塗布、貼付、滴下、噴霧などの形態で投与しうる形態で適用し得るものであり、具体的には、軟膏剤、ゲル剤、点鼻剤、点眼剤、噴霧剤、吸引剤、懸濁剤、パップ剤、貼付剤等をあげることができる。皮膚または粘膜への塗布、上気道への噴霧などが有効な投与形態である。
【0026】
これらの外用剤の調製に使用される基剤、その他の添加剤成分としては、製剤学的に外用剤の調製に使用されている基剤、成分をあげることができる。具体的には、ワセリン、プラチスベース、パラフィン、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、サラシミツロウ、シリコン油などの油脂性基剤;水、マクロゴール、エタノール、メチルエチルケトン、綿実油、オリーブ油、落花生油などの溶剤;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキスプロピレングリコールなどの非イオン性界面活性剤;ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース(CMC),キサンタンガム、トラガントガム、ゼラチン、アラビアゴム、アルブミンなどの増粘剤;ジブチルヒドロキシトルエンなどの安定化剤;グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、尿素、ショ糖、エリスリトールソルビトールなどの保湿剤;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル、デヒドロ酢酸ナトリウム、p−クレゾールなどの防腐剤等であり、剤型に応じて適宜選択して使用することができる。
【0027】
例えば、本発明のナノ粒子を有効成分として含有する軟膏剤の場合には、基剤等の成分としてワセリンを使用し、懸濁安定化するために0.05〜0.5%のカルボキシメチルセルロース(CMC)を一緒に使用するのがよい。
【0028】
本発明を、以下の実施例、試験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
実施例1:
インスリン1mg(21 IU)を、1M塩酸1μLおよび蒸留水99μLに溶解した。この溶液に塩化亜鉛0.4mgを加え、次いで、ミリスチン酸6.5mgをアセトン100μLに溶解しさらに水30μLを加えた溶液のうち10μLを加えた。この溶液に2μLのTween 80を加え、蒸留水98μLを加えて攪拌した。以上の混合液を5mLの蒸留水に加え、よく攪拌することにより、一次ナノ粒子を作製した。この溶液に5M塩化カルシウム水溶液15μLを加え、30分間攪拌し、さらに1M炭酸ナトリウム水溶液15μLを加えて5分間攪拌し、30分間放置することにより、ナノ粒子(本発明のナノ粒子)を作製した。このナノ粒子を含む溶液を一夜凍結乾燥した。得られたナノ粒子について光散乱法ならびに電子顕微鏡による粒度観察をしたところ、大部分の粒子の直径が10〜90nmであり、60nmのものが最も多く存在していた。
【0030】
このナノ粒子を用い、ワセリンあるいは1%CMC溶液に所定量のインスリン量を再分散させ、混和して軟膏またはゾルを得た。
以上のようにして製造された軟膏またはゾル(以下「本製剤」という場合もある)を、以下の動物実験に使用した。
【実施例2】
【0031】
実施例2:
実施例1における5M塩化カリウム水溶液15μLに代え、5M酢酸亜鉛水溶液15μLを使用したほかは、実施例1と同様の操作を行い、本発明のナノ粒子を製造した。
【実施例3】
【0032】
試験例1:皮膚透過性試験(先天性糖尿病発症マウス)
先天性糖尿病発症マウスKKAy/ta雄性、5週齢(日本クレア)9匹を搬入後、1週間予備飼育を行い、1週間後にグルコカード ダイアメータ(アークレイ ファクトリイ社製)で血糖値を測定し、糖尿病を発症していることを確認後、実験に供した。
3匹のマウスの背を電気バリカンで皮膚表面を傷つけないように剪毛して、本製剤(インスリン量:3μg)を背部に塗布した。
他の3匹のマウスには、実施例1における凍結乾燥後のペースト状のナノ粒子を生理食塩水に再分散させた懸濁液(インスリン量:2μg)を皮下注射した。
さらにもう一群の3匹を無投与とし、コントロールとした。
【0033】
マウスは絶食後2時間から試験を開始し、インスリン投与前、投与後1、2、3、4、6および24時間後毎に尾静脈から採血し、血糖値を、グルコカード ダイアメータ(アークレイ ファクトリイ社製)を使用して測定した。
なお、マウスは試験開始後6時間後には餌を自由摂取とし、22時間後には餌の摂取を停止させた。
その結果を表1に示し、またその血糖値の推移を図1に示した。
【0034】
【表1】

【実施例4】
【0035】
試験例2:皮膚透過性試験(糖尿病発症ラット)
血糖値および体調が正常範囲であるwistar系雄性ラット(8週齢)を3匹使用して、ストレプトゾトシン(60mg/kg)を3週間連続投与し、血糖値測定により糖尿病の発症を確認し、本試験に使用した。
2匹のラットの背毛を試験例1と同様に剪毛して、各ラットに本製剤(インスリン量:20μgおよび5μg)を背部皮膚に塗布した。
残りの1匹のラットは、無投与コントロールとした。
【0036】
ラットは絶食後2時間から試験を開始し、インスリン投与前、投与後30、60、90分、2、3、4、6、24および48時間後毎に尾静脈から採血し、血糖値を、グルコカード ダイアメータ(アークレイ ファクトリイ社製)を使用して測定した。
なお、ラットは試験開始後6時間後には餌を自由摂取とし、22および46時間後には餌の摂取を停止させた。
その結果を表2に示し、血糖値の推移を図2に示した。
【0037】
【表2】

【実施例5】
【0038】
試験例3:
試験例1および2で使用したマウスおよびラットについて、本製剤を塗布した部分の皮膚を採取し、標本を作製した。アリザリンSを用いてカルシウム染色し、本製剤の経皮吸収性を、カルシウムをマーカーとして検討した。
その結果、試験例1で使用したマウス(動物番号1〜3)および試験例2で使用したラット(動物番号1,2)とも、本製剤を塗布した皮膚には、本製剤の経皮吸収性を認めるカルシウム染色の陽性が確認された。
【0039】
以上の試験例1および試験例2の結果を示す表1および2、ならびに図1および2から明らかなように、本製剤は、先天性糖尿病発症マウスおよびストレプトゾトシン発症糖尿病ラットにおいて、本製剤を皮膚塗布することにより、有意な血糖値の低下が観測され、その血糖値低下作用は持続性のものであった。さらにその血糖値低下作用は、皮下注射投与に匹敵するものであった。
このことは、インスリンを含有するナノ粒子を有効成分とした本製剤を皮膚投与することで、良好にインスリンが生体内吸収され、血糖値を低下させていることを示すものである。また、その点は、試験例3の結果からも支持されていた。
したがって、インスリンを含有するナノ粒子を有効成分とした本製剤は、これまでの注射投与によるインスリン投与製剤に比較し、著しく患者にメリットがあるものであり、臨床上極めて有効なものである。
【実施例6】
【0040】
実施例3:
ヒト成長ホルモン1mgを蒸留水100μLに溶解し、この溶液に塩化亜鉛100μgを加え、攪拌後静置した。次いで2%tween 80水溶液100μLを加え、攪拌した後、0.1〜0.5mgのミリスチン酸をアセトン100μLに溶解した溶液を加え、さらに5分間攪拌することにより一次ナノ粒子を作製した。次に、0.5M塩化カルシウム水溶液30μLを加え、30分間攪拌した。その後0.1M炭酸ナトリウム水溶液30μLを加えて30分間攪拌することにより、ヒト成長ホルモンを含有する本発明のナノ粒子を作製した。
この溶液中に含まれるナノ粒子の粒径を光散乱法により測定したところ、大部分のナノ粒子の直径は10〜90nmのものであった。特に、ミリスチン酸を0.3mg添加した場合には、粒径が50nmのものが最も多く存在した。
【実施例7】
【0041】
製剤例1:軟膏剤/ハイドロゲル剤
実施例1で得られた本発明のナノ粒子、白色ワセリン、カルボキシメチルセルロースおよびパラオキシ安息香酸メチルの適量をとり、全量が均質になるまで混和し、軟膏剤およびハイドロゲル剤とした。
【実施例8】
【0042】
製剤例2:外用貼付剤(水性パップ剤)
実施例1のナノ粒子 0.1重量部
ポリアクリル酸 2.0重量部
ポリアクリル酸ナトリウム 5.0重量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2.0重量部
ゼラチン 2.0重量部
ポリビニルアルコール 0.5重量部
グリセリン 25.0重量部
カオリン 1.0重量部
水酸化アルミニウム 0.6重量部
酒石酸 0.4重量部
EDTA−2−ナトリウム 0.1重量部
精製水 残 部
上記成分配合をベースとし、常法により外用貼付剤(水性パップ剤)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上記載のように、本発明は生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とし、当該水不溶体、疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性剤を用いて一次ナノ粒子とし、次いで、当該一次ナノ粒子を2価または3価の金属塩、および2価または3価の塩基性塩と順次接触させることにより得られる生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子である。当該本発明のナノ粒子は、そこに含有される生理活性タンパク質またはペプチドを皮膚または粘膜経由により生体内吸収させるものであり、注射投与に代わり得る生体内吸収性を示すものである。したがって、これまで達成されていなかった生理活性タンパク質またはペプチドの経皮または経粘膜による生体内吸収を可能にする画期的な効果を有し、生理活性タンパク質およびペプチドを含有する高吸収性の外用剤が創製され、医療上の価値は多大なものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】試験例1におけるマウスの血糖値の推移を示す図である。
【図2】試験例2におけるラットの血糖値の推移を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とし、当該水不溶体、疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性剤を用いて一次ナノ粒子を作製し、当該一次ナノ粒子を2価または3価の金属塩、および2価または3価の塩基性塩と順次接触させることにより得られる生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子。
【請求項2】
一次ナノ粒子が、水不溶体、疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性体を有機溶媒または含水有機溶媒に溶解し、これを多量の水に攪拌、振とうしながら加えることにより作製されるものである請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
粒子の直径が5〜150nmである請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
粒子の直径が10〜80nmである請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項5】
生理活性タンパク質またはペプチドが、インスリン、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、成長ホルモン、G−CSF、GM−CSF、エリスロポエチン、トロンボポエチン、ウロキナーゼ、t−PA、IL−11、エタネルセプト、インフリキシマブ、SOD、FGF、EFG、HGF、NGF、BDNF、レプチン、NT−3、抗原、抗体および酵素から選択されるものである請求項1〜4のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項6】
生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とする手段が、2価または3価の金属イオンとの接触、酸性または塩基性多糖体との接触、pHの調整またはイオン強度の変化のいずれかの手段である請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項7】
生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とするために接触させる2価または3価の金属イオンが、亜鉛イオン、カルシウムイオン、鉄イオンおよび銅イオンから選択されるものである請求項6に記載のナノ粒子。
【請求項8】
疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物が、ミリスチン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸及びそれらの塩から選択されるものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項9】
一次ナノ粒子に接触させる2価または3価の金属塩がカルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩または銅塩であり、2価または3価の塩基性塩が炭酸塩、リン酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩または尿酸塩である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のナノ粒子からなることを特徴とする皮膚または粘膜用外用剤。
【請求項11】
外用剤が、軟膏剤、ゲル剤、点鼻剤、点眼剤、噴霧剤、吸引剤、懸濁剤、パップ剤および貼付剤から選択されるものである請求項10に記載の外用剤。
【請求項12】
生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とし、当該水不溶体、疎水基と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性剤を有機溶媒または含水有機溶媒に溶解し、この溶液を多量の水に攪拌、振とうしながら加えることにより一次ナノ粒子を作製し、当該一次ナノ粒子含有溶液に2価または3価の金属塩、および2価または3価の塩基性塩を順次加えることを特徴とする生理活性タンパク質またはペプチドを含有するナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
生理活性タンパク質またはペプチドを水不溶体とする手段が2価または3価の金属イオンとの接触であり、一次ナノ粒子に接触させる2価または3価の金属塩がカルシウム塩であり、2価または3価の塩基性塩が炭酸塩である請求項12に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
金属イオンが亜鉛イオンである請求項13に記載のナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−199589(P2006−199589A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−312031(P2003−312031)
【出願日】平成15年9月3日(2003.9.3)
【出願人】(303010452)株式会社LTTバイオファーマ (27)
【Fターム(参考)】