説明

生産ラインシステム

【課題】エネルギー効率が高く、フレキシブル性に富む機械加工機に関する生産ラインシステムを提供する。
【解決手段】生産ラインシステム1では、ワークの機械加工機(旋盤M)のクーラントを冷却する冷却処理工程と、旋盤Mによる加工後にワークの洗浄を行う洗浄機Rに係る洗浄液を加熱する加熱処理工程とを有し、前記加熱処理工程と前記冷却処理工程とをヒートポンプ10により一つのヒートポンプサイクルで行う。又、前記加熱処理工程における加熱と前記冷却処理工程における冷却に関する熱収支について、前記洗浄液の設定温度や前記クーラント液の設定温度で調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプを利用した生産ラインシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の生産ラインシステムとして、炭酸飲料製造工場におけるものが知られている(下記特許文献1)。このシステムでは、製品原水を冷ブラインで冷却する冷却工程と、製品の容器充填後に行う高温水にて露点温度まで加熱する加熱工程が設けられ、加熱工程における加温部が工場排熱を熱源として駆動するヒートポンプサイクルで構成され、その凝縮器側の凝縮熱を利用して高温水を製造し、冷却工程における冷却部が加熱工程の排熱を熱源として駆動するヒートポンプサイクルで構成され、その蒸発機側の蒸発冷熱を利用して冷ブラインで冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3810036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような炭酸飲料製造工場における生産ラインシステムでは、ヒートポンプサイクルが複数存在し、しかもカーボネーション工程や瓶詰め工程を隔てた冷却工程及び加熱工程、並びに工場排熱に関わらせるため、加熱工程及び冷却工程からヒートポンプサイクルまでの距離が長く、その分エネルギーが無駄となるし、大規模な工場のほぼ全体にヒートポンプサイクル(加熱冷却システム)を巡らさなければならず、工程の拡大縮小に係る改修に手間がかかり、規模に関する柔軟性に劣る。
【0005】
そこで、請求項1に記載の発明は、エネルギー効率が高く、フレキシブル性に富む機械加工機に関する生産ラインシステムを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ワークの機械加工機のクーラントを冷却する冷却処理工程と、前記機械加工機による加工前或いは加工後にワークの洗浄を行う洗浄液を加熱する加熱処理工程とを有し、前記加熱処理工程と前記冷却処理工程とを一つのヒートポンプサイクルで行うことを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、上記目的に加えて、長時間の連続した冷暖同時運転が可能となってより一層エネルギー効率を良好なものとする目的を達成するため、上記発明にあって、前記加熱処理工程と前記冷却処理工程の何れか一方につき、その周辺温度に応じて設定温度を変更することで、前記加熱処理工程における加熱と前記冷却処理工程における冷却に関する熱収支を調整することを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、上記目的に加えて、故障の可能性を低減し、又設置を容易とする目的を達成するため、上記発明にあって、前記クーラントをクーラント用冷媒で冷却し、当該クーラント用冷媒を前記ヒートポンプサイクルで冷却することを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、上記目的に加えて、エネルギー効率を良好なものとしながら加工精度の高い生産ラインシステムを提供する目的を達成するため、前記機械加工機が複数設置されており、それぞれの前記機械加工機に、前記クーラントの温度を制御するクーラント温度制御手段が配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5,6に記載の発明は、上記目的に加えて、更に長時間の連続した冷暖同時運転が可能となり、より大幅な省エネルギー化を図る目的を達成するため、上記発明にあって、前記加熱処理工程における加熱と前記冷却処理工程における冷却に関する熱収支について、前記洗浄液の設定温度で調整したり、前記クーラントの設定温度で調整したりすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加熱処理工程と冷却処理工程とを一つのヒートポンプサイクルで接続するため、エネルギー効率が高く、フレキシブル性に富む機械加工機に関する生産ラインシステムを提供することが可能となる、という効果を奏する。そして、一連の加工ラインにおいてヒートポンプを使用しているので、生産中は常に冷却と加熱を同時に必要とされ、よって長時間の冷暖同時運転とすることができ、エネルギー効率の高い生産ラインとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1形態に係る生産ラインシステムの説明図である。
【図2】図1の生産ラインシステムの、クーラント液の温度設定範囲が広い場合における動作を示すフローチャートである。
【図3】図1の生産ラインシステムの、クーラント液の温度設定範囲が狭い場合における動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2形態に係る生産ラインシステムの説明図である。
【図5】図4の生産ラインシステムの加熱運転状態を示すグラフである。
【図6】本発明の第3形態に係る生産ラインシステムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態の例につき、適宜図面に基づいて説明する。尚、当該形態は、下記の例に限定されない。
【0014】
[第1形態]
≪構成等≫
図1は本発明に係る第1形態の生産ラインシステム1の説明図である。生産ラインシステム1は、ここでは2つのラインF1,F2を有するものとされており、各ラインF1,F2には機械加工機である旋盤Mが複数配置されている。各ラインF1,F2の始点には、共通のワーク投入手段T1が配備されると共に、終点には、共通の洗浄機R及び次工程へのワーク搬送手段T2が設置されている。
【0015】
生産ラインシステム1は、ヒートポンプ10と、制御手段12を備えている。ヒートポンプ10は、各旋盤Mとの間において、クーラント(切削液)の往き及び戻りの冷却側配管20を有すると共に、洗浄機Rとの間において、洗浄液の往き及び戻りの加熱側配管22を有する。
【0016】
ヒートポンプ10は、ヒートポンプサイクルの要素である図示しない蒸発器及び凝縮器を備えており、当該蒸発器との熱交換により冷却側配管20から導入したクーラントを冷却し(冷却処理工程)、当該凝縮器との熱交換により加熱側配管22から導入した洗浄液を加熱する(加熱処理工程)。即ち、冷却処理工程と加熱処理工程は、一つのヒートポンプサイクルで結ばれている。
【0017】
一方、制御手段12は、クーラントの冷却時にヒートポンプの冷媒に加わる単位時間当たりの熱量Pc(キロワット,kW)を検知する図示しない蒸発器側熱量計と、洗浄液の加熱時にヒートポンプの冷媒から奪われる単位時間当たりの熱量Ps(kW)を検知する図示しない凝縮器側熱量計とが接続されている。なお、各種熱量計として、冷媒温度センサで検知した冷媒温度や冷媒流量計等からの演算により熱量を求めるものが含まれる。又、制御手段12は、クーラント温度Tcを検知する図示しないクーラント温度センサ、及び洗浄液温度Tsを検知する図示しない洗浄液温度センサと接続されている。
【0018】
更に、制御手段12は、ヒートポンプ10と電気的に接続されており、以下説明する動作を行うようにヒートポンプ10を制御する。
【0019】
≪動作等≫
図2は、粗加工時のようにクーラントに求められる温度の幅が広く、クーラントの温度設定範囲が広い場合における加熱冷却装置1の動作のフローチャートであり、図3は、高精度加工(仕上げ加工)時のようにクーラントに対して許容される温度の幅が狭く、クーラントの温度設定範囲が狭い場合における加熱冷却装置1の動作のフローチャートである。
【0020】
図2の場合、制御手段12は、ヒートポンプ10の熱収支Pc−Psを監視し、所定の下限値−ΔP以下であるか、所定の上限値ΔP以上であるか、或いは下限値−ΔPと上限値ΔP以上の間であるかを判断する(ステップS11)。下限値−ΔPや上限値ΔPは、ヒートポンプ10の連続運転可能な冷媒熱量の許容値Kに基づいて設定され、熱収支Pc−Psが下限値−ΔPと上限値ΔP以上の間であると、ΔPの絶対値が許容値K未満であり、ヒートポンプ10の連続運転が可能な熱量に収まっているものとされる。尚、制御手段12は、ヒートポンプ10につき、洗浄液温度が所定温度に固定されるように制御する。
【0021】
制御手段12は、熱収支Pc−Psが下限値−ΔPと上限値ΔP以上の間である場合、そのままの状態で運転を継続する。
【0022】
一方、制御手段12は、熱収支Pc−Psが下限値−ΔP以下である場合、加熱量が冷却熱量に比べ多い場合であるとして、クーラント温度センサから得たクーラント温度Tcがクーラント設定温度の下限値Tcmiより大きいか否かを判断する(S12)。S12でYesの場合、制御手段12は、クーラント温度Tcを下げるように制御して(S13,例えば20℃から19℃)、熱収支Pc−Psを調整し、Noの場合、制御手段12は、ヒートポンプ10の加熱(冷気放熱)を実行する(S14)。
【0023】
他方、制御手段12は、熱収支Pc−Psが上限値ΔP以上である場合、加熱量が冷却熱量に比べ少ない場合であるとして、クーラント温度Tcがクーラント設定温度の上限値Tcma未満か否かを判断する(S15)。S15でYesの場合、制御手段12は、クーラント温度Tcを上げるように制御して(S16,例えば20℃から21℃)、熱収支Pc−Psを調整し、Noの場合、制御手段12は、ヒートポンプ10の冷却(温気放熱)を実行する(S17)。
【0024】
このように、加熱量が冷却熱量に比べ(その差が連続運転可能な冷媒熱量の許容値Kを超える状態で)少ない夏季等で、気温が高く多くの加熱量を要しない場合に、制御手段12がクーラント温度Tcを上げる(S16)ことにより、ヒートポンプ10による冷却熱量を減らし、当該冷却熱量が少ない加熱量に見合ったものとなって、ヒートポンプ10或いは生産ラインシステム1が全体としてより一層低エネルギーとなる。又、上限値Tcmaの限度においてクーラント温度Tcを上げる(S15)ため、低エネルギー化を図りながらクーラントの冷却性能が確保される。
【0025】
図3の場合、制御手段12は、S11と同様、熱収支Pc−Psに応じて処理を分岐させる(S21)。制御手段12は、熱収支Pc−Psが下限値−ΔPと上限値ΔP以上の間である場合、ヒートポンプ10において効率の良好な(効率が所定値以上である)連続運転が可能な熱量に収まっているとして、そのままの状態で運転を継続する。尚、制御手段12は、ヒートポンプ10につき、クーラント温度が所定温度に固定されるように制御する。
【0026】
一方、制御手段12は、熱収支Pc−Psが下限値−ΔP以下である場合、冷却熱量が加熱量に比べ少ない場合であるとして、洗浄液温度センサから得た洗浄液温度Tsが洗浄液設定温度の下限値Tsmiより大きいか否かを判断する(S22)。S22でYesの場合、制御手段12は、洗浄液温度Tsを下げるように制御して(S23,例えば60℃から59℃)、熱収支Pc−Psを調整し、Noの場合、制御手段12は、ヒートポンプ10の加熱(冷気放熱)を実行する(S24)。
【0027】
このように、冷却熱量が加熱量に比べ(その差が連続運転可能な冷媒熱量の許容値Kを超える状態で)少ない冬季等で、気温が低く多くの冷却熱量を要しない場合に、制御手段12が洗浄液温度Tsを下げる(S23)ことにより、ヒートポンプ10による加熱量を減らし、当該加熱量が少ない冷却熱量に見合ったものとなって、ヒートポンプ10或いは生産ラインシステム1が全体としてより一層低エネルギーとなる。又、上限値Tsmaの限度において洗浄液温度Tsを上げる(S22)ため、低エネルギー化を図りながら洗浄液の洗浄性能が確保される。
【0028】
他方、制御手段12は、熱収支Pc−Psが上限値ΔP以上である場合、冷却熱量が加熱量に比べ多い場合であるとして、洗浄液温度Tsが洗浄液設定温度の上限値Tsma未満か否かを判断する(S25)。S25でYesの場合、制御手段12は、洗浄液温度Tcを上げるように制御して(S26,例えば60℃から61℃)、熱収支Pc−Psを調整し、Noの場合、制御手段12は、ヒートポンプ10の冷却(温気放熱)を実行する(S27)。
【0029】
≪効果等≫
以上の生産ラインシステム1では、ワークの機械加工機(旋盤M)のクーラントを冷却する冷却処理工程と、旋盤Mによる加工前或いは加工後にワークの洗浄を行う洗浄機Rに係る洗浄液を加熱する加熱処理工程とを有し、前記加熱処理工程と前記冷却処理工程とをヒートポンプ10により一つのヒートポンプサイクルで行うので、加熱及び冷却について互いの相手から奪った或いは奪われた熱を熱源として行うことができ、エネルギー効率を極めて高いものとすることができる。又、加工機における冷却処理工程の前又は後に洗浄液の加熱処理工程が隣接することとなり、冷却処理工程と加熱処理工程を一連のものとすることが可能となって、ヒートポンプ10から冷却処理工程或いは加熱処理工程への距離が短くなって、配管等の短縮化により低コストとなるし、伝送ロス等が低減されて更に省エネルギーとなる。更に、工場内において一連の加工ライン毎に加熱冷却システムを完結させることができ、フレキシブル性を極めて良好なものとすることができる。そして、一連の加工ラインにおいてヒートポンプを使用しているので、生産中は常に冷却と加熱を同時に必要とされ、よって長時間の冷暖同時運転とすることができ、エネルギー効率の高い生産ラインとすることができる。
【0030】
又、加熱処理工程における加熱と冷却処理工程における冷却に関する熱収支について、洗浄液の設定温度で調整するため(図3参照)、次に示す事項によって長時間の連続した冷暖同時運転が可能となり、大幅な省エネルギー化を図ることができる。即ち、高精度を要求される機械加工機の場合、温度変化によりワークや各種装置の熱膨張による影響を低減するため、クーラントの温度管理幅を非常に狭くする必要がある(例えばプラスマイナス1℃)。又、クーラントの冷却に必要な熱量は、季節毎の気温の変化により大きな差が出る。一方、洗浄液の加熱温度は、洗浄性能の発揮のため、又洗浄後の良好な乾燥のため、所定温度以上であることが求められるものの、当該所定温度以上であればどのような温度でも(比較的に高い温度であっても)許容され、設定温度幅が高精度切削時のクーラントと比べ広い。よって、季節による周辺温度の変化に応じたクーラントの冷却に必要な熱量に合わせるように洗浄液の温度を設定することができ、即ち冬季等は洗浄液温度を低く、夏季等は洗浄液温度を高く設定することができ、熱収支のバランスを確保して補助加熱や補助冷却を不要とすることができる。
【0031】
更に、加熱処理工程における加熱と冷却処理工程における冷却に関する熱収支について、クーラントの設定温度で調整するため(図2参照)、高精度を要求されない荒削り機のような加工機での加工で、クーラントの温度設定幅に自由度を持たせられる場合に、洗浄液の加熱に必要な熱量に応じてクーラントの温度設定を調整し熱収支のバランスをとることができ、補助加熱や補助冷却が不要となって長時間の連続した冷暖同時運転が可能となり、大幅な省エネルギー化が可能となる。
【0032】
≪変更例等≫
尚、主に第1形態を変更して成る、本発明の他の形態を例示する。加熱処理工程と冷却処理工程の何れか一方につき、その周辺温度に応じて設定温度を変更することで熱収支を調整する。加熱処理工程の周辺温度としては、洗浄機温度(洗浄機周辺気温)を挙げることができ、制御手段と接続された洗浄機温度を測定する洗浄機温度センサを洗浄機に設け、当該洗浄機温度が所定温度以上であるとS15やS25に移行するようにする。或いは、冷却処理工程の周辺温度としては、加工機温度(加工機周辺気温)を挙げることができ、制御手段と接続された加工機温度を測定する加工機温度センサを加工機に設け、当該加工機温度が所定温度以下であるとS12やS22を実行するようにする。この場合、周辺温度に応じて片側の処理工程の温度設定を変更して熱収支を安定させることができ、長時間の連続した冷暖同時運転が可能となってより一層エネルギー効率を良好なものとすることができる。
【0033】
更に、冷却側配管にクーラントを冷却するクーラント用冷媒を通し、ヒートポンプが当該クーラント用冷媒を冷却するようにして良く、この場合加工屑を含み得るクーラントをヒートポンプに導入する必要が無くなって故障の可能性を低減することができ、又配管等の設置も容易となる。同様に、加熱側配管に洗浄液を加熱する洗浄液用冷媒を通し、ヒートポンプが当該洗浄液用冷媒を加熱するようにして良い。
【0034】
加えて、それぞれの加工機に、クーラントの温度を制御するクーラント温度制御手段を配置する。各クーラント温度制御手段は、加工機の発熱量をセンサにより把握し、当該発熱量(から算出した要冷却量)に基づき、ヒートポンプから受け取った(冷却された)クーラント又はクーラント用冷媒を更に冷却し或いは加熱して、クーラントの温度を調整する。従って、各加工機に供給するクーラントの温度を独立して制御することが可能となり、各加工機の温度がそれぞれ安定して、エネルギー効率を良好なものとしながら加工精度の高い生産ラインシステムを提供することができる。尚、加工機の発熱量ないし要冷却量は、クーラント又はクーラント用冷媒の戻り温度から算出されて良く、この場合当該戻り温度を検知するセンサを配置する。
【0035】
或いは、加工ラインにおける加工機の数やライン数或いはライン毎の加工機の数、ワークの投入機や搬送機の数、洗浄機の数ないしこれらの内容や配置につき、洗浄機をラインにおいて加工機より上流に配置し、洗浄を加工前に行うようにしたり、旋盤以外の加工機を採用したり、複数種類の加工機を混在させたりする等、上記形態以外の様々なものとする。熱収支の下限値や上限値につき、絶対値の異なるものとする。制御手段を加工機等に設け(加工機等の制御手段と共通とし)たり、制御手段を複数分散させ通信により協調処理するものとしたりする。
【0036】
[第2形態]
≪構成等≫
図4(a)は本発明に係る第2形態の生産ラインシステム101の説明図である。生産ラインシステム101は、機械加工部品製造の切削工程における切削液の冷却及びその後の洗浄工程における洗浄液の加熱を行うために配備されており、切削液を蓄える複数の切削液槽102と、洗浄液を蓄える洗浄液槽104と、切削液を冷却し洗浄液を加熱するヒートポンプ110を備えている。ヒートポンプ110は、冷水を熱交換により冷却する蒸発器112と、洗浄液を熱交換により加熱する凝縮器114を備えている。蒸発器112と凝縮器114は、ヒートポンプサイクルに組み込まれている。
【0037】
蒸発器112には、冷水を受け入れる冷水戻り配管120及び冷水を出す冷水供給配管122が接続されており、冷水供給配管122には冷水を送る冷水ポンプ124が取り付けられている。又、冷水供給配管122には、切削液槽102毎に配置された投げ込み式の熱交換器126が接続されており、各熱交換器126へ分岐した供給配管122には比例弁128が設置されている。熱交換器126は、切削液槽102に投入されて蒸発器112で冷却された冷水を通されることで、熱交換により切削液の冷却を行う。
【0038】
更に、各切削液槽102に対し、他冷熱源としての冷却チラー130が配備されており、各冷却チラー130は、切削液槽102内に配置されたチラー用熱交換器132と接続されている。冷却チラー130は、チラー用熱交換器132から戻った冷媒を冷却してチラー用熱交換器132へ送り、チラー用熱交換器132を介した冷媒との熱交換による切削液の冷却を行う。尚、図4(b)に示すように、冷却チラー130やチラー用熱交換器132を省略することができる。
【0039】
一方、凝縮器114には、洗浄液を受け入れる洗浄液戻り配管140及び洗浄液を出す洗浄液供給配管142が接続されており、洗浄液供給配管142には洗浄液を送る洗浄液ポンプ144が取り付けられている。凝縮器114は、洗浄液戻り配管140から導入された洗浄液を熱交換により加熱して洗浄液供給配管42に導出し、洗浄液槽104からの洗浄液を加熱して洗浄液槽104へ供給する。
【0040】
又、洗浄液槽104には、他熱源としての、ヒーター150(電気ヒーターや蒸気コイル等)により加熱された媒体が通されるヒーター用熱交換器152が配置されている。ヒーター150は、ヒーター用熱交換器152から戻った媒体を加熱してヒーター用熱交換器152へ送り、ヒーター用熱交換器152を介した媒体との熱交換による洗浄液の加熱を行う。なお、図4(b)に示すように、ヒーター150やヒーター用熱交換器152を省略することができる。
【0041】
他方、ヒートポンプ110や冷却チラー130,ヒーター150は、図示しない制御手段とそれぞれ接続されている。又、制御手段には、冷水戻り配管120内の冷水温度を把握して送信する図示しない冷水温度センサと、洗浄液戻り配管140内の洗浄液温度を把握して送信する図示しない洗浄液温度センサが接続されている。更に、制御手段には、各比例弁128が、制御手段の発する開度指令に基づき開度調節可能に接続されている。加えて、制御手段には、各切削液槽102内の切削液温度を把握して送信する図示しない切削液槽温度センサがそれぞれ接続されている。
【0042】
図5は時間の経過に対する洗浄液槽104内の洗浄液温度の変遷例を示したグラフである。制御手段は、ヒートポンプ110の加熱側につき、運転条件に温度幅Wを持たせた状態で運転する。即ち、加熱運転条件において洗浄液温度の下限値L(例えば50℃)と上限値H(例えば60℃)を設け、制御手段が洗浄液温度につき上限値Hを超えると加熱量を直前より減らし、下限値Lを下回ると加熱量を直前より増やす。温度幅W(上限値Lと下限値Hの差)は、好ましくは2〜10℃である。
【0043】
又、制御手段は、ヒートポンプ110の冷却側についても、運転条件に温度幅を持たせた状態で運転可能である。即ち、冷却運転条件において冷水温度の冷却下限値(例えば15℃)と冷却上限値(例えば25℃)を設け、制御手段が冷水温度につき冷却下限値を下回ると冷却量を直前より減らし、冷却上限値を上回ると冷却量を直前より増やす。制御手段は、ヒートポンプ110における温度幅を持たせた冷却運転を切削工程中の荒削り工程実施時に行い、荒削り工程実施中か否かについては、ボタンの押下の有無やスイッチの投入又は切断、或いは荒削り機へのワークの導入の有無(ワークセンサの検知の有無)の少なくとも何れかにより把握する。尚、温度幅(冷却上限値と冷却下限値の差)は、好ましくは2〜10℃である。
【0044】
≪動作等≫
制御手段により冷水ポンプ124が起動されて冷水戻り配管120を通じた冷水の導入がなされると共に、洗浄液ポンプ144が起動されて洗浄液戻り配管140を通じた洗浄液の導入がなされ、次いでヒートポンプ110が起動される。
【0045】
ヒートポンプ110は、制御手段の指令に基づき、導入された冷水を蒸発器112により冷却し、冷却後の冷水につき冷水供給配管122を通じ熱交換器126に対して供給すると共に、導入された洗浄液を凝縮器114により冷却し、加熱後の洗浄液につき洗浄液供給配管142を通じ洗浄液槽104へ供給する。
【0046】
ここで、洗浄液の加熱(図5等)に関し、洗浄液は洗浄性能を発揮するために所定の温度下限値以上とする必要があるが、上限値については制約が少ない。そこで、制御手段は、洗浄液温度センサにより把握した洗浄液温度が当該温度下限値に応じて設定された下限値Lを上回っても、ヒートポンプ110の加熱運転状態を変えずに洗浄液の加熱を継続する。そして、制御手段は、洗浄液温度が上限値Hを上回ったことを洗浄液温度センサにより把握すると、ヒートポンプ110による加熱量を減らし、洗浄液温度の下降を許容する(矢印B1,B2)。尚、矢印B2の手前は休憩時間における昇温を示す。
【0047】
一方、制御手段は、洗浄液温度が下限値Lを下回ると、ヒートポンプ110による加熱量を増し、洗浄液温度を上昇させる(矢印C1,C2)。ここで、制御手段は、ヒーター150も適宜運転し、ヒートポンプ110による加熱を補助させる。このとき、制御手段は、ヒーター150につき、洗浄液温度を下限値Lより高く持って行ける最小限の発熱量で運転し、極力ヒートポンプ110による加熱を利用するようにする。尚、洗浄液温度の下降は、部品洗浄数(洗浄量)が急激に増加した場合や、洗浄水の補給水を注入した場合等に起こる。
【0048】
他方、切削液の冷却に関し、荒削り工程においては精密切削工程(仕上げ工程)と比べ厳密な精度が要求されず、切削液も又厳密な温度精度が要求されず、所定の温度上限値以下とする必要があるが、下限値については制約が少ない。そこで、制御手段は、荒削り工程であることを把握している場合、冷水温度センサから把握した冷水温度(切削液温度に対応)が当該温度上限値に応じて設定された上限値を下回っても、ヒートポンプ110の冷却運転状態を変えずに切削液の冷却を継続する。そして、制御手段は、冷水温度が下限値を下回ったことを冷水温度センサにより把握すると、ヒートポンプ110による冷却量を減らし、切削液温度の上昇を許容する。
【0049】
又、精密切削工程においては厳密な温度管理が求められる(例えば特定温度(旋盤ベッド温度)プラスマイナス1℃以内とする)ため、制御手段は、荒削り工程であることを把握しない場合、荒削り工程時の制御を行わず、切削液温度が要求される範囲に留まるように冷水の冷却を行う。尚、制御手段は、冷却チラー130も適宜運転し、ヒートポンプ110による切削液の冷却を補助させる。このとき、制御手段は、冷却チラー130につき、冷水温度(切削液温度)を上限値より低く持って行ける最小限の冷熱量で運転し、極力ヒートポンプ110による冷却を利用するようにする。
【0050】
尚、制御手段は、切削液槽温度センサから得た個別の切削液槽102内の切削液温度や別途得た冷水温度に応じ、対応する比例弁128の開度をそれぞれ調節する。
【0051】
≪効果等≫
以上の生産ラインシステム101では、切削液を冷却すると共に洗浄液を加熱するヒートポンプ110を備えており、ヒートポンプ110は、洗浄液の温度が所定の上限値Hを上回ると加熱量を減少し、所定の下限値Lを下回ると加熱量を増加するので、ヒートポンプで切削液温度及び洗浄液温度をそれぞれ特定温度に維持する従来の場合と比較して、共通のヒートポンプ110によって効率良く冷却及び加熱を行うことができ、又加熱運転状態の切替回数を少なくして更に効率に配慮することができ、切削液の冷却ないし洗浄液の加熱を省エネルギーである状態で行うことが可能となる。
【0052】
又、ヒートポンプ110は、荒削り工程において切削液を冷却する場合に、切削液温度が所定の冷却下限値を下回ると冷却量を減少し、所定の冷却上限値を上回ると冷却量を増加するため、冷却運転についても運転状態の切替回数が少なく効率の極めて良好なものとすることができ、切削液の冷却ないし洗浄液の加熱をより一層省エネルギーである状態で行うことが可能となる。
【0053】
更に、洗浄液の加熱に関し、上限値Hと下限値Lの差(温度幅W)が2℃ないし10℃であるため、洗浄液温度として所望される条件を満たしながら、ヒートポンプ110における効率良い運転の継続度合を短すぎないものとし、或いは運転切替回数を頻繁にならないものとすることができ、加熱性能と効率のバランスが上手く取れたものとし、良好な加熱性能と高効率を両立することができる。同様に、冷却上限値と冷却下限値の差が2℃ないし10℃であるため、荒削り工程時の切削液温度として所望される条件を満たしながら、良好な冷却性能と高効率を両立することができる。
【0054】
加えて、洗浄液を加熱するヒーター150を別途備えているため、洗浄液温度が下限値Lを下回り洗浄性能を低下させる期間の長期化を防止することができ、又洗浄液温度急降下時やヒートポンプ110不調時のバックアップを確保して信頼性を向上することが可能となる。更に、切削液を加熱する他冷熱源を備えているため、切削液温度が冷却上限値を上回り切削精度に影響を及ぼし得る期間の長期化を防止することができ、又切削液温度急上昇時やヒートポンプ110不調時のバックアップを確保して信頼性を向上することが可能となる。
【0055】
尚、切削液槽102毎に切削液温度を把握する切削液槽温度センサを設け、切削液槽102内の切削液温度(や冷水温度)に応じ、対応する比例弁128の開度を調節するため、各切削液槽102の負荷の状態に応じ適切に切削液を冷却することができる。
【0056】
[第3形態]
≪構成等≫
図6(a)に示す第3形態に係る生産ラインシステム201は、ヒートポンプが3モード式ヒートポンプ210とされている点を除き、第2形態と同様に成る。3モード式ヒートポンプ210は、ファン211を備えており、冷却・加熱同時運転機能に加えて、冷却単独運転機能或いは加熱単独運転機能を有している。尚、図6(b)に示すように、冷却チラー130やチラー用熱交換器132、或いはヒーター150やヒーター用熱交換器152を省略することができる。
【0057】
≪動作等≫
制御手段は、切削液槽102に関する冷水の冷却負荷と洗浄液槽104に関する洗浄液の加熱負荷が同時に存在する場合、3モード式ヒートポンプ210につき、冷却・加熱同時運転を行わせる。又、制御手段は、冷却負荷が存在するものの加熱負荷が存在せず加熱不要である場合、3モード式ヒートポンプ210につき、冷却単独運転を行わせる。更に、制御手段は、加熱負荷が存在するものの冷却負荷が存在せず冷却不要である場合、3モード式ヒートポンプ210につき、加熱単独運転を行わせる。3モード式ヒートポンプ210は、冷却・加熱同時運転や加熱単独運転における加熱側につき、第2形態と同様、温度幅を持った状態で運転する。又、荒削り工程中の冷却・加熱同時運転や冷却単独運転における冷却側につき、冷却・加熱同時運転や加熱単独運転における加熱側につき、第2形態と同様、温度幅を持った状態で運転する。
【0058】
≪効果等≫
生産ラインシステム201では、ヒートポンプとして、冷却・加熱同時運転、冷却単独運転或いは加熱単独運転が可能である3モード式ヒートポンプ210が用いられるため、冷却負荷や加熱負荷がどのように出現し或いは変化しても、運転状態を切替えることで柔軟に対応し適切に処理することができる。
【0059】
又、3モード式ヒートポンプ210においても、洗浄液の温度が所定の上限値を上回ると加熱量を減少し、所定の下限値を下回ると加熱量を増加し、或いは荒削り工程中の切削液の冷却についても同様に処理するので、やはり運転効率を極めて良好なものとすることができる。更に、生産ラインシステム201においても、ヒーター150や冷却チラー130を配備するため、各液の性能維持やバックアップの確保を実現することができる。
【0060】
≪発明等≫
ここで、主に第2形態ないし第3形態に係る発明を示す。
【0061】
(1)切削液を冷却すると共に洗浄液を加熱するヒートポンプを備えており、
当該ヒートポンプは、前記洗浄液の温度が所定の上限値を上回ると加熱量を減少し或いは加熱を停止し、所定の下限値を下回ると加熱量を増加し或いは加熱を再開する
ことを特徴とする生産ラインシステム。
初期費用やランニングコストを抑えることができ、ヒートポンプの高効率運用を行うことで更なる省エネルギー化が可能となる生産ラインシステム(冷却加熱システム)を提供することを目的とする。
【0062】
(2)前記ヒートポンプは、荒削り工程において前記切削液を冷却する場合に、前記切削液の温度が所定の冷却下限値を下回ると冷却量を減少し或いは冷却を停止し、所定の冷却上限値を上回ると冷却量を増加し或いは冷却を再開する
ことを特徴とする(1)に記載の生産ラインシステム。
上記目的に加えて、より一層のヒートポンプの高効率運用ないし装置の省エネルギー化を可能とする生産ラインシステムを提供することを目的とする。
【0063】
(3)前記上限値と前記下限値の差が2℃ないし10℃であり、及び/又は前記冷却上限値と前記冷却下限値の差が2℃ないし10℃である
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の生産ラインシステム。
上記目的に加えて、良好な冷却加熱性能と高効率を両立させることを目的とする。
【0064】
(4)前記ヒートポンプは、冷却・加熱同時運転、冷却単独運転或いは加熱単独運転が可能である3モード式ヒートポンプである
ことを特徴とする(1)ないし(3)の何れかに記載の生産ラインシステム。
上記目的に加えて、冷却負荷及び加熱負荷の双方につき大きさや出現タイミングが様々であっても適切に処理することを目的とする。
【0065】
(5)前記洗浄液を加熱する他熱源を備えており、及び/又は前記切削液を加熱する他冷熱源を備えている
ことを特徴とする(1)ないし(4)の何れかに記載の生産ラインシステム。
上記目的に加えて、洗浄液温度が下限値を下回る期間や切削液温度が上限値を上回る期間の長期化を防止し、バックアップを確保して信頼性を向上することを目的とする。
【0066】
≪変更例等≫
尚、主に主に第2形態ないし第3形態を変更して成る、本発明の他の形態を例示する。制御手段をヒートポンプやヒーター、冷却チラー等に設け(ヒートポンプ等の制御手段と共通とし)たり、制御手段を複数分散させ通信により協調処理するものとしたりする。洗浄液温度につき洗浄液槽内や洗浄液供給配管内のものを得るようにし、洗浄液温度センサの設置位置もこれらに応じて変更し、或いは冷水温度(切削液温度)に関し同様に変更する。ヒートポンプの運転につき、洗浄液温度が上限値を超えると加熱を停止し、或いは下限値を下回ると加熱を再開するようにしたり、荒削り工程時の切削液温度に関し同様に変更したりする。切削液につき、投げ込み式の熱交換器を設けず、直接ヒートポンプに導入し冷却して戻したり、洗浄液につき、温水回路や熱交換器を設け、温水を加熱して熱交換器に送り熱交換器を介して加熱したりする。比例弁に代えて、オンオフ弁を設置する。荒削り工程においても冷却チラーを冷却補助のため運転する。
【符号の説明】
【0067】
1,101,201 生産ラインシステム
10,110 ヒートポンプ
12 制御手段
102 切削液槽
104 洗浄液槽
130 冷却チラー(他冷熱源)
150 ヒーター(他熱源)
210 3モード式ヒートポンプ
H 上限値
L 下限値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの機械加工機のクーラントを冷却する冷却処理工程と、
前記機械加工機による加工前或いは加工後にワークの洗浄を行う洗浄液を加熱する加熱処理工程とを有し、
前記加熱処理工程と前記冷却処理工程とを一つのヒートポンプサイクルで行う
ことを特徴とする生産ラインシステム。
【請求項2】
前記加熱処理工程と前記冷却処理工程の何れか一方につき、その周辺温度に応じて設定温度を変更することで、前記加熱処理工程における加熱と前記冷却処理工程における冷却に関する熱収支を調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の生産ラインシステム。
【請求項3】
前記クーラントをクーラント用冷媒で冷却し、当該クーラント用冷媒を前記ヒートポンプサイクルで冷却する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生産ラインシステム。
【請求項4】
前記機械加工機が複数設置されており、
それぞれの前記機械加工機に、前記クーラントの温度を制御するクーラント温度制御手段が配置されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載の生産ラインシステム。
【請求項5】
前記加熱処理工程における加熱と前記冷却処理工程における冷却に関する熱収支について、前記洗浄液の設定温度で調整する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の生産ラインシステム。
【請求項6】
前記加熱処理工程における加熱と前記冷却処理工程における冷却に関する熱収支について、前記クーラントの設定温度で調整する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載の生産ラインシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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