説明

生産ラインシステム

【課題】冷却/加熱の出力設定を変更することなく、加熱対象の温度が低いときに、加熱対象の昇温時間を短縮することができる生産ラインシステムを提供すること。
【解決手段】生産ラインシステム10において、ヒートポンプ20は、切削液に対する冷却要求がある場合に、洗浄液の温度が所定の設定値未満であるとき、ヒートポンプ20による切削液の冷却を停止し、最大出力にて加熱単独運転を行って洗浄液を加熱し、洗浄液の温度が設定値以上になると、冷却・加熱同時運転に切り替えて切削液の冷却と洗浄液の加熱を同時に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱対象と冷却対象の熱を交換することにより、加熱対象の加熱と冷却対象の冷却を1つのヒートポンプサイクルで実施可能な生産ラインシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からエネルギーの有効活用という点でさまざまな技術が開発されてきたが、近年さらに環境問題を踏まえた省エネルギー化が求められている。そのため、エネルギー効率の高い生産ラインシステムの要望が高まっている。そこで、エネルギー効率を高めるために、加熱対象と冷却対象の熱を交換して加熱と冷却を同時に行うヒートポンプを利用した生産ラインシステムが提案されている。
【0003】
この種の生産ラインシステムとして、例えば、特許文献1に記載された塗装乾燥装置がある。この塗装乾燥装置では、温風生成用の加熱媒体の加熱と冷風生成用の冷却媒体の冷却をヒートポンプで一括して行い、工場の排温水や別個のヒートポンプの温水あるいは各炉の排気等(冷却側加熱媒体)と冷却媒体とで熱交換を行うようになっている。そして、冷却側加熱媒体の冷媒への適用により加熱量に応じた過冷却を防止することができ、極めて効率の良い安定したヒートポンプの動作を確保するようになっている。
【0004】
そして、上記した装置を含め、一般的に冷却・加熱(冷暖)同時運転を行うヒートポンプを利用した生産ラインシステムでは、冷却対象に急激な温度変化が発生すると、その温度変化が製品品質に大きな影響を及ぼすおそれがある。そのため、冷却/加熱の出力設定は、冷却負荷に合わせて加熱側の出力が設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−151437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の装置を含め、冷却・加熱同時運転を行うヒートポンプを利用する生産ラインシステムでは、ヒートポンプにおける加熱能力を冷却対象の要求熱量に合わせて下げているため、加熱対象の昇温に時間がかかってしまうという問題があった。特に、立ち上げ時などにこの問題が顕著となる。立ち上げ時は、加熱対象の温度が低く、また、冷却対象の要求熱量も少なくなりやすいからである。
【0007】
ここで、加熱対象の昇温時間を短縮するためには、加熱対象の要求熱量に合わせて加熱側の出力を上げれば良い。ところが、ヒートポンプにおいて、加熱側の出力を上げると、冷却側の能力が大きくなりすぎてしまって製品品質に悪影響を与えるおそれがある。そのため、加熱対象の要求熱量に合わせて加熱側の出力を上げることは困難である。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、冷却/加熱の出力設定を変更することなく、加熱対象の温度が低いときに、加熱対象の昇温時間を短縮することができる生産ラインシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一形態は、冷却対象の冷却と加熱対象の加熱を1つのヒートポンプで行う生産ラインシステムにおいて、前記ヒートポンプは、前記冷却対象の冷却要求がある場合に、前記加熱対象の温度が所定の設定値未満であるとき、前記ヒートポンプによる前記冷却対象の冷却を停止し、最大出力にて加熱単独運転を行って前記加熱対象を加熱し、前記加熱対象の温度が前記設定値以上になると、冷却・加熱同時運転に切り替えて前記冷却対象の冷却と前記加熱対象の加熱を同時に行うことを特徴とする。
【0010】
この生産ラインシステムでは、冷却対象の冷却要求があって、加熱対象の温度が所定の設定値未満である場合には、ヒートポンプによる冷却対象の冷却を停止し、最大出力にて加熱単独運転を行って加熱対象を加熱する。これにより、冷却対象の要求熱量に影響されることなく、加熱対象を最大出力で加熱することができる。従って、冷却/加熱の出力設定を変更することなく、加熱対象の昇温時間を大幅に短縮することができる。
【0011】
その後、加熱対象の温度が所定の設定値以上になると、ヒートポンプは、加熱単独運転から冷却・加熱同時運転に切り替えて、冷却対象の冷却と加熱対象の加熱を同時に行う。これにより、冷却対象の冷却及び加熱対象の加熱を、互いの相手から奪ったあるいは奪われた熱を熱源として実施することができ、エネルギー効率を極めて高いものとすることができる。
【0012】
上記した生産ラインシステムにおいて、前記ヒートポンプは、前記加熱対象を加熱する場合、前記加熱対象の温度が、前記設定値以上であって、所定の上限値を超えると加熱量を減少あるいは加熱を停止し、所定の下限値を下回ると加熱量を増加あるいは加熱を再開することが望ましい。
この場合、前記上限値と前記下限値との差は、2℃〜10℃に設定すれば良い。
【0013】
このようにすることにより、加熱対象の温度を一定温度に維持する場合に比べて、効率よく加熱対象を加熱することができ、また、加熱運転状態の切替回数が少なくなるため、省エネルギー化を図ることができる。
そして、上限値と下限値の差を2℃〜10℃に設定することにより、加熱対象の温度として所望される条件を満たしながら、ヒートポンプにおける効率良い運転の継続度合を短すぎないものとし、あるいは運転切替回数を頻繁にならないものとすることができる。従って、加熱性能と効率のバランスが上手く取れたものとし、良好な加熱性能と高効率を両立することができる。
【0014】
上記した生産ラインシステムにおいて、前記冷却対象は、ワークを加工する機械加工機へ供給するためにクーラント槽内に蓄えられたクーラントであり、前記クーラント槽が複数設置されており、前記加熱対象は、ワークの加工前あるいは加工後にワークの洗浄を行う洗浄液であることが望ましい。
【0015】
このような構成にすることにより、機械加工機における冷却処理工程の前又は後に洗浄液の加熱処理工程を隣接させることができ、冷却処理工程と加熱処理工程を一連のものとすることが可能となる。その結果、ヒートポンプから冷却処理工程あるいは加熱処理工程への距離が短くなって、配管等の短縮化により低コストとなるし、伝送ロス等が低減されてさらに省エネルギー化を図ることができる。
【0016】
また、工場内において一連の加工ライン毎に加熱冷却システムを完結させることができ、フレキシブル性を極めて良好なものとすることができる。
そして、一連の加工ラインにおいてヒートポンプを使用しているので、生産中は常に冷却と加熱が同時に必要とされ、よって長時間の冷暖同時運転とすることができ、エネルギー効率の高い生産ラインとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る生産ラインシステムによれば、上記した通り、加熱対象の温度が所定の設定値未満の場合には、ヒートポンプが加熱単独運転を行うことにより加熱対象の昇温時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態に係る生産ラインシステムの概略構成を示す図である。
【図2】生産ラインシステムにおけるヒートポンプサイクルの動作内容を示すフローチャートである。
【図3】生産ラインシステムの立ち上げ時に急速加熱が実施される場合におけるヒートポンプの運転状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の生産ラインシステムを具体化した実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。以下の実施の形態では、本発明を機械加工部品の製造ラインに適用した場合を例示する。
【0020】
そこで、実施の形態に係る生産ラインシステムについて、図1を参照しながら説明する。図1は、実施の形態に係る生産ラインシステムの概略構成を示す図である。
図1に示すように、生産ラインシステム10は、機械加工部品製造の切削工程における切削液の冷却及びその後の洗浄工程における洗浄液の加熱を行うために配備されており、切削液を蓄えるk台(k=1〜n)の切削液槽11k(111,112,・・・,11n)と、洗浄液を蓄える洗浄液槽12と、切削液を冷却し洗浄液を加熱するためのヒートポンプ20とを備えている。洗浄液槽12は、クリーン槽12aとダーティ槽12bを備えており、洗浄液がクリーン槽12aとダーティ槽12bとの間で循環されるようになっている。
【0021】
ヒートポンプ20は、3モード式ヒートポンプであり、切削液を冷却するための冷媒である冷水を熱交換により冷却する冷却用熱交換器21と、洗浄液を熱交換により加熱する加熱用熱交換器22と、ヒートポンプ冷媒と空気(大気)との熱交換を行う空気熱交換器23と、ヒートポンプ冷媒を圧縮する圧縮機24とを備えている。これらの各熱交換器21,22,23と圧縮機24は、ヒートポンプサイクルに組み込まれている。そして、ヒートポンプ20では、各熱交換器21,22,23の運転を切り替えることにより、冷却・加熱(冷暖)同時運転、冷却単独運転あるいは加熱単独運転を行うことができるようになっている。
【0022】
冷却用熱交換器21には、冷水を受け入れる冷水戻り配管30及び冷水を出す冷水供給配管31が接続されており、冷水供給配管31には冷水を送る冷水ポンプ32が取り付けられている。そして、冷水ポンプ32が作動することにより、冷水戻り配管30、冷却用熱交換器21、冷水供給配管31、及び熱交換器33により構成される冷却系を冷水が循環するようになっている。
また、冷水供給配管31には、切削液槽11k毎に配置された投げ込み式の熱交換器33k(331,332,・・・,33n)が接続されており、各熱交換器331,332,・・・へ分岐した冷水供給配管31にはそれぞれ比例弁34,34,・・・が設置されている。熱交換器33kは、切削液槽11kに投入されて冷却系を循環する冷水が通過することで、熱交換により切削液槽11k内の切削液を冷却するようになっている。
【0023】
一方、加熱用熱交換器22には、洗浄液を受け入れる洗浄液戻り配管40及び洗浄液を出す洗浄液供給配管41が接続されている。洗浄液戻り配管40の他端には、洗浄液をクリーン槽12aから送り出す洗浄液ポンプ42が取り付けられている。そして、加熱用熱交換器22は、洗浄液戻り配管40から導入された洗浄液を熱交換により加熱して洗浄液供給配管41に導出し、加熱された洗浄液をクリーン槽12aに戻すようになっている。そして、クリーン槽12aに戻された洗浄液は、循環配管43及び循環ポンプ44により、クリーン槽12aとダーティ槽12bとの間で循環させられる。
【0024】
このように、生産ラインシステム10では、切削液の冷却処理工程の前又は後に洗浄液の加熱処理工程を隣接させることができ、冷却処理工程と加熱処理工程を一連のものとすることが可能となる。従って、ヒートポンプ20から冷却処理工程あるいは加熱処理工程への距離が短くなって、配管30,31,40,41等の短縮化により低コストとなるとともに、伝送ロス等が低減されてさらに省エネルギー化を図ることができる。また、工場内において一連の加工ライン毎に加熱冷却システムを完結させることができ、フレキシブル性を極めて良好なものとすることができる。さらに、一連の加工ラインにおいて生産中は常に冷却と加熱が同時に必要とされるため、加熱及び冷却をヒートポンプ20において、互いの相手から奪ったあるいは奪われた熱を熱源として利用することができるので、長時間の冷暖同時運転を行うことができ、エネルギー効率の高い生産ラインとすることができる。さらにまた、ヒートポンプ20として3モード式ヒートポンプを用いているため、冷却負荷や加熱負荷がどのように出現しあるいは変化しても、運転状態を切替えることで柔軟に対応し適切に各工程を処理することができ、エネルギー効率を極めて高いものとすることができる。
【0025】
そして、ヒートポンプ20には、制御手段が備わっており、その制御手段に、冷却用熱交換器21の出口における冷水温度(冷水供給配管31内の冷水温度)を把握して送信する図示しない冷水温度センサと、洗浄液槽12内の洗浄液温度を把握して送信する図示しない洗浄液温度センサが接続されている。また、制御手段には、各比例弁34が、制御手段の発する開度指令に基づき開度調節可能に接続されている。さらに、制御手段には、各切削液槽11内の切削液温度を把握して送信する図示しない切削液槽温度センサがそれぞれ接続されている。
【0026】
ここで、制御手段は、ヒートポンプ20の加熱側につき、運転条件に温度幅を持たせた状態で運転する。すなわち、加熱運転条件において洗浄液温度の下限値(本実施の形態では58℃)と上限値(本実施の形態では60℃)を設け、制御手段が洗浄液温度につき上限値を超えるとヒートポンプ20による加熱を停止して(又は加熱量を直前より減らして)洗浄液温度の下降を許容し、下限値を下回るとヒートポンプ20による加熱を再開して(加熱量を直前より増やして)洗浄液温度を上昇させる。なお、温度幅(上限値と下限値の差)は、本実施の形態では2℃であるが、これに限られることはなく2〜10℃に設定すれば良い。
【0027】
このようにすることにより、洗浄液温度を一定に維持する場合に比べて、効率よく洗浄液を加熱することができ、また、加熱運転状態の切替回数が少なくなるため、省エネルギー化を図ることができる。
そして、上限値と下限値の差を2℃〜10℃に設定することにより、洗浄液の温度として所望される条件を満たしながら、ヒートポンプ20における効率良い運転の継続度合を短すぎないものとし、あるいは運転切替回数を頻繁にならないものとすることができる。従って、加熱性能と効率のバランスが上手く取れたものとし、良好な加熱性能と高効率を両立することができる。
なお、洗浄液温度の下降は、部品洗浄数(洗浄量)が急激に増加した場合や、洗浄液を補給注入した場合などに起こる。
【0028】
また、制御手段は、ヒートポンプ20の冷却側については、各切削液槽11k内の切削液を所定の冷却設定温度以下に維持するように運転する。すなわち、冷却運転条件において切削液温度の冷却設定値(例えば20℃)を設け、制御手段が切削液温度につき冷却設定値からマイナス1℃(例えば19℃)を下回るとヒートポンプ20による冷却を停止して切削液の温度上昇を許容し、冷却設定値を上回るとヒートポンプ20による冷却を再開して切削液温度を下降させる。
また、制御手段は、切削液槽温度センサから得た個別の切削液槽11内の切削液温度や別途得た冷水温度に応じ、対応する比例弁34の開度をそれぞれ調節する。
【0029】
続いて、上記した生産ラインシステム10の動作について、図2を参照しながら説明する。図2は、生産ラインシステムにおけるヒートポンプサイクルの動作内容を示すフローチャートである。なお、図2に示す処理は、数msecサイクルで繰り返し行われる。
【0030】
図2に示すように、生産ラインシステム10では、まず、制御手段により、各切削液槽11kにおける切削液温度Tkが、予め設定されている冷却設定温度Tbkに対して、Tk>TbkあるいはTk<Tbk−1の関係を満たすかが判断される(ステップS1)。つまり、このステップS1では、切削液槽11k毎に切削液温度Tkが、冷却設定温度Tbkを上回っているか、あるいは冷却設定温度Tbkマイナス1℃を下回っているかが判断される。
【0031】
このとき、Tk>Tbkを満たす、つまり切削液温度Tkが冷却設定温度Tbkを上回っている切削液槽11kがある場合、その切削液槽11kでは熱交換器33kについて冷却要求があると判断して(ステップS2)、ステップS3の処理に進む。
一方、Tk<Tbk−1を満たす、つまり冷却設定温度Tbkマイナス1℃を下回っている切削液槽11kがある場合、その切削液槽11kでは熱交換器33kについて冷却要求がないと判断する(ステップS6)。そして、すべての熱交換器33kについて冷却要求がない場合に、冷却要求がOFFにされる(ステップS7)。これにより、ヒートポンプ20による切削液の冷却が停止される。
【0032】
また、上記の処理と並行して、クリーン槽12aにおける洗浄液温度Tcが、予め設定されている下限値(58℃)を下回っているか、あるいは上限値(60℃)を上回っているか、つまり予め設定されている温度範囲(58〜60℃)にあるか否かが判断される(ステップS10)。
このとき、洗浄液温度Tcが下限値(58℃)を下回っている場合には、加熱要求がONにされる(ステップS11)。これにより、ヒートポンプ20による洗浄液の加熱が行われる。一方、洗浄液温度Tcが下限値(58℃)を下回っている場合には、加熱要求がOFFにされる(ステップS12)。これにより、ヒートポンプ20による洗浄液の加熱が停止される。
【0033】
そして、冷却要求がある場合には、ステップS3で、クリーン槽12aの洗浄液温度Tcが、急速加熱を開始する設定温度(規格下限値:本実施の形態では「50℃」)に対して、Tc≧50℃あるいはTc<50℃の関係を満たすかが判断される。
このとき、クリーン槽12aの洗浄液温度Tcが50℃以上である場合には、冷却要求がONされ(ステップS4)、冷却要求台数に応じて圧縮機24がインバータ運転される(ステップS5)。これにより、ヒートポンプ20で冷却・加熱同時運転が実施され、切削液の冷却と洗浄液の加熱が同時に行われる。
【0034】
一方、クリーン槽12aの洗浄液温度Tcが50℃未満である場合には、冷却要求が無視されてOFFにされ(ステップS8)、圧縮機24が最大出力で運転される(ステップS9)。これにより、ヒートポンプ20で加熱単独運転が実施され、洗浄液の急速加熱が行われる。その結果、洗浄液が50℃に達するまでの昇温時間を大幅に(半分程度に)短縮することができる。
【0035】
ここで、生産ラインシステム10の立ち上げ時において、洗浄液が急速加熱される場合におけるヒートポンプ20の運転状態について、図2及び図3を参照しながら簡単に説明する。図3は、生産ラインシステム10の立ち上げ時に急速加熱が実施される場合におけるヒートポンプの運転状態を示す図である。
【0036】
まず、生産ラインシステム10が立ち上げられて各種電源がONされると、洗浄液温度Tcが50℃以上になるまでは、図2のステップS1〜S3、S8,S9、及びS10,S11の処理が繰り返し実施される。このため、冷却要求が無視されて図3に示すように、ヒートポンプ20では最大出力にて加熱単独運転(急速加熱)が行われる。これにより、洗浄液を短時間で昇温させることができる。
【0037】
ここで、本実施の形態のように、クリーン槽12aのみで洗浄液を加熱し、クリーン槽12aとダーティ槽12bとの間で洗浄液を循環させる場合には、洗浄液の循環が始まった際に洗浄液温度が下がってしまうため、洗浄液の再昇温にも時間がかかっていた。これに対して、生産ラインシステム10では、洗浄液の循環が始まった際に洗浄液温度が下がっても、急速加熱により短時間で洗浄液を再昇温させることができる。
【0038】
なお、急速加熱は、システムの立ち上がり時だけでなく、洗浄液温度Tcが設定値(50℃)を下回ったときに行われる。例えば、洗浄液が補充された場合や部品洗浄数(洗浄量)が急激に増加した場合などにも急速加熱が実施されることがある。
【0039】
そして、洗浄液温度Tcが50℃以上になると、図2のステップS4,S5の処理が実施されるため、図3に示すように、ヒートポンプ20では冷却要求台数に応じて圧縮機24がインバータ運転される冷却・加熱同時運転に切り替わる。これにより、切削液の冷却と洗浄液の加熱が同時に行われる。このとき、切削液の冷却及び洗浄液の加熱を、互いの相手から奪ったあるいは奪われた熱を熱源として実施することができ、エネルギー効率を極めて高いものとすることができる。
【0040】
その後、洗浄液温度Tcが60℃を超えると、図2のステップS10,S12の処理が実施されるため、図3に示すように、ヒートポンプ20では加熱運転を停止する。そして、洗浄液温度Tcが58℃を下回ると、図2のステップS10,S11の処理が実施されるため、図3に示すように、ヒートポンプ20では加熱運転を再開する。これにより、洗浄液の温度として所望される条件を満たしながら、ヒートポンプ20における効率良い運転の継続度合を短すぎないものとし、あるいは運転切替回数を頻繁にならないものとすることができる。その結果、加熱性能と効率のバランスが上手く取れたものとし、良好な加熱性能と高効率を両立することができる。
【0041】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態に係る生産ラインシステム10によれば、洗浄液温度が設定値(本実施の形態では50℃)未満であって、いずれかの切削液槽11kについて冷却要求がある場合、ヒートポンプ20において、冷却要求をOFFにして圧縮機24を最大出力で運転して加熱単独運転状態とする。これにより、冷却/加熱の出力設定を変更することなく、洗浄液を急速加熱することができるため、洗浄液の昇温時間を大幅に短縮することができる。
【0042】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、洗浄液槽12として2槽のものを例示したが、洗浄液槽は1槽のものであっても良いし、3槽以上のものであっても良い。
【0043】
また、上記した実施の形態では、機械加工部品の製造ラインに本発明を適用した場合を例示したが、その他の生産ライン(例えば、冷却炉を備える塗装ラインなど)にも適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 生産ラインシステム
11k 切削液槽
12 洗浄液槽
12a クリーン槽
12b ダーティ槽
20 ヒートポンプ
21 冷却用熱交換器
22 加熱用熱交換器
23 空気熱交換器
24 圧縮機
30 冷水戻り配管
31 冷水供給配管
33k 熱交換器
40 洗浄液戻り配管
41 洗浄液供給配管
42 洗浄液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却対象の冷却と加熱対象の加熱を1つのヒートポンプで行う生産ラインシステムにおいて、
前記ヒートポンプは、前記冷却対象の冷却要求がある場合に、
前記加熱対象の温度が所定の設定値未満であるとき、前記ヒートポンプによる前記冷却対象の冷却を停止し、最大出力にて加熱単独運転を行って前記加熱対象を加熱し、
前記加熱対象の温度が前記設定値以上になると、冷却・加熱同時運転に切り替えて前記冷却対象の冷却と前記加熱対象の加熱を同時に行う
ことを特徴とする生産ラインシステム。
【請求項2】
請求項1に記載する生産ラインシステムにおいて、
前記ヒートポンプは、前記加熱対象を加熱する場合、前記加熱対象の温度が、前記設定値以上であって、所定の上限値を超えると加熱量を減少あるいは加熱を停止し、所定の下限値を下回ると加熱量を増加あるいは加熱を再開する
ことを特徴とする生産ラインシステム。
【請求項3】
請求項2に記載する生産ラインシステムにおいて、
前記上限値と前記下限値との差が、2℃〜10℃に設定されている
ことを特徴とする生産ラインシステム。
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載するいずれか1つの生産ラインシステムにおいて、
前記冷却対象は、ワークを加工する機械加工機へ供給するためにクーラント槽内に蓄えられたクーラントであり、
前記クーラント槽が複数設置されており、
前記加熱対象は、ワークの加工前あるいは加工後にワークの洗浄を行う洗浄液である
ことを特徴とする生産ラインシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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