説明

生簀環境改善装置

【課題】 安価なコストで、水中環境を汚染せず、長期間にわたる付着防止効果および殺菌効果を持続することができる生簀環境改善装置を提供する。
【解決手段】 複数の第1索条10が複数の第2索条11によって結束され、第1光触媒部材13は第1索条10が挿通される略円筒状に形成され、第2光触媒部材13は第1索条10が挿通する略円筒状の基部と、基部に設けられ係合部とを有し、第3光触媒部材19は第2索条11が挿通する略円筒状の一対の本体部分17a,17bを連結する連結部分18を有する。このように第1〜第3光触媒部材13,16,19が構成されるので、生簀が波や海流などによって揺動しても、各光触媒部材13,16,19が索条10,11に対してずれてしまうことが防がれ、設置された範囲全体に均等に、しかも高密度で光触媒部材を配置することができ、水生生物の付着防止効果および殺菌効果を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の養殖などのための生簀への水生生物の付着を抑制し、水中環境を改善するために好適に実施することができる光触媒を用いた生簀環境改善装置に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類、甲殻類、貝類、藻類などの養殖のための生簀の養殖領域を周囲の水域から区画する養殖網には、長期間の使用によって、藻類、フジツボなどの水生生物が付着する。養殖網に付着した水生生物は、養殖網の網目を通過する水の流れを妨げ、養殖領域内の水質を悪化させ、寄生虫やバクテリアの繁殖を招来して、良好な養殖環境を損なうおそれがある。
【0003】
そのため、従来から、養殖網に有機スズ化合物または生物由来の忌避成分などの付着阻害物質を含有する塗料を塗布し、養殖網に水生生物が付着することを防止する技術が提案されているが、塗料含有物質の溶出または剥離によって水中環境が汚染されるとともに、水生生物の付着防止効果が短期間しか持続しないという問題がある。
【0004】
またこの従来技術では、付着阻害物質を含有する塗料は高価であり、また発生したバクテリアに対する殺菌効果が低いため、安価に長期間にわたって付着防止効果および殺菌効果を持続させることができる技術が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−160665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安価なコストで、水中環境を汚染せず、長期間にわたる付着防止効果および殺菌効果を持続することができる生簀環境改善装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、索条と、
索条が挿通され、基材の表面に光触媒機能を有する物質を含む光触媒層が設けられる略円筒状の複数の光触媒部材とを含むことを特徴とする生簀環境改善装置である。
【0008】
本発明に従えば、基材の表面に光触媒層が設けられる複数の略円筒状の光触媒部材に索条を挿通した構成とされるので、索条の一端部を水中に設置されている既存の生簀設備に結束するなどして容易に取り付けることができる。前記生簀は、水中に設置される養殖網に限るものではなく、地上に構築される水槽であってもよい。
【0009】
前記光触媒機能を有する物質としては、たとえば酸化チタンを挙げることができる。酸化チタンは、そのバンドギャップ以上のエネルギを持つ波長帯域が約300〜400nmの近紫外線などの光を照射すると、光励起によって伝導帯に電子を生じ、価電子帯に正孔を生じ、この光励起して生じた電子の持つ強い還元力および正孔の持つ強い酸化力を利用して殺菌作用を達成し、また有機物の分解、脱臭の各作用が達成される。これによって水に含まれる藻類、菌類などの有害物質を死滅させ、有害な物質を分解して水を長期間にわたって清浄化し、養殖網または水槽などの生簀への藻類およびフジツボなどの水生生物の付着を防止して、長期にわたって良好な生簀環境を維持することができる。
【0010】
また本発明は、前記索条は、予め定める第1方向に相互に間隔をあけて配置される複数の第1索条と、前記第1方向に交差する第2方向に相互に間隔をあけて配置され、各第1索条に結束される複数の第2索条とを含み、
前記光触媒部材は、第1索条が挿通する略円筒状の基部と、基部に設けられ、第2索条に掛け止められる係合部とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明に従えば、複数の第1索条が複数の第2索条によって結束され、各光触媒部材は、第1索条が挿通する略円筒状の基部に、第2索条に掛け止められる係合部が設けられた構成であるので、生簀が波や海流などによって揺動しても、各光触媒部材が第1および第2索条に対してずれてしまうことが防がれ、設置された範囲全体に均等に光触媒部材を配置して、確実に付着防止効果および殺菌効果を実現することができる。
【0012】
また本発明は、前記索条は、予め定める第1方向に相互に間隔をあけて配置される複数の第1索条と、前記第1方向に交差する第2方向に相互に間隔をあけて配置され、各第1索条に結束される複数の第2索条とを含み、
前記光触媒部材は、第2索条が挿通する略円筒状の一対の本体部分と、各本体部分を相互に軸線方向に離間させた状態で連結し、第1索条に掛け止められる連結部分とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明に従えば、複数の第1索条が複数の第2索条によって結束され、各光触媒部材は、第2索条が挿通する略円筒状の一対の本体部分と、各本体部分を相互に軸線方向に離間させた状態で連結し、第1索条に掛け止められる連結部分とを有するので、各光触媒部材を第1索条に対して第2索条毎に位置決めし、生簀が波や海流などによって揺動しても、各光触媒部材が第1および第2索条に対してずれてしまうことが防がれ、設置された範囲全体に均等に光触媒部材を配置して、確実に付着防止効果および殺菌効果を実現することができる。
【0014】
また本発明は、前記索条は、予め定める第1方向に相互に間隔をあけて配置される複数の第1索条と、前記第1方向に交差する第2方向に相互に間隔をあけて配置され、各第1索条に結束される複数の第2索条とを含み、
前記光触媒部材は、
第1索条が挿通される略円筒状の第1光触媒部材と、
前記第1索条が挿通する略円筒状の基部と、基部に設けられ、第2索条に掛け止められる係合部とを有する第2光触媒部材と、
第2索条が挿通する略円筒状の一対の本体部分と、各本体部分を相互に軸線方向に離間させた状態で連結し、第1索条に掛け止められる連結部分とを有する第3光触媒部材とを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に従えば、複数の第1索条が複数の第2索条によって結束され、第1光触媒部材は、第1索条が挿通される略円筒状に形成され、第2光触媒部材は、第1索条が挿通する略円筒状の基部と、基部に設けられ、第2索条に掛け止められる係合部とを有し、第3光触媒部材は、第2索条が挿通する略円筒状の一対の本体部分と、各本体部分を相互に軸線方向に離間させた状態で連結し、第1索条に掛け止められる連結部分とを有する。このように各光触媒部材は、第1〜第3光触媒部材によって構成されるので、生簀が波や海流などによって揺動しても、各光触媒部材が第1および第2索条に対してずれてしまうことが防がれ、設置された範囲全体に均等に、しかも高密度で光触媒部材を配置することができ、より高い水生生物の付着防止効果および殺菌効果を実現することができる。
【0016】
また本発明は、前記第1光触媒部材は、セラミックスの焼結体から成ることを特徴とする。
【0017】
本発明に従えば、前記第1光触媒部材がセラミックスの焼結体から成るので、多数の光触媒部材を焼成炉等によって工業的に焼成し、容易にかつ安価に耐久性の高い光触媒部材を製造することができる。これによって、広範囲に構築された生簀であっても、低コストで水生生物の付着防止効果および殺菌効果を実現することができる。
【0018】
また本発明は、前記第1光触媒部材は、アルミニウム合金から成ることを特徴とする。
本発明に従えば、前記第1光触媒部材がアルミニウム合金から成るので、多数の光触媒部材を金型成型によって製造することができる。このような金型成型は、光触媒部材の形状決定上の自由度が高く、表面の凹凸などの起伏を設けて受光面積を大きくし、光触媒機能を向上することができる。
【0019】
また本発明は、前記第2光触媒部材は、合成樹脂から成ることを特徴とする。
本発明に従えば、前記第2光触媒部材が合成樹脂から成るので、第1索条が挿通する略円筒状の基部に第2索条に掛け止められる係合部が設けられる光触媒部材を、たとえば射出成型などによって容易かつ安価に製造することができ、これによって製造コストを低減することができる。
【0020】
また本発明は、前記第3光触媒部材は、合成樹脂から成ることを特徴とする。
本発明に従えば、前記第3光触媒部材が合成樹脂から成るので、第2索条が挿通する略円筒状の一対の本体部分を相互に軸線方向に離間させた状態で連結部分によって連結された光触媒部材を、たとえば射出成型などによって容易かつ安価に製造することができ、これによって製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基材の表面に光触媒層が設けられる複数の略円筒状の光触媒部材に索条を挿通した構成であるので、既存の養殖網および水槽などの生簀設備に容易に設けることができ、安価なコストで水生生物の付着防止効果および殺菌効果を長期に持続させて、生簀の環境を改善することができる生簀環境改善装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明に実施の一形態の生簀環境改善装置1を示す斜視図であり、図2は生簀環境改善装置1を生簀2に設置した状態を示す斜視図である。たとえば海中に設置される生簀2の養殖網3は、海中で魚、甲殻類などを養殖するための養殖領域を規定し、この養殖領域を清浄な環境に維持するために、前記養殖網3には生簀環境改善装置1が設けられる。
【0023】
養殖網3は、4つの周壁および底部を有し、直方体の養殖領域を形成し、海水が養殖網3の各網目4を自由に通過する。本実施の形態では、養殖網は菱目編地から成る。養殖網3の周壁の上部には、複数の浮子5が互いに間隔をあけて連結され、養殖網3の下端部が海中に垂下して、前述した直方体状の養殖領域を周囲から区画し、太陽光、蛍光灯、水銀灯、白熱灯などの光源から直接に、または光ファイバを介して間接に、紫外線を含む光が照射される。このような養殖領域を規定する養殖網3には、本実施形態の生簀環境改善装置1が全周にわたって外囲するように設けられる。なお、図2は、図解を容易にするため、養殖網3の一側壁だけに生簀環境改善装置1が装着された状態を示している。
【0024】
前記生簀環境改善装置1は、予め定める第1方向である略鉛直方向Yに延び、相互に間隔L1をあけて配置される複数の第1索条10と、前記第1方向に交差する第2方向である略水平方向Xに延び、相互に間隔L2をあけて配置され、各第1索条10に結束される複数の第2索条11とによって格子状に形成される網状体12と、第1索条10が挿通される略円筒状の第1光触媒部材13と、前記第1索条10が挿通する略円筒状の基部14と、基部14に設けられ、第2索条11に掛け止められる係合部15とを有する第2光触媒部材16と、第2索条11が挿通する略円筒状の一対の本体部分17a,17bおよび各本体部分17a,17bを相互に軸線方向に離間させた状態で連結し、第1索条10に掛け止められる連結部分18を有する第3光触媒部材19とを含む。
【0025】
第1および第2索条10,11を総称して「索条」と記す場合がある。また、第1〜第3光触媒部材13,16,19を総称して「光触媒部材」と記す場合がある。前記索条10,11は、ポリエチレン、ナイロンおよびポリエステルなどの合成樹脂から成る複数のモノフィラメントまたはマルチフィラメントを撚り合わせたロープまたは紐によって実現される。また、第1索条10と第2索条11とは有結節目によって互いに結束された構成であってもよく、無結節目によって一体に連なって結束された構成であってもよい。
【0026】
図3は第1光触媒部材13の斜視図であり、図4は第1光触媒部材13の分解斜視図である。第1光触媒部材13は、中心軸線上に第1および第2索条10,11を挿通することができる挿通孔20が形成される略回転楕円体状の基部21と、基部21の外周面に接着剤によって固着される一対の半割れ状の外層片22a,22bと有する。基部21はセラミックスの焼結体から成る。各外層片22a,22bは、光触媒として機能する物質を含有する担持体としてのセラミックスの焼結体から成る。
【0027】
前記接着剤としては、水中で有機溶剤、揮発性有機化合物、化学薬品および可塑剤などに含まれるホルムアルデヒド等の有害物質が溶出しない耐水性に優れた接着剤が用いられる。
【0028】
ここで、本実施形態において、光触媒機能とは、光触媒機能を有する物質として、たとえば、二酸化チタン、酸化亜鉛、炭化ケイ素等の無機材料にそのバンドギャップ以上のエネルギを持つ光を照射すると、その表面上に正孔・電子対が生成する現象をいう。光エネルギによって生じた正孔は、水と接することによって下記の反応を生じる。
2O+h+→OH+H+
【0029】
また、電子が空気と接することによって下記の反応を生じる。
2+e-→O2-
【0030】
発生したOH(水酸ラジカル)およびO2-(活性酸素:スーパーオキサイドイオン)はオゾン以上の強い酸化作用を有している。この活性酸素は強い殺菌力を有しており、微生物の細胞膜を破壊する作用を発現する。この働きは活性酸素の寿命が非常に短いことから光触媒の表面のみで生じ、表面から離れた部位には影響を及ぼすことはない。
【0031】
前記光触媒機能を有する物質としては、後述する酸化チタンを挙げることができる。酸化チタンは、そのバンドギャップ以上のエネルギを持つ波長帯域が約300〜400nmの近紫外線などの光を照射すると、光励起によって伝導帯に電子を生じ、価電子帯に正孔を生じ、この光励起して生じた電子の持つ強い還元力および正孔の持つ強い酸化力を利用して殺菌作用を達成し、また有機物の分解、脱臭の各作用が達成される。
【0032】
光触媒機能を有する物質の担持体としてのセラミックスは、立体的な網目構造を有する多孔質セラミックであって、直径が2〜3mmのマクロポアと、直径が2〜3μmのミクロポアとを有する構造体であり、金属酸化物系セラミックスおよび非酸化物系セラミックスの粉体、たとえば、金属酸化物系セラミックスとしてアルミナ、コージライト、ムライト、ジルコニア、シリカ、マグネシア等およびこれらの混合物、非酸化物系セラミックスとして、炭化ケイ素、窒化ケイ素から得られる多孔質セラミックスなどの粉体を好適に用いることができる。
【0033】
多孔質セラミックの製造方法としては、たとえば、材料をシルト状または泥水状とし、これをフォーム剤に含浸させ、1500℃程度の高温で焼結させる。また、光触媒機能を有する物質としては、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(Zn2O)、炭化ケイ素(SiC)、二硫化モリブデン(MoS2)、酸化第二鉄(Fe23)、酸化第二インジウム(In23)、三酸化タングステン(WO3)などの光触媒半導体と称される材料を使用することができるが、太陽光などの自然光で光触媒機能を発現する二酸化チタン、酸化亜鉛、炭化ケイ素などが好ましい。これらは、1種を用いてもよく、その光触媒機能を損なわない限りにおいて、2種以上を混合して用いてもよく、さらに、これらを主材とする合金として用いてもよい。特に、水に不溶であり、化粧品や歯磨きの材料としても用いられる二酸化チタンは、安全性も確認されており、バンドギャップが3eVであって、400nm以下の波長の光、即ち、太陽光で励起されて光触媒機能を発現させることができる。
【0034】
多孔質セラミックの表面に光触媒物質を担持させる方法としては、ゾル−ゲル法、スプレードライ法、溶射法などを採用することができる。ゾル−ゲル法による具体的な適用方法としては、多孔質セラミックをエタノールで洗浄し、乾燥して清浄にしたものを、チタンイソプロポキシド/エタノール溶液中に浸漬しながら加水分解を行い、溶液から取り出して乾燥する。
【0035】
前記多孔質セラミックスは、カオリナイトまたはモンモリロナイトを多く含んだ粘土を原料とし、焼成炉内で1100〜1300℃の温度で焼成することによって得られる。このような多孔質セラミックスは、無機系抗菌剤として、ゼオライト、シリカゲル、ガラス、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、ケイ酸塩、酸化チタン、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーおよびアルミナのうちから選ばれる一種が用いられてもよく、また有機系抗菌剤として、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾ−ルなどイミダゾ−ル誘導体、シクロフルアニドなどN−ハロアルキルチオ系化合物、10、10’−オキシビスフェノキサアルシンなどフェニルエーテル誘導体、セシルジメチルエチルアンモニウムブロミドなど第4級アンモニウム塩および2、3、5、6テトラコロル−4−(メチルスルホニル)ピリジンなどスルホン誘導体、アミド類、トリアジン誘導体、トリアゾール誘導体、メチロール基含有化合物、活性ハロゲン含有化合物、活性化されたN−S結合含有化合物、イソチアゾロン系および有機ヨウ素系のうちから選ばれた1種または複数種が用いられてもよい。
【0036】
図5は第2光触媒部材16を示す斜視図であり、図6は第2光触媒部材16の背面図である。前記第2光触媒部材16は、第1索条10が挿通する挿通孔28を有する略円筒状の基部25と、基部25に設けられ、第2索条11に掛け止められる係合部26とを有する。前記係合部26は、基端部が基部25の軸線方向中央部近傍に一体的に連なり、遊端部が相互に近接して配置される略C字状の係合片27a,27bから成る。
【0037】
このような第2光触媒部材16は、合成樹脂から成り、熱可塑性合成樹脂としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ABS樹脂、酢酸ビニル樹脂およびポリスチレン樹脂のうちの一種を選択的に用いることができる。また、熱硬化性合成樹脂としては、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、フラン樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂およびポリパラバン酸樹脂のうちの一種を選択的に用いることができる。
【0038】
このような合成樹脂の表面に前記光触媒発生物質、たとえば酸化チタンを混入して、たとえばブロー成型することによって、第2光触媒部材16を製造することができる。光触媒機能を有する酸化チタンなどの物質と合成樹脂とが混合されて成形される構成を有する光触媒部材を用いることによって、酸化チタンなどの物質が剥離、除去されることはなく、長期間にわたって使用することができる。
【0039】
図7は第3光触媒部材19を示す斜視図である。前記第3光触媒部材19は、第2索条11が挿通する挿通孔27a,27bがそれぞれ形成される略円筒状の一対の本体部分17a,17bと、各本体部分17a,17bを相互に軸線方向に離間させた状態で連結し、第1索条10に掛け止められる連結部分18とを有する。このような第3光触媒部材19は、前述の第2光触媒部材16と同様な合成樹脂から成る。
【0040】
本実施形態によれば、複数の第1索条10が複数の第2索条11によって結束され、第1光触媒部材13は、第1索条10が挿通される略円筒状に形成され、第2光触媒部材16は、第1索条10が挿通する略円筒状の基部25と、基部25に設けられ、第2索条11に掛け止められる係合部26とを有し、第3光触媒部材19は、第2索条11が挿通する略円筒状の一対の本体部分17a,17bと、各本体部分17a,17bを相互に軸線方向に離間させた状態で連結し、第1索条10に掛け止められる連結部分18とを有する。このように光触媒部材は、第1〜第3光触媒部材13,16,19によって構成されるので、生簀2が波や海流などによって揺動しても、各光触媒部材13,16,19が第1および第2索条10,11に対してずれてしまうことが防がれ、設置された範囲全体に均等に、しかも高密度で光触媒部材13,16,19を配置することができ、より高い水生生物の付着防止効果および殺菌効果を実現することができる。
【0041】
また、前記第1光触媒部材13がセラミックスの焼結体から成るので、多数の光触媒部材を焼成炉等によって工業的に焼成し、容易にかつ安価に耐久性の高い光触媒部材を製造することができる。これによって、広範囲に構築された生簀であっても、低コストで水生生物の付着防止効果および殺菌効果を実現することができる。
【0042】
また、前記第1光触媒部材13がアルミニウム合金から成るので、多数の光触媒部材を金型成型によって製造することができる。このような金型成型は、光触媒部材の形状決定上の自由度が高く、表面の凹凸などの起伏を設けて受光面積を大きくし、光触媒機能を向上することができる。
【0043】
また、前記第2光触媒部材16が合成樹脂から成るので、射出成型などによって容易かつ安価に製造することができ、これによって製造コストを低減することができる。
【0044】
また、前記第3光触媒部材19が合成樹脂から成るので、射出成型またはブロー成型などによって容易かつ安価に製造することができ、これによって製造コストを低減することができる。
【0045】
本発明は、水中に設置される養殖網に限るものではなく、地上に構築される水槽であってもよく、同様な効果を達成することができる。
【0046】
図8は本発明に他の実施形態の光触媒部材30を示す斜視図であり、図9は図8の切断面線IX−IXから見た断面図であり、図10は第1索条10に光触媒部材30を係止するための係止部31の構成を示す図である。本実施形態の光触媒部材30は、前述の第1〜第3光触媒部材13,16,19の少なくとも1つに代えて用いることができる。この光触媒部材30は、略円筒状の本体32と、本体32の軸線方向中央部に、本体32の軸線に関して半径方向外方に突出して一体的に形成される係止部31とを有する。このような光触媒部材30は、前述の第1〜第3光触媒部材13,16,19のうちのいずれか1つと同様な材料および製造方法によって製造することができる。
【0047】
前記係止部31は、第1索条10の撚りのピッチL11に対して1.1〜1.4倍の距離L12の間に複数、たとえば5つの係止爪33が等間隔に形成される2つの噛合片34,35が前記半径方向の内外に間隔をあけて設けられ、撚り合わされた第1索条10に確実に各噛合片34,35の係止爪33を噛合させ、光触媒部材30を第1索条10に係止することができる。この光触媒部材30は、取付け対象として、前記第1索条10に限るものではなく、第2索条11に対しても同様に係止することができる。係止部31を第1索条10または第2索条11に噛み込ませて係止するにあたっては、第1索条10または第2索条11の撚りを部分的に戻して素線を弛緩させ、その状態で各噛合片34,35間に挿入し、弛緩させた素線に再び撚りかけることによって、各噛合片34,35の係止爪33が第1索条10または第2索条11に噛合し、強固に係止させることができる。
【0048】
このような光触媒部材30を用いることによって、前述の第1〜第3光触媒部材13,16,19と同様な効果が達成されるとともに、第1索条10または第2索条11に対するずれを係止部31によって防止することができる。
【0049】
本発明の他の実施形態において、前記第1光触媒部材13は、光触媒機能を有する物質として酸化チタンを用いる場合には、基材にコーティングするに際して、300℃〜400℃で熱処理を行うため、前記基材は耐熱性を有する鉄板、またはアルミニウム合金版を用い、その表面を凹凸加工した上で略回転楕円体状に打抜き加工し、この打抜き加工した基材に前記コーティングによって光触媒層である外層片22a,22bを形成し、これらの外層片22a,22bを基部21の表面に前記接着剤によって接着することによって、前記第1光触媒部材13が形成されてもよい。また前記第2および第3光触媒部材16,19についても、前記他の実施形態の第1光触媒部材と同様な手法によって形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に実施の一形態の生簀環境改善装置1を示す斜視図である。
【図2】生簀環境改善装置1を生簀2に設置した状態を示す斜視図である。
【図3】第1光触媒部材13の斜視図である。
【図4】第1光触媒部材13の分解斜視図である。
【図5】第2光触媒部材16を示す斜視図である。
【図6】第2光触媒部材16の背面図である。
【図7】第3光触媒部材19を示す斜視図である。
【図8】本発明に他の実施形態の光触媒部材30を示す斜視図である。
【図9】図8の切断面線IX−IXから見た断面図である。
【図10】第1索条10に光触媒部材30を係止するための係止部31の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 生簀環境改善装置
2 生簀
3 養殖網
5 浮子
10 第1索条
11 第2索条
13 第1光触媒部材
14 基部
15 係合部
16 第2光触媒部材
17a,17b 本体部分
18 連結部分
19 第3光触媒部材
20 挿通孔
21 基部
22a,22b 外層片
28 挿通孔
25 基部
26 係合部
27a,27b 係合片
30 光触媒部材
31 係止部
32 本体
33 係止部
34,35 噛合片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
索条と、
索条が挿通され、基材の表面に光触媒機能を有する物質を含む光触媒層が設けられる略円筒状の複数の光触媒部材とを含むことを特徴とする生簀環境改善装置。
【請求項2】
前記索条は、予め定める第1方向に相互に間隔をあけて配置される複数の第1索条と、前記第1方向に交差する第2方向に相互に間隔をあけて配置され、各第1索条に結束される複数の第2索条とを含み、
前記光触媒部材は、第1索条が挿通する略円筒状の基部と、基部に設けられ、第2索条に掛け止められる係合部とを有することを特徴とする請求項1に記載の生簀環境改善装置。
【請求項3】
前記索条は、予め定める第1方向に相互に間隔をあけて配置される複数の第1索条と、前記第1方向に交差する第2方向に相互に間隔をあけて配置され、各第1索条に結束される複数の第2索条とを含み、
前記光触媒部材は、第2索条が挿通する略円筒状の一対の本体部分と、各本体部分を相互に軸線方向に離間させた状態で連結し、第1索条に掛け止められる連結部分とを有することを特徴とする請求項1に記載の生簀環境改善装置。
【請求項4】
前記索条は、予め定める第1方向に相互に間隔をあけて配置される複数の第1索条と、前記第1方向に交差する第2方向に相互に間隔をあけて配置され、各第1索条に結束される複数の第2索条とを含み、
前記光触媒部材は、
第1索条が挿通される略円筒状の第1光触媒部材と、
前記第1索条が挿通する略円筒状の基部と、基部に設けられ、第2索条に掛け止められる係合部とを有する第2光触媒部材と、
第2索条が挿通する略円筒状の一対の本体部分と、各本体部分を相互に軸線方向に離間させた状態で連結し、第1索条に掛け止められる連結部分とを有する第3光触媒部材とを含むことを特徴とする請求項1に記載の生簀環境改善装置。
【請求項5】
前記第1光触媒部材は、セラミックスの焼結体から成ることを特徴とする請求項4に記載の生簀環境改善装置。
【請求項6】
前記第1光触媒部材は、アルミニウム合金から成ることを特徴とする請求項4に記載の生簀環境改善装置。
【請求項7】
前記第2光触媒部材は、合成樹脂から成ることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1つに記載の生簀環境改善装置。
【請求項8】
前記第3光触媒部材は、合成樹脂から成ることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1つに記載の生簀環境改善装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−17103(P2010−17103A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178490(P2008−178490)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(592002950)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】