説明

生細胞観察用セル

【課題】生細胞の膜表面の計測や裏面側からの計測を行うことができ、生細胞の正確な構造解析を行うこと。
【解決手段】少なくとも1つ以上の細胞を培養液中で培養しながら、該細胞を観察するものであって、培養液を貯留する容器本体と、該容器本体内に着脱自在に固定され、表面に複数の突起部3が一定間隔を保ちながら形成されて、これら複数の突起部上に細胞がそれぞれ載置される平板状の載置板4とを備えている生細胞観察用セルを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフサイエンス分野、再生医療分野やバイオ関連分野等に関連する分野において、培養試料や生体材料等の生体試料を生きたまま計測する際に使用する生細胞観察用セルに関するものである。
具体的には、細胞最表面のマトリックス計測による機能や発現機構の解析、卵子等の活性計測や割卵時の表面状態計測等の研究において使用されるものであり、細胞膜シグナリオン研究においては、特定又は任意部位への刺激による研究要求に応えるものである。
【0002】
なお、細胞活性や卵子の活性計測は、具体的には動物実験代替に関わる研究や臨床での応用が期待されているものである。特に、卵子においては、人工授精後に活性度によるスクリーニングを計測によって行いたいというニーズがあり、本発明の生細胞観察用セルはこれに応えるべく、従来の目視によるスクリーニングを定量化するツールとして提供するものである。
【背景技術】
【0003】
従来の培養容器は、ガラスやプラスチック製のシャーレを用いたものであり、これらのシャーレを所望の環境(生体材料が増殖するのに必要な環境;培養環境)中に保存、維持することによって、目的とする細胞等を培養していた。また、例えば、細胞等を生体環境に近い模擬環境で増殖させるために、圧力や温度をかけたりすることも提案されている。また、細胞の入る桶部を複数形成すると共にこれらの各桶部にセンサを設け、各桶部ごとの電気的な計測を行うことも行われていた。
【特許文献1】特開2005−192406号公報
【特許文献2】特公平7−121232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の方法では以下の課題が残されていた。
即ち、従来の培養容器や計測用の桶部を有する容器を利用した計測(主に電気的な計測を指す)では、非常に領域の広い部分の計測や、広い間隔での計測に留まっているのが現状である。
しかしながら近年では、研究領域の拡大や専門化によって、計測への要求は現在よりもより微細部へ、より微小間隔へと移行しているが、現段階でこのような要求に対応できる(用意された)容器は存在せず、計測を行うことができなかった。
また、微細、微小ピッチでの物理的な刺激を生体試料に積極的に与え、その周辺部の計測を行うといった容器も存在していない。
【0005】
更に、例えば、細胞を培養する場合、従来は細胞をシャーレ内に入れたときに、細胞のフィラメントが伸展しながらシャーレ底部に拡がって、シャーレ底部に面接触するのが一般的であった。そのため、細胞の裏面側である膜下部を計測して、膜下部の情報を得ることができなかった。また、仮にシャーレ下部に大きな電極を配置したとしても、同様に面接触による計測しか行うことができなかった。
また、細胞表面に均一にプローブを配置させるには、プローブを細胞形状に沿って均質な力で接触させる必要があるので、微小間隔ではこれらを制御することは不可能であった。一般的に、面接触している細胞脂質膜面(接着面)と露出している細胞表面とでは、存在タンパク質や存在確立が異なると言われており、接着面を計測することが研究となる場合もある。
【0006】
このように従来では、培養中の細胞を上部(細胞表面)から計測することが一般的であったが、その裏面側を計測することは事実上不可能であった。通常、タンパク質等は、表面又は裏面でその構造が異なるが、上述したように裏面側の計測を行うことができないので、正確な構造解析を行うことができなかった。
【0007】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、生細胞の膜表面の計測や裏面側からの計測を行うことができ、生細胞の正確な構造解析を行うことができる生細胞観察用セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の生細胞観察用セルは、少なくとも1つ以上の細胞を培養液中で培養しながら、該細胞を観察する生細胞観察用セルであって、前記培養液を貯留する容器本体と、該容器本体内に着脱自在に固定され、表面に複数の突起部が一定間隔を保ちながら形成されて、これら複数の突起部上に前記細胞がそれぞれ載置される平板状の載置板とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
この発明に係る生細胞観察用セルにおいては、まず、載置板を容器本体内に固定すると共に、容器本体内に培養液を貯留する。これにより、載置板は培養液内に浸された状態となる。次いで、培養液中に細胞を撒くと、各細胞が一定間隔(例えば、数百nm〜数μmの間隔)を保ちながら載置板の表面に形成された複数の突起部上に載置される。即ち、細胞は、培養液中において複数の突起部に点接触した状態で支持される。これにより、細胞のフィラメントが拡がって底面に完全に面接触してしまう従来のセルとは異なり、細胞は複数の突起部によって中空に浮いたような状態になる。つまり、細胞は、体内に存在しているかの如く、より自然な状態で載置された状態となる。
【0010】
従って、従来困難であった細胞膜表面の計測や、細胞の裏面側のタンパク質等の計測を行うことができる。また、細胞をより自然に使い状態で正確に観察することができるので、構造解析等を高精度に行うことができる。その結果、細胞をより多角的に観察することができる。
【0011】
また、本発明の生細胞観察用セルは、上記本発明の生細胞観察用セルにおいて、前記複数の突起が、規則的に整列されたアレイ状に設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
この発明に係る生細胞観察用セルにおいては、複数の突起部が一定間隔を保ちながらアレイ状に設けられているので、細胞がより安定して載置し易い。
【0013】
また、本発明の生細胞観察用セルは、上記本発明の生細胞観察用セルにおいて、前記複数の突起部が、導電性を有しており、前記載置板に設けられ、前記複数の突起部にそれぞれ電気的接続された複数の配線パターンと、前記載置板に設けられ、前記複数の配線パターンにそれぞれ電気的接続されると共に、外部と電気接続可能な外部接続配線と、前記電気パターン及び前記複数の突起部の根元側を、電気絶縁状態で被膜する絶縁膜とを備えていることを特徴とするものである。
【0014】
この発明に係る生細胞観察用セルにおいては、複数の突起部上に細胞が載置された後、外部接続配線及び電気パターンを介して、細胞と接触している突起部のうち、選択した突起部と細胞との間に所定の電圧を印加して、選択した突起部から細胞に電流を流すことができる。つまり、細胞に刺激を与えることができる。また、これと同時に細胞に点接触している他の突起部を介して細胞に流れた電流、電圧を計測することができる。これにより、細胞に流れる電流分布等を測定でき、細胞のネットワーク等を観察して、細胞膜のシグナリオン研究を行うことができる。よって、より多角的な細胞観察を行うことができる。
【0015】
また、突起部の根元側及び電気パターンは、絶縁膜によって被膜されているので、培養液に直接触れることはない。つまり、突起部の先端だけの最小限の領域だけ培養液に触れるので、電流が培養液に洩れ難く、測定を正確に行うことができる。また、安全性を高めることができる。
【0016】
また、本発明の生細胞観察用セルは、上記本発明の生細胞観察用セルにおいて、前記複数の突起部が、圧電材料により形成され、前記細胞から受ける力に応じて抵抗値が変化することを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係る生細胞観察用セルにおいては、複数の突起部がPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料で形成されており、細胞と接触している突起部の抵抗値により、細胞の位置を正確に特定することができる。よって、経時的な細胞の移動状況等の計測を行うことができる。よって、さらに多角的に細胞の観察を行うことができる。
【0018】
また、本発明の生細胞観察用セルは、上記本発明の生細胞観察用セルにおいて、前記複数の突起部が、全て同一材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0019】
この発明に係る生細胞観察用セルにおいては、複数の突起部が全て同一材料により形成されているので、電位分布を計測することができる。即ち、細胞膜表面には、タンパク質の分布密度差やチャネル等により電場が不均一となっているが、複数の突起部を全て同一材料で形成することで、これらの分布を計測することができる。
【0020】
また、本発明の生細胞観察用セルは、上記本発明の生細胞観察用セルにおいて、前記複数の突起部が、それぞれ異なる材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
この発明に係る生細胞観察用セルにおいては、複数の突起部がそれぞれ異なる材料で形成されているので、細胞接触面と各突起部との間に、イオン化傾向の違いによる電位勾配が生じる。この際、各突起部は、それぞれ異なる材料で形成されているので、予め既知の異種金属等による電位勾配を持たせることができ、自己整合的に細胞への微弱印加を行うことができる。その結果、各突起部が受け取る電位変化等のシグナルを計測することで、マトリックス解析が可能となる。
【0022】
また、本発明の生細胞観察用セルは、上記本発明のいずれかの生細胞観察用セルにおいて、前記突起部が、高さが500nm〜100μmの範囲内であることを特徴とするものである。
【0023】
この発明に係る生細胞観察用セルにおいては、複数の突起部の高さが500nm〜100μmの範囲内であるので、細胞を確実に浮かせて、裏面側の細胞下部が載置板の上面に面接触してしまうことを防止できる。よって、細胞膜表面の計測をより確実且つ正確に行うことができる。
【0024】
また、本発明の生細胞観察用セルは、上記本発明のいずれかの生細胞観察用セルにおいて、前記突起部が、高さが1nm〜500nmの範囲内であることを特徴とするものである。
【0025】
この発明に係る生細胞観察用セルにおいては、複数の突起部の高さが1nm〜500nmの範囲内という非常に微小な高さであるので、載置された細胞は見かけ上、従来と同じように載置板の上面に面接触した状態となる。つまり、細胞の下部に複数の突起部が配置された状態となる。よって、従来困難であった、細胞の裏面側(細胞下部)の計測を確実に行うことができる。
【0026】
また、本発明の生細胞観察用セルは、上記本発明のいずれかの生細胞観察用セルにおいて、前記容器本体が、前記載置板が載置される下部マウントと、載置板を下部マウントに押し付けた状態で該下部マウントに着脱自在に組み合わされ、内側に培養液が貯留可能な上部マウントとを備えていることを特徴とするものである。
【0027】
この発明に係る生細胞観察用セルにおいては、まず、載置板を下部マウント上に載置する。次いで、上部マウントを下部マウントに組み合わせる。これにより、載置板は、下部マウントに押し付けられた状態で確実に固定される。次いで、上部マウントの内側に培養液を貯留することで、載置板を培養液内に浸すことができる。特に、載置板は上部マウントによって、下部マウントに確実に押し付けられているので、培養液上に浮いたりせず姿勢が安定的に保持されている。よって、安定して細胞を載置することができ、測定精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る生細胞観察用セルによれば、細胞を自然のままの状態でより正確に観察することができ、従来困難であった細胞膜表面の計測や、細胞の裏面側のタンパク質等の計測を行うことができ、構造解析等を高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る生細胞観察用セルの一実施形態について、図1から図12を参照して説明する。
本実施形態の生細胞観察用セル1は、少なくとも1つ以上の細胞Sを培養液W中で培養しながら該細胞Sを観察するものであって、図1に示すように、培養液Wを貯留する容器本体2と、該容器本体2内に着脱自在に固定され、表面に複数の突起部3が一定間隔を保ちながら形成されて、これら複数の突起部3上に細胞Sがそれぞれ載置される平板状の載置板4とを備えている。
【0030】
上記容器本体2は、載置板4が載置される下部マウント10と、載置された載置板4を下部マウント10に押し付けた状態で該下部マウント10に着脱自在に組み合わされ、内側に培養液Wが貯留可能な上部マウント11とを備えている。
下部マウント10は、中心に開口12aが形成された底板部12と、該底板部12の周縁から略90度折曲された壁部13とで一体的に成型されている。そして、載置板4は、底板部12の上面に載置されるようになっている。
【0031】
また、上部マウント11は、外壁部15及び内壁部16と、これら外壁部15及び内壁部16の上端を接続する上板部17とで、断面視コ形状になるように一体成型された環状体である。そして、上部マウント11の外壁部15の内周面と、下部マウント10の壁部13の外周面とが摺動しながら嵌合するようになっている。その結果、上部マウント11と下部マウント10とが組み合わさって、固定されるようになっている。
また、上部マウント11の内壁部16の下面には、Oリング18が取り付けられており、両マウント10、11が組み合わさったときに、Oリング18を介して載置板4を下部マウント10に押し付けるようになっている。これにより、載置板4は位置ずれすることなく、しっかりと保持された状態になる。
【0032】
上記載置板4は、図2及び図3に示すように、シリコン支持層21とシリコン酸化膜層22と、シリコン活性層23とを熱的に貼り合わせたSOI(Silicon On Insulater)基板20を利用して、下部マウント10の壁部13内に収まるように上面視円形に形成されている。なお、載置板4の製造方法については、後に詳細に説明する。
また、本実施形態の突起部3は、金属膜24により被膜されて、導電性を有するように形成されている。また、本実施形態の載置板4は、複数の突起部3にそれぞれ電気的接続された複数の配線パターン25と、該配線パターン25にそれぞれ電気的接続されると共に、外部と電気接続可能な外部接続配線26と、配線パターン25及び複数の突起部3の根元側を、電気絶縁状態で被膜する絶縁膜27とを備えている。
【0033】
複数の突起部3は、全て同一材料であるシリコン活性層23から形成されており、図2に示すように、XY方向に規則的に整列されたアレイ状に形成されている。この際、各突起部3の間隔Tは、図3に示すように、数百nm〜数μmとなるように調整されている。また、突起部3は、上記絶縁膜27から上方に突出した長さHが、500nm〜100μmの範囲内に収まるように長さが調整されている。
更に、各突起部3の先端は、数nm〜数百nmの曲率半径で丸み有するように形成されている。そして、各突起部3は、絶縁膜27の下側において、各配線パターン25に電気的接続されている。
【0034】
また、各配線パターン25は、載置板4の周縁部まで延びて、周縁部に設けられた電極パッド28に電気的に接続されている。なお、この電極パッド28は、図1に示すように、上部マウント11のOリング18と、下部マウント10の壁部13との間に位置するように設けられている。これにより、電極パッド28は、培養液Wに直接触れないようになっている。
そして、各電極パッド28に外部接続配線26の一端側が接続されている。この外部接続配線26は、他端側が図示しない電圧印加装置に接続されている。
【0035】
次に、上述した載置板4の製造方法について、以下に説明する。
まず、図4に示すSOI基板20のシリコン活性層23上にエッチングマスクとなるフォトレジスト膜30を、図5に示すように、フォトリレジスト技術によって突起部3を形成する位置にドット状にパターニングする。つまり、フォトレジスト膜30が、XY方向に規則的に整列されたアレイ状になるようにパターニングする。
次いで、図6に示すように、該フォトレジスト膜30をマスクとして、反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)やDRIE(Deep Reactive Ion Etching)等を行って、マスクされていないシリコン活性層23を選択的に除去して、複数の突起部3を形成する。
【0036】
この際、後述する絶縁膜27の厚みを考慮して、突起部3の高さが所定の高さになるように、反応速度等の設定を行う。この突起部3の形成が終了した後、マスクとしていたフォトレジスト膜30の除去を行う。
次いで、図7に示すように、突起部3を含むシリコン活性層23上の表面全体に金属スパッタを行って、金属膜24を被膜する。これにより、各突起部3は、導電性を有した状態になると共に、全て電気的に繋がった状態になる。
【0037】
次いで、図8に示すように、配線パターン25を形成する領域以外の部分を覆うようにフォトレジスト膜31をパターニングする。なお、各突起部3は、このフォトレジスト膜31によって、一時的に先端が保護された状態になる。
次いで、図9に示すように、フォトレジスト膜31をマスクとして、金属膜24をパターニングする。そして、フォトレジスト膜31を除去することで、図10に示すように、各突起部3にそれぞれ電気的接続された配線パターン25を形成することができる。また、これと同時に、シリコン活性層23の周縁部において配線パターン25をエッチング加工して電極パッド28を形成する。
【0038】
次いで、図11に示すように、シリコン活性層23上に絶縁膜27を被膜させる。そして、図12に示すように、絶縁膜27を所定の厚さだけエッチング加工する。これにより、図1に示すように、絶縁膜27上から500nm〜100μmの範囲内で突出した複数の突起部3が形成された載置板4を製造することができる。
【0039】
次に、このように構成された生細胞観察用セル1により、培養液W中の細胞Sを観察する場合について、以下に説明する。
始めに、生細胞観察用セル1の組み立てを行う。まず、下部マウント10の底板上に載置板4を載置する。次いで、上部マウント11の外壁部15の内周面と、下部マウント10の壁部13の外周面とを摺動させるように組み合わせて、下部マウント10と上部マウント11とを嵌合固定させる。これにより、載置板4は、Oリング18により下部マウント10に押し付けられた状態で確実に固定される。また、載置板4の電極パッド28及び外部接続配線26は、Oリング18と下部マウント10の壁部13との間に位置した状態となる。
【0040】
次いで、上部マウント11の内側に培養液Wを貯留する。これにより、載置板4は、培養液W中に浸された状態となる。なお、電極パッド28及び外部接続配線26は、上述したようにOリング18の外側に位置しているので、直接培養液Wに触れることはない。また、載置板4は、上部マウント11によって下部マウント10に押し付けられているので、培養液W上に浮いたりせずに姿勢が安定的に保持される。
【0041】
次いで、培養液W中に細胞Sを投入する。投入された細胞Sは、培養液W中を移動して載置板4側に接近し、図3に示すように、表面に形成された複数の突起部3上に載置される。即ち、細胞Sは、培養液W中において複数の突起部3に点接触した状態で支持される。これにより、細胞Sのフィラメントが拡がって底面に完全に面接触してしまう従来のセルとは異なり、細胞Sは複数の突起部3によって中空に浮いたような状態になる。つまり、細胞Sは、体内に存在しているかの如く、より自然な状態で載置された状態となる。
特に、複数の突起部3の高さHは、500nm〜100μmの範囲内になるように形成されているので、細胞Sを確実に浮かせて、裏面側の細胞下部が載置板4の表面に面接触してしまうことを確実に防止することができる。
【0042】
従って、細胞膜はあたかも表面と同質となり、従来は露出面(細胞表面)と裏面(接着面)との機能性タンパク質の存在確立の際や偏りにより測定することが困難であった自然状態の細胞膜表面の計測を行うことができる。また、細胞Sをより自然に近い状態で正確に観察することができるので、構造解析等を高精度に行うことができる。特に、載置板4は、上部マウント11及び下部マウント10によって、培養液W上に浮いたりせずに、姿勢が安定的に保持されているので、安定して細胞Sを載置することができる。このことからも、測定精度を向上することができる。
【0043】
具体的な計測としては、細胞Sが載置された後、外部接続配線26及び配線パターン25を介して、細胞Sと接触している突起部3のうち、選択した突起部3と細胞Sとの間に所定の電圧を印加して、突起部3から細胞Sに電流を流す。つまり、細胞Sに刺激を与える。また、これと同時に細胞Sに点接触している他の突起部3を介して細胞Sに流れた電流、電圧の計測を行う。これにより、細胞Sに流れる電流分布等を測定でき、細胞Sのネットワーク等を観察して、細胞膜のシグナリオン研究を行うことができる。よって、多角的な細胞観察を行うことをできる。
【0044】
また、突起部3の根元側及び配線パターン25は、絶縁膜27によって被膜されているので、培養液Wに直接触れることはない。つまり、突起部3の先端だけの最小限の領域だけ、培養液Wに触れるので、電流が培養液Wに漏れ難い。よって、測定を正確に行うことができると共に、安全性を高めることができる。
【0045】
また、複数の突起部3は、全て同一材料で形成されているので、細胞Sの電位分布等の計測も行うことができる。即ち、細胞膜表面にはタンパク質の分布密度差やチャネル等により電場が不均一となっているが、複数の突起部3を全て同一材料で形成することで、これらの分布の計測も行うことができる。よって、さらに多角的な細胞観察を行える。
【0046】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態では、突起部3の高さHを500nm〜100μmの範囲内に収まるように形成したが、この場合に限られるものではない。例えば、1nm〜500nmの範囲内という非常に微小な高さになるように形成しても構わない。こうすることで、突起部3上に載置された細胞Sは、見かけ上、従来と同じように載置板4の上面に面接触した状態となる。つまり、細胞Sの下部に複数の突起部3が配置された状態とすることができる。よって、従来困難であった、細胞Sの裏面側(細胞下部)の計測を確実に行うことができる。
【0048】
また、複数の突起部3を、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料により形成し、細胞Sから受ける力に応じて抵抗値を変化させても構わない。こうすることで、細胞Sと接触している突起部3の抵抗値をモニタすることで、細胞Sの位置を正確に特定することができる。よって、経時的な細胞Sの移動状況等の計測を行うことができる。よって、さらに多角的な細胞観察を行うことができる。
【0049】
また、載置板4を、SOI基板20を利用して製造したが、SOI基板20に限られるものではない。また、全ての突起部3を、シリコン活性層23を利用して同一材料により形成したが、それぞれ異なる材料で形成しても構わない。
こうすることで、細胞接触面と各突起部3との間にイオン化傾向の違いによる電位勾配が生じる。この際、各突起部3は、それぞれ異なる材料で形成されているので、予め既知の異種金属等による電位勾配を持たせることができ、自己整合的に細胞Sへの微弱印加を行うことができる。その結果、各突起部3が受け取る電位変化等のシグナルを計測することで、マトリックス解析が可能となる。
【0050】
また、上記実施形態では、載置板4を、下部マウント10及び上部マウント11から構成される容器本体2を利用して固定したが、この場合に限られず、既存の培養皿やシャーレを容器本体として利用し、この容器本体内に載置板4を沈めて生細胞観察用セルを構成しても構わない。
【0051】
また、上記実施形態では、金属膜24を被膜させることで、突起部3に導電性を持たせたが、この場合に限られず、例えば、シリコン活性層23に不純物をイオン注入法等によりドーピングして導電性を持たせても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る生細胞観察用セルの一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す生細胞観察用セルを構成する載置板の上面図である。
【図3】図2に示す載置板の拡大断面図である。
【図4】図3に示す載置板の製造工程を示す図であって、スタート基板となるSOI基板の断面図である。
【図5】図3に示す載置板の製造工程を示す図であって、図4に示すSOI基板のシリコン活性層上に、フォトレジスト膜をパターニングした状態を示す断面図である。
【図6】図3に示す載置板の製造工程を示す図であって、図5に示す状態から、フォトレジスト膜をマスクとしてシリコン活性層をエッチング加工し、複数の突起部を形成した状態を示す断面図である。
【図7】図3に示す載置板の製造工程を示す図であって、図6に示す状態から、複数の突起部を含むシリコン活性層上に、金属膜を被膜させた状態を示す断面図である。
【図8】図3に示す載置板の製造工程を示す図であって、図7に示す状態から、金属膜上にフォトレジスト膜をパターニングした状態を示す断面図である。
【図9】図3に示す載置板の製造工程を示す図であって、図8に示す状態から、フォトレジスト膜をマスクとして、金属膜をエッチング加工して配線パターンを形成した状態を示す断面図である。
【図10】図3に示す載置板の製造工程を示す図であって、図9に示す状態から、フォトレジスト膜を除去した状態を示す断面図である。
【図11】図3に示す載置板の製造工程を示す図であって、図10に示す状態から、配線パターン及び突起部を含むシリコン活性層上に、絶縁膜を被膜させた状態を示す断面図である。
【図12】図3に示す載置板の製造工程を示す図であって、図11に示す状態から、絶縁膜を所定の厚さだけエッチング加工して、金属膜に被膜された突起部の先端を露出させた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
S 細胞
W 培養液
1 生細胞観察用セル
2 容器本体
3 突起部
4 載置板
11 上部マウント
10 下部マウント
25 配線パターン
26 外部接続配線
27 絶縁膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上の細胞を培養液中で培養しながら、該細胞を観察する生細胞観察用セルであって、
前記培養液を貯留する容器本体と、
該容器本体内に着脱自在に固定され、表面に複数の突起部が一定間隔を保ちながら形成されて、これら複数の突起部上に前記細胞がそれぞれ載置される平板状の載置板とを備えていることを特徴とする生細胞観察用セル。
【請求項2】
請求項1に記載の生細胞観察用セルにおいて、
前記複数の突起が、規則的に整列されたアレイ状に設けられていることを特徴とする生細胞観察用セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生細胞観察用セルにおいて、
前記複数の突起部は、導電性を有しており、
前記載置板に設けられ、前記複数の突起部にそれぞれ電気的接続された複数の配線パターンと、
前記載置板に設けられ、前記複数の配線パターンにそれぞれ電気的接続されると共に、外部と電気接続可能な外部接続配線と、
前記電気パターン及び前記複数の突起部の根元側を、電気絶縁状態で被膜する絶縁膜とを備えていることを特徴とする生細胞観察用セル。
【請求項4】
請求項3に記載の生細胞観察用セルにおいて、
前記複数の突起部は、圧電材料により形成され、前記細胞から受ける力に応じて抵抗値が変化することを特徴とする生細胞観察用セル。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の生細胞観察用セルにおいて、
前記複数の突起部は、全て同一材料で形成されていることを特徴とする生細胞観察用セル。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の生細胞観察用セルにおいて、
前記複数の突起部は、それぞれ異なる材料で形成されていることを特徴とする生細胞観察用セル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の生細胞観察用セルにおいて、
前記突起部は、高さが500nm〜100μmの範囲内であることを特徴とする生細胞観察用セル。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の生細胞観察用セルにおいて、
前記突起部は、高さが1nm〜500nmの範囲内であることを特徴とする生細胞観察用セル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の生細胞観察用セルにおいて、
前記容器本体は、前記載置板が載置される下部マウントと、載置板を下部マウントに押し付けた状態で該下部マウントに着脱自在に組み合わされ、内側に培養液が貯留可能な上部マウントとを備えていることを特徴とする生細胞観察用セル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−116909(P2007−116909A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309498(P2005−309498)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/物性・生体情報ナノマッピングシステム(機能性ナノプローブ)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】