説明

産業用加熱システム及びその制御方法

【課題】安定的にエネルギー効率が高い産業用加熱システムを提供する。
【解決手段】産業用加熱システムは、ヒートポンプ装置(12)と、ボイラ及び電気ヒータの少なくとも1つを含む補装置(13)と、ヒートポンプ装置及び補装置からの熱が対象物に伝わる加熱室(16)と、少なくとも加熱室から回収された排熱を蓄え、ヒートポンプ装置に熱を供給可能な蓄熱装置(30)と、制御装置(70)とを有する。制御装置(70)は、少なくとも蓄熱装置の蓄熱量に基づいて、ヒートポンプ装置及び補装置の稼働タイミング及び実質的な稼働時間を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用加熱システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用加熱システムとしては、ボイラで生成した蒸気の熱を対象物に伝える構成が一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ヒートポンプあるいは冷凍機の媒体の熱を対象物に伝える構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−249450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボイラを用いたシステムは、一次エネルギー効率が比較的低い。一方、ヒートポンプを用いたシステムは、稼働条件が不安定であると、熱需要に十分に対応できない状況が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、安定的にエネルギー効率が高い産業用加熱システム及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、ヒートポンプ装置と、ボイラ及び電気ヒータの少なくとも1つを含む補装置と、前記ヒートポンプ装置及び前記補装置からの熱が対象物に伝わる加熱室と、少なくとも前記加熱室から回収された排熱を蓄える蓄熱装置であり、前記ヒートポンプ装置に熱を供給可能な前記蓄熱装置と、少なくとも前記蓄熱装置の蓄熱量に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記補装置の稼働タイミング及び実質的な稼働時間を制御する制御装置と、を備える、産業用加熱システムが提供される。
【0007】
本発明の別の態様に従えば、ヒートポンプ装置と補熱供給装置と蓄熱装置とを備える産業用加熱システムの制御方法が提供される。本制御方法は、少なくとも前記蓄熱装置の蓄熱量に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記補熱供給装置の稼働タイミング及び実質的な稼働時間を決定する工程を含む。
【0008】
上記の産業用加熱システム及びその制御方法によれば、ヒートポンプ装置及び補装置の稼働時間の最適化が図られ、エネルギー効率の向上が安定的に図られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態を示す概略図である。
【図2】加熱システムの動作の一例を示すフローチャート図である。
【図3】同時稼働モードの一例を示す概略図である。
【図4】ヒートポンプの負荷率とCOPの関係を示す図である。
【図5A】時間別稼働モードの一例を示す概略図である。
【図5B】時間別稼働モードの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、加熱システムS1を示す概略図である。
【0011】
図1に示すように、加熱システムS1は、作動流体(第1流体)が流れるヒートポンプ(ヒートポンプ回路)20を有するヒートポンプ装置(排熱回収ヒートポンプ)12と、ボイラ(補装置、補熱供給装置)13と、被加熱流体(第2流体)が供給され、対象物が加熱される加熱室(加熱装置)16と、蓄熱装置30を有する排熱回収装置(熱回収装置)17と、制御装置70とを備える。制御装置70は、システム全体を統括的に制御する。加熱システムS1の構成は設計要求に応じて様々に変更可能である。
【0012】
本実施形態において、被加熱流体(第2流体)は空気である。本実施形態において、ヒートポンプ装置12、及びボイラ13の少なくとも1つによって加熱された高温の空気が加熱室16に供給される。加熱室16において、高温空気からの熱が対象物に伝わる。
【0013】
本実施形態において、加熱室16において、加熱された空気からの熱が直接的又は間接的に対象物に伝わる。例えば、加熱室16において、加熱された空気が対象物に直接的に接することができる。あるいは、加熱室16において、加熱された空気と対象物との間に別の物質が介在することができる。
【0014】
本実施形態において、加熱対象物は産業部品や産業材料である。例えば、加熱室16において、産業部品又は産業材料の少なくとも一部が乾燥処理される。あるいは、加熱室16において、産業部品又は産業材料の少なくとも一部が熱処理される。なお、汚泥、紙、木材、樹脂、薬剤、薬品、砂、家庭ごみ、産業ごみ、工芸品、工芸材料、電気部品、電気機器、塗装物、産業用衣類、機械部品、機械製品、食料、食材、食料品など、様々な物体を加熱対象にできる。他の実施形態において、被加熱流体は乾燥用以外の空気、あるいは空気以外の流体にできる。空気以外の被加熱流体としては、例えば、水、圧縮水、薬品、粘性液などが挙げられる。また、他の実施形態において、加熱室16は、乾燥装置、及び/又は乾燥装置以外の他の熱利用装置を含むことができる。
【0015】
ヒートポンプ装置12において、ヒートポンプ20は、蒸発、圧縮、凝縮、及び膨張の各工程からなるサイクルにより、作動流体の状態変化を利用して複数の物体間で熱の授受を行う回路である。ヒートポンプサイクルは一般に、エネルギー効率が比較的高いという利点を有する。
【0016】
本実施形態において、ヒートポンプ20は、吸熱部、圧縮部、放熱部、及び膨張部(いずれも不図示)を有し、これらは導管を介して接続されている。ヒートポンプ20において、導管内を作動流体が流れる。本実施形態において、ヒートポンプ20は、作動流体の熱を用いて空気供給路15を流れる被加熱流体(第2流体、空気など)を加熱することができる。
【0017】
ヒートポンプ20の吸熱部では、導管(主経路)内を流れる作動流体がサイクル外の熱源の熱を吸収する。本実施形態において、ヒートポンプ20の吸熱部は、排熱回収装置17を介して、加熱室16からの排出流体(排ガス、排出空気)の熱(排熱)を吸収(回収)することができる。本実施形態において、ヒートポンプ20の吸熱部は、排熱回収装置17の放熱部に熱的に接続され、その内部で作動流体が蒸発する蒸発器を含む。放熱部を流れる媒体の熱がヒートポンプ20の吸熱部に吸収される。吸熱部が大気など他の熱源の熱を追加的に吸収する構成とすることもできる。
【0018】
ヒートポンプ20の圧縮部は、圧縮機等によって作動流体を圧縮する。この際、通常、作動流体の温度が上がる。圧縮部は、単段圧縮構造、又は作動流体を複数段に圧縮する多段圧縮構造を有することができる。圧縮の段数は、システムS1の仕様に応じて設定され、1、2、3、4、5、6、7、8、9、あるいは10以上である。圧縮部は、軸流圧縮機、遠心圧縮機、レシプロ式圧縮機、ロータリー式圧縮機などの様々な圧縮機のうち、作動流体の圧縮に適するものが適用される。圧縮機には動力が供給される。多段圧縮構造を有する圧縮部において、多軸圧縮構造又は同軸圧縮構造が適用可能である。
【0019】
ヒートポンプ20の放熱部は、圧縮部で圧縮された作動流体が流れる導管を有し、導管(主経路)内を流れる作動流体の熱をサイクル外の熱源(被加熱流体)に与える。放熱部の数は、システムS1の仕様に応じて設定され、1、2、3、4、5、6、7、8、9、あるいは10以上である。追加的に、ヒートポンプ20は、バイパス経路、流量センサ、流路制御弁などを有することができる。
【0020】
本実施形態において、ヒートポンプ20の放熱部は、ヒートポンプ20の圧縮部からの作動流体が流れ、その作動流体からの熱が空気供給路15を流れる被加熱流体に伝わる導管を有する。本実施形態において、ヒートポンプ20は、放熱部及びを流れる作動流体の流量を制御する構成を有することができる。この構成において、例えば、ヒートポンプ20は、バイパス経路、流量センサ、流路制御弁などを有することができる。
【0021】
ヒートポンプ20の膨張部は、減圧弁またはタービン等によって作動流体を膨張させる。この際、通常、作動流体の温度が下がる。タービンを使用した場合には膨張部から動力を取り出すことができ、その動力を例えばヒートポンプ20の圧縮部に供給してもよい。ヒートポンプ20に使用される作動流体として、フロン系媒体(HFC 245fa、R134aなど)、アンモニア、水、二酸化炭素、空気などの公知の様々な熱媒体が、システムS1の仕様及び熱バランスなどに応じて用いられる。ヒートポンプ20の放熱部を流れる作動流体の少なくとも一部が超臨界状態になってもよい。
【0022】
空気供給路(空気供給装置)15は、ボイラ13によって加熱された高温の空気を加熱室16に供給する。空気供給路15は、被加熱流体が流れる導管、ポンプやブロアなどの流体駆動機器、流体制御用の弁、フィルタなどのガス処理装置などを必要に応じて有することができる。他の実施形態において、補熱供給装置として、ボイラ13の代わりに又は追加的に、電気ヒータや他の熱装置を用いることができる。
【0023】
本実施形態において、空気供給路15からの被加熱流体(乾燥用空気)の出力温度は、熱需要に応じて変化できる。出力温度は、例えば、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200℃以上にできる。
【0024】
本実施形態において、加熱室16は、流体入口部、流体出口部、排気ルート、及び必要に応じて不図示の移送装置を有する。一例において、移送装置は、コンベア、搬送車、搬送ロボットなどの様々な形態を有することができる。移送装置によって、加熱対象物が加熱室16内に投入されるとともに、加熱室16から取り出される。代替的又は追加的に、加熱室16は、加熱後の対象物の出力のために、ゲート式、旋回式などの形態を有する出力部を備えることができる。加熱した対象物の出力部は、必要に応じて加熱した対象物に化学処理などの所定の処理を行う機構を有することができる。
【0025】
本実施形態において、必要に応じて、移送装置は、加熱室16内で、加熱対象物を移動させることができる。加熱室16は、必要に応じて、不図示の脱水装置をさらに有し、それによって対象物を脱水することができる。脱水の際、対象物に必要に応じて凝集剤を添加することができる。脱水は、遠心式、加圧式、圧搾式、振動式など、対象物に応じて様々な形態が適用可能である。脱水により、対象物の容量が減少する。また、加熱室16は、必要に応じて、加熱室16に入る前の対象物に熱を与える予熱室をさらに有することができる。
【0026】
排熱回収装置17は、加熱室16及び別の熱装置32の少なくとも1つからの排熱を回収する熱回収部と、熱回収部からの回収熱を少なくとも一時的に蓄える蓄熱装置30と、放熱部とを有する。
【0027】
本実施形態において、加熱室16及び別の熱装置32の少なくとも1つからのからの熱(排熱)が排熱回収装置17を流れる熱媒体に伝わる。排熱回収装置17の放熱部を流れる熱媒体からの熱がヒートポンプ20の吸熱部を流れる作動流体に伝わる。排熱回収装置17は、熱媒体が流れる導管、ポンプなどの媒体駆動機器、及び媒体制御用の弁などを有することができる。なお、配管構成は様々に変更可能である。
【0028】
熱回収部は、加熱室16及び別の熱装置の少なくとも1つからの排気が流れる排気管と、排気管と熱的に接続され、熱媒体が流れる吸熱導管とを有する。他の実施形態において、熱回収部は、排気を介さずに、加熱室16及び別の熱装置の少なくとも1つからの排熱を回収する構成にできる。
【0029】
一例において、蓄熱装置30は、温度成層型タンクを有することができる。すなわち、蓄熱装置30(蓄熱槽)において、高温熱媒体入口及び高温熱媒体出口が比較的高位置に配置され、低温熱媒体入口及び低温熱媒体出口が比較的低位置に配置される。高温熱媒体入口及び高温熱媒体出口の配置位置は、重力方向において低温熱媒体入口及び低温熱媒体出口の配置位置に比べて高い。蓄熱装置30において、タンクの高位置に比較的高温の熱媒体からなる高温域層が形成され、タンクの低位置に比較的低温の熱媒体からなる低温域層が形成される。タンクにおいて、温度の異なる熱媒体の混合が抑制された状態で、熱媒体の入出力が行われる。温度成層型のタンクは、蓄熱にかかるコスト抑制に有利である。本例において、排熱回収に用いられる熱媒体は水である。すなわち、本例において、熱媒体は熱回収部で熱伝達媒体として使用されるとともに、蓄熱装置30で蓄熱媒体として使用される。
【0030】
他の例において、熱伝達媒体と蓄熱媒体とを異ならせることができる。熱伝達用の媒体として、水の他に、例えば、薬品や、粘性液が挙げられる。蓄熱媒体(蓄熱材)として、水の他に、例えば、潜熱蓄熱材が挙げられる。潜熱蓄熱材としては、例えば、エリスリトール、アルカン類等の炭化水素、ワックス系(パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等)、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム三水塩、又は無機水和塩等を主成分とする材料等が挙げられる。蓄熱材して、顕熱蓄熱材、化学反応蓄熱材、超臨界流体を用いた蓄熱材等の他の物質を用いてもよい。
【0031】
排熱回収装置17の放熱部は、ヒートポンプ20の吸熱部に熱的に接続されかつ熱媒体(水)が流れる導管を含む。吸熱部21と放熱部とを含んで熱交換器が構成される。熱交換器は、低温の流体(ヒートポンプ20の吸熱部内の作動流体)と高温の流体(排熱回収装置17の放熱部内の熱媒体)とが対向して流れる向流型の熱交換構造を有することができる。あるいは、熱交換器は、高温流体と低温流体とが並行して流れる並行流型の熱交換構造を有してもよい。本実施形態において、熱交換器の熱交換構造として、公知の様々なものを採用することができる。放熱部の導管と吸熱部21の導管とは互いに接触あるいは隣接して配置される。例えば、放熱部の導管を、吸熱部21の導管の外周面や内部に配設することができる。熱交換器において、排熱回収装置17の放熱部からの伝達熱をヒートポンプ20の吸熱部が吸収する。
【0032】
本実施形態において、制御装置(制御部)70は、蓄熱装置30の蓄熱量、及び加熱室16における熱需要の少なくとも1つに基づいて、ボイラ13及びヒートポンプ装置12の稼働タイミング及び実質的な稼働時間を制御する。具体的には、制御装置70は、ヒートポンプ装置12の単独での稼働時間が最大となるように、ボイラ13及びヒートポンプ装置12の稼働タイミング及び稼働時間を制御することができる。
【0033】
本実施形態において、制御装置70は、ボイラ13を単独で稼働して蓄熱装置30に排熱を蓄え、その後に、ヒートポンプ装置12を単独で稼働するモードを含む。また、制御装置70は、ヒートポンプ装置12とボイラ13とを実質的に同時に稼働するモードを含む。また、制御装置70は、ヒートポンプ装置12の単独稼働とボイラ13の単独稼働とを実質的に時間別に実行するモードを含む。
【0034】
図2は、加熱システムS1の動作の一例を示すフローチャート図である。
図2に示すように、ステップ301において、制御装置70には、ヒートポンプ装置12を単独稼働させた際に回収可能な排熱量、加熱室16での熱需要の想定量や、蓄熱装置30における現在の蓄熱量、ヒートポンプ装置12の出力特性などの情報が予め入力される。
【0035】
ステップ302において、制御装置70は、蓄熱装置30における現在の蓄熱量でヒートポンプ装置12を少なくとも稼働開始できるかどうかを判別する。
【0036】
蓄熱量が不十分な場合、例えばヒートポンプ装置12の最低負荷に蓄熱量が満たない場合、ステップ303及びステップ304において、制御装置30は、最初にボイラ13を単独で稼働して蓄熱装置30に排熱を蓄え、その後に、ヒートポンプ装置12を単独で稼働する。このモードにおいて、ボイラ13を稼働させることで、熱供給と排熱を確保できる。
【0037】
蓄熱装置30の蓄熱量によってヒートポンプ装置12を稼働開始可能な場合、例えばヒートポンプ装置12の最低負荷を蓄熱量が満たす場合、ステップ305に進む。ステップ305において、制御装置70は、蓄熱装置30における現在の蓄熱量で加熱室16における熱需要を満たすことが可能か否かを判別する。
【0038】
稼働できるヒートポンプの出力によって熱需要を満たすことが可能な場合、ステップS306に進む。ステップS306において、制御装置70は、蓄熱装置30からの熱を利用してヒートポンプ装置12を単独稼働する。
【0039】
熱需要に対して稼働できるヒートポンプの出力が不十分な場合、ステップ307に進む。ステップ307において、制御装置70は最適なモードを選択するための計算が実行される。続くステップ308において、(1)ヒートポンプ装置12とボイラ13とを実質的に同時に稼働するモード(同時稼働モード)と、(2)ヒートポンプ装置12の単独稼働とボイラ13の単独稼働とを実質的に時間別に実行するモード(時間別稼働モード)とのいずれかを選択する。この選択は、例えば熱需要に対するシステム全体の熱効率に基づいて行うことができる。
【0040】
同時稼働モード(ステップ309)において、熱需要に対してヒートポンプ装置12の出力で不足する分をボイラ13の出力で補う。加熱室16には、ボイラ13からの熱とヒートポンプ装置12からの熱が供給される。加熱室16からは、ボイラ13の熱入力に対する排熱に加え、ヒートポンプ装置12の熱入力に対する排熱が得られる。ボイラ13とヒートポンプ装置12の出力比は、熱需要等に応じて様々に変更できる。
【0041】
図3に示す同時稼働モードの一例において、ボイラ13とヒートポンプ装置12の出力比は、25:75である。条件は、COP(成績係数:coefficient of performance)=3、加熱室16からの排熱回収率(ηexh)=50%、別の熱装置からの排熱回収率(ηexh2)=0%、である。ヒートポンプ装置12の出力比率は、以下のように計算できる。
ヒートポンプ出力比率=(ηexh+ηexh2)/(COP−1)・COP=(50+0)/(3-1)・3=75%
ボイラの出力比率=100%−ヒートポンプ出力比率=25%
【0042】
一方、時間別稼働モード(ステップ310)において、ヒートポンプ装置12とボイラ13とが時間をずらして稼働される。制御装置70は、ヒートポンプ装置12及びボイラ13の稼働タイミング及び実質的な稼働時間を制御する。時間別稼働モードは、最適な制御において、同時稼働モードに比べてヒートポンプ装置12の負荷率を高くできる。これは、システム全体の熱効率の向上に有利である。
【0043】
図4は、ヒートポンプ装置12の負荷率とCOPの関係を示す図である。一般に、ヒートポンプのCOPは負荷によって異なる。図4において、ケース1では、負荷率が高いほどCOPが高い。ケース2では、負荷率に対してCOPが極大値を持つ。ケース1において、ヒートポンプ装置12の負荷率が高いほど、システム全体の熱効率の向上が図られる。ボイラ13とヒートポンプ装置12の稼働時間の比率は、熱需要等に応じて様々に変更できる。
【0044】
図5A及び図5Bに示す時間別稼働モードの一例において、ボイラ13とヒートポンプ装置12の稼働時間の比は、2:6である。例えば、熱需要に対して8時間稼働が必要な場合、制御装置70は、まず、ボイラ13を2時間単独稼働して蓄熱装置30に排熱を蓄え、その後に、蓄熱装置30からの熱を利用してヒートポンプ装置12を残りの6時間稼働する。
【0045】
すなわち、図5Aにおいて、初めの2時間はボイラ13が単独稼働される。2時間分の加熱室16からの排熱(入熱の50%)が蓄熱装置30に蓄えられる。図5Bにおいて、後の6時間はヒートポンプ装置12が単独稼働される。ヒートポンプ装置12の稼働によって回収可能な6時間分の排熱(入熱の50%)と、上記2時間分の蓄えられた排熱とがヒートポンプ装置12の熱源として利用される。
【0046】
先の図4のケース2において、ヒートポンプ装置12の出力特性に基づき、時間別稼働と同時稼働とを組み合わせることも可能である。実稼働時には、ヒートポンプの特性が状況によって異なるため、そのことを考慮してシステムS1を運用することが省エネルギー等に役立つと考えられる。
【0047】
なお、別の熱装置からの排熱が一定量以上あるときは、以下のような計算となり、ヒートポンプ装置12を単独で稼働できる。COP=3、加熱室16からの排熱回収率(ηexh)=50%、別の熱装置からの排熱回収率(ηexh2)=16.7%。ヒートポンプ装置12の出力比率は、以下のように計算できる。
ヒートポンプ出力比率=(ηexh+ηexh2)/(COP−1)・COP=(50+16.7)/(3-1)・3=100%
【0048】
ステップ311において、排熱の余剰分は蓄熱装置30に蓄えられる。余剰排熱を蓄えることにより、排熱利用効率の向上が図られる。ステップ312において、熱需要や排熱等の条件が変化した場合、上述の一連のフローを繰り返すことができる。
【0049】
ヒートポンプ装置12の熱出力は稼働条件に影響されるものの、本システムS1の構成により、安定して熱需要を満たすことができる。ヒートポンプ装置12及びボイラ13の出力比や稼働タイミング、稼働時間を最適化することによって一次エネルギーの削減等に貢献できる。つまり、本実施形態によれば、稼働条件が不安定であったり、性能劣化が生じる場合であっても、安定して熱需要に対応できる。また、熱源機器の出力比の最適化が図られ、その結果、一次エネルギーの削減に寄与できる。
【0050】
本実施形態に基づく試算の一例において、ヒートポンプによる熱供給をボイラによる熱供給とした例と比較した。試算例において、ヒートポンプへの変換分に対して、一次エネルギーを1/3削減し、CO2を1/2削減することが可能である。
【0051】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されることはない。上記説明において使用した数値は一例であって、本発明はこれに限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0052】
S1:熱供給システム、12:ヒートポンプ装置、13:ボイラ(補装置、補熱供給装置)、15:空気供給路、16:加熱室、17:排熱回収装置、20:ヒートポンプ、30:蓄熱装置、70:制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプ装置と、
ボイラ及び電気ヒータの少なくとも1つを含む補装置と、
前記ヒートポンプ装置及び前記補装置からの熱が対象物に伝わる加熱室と、
少なくとも前記加熱室から回収された排熱を蓄える蓄熱装置であり、前記ヒートポンプ装置に熱を供給可能な前記蓄熱装置と、
少なくとも前記蓄熱装置の蓄熱量に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記補装置の稼働タイミング及び実質的な稼働時間を制御する制御装置と、
を備える、ことを特徴とする産業用加熱システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記ヒートポンプ装置の単独での稼働時間が最大となるように、前記ボイラ及び前記ヒートポンプ装置の稼働タイミング及び稼働時間を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の産業用加熱システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記補装置を単独で稼働して前記蓄熱装置に排熱を蓄え、その後に、前記ヒートポンプ装置を単独で稼働するモードを含む、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の産業用加熱システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記ヒートポンプ装置と前記補装置とを実質的に同時に稼働するモードを含む、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の産業用加熱システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記ヒートポンプ装置の単独稼働と前記補装置の単独稼働とを実質的に時間別に実行するモードを含む、ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の産業用加熱システム。
【請求項6】
ヒートポンプ装置と補熱供給装置と蓄熱装置とを備える産業用加熱システムの制御方法であって、
少なくとも前記蓄熱装置の蓄熱量に基づいて、前記ヒートポンプ装置及び前記補熱供給装置の稼働タイミング及び実質的な稼働時間を決定する工程を含む、ことを特徴とする産業用加熱システムの制御方法。
【請求項7】
前記ヒートポンプ装置の単独での稼働時間が最大となるように、前記ヒートポンプ装置及び前記補熱供給装置の稼働タイミング及び稼働時間が決定される、ことを特徴とする請求項7に記載の産業用加熱システムの制御方法。
【請求項8】
前記補熱供給装置を単独で稼働して前記蓄熱装置に排熱を蓄え、その後に、前記ヒートポンプ装置を単独で稼働する工程を含む、ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の産業用加熱システムの制御方法。
【請求項9】
前記ヒートポンプ装置と前記補装置とを実質的に同時に稼働する工程を含む、ことを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載の産業用加熱システムの制御方法。
【請求項10】
前記ヒートポンプ装置の単独稼働と前記補装置の単独稼働とを実質的に時間別に実行する工程を含む、ことを特徴とする請求項6から請求項9のいずれかに記載の産業用加熱システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2011−220641(P2011−220641A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92317(P2010−92317)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】