説明

産業資材用繊維構造物

【課題】本発明は、難燃成分としてリン原子を含有する難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維とからなることで、優れた機械的特性と難燃性能とを兼ね備えた安全ネット、養生ネット、養生メッシュなどに代表される産業資材用繊維構造物を提供する。
【解決手段】難燃成分としてリン原子を含有する難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維とからなり、その重量比が20:80〜70:30であることを特徴とする産業資材用繊維構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安全ネット、養生ネット、養生メッシュなどに代表される産業資材用繊維構造物に関する。詳しくは、優れた機械的特性と難燃性能とを兼ね備えた産業資材用繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築現場などに使用される安全ネット、養生ネット、養生メッシュなどの産業資材用繊維構造物は作業者および周囲の安全を確保するために使用されるものであり、例えば、作業者が落下した際には、容易に破断せず作業者を受け止めるだけの高い強力、高いエネルギー吸収性能が必要である。また、溶接作業等の火花が生じる環境下において、容易に着火・着炎しない難燃性能を有することが必要である。かかる特性を満足するためにこれまで種々の検討がなされてきた。
【0003】
特許文献1には高強力のポリエステル繊維上に難燃剤であるポリ塩化ビニル樹脂を塗布することで、強力と難燃性能に優れた産業資材用繊維構造物を得る方法が記載されている。たしかにこの方法によると該特性に優れた繊維構造物が得られるものの屋外環境下で使用するうちに、繊維表面のポリ塩化ビニル樹脂が剥離してしまい、難燃性能が低下してしまう問題があった。また、難燃剤として使用しているポリ塩化ビニルはダイオキシンの発生源として、近年使用が敬遠されるものでもあった。
【0004】
そこで、屋外環境下においても長期間難燃性能を維持し、しかも環境面への負荷がない産業資材用繊維構造物を得る技術として特許文献2、3の提案がある。これらの方法ではポリエステル繊維に2官能性リン化合物を共重合させ難燃性ポリエステル繊維となし、該繊維を製網することで難燃耐久性に優れたネット構造物を得ることに成功している。しかしながら、これらのリン化合物を含む難燃性ポリエステル繊維は、難燃成分を含まないポリエステル繊維に比べ強力が低く、しいては該難燃性を使用してなるネット構造物の強力も低くなってしまい、安全性に対する要求性能が一段高まる近年においては、まだ不十分であるという問題があった。
【0005】
特許文献4は芯部にポリエステル、鞘部に2官能性リン化合物を共重合したポリエステル繊維からなる芯鞘複合難燃ポリエステル繊維を用いて、難燃性能と強力を兼ね備えたネットについて記載されている。しかしながら、この方法では繊維中にリン化合物が共重合されてなることから、結局、難燃成分を含まないポリエステル繊維に比べ繊維強度が劣ってしまい、十分な強力を有するネット構造体を得るには至らなかった。また、芯鞘複合繊維を製糸するには特殊な設備が必要であり、製造コスト面でも不利なものであった。
【特許文献1】特開平3−36367号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第2641720号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平5−141085号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平11−022207号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術におけるそれぞれの問題点を同時に解決したものであり、安全ネット、養生ネット、養生メッシュなどに適用すべく高い機械的特性と優れた難燃性能と兼ね備えた産業資材用繊維構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は主として次の構成を有する。すなわち、難燃成分としてリン原子を含有する難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維とからなり、その重量比が20:80〜70:30であることを特徴とする産業資材用繊維構造物。
【0008】
さらに、本発明の産業資材用繊維構造物においては、次の(a)〜(e)のいずれか1つまたはその組み合わせを満たすことが好ましい態様であり、これらの要件を満足することでさらに優れた効果が期待できる。
(a)難燃性ポリエステル繊維に含まれるリン原子の量が繊維重量に対して0.30〜1.2重量%であり、繊維構造物に占めるリン原子の割合が0.10〜0.35重量%であること。
(b)難燃性ポリエステル繊維の強度が5〜8cN/dtexであり、難燃成分を含まないポリエステル繊維の強度が6〜9cN/dtexであること。
(c)繊維構造物がネット、およびメッシュのいずれかであること。
(d)繊維構造物がネットであって、該ネットの強力と該ネットを構成する全ての繊維強力の比率、すなわち式(1)で表されるネットの強力利用率が40〜80%であること。
【0009】
【数1】

【0010】
(e)繊維構造物がメッシュであって、該メッシュの強力と該メッシュを構成する全ての繊維強力の比率、すなわち式(2)で表されるメッシュの強力利用率が60〜90%であること。
【0011】
【数2】

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、難燃成分としてリン原子を含有する難燃性ポリエステル繊維と、難燃成分を含まないポリエステル繊維とからなることで、優れた機械的特性と難燃性能とを兼ね備えた安全ネット、養生ネット、養生メッシュなどに代表される産業資材用繊維構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の繊維構造物は難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維とから構成される。このうち難燃成分を含まないポリエステル繊維は、繊維構造物における強度やエネルギー吸収性能を決めるうえで特に重要であり、高強度、高タフネス繊維であることが要求される。かかる特性を満足するために使用するポリマは特に限定されるものではないが、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートがより好適である。また、該特性を阻害しない範囲において、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの酸成分、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール成分を含むものであっても良い。また、耐候性、耐熱性等を向上させる目的でベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、抗酸化剤、ラジカル補足剤、また、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの無機物などを含有していても何ら差し支えなく、該薬剤を添加することで屋外環境下での長期間使用時における強伸度低下を抑制し、産業資材用繊維構造物として優れた特性を保持しやすくなる。
【0015】
難燃成分を含まないポリエステル繊維に使用するポリマの重合度は高い方が良く、ポリエチレンテレフタレートの場合、固有粘度0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上である。かかる範囲とすることで高強度、高タフネスの繊維が得られやすくなる。そして、難燃成分を含まないポリエステル繊維は強度6〜9cN/dtexであることが好ましく、7〜9cN/dtexであることがより好ましい。また伸度15〜30%であることが好ましく、20〜30%であることがより好ましい。難燃成分を含まないポリエステル繊維は最終製品である繊維構造物の強伸度を担うものとして特に重要であり、かかる範囲の繊維特性を有することで、高強度、高エネルギー吸収性を有した繊維構造物が得られるようになる。
【0016】
本発明の繊維構造物は難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維とから構成される。このうち難燃性ポリエステル繊維については、最終製品である繊維構造物に難燃性を付与するために使用されるものであり、その内部に難燃性能を有するリン原子が含有されている。リン原子は燃焼等の高温下においてポリマ中から脱落し燃焼・溶融の伝播を防ぐはたらきがあるものとして知られている。リン原子は単体であっても、化合物であっても良く特に限定されるものではないが、より優れた難燃性能を得るためには2官能性リン化合物が好適に用いられる。また、該化合物はポリエステル中に共重合された状態であることが、難燃性能の点で好ましく、また繊維の強度低下を抑制するという点でも適当である。ポリエステルに共重合する2官能性リン化合物は特に限定されるものではないが、ホスホネート、ホスフィネート、ホスフィンオキシドが好適である。ホスホネート類としてはフェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジフェニル等が挙げられ、ホスフィネート類としては、(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−メトキシカルボニルエチル)メチルホスフィン酸メチル、(2−カルボキシルエチル)フェニルホスフィン酸、(2−メトキシカルボニルエチル)フェニルホスフィン酸メチル、(4−メトキシカルボニルフェニル)フェニルホスフィン酸メチル、[2−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]メチルホスフィン酸のエチレングリコールエステル等が挙げられる。さらにホスフィンオキシド類としては、(1,2−ジカルボキシエチル)ジメチルホスフィンオキシド、(2,3−ジカルボキシプロピル)ジメチルホスフィンオキシド、(1,2−ジメトキシカルボニルエチル)ジメチルホスフィンオキシド、(2,3−ジメトキシカルボニルエチル)ジメチルホスフィンオキシド、[1,2ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]ジメチルホスフィンオキシド、[2,3ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]ジメチルホスフィンオキシド等が代表的である。
【0017】
難燃性ポリエステル繊維中に含まれるリン原子の量は0.3〜1.2%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜0.8%である。ポリエステル中に該範囲のリン原子を含有することで、繊維強度を大幅に低下させることなく、優れた難燃性を有するポリステル繊維となすことができる。最終製品である繊維構造物にとって、難燃性ポリエステル繊維中に含まれるリン量をかかる範囲に設定することは、優れた難燃性能および機械的特性を兼備するために特に適当な範囲といえる。
【0018】
上記の通り本発明で使用する難燃性ポリエステル繊維は、最終製品であるネット、メッシュ等の繊維構造物において主に難燃性を付与する役割を担うものであるが、当然ながら繊維構造物の強伸度特性にも寄与するものであり、高強度、高タフネス繊維であることが好ましい。高強度、高タフネスの繊維を得るうえで使用するポリマは特に限定されるものではないが、難燃成分を含まないポリエステル繊維の場合と同様にエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレートがより好適に用いられる。また、ポリエチレンテレフタレートは前述したリン化合物との相性がよく、高強度、高タフネスを有す難燃性ポリエステル繊維とするためには最も好適である。ポリマの一部にはイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの酸成分、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール成分を含むものであっても良い。耐候性、耐熱性等を向上させる目的でベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、抗酸化剤、ラジカル捕捉剤、また、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの無機物などを含有していても何ら差し支えない。これら薬剤を含有することでネット、メッシュなどを構成する産業資材用繊維に要求される各種特性を補強することができるようになる。
【0019】
高強度、高タフネスの難燃性ポリエステル繊維を得るために使用するポリマの重合度は高い方が良く、ポリエチレンテレフタレートの場合は、固有粘度0.8以上が好ましく、0.9以上であればより好ましい。かかる範囲のポリマを使用した難燃性ポリエステル繊維の強度は5〜8cN/dtexであることが好ましく、6〜8cN/dtexであることがより好ましい。また伸度は15〜30%であることが好ましく、20〜30%であることがより好ましい。強度は高い方が好ましいが、8cN/dtexより高くすると難燃剤等の添加量にもよるが、毛羽が発生するなど品位が悪くなったり製糸性が悪化する傾向となる。また相対的に伸度が低下するため産業資材用途に好適に使用できる衝撃吸収性に優れた難燃性ポリエステル繊維を得ることが困難となる。
【0020】
本発明の産業資材用繊維構造物はリン原子を含有する難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維とから構成され、難燃成分を含まないポリエステル繊維は主に強伸度特性を担い、難燃性ポリエステル繊維は難燃性を付与する役割を期待されるものである。
【0021】
ここで難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維の重量比は20:80〜70:30であり、30:70〜60:40であることが好ましい。さらに最終製品である繊維構造物中に占めるリン原子の割合が0.10〜0.35重量%であることが好ましく、0.15〜0.30重量%であることが好ましい。かかる範囲とすることで、優れた強伸度特性と十分な難燃性能を兼備した繊維構造物となり、安全ネット、養生ネット、養生メッシュなど各種産業資材用途に好適に使用できるようになる。
【0022】
ここで最終の繊維構造物に十分な難燃性を付与するには、難燃性ポリエステル繊維の使用比率が低すぎる、また、繊維構造物に占めるリン原子量の割合が低すぎるとの印象を受けるかも知れないが、本発明のリン原子を含む難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維から構成される繊維構造物においては、十分な難燃性能が発現するものである。
【0023】
ポリエステル中に含まれるリン原子の主な難燃メカニズムは、熱によりポリマ中から容易に脱落し燃焼・溶融の伝播を妨げることであることから、おそらく繊維構造物において難燃性能を有する部分がある程度、集中して点在しておれば十分な難燃性能が得られると考えられる。つまり、繊維構造物中の一部を構成する難燃性ポリエステル繊維が燃焼・溶融をくい止め、結果として繊維構造物全体の難燃性能を発現させているものと考えられる。
【0024】
このことは、例えばリン原子を0.25重量%含む難燃性ポリエステル繊維を100%使用してなる繊維構造物と本発明のリン原子を含む難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維とから構成され、繊維構造物中に占めるリン原子の割合が前者と同じく0.25重量%とした繊維構造物の難燃性能を比較した場合に後者の方が明らかに優れた結果が得られる点からも示唆されるものである。
【0025】
難燃性ポリエステル繊維の重量比率が20%に満たない場合、難燃性ポリエステル繊維自体の難燃性能をいくら高めても、さらに繊維構造物中で該難燃性ポリエステル繊維の配列をいくら工夫したとしても、難燃性能が不足し養生ネット等に適用した際に仮設工業界が定める難燃性規格をクリアしないケースが生じてしまう。
【0026】
一方、難燃成分を含まないポリエステル繊維の重量比率が30%に満たないと、最終の繊維構造物として十分な強力、優れたエネルギー吸収性能を有さなくなり、安全ネットや養生ネット、養生メッシュなど人体の安全を確保する産業資材用途として適用できなくなる。
【0027】
本発明の産業資材用繊維構造物の強力値は、使用用途および使用形態により適宜設定されるものであり、一概に何N以上あれば良いとは言えないが、例えば、1100dtexの難燃性ポリエステル繊維4本と1100dtexの難燃成分を含まないポリエステル繊維6本とを合わせ合計10本の網足とした安全ネットの場合、400N以上、好ましくは500N以上である。この通り高強力ネットを得るためには、該ネットを構成する繊維自体の強力を高めることはさることながら、繊維の有する強力を如何に有効利用するかにも依存する。ここでネット強力とネットを構成する全ての繊維強力の比率、すなわち式(1)で表されるネットの強力利用率は40〜80%程度であることが好ましく、より好ましくは50〜80%である。
【0028】
【数3】

【0029】
また、例えば、1100dtexの難燃性ポリエステル繊維を13本/2.54cm、1100dtexの難燃成分を含まないポリエステル繊維を13本/2.54cmとした合計のタテ糸密度が26本/2.54cmである養生メッシュの場合、メッシュ強力は1.3kN/2.54cm以上、好ましくは1.5kN/2.54cm以上である。ここで、前述の安全ネットと同様にメッシュ強力とメッシュを構成する全ての繊維強力の比率、すなわち式(2)で表されるメッシュの強力利用率は60〜90%であることが好ましく、より好ましくは75〜90%である。
【0030】
【数4】

【0031】
引き続き本発明の繊維構造物の製造方法について説明する。一例として安全ネットの製造法を示すが、何らこれに限定されるものではない。安全ネットを構成する難燃性ポリエステル繊維および難燃成分を含まないポリエステル繊維としては、通常500dtex〜2000dtex程度の繊度を有するものがよく用いられる。難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維の繊度を必ずしも合わせる必要なく、異なる繊度品であっても何ら問題ない。使用する繊維の本数は繊維の繊度にもよるが、1840dtexであれば5〜10本、1100dtexであれば10〜16本程度である。
【0032】
編網には所望のネット形状に応じた編網機を使用し、所望のネット形状に合わせた編網条件を選択すればよい。網目については、菱目、亀甲目、角目、千鳥目、六角目などが挙げられ、ネット種としては、蛙又、本目のような結節網、無結節網、ラッセル網、もじ網、織網などを採用することができる。このうち安全ネットとしてはラッセル網がもっとも多く採用されている。目合いについても特に限定されるものではないが、15〜100mmが好ましく、100mmに設定される場合が多い。編網後のネットには通常100〜200℃程度の乾熱処理を施すことで、形態安定性に優れた安全ネットを得ることができる。以上述べてきた通り、本発明の産業資材用繊維構造物は優れた機械的特性と難燃性能を兼備したものであるが、特異な装置・方法を使用することなく常法が採用でき極めて実用的である。
【実施例】
【0033】
以下実施例を挙げて発明を詳細に説明する。
【0034】
[ポリマ中のリン元素含有量]
試料であるリン化合物含有ベースチップ7gを加熱してペレット状に成形し、蛍光X線元素分析装置(Rigaku社製、ZSX100E型)を用いて、含有量既知のサンプルで予め作成した検量線から金属含有量に換算して求めた。
【0035】
[ポリマの固有粘度(IV)]
試料8.0gにオルソクロロフェノール100mlを加えて、160℃×10分間加熱溶解した溶液の相対粘度ηrをオストワルド粘度計を用いて測定し、次の近似式に従い算出した。
IV=0.0242ηr+0.02634
【0036】
[総繊度]
原糸をJIS L1013(1999)8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数、所定糸長90mで測定した。
【0037】
[目付け]
JIS L1096(1999)8.4.2に規定の方法で測定した。
【0038】
[難燃性]
原糸をネットに製織し、JIS L1091(1999)の8.4D法により測定し、接炎回数が2以下を区分1、3以上を区分2とした。
【0039】
[強力・強度・伸度]
試料を気温20℃、湿度65%の温調室において、オリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L−1013(1999)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。このときの掴み間隔は25cm、引張速度は30cm/min、試験回数は10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0040】
[ネットの強力]
JIS A−8960(2004)7.2網糸の引張強さ試験の1本2節法に従って、引張速度20cm/minとしてオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い測定した。
【0041】
[メッシュの強力]
JIS L−1096(1999)8.12.1に規定されるA法(ストリップ法)により、オリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100を用い強力(N)を測定した。試験条件は定速伸長形で、試験片の幅は3cm、掴み間隔は20cm、引張速度は20cm/minで行った。
【0042】
[ネットの強力利用率]
式1に基づいて計算した。
【0043】
【数5】

【0044】
[メッシュの強力利用率]
式2に基づいて計算した。
【0045】
【数6】

【0046】
[実施例1]
二官能性リン化合物である2−メチル−2,5−ジオキソ−1,2−オキサホスホランがリン元素量換算して0.5重量%含有する固有粘度1.1のベースポリエステルチップと固有粘度が0.7で顔料としてフタロシアニンブルーをポリマに対して8重量%含有するマスターポリエステルチップを重量比40:1の割合で混合し、エクストルーダー型紡糸機に供給し、紡糸温度300℃にて溶融紡糸した。口金は0.6mmφの丸孔で孔数144個の吐出孔から押し出した後、油剤を糸条に付与し、引き続き230℃の温度でトータル倍率が6.0倍となるように2段延伸熱処理した後、6%の弛緩率で処理し、巻き取り直前で交絡付与装置を用いて0.6MPaの圧空で交絡付与を行なった後、巻き取ることにより1100dtex、144フィラメントからなる難燃性ポリエステル繊維(a)を得た。該繊維(a)は強力77(N)、強度7.0(cN/dtex)、伸度20(%)であった。また、固有粘度1.2のベースポリエステルチップと固有粘度が0.7で顔料としてフタロシアニンブルーをポリマに対して8重量%含有するマスターポリエステルチップを重量比40:1の割合で混合し、(a)と同様な製糸条件で1100dtex、144フィラメントからなる難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を得た。該繊維(b)は強力88(N)、強度8.0(cN/dtex)、伸度16(%)であった。
【0047】
引き続き、得られた難燃性ポリエステル繊維(a)を2本、難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を8本用いて(a)と(b)の重量比が20:80になるようにしてラッセル編網機で目付410g/mのネット構造体を製造した。
【0048】
[実施例2]
実施例1にて製糸した難燃性ポリエステル繊維(a)を5本、難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を5本用いて(a)と(b)の重量比が50:50になるようにしてラッセル編網機で目付410g/mのネット構造体を製造した。
【0049】
[実施例3]
実施例1にて製糸した難燃性ポリエステル繊維(a)を7本、難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を3本用いて(a)と(b)の重量比が70:30になるようにしてラッセル編網機で目付410g/mのネット構造体を製造した。
【0050】
[実施例4]
二官能性リン化合物である2−メチル−2,5−ジオキソ−1,2−オキサホスホランがリン元素量換算して0.25重量%含有する固有粘度1.1のベースポリエステルチップと固有粘度が0.7で顔料としてフタロシアニンブルーをポリマに対して8重量%含有するマスターポリエステルチップを重量比40:1の割合で混合し、エクストルーダー型紡糸機に供給し、紡糸温度300℃にて溶融紡糸した。口金は0.6mmφの丸孔で孔数144個の吐出孔から押し出した後、油剤を糸条に付与し、引き続き230℃の温度でトータル倍率が6.0倍となるように2段延伸熱処理した後、6%の弛緩率で処理し、巻き取り直前で交絡付与装置を用いて0.6MPaの圧空で交絡付与を行なった後、巻き取ることにより1100dtex、144フィラメントからなる難燃性ポリエステル繊維を得た。該繊維(a)は強力80(N)、強度7.3(cN/dtex)、伸度19(%)であった。
【0051】
また、固有粘度1.2のベースポリエステルチップと固有粘度が0.7で顔料としてフタロシアニンブルーをポリマに対して8重量%含有するマスターポリエステルチップを重量比40:1の割合で混合し、(a)と同様な製糸条件で1100dtex、144フィラメントからなる難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を得た。該繊維(b)は強力88(N)、強度8.0(cN/dtex)、伸度16(%)であった。
【0052】
引き続き、得られた難燃性ポリエステル繊維(a)を5本、難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を5本用いて(a)と(b)の重量比が50:50になるようにしてラッセル編網機で目付410g/mのネット構造体を製造した。
【0053】
[比較例1]
実施例1にて製糸した難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を10本用いてラッセル編網機で目付410g/mのネット構造体を製造した。
【0054】
[比較例2]
実施例1にて製糸した難燃性ポリエステル繊維(a)を1本、難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を9本用いて(a)と(b)の重量比が10:90になるようにしてラッセル編網機で目付410g/mのネット構造体を製造した。
【0055】
[比較例3]
実施例1にて製糸した難燃性ポリエステル繊維(a)を9本、難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を1本用いて(a)と(b)の重量比が90:10になるようにしてラッセル編網機で目付410g/mのネット構造体を製造した。
【0056】
[比較例4]
実施例1にて製糸した難燃性ポリエステル繊維(a)を10本用いてラッセル編網機で目付410g/mのネット構造体を製造した。
【0057】
[比較例5]
芯成分に二官能性リン化合物である2−メチル−2,5−ジオキソ−1,2−オキサホスホランがリン元素量換算して0.5重量%含有する固有粘度1.1のポリエステルチップを用い、鞘成分に固有粘度1.2のベースポリエステルチップを用いエクストルーダー型複合紡糸機に供給し、紡糸温度300℃にて溶融紡糸した。口金は0.6mmφの丸孔で孔数144個の吐出孔から押し出した後、油剤を糸条に付与し、引き続き230℃の温度でトータル倍率が6.0倍となるように2段延伸熱処理した後、6%の弛緩率で処理し、巻き取り直前で交絡付与装置を用いて0.6MPaの圧空で交絡付与を行なった後、巻き取ることにより1100dtex、144フィラメントからなる芯/鞘比率50:50の芯鞘複合難燃性ポリエステル繊維(a)を得た。該繊維(a)は強力69(N)、強度6.3(cN/dtex)、伸度20(%)であった。
【0058】
引き続き、得られた芯鞘複合型難燃性ポリエステル繊維(a)を10本用いラッセル編網機で目付410g/mのネット構造体を製造した。
【0059】
[実施例5]
実施例1にて製糸した難燃性ポリエステル繊維(a)と難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を交互に配し(a)と(b)の重量比が50:50になるようにして、タテ糸密度23本/2.54cm、ヨコ糸密度16本/2.54cmとして、広幅織機を用いて3本横絽型メッシュ織物を製造した。
【0060】
[実施例6]
実施例1にて製糸した難燃性ポリエステル繊維(a)と難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を(a)と(b)の重量比が33:67になるようにして、タテ糸密度23本/2.54cm、ヨコ糸密度16本/2.54cmとして、広幅織機を用いて3本横絽型メッシュ織物を製造した。
【0061】
[比較例6]
実施例1にて製糸した難燃性ポリエステル繊維(a)と難燃成分を含まないポリエステル繊維(b)を(a)と(b)の重量比が80:20になるようにして、タテ糸密度23本/2.54cm、ヨコ糸密度16本/2.54cmとして、広幅織機を用いて3本横絽型メッシュ織物を製造した。
【0062】
実施例1〜4、比較例1〜5で得られたネット強力、難燃性区分について表1、2に記載した。本発明のネットは難燃性能を具備するとともにネットを構成する原糸強力が有効利用できており高強力が得られている。一方、本発明の範囲外である比較例1、2では難燃性区分2となり、安全ネット、養生ネットに要求される難燃性能が得られなかった。比較例3〜5はネットを構成する原糸強力を効率的に利用するという点で十分ではなく、その結果ネット構造体の強力は満足できるものではなかった。
【0063】
また、実施例5、6、比較例6で得られたメッシュ構造体の強力、難燃性区分について表3に記載した。ネット構造体と同様に本発明のメッシュ構造体は高い難燃性能と十分な強力を併せもったものであった。一方、難燃性ポリエステル繊維の構成比率が本発明の範囲外にある比較例6のメッシュ構造体では難燃性能の点で問題ないものの、強力の点では満足のいく結果が得られなかった。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0067】
安全ネット、養生ネット、養生メッシュなどに代表される産業資材用繊維構造物に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃成分としてリン原子を含有する難燃性ポリエステル繊維と難燃成分を含まないポリエステル繊維とからなり、その重量比が20:80〜70:30であることを特徴とする産業資材用繊維構造物。
【請求項2】
難燃性ポリエステル繊維に含まれるリン原子の量が繊維重量に対して0.30〜1.2重量%であり、繊維構造物に占めるリン原子の割合が0.10〜0.35重量%であることを特徴とする請求項1に記載の産業資材用繊維構造物。
【請求項3】
難燃性ポリエステル繊維の強度が5〜8cN/dtexであり、難燃成分を含まないポリエステル繊維の強度が6〜9cN/dtexであることを特徴とする請求項1または2に記載の産業資材用繊維構造物。
【請求項4】
繊維構造物がネット、およびメッシュのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の産業資材用繊維構造物。
【請求項5】
繊維構造物がネットであって、式(1)で表される強力利用率が40〜80%であることを特徴とする請求項4に記載の産業資材用繊維構造物。
【数1】

【請求項6】
繊維構造物がメッシュであって、式(2)で表される強力利用率が60〜90%であることを特徴とする請求項4に記載の産業資材用繊維構造物。
【数2】