説明

画像処理構築方法

【課題】 遺伝的プログラミングによる画像処理により、目視による官能評価に近似した処理を行うことができ、かつ、プログラムを設定するだけで画像処理を自動構築することが可能な画像処理構築方法を提供する。
【解決手段】 官能評価値に近似する画像処理解を得るための画像処理構築方法であって、濃淡模様を付与したサンプル用紙を用意し、被験者がサンプル用紙に対して目視による官能評価を行い、被験者の意見が一致した評価結果を評価値とし、サンプル用紙を撮像装置を用いて透過画像として取り込み、用紙ごとに取り込んだ画像と官能評価による評価値とを対にしてプログラムに入力し、画像フィルタを木構造状に組み合わせた処理プログラムに基づいて木構造状画像処理を行って得られる特徴量と官能評価による評価値とが近くなるように遺伝的プログラミングを用いて解の探索を行い、最終的に人の官能評価と近似した木構造状の画像処理を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理構築方法に関するものであり、特に遺伝的プログラミングを用いた官能評価に近似する近似解を得るための方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、生物の進化の仕組みを模した最適化手法の一つとして、遺伝的アルゴリズムや遺伝的プログラミングの研究が盛んに行われ、これらの進化論的手法を用いた研究から、木構造状画像変換自動生成法(Automatic Construction of Tree-structural Image Transformation)(以下「ACTIT」という。)が提案されている。
【0003】
このACTITは、画像処理のために、元の画像である原画像と画像処理後の理想的な処理結果である目標画像を与えると、原画像を画像処理した出力画像がどの程度目標画像に近似しているかを、あらかじめ用意した色々な画像処理フィルタを木構造状に組み合わせて構築し、出力画像と目標画像が近いほど所望の画像処理であるという定義を行うものである(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、人間の神経回路網の動作を計算機で模倣している人工的な神経回路網であるニューラルネットワークは、データの入力部と出力部との間に一層又は複数層の中間層を配置し、これらの各層を複数の素子によって構成するとともに、入出力部と各中間層をデータの入出力系によってネットワーク状に接続している。このニューラルネットワークは、非線形成分を持っているために種々のデータに対して非常に高度の近似能力があるので、任意の閾値を持ったユニットを複数結合することで、その結合係数を変化させることにより近似値を求めるものである。
【0005】
しかし、ACTITにおいては、原画像に対して出力画像を人間がある程度想定して目標画像を作成する必要があり、官能評価や品質評価等の原画像に対して、差がある部分を想定できない問題に対しては目標画像を作ることができないため、対応ができないという問題があった。
【0006】
また、ニューラルネットワークの方法で画像処理を構築した場合、ユニット間の結合係数で画像処理が表現されるため、人間がその画像処理のアルゴリズムを理解することが困難であり、調整も難しいという問題があった。
【0007】
【非特許文献1】青木紳也、他1名、「木構造状画像変換の自動構築法ACTIT」、映像情報メディア学会誌、社団法人映像情報メディア学会、1999年、第53巻、第6号、p.888〜894
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した木構造画像変換の自動構築方法では画像処置後の目標をある程度人間が想定して目標画像を設定する必要がある。
【0009】
また、遺伝的プログラミングの進化に用いる適応度の算出を入力画像と出力画像を比較していたアルゴリズムでは、官能評価等による画像処理後の画像を、人間が想定することのできない問題に対して対応できない。また、処理後の画像から順位付けを行った画像の違いがどこにあるか確認することができない。また、官能評価による官能評価順及び製造条件の違いによる順位付けを確認することができない。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためにかんがみなされたものであり、人では作製が困難な画像処理を自動構築すること、また、処理後の画像から順位付けを行った画像の違いがどこにあるか確認することを可能とするために、ニューラルネットワークより画像処理を認識しやすいACTITを改良するもので、従来は遺伝的プログラミングの進化に用いる適応度の算出を入力画像と出力画像を比較していたアルゴリズムから、出力画像から得られる特徴量の差を人間が指定した目標に合うように分類を行うアルゴリズムへと改良することであり、プログラムを設定するだけで画像処理を自動構築することができ、順位付けを行うための核となる画像処理を見い出すことができる、画像処理構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明の係る画像処理構築方法は、官能評価に近似する近似解を探索するための画像処理構築方法であって、複数の濃淡模様を付与した基材に対して官能評価を行い、少なくとも2種類以上の評価水準に区分し、区分された水準ごとに一定枚数を抽出してサンプルとし、サンプルに対して官能評価による評価値を決定し、サンプルの濃淡模様を撮像装置により透過画像又は反射画像として取り込み、官能評価による評価値と取り込んだ透過画像又は反射画像とを対にして記憶装置に記憶し、取り込んだ透過画像又は反射画像に対して画像フィルタを木構造状に組み合わせた処理プログラムにより画像処理し、画像処理した各画像から一つ以上の特徴量を抽出し、抽出した特徴量に対して、官能評価による評価値に近似するような近似解を探索することを特徴としている。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、請求項1の画像処理構築方法において、処理プログラムによる探索方法を、遺伝的プログラミングの進化的計算法で行う画像処理構築方法である。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、請求項2の遺伝的プログラミングの進化的計算を用いて、近似解の探索を複数回実行することにより、中心となる画像処理を選択する画像処理構築方法である。
【0014】
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の画像処理構築方法から成る印刷条件に基づいた印刷物の位置ずれ検査又は印刷汚染の検出への利用である。
【0015】
また、請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の画像処理構築方法を用いて、サンプルがカラーである場合に、取り込む透過画像又は反射画像をRGB、HSV又はYIQの色成分に分解し、木構造状に組み合わせた処理プログラムの各入力画像に、各色性分の画像として入力することを特徴とする画像処理構築方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の画像処理構築方法によれば、官能評価を行った濃淡模様を付与した基材に対して、人が作製及び発案することが困難な画像処理を自動作成することが可能になる。また、従来手法であるACTITは、処理後の画像を想定して目標画像を人が作成していたが、本発明では目標画像が必要なく、評価値の指定だけで画像処理の自動作製が可能となり、画像処理後の画像を人が想定することのできない問題に対しても対応できるようになった。
【0017】
さらに、本発明の画像処理の作製を複数回行うことにより、順位付けを行うための中心となる画像処理を見い出すことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の画像処理構築方法に係る実施の形態1について、遺伝的プログラミングを用いた画像処理構築方法について、図面を用いて説明する。
本発明は以下に述べる実施のための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、他の種々の形態が実施可能である。
【0019】
(実施の形態1)
本実施の形態において、画像処理構築方法の対象物である基材に付与した濃淡模様とは、紙自体の繊維密度の粗密によって画像を現出するすき入れ模様をいう。また、撮像装置で取り込む入力画像としては透過画像を用いるが、透過画像に限定されるものでなく、反射画像でもよい。撮像装置としては、CCDカメラ又はイメージスキャナ等が考えられるが、これに限定されない。
【0020】
図1は、本実施の形態1の人による官能評価値に近似する画像処理解を得るための画像処理構築方法に係る全体の流れを示した図である。評価用サンプル101として、すき入れ模様を付与した用紙(以下「サンプル用紙」という。)を100枚用意する。3人の被験者が100枚のサンプル用紙に対して目視による官能評価102を行い、品質順に5水準に分類する。被験者は、評価する際の専門の知識や能力を持った専門パネルである。
【0021】
3人の被験者がそれぞれ5水準に分類した評価結果に対して、3人の被験者の意見が一致した評価結果を評価値103とし、以後の検査においては、3人の被験者の意見が一致したサンプル用紙を使用する。本実施の形態1では、各水準ごとに4枚抽出し、5水準で20枚用意した。本実施の形態においては、被験者の評価が一致したサンプル用紙を用いたが、これに限定されるものでなく被験者の評価の平均値を用いても良い。
【0022】
被験者により官能評価されて抽出された5水準20枚のサンプル用紙を、カメラやスキャナ等の撮像装置を用いて透過画像104として取り込む。20枚のサンプル用紙に対して、サンプル用紙ごとに取り込んだ画像104と官能評価による評価値103とを対にしてプログラム(装置)に入力する。入力が完了すると、コンピュータ(装置)が処理を行い、画像処理生成部105で目視による官能評価に近似した画像処理の自動構築を行う。サンプル用紙ごとに取り込んだ入力画像から、画像フィルタを木構造状に組み合わせた処理プログラムに基づいて木構造状画像処理を行って得られる特徴量と、官能評価による評価値とが近似するように遺伝的プログラミングを用いて解の探索を行い、最終的に人の官能評価と近似した木構造状の画像処理106を得ることができる。
【0023】
本実施の形態1の画像処理構築方法における、サンプル用紙ごとに取り込んだ入力画像から木構造状画像処理を行って得られる特徴量の求め方の一例としての処理プログラムの構造について説明する。
【0024】
図2に示すような木構造状の画像処理106の模式図を用いて説明する。
処理プログラムは、表1に示す各種画像フィルタを木構造状に組み合わせたプログラムである。木構造に入力する画像は、同一のサンプル用紙の透過画像104に対して、各画像処理フィルタによる画像処理を施し、出力画像を形成するように構成されている。本実施の形態で用いる画像処理フィルタFnは、1入力1出力(フィルタF8、F5、F3、F2)と2入力1出力(フィルタF6、F4、F1)の画像処理フィルタを用いた。入力画像1〜4は同じ画像で、一つの木構造の画像処理には1度に1枚分のサンプル用紙の画像を入力して行い、本実施の形態1では、サンプル用紙を20枚用意したので、20枚分、20回の画像処理を行う。同じ画像処理(木構造画像処理)を別の用紙サンプル(20枚)で処理すると異なる特徴量(20個の特徴量)が得られるので、その特徴量が官能評価の順になるように探索する。
【0025】
木構造のノード(節)となる画像フィルタには表1に示すようなものを用いた。表1は、画像処理フィルタの種類と詳細な画像処理内容を示すものである。画像処理フィルタは、既知の汎用的な画像処理フィルタであり、目的に応じて削除したり、内部パラメータ等を変更したり、目的に応じて機能が特化された画像処理フィルタを追加することも可能である。
【0026】
【表1】

【0027】
本実施の形態1で用いるサンプル用紙は、グレー階調で256×256画素のすき入れ模様を付与した用紙の透過画像を用いた。また、本実施の形態1では、入力画像は、すべて同じグレー階調の画像を用いたが、サンプルの色味に差が大きい場合、カラー画像を色空間における光の三原色RGBやNTSC(National Television Standard Committee)が用いている表色系のYIQ等の色味成分に分解し、例えば、入力画像1には赤成分の画像、入力画像2には青成分の画像、入力画像3には緑成分の画像のように入力し、近似解の探索を行うことも可能である。
【0028】
画像処理する複数の入力画像(1、2、・・・n)201に対して、各種画像フィルタ(表1)を木構造状に組み合わせたプログラム202であり、入力された複数の入力画像に対して各画像フィルタによる画像処理を施し、出力画像203を形成し、更に出力画像に対して特定の画像処理を行い特徴量204を算出する。すなわち、入力画像1は、画像処理フィルタF3に入力し、処理されて出力され、当該出力画像は、フィルタF2に入力される。入力画像2と入力画像3とを2入力1出力の画像処理フィルタF6に入力し、処理されて一つの画像として出力され、当該出力画像がフィルタF5に入力される。入力画像4は、画像処理フィルタF8に入力されて処理され、当該出力画像と画像処理フィルタF5から出力された画像は、フィルタF4に入力されて処理される。F2から出力された画像とF4から出力された画像がフィルタF1に入力されて処理され、最終的に四つの入力画像が一つとなって出力された出力画像203に対し、特定の画像処理を行い、特徴量204を算出するものである。
【0029】
出力画像203は、木構造の画像処理を適用して得られる画像である。特徴量204は、出力画像203の画像から更に特定の画像処理を行って特徴量を算出する処理である。本実施の形態1では、出力画像203に対して入力画像の平均値で2値化を行い、2値化面積率を特徴量として算出した。また、本実施の形態1では、2値化面積率だけを用いたが、他の特徴量又は複数の特徴量を算出しても良い。
【0030】
画像処理フィルタFnの数は、本実施の形態1ではコンピュータの処理能力などの制限もあり、12〜15個のフィルタの組み合わせになるようにプログラム内のパラメータで制限したが、この条件に限るものではない。
【0031】
図3は、本実施の形態1の画像処理構築方法における画像処理プログラムによる画像処理を、遺伝的プログラミングで行うための処理フローを示す図である。
木構造画像処理の処理プログラムで遺伝的プログラミングの手法を用いて自動的に形成するように構成されている。
【0032】
処理フローにおいて、初期個体群の生成及び適応度の評価301では、遺伝的プログラミングにおいて個体と呼ばれる木構造状画像処理を複数ランダムに作成し、適応度を算出する。本実施の形態1における個体数は、200〜500とした。適応度とは、遺伝的プログラミングにおいて目標にどのぐらい近いかの度合いを表し、適応度が目標に近い個体ほど次の世代に生き残る確率が高くなる。本実施の形態1における適応度は、数1に示すように官能評価の順位に対して画像から得られる特徴量の差を算出した。分類の方法は、クラスタリング等、他の方法を用いても良い。
【0033】
【数1】

【0034】
親集合の選択302では、個体集団の中から二つの個体を選択し、交叉及び突然変異3030では、交叉及び突然変異の操作を行う。交叉は、選択した二つの個体の木構造中のノードをランダムに選択し、切り取り、互いの個体に交換する作業を行う。突然変異の操作では、個体ごとに一定の割合でノードが他の画像処理フィルタへの変異、他の画像処理フィルタの挿入及び選択した画像処理フィルタの削除等を行う。
【0035】
適応度の評価及び次世代の固体の選択304では、交叉及び突然変異を行った個体に対して適応度(数1)を算出し、最も適応度が高いものを選択するエリート選択又は最も高い適応度の個体を選択するトーナメント選択などを行い、次の世代に残る個体を選択する。本実施の形態1ではトーナメント選択を用いて処理した。
【0036】
終了条件305では、全個体中で最も高い適応度を持つ個体を選択し、その適応度が目的とする適応度であるかを判定し、適応度が十分でない場合は処理302に戻り、十分な適応度が得られた場合や適応度の変化が少なくなった場合には終了となる。本実施の形態1における最適化の終了条件は、世代数5,000〜10,000世代で適応度が変化しなくなった場合を終了条件とした。
【0037】
図4は、探索の結果得られた木構造状画像処理の例をLISP等で表現されているS式で記述したものである。ここで、LIST Processorは、リスト処理用プログラム言語であり、LISPではS式と呼ばれる記号列を使用して表現し、リストの両側を括弧で挟んで扱うプログラミング用語であり、( )はリストの境界を示す。
図4の401に示す(Max(Sbl(Lap(Dke(Max(Bav(Sbl(Mea(Mea(Mea(Rng(Sbl(Grd(入力画像))))))))))))))で得られる画像は、サンプル用紙の入力画像を一次微分、Sobel、range、平均値、平均値、平均値、Sobel、入力画像の平均値による2値化、最大値、DarkEdge、Laplacian、Sobel及び最大値の画像処理フィルタを順に適用し、処理することを意味する。
【0038】
本実施の形態1で用いたサンプル用紙以外の用紙、すなわち3人の被験者の意見が一致したサンプル用紙以外の用紙のうち、40枚を抽出してサンプル用紙として用意し、図4の401に示す遺伝的プログラミングで得られた画像処理を適用したところ、40枚中32枚が官能評価と画像処理の評価が一致した。また、例えば、官能評価が3で画像処理の評価が2又は4というように評価が近いサンプル用紙は6枚あり、自動生成した画像処理は官能評価の近似ができていることがわかる。
【0039】
さらに、本実施の形態1における官能評価の近似解の探索を複数回実行すると、その都度異なる画像処理が作成される。遺伝的アルゴリズム(プログラミング)は、確率変数(乱数)を使用するので、問題にもよるが、探索を最初から実行する度に結果が毎回異なる場合がある。本発明も、探索を最初から実行する度に結果が異なる場合が多いが、何回も実行を重ねることにより、同じ処理をしているところを見つけることができる。この同じ処理をするところ、つまり中心となる処理を見つけることで、検査対象とする対象物の画像処理の特徴が何であるのかを理解することが可能となる。
【0040】
図4の401、402及び403は、図3の近似解の探索を3回実行した結果である。作製される画像処理は異なるが、三つの画像処理において(Sbl(Grd(入力画像)))の共通部分がある。これは入力画像を一次微分し、ソベルフィルタを適用する処理である。このように複数回近似解探索を行うことにより、官能評価を近似するために中心となる処理を得ることもできる。
本実施の形態において、官能評価の近似は、ソベルフィルタなどの一般的な画像処理フィルタを用いることで近似できることが検証された。
【0041】
このように、図3の処理を複数回行うことにより、共通の画像処理が出現することがあるので、この処理を官能評価の近似の中心となる処理と考えることができる。このようにして得た処理の使い方として、本実施の形態においては、エッジ抽出が中心となっていることが分かるので、本手法の画像処理フィルタに別のエッジ処理を追加し、探索することも考えられる。
【0042】
また、一つの特殊なエッジ処理フィルタで官能評価を近似できる可能性も考えられ、また別の考えとして、得た処理だけを用いて他の画像処理による特徴量と多次元ベクトル化する方法もある。このように、使い方は色々考えられるが、本手法は、エッジに特徴があることを自動的に計算で得られることが特徴となっている。
【0043】
印刷物の良否を判定する場合には、印刷物の汚れ、かすれ、印刷物の濃度及び色変化等の判定が必要になる。そこで、本発明の画像処理構築方法に係る実施の形態2として、色味の差のある印刷物の画像処理について説明する。
【0044】
(実施の形態2)
サンプル用紙としては、色味の差が大きい印刷物を用意する。
サンプル用紙をスキャナで入力画像として取り込み、取り込んだカラー画像をRGB又はYIQ等の色味成分に分解して画像を複数用意する。実施の形態1では、図2の201の入力画像がすべて同じ画像であったが、本実施の形態2では図2の201で入力画像1がR成分、入力画像2がY成分のように入力画像を特徴の異なる別の画像に割り振ることで、色味等の差を考慮する画像処理の作製が可能である。
【0045】
(実施の形態3)
次に、本発明の画像処理構築方法に係る実施の形態3として、異物の検査などにも用いることが可能である。例えば、印刷における汚れや異物の有無を検出したい場合、正常な印刷物と汚れ等の異常のある印刷物とを分類し、実施の形態1のすき入れを付与した用紙の透過画像(又は反射画像)と官能評価の結果のように、画像と評価値(異物の有り無し)をセットにして計算することにより、異物を捕らえることのできる画像処理を自動構築することが可能になる。
【0046】
本実施の形態3において、印刷条件による印刷物の違いに関しての画像処理の自動構築を説明する。例えば、印圧や湿度等の印刷条件の違いにより印刷物の位置ずれが発生する場合がある。この場合において印刷物の位置が正常な印刷物と位置ずれのある印刷物を区分けし(図1の102)、位置のずれ量を図1の103に示す評価値として設定する。図1の104に示す撮像装置から画像として取り込みを行う。印刷位置が正しいものと位置ずれの量をセットにして図1の105に示す探索を行うことにより、印刷物の位置ずれを検出することができる画像処理を自動構築できる。
【0047】
(実施の形態4)
次に、本発明の画像処理構築方法に係る実施の形態4として、印刷物の汚染の例として、油汚れの抽出に用いる場合を説明する。判定の対象としてはこれに限定されるものでなく、印刷インキによる汚れ等も含まれる。基本的な構成は実施の形態1と同様である。評価用サンプル101は、油汚れのない印刷物と油汚れの濃さや大きさの異なる10枚の印刷物(以下「サンプル用紙」という。)とを用意する。3人の被験者が油汚れの程度により、正損の判定を図1の102に示す官能評価により行う。正損の判定は被験者の合意によって判定を行った。また、被験者は、評価する際の専門の知識や能力を持った専門パネルである。
【0048】
本実施の形態4では、油汚れの濃さにより正損の判定を行ったが、油汚れが許されない場合には、油汚れのないサンプル用紙又は油汚れのあるサンプル用紙で分類を行うことも可能である。
【0049】
3人の被験者が分類した正損結果のある10枚のサンプル用紙を、カメラやスキャナ等の撮像装置を用いて512×512画素のカラー画像104として取り込む。油汚れは、淡いものから濃いものまで正損の判定内容に色味成分の影響があることから、カラーの情報を活用するために、カラー画像を色空間における色相(hue)、彩度(saturation value)及び明度(value)(以下「HSV」という。)に色分解した。
【0050】
本実施の形態ではカラー画像をHSVに分解したが、これに限らず色成分への分解であればRGBやYIQ等に分解しても良い。RGBカラー画像表現は、様々な目的のために特に有用な多くの他のカラー座標があり、そのうちの一つは、カラー画像からの色相、強度及び彩度の分離を容易とするHSVは、人間が色を知覚する方法と類似しているので現実的である。
【0051】
10枚のサンプル用紙に対して、図2の201に示す入力画像1にはH分、入力画像2にはS成分、入力画像3にはV成分を割り当て、正損の評価値103と対にして図1の105に示すプログラム(装置)に入力する。入力が完了すると、コンピュータ(装置)が実施の形態1と同様に処理を行い、画像処理生成部105で油汚れの程度を抽出し、正損の判別を行う画像処理の自動構築を行う。
【0052】
サンプル用紙ごとに取り込んだ入力画像から、画像フィルタを木構造状に組み合わせた処理プログラムに基づいて木構造状画像処理を行って得られる特徴量と、官能評価による正損の評価値とが近くなるように、遺伝的プログラミングを用いて解の探索を行い、最終的に油汚れの正損判定を行う木構造状の画像処理106を得ることができる。
【0053】
本実施の形態4では、画像処理フィルタFnの数は、近似解の探索が非常に難しいため、最大80個のフィルタの組み合わせになるようにプログラム内のパラメータで制限した。本実施の形態4における個体数は100〜200とした。適応度の算出方法などのパラメータは、実施の形態1と同じである。
【0054】
本実施の形態4で用いたサンプル用紙以外の用紙、すなわち3人の被験者の合意により正損の分類を行ったサンプル用紙以外の用紙10枚をサンプル用紙として用意し、図4の401に示す遺伝的プログラミングで得られた画像処理を適用したところ、10枚すべてにおいて官能評価による正損の判定と画像処理による正損の判定が一致した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態における全体の流れ図である。
【図2】木構造状の画像処理の模式図である。
【図3】遺伝的プログラミングの処理フロー図である。
【図4】LISPのS式で記述した木構造状画像処理の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能評価に近似する近似解を探索するための画像処理構築方法であって、
複数の濃淡模様を付与した基材に対して官能評価を行い、少なくとも2種類以上の評価水準に区分し、
前記区分された水準ごとに一定枚数を抽出してサンプルとし、
前記サンプルに対して官能評価による評価値を決定し、
前記サンプルの濃淡模様を撮像装置により透過画像又は反射画像として取り込み、
前記官能評価による評価値と前記取り込んだ透過画像又は反射画像とを対にして記憶装置に記憶し、
前記取り込んだ透過画像又は反射画像に対して画像フィルタを木構造状に組み合わせた処理プログラムにより画像処理し、
前記画像処理した各画像から一つ以上の特徴量を抽出し、
前記抽出した特徴量に対して、前記官能評価による評価値に近似するような近似解を進化的計算法により探索することを特徴とする画像処理構築方法。
【請求項2】
前記処理プログラムによる近似解の探索方法は、遺伝的プログラミングである請求項1記載の画像処理構築方法。
【請求項3】
前記遺伝的プログラミングを用いて近似解の探索を複数回実行することにより、中心となる画像処理を選択する請求項2記載の画像処理構築方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の画像処理構築方法から成る印刷条件に基づいた印刷物の位置ずれ検査又は印刷汚染の検出への利用。
【請求項5】
前記サンプルがカラーである場合に、前記取り込む透過画像又は反射画像をRGB、HSV又はYIQの色成分に分解し、木構造状に組み合わせた前記処理プログラムの各入力画像に、各色性分の画像として入力することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の画像処理構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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