説明

画像形成体及びその作製方法

【課題】 本発明は、偽造防止、真偽判別、複写防止が必要とされる貴重品に適用する画像形成体及びその作製方法に関するものである。
【解決手段】 基材表面の少なくとも一部に、凹部により形成された階調を有する基本画像を含む画像形成体であって、基本画像は、背景画像と少なくとも一つの潜像画像から成り、基本画像は、規則的に配置された複数の線画及び/又はドットパターンから構成され、線画及び/又はドットパターンは、凹部による万線の集合によって形成され、背景画像の万線の配列方向の角度と、潜像画像の万線の配列方向の角度が、互いに異なることを特徴とする画像形成体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、有価証券、通行券、パスポート、商品券、カード、商品タグ又はブランドプロテクション等の偽造防止、真偽判別及び複写防止が必要とされる貴重品に適用する画像形成体及びその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、有価証券、通行券、パスポート、商品券、カード、商品タグ又はブランドプロテクション等の貴重品は、その性質上、偽造及び変造されにくいことが要求される。この防止策として、これらの貴重品を傾けて観察することにより潜像画像を認識できるようにして真偽判別を行う技術が知られている。例えば、凹部の線を利用する技術が挙げられる。
【0003】
この凹部の線を利用し、潜像画像を出現させる技術としては、基材の表面に、文字や数字等の潜像パターン及び/又はそのパターンの周囲部が、ピッチ幅0.2〜1mmの圧印加工による万線状凹凸で形成されていて、その潜像パターンの周囲部に、潜像パターンを形成する万線状凹凸と略直角の万線状凹凸が施されている有価証券類が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、パスポート等のラミネートフィルムに、レーザを用いた万線状の凹部から成る潜像部及び背景部を形成し、潜像部と背景部の万線は位相がずれているか、又は異なる角度で形成されたラミネートフィルムで保護された貴重印刷物及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−154262公報(第1−4頁、第1、2図)
【特許文献2】特許第3514291号(第7頁、第4、5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2は、いずれにおいても、凹部の線の配列構成が単純であるため偽造される問題がある。また、単純な万線画線で形成していたために、複雑なデザインが採用しにくい問題もあり、通常、基材に対して垂直方向から観察した場合に視認できる基本画像が連続階調を有するものではなかった。また、基材に対して真上から観察した場合においても潜像が見えてしまう欠点があった。さらに、万線を縦方向と横方向とで構成しているため、偽造が容易にできるという課題があった。
【0007】
特許文献1は、基材にエンボスにより万線状の凹凸を施しているので、エンボス用の版面を作製するための装置とノウハウを要し、更には基材にエンボス版面を押圧する装置が必要となることから、設備に多大な費用を要し、また、作製するに当たっては前準備を含め多くの時間が掛かった。
【0008】
特許文献2は、基材を紙ではなくフィルムに限定しているが、フィルムは光の反射性が高く、かつ、フィルム表面と万線状の溝との光反射性が異なることから、フィルムの真上から観察した場合でも潜像が視認しやすく、フィルムを剥がして再利用する改ざんに対しての効果は高いが、潜像としての効果は低かった。
【0009】
本発明は、このような従来の問題を解決することを目的としたもので、基材のみで得られる偽造防止技術であり、凹部の線の配列構成が単純ではなく、複雑なデザインが採用可能であり、基本画像が連続階調を有する画像形成体を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材表面の少なくとも一部に、凹部により形成された階調を有する基本画像を含む画像形成体であって、基本画像は、背景画像と少なくとも一つの潜像画像から成り、基本画像は、規則的に配置された複数の線画及び/又はドットパターンから構成され、線画及び/又はドットパターンは、凹部による万線の集合によって形成され、背景画像の万線の配列方向の角度と、潜像画像の万線の配列方向の角度が、互いに異なることを特徴とする画像形成体である。
【0011】
また、本発明の画像形成体は、万線が、等間隔の直万線パターンであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の画像形成体は、背景画像の万線の配列方向と、潜像画像の万線の配列方向の異なる角度が、30〜150°の範囲であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の画像形成体は、万線の凹部の線幅が30〜500μmで、ピッチ幅が70〜2000μmの範囲内であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の画像形成体は、線画の各々の線幅及び/又はドットパターンの各々のドット径を段階的及び/又は連続的に変化することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の画像形成体は、線画及び/又はドットパターンの輪郭が、非貫通である凹部の線によって形成されたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、基材に階調を有する基本画像を有し、基材を傾けて観察した場合に、基本画像内に埋め込まれた潜像画像が確認できる画像形成体の作製方法において、基本画像の原画像となる濃度値が定義された画素の集合体である基本画像データを取得する工程と、取得された基本画像データを、各濃度と、微細な万線で形成される各線幅及び/又は微細な万線で形成される各ドット径が対応付けされた変換テーブルを基に、基本画像データの濃度領域毎に異なった各線幅及び/又は各ドット径に変換して階調基本画像データを生成する工程と、生成した階調基本画像データを潜像画像と背景画像に区分し、潜像画像の微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径の万線の配列方向と、背景画像の微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径の万線の配列方向が、異なる方向に変換させる潜像画像入り階調基本画像データを生成する工程と、基材の表面に潜像画像入り階調基本画像データを基に凹部の線により基本画像を形成する工程から成る画像形成体の作製方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の画像形成体は、連続階調を有する複雑なデザインが採用可能であるためデザインの制限を受けることがない。
【0018】
連続階調を有する基本画像は、凹部の線の配列構成が複雑であり、基材にレーザ加工機等の特殊な機械で形成するため、偽造防止効果に優れる。
【0019】
また、本発明の画像形成体は、垂直方向から水平方向に傾けて観察した場合に、潜像画像が確認でき、潜像画像は観察方向によってポジの潜像画像又はネガの潜像画像として確認できる。よって、潜像画像が確認できるか否か、潜像画像が観察方向によってネガポジの変化が確認できるか否かによって真偽判別が可能となる。したがって、判別具及び特別な真偽判別装置等を用いることなく、誰でもその場で上記の効果が得られるか否の真偽判別をすることができる。
【0020】
本発明の画像形成体を形成する凹部の線は、レーザで作製可能なため、貴重品に個々に異なった情報(可変情報)を形成することができる。
【0021】
以上のことから、本発明の画像形成体は、真偽判別効果が高く、微細な形状で形成するため複製防止効果を有し、銀行券、有価証券、通行券、パスポート、商品券、カード、商品タグ又はブランドプロテクション等に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0023】
(画像形成体A1)
本発明の構成である所定幅Wを有する凹部の線について図1を用いて説明する。図1に示すように、所定幅Wを有する凹部の線6は、基材1の表面のベースの高さより低く形成される。この所定幅Wとは、基材1の表面に形成される幅のことであり、深さ方向の幅ではない。所定幅Wを有する凹部の線6の断面形状は、図1(a)に示すような三角形状、図1(b)に示すような台形状、図1(c)に示すような四角形状、図1(d)に示すような蒲鉾状、図1(e)に示すような直角三角形状等が挙げられる。ただし、本発明の構成である凹部の線6の断面形状は、図1(a)乃至図(e)に限定されることはなく、例えば、図1(a)乃至図1(e)を組合せ又はその他の断面形状で形成することもできる。
【0024】
図2に示すように、画像形成体A1は、基材1に基本画像2が形成される。図2に示すように、基本画像2は、複数のドットパターン3から構成されているが、本発明はこれに限定されることなく、ドットパターン及び/又は線画によって構成することができる。図3(a)及び図3(b)に示すように、ドットパターン3及び/又は線画4は、その一部拡大図に示すように、基材1を非貫通である凹部の線6から成る万線5の集合によって形成される。さらに、図4(a)及び図4(b)に示すように、ドットパターン3及び/又は線画4は、ドットパターン3の輪郭7及び/又は線画4の輪郭7を、非貫通である凹部の線6によって形成することもできる。
【0025】
図3及び図4の拡大図に示す万線5は、等間隔の直万線パターンであることが好ましい。直万線パターンにすることで、後述する背景画像と潜像画像との明暗差がより生じて潜像画像の視認性が向上する。また、万線の凹部の線6の幅は、30〜500μmで、ピッチ幅が70〜2000μmの範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、本発明の画像形成体を垂直方向から観察した場合に万線の凹部の線6は肉眼では認識し難く、一様なベタに近いドットパターン3及び/又は線画4として視認することができ、後述する潜像画像の不可視性を保つことができる。線幅が30μmより小さいと作製上困難となり、500μmより大きいと本発明の効果が得られにくくなる。また、それぞれの線幅と各非線幅の割合は1:1乃至1:3程度が好ましい。
【0026】
基本画像2に階調を形成する場合は、図3及び図4に示すように、ドットパターン3及び/又は線画4の各々のドット径h1、ドット径h2、線幅h3、線幅h4を段階的及び/又は連続的に変化させて形成することができる。
【0027】
図2では、ドットパターン3の各々のドット径を段階的及び/又は連続的に変化させているが、本発明はこれに限定されることなく、ドットパターン及び/又は線画の各々のドット径や線幅を連続的に変化させて形成することができる。また、ドットパターン及び/又は線画の各々のドット径や線幅を一定にして形成しても良い。ただし、線幅やドット径を一定にした場合、基本画像は連続階調を有することができない。
【0028】
さらに、図2に示す基本画像2は、図5(a)に示すように、背景画像8と図5(b)に示す潜像画像9から成る。図5(a)及び図5(b)の拡大図に示すように、背景画像8を形成するドットパターン3の万線5aの配列方向の角度と、潜像画像9を形成するドットパターン3の万線5bの配列方向の角度が、互いに異なって形成される。図5(a)及び図5(b)では、背景画像8の万線5aの配列方向と、潜像画像9の万線5bの配列方向の異なる角度が、90°であるが、本発明はこれに限定されることなく、背景画像8の万線5aの配列方向と、潜像画像9の万線5bの配列方向の異なる角度が、30〜150°の範囲で形成することができる。この範囲を超えると、後述する基材を水平方向に傾けて観察した場合に潜像画像9の視認性が低下する。最良の値は、背景画像8の万線の配列方向と、潜像画像9の万線の配列方向の異なる角度が、90°である。さらに、例えば、基本画像2内に三つの潜像画像を埋め込んだ場合は、背景画像のドットパターンの万線の配列方向を0°とした場合、潜像画像のドットパターンの万線の配列方向を45、90又は135°に設定すればよい。
【0029】
図2に示した画像形成体A1に対してY1方向からスポット光を照射し、Y2方向から肉眼で観察した場合の原理を図6に示す。図6(a)に示すように、ドットパターン3の万線5aの配列方向の角度が0°である場合は、ドットパターン3の万線5aの第1の傾斜面10aは、スポット光の影響を受けて明るく確認でき、第2の傾斜面10bは、スポット光の影によって暗く確認できる。この場合の観察方向はY2方向であるため、第1の傾斜面10aは観察ができず、第2の傾斜面10bが観察できるため万線5aは暗く視認できる。よって、ドットパターン3の万線5aの配列方向の角度が0°で形成された領域は暗い状態で観察できる。
【0030】
次に、図6(b)に示すように、ドットパターン3の万線5bの配列方向の角度が90°又は270°である場合は、ドットパターン3の万線5bの第1の傾斜面10a及び第2の傾斜面10bは、スポット光による影が発生しにくいため、明るい状態で視認できる。この場合の観察方向はY2方向であるため、万線5bの第1の傾斜面10a及び第2の傾斜面10bが視認できる。影が発生しにくい万線5bは万線5aよりも明るく確認できる。よって、ドットパターン3の万線5bの配列方向の角度が90°又は270°で形成された領域は、明るく確認できる。
【0031】
図2に示した画像形成体A1に対してY1方向からスポット光を照射し、照射光と同一の方向であるY1方向から肉眼で観察した場合の原理を図7に示す。図7(a)に示すように、ドットパターン3の万線5aの配列方向の角度が0°である場合は、ドットパターン3の万線5aの第1の傾斜面10aは、スポット光の影響を受けて明るく確認でき、第2の傾斜面10bは、スポット光の影によって暗く確認できる。この場合の観察方向はY1方向であるため、第2の傾斜面10bは観察ができず、第1の傾斜面10aが観察できるため万線5aは明るく視認できる。よって、ドットパターン3の万線5aの配列方向の角度が0°で形成された領域は明るい状態で観察できる。
【0032】
次に、図7(b)に示すように、ドットパターン3の万線5bの配列方向の角度が90°又は270°である場合は、ドットパターン3の万線5bの第1の傾斜面10a及び第2の傾斜面10bは、スポット光による影が発生しにくいが、確認できる反射光量が他の領域に比べて少ないため暗い状態で視認できる。この場合の観察方向はY1方向であるため、万線5bの第1の傾斜面10a及び第2の傾斜面10bが視認できる。万線5bは万線5aよりも暗く確認できる。よって、ドットパターン3の万線5bの配列方向の角度が90°又は270°で形成された領域は、暗く確認できる。
【0033】
図8(a)に示すように、図2に示した画像形成体A1に対して垂直方向から観察した場合の図を示す。画像形成体を垂直方向から観察した場合に、基本画像2を形成する背景画像8の万線5aの配列方向と、潜像画像9の万線5bの配列方向は異なっているが、万線5の凹部の線6幅が30〜500μmで、ピッチ幅が70〜2000μmの範囲内であり、微細な線幅で形成されているため、背景画像8と潜像画像9は区分けしにくい状態で視認される。よって、基本画像2のみが確認できる。
【0034】
図8(b)に示すように、図2に示した画像形成体A1に対してY1方向からスポット光を照射し、Y2方向から肉眼で観察した場合の図面である。図8(b)に示すように背景画像8は暗く確認でき、潜像画像9は明るく確認できる。よって、背景画像8と潜像画像9に明度差が生じて明るい潜像画像9が確認できる。
【0035】
図8(c)に示すように、図2に示した画像形成体A1に対してY1方向からスポット光を照射し、Y1方向から肉眼で観察した場合の図面である。図8(c)に示すように、背景画像8は明るく確認でき、潜像画像9は暗く確認できる。よって、背景画像8と潜像画像9に明度差が生じて暗い潜像画像9が確認できる。
【0036】
なお、図2に示した画像形成体A1に対してX1方向からスポット光を照射し、X2方向から肉眼で観察した場合は、背景画像8は明るく確認でき、潜像画像9は暗く確認できる。よって、背景画像8と潜像画像9に明度差が生じて暗い潜像画像9が確認できる。さらに、図4に示した画像形成体A1に対してX1方向からスポット光を照射し、X1方向から肉眼で観察した場合は、背景画像8は暗く確認でき、潜像画像9は明るく確認できる。よって、背景画像8と潜像画像9に明度差が生じて明るい潜像画像9が確認できる。
【0037】
また、画像形成体A1を傾けなくとも、スポット光等の入射光の角度を連続的に変化させることによって本発明の効果を奏することができる。また、本発明の画像形成体は、例えば、室内照明等の室内全体に略均等に光が拡散するような一般的な環境下では、スポット光を照射した場合と比べて、影が発生しにくいため、潜像画像の視認性が劣る。
【0038】
潜像画像に濃度階調を形成する場合は、潜像画像を形成するドットパターン3の万線5bを、各濃度に対応させて配列して形成する。例えば、背景画像を形成するドットパターン3の万線5aの配列方向を0°とした場合、潜像画像の高濃度領域の万線の配列方向を90°、中間領域の万線の配列方向を120°、低濃度領域の万線の配列方向を150°に設定すればよい。ドットパターン又は線画の径は、0.05〜10mm程度が好ましい。ただし、0.050mm程度の場合は、凹部の万線の集合ではなく、1本の凹部の線によって形成される場合がある。
【0039】
紙基材に形成する場合は、背景画像のドットパターンの万線の凹部の線と、潜像画像のドットパターンの万線の凹部の線の深度を異ならせ、背景画像と潜像画像のいずれか一方の凹部の線の深度を透過光で観察した場合に確認できる深度で形成することで、透過光で観察した場合に潜像画像又は背景画像のいずれかが視認できる。さらに、第2の潜像画像として透過光による画像を形成しても良く、この場合は背景画像のドットパターンの万線の凹部の線と、潜像画像のドットパターンの万線の凹部の線の深度は同一で、第2の潜像画像のドットパターンの万線の凹部の線の深度を深くし、第2の潜像画像の凹部の線の深度を透過光で観察した場合に確認できる深度で形成することで、透過光で観察した場合に第2の潜像画像が視認が可能となる。
【0040】
本発明の万線の形状は、直万線パターンが好ましいが、曲万線パターン等で形成することができ、特に限定されるものではない。さらに、万線の各線は、実線を用いることが好ましいが、点線、破線等を用いても良い。また、実線、破線、点線等を微小文字で形成しても良い。
【0041】
本発明の基材は紙葉類、プラスチックフィルム又は金属等を用いることができる。紙葉類の場合は、表面光沢のあるコート紙又はアート紙が好ましい。また、本発明の画像形成体は、基材に透明プラスチック等の光透過性基材にした場合に、垂直方向から水平方向に徐々に傾けて観察した場合、潜像画像が出現する。基材の厚さは、特に限定されるものでなく60μm程度の薄い基材から760μm程度のカード基材等でも有効である。
【0042】
本発明の画像形成体を形成するレーザ加工手段のレーザの種類は、特に限定されるものではないが、炭酸ガスレーザが好ましい。特に問題とはならないが、本発明の基材が紙葉類の場合は、レーザの熱によって、凹部の線のエッジ部に焦げが生じる場合がある。本発明の基材がプラスチックフィルムの場合は、レーザの熱によって、凹部の線のエッジ部に光透過性基材の表面よりも隆起した隆起部が形成される場合がある。
【0043】
(画像形成体の作製装置)
画像形成体の作製装置について以下に説明する。図9に示すように、画像形成体の作製装置11は、画像取得手段12、階調基本画像データ生成手段13、変換テーブル記憶手段14、潜像画像埋め込み手段15及びレーザ加工手段16から成る。画像取得手段12、階調基本画像データ生成手段13、変換テーブル記憶手段14及び潜像画像埋め込み手段15は、コンピュータ又はワークステーション等で行われる。
【0044】
画像取得手段12は、画像形成体の潜像画像2のモチーフ(原画像)となる、例えば、濃度値0〜255のいずれかが定義された画素の集合体である基本画像データ17を取得する。濃度値0〜255のいずれかが定義された画素の集合体である基本画像データでない場合は、取得した画像に対して画像処理を行い、例えば、濃度値0〜255のいずれかが定義された画素の集合体である基本画像データに変換する。画像の取得は、イメージスキャナ、ディジタルカメラ、ハンディータイプリーダ又はカメラ付き携帯電話等で行われる。
【0045】
階調基本画像データ生成手段13は、取得された基本画像データ17を、変換テーブル記憶手段14に記憶された各濃度と微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径が対応付けされた変換テーブル18を読み出し、変換テーブル18を基に、基本画像データ17の濃度領域ごとに異なった各線幅及び/又は各ドット径に変換して階調基本画像データ19を生成する。このとき、各線画及び/又は各ドットを形成する万線の幅及びピッチ幅を設定することができる。また、後述する潜像画像埋め込み手段15によって、各線画及び/又は各ドットを形成する万線の幅及びピッチ幅を設定しても良い。
【0046】
変換テーブル18の一例を図10に示す。例えば、濃度レベルが0〜9の10段階に分割している場合、ドットの径は、濃度レベルが0の場合は、0μm(なし)であり、濃度レベルが1の場合は、50μmであり、濃度レベルが2の場合は、100μmであり、濃度レベルが3の場合は、150μmであり、濃度レベルが4の場合は、200μmであり、濃度レベルが5の場合は、250μmであり、濃度レベルが6の場合は、300μmであり、濃度レベルが7の場合は、350μmであり、濃度レベルが8の場合は、400μmであり、濃度レベルが9の場合は、450μmであり、濃度レベルは256階調を0〜9に区分けしている。変換テーブル18のデータは一例であり、本発明はこれに限定されるわけではない。
【0047】
潜像画像埋め込み手段15は、生成した階調基本画像データ19を、潜像画像と背景画像に区分し、潜像画像の微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径の万線の配列方向と、背景画像の微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径の万線の配列方向が、異なる方向に変換させ、潜像画像入り階調基本画像データ20を生成する。
【0048】
レーザ加工手段16は、基材の表面に潜像画像入り階調基本画像データ20を基に凹部の線から成る基本画像を形成する。本発明の画像形成体を形成するレーザ加工手段のレーザの種類は、特に限定されるものではないが、炭酸ガスレーザが好ましい。
【0049】
(画像形成体の作製方法)
画像形成体の作製方法について以下に説明する。図14に示すように、第1の工程は、基本画像のモチーフ(原画像)となる、例えば、濃度値0〜255のいずれかがが定義された画素の集合体である基本画像データ17を画像取得手段によって取得する。
【0050】
濃度値0〜255のいずれかが定義された画素の集合体である基本画像データ17でない場合は、取得した画像を画像処理し、濃度値0〜255のいずれかが定義された画素の集合体である基本画像データ17に変換する。画像の取得は、イメージスキャナ、ディジタルカメラ、ハンディータイプリーダ又はカメラ付き携帯電話等で行われる。
【0051】
第2の工程は、第1の工程で取得された基本画像データ17を、階調基本画像データ生成手段13によって、変換テーブル記憶手段14に記憶された各濃度と微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径が対応付けされた変換テーブル18を基に、基本画像データ17の濃度領域毎に異なった各線幅及び/又は各ドット径に変換して階調基本画像データ19を生成する。このとき、各線画及び/又は各ドットを形成する万線の幅及びピッチ幅を設定することができる。また、後述する潜像画像埋め込み手段15によって、各線画及び/又は各ドットを形成する万線の幅及びピッチ幅を設定しても良い。
【0052】
第3の工程は、第2の工程で生成した階調基本画像データ19を、潜像画像埋め込み手段15によって、潜像画像と背景画像に区分し、潜像画像の微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径の万線の配列方向と、背景画像の微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径の万線の配列方向が、異なる方向に変換させ、潜像画像入り階調基本画像データ20を生成する。
【0053】
第4の工程は、第3の工程で生成した潜像画像入り階調基本画像データ20を基に、レーザ加工手段16によって基材の表面に凹部の線から成る基本画像を形成して画像形成体を得る。本発明の画像形成体を形成するレーザ加工機のレーザの種類は、特に限定されるものではないが、炭酸ガスレーザが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の内容は、これらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0055】
潜像画像のモチーフとなる濃度値0〜255のいずれかがが定義された画素の集合体である基本画像データを画像取得手段によって取得した。次に、基本画像データを、階調基本画像データ生成手段によって、変換テーブル記憶手段に記憶された、各濃度と微細な万線で形成される各ドット径が対応付けされた変換テーブルを基に、基本画像データの濃度領域毎に異なった各ドット径に変換して階調基本画像データを生成した。このとき、各ドット径は、0(なし)〜450μmで設定した。
【0056】
次に、階調基本画像データを、潜像画像埋め込み手段によって、潜像画像と背景画像に区分し、背景画像を形成する各ドット径の万線の配列方向を、0°とし、潜像画像を形成する各ドット径の万線の配列方向を、90°として、潜像画像入り階調基本画像データを生成した。万線は、幅が50μmで、ピッチ幅が100μmとなるように設定した。
【0057】
潜像画像入り階調基本画像データを基に、レーザ加工機によって基材1の表面に深度50μmで凹部の線から成る基本画像2を形成して画像形成体B1を得た。図12に画像形成体B1を示す。図12に示すように、画像形成体B1は、基材1に基本画像2が形成される。基本画像2は、複数のドットパターン3から構成される。ドットパターン3は、図13に示すように、基材1を非貫通である凹部の線6から成る万線5の集合によって形成される。さらに、図12に示すように、基本画像2は、背景画像8と潜像画像9から成る。図13(a)に示すように、背景画像を形成するドットパターン3の万線5aの配列方向の角度を0°で形成し、図13(b)に示すように、潜像画像を形成するドットパターン3の万線5bの配列方向の角度を90°に設定した。背景画像の万線5aの配列方向と、潜像画像の万線5bの配列方向の異なる角度が、90°となる。
【0058】
図14(a)は、図2に示した画像形成体B1に対して垂直方向から観察した場合の図である。画像形成体を垂直方向から観察した場合に、基本画像2を形成する背景画像8の万線5aの配列方向と、潜像画像9の万線5bの配列方向は90°が異なっているが、万線5の凹部の線6の幅が50μmで、ピッチ幅が100μmであり、微細な線幅で形成されているため、背景画像8と潜像画像9は区分けしにくい状態で視認される。よって、基本画像2のみが確認できた。
【0059】
図14(b)は、図2に示した画像形成体B1に対してY1方向からスポット光を照射し、Y2方向から肉眼で観察した場合の図面である。図14(b)に示すように、背景画像8は暗く確認でき、潜像画像9は明るく確認できる。よって、背景画像8と潜像画像9に明度差が生じて明るい潜像画像9が確認できた。
【0060】
図14(c)は、図2に示した画像形成体B1に対してY1方向からスポット光を照射し、Y1方向から肉眼で観察した場合の図面である。図14(c)に示すように、背景画像8は明るく確認でき、潜像画像9は暗く確認できる。よって、背景画像8と潜像画像9に明度差が生じて暗い潜像画像9が確認できた。
【0061】
以上、本発明の実施例に基づいて説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の画像形成体に形成される所定幅Wを有する凹部の線6の説明図である。
【図2】画像形成体A1を示す図である。
【図3】線画3及び/又はドットパターン4の説明図である。
【図4】ドットパターン3及び/又は線画4の輪郭7を示す図である。
【図5】基本画像2内に形成される背景画像8と潜像画像9を示す図である。
【図6】図2に示した画像形成体A1に対してY1方向からスポット光を照射し、Y2方向から肉眼で観察した場合の原理を示す図である。
【図7】図2に示した画像形成体A1に対してY1方向からスポット光を照射し、照射光と同一の方向であるY1方向から肉眼で観察した場合の原理を示す図である。
【図8】図2に示した画像形成体A1に対して所定の状態で観察した場合を示す図である。
【図9】画像形成体の作製装置11を示す図である。
【図10】変換テーブル18の一例を示す図である。
【図11】画像形成体の作製方法を示すフロー図である。
【図12】画像形成体B1を示す図である。
【図13】ドットパターン3を示す図である。
【図14】画像形成体B1に対して所定の状態で観察した場合を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 基材
2 基本画像
3 ドットパターン
4 線画
5、5a、5b 万線
6 凹部の線
8 背景画像
9 潜像画像
10a 第1の傾斜面
10b 第2の傾斜面
11 作製装置
12 画像取得手段
13 階調基本画像データ生成手段
14 変換テーブル記憶手段
15 潜像画像埋め込み手段
16 レーザ加工手段
17 基本画像データ
18 変換テーブル
19 階調基本画像データ
20 潜像画像入り階調基本画像データ
h1、h2 ドット径
h3、h4 線幅
A1、B1 画像形成体
W 所定幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面の少なくとも一部に、凹部により形成された階調を有する基本画像を含む画像形成体であって、
前記基本画像は、背景画像と少なくとも一つの潜像画像から成り、
前記基本画像は、規則的に配置された複数の線画及び/又はドットパターンから構成され、
前記線画及び/又はドットパターンは、凹部による万線の集合によって形成され、
前記背景画像の万線の配列方向の角度と、前記潜像画像の万線の配列方向の角度が、互いに異なることを特徴とする画像形成体。
【請求項2】
前記万線が、等間隔の直万線パターンであることを特徴とする請求項1記載の画像形成体。
【請求項3】
前記背景画像の万線の配列方向と、前記潜像画像の万線の配列方向の異なる角度が、30〜150°の範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載の画像形成体。
【請求項4】
前記万線の凹部の線幅が30〜500μmで、ピッチ幅が70〜2000μmの範囲内であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の画像形成体。
【請求項5】
前記線画の各々の線幅及び/又は前記ドットパターンの各々のドット径を段階的及び/又は連続的に変化することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の画像形成体。
【請求項6】
前記線画及び/又は前記ドットパターンの輪郭が、非貫通である凹部の線によって形成されたことを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の画像形成体。
【請求項7】
基材に階調を有する基本画像を有し、前記基材を傾けて観察した場合に、前記基本画像内に埋め込まれた潜像画像が確認できる画像形成体の作製方法において、
前記基本画像の原画像となる濃度値が定義された画素の集合体である基本画像データを取得する工程と、
前記取得された基本画像データを、各濃度と、微細な万線で形成される各線幅及び/又は微細な万線で形成される各ドット径が対応付けされた変換テーブルを基に、基本画像データの濃度領域毎に異なった各線幅及び/又は各ドット径に変換して階調基本画像データを生成する工程と、
前記生成した階調基本画像データを潜像画像と背景画像に区分し、前記潜像画像の微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径の前記万線の配列方向と、前記背景画像の微細な万線で形成される各線幅及び/又は各ドット径の前記万線の配列方向を、異なる方向に変換させる潜像画像入り階調基本画像データを生成する工程と、
基材の表面に前記潜像画像入り階調基本画像データを基に凹部の線により基本画像を形成する工程から成る画像形成体の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−83156(P2009−83156A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252787(P2007−252787)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】