説明

画像形成装置

【課題】ドット形成素子に印加する駆動電圧パルスを生成するトランジスターの温度を簡易な構成で測定する。
【解決手段】ドット形成素子と、前記ドット形成素子を駆動させる駆動電圧パルスと、当該駆動電圧パルス間に設けられる温度測定用電圧部と、を含む電圧信号を、トランジスターを含む増幅回路を用いて生成する電圧信号生成回路と、前記電圧信号に基づいて前記トランジスターの温度を測定する温度測定制御部と、前記トランジスターが前記駆動電圧パルスに対応する信号を増幅する期間においては前記電圧信号を前記ドット形成素子に出力し、前記トランジスターが前記温度測定用電圧部に対応する信号を増幅する期間においては前記電圧信号を前記温度測定制御部に出力する切替回路と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドット形成素子に印加する駆動電圧パルスを生成するトランジスターの温度を測定する機能を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランジスターの接合温度を測定する方法が知られている(例えば特許文献1)。また、トランジスターを温度測定のための手段として用いることが知られている(例えば特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】昭64−16972号公報
【特許文献2】特開2004−150897号公報
【特許文献3】特開2001−116624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドット形成素子に印加する駆動電圧パルスを生成するトランジスターが発熱すると、パルスの形状が変化しドット形成精度が低下する。そのため、発熱した場合にはファンを回す等してトランジスターを冷却し、トランジスターの温度を一定に保つことが望ましい。そのためにはトランジスターの温度を精度良く測定する必要がある。しかし、サーミスターなどの温度測定用の他の部品を用いる場合、部品点数が増加しコストが増加する。
本発明は、ドット形成素子に印加する駆動電圧パルスを生成するトランジスターの温度を簡易な構成で測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために本発明の画像形成装置は、ドット形成素子と電圧信号生成回路と温度測定制御部と切替回路とを備える。ドット形成素子は、記録媒体にドットを形成するために記録剤を吐出する等のドット形成動作を行う。電圧信号生成回路が生成する電圧信号には、駆動電圧パルスと温度測定用電圧部とが含まれている。駆動電圧パルスは、ドット形成素子によるドット形成動作に寄与する電位変化を有する信号部を意味する。温度測定用電圧部は、駆動電圧パルスと駆動電圧パルスとの間に設けられる(温度測定用電圧部は駆動電圧パルスに重複しないように設けられる)。電圧信号生成回路は、トランジスターを含む増幅回路を用いて信号を増幅して、上述のような駆動電圧パルスや温度測定用電圧部を含む波形を有する電圧信号を生成する。切替回路は電圧信号生成回路によって生成された電圧信号に対応する信号の出力先をドット形成素子と温度測定制御部とで切り替える。切替回路は、駆動電圧パルスに対応する信号が増幅回路によって増幅される期間においては電圧信号をドット形成素子に出力し、温度測定用電圧部に対応する信号が増幅回路によって増幅される期間においては電圧信号を温度測定制御部に出力する。
【0006】
温度測定制御部は電圧信号生成回路によって生成された電圧信号に基づいてトランジスターの温度を測定する。そのために温度測定制御部は、トランジスターの温度特性を予め取得している。すなわち、温度測定用電圧部を生成するための予め決められた大きさの信号(電流)をトランジスターに入力した場合に、トランジスターによって増幅された信号(電流)に対応する電圧信号の電圧値の温度特性を、温度測定制御部は予め取得しておく。そして、温度測定制御部は、ドット形成素子に出力される駆動電圧パルスの合間に設けられた温度測定用電圧部の電圧値を取得し、当該電圧値と予め取得しておいた温度特性とに基づいて、ドット形成素子の駆動の合間におけるトランジスターの温度を検出することができる。トランジスターが最も発熱するのは駆動電圧パルスを出力する期間であり、本発明によるとドット形成素子を駆動する合間にトランジスターの温度を測定することが可能であるので、トランジスターを含む増幅回路を冷却する等の対応の要否を細かく判断することができる。また、本発明によると、サーミスターなどの温度測定用の別の部品を設ける必要がないため部品点数を低減することができる。
【0007】
本発明において、温度測定用電圧部は、ピーク電圧値の絶対値が最大の駆動電圧パルスである最大駆動電圧パルスと、当該最大駆動電圧パルスに後続する前記駆動電圧パルスと、の間に設けられてもよい。
最大駆動電圧パルス(ピーク電圧値が他の駆動電圧パルスのピーク電圧値に比べて最も高い駆動電圧パルス)に対応する信号(電流)の増幅時は最大電圧を含まない駆動電圧パルス(最大駆動電圧パルスのピーク電圧値よりピーク電圧値が低い駆動電圧パルス)に対応する信号(電流)の増幅時よりも、トランジスターの発熱が大きい。そのため、最大駆動電圧パルスの直後にトランジスターの温度を測定することによって、トランジスターが最も発熱していることが予想される期間の温度に近い温度を測定することができる。なお、最大駆動電圧パルスは、1記録画素に対してドットを形成する期間内に出力される駆動電圧パルスのうち最大電圧を含む駆動電圧パルスを意味する。仮に当該期間内に駆動電圧パルスが1個だけ出力される場合は、その駆動電圧パルスと、次の期間の最初に出力される駆動電圧パルスとの間に温度測定用電圧部が設けられる。また、仮に期間内に複数の駆動電圧パルスが出力され最大駆動電圧パルスはそのうちの最後に位置する場合は、期間の最後に位置する最大駆動電圧パルスと次の期間の最初に出力される駆動電圧パルスとの間に温度測定用電圧部が設けられる。
【0008】
さらに本発明においては、駆動電圧パルスの後であって温度測定用電圧部の前に、電圧信号がグランド電位となってもよい。
駆動電圧パルス直後の電圧信号の振動をグランド電位期間で減衰させてから温度を測定することができるため、温度測定の精度を向上させることができる。
【0009】
さらに本発明において、温度測定制御部は、トランジスターが温度測定用電圧部に対応する信号の増幅を開始してから所定時間経過後の温度測定用電圧部の電圧値に基づいてトランジスターの温度を測定してもよい。
駆動電圧パルスの後の電圧信号の振動を減衰させるために所定時間経過後から温度を測定することで、温度測定の精度を向上させることができる。したがって所定時間は、電圧信号の振動が減衰し安定するのに要する時間に基づいて設定される。
【0010】
さらに本発明において、駆動電圧パルスは、電圧上昇部と定電圧部と電圧下降部とからなる台形波であり、その場合、温度測定用電圧部は、ピーク電圧となる定電圧部に後続する電圧上昇部または電圧下降部の勾配が最も大きい駆動電圧パルスである急勾配電圧パルスと当該急勾配電圧パルスに後続する駆動電圧パルスとの間に設けられてもよい。
例えば1記録画素に対してドットを形成する期間内においてピーク電圧値が同じ駆動電圧パルスが複数出力される場合に、電圧下降部の勾配が最も急な急勾配電圧パルスの直後に温度測定用電圧部を設ける構成は、急勾配電圧パルスの電圧下降部の勾配より緩やかな電圧下降部を有する駆動電圧パルスの直後に温度測定用電圧部を設ける構成よりも、ピーク電圧が出力されてから短時間のうちにトランジスターの温度を測定することができる。そのため、ピーク電圧出力時のトランジスターの温度により近い温度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】画像形成装置を示すブロック図。
【図2】(2A)および(2B)は第一実施形態にかかる電圧信号を示す図。
【図3】(3A)および(3B)は他の実施形態にかかる電圧信号を示す図。
【図4】他の実施形態にかかる電圧信号を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。尚、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
【0013】
1.第一実施形態
1−1.構成
図1は本発明の一実施形態にかかる画像形成装置1のブロック図である。画像形成装置1は、印刷ヘッドを主走査方向に往復動させることにより記録媒体上に印刷画像を形成するシリアルインクジェットプリンターである。画像形成装置1は、主基板10とキャリッジ20とキャリッジ駆動部30と記録媒体搬送部40とファン駆動部50とを備える。主基板10は、CPUやROMやRAMやASIC等が実装された基板であり、記録媒体搬送制御回路10aとキャリッジ駆動制御回路10bと駆動データ生成回路10cと印刷データ生成部10dと温度測定制御部10eと駆動信号生成回路11を備える。駆動データ生成回路10cと駆動信号生成回路11とは電圧信号生成回路に相当する。
【0014】
キャリッジ20は、印刷ヘッド21とインクカートリッジ22とを備える。キャリッジ20は主走査方向に移動する。印刷ヘッド21は、複数のドット形成素子DEと、ドット形成素子DEごとに設けられた第一切替回路21aとを備える。ドット形成素子DEは、一対の電極間に圧電材料を挟み込んだ圧電素子と、当該圧電素子の駆動により振動する振動板と、当該振動板を壁面として有するインク室と、当該インク室と連通するノズルとを備える。ドット形成素子DEの圧電素子に駆動信号としての駆動電圧パルスを印加することにより、インク室内に充填されたインクが加減圧される。これにより、インク室に連通するノズルからインク滴が吐出され、当該インク滴が記録媒体に着弾してドットが形成される。また、キャリッジ20に備えられたインクカートリッジ22からノズルにインクが供給される。第一切替回路21aは、後述する2系統の増幅回路11b、11cによって増幅された信号を入力し、第一切替信号に応じてドット形成素子DEに入力する信号を切り替えることによってドット形成素子DEに印加する駆動電圧パルスを切り替える。
【0015】
駆動信号生成回路11は、ドット形成素子DEに印加するための駆動電圧パルスや温度測定用電圧部を含む電圧波形を有する信号を生成する回路であり、駆動データ生成回路10cから入力した駆動データに基づいて当該信号を生成する。駆動データ生成回路10cは、印刷条件などに応じた2系統の信号を生成させるための駆動データを駆動信号生成回路11に出力する。また駆動データ生成回路10cは、駆動信号生成回路11が生成する2系統の信号の出力先を切り替えるための第二切替信号を駆動信号生成回路11が備える第二切替回路11dおよび第二切替回路11eに出力する。印刷データ生成部10eは、印刷対象の画像データに基づいて解像度変換処理や色変換処理やハーフトーン処理や並べ替え処理等を順次実行することにより印刷データを生成し、印刷データに応じてドット形成素子DEに印加する駆動電圧パルスを切り替えさせるために印刷データに応じた第一切替信号を第一切替回路21aに出力する。
【0016】
駆動信号生成回路11は、2個の増幅回路11b,11cと2個の第二切替回路11d,11e(請求項に記載の切替回路に相当する)とを備える。増幅回路11b,11cは互いに同一の回路構成を有しており、それぞれデジタル積分器DIとアナログ変換器ACとプリアンプPAと抵抗器RR1,RR2と増幅トランジスターTR1,TR2と平滑化コンデンサCLとを備える。増幅回路11bと増幅回路11cとは、それぞれに入力された駆動データに基づいて互いに異なる波形の駆動電圧パルスに対応する信号を生成する(温度測定用電圧部の生成タイミングも互いに相違しうる)。
【0017】
デジタル積分器DIは駆動データ生成回路10cから入力した駆動データを所定の微少時間周期ごとに積算した積算値を示すデータを生成し、当該データを順次アナログ変換器ACに出力する。アナログ変換器ACは、積算値を示すデータを電流パルスに変換し、プリアンプPAに出力する。プリアンプPAは、電流パルスのうち所定電流値よりも大きい成分を抽出した正電流パルスと、所定電流値以下の成分を抽出した負電流パルスとを生成する。そして、プリアンプPAは、正電流パルスを抵抗器RR1を介して増幅トランジスターTR1のベースに出力し、負電流パルスを抵抗器RR2を介して増幅トランジスターTR2のベースに出力する。増幅トランジスターTR1はNPN型のバイポーラトランジスターであり、増幅トランジスターTR1のコレクターは直流電源VCCに接続されている。一方、増幅トランジスターTR2はPNP型のバイポーラトランジスターであり、増幅トランジスターTR2のコレクターはグランドGNDに接続されている。増幅トランジスターTR1と増幅トランジスターTR2のエミッター同士が出力点Yにて接続されており、当該出力点Yから第二切替回路11d,第一切替回路21aを介してドット形成素子DEへ駆動電圧パルスに対応する信号が出力される。
【0018】
ここで、正電流パルスにより増幅トランジスターTR1のベースに正の電流が供給される場合、増幅トランジスターTR1のコレクター・エミッター間の抵抗が低下して、直流電源VCCによってエミッターの電圧が引き上げられる。一方、負電流パルスにより増幅トランジスターTR2のベースに負の電流が供給される場合、増幅トランジスターTR2のコレクター・エミッター間の抵抗が低下してグランドGNDによってエミッターの電圧が引き下げられる。なお、コレクター・エミッター間で電流が流れることによってトランジスターは発熱する。以上のように増幅回路11b,11cは、いわゆるプッシュプル増幅回路を構成し、増幅した電流を出力点Yから出力する。なお、正電流パルスと負電流パルスとは、増幅トランジスターTR1のコレクター・エミッター間と、増幅トランジスターTR2のコレクター・エミッター間とを択一的に導通させるものであり、これらの一方が導通している場合には他方は導通しない。増幅回路11bの出力点Yは第二切替回路11dに接続されている。増幅回路11cの出力点Yは第二切替回路11eに接続されている。また、平滑化コンデンサCLは、ドット形成素子DEに流れる電流を平滑化する。
【0019】
第二切替回路11dは、駆動データ生成回路10cから出力された第二切替信号に応じて信号の出力先をドット形成素子DEまたは温度測定制御部10eに切り替える。同様に第二切替回路11eは、駆動データ生成回路10cから出力された第二切替信号に応じて信号の出力先をドット形成素子DEまたは温度測定制御部10eに切り替える。第二切替回路11dは抵抗R1を介して温度測定制御部10eと接続している。第二切替回路11eは抵抗R2を介して温度測定制御部10eと接続している。温度測定制御部10eは図示しないA/D変換器を備えており、第二切替回路11dおよび第二切替回路11eから入力した信号(電流)が抵抗R1,R2を流れることにより生じた電圧を反映させた電圧値をデジタル値に変換し、当該デジタル値に基づいて増幅トランジスターTR1,TR2の温度を測定する。
【0020】
記録媒体搬送部40は、図示しない搬送モーター制御回路や搬送モーターや搬送ローラーを備える。記録媒体搬送部40は、主基板10の記録媒体搬送制御回路10aから入力した搬送制御データに基づいて搬送モーター制御回路が搬送モーターを駆動させることにより、主走査方向に直交する副走査方向に記録媒体を搬送させる。
【0021】
キャリッジ駆動部30は、キャリッジモーター制御回路30aとキャリッジモーター30bとを備える。キャリッジモーター制御回路30aはキャリッジ駆動制御回路10bから入力した移動制御データに基づいてキャリッジモーター30bの駆動信号を生成する。これにより、キャリッジモーター30bが駆動し、キャリッジ20が主走査方向に移動させられる。
ファン駆動部50は、増幅回路11bや増幅回路11cに対して送風するファンと当該ファンを駆動するモーターとモーター制御回路等を含んで構成されている。ファン駆動部50は、温度測定制御部10eからの制御信号に応じてファンの駆動と停止を行う。
【0022】
1−2.ドット形成素子の駆動と温度測定
図2Aは、増幅回路11bから第二切替回路11dに入力された電流がそのまま出力先を切り替えることなくドット形成素子DEに入力された場合にドット形成素子DEに印加される電圧信号の波形を示す図である。ドット形成素子DEに入力される電流とドット形成素子DEに印加される電圧とは比例関係にあるので、ドット形成素子DEに入力される電流波形も図2Aと同様の波形である。同図では1記録画素に対応する周期T1において駆動電圧パルスAと駆動電圧パルスBが含まれていることを示している。駆動電圧パルスAは、電圧上昇部A1と定電圧部A2と電圧下降部A3と定電圧部A4と電圧上昇部A5とで構成される台形波である。駆動電圧パルスBも同様に、電圧上昇部B1と定電圧部B2と電圧下降部B3と定電圧部B4と電圧上昇部B5とで構成される台形波である。駆動電圧パルスBのピーク電圧Vhb,Vlb(定電圧部の電圧)の絶対値は、駆動電圧パルスAのピーク電圧Vha,Vlaの絶対値よりも小さい。したがって周期T1内では駆動電圧パルスAは最大駆動電圧パルスに相当する。本実施形態では、駆動電圧パルスAの後であって駆動電圧パルスBの前には温度測定用電圧部Cが設けられる。温度測定用電圧部Cは、任意の一定電圧で構成される。温度測定用電圧部Cは例えば、第二切替回路11dによって温度測定用電圧部Cが温度測定制御部10eに出力されることなくドット形成素子DEに印加された(温度を測定しない場合)としても期間T1におけるインク滴の吐出量に影響を及ぼさない程度に絶対値が小さい電圧Vc(ただし≠GND)で構成される。また、温度測定用電圧部Cの期間は、駆動電圧パルスAの終了から駆動電圧パルスBの開始までの期間より短く、かつ、温度測定制御部10eによる温度測定が可能な程度に長い期間であればよい。駆動データ生成回路10cは、図2Aに示すような波形の電圧信号に対応する信号を生成させるための駆動データを増幅回路11bに出力し、増幅回路11bは周期T1ごとに繰り返し当該駆動データに応じた信号を生成する。増幅回路11cも、図2Aとは異なる波形の電圧信号に対応する信号を生成するための駆動データを駆動データ生成回路10cから取得し、当該駆動データに応じた信号を期間T1ごとに繰り返し生成する。
【0023】
温度測定用電圧部Cを生成するための駆動データは予め決められている。そのため本実施形態の構成において、温度測定用電圧部Cを生成するための駆動データが増幅回路11bや増幅回路11cに入力された場合にプリアンプPAが出力する電流パルスの正負も、回路設計段階において特定することができる。例えば温度測定用電圧部Cを生成するための駆動データに基づいてプリアンプPAから出力される電流パルスが負電流である場合、増幅トランジスターTR2が動作する。複数の温度状況下において温度測定用電圧部Cを生成するための駆動データを増幅回路11bに入力した場合に温度測定制御部10eが取得する電圧値と温度との対応関係が、予め取得されている。そして当該対応関係を示す情報が、温度測定制御部10eがアクセス可能なROMなどに予め記録されている。増幅回路11cで生成される信号に対応する温度測定用電圧部についても同様に、複数の温度状況下において温度測定用電圧部(不図示)を生成するための駆動データを増幅回路11cに入力した場合に温度測定制御部10eが取得する電圧値と温度との対応関係が予め取得され記録されている。トランジスターのベース電流が一定の場合、温度が高くなるほどコレクター・エミッター間の電流が大きくなるため、対応する電圧値の絶対値も大きくなる。なお、この事前準備の段階で測定する温度は、例えば増幅トランジスターTR1やTR2そのものの温度を温度測定用の別の装置を使用して測定される。
【0024】
駆動データ生成回路10cは、増幅回路11bが温度測定用電圧部Cに対応する信号を増幅する期間においては当該信号を温度測定制御部10eに出力させる信号(第二切替信号)を第二切替回路11dに出力する。また、駆動データ生成回路10cは、増幅回路11bが温度測定用電圧部C以外に対応する信号を増幅する期間においては信号をドット形成素子DEに出力させる信号(第二切替信号)を第二切替回路11dに出力する。したがって駆動電圧パルスA,Bはドット形成素子DEに出力され、温度測定用電圧部Cは温度測定制御部10eに出力される。駆動電圧パルスA,Bがドット形成素子DEに印加されることにより、ノズルからインク滴を吐出させることができる。第二切替回路11eについても同様に、増幅回路11cが温度測定用電圧部に対応する信号とそれ以外の部分に対応する信号の出力先が第二切替信号によって切り替えられる。
【0025】
温度測定制御部10eは、温度測定用電圧部Cに対応する信号の増幅期間の開始から所定時間t経過後から所定のサンプリング時間(例えば1μsec)内の電圧信号をA/D変換し、温度測定用電圧部Cの電圧値をデジタル値で取得する。温度測定用電圧部Cに対応する信号の増幅期間の開始から所定時間t経過後の信号に対応する電圧信号を温度測定制御部10eが取得することにより、駆動電圧パルスAの電圧上昇部A5直後の信号の振動を減衰させ安定した電圧値を温度測定の対象とすることが可能である。
【0026】
図2Aに示す例では温度測定用電圧部Cの電位が負となるような信号が生成されるので、温度測定制御部10eは増幅回路11bの増幅トランジスターTR2によって生成された温度測定用電圧部Cの電圧値Vcを取得することができる。そして、温度測定制御部10eは当該電圧値Vcと、前述の対応関係を示す情報とから、温度測定用電圧部Cが生成された際の増幅回路11bに含まれる増幅トランジスターTR2の温度を検出することができる。増幅回路11cに含まれる増幅トランジスターTR2の温度も同様に温度を検出することができる。温度測定制御部10eは、検出した温度が所定の基準よりも高い場合には、ファン駆動部50にファンを駆動させるための制御信号を送信する。また、検出した温度が所定の基準よりも低い場合には、ファン駆動部50にファンの駆動を停止させる制御信号を送信する。
【0027】
トランジスターが最も発熱するのは駆動電圧パルスのピーク電圧に対応する電流を増幅する期間であり、本実施形態によるとドット形成素子DEを駆動する合間の期間を利用して、トランジスターの温度を測定することが可能である。そのため、トランジスターを含む増幅回路を冷却する等の対応が必要か否かを細かく判断することができる。また本実施形態によると、温度測定用の別の部品を設ける必要がないためコストを低減することができる。さらに本実施形態においては、温度測定用電圧部Cは、最大駆動電圧パルスである駆動電圧パルスAとそれに後続する駆動電圧パルスである駆動電圧パルスBの間に設けられている。駆動電圧パルスAが生成される際の増幅トランジスターTR1の温度は駆動電圧パルスBが生成される際の増幅トランジスターTR1の温度よりも、トランジスターの発熱が大きいため高い(駆動電圧パルスAの方がBよりピークが大きいため)。そのため、駆動電圧パルスAの直後に増幅トランジスターTR1の温度を測定することによって、増幅トランジスターTR1が最も発熱している期間の温度に近い温度を測定することができる。
【0028】
図2Bは、増幅回路11bから第二切替回路11dに入力された電流がそのまま出力先を切り替えることなくドット形成素子DEに入力された場合にドット形成素子DEに印加される電圧信号を示す図であって、温度測定用電圧部Cに対応する信号が増幅トランジスターTR1によって増幅される場合を示す図である。図2Aの例では増幅トランジスターTR2の温度を測定することができたが、増幅トランジスターTR1の温度を測定する場合は、温度測定用電圧部Cを生成するための駆動データを、プリアンプPAからの出力が正電流となるデータとし、増幅トランジスターTR2と同様に温度と温度測定制御部10eが取得する電圧値との対応関係を取得しておくことで、増幅トランジスターTR1についても上述した方法と同様に温度を測定することができる。
【0029】
2.他の実施形態
尚、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。図3A,図3B,図4は、増幅回路11b(または11c)から第二切替回路11d(または11e)に入力された電流がそのまま出力先を切り替えることなくドット形成素子DEに入力された場合にドット形成素子DEに印加される電圧信号を示す図である。例えば図3Aに示すように、温度測定用電圧部Cの直前に電圧信号がグランド電位が一定期間保たれるようにしてもよい。そうすることにより、温度測定用電圧部Cの直前の電圧上昇部A5に起因する信号の振動を減衰させ温度測定用電圧部Cの信号を安定させることができ、温度測定の精度を向上させることができる。なお、温度測定用電圧部Cは大電流を要さないので、グランド電位から温度測定用電圧部Cへの遷移で信号の振動が発生しない。
【0030】
また、図3Bに示すように、温度測定用電圧部Cは、電圧下降部の勾配が最も大きい駆動電圧パルスである急勾配電圧パルス(駆動電圧パルスA)と当該急勾配電圧パルスに後続する駆動電圧パルスBとの間に設けられてもよい。図3Bは、駆動電圧パルスA,Bにおいてピーク電圧VhaとVhb、VlaとVlbが互いに同じであって、駆動電圧パルスAの一方のピーク電圧を構成する定電圧部A4に後続する電圧上昇部A5の勾配θ1が、駆動電圧パルスBの一方のピーク電圧である定電圧部B4に後続する電圧上昇部B5の勾配θ2よりも大きい(急である)ことを示している。ピーク電圧である定電圧部に後続する電圧上昇部の勾配が最も急な駆動電圧パルスA(急勾配電圧パルス)の直後に温度測定用電圧部Cを設ける場合は、配電圧パルスAの電圧上昇部A5の勾配より緩やかな電圧上昇部を有する駆動電圧パルスBの直後に温度測定用電圧部Cを設ける場合よりも、ピーク電圧が出力されてから短時間のうちにトランジスターの温度を測定することができる。そのため、ピーク電圧出力時のトランジスターの温度により近い温度を測定することができる。
【0031】
また、前記実施形態では、一記録画素に対応する周期T1において温度測定用電圧部が1回設けられている例を説明したが、周期T1における駆動電圧パルスと重複しない期間の長さに余裕があれば、複数回温度測定用電圧部を設けても良い。例えば、図2や図3において駆動電圧パルスBの後であって次の周期T1の駆動電圧パルスAの前にも温度測定用電圧部Cが設けられても良い。
また、図4に示すように、駆動電圧パルスAと駆動電圧パルスBとの間に、増幅トランジスターTR1の温度を測定するための温度測定用電圧部C1(プリアンプPAからの出力を正電流)と、増幅トランジスターTR2の温度を測定するための温度測定用電圧部C2(プリアンプPAからの出力が負電流)とが設けられていても良い。また例えば、C1とC2のうちのいずれか一方が駆動電圧パルスAの後であって駆動電圧パルスBの前に設けられ、C1とC2のうちの他方が駆動電圧パルスBの後であって次の周期T1の駆動電圧パルスAの前に設けられても良い。
なお、駆動電圧パルスの波形は上述した実施形態に示した例に限定されない。上述した実施形態に示した台形波よりも複雑な波形であってもよい。また、台形波でなくて例えば矩形波であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1:画像形成装置、10:主基板、10a:記録媒体搬送制御回路、10b:キャリッジ駆動制御回路、10c:駆動データ生成回路、10d:印刷データ生成部、10e:温度測定制御部、11:駆動信号生成回路、11b:増幅回路、11c:増幅回路、11d:第二切替回路、11e:第二切替回路、20:キャリッジ、21:印刷ヘッド、21a:第一切替回路、22:インクカートリッジ、30:キャリッジ駆動部、30a:キャリッジモーター制御回路、30b:キャリッジモーター、40:記録媒体搬送部、50:ファン駆動部、A:駆動電圧パルス、A1:電圧上昇部、A2:定電圧部、A3:電圧下降部、A4:定電圧部、A5:電圧上昇部、AC:アナログ変換器、B:駆動電圧パルス、B1:電圧上昇部、B2:定電圧部、B3:電圧下降部、B4:定電圧部、B5:電圧上昇部、C:温度測定用電圧部、CL:平滑化コンデンサ、DE:ドット形成素子、DI:デジタル積分器、PA:プリアンプ、RR1:抵抗器、RR2:抵抗器、TR1:増幅トランジスター、TR2:増幅トランジスター、Y:出力点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドット形成素子と、
前記ドット形成素子を駆動させる駆動電圧パルスと、当該駆動電圧パルス間に設けられる温度測定用電圧部と、を含む電圧信号を、トランジスターを含む増幅回路を用いて生成する電圧信号生成回路と、
前記電圧信号に基づいて前記トランジスターの温度を測定する温度測定制御部と、
前記トランジスターが前記駆動電圧パルスに対応する信号を増幅する期間においては前記電圧信号を前記ドット形成素子に出力し、前記トランジスターが前記温度測定用電圧部に対応する信号を増幅する期間においては前記電圧信号を前記温度測定制御部に出力する切替回路と、
を備える画像形成装置。
【請求項2】
前記温度測定用電圧部は、ピーク電圧値の絶対値が最大の前記駆動電圧パルスである最大駆動電圧パルスと、当該最大駆動電圧パルスに後続する前記駆動電圧パルスと、の間に設けられる、
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記駆動電圧パルスの後であって前記温度測定用電圧部の前に、前記電圧信号がグランド電位となる、
請求項1または請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記温度測定制御部は、前記トランジスターが前記温度測定用電圧部に対応する信号の増幅を開始してから所定時間経過後の前記温度測定用電圧部の電圧値に基づいて前記トランジスターの温度を測定する、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記駆動電圧パルスは、電圧上昇部と定電圧部と電圧下降部とからなる台形波であり、
前記温度測定用電圧部は、ピーク電圧となる前記定電圧部に後続する前記電圧上昇部または前記電圧下降部の勾配が最も大きい前記駆動電圧パルスである急勾配電圧パルスと、当該急勾配電圧パルスに後続する前記駆動電圧パルスと、の間に設けられる、
請求項1に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−224012(P2012−224012A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94779(P2011−94779)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】