説明

画像形成部材

【課題】リソグラフィーのための、小さな温度変化で親水性/疎水性状態などを急速に変化させることのできる、画像形成部材を備える印刷装置を提供する。
【解決手段】画像形成部材110は、基体112と、感熱材料を含む表面層114とを備え、感熱材料が、アクリルアミドポリマーおよびケイ素材料を含有する。画像形成部材110を備える印刷装置100は、インク供給源130と第1熱供給源140とを備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成部材、印刷装置、印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2008年4月1日出願の米国特許出願第12/060427号に関連する。本出願は、また、[20070169−US−NP]、[20070169Q−US−NP]および[20080840−US−NP]に関連する。これら4件の特許出願を、全体で本願に引用して援用する。
【0003】
リソグラフィーは、概して平滑な表面を使用する印刷方法である。表面、例えば、版または画像形成部材の表面は、(i)溶液(水)をはじき、インクを引きつける疎水性領域;および(ii)インクをはじき、溶液を引きつける親水性領域から構成される。次いで、典型的には水をベースにした溶液である湿し水(fountain solution)を表面に塗布すると、該湿し水は、親水性(すなわち、疎油性)領域に付着し、一方、インクは、疎水性(すなわち、親油性)領域に付着して画像を形成する。
【0004】
オフセットリソグラフィーでは、次いで、画像形成部材上の画像を、一般には、インクを拾い上げる中間転写部材に転写する。次いで、中間転写部材上のインク画像を最終の被印刷体(例えば、紙)に転写する。
【0005】
オフセットリソグラフィーは、直記式リソグラフィー法と比較して、一貫して高い画像品質、広範な被印刷体の自由度、および印刷版のより長い寿命を提供する。加えて、オフセットリソグラフィーは、一般に、オフセットリソグラフィーにおけるコストの大部分が先行投資にあるので、大量複製印刷に対してより低いコストを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,175,568号明細書
【特許文献2】米国特許第5,200,762号明細書
【特許文献3】米国特許第6,108,021号明細書
【特許文献4】米国特許第6,146,798号明細書
【特許文献5】米国特許第6,146,812号明細書
【特許文献6】米国特許第6,162,578号明細書
【特許文献7】米国特許第6,387,588号明細書
【特許文献8】米国特許第6,447,978号明細書
【特許文献9】米国特許第6,465,152号明細書
【特許文献10】米国特許第6,725,777号明細書
【特許文献11】米国特許第6,893,798号明細書
【特許文献12】米国特許第7,008,751号明細書
【特許文献13】米国特許第7,020,355号明細書
【特許文献14】米国特許第7,061,513号明細書
【特許文献15】米国特許第7,194,956号明細書
【特許文献16】米国特許第7,205,091号明細書
【特許文献17】米国特許第7,351,517号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2002/0048718号明細書
【特許文献19】米国特許出願公開第2006/0160016号明細書
【特許文献20】国際公開第03/053882号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のリソグラフィー技術は、永続的な疎水性領域および親水性領域を備える画像形成版(image plate)を使用する。しかし、このような版は、高価であり、かつ無視できないセットアップ時間を必要とする。このことは、短期運転(すなわち、少量)印刷および変動データ印刷(例えば、ダイレクトメール広告)に対するリソグラフィーの魅力を制限する。
【0008】
1つの取組みは、版または画像形成部材上の感熱材料を利用して、デジタル式の変動データ印刷を可能にすることであった。しかし、このような材料は、一般に、それらの状態を逆転するのに高い温度(例えば、100℃を超える)を必要とし、かつ/または逆転するのが遅い。小さな温度変化で親水性/疎水性状態などを急速に変化させることのできる、リソグラフィーのためのデバイスおよび/または方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、デジタル−直記式、またはデジタル−オフセット式のリソグラフィーなどの印刷方法に有用な画像形成部材を対象とする。該画像形成部材は、トナーおよびインクなどの印刷薬剤に対するその表面相溶性を温度変動に応答して十分に変化させ得る感熱材料の表面外側層を含む。この感熱材料は、典型的なオフセット印刷速度と適合する時間スケールでの小さな温度変化に曝露した後に、親水性/疎水性状態、親油性/疎油性状態、またはその他の相溶性/非相溶性状態の間で、あるいはその逆の状態に転換する。このシステムは、画像形成部材に付加される、または該画像形成部材から除去される少量の熱のみで、画像形成部材を急速に変化させて様々な画像の印刷を可能にする。画像形成部材を備える印刷装置およびこのような画像形成部材を使用する印刷方法も開示される。
【0010】
いくつかの実施形態において、基体;および感熱材料を含む表面層を含む画像形成部材が開示され、該感熱材料は、アクリルアミドポリマーおよびケイ素材料を含む。
【0011】
感熱材料は、アクリルアミドのブロックおよびポリシルセスキオキサン(polysilsequioxane)のブロックを含むブロックコポリマーの形態、あるいはシリカのコアおよびアクリルアミドポリマーのシェルを有する粒子の形態でよい。
【0012】
画像形成部材は、エンドレスベルト、円筒状スリーブ、またはシリンダーの形態でよい。画像形成部材は、さらに、基体と表面層との間に吸収層を含むこともできる。吸収層は、集積回路で制御される個別的にアドレス可能なユニットセルなどの形態のアドレス可能なメタ材料を含むことができる。
【0013】
他の実施形態で開示されるのは、熱供給源;インク供給源;ならびに(i)基体および(ii)感熱材料を含む表面層を含む画像形成部材を備える印刷装置であり、該感熱材料は、アクリルアミドポリマーおよびケイ素材料を含む。
【0014】
アクリルアミドポリマーは、N−イソプロピルアクリルアミドモノマーを含めて構成されるコポリマーでよく、あるいはアクリルアミドポリマーはN−イソプロリルアクリルアミドホモポリマーでよい。
【0015】
アクリルアミドポリマーは、代替として、モノマー(a)〜(d)からなる群から選択されるモノマーから構成される。
【0016】
【化1】

【0017】
アクリルアミドポリマーは、ホモポリマーでもよい。
【0018】
感熱材料は、約10℃〜約120℃の温度、例えば、約25℃を超えかつ約90℃未満の温度、または約25℃〜約40℃の温度に曝された場合に、状態を切り換えることができる。
【0019】
感熱材料は、(i)親水性状態と疎水性状態との間の、(ii)親油性状態と疎油性状態との間の、または(iii)印刷薬剤との相溶性状態と印刷薬剤との非相溶性状態との間の可逆的な切換えを可能にすることができる。
【0020】
感熱材料は、アクリルアミドのブロックおよびポリシルセスキオキサン(polysilsequioxane)のブロックを含むブロックコポリマーでよい。アクリルアミドのブロックとポリシルセキオキサンのブロックとを、二価の連結子で隔てることができる。
【0021】
感熱材料は、シリカのコアおよびアクリルアミドポリマーのシェルを有する粒子でもよい。
【0022】
画像形成部材は、さらに、基体と表面層との間に吸収層を含むことができる。該吸収層は、照射線吸収層でよく、アドレス可能でよく、かつ/またはメタ材料を含むことができる。
【0023】
表面層は、粗い、すなわち平滑でない表面であってもよい。粗さは、最上表面上に存在する規則正しい構造および/またはランダムな構造によってもたらされ得る。表面層は、横方向(表面に沿って)で約10ナノメートル〜約100マイクロメートル、および縦方向(すなわち、表面に垂直)で約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの粗さを有してもよい。このような構造は、製作/合成の工程中に自然に形成される、あるいは付加的な製造ステップとして人工的に作り出される場合がある。該構造は、マイクロメートルまたはナノメートルのスケール、あるいは多様なスケールの(階層的)構造で存在できる。粗さをもたらす構造は、例えば、溝、隆起、柱などの形状でよい。例えば、表面層は、規則正しく構築された溝を含むことができる。溝は、約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの幅、約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの深さ、および/または隣接する溝との間に約10ナノメートル〜約100マイクロメートルの間隔を有することができる。
【0024】
熱供給源は、電磁加熱デバイス(例えば、光学的またはマイクロ波)、音響加熱デバイス、熱印刷ヘッド、抵抗加熱フィンガー、またはマイクロヒーターアレイでよい。熱供給源は、基体と表面層との間の画像形成部材内に配置することができる。熱供給源は、また、画像形成部材から離して配置することができる。
【0025】
印刷装置は、転写ニップの中または近傍に熱を供給するように構成された第2熱供給源と一緒に画像形成部材と転写ニップを形成する中間転写部材、および/または中間転写部材を洗浄するためのクリーニングユニットを任意選択で備えることができる。
【0026】
また、基体を感熱材料(該感熱材料は、アクリルアミドポリマーおよびケイ素材料を含む)で被覆すること;表面層を熱刺激に選択的に曝して画像領域および非画像領域を形成すること;該画像領域を印刷薬剤で満たして印刷画像を形成すること;および印刷画像を記録媒体に転写することを含む、印刷方法が開示される。
【0027】
さらに他の実施形態において、基体;および感熱材料を含む表面層を含む画像形成部材が開示され、該感熱材料は、コア−シェル型粒子を含み、該粒子は、コアと、アクリルアミドポリマーを含む殻状被覆(シェル)と、を含む。
【0028】
コアは、シリカまたは窒化ケイ素などの酸化金属または窒化金属を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】印刷装置の典型的な第1実施形態を示す図である。
【図2】印刷装置の典型的な第2実施形態を示す図である。
【図3】印刷装置の典型的な第3実施形態を示す図である。
【図4】下限臨界溶液温度(LCST)の上下でのポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ポリマーの水素結合の相違を説明する図である。
【図5】画像形成部材の典型的実施形態を示す図である。
【図6】画像形成部材の別な典型的実施形態を示す図である。
【図7】表面層が溝の存在によって粗くされている画像形成部材の典型的実施形態を示す図である。
【図8】可撓性ベルトの形態である画像形成部材の典型的実施形態を示す図である。
【図9】使用するのに適した、アクリルアミドポリマー鎖をシリカのコアに結合する1つの方法を説明する図である。
【図10】コア−シェル型粒子の立体配座の変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示は、トナーおよびインクなどの印刷薬剤に対するその表面相溶性を、小さな温度変動に応答して十分に変化させ得る感熱材料を有する画像形成部材に関する。例えば、画像形成部材の表面の疎水性領域を、温度転換に曝すことにより、親水性領域へ急速に切り換えることができる。同様に、画像形成部材の表面の親油性領域を疎油性表面に切り換えることができる。本開示は、また、このような画像形成部材を含む装置、およびリソグラフィー印刷への応用などにおけるこのような画像形成部材の使用方法に関する。
【0031】
本明細書に開示される方法および装置のより完全な理解は、添付図面を参照することによって得ることができる。これらの図は、現行技術および/または本発明による進化を説明する上での便宜および平易性に基づく単なる概略的描写であり、それゆえ、組立て品またはその構成部品の相対的な大きさおよび寸法を示すことを意図しない。
【0032】
明瞭性のために以下の説明で特定の用語を使用するが、これらの用語は、単に、図面に関する説明のために選択された実施形態の特定の構造体を指すことを意図し、本開示の範囲を規定または限定することを意図しない。図面および以下の説明において、類似の数字による指定は、類似機能を有する構成要素を指すことを理解されたい。
【0033】
量に関して使用される修飾語「約」は、指定された値を包含し、文脈によって規定される意味を有する(例えば、それは、少なくとも、個々の量の測定に付随する程度の誤差を包含する)。特定の値と共に使用する場合、それは、また、その値を開示していると考えるべきである。例えば、用語「約2」は、値「2」も開示し、「約2〜約4」の範囲は、「2〜4」の範囲も開示する。
【0034】
本開示は、感熱材料(すなわち、可逆性表面エネルギー材料)の表面層を含む画像形成部材に関する。感熱材料と印刷薬剤(トナーまたはインクなど)との相溶性を、温度変化に応答して十分に逆転させることができる。感熱材料が、相溶性状態と非相溶性状態との間での可逆的な切換えを可能にすると考えることもできる。
【0035】
相溶性状態において、印刷薬剤は、表面に引き寄せられるが、一方、非相溶性状態において、印刷薬剤ははじかれる。相溶性状態と非相溶性状態との間の切換えの例には、小さな温度変化に曝された場合の、親水性状態から疎水性状態への、または親油性状態から疎油性状態への、あるいはその逆の切換えが含まれる。親水性状態において、材料は、相対的に水またはその他の水性溶液に引き寄せられ、一方、疎水性状態において、材料は、水またはその他の水性溶液をはじく傾向がある。親油性状態において、材料は、相対的にオイルに引き寄せられ、一方、疎油性状態において、材料はオイルをはじく傾向がある。
【0036】
本開示の画像形成部材は、デジタル−直記式リソグラフィーまたはデジタル−オフセット式リソグラフィーのための印刷装置で有用である可能性がある。本開示は、また、熱供給源、インク供給源、および本明細書に記載されている画像形成部材を備える印刷装置に関する。熱供給源は、画像形成部材内(それと統合して)、あるいは印刷装置の別のユニットまたは構成部品内に配置できる。
【0037】
図1は、本開示の第1実施形態の印刷装置100を示す。印刷装置100は、画像形成部材110を備える。画像形成部材は、基体112および表面層114を含む。表面層は、画像形成部材の最外層、すなわち基体から最も遠い画像形成部材の層である。表面層114は、感熱材料を含む。ここに示すように、基体はシリンダーであるが、基体は、ベルト形態(図8)などでもよい。表面層114は、約1マイクロメートル〜約100マイクロメートル、例えば、約5マイクロメートル〜約60マイクロメートル、または約10マイクロメートル〜約50マイクロメートルの厚さを有することができる。
【0038】
描写した実施形態において、画像形成部材110は反時計回りに回転する。装置は、湿し水供給源120、およびインク供給源130を備える。ここで、インクは、市販のオフセットインク(すなわちオイルをベースにしたインク)に類似している。第1熱供給源140は、湿し水およびインクを塗布するに先立って、熱が、表面層114上で発生し、かつ/または該表面層に印加されるように配置される。例えば、ここで示すように、第1熱供給源140は、熱が、画像形成部材110と湿し水供給源120との間のニップ領域122で印加されるように配置される。第1熱供給源140は、表面層114の部分を選択的に加熱して、表面層上に画像領域142および非画像領域144を作り出す。次いで、非画像領域に湿し水を塗布し、画像領域にインクを塗布してインク画像を形成する。一般に、湿し水を塗布する場合、それはインクを塗布するに先立って塗布される。
【0039】
印圧シリンダー(impression cylinder)150は、紙などの記録媒体または被印刷体160を、印圧シリンダー150と画像形成部材110との間のニップ領域152に供給する。次いで、インク画像を被印刷体に転写する。クリーニングユニット170は、なんらかの残留するインクまたは湿し水を画像形成部材から取り除く。クリーニングユニットは、また、選択された領域で高められた温度から表面層の温度がその全体にわたって比較的一定である初期状態まで、表面層を冷却することができる。
【0040】
図2は、本開示の第2実施形態の印刷装置200を示す。この印刷装置200は、その上に基体212および表面層214を含む画像形成部材が配置されたシリンダー210を含む。ここで、該画像形成部材は、円筒状スリーブの形態である。印刷装置200は、また、図1に関して説明したように、インク供給源230、第1熱供給源240、印圧シリンダー250、被印刷体260、およびクリーニングユニット270を含む。しかし、湿し水供給源を具備しない。第1熱供給源240は、熱が、画像形成部材210とインク供給源230との間のニップ領域232で発生し、かつ/または該領域で印加されるように配置できる。別法として、熱は、インク供給源230の前に配置されたプレニップ領域234で再び印加することができる。
【0041】
この実施形態では、主な種類のインク(オイルをベースにした、水をベースにした、紫外線硬化型)のいずれかを使用できる。表面層214への熱の印加は、インクとの相溶性領域242および非相溶性領域244を作り出す。例えば、オイルをベースにしたインクは、親油性領域242に塗布され、一方、水をベースにしたインクは、親水性領域244に塗布される。それぞれ、疎油性または疎水性領域にはインクが付着しない。
【0042】
加えて、第2熱供給源280が、印圧シリンダー250と画像形成部材210との間のニップ領域252の近傍に配置される。第2熱供給源を使用して、画像形成部材210から被印刷体260へのインク転写の効率を高めることができるであろう。例えば、表面層214は、加熱された後に疎油性になる。表面層を選択的に加熱した後に、親油性領域にオイルをベースにしたインクを塗布する。次いで、オイルをベースにしたインクを被印刷体に転写するにつれて、第2熱供給源280は、親油性領域を加熱し、その領域を疎油性領域に切り換え、画像形成部材210からの完全なインク放出をもたらすことができるであろう。
【0043】
図3は、本開示の第3実施形態の印刷装置300を示す。この印刷装置300は、図1に関して説明したように、基体312および表面層314を有する画像形成部材310、インク供給源330、第1熱供給源340、印圧シリンダー350、被印刷体360、およびクリーニングユニット370を含む。加えて、該印刷装置は、画像形成部材310と印圧シリンダー350の間に配置された中間転写部材390を備える。画像形成部材310上に形成されたインク画像は、中間転写部材390に、次いで被印刷体360に転写される。ここに示したように、第2熱供給源380は、画像形成部材310と中間転写部材390との間の転写ニップ382の近傍に熱を供給する。転写部材のクリーニングユニット395は、中間転写部材390を洗浄するために存在することができる。
【0044】
表面層中で使用される感熱材料は、(i)アクリルアミドポリマーと、(ii)ケイ素材料と、を含む。この開示で、少なくとも2種の異なる形態の感熱材料が考えられる。一つの形態で、感熱材料は、ブロックコポリマーであり、ここで、アクリルアミドポリマーおよびケイ素材料は、該ブロックコポリマー中のブロックである。別の形態で、感熱材料は、コア−シェル型の粒子であり、ここで、ケイ素材料はコアを形成し、アクリルアミドポリマーはシェルを形成する。
【0045】
アクリルアミドポリマーは、アクリルアミドモノマーを含めて構成され、一般には、ホモポリマー性である。アクリルアミドポリマーは、式(I)のアクリルアミド単位を含む。
【0046】
【化2】

【0047】
上記式(I)中、(i)Rが、水素、1〜約10個の炭素原子を有するアルキル、または1〜約10個の炭素原子を有する置換アルキルであり、かつR’が水素である、あるいは、(ii)RおよびR’が、一緒になって、置換または非置換でよい複素環を形成する。さらなる実施形態において、Rのアルキル鎖が、約1〜約6個の炭素原子を有する。該アルキル鎖が、例えば、ヒドロキシル基で置換されていてもよい。該複素環が、アルキルまたはヒドロキシルで置換されていてもよい。典型的な複素環には、カプロラクタムおよびピペラジンが含まれる。アクリルアミドポリマーは、2〜10,000の重合度を有することができる。
【0048】
特定の実施形態において、アクリルアミドポリマーは、次のモノマー(a)〜(d)の少なくとも1種または2種のモノマーを含む。さらに特定の実施形態において、アクリルアミドポリマーは、次のモノマー(a)〜(d)のホモポリマーである。
【0049】
【化3】

【0050】
特定の実施形態において、Rは、イソプロピルであり、その結果、アクリルアミドポリマーは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(すなわち、ホモポリマー)、またはN−イソプロピルアクリルアミドコポリマー、特に2種のモノマーのみを有するダイポリマーである。アクリルアミドポリマーが、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)コポリマーである場合、アクリルアミドモノマーは、コポリマーの反復単位の50〜100%、またはコポリマーの50〜100モル%を構成すべきである。コポリマーの他のコモノマーは、例えば、スチレン、ビスフェノール−A、アクリル酸、4−ビニルフェニルボロン酸(VPBA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル(BMA)、メタクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル(DEAEMA)、またはメタクリル酸(MAA)でよい。その他のコモノマーは、フッ素化アクリル酸アルキル、またはメタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル(HFIPMA)もしくはメタクリル酸2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチル(HFBMA)などのフッ素化メタクリル酸アルキルでもよいであろう。その他のコモノマー(comonomer)は、N−エチルアクリルアミド(NEAM)、N−メチルアクリルアミド(NMAM)、N−n−プロピルアクリルアミド(NNPAM)、N−t−ブチルアクリルアミド(NtBA)、N−n−ブチルアクリルアミド(NnBA)、またはN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAM)などの別のアクリルアミドモノマーでもよいであろう。
【0051】
表面層の特性は、アクリルアミドポリマーに異なる成分を添加することによって改変できる。例えば、NIPAMホモポリマー(すなわち、100モル%)のLCSTは、約32℃である。しかし、70モル%のNIPAMと30モル%のNtBAからなるコポリマーのLCSTは、約20℃である。同様に、70モル%のNIPAMと30モル%のNEAMからなるコポリマーのLCSTは、約43℃である。70モル%のNIPAMと30モル%のNMAMからなるコポリマーのLCSTは、約40℃である。いくつかの実施形態において、感熱材料中で使用されるアクリルアミドポリマーのLCSTは、約25℃〜約45℃である。
【0052】
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)は、小さな温度変化に応答して表面エネルギーの大きな変化を示す典型的な感熱材料である。PNIPAMは、約32℃〜約33℃の下限臨界溶液温度(LCST)を有する。PNIPAMで改変された表面上の水滴の接触角は、LCSTの上下で劇的に変化する。一実施形態において、画像形成部材は、PNIPAMで改変されて、水滴が塗布された。接触角は、25℃で63.5°であったが、40℃で93.2°であった。
【0053】
ポリ(N−n−プロピルアクリルアミド)(PNNPAM)は、小さな温度変化に応答して表面エネルギーの大きな変化を示すもう1つの典型的な感熱材料である。PNNPAMは、約24℃の下限臨界溶液温度(LCST)を有する。
【0054】
理論によって束縛されるものではないが、LCSTより低い温度で、PNIPAM鎖は、PNIPAM鎖と塗布された溶液中に存在する水分子との間で主に発生する分子間水素結合によってもたらされる延伸構造を形成すると考えられる。この分子間結合は、PNIPAMで改変された表面の親水性に寄与する。しかし、LCSTより高い温度で、水素結合は、PNIPAM鎖自体の間で主に発生し、1つのPNIPAM鎖のカルボニル酸素原子が、隣接するPNIPAM鎖の窒素原子上の水素原子に結合する。C=Oと隣接するPNIPAM鎖のN−H基との間の分子内水素結合は、LCSTより高い温度で疎水性を生じるコンパクトな立体配座をもたらす。この相互作用を図4に示す。この相互作用は、イソプロピル鎖に依存せず、したがって、他のアクリルアミドポリマーにも適用されるはずである。
【0055】
しかし、理論によって束縛されるものではないが、アクリルアミドポリマー(PNIPAMなど)それ自体は、比較的低い機械的強度を有する。結果として、アクリルアミドポリマーは、ケイ素材料と組み合わされる。ケイ素材料は、特に、基体に対する被覆として表面層を塗布する場合に、完全性を提供する。アクリルアミドポリマーは、感熱材料に熱感受性または熱応答性を付与する。
【0056】
ケイ素材料は、少なくとも2種の異なる形態を取ることができる。1つの形態で、ケイ素材料は、式(II)に示す通りのシルセスキオキサンでよい。
【0057】
【化4】

【0058】
上記式(II)中、R1は、水素、アルキルおよびアリールから選択され;qは、重合度であり2〜10,000でよい。特定の実施形態において、ケイ素材料またはシルセスキオキサンは、ポリ(メチルシルセスキオキサン)であり、すなわち、ここでR1はメチルである。R1は、特定の実施形態において、水素、または1〜約6個の炭素原子を有するアルキルである。別の形態で、ケイ素材料はシリカでよい。
【0059】
いくつかの実施形態において、感熱材料は、ブロックコポリマーである。アクリルアミドポリマーは、一方のブロックを構成し、ケイ素材料は別のブロックを構成する。詳細には、ケイ素材料は、式(II)で記載される通りのシルセスキオキサンである。典型的な感熱ブロックコポリマーは、スキーム1に示すように合成した。ケスラー、Macromol.Symp.2007、249〜260、424〜432。このような方法を使用して、類似のブロックコポリマーを合成できると考えられる。
【0060】
【化5】

【0061】
特定の実施形態において、感熱ブロックコポリマーは、一般に式(III)を有することができる。
【0062】
【化6】

【0063】
上記式(III)中、(i)Rは、水素、1〜約10個の炭素原子を有するアルキル、または1〜約10個の炭素原子を有する置換アルキルであり、かつR’は水素であるか;あるいは(ii)RおよびR’が、一緒になって、置換または非置換でよい複素環を形成し;R1は、水素、アルキルおよびアリールから選択され;nは、非架橋シルセスキオキサン単位の数であり、mは、架橋シルセスキオキサン単位の数であり、xは、ポリアクリルアミド単位の数であり、Lは、二価の連結子であり、Tは末端単位である。変数n、m、およびxは、一般に、1〜10,000でよいが、それらは一般に、2を超える。アクリルアミド単位(x)に対するシルセスキオキサン単位(n+m)の比率は、一般に、コポリマーの約25〜約75モル%、またはコポリマーの反復単位の約25〜約75%である。典型的な二価の連結子Lには、アルキルおよびアリールが含まれる、典型的な末端単位Tには、アルキルおよびアリールが含まれる。特定の実施形態において、Lは、1−エチレン−4−メチレンフェニル(−CH2−CH2−C64−CH2−)であり、Tは、フェニレンジチオエステル(−S−CS−C65)である。典型的な複素環には、ε−カプロラクタム(モノマー(c)参照)およびn−プロピルピペラジン(モノマー(d)参照)が含まれる。
【0064】
他の実施形態において、感熱材料は、コア−シェル型粒子である。コアは、ケイ素材料から作製され、典型的にはシリカ(すなわち、SiO2)である。他の実施形態において、コアは、酸化金属または窒化金属から作製される。アクリルアミドポリマーは、シェルを形成し、コアから伸びているポリマー鎖と考えるべきである。次いで、粒子を、水性/アルコール性コロイド溶液などの溶液沈着によって基体上に被覆して表面層を形成できる。
【0065】
コアを、酸化金属または窒化金属から作製する場合、典型的な金属には、ケイ素、鉄、カルシウム、マグネシウム、リチウム、マンガン、およびチタンが含まれる。
【0066】
アクリルアミドポリマーは、種々の経路でシリカ表面に化学的に結合することができる。例えば、ホン、J.Phys.Chem.C、2008、112、15320〜15324には、図9に示すような表面可逆性付加−開裂連鎖移動(RAFT)重合を介する、PNIPAMで改変されたシリカコア−シェル型粒子の合成が報告されている。
【0067】
温度変化によってPNIPAMナノシェルの立体配座の変化を誘導できる。このことは、図10で示される。アクリルアミドポリマーが親水性である場合、アクリルアミド鎖は長く、粒子は、大きな直径を有する(左側の図を参照)。温度が、アクリルアミドポリマーが疎水性であるように変化すると、アクリルアミド鎖は、シリカコアの表面上に折りたたまれ、シリカコアの周りにコンパクトに閉じたナノシェルを形成する(右側の図を参照)。
【0068】
コア−シェル型配置中のアクリルアミドポリマーは、コポリマーまたはアクリルアミドホモポリマーでよいことに留意されたい。
【0069】
感熱材料は、少なくとも3つの異なる道筋で感熱性であると考えることができる。感熱材料は、約10℃〜約80℃の温度変化(すなわち、相対温度差)、特に約10℃〜約20℃の温度変化に曝されると、切換え状態(例えば、親水性と疎水性との間での)と見なすことができる。別法として、感熱材料は、約20℃を超えかつ約120℃未満の温度(すなわち、確実な温度(absolute temperature))に曝されると、状態を切り換えることができる。いくつかの実施形態において、感熱材料は、約25℃を超えかつ約90℃未満の温度、または約30℃を超えかつ約55℃未満の温度に曝されると、状態を切り換える。結局、感熱材料は、約25℃〜約40℃の温度、例えば、約32℃の温度で状態を切り換えることができる。
【0070】
熱を印加した場合に、感熱材料が切り換わる方向は、異なることができる。いくつかの実施形態において、材料は、相対的に低い温度でインクと相溶性であり、かつ相対的に高い温度でインクと非相溶性である。若干の他の実施形態において、材料は、相対的に高い温度でインクと相溶性であり、かつ相対的に低い温度でインクと非相溶性である。いくつかの実施形態において、材料は、室温(すなわち、約23℃〜約25℃)で親水性であり、かつ高められた温度で疎水性である。他の実施形態において、材料は、室温で親油性であり、かつ高められた温度で疎油性である。
【0071】
感熱材料は、一般に、基体の表面または基体上の別の層に沈積されて、画像形成部材の表面層を形成する。いくつかの実施形態において、表面層は、アクリルアミドポリマーの自己集合性単層である。他の実施形態において、表面層は、感熱材料からなる。例えば、表面層は、アクリルアミド−シルセスキオキサンのブロックコポリマーから、またはコア−シェル型粒子から作製することができる。所望なら、感熱材料によって形成されるネットワーク内にカーボンブラックまたはカーボンナノチューブのような強力な照射線吸収粒子などの他の材料を分散させることによって、複合表面層を形成できるであろう。別の例として、表面層の疎水性を、アクリルアミド−シルセスキオキサンのブロックコポリマーまたはコア−シェル型粒子のどちらかと共に疎水性オクタデシルシランを含めることによって、改変できるであろう。図4に示すようなブロックポリマーでは、表面層を、基体の表面から延伸しているポリマー鎖の層と見なすことができる。表面層の形成方法は、当技術で周知である。
【0072】
表面層の応答時間(すなわち、感熱材料が状態を切り換えるのにかかる時間)は、印刷装置の最大印刷速度に影響を及ぼす。総応答時間に寄与する2の要因:(1)熱応答時間、および(2)立体配座応答時間が存在する。熱応答時間は、画像形成部材が、2つの操作温度の間でどれだけ急速に切り換わることができるかを示し、表面層の所定領域を加熱するのに使用される出力によって決まる。所定の加熱出力に関して、NIPAMで改変された表面の熱応答時間は、親水性状態と疎水性状態との間で切り換わるために求められる温度差が小さいため、極めて短い。立体配座応答時間は、アクリルアミドポリマー鎖が、温度変化に応答してそれらの立体配座をどれだけ急速に変化させることができるかを示す。実験で、PNIPAMポリマーは、300ミリ秒以内に非水溶性になった。したがって、二次元表面上のPNIPAM鎖からなる表面層の立体配座応答時間は、やはり、ミリ秒程度であるはずである。実施形態において、表面層は、1秒(すなわち、1000ミリ秒)以内に2つの状態の間で切り換わることができる。別の実施形態において、表面層は、500ミリ秒以内に状態を切り換えることができる。
【0073】
表面層の粗さを操作して、感熱材料のインクとの相溶性/非相溶性(親水性/疎水性)を増幅することができる。換言すれば、表面層は、平滑でなくてもよい。言い換えれば、表面層の上面は、該表面層を載せている基体から一定の距離を維持しないか、あるいは表面層は、その最低点からその最高点まで厚さを変えることができる。この表面粗さは、いくつかの手段で成し遂げることができる。例えば、材料を表面層の上部に追加または上部から除去して、表面層が平滑であるのを防止する構造を形成することができる。別の例として、表面層を基体上に被覆する場合であれば、表面層を、塗布の際にわずかに粗くし、かつ/または平滑になるのを防止することができる。一般的に言って、表面粗さは、マイクロメートルもしくはナノメートルのスケールの規則的な構造および/またはランダムに配置された構造の付加、減除、または創作によって、あるいは多様なスケールの(階層的)構造によって作り出すことができる。若干の実施形態では、図7に示すように、表面層400は、溝410を含むことができる(ここでは、平面として示されているが、表面層は平面である必要はない)。溝は、約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの深さ420を有することができる。溝は、約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの幅430を有することができる。隣接する溝との間に約10ナノメートル〜約100マイクロメートルの間隔440が存在できる。溝の大きさおよび間隔は、一般には規則的であるが、いくつかの実施形態では、異なってもよい。溝を、横および縦の両方向に作製し、例えば、チェッカー盤様パターンを形成することができる。しかし、任意の形状から構成される規則的で一様な任意のパターンが想定される。例えば、表面粗さは、隆起および柱などの形状から構成できるであろう。このようなパターンは、例えば、レーザー彫刻(laser engraving)またはその他の手段によって作製できる。いくつかの実施形態において、粗さは、被覆工程の一部として作り出される。実施形態において、表面層は、横方向(すなわち、表面に沿って)で約10ナノメートル〜約100マイクロメートル、縦方向(すなわち、表面に垂直)で約10ナノメートル〜約10マイクロメートルの粗さを有することができる。
【0074】
任意の適切な温度供給源を第1熱供給源として使用して、表面層中に温度変化をもたらすことができる。典型的な熱供給源には、レーザーまたはLEDバーなどの光学的加熱デバイス、熱印刷ヘッド、抵抗加熱フィンガー、あるいはマイクロヒーターアレイが含まれる。抵抗加熱フィンガーは、フィンガーが加熱されるべき表面と接触した場合に抵抗加熱をもたらす指様微小電極のアレイである。すべての場合に、熱供給源を使用して、ピクセルのアドレス可能性のために表面層を選択的に加熱できる。
【0075】
第1熱供給源および任意選択の第2熱供給源は、それらの機能を完遂できる印刷装置内のいずれかの場所に配置することができる。例えば、図1に示すように、第1熱供給源140は、円筒状の画像形成部材110内に配置される。図2では、第1熱供給源240は、熱印刷ヘッド、すなわち画像形成部材から離れたモジュールとして描かれている。図5に描かれたようないくつかの実施形態において、熱供給源は、基体と表面層との間の画像形成部材内に配置される。ここで示すように、画像形成部材500は、基体510、表面層540、およびそれらの間の熱供給源530を含む。この実施形態は、例えば、熱供給源が二次元マイクロヒーターアレイである場合に、適切である可能性がある。これらのマイクロヒーターは、個々に断続して表面層を選択的に加熱できる、抵抗器をベースにしたヒーターまたはトランジスターをベースにしたヒーターでよいであろう。マイクロヒーター532は、適切な充填材料534によって隔離される。また、基体と感熱表面層との間に断熱層520を配置して、基体を介しての熱損失を防止することができる。任意選択で、断熱層520は、整合可能な材料で作製できるであろう。断熱層および基体が、照射線に対して透明であるなら、レーザーなどの熱供給源を、画像形成部材の基体側(例えば、シリンダーの内部)に依然として配置できるであろう。
【0076】
図6に描かれた他の実施形態において、画像形成部材600は、基体610、断熱層620、吸収層630、および表面層640を含む。熱供給源、例えば、画像の位置にアドレス可能なレーザーは、吸収層630によって吸収される照射線を送出し、次いで表面層640を加熱し、表面層に選択的領域での状態切換えをもたらす。一般に、吸収層は、熱供給源からのエネルギーを吸収できる。例えば、熱供給源が、レーザーなどの照射線供給源であるなら、吸収層は、照射線吸収層である。熱供給源が、音響エネルギー供給源であるなら、吸収層は、音響エネルギー吸収層である。典型的な吸収層は、その中に包埋または分散されたカーボンブラックを含むポリマー材料である。熱供給源は、アドレス可能であり、吸収層630の特定のセルを加熱し、次に、表面層640の湿潤性状態を変える。
【0077】
さらに別のシステムにおいて、吸収層630は、ピクセルの位置にアドレス可能な材料で作製される。例えば、吸収層は、メタ材料から作製できるであろう。メタ材料は、天然では入手できない、特定の励起に対する2つ以上の応答の組合せを生み出すように設計された、人工の三次元的で周期的なセル状アーキテクチャーを有する巨視的複合材料である。例えば、吸収層は、吸収を調整できるセルに分割され、アドレス可能な層として機能を発揮するメタ材料を含むことができるであろう。メタ材料のセルに向けた電気信号は、特に、キャパシターなどの調整可能な素子を有する活性メタ材料に関して、そのセルの吸収係数を制御する。アドレス可能である熱供給源を要求するよりも、広く均一な光照明を、このような吸収層と共に使用できるであろう。
【0078】
別のシステムにおいて、照射線熱供給源の代わりに音響熱供給源を使用したとするなら、吸収層630は、他の層に比較して音響エネルギー吸収材となり得よう。空間分割を得るために、音響供給源は、電気的にアドレス可能な音響供給源のアレイとなり得よう。
【0079】
湿し水供給源およびインク供給源を温度制御して、それらを画像形成部材に塗布するニップ領域の温度コントラストを最適にすることもできる。
【0080】
本開示の画像形成部材は、「オンザフライ(on the fly)」デジタル式リソグラフィーを可能にする。表面層は、小さな(約15℃程の小さな)温度変化を加えた後に、状態を切り換えることができ、エネルギー必要量は、画像形成部材が200℃より高い温度に到達するまで状態を切り換えない、酸化金属をベースにした表面に比較して、わずかである。
【0081】
画像形成部材の基体は、不透明または実質的に透明でよく、必要とされる機械的特性を有する任意の適切な材料を含むことができる。例えば、基体は、無機または有機組成物などの、電気的に非伝導性、半伝導性、または伝導性の材料からなる層を含むことができる。薄い織物として可撓性のあるポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタンなどをはじめとする各種の樹脂を、非伝導性材料として採用できる。電気伝導性の基体は、任意の金属、例えば、アルミニウム、ニッケル、鋼鉄、銅など、あるいは炭素、金属粉末などの電気伝導性物質で満たされた、または有機電気伝導性材料で満たされた、前記のようなポリマー材料でよい。電気的に絶縁性、半伝導性、または伝導性の基体は、可撓性無限ベルト、織物、シリンダー上に配置される円筒状スリーブ、シリンダー、シートなどの形態でよい。特定の実施形態において、画像形成部材(および基体)は、可撓性ベルト、円筒状スリーブ、またはシリンダーの形態である。図8に、ローラー710、720、および730の周りに配置されたベルト形態の画像形成部材700を描写する。画像形成部材の基体は、ローラーと接触し、一方、表面層は外側に面する。
【0082】
照射線吸収層630は、例えば、その中に照射線吸収粒子を分散させた高温樹脂から作製できる。この種の層は、高い光吸収効率および良好な熱伝導性を有することができる。照射線吸収粒子は、カーボンブラック粒子およびカーボンナノチューブを含むことができる。照射線吸収粒子は、照射線吸収層の約1.0質量%〜約50質量%で存在できる。典型的な高温樹脂には、ポリイミド、モノ/ビス−マレイミド、ポリ(アミド−イミド)、ポリエーテルイミド、およびポリエーテルエーテルケトンが含まれる。銀粉末などの付加的材料を層に添加して、材料特性を改善することができる。照射線吸収層は、照射線供給源の波長に適合した波長(UV〜IR)に強い吸収を有する染料または顔料を含むこともできる。照射線吸収層の厚さは、約20ナノメートル〜約5,000ナノメートルでよい。
【0083】
断熱層は、ポリイミド、ポリウレタン、およびポリスチレンなどの低熱伝導性材料で作製できる。断熱層の厚さは、約50マイクロメートル〜約1センチメートルでよい。
【0084】
他の実施形態において、整合可能な層650は、例えば、画像形成部材が、シリンダー上に取り付けるための円筒状表面の形態である場合に、画像形成部材と印刷装置の他の部分との間になされるべき良好な接触を可能にするために存在できる。典型的な整合可能な層は、シリコーン、VITON(登録商標)、双方などと炭素およびその他のナノ充填剤などの充填剤との組合せなどの材料から作製できるであろう。
【0085】
本開示の態様は、以下の実施例を参照することによってさらに理解できる。実施例は、単に、本開示の画像形成部材および印刷装置の各種態様をさらに説明するためのものであり、その実施形態を制限することを意図したものではない。
【実施例】
【0086】
[実施例1]
ポリ(メチルシルセスキオキサン)(PMSSQ)とNIPAMとのブロックコポリマーを調製する。該ブロックコポリマーは、約20質量%のPMSSQおよび80質量%のNIPAMからなる。該ブロックコポリマーをTHFに溶解し、ガラス管の表面にスピン被覆し、続いて50℃で20分間硬化させる。
【0087】
表面の温度応答挙動をチェックするため、異なる温度の水を用いて毛細管上昇実験を実施する。被覆されたガラス管を、ガラス管がちょうど触れるように水表面上に配置する。メニスカスの高さを、表面疎水性の指標として測定する。温度が15℃(PNIPAMのLCSTより低い)の水で、メニスカスの高さは3.8センチメートルと測定され、親水性表面を示す。測定誤差は、±0.2センチメートルである。水を40℃(PNIPAMのLCSTより高い)に加熱すると、メニスカスの高さは、1.4センチメートルであることが見出される。比較として、非被覆毛細管のメニスカス高さは、水温を40℃に変えても変化しない。
【0088】
[実施例2]
シリカのコアおよびPNIPAMのシェルを有する粒子を調製する。実験で、PNIPAM/シリカのコア−シェル型粒子の流体力学的直径は、溶液温度が上昇するにつれて減少する。25℃で、PNIPAMは、親水性かつ水溶性であり、ナノ球の流体力学的直径は、約440ナノメートルであり、かつPNIPAM鎖は、コイル状状態であり、シリカコアの外側表面上で溶媒和されたコンパクトでないナノシェルを形成する。コア−シェル型ナノ構造の流体力学的直径は、25℃から36℃までの温度上昇と共に、440ナノメートルから295ナノメートルまで徐々に減少し、これは、PNIPAM鎖の水溶性が、溶液温度を上昇させると共に減少したという事実に由来する。
【符号の説明】
【0089】
100,200,300 印刷装置、110,310,500,600,700 画像形成部材、112,212,312,510,610 基体、114,214,314,540,640,400 表面層、120 湿し水供給源、122,152,232,252 ニップ領域、130,230,330 インク供給源、140,240,340 第1熱供給源、142 画像領域、144 非画像領域、150,250,350 印圧シリンダー、160,260,360 被印刷体(記録媒体)、170,270,370,395 クリーニングユニット、210 シリンダー(画像形成部材)、234 プレニップ領域、242 相溶性領域(親油性領域)、244 非相溶性領域(親水性領域)、280,380 第2熱供給源、382 転写ニップ、390 中間転写部材、410 溝、420 深さ、430 幅、440 間隔、520,620 断熱層、530 熱供給源、532 マイクロヒーター、534 充填材料、630 吸収層、650 層、710,720,730 ローラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
感熱材料を含む表面層と、
を備え、
前記感熱材料が、アクリルアミドポリマーおよびケイ素材料を含有することを特徴とする画像形成部材。
【請求項2】
熱供給源と、
インク供給源と、
(i)基体と(ii)感熱材料とを含む表面層を含む画像形成部材と、
を備え、
前記感熱材料が、アクリルアミドポリマーおよびケイ素材料を含むことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
基体を、アクリルアミドポリマーおよびケイ素材料を含む感熱材料で被覆する工程と、
前記表面層を熱刺激に選択的に曝露して、画像領域および非画像領域を形成する工程と、
前記画像領域を印刷薬剤で満たして印刷画像を形成する工程と、
前記印刷画像を記録媒体に転写する工程と、
を含むことを特徴とする印刷方法。
【請求項4】
基体と、
感熱材料を含む表面層と、
を含み、
前記感熱材料が、コア−シェル型粒子を含み、該粒子が、コアおよびアクリルアミドポリマーを含む殻状被覆を含むことを特徴とする画像形成部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−241137(P2010−241137A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85352(P2010−85352)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】