画像投射装置
【課題】画像の投射画角に応じて、形状歪の補正を適切に行うことを可能とする画像投射装置を提供する。
【解決手段】画像投射装置51は、光束を出射する光源1aと、互いに直交する第1および第2の軸を中心に回動し、光源1aから出射した光束を反射する反射面を有する2次元偏向器2aと、2次元偏向器2aの反射面を第1の軸を中心に高速に回動するとともに第2の軸を中心に低速に回動させ、光束を2次元に偏向させる偏向器制御部4aと、形状歪み補正演算部7と、を備える。形状歪み補正演算部7は、第2の軸の最大回動角度をφ2maxとし、Cを定数としたとき、α=C×φ2maxで算出した振幅差分比率αに基づいて補正信号を生成し、偏向器制御部4aは、振幅補正信号に基づいて、1画面描画期間内で第1の軸の回動振幅を漸次変化させる。
【解決手段】画像投射装置51は、光束を出射する光源1aと、互いに直交する第1および第2の軸を中心に回動し、光源1aから出射した光束を反射する反射面を有する2次元偏向器2aと、2次元偏向器2aの反射面を第1の軸を中心に高速に回動するとともに第2の軸を中心に低速に回動させ、光束を2次元に偏向させる偏向器制御部4aと、形状歪み補正演算部7と、を備える。形状歪み補正演算部7は、第2の軸の最大回動角度をφ2maxとし、Cを定数としたとき、α=C×φ2maxで算出した振幅差分比率αに基づいて補正信号を生成し、偏向器制御部4aは、振幅補正信号に基づいて、1画面描画期間内で第1の軸の回動振幅を漸次変化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像情報信号によって変調処理された可視波長領域の光束を2次元的に偏向し、投射面上で走査させる事で、任意の画像を表示する事ができる光束走査型の画像投射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光源からの光束を2次元に偏向して画像を投射する画像投射装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
ここで、表示画像の形状歪みを補正する機能を備えた従来の画像投射装置52について説明する。図10は、従来の画像投射装置の構成を示す概念図である。
【0003】
図10で示すように、この画像投射装置52は、可視波長領域の光束を出射する光源1bと、光束を水平方向と垂直方向へ2次元的に偏向させる2次元偏向器2bと、偏向された光束の垂直方向の形状歪みを補正する補正光学系3bと、偏向器を制御するための偏向器制御部4bと、画像情報信号から描画信号を生成する画像処理部5bと、描画信号に応じて光源からの出射光束を変調駆動する光源駆動部6bと、偏向器制御部4bの高速駆動信号生成部12bへ振幅補正信号を送るための振幅補正信号参照部31、とから構成されている。ここで、点線で囲った部分は電気回路またはソフトウェアにより構成される信号処理系8bに対応している。
【0004】
続いて、画像投射装置52を構成する各部材と投射面21bとの光学的な位置関係を、図11を用いて説明する。
画像投射装置52における2次元偏向器2bは直交する2つの回動軸を中心とする高速回動機構10bと低速回動機構11bを有し、図11で示すように、これらの回動機構に基づいて回動運動するその主面には光束を反射するための反射面20bが設けられている。また、光源1bは、この反射面に対して所定の傾斜角度から入射する位置に配置されており、補正光学系3bは偏向される全光束を適切に補正できる位置に配置されている。投射面21bは、2次元偏向器2bの2軸の回動角度が何れもゼロである時の光束を法線とする面と平行に置かれ、ここでは便宜的に、高速の回動方向を水平のX軸、低速の回動方向を垂直Y軸と定義する。
【0005】
続いて、この画像投射装置52の動作と形状歪み補正に関する機能について、図12〜図13を用いて説明する。図12は、この画像投射装置52で画像を投射表示した状態で、偏向器制御部4bが2次元偏向器2bを駆動する駆動波形を示しており、図13は、この画像投射装置52で実現される形状歪み補正の様子を模式的に示したものである。
【0006】
この画像投射装置52が起動されると、まず、図12(a)の駆動波形で示すように、低速回動機構11bが遅い周期で略線形の往復運動を行い、その間に図12(b)の駆動波形で示すように、高速回動機構10bが早い周期で略正弦波的な往復運動を行う。
そして、これら回動機構の往復動作と同期して、図12(a)における1画面描画期間の間に、画像処理部5bからの描画信号に基づいた所定の光源駆動信号を光源1bへ送られ、光源1bから強度またはパルス変調された光束が出射されて、2次元偏向器2bで偏向される事で、図11で示すように投射面21bへ画像が表示される。
【0007】
次に、従来技術の画像投射装置52の形状歪み補正機能について述べる。反射面20bを備えた偏向器より構成される画像投射装置52では、図11に示すような、偏向器の回動軸、反射面、および光束の入射角度との幾何学的な関係から、投射面21bへ投射され
る画像の形状が、必然的に図13(a)に示すような水平および垂直の両軸方向の歪みを持ってしまう。
【0008】
従来技術の画像投射装置52では、2次元偏向器2bと投射面21bとの間に配置した補正光学系3bと、2次元偏向器2bの高速回動機構10bに対する振幅補正を行う手段により、水平および垂直の両軸方向の歪みを独立に補正するという手法を採用している。
特許文献1によれば、形状歪みの片軸方向の歪みは、2次元偏向器2bで偏向された光束の方向を、任意の自由曲面反射鏡を組み合わせた補正光学系3bにより微修正する事で、補正する事が可能である。ここでは、補正光学系3bによる補正方向を垂直走査方向とすると、図13(a)から図13(b)のように投射面21bへ表示される垂直走査方向の形状歪みが補正される。
【0009】
一方、図13(b)で補正されずに残っている水平走査方向の歪みについては、予め振幅補正信号参照部31に保存されてある振幅補正信号に基づいて、図12(c)で示すように水平方向の高速回動機構10bの振幅を低速回動機構11bの周期に同期させる形で乗算し継時的に変化させる。こうする事で、投射する水平方向の走査線の振幅長が相殺され、図13(b)の台形形状から図13(c)のように歪みの無い正常な四角形状へと補正される事となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−249797号公報(第32頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来技術では以下のような問題がある。
図14は、特許文献1に記載の画像表示装置52による形状歪み補正の説明図である。図14(a)は補正前の投射画像の状態を示し、図14(b)は補正後の投射画像の状態を示す。特許文献1に記載の画像投射装置52では、高速回動機構10bの駆動波形に乗算するための振幅補正信号が、想定される投射条件下での歪み率から予め決定されている。
【0012】
このため、図14(a)、(b)に示すように、想定される投射条件(画像の投射画角)における投射領域25gの場合は、投射領域25iのように正常に形状歪み補正を行うことができる。しかし、想定される投射条件から2次元偏向器2bの最大回動角度を縮小し、画像の投射画角を狭くした投射領域25hの場合は、投射領域25jに示すように、水平方向の形状歪みを正常に補正する事ができない。
このように、従来の画像投射装置では、画像の投射画角に応じて形状歪みの補正を適切に行うことができず、画像投射装置としての用途が限定されてしまうという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は上記課題を解決し、画像の投射画角に応じて、形状歪の補正を適切に行うことを可能とする画像投射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明の画像投射装置は下記記載の構成を採用するものである。
【0015】
本発明の画像投射装置は、光束を出射する光源と、互いに直交する第1および第2の軸を中心に回動し、光源から出射した光束を反射する反射面を有する偏向器と、偏向器の反
射面を第1の軸を中心に高速に回動するとともに第2の軸を中心に低速に回動させ、光束を2次元に偏向させる偏向器制御部と、補正演算部と、を備え、補正演算部は、第2の軸の最大回動角度に基づいて補正信号を生成し、偏向器制御部は、補正信号に基づいて、1画面描画期間内で第1の軸の回動振幅を漸次変化させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の画像投射装置は、上述した構成に加えて、偏向器の反射面の第2の軸を中心とした回動は、第1の軸を中心とした回動から独立であり、第2の軸と光源の光束の出射方向とが略直角をなすことを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の画像投射装置は、上述した構成に加えて、第2の軸の最大回動角度をφ2maxとし、Cを定数としたとき、補正演算部は、α=C×φ2maxで算出した振幅差分比率αに基づいて補正信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の画像投射装置は、低速に回動する軸の最大回動角度に基づいて補正信号を生成し、該補正信号に基づいて高速に回動する軸の回動振幅を制御する。これにより、投射条件(画像の投射画角)に応じて、適切に形状歪み補正を実施する事ができ、表示画像の画角を任意に変化させるような、より幅広い用途で使用可能な画像投射装置を提供すること事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の画像投射装置の構成を示す説明図である。
【図2】本実施形態の画像投射装置の構成要素の光学的な配置関係を示す説明図である。
【図3】本実施形態の画像投射装置の2次元偏向器の駆動波形を示す説明図である。
【図4】形状歪み補正を動作させない状態の投射領域の計算値を示す説明図である。
【図5】本実施形態の画像投射装置の形状歪み補正の様子を示す説明図である。
【図6】本実施形態の画像投射装置の補正処理の動作例を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態の画像投射装置の補正演算に用いる定数算出の説明図である。
【図8】本実施形態の画像投射装置の形状歪み補正の様子を示す説明図である。
【図9】本実施形態の画像投射装置の2次元偏向器の駆動波形を示す説明図である。
【図10】従来技術の画像投射装置の構成を示す説明図である。
【図11】従来技術の画像投射装置の構成要素の光学的な配置関係を示す説明図である。
【図12】従来技術の画像投射装置の2次元偏向器の駆動波形を示す説明図である。
【図13】従来技術の画像投射装置による形状歪み補正の説明図である。
【図14】従来技術の画像投射装置による形状歪み補正の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明による画像投射装置の実施形態を詳細に説明する。なお、上述した従来技術の画像投射装置と同じ構成要素には、同番号の符号を用いる。
【0021】
[構成の説明:図1、図2]
図1は本実施形態の画像投射装置51の構成を示す説明図である。図1に示すように、この画像投射装置51は、可視波長領域の光束を出射する光源1aと、光束を水平方向と垂直方向へ2次元的に偏向させるための高速回動機構10aと低速回動機構11aを有する2次元偏向器2aと、偏向された光束の垂直方向の形状歪みを補正する補正光学系3aと、高速駆動信号生成部12aと低速駆動信号生成部13aと偏向器動作状態検出部14aとを有する偏向器制御部4aと、画像情報信号から描画信号を生成する画像処理部5a
と、描画信号に応じて光源1aからの出射光束を変調駆動する光源駆動部6aと、を備える。
【0022】
以上は、上述した従来技術の画像投射装置と同様であるが、本実施形態の画像投射装置51は、投射条件設定部15を備えるとともに、従来技術における振幅補正信号参照部に代えて、2次元偏向器2aの最適な偏向振幅を演算するための形状歪み補正演算部7を備える。
【0023】
図2は、画像投射装置51を構成する各部材と投射面との光学的な位置関係を示す説明図である。画像投射装置51における2次元偏向器2aは直交する2つの回動軸を中心とした高速回動機構10aと低速回動機構11aを有する。また、図2に示すように、これらの回動機構に基づいて回動するその主面には、光束を反射するための反射面20aが設けられている。
【0024】
2次元偏向器2aの回動軸は、低速側の回動軸が光学的に固定された軸であり、他方の高速の回動軸が低速の回動に従属して偏向される、という機構になっている。ここでは、高速回動機構10aによる反射光束の偏向角度をφ1と定義する。これにより、高速回動機構10aの実回動角度はφ1/2と表される。また、低速回動機構11aによる同偏向角度をφ2と定義する。これにより、低速回動機構11aの実回動角度はφ1/2と表される。
また、反射面20aの光軸中心点から投射面21a(XY面)原点への投射距離をDと定義する。
【0025】
投射面21aは、2次元偏向器2aの2軸の回動角度が何れもゼロである時の光束を法線とする面と平行に配置されている。光源1aは、その出射光束が低速の回動軸に対しては常に直角な角度になる位置に配置される。また、光源1aは、2軸の回動角度が何れもゼロである時の反射面20aの法線方向に対しては直角でない所定の傾斜角度(θと定義する)で入射するように配置されている。
【0026】
2軸の回動角度が何れもゼロである時の光束をZ軸、高速の回動に伴う走査方向をX軸(水平)、低速の回動に伴う走査方向をY軸(垂直)と定義する。補正光学系3aは、Z軸を中心軸とし、2次元偏向器2aによって偏向された光束全てに対して補正可能な位置に配置されている。
【0027】
以下に、本実施形態の画像投射装置51の各構成要素について詳細に説明する。
光源1aは、例えば半導体レーザや固体レーザ等の光学機能素子を用いる事により、可視波長領域の光束を生成し出射する機能を有している。更に、後述する光源駆動部6aからの光源駆動信号に従って、出射光束を強度的又はパルス的に高速変調する機能を有している。
【0028】
2次元偏向器2aは、光源1aから出射された光束を反射し、投射面21aへ2次元的に走査投射する。先述したように、この2次元偏向器2aは、互いに略垂直を為す2軸の回動機構(高速回動機構10aと低速回動機構11a)及び小型の反射面20aより構成されている。このような小型の反射面20aと回動機構は、半導体工程を用いてシリコン結晶基板より製造される事が多い為、一般に「MEMSスキャナ」と呼ばれている。更に、2次元偏向器2aは、光源1aからの出射光束を所定の入射角度θで反射面20aへ受け、回転機構に基づいた周期的な走査動作により、入射された光束の光強度を維持したまま反射させる事で、投射レーザ光を所定の方向へ2次元的に偏向し走査投射する。
【0029】
一般に、このような2次元偏向器2aは、実用的な投射条件内の回動状態においては、
回動される両軸の角度が、後述する偏向器制御部4aからの駆動信号の振幅に比例する。また、回動される両軸の角度の駆動信号に対する遅延も殆ど無い(位相ズレを起こさない)という特性を有する。このため、偏向される光束の偏向角度は、駆動信号の波形とほぼ同様の動作をしているものとみなすことができる。
【0030】
補正光学系3aは、従来例の画像投射装置52に関する説明で述べたように、例えば、任意の自由曲面反射鏡を組み合わせた光学的な構成により、2次元偏向器2aで偏向された光束の方向を微修正する事で、形状歪みにおける垂直方向の歪みを補正する事が可能である。
【0031】
次に、信号処理系8aの構成について説明する。信号処理系8aは以下で詳説する、偏向器制御部4a、画像処理部5a、光源駆動部6a、形状歪み補正演算部7、投射条件設定部15を備え、電気回路またはソフトウェアにより構成される。
【0032】
偏向器制御部4aは、2次元偏向器2aにおける高速回動機構10aを駆動するための高速駆動信号生成部12aと、低速回動機構11aを駆動するための低速駆動信号生成部13aと、両回動機構からの帰還信号を受ける偏向器動作状態検出部14aと、から構成される。具体的には、高速駆動信号生成部12aと低速駆動信号生成部13aは、高速回動機構10aと低速回動機構11aの周期的な回動に対して、回動角度(偏向角度)の調整、回動周期の安定化、両回動機構の同期整合を行うなど、2次元偏向器2aを制御駆動するための全般的な処理機能を有している。
【0033】
また、偏向器動作状態検出部14aは、2次元偏向器2aからの帰還信号と、高速駆動信号および低速駆動信号に基づき、2次元偏向器2aにおける両回動機構の瞬時的な情報(偏向角度、位相、等)を偏向器状態信号として、任意のタイミングで外部の処理手段へ伝達する機能を有している。更に、高速駆動信号生成部12aは、後述する形状歪み補正演算部7からの振幅補正信号を受けて、高速駆動信号の振幅を増減演算する処理機能を有している。
【0034】
投射条件設定部15は、画像の投射画角などの投射条件がユーザにより設定される機能を有する。投射条件設定部15は、設定された投射条件を投射条件信号として偏向器制御部4aへ伝達するとともに、低速回動機構11aの偏向角度の最大値φ2maxの情報を最大偏向角度信号として形状歪み補正演算部7に伝達する。
【0035】
画像処理部5aは、外部装置から入力される画像情報信号と偏向器動作状態検出部14aからの偏向器状態信号に基づいて、投射面21aへ画像を描画するための適切な描画信号(変調信号)を生成する。光源駆動部6aは、この描画信号に基づいて光源1aを駆動し、光束出射を強度的またはパルス的に高速変調させる機能を有する。
【0036】
形状歪み補正演算部7は、投射条件設定部15からの最大偏向角度信号と、偏向器動作状態検出部14aからの偏向器状態信号に基づいて、2次元偏向器2aで偏向された光束が投射面21aへ走査投射される投射領域の形状歪みを推定する。また、形状歪み補正演算部7は、その水平走査方向の形状歪みを適切に補正するための振幅補正信号を、演算手段により生成し、偏向器制御部4aの高速駆動信号生成部12aへ伝達する。その具体的な作用手順と演算処理については、後ほど詳説する。
【0037】
[動作の説明:図2〜図9]
続いて、この画像投射装置51の動作と形状歪み補正に関する機能及び作用について説明する。図3は、この画像投射装置51における偏向器制御部4aが、2次元偏向器2aの2つの回動機構を駆動する際の駆動波形の時間的な変化を示す説明図である。
【0038】
この画像投射装置51の一般的な投射動作と原理は、先述した従来例における画像投射装置52と同様である。すなわち、装置が起動されると、まず、図3(a)、(b)の駆動波形で示すように、低速回動機構11aが遅い周期で略線形の往復運動を行い、その間に、高速回動機構10aが早い周期で略正弦波的な往復運動を行う。
そして、これら回動機構の往復動作と同期して、図3(a)における1画面描画期間の間に、画像処理部5aからの描画信号に基づいた所定の光源駆動信号が光源1aへ送られ、光源1aから強度またはパルス変調された光束が出射されて、2次元偏向器2aで偏向される事で、図2に示すように、投射面21aへ画像が表示される。
【0039】
ここでまず、形状歪み補正を動作させない状態で、画像投射装置51を駆動した時の投射形状について説明する。すなわち、図2における補正光学系3aが無く、図3における高速回動機構10aが、形状歪み補正演算部7による振幅補正信号を受けずに、1点鎖線で示す定常振幅線通りの駆動波形により駆動されている場合を想定する。
この場合、画像投射装置51が投射面21a上へ走査投射する光束の投射座標点は、図2の投射光学系で示す配置関係と変数定義に基づいて、式(1)および式(2)のように幾何光学的に定式化する事ができる。式(1)は水平方向における座標点のX成分を示し、式(2)は垂直方向における座標点のY成分を示している。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
図4は、形状歪み補正を動作させない状態で、画像投射装置51を駆動した時の投射領域の計算値を示す説明図である。
ここで、画像投射装置51の実用的な投射光学系として、反射面20aへの光束の入射角度θを45°と仮定する。また、実用的な投射条件として、高速回動機構10aの回動角度φ1の最大値φ1maxを13°、低速回動機構11aの回動角度φ2の最大値φ2maxを7°と仮定する。投射距離Dは任意の長さとする。
【0043】
この時、投射面21a上へ走査投射される光束の投射領域25aは、図4で示すように
、垂直Y軸方向には弓なり形状の歪み、水平X軸方向には台形形状の歪み、という両軸に歪みを含んだ形状となる。光束の投射領域25aは、そのまま投射画像の形状に対応するため、このような形状歪み補正が無い状態での投射状態では、投射したい画像が歪んだまま表示されてしまう事となる。
なお、投射面21a上への投射領域25aの形状は、X軸方向とY軸方向の比のみに依存し、投射距離Dには依存しないため、Dを任意の長さとしても以下の説明では支障は無い。
【0044】
続いて、図4に示す形状歪みに対するこの画像投射装置51の形状歪み補正機能について説明する。図5は、画像投射装置51で実現される形状歪み補正の様子を模式的に示す説明図である。
上述した2軸の形状歪みの内、Y軸方向の弓なり形状の歪みに対しては、本発明における画像投射装置51も、従来例における画像投射装置51と同様、任意の自由曲面反射鏡を組み合わせた補正光学系3aを用いることにより補正を行う。すなわち、図2で示すように、2次元偏向器2aの直後の位置に、適切な自由曲面反射鏡を組み合わせた補正光学系3aを配置し、偏向光束の垂直方向の偏向角度を微調整する事により、投射面21a上で投射されるY軸方向の光束の走査線形状を弓なり形状から直線形状へと補正する。このようにして、図4で見られた垂直Y軸方向の弓なり形状の歪みは、図5(a)で示すような投射領域25bの形状へと補正する事ができる。
【0045】
図4に示す、回動角度が最大値を示す時(または描画範囲における回動角度が最大値を示す時)の投射点Pa1と投射点Pa2は、この補正光学系3aによる補正後、図5(a)で示すように投射点Pb1と投射点Pb2の位置へ移動する。
ここで便宜的に、図4におけるY座標軸上の投射点と原点からの距離をL0とすると、補正光学系3aによる補正後、投射点Pb1と投射点Pb2のY軸方向の原点からの距離もL0となる。
【0046】
次に、水平方向(X軸方向)の形状の歪み補正方法について説明する。
水平X軸方向の形状歪みに対しては、本発明における画像投射装置51も、振幅補正信号に基づいて高速回動機構10aの駆動波形の振幅を増減させる方法で補正する、という点においては従来例と同様である。
【0047】
つまり、図3(b)における補正包絡線で示すように、低速回動機構11aの周期と同期した1画面描画期間の中で、高速回動機構10aの駆動波形の振幅を適切に増減させて、水平X軸方向の光束の偏向角度を調整する。これにより、図5(a)から図5(b)に示すように、投射面21a上へ走査投射されるX軸方向の光束の走査振幅を均一化させて、投射領域25bのX軸方向の形状歪みを無くす、という補正方法をこの画像投射装置51は採用している。
以下では、これらの具体的な演算手法、信号生成、補正処理の手順について説明する。
【0048】
形状歪み補正を行わない場合、図4で示すように、式(1)および式(2)に基づいて計算された画像投射装置51の投射領域25aは、台形形状の歪みを有する。ここで、投射点Pa1と投射点Pa2を結ぶ線分は、厳密には直線形状ではなく複雑な曲線形状を描く。しかし、2次元偏向器2aの反射面20aへの光束の入射角度θが、実用的な投射光学系として直角からある程度離れた値の範囲内である限りにおいては、図4の2点鎖線Mで示すように、近似的に直線形状とみなす事ができる。この時、投射点Pa1のX成分(Y軸からの距離)をL1と定義し、投射点Pa2のX成分(Y軸からの距離)をL2と定義する。
【0049】
補正光学系3aは、前述したように、Y軸方向の形状歪みを独立して補正するため、図
5(a)に示す補正後の投射点Pb1のX成分は、図4に示す補正前の投射点Pa1のX成分L1に等しい。同様に、図5(a)に示す補正後の投射点Pb2のX成分は、図4に示す補正前の投射点Pa2のX成分L2に等しい。また、補正後の投射点Pb1と投射点Pb2を結ぶ線分は、補正前の投射点Pa1と投射点Pa2を結ぶ線分と同様に、近似的に直線形状とみなす事ができる。
【0050】
以上述べたような直線形状の条件により、X軸方向の形状歪みに対して実施される補正演算では、図5(a)に示すように、投射点Pb1から投射点Pb2へ至る水平X軸方向の走査振幅を線形的に調整して、X成分L1、L2との差分ΔLを相殺し、L2に均一化すればよい事がわかる。
従って、調整されるべき高速回動機構10aの駆動波形の振幅は、図3の補正包絡線で示すように、Y軸方向の時間的な上下走査動作に対して、単純に線形的な漸減関数であって良い事が容易に理解される。
【0051】
具体的には、図3(b)に示すように、高速回動機構10aの駆動波形における投射点Pa1の位置での振幅値を、定常振幅A0から所定の振幅差分比率αだけ増加させ、以降、高速回動機構10aによる水平X軸方向の回動周期に合わせて、所定の振幅減衰比率βで減衰させていけば良い。振幅差分比率αは、以下の式(3)で表される。
α=(L2−L1)/L1・・・(3)
こうする事で、線形的な駆動波形の振幅調整により、X軸方向の光束の走査振幅が投射点Pb2における振幅に均一化され、図5(b)の投射領域25cで示すように、所望の形状歪み補正が実現される事となる。
【0052】
通常、このような振幅差分比率αや上述の補正包絡線関数を求める場合には、式(1)および式(2)で示した理論式から演算手段によって導出するか、若しくは、図10に示す従来技術の画像投射装置52のように、振幅補正信号参照部31へ予め所定の補正包絡線関数を記憶させておき、逐次その振幅補正信号を参照しながら偏向器制御部4aで乗算処理を行う、という手段が取られる。
【0053】
しかしながら、前者の手段では、複雑な算出式による演算負荷が過大になる事から実効的な形状補正ができず、後者の手段では、先述したように、ある所定の投射条件(両軸の回動機構による偏向角度)のみに対応した振幅補正信号しか使用できないため、限られた投射条件下でしか用いる事ができない、という問題がある。
【0054】
このような問題に対する解決策として、本実施形態の画像投射装置51では、偏向器制御部4aからの偏向器状態信号に基づき、形状歪み補正演算部7の内部で適切な歪み補正率を自動的に推定演算し、補正に必要な振幅補正信号を生成するとともに、この振幅補正信号に基づいて偏向器制御部4aの内部での演算処理によって高速回動機構10aの駆動波形の振幅調整を実施する、という点が従来例と異なった特徴的機能である。
【0055】
本実施形態の画像投射装置51が備える形状歪みの補正演算処理および偏向制御処理について以下に詳細に説明する。図6は、画像投射装置51の形状歪みの補正演算処理および偏向制御処理を示すフローチャートである。
まず画像投射装置51の駆動後、ユーザにより、画像の投射画角などの投射条件が投射条件設定部15に設定される。投射条件の設定後、投射条件設定部15から投射条件信号が偏向器制御部4aに送信される。偏向器制御部4aは、この投射条件信号に基づいて、2次元偏向器2aの駆動状態を設定する。
【0056】
また、形状歪み補正演算部7は、投射条件設定部15から、設定された投射条件に基づく低速回動機構11aの偏向角度の最大値φ2maxを受信する〔処理1〕。その後、形状歪
み補正演算部は、以下の式(4)により、振幅差分比率αを求める〔処理2〕。
α=C×φ2max・・・(4)
定数Cは、画像投射装置51の投射光学系に応じて定まり、予め形状歪み補正演算部7に記憶される。
【0057】
ここで、定数Cの導出方法について説明する。図7は定数Cの導出の説明図であり、式(1)および式(3)を用い、低速回動機構11aの偏向角度の最大値φ2maxを0°から7.5°(0.13rad)まで変化させた時の理想的な振幅差分比率αiを三角点でプロットして示している。
【0058】
この理想的な振幅差分比率αiの値は、入射角度θ(ここでは45°)が固定されている場合、φ1maxの値には殆ど依存せず、φ2maxの値にのみ依存する。この三角点のプロット線は、φ2maxが実用的な範囲内である場合、近似的に線形関数としてみなす事ができる。そこで、線形関数の最小2乗法計算(図7中の実線)により、関数プロット線の傾き係数Cを算出し、C=1.0537と求める事ができる。
なお、投射条件A.Bについては後述する。
【0059】
図6の説明に戻る。形状歪み補正演算部7は、振幅差分比率αを求めた後、以下の式(5)に示すように、1画面描画期間に高速回動機構10aが光束を偏向する走査数n(垂直方向の解像度)で振幅差分比率αを除算し、振幅減衰比率βを算出する〔処理3〕。
β=α/n・・・(5)
その後、形状歪み補正演算部7は、振幅差分比率αと振幅減衰比率βを振幅補正信号として偏向器制御部4aの高速駆動信号生成部12aへ送る。ここまでが、形状歪み補正演算部7の処理である。
【0060】
振幅差分比率αと振幅減衰比率βが入力された偏向器制御部4aは、所定のφ2max、定常最大値φ1max、走査数n等の数値的条件によって、描画に対応した2次元偏向器2aの回動を開始する〔処理4〕。回動の開始後、図3で示す投射点Pb1(走査回数i=0)の位置において、高速回動機構10aの駆動波形の定常振幅A0に対して、上記処理2で算出した振幅差分比率αの分だけ増大させる〔処理5〕。
【0061】
以後、高速回動機構10aの回動による光束の水平X軸方向への偏向走査が行われる度に、駆動振幅から振幅減衰比率βの分だけ減衰処理〔処理6〕を行うとともに、走査回数iの単純加算を行うことで、高速回動機構10aの駆動波形の振幅に対して、線形的な漸減処理が実施される。そして、走査回数iが所定の走査数n、すなわち投射点Pb2の位置に達し、駆動波形の振幅が定常振幅まで戻った段階で、1画面描画が終了する。以上、〔処理4〕〜〔処理6〕が偏向器制御部4aで行われる処理である。
【0062】
次に、上述した投射条件(画像の投射画角)として具体的な2つの画角を仮定し、本実施形態の画像投射装置51の形状歪み補正の精度について、数値的な比較検証を行う。
【0063】
反射面20aへの光束の入射角度をθ=45°とする。投射条件Aとして、φ1max=13°、φ2max=7°(0.122rad)を想定し、この条件Aに対し投射画角が半分以下になる投射条件Bとして、φ1max=5.8°、φ2max=3°(0.052rad)を想定する。
図8は、図5と同様に、画像投射装置51で実現される形状歪み補正の様子を模式的に示す説明図であり、図8(a)は補正前の投射領域を示し、図8(b)は補正後の投射領域を示す。また、投射領域25b、25cは投射条件Aの投射領域を示し、投射領域25d、25fは投射条件Bの投射領域を示す。
図9は、図3と同様に、画像投射装置51における偏向器制御部4aが、2次元偏向器2aの2つの回動機構を駆動する際の駆動波形の時間的な変化を示す説明図である。図9
(b)は投射条件Aの高速回動の偏向振幅を示し、図9(c)は投射条件Bの高速回動の偏向振幅を示す。
【0064】
図7より算出した係数を定数C=1.0537として、この2つの投射条件A、Bに対して、形状歪み補正演算部7における前掲の振幅差分比率計算〔処理2〕(図6)を実施すると、投射条件Aに対する振幅差分比率αA1=C×φ2max=0.129、投射条件Bに対する振幅差分比率αB1=C×φ2max =0.055、と求められる。
【0065】
ここで比較のため、式(1)および式(3)を用いて、投射条件A、Bの最適な振幅差分比率αを算出する。投射条件Aの場合、図8(a)の投射点Pb2と投射点Pb2のX成分は式(1)より、L1=1.239×L0、L2=1.400×L0と算出される。よって、式(3)より、αA2=0.130と求められる。同様に、投射条件Bの場合、式(1)よりL1’=1.333×L0’、L2’=1.404×L0’と算出され、式(3)より、αB2=0.054と求められる。
【0066】
よって、本実施形態の画像投射装置51の補正演算によって算出された、投射条件A、Bについての振幅差分比率αA1、αB1ともに、式(1)および式(3)を用いて算出したαA2、αB2に対して、2%以下の精度範囲で一致した結果が得られる事が分かる。この精度範囲は、投射領域25b、25dの水平方向の振幅差分に対する値であり、投射領域全体に対する比率としては、極めて微小である事が分かる。
すなわち、定式化した式(1)のような複雑な関数を用いずとも、図9に示すような線形近似で求めた係数Cとφ2maxとの積を求めることで、理想値に近い振幅差分比率αの値を求める事が可能となる。
【0067】
これらの振幅差分比率αA1、αB1を用いて、図9に示すように、図6の〔処理3〕〜〔処理7〕を実施する事で、それぞれの投射条件A、Bにおいて、極めて簡潔な比例演算処理機能に基づいて、高速回動機構10aの駆動波形の振幅に対する適切な振幅調整を行う事ができる。そして、最終的に、図8(b)に示すように、投射条件A、Bという表示画面の画角が倍以上異なる両条件においても、水平X軸方向の形状歪みに対する補正が正常に行われ、歪みが無い投射領域25c、25fを実現する事が可能となる。
【0068】
また、必要とされる振幅差分比率αの値は、高速回動機構10aの偏向角度の最大値φ1max(図7に示す、駆動波形における定常振幅A0に対応する)に殆ど影響しないため、振幅差分比率α算出にφ1maxを使用しない点も本発明による画像投射装置51の特徴である。
【0069】
なお、上記では、高速回動機構10aと低速回動機構11aの偏向角度の比は、補正後の投射領域25c、25fの縦横比が両条件において、相互に略等しくなるように設定した例を示した。しかし、高速回動機構10aと低速回動機構11aの偏向角度の比、すなわち、投射領域の縦横比が異なっていたとしても、低速回動機構11aの偏向角度の最大値φ2maxと投射光学系に応じて定まる定数Cの積で振幅差分比率αを求め、この振幅差分比率αを用いて形状歪み補正を行うことにより、本画像投射装置51は同様の効果を発揮する。
【0070】
以上に示すように、本実施形態の画像投射装置51は、従来例の画像投射装置52で問題となっていた、投射条件(画像の投射画角)の違いによって対応できない歪みが生じる、という事態(図13)を回避する事ができ、異なる投射条件において、歪みの無い正常な投射領域に光束を偏向走査し、表示画像を描出する事が可能となる。すなわち、投射条件(画像の投射画角)に応じて、その投射条件下で生じる形状歪みを自動的に推定し、比例係数演算という簡潔な補正演算手段によって、適切に形状歪み補正を実施する事が可能
となる。従って、表示画像の画角を任意に変化させるような、より幅広い用途で使用可能な画像投射装置を提供すること事が可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1a 光源
2a 2次元偏向器
3a 補正光学系
4a 偏向器制御部
5a 画像処理部
6a 光源駆動部
7 形状歪み補正演算部
8a 信号処理系
10a 高速回動機構
11a 低速回動機構
12a 高速駆動信号生成部
13a 低速駆動信号生成部
14a 偏向器動作状態検出部
15 投射条件設定部
20a 反射面
21b 投射面
25a〜25f 投射領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像情報信号によって変調処理された可視波長領域の光束を2次元的に偏向し、投射面上で走査させる事で、任意の画像を表示する事ができる光束走査型の画像投射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光源からの光束を2次元に偏向して画像を投射する画像投射装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
ここで、表示画像の形状歪みを補正する機能を備えた従来の画像投射装置52について説明する。図10は、従来の画像投射装置の構成を示す概念図である。
【0003】
図10で示すように、この画像投射装置52は、可視波長領域の光束を出射する光源1bと、光束を水平方向と垂直方向へ2次元的に偏向させる2次元偏向器2bと、偏向された光束の垂直方向の形状歪みを補正する補正光学系3bと、偏向器を制御するための偏向器制御部4bと、画像情報信号から描画信号を生成する画像処理部5bと、描画信号に応じて光源からの出射光束を変調駆動する光源駆動部6bと、偏向器制御部4bの高速駆動信号生成部12bへ振幅補正信号を送るための振幅補正信号参照部31、とから構成されている。ここで、点線で囲った部分は電気回路またはソフトウェアにより構成される信号処理系8bに対応している。
【0004】
続いて、画像投射装置52を構成する各部材と投射面21bとの光学的な位置関係を、図11を用いて説明する。
画像投射装置52における2次元偏向器2bは直交する2つの回動軸を中心とする高速回動機構10bと低速回動機構11bを有し、図11で示すように、これらの回動機構に基づいて回動運動するその主面には光束を反射するための反射面20bが設けられている。また、光源1bは、この反射面に対して所定の傾斜角度から入射する位置に配置されており、補正光学系3bは偏向される全光束を適切に補正できる位置に配置されている。投射面21bは、2次元偏向器2bの2軸の回動角度が何れもゼロである時の光束を法線とする面と平行に置かれ、ここでは便宜的に、高速の回動方向を水平のX軸、低速の回動方向を垂直Y軸と定義する。
【0005】
続いて、この画像投射装置52の動作と形状歪み補正に関する機能について、図12〜図13を用いて説明する。図12は、この画像投射装置52で画像を投射表示した状態で、偏向器制御部4bが2次元偏向器2bを駆動する駆動波形を示しており、図13は、この画像投射装置52で実現される形状歪み補正の様子を模式的に示したものである。
【0006】
この画像投射装置52が起動されると、まず、図12(a)の駆動波形で示すように、低速回動機構11bが遅い周期で略線形の往復運動を行い、その間に図12(b)の駆動波形で示すように、高速回動機構10bが早い周期で略正弦波的な往復運動を行う。
そして、これら回動機構の往復動作と同期して、図12(a)における1画面描画期間の間に、画像処理部5bからの描画信号に基づいた所定の光源駆動信号を光源1bへ送られ、光源1bから強度またはパルス変調された光束が出射されて、2次元偏向器2bで偏向される事で、図11で示すように投射面21bへ画像が表示される。
【0007】
次に、従来技術の画像投射装置52の形状歪み補正機能について述べる。反射面20bを備えた偏向器より構成される画像投射装置52では、図11に示すような、偏向器の回動軸、反射面、および光束の入射角度との幾何学的な関係から、投射面21bへ投射され
る画像の形状が、必然的に図13(a)に示すような水平および垂直の両軸方向の歪みを持ってしまう。
【0008】
従来技術の画像投射装置52では、2次元偏向器2bと投射面21bとの間に配置した補正光学系3bと、2次元偏向器2bの高速回動機構10bに対する振幅補正を行う手段により、水平および垂直の両軸方向の歪みを独立に補正するという手法を採用している。
特許文献1によれば、形状歪みの片軸方向の歪みは、2次元偏向器2bで偏向された光束の方向を、任意の自由曲面反射鏡を組み合わせた補正光学系3bにより微修正する事で、補正する事が可能である。ここでは、補正光学系3bによる補正方向を垂直走査方向とすると、図13(a)から図13(b)のように投射面21bへ表示される垂直走査方向の形状歪みが補正される。
【0009】
一方、図13(b)で補正されずに残っている水平走査方向の歪みについては、予め振幅補正信号参照部31に保存されてある振幅補正信号に基づいて、図12(c)で示すように水平方向の高速回動機構10bの振幅を低速回動機構11bの周期に同期させる形で乗算し継時的に変化させる。こうする事で、投射する水平方向の走査線の振幅長が相殺され、図13(b)の台形形状から図13(c)のように歪みの無い正常な四角形状へと補正される事となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−249797号公報(第32頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来技術では以下のような問題がある。
図14は、特許文献1に記載の画像表示装置52による形状歪み補正の説明図である。図14(a)は補正前の投射画像の状態を示し、図14(b)は補正後の投射画像の状態を示す。特許文献1に記載の画像投射装置52では、高速回動機構10bの駆動波形に乗算するための振幅補正信号が、想定される投射条件下での歪み率から予め決定されている。
【0012】
このため、図14(a)、(b)に示すように、想定される投射条件(画像の投射画角)における投射領域25gの場合は、投射領域25iのように正常に形状歪み補正を行うことができる。しかし、想定される投射条件から2次元偏向器2bの最大回動角度を縮小し、画像の投射画角を狭くした投射領域25hの場合は、投射領域25jに示すように、水平方向の形状歪みを正常に補正する事ができない。
このように、従来の画像投射装置では、画像の投射画角に応じて形状歪みの補正を適切に行うことができず、画像投射装置としての用途が限定されてしまうという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は上記課題を解決し、画像の投射画角に応じて、形状歪の補正を適切に行うことを可能とする画像投射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明の画像投射装置は下記記載の構成を採用するものである。
【0015】
本発明の画像投射装置は、光束を出射する光源と、互いに直交する第1および第2の軸を中心に回動し、光源から出射した光束を反射する反射面を有する偏向器と、偏向器の反
射面を第1の軸を中心に高速に回動するとともに第2の軸を中心に低速に回動させ、光束を2次元に偏向させる偏向器制御部と、補正演算部と、を備え、補正演算部は、第2の軸の最大回動角度に基づいて補正信号を生成し、偏向器制御部は、補正信号に基づいて、1画面描画期間内で第1の軸の回動振幅を漸次変化させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の画像投射装置は、上述した構成に加えて、偏向器の反射面の第2の軸を中心とした回動は、第1の軸を中心とした回動から独立であり、第2の軸と光源の光束の出射方向とが略直角をなすことを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の画像投射装置は、上述した構成に加えて、第2の軸の最大回動角度をφ2maxとし、Cを定数としたとき、補正演算部は、α=C×φ2maxで算出した振幅差分比率αに基づいて補正信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の画像投射装置は、低速に回動する軸の最大回動角度に基づいて補正信号を生成し、該補正信号に基づいて高速に回動する軸の回動振幅を制御する。これにより、投射条件(画像の投射画角)に応じて、適切に形状歪み補正を実施する事ができ、表示画像の画角を任意に変化させるような、より幅広い用途で使用可能な画像投射装置を提供すること事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の画像投射装置の構成を示す説明図である。
【図2】本実施形態の画像投射装置の構成要素の光学的な配置関係を示す説明図である。
【図3】本実施形態の画像投射装置の2次元偏向器の駆動波形を示す説明図である。
【図4】形状歪み補正を動作させない状態の投射領域の計算値を示す説明図である。
【図5】本実施形態の画像投射装置の形状歪み補正の様子を示す説明図である。
【図6】本実施形態の画像投射装置の補正処理の動作例を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態の画像投射装置の補正演算に用いる定数算出の説明図である。
【図8】本実施形態の画像投射装置の形状歪み補正の様子を示す説明図である。
【図9】本実施形態の画像投射装置の2次元偏向器の駆動波形を示す説明図である。
【図10】従来技術の画像投射装置の構成を示す説明図である。
【図11】従来技術の画像投射装置の構成要素の光学的な配置関係を示す説明図である。
【図12】従来技術の画像投射装置の2次元偏向器の駆動波形を示す説明図である。
【図13】従来技術の画像投射装置による形状歪み補正の説明図である。
【図14】従来技術の画像投射装置による形状歪み補正の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明による画像投射装置の実施形態を詳細に説明する。なお、上述した従来技術の画像投射装置と同じ構成要素には、同番号の符号を用いる。
【0021】
[構成の説明:図1、図2]
図1は本実施形態の画像投射装置51の構成を示す説明図である。図1に示すように、この画像投射装置51は、可視波長領域の光束を出射する光源1aと、光束を水平方向と垂直方向へ2次元的に偏向させるための高速回動機構10aと低速回動機構11aを有する2次元偏向器2aと、偏向された光束の垂直方向の形状歪みを補正する補正光学系3aと、高速駆動信号生成部12aと低速駆動信号生成部13aと偏向器動作状態検出部14aとを有する偏向器制御部4aと、画像情報信号から描画信号を生成する画像処理部5a
と、描画信号に応じて光源1aからの出射光束を変調駆動する光源駆動部6aと、を備える。
【0022】
以上は、上述した従来技術の画像投射装置と同様であるが、本実施形態の画像投射装置51は、投射条件設定部15を備えるとともに、従来技術における振幅補正信号参照部に代えて、2次元偏向器2aの最適な偏向振幅を演算するための形状歪み補正演算部7を備える。
【0023】
図2は、画像投射装置51を構成する各部材と投射面との光学的な位置関係を示す説明図である。画像投射装置51における2次元偏向器2aは直交する2つの回動軸を中心とした高速回動機構10aと低速回動機構11aを有する。また、図2に示すように、これらの回動機構に基づいて回動するその主面には、光束を反射するための反射面20aが設けられている。
【0024】
2次元偏向器2aの回動軸は、低速側の回動軸が光学的に固定された軸であり、他方の高速の回動軸が低速の回動に従属して偏向される、という機構になっている。ここでは、高速回動機構10aによる反射光束の偏向角度をφ1と定義する。これにより、高速回動機構10aの実回動角度はφ1/2と表される。また、低速回動機構11aによる同偏向角度をφ2と定義する。これにより、低速回動機構11aの実回動角度はφ1/2と表される。
また、反射面20aの光軸中心点から投射面21a(XY面)原点への投射距離をDと定義する。
【0025】
投射面21aは、2次元偏向器2aの2軸の回動角度が何れもゼロである時の光束を法線とする面と平行に配置されている。光源1aは、その出射光束が低速の回動軸に対しては常に直角な角度になる位置に配置される。また、光源1aは、2軸の回動角度が何れもゼロである時の反射面20aの法線方向に対しては直角でない所定の傾斜角度(θと定義する)で入射するように配置されている。
【0026】
2軸の回動角度が何れもゼロである時の光束をZ軸、高速の回動に伴う走査方向をX軸(水平)、低速の回動に伴う走査方向をY軸(垂直)と定義する。補正光学系3aは、Z軸を中心軸とし、2次元偏向器2aによって偏向された光束全てに対して補正可能な位置に配置されている。
【0027】
以下に、本実施形態の画像投射装置51の各構成要素について詳細に説明する。
光源1aは、例えば半導体レーザや固体レーザ等の光学機能素子を用いる事により、可視波長領域の光束を生成し出射する機能を有している。更に、後述する光源駆動部6aからの光源駆動信号に従って、出射光束を強度的又はパルス的に高速変調する機能を有している。
【0028】
2次元偏向器2aは、光源1aから出射された光束を反射し、投射面21aへ2次元的に走査投射する。先述したように、この2次元偏向器2aは、互いに略垂直を為す2軸の回動機構(高速回動機構10aと低速回動機構11a)及び小型の反射面20aより構成されている。このような小型の反射面20aと回動機構は、半導体工程を用いてシリコン結晶基板より製造される事が多い為、一般に「MEMSスキャナ」と呼ばれている。更に、2次元偏向器2aは、光源1aからの出射光束を所定の入射角度θで反射面20aへ受け、回転機構に基づいた周期的な走査動作により、入射された光束の光強度を維持したまま反射させる事で、投射レーザ光を所定の方向へ2次元的に偏向し走査投射する。
【0029】
一般に、このような2次元偏向器2aは、実用的な投射条件内の回動状態においては、
回動される両軸の角度が、後述する偏向器制御部4aからの駆動信号の振幅に比例する。また、回動される両軸の角度の駆動信号に対する遅延も殆ど無い(位相ズレを起こさない)という特性を有する。このため、偏向される光束の偏向角度は、駆動信号の波形とほぼ同様の動作をしているものとみなすことができる。
【0030】
補正光学系3aは、従来例の画像投射装置52に関する説明で述べたように、例えば、任意の自由曲面反射鏡を組み合わせた光学的な構成により、2次元偏向器2aで偏向された光束の方向を微修正する事で、形状歪みにおける垂直方向の歪みを補正する事が可能である。
【0031】
次に、信号処理系8aの構成について説明する。信号処理系8aは以下で詳説する、偏向器制御部4a、画像処理部5a、光源駆動部6a、形状歪み補正演算部7、投射条件設定部15を備え、電気回路またはソフトウェアにより構成される。
【0032】
偏向器制御部4aは、2次元偏向器2aにおける高速回動機構10aを駆動するための高速駆動信号生成部12aと、低速回動機構11aを駆動するための低速駆動信号生成部13aと、両回動機構からの帰還信号を受ける偏向器動作状態検出部14aと、から構成される。具体的には、高速駆動信号生成部12aと低速駆動信号生成部13aは、高速回動機構10aと低速回動機構11aの周期的な回動に対して、回動角度(偏向角度)の調整、回動周期の安定化、両回動機構の同期整合を行うなど、2次元偏向器2aを制御駆動するための全般的な処理機能を有している。
【0033】
また、偏向器動作状態検出部14aは、2次元偏向器2aからの帰還信号と、高速駆動信号および低速駆動信号に基づき、2次元偏向器2aにおける両回動機構の瞬時的な情報(偏向角度、位相、等)を偏向器状態信号として、任意のタイミングで外部の処理手段へ伝達する機能を有している。更に、高速駆動信号生成部12aは、後述する形状歪み補正演算部7からの振幅補正信号を受けて、高速駆動信号の振幅を増減演算する処理機能を有している。
【0034】
投射条件設定部15は、画像の投射画角などの投射条件がユーザにより設定される機能を有する。投射条件設定部15は、設定された投射条件を投射条件信号として偏向器制御部4aへ伝達するとともに、低速回動機構11aの偏向角度の最大値φ2maxの情報を最大偏向角度信号として形状歪み補正演算部7に伝達する。
【0035】
画像処理部5aは、外部装置から入力される画像情報信号と偏向器動作状態検出部14aからの偏向器状態信号に基づいて、投射面21aへ画像を描画するための適切な描画信号(変調信号)を生成する。光源駆動部6aは、この描画信号に基づいて光源1aを駆動し、光束出射を強度的またはパルス的に高速変調させる機能を有する。
【0036】
形状歪み補正演算部7は、投射条件設定部15からの最大偏向角度信号と、偏向器動作状態検出部14aからの偏向器状態信号に基づいて、2次元偏向器2aで偏向された光束が投射面21aへ走査投射される投射領域の形状歪みを推定する。また、形状歪み補正演算部7は、その水平走査方向の形状歪みを適切に補正するための振幅補正信号を、演算手段により生成し、偏向器制御部4aの高速駆動信号生成部12aへ伝達する。その具体的な作用手順と演算処理については、後ほど詳説する。
【0037】
[動作の説明:図2〜図9]
続いて、この画像投射装置51の動作と形状歪み補正に関する機能及び作用について説明する。図3は、この画像投射装置51における偏向器制御部4aが、2次元偏向器2aの2つの回動機構を駆動する際の駆動波形の時間的な変化を示す説明図である。
【0038】
この画像投射装置51の一般的な投射動作と原理は、先述した従来例における画像投射装置52と同様である。すなわち、装置が起動されると、まず、図3(a)、(b)の駆動波形で示すように、低速回動機構11aが遅い周期で略線形の往復運動を行い、その間に、高速回動機構10aが早い周期で略正弦波的な往復運動を行う。
そして、これら回動機構の往復動作と同期して、図3(a)における1画面描画期間の間に、画像処理部5aからの描画信号に基づいた所定の光源駆動信号が光源1aへ送られ、光源1aから強度またはパルス変調された光束が出射されて、2次元偏向器2aで偏向される事で、図2に示すように、投射面21aへ画像が表示される。
【0039】
ここでまず、形状歪み補正を動作させない状態で、画像投射装置51を駆動した時の投射形状について説明する。すなわち、図2における補正光学系3aが無く、図3における高速回動機構10aが、形状歪み補正演算部7による振幅補正信号を受けずに、1点鎖線で示す定常振幅線通りの駆動波形により駆動されている場合を想定する。
この場合、画像投射装置51が投射面21a上へ走査投射する光束の投射座標点は、図2の投射光学系で示す配置関係と変数定義に基づいて、式(1)および式(2)のように幾何光学的に定式化する事ができる。式(1)は水平方向における座標点のX成分を示し、式(2)は垂直方向における座標点のY成分を示している。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
図4は、形状歪み補正を動作させない状態で、画像投射装置51を駆動した時の投射領域の計算値を示す説明図である。
ここで、画像投射装置51の実用的な投射光学系として、反射面20aへの光束の入射角度θを45°と仮定する。また、実用的な投射条件として、高速回動機構10aの回動角度φ1の最大値φ1maxを13°、低速回動機構11aの回動角度φ2の最大値φ2maxを7°と仮定する。投射距離Dは任意の長さとする。
【0043】
この時、投射面21a上へ走査投射される光束の投射領域25aは、図4で示すように
、垂直Y軸方向には弓なり形状の歪み、水平X軸方向には台形形状の歪み、という両軸に歪みを含んだ形状となる。光束の投射領域25aは、そのまま投射画像の形状に対応するため、このような形状歪み補正が無い状態での投射状態では、投射したい画像が歪んだまま表示されてしまう事となる。
なお、投射面21a上への投射領域25aの形状は、X軸方向とY軸方向の比のみに依存し、投射距離Dには依存しないため、Dを任意の長さとしても以下の説明では支障は無い。
【0044】
続いて、図4に示す形状歪みに対するこの画像投射装置51の形状歪み補正機能について説明する。図5は、画像投射装置51で実現される形状歪み補正の様子を模式的に示す説明図である。
上述した2軸の形状歪みの内、Y軸方向の弓なり形状の歪みに対しては、本発明における画像投射装置51も、従来例における画像投射装置51と同様、任意の自由曲面反射鏡を組み合わせた補正光学系3aを用いることにより補正を行う。すなわち、図2で示すように、2次元偏向器2aの直後の位置に、適切な自由曲面反射鏡を組み合わせた補正光学系3aを配置し、偏向光束の垂直方向の偏向角度を微調整する事により、投射面21a上で投射されるY軸方向の光束の走査線形状を弓なり形状から直線形状へと補正する。このようにして、図4で見られた垂直Y軸方向の弓なり形状の歪みは、図5(a)で示すような投射領域25bの形状へと補正する事ができる。
【0045】
図4に示す、回動角度が最大値を示す時(または描画範囲における回動角度が最大値を示す時)の投射点Pa1と投射点Pa2は、この補正光学系3aによる補正後、図5(a)で示すように投射点Pb1と投射点Pb2の位置へ移動する。
ここで便宜的に、図4におけるY座標軸上の投射点と原点からの距離をL0とすると、補正光学系3aによる補正後、投射点Pb1と投射点Pb2のY軸方向の原点からの距離もL0となる。
【0046】
次に、水平方向(X軸方向)の形状の歪み補正方法について説明する。
水平X軸方向の形状歪みに対しては、本発明における画像投射装置51も、振幅補正信号に基づいて高速回動機構10aの駆動波形の振幅を増減させる方法で補正する、という点においては従来例と同様である。
【0047】
つまり、図3(b)における補正包絡線で示すように、低速回動機構11aの周期と同期した1画面描画期間の中で、高速回動機構10aの駆動波形の振幅を適切に増減させて、水平X軸方向の光束の偏向角度を調整する。これにより、図5(a)から図5(b)に示すように、投射面21a上へ走査投射されるX軸方向の光束の走査振幅を均一化させて、投射領域25bのX軸方向の形状歪みを無くす、という補正方法をこの画像投射装置51は採用している。
以下では、これらの具体的な演算手法、信号生成、補正処理の手順について説明する。
【0048】
形状歪み補正を行わない場合、図4で示すように、式(1)および式(2)に基づいて計算された画像投射装置51の投射領域25aは、台形形状の歪みを有する。ここで、投射点Pa1と投射点Pa2を結ぶ線分は、厳密には直線形状ではなく複雑な曲線形状を描く。しかし、2次元偏向器2aの反射面20aへの光束の入射角度θが、実用的な投射光学系として直角からある程度離れた値の範囲内である限りにおいては、図4の2点鎖線Mで示すように、近似的に直線形状とみなす事ができる。この時、投射点Pa1のX成分(Y軸からの距離)をL1と定義し、投射点Pa2のX成分(Y軸からの距離)をL2と定義する。
【0049】
補正光学系3aは、前述したように、Y軸方向の形状歪みを独立して補正するため、図
5(a)に示す補正後の投射点Pb1のX成分は、図4に示す補正前の投射点Pa1のX成分L1に等しい。同様に、図5(a)に示す補正後の投射点Pb2のX成分は、図4に示す補正前の投射点Pa2のX成分L2に等しい。また、補正後の投射点Pb1と投射点Pb2を結ぶ線分は、補正前の投射点Pa1と投射点Pa2を結ぶ線分と同様に、近似的に直線形状とみなす事ができる。
【0050】
以上述べたような直線形状の条件により、X軸方向の形状歪みに対して実施される補正演算では、図5(a)に示すように、投射点Pb1から投射点Pb2へ至る水平X軸方向の走査振幅を線形的に調整して、X成分L1、L2との差分ΔLを相殺し、L2に均一化すればよい事がわかる。
従って、調整されるべき高速回動機構10aの駆動波形の振幅は、図3の補正包絡線で示すように、Y軸方向の時間的な上下走査動作に対して、単純に線形的な漸減関数であって良い事が容易に理解される。
【0051】
具体的には、図3(b)に示すように、高速回動機構10aの駆動波形における投射点Pa1の位置での振幅値を、定常振幅A0から所定の振幅差分比率αだけ増加させ、以降、高速回動機構10aによる水平X軸方向の回動周期に合わせて、所定の振幅減衰比率βで減衰させていけば良い。振幅差分比率αは、以下の式(3)で表される。
α=(L2−L1)/L1・・・(3)
こうする事で、線形的な駆動波形の振幅調整により、X軸方向の光束の走査振幅が投射点Pb2における振幅に均一化され、図5(b)の投射領域25cで示すように、所望の形状歪み補正が実現される事となる。
【0052】
通常、このような振幅差分比率αや上述の補正包絡線関数を求める場合には、式(1)および式(2)で示した理論式から演算手段によって導出するか、若しくは、図10に示す従来技術の画像投射装置52のように、振幅補正信号参照部31へ予め所定の補正包絡線関数を記憶させておき、逐次その振幅補正信号を参照しながら偏向器制御部4aで乗算処理を行う、という手段が取られる。
【0053】
しかしながら、前者の手段では、複雑な算出式による演算負荷が過大になる事から実効的な形状補正ができず、後者の手段では、先述したように、ある所定の投射条件(両軸の回動機構による偏向角度)のみに対応した振幅補正信号しか使用できないため、限られた投射条件下でしか用いる事ができない、という問題がある。
【0054】
このような問題に対する解決策として、本実施形態の画像投射装置51では、偏向器制御部4aからの偏向器状態信号に基づき、形状歪み補正演算部7の内部で適切な歪み補正率を自動的に推定演算し、補正に必要な振幅補正信号を生成するとともに、この振幅補正信号に基づいて偏向器制御部4aの内部での演算処理によって高速回動機構10aの駆動波形の振幅調整を実施する、という点が従来例と異なった特徴的機能である。
【0055】
本実施形態の画像投射装置51が備える形状歪みの補正演算処理および偏向制御処理について以下に詳細に説明する。図6は、画像投射装置51の形状歪みの補正演算処理および偏向制御処理を示すフローチャートである。
まず画像投射装置51の駆動後、ユーザにより、画像の投射画角などの投射条件が投射条件設定部15に設定される。投射条件の設定後、投射条件設定部15から投射条件信号が偏向器制御部4aに送信される。偏向器制御部4aは、この投射条件信号に基づいて、2次元偏向器2aの駆動状態を設定する。
【0056】
また、形状歪み補正演算部7は、投射条件設定部15から、設定された投射条件に基づく低速回動機構11aの偏向角度の最大値φ2maxを受信する〔処理1〕。その後、形状歪
み補正演算部は、以下の式(4)により、振幅差分比率αを求める〔処理2〕。
α=C×φ2max・・・(4)
定数Cは、画像投射装置51の投射光学系に応じて定まり、予め形状歪み補正演算部7に記憶される。
【0057】
ここで、定数Cの導出方法について説明する。図7は定数Cの導出の説明図であり、式(1)および式(3)を用い、低速回動機構11aの偏向角度の最大値φ2maxを0°から7.5°(0.13rad)まで変化させた時の理想的な振幅差分比率αiを三角点でプロットして示している。
【0058】
この理想的な振幅差分比率αiの値は、入射角度θ(ここでは45°)が固定されている場合、φ1maxの値には殆ど依存せず、φ2maxの値にのみ依存する。この三角点のプロット線は、φ2maxが実用的な範囲内である場合、近似的に線形関数としてみなす事ができる。そこで、線形関数の最小2乗法計算(図7中の実線)により、関数プロット線の傾き係数Cを算出し、C=1.0537と求める事ができる。
なお、投射条件A.Bについては後述する。
【0059】
図6の説明に戻る。形状歪み補正演算部7は、振幅差分比率αを求めた後、以下の式(5)に示すように、1画面描画期間に高速回動機構10aが光束を偏向する走査数n(垂直方向の解像度)で振幅差分比率αを除算し、振幅減衰比率βを算出する〔処理3〕。
β=α/n・・・(5)
その後、形状歪み補正演算部7は、振幅差分比率αと振幅減衰比率βを振幅補正信号として偏向器制御部4aの高速駆動信号生成部12aへ送る。ここまでが、形状歪み補正演算部7の処理である。
【0060】
振幅差分比率αと振幅減衰比率βが入力された偏向器制御部4aは、所定のφ2max、定常最大値φ1max、走査数n等の数値的条件によって、描画に対応した2次元偏向器2aの回動を開始する〔処理4〕。回動の開始後、図3で示す投射点Pb1(走査回数i=0)の位置において、高速回動機構10aの駆動波形の定常振幅A0に対して、上記処理2で算出した振幅差分比率αの分だけ増大させる〔処理5〕。
【0061】
以後、高速回動機構10aの回動による光束の水平X軸方向への偏向走査が行われる度に、駆動振幅から振幅減衰比率βの分だけ減衰処理〔処理6〕を行うとともに、走査回数iの単純加算を行うことで、高速回動機構10aの駆動波形の振幅に対して、線形的な漸減処理が実施される。そして、走査回数iが所定の走査数n、すなわち投射点Pb2の位置に達し、駆動波形の振幅が定常振幅まで戻った段階で、1画面描画が終了する。以上、〔処理4〕〜〔処理6〕が偏向器制御部4aで行われる処理である。
【0062】
次に、上述した投射条件(画像の投射画角)として具体的な2つの画角を仮定し、本実施形態の画像投射装置51の形状歪み補正の精度について、数値的な比較検証を行う。
【0063】
反射面20aへの光束の入射角度をθ=45°とする。投射条件Aとして、φ1max=13°、φ2max=7°(0.122rad)を想定し、この条件Aに対し投射画角が半分以下になる投射条件Bとして、φ1max=5.8°、φ2max=3°(0.052rad)を想定する。
図8は、図5と同様に、画像投射装置51で実現される形状歪み補正の様子を模式的に示す説明図であり、図8(a)は補正前の投射領域を示し、図8(b)は補正後の投射領域を示す。また、投射領域25b、25cは投射条件Aの投射領域を示し、投射領域25d、25fは投射条件Bの投射領域を示す。
図9は、図3と同様に、画像投射装置51における偏向器制御部4aが、2次元偏向器2aの2つの回動機構を駆動する際の駆動波形の時間的な変化を示す説明図である。図9
(b)は投射条件Aの高速回動の偏向振幅を示し、図9(c)は投射条件Bの高速回動の偏向振幅を示す。
【0064】
図7より算出した係数を定数C=1.0537として、この2つの投射条件A、Bに対して、形状歪み補正演算部7における前掲の振幅差分比率計算〔処理2〕(図6)を実施すると、投射条件Aに対する振幅差分比率αA1=C×φ2max=0.129、投射条件Bに対する振幅差分比率αB1=C×φ2max =0.055、と求められる。
【0065】
ここで比較のため、式(1)および式(3)を用いて、投射条件A、Bの最適な振幅差分比率αを算出する。投射条件Aの場合、図8(a)の投射点Pb2と投射点Pb2のX成分は式(1)より、L1=1.239×L0、L2=1.400×L0と算出される。よって、式(3)より、αA2=0.130と求められる。同様に、投射条件Bの場合、式(1)よりL1’=1.333×L0’、L2’=1.404×L0’と算出され、式(3)より、αB2=0.054と求められる。
【0066】
よって、本実施形態の画像投射装置51の補正演算によって算出された、投射条件A、Bについての振幅差分比率αA1、αB1ともに、式(1)および式(3)を用いて算出したαA2、αB2に対して、2%以下の精度範囲で一致した結果が得られる事が分かる。この精度範囲は、投射領域25b、25dの水平方向の振幅差分に対する値であり、投射領域全体に対する比率としては、極めて微小である事が分かる。
すなわち、定式化した式(1)のような複雑な関数を用いずとも、図9に示すような線形近似で求めた係数Cとφ2maxとの積を求めることで、理想値に近い振幅差分比率αの値を求める事が可能となる。
【0067】
これらの振幅差分比率αA1、αB1を用いて、図9に示すように、図6の〔処理3〕〜〔処理7〕を実施する事で、それぞれの投射条件A、Bにおいて、極めて簡潔な比例演算処理機能に基づいて、高速回動機構10aの駆動波形の振幅に対する適切な振幅調整を行う事ができる。そして、最終的に、図8(b)に示すように、投射条件A、Bという表示画面の画角が倍以上異なる両条件においても、水平X軸方向の形状歪みに対する補正が正常に行われ、歪みが無い投射領域25c、25fを実現する事が可能となる。
【0068】
また、必要とされる振幅差分比率αの値は、高速回動機構10aの偏向角度の最大値φ1max(図7に示す、駆動波形における定常振幅A0に対応する)に殆ど影響しないため、振幅差分比率α算出にφ1maxを使用しない点も本発明による画像投射装置51の特徴である。
【0069】
なお、上記では、高速回動機構10aと低速回動機構11aの偏向角度の比は、補正後の投射領域25c、25fの縦横比が両条件において、相互に略等しくなるように設定した例を示した。しかし、高速回動機構10aと低速回動機構11aの偏向角度の比、すなわち、投射領域の縦横比が異なっていたとしても、低速回動機構11aの偏向角度の最大値φ2maxと投射光学系に応じて定まる定数Cの積で振幅差分比率αを求め、この振幅差分比率αを用いて形状歪み補正を行うことにより、本画像投射装置51は同様の効果を発揮する。
【0070】
以上に示すように、本実施形態の画像投射装置51は、従来例の画像投射装置52で問題となっていた、投射条件(画像の投射画角)の違いによって対応できない歪みが生じる、という事態(図13)を回避する事ができ、異なる投射条件において、歪みの無い正常な投射領域に光束を偏向走査し、表示画像を描出する事が可能となる。すなわち、投射条件(画像の投射画角)に応じて、その投射条件下で生じる形状歪みを自動的に推定し、比例係数演算という簡潔な補正演算手段によって、適切に形状歪み補正を実施する事が可能
となる。従って、表示画像の画角を任意に変化させるような、より幅広い用途で使用可能な画像投射装置を提供すること事が可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1a 光源
2a 2次元偏向器
3a 補正光学系
4a 偏向器制御部
5a 画像処理部
6a 光源駆動部
7 形状歪み補正演算部
8a 信号処理系
10a 高速回動機構
11a 低速回動機構
12a 高速駆動信号生成部
13a 低速駆動信号生成部
14a 偏向器動作状態検出部
15 投射条件設定部
20a 反射面
21b 投射面
25a〜25f 投射領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光束を出射する光源と、
互いに直交する第1および第2の軸を中心に回動し、前記光源から出射した光束を反射する反射面を有する偏向器と、
前記偏向器の反射面を前記第1の軸を中心に高速に回動するとともに前記第2の軸を中心に低速に回動させ、前記光束を2次元に偏向させる偏向器制御部と、
補正演算部と、を備え、
前記補正演算部は、前記第2の軸の最大回動角度に基づいて補正信号を生成し、
前記偏向器制御部は、前記補正信号に基づいて、1画面描画期間内で前記第1の軸の回動振幅を漸次変化させる
ことを特徴とする画像投射装置。
【請求項2】
前記偏向器の反射面の前記第2の軸を中心とした回動は、前記第1の軸を中心とした回動から独立であり、
前記第2の軸と前記光源の光束の出射方向とが略直角をなす
ことを特徴とする請求項1に記載の画像投射装置。
【請求項3】
前記第2の軸の最大回動角度をφ2maxとし、Cを定数としたとき、前記補正演算部は、α=C×φ2maxで算出した振幅差分比率αに基づいて前記補正信号を生成する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の画像投射装置。
【請求項1】
光束を出射する光源と、
互いに直交する第1および第2の軸を中心に回動し、前記光源から出射した光束を反射する反射面を有する偏向器と、
前記偏向器の反射面を前記第1の軸を中心に高速に回動するとともに前記第2の軸を中心に低速に回動させ、前記光束を2次元に偏向させる偏向器制御部と、
補正演算部と、を備え、
前記補正演算部は、前記第2の軸の最大回動角度に基づいて補正信号を生成し、
前記偏向器制御部は、前記補正信号に基づいて、1画面描画期間内で前記第1の軸の回動振幅を漸次変化させる
ことを特徴とする画像投射装置。
【請求項2】
前記偏向器の反射面の前記第2の軸を中心とした回動は、前記第1の軸を中心とした回動から独立であり、
前記第2の軸と前記光源の光束の出射方向とが略直角をなす
ことを特徴とする請求項1に記載の画像投射装置。
【請求項3】
前記第2の軸の最大回動角度をφ2maxとし、Cを定数としたとき、前記補正演算部は、α=C×φ2maxで算出した振幅差分比率αに基づいて前記補正信号を生成する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の画像投射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−250028(P2010−250028A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98515(P2009−98515)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】
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