説明

画像残留が低減された状態で電気泳動表示装置を駆動する方法および装置

画像残留を低減して電気泳動表示装置を駆動する方法および装置。画素の光学状態が変化するか否かに関わらず、各画像更新の間に、全ての画素について画像遷移が実行される。したがって、第1の画像更新期間と次の画像更新期間との間に実質的な光学状態変化のない画素が、次の画像更新期間の間に、強制的に更新される。駆動波形、特に、実質的な光学状態変化のない画素を更新するために印加される駆動波形は、各々の画像遷移の後に正味のDC電圧が実質的にゼロであるように構成されることが好ましい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動表示装置に関する。この電気泳動表示装置は、流体中に帯電粒子を有する電気泳動材料と、複数の画素と、各画素に関連する第1の電極および第2の電極と、を有しており、帯電粒子は、第1の電極と第2の電極との間の複数の位置のうちの1つの位置を占めることができ、複数の位置の各々は、電気泳動表示装置のそれぞれの光学状態に対応している。電気泳動表示装置は、第1の電極および第2の電極に複数の駆動信号のシーケンスを供給する駆動手段を有し、各駆動信号は、帯電粒子が、表示されるべき画像に対応する所定の光学状態を占めるようにする。
【背景技術】
【0002】
電気泳動ディスプレイは、流体中の帯電粒子からなる電気泳動媒体と、マトリックス状に配された複数の画素(ピクセル)と、各画素に関連する第1および第2の電極と、画像を表示するため、印加された電位差についての値と持続時間とに依存して、帯電粒子が電極と電極との間の位置を占めるように電位差を各画素の電極に印加する電圧ドライバと、を有する。
【0003】
更に詳細にいうと、電気泳動表示装置は、交差するデータ電極と選択電極との交差部に関連する画素のマトリックスを有するマトリックス・ディスプレイである。グレーレベル、即ち画素の着色レベルは、特定のレベルの駆動電圧が画素に存在する時間に依存する。駆動電圧の極性に依存して、画素の光学状態は、その現在の光学状態から2つの極限状態(即ち、極光学状態)のうちの一方の状態に向かって連続的に変化し、例えば、一方の型式の帯電粒子は、画素の上部又は底部に近づく。中間光学状態、例えば白黒ディスプレイにおけるグレースケールは、画素に電圧が存在する時間を制御することによって得られる。
【0004】
通常、全ての画素は、適切な電圧を選択電極に供給することによってラインごとに選択される。データは、データ電極を介して、選択されたラインに関連する画素に並列に供給される。ディスプレイがアクティブ・マトリックス・ディスプレイである場合、選択電極には、データが画素に順に供給されるようにするための例えばTFT、MIM、ダイオードなどが備えられる。マトリックス・ディスプレイの全ての画素を一回選択するのに必要な時間は、サブフレーム期間と呼ばれる。既知の装置において、特定の画素は、実現する必要がある光学状態の変化(即ち、画像遷移)に依存して、サブフレーム期間全体の間に、正の駆動電圧、負の駆動電圧、又はゼロの駆動電圧を受け取る。この場合、画像遷移を行う必要がなければ(即ち、光学状態の変化がない)、通常、ゼロの駆動電圧が画素に印加される。
【0005】
既知の電気泳動表示装置が、国際特許出願第WO99/53373号に記載されている。この特許出願は、2つの基板を有する電子インクディスプレイを開示しており、この2つの基板のうちの一方の基板は透明であり、他方の基板は行および列に配される電極が備えられている。行電極と列電極との間の交差部は画素に関係している。画素は薄膜トランジスタ(TFT)を介して列電極に結合され、その薄膜トランジスタのゲートは行電極に結合されている。画素、TFTトランジスタ、並びに行電極および列電極の構成は、協働して、アクティブマトリックスを形成する。更に、画素は画素電極を有している。行ドライバは画素の行を選択し、列ドライバは、列電極およびTFTトランジスタを介して、データ信号を選択された行の画素に供給する。
データ信号は表示されるべき画像に対応している。
【0006】
更に、画素電極と透明基板に備えられる共通電極との間に、電子インクが備えられている。電子インクは、約10ミクロンから50ミクロンの複数のマイクロカプセルを有する。各マイクロカプセルは、流体中に懸濁する、正に帯電した白の粒子と負に帯電した黒の粒子とを有する。各マイクロカプセルは、液体中に懸濁する、正に帯電した白の粒子と負に帯電した黒の粒子とを有する。正の電界が画素電極に印加されると、白の粒子は、マイクロカプセルの、透明基板が備えられた側へと移動し、観測者に白が見えるようになる。同時に、黒の粒子はマイクロカプセルの反対側に移動し、観測者から見えないようになる。同様に、負の電界を画素電極に印加することによって、黒の粒子は、マイクロカプセルの、透明基板が備えられた側に移動し、観測者に黒が見えるようになる。同時に、白の粒子はマイクロカプセルの反対側に移動し、観測者から見えないようになる。電界が取り除かれると、表示装置は粒子の移動により得られた光学状態をほぼ保ち、双安定性を示す。
【0007】
マイクロカプセルの上部のカウンタ電極に移動する粒子の量を制御することによって、表示装置にグレースケール(即ち、中間光学状態)を作り出すことができる。例えば、電界強度と印加時間との積として定義される正電界又は負電界のエネルギーによって、マイクロカプセルの上部に移動する粒子の量が制御される。
【0008】
図面のうちの図1は、電気泳動表示装置1の、例えば数個の画素サイズの部分の概略断面図である。この表示装置1は、ベース基板2と、電子インクを有する電気泳動フィルムと、を有しており、このフィルムは、上部透明電極6と、TFT11を介してベース基板2に結合される複数の画素電極5と、の間に存在している。電子インクは約10ミクロン〜50ミクロンの複数のマイクロカプセル7を有する。各マイクロカプセル7は、流体10中に縣濁した、正に帯電した白の粒子8と負に帯電した黒の粒子9とを有する。正の電界が画素電極5に印加されると、黒の粒子9は電極5に向けて引きつけられ、観測者から見えなくなり、一方、白の粒子8は反対側の電極6の近くに残ったままとなり、観測者に白が見えるようになる。逆に、負の電界が画素電極5に印加されると、白の粒子が電極5に向けて引きつけられ、観測者から見えなくなり、一方、黒の粒子は反対側の電極6の近くに残ったままとなり、観測者に黒が見えるようになる。理論的には、電界が取り除かれると、粒子8、9は移動により得た状態をほぼ保ち、ディスプレイは双安定性を示し、実質的に電力を消費しない。
【0009】
電気泳動ディスプレイの応答速度を増加させるためには、電気泳動粒子に印加する電圧差を増加させることが望ましい。(上記の)カプセル又はマイクロカップを有するフィルムの電気泳動粒子に基づくディスプレイでは、それを構成するために、接着層およびバインダ層などの追加の層が必要とされる。これらの層も電極と電極との間に配されるので、これらの層は電圧降下を引き起こし、それ故に、粒子に印加される電圧を低下させ得る。そこで、装置の応答速度が増加するようにこれらの層の導電率を増加させることが可能である。
【0010】
したがって、斯かる接着層およびバインダ層の導電率は、これらの層での電圧降下ができるだけ低くなり装置のスイッチング速度又は応答速度が最大になるように、理想的にはできるだけ大きくすべきである。しかし、アクティブマトリックス電気泳動ディスプレイではエッジ画像残留/ゴースティングがしばしば観察され、これは、接着層の導電率が増加するに従ってもっと深刻になる。
【0011】
エッジ・ゴースティングの一例が、図面のうちの図2aに概略的に示されており、この図において、ディスプレイは、先ず白の背景に単純な黒のブロックが更新され、次いで完全な白の状態に更新される。図示されるように、黒領域から白領域への遷移が以前あった位置に、元の黒のブロックのエッジに対応する暗い輪郭が表れる。図2bに示すように、これら輪郭に又はこれら輪郭の周囲に、はっきりとした輝度降下が見られる。これは、横方向のクロストークによって、これら領域が画像更新期間の間に十分にエネルギーを受け取ることができなかったためである。
【0012】
クロストークという用語は、表示コントラストが著しく低下するように、選択された画素だけでなくその周囲の他の画素にも駆動信号が印加される現象を表す。これが発生し得る様子が図1に示されている。例えば、画素電極5aと5b、および対応するマイクロカプセル7aと7bなど、隣接するマイクロカプセルに反対の光学状態が生じることが意図される場合に、反対極性の電圧が隣接する画素5に印加されることを考える。電極5aでは、白の帯電粒子8を電極5aに向けて引き寄せるとともに黒の帯電粒子9を反対の電極6に向けて移動させるために、負の電界が印加されており、黒の帯電粒子9を電極5bに向けて引き寄せるとともに白の帯電粒子8を反対の電極6に向けて移動させるために、電極5bに正の電界が印加されている。しかし、電極5aと5bとの間の間隔12が(必要にせまられて)比較的小さいので(この間隔が小さくなければ、生じる画像の分解能は悪い影響を受ける)、電極5aおよび5bに印加される電界が、隣接するマイクロカプセル7bおよび7aの中の帯電粒子に影響を与え得る。したがって、図示されているように、電極5aに負の電界が印加されても、この負の電界の一部は電極5bに印加される正の電界によってキャンセルされ、マイクロカプセル7aの、隣接する画素電極5bに最も近い側に近接する数個の黒の帯電粒子9に、その粒子が電極6に向けて押されるのに十分なエネルギーを供給できない、数個の白の帯電粒子に、電極5aに向けて引き寄せられるのに十分なエネルギーを供給できないという影響がある。
【0013】
図2aに示すエッジ画像残留に達するときの横のクロストークの悪影響は、特に著しく、画素が黒に切り替わるとともに隣接する画素が白になることが要求されるときに、もっと悪くなる。これは、通常の領域の画像残留(即ち、全体のブロックが僅かに明るい又は暗い)よりも目に見えるので、特に視覚的に邪魔であり、これは、電気泳動ディスプレイの双安定性により画素が更新されず、一応は白の領域がその名目的な白の状態を維持する必要がある場合、特に受け入れ難い。
【0014】
通常の又はバルクの画像残留として、別の種類の画像残留が既知であり、これは、不十分なグレースケール駆動の結果として生じ、温度、画像履歴、およびドウェル時間などの種々のパラメータに関係する。
【0015】
双安定性であるので、光学状態変化のない画素は(例えば、省電力化のため)通常更新されない。しかし、画像安定性については常に関係があり、実際に、電力が供給されない状態での画像保持時間が増加するにつれて、輝度は初期値からずれ、これはバルク画像残留および/又はエッジ画像残留を引き起こすだろう。実際に、インク材料は決して完全には安定せず、輝度は画像更新の直後に得られる所望の光学状態から或る程度ずれることがわかった。例えば、前の画像更新から得られる白の状態が、白の光学状態のままであることが要求されることから現在の画像更新においては更新されないことを考えると、その白の状態は、例えばダークグレー状態から新たに得られた白の状態よりも輝度が幾分低い。この違いが人間の目の可視レベルを越えると、バルク画像残留として見える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、画像残留が低減された電気泳動ディスプレイを駆動する方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、以下のような電気泳動表示装置が提供される。この電気泳動表示装置は、流体中に帯電粒子を有する電気泳動材料と、複数の画素と、上記各画素に関連する第1の電極および第2の電極と、上記第1の電極および上記第2の電極に駆動波形を供給する駆動手段と、を有し、上記帯電粒子は、上記第1の電極と上記第2の電極との間の複数の位置のうちの1つの位置を占めることができ、上記複数の位置の各々は、上記電気泳動表示装置のそれぞれの光学状態に対応しており、上記駆動波形は、対応する画像更新期間の間に印加される複数の駆動信号のシーケンスであって、上記複数の駆動信号の各々が、表示されるべき画像情報に対応する所定の光学状態を上記帯電粒子が占めるようにすることによって、画像遷移を生じさせる複数の駆動信号のシーケンス、を有し、駆動信号は、上記各画像更新期間の間に、直前の画像更新期間の間に生じる光学状態からの実質的な光学状態変化が要求されない画素に印加され、上記駆動信号は、上記帯電粒子を上記直前の画像更新期間の間に生じる上記光学状態に向けて移動させるための極性および持続時間を有する信号である。
【0018】
本発明は、流体中に帯電粒子を有する電気泳動材料と、複数の画素と、上記各画素に関連する第1の電極および第2の電極と、を有する電気泳動表示装置を駆動する方法にも適用される。この方法において、上記帯電粒子は、上記第1の電極と上記第2の電極との間の複数の位置のうちの1つの位置を占めることができ、上記複数の位置の各々は、上記電気泳動表示装置のそれぞれの光学状態に対応しており、上記方法は、上記第1の電極および上記第2の電極に駆動波形を供給するステップを有し、上記駆動波形は、対応する画像更新期間の間に印加される複数の駆動信号のシーケンスであって、上記各駆動信号が、表示されるべき画像情報に対応する所定の光学状態を上記帯電粒子が占めるようにすることによって、画像遷移を生じさせる複数の駆動信号のシーケンス、を有し、駆動信号は、各画像更新期間の間に、直前の画像更新期間の間に生じる光学状態からの実質的な光学状態変化が要求されない画素に印加され、上記駆動信号は、上記帯電粒子を上記直前の画像更新期間の間に生じる上記光学状態に向けて移動させるための極性および持続時間の信号である。
【0019】
本発明は、流体中に帯電粒子を有する電気泳動材料と、複数の画素と、上記各画素に関連する第1の電極および第2の電極と、を有する電気泳動表示装置を駆動する装置に更に適用される。この駆動する装置において、上記帯電粒子は、上記第1の電極と上記第2の電極との間の複数の位置のうちの1つの位置を占めることができ、上記複数の位置の各々は、上記電気泳動表示装置のそれぞれの光学状態に対応しており、上記駆動する装置は、上記第1および上記第2の電極に駆動波形を供給する駆動手段を有し、上記駆動波形は、対応する画像更新期間の間に印加される複数の駆動信号のシーケンスであって、上記各駆動信号が、表示されるべき画像情報に対応する所定の光学状態を上記帯電粒子が占めるようにすることによって、画像遷移を生じさせる複数の駆動信号のシーケンス、を有し、駆動信号は、各画像更新期間の間に、直前の画像更新期間の間に生じる光学状態からの実質的な光学状態変化が要求されない画素に印加され、上記駆動信号は、上記帯電粒子を上記直前の画像更新期間の間に生じる上記光学状態に向けて移動させるための極性および持続時間を有する信号である。
【0020】
本発明は、流体中に帯電粒子を有する電気泳動材料と、複数の画素と、上記各画素に関連する第1の電極および第2の電極と、を有する電気泳動表示装置を駆動する駆動波形にも更に適用される。この駆動波形において、上記帯電粒子は、上記第1の電極と上記第2の電極との間の複数の位置のうちの1つの位置を占めることができ、上記複数の位置の各々は、上記電気泳動表示装置のそれぞれの光学状態に対応しており、上記装置は、上記第1および第2の電極に上記駆動波形を供給する駆動手段を有し、上記駆動波形は、対応する画像更新期間の間に印加される複数の駆動信号のシーケンスであって、上記各駆動信号が、表示されるべき画像情報に対応する所定の光学状態を上記帯電粒子が占めるようにすることによって画像遷移を生じさせる、複数の駆動信号のシーケンス、を有し、駆動信号は、各画像更新期間の間に、直前の画像更新期間の間に生じる光学状態からの実質的な光学状態変化が要求されない画素に印加され、上記駆動信号は、上記帯電粒子を上記直前の画像更新期間の間に生じる上記光学状態に向けて移動させるための極性および持続時間を有する信号である。
【0021】
本発明により、ブロックエッジ残留およびゴースティングが低減する又は除去されるなどの、従来の装置よりもかなり有利な点が提供される。
【0022】
駆動波形は、駆動信号の前に、リセットパルスを含んでいてもよい。リセットパルスは、粒子を、現在の位置から、2つの電極に近い2つの極位置のうちの一方の極位置に運ぶことができる電圧パルスと定義される。リセットパルスは、「標準」リセットパルスと「オーバリセット」パルスとから構成できる。「標準」リセットパルスは、粒子が移動する必要のある距離に比例した持続期間を有する。「オーバリセット」パルスの持続時間は、グレースケールの精度を保証しDCバランスの条件を満たすように、それぞれの画像遷移に従って選択される。
【0023】
駆動波形に、一つ以上の振動パルスを備えることができる。1つの実施例では、一つ以上の振動パルスを、駆動信号の前に備えてもよい。駆動波形に、追加の1つ以上の振動パルスを備えてもよい。好ましい実施例では、駆動波形において、電圧パルスの前に、および/又は電圧パルスと駆動信号との間に、偶数個の振動パルス(例えば4個)が備えられる。振動パルスの長さは、画素の光学状態を一方の極光学状態から他方の極光学状態に駆動するのに必要な駆動信号の最小期間よりも短いオーダーであることが有利である。
【0024】
振動パルスは、エネルギー値を表す単一極性電圧として規定されており、このエネルギー値は、複数の光学状態位置のうちの任意の1つの光学状態に存在する粒子を解放するには十分であるが、粒子を、現在の位置から、2つの極位置のうちの一方の電極に近い極位置に移動させるには不十分なエネルギー値である。換言すれば、振動パルスのエネルギー値は、画素の光学状態を大きく変化させるには不十分な大きさであることが好ましい。
【0025】
表示装置は2つの基板を有し、2つの基板のうちの少なくとも1つは実質的に透明であり、帯電粒子が2つの基板の間に配されていてもよい。帯電粒子および流体は、カプセル化されていることが好ましく、それぞれの画素を規定する個別のマイクロカプセルの形態であることが更に好ましい。
【0026】
表示装置は、少なくとも2つの光学状態、もっと好ましくは少なくとも3つの光学状態を有することができる。駆動波形はパルス幅変調又は電圧変調することができ、好ましくはdcバランスが取られている。
【0027】
本発明のこれら及び他の態様は明細書に記載の実施例から明らかであり、これら実施例を基準に説明される。
【0028】
本発明の実施例は、単なる例として、添付図面を基準にして記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、画像残留が低減された電気泳動表示装置を駆動する方法および機器を提供する。画素の光学状態が変化することが要求されているか否かに関わらず、全ての画素の画像遷移が各画像更新の間に実行される。したがって、初めの画像更新期間と次の画像更新期間との間に実質的な光学状態変化のない画素は、当該次の画像更新期間の間に強制的に更新される。駆動波形、特に、実質的な光学状態変化のない画素を更新するために印加されるべき駆動波形は、正味のDC電圧が、各々の画像遷移の後は実質的にゼロであるように構成されることが好ましい。これによって、画質が保証され、例えば横のクロストーク、画像の不安定性、ドウェル時間、画像履歴などによって生じる画像残留が低減される。
【0030】
図面のうちの図3を参照すると、本発明の第1の好適な実施例に関する代表的な駆動波形が示されている。もっと具体的には、白から白、ライトグレーからライトグレー、ダークグレーからダークグレー、および黒から黒への画像遷移用の代表的な駆動波形が示されている。
【0031】
この好適な実施例では、各画像遷移に対して、種々の光学状態の所望の輝度を回復するために単純な輝度回復パルスが印加されている。電圧パルスの極性は、輝度が補正される必要がある相対的な方向と、使用されている特定の駆動方式と、に依存する。例えば、駆動波形において、駆動パルスの前に負のリセットパルスが印加される駆動方式では、ライトグレーからライトグレーへの遷移用の輝度回復パルスは正でなければならないが、斯かるリセットパルスのない場合には負であろう。パルス持続時間は、各遷移について所望の輝度が確実に完全に回復するように選択される。
しかし、単純な「トップ−アップ」、即ち適切な極性の単一電圧パルス、を用いて、画素が例えば白から白に更新される場合、単一極性電圧パルスを用いた複数回の更新によって帯電粒子が互いにおよび/又は電極に付着し、次の所望の画像遷移を生じさせるときにこれら粒子を離すことが困難になるので、上記の画像残像問題は悪化し、次の遷移の間のグレースケール精度がかなり低下しそうであるという点で、次の画像更新の間に斯かる”ゴースティング”が単に集積することも容認できない。
【0032】
そこで、図面のうちの図4を参照すると、本発明の第2の好適な実施例に関する代表的な駆動波形が示されている。もっと具体的には、前と同じように、白から白、ライトグレーからライトグレー、ダークグレーからダークグレー、および黒から黒への画像遷移用の代表的な駆動波形が示されている。
【0033】
この好適な実施例では、各画像遷移用の駆動波形は、第1の好適な実施例に関する駆動波形から得られるが、この場合、各駆動波形には、駆動パルス(又は「データ信号」)の前に一連のプリセットパルス又は一連の振動パルスが印加されている。1個の振動パルスは、エネルギー値を表す単一極性電圧パルスとして規定され、このエネルギー値は、複数の光学状態位置のうちの任意の位置に存在する粒子を解放するのに十分なエネルギー値ではあるが、現在の位置から2つの電極の間の別の位置に粒子を移動させるには不十分なエネルギー値であることが分かるだろう。換言すれば、各振動パルスのエネルギー値は、画素の光学状態をはっきりと変化させるには不十分な値であることが好ましい。斯かる振動パルスの使用によって、ドウェル時間および画像履歴の影響を低減できるので、もっと正確なグレースケールが得られる。
【0034】
図面のうちの図5を参照すると、本発明の第3の好適な実施例に関する代表的な駆動波形が示されている。もっと具体的には、前と同じように、白から白、ライトグレーからライトグレー、ダークグレーからダークグレー、および黒から黒への画像遷移用の代表的な駆動波形が示されている。
【0035】
この場合、各々のグレースケール画像遷移(即ち、中間グレー光学状態と中間グレー光学状態との間、例えば、ライトグレーとライトグレーとの間、ダークグレーとダークグレーとの間)の正味のDC、即ち、各パルスにおける電圧と時間との積は、ゼロであり、各極遷移に対して(即ち、白から白、および黒から黒)、正味のDCは最小になる。これは、図示されているように、異なる電圧符号を有する複数の電圧パルスを印加することによって実現される。R1およびR2はリセットパルスであり、GDはグレースケール駆動パルスであり、EDは極駆動パルスである。したがって、DCの低減だけでなく、グレースケール精度もかなり改善される。必要に応じて、R1および/又はR2は追加のリセット持続時間を有することができる。
【0036】
図面のうちの図6を参照すると、本発明の第4の好適な実施例に関する代表的な駆動波形が示されている。もっと具体的には、前と同じように、白から白、ライトグレーからライトグレー、ダークグレーからダークグレー、および黒から黒への画像遷移用の代表的な駆動波形が示されている。
【0037】
この好適な実施例では、各画像遷移用の駆動波形は第3の好適な実施例に関する駆動波形から得られるが、この場合、各駆動波形には、駆動パルス(又は「データ信号」)の前に一連のプリセットパルス又は一連の振動パルスが印加されている。前と同じように、1個の振動パルスは、エネルギー値を表す単一極性電圧パルスとして規定されており、このエネルギー値は、複数の光学状態位置のうちの任意の位置に存在する粒子を解放するのに十分なエネルギー値ではあるが、現在の位置から2つの電極の間の別の位置に粒子を移動させるには不十分なエネルギー値であることが分かるだろう。換言すれば、各振動パルスのエネルギー値は、画素の光学状態をはっきりと変化させるには不十分な値であることが好ましい。上記の第2の好適な実施例のように、斯かる振動パルスの使用によって、ドウェル時間および画像履歴の影響を低減できるので、もっと正確なグレースケールが得られる。
【0038】
図面のうちの図7を参照すると、本発明の第5の好適な実施例に関する代表的な駆動波形が示されている。もっと具体的にいうと、前と同じように、白から白、ライトグレーからライトグレー、ダークグレーからダークグレー、および黒から黒への画像遷移用の代表的な駆動波形が示されている。
【0039】
この好適な実施例では、各々のグレースケール画像遷移(即ち、中間グレー光学状態と中間グレー光学状態との間、例えば、ライトグレーとライトグレーとの間、ダークグレーとダークグレーとの間)の正味のDC、即ち、各パルスにおける電圧と時間との積は、ゼロであり、各極遷移に対して(即ち、白から白、および黒から黒)、上記の第4の好適な実施例のように、正味のDCは最小になる。この場合、これは、異なる電圧符号を有する複数の電圧パルスを印加し、極光学状態への画像遷移用のEDパルスを散在させる(即ち、EDパルスを複数のパルスに分割し、これらのパルスを駆動波形に分散させる)ことによって達成される。各々の遷移においてDCが実質的にゼロであるだけでなく、グレースケール精度もかなり改善される。この好適な実施例において第2の振動パルスの組を印加することによって、粒子の移動度が増加し、各々の画像遷移におけるDCバランシングの順応性が増加する。
【0040】
一般に、上記の好適な全ての実施例に関して、画質を保証する目的で、光学状態変化のない全ての画素を強制的に更新することを強調しておく。画素が連続的に同じ遷移で更新されると、1種類の遷移のDCが集積するので、各々の遷移の正味のDCは最小にされること又は実質的にゼロであることが好ましい。実質的に異なる2つの光学状態の間の画像遷移の場合は異なっており、この場合は、前の画像遷移の間における正のDCを画素の次の遷移の間における負のDCによって自動的に補償できる。例えば、白−ダークグレー−白のループでは、各遷移において正味のDCがゼロでなくても、ループの正味のDCをゼロにすることができる。例えば、白からダークグレに対しては、DC=300ms×(+15V)=4500msV、例えば、ダークグレーから白に対しては、DC=300ms×(−15V)=−4500msVであり、ループ全体で正味のDCをゼロにする。しかし、光学状態を変える一つの遷移における正味のDC量は、光学状態を変えない各遷移におけるDC量ほど画質を劣化させないが、光学状態を変えない遷移に対して適用される、各々の遷移での正味のDCを実質的にゼロにする方法を、光学状態を変える遷移にも適用可能である。
【0041】
本発明は、パッシブ・マトリックス電気泳動ディスプレイおよびアクティブ・マトリックス電気泳動ディスプレイで実現できることに注意すべきである。駆動波形は、パルス幅変調、電圧変調をすることができ、又はこれら2つの変調の組合せとすることができる。実際、本発明は、画像更新の後において画像を実質的にディスプレイに残したままにしながら電力を消費しない双安定ディスプレイで実現できる。また、本発明は、例えばタイプライターモードが存在しているシングルウィンドウディスプレイとマルチウィンドウディスプレイとの両方に適用可能である。本発明は、カラー双安定ディスプレイにも適用可能である。また、電極構造は限定されない。例えば、トップ/ボトム電極構造、ハニカム構造、又はin-plane-switchingとvertical switchingとが組み合わされた他の構造を使用することができる。
【0042】
本発明の実施例は単なる例として上述されており、上記の実施例を、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく修正および変形できることは、当業者にとって明らかである。用語「有する」は、請求項に記載されている以外の要素又はステップの存在を排除するものではない。用語が単数であることは、複数の存在を排除するものではない。本発明は、数個の個別の素子を有するハードウェアによって、および適切にプログラミングされたコンピュータによって、実現することができる。幾つかの手段を列挙している装置の請求項において、これらの手段の一部は、1つの同じハードウェアで具体化できる。手段が、相互に異なる独立項に列挙されている単なる事実は、これらの手段の組合せを有利に使用できないことを示すものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】電気泳動表示装置の一部の概略断面図である。
【図2a】電気泳動表示パネルのブロック画像残留の概略図である。
【図2b】図2aにおいて矢印Aに沿う輝度プロファイルの図である。
【図3】本発明の第1の好適な実施例に関する代表的な駆動波形を示す図である。
【図4】本発明の第2の好適な実施例に関する代表的な駆動波形を示す図である。
【図5】本発明の第3の好適な実施例に関する代表的な駆動波形を示す図である。
【図6】本発明の第4の好適な実施例に関する代表的な駆動波形を示す図である。
【図7】本発明の第5の好適な実施例に関する代表的な駆動波形を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中に帯電粒子を有する電気泳動材料と、複数の画素と、前記各画素に関連する第1の電極および第2の電極と、前記第1の電極および前記第2の電極に駆動波形を供給する駆動手段と、を有する電気泳動表示装置であって、
前記帯電粒子は、前記第1の電極と前記第2の電極との間の複数の位置のうちの1つの位置を占めることができ、前記複数の位置の各々は、前記電気泳動表示装置のそれぞれの光学状態に対応しており、
前記駆動波形は、対応する画像更新期間の間に印加される複数の駆動信号のシーケンスであって、前記各駆動信号が、表示されるべき画像情報に対応する所定の光学状態を前記帯電粒子が占めるようにすることによって、画像遷移を生じさせる複数の駆動信号のシーケンス、を有し、
駆動信号は、前記各画像更新期間の間に、直前の画像更新期間の間に生じる光学状態からの実質的な光学状態変化が要求されない画素に印加され、前記駆動信号は、前記帯電粒子を前記直前の画像更新期間の間に生じる前記光学状態に向けて移動させるための極性および持続時間を有する信号である、電気泳動表示装置。
【請求項2】
前記駆動波形は、駆動信号の前に、リセットパルスを含む、請求項1に記載の電気泳動表示装置。
【請求項3】
前記リセットパルスは、駆動信号の前に、追加のリセット持続時間を有する、請求項2に記載の電気泳動表示装置。
【請求項4】
前記駆動波形に一つ以上の振動パルスが備えられる、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項5】
一つ以上の振動パルスが駆動信号の前に備えられる、請求項4に記載の電気泳動表示装置。
【請求項6】
前記駆動波形に、偶数個の振動パルスが備えられる、請求項4又は5に記載の電気泳動表示装置。
【請求項7】
前記振動パルスは、1個の振動パルスが印加される場合には、次のデータパルスとは反対の極性を有する、請求項4又は5に記載の電気泳動表示装置。
【請求項8】
前記電気泳動表示装置は2つの基板を有し、前記2つの基板のうちの少なくとも1つは実質的に透明であり、前記帯電粒子前記2つの基板の間に配されている、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項9】
前記帯電粒子および前記流体は、カプセル化されている、請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項10】
前記帯電粒子および前記流体は複数の個別のマイクロカプセルにカプセル化され、前記マイクロカプセルの各々は、対応する画素を規定する、請求項9に記載の電気泳動表示装置。
【請求項11】
前記電気泳動表示装置が少なくとも3つの光学状態を有する、請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項12】
前記駆動波形はパルス幅変調される、請求項1〜11のうちのいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項13】
前記駆動波形は電圧変調される、請求項1〜11のうちのいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項14】
少なくとも1つの個々の駆動波形は、実質的にDCバランスが取られる、請求項1〜13のうちのいずれか一項に記載の表示装置。
【請求項15】
画像遷移サイクルによって、画素が、前記画像遷移サイクルの終わりに、前記画像遷移サイクルの始まりと実質的に同じ光学状態を有するようにする複数の閉じたループの一部の閉じたループのうちの少なくとも幾つかの閉じたループは、実質的にDCバランスが取られる、請求項1〜14のうちのいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項16】
流体中に帯電粒子を有する電気泳動材料と、複数の画素と、前記各画素に関連する第1の電極および第2の電極と、を有する電気泳動表示装置を駆動する方法であって、
前記帯電粒子は、前記第1の電極と前記第2の電極との間の複数の位置のうちの1つの位置を占めることができ、前記複数の位置の各々は、前記電気泳動表示装置のそれぞれの光学状態に対応しており、
前記方法は、前記第1の電極および前記第2の電極に駆動波形を供給するステップを有し、
前記駆動波形は、対応する画像更新期間の間に印加される複数の駆動信号のシーケンスであって、前記各駆動信号が、表示されるべき画像情報に対応する所定の光学状態を前記帯電粒子が占めるようにすることによって、画像遷移を生じさせる複数の駆動信号のシーケンス、を有し、
駆動信号は、各画像更新期間の間に、直前の画像更新期間の間に生じる光学状態からの実質的な光学状態変化が要求されない画素に印加され、前記駆動信号は、前記帯電粒子を前記直前の画像更新期間の間に生じる前記光学状態に向けて移動させるための極性および持続時間を有する信号である、方法。
【請求項17】
流体中に帯電粒子を有する電気泳動材料と、複数の画素と、前記各画素に関連する第1の電極および第2の電極と、を有する電気泳動表示装置を駆動する装置であって、
前記帯電粒子は、前記第1の電極と前記第2の電極との間の複数の位置のうちの1つの位置を占めることができ、前記複数の位置の各々は、前記電気泳動表示装置のそれぞれの光学状態に対応しており、
前記駆動する装置は、前記第1および前記第2の電極に駆動波形を供給する駆動手段を有し、
前記駆動波形は、対応する画像更新期間の間に印加される複数の駆動信号のシーケンスであって、前記各駆動信号が、表示されるべき画像情報に対応する所定の光学状態を前記帯電粒子が占めるようにすることによって、画像遷移を生じさせる複数の駆動信号のシーケンス、を有し、
駆動信号は、各画像更新期間の間に、直前の画像更新期間の間に生じる光学状態からの実質的な光学状態変化が要求されない画素に印加され、前記駆動信号は、前記帯電粒子を前記直前の画像更新期間の間に生じる前記光学状態に向けて移動させるための極性および持続時間を有する信号である、装置。
【請求項18】
流体中に帯電粒子を有する電気泳動材料と、複数の画素と、前記各画素に関連する第1の電極および第2の電極と、を有する電気泳動表示装置を駆動する駆動波形であって、
前記帯電粒子は、前記第1の電極と前記第2の電極との間の複数の位置のうちの1つの位置を占めることができ、前記複数の位置の各々は、前記電気泳動表示装置のそれぞれの光学状態に対応しており、
前記装置は、前記第1および第2の電極に前記駆動波形を供給する駆動手段を有し、
前記駆動波形は、対応する画像更新期間の間に印加される複数の駆動信号のシーケンスであって、前記各駆動信号が、表示されるべき画像情報に対応する所定の光学状態を前記帯電粒子が占めるようにすることによって画像遷移を生じさせる、複数の駆動信号のシーケンス、を有し、
駆動信号は、各画像更新期間の間に、直前の画像更新期間の間に生じる光学状態からの実質的な光学状態変化が要求されない画素に印加され、前記駆動信号は、前記帯電粒子を前記直前の画像更新期間の間に生じる前記光学状態に向けて移動させるための極性および持続時間を有する信号である、駆動波形。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−512571(P2007−512571A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540738(P2006−540738)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【国際出願番号】PCT/IB2004/052473
【国際公開番号】WO2005/050611
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】