説明

画像記録方法、及びセット

【課題】 用いる記録媒体の種類に依らず、発色性(光学濃度)及び耐擦過性が高い画像が得られる画像記録方法を提供すること。
【解決手段】 アニオン性基によって分散又は溶解している色材を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるようにして前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、前記液体組成物が、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する水溶性樹脂を含有し、前記水溶性樹脂の酸価が200mgKOH/g以上であり、前記水溶性樹脂の前記ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上であることを特徴とする画像記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像記録方法、かかる画像記録方法に用いるセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像記録方法において、得られる画像の発色性(光学濃度)を向上する目的で、インクと液体組成物による2液反応システムが用いられている。中でも、液体組成物中の水溶性樹脂が、インクと接触することで、析出又は増粘する反応を利用した2液反応システムが知られている(特許文献1及び2)。この2液反応システムは、析出又は増粘した樹脂によって、インク中の色材を記録媒体表面に留めることで、得られる画像の発色性(光学濃度)を向上させている。一方、記録媒体においてインクと液体組成物が接触した際に、液体組成物中の反応剤がインク中の色材を凝集又は不溶化させる反応を利用した2液反応システムが知られている(特許文献3)。
【0003】
特許文献1は、水溶性高分子化合物及び反応剤として多価金属塩を含有する液体組成物と、顔料を含有するインクを用いた2液反応システムの発明である。そして、特許文献1には、記録媒体においてインクと液体組成物が接触すると、液体組成物中の水溶性高分子化合物が析出し、インク中の顔料をトラップすることで発色性が向上することが開示されている。特許文献2は、反応剤としてカルボキシル基やスルホン酸基を有する水溶性樹脂を含有する液体組成物と、染料及びアルカリ可溶樹脂を含有するインクを用いた2液反応システムの発明である。そして、特許文献2には、記録媒体においてインクと液体組成物が接触すると、液体組成物中の水溶性樹脂が増粘し、更に、インク中のアルカリ可溶樹脂が析出することで、染料を記録媒体表面に固定化でき、画像の光学濃度が向上することが開示されている。
【0004】
特許文献3は、反応剤として乳酸、酒石酸、リンゴ酸といったヒドロキシ酸(ヒドロキシル基を有するカルボン酸)を含有する液体組成物と、アニオン性基で分散された顔料を含有するインクを用いた2液反応システムの発明である。特許文献3には、酸解離型のアニオン性基間の静電反発力によって安定に分散している顔料が、ヒドロキシ酸を含有する液体組成物と混合されると、酸型のアニオン性基となり静電反発力を失うことで顔料の分散状態が崩れ、顔料が凝集することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−094888号公報
【特許文献2】特開平6−128514号公報
【特許文献3】特開2011−063016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来の2液反応システムでは、吸収性が高い記録媒体を用いた場合に、画像の発色性(光学濃度)が低くなってしまった。これは、以下の理由によると考えられる。即ち、吸収性が高い記録媒体に付与された液体組成物は、素早く記録媒体内部に浸透してしまう。このとき、特許文献1及び2では、液体組成物中の水溶性樹脂が、水性媒体と共に記録媒体内部に浸透するため、その後にインクを付与しても、記録媒体表面で水溶性樹脂の析出反応や増粘反応が起きにくく、インク中の色材を記録媒体表面に留めることができない。また、特許文献3では、液体組成物中のヒドロキシ酸は低分子化合物であるため、吸収性が高い記録媒体においては、水性媒体と共に記録媒体内部に浸透してしまう。反応剤であるヒドロキシ酸が記録媒体内部に浸透してしまうと、反応剤とインクが接触することによって起こる顔料の凝集反応が、記録媒体表面で十分に起きない。更に、本発明者らが検討したところ、従来の2液反応システムでは、吸収性が高い記録媒体を用いた場合に、画像の耐擦過性も低かった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、用いる記録媒体の種類に依らず、発色性(光学濃度)及び耐擦過性が高い画像が得られる2液反応システムの画像記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかる画像記録方法は、アニオン性基によって分散又は溶解している色材を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるようにして前記記録媒体に付与する工程を有し、前記液体組成物が、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する水溶性樹脂を含有し、前記水溶性樹脂の酸価が200mgKOH/g以上であり、前記水溶性樹脂の前記ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、用いる記録媒体の種類に依らず、発色性(光学濃度)及び耐擦過性が高い画像が得られる画像記録方法を提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記画像記録方法に用いるセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明の画像記録方法は、アニオン性基によって分散又は溶解している色材を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるようにして前記記録媒体に付与する工程を有し、前記液体組成物が、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する水溶性樹脂を含有し、前記水溶性樹脂の酸価が200mgKOH/g以上であり、前記水溶性樹脂の前記ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明者らは先ず、2液反応システムにおいて、用いる記録媒体の種類に依らず、発色性(光学濃度)が高い画像を得るための条件について検討を行った。その結果、以下の2つの条件を満たすと、記録媒体の吸収性やインクの付与の有無に影響を受けずに反応剤が記録媒体表面近傍に存在することができるため、インクとの2液反応が記録媒体表面近傍で起き発色性が高い画像を得ることができる、との結論に至った。発色性(光学濃度)が高い画像を得るための2つの条件とは、
(1)液体組成物中では安定的に存在する反応剤が、記録媒体に付与された際に、析出又は増粘反応をすることで記録媒体の表面近傍に残存すること(記録媒体に液体組成物が浸透するより早く析出又は増粘反応をすること)
(2)反応剤の析出又は増粘反応が、記録媒体の吸収性やインクの付与の有無に影響を受けないこと
である。
【0012】
以上の結論から、本発明者らが種々の化合物について検討を行った結果、反応剤としてカルボキシル基とヒドロキシル基を有する特定の樹脂を用いることで、上記2つの条件を達成することができることが分かった。以下にメカニズムを詳述する。
【0013】
カルボキシル基とヒドロキシル基を有する樹脂は、ヒドロキシル基において水素結合を形成することができる。このような樹脂は、液体組成物中では、周囲に大量に存在する水分子と優先的に水素結合を形成し水和するため、安定的に溶解することができる。しかし、液体組成物が記録媒体に付与されると、水和していた水分子が急速に蒸発するため、水素結合の相手を失ったヒドロキシル基は、他の樹脂分子のヒドロキシル基や同じ分子内のヒドロキシル基と水素結合を形成し始める。その結果、分子が網目状のネットワークを形成するため、樹脂は急速にゲル化し、析出又は増粘する(以下、「樹脂の増粘作用」とする)。その結果、ヒドロキシル基を有する樹脂は、記録媒体の内部に浸透せず、表面近傍に残存することができる。このメカニズムから明らかな通り、上記樹脂の増粘作用は、液体組成物中の水分が素早く蒸発することを契機として起きるため、記録媒体の吸収性やインクの付与の有無に影響を受けることがない。
【0014】
本発明者らが検討したところ、樹脂のヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上である場合にのみ、上記樹脂の増粘作用が発現することが分かった。本発明において、ヒドロキシル基に由来する水素結合力は、ヒドロキシル基同士の水素結合エネルギー[16.744kJ/mol<参考:化学便覧 基礎編 改訂5版(日本化学会編、丸善出版)>]に、樹脂1gあたりのヒドロキシル基のmol数を乗ずることで得られる値である。つまり、水素結合力が大きい程、ヒドロキシル基において水素結合をしやすい樹脂であることを意味する。樹脂のヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/gより小さい場合は、樹脂は増粘せずに記録媒体の内部に浸透してしまうため、反応剤は記録媒体表面近傍に残存しない。尚、本発明に用いる樹脂においては、カルボキシル基も水素結合を形成し得る。しかし、本発明者らが検討したところ、上記樹脂の増粘作用が発現するには、カルボキシル基に由来する水素結合力や樹脂全体での水素結合力は影響しないことが分かった。即ち、カルボキシル基に由来する水素結合力や樹脂全体での水素結合力が40J/g以上であっても、ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/gより小さい場合は、本発明の効果は得られなかった。
【0015】
更に、記録媒体の表面近傍に残存したカルボキシル基とヒドロキシル基を有する樹脂が、インクと接触することで、インク中の色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる(以下、「色材不安定化作用」とする)。これは、カルボキシル基がプロトン(H)を供給することができるためである。具体的には、以下の反応が起きる。色材が顔料の場合、酸解離型のアニオン性基(例えば、−COO)間の静電反発力によって安定に分散している顔料が、液体組成物と混合されることで、顔料の酸解離型のアニオン性基が樹脂のカルボキシル基由来のプロトンを受け取り、酸型のアニオン性基(例えば、−COOH)となる。その結果、静電反発力を失うため、顔料は分散状態が崩れ、凝集する。また、色材が染料の場合、酸解離型のアニオン性基(例えば、−SO)によって水中に溶解している染料は、樹脂のカルボキシル基由来のプロトンを受け取り、酸型のアニオン性基(例えば、−SOH)となることで溶解状態が崩れ、析出する。
【0016】
本発明者らが検討したところ、上記のカルボキシル基による色材不安定化作用は、液体組成物が酸性であり、かつ、樹脂の酸価が200mgKOH/g以上である場合にのみ発現することが分かった。これは、以下の理由によると考えられる。液体組成物が酸性でない場合(中性や塩基性の場合)では、カルボキシル基は酸型(−COOH)で安定に存在するため、プロトン(H)の供給能力が低く、色材不安定化作用が起きない。また、樹脂の酸価は、樹脂分子中のカルボキシル基の量と相関する。したがって、酸価が200mgKOH/gより小さい場合は、カルボキシル基の量が少なく、インク中の色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させるのに十分な量のプロトンを供給できないため、色材不安定化作用が起きない。
【0017】
以上の通り、特定の水溶性樹脂を用いる2液反応システムにより、用いる記録媒体の種類に依らず、インクとの2液反応が記録媒体表面近傍で起きるため発色性(光学濃度)が高い画像を得ることができる。更に、本発明者らが検討したところ、得られる画像の発色性(光学濃度)が高いことに加えて、耐擦過性が非常に高いという効果が得られることが分かった。これは、2液反応により色材層が強固となる上に、記録媒体の表面近傍でゲル化した樹脂に色材が物理的に取り込まれることによると考えられる。
【0018】
以上のメカニズムのように、本発明の各構成が相乗的に働くことで、従来公知の2液反応システムでは得られなかった上記本発明の効果を達成することが可能となるものである。
【0019】
[画像形成方法]
本発明の画像記録方法は、アニオン性基によって分散又は溶解している色材を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるようにして前記記録媒体に付与する工程を有し、前記液体組成物が、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する水溶性樹脂を含有し、前記水溶性樹脂の酸価が200mgKOH/g以上であり、前記水溶性樹脂の前記ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明における「記録」とは、普通紙や光沢紙などの浸透性の記録媒体に対してインク及び液体組成物を用いて記録する態様、ガラス、プラスチック、フィルムなどの非浸透性の記録媒体に対してインク及び液体組成物を用いてプリントを行う態様を含む。本発明において、液体組成物の記録媒体への付与手段としては、インクジェット方式や塗布方式などが挙げられる。塗布方式としては、例えば、ローラーコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法などが挙げられる。また、インクの記録媒体への付与手段としては、記録信号に応じて、インクジェット方式により記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法が好ましい。特に、インクに熱エネルギーを作用させて記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させる方式のインクジェット記録方法がより好ましい。
【0021】
また、本発明の画像記録方法は、インクを記録媒体に付与する工程(A)と、液体組成物をインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように記録媒体に付与する工程(B)の2つの工程を有する。工程(A)の後に工程(B)を行っても、工程(B)の後に工程(A)を行っても構わない。また、同じ工程を2回以上行うような場合、例えば、工程(A)→工程(B)→工程(A)や、工程(B)→工程(A)→工程(B)でも構わない。特に、工程(B)の後に工程(A)を行う過程を含むことが画像の耐擦過性及び発色性(光学濃度)の向上効果が大きく、より好ましい。以下、本発明の画像記録方法に用いる液体組成物及びインクについて説明する。
【0022】
<液体組成物>
本発明の画像記録方法に使用する液体組成物は、酸性であり、かつ、インク中の色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させるものであり、更に、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する特定の水溶性樹脂を含有する。本発明において、「インク中の色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる」液体組成物であるか否かは、以下の判定方法によって判定することができる。
【0023】
色材が、顔料の場合は、「インク中の顔料の分散状態を不安定化させる」液体組成物であるか否かは以下の判定方法によって判定する。先ず、用いるインクをレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2(堀場製作所製)を用いて、試料の屈折率1.5、分散媒(水)の屈折率1.333、反復回数15回の条件で50%累積体積平均粒子径(D50)を測定し、この値をDとする。更にインクを、質量比率で0.5倍量の液体組成物と混合した後、同様にD50を測定し、この値をDとする。このとき、DとDの比(D/D)が1.3以上である場合、「インク中の顔料の分散状態を不安定化させる」液体組成物であると判定する。
【0024】
色材が、染料の場合は、「インク中の染料の溶解状態を不安定化させる」液体組成物であるか否かは以下の判定方法によって判定する。先ず、用いるインクを、質量比率で0.5倍量の液体組成物と混合する。この混合溶液について、円錐平板型回転粘度計RE80L(東機産業製)を用いて、50rpm/minの条件で測定した25℃における粘度をdMIXとする。更に、同様にしてインク及び液体組成物の25℃における粘度を測定し、それぞれd、dとしたときに、dMIX>((d+d)/2)×1.1の関係式を満たす場合、「インク中の染料の溶解状態を不安定化させる」液体組成物であると判定する。上記関係式は、混合溶液の粘度が、混合する前のインク及び液体組成物のそれぞれの粘度の平均値の1.1倍よりも大きくなることを意味している。尚、粘度の平均値に「1.1倍」を乗ずるのは、測定誤差を含まないようにするためであって、経験則によって得られた数値である。
【0025】
また、本発明の画像記録方法に使用する液体組成物は、酸性であるため、そのpHは7より小さい必要がある。更には、本発明において、液体組成物のpHは5以下であることが好ましい。また、本発明においては、記録媒体で液体組成物とインクが混合した際のpHが、色材を分散又は溶解させているアニオン性基のpKaより小さくなることで、インク中の色材が不安定化する。したがって、液体組成物のpHは、色材を分散又は溶解させているアニオン性基のpKaより小さいことが求められる。尚、本発明において、pH及びpKaは25℃における値である。
【0026】
また、本発明の画像記録方法に用いる液体組成物は、インクで記録した画像に影響を及ぼさないために、無色、乳白色、又は白色であることが好ましい。そのため、可視光の波長域である400nm乃至800nmの波長域における最大吸光度と最小吸光度の比(最大吸光度/最小吸光度)が1.0以上2.0以下であることが好ましい。これは、可視光の波長域において、吸光度のピークを実質的に有さないか、有していてもピークの強度が極めて小さいことを意味する。更に、本発明において、液体組成物は色材を含有しないことが好ましい。後述する本発明の実施例では、上記の吸光度は、非希釈の液体組成物を用いて、日立ダブルビーム分光光度計U−2900(日立ハイテクノロジーズ製)によって測定した。尚、このとき、液体組成物を希釈して吸光度を測定してもよい。これは、液体組成物の最大吸光度と最小吸光度の値は共に希釈倍率に比例するため、最大吸光度と最小吸光度の比(最大吸光度/最小吸光度)の値は希釈倍率に依存しないからである。以下、本発明の画像記録方法に使用する液体組成物を構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0027】
(カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する水溶性樹脂)
本発明に用いる液体組成物は、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有し、酸価が200mgKOH/g以上であり、ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上である水溶性樹脂(以下、単に「特定の樹脂」とも言う)を含有する。尚、本発明において「水溶性樹脂」とは、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体に溶解することができる樹脂である。より具体的には、25℃で100gの水に溶ける樹脂の質量が1g以上である樹脂を意味する。
【0028】
本発明に用いる前記特定の樹脂は、酸価が200mgKOH/g以上である。更には、酸価が500mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が500mgKOH/gより大きいと、樹脂の水溶性が高く、得られる画像内に水や水溶性溶剤が残留しやすくなり、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0029】
また、本発明に用いる前記特定の樹脂は、ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上である。更には、ヒドロキシル基に由来する水素結合力が175J/g以下であることが好ましい。ヒドロキシル基に由来する水素結合力が175J/gより大きいと、液体組成物中において、樹脂同士が水素結合を形成してしまい、液体組成物の粘度が高くなり、保存安定性が十分に得られない場合がある。上述の通り、本発明において、樹脂のヒドロキシル基に由来する水素結合力は、
ヒドロキシル基同士の水素結合エネルギーに、樹脂1gあたりのヒドロキシル基のmol数を乗ずることで得る。尚、樹脂1gあたりのヒドロキシル基のmol数は、核磁気共鳴法などを用いることによって、定量することができる。
【0030】
本発明に用いる前記特定の樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、3,000以上20,000以下であることが好ましい。Mwが3,000より小さいと、樹脂の水溶性が高くなり、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。Mwが20,000より大きいと、液体組成物の粘度が高くなり、保存安定性が十分に得られない場合がある。
【0031】
本発明に用いる前記特定の樹脂の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。含有量が1.0質量%より小さいと、上述した前記特定の樹脂を用いることによる作用が得られにくくなるため、画像の発色性(光学濃度)及び耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。含有量が20.0質量%より大きいと、液体組成物の粘度が高くなり、保存安定性が十分に得られない場合がある。
【0032】
本発明に用いる前記特定の樹脂の合成方法としては、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有するモノマーを重合する方法や、カルボキシル基を有するモノマーとヒドロキシル基を有するモノマーを共重合する方法が挙げられる。本発明においては、前者の合成方法より後者の合成方法の方がより好ましい。これは、以下の理由によると考えられる。本発明において、前記特定の樹脂の2種類の官能基(カルボキシル基及びヒドロキシル基)は、それぞれ異なる作用(樹脂の増粘作用と色材不安定化作用)を生じることで、本発明の効果に寄与する。したがって、2種類の官能基が近傍の位置に存在するより、ある程度離れた位置に存在する方が、異なる作用がそれぞれ独立に発現しやすく好ましい。このような観点から考えると、前者の合成方法より後者の合成方法の方が、2種類の官能基が近傍に存在しにくくなるため好ましい。また、2種類以上のモノマーを用いて共重合する場合は、ランダム共重合体でも、ブロック共重合体であってもよい。重合法としては、従来、一般的に用いられている方法を何れも用いることができる。具体的には、フリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、リビングアニオン重合法などが挙げられる。尚、以下「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」と記載した場合は、それぞれ「アクリル酸、メタクリル酸」、「アクリレート、メタクリレート」を示すものとする。
【0033】
本発明に用いる前記特定の樹脂の原料となるカルボキシル基を有するモノマーとしては、重合可能なものであれば何れも使用することができる。水溶性樹脂に占める、カルボキシル基を有するモノマーに由来するユニットの割合(質量%)は、20.0質量%以上70.0質量%以下であると好ましい。尚、本発明において、モノマーに由来するユニットの割合(質量%)は、水溶性樹脂を100.0質量%とした場合の値である。カルボキシル基を有するモノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、アンゲリカ酸、イタコン酸、フマル酸などが挙げられる。カルボキシル基を有するモノマーの中でも、(メタ)アクリル酸、マレイン酸が好ましい。また、得られる樹脂が水溶性となるのであれば、カルボキシル基を有するモノマー以外に、カルボキシル基以外の酸性基(スルホン酸基やリン酸基など)を有するモノマーを更に含有してもよい。その場合は、水溶性樹脂に占める、カルボキシル基を有するモノマーに由来するユニットの割合(質量%)が、水溶性樹脂に用いる酸性基を有する全てのモノマーに由来するユニットの割合(質量%)に対して、90質量%以上であることが好ましい。更には、本発明において、樹脂に用いる酸性基を有するモノマーとしては、カルボキシル基を有するモノマーのみを用いること、即ち、樹脂の有する酸性基が全てカルボキシル基であることがより好ましい。
【0034】
本発明に用いる前記特定の樹脂の原料となるヒドロキシル基を有するモノマーとしては、重合可能なものであれば何れも使用することができる。水溶性樹脂に占める、ヒドロキシル基を有するモノマーに由来するユニットの含有量(質量%)は、30.0質量%以上60.0質量%以下であると好ましい。ヒドロキシル基を有するモノマーに由来するユニットの割合が、30.0質量%以上であると、ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上となりやすく好ましい。ヒドロキシル基を有するモノマーに由来するユニットの割合が、60.0質量%以下であるとヒドロキシル基に由来する水素結合力が175J/g以下となりやすく、液体組成物の保存安定性の観点から好ましい。ヒドロキシル基を有するモノマーとしては、具体的には、アリルアルコール;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどが挙げられる。ヒドロキシル基を有するモノマーの中でも、アリルアルコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルが好ましい。
【0035】
また、本発明の効果が得られる範囲であれば、上記カルボキシル基を有するモノマーやヒドロキシル基を有するモノマーと「その他のモノマー」を共重合してもよい。その場合は、水溶性樹脂に占める、「その他のモノマー」に由来するユニットの割合(質量%)は、35.0質量%以下であることが好ましい。「その他のモノマー」としては、重合可能なものであれば何れも使用することができる。具体的には、酢酸ビニル;1−ブテンなどのアルケン;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルプロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンなどの(メタ)アクリル酸アルキルアミド化合物;N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールなどの含窒素ビニル化合物などが挙げられる。中でも、樹脂の親水性を向上させる働きがあるため、その他のモノマーとして、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドンを用いることが好ましい。
【0036】
(水性媒体)
本発明に用いる液体組成物は、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。液体組成物中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、従来、インクに一般的に用いられているものを何れも用いることができる。例えば、アルコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。液体組成物中の水の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0037】
(その他の成分)
本発明に用いる液体組成物は、上記の成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。更に、本発明に用いる液体組成物は、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び上記水溶性樹脂以外の樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0038】
<インク>
本発明の画像記録方法に使用するインクは、アニオン性基によって分散又は溶解している色材を含有する。以下、本発明の画像記録方法に使用するインクを構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0039】
(色材)
アニオン性基によって分散又は溶解している色材としては、アニオン性基によって分散している顔料、アニオン性基によって溶解している染料が挙げられる。また、液体組成物中の水溶性樹脂の含有量(質量%)が、インク中の色材の含有量(質量%)に対して、0.25倍以上5.00倍以下であることが好ましい。
【0040】
(A)顔料
本発明において色材が顔料である場合は、インクに使用する顔料はアニオン性基によって分散している。アニオン性基によって顔料が分散するには、インク中においてアニオン性基は酸解離型として存在する必要がある。したがって、アニオン性基の酸解離定数pKaが、インクのpHより小さいことが求められる。更には、本発明において、インクのpHが7以上11以下であり、かつ、アニオン性基のpKaが4以上5以下であることが好ましい。尚、本発明において、pH及びpKaは25℃における値である。
【0041】
本発明において、インクに使用することのできる顔料としては、カーボンブラックなどの無機顔料及び有機顔料が挙げられ、インクに使用可能なものとして公知の顔料を何れも使用することができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、更には、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0042】
本発明において、顔料の分散方法としては、具体的には、分散剤としてアニオン性基を有する樹脂を用いる樹脂分散タイプの顔料(アニオン性基を有する高分子分散剤を使用した樹脂分散顔料、顔料粒子の表面をアニオン性基を有する樹脂で被覆したマイクロカプセル顔料、顔料粒子の表面にアニオン性基を有する高分子を含む有機基が化学的に結合したポリマー結合型自己分散顔料)や顔料粒子の表面にアニオン性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散タイプの顔料(自己分散顔料)が挙げられる。無論、分散方法の異なる顔料を併用することも可能である。酸析反応システムを用いる本発明においては、画像特性の観点から樹脂分散タイプの顔料を用いることが好ましい。
【0043】
本発明において、インクに使用する顔料が樹脂分散顔料であるときは、分散剤である樹脂がアニオン性基を有する。アニオン性基を有する樹脂としては、アクリル酸やメタクリル酸などカルボキシル基を有するモノマーを用いて重合したアクリル系樹脂;ジメチロールプロピオン酸などアニオン性基を有するジオールを用いて重合したウレタン系樹脂などが挙げられる。本発明において、樹脂分散顔料を用いる場合は、樹脂の酸価は90mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂のGPCにより得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上15,000以下であることが好ましい。また、インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0044】
本発明において、インクに使用する顔料が自己分散顔料であるときは、顔料表面に直接、又は、他の原子団(−R−)を介して、アニオン性基が化学的に結合しているものを用いることができる。アニオン性基としては、例えば、COOM基、SOM基、POHM基、PO基、SONH基、及びSONHCOR基などが挙げられる。尚、上記式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。また、前記他の原子団(−R−)としては、炭素原子数1乃至12のアルキレン基、置換若しくは非置換のフェニレン基、又は置換若しくは非置換のナフチレン基などが挙げられる。
【0045】
(B)染料
アニオン性基によって溶解している染料としては、インクに使用可能なものとして公知のものを何れも使用することができる。アニオン性基としては、具体的にはCOOM基、SOM基が挙げられる。上記式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。本発明において、使用することができる染料としては、具体的には、直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料、食用染料などが挙げられる。インク中の染料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0046】
(樹脂微粒子)
本発明の画像記録方法に使用するインクは、更に樹脂微粒子を含有してもよい。インクが樹脂微粒子を含有することで、画像を記録した際に、樹脂膜が形成し、更に画像の耐擦過性が向上する。樹脂微粒子の種類としては、従来、インクに一般的に用いられているものを何れも用いることができるが、本発明においては、アニオン性基を有する樹脂微粒子であることがより好ましい。アニオン性基を有する樹脂微粒子であることで、液体組成物と反応して、樹脂微粒子も析出するため、画像の耐擦過性が更に向上する。
【0047】
また、インク中の樹脂微粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。樹脂微粒子の体積平均粒子径は、30nm以上500nm以下であることが好ましい。樹脂微粒子のGPCにより得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、100,000以上1,000,000以下であることが好ましい。樹脂微粒子の酸価は、50mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0048】
(水性媒体及びその他の成分)
インクには、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、液体組成物に使用可能なものとして挙げた水溶性有機溶剤と同様のものを使用することができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インクには、上記の液体組成物に使用可能なものとして挙げたその他の成分と同様のものを使用することができる。
【0049】
[セット]
本発明のセットは、アニオン性基によって分散又は溶解している色材を含有するインク、及び、前記インク中の前記色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる酸性の液体組成物のセットであって、前記液体組成物が、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する水溶性樹脂を含有し、前記水溶性樹脂の酸価が200mgKOH/g以上であり、前記水溶性樹脂の前記ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上であることを特徴とする。尚、セットとして組み合わせることのできるインクについての限定は特になく、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインクなどを用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。尚、明細書及び表中の略称は以下の通りである。
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
MA:マレイン酸
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
AA:アリルアルコール
VP:N−ビニルピロリドン
VA:酢酸ビニル
【0051】
[液体組成物の調製]
以下の手順に従って、液体組成物を調製した。
【0052】
<水溶性樹脂水溶液の調製>
(水溶性樹脂水溶液A1〜A23の調製)
撹拌装置、窒素導入管、還流冷却装置、温度計を備えたフラスコにメチルエチルケトンを300部と0.02部の非ニトリル系アゾ重合開始剤V−601(和光純薬工業製)を加え、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。反応系の温度が80℃に達したことを確認した後、下記表1に示す各モノマーを混合した混合液を撹拌下で3時間かけて滴下した。その後、重合開始剤V−601を更に0.01部加えて、2時間反応させた。そして、水溶性樹脂のメチルエチルケトン溶液に適量の水を加えて撹拌した後、減圧によりメチルエチルケトンを除去し、更に水を加えて、水溶性樹脂の含有量が25.0質量%である水溶性樹脂水溶液を得た。得られた水溶性樹脂の酸価は、樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、水酸化カリウムメタノール滴定液を用いた電位差滴定により測定した。このとき、電位差滴定装置AT510(京都電子製)を用いた。また、水溶性樹脂のGPCにより得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、下記のようにして測定した。測定対象の水溶性樹脂の0.1質量%THF溶液を調製し、ポアサイズ0.45μmの耐溶剤性メンブランフィルター(商品名:TITAN2 Syringe Filter、PTFE、0.45μm;SUN−SRi製)でろ過したものを試料溶液とした。この試料溶液を用いて、下記の条件で重量平均分子量の測定を行った。
・装置:Alliance GPC 2695(Waters製)
・カラム:Shodex KF−806Mの4連カラム(昭和電工製)
・移動相:THF(特級)
・流速:1.0mL/min
・オーブン温度:40.0℃
・試料溶液の注入量:0.1mL
・検出器:RI(屈折率)
・ポリスチレン標準試料:PS−1及びPS−2(Polymer Laboratories製)
(分子量:7,500,000、2,560,000、841,700、377,400、320,000、210,500、148,000、96,000、59,500、50,400、28,500、20,650、10,850、5,460、2,930、1,300、580の17種)。更に、ヒドロキシル基由来の水素結合力を上述の方法で算出した。結果を表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
(水溶性樹脂水溶液A24の調製)
リチウム2.0部を加えたTHF300.0部中に、窒素雰囲気下、0℃に冷却した後n−ブチルリチウム溶液4.0部を加え、続いてアクリル酸を38.5部加え40分間撹拌した。その後、ジエチル亜鉛溶液0.04部を加え1分間撹拌し、ポリアクリル酸の重合溶液を得た。続いて、THF20.0部中に2−ヒドロキシエチルアクリレートを45.0部加えたものに、ジエチル亜鉛溶液0.12部を4回に分けて加えたモノマー溶液を、上記で得たポリアクリル酸の重合溶液に6分かけて滴下し、滴下終了後60分間撹拌し、アクリル酸と2−ヒドロキシエチルアクリレートのジブロックポリマー水溶液を得た。更に、THF20.0部中にビニルピロリドン10.0部及び酢酸ビニル6.5部を加えたものに、ジエチル亜鉛溶液0.12部を4回に分けて加えたモノマー溶液を、上記ジブロックポリマー水溶液に6分かけて滴下し、滴下終了後60分間撹拌し、更に酢酸6.0部を加え反応を停止させた。この溶液に35.0%塩酸水溶液を13.0部加え、室温で10分間撹拌し、純水で3回洗浄後、乾燥させて、ポリ[アクリル酸−block−2−ヒドロキシエチルアクリレート−block−(ビニルピロリドン−co−酢酸ビニル)]のトリブロックポリマーを得た。得られたトリブロックポリマーは純水に溶解させ、樹脂の含有量が25.0質量%である水溶性樹脂水溶液A24を得た。得られた水溶性樹脂の酸価および重量平均分子量は上述の方法と同様に測定した。
【0055】
【表2】

【0056】
<液体組成物の調製>
上記で得られた水溶性樹脂水溶液を下記の組成で混合した。尚、イオン交換水の残部は、液体組成物を構成する全成分の合計が100.0質量%となる量のことである。
・水溶性樹脂水溶液(樹脂の含有量は25.0質量%) 表3参照
・1,5−ペンタンジオール 3.0質量%
・トリメチロールプロパン 1.0質量%
・界面活性剤:アセチレノールE100(川研ファインケミカル製) 0.5質量%
・イオン交換水 残部
【0057】
これを十分撹拌して分散し、ポアサイズ2.0μmのフィルター(MILLIPORE製)でろ過し、液体組成物を調製した。更に、10質量%硫酸水溶液又は10質量%水酸化カリウム水溶液を適宜加えることで、表3に記載のpHとなるように調製した。尚、液体組成物のpHの測定は、pHメータ F−21(堀場製作所製)を用い、25℃で行った。上記で得られた液体組成物について、400nm乃至800nmの波長域における最大吸光度Amaxと最小吸光度Aminを日立ダブルビーム分光光度計U−2900によって測定し、比Amax/Aminを算出したところ何れの液体組成物も1.0以上2.0以下であった。
【0058】
【表3】

【0059】
[インクの調製]
以下の手順に従って、インクを調製した。
【0060】
<顔料分散体の調製>
(顔料分散体A)
樹脂分散剤として、酸価が130mgKOH/g、重量平均分子量が7,000のベンジルメタクリレート−メタクリル酸共重合体を用いたアニオン性樹脂分散カーボンブラック分散体を調製し、顔料分散体Aとした。得られた顔料分散体Aの顔料の含有量は20.0質量%、樹脂の含有量は5.0質量%、体積平均粒径は130nmであった。
【0061】
(顔料分散体B)
樹脂分散剤として、酸価が150mgKOH/g、重量平均分子量9,000のスチレン−アクリル酸共重合体を用いたアニオン性樹脂分散カーボンブラック分散体を調製し、顔料分散体Bとした。得られた顔料分散体Bの顔料の含有量は20.0質量%、樹脂の含有量は4.0質量%、体積平均粒径は150nmであった。
【0062】
(顔料分散体C)
カーボンブラックの表面にスルホフェニル基が結合したアニオン性自己分散カーボンブラックであるCab−O−Jet200(Cabot製)を顔料分散体C(顔料の含有量は20.0質量%)として用いた。顔料の体積平均粒径は135nmであった。
【0063】
(顔料分散体D)
カーボンブラックの表面にカルボキシルフェニル基が結合したアニオン性自己分散カーボンブラックであるCab−O−Jet300(Cabot製)に、更に水を加えて顔料分散体D(顔料の含有量は20.0質量%)として用いた。顔料の体積平均粒径は130nmであった。
【0064】
(顔料分散体E)
樹脂分散剤として、ブレンマーPME−4000(日本油脂製:重量平均分子量が10,000のベンジルアクリレート−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート共重合体)を用いたノニオン性樹脂分散カーボンブラック分散体を調製し、顔料分散体Eとした。得られた顔料分散体Eの顔料の含有量は20.0質量%、樹脂の含有量は4.4質量%、体積平均粒径は150nmであった。
【0065】
<染料水溶液の調製>
アニオン性染料であるC.I.ダイレクトブラック195を用いて、染料の含有量が20.0質量%である染料水溶液を調製した。
【0066】
<樹脂微粒子分散液の調製>
酸価が20mgKOH/g、重量平均分子量が400,000、体積平均粒径が200nmのスチレン−アクリル酸の樹脂微粒子を合成した。樹脂微粒子のアニオン性基の中和率がモル基準で100%となるように水酸化カリウム水溶液を加え、更に適量のイオン交換水を加え、固形分45.0質量%の樹脂微粒子分散液を得た。
【0067】
<インクの調製>
上記で得られた顔料分散体、染料水溶液、樹脂微粒子分散液を下記の組成で混合した。尚、イオン交換水の残部は、インクを構成する全成分の合計が100.0質量%となる量のことである。
・顔料分散体、又は染料水溶液(色材の含有量は20.0質量%) 表4参照
・樹脂微粒子分散液(樹脂の含有量は45.0質量%) 表4参照
・グリセリン 5.0質量%
・1,5−ペンタンジオール 3.0質量%
・エチレン尿素 10.0質量%
・界面活性剤:アセチレノールE100(川研ファインケミカル製) 1.0質量%
・イオン交換水 残部
【0068】
これを十分撹拌して分散し、ポアサイズ2.0μmのフィルター(MILLIPORE製)でろ過し、インクを調製した。更に、10質量%硫酸水溶液又は10質量%水酸化カリウム水溶液を適宜加えることで、表4に記載のpHとなるように調製した。尚、インクのpHの測定は、pHメータ F−21(堀場製作所製)を用い、25℃で行った。
【0069】
【表4】

【0070】
[評価]
本発明においては下記の各評価項目の評価基準において、AA〜Bが好ましいレベルとし、Cは許容できないレベルとした。上記で得られた液体組成物及びインクを、それぞれ液体カートリッジに充填し、表5に示す組合せでセットとし、インクジェット記録装置PIXUS Pro9500(キヤノン製)に装着した。このとき、シアンの位置にインクを、フォトマゼンタの位置に液体組成物を装着した。記録媒体としては、PB PAPER GF−500(キヤノン製)、Business Multipurpose4200(ゼロックス製)、OKプリンス上質、OKトップコート+、OKトップコートマットN(以上、王子製紙製)の5種を用いた。そして、上記5種の記録媒体それぞれに対し、インクの記録デューティが100%のベタ画像と重なるように液体組成物を記録デューティ50%で付与した画像を作製した。得られた画像を常温で24時間保存した後、以下の評価を行った。尚、記録条件は、温度:23℃、相対湿度:55%とした。また、上記インクジェット記録装置では、解像度600dpi×600dpiで1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.5ng(ナノグラム)のインク滴を8ドット付与する条件を、記録デューティが100%であると定義される。
【0071】
(液体組成物によってインク中の色材の分散状態又は溶解状態が不安定化するか否かの確認)
(1)インク中の色材が顔料の場合(実施例1〜28、30、31、及び比較例1〜6)
インクをレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2(堀場製作所製)を用いて、試料の屈折率1.5、分散媒(水)の屈折率1.333、反復回数15回の条件でD50を測定し、この値をDとした。更にインクを、質量比率で0.5倍量の液体組成物と混合した後、同様にD50を測定し、この値をDとした。このとき、DとDの比(D/D)が1.3以上である場合、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化したと判断した。その結果、実施例1〜28、30、及び31、並びに、比較例2及び4において、D/Dが1.3以上であり、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化したことを確認した。比較例1、3、5、及び6では、D/Dは1.3未満であり、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化しなかった。
【0072】
(2)インク中の色材が染料の場合(実施例29及び32)
インクを、質量比率で0.5倍量の液体組成物と混合する。この混合溶液について、円錐平板型回転粘度計RE80L(東機産業製)を用いて、50rpm/minの条件で測定した25℃における粘度をdMIXとする。更に、同様にしてインク及び液体組成物の25℃における粘度を測定し、それぞれd、dとしたときに、dMIX>((d+d)/2)×1.1の関係式を満たす場合、液体組成物によってインク中の染料の溶解状態が不安定化したと判断した。その結果、実施例29及び32において、上記関係式を満たし、液体組成物によってインク中の染料の溶解状態が不安定化したことを確認した。
【0073】
(画像の発色性(光学濃度))
上記で得られた5種の記録媒体の画像について、反射濃度計RD−19I(グレタグマクベス製)を用いて、光学濃度をそれぞれ測定した。そして、得られた5種の記録媒体の画像の光学濃度から、平均値Xを算出した。次いで、平均値と各画像の光学濃度の偏差を算出し、その最大値△XMAXを用いて評価を行った。尚、最大値△XMAXが小さい程、用いる記録媒体の種類に依らす、高い発色性(光学濃度)が得られる。評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示す。
A:最大値△XMAXが0.25未満だった
B:最大値△XMAXが0.25以上0.50未満だった
C:最大値△XMAXが0.50以上だった。
【0074】
(画像の耐擦過性)
上記で得られた5種の記録媒体の画像それぞれについて、電子天秤に乗せ、電子天秤の目盛が500gの重さとなるように、指で押し、5回往復させる摩擦試験を行った。試験後、摩擦試験を行った指への色材の付着を目視で観察し、画像の耐擦過性の評価を行った。画像の耐擦過性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示す。
AA:5種の記録媒体全てで、指に色材の付着がなかった
A:5種のうち1種(OKトップコート+)で、指に色材の付着があった
B:5種のうち2種(OKトップコート+、OKトップコートマットN)で、指に色材の付着があった
C:5種のうち3種以上で、指に色材の付着があった
【0075】
(液体組成物の保存安定性)
上記で得られた液体組成物をテフロン(登録商標)製の容器に密閉し、温度60℃で1週間保存した後、25℃まで冷却した。そして、保存試験前後の液体組成物それぞれについて、25℃における粘度を、円錐平板型回転粘度計RE80L(東機産業製)を用いて、50rpm/minの条件で測定した。そして、保存試験前の液体組成物の粘度をd、保存試験後の液体組成物の粘度をdとしたときの、変化度△d=d−dを算出し、液体組成物の保存安定性を評価した。液体組成物の保存安定性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示す。
A:△d≦0.5であった
B:△d>0.5であった。
【0076】
【表5】

【0077】
<比較例7>
特開2010−94888号公報に記載のブラックの樹脂分散顔料を含有するBkインク1及び多価金属塩(硝酸カルシウム4水和物)と水溶性高分子化合物(ビニルアルコールとマレイン酸モノメチルの共重合体)を含有する反応液1と同様にして、インク10及び液体組成物31をそれぞれ調製した。得られたインク10及び液体組成物31をそれぞれ液体カートリッジに充填し、上記と同様に評価を行った。その結果、(画像の発色性(光学濃度))がC評価、(画像の耐擦過性)がC評価、(液体組成物の保存安定性)がA評価であった。
【0078】
<実施例33>
上記で得られた液体組成物1を、バーコーターNo.08(第一理化製)を用いて、塗布量:10g/mで記録媒体の全面に塗布した。このとき、記録媒体としては、PB PAPER GF−500(キヤノン製)、Business Multipurpose4200(ゼロックス製)、OKプリンス上質、OKトップコート+、OKトップコートマットN(以上、王子製紙製)の5種を用いた。次に、上記で得られたインク1を液体カートリッジに充填し、前記インクジェット記録装置PIXUS Pro9500に装着し、上記で得られた液体組成物1を塗布した記録媒体に対して、インクの記録デューティが100%のベタ画像を作製した。得られた画像を常温で24時間保存した後、上記の(画像の発色性(光学濃度))及び(画像の耐擦過性)と同様の評価を行った。その結果、(画像の発色性(光学濃度))はA評価であり、(画像の耐擦過性)はA評価であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基によって分散又は溶解している色材を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる酸性の液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるようにして前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、
前記液体組成物が、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する水溶性樹脂を含有し、
前記水溶性樹脂の酸価が200mgKOH/g以上であり、
前記水溶性樹脂の前記ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上であることを特徴とする画像記録方法。
【請求項2】
前記水溶性樹脂に占める、前記ヒドロキシル基を有するモノマーに由来するユニットの割合(質量%)が、30.0質量%以上60.0質量%以下である請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項3】
前記水溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)が、3,000以上20,000以下である請求項1又は2に記載の画像記録方法。
【請求項4】
前記液体組成物中の前記水溶性樹脂の含有量(質量%)が、液体組成物全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下である請求項1乃至3の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項5】
前記水溶性樹脂の酸価が、500mgKOH/g以下である請求項1乃至4の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項6】
前記インクが、更にアニオン性基を有する樹脂微粒子を含有する請求項1乃至5の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項7】
前記液体組成物中の前記水溶性樹脂の含有量(質量%)が、前記インク中の前記色材の含有量(質量%)に対して、0.25倍以上5.00倍以下である請求項1乃至6の何れか1項に記載の画像記録方法。
【請求項8】
アニオン性基によって分散又は溶解している色材を含有するインク、及び、前記インク中の前記色材の分散状態又は溶解状態を不安定化させる酸性の液体組成物のセットであって、
前記液体組成物が、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する水溶性樹脂を含有し、
前記水溶性樹脂の酸価が200mgKOH/g以上であり、
前記水溶性樹脂の前記ヒドロキシル基に由来する水素結合力が40J/g以上であることを特徴とするセット。

【公開番号】特開2013−35227(P2013−35227A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173926(P2011−173926)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】