説明

画像記録方法

【課題】 画像のブロンズ現象を抑制できる画像記録方法を提供すること。
【解決手段】 フタロシアニン骨格を有する染料を含有するインクを、表面粗さ0.9μm以上の記録媒体に付与する工程、及び、前記インクと反応せず、かつ、樹脂を含有しない液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有することを特徴とする画像記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録の分野において、銀塩写真のような風合いの画像を得ることを目的に、光沢紙のような表面が平滑な記録媒体が用いられている。しかし、表面が平滑な記録媒体に対して画像を記録した際に、得られる画像が金属光沢様のぎらつきを起こしたり、記録物の観測角度によって、反射光が色材の本来の色とは異なる色に見えたりする、所謂、ブロンズ現象を生じる場合がある。このブロンズ現象は、普通紙のような表面が粗い記録媒体を用いた場合では発生しない。
【0003】
ブロンズ現象は、色材としてフタロシアニン骨格を有する顔料を用いた場合に、特に顕著に発生しやすいことは知られているが、フタロシアニン骨格を有する染料を用いた場合でも発生する場合がある。これは、フタロシアニン骨格同士の相互作用が強く、染料分子同士が会合し局在化して存在しやすいためである。
【0004】
このようなフタロシアニン骨格を有する染料を用いた場合のブロンズ現象の抑制に対して、染料構造の観点から改善しようとする方法が検討されている(特許文献1)。特許文献1には、特定の置換基を特定の位置に導入したフタロシアニン化合物を含有するインクによって、画像の耐ブロンズ性能や耐候性が改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−023251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、ブロンズ現象は表面が平滑な記録媒体に対して画像を記録した場合に顕著に起きる現象であるから、本発明者らは、表面が少し粗い記録媒体を用いることを検討した。しかしながら、本発明者らが検討したところ、表面が少し粗い記録媒体に対して、特許文献1に記載のインクを記録した場合、ブロンズ現象はある程度抑制されてはいるものの観察はされた。また、上記の特許文献1のように染料構造の観点から耐ブロンズ性能を改善する方法は、使用できる染料種が制限されるため、汎用性が低い。
【0007】
したがって、本発明の目的は、表面が少し粗い記録媒体に対して使用した場合でも、また、染料種に依らずとも、画像のブロンズ現象を抑制できる画像記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかる画像記録方法は、フタロシアニン骨格を有する染料を含有するインクを、表面粗さ0.9μm以上の記録媒体に付与する工程、及び、前記インクと反応せず、かつ、樹脂を含有しない液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、画像のブロンズ現象を抑制できる画像記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明の画像記録方法は、フタロシアニン骨格を有する染料を含有するインクを、表面粗さ0.9μm以上の記録媒体に付与する工程、及び、前記インクと反応せず、かつ、樹脂を含有しない液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有することを特徴とする。尚、本明細書の記載において、C.I.とは、カラーインデックスの略語である。
【0011】
本発明者らは先ず、表面が少し粗い記録媒体に対して、特許文献1に記載のインクを記録した場合に、ブロンズ現象が発生した原因について検討を行った。これを以下に詳述する。表面が少し粗い記録媒体は、光沢紙のような表面が平滑な記録媒体と比較して、凹部を多く有している。そのような記録媒体に、フタロシアニン骨格を有する染料を含有するインクを付与すると、前記インクは記録媒体の凹部に溜まりやすい。これが乾燥・定着すると、記録媒体の凹部に存在する染料が多くなる。その結果、フタロシアニン骨格同士の相互作用により、記録媒体の凹部において染料分子同士が会合し局在化するため、ブロンズ現象が発生すると考えられる。このメカニズムから明らかな通り、この記録媒体の凹部における染料の局在化は、染料の構造には依らずに発生する。そのため、特許文献1に記載のインクのように、染料構造の観点から耐ブロンズ性能を改善する工夫を行った場合であっても、ブロンズ現象が発生したのである。
【0012】
そこで、本発明者らが更に検討したところ、表面が少し粗い記録媒体に対して、フタロシアニン骨格を有する染料を含有するインクの他に、更に液体組成物を付与することで、ブロンズ現象が抑制されることが分かった。このメカニズムを以下に詳述する。
【0013】
上述の通り、表面が少し粗い記録媒体にフタロシアニン骨格を有する染料を含有するインクを付与すると、記録媒体の凹部において染料が局在化する。そのような記録媒体に、更に、液体組成物を付与すると、凹部に局在化している染料が再溶解・再分散され、記録媒体を移動する。これが再び乾燥・定着する際には、凹部に存在する染料の量が、液体組成物を付与する前と比較して少なくなるため、染料が局在化しにくく、ブロンズ現象が抑制されると考えられる。
【0014】
本発明者らが検討したところ、このようなブロンズ現象の抑制効果が顕著に発現し得る、表面が少し粗い記録媒体とは、表面粗さが0.9μm以上の記録媒体であることが分かった。この理由は、以下の通りである。表面粗さが0.9μm以上の記録媒体は凹凸が多く、上記染料の局在化によるブロンズ現象の原因となる凹部も多く有する。一方で、そのような記録媒体は、凹凸の多さに由来して表面積が大きいため、染料が液体組成物によって再溶解・再分散された際に、単位表面積当たりの染料の量が少なくなり、より染料が局在化しにくい。つまり、表面粗さが0.9μm以上の記録媒体を用いた場合、液体組成物を付与することによるブロンズ現象の抑制効果が非常に大きくなるのである。また、表面粗さは2.0μm以下であることが好ましい。2.0μmより大きい場合には、表面が粗くなり過ぎて、ブロンズ現象自体がそもそも発生しにくくなるためである。
【0015】
また、本発明の画像記録方法に用いる液体組成物は、インクと反応しないことを要する。本発明において、インクと反応しない液体組成物であるか否かは以下の判定方法によって判定する。先ず、用いるインクを、質量比率で等量の液体組成物と混合する。この混合溶液について、円錐平板型回転粘度計RE80L(東機産業製)を用いて、50rpm/minの条件で測定した25℃における粘度をdMIXとする。更に、同様にしてインク及び液体組成物の25℃における粘度を測定し、それぞれd、dとしたときに、dMIX≦((d+d)/2)×1.3の関係式を満たす場合、インクと反応しない液体組成物であると判定する。上記関係式は、混合溶液の粘度が、混合する前のインク及び液体組成物のそれぞれの粘度の平均値の1.3倍以下であることを意味している。更に、本発明において、液体組成物は多価金属イオンや有機酸などの反応剤を含有しないことが好ましい。尚、反応性のある液体組成物を用いると、インクと接触した際に染料の記録媒体への定着を促進させるため、染料の再溶解・再分散が起きにくくなり、ブロンズ現象が抑制できない。
【0016】
更には、本発明の画像記録方法に用いる液体組成物は、樹脂を含有しない。本発明において、液体組成物が「樹脂を含有しない」とは、樹脂を全く含有しないか、又は、含有したとしても、その含有量が液体組成物全質量を基準として0.1質量%以下であることを意味する。液体組成物中に樹脂を含有すると、記録媒体の凹部に樹脂が残留し、染料の再溶解・再分散が起きにくくなり、ブロンズ現象が抑制できない。
【0017】
以上のメカニズムのように、本発明の各構成が相乗的に働くことで、本発明の効果を達成することが可能となる。
【0018】
[画像記録方法]
本発明において、液体組成物の記録媒体への付与手段としては、インクジェット方式や塗布方式などが挙げられる。塗布方式としては、例えば、ローラーコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法などが挙げられる。また、インクの記録媒体への付与手段としては、記録信号に応じて、インクジェット方式により記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法が好ましい。特に、インクに熱エネルギーを作用させて記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させる方式のインクジェット記録方法がより好ましい。
【0019】
また、本発明の画像記録方法は、インクを記録媒体に付与する工程(A)と、液体組成物をインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように記録媒体に付与する工程(B)の2つの工程を有する。工程(A)の後に工程(B)を行っても、工程(B)の後に工程(A)を行っても構わない。また、同じ工程を2回以上行うような場合、例えば、工程(A)→工程(B)→工程(A)や、工程(B)→工程(A)→工程(B)でも構わない。特に、工程(A)の後に工程(B)を行う過程を含んでいる方がブロンズ現象の抑制効果が大きく、好ましい。また、工程(A)と工程(B)との間隔は長くても短くてもよいが、間隔が短い方がよりブロンズ現象の抑制効果が大きく、好ましい。以下、本発明の画像記録方法に用いるインク、液体組成物、及び記録媒体について説明する。
【0020】
<インク>
本発明の画像記録方法に用いるインクは、フタロシアニン骨格を有する染料を含有する。以下、本発明の画像記録方法に用いるインクを構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0021】
(フタロシアニン骨格を有する染料)
本発明において、「フタロシアニン骨格」とは、下記一般式(1)で表されるものを意味する。
【0022】
【化1】

【0023】
(一般式(1)中、A、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環である。Mは、中心金属である。)
上述の通り、フタロシアニン骨格を有する染料が会合し局在化して存在しやすいのは、フタロシアニン骨格同士の相互作用が強いからである。この相互作用は、フタロシアニン骨格が、複数の環状構造が同一平面上に存在する骨格を有することに由来する。したがって、上記一般式(1)において、A、B、C、及びDで表される6員環の種類や、Mで表される中心金属の種類に依らずとも、本発明に用いる記録媒体におけるブロンズ現象という課題は発生する。前記芳香性を有する6員環としては、具体的には、ベンゼン環、ピリジン環又はピラジン環などが挙げられる。また、中心金属としては、Cu、Ni、Cd、Zn、Coなどが挙げられる。具体的に、C.I.ナンバーを有するフタロシアニン骨格を有する染料としては、C.I.ダイレクトブルー:86、87、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226、307など;C.I.アシッドブルー:249などが挙げられる。
【0024】
本発明に用いるインク中のフタロシアニン骨格を有する染料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上15.0質量%が好ましい。更には、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
(水性媒体)
本発明の画像記録方法に用いるインクには、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。更には、10.0質量%以上50.0質量%以下であることがより好ましい。水溶性有機溶剤としては、従来、インクに一般的に用いられているものを何れも用いることができる。例えば、アルコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0026】
(その他の成分)
本発明の画像記録方法に用いるインクは、上記の成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。更に、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0027】
<液体組成物>
本発明の画像記録方法に用いる液体組成物は、インクで記録した画像に影響を及ぼさないために、無色、乳白色、又は白色であることが好ましい。そのため、可視光の波長域である400nm乃至800nmの波長域における液体組成物の最大吸光度と最小吸光度の比(最大吸光度/最小吸光度)が1.0以上2.0以下であることが好ましい。これは、可視光の波長域において、吸光度のピークを実質的に有さないか、有していてもピークの強度が極めて小さいことを意味する。更に、本発明において、液体組成物は色材を含有しないことがより好ましい。後述する本発明の実施例では、上記の吸光度は、非希釈の液体組成物を用いて、日立ダブルビーム分光光度計U−2900(日立ハイテクノロジーズ製)によって測定した。尚、このとき、液体組成物を希釈して吸光度を測定してもよい。これは、液体組成物の最大吸光度と最小吸光度の値は共に希釈倍率に比例するため、最大吸光度と最小吸光度の比(最大吸光度/最小吸光度)の値は希釈倍率に依存しないからである。以下、本発明の画像記録方法に用いる液体組成物を構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0028】
(水性媒体)
本発明の画像記録方法に用いる液体組成物には、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。液体組成物中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、インクに使用可能なものとして挙げた水溶性有機溶剤と同様のものを使用することができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。液体組成物中の水の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0029】
(その他の成分)
本発明の画像記録方法に用いる液体組成物は、上記の成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。更に、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、及びキレート化剤を含有してもよい。
【0030】
本発明において、界面活性剤としては、従来、インクジェット用のインクに一般的に用いられているものを何れも用いることができる。具体的には、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体、脂肪酸ジエタノールアミド、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェノールスルホン酸塩、アルキルナフタリンスルホン酸塩、アルキルテトラリンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ラウリルリン酸塩などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、アルキルカルボキシベタインなどが挙げられる。尚、インクと液体組成物の反応性の観点から、インクに用いる染料がアニオン性(又は、カチオン性)の場合は、液体組成物にカチオン性(又は、アニオン性)の界面活性剤を含有しないことが好ましい。
【0031】
本発明において、pH調整剤としては、例えば、硫酸、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、酢酸リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
【0032】
本発明において、防腐剤としては、例えば、クエン酸3ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、無水酢酸ナトリウム、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−ナフトエ酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、プロキセルGXL−S(アベシア製)、プロキセルXL−2(アベシア製)などが挙げられる。
【0033】
本発明において、液体組成物は、前記水性媒体及び前記その他の成分から選択される成分のみを含有することが好ましい。更には、液体組成物は、水、水溶性有機溶剤、界面活性剤、pH調整剤、及び防腐剤から選択される成分のみを含有することがより好ましい。
【0034】
<インクと液体組成物の付与量の比V/V
記録媒体において、インクと液体組成物が重ねて付与される場合には、インクと液体組成物が重なる領域における液体組成物の付与量をV(g/m)、インクの付与量をV(g/m)としたときに、比V/Vが0.01以上であることが好ましい。更に、V/Vは、0.11以上2.00以下であることがより好ましい。
【0035】
<記録媒体>
本発明の画像記録方法に用いる記録媒体は、表面粗さが0.9μm以上である。また、上述の通り、表面粗さは2.0μm以下であることが好ましい。尚、本発明において、「表面粗さ」とは、JIS B 0601:2001で規定される算術平均粗さ(Ra)である。本発明において、記録媒体は、表面粗さが0.9μm以上であれば、何れのものも用いることができるが、中でも、支持体とその支持体の少なくとも一方の面にインク受容層を有する記録媒体であることが好ましい。本発明において、支持体としては、紙などの浸透性支持体や、ガラス、プラスチック、フィルムなどの非浸透性支持体が挙げられる。本発明において、インク受容層は、顔料やバインダー、必要に応じて、添加剤を含むことが好ましい。インク受容層は、上記の成分を適宜配合した塗工液を支持体上に塗工することで形成できる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。また、以下に示す各シアン染料の構造式中において、フタロシアニン骨格の置換基の数をa、b、cで表し、更に、それぞれがとり得る値の範囲を示している。これは、各シアン染料は、置換基数の異なる複数の構造式の染料の混合物であるからである。
【0037】
[インクの調製]
<インク1の調製>
下記に示す成分を混合した。
・シアン染料A 5.0質量%
・1,5−ペンタンジオール 5.0質量%
・グリセリン 5.0質量%
・界面活性剤:アセチレノールE100(川研ファインケミカル製) 0.2質量%
・イオン交換水 84.8質量%
これを十分撹拌して分散し、ポアサイズ2.0μmのフィルター(MILLIPORE製)でろ過し、インク1を調製した。尚、シアン染料Aは下記式で表されるものである。
【0038】
【化2】

【0039】
上記式において、MはNaであった。また、0≦b≦2.9、0.1≦c≦3.0、1.0≦b+c≦3.0であった。
【0040】
<インク2の調製>
シアン染料Aを、下記式で表されるシアン染料Bにした以外は、インク1と同様にしてインク2を調製した。
【0041】
【化3】

【0042】
上記式において、MはLiであった。また、1≦a≦4、0≦b≦3、1≦a+b≦4であった。
【0043】
<インク3の調製>
シアン染料Aを、下記式で表されるシアン染料Cにした以外は、インク1と同様にしてインク3を調製した。
【0044】
【化4】

【0045】
上記式において、MはNaであった。また、0≦a≦4、0≦b≦4、0≦c≦4、1≦a+b+c≦4であった。
【0046】
<インク4の調製>
シアン染料Aを、下記式で表されるシアン染料Dにした以外は、インク1と同様にしてインク4を調製した。
【0047】
【化5】

【0048】
上記式において、MはNaであった。また、1≦a≦2、2≦b≦2、3≦a+b≦4であった。
【0049】
<インク5の調製>
シアン染料Aを、下記式で表されるシアン染料Eにした以外は、インク1と同様にしてインク5を調製した。
【0050】
【化6】

【0051】
上記式において、MはLiであった。
【0052】
<インク6の調製>
シアン染料Aを、下記式で表されるシアン染料Fにした以外は、インク1と同様にしてインク6を調製した。
【0053】
【化7】

【0054】
上記式において、MはNaであった。また、0≦a≦4、0≦b≦4、0≦c≦4、1≦a+b+c≦4であった。
【0055】
[液体組成物の調製]
表1に示す成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ2.0μmのフィルター(MILLIPORE製)でろ過した。更に、10質量%硫酸水溶液又は10質量%水酸化カリウム水溶液を適宜加えることで、表1に記載のpHとなるように調製した。尚、液体組成物のpHの測定は、pHメータ F−21(堀場製作所製)を用い、25℃で行った。
【0056】
【表1】

【0057】
上記で得られた液体組成物について、400nm乃至800nmの波長域における最大吸光度Amaxと最小吸光度Aminを日立ダブルビーム分光光度計U−2900によって測定した。そして、比Amax/Aminを算出したところ何れの液体組成物も1.0以上2.0以下であった。また、表1から明らかな通り、何れの液体組成物も樹脂を含有していなかった。
【0058】
[記録媒体の用意]
記録媒体としては、表面粗さが0.90μmである記録媒体1、表面粗さが0.80μmである記録媒体2、キヤノン写真用紙・光沢 プロフェッショナルPR−201(表面粗さが0.10μmである)(記録媒体3とする)の3種類を用意した。
【0059】
[評価]
上記で得られた液体組成物及びインクを、それぞれ液体カートリッジに充填し、表2に示す組合せでセットとし、インクジェット記録装置PIXUS Pro9000 MarkII(キヤノン製)に装着した。このとき、シアンの位置にインクを、マゼンタの位置に液体組成物を装着した。尚、上記インクジェット記録装置では、解像度600dpi×600dpiで1/600インチ×1/600インチの単位領域に2.8ng(ナノグラム)のインク滴を8ドット付与する条件を、記録デューティが100%であると定義される。
【0060】
(インクと反応しない液体組成物であるか否かの確認)
それぞれ用いる液体組成物及びインクを、1:1の質量比率で混合した。この混合溶液について、円錐平板型回転粘度計RE80L(東機産業製)を用いて、50rpm/minの条件で測定した25℃における粘度をdMIXとする。更に、同様にしてインク及び液体組成物の25℃における粘度を測定し、それぞれd、dとしたときに、dMIX≦((d+d)/2)×1.3の関係式を満たす場合、インクと反応しない液体組成物であると判断した。その結果、何れの液体組成物及びインクのセットも上記関係式を満たし、インクと反応しない液体組成物であることを確認した。
【0061】
(耐ブロンズ性能)
本発明においては下記の耐ブロンズ性能の評価基準において、A〜Bが好ましいレベルとし、Cは許容できないレベルとした。
【0062】
<実施例1〜21、比較例1〜2>
表2に示した各記録媒体に対して、インクの記録デューティが100%のベタ画像(画像1)と、インクの記録デューティが100%のベタ画像と重なるように液体組成物を記録デューティ75%で付与した画像2をそれぞれ作製した。得られた画像1及び2を常温で24時間保存した後、目視で比較することで耐ブロンズ性能を評価した。耐ブロンズ性能の評価基準は以下の通りである。評価結果を表2に示す。尚、記録条件は、温度:23℃、相対湿度:55%とした。
A:画像1と比較して、画像2の耐ブロンズ性能が顕著に良化した
B:画像1と比較して、画像2の耐ブロンズ性能が良化した
C:画像1と画像2で、耐ブロンズ性能に差はなかった。
【0063】
【表2】

【0064】
<実施例22>
インクと液体組成物の付与順序が上記実施例及び比較例と逆の場合(液体組成物→インクの順序)について検討を行った。インク1及び液体組成物1をそれぞれ液体カートリッジに充填し、上記インクジェット記録装置PIXUS Pro9000 MarkIIに装着した。そして、記録媒体1に対して、インク1の記録デューティが100%のベタ画像(画像3)と、液体組成物1の記録デューティが75%の画像と重なるようにインク1を記録デューティ100%で付与した画像4をそれぞれ作製した。得られた画像3及び4を常温で24時間保存した後、目視で比較することで耐ブロンズ性能を評価した。耐ブロンズ性能の評価基準は上記<実施例1〜21、比較例1〜2>と同様である。結果は、A評価であった。
【0065】
<実施例23〜27>
インクと液体組成物の付与量の比V/Vが異なる場合について検討を行った。尚、本実施例においては、インクと液体組成物の記録デューティが100%の定義が同じであるから、インクと液体組成物の付与量の比V/Vは、インクと液体組成物の記録デューティの比で表される。インク1及び液体組成物1をそれぞれ液体カートリッジに充填し、上記インクジェット記録装置PIXUS Pro9000 MarkIIに装着した。そして、記録媒体1に対して、インク1を表3に示した記録デューティ(%)で記録したベタ画像(画像5)をそれぞれ作製した。次に、記録媒体1に対して、インク1を表3に示した記録デューティ(%)で記録したベタ画像と重なるように、液体組成物1を表3に示した記録デューティ(%)で付与した画像6をそれぞれ作製した。得られた画像5及び6を常温で24時間保存した後、目視で比較することで耐ブロンズ性能を評価した。耐ブロンズ性能の評価基準は上記<実施例1〜21、比較例1〜2>と同様である。結果を表3に示した。
【0066】
【表3】

【0067】
<実施例28>
液体組成物をインクジェット方式ではなく塗布方式で行った場合について検討を行った。インク1を液体カートリッジに充填し、前記インクジェット記録装置PIXUS Pro9000 MarkIIに装着した。そして、記録媒体1に対して、インク1の記録デューティが100%のベタ画像(画像7)を作製した。次に、記録媒体1に対して、記録デューティが100%のベタ画像を作製した後、液体組成物1を、バーコーターNo.08(第一理化製)を用いて、塗布量:9.6g/m(記録デューティが100%相当)で、上記で得られた記録媒体1のベタ画像の全面に塗布した画像8を作製した。得られた画像7及び8を常温で24時間保存した後、目視で比較することで耐ブロンズ性能を評価した。耐ブロンズ性能の評価基準は上記<実施例1〜21、比較例1〜2>と同様である。結果は、A評価であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタロシアニン骨格を有する染料を含有するインクを、表面粗さ0.9μm以上の記録媒体に付与する工程、及び、前記インクと反応せず、かつ、樹脂を含有しない液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有することを特徴とする画像記録方法。


【公開番号】特開2013−49151(P2013−49151A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187327(P2011−187327)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】