説明

画像記録装置、画像記録方法

【課題】記録媒体の搬送開始時にドラムの回転を速やかに始動させて、記録媒体の搬送に対してドラムの回転の追従性が悪い期間を短縮することを可能とする技術を提供する。
【解決手段】記録媒体を搬送する搬送部と、記録媒体を巻き掛けて、搬送部により搬送される記録媒体との間の摩擦力を受けて回転するドラムと、搬送部に搬送される記録媒体のドラムに巻き掛けられた部分に画像を記録する記録部とを備え、搬送部は、記録媒体に第1テンションを付与した状態で記録媒体の搬送を開始する一方、記録媒体の搬送を開始した後に記録媒体に付与するテンションを第1テンションより低い第2テンションに切り換える切換動作を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、記録媒体をドラムに巻き掛けつつ搬送することで、搬送される記録媒体との間の摩擦力を受けて回転するドラムによって記録媒体を支持する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、用紙搬送部から用紙プラー部へと搬送される連続紙を、用紙搬送部と用紙プラー部との間に配置された搬送ドラムに巻き掛けた記録装置が記載されている。この搬送ドラムは、連続紙を巻き掛けることで、搬送される連続紙との間に働く摩擦力を受けて回転しながら連続紙を支持するものである。そして、この記録装置では、連続紙の搬送ドラムに巻き掛けられた部分に、印字部がインクを噴射して画像を記録する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−086472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、搬送される記録媒体との間の摩擦力によって、記録媒体を巻き掛けるドラムを回転させる構成では、記録媒体とドラムの間の摩擦力が小さいと、記録媒体の搬送開始時にドラムの回転が速やかに始動しない場合があった。このような場合、記録媒体の搬送に対してドラムの回転が追従せず、その結果、記録媒体の搬送速度が不安定になるおそれがある。この際、搬送速度の不安定な記録媒体に適切な画像を記録することは難しく、とはいえ記録媒体の搬送速度が安定するまで画像の記録を遅らせることは記録媒体の無駄を生じる。そこで、記録媒体の搬送開始時にドラムの回転を速やかに始動させて、記録媒体の搬送に対してドラムの回転の追従性が悪い期間を短縮することが求められていた。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、記録媒体の搬送開始時にドラムの回転を速やかに始動させて、記録媒体の搬送に対してドラムの回転の追従性が悪い期間を短縮することを可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる画像記録装置は、上記目的を達成するために、記録媒体を搬送する搬送部と、記録媒体を巻き掛けて、搬送部により搬送される記録媒体との間の摩擦力を受けて回転するドラムと、搬送部に搬送される記録媒体のドラムに巻き掛けられた部分に画像を記録する記録部とを備え、搬送部は、記録媒体に第1テンションを付与した状態で記録媒体の搬送を開始する一方、記録媒体の搬送を開始した後に記録媒体に付与するテンションを第1テンションより低い第2テンションに切り換える切換動作を実行することを特徴としている。
【0007】
この発明にかかる画像記録方法は、上記目的を達成するために、搬送される記録媒体との間の摩擦力を受けて回転するドラムに記録媒体に巻き掛けるとともに、搬送される記録媒体のドラムに巻き掛けられた部分に画像を記録する画像記録方法において、記録媒体に第1テンションを付与した状態で記録媒体の搬送を開始する工程と、記録媒体の搬送を開始した後に記録媒体に付与するテンションを第1テンションより低い第2テンションに切り換える工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
このように構成された発明(画像記録装置、画像記録方法)は、記録媒体に第1テンションを付与した状態で記録媒体の搬送を開始する一方、記録媒体の搬送を開始した後に記録媒体に付与するテンションを第1テンションより低い第2テンションに切り換える。つまり、記録媒体の搬送開始時には高い第1テンションが記録媒体に付与され、記録媒体の搬送開始後に記録媒体に付与するテンションが低い第2テンションに切り換えられる。このように、記録媒体の搬送開始時には、高い第1テンションが記録媒体に付与されるため、この第1テンションに応じた大きな摩擦力が記録媒体とドラムの間に働く。よって、記録媒体の搬送開始時にドラムの回転を速やかに始動させて、記録媒体の搬送に対してドラムの回転の追従性が悪い期間の短縮を図ることが可能となっている。
【0009】
この際、搬送部は、記録媒体の搬送速度を、搬送開始以後の加速期間に加速させた後に等速度に維持するように画像記録装置を構成することができる。ただし、このような構成では、記録媒体が加速される加速期間において、記録媒体の搬送の加速に対してドラムの回転の加速が十分に追従しないことが考えられる。
【0010】
特に、加速期間の途中で、記録媒体に付与するテンションが低い第2テンションに切り換えられたような場合、この問題が顕著となるおそれがある。そこで、搬送部は、記録媒体の搬送速度が等速度になった時点以後に記録媒体に付与するテンションが第2テンションとなるように切換動作を実行するよう、画像記録装置を構成しても良い。これによって、記録媒体が加速される加速期間において、記録媒体の搬送の加速に対してドラムの回転の加速を追従させることが可能になる。
【0011】
ちなみに、搬送部は、記録媒体に付与するテンションを第1テンションから第2テンションまで減少させて切換動作を実行するように、画像記録装置を構成することができる。この際、搬送部は、記録媒体に付与するテンションの減少を加速期間に開始するように、画像記録装置を構成しても良い。あるいは、搬送部は、加速期間は記録媒体に付与するテンションを第1テンションに維持し、記録媒体の搬送速度が等速度になった時点以後に記録媒体に付与するテンションの減少を開始するように、画像記録装置を構成しても良い。
【0012】
また、上述のような構成では、記録部が画像の記録を開始するタイミングとしては、種々のタイミングが考えられる。そこで、記録部は、加速期間中に画像の記録を開始するように、画像記録装置を構成しても良い。あるいは、記録部は、記録媒体の搬送速度が等速度になった時点以後に画像の記録を開始するように、画像記録装置を構成しても良い。もしくは、記録部は、搬送部が記録媒体に付与するテンションが第2テンションになった時点以後に画像の記録を開始するように、画像記録装置を構成することもできる。
【0013】
また、上述のような構成では、ドラムの回転に基づいて装置各部を制御することが考えられる。そこで、ドラムの回転を検出する回転検出器をさらに備えるように、画像記録装置を構成しても良い。
【0014】
その上で、記録部は、記録媒体に画像の記録を実行するタイミングを、回転検出器の検出結果に基づいて調整するように、画像記録装置を構成しても良い。なお、このようにドラムの回転を検出した結果に基づいて、記録媒体への画像記録の実行タイミングを調整する構成では、記録媒体の搬送に対してドラムの回転の追従性が悪いと、記録媒体の目標位置に正確に画像を形成できない。そのため、記録媒体に対するドラムの追従性の悪い期間は、記録媒体への画像記録を待機する必要が生じる場合があった。これに対して、この発明では、記録媒体に対するドラムの追従性が悪い期間の短縮化が図られているため、記録媒体への画像記録の待機時間も短縮することが可能となる。その結果、記録媒体への画像記録を速やかに実行することができる。
【0015】
また、搬送部は、記録媒体に付与するテンションを第2テンションに切り換えるタイミングを、回転検出器の検出結果に基づいて調整するように、画像記録装置を構成しても良い。このような構成では、回転検出器の検出結果にから記録媒体へのドラムの追従性を確認しながら、記録媒体に付与するテンションの第2テンションへの切り換えを適切なタイミングで実行できる。
【0016】
なお、上記の切換動作を、記録媒体の種別に応じて実行するように構成しても良い。例えば、搬送部は、記録媒体がフィルム系である場合に切換動作を実行するように、画像記録装置を構成しても良い。つまり、フィルム系の記録媒体は、テンションによって伸びやすい性質を有する。したがって上述のように、高いテンションを付与する期間を記録媒体の搬送開始時の近辺に限定して、搬送開始後には記録媒体に付与するテンションを低く抑えておくことが好適である。
【0017】
一方、紙系の記録媒体は、テンションによる伸びが少ない。そこで、記録媒体の搬送開始時の近辺に限らず、高いテンションを継続的に付与しておくこともできる。そこで、搬送部は、記録媒体が紙系である場合には、第2テンションより高い第3テンションを記録媒体へ付与した状態で記録媒体の搬送を開始するとともに、記録媒体の搬送を開始した後においても切換動作を行なうこと無く、記録媒体に付与するテンションを第3テンションに維持するように、画像記録装置を構成しても良い。このような構成においても、記録媒体の搬送開始時には、高い第3テンションが記録媒体に付与されるため、この第3テンションに応じた大きな摩擦力が記録媒体とドラムの間に働く。よって、記録媒体の搬送開始時にドラムの回転を速やかに始動させて、記録媒体の搬送に対してドラムの回転の追従性が悪い期間の短縮を図ることが可能となる。
【0018】
また、搬送部は、記録媒体のテンションを検出するテンション検出器を有し、テンション検出器の検出結果に応じて記録媒体に付与するテンションを調整するように、画像記録装置を構成しても良い。このように構成することで、記録媒体に付与するテンションを精度良く調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用可能なプリンターが備える装置構成の一例を模式的に示す図。
【図2】図1に示すプリンターを制御する電気的構成を模式的に示す図。
【図3】第1実施形態のプリンターで実行される動作を示すフローチャート。
【図4】第1実施形態のプリンターで実行される動作を示すタイミングチャート。
【図5】ヤレ紙の量を説明するための説明図。
【図6】第2実施形態のプリンターで実行される動作を示すフローチャート。
【図7】第2実施形態のプリンターで実行される動作を示すタイミングチャート。
【図8】第3実施形態のプリンターで実行される動作を示すフローチャート。
【図9】第3実施形態のプリンターで実行される動作を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1実施形態
図1は、本発明を適用可能なプリンターが備える装置構成の一例を模式的に示す正面図である。図1に示すように、プリンター1では、その両端が繰出軸20および巻取軸40にロール状に巻き付けられた1枚のシートS(ウェブ)が、繰出軸20と巻取軸40の間に張架されており、シートSはこうして張架された経路Pcに沿って、繰出軸20から巻取軸40へと搬送される。そして、プリンター1では、この搬送経路Pcに沿って搬送されるシートSに対して画像が記録される。シートSの種類は、紙系とフィルム系に大別される。具体例を挙げると、紙系には上質紙、キャスト紙、アート紙、コート紙等があり、フィルム系には合成紙、PET(Polyethylene terephthalate)、PP(polypropylene)等がある。概略的には、プリンター1は、繰出軸20からシートSを繰り出す繰出部2と、繰出部2から繰り出されたシートSに画像を記録するプロセス部3と、プロセス部3で画像の記録されたシートSを巻取軸40に巻き取る巻取部4を備える。なお、以下の説明では、シートSの両面のうち、画像が記録される面を表面と称する一方、その逆側の面を裏面と称する。
【0021】
繰出部2は、シートSの端を巻き付けた繰出軸20と、繰出軸20から引き出されたシートSを巻き掛ける従動ローラー21とを有する。繰出軸20は、シートSの表面を外側に向けた状態で、シートSの端を巻き付けて支持する。そして、繰出軸20が図1の時計回りに回転することで、繰出軸20に巻き付けられたシートSが従動ローラー21を経由してプロセス部3へと繰り出される。ちなみに、シートSは、繰出軸20に着脱自在な芯管(図示省略)を介して繰出軸20に巻き付けられている。したがって、繰出軸20のシートSが使い切られた際には、ロール状のシートSが巻き付けられた新たな芯管を繰出軸20に装着して、繰出軸20のシートSを取り換えることが可能となっている。
【0022】
プロセス部3は、繰出部2から繰り出されたシートSをプラテンドラム30で支持しつつ、プラテンドラム30の外周面に沿って配置された各機能部51、52、61、62、63により処理を適宜行って、シートSに画像を記録するものである。このプロセス部3では、プラテンドラム30の両側に前駆動ローラー31と後駆動ローラー32とが設けられており、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSがプラテンドラム30に支持されて、画像記録を受ける。
【0023】
前駆動ローラー31は、溶射によって形成された複数の微小突起を外周面に有しており、繰出部2から繰り出されたシートSを裏面側から巻き掛ける。そして、前駆動ローラー31は図1の時計回りに回転することで、繰出部2から繰り出されたシートSを搬送経路の下流側へと搬送する。なお、前駆動ローラー31に対してはニップローラー31nが設けられている。このニップローラー31nは、前駆動ローラー31側へ付勢された状態でシートSの表面に当接しており、前駆動ローラー31との間でシートSを挟み込む。これによって、前駆動ローラー31とシートSの間の摩擦力が確保され、前駆動ローラー31によるシートSの搬送を確実に行なうことができる。
【0024】
プラテンドラム30は図示を省略する支持機構により回転自在に支持された円筒形状のドラムであり、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSを裏面側から巻き掛ける。このプラテンドラム30は、シートSとの間の摩擦力を受けてシートSの搬送方向Dsに従動回転しつつ、シートSを裏面側から支持するものである。ちなみに、プロセス部3では、プラテンドラム30への巻き掛け部の両側でシートSを折り返す従動ローラー33、34が設けられている。これらのうち従動ローラー33は、前駆動ローラー31とプラテンドラム30の間でシートSの表面を巻き掛けて、シートSを折り返す。一方、従動ローラー34は、プラテンドラム30と後駆動ローラー32の間でシートSの表面を巻き掛けて、シートSを折り返す。このように、プラテンドラム30に対して搬送方向Dsの上・下流側それぞれでシートSを折り返すことで、プラテンドラム30へのシートSの巻き掛け部を長く確保することができる。
【0025】
後駆動ローラー32は、溶射によって形成された複数の微小突起を外周面に有しており、プラテンドラム30から従動ローラー34を経由して搬送されてきたシートSを裏面側から巻き掛ける。そして、後駆動ローラー32は図1の時計回りに回転することで、シートSを巻取部4へと搬送する。なお、後駆動ローラー32に対してはニップローラー32nが設けられている。このニップローラー32nは、後駆動ローラー32側へ付勢された状態でシートSの表面に当接しており、後駆動ローラー32との間にシートSを挟み込む。これによって、後駆動ローラー32とシートSの間の摩擦力が確保され、後駆動ローラー32によるシートSの搬送を確実に行なうことができる。
【0026】
このように、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSは、プラテンドラム30の外周面に支持される。そして、プロセス部3では、プラテンドラム30に支持されるシートSの表面に対してカラー画像を記録するために、互いに異なる色に対応した複数の記録ヘッド51が設けられている。具体的には、イエロー、シアン、マゼンタおよびブラックに対応する4個の記録ヘッド51が、この色順で搬送方向Dsに並ぶ。各記録ヘッド51は、プラテンドラム30に巻き掛けられたシートSの表面に対して若干のクリアランスを空けて対向しており、対応する色のインクをインクジェット方式で吐出する。そして、搬送方向Dsへ搬送されるシートSに対して各記録ヘッド51がインクを吐出することで、シートSの表面にカラー画像を形成される。
【0027】
ちなみに、インクとしては、紫外線(光)を照射することで硬化するUV(ultraviolet)インク(光硬化性インク)が用いられる。そこで、プロセス部3では、インクを硬化させてシートSに定着させるために、UVランプ61、62(光照射部)が設けられている。なお、このインク硬化は、仮硬化と本硬化の二段階に分けて実行される。複数の記録ヘッド51の各間には、仮硬化用のUVランプ61が配置されている。つまり、UVランプ61は弱い紫外線を照射することで、インクの形状が崩れない程度にインクを硬化(仮硬化)させるものであり、インクを完全に硬化させるものではない。一方、複数の記録ヘッド51に対して搬送方向Dsの下流側には、本硬化用のUVランプ62が設けられている。つまり、UVランプ62は、UVランプ61より強い紫外線を照射することで、インクを完全に硬化(本硬化)させるものである。こうして仮硬化・本硬化を実行することで、複数の記録ヘッド51が形成したカラー画像をシートS表面に定着させることができる。
【0028】
さらに、UVランプ62に対して搬送方向Dsの下流側には、記録ヘッド52が設けられている。この記録ヘッド52は、プラテンドラム30に巻き掛けられたシートSの表面に対して若干のクリアランスを空けて対向しており、透明のUVインクをインクジェット方式でシートSの表面に吐出する。つまり、4色分の記録ヘッド51によって形成されたカラー画像に対して、透明インクがさらに吐出される。また、記録ヘッド52に対して搬送方向Dsの下流側には、UVランプ63が設けられている。このUVランプ63は強い紫外線を照射することで、記録ヘッド52が吐出した透明インクを完全に硬化(本硬化)させるものである。これによって、透明インクをシートS表面に定着させることができる。
【0029】
このように、プロセス部3では、プラテンドラム30の外周部に巻き掛けられるシートSに対して、インクの吐出および硬化が適宜実行されて、透明インクでコーティングされたカラー画像が形成される。そして、このカラー画像の形成されたシートSが、後駆動ローラー32によって巻取部4へと搬送される。
【0030】
巻取部4は、シートSの端を巻き付けた巻取軸40の他に、巻取軸40と後駆動ローラー32の間でシートSを裏面側から巻き掛ける従動ローラー41を有する。巻取軸40は、シートSの表面を外側に向けた状態で、シートSの端を巻き取って支持する。つまり、巻取軸40が図1の時計回りに回転すると、後駆動ローラー32から搬送されてきたシートSが従動ローラー41を経由して巻取軸40に巻き取られる。ちなみに、シートSは、巻取軸40に着脱自在な芯管(図示省略)を介して巻取軸40に巻き取られる。したがって、巻取軸40に巻き取られたシートSが満杯になった際には、芯管ごとシートSを取り外すことが可能となっている。
【0031】
以上がプリンター1の装置構成の概要である。続いて、プリンター1を制御する電気的構成について説明を行なう。図2は、図1に示すプリンターを制御する電気的構成を模式的に示すブロック図である。上述したプリンター1の動作は、図2に示すホストコンピューター10によって制御される。ホストコンピューター10では、制御動作を統括するホスト制御部100がCPU(Central Processing Unit)やメモリーにより構成されている。また、ホストコンピューター10にはドライバー120が設けられており、このドライバー120がメディア122からプログラム124を読み出す。なお、メディア122としては、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、USB(Universal Serial Bus)メモリー等の種々のものを用いることができる。そして、ホスト制御部100は、メディア122から読み出したプログラム124に基づいて、ホストコンピューター10の各部の制御やプリンター1の動作の制御を行なう。
【0032】
さらに、ホストコンピューター10には作業者とのインターフェースとして、液晶ディスプレー等で構成されるモニター130と、キーボードやマウス等で構成される操作部140とが設けられている。モニター130には、印刷対象の画像の他にメニュー画面が表示される。したがって、作業者は、モニター130を確認しつつ操作部140を操作することで、メニュー画面から印刷設定画面を開いて、印刷媒体の種類、印刷媒体のサイズ、印刷品質等の各種の印刷条件を設定することができる。なお、作業者とのインターフェースの具体的構成は種々の変形が可能であり、例えばタッチパネル式のディスプレーをモニター130として用い、このモニター130のタッチパネルで操作部140を構成しても良い。
【0033】
一方、プリンター1では、ホストコンピューター10からの指令に応じてプリンター1の各部を制御するプリンター制御部200が設けられている。そして、記録ヘッド、UVランプおよびシート搬送系の装置各部はプリンター制御部200によって制御される。これら装置各部に対するプリンター制御部200の制御の詳細は次のとおりである。
【0034】
プリンター制御部200は、カラー画像を形成する各記録ヘッド51のインク吐出タイミングを、シートSの搬送に応じて制御する。具体的には、このインク吐出タイミングの制御は、プラテンドラム30の回転軸に取り付けられて、プラテンドラム30の回転位置を検出するドラムエンコーダーE30の出力(検出値)に基づいて実行される。つまり、プラテンドラム30はシートSの搬送に伴って従動回転するため、プラテンドラム30の回転位置を検出するドラムエンコーダーE30の出力を参照すれば、シートSの搬送位置を把握することができる。そこで、プリンター制御部200は、ドラムエンコーダーE30の出力からpts(print timing signal)信号を生成し、このpts信号に基づいて各記録ヘッド51のインク吐出タイミングを制御することで、各記録ヘッド51が吐出したインクを搬送されるシートSの目標位置に着弾させて、カラー画像を形成する。
【0035】
また、記録ヘッド52が透明インクを吐出するタイミングも、同様にドラムエンコーダーE30の出力に基づいてプリンター制御部200により制御される。これによって、複数の記録ヘッド51によって形成されたカラー画像に対して、透明インクを的確に吐出することができる。さらに、UVランプ61、62、63の点灯・消灯のタイミングや照射光量もプリンター制御部200によって制御される。
【0036】
また、プリンター制御部200は、図1を用いて詳述したシートSの搬送を制御する機能を司る。つまり、シート搬送系を構成する部材のうち、繰出軸20、前駆動ローラー31、後駆動ローラー32および巻取軸40それぞれにはモーターが接続されている。そして、プリンター制御部200はこれらのモーターを回転させつつ、各モーターの速度やトルクを制御して、シートSの搬送を制御する。このシートSの搬送制御の詳細は次のとおりである。
【0037】
プリンター制御部200は、繰出軸20を駆動する繰出モーターM20を回転させて、繰出軸20から前駆動ローラー31にシートSを供給する。この際、プリンター制御部200は、繰出モーターM20のトルクを制御して、繰出軸20から前駆動ローラー31までのシートSのテンション(繰出テンションTa)を調整する。つまり、繰出軸20と前駆動ローラー31の間に配置された従動ローラー21には、繰出テンションTaを検出するテンションセンサーS21が取り付けられている。このテンションセンサーS21は、例えばシートSから受ける力を検出するロードセルによって構成することができる。そして、プリンター制御部200は、テンションセンサーS21の検出結果に基づいて、繰出モーターM20のトルクをフィードバック制御して、シートSの繰出テンションTaを調整する。
【0038】
この際、プリンター制御部200は、繰出軸20から前駆動ローラー31へ供給されるシートSの幅方向(図1の紙面の直交方向)の位置を調整しつつ、シートSの繰り出しを行う。つまり、プリンター1には、繰出軸20および従動ローラー21それぞれを軸方向(言い換えればシートSの幅方向)に変位させるステアリングユニット7が設けられている。また、従動ローラー21と前駆動ローラー31の間にはシートSの幅方向への端を検出するエッジセンサーSeが配置されている。このエッジセンサーSeは、例えば超音波センサー等の距離センサーで構成することができる。そして、プリンター制御部200は、エッジセンサーSeの検出結果に基づいて、ステアリングユニット7をフィードバック制御して、シートSの幅方向への位置を調整する。これによって、シートSの幅方向への位置が適切化されて、シートSの蛇行等の搬送不良が抑制される。
【0039】
また、プリンター制御部200は、前駆動ローラー31を駆動する前駆動モーターM31と、後駆動ローラー32を駆動する後駆動モーターM32とを回転させる。これによって、繰出部2から繰り出されたシートSがプロセス部3を通過する。この際、前駆動モーターM31に対しては速度制御が実行される一方、後駆動モーターM32に対してはトルク制御が実行される。つまり、プリンター制御部200は、前駆動モーターM31のエンコーダー出力に基づいて、前駆動モーターM31の回転速度を一定に調整する。これによって、シートSは、前駆動ローラー31によって一定速度で搬送される。
【0040】
一方、プリンター制御部200は、後駆動モーターM32のトルクを制御して、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32までのシートSのテンション(プロセステンションTb)を調整する。つまり、プラテンドラム30と後駆動ローラー32の間に配置された従動ローラー34には、プロセステンションTbを検出するテンションセンサーS34が取り付けられている。このテンションセンサーS34は、例えばシートSから受ける力を検出するロードセルによって構成することができる。そして、プリンター制御部200は、テンションセンサーS34の検出結果に基づいて、後駆動モーターM32のトルクをフィードバック制御して、シートSのプロセステンションTbを調整する。
【0041】
また、プリンター制御部200は、巻取軸40を駆動する巻取モーターM40を回転させて、後駆動ローラー32が搬送するシートSを巻取軸40に巻き取る。この際、プリンター制御部200は、巻取モーターM40のトルクを制御して、後駆動ローラー32から巻取軸40までのシートSのテンション(巻取テンションTc)を調整する。つまり、後駆動ローラー32と巻取軸40の間に配置された従動ローラー41には、巻取テンションTcを検出するテンションセンサーS41が取り付けられている。このテンションセンサーS41は、例えばシートSから受ける力を検出するロードセルによって構成することができる。そして、プリンター制御部200は、テンションセンサーS41の検出結果に基づいて、巻取モーターM40のトルクをフィードバック制御して、シートSの巻取テンションTcを調整する。
【0042】
以上が、プリンター1を制御する電気的構成の概要である。上述したように、プリンター1では、プラテンドラム30が、シートSとの間の摩擦力を受けてシートSの搬送方向Dsに従動回転しつつ、シートSを支持する。ただし、このような構成では、シートSの搬送開始時にプラテンドラム30の回転が速やかに始動しない場合があった。この理由は、プラテンドラム30とこれの支持機構の間に働くクーロン摩擦力と、プラテンドラム30のイナーシャとに打ち勝って、プラテンドラム30をしっかり回転させるだけの摩擦力がシートSとプラテンドラム30の間に確保されないことにある。これに対して、第1実施形態では、プロセス部3のシートSにプレテンションF1を付与した状態からシートSの搬送を開始することで、プラテンドラム30の回転の速やかな始動を図っている。続いては、かかる動作について詳述する。
【0043】
図3は、第1実施形態にかかるプリンターで実行される動作の概要を示すフローチャートである。図4は、第1実施形態にかかるプリンターで実行される動作の概要を示すタイミングチャートである。ホストコンピューター10から画像記録を開始する旨の指令を受けると、プリンター制御部200は図3のフローチャートを実行する。なお、このフローチャートはプログラム124から読み出されて、プリンター制御部200内のメモリー等に予め記憶されている。
【0044】
ステップS101において、繰出モーターM20、後駆動モーターM32および巻取モーターM40のトルクが調整されて、繰出部2、プロセス部3および巻取部4それぞれでのシートSのテンションTa、Tb、Tcが初期値に設定される。特にこの実施形態では、プロセス部3のテンションTbは、比較的高いプレテンションF1に設定される。図4に示すように、プレテンションF1の設定は、所定時間(=t1−t0)をかけて「ゼロ」から「F1」までテンションを増加させることで実行される。これによって、高いプレテンションF1が急激にシートSに働くことで、シートSが大きく動いて他の機能部と干渉したりあるいは破断したりといった不具合の発生が抑制されている。なお、このステップS101では、前駆動モーターM31は動作しておらず、シートSは停止している。
【0045】
続くステップS102では、前駆動モーターM31が動作することで、前駆動ローラー31が回転を開始して、シートSの搬送が開始する。これによって、シートSの搬送速度が加速する(図4の時刻t2〜t3)。また、プロセス部3のシートSに高いプレテンションF1が付与されることで、シートSのプラテンドラム30への巻き掛け部分には高いテンションがかかっている。そのため、シートSの搬送開始時において、シートSとプラテンドラム30の間には大きな摩擦力が働いている。したがって、シートSの搬送開始時におけるプラテンドラム30の回転を速やかに始動させることが可能となっている。そして、プラテンドラム30の回転は、シートSの搬送速度の加速に伴って加速する。なお、シートSの搬送速度の加速期間(時刻t2〜t3)に渡って、シートSに付与するテンションTbはプレテンションF1に維持される。
【0046】
ステップS103では、シートSの搬送速度が速度V1に到達したか否かが判断される。具体的には、前駆動モーターM31のエンコーダー出力から算出される前駆動ローラー31の周速度がシートSの搬送速度として求められ、この搬送速度と速度V1とが比較されて、ステップS103での判断が実行される。シートSの搬送速度が速度V1に到達すると(ステップS103で「YES」の場合)、ステップS104に進んで、シートSの搬送速度が速度V1に固定されて、シートSが定速搬送される(図4の時刻t3以後)。
【0047】
シートSの搬送速度が速度V1に到達して一定速度になると、ステップS105において、プロセス部3でのシートSのテンションTbの減少が開始される。具体的には、シートSの搬送速度が速度V1となった時刻t3より所定時間だけ待った時刻t4に、テンションTbの減少が開始される。そして、ステップS106では、テンションTbがテンションF2(<F1)にまで減少したか否かが判断される。そして、テンションTbがテンションF2まで減少すると(ステップS106で「YES」の場合)、ステップS107に進んで、テンションTbがテンションF2に固定されて、一定に保持される。このようにこの実施形態では、ステップS105〜S107が実行されて、シートSのテンションTbをテンションF2に切り換える切換動作が実行される。
【0048】
また、ステップS104においてシートSの搬送速度が一定速度になると、上述のステップS105〜S107でのテンションTbの切換動作と並行して、ステップS108、S109が実行される。このステップS108では、プラテンドラム30の周速度がシートSの搬送速度(=V1)に一致するか否かが判断される。具体的には、プラテンドラム30のドラムエンコーダーE30出力から算出されたプラテンドラム30の周速度と搬送速度(=V1)との差が所定の閾値以下となれば、これらは一致すると判断する。そして、プラテンドラム30の周速度が搬送速度(=V1)に一致すると、ステップS109の画像記録が実行される(図4の時刻ts)。なお、この画像記録は、上述したようにpts信号に応じたタイミングで各記録ヘッド51からインクを吐出させて実行される。
【0049】
以上に説明したように、この実施形態では、シートSにプレテンションF1を付与した状態でシートSの搬送を開始する一方、シートSの搬送を開始した後にシートSに付与するテンションTbをプレテンションF1より低いテンションF2に切り換える。つまり、シートSの搬送開始時には高いプレテンションF1がシートSに付与され、シートSの搬送開始後にシートSに付与するテンションTbが低いテンションF2に切り換えられる。このように、シートSの搬送開始時には、高いプレテンションF1がシートSに付与されるため、このプレテンションF1に応じた大きな摩擦力がシートSとプラテンドラム30の間に働く。よって、シートSの搬送開始時にプラテンドラム30の回転を速やかに始動させて、シートSの搬送に対してプラテンドラム30の回転の追従性が悪い期間の短縮を図ることが可能となっている。
【0050】
ちなみに、この実施形態では、シートSのテンションTbを検出するテンションセンサーS34の検出結果に応じてシートSに付与するテンションTbが調整されている。したがって、シートSに付与するテンションTbを精度良く調整することが可能となっている。
【0051】
ところで、この実施形態では、シートSの搬送速度は、搬送開始以後の加速期間(時刻t2〜t3)に加速させた後に等速度に維持される。ただし、このような構成では、シートSが加速される加速期間において、シートSの搬送の加速に対してプラテンドラム30の回転の加速が十分に追従しないことが考えられる。特に、加速期間の途中で、シートSに付与するテンションTbが低いテンションF2に切り換えられたような場合、この問題が顕著となるおそれがある。これに対して、この実施形態では、シートSの搬送速度が等速度になった時点t3以後にシートSに付与するテンションTbがテンションF2となるように切換動作が実行される。これによって、シートSが加速される加速期間において、シートSの搬送の加速に対してプラテンドラム30の回転の加速を追従させることが可能になる。
【0052】
また、この実施形態では、プラテンドラム30の回転に基づいてプリンター1各部を制御するために、プラテンドラム30の回転を検出するドラムエンコーダーE30が設けられている。そして、シートSに画像の記録を実行するタイミングは、ドラムエンコーダーE30の検出結果に基づいて調整されている。なお、このような構成では、シートSの搬送に対してプラテンドラム30の回転の追従性が悪いと、シートSの目標位置に正確に画像を形成できない。そのため、シートSに対するプラテンドラム30の追従性の悪い期間は、シートSへの画像記録を待機する必要が生じる場合があった。これに対して、この実施形態では、シートSに対するプラテンドラム30の追従性が悪い期間の短縮化が図られているため、シートSへの画像記録の待機時間も短縮することが可能となる。その結果、シートSへの画像記録を速やかに実行することができる。
【0053】
特に、この実施形態のように、プラテンドラム30の周速度がシートSの搬送速度(=V1)と一致してから画像記録を開始する構成では、シートSの搬送に対してプラテンドラム30の回転の追従性が悪い期間(ここでは、プラテンドラム30の周速度がシートSの搬送速度(=V1)に一致しない期間)には画像記録が実行されない。したがって、当該期間にプラテンドラム30への巻き掛け部を通過したシートSは無駄となり、いわゆるヤレ紙となってしまう。これに対して、この実施形態では、当該期間が短縮されているため、ヤレ紙の量を抑制することが可能となっている(図5)。
【0054】
ここで、図5は、ヤレ紙の量を説明するための説明図である。図5の一点鎖線は、シートSの搬送速度を示す。図5の破線は、プレテンションF1を付与せずにシートSの搬送開始時からテンションF2を付与した比較形態におけるプラテンドラム30の周速度を示す。また、図5の実線は、実施形態におけるプラテンドラム30の周速度を示す。そして、ドットハッチング部分の面積と斜線ハッチング部分の面積の合計が比較形態でのヤレ紙の量に相当し、ドットハッチング部分の面積が実施形態でのヤレ紙の量に相当する。
【0055】
まず、シートSの搬送開始時点t2近傍における比較形態および実施形態それぞれの挙動を見てみる。シートSの搬送開始時点t2では、プラテンドラム30には、(動摩擦力と比べて)大きな静止摩擦力がクーロン摩擦力として働く。したがって、プラテンドラム30を静止状態から回転を始動させるためには、プラテンドラム30のイナーシャの他に大きな静止摩擦力にも打ち勝つ必要があり、大きなトルクをプラテンドラム30に作用させる必要がある。しかしながら、プレテンションF1が付与されない比較形態では、プラテンドラム30とシートSの間の摩擦力が小さく、プラテンドラム30に十分なトルクを与えることができない。その結果、シートSの搬送開始後も、プラテンドラム30の回転がなかなか始動しない。これに対して、実施形態では、シートSにプレテンションF1が付与されているため、プラテンドラム30とシートSの間の摩擦力を十分確保して、プラテンドラム30に大きなトルクを与えることが可能となっている。その結果、時刻t2にシートSの搬送が開始されると、プラテンドラム30の回転が速やかに始動している。
【0056】
また、プラテンドラム30の回転が始動した後におけるプラテンドラム30の周速度変化も、比較形態と実施形態とでは大きく異なる。つまり、プレテンションF1が付与されない比較形態では、加速期間においてシートSの搬送速度の傾きに対してプラテンドラム30の周速度の傾きははるかに小さく、シートSの加速に対してプラテンドラム30の加速が十分に追従していない。一方、この実施形態では、シートSの加速期間に渡ってプレテンションF1がシートSに付与されている。その結果、加速期間においてシートSの搬送速度の傾きとプラテンドラム30の周速度の傾きは略一致しており、シートSの加速に対してプラテンドラム30の加速がしっかりと追従している。そのため、実施形態では比較形態と比べて、シートSの搬送速度(=V1)とプラテンドラム30の周速度の一致を早期に実現することができ、画像記録を速やかに開始して、ヤレ紙の量を少なく抑えることができる。
【0057】
第2実施形態
第1実施形態では、シートSの定速搬送が開始されてから、シートSのテンションTbの減少が開始されていた。しかしながら、シートSのテンションTbの減少を開始するタイミングはこれに限られず、第2実施形態で以下に示すようなタイミングであっても良い。なお、第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、主としてテンションTbの減少開始タイミングであるので、以下ではこの差異部分を中心に説明することとし、共通部分については適宜説明を省略する。ただし、第2実施形態においても、第1実施形態と共通する構成を具備することで、第1実施形態と同様の効果を奏することは言うまでも無い。
【0058】
図6は、第2実施形態にかかるプリンターで実行される動作の概要を示すフローチャートである。図7は、第2実施形態にかかるプリンターで実行される動作の概要を示すタイミングチャートである。ホストコンピューター10から画像記録を開始する旨の指令を受けると、プリンター制御部200は図6のフローチャートを実行する。なお、このフローチャートはプログラム124から読み出されて、プリンター制御部200内のメモリー等に予め記憶されている。
【0059】
ステップS201において、繰出モーターM20、後駆動モーターM32および巻取モーターM40のトルクが調整されて、繰出部2、プロセス部3および巻取部4それぞれでのシートSのテンションTa、Tb、Tcが初期値に設定される。また、この実施形態においても、プロセス部3のテンションTbは、所定時間(=t1−t0)をかけて、プレテンションF1に設定される。続くステップS102では、前駆動モーターM31が動作することで、前駆動ローラー31が回転を開始して、シートSの搬送が開始する。これによって、シートSの搬送速度が加速する(図7の時刻t2〜t3)。また、この実施形態では、前駆動ローラー31が回転を開始する時刻t2において、シートSのテンションTbの減少が開始される(ステップS203)。
【0060】
続くステップS204では、所定時間(=t3−t2)が経過したか否かが判断される。この際、シートSの搬送の加速度は、シートSの搬送速度が所定時間(=t3−t2)でゼロから速度V1に到達するように設定されている。また、シートSのテンションTbの変化率は、シートSのテンションTbが所定時間(=t3−t2)でプレテンションF1からテンションF2に減少するように設定されている。したがって、所定時間(=t3−t2)が経った時刻t3では、シートSの搬送速度は速度V1となり、シートSのテンションTbはテンションF2となっている。
【0061】
そして、所定時間(=t3−t2)が経過すると(ステップS204で「YES」の場合)、シートSの搬送速度は速度V1に固定されて、シートSは定速搬送される(ステップS205)。また、シートSのテンションTbはテンションF2に固定されて、一定に保持される(ステップS206)。こうして、シートSの搬送速度とテンションTbが設定された状態で、画像記録が実行される(ステップS207)。
【0062】
以上に説明したように、この実施形態においても、シートSに高いプレテンションF1を付与した状態でシートSの搬送を開始する一方、シートSの搬送を開始した後にシートSに付与するテンションTbを低いテンションF2に切り換える。このように、シートSの搬送開始時には、高いプレテンションF1がシートSに付与されるため、このプレテンションF1に応じた大きな摩擦力がシートSとプラテンドラム30の間に働く。よって、シートSの搬送開始時にプラテンドラム30の回転を速やかに始動させて、シートSの搬送に対してプラテンドラム30の回転の追従性が悪い期間の短縮を図ることが可能となっている。
【0063】
また、この実施形態においても、シートSの搬送速度が等速度になった時点t3以後にシートSに付与するテンションTbがテンションF2となるように切換動作が実行される。これによって、シートSが加速される加速期間(時刻t2〜t3)において、シートSの搬送の加速に対してプラテンドラム30の回転の加速を追従させることが可能となっている。
【0064】
第3実施形態
上記実施形態では、シートSの種別を特に考慮すること無く、シートSに付与するテンションTbを、プレテンションF1に設定した後にテンションF2に切り換えるという動作を行なっていた。しかしながら、シートSの種別に応じて、シートSのテンションTbの設定態様を変えるように構成することもできる。具体例を挙げると、第3実施形態で以下に示すように構成しても良い。なお、第3実施形態が上記実施形態と異なる点は、主としてシートSの種別に応じてシートSのテンションTbの設定態様を変えている点であるので、以下ではこの差異部分を中心に説明することとし、共通部分については適宜説明を省略する。ただし、第3実施形態においても、上記実施形態と共通する構成を具備することで、第1実施形態と同様の効果を奏することは言うまでも無い。
【0065】
図8は、第3実施形態にかかるプリンターで実行される動作の概要を示すフローチャートである。図9は、第3実施形態にかかるプリンターで実行される動作の概要を示すタイミングチャートである。ホストコンピューター10から画像記録を開始する旨の指令を受けると、プリンター制御部200は図8のフローチャートを実行する。なお、このフローチャートはプログラム124から読み出されて、プリンター制御部200内のメモリー等に予め記憶されている。
【0066】
ステップS301では、シートSの種類がフィルム系か紙系かが判別される。そして、フィルム系である場合は、ステップS302に進んで、図3のフローチャートあるいは図6のフローチャートが実行される。つまり、シートSに高いプレテンションF1を付与した状態でシートSの搬送が開始される一方、シートSの搬送を開始した後にシートSに付与するテンションTbが低いテンションF2に切り換えられる。よって、シートSの搬送開始時にプラテンドラム30の回転を速やかに始動させて、シートSの搬送に対してプラテンドラム30の回転の追従性が悪い期間の短縮を図ることが可能となる。
【0067】
一方、シートSの種類が紙系である場合は、ステップS303〜S307が実行される。ステップS303では、繰出モーターM20、後駆動モーターM32および巻取モーターM40のトルクが調整されて、繰出部2、プロセス部3および巻取部4それぞれでのシートSのテンションTa、Tb、Tcが初期値に設定される。このとき、プロセス部3のテンションTbは、所定時間(=t1−t0)をかけて、テンションF2より大きいプレテンションF3に設定される(F3>F2)。続くステップS304では、前駆動モーターM31が動作することで、前駆動ローラー31が回転を開始して、シートSの搬送が開始する。これによって、シートSの搬送速度が加速する(図9の時刻t2〜t3)。
【0068】
ステップS305では、シートSの搬送速度が速度V1に到達したか否かが判断される。そして、シートSの搬送速度が速度V1に到達すると(ステップS305で「YES」の場合)、ステップS306に進んで、シートSの搬送速度が速度V1に固定されて、シートSが定速搬送される(図9の時刻t3以後)。また、シートSの搬送速度が速度V1に到達して一定速度になると、ステップS307において、プロセス部3でのシートSのテンションTbの減少が開始される。そして、図9に示すように、この実施形態では、シートSの種類が紙系である場合は、シートSの搬送を開始した後においても、シートSのテンションTbの切換動作を行なうこと無く、シートSに付与するテンションTbがテンションF3に維持されており、この状態で画像記録が実行される。
【0069】
以上に説明したように、この実施形態では、シートSがフィルム系である場合には、シートSのテンションTbをプレテンションF1から低いテンションF2に切り換える切換動作が実行される。つまり、フィルム系のシートSは、テンションTbによって伸びやすい性質を有する。したがって上述のように、高いプレテンションF1を付与する期間をシートSの搬送開始時の近辺に限定して、搬送開始後にはシートSに付与するテンションTbを低く抑えておくことが好適である。
【0070】
一方、紙系のシートSは、テンションTbによる伸びが少ない。そこで、この実施形態では、シートSの種類が紙系の場合には、シートSの搬送開始時の近辺に限らず、プレテンションF3を継続的に付与している。具体的には、テンションF2より高いプレテンションF3をシートSへ付与した状態でシートSの搬送が開始されるとともに、シートSの搬送を開始した後においても切換動作は実行されず、シートSに付与するテンションTbがプレテンションF3に維持される。この場合においても、シートSの搬送開始時には、高いプレテンションF3がシートSに付与されるため、このプレテンションF3に応じた大きな摩擦力がシートSとプラテンドラム30の間に働く。よって、シートSの搬送開始時にプラテンドラム30の回転を速やかに始動させて、シートSの搬送に対してプラテンドラム30の回転の追従性が悪い期間の短縮を図ることが可能となる。
【0071】
その他
以上のように、上記実施形態では、プリンター1が本発明の「画像記録装置」に相当し、シートSが本発明の「記録媒体」に相当し、プラテンドラム30が本発明の「ドラム」に相当し、記録ヘッド51が本発明の「記録部」に相当し、前駆動ローラー31、後駆動ローラー32、前駆動モーターM31、後駆動モーターM32およびプリンター制御部200が協働して本発明の「搬送部」として機能している。また、プレテンションF1が本発明の「第1テンション」に相当し、テンションF2が本発明の「第2テンション」に相当し、プレテンションF3が本発明の「第3テンション」に相当する。また、ドラムエンコーダーE30が本発明の「回転検出器」に相当し、テンションセンサーS34が本発明の「テンション検出器」に相当する。
【0072】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したものに対して種々の変更を加えることが可能である。例えば、第1実施形態では、シートSの搬送速度が速度V1となった時刻t3より所定時間だけ待った時刻t4に、テンションTbの減少が開始されていた。しかしながら、シートSの搬送速度が速度V1となった時刻t3に、テンションTbの減少を開始しても良い。
【0073】
あるいは、テンションTbの減少開始のタイミングを、シートSの搬送速度に基づいて決定するのではなく、プラテンドラム30の周速度に基づいて決定しても良い。具体例を挙げると、図3のステップS108と同様にドラムエンコーダーE30の出力に基づいて、プラテンドラム30の周速度がシートSの搬送速度に一致するか否かを判断し、これらが一致した時点以後にシートSのテンションTbの減少を開始しても良い。
【0074】
また、上記実施形態では、シートSの搬送速度が一定の速度V1になってから画像記録が開始されていた。しかしながら、画像記録の開始タイミングをシートSの搬送速度に基づいて決定するのではなく、シートSのテンションTbに基づいて決定しても良い。具体例を挙げると、シートSのテンションTbがテンションF2になった時点以後に画像記録を開始するように構成しても良い。あるいは、シートSの加速期間(時刻t2〜t3)の間に、画像記録を開始しても良い。
【0075】
また、上記実施形態では、シートSのテンションTbをテンションF2に切り換える切換動作を、テンションTbを時間経過に対して直線的に単調減少させることで実行していた。しかしながら、テンションTbをこれとは異なる態様で変化させて、切換動作を実行しても良い。
【0076】
また、上記実施形態では、前駆動ローラー31に対して速度制御を実行し、後駆動ローラー32に対してトルク制御を実行していた。しかしながら、後駆動ローラー32に対して速度制御を実行して、後駆動ローラー32によりシートSの搬送速度を決定するとともに、前駆動ローラー31に対してトルク制御を実行して、前駆動ローラー31によりシートSのテンションTbを調整しても良い。なお、この際に、シートSのテンションTbを検出するセンサーを、従動ローラー33に設けるように構成しても良い。
【符号の説明】
【0077】
1…プリンター、 200…プリンター制御部、 30…プラテンドラム、 31…前駆動ローラー、 32…後駆動ローラー、 51…記録ヘッド、 E30…ドラムエンコーダー、 M31…前駆動モーターM31、 M32…後駆動モーター、 S34…テンションセンサー、 S…シート、 F1…プレテンション、 F2…テンション、 F3…プレテンション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送する搬送部と、
前記記録媒体を巻き掛けて、前記搬送部により搬送される前記記録媒体との間の摩擦力を受けて回転するドラムと、
前記搬送部に搬送される前記記録媒体の前記ドラムに巻き掛けられた部分に画像を記録する記録部と
を備え、
前記搬送部は、前記記録媒体に第1テンションを付与した状態で前記記録媒体の搬送を開始する一方、前記記録媒体の搬送を開始した後に前記記録媒体に付与するテンションを前記第1テンションより低い第2テンションに切り換える切換動作を実行することを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
前記搬送部は、前記記録媒体の搬送速度を、搬送開始以後の加速期間に加速させた後に等速度に維持する請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
前記搬送部は、前記記録媒体の搬送速度が前記等速度になった時点以後に前記記録媒体に付与するテンションが前記第2テンションとなるように、前記切換動作を実行する請求項2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記搬送部は、前記記録媒体に付与するテンションを前記第1テンションから前記第2テンションまで減少させて、前記切換動作を実行する請求項3に記載の画像記録装置。
【請求項5】
前記搬送部は、前記記録媒体に付与するテンションの減少を前記加速期間に開始する請求項4に記載の画像記録装置。
【請求項6】
前記搬送部は、前記加速期間は前記記録媒体に付与するテンションを前記第1テンションに維持し、前記記録媒体の搬送速度が前記等速度になった時点以後に前記記録媒体に付与するテンションの減少を開始する請求項4に記載の画像記録装置。
【請求項7】
前記記録部は、前記加速期間中に前記画像の記録を開始する請求項2ないし6のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項8】
前記記録部は、前記記録媒体の搬送速度が前記等速度になった時点以後に前記画像の記録を開始する請求項2ないし6のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項9】
前記記録部は、前記搬送部が前記記録媒体に付与するテンションが前記第2テンションになった時点以後に前記画像の記録を開始する請求項2ないし6のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項10】
前記ドラムの回転を検出する回転検出器をさらに備える請求項1ないし9のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項11】
前記記録部は、前記記録媒体に前記画像の記録を実行するタイミングを、前記回転検出器の検出結果に基づいて調整する請求項10に記載の画像記録装置。
【請求項12】
前記搬送部は、前記記録媒体に付与するテンションを前記第2テンションに切り換えるタイミングを、前記回転検出器の検出結果に基づいて調整する請求項10または11に記載の画像記録装置。
【請求項13】
前記搬送部は、前記記録媒体がフィルム系である場合に前記切換動作を実行する請求項1ないし12のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項14】
前記搬送部は、前記記録媒体が紙系である場合には、前記第2テンションより高い第3テンションを前記記録媒体へ付与した状態で前記記録媒体の搬送を開始するとともに、前記記録媒体の搬送を開始した後においても前記切換動作を行なうこと無く、前記記録媒体に付与するテンションを前記第3テンションに維持する請求項13に記載の画像記録装置。
【請求項15】
前記搬送部は、前記記録媒体のテンションを検出するテンション検出器を有し、前記テンション検出器の検出結果に応じて前記記録媒体に付与するテンションを調整する請求項1ないし14のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項16】
搬送される記録媒体との間の摩擦力を受けて回転するドラムに前記記録媒体に巻き掛けるとともに、搬送される前記記録媒体の前記ドラムに巻き掛けられた部分に画像を記録する画像記録方法において、
前記記録媒体に第1テンションを付与した状態で前記記録媒体の搬送を開始する工程と、
前記記録媒体の搬送を開始した後に前記記録媒体に付与するテンションを前記第1テンションより低い第2テンションに切り換える工程と
を備えることを特徴とする画像記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−99876(P2013−99876A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244276(P2011−244276)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】