説明

画像記録装置及び画像記録装置の検査装置

【課題】画像記録装置の個体差による画質の劣化や、被写体距離を大きく変化させることに起因する画質の劣化を低減させ、高品質な画像を得ることを可能とする画像記録装置及びその検査装置を提供すること。
【解決手段】被写体の撮影による画像データを記録する画像記録装置であるカメラモジュール1であって、被写体からの光を取り込む光学系を構成する撮像レンズ3と、光学系により取り込まれた光を信号電荷に変換し、画像データを得るイメージセンサ5と、光学系を伝搬する光学波面の位相分布を調整する位相調整手段である液晶素子2と、を有し、液晶素子2は、光学系に備わる光学特性を検査するための検査用チャートをカメラモジュール1で撮影した際の撮影データを利用して予め設定された位相調整信号に応じて、位相分布を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像記録装置及びその検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮影された被写体像を画像データへ変換して電気的に保存するデジタルカメラ等に用いられる、画像記録装置としてのカメラモジュールが普及している。カメラモジュールにより撮影された画像の画質を劣化させる要因としては、例えば、収差によって発生する濃度歪み、幾何歪み、ボケなどがある。これらの要因はカメラモジュールを構成する部品の製造精度、組立精度に大きく依存することから、カメラモジュールの個体差によって画質は異なることとなる。また、マクロ撮影をする場合などに、被写体距離を大きく変化させた場合には、レンズ特性に依存した収差が発生する場合もある。なお、本願において、レンズ等の部品の製造誤差や、部品同士の組立誤差によって製品ごとに生じる差を、個体差という。
【0003】
画質が劣化した画像のうち不要な情報を抑制させ、有用な情報を取り出すには、一般にエッジ強調フィルタ処理が施される。また、さらに精度の高い情報を得たい場合には、例えば画像復元処理技術が用いられる。例えば、特許文献1には、点像分布関数(Point Spread Function;PSF)を用いた画像復元処理技術が提案されている。
【0004】
エッジ強調フィルタ処理や画像復元処理では、対応可能な収差に限界があるため、画質を向上させることが困難な場合があり得る。特に、PSFの半径が大きくなるほど、複雑な形状となるほど、収差の許容範囲が狭められることとなる。また、画像処理のために大型な演算処理回路の搭載が必要となる場合には、イメージセンサの回路規模が大きくなってしまう。画像処理による以外に画質を向上させるために、レンズの製造やカメラモジュールの組み立てに高い精度を求めることとなると、部品の製造及び組み立てのコストが高くなることが欠点となる。さらに、被写体距離を大きく変化させる場合に画質の劣化を低減させることも困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−183842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、画像記録装置の個体差による画質の劣化や、被写体距離を大きく変化させることに起因する画質の劣化を低減させ、高品質な画像を得ることを可能とする画像記録装置及びその検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の一態様によれば、被写体の撮影による画像データを記録する画像記録装置であって、前記被写体からの光を取り込む光学系と、前記光学系により取り込まれた光を信号電荷に変換し、前記画像データを得るイメージセンサと、前記光学系を伝搬する光学波面の位相分布を調整する位相調整手段と、を有し、前記位相調整手段は、前記光学系に備わる光学特性を検査するための検査用チャートを前記画像記録装置で撮影した際の撮影データを利用して予め設定された位相調整信号に応じて、前記位相分布を調整することを特徴とする画像記録装置が提供される。
【0008】
また、本願発明の一態様によれば、画像記録装置の光学系に備わる光学特性を検査するための検査用チャートを前記画像記録装置に撮影させ、撮影データを取得する撮影データ取得手段と、前記光学系を伝搬する光学波面の位相分布を調整するための位相調整信号を生成する位相調整信号生成手段と、を有し、前記位相調整信号生成手段は、前記撮影データ取得手段により取得された前記撮影データを利用して、前記位相調整信号を生成することを特徴とする画像記録装置の検査装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カメラモジュールの個体差による画質の劣化や、被写体距離を大きく変化させることによる画質の劣化を低減させ、高品質な画像を得ることができるという効果を奏する。
【0010】
また、本発明によれば、高品質な画像の記録を可能とする画像記録装置を得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施の形態に係る画像記録装置であるカメラモジュールの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、カメラモジュールの概略構成を示す断面模式図である。
【図3】図3は、カメラモジュールの検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、検査装置により位相調整信号を設定する手順を説明するフローチャートである。
【図5】図5は、カメラモジュールにより画像を記録する手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施の形態に係る画像記録装置及びその検査装置を詳細に説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る画像記録装置であるカメラモジュール1の概略構成を示すブロック図である。図2は、カメラモジュール1の概略構成を示す断面模式図である。画像記録装置1は、被写体の撮影による画像データを記録する。
【0014】
液晶素子2は、カメラモジュール1の光学系を伝搬する光学波面の位相分布を調整する位相調整手段として機能する。液晶素子2は、液晶分子を備える液晶層と、液晶層を挟持する二枚の光学ガラスとを備える。二枚の光学ガラスには、透明電極からなる導電パターンが形成されている。液晶素子2は、導電パターンにより駆動電圧が印加されることにより、光学波面の位相を補正する。撮像レンズ3は、被写体からの光を取り込むための光学系を構成する。IRカットフィルタ4は、撮像レンズ3により取り込まれた光から赤外光を除去する。
【0015】
イメージセンサ5は、撮像レンズ3により取り込まれた光を信号電荷に変換し、画像データを得る。イメージセンサ5は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の画素値をベイヤー配列に対応する順序で取り込むことによりアナログ方式の画像信号を生成し、撮像条件に応じたゲインにて順次増幅させる。さらに、イメージセンサ5は、アナログ方式の画像信号をデジタル方式の画像データへ変換させる。
【0016】
画像処理部6は、イメージセンサ5から入力された画像データに対して、種々の処理を施す。記録部7は、画像処理部6から入力された画像データをメモリや記録媒体に記録する。制御部8は、画像記録装置1の各部を制御する。液晶駆動部9は、液晶素子2を駆動させる。保持部10は、液晶駆動部9により液晶素子2を駆動させるための位相調整信号を保持する。レンズホルダ11は、液晶素子2、撮像レンズ3及びIRカットフィルタ4を支持する。シールドカバー12は、イメージセンサ5と、レンズホルダ11に支持された各部とをシールドする。
【0017】
液晶素子2を透過した被写体からの光は、撮像レンズ3によってイメージセンサ5で結像される。イメージセンサ5での結像の際に光学経路に歪みがある場合、結像特性の悪化により、撮影される画像の画質は劣化することとなる。結像特性は、カメラモジュール1の個体差によって変化する。液晶素子2は、光学経路の歪みを補正するように駆動電圧が加えられることにより、光学波面の位相を補正する。液晶素子2は、カメラモジュール1の製造工程において予め設定された位相調整信号によって駆動が制御される。
【0018】
図3は、カメラモジュール1の検査装置20の概略構成を示すブロック図である。検査装置20は、カメラモジュール1の製造工程のうち、カメラモジュール1の組み立て後、或いは検査工程における特性確認の際に使用される。検査装置20は、載置部22、調整用制御部23及び演算部24を備える。
【0019】
カメラモジュール1は、載置部22に載置されることで、検査装置20での位置決めがなされる。載置部22には、図1及び図2を参照して説明した各部が組み立てられた状態のカメラモジュール1が載置される。調整用制御部23は、載置部22に載置されたカメラモジュール1に接続される。調整用制御部23は、検査装置20によるカメラモジュール1の特性確認及び調整のために、載置部22に載置されたカメラモジュール1を制御する。演算部24は、調整用制御部23によるカメラモジュール1の制御によって得られたデータを演算する。特に、演算部24は、調整用制御部23で取得された撮影データを利用して、液晶素子2(図1参照)を駆動するための位相調整信号を生成する。
【0020】
検査用チャート25は、カメラモジュール1の光学系に備わる光学特性を検査するためにカメラモジュール1に撮影させるチャートである。検査用チャート25は、カメラモジュール1による撮影により、イメージセンサ5の結像面を3行3列の9領域に仮想的に分割するものであって、PSFデータが得られるような複数の点像からなる点像チャートとする。検査用チャート25は、載置部22に載置されたカメラモジュール1が検査用チャート25を撮影するのに適する位置に設置される。なお、検査用チャート25は、本実施の形態に係る検査装置20専用のものとしても良く、光学特性の検査に使用される従来のチャートであっても良い。
【0021】
図4は、検査装置20により位相調整信号を設定する手順を説明するフローチャートである。ステップS1において、調整用制御部23は、カメラモジュール1に検査用チャート25を撮影させ、撮影データを取得する。調整用制御部23は、撮影データ取得手段として機能する。ステップS2において、演算部24は、調整用制御部23で取得された撮影データを演算することにより、PSFデータを取得する。ステップS3において、演算部24は、取得されたPSFデータに基づいて、光学系を伝搬する光学波面の歪みを解析する。
【0022】
ステップS4において、演算部24は、光学波面の歪みの解析結果に基づいて、液晶素子2を駆動させる位相調整信号を生成する。演算部24は、光学波面の位相分布を調整するための位相調整信号を生成する位相調整信号生成手段として機能する。ここでは、ステップS3において解析された光学波面の歪みを相殺させるような位相分布を求める。演算部24は、光学波面の歪みを相殺させる位相を液晶素子2の駆動電圧に置き換えることにより、位相調整信号を生成する。演算部24による駆動電圧の算出には、例えば逆フーリエ変換を用いる。撮影データからの駆動電圧の算出には、この他いずれの手法を用いることとしても良い。調整用制御部23は、演算部24によって生成された位相調整信号を液晶駆動部9(図1参照)へ送出し、液晶素子2を駆動させる(ステップS5)。
【0023】
次に、演算部24は、ステップS4で生成された位相調整信号によって液晶素子2を駆動させた場合における光学波面の歪みを検証する。光学波面の歪みは、ステップS6における、閾値との比較によって検証される。閾値は、任意に設定可能であって、例えば、予め演算部24のレジストやRAMに書き込まれる。光学波面の歪みは、ステップS1からステップS3までの手順と同様に、調整用制御部23により取得された撮影データからPSFデータを算出し、PSFデータに基づいて検証される。
【0024】
光学波面の歪みが閾値より大きい場合(ステップS6、No)、演算部24は、ステップS7において位相調整信号を補正する。位相調整信号は、光学波面の歪みが小さくなるように補正される。ステップS7における位相調整信号の補正後、ステップS5に戻り、調整用制御部23は、演算部24で補正された位相調整信号を液晶駆動部9へ送出する。
【0025】
光学波面の歪みが閾値以下である場合(ステップS6、Yes)、調整用制御部23は、演算部24で生成或いは補正された位相調整信号をカメラモジュール1の保持部10に記録させる(ステップS8)。以上により、位相調整信号の設定を終了する。閾値との比較による検証を加え、比較結果に応じて位相調整信号を補正することで、良好な結像特性が得られるような位相調整信号を得ることが可能となる。
【0026】
検査装置20は、最適な結像特性が得られるように位相調整信号を設定することで、高品質な画像の記録を可能とするカメラモジュール1を得ることができる。演算部24で生成された位相調整信号は、保持部10に記録する他、カメラモジュール1外の外部メモリ等に保存することとしても良い。なお、レンズモジュール1の光学系に備わる光学特性の検査は、PSFデータの取得による場合に限られず、光学特性の評価に従来適用されるいずれの手法としても良い。検査用チャート25としては、適用される手法に応じたものを適宜使用するものとする。
【0027】
図5は、カメラモジュール1により画像を記録する手順を説明するフローチャートである。ステップS11において、液晶駆動部9は、保持部10に保持された位相調整信号を読み出し、読み出された位相調整信号に応じて液晶素子2を駆動させる。液晶素子2は、検査装置20により予め設定された位相調整信号に応じて駆動が制御されることで、光学系を伝搬する位相分布を調整する。ステップS12では、液晶素子2を駆動させた状態で被写体を撮影する。ステップS13において、画像処理部6(図1参照)は、撮影により得られた画像データに対して画像処理を施す。ステップS14において、記録部7(図1参照)は、画像処理部6で画像処理が施された画像データを記録する。以上により、カメラモジュール1は、画像を記録する。
【0028】
検査装置20により設定された位相調整信号に応じて液晶素子2を駆動させることで、被写体からの光の光学波面における位相分布は、常に最適な結像特性が得られるように調整される。これにより、カメラモジュールの個体差による画質の劣化や、被写体距離を大きく変化させることに起因する画質の劣化を低減可能とし、高品質な画像を得ることができるという効果を奏する。液晶素子2による位相分布の調整により、レンズの製造やカメラモジュールの組み立てに要求される精度の緩和が可能となる。これにより、部品の製造及び組み立てのコストを軽減させるとともに、歩留まりの向上が可能となる。
【0029】
液晶素子2に形成される導電パターンは、レンズ全般に生じ得る基本的な収差を補正させるように汎用性を持たせたものとしても良いが、これに限られない。導電パターンは、レンズ設計のトレランス解析から得られる光学歪みを補正するように形成されたものとしても良い。液晶素子2は、汎用性を持たせた導電パターンが形成される場合、複数の機種の画像記録装置へ広く適用させることが可能となる。また、液晶素子2は、レンズ設計に合わせて導電パターンが形成される場合、特定の機種の画像記録装置に対して高精度な位相分布の調整が可能となる。
【0030】
レンズモジュール1の光学系は、液晶素子2の駆動による位相分布の調整がなされることを前提として構成されることとしても良い。これにより、レンズの製造精度、カメラモジュールの組み立て精度をさらに緩和させ、コストの軽減、歩留まりの向上を図れる。位相調整信号は、画像処理部6による画像処理を含めて最適な結像特性を得られるように適宜調整することとしても良い。これにより、さらに高品質な画像を得ることが可能となる。
【0031】
液晶素子2は、光学波面の位相分布の調整にのみ使用される場合に限られない。例えば、液晶素子2は、被写体からの光の透過を制御するシャッターの機能を付加されたものであっても良い。カメラモジュール1は、シャッターの機能が付加された液晶素子2を用いて、レンズのF値を電気的に変化させることが可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1 カメラモジュール、2 液晶素子、3 撮像レンズ、5 イメージセンサ、20 検査装置、23 調整用制御部、24 演算部、25 検査用チャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体の撮影による画像データを記録する画像記録装置であって、
前記被写体からの光を取り込む光学系と、
前記光学系により取り込まれた光を信号電荷に変換し、前記画像データを得るイメージセンサと、
前記光学系を伝搬する光学波面の位相分布を調整する位相調整手段と、を有し、
前記位相調整手段は、前記光学系に備わる光学特性を検査するための検査用チャートを前記画像記録装置で撮影した際の撮影データを利用して予め設定された位相調整信号に応じて、前記位相分布を調整することを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
前記位相調整手段は、液晶素子を備え、
前記液晶素子は、前記位相調整信号により駆動が制御されることを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
画像記録装置の光学系に備わる光学特性を検査するための検査用チャートを前記画像記録装置に撮影させ、撮影データを取得する撮影データ取得手段と、
前記光学系を伝搬する光学波面の位相分布を調整するための位相調整信号を生成する位相調整信号生成手段と、を有し、
前記位相調整信号生成手段は、前記撮影データ取得手段により取得された前記撮影データを利用して、前記位相調整信号を生成することを特徴とする画像記録装置の検査装置。
【請求項4】
前記位相調整信号生成手段は、前記撮影データから取得されたPSFデータに基づいて前記位相調整信号を生成することを特徴とする請求項3に記載の画像記録装置の検査装置。
【請求項5】
前記画像記録装置に設けられた位相調整手段を前記位相調整信号により駆動させた場合における前記光学波面の歪みを検証し、
前記光学波面の歪みが閾値より大きい場合に、前記位相調整信号生成手段で生成された前記位相調整信号を補正することを特徴とする請求項3又は4に記載の画像記録装置の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−43562(P2011−43562A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190148(P2009−190148)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】