説明

界壁の耐火構造

【課題】界壁部分において上ランナーをモジュール芯からずらしても簡単且つ確実に耐火構造にできて、設計上の自由度が増す。
【解決手段】集合住宅における住戸1と住戸1との間の界壁2の耐火構造である。外周を梁耐火材3で覆った金属製の梁4の上に耐火性を有する上階スラブ5を形成する。上ランナー6をジョイント金物7を介して梁4に取付ける。上ランナー6の両側にそれぞれ耐火壁板8の上部を取付ける。上ランナー6のセンターが梁4のセンターに対して一側方にずれて一方の耐火壁板8の上端が梁4を覆う梁耐火材3の下端部に当接すると共に他方の耐火壁板8の上端が梁耐火材3の下端部よりも外側方にずれて位置させる。外側方にずれて位置する方の耐火壁板8の上端部と上階スラブ5との間に補助耐火壁板9を取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅における住戸と住戸との間の界壁の耐火構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から集合住宅における住戸と住戸との間の界壁の耐火構造として、外周を梁耐火材で覆った金属製の梁の上に、耐火性を有する上階スラブを形成し、梁の下面側に上ランナーを取付け、上ランナーに耐火板の上端部を挿入するものが特許文献1により知られている。
【0003】
上記従来例にあっては、モジュール芯に位置する梁のセンターに、上ランナーのセンターが一致するように施工される(つまり界壁がモジュール芯に位置するように施工される)ものである。ところが、集合住宅における住戸と住戸との間の界壁部分においてモジュール芯に位置する梁のセンターに対して上ランナーのセンターを横にずらして施工したりする(つまり上ランナーをモジュール芯からずらして施工する)と、耐火板が梁耐火材よりも外側方にずれ、この場合は、耐火板の上端と梁耐火材の側部下端との間に横方向に隙間が生じてしまって耐火構造とならない。
【0004】
このため、従来例にあっては、界壁部分においては梁のセンターと上ランナーのセンターが共にモジュール芯に位置するような施工しかできず、設計上の自由度が制約されていた。
【特許文献1】特開平6−146441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、界壁部分において上ランナーをモジュール芯からずらしても簡単且つ確実に耐火構造にできて、設計上の自由度が増す界壁の耐火構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明に係る界壁の耐火構造は、集合住宅における住戸1と住戸1との間の界壁2の耐火構造であって、外周を梁耐火材3で覆った金属製の梁4の上に耐火性を有する上階スラブ5を形成し、上ランナー6をジョイント金物7を介して梁4に取付け、上ランナー6の両側にそれぞれ耐火壁板8の上部を取付け、上ランナー6のセンターが梁4のセンターに対して一側方にずれて一方の耐火壁板8の上端が梁4を覆う梁耐火材3の下端部に当接すると共に他方の耐火壁板8の上端が梁耐火材3の下端部よりも外側方にずれて位置し、この外側方にずれて位置する方の耐火壁板8の上端部と上階スラブ5との間に補助耐火壁板9を取付けて成ることを特徴とするものである。
【0007】
このような構成とすることで、上ランナー6のセンターが梁4のセンターに対して一側方にずれて施工されても、界壁2の一方の住戸1側においては一方の耐火壁板8と梁耐火材3とで切れ目の無い連続した耐火構造となり、且つ、界壁2の他方の住戸1側においては他方の耐火壁板8と補助耐火壁板9とで切れ目の無い連続した耐火構造となり、界壁2の耐火構造として問題がない。
【0008】
また、上階スラブ5の下面に金属製の断面逆U字状の嵌め込み用レール10を取付け、外側方にずれて位置する耐火壁板8の上端部に下端部を固着した補助耐火壁板9の上端部を、嵌め込み用レール10内に嵌め込むと共に補助耐火壁板9の上端面と嵌め込み用レール10内の上底面との間に弾性又は柔軟性を有する耐火性を有する緩衝部材11を介在させることが好ましい。
【0009】
このような構成とすることで、上階スラブ5と耐火壁板8との間に補助耐火壁板9を設けたといえども、上階スラブ5からの振動が耐火性を有する緩衝部材11により緩衝され、音鳴りの防止及び振動が補助耐火壁板9を介して耐火壁板8に伝わるのが抑制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記のように構成したので、界壁部分において上ランナーを梁のセンター(つまりモジュール芯)から側方にずらして配置しても、簡単な構成で界壁の両住戸側においてそれぞれ連続した切れ目の無い耐火構造にでき、このように上ランナーを梁のセンターからずらしても簡単且つ確実に耐火構造にできるので、設計上の自由度が増すという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0012】
集合住宅における住戸1と住戸1との間の界壁2は、図1に示すように、下階スラブ12と上階スラブ5との間に形成されるもので、上階スラブ5を支持する梁4と下階スラブ12と梁4との間に建て込まれる壁部13とで界壁2が構成される。下階スラブ12、上階スラブ5は共にALCのようなコンクリート系のもので、耐火性を有している。
【0013】
界壁2部分に位置する梁4は鉄骨のような金属製であって、梁4のセンターが集合住宅のモジュール芯に位置するように施工される。この梁4上には上階スラブ5が載設支持される。梁4の外面は梁耐火材3により覆われていて梁4部分を耐火構造としてある。
【0014】
上記梁4の下面部となる下フランジ部4aにはジョイント金物7が固定される。ジョイント金物7は図3(a)、(b)に示すように、横方向に長くなった連結用横片14の短辺方向の両側で且つ長手方向の中間部分にそれぞれL状をした脚片15を下方に向けて突設して構成してあり、横方向に長くなった連結用横片14には長手方向に複数の固定孔16が設けてある。梁4の下フランジ部4aには孔17が設けてあり、この下フランジ部4aに設けた孔17と、ジョイント金物7の連結用横片14に設けた複数の固定孔16のうち任意の固定孔16を連通させてボルト18により連結する。
【0015】
また、必要に応じて、図3(b)に示すような長手方向に多数の孔19を設けたアジャスター金物20を介して上記下フランジ部4aと連結用横片14とを連結してもよい。つまり、下フランジ部4aの孔17にアジャスター金物20の任意の孔19をボルト18により連結し、更に、アジャスター金物20の任意の孔19と連結用横片14に設けた任意の固定孔16を連通させてボルト18により連結してもよい。
【0016】
上記のようにして、ジョイント金物7のセンターを梁4のセンターから任意の長さだけ側方にずれるように連結できる。図4にはジョイント金物7のセンターを梁4のセンターから任意の長さだけ側方にずれるように連結した各例を示している。
【0017】
ジョイント金物7の脚片15には断面逆U字状をした金属製の上ランナー6がねじ具その他の固着手段により固着される。ここで、上ランナー6の上面部にあらかじめジョイント金物7を固定してあってもよく、ジョイント金物7を梁4に取付けた後に上ランナー6を固着してもよい。
【0018】
このようにしてジョイント金物7を介して上ランナー6が梁4に取付けられるのであるが、上ランナー6のセンターは建物のモジュール芯に位置する梁4のセンターに対して側方にずれて配置される。
【0019】
上ランナー6の真下の下階スラブ12上には断面U字状をした下ランナー21が固定してある。
【0020】
上ランナー6と下ランナー21の両側面にそれぞれ両住戸1の壁となる耐火壁板8が配置され、両側の耐火壁板8の上部及び下部がそれぞれ上ランナー6と下ランナー21にねじ具のような固着具により固着される。耐火壁板8は例えば石膏ボードが使用される。両側の耐火壁板8間には必要に応じて断熱材(図示を省略している)が内装される。
【0021】
ここで、図1に示すように、上ランナー6のセンターが梁4のセンターに対して一側方にずれているため、一方の耐火壁板8の上端が梁4を覆う梁耐火材3の下端部に当接すると共に他方の耐火壁板8の上端が梁耐火材3の下端部よりも外側方にずれて位置する。
【0022】
上端が梁耐火材3の下端部よりも外側方にずれて位置する他方の耐火壁板8と上階スラブ5との間には補助耐火壁板9が配設される。この補助耐火壁板9は石膏ボードなどが使用され、下端部を補助耐火壁板9の外面側に重複して固着具により固着し、上端部は上階スラブ5に対して非固定としてある。
【0023】
すなわち、添付図面に示す実施形態においては、他方の耐火壁板8の上端部に下受け金具23の上端部の逆U字状をした上嵌め込み部24を嵌め込むことで他方の耐火壁板8の上端部外面に下受け金具23の下端部のU字状をした下嵌め込み部25を沿わせる。また、下嵌め込み部25の真上の上階スラブ5の下面に金属製の断面逆U字状の嵌め込み用レール10を取付ける。この嵌め込み用レール10内の上底面には弾性又は柔軟性を有する耐火性を有する緩衝部材11を設ける。
【0024】
そして、補助耐火壁板9の上端部を嵌め込み用レール10内に嵌め込んで緩衝部材11を圧縮するようにして押し上げ、補助耐火壁板9の下端を下嵌め込み部25よりも上に位置させ、この状態で補助耐火壁板9の下端部を下嵌め込み部25の上開口に位置させ、補助耐火壁板9を下方に落とし込むことで補助耐火壁板9の下端部を下嵌め込み部25に嵌め込む。このとき補助耐火壁板9の上端は嵌め込み用レール10内に入ったままで、緩衝部材11は自身の弾性力で復元して補助耐火壁板9の上端面と嵌め込み用レール10内の上底面に弾性的に圧接して隙間を生じさせないようにする。その後、補助耐火壁板9の下端部を耐火壁板8の上端部に固着具により固着する。
【0025】
上記のようにして上下ランナー6、21の両側に耐火壁板8を固定することで構成した壁部13と梁4とで住戸1と住戸1とを仕切る界壁2が構成されるのであるが、この界壁2は、梁4のセンターがモジュール芯に位置し、壁部13のセンター(上ランナー6のセンター)が梁4のセンターから側方にずれ(つまりモジュール芯からずれ)ている。このため、図1のように一方の耐火壁板8の上端が梁4を覆う梁耐火材3の下端部に当接しているが、他方の耐火壁板8の上端が梁耐火材3の下端部よりも外側方にずれて位置し、他方の耐火壁板8の上端が梁耐火材3の下端部との間は耐火構造が切れた状態となる。しかしながら、上記のように外側方にずれて位置する方の耐火壁板8の上端部と上階スラブ5との間に補助耐火壁板9を取付けてあるので、界壁2の他方の住戸1側においては他方の耐火壁板8と補助耐火壁板9とで切れ目の無い連続した耐火構造となる。また、界壁2の一方の住戸1側においては、一方の耐火壁板8の上端が梁4を覆う梁耐火材3の下端部に当接しているので、一方の耐火壁板8と梁耐火材3とで切れ目の無い連続した耐火構造となる。したがって、本発明においては、界壁2の両側がそれぞれ下階スラブ12から上階スラブ5に至る切れ目のない連続した耐火構造となり、界壁2の耐火構造として問題がない。
【0026】
図中26は両側の住戸1の各天井であり、天井を施工することで補助耐火壁板9、梁耐火材3等が室内から見えないようになっている。
【0027】
なお図2にはジョイント金物7とアジャスター金物20とを用いて上ランナー6のセンターを建物のモジュール芯に位置する梁4のセンターに対して側方にずらした例を示している。アジャスター金物7を用いる以外は前述の図1に示す実施形態と同様の構成となっているので、詳細な説明は省略する。本実施形態のようにアジャスター金物7を用いることで、上ランナー6のセンターを梁4のセンターに対してより側方に離して配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態の一部省略した断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態の一部省略した断面図である。
【図3】(a)は同上に用いるジョイント金具の斜視図であり、(b)はジョイント金物とアジャスター金物とを示す分解斜視図である。
【図4】(a)乃至(d)は同上のジョイント金物を用いて、あるいは、ジョイント金物とアジャスター金物とを用いてジョイント金物のセンターを梁のセンターから任意の長さだけ側方にずれるように連結した各例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 住戸
2 界壁
3 梁耐火材
4 梁
5 上階スラブ
6 上ランナー
7 ジョイント金物
8 耐火壁板
9 補助耐火壁板
10 嵌め込み用レール
11 緩衝部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
集合住宅における住戸と住戸との間の界壁の耐火構造であって、外周を梁耐火材で覆った金属製の梁の上に耐火性を有する上階スラブを形成し、上ランナーをジョイント金物を介して梁に取付け、上ランナーの両側にそれぞれ耐火壁板の上部を取付け、上ランナーのセンターが梁のセンターに対して一側方にずれて一方の耐火壁板の上端が梁を覆う梁耐火材の下端部に当接すると共に他方の耐火壁板の上端が梁耐火材の下端部よりも外側方にずれて位置し、この外側方にずれて位置する方の耐火壁板の上端部と上階スラブとの間に補助耐火壁板を取付けて成ることを特徴とする界壁の耐火構造。
【請求項2】
上階スラブの下面に金属製の断面逆U字状の嵌め込み用レールを取付け、外側方にずれて位置する耐火壁板の上端部に下端部を固着した補助耐火壁板の上端部を、嵌め込み用レール内に嵌め込むと共に補助耐火壁板の上端面と嵌め込み用レール内の上底面との間に弾性又は柔軟性を有する耐火性を有する緩衝部材を介在させて成ることを特徴とする請求項1記載の界壁の耐火構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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