説明

界磁極用磁石体の製造装置およびその製造方法

【課題】割断面精度の向上に好適な界磁極用磁石体の製造装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下型41に保持された磁石体30に、上型45のブレード46を当接させて押圧することにより磁石体30を割断する界磁極用磁石体30の製造装置である。そして、前記磁石体30よりヤング率の高い材料で形成され、磁石体30の割断予定面を挟んでその両側に磁石体30の上下面から圧縮力を付与する圧縮力付与手段としてのクランプ50を備え、前記圧縮力付与手段により磁石体30の割断予定面の両側に圧縮力を付与した状態で磁石体30を割断するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石埋込型回転電機のロータコアに配設される界磁極用磁石体の製造装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から永久磁石埋込型回転電機のロータコアに配設される界磁極用磁石体として、平面視矩形の磁石体(以下、単に磁石体)を割断分割して複数の磁石片とし、この複数の磁石片同士を接着することによって形成した界磁極用磁石体が知られている。このように、界磁極用磁石体を複数の磁石片で形成して、個々の磁石片の体積を小さくすることにより、作用する磁界の変動により発生する渦電流を低減させるようにしている。これにより、渦電流に伴う界磁極用磁石体の発熱を抑制し、不可逆な熱減磁を防止するようにしている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、ロータスロットと略同寸法および同形状の磁石体に予め割断の目安となる磁石幅方向に延びる切り欠きを設け、磁石体に当接する当接部を有する上型と下型とで磁石体を挟み込むことによって、磁石体を割断分割している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−142081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、磁石体を磁石片に割断した場合に、磁石片の割断面が割断予定面からずれたり二叉状となる異常割れにより、割断面精度が悪化する場合がある。これは、割断時に上型の当接部(磁石体に当接する部位)が磁石体に片当りして生ずるものと推定される。このように、上型の当接部が磁石体に片当りする要因としては、下型の当接部と磁石体との間に、割断時に生ずる微粉末などの異物が噛み込まれて、磁石体の割断時に磁石体が、下型の当接部と磁石体の幅方向中央から離れた一点で異物を介して当接することにより浮いた状態で支持されることにより生ずる。
【0006】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、割断面精度の向上に好適な界磁極用磁石体の製造装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下型の当接部に当接して載置された磁石体に、上型の当接部を当接させて押圧することにより磁石体を割断する界磁極用磁石体の製造装置を対象とする。そして、本発明においては、前記磁石体よりヤング率の高い材料で形成され、磁石体の割断予定面を挟んでその両側に磁石体の上下面から圧縮力を付与する圧縮力付与手段を設け、前記圧縮力付与手段により磁石体の割断予定面の両側に圧縮力を付与した状態で磁石体を割断するようにした。
【発明の効果】
【0008】
したがって、本発明では、割断予定面を挟んでその両側に圧縮力を付与した領域を設けることにより、割断動作により発生した亀裂の圧縮力付与領域への侵入を抑制することができる。このため、亀裂の割断予定面からのずれを防止でき、割断面精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態における界磁極用磁石体の製造装置によって製造された磁石体を適用した永久磁石型電動機の主要部の構成を示す概略構成図。
【図2】磁石体の構成を示す構成図。
【図3】本実施形態の第1実施例における界磁極用磁石体の製造装置の概略構成図。
【図4】図3に示す界磁極用磁石体の製造装置の要部拡大図。
【図5】図4のA−A線による磁石割断装置の要部の断面図。
【図6】割断時に磁石体に作用する作用力を説明する平面図(A)及び側面図(B)。
【図7】界磁極用磁石体の製造装置の他の例を示す概略構成図。
【図8】磁石体の割断時における異常割れ状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、本発明の回転電機のロータコアに配設される界磁極用磁石体について説明する。
【0011】
図1において、永久磁石埋込型回転電機A(以下、単に「回転電機」という)は、図示しないケーシングの一部を構成する円環形のステータ10と、このステータ10と同軸的に配置された円柱形のロータ20とから構成される。
【0012】
ステータ10は、ステータコア11と、複数のコイル12とから構成され、複数のコイル12はステータコア11に軸心Oを中心とした同一円周上に等角度間隔で形成されるスロット13に収設される。
【0013】
ロータ20は、ロータコア21と、ロータコア21と一体的に回転する回転軸23と、複数の界磁極用磁石体80とから構成され、複数の界磁極用磁石体80は軸心Oを中心とした同一円周上に等角度間隔で形成されるスロット22に収設される。
【0014】
ロータ20のスロット22に収設される界磁極用磁石体80は、図2に示すように、磁石体30を割断分割した複数の磁石片31が割断面同士を樹脂32により接着することにより、一列に整列した磁石片31の集合体として構成される。使用される樹脂32は、例えば200℃程度の耐熱性能を備えるものが使用され、隣接する磁石片31同士を電気的に絶縁する。このため、作用する磁界の変動により発生する渦電流を個々の磁石片31内に留めることにより低減させ、渦電流に伴う界磁極用磁石体80の発熱を抑制し、不可逆な熱減磁を防止する。
【0015】
磁石体30を複数の磁石片31に割断するために、磁石体30の割断しようとする部位(割断予定面)に、予め切り欠き溝33を形成することが有効である。以下では、切り欠き溝33が形成されている磁石体30について説明するが、この切り欠き溝33は必要不可欠なものではなく、切り欠き溝33を設けなくとも割断できる場合には、磁石体30に切り欠き溝33を設けないようにしてもよい。設ける切り欠き溝33は、表面からの深さが深いほど、また、切り欠き溝33の先端の尖りが鋭いほど、磁石片31として割断した場合の割断面の平面度が向上する。なお、以下では切り欠き溝33は磁石体30の長手方向で所定間隔毎に設けられているものとする。
【0016】
前記切り欠き溝33の形成方法としては、磁石体30の成形型に設けた溝形成用の突条により磁石体30の成形工程で設ける方法、ダイサー等の機械加工による方法、レーザビーム照射による方法等がある。
【0017】
以下、本発明の永久磁石埋込型回転電機Aに用いる界磁極用磁石体80の製造装置およびその製造方法を一実施形態に基づいて説明する。
【0018】
図3は、本発明を適用した一実施形態の回転電機のロータコアに配設される界磁極用磁石体の製造装置である磁石体割断装置を示す概略構成図である。また、図4は磁石割断装置の要部の拡大図、図5は図4のA−A線による磁石割断装置の要部の断面図である。
【0019】
磁石体30の磁石割断装置40は、磁石体30を複数の磁石片31に割断するものである。この磁石割断装置40は、磁石体30を支持案内する下型41と、位置決めされた磁石体30にブレード46を押し当てることで割断する上型45と、からなる金型である。また、磁石割断装置40は、下型41に支持された磁石体30を順次移動させてその割断予定面を割断位置に順次位置決めする位置決め装置44と、磁石体30の割断予定面の両側に配置されて磁石体30に圧縮応力を付与する一対のクランプ50と、を備える。
【0020】
磁石体30を支持案内する下型41は、上面に磁石体30の切り欠き溝33の延在方向に対応して延びる複数の突条部42(当接部)を備えて、この突条部42の上面において、磁石体30に下方から当接して支持するようにしている。また下型41は、上型45のブレード46に対応する位置において、下方に開放する貫通穴43を備え、貫通穴43の前後に磁石体30への当接部としての一対の突条部42が配置されている。
【0021】
上型45は、位置決めされた磁石体30を割断するための、磁石体30への当接部としての磁石体30の切り欠き溝33の延在方向に対応して延びるブレード46と、割断時に磁石体30が跳ね上がることを抑制する磁石跳ね上り防止クランプ47と、を備える。ブレード46は、上型45により下降されることにより磁石体30の割断位置に刃先を当接させつつ押下げて、下型41の貫通穴43の前後の一対の突条部42との間で3点曲げにより折曲げて磁石体30を割断する。ブレード46は、磁石体30に向かう尖った刃先を磁石体30の幅方向に配置して備える。
【0022】
磁石跳ね上り防止クランプ47は、基部が上型45に固定された板ばねにより形成され、磁石体30をそのばね作用により下型41に押付けて、割断された磁石体30(特に先端側の磁石片31)が跳ね上がることを抑制する。
【0023】
位置決め装置44は、磁石体30の送り方向の後端に当接して磁石体30を押圧するプッシャ44Aと、磁石体30の送り方向の前端に当接して磁石体30をホールドするホルダー44Bと、からなる。プッシャ44Aは、磁石体30を押出すサーボモータを備え、割断動作が実行される毎に、磁石体30を切り欠き溝33により設定された所定長さの1ピッチ分(隣り合う切り欠き溝33の距離分)だけ押出す動作を繰返すことにより、磁石体30の割断予定面を割断位置に順次位置決めする。
【0024】
ホルダー44Bは、プッシャ44Aにより1ピッチ分だけ押出される毎に、磁石体30の前端に接触して磁石体30に制動力を加えて、磁石体30がプッシャ44Aにより押出された移動量を超えて移動することを抑制し、磁石体30の位置決め精度を向上させる。このため、ホルダー44Bは磁石体30の割断時には、磁石体30の前端への接触を解除して、磁石体30から割断された前端側磁石片31の移動を許容するようにしている。
【0025】
一対のクランプ50は、図4,5に示すように、磁石体30の下面に接触する下部クランプ片51と、磁石体30の上面に接触する上部クランプ片52と、上下クランプ片51,52を磁石体30に接触方向・離脱方向に付勢するアクチュエータ53と、を備える。上下クランプ片51,52は、磁石体30よりヤング率の高い鋳鉄や鋼材で形成される。なお、磁石体30のヤング率は、例えば、約160〜170GPaであり、鋳鉄や鋼材で形成される上下クランプ片51,52のヤング率は、例えば、約190〜210GPaである。
【0026】
下部クランプ片51は、横方向(磁石30の幅方向)に延びる棒状部材で形成され、その両端部の下方に配置した一対の弾性体54、例えば、ばねやゴムを介して、下型41に支持され、外力が作用しない初期位置では、その上面を磁石体30の下面に接触させるようにしている。そして、下部クランプ片51は弾性体54により支持されることにより、上方からの押圧力に応じて初期位置から下方向に移動可能であり、押圧力が解除されると初期位置に復帰する。また、下部クランプ片51はその両端部の下方が一対の弾性体54に支持されて、その両支持部分を中心として磁石体30の長手方向(図4の矢印B方向)にも揺動可能である。
【0027】
上部クランプ片52は、磁石体30の上面に接触可能な横方向(磁石30の幅方向)に延びる棒状部材で形成された上部横部材52Aと、横部材の両端に連結されて磁石体30の側面に沿うと共に下部クランプ片51を跨いで下方に延長された縦部材52Bと、縦部材52Bの下端同士を連結する下部横部材52Cと、からなる。そして、縦部材52Bが下部クランプ片51を跨ぐ部分に弾性体55が配置されていることにより、上部クランプ片52全体が下部クランプ片51に弾性支持されて、その上部横部材52Aの下面が磁石体30の上面から離れる初期位置に位置決めされる。
【0028】
アクチュエータ53は、下部クランプ片51に固定された複数のシリンダにより構成され、シリンダより伸縮するロッドは伸長時に上部クランプ片52の下部横部材52Cを下方に押圧するよう構成している。アクチュエータ53は、油圧シリンダ若しくは空圧シリンダで構成される。そして、アクチュエータ53を作動させていない場合には、上部クランプ片52は弾性体55により浮き上がっており、その上部横部材52Aは磁石体30の上面から離された初期位置にある。また、アクチュエータ53を作動させると、上部クランプ片52を弾性体55に抗して下方に押圧して下降させ、その上部横部材52Aを初期位置から下降させて磁石体30の上面に接触させて下方へ押付ける。結果として、この上部横部材52Aと下部クランプ片51の上面とで磁石体30を挟み込みクランプする。
【0029】
以上の構成になる磁石体割断装置40においては、下型41の突条部42上に磁石体30が載置され、位置決め装置44のプッシャ44Aとホルダー44Bとにより磁石体30の最初の割断予定面が、下型41の一対の突条部42間と上型45のブレード46との間に、位置決めされる。次いで、ホルダー44Bの磁石体30への接触が解除される。
【0030】
位置決めされた磁石体30は、一対のクランプ50における下部クランプ片51の上面と上部クランプ片52の上部横部材52Aの下面との間を貫通させて配置される。即ち、切り欠き溝33で形成する割断予定面を挟んでその両側に、一対のクランプ50が存在するように配置される。そして、磁石体30の下面には下部クランプ片51の上面が接触し、磁石体30の上面には上部クランプ片52における上部横部材52Aの下面が隙間をもって臨んでいる状態となる。
【0031】
次いで、一対のクランプ50のアクチュエータ53が作動され、上部クランプ片52を弾性体55に抗して下方に押圧して下降させ、その上部横部材52Aを初期位置から下降させて磁石体30の上面に接触させて下方へ押付ける。この上部横部材52Aの磁石体30への押付けにより、下部クランプ片51の上面と上部クランプ片52の上部横部材52Aとで磁石体30を上下面から挟み込みクランプし、圧縮応力を付与する。
【0032】
磁石体30はクランプ50により上下両面から圧縮されることにより、図6に示すように、クランプ50と接触する領域(図中のハッチング領域)において、発生する圧縮応力により厚さ方向(Z方向)に収縮されると共に面方向(X,Y方向)に拡がろうとする。しかし、磁石体30のヤング率E2は約160〜170GPaであり、鋳鉄や鋼材で形成するクランプ50のヤング率E1は約190〜210GPaである。即ち、クランプ50のヤング率E1>磁石体30のヤング率E2、である。この磁石体30とクランプ50とを構成する材料のヤング率の違いにより、クランプ50は磁石体30よりも面方向に拡がり難い。このため、磁石体30の面方向の拡がり量とクランプ50の面方向の拡がり量との違いにより両者の接触面に摩擦力が発生し、磁石体30のハッチングした領域において、面方向(X,Y方向)に圧縮応力が加わった状態となる。
【0033】
次いで、上型45が下降され、上型45に設けられている磁石跳ね上り防止クランプ47が磁石体30の上面に接触して磁石体30を弾性的に下型41の突条部42に押圧して、磁石体30を移動しないように保持する。
【0034】
上型45の更なる下降により、ブレード46の先端(下端)が磁石体30の割断位置に当接して、下型41の貫通穴43の前後の一対の突条部42との間で3点曲げにより押下げて磁石体30を割断する。同時に、磁石体30は、磁石跳ね上り防止クランプ47により跳ね上がることを抑制される。磁石体30が割断予定面に沿ってブレード46により磁石体30と磁石片31とに割断されることにより、一時的に下型41内にV字状に傾斜される。左右のクランプ50は磁石体30及び磁石片31と一体となって「ハ字状」に回動され、この回動は下型41に対する弾性体54を撓ませることにより許容される。
【0035】
なお、この磁石体30及び磁石片31のV字状への傾斜状態は、割断完了に伴うブレード46の上昇により、その押下げ力が無くなる時点で、磁石跳ね上り防止クランプ47による押付け力により元の水平状態に復帰する。クランプ50を下型41に対して支持している弾性体54が撓みの復帰により、クランプ50同士を「ハ字状」状態から平行状態に復帰回動させて、磁石体30及び磁石片31の水平状態への復帰を助ける。
【0036】
ところで、磁石体30の割断時に発生する破砕粉末が、下型41の突条部42の上面に付着したり堆積することにより、磁石体30との間に噛み込まれて、下型41の突条部42から磁石体30が浮いた状態で支持されることがある。このように、下型41の突条部42と磁石体30との間に破砕粉末が噛み込まれて、図8に示すように、下型41の突条部42から浮いた状態で磁石体30が支持される場合には、破砕粉末としての異物により、磁石体30の割断時に異常割れを生ずる。即ち、異物により磁石体30には、割断時に正当に生ずる磁石体30長手方向の張力1の他に、異物により磁石体30幅方向にも異常な張力2が発生する。この異常な張力2は、磁石体30を幅方向に折曲げる作用を発生させ、図中の破線で示すように、磁石体30を長手方向にも割断させて、磁石体30に異常割れを発生させることとなり、割断面の面精度を低下させる。
【0037】
しかしながら、本実施例の磁石体割断装置40においては、磁石体30の割断予定面を挟んでその両側において、一対のクランプ50により磁石体30の面方向に圧縮応力が加わるようにしている。このため、破砕粉末により磁石体30が下型41の突条部42から浮き上がって支持されて、異常な張力2が磁石体30に作用したとしても、磁石体30の面方向に作用している圧縮応力によって割断時に磁石体30に発生する面方向の張力を打ち消すことができる。このため、割断時に磁石体30に発生する割断面が、クランプ50による圧縮応力を加えている領域内に侵入することを抑制し、磁石体30に発生する割断面を一対のクランプ50間の範囲内に制限することができる。
【0038】
図6はクランプ50によるクランプ力によって発生する面方向の圧縮応力を、磁石体30の割断時に生ずる最大引張応力より大きくするための条件を説明する説明図である。図6において、L:下型41の突条部42による支点間距離、Fa:ブレード46で加える割断荷重、W:磁石体30の幅、h:磁石体30の厚さ、Fb:クランプ50による加圧力、S:クランプ50による加圧部長さ、とする。割断時に磁石体30に発生する曲げモーメントM、磁石体30の断面2次モーメントZ、磁石体30の面方向の最大引張り応力σaは、下記のように、
M=Fa×L/4
Z=W×h/6
σa=M/Z=(3×Fa×L)/(2×W×h
と求めることができる。また、μ:クランプ50と磁石体30との間の摩擦係数とすると、クランプ力によって磁石体30に発生する面方向の圧縮応力σbは、
σb=(μ×Fb)/(W×S)
と求めることができる。そして、磁石体30に発生する面方向の最大引張り応力σaとクランプ力によって磁石体30に発生する面方向の圧縮応力σbとが、下記の関係、
σb>σa
となる場合に、磁石体30の面方向に圧縮応力によって割断時に磁石体30に発生する面方向の引張り応力を打ち消すことができる。そして、割断時に磁石体30に発生する割断面が、クランプ50による圧縮応力を加えている領域内に侵入することを抑制し、磁石体30に発生する割断面を一対のクランプ50間の範囲内に制限することができる。上記クランプ力によって磁石体30に発生する面方向の圧縮応力σb>磁石体30に発生する面方向の最大引張り応力σaとなるクランプ50による加圧力(圧縮力)Fbは、下記のように、
Fb>[(3×S×L)/(2×μ×h))]×Fa
と求めることができる。
【0039】
ここで、
クランプ50による加圧部長さS:1mm、
下型41の突条部42による支点間距離L:8mm、
クランプ50と磁石体30との間の摩擦係数μ:0.1、
磁石体30の厚さh:4mm、
ブレード46で加える割断荷重Fa:1000N
と仮定すると、クランプ50による加圧力Fbは、下記のように、
Fb>{3×S(0.001)×L(0.008)}×{Fa(1000)}/{2×μ(0.1)×h(0.004))}=7500N
と求めることができる。
【0040】
割断後に上型45と共にブレード46が上昇される。磁石体30は上型45に設けられている磁石跳ね上り防止クランプ47により押えられているため、磁石体30の割断された部分も上昇復帰する。同時に、一対のクランプ50のアクチュエータ53の作動が解除され、上部クランプ片52を弾性体55の復元力により上昇させ、その上部横部材52Aを初期位置に上昇させて磁石体30の上面への接触を解除する。この上部横部材52Aの磁石体30からの離脱により、磁石体30へのクランプ50が解除される。上型45が初期位置に復帰すると、上型45に設けられている磁石跳ね上り防止クランプ47も磁石体30の上面への接触を解除して、磁石体30の保持を解除する。磁石体30から割断された先端の磁石片31は、次工程に図示しない搬送手段により搬送され、次工程において割断順に整列されて、接着剤を介して接着されて一体化される。
【0041】
次いで、位置決め装置44のプッシャ44Aにより磁石体30を1ピッチ分だけ押出すと共にホルダー44Bにより磁石体30の前端に接触して磁石体30に制動力を加えて、磁石体30の次の割断予定面を、一対の突条部42間においてブレード46と対面するよう、位置決めする。
【0042】
そして、前記したと同様に、一対のクランプ50により磁石体30をクランプし、上型45の下降により磁石体30を割断し、位置決め装置44により磁石体30を1ピッチ分だけ移動させる動作が繰返される。
【0043】
なお、上記実施形態において、下型41に磁石体30を載置する平行配置された一対の突条部42を備えるものについて説明したが、一対の突条部42に代えて一対のダイの間に磁石体30を架け渡して載置させるものであってもよい。
【0044】
また、磁石体割断装置40として、下型41上に架け渡し状態で載置された磁石体30に、上型45のブレード46を下降させて磁石体30の架け渡した部位の上部に接触させて押圧することにより磁石体30を割断するものについて説明した。しかし、磁石体割断装置はこれに限定されるものでなく、例えば、図7に示すように、下型41上から突き出し状態で磁石体30を固定し、上型45のブレード46を突出した磁石体30の先端側に接触させて押圧することにより磁石体30を割断するものであってもよい。この場合に磁石体30に圧縮力を付与する手段としては、下型41上に載っている磁石体30部分を下型41に固定する固定治具47と、下型41から突出している部位の突き出し片の根元に近い側をクランプするクランプ治具50Aと、により構成する。突き出し片の根元に近い側のクランプ治具50Aは、磁石体30の割断時に割断後の磁石片31と共に揺動可能に浮動支持され、クランプを開放することにより割断後の磁石片31を解放して、搬送装置等により搬送可能とする。
【0045】
また、圧縮力を付与する手段として、下型41に弾性支持されてアクチュエータ53により作動するクランプ50について説明したが、図示はしないが、投入される磁石体30の各割断予定面の前後に取付けられて夫々圧縮力を磁石体30に加える複数のクランプ治具であってもよい。
【0046】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0047】
(ア)下型41に設けられ、磁石体30の下側から当接して磁石体30を保持する当接部に保持された磁石体30に、上型45のブレード46を当接させて押圧することにより磁石体30を割断する界磁極用磁石体30の製造装置である。そして、前記磁石体30よりヤング率の高い材料で形成され、磁石体30の割断予定面を挟んでその両側に磁石体30の上下面から圧縮力(加圧力)を付与する圧縮力付与手段としてのクランプ50を備え、前記圧縮力付与手段により磁石体30の割断予定面の両側に圧縮力を付与した状態で磁石体30を割断するようにした。即ち、割断予定面を挟んでその両側に圧縮力を付与した領域を設けることにより、割断動作により発生した亀裂の圧縮力付与領域への侵入を抑制して、亀裂の割断予定面からのずれを防止でき、割断面精度を向上させることができる。
【0048】
(イ)磁石体30の割断予定面内のいずれかの部位に割断亀裂の発生起点となる切り欠き溝33を設けることにより、この切り欠き溝33が亀裂を割断予定面上に発生させ易くでき、また、割断時に必要となる割断荷重も低く抑えることができる。
【0049】
(ウ)下型41にに一対の当接部を設け、該一対の当接部が前記磁石体30の割断予定面を挟んでそれぞれ両側に配置することにより、その割断予定面を浮かせた架け渡し状態で磁石体30を保持し、この保持された磁石体30の割断予定面に向けて上型45のブレード46を下降させ、磁石体30の上部に当接させて押圧することにより磁石体30を割断するよう上下金型41,45を構成する。そして、圧縮力付与手段としてのクランプ50は、前記架け渡された磁石体30の割断予定面を挟んでその両側に配置されて磁石体30の上下面から圧縮力を付与するようにした。即ち、磁石体30を下型41と上型45とにより3点曲げにより割断することにより、割断される磁石体30の割断予定面を中心として左右対称に圧縮力付与手段を配置でき、より一層割断面精度を向上させることができる。
【0050】
(エ)圧縮力付与手段であるクランプ50により磁石体30に加える圧縮力Fbは、圧縮力付与手段による加圧部長さをS、下型41に架け渡し状態で保持する支点間距離をL、磁石体30の厚さをh、圧縮力付与手段と磁石体30との間の摩擦係数をμ、ブレード46で加える割断荷重をFaとすると、
Fb>[(3×S×L)/(2×μ×h)]×Fa
とした。これにより、磁石体30の割断予定面を挟んでその両側において、磁石体30が圧縮され、磁石体30の面方向への拡がりを圧縮力付与手段との接触面の摩擦力により制限することにより、磁石体30の面方向に圧縮応力を発生させる。この面方向の圧縮応力が、割断時に面方向に作用する引張り応力を打ち消し、磁石体に発生する割断亀裂の圧縮応力作用領域への侵入を抑制し、割断面精度を向上させる。
【符号の説明】
【0051】
A 永久磁石型電動機
10 ステータ
20 ロータ
30 磁石体
31 磁石片
33 切り欠き溝
41 下型
42 突条部
43 貫通穴
44 位置決め装置
44A プッシャ
44B ホルダー
45 上型
46 ブレード
47 跳ね上り防止クランプ
50 圧縮力付与手段としてのクランプ
51 下部クランプ片
52 上部クランプ片
53 アクチュエータ
54,55 弾性体
80 界磁極用磁石体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型に設けられた当接部上に載置して保持された磁石体に、上型のブレードを当接させて押圧することにより磁石体を割断する界磁極用磁石体の製造装置において、
前記磁石体よりヤング率の高い材料で形成され、磁石体の割断予定面を挟んでその両側に磁石体の上下面から圧縮力を付与する圧縮力付与手段を設け、
前記圧縮力付与手段により磁石体の割断予定面の両側に圧縮力を付与した状態で磁石体を割断することを特徴とする界磁極用磁石体の製造装置。
【請求項2】
前記磁石体は、割断予定面内のいずれかの部位に割断亀裂の発生起点となる切り欠き溝を備えることを特徴とする請求項1に記載の界磁極用磁石体の製造装置。
【請求項3】
前記下型に一対の当接部を設け、該一対の当接部が前記磁石体の割断予定面を挟んでそれぞれ両側に配置することにより、前記割断予定面を浮かせた架け渡し状態で磁石体を保持し、該保持された磁石体の割断予定面に向けて上型のブレードを下降させ、磁石体の上部に当接させて押圧することにより磁石体を割断するよう上下金型を構成し、
前記圧縮力付与手段は、前記架け渡された磁石体の割断予定面を挟んでその両側に配置されて磁石体の上下面から圧縮力を付与することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の界磁極用磁石体の製造装置。
【請求項4】
前記圧縮力付与手段により磁石体に加える圧縮力Fbは、圧縮力付与手段による加圧部長さをS、下型に架け渡し状態で保持する支点間距離をL、磁石体の厚さをh、圧縮力付与手段と磁石体との間の摩擦係数をμ、ブレードで加える割断荷重をFaとすると、
Fb>[(3×S×L)/(2×μ×h)]×Fa
であることを特徴とする請求項3に記載の界磁極用磁石体の製造装置。
【請求項5】
下型に設けられた当接部上に載置して保持された磁石体に、上型のブレードを当接させて押圧することにより磁石体を割断する界磁極用磁石体の製造方法において、
前記磁石体よりヤング率の高い材料で形成された圧縮力付与手段により、磁石体の割断予定面を挟んでその両側に磁石体の上下面から圧縮力を付与し、
前記圧縮力を付与した状態で磁石体を割断することを特徴とする界磁極用磁石体の製造方法。
【請求項6】
下型に設けられた当接部上に磁石体を載置して保持し、上型のブレードを前記磁石体の割断予定面に向けて下降させて磁石体の上部に当接させて押圧することにより磁石体を割断する、界磁極用磁石体の製造方法において、
前記前記磁石体よりヤング率の高い材料で形成された圧縮力付与手段により、磁石体の割断予定面を挟んでその両側に磁石体の上下面から圧縮力を付与し、
前記圧縮力を付与した状態で磁石体を割断することを特徴とする界磁極用磁石体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−66990(P2013−66990A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209229(P2011−209229)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】